説明

レーザー溶着性に優れたポリアミド樹脂組成物

【課題】 本発明のレーザー透過性に優れたポリアミド樹脂組成物は、レーザー透過側の成形品のレーザー透過性を均一化したものであって、これによってレーザー溶着部の強度などの特性を均一化する方法を見出すことを課題とする。
【解決手段】
ポリアミド樹脂100重量部に対して、タルク、アルミニウム金属塩、バリウム金属塩から選ばれる少なくとも1種を0.01〜1重量部配合してなるレーザー透過性に優れたポリアミド樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザー溶着時の溶着強度に優れたポリアミド樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアミド樹脂は、その優れた強度、剛性、靭性、成形性等を生かして、自動車、機械部品の分野で射出成形品として広範に利用されている。上記分野でのポリアミド樹脂の開発経緯は基本的には金属材料からの代替が主体であり、軽量化、防錆化などの利点の多い部品から実用化が進んでいる。最近では複雑形状の部品もポリアミド樹脂で製造されるようになって来ており、中空部を有する部品などが各種溶着技術、例えば振動溶着、超音波溶着、射出溶着技術などが使用されるようになって来ている。特に最近ではレーザー光を用いた溶着技術、すなわちレーザー溶着技術が注目されており、ポリアミド樹脂もレーザー透過率が高い材料であることから、レーザー溶着技術による加工が施されるようになって来ている。ところで、ポリアミド樹脂からなる射出成形品のレーザー透過性は、溶着する部位によって異なることがあり、これによって溶着強度が部位によってばらつくという現象がしばしば認められている。
【0003】
特許文献1には、第一樹脂部材と第二樹脂部材とを重ね合わせ、該第一樹脂部材側からレーザー光を照射して両者をレーザー溶着するための溶着用材料であって、レーザー光に対して弱吸収性である第一樹脂部材と、レーザー光に対して吸収性である第二樹脂部材からなることを特徴とするレーザー溶着用材料が記載されている。レーザー光に対して弱吸収性である第一樹脂部材の具体例としては、ポリアミド6樹脂に変性エチレン・α−オレフィン系共重合体を配合した組成物が、レーザー光に対して吸収性である第二樹脂部材の具体例としては、ポリアミド6樹脂にカーボンブラック0.3重量%を配合した組成物が記載されている。
【0004】
非特許文献1には、ナイロン樹脂の成形性改良方法が記載されており、表2.58にはナイロンの滑剤、離型剤の代表例が記載されており、例えばカルボン酸金属塩として、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸バリウム、モンタン酸エステルの部分ケン化カルシウム塩などが上げられている。
【特許文献1】特開2004−148800号公報
【非特許文献1】「ポリアミド樹脂ハンドブック」、日刊工業新聞社、1988年1月30日、P109
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記したように、ポリアミド樹脂のレーザー溶着技術は、樹脂成形品どうしの接合方法として既に一般的に使用されており、レーザー溶着に適したポリアミド樹脂組成物も知られている。しかしながら、レーザー透過する側の成形品において、レーザー透過性が部位によって異なり、結果として溶着する部位によって溶着部の強度等の特性がばらついてしまうという問題がある。上記の特許文献1、非特許文献1にはこの問題については何ら記載されておらず、その解決方法についても何ら示唆されていない。
【0006】
そこで、本発明者らは、レーザー透過側のポリアミド樹脂成形品のレーザー透過性を均一化し、これによってレーザー溶着部の強度などの特性を均一化する方法を見出すことを課題とし、鋭意検討を重ねた結果、本発明を見出すに至った。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明は、
(1)ポリアミド樹脂100重量部に対して、タルク、アルミニウム金属塩、バリウム金属塩からなる群から選ばれる少なくとも1種0.001〜5重量部を配合してなるレーザー透過性に優れたポリアミド樹脂組成物、
(2)前記ポリアミド樹脂組成物が、樹脂成分100重量部に対して、無機充填材を1〜200重量部含有することを特徴とする前記1記載のポリアミド樹脂組成物、
(3)前記ポリアミド樹脂組成物が、樹脂成分100重量部に対して銅化合物を0.01〜1重量部含有することを特徴とする前記1または2のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物、
(4)前記アルミニウム金属塩が脂肪酸金属塩である前記1ないし3のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物、
(5)前記アルミニウム金属塩がステアリン酸アルミニウムである前記1ないし4のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物、
(6)前記バリウム金属塩が脂肪酸金属塩である前記1ないし5のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明のポリアミド樹脂組成物は、レーザー透過側のポリアミド樹脂成形品のレーザー透過性を均一化し、結果としてレーザー溶着部の強度等の特性を均一化することができるため、自動車部品、電気・電子部品、機械機構部品、一般機器などでレーザー溶着を使用する製品に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
【0010】
本発明のポリアミド樹脂組成物においては、少なくともポリアミド樹脂を含有することが必要である。
【0011】
かかるポリアミド樹脂とは、アミノ酸、ラクタムあるいはジアミンとジカルボン酸を主たる構成成分とするポリアミドであり、その主要構成成分の代表例としては、6−アミノカプロン酸、11−アミノウンデカン酸、12−アミノドデカン酸、p−アミノメチル安息香酸などのアミノ酸、ε−カプロラクタム、ウンデカラクタム、ω−ラウロラクタムなどのラクタム、テトラメチレンジアミン、ヘキサメレンジアミン、2−メチルペンタメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2,2,4−/2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン、5−メチルノナメチレンジアミン、m−キシリレンジアミン、p−キシリレンジアミン、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1−アミノ−3−アミノメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキサン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(3−メチル−4−アミノシクロヘキシル)メタン、2,2−ビス(4−アミノシクロヘキシル)プロパン、ビス(アミノプロピル)ピペラジン、アミノエチルピペラジンなどの脂肪族、脂環式、芳香族のジアミン、およびアジピン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、テレフタル酸、イソフタル酸、2−クロロテレフタル酸、2−メチルテレフタル酸、5−メチルイソフタル酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸などの脂肪族、脂環式、芳香族のジカルボン酸が挙げられ、本発明においては、これらの原料から誘導されるポリアミドホモポリマーまたはコポリマーを各々単独または混合物の形で用いることができる。
【0012】
本発明において、とくに有用なポリアミド樹脂は、200℃以上の融点を有する耐熱性や強度に優れたポリアミド樹脂であり、具体的な例としてはポリカプロアミド(ナイロン6)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン66)、ポリテトラメチレンアジパミド(ナイロン46)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン610)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ナイロン612)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリカプロアミドコポリマー(ナイロン6T/6)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミドコポリマー(ナイロン66/6T)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ナイロン66/6I)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ナイロン66/6T/6I)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ナイロン6T/6I)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリ(2ーメチルペンタメチレン)テレフタルアミドコポリマー(ナイロン6T/M5T)、ポリキシリレンアジパミド(ナイロンXD6)およびこれらの混合物ないし共重合体などが挙げられる。とりわけ好ましいものとしては、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン6/66コポリマー、またナイロン6T/66コポリマー、ナイロン6T/6Iコポリマー、ナイロン6T/6コポリマー、ナイロン66/6I/6コポリマーなどが挙げられる。
【0013】
これらポリアミド樹脂の重合度にはとくに制限がなく、JIS K6810に従って98%硫酸中、濃度1%、25℃で測定する相対粘度が、1.5〜5.0の範囲、2.0〜4.0の範囲のものが好ましい。更に成形性や機械特性の観点からは相対粘度が2.3〜3.7の範囲が特に好ましい。
【0014】
本発明の組成物にはタルク、アルミニウム金属塩、バリウム金属塩からなる群から選ばれる少なくとも1種を配合する。
【0015】
タルクとは珪酸マグネシウムを主成分とする無機化合物であり、一般的な化学組成はMg3(SiO10)(OH)2で表される化合物である。その形状には葉状、鱗片状、粉末状、粒状等、種々あるが、いずれであってもかまわない。また、天然に存在するステアタイトや石鹸石でも、あるいは化学的に合成したものであってもかまわない。
【0016】
本発明で使用されるアルミニウム金属塩とは、酸性化合物とアルミニウムからなる塩である。酸性化合物としては、たとえば塩酸、硫酸、硝酸、過塩素酸、亜硫酸、亜硝酸、燐酸、亜燐酸、次亜燐酸、ポリ燐酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、ベヘニン酸、イソステアリン酸、安息香酸、o−トルイル酸、m−トルイル酸、p−トルイル酸、蓚酸、マロン酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸などがあげられるが、ナイロン樹脂との親和性や機械物性への影響等の面からラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、ベヘニン酸等の脂肪酸のアルミニウム塩が好ましい。また、アルミニウム金属塩は単一化合物であっても2種以上の混合物であってもかまわない。特にステアリン酸アルミニウムがナイロン樹脂との親和性が良好であり、機械物性への影響も少ないため特に好ましい。
【0017】
本発明で使用されるバリウム金属塩とは、酸性化合物とバリウムからなる塩である。酸性化合物としては、たとえば塩酸、硫酸、硝酸、過塩素酸、亜硫酸、亜硝酸、燐酸、亜燐酸、次亜燐酸、ポリ燐酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、ベヘニン酸、イソステアリン酸、安息香酸、o−トルイル酸、m−トルイル酸、p−トルイル酸、蓚酸、マロン酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸などがあげられるが、ナイロン樹脂との親和性や機械物性への影響等の面からラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、ベヘニン酸等の脂肪酸のバリウム塩が好ましい。また、バリウム金属塩は単一化合物であっても2種以上の混合物であってもかまわない。特にステアリン酸バリウムがナイロン樹脂との親和性が良好であり、機械物性への影響も少ないため特に好ましい。
【0018】
本発明におけるタルク、アルミニウム金属塩、バリウム金属塩からなる群から選ばれる少なくとも1種の添加量は0.001〜5重量部であり、好ましくは0.01〜3重量部である。0.001重量部より少ないと添加効果が見られず、5重量部より多いと機械物性や成形性が低下する。
【0019】
レーザー溶着を行う際に、レーザー透過性の物品とレーザー吸収性物品とを密着するように重ね合わせ、レーザー透過性物品の側からレーザーを照射する。
【0020】
本発明の、ポリアミド樹脂にタルク、アルミニウム金属塩、バリウム金属塩から選ばれる少なくとも1種を添加した組成物は、レーザー溶着する際のレーザー透過側のポリアミド樹脂成形品として使用する際に有用である。
【0021】
一般にレーザー溶着する際のレーザー透過側の成形品の透過率が部位によって変わることがしばしば見られる。理由は明確にはわかっていないが、部位によって成形時の熱履歴や剪断履歴が異なるため、ポリアミド分子の配列状態や結晶状態が異なり、これによって透過率が異なるものと推定される。
【0022】
しかしながら、本発明のポリアミド樹脂にタルク、アルミニウム金属塩、バリウム金属塩からなる群から選ばれる少なくとも1種を添加した組成物を用いて成形したポリアミド樹脂成形品では、レーザー透過率が部位によって大きく変化しないため、非常に安定した溶着が可能となる。タルク、アルミニウム金属塩、バリウム金属塩からなる群から選ばれる少なくとも1種を添加することによって透過率が部位によらず一定になる理由は完全には明確になっていないが、タルク、アルミニウム金属塩、バリウム金属塩から選ばれる少なくとも1種を添加することによって成形した時のポリアミド分子の配列状態や結晶状態が均一になるためと推定される。
【0023】
本発明において、本発明の目的や効果を損なわない範囲で、例えば、吸水時の剛性・強度保持、高温時の剛性・強度保持、耐衝撃性改良のために、ポリアミド樹脂組成物中に他の樹脂を含有してもかまわない。
【0024】
かかる他の樹脂としては、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン/ポリプロピレンコポリマー、ポリスチレン(PS)、ポリスチレン/ポリブタジエン/ポリスチレンブロックコポリマー(SBS)、ポリスチレン/ポリイソプレン/ポリスチレンブロックコポリマー(SIS)、部分水素添加ポリスチレン/ポリブタジエン/ポリスチレンブロックコポリマー(SEBS)、ハイインパクトポリスチレン(HIPS)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン(ABS)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリカーボネート(PC)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリアリレート(PAR)、ポリサルホン(PSF)、ポリエーテルサルホン(PES)、ポリイミド(PI)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリフェニレンエーテル(PPE)(またはポリフェニレンオキシド(PPO))、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリシクロヘキサンテレフタレート、ポリエーテルニトリル、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリアリールエーテルケトンなどが挙げられる。これら他の樹脂の添加量に特に制限はないが、通常はポリアミド樹脂100重量部に対して1〜200重量部、好ましくは3〜100重量部、更に好ましくは5〜50重量部である。
【0025】
本発明において、例えば剛性・強度向上のために、無機充填材を添加しても良い。使用される充填材としては、例えば、ガラス繊維、チタン酸カリウムウィスカ、酸化亜鉛ウィスカ、アラミド繊維、、炭化珪素繊維、セラミック繊維、アスベスト繊維、石コウ繊維、金属繊維などの繊維状充填剤、ワラステナイト、ゼオライト、セリサイト、カオリン、マイカ、クレー、パイロフィライト、ベントナイト、アスベスト、タルク、などの珪酸塩、酸化珪素、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化鉄などの金属化合物、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ドロマイトなどの炭酸塩、硫酸カルシウム、などの硫酸塩、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウムなどの水酸化物、ガラスビーズ、ガラスフレーク、ガラスバルーン、セラミックビーズ、窒化ホウ素、炭化珪素およびシリカなどの非繊維状充填剤が挙げられ、これらは中空であってもよく、さらにはこれら充填剤を2種類以上併用することも可能である。また、これら繊維状/非繊維状充填材をイソシアネート系化合物、有機シラン系化合物、有機チタネート系化合物、有機ボラン系化合物、エポキシ化合物などのカップリング剤で予備処理して使用することは、より優れた機械的強度を得る意味において好ましい。
【0026】
上記充填材の中でも特に好ましいのはガラス繊維、ワラステナイト、炭酸カルシウム、マイカであり、さらに好ましいのはガラス繊維である。
【0027】
かかるガラス繊維としては、繊維径15μm以下が好ましく、さらには13μm以下が好ましく、最も好ましくは11μm以下である。
【0028】
これら充填材の添加量に特に制限はないが、通常はポリアミド樹脂100重量部に対して1〜200重量部、好ましくは3〜100重量部、更に好ましくは5〜50重量部である。1重量部より少ないと充填材を添加した効果が見られない。また200重量部より多いとポリアミド樹脂の流動性が低下し、靱性が低下する。
【0029】
さらに、本発明の樹脂組成物には、有機リン化合物、次亜リン酸塩、ヒンダードフェノール、ヒンダードアミンなどの酸化防止剤、熱安定剤、紫外線防止剤、染料や顔料などの着色剤、帯電防止剤などの添加剤を添加することができる。
【0030】
これら他の添加剤の添加量に特に制限はないが、通常はポリアミド樹脂100重量部に対して0.001〜20重量部、好ましくは0.01〜15重量部、更に好ましくは0.1〜10重量部である。
【0031】
また、本発明のポリアミド樹脂組成物には、更に銅化合物を添加することができる。銅化合物を添加すると、当該ポリアミド樹脂組成物からなる成形品の耐熱性が向上すると共に、レーザー透過性およびレーザー溶着強度の部位間の差が更に小さくなる効果がある。銅化合物の具体的な例としては、塩化第一銅、塩化第二銅、臭化第一銅、臭化第二銅、ヨウ化第一銅、ヨウ化第二銅、硫酸第二銅、硝酸第二銅、リン酸銅、酢酸第一銅、酢酸第二銅、サリチル酸第二銅、ステアリン酸第二銅、安息香酸第二銅および前記無機ハロゲン化銅とキシリレンジアミン、2−メルカプトベンズイミダゾール、ベンズイミダゾールなどとの錯化合物などが挙げられる。なかでも1価の銅化合物とりわけ1価のハロゲン化銅化合物が好ましく、酢酸第一銅、沃化第一銅などを特に好適な銅化合物として例示できる。
【0032】
銅化合物の添加量は、特に制限はないが、通常、ポリアミド樹脂100重量部に対して0.01〜3重量部が求められ、さらに0.015〜2重量部の範囲であることが好ましい。0.01重量部より少ないと効果が見られない。また3重量部を越えると樹脂が着色し、機械物性が低下する。
【0033】
本発明では銅化合物と併用する形でハロゲン化アルカリを添加することも可能である。このハロゲン化アルカリ化合物の例としては、塩化リチウム、臭化リチウム、ヨウ化リチウム、塩化カリウム、臭化カリウム、ヨウ化カリウム、臭化ナトリウムおよびヨウ化ナトリウムを挙げることができ、ヨウ化カリウム、ヨウ化ナトリウムが特に好ましい。
【0034】
また本発明のポリアミド樹脂組成物にエポキシ基、アミノ基、イソシアネート基、水酸基、メルカプト基、ウレイド基の中から選ばれた少なくとも1種の官能基を有するアルコキシシランの添加は、機械的強度、靱性などの向上に有効である。かかる化合物の具体例としては、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランなどのエポキシ基含有アルコキシシラン化合物、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリエトキシシランなどのメルカプト基含有アルコキシシラン化合物、γ−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、γ−ウレイドプロピルトリメトキシシラン、γ−(2−ウレイドエチル)アミノプロピルトリメトキシシランなどのウレイド基含有アルコキシシラン化合物、γ−イソシアナトプロピルトリエトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルトリメトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルメチルジメトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルメチルジエトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルエチルジメトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルエチルジエトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルトリクロロシランなどのイソシアナト基含有アルコキシシラン化合物、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシランなどのアミノ基含有アルコキシシラン化合物、γ−ヒドロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−ヒドロキシプロピルトリエトキシシランなどの水酸基含有アルコキシシラン化合物などなどが挙げられる。
【0035】
本発明において、ポリアミド樹脂にタルク、アルミニウム金属塩、バリウム金属塩から選ばれる少なくとも1種を添加する方法には特に制限はない。ポリアミド樹脂を重合する際に、原料モノマーに添加し、重合と同時に配合しても良いし、ポリアミド樹脂とタルク、アルミニウム金属塩、バリウム金属塩から選ばれる少なくとも1種を混合し、その混合物を押出機、ミキサーなどで溶融混練しても良い。また、ポリアミド樹脂とタルク、アルミニウム金属塩、バリウム金属塩から選ばれる少なくとも1種を乾式混合し、その混合物を射出成形機やブロー成形機に供給し、溶融成形すると同時に添加・配合してもかまわない。
【0036】
本発明の樹脂組成物はレーザー溶着を適用するあらゆる用途に適用可能である。例えば、自動車分野としては、シリンダーヘッドカバー、タイミングベルトカバー、バランスシャフトギア、オイル制動バルブ、オイルレベルゲージ、オイルクリーナーケース、ラジエータータンク、ウォーターポンプインペラー、サーモスタットハウジング、クーリングファン、インタークーラータンク、エアーダクト、エアコントロールバルブ、エアレギュレーター、エアフローメーターハウジング、エアーダクトインテーク、サイレンサー、レゾネーター、排ガスポンプサイドシール、排ガスバルブ、キャブレター、ガソリン噴射ノズル、ピストンバルブ、キャブレターバルブ、サージタンク、フューエルフィルターハウジング、フューエルストレーナー、フューエルセジメンタルケース、キャニスター、EGIチューブ、ソレノイドバルブ、ガソリンフロート、ガソリンチャンバー、フューエルチェックバルブ、フューエルインジェクター、フューエルインジェクターコネクター、フューエルインジェクターノズルカバー、フューエルフィラーキャップ、マスターシリンダーピストン、クラッチオイルリザーバー、スラストワッシャー、シフトアームコーティング、シフトレバーノブ、トランスミッションケース、トルコンスラストワッシャー、トランスミッションブッシュ、パワーステアリングタンク、ステアリングコラムカバー、ステアリングホーンパッド、ステアリングボールジョイント、ホイールフルキャップ、ホイールキャップセンター、ホイールセンターハブキャップ、ブレーキオイルリザーバー、ブレーキオイルフロート、ブレーキリザーバーキャップ、サイドブレーキワイヤープロテクター、ラジエーターグリル、フロントエンドバンパー、リアエンドバンパー、バンパーモール、フロントフェンダー、サイドミラーステイ、サイドミラーハウジング、エンブレム、リトラクタブルヘッドランプカバー、電動ミラーベース、フューエルリッド、ボンネットフードルーパー、エクストラクトグリル、ドア、サイドルーバー、ドアラッチカバー、ドアサイドモール、アウタードアハンドル、ピラールーバー、トランクロアーバックフィニシャー、トランクリアエプロン、ハッチバックスライドブラケット、ライセンスプレート、ライセンスプレートポケット、フューエルリッド、サンルーフフレーム、サイドモール、ウィンドウピボット、ウィンドウガラススライダー、ウィンドウモール、エアースポイラー、インストゥルメントパネルコア、リッドアウター、センタークラスター、スイッチ、アッパーガーニッシュ、リッドクラスター、メーターフード、メーターパネル、グローブボックス、チェンジレバーカバー、グローブボックスリッド、グローブボックスノブ、グローブドアアウター、アッシュトレイランプハウジング、アッシュトレイパネル、サンバイザーブラケット、サンバイザーシャフト、サンバイザーホルダー、ピラーガーニッシュ、ルームミラーステイ、レギュレーターハンドル、ドアトリム、インサイドドアロックノブ、インナーロックノブ、ウィンドウレギュレーターハンドル、ウィンドウレギュレーターハンドルノブ、ルーフサイドレールガーニッシュ、アームレストインサート、アームレストベース、アームレストガイド、リアシェルフサイド、ヘッドレストガイド、シートベルトタングプレート、シートベルトリトラクターギア、シートベルトバックル、シートベルトスルーアンカー、リッドクラスター、安全ベルト機構部品、クーラーシロッコファン、クーラーバキュームポンプ、エアコンマグネットクラッチボビン、エアコンアクチュエーター、コンプレッサーバルブ、エアーベンチレーションフィン、エアコン調節ツマミ、ヒーターコアタンク、ヒーターバルブ、ジェネレーターコイルボビン、ジェネレーターカバー、ジェネレーターブッシュ、サーキットボード、ブラシホルダー、コンデンサーケース、レギュレーターケース、スターターレバー、スターターコイルボビン、スターターインターバルギア、ディストリビューターポイントブッシュ、イグニッションコイルケース、イグニッションコイルボビン、ディストリビューター絶縁端子、ディストリビューターキャップ、スリーブベアリング、ヘリカルギアー、バキュームコントローラー、ジャンクションボックス、ワイヤーハーネスコネクター、リレーターミナルベースケースコイルボビン、ヒューズボックス、スイッチベース、リレーケース、各種スイッチ基板、ランプソケット、ランプリフレクター、バックホーンハウジング、サイレントギア、パワーウィンドウスイッチ基板ケース、ワイパーレバー、ウォッシャーモーターハウジング、ワイパーモーターインシュレーター、ワイパーアームヘッドカバー、ウォッシャーノズル、ワイパーアームヘッド、スピードメータードリブンギア、スピードメーターコントロール、メーターコネクター、回転センサー、スピードセンサー、パワーシートギアハウジング、ブラシホルダー、コンミュテーター、モーターギア、ボンネットクリップ、モールクリップ、内装クリップ、バンパークリップ、電気配線用バンドクリップ、アンテナインナーチューブ、フェンダー、スポイラー、ルーフレール、テールゲート、およびバンパーなどが挙げられる。
【0037】
電気・電子用途としては、センサー、LEDランプ、コネクター、ソケット、抵抗器、リレーケース、スイッチ、コイルボビン、コンデンサー、バリコンケース、光ピックアップ、発振子、各種端子板、変成器、プラグ、プリント基板、チューナー、スピーカー、マイクロフォン、ヘッドフォン、小型モーター、磁気ヘッドベース、パワーモジュール、半導体、液晶、FDDキャリッジ、FDDシャーシ、モーターブラッシュホルダー、パラボラアンテナ、コンピューター関連部品、パソコン筐体、ノート型パソコンのアッパーカバー、ローワーカバー等、パソコンLCDフレーム、VTR部品、テレビ部品、アイロン、ヘアードライヤー、炊飯器部品、電子レンジ部品、音響部品、オーディオ・レーザーディスク・コンパクトディスク等の音声機器部品、照明部品、冷蔵庫部品、エアコン部品、タイプライター部品、ワードプロセッサー部品、オフィスコンピューター関連部品、電話器関連部品、携帯電話筐体、携帯電話LCDフレーム、携帯電話LCDブラケット、ファクシミリ関連部品、および複写機関連部品などが挙げられる。
【0038】
その他の用途としては、洗浄用治具、モーター部品、ライター、タイプライター等の機械関連部品、顕微鏡、双眼鏡、カメラ、時計等の光学機器、精密機械関連部品、水道蛇口コマ、混合水栓、ポンプ部品、パイプジョイント、水量調節弁、逃がし弁、湯温センサー、水量センサー、水道メーターハウジングなどの水廻り部品、医療機器、建材関係部品、家具用部品などが挙げられる。
【産業上の利用可能性】
【0039】
このようにして得られた本発明のポリアミド樹脂組成物からなる成形品を用いてレーザー溶着すると、部位によるレーザー透過率の変動が少なく、得られた溶着品の溶着部の特性に変動が少ないため、非常に特性の安定したレーザー溶着物品が得られる。
【実施例】
【0040】
以下、実施例によって本発明を更に詳細に説明するが、これらは本発明を限定するものではない。
【0041】
なお、相対粘度(ηr)については、98%硫酸を用い、JIS K 6920に記載されている方法に従って25℃で測定した。
【0042】
また、融点については、5mgを用いてDSC(示差走査型熱量計、パーキンエルマー社製DSC7)を用い、昇温速度20℃/分で昇温させた時に現れる融解ピークの頂点温度を融点とした。
【0043】
実施例1 ナイロン6樹脂(A−1)の製造
30Lのステンレス製オートクレーブに、ε−カプロラクタム10kg、安息香酸2.16g、ステアリン酸バリウム(和光純薬)32.4g、イオン交換水200gを仕込み、窒素置換の後、密閉して250℃で12時間加熱・撹拌することによりナイロン6樹脂を調製した。得られたナイロン6樹脂をオートクレーブの下部よりストランド状に引き取り、カッティングしてペレットとした。このペレットを沸騰水中で15時間抽出した後、80℃で24時間真空乾燥した。得られたナイロン6樹脂(A−1)の相対粘度ηrは2.65、融点は222℃であった。また、最終的に得られたポリアミド樹脂組成物の組成は、ポリアミド樹脂100重量部に対してステアリン酸バリウム0.36重量部であった。
【0044】
実施例2 ナイロン6樹脂(A−2)の製造
ステアリン酸バリウム(和光純薬製)の添加量を8.1gとする以外は実施例1と同様にしてナイロン6樹脂を製造した。得られたナイロン6樹脂(A−2)の相対粘度ηrは2.64、融点は223℃であった。また、最終的に得られたポリアミド樹脂組成物の組成は、ポリアミド樹脂100重量部に対してステアリン酸バリウム0.09重量部であった。
【0045】
実施例3 ナイロン6樹脂(A−3)の製造
ステアリン酸バリウム(和光純薬製)の添加量を130gとする以外は実施例1と同様にしてナイロン6樹脂を製造した。得られたナイロン6樹脂(A−3)の相対粘度ηrは2.62、融点は224℃であった。また、最終的に得られたポリアミド樹脂組成物の組成は、ポリアミド樹脂100重量部に対してステアリン酸バリウム1.44重量部であった。
【0046】
実施例4 ナイロン6樹脂(A−4)の製造
ステアリン酸バリウムの代わりにp−t−ブチル安息香酸バリウム(堺化学)を使用する以外は実施例1と同様にしてナイロン6樹脂を製造した。得られたナイロン6樹脂(A−4)の相対粘度ηrは2.63、融点は223℃であった。また、最終的に得られたポリアミド樹脂組成物の組成は、ポリアミド樹脂100重量部に対してp−t−ブチル安息香酸バリウム0.36重量部であった。
【0047】
実施例5 ナイロン6樹脂(A−5)の製造
ステアリン酸バリウムの代わりにステアリン酸アルミニウム(堺化学)を使用する以外は実施例1と同様にしてナイロン6樹脂を製造した。得られたナイロン6樹脂(A−5)の相対粘度ηrは2.62、融点は223℃であった。また、最終的に得られたポリアミド樹脂組成物の組成は、ポリアミド樹脂100重量部に対してステアリン酸アルミニウム0.36重量部であった。
【0048】
実施例6 ナイロン6樹脂(A−6)の製造
ステアリン酸バリウムの代わりにラウリン酸アルミニウム(和光純薬)を使用する以外は実施例1と同様にしてナイロン6樹脂を製造した。得られたナイロン6樹脂(A−6)の相対粘度ηrは2.62、融点は223℃であった。また、最終的に得られたポリアミド樹脂組成物の組成は、ポリアミド樹脂100重量部に対してラウリン酸アルミニウム0.36重量部であった。
【0049】
実施例7 ナイロン6樹脂(A−7)の製造
ステアリン酸バリウム32.4gの代わりにタルク(日本タルク製SG−95)2.7gを使用する以外は実施例1と同様にしてナイロン6樹脂を製造した。得られたナイロン6樹脂(A−7)の相対粘度ηrは2.66、融点は224℃であった。また、最終的に得られたポリアミド樹脂組成物の組成は、ポリアミド樹脂100重量部に対してタルク0.03重量部であった。
【0050】
実施例8 ナイロン6樹脂(A−8)の製造
実施例1で得られたナイロン6樹脂(A−1)のチップ100重量部に対して沃化第一銅(和光純薬)を0.03重量部添加し、タンブラー式ブレンダー中で20分間、室温下で攪拌し、ナイロン6樹脂(A−8)を調製した。
【0051】
実施例9 ナイロン6樹脂(A−9)の製造
ステアリン酸バリウムを使用しない以外は実施例1と同様にしてナイロン6樹脂を製造した。このナイロン6樹脂100重量部に対してステアリン酸バリウム(和光純薬)0.36重量部の比率で添加し、30mmφの2軸押出機を用いて、バレル設定温度250℃、スクリュー回転数100rpmで溶融混練し、得られた組成物をストランド状に押出し、カッティングしてペレットとした。これをナイロン樹脂(A−9)とした。
【0052】
実施例10〜13 ナイロン6樹脂(A−10〜13)の製造
ナイロン6樹脂(A−1)、(A−5)、(A−7)、(A−8)のそれぞれ100重量部に対して、ガラス繊維(日本電気ガラス社製、繊維径13μm、3mmチョップドストランド)43重量部を添加し、30mmφの2軸押出機を用いて、バレル設定温度250℃、スクリュー回転数100rpmで溶融混練し、得られた組成物をストランド状に押出し、カッティングしてペレットとした。これらをナイロン樹脂(A−10)、(A−11)、(A−12)、(A−13)とした。
【0053】
実施例14 ナイロン66樹脂(B−1)の製造
30Lのステンレス製オートクレーブに、ナイロン66塩(ヘキサメチレンジアミン−アジピン酸の等モル塩)の80%水溶液、ステアリン酸バリウム(和光純薬、ナイロン66塩10kgに対して41.73g)および安息香酸(ナイロン66塩10kgに対して1.86g)を投入し、内温250℃、内圧1.5〜2.0MPaに保って3時間重合した。その後徐々に放圧しながら内圧を常圧に戻し、内温を270〜280℃に上げ、更に1時間重合させた。得られたナイロン66樹脂をオートクレーブの下部からストランドで抜き出し、ペレタイズした後、80℃で24時間真空乾燥した。得られたナイロン66樹脂(B−1)の相対粘度ηrは2.62、融点は266℃であった。また、最終的に得られたポリアミド樹脂組成物の組成は、ポリアミド樹脂100重量部に対してステアリン酸バリウム0.36重量部であった。
【0054】
実施例15 ナイロン66樹脂(B−2)の製造
ステアリン酸バリウムの代わりにステアリン酸アルミニウム(堺化学)を使用する以外は実施例14と同様にしてナイロン66樹脂を製造した。得られたナイロン6樹脂(B−2)の相対粘度ηrは2.62、融点は265℃であった。また、最終的に得られたポリアミド樹脂組成物の組成は、ポリアミド樹脂100重量部に対してステアリン酸アルミニウム0.36重量部であった。
【0055】
実施例16 ナイロン66樹脂(B−3)の製造
ステアリン酸バリウム41.73gの代わりにタルク(日本タルク製SG−95)3.48gを使用する以外は実施例14と同様にしてナイロン66樹脂を製造した。得られたナイロン66樹脂(B−3)の相対粘度ηrは2.63、融点は266℃であった。また、最終的に得られたポリアミド樹脂組成物の組成は、ポリアミド樹脂100重量部に対してタルク0.03重量部であった。
【0056】
実施例17 ナイロン66樹脂(B−4)の製造
実施例14で得られたナイロン66樹脂(B−1)のチップ100重量部に対して沃化第一銅(和光純薬)を0.03重量部添加し、タンブラー式ブレンダー中で20分間、室温下で攪拌し、ナイロン66樹脂(B−4)を調製した。
【0057】
実施例18 ナイロン66樹脂(B−5)の製造
ステアリン酸バリウムを使用しない以外は実施例14と同様にしてナイロン66樹脂を製造した。このナイロン66樹脂100重量部に対してステアリン酸バリウム(和光純薬)0.36重量部の比率で添加し、30mmφの2軸押出機を用いてバレル設定温度290℃、スクリュー回転数100rpmで溶融混練し、得られた組成物をストランド状に押出し、カッティングしてペレットとした。これをナイロン樹脂(B−5)とした。
【0058】
実施例19〜22 ナイロン66樹脂(B−6〜9)の製造
ナイロン66樹脂(B−1)、(B−2)、(B−3)、(B−4)のそれぞれ100重量部に対して、ガラス繊維(日本電気ガラス社製、繊維径13μm、3mmチョップドストランド)43重量部を添加し、30mmφの2軸押出機を用いてバレル設定温度290℃、スクリュー回転数100rpmで溶融混練し、得られた組成物をストランド状に押出し、カッティングしてペレットとした。これらをナイロン樹脂(B−6)、(B−7)、(B−8)、(B−9)とした。
【0059】
比較例1 ナイロン6樹脂(X−1)の製造
ステアリン酸バリウムを使用しないこと以外は実施例1と同様にしてナイロン6樹脂(X−1)を製造した。得られたナイロン6樹脂(X−1)の相対粘度ηrは2.63、融点は223℃であった。
【0060】
比較例2 ナイロン6樹脂(X−2)の製造
ナイロン6樹脂として(X−1)を使用する以外は、実施例8と同様にしてナイロン6樹脂(X−2)を製造した。
【0061】
比較例3 ナイロン6樹脂(X−3)の製造
ナイロン6樹脂として(X−1)を使用する以外は、実施例10と同様にしてナイロン6樹脂(X−3)を製造した。
【0062】
比較例4 ナイロン66樹脂(Y−1)の製造
ステアリン酸バリウムを使用しないこと以外は実施例14と同様にしてナイロン66樹脂(Y−1)を製造した。得られたナイロン66樹脂(Y−1)の相対粘度ηrは2.63、融点は265℃であった。
【0063】
比較例5 ナイロン66樹脂(Y−2)の製造
ナイロン66樹脂として(Y−1)を使用する以外は、実施例17と同様にしてナイロン6樹脂(Y−2)を製造した。
【0064】
比較例6 ナイロン66樹脂(Y−3)の製造
ナイロン66樹脂として(Y−1)を使用する以外は、実施例19と同様にしてナイロン66樹脂(Y−3)を製造した。
【0065】
比較例7
比較例1で製造したナイロン6樹脂(X−1)100重量部に対して、変性エチレン/α−オレフィン共重合体(三井化学社製、タフマーMC1307)5.26重量部の比率で添加し、30mmφの2軸押出機を用いて、バレル設定温度250℃、スクリュー回転数100rpmで溶融混練し、得られた組成物をストランド状に押出し、カッティングしてペレットとした。これをナイロン樹脂(X−4)とした。
【0066】
測定方法
引張特性、曲げ特性
得られたポリアミド樹脂組成物について、ナイロン6樹脂の場合はシリンダー温度250℃、ナイロン66樹脂の場合はシリンダー温度290℃に設定し、金型温度80℃で射出成形を行い、試験片を得た。得られた試験片を用い、以下の標準方法に準拠して引張特性、曲げ特性を測定した。
引張強度:ASTM D638
曲げ弾性率:ASTM D790。
【0067】
レーザー透過性
成形品の部位によるレーザー透過性の違いについては以下のようにして測定した。
図1に示す形状の試験片(長手方向:70mm、幅:24mm、厚み:2mm)を射出成形により成形し、図1中に示す部位(A、B)のレーザー透過性を測定した。
3回測定し、それらの平均値を採用した。
装置:島津製作所 紫外近赤外分光光度計UV−3150
ビーム入射角:0度
検出器:積分球:
波長:940nm。
【0068】
レーザー溶着強度
成形品の部位によるレーザー溶着強度の違いについては以下のようにして測定した。図2に示すDの部分で試験片をカッターで切り離し、2つの短冊状試験を作成し、これらをレーザー透過側の試験片とする。一方、レーザー吸収側の試験片としては、同じ材料にカーボンブラックを添加した材料を成形することで黒色の同形状の試験片を作製し、これらについても図2に示すDの部分で試験片をカッターで切り離し、レーザー吸収側の試験片とした。ここで使用するカーボンブラックとしては、東海カーボン社製カーボンブラック シースト9HSAF−HSを使用し、ナイロン樹脂組成物100重量部に対して0.5重量部とした。
これらレーザー透過側の試験片とレーザー吸収側の試験片を図3に示すようにAの部分どうし、またはBの部分どうしを重なり幅が30mmとなるように重ね合わせ、重ね合わせた部分の中央部20mmをレーザー照射することにより溶着を行った。レーザー溶着条件は以下のとおりである。
装置:Leister社製MODULAS C
出力:35W
レーザー波長:940nm
焦点径:0.6mm
焦点距離:38mm
レーザー走査速度:10mm/秒。
【0069】
このようにして得られた試験片を用い、溶着部を中心にして両試験片の端部を1mm/分で引っ張ることにより引張剪断強度を測定した。5回測定し、それらの上下限値を除いた3つの値の平均値を採用した。
以上の評価結果を表1〜3に纏めて示す。
【0070】
【表1】

【0071】
【表2】

【0072】
【表3】

【0073】
実施例1〜9より、ナイロン6樹脂に対してタルク、アルミニウム金属塩、バリウム金属塩から選ばれる少なくとも1種を配合してなるポリアミド樹脂組成物は、機械特性に優れると同時に、レーザー透過性の部位差が小さく、レーザー溶着部強度の部位差が小さいことがわかる。
【0074】
実施例1〜3より、バリウム金属塩の添加量が少ないとその効果が小さいこと、また、バリウム金属塩を多量に配合してもその効果が著しく大きくはならないことがわかる。
【0075】
実施例4、実施例6より、バリウム金属塩やアルミニウム金属塩の種類を変えても有効であることがわかる。
【0076】
実施例8より、更に銅化合物を併用すると、レーザー透過性の部位差及びレーザー溶着部強度の部位差が更に小さくなることがわかる。
【0077】
実施例9より、バリウム金属塩をコンパウンド法で添加しても有効であることがわかる。ただし、実施例1のように重合時添加した方が効果が大きいことがわかる。
【0078】
実施例10〜13より、充填材としてガラス繊維が共存しても有効であることがわかる。
【0079】
実施例14〜22より、ポリアミド樹脂をナイロン66樹脂に変えても有効であることがわかる。
【0080】
比較例1より、ナイロン6樹脂のみでは、レーザー透過性の部位差が大きく、レーザー溶着部強度の部位差も大きいことがわかる。
【0081】
比較例2より、ナイロン6樹脂に沃化第一銅を配合したのみでは、レーザー透過性の部位差が大きく、レーザー溶着部強度の部位差も大きいことがわかる。
【0082】
比較例3より、ナイロン6樹脂にガラス繊維を配合したのみでは、レーザー透過性の部位差が大きく、レーザー溶着部強度の部位差も大きいことがわかる。
【0083】
比較例4より、ナイロン66樹脂のみでは、レーザー透過性の部位差が大きく、レーザー溶着部強度の部位差も大きいことがわかる。
【0084】
比較例5より、ナイロン66樹脂に沃化第一銅を配合したのみでは、レーザー透過性の部位差が大きく、レーザー溶着部強度の部位差も大きいことがわかる。
【0085】
比較例6より、ナイロン66樹脂にガラス繊維を配合したのみでは、レーザー透過性の部位差が大きく、レーザー溶着部強度の部位差も大きいことがわかる。
【0086】
比較例7より、ナイロン6樹脂に変性ポリオレフィン樹脂を配合するとレーザー透過性が著しく低下する上にレーザー透過性の部位差が大きい。その結果、レーザー溶着部強度が低い上にレーザー溶着部強度の部位差も大きいことがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】レーザー透過性を評価するための試験片を表す概略図である。
【図2】レーザー透過性および溶着性を評価するための試験片
【図3】レーザー溶着された成形品を表す概略図である。
【符号の説明】
【0088】
A:レーザー透過性測定部位
B:レーザー透過性測定部位
C:ゲート
D:試験片切り離し部分
E:重ね合わせ部分
F:レーザー走査部(レーザー溶着部)
G:レーザー透過側試験片
H:レーザー吸収側試験片

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミド樹脂100重量部に対して、タルク、アルミニウム金属塩、バリウム金属塩からなる群から選ばれる少なくとも1種を0.001〜5重量部配合してなるレーザー透過性に優れたポリアミド樹脂組成物。
【請求項2】
前記ポリアミド樹脂組成物が、樹脂成分100重量部に対して、無機充填材を1〜200重量部含有することを特徴とする請求項1記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項3】
前記ポリアミド樹脂組成物が、樹脂成分100重量部に対して銅化合物を0.01〜1重量部含有することを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項4】
前記アルミニウム金属塩が脂肪酸金属塩である請求項1ないし3のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項5】
前記アルミニウム金属塩がステアリン酸アルミニウムである請求項1ないし4のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項6】
前記バリウム金属塩が脂肪酸金属塩である請求項1ないし5のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−96808(P2006−96808A)
【公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−282008(P2004−282008)
【出願日】平成16年9月28日(2004.9.28)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.レーザーディスク
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】