説明

レーザー超音波検査装置

【課題】狭隘部に存在する複数あるいは広い面積の検査対象を感度よく効率的に検査できるレーザー超音波検査装置を提供する。
【解決手段】第1のレーザー光を被検査材に照射する照射手段2と、第2のレーザー光を前記被検査材表面に照射し、その反射成分を受光する照射・集光手段M6と、集光された前記反射成分から第1のレーザー光の照射によって被検査材に発生した超音波信号を光学的に検出する受信用光学系OPと、OPで受信された超音波信号を電気信号に変換する信号変換手段RECと、RECの出力信号を信号処理から超音波の伝播と前記被検査材の特性に関する情報を演算し表示し記録する信号処理手段41を備えたレーザー超音波検査装置において、2およびM6の少なくとも一方を前記被検査材の検査すべき部位の数と同数備え、第1および第2のレーザー光の偏向で選択された各検査点の計測信号を各々の検査点ごとに分別する信号分別手段を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、小型、高温、稼動部など接触や近接が困難な検査対象が水中環境や狭隘環境にある場合において、検査対象にレーザー光を照射し反射光を受信することにより、き裂や欠陥の検査などの材料特性の計測評価を非接触かつ非破壊で行うレーザー超音波検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
発電プラントの機器や構造材料等のき裂検査の一手法として、レーザー超音波法が提案されている。この技術の概要については、下記非特許文献1などで説明されているが、被検査材に対し、多くの場合パルスレーザー光を照射することで発生する熱的応力、あるいは気化反力を利用して超音波を送信し、一方、超音波の伝播時間に比べて十分長いパルス発振あるいは連続発振する別のレーザー光を受信点に照射し、その直進性や可干渉性を利用して超音波によって誘起される変位または振動速度を受信してき裂等を検出する技術である。超音波を用いて材料表面のき裂や内在欠陥の検出あるいは材料特性の評価を行うことは広く公知となっている技術であるが、レーザー超音波法によればこれらを非接触で行うことが可能であり、さまざまな材料評価分野への応用が期待されている。
【0003】
レーザー超音波法における超音波の発生検出手法としてはいくつか異なる光学系が提案されており、特に検出用光学系としてマイケルソン干渉法、マッハツェンダ干渉法、ファブリ・ペロー法、位相共役素子による2光波混合法、ナイフエッジ法などが提案されている。ここでは、パルスレーザー光照射による超音波の発生と、位相共役素子による2光波混合法を用いた超音波の検出について、図18に代表的な従来装置の構成ブロック図を示す(下記特許文献1参照)。
【0004】
図18に示すレーザー超音波検査装置において、超音波を発生させる超音波発生用レーザー光源1からパルス発振した超音波発生用レーザー光PLは照射光学系2を介して、被検査材3表面の所定位置に所定のビーム形状で照射される。ここで、超音波発生用レーザー光源1としては、QスイッチYAGレーザーなどが多く用いられる。
【0005】
被検査材3と超音波発生用レーザー光PLの相互作用により、被検査材3には縦波、横波、表面波など種々のモードの超音波USが発生する。この超音波USは被検査材3に存在するき裂、欠陥、あるいは被検査材3の材料特性により反射、散乱、回折、吸収、音速変化などの現象を生じる。そして、ある伝播過程によって伝播した超音波USが被検査材3上の任意の計測点に到達すると、その部位に振動を生じる。その振動信号を計測・解析することで、被検査材3に存在するき裂、欠陥などの被検査材3の材料特性を検査することができる。
【0006】
一方、超音波を検出する超音波検出用レーザー光源4から発振した超音波検出用レーザー光ILは位相共役素子5に入射される。ここで、位相共役素子5としては強誘電体結晶(BaTiO3、LiNbO3など)、常誘電体結晶(BSOなど)、半導体(GaAs、InP、GaPなど)が使用される。位相共役素子5を透過した超音波検出用レーザー光ILは入射用光学系(コリメーター)M1で第1の光ファイバー6に入射され、対物レンズM2で被検査材3上の所定の計測点に照射される。
【0007】
照射された超音波検出用レーザー光ILの反射成分の一部SLは第2の対物レンズM3で集光され、第2の光ファイバー7、第2の入射用光学系(コリメーター)M4を介して位相共役素子5に再び入射される。通常の場合、被検査材3の表面が光学的に粗面である場合には反射光SLの波面が歪み、干渉効率が極めて低くなって干渉信号は得られないが、この光学系配置においては位相共役効果により反射光SLが干渉し、ミラー8、レンズM5を介して光検出器9で比較的高効率で検出することができる。検出された信号は信号処理装置10にて適宜、信号処理、表示、記録される。
【0008】
ここで、光検出器9としてはPIN型フォトダイオード(PIN-PD)、あるいはアバランシェフォトダイオード(APD)が多く用いられるが、これらは第1の電源装置11から定常的なバイアス電圧を印加されて動作する。また、位相共役素子5も第2の電源装置12から数kV〜数十kVのバイアス電圧を印加されて動作するが、素子のドリフトを抑制するためにこのバイアス電圧をパルス状に印加する動作モードも提案されている。さらに、トリガー発振器13を用い、超音波発生用レーザー光源1の動作タイミングと第2の電源装置12の動作を同期させ、超音波計測時刻で位相共役素子5において最大の干渉効率が得られるよう動作する装置も提案されている。
【0009】
超音波発生側に図19に示す構成を用いて、比較的高いパルスエネルギーをもつ超音波発生用レーザー光源1の発振光PLを光ファイバー17に入射する手法も提案されている。これは、第1および第2のレンズ系14、16に加えて微小レンズアレイ15を用いることで焦点を拡散させ、光ファイバー17の損傷を免れるものであり、この構成を用いれば送受信光の両方を光ファイバー伝送することも可能である。
【0010】
また、超音波検出側としては、図20に示すように、1枚レンズM6を用いて超音波検出用レーザー光ILの被検査材3への照射と、被検査材表面における反射成分SLの集光を行う構造も、下記特許文献2などですでに公知である。この場合、光ファイバー6を被検査材3側から受信用光学系OPへと伝送された反射光SLは、ビームスプリッタ18で超音波検出用レーザー光ILの光路から分岐され、その後、位相共役素子5へと導かれる。反射光SLと超音波検出用レーザー光ILの分岐を効率的に行うため、波長板など偏向制御用の光学素子と偏向ビームスプリッタを用いた偏向による分岐制御を行うこともある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2002−257793号公報
【特許文献2】特開2001−318081号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】山脇:“レーザー超音波と非接触材料評価”、溶接学会誌、第64巻、No.2、P.104-108 (1995)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
レーザー超音波検査方法は原理的に、被検査材が高温、高所、高放射線場、複雑形状部など接触が困難であったり、近接性が悪く遠隔非接触の検査手法が求められる部位であったりする場合に有効であり、ファイバー技術を適用することで、狭隘部や遮蔽物の内側など、レーザービームを空間的に伝送することが難しい位置にある場合にも効果的である。
【0014】
しかしながら、通常の場合、被検査部位は被検査材上の複数点、あるいは複数領域(面積)、あるいは部位の両面(表面と裏面)を検査することが要求されるため、これらの領域を効率的に検査できることが望ましい。しかも、例えば原子力発電プラント分野では、これらの部位は水中環境下の狭隘部に設置されている場合も多い。
【0015】
特に水中などの気体以外の環境下や狭隘部にある被検査材に対して検査を行う場合には、超音波成分の減衰や媒質品質による送受信レーザー光の減衰、あるいは集光能力の不足により信号/ノイズ比(S/N比)の低下が懸念される。また、特に水中などの気体以外の環境下や狭隘部にある被検査材に対して検査を行う場合には、狭隘な経路を適切に通過し、狭隘な検査対象部位にアクセスしなければならない。
【0016】
そこで本発明は、狭隘部に存在する複数あるいは広い面積の検査対象を感度よく効率的に検査することのできるレーザー超音波検査装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
請求項1の発明は、第1のレーザー光を発振する第1のレーザー光源と、前記第1のレーザー光を被検査材に照射する照射手段と、第2のレーザー光を発振する第2のレーザー光源と、前記第2のレーザー光を前記被検査材表面に照射し、その反射成分を受光する照射・集光手段と、前記照射・集光手段で集光された前記反射成分から前記第1のレーザー光の照射によって前記被検査材に発生した超音波に関する信号を光学的に検出する受信用光学系と、前記受信用光学系において受信された超音波信号を電気信号に変換する信号変換手段と、前記信号変換手段の出力信号を信号処理し、超音波の伝播と前記被検査材の特性に関する情報を演算し表示し記録する信号処理手段とを備えたレーザー超音波検査装置において、前記照射手段および前記照射・集光手段の少なくともいずれか一方を前記被検査材の検査すべき部位の数と同数備えると共に、前記第1および前記第2のレーザー光の伝播方向を前記照射手段あるいは前記照射・集光手段の各々に偏向する偏向手段と、前記偏向手段を制御する検査点選択手段と、前記検査点選択手段によって選択され前記信号変換手段において受信された各検査点における計測信号を各々の検査点ごとに分別する信号分別手段とを備えていることを特徴とする。
【0018】
請求項2の発明は、第1のレーザー光を発振する第1のレーザー光源と、前記第1のレーザー光を被検査材に照射する照射手段と、第2のレーザー光を発振する第2のレーザー光源と、前記第2のレーザー光を前記被検査材表面に照射し、その反射成分を受光する照射・集光手段と、前記照射・集光手段で集光された前記反射成分から前記第1のレーザー光の照射によって前記被検査材に発生した超音波に関する信号を光学的に検出する受信用光学系と、前記受信用光学系において受信された超音波信号を電気信号に変換する信号変換手段と、前記信号変換手段の出力信号を信号処理し、超音波の伝播と前記被検査材の特性に関する情報を演算し表示し記録する信号処理手段とを備えたレーザー超音波検査装置において、前記第1のレーザー光の前記被検査材表面への照射と、前記第2のレーザー光の前記被検査材表面への照射あるいは前記第2のレーザー光の前記被検査材表面からの反射成分集光のいずれかを、同一の光学系によって行うことを特徴とする。
【0019】
請求項3の発明は、第1のレーザー光を発振する第1のレーザー光源と、前記第1のレーザー光を被検査材に照射する照射手段と、第2のレーザー光を発振する第2のレーザー光源と、前記第2のレーザー光を前記被検査材表面に照射し、その反射成分を受光する照射・集光手段と、前記照射・集光手段で集光された前記反射成分から前記第1のレーザー光の照射によって前記被検査材に発生した超音波に関する信号を光学的に検出する受信用光学系と、前記受信用光学系において受信された超音波信号を電気信号に変換する信号変換手段と、前記信号変換手段の出力信号を信号処理し、超音波の伝播と前記被検査材の特性に関する情報を演算し表示し記録する信号処理手段とを備えたレーザー超音波検査装置において、前記信号処理手段は、前記信号変換手段の出力信号のうち前記被検査材の表面を伝播する弾性波に由来する検査信号を処理する第1の信号処理手段と、前記信号変換手段の出力信号のうち前記被検査材の内部を伝播して裏面に到達する体積波に由来する検査信号を処理する第2の信号処理手段とを備え、前記第1の信号処理手段の出力信号により前記被検査材の表面を、前記第2の信号処理手段の出力信号により前記被検査材の内部および裏面を検査することを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、狭隘部に存在する複数あるいは広い面積の検査対象を感度よく効率的に検査することのできるレーザー超音波検査装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の第1の実施の形態のレーザー超音波検査装置の構成を示す図。
【図2】超音波が被検査材表面のき裂によって反射する場合(a)、およびき裂を透過する場合(b)を示し、本発明の第1の実施の形態のレーザー超音波検査装置の動作を説明する図。
【図3】超音波が被検査材の裏側のき裂によって反射する場合を示し、本発明の第1の実施の形態のレーザー超音波検査装置の動作を説明する図。
【図4】被検査材上のy方向走査位置(a)、X方向走査位置(b)の経時変化およびレーザー光の発振タイミング(c)を示し、本発明の第1の実施の形態のレーザー超音波検査装置の動作を説明する図。
【図5】被検査材上の走査位置(a)および超音波検出信号(b)を示し、本発明の第1の実施の形態のレーザー超音波検査装置の動作を説明する図。
【図6】超音波検出信号の平均処理(a)および差分処理(b)を示し、本発明の第1の実施の形態のレーザー超音波検査装置の動作を説明する図。
【図7】超音波検出信号のシフト加算処理(a)およびその結果(b)を示し、本発明の第1の実施の形態のレーザー超音波検査装置の動作を説明する図。
【図8】超音波検出信号を平均処理した場合(a)およびシフト加算処理した場合(b)のBスキャンを示し、本発明の第1の実施の形態のレーザー超音波検査装置の動作を説明する図。
【図9】被検査材上のy方向走査位置(a)、X方向走査位置(b)の経時変化およびレーザー光の発振タイミング(c)を示し、本発明の第1の実施の形態のレーザー超音波検査装置の他の動作を説明する図。
【図10】被検査材上の走査位置を示し、本発明の第1の実施の形態のレーザー超音波検査装置の他の動作を説明する図。
【図11】本発明の第1の実施の形態のレーザー超音波検査装置に備えられる照射光学系を示す断面図。
【図12】本発明の第1の実施の形態のレーザー超音波検査装置に備えられる照射・集光光学系を示す断面図。
【図13】本発明の第1の実施の形態のレーザー超音波検査装置に備えられる照射・集光光学系の他の実施例を示す断面図。
【図14】本発明の第2の実施の形態のレーザー超音波検査装置の構成を示す図。
【図15】本発明の第3の実施の形態のレーザー超音波検査装置の構成を示す図。
【図16】本発明の第4の実施の形態のレーザー超音波検査装置の構成を示す図。
【図17】本発明の第5の実施の形態のレーザー超音波検査装置の構成を示す図。
【図18】従来のレーザー超音波検査装置の第1の例を示す図。
【図19】従来のレーザー超音波検査装置の第2の例を示す図。
【図20】従来のレーザー超音波検査装置の第3の例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
まず、本発明の第1の実施の形態を図1〜図13を参照して説明する。本実施の形態のレーザー超音波検査装置は図1に示すように、超音波発生用レーザー光源1と、信号変換手段である受信装置RECと、信号処理・表示・記録装置41と、トリガー発振器13と、走査機構38と、走査制御器39を備えている。
【0023】
また、超音波発生用レーザー光PLを被検査材3に照射する照射光学系2、および超音波検出用レーザー光ILを被検査材3に照射しその反射光を集光する照射・集光光学系M6を走査テーブル37に設置し、それらの被検査材3からの距離および各々の相対的な位置関係を保持する。走査テーブル37は、それを被検査材3上の検査部位まで搬送する上位の走査機構38に搭載されていてもよい。
【0024】
走査テーブル37あるいは走査機構38は、走査制御器39で制御され、検査すべき領域を検査可能な範囲で1次元または2次元的に走査する。ここで、検査すべき領域を検査可能な範囲とは、必ずしも検査すべき領域とは一致しなくてもよい。すなわち、例えば水中環境で表面波を用いる場合、送受信点から数mm〜数十mm程度の範囲であれば表面波は伝播し、その領域にき裂があれば、反射波が検出される。同じ理由で、1次元的な走査によって、走査線に沿った2次元的な領域を検査することも可能である。被検査材3が種々の形状をした溶接部を有する場合には、走査は溶接線に沿った1次元あるいはその方向を長手とする2次元走査とする。
【0025】
走査しながら超音波信号を送受信するが、その計測間隔はトリガー発振器13で制御される計測タイミングと走査制御器39で制御される空間的な動作のパラメータの組み合わせで任意に決定できる。しかし、後段の信号解析による材料特性演算に使用するため、信号を計測した相対的な位置関係は既知であるべきである。この場合、位置センサ40を設置して計測してもよいし、走査段階で走査ピッチを一定間隔とし、そこから位置を算出してもよい。なお、位置センサ40としては、超音波距離センサ、レーザー距離センサ、エンコーダーなどが用いられる。
【0026】
位置情報およびタイミング情報は、検出された超音波信号が受信装置RECによって変換された電気信号とともに、材料特性を演算する信号処理・表示・記録装置41に入力され、信号処理・表示・記録される。ここで、表面伝播モードの解析手法としては、伝播時間解析法や特開2000−180418号公報に記載されている表面伝播波のき裂による反射成分あるいは透過成分を解析する方法などが用いられる。体積伝播モードの解析手法としては回折波飛行時間法(TOFD法: Time-of-Flight Diffraction)や開口合成法(SAFT法: Synthetic Aperture Focusing Technique)などを使用する。
【0027】
被検査材3の表面を伝播する表面伝播モードを主に用いる表面検査について以下に説明する。図2(a)に示すように、被検査材3の表面き裂Cを超音波発生用レーザー光PLと超音波検出用レーザー光ILで検査する場合を考える。このとき、2本のレーザー光の照射位置間の距離をS、被検査材3を取り巻く周辺媒質の音速をVM、被検査材3の表面伝播弾性波の音速をVS、超音波発生用レーザー光PLあるいは超音波検出用レーザー光ILのいずれかから検査すべき領域までの距離の短い方の長さをLとする。
【0028】
いま、検出したい信号は、図2(a)に示すような、き裂Cからの反射信号、または図2(b)に示すような、き裂Cを透過する信号であるが、ここでは、より伝播時間の長い反射信号を考える。この反射信号が計測される時刻tSは、超音波発生用レーザー光PLによって超音波が発生した時刻を基準として
【数1】

である。
【0029】
一方、被検査材3を取り巻く媒質が大気や水など、超音波が伝播可能な物質の場合、被検査材3の表面を経ず、超音波発生用レーザー光PLの照射位置から超音波検出用レーザー光ILの照射位置まで、周辺媒質を経由して伝播する超音波モードも存在する。この超音波モードはノイズとなるが、その振幅は微小なき裂Cからの反射信号振幅よりも極めて大きいことがあり、時刻tSに到達する反射信号がこのノイズと時間的に重なることは避けるべきである。したがって、このノイズの到達時刻tNとして
【数2】

すなわち、2つの照射位置間の距離Sは
【数3】

と決めるべきである。
【0030】
なお、ノイズは周辺媒質中を衝撃波状に伝播し、VMは定数とならない場合があるが、この場合は(3)式で規定されるSよりも短い距離で信号とノイズの重なりは解消されるため、(3)式の関係を保持していれば十分である。逆に、信号の識別を容易にするため、ノイズと反射信号の間に、信号の分離・識別のため等、何らかの余裕が必要な場合にはその分を正の定数Aとして
【数4】

と決めてもよい。
【0031】
いずれにせよ、(3)式で表わされるSが最小であり、表面き裂Cを検査するためには、超音波発生用レーザー光PLと超音波検出用レーザー光ILの照射位置間の距離Sはそれ以上であるべきである。
【0032】
被検査材3の内部を伝播する体積伝播モードを用いる裏面あるいは内部検査について以下に説明する。図3に示す通り、被検査材3の裏面あるいは内部に存在する欠陥Cを超音波発生用レーザー光PLと超音波検出用レーザー光ILで検査する場合を考える。このとき、2本のレーザー光の照射位置間の距離をS、被検査材3を取り巻く周辺媒質の音速をVM、被検査材3の表面伝播弾性波の音速をVS、被検査材3の体積伝播弾性波の音速をVB、欠陥Cが存在し得る最大深さ、すなわち被検査材3の厚さをDとする。
【0033】
いま、検出したい信号は、欠陥Cからの回折あるいは反射信号である。この回折あるいは反射信号が計測される時刻tBは欠陥Cの存在位置によるが、最も遠い場合、すなわち裏面のごく近傍に存在する場合には、tBは、超音波発生用レーザー光PLによって超音波が発生した時刻を基準として
【数5】

である。
【0034】
ここでVB1、VB2とは、体積中を伝播する超音波の音速が一意に決まらない(例えば、縦波弾性波(速度VB1)として欠陥Cに到達し、そこで回折する際にモード変換し、横波弾性波(速度VB2)として検出される場合など)ことを想定している。ここでは簡単のため、送信される超音波モードと受信される超音波モードが同一の場合、すなわち
【数6】

を考える。
【0035】
このとき、この信号検出上のノイズとなるのは、時刻
【数7】

に到達する媒質中を伝播する衝撃波のほか、時刻
【数8】

に到達する表面弾性波もノイズとなり得る。
【0036】
ここで周辺媒質が水や大気、被検査材が金属の場合、VS>VMであるため、実効的に問題となるのは(9)式で表わされる表面弾性波ノイズである。そこで(7)式と(9)式より、距離Sは
【数9】

となる。
【0037】
ここで、体積波として縦波を想定した場合、被検査材3が金属材料であれば、多くの場合、VB はほぼ2VSに等しい。この関係を用いると、
【数10】

となる。
【0038】
すなわち、裏面あるいは内部に存在する欠陥Cを検査するためには、超音波発生用レーザー光PLと超音波検出用レーザー光ILの照射位置間の距離Sは(10)式で表わされる値以上であるべきであり、その特殊な場合として(11)式で表わされる距離Sでもよい。
【0039】
つぎに、走査と計測のタイミングについて説明する。ステップ的な動作の場合、走査動作と信号計測の速度の差から、必ずしも1動作に1計測でなくてもよいが、タイミングは同期させるべきである。図4に一例を示す。図4(a),(b)は走査による位置を示したもので、この場合、y軸方向にy0〜y3の4ステップ、X軸方向にx0〜x8の9ステップの4行×9列の走査を行うことを想定している。
【0040】
図4(c)のパルスはパルス性の超音波発生用レーザー光の発振タイミングを示しており、この例では1ステップごと、すなわち同じ検査位置において、Sig(xm,yn,1)、Sig(xm,yn,2)の2回の信号検出を実施し、かつ走査と信号検出が同期している。このように1動作に対して複数回の計測が行える場合には、それらの信号の加算平均処理を行うことでランダムノイズを低減し各位置において計測する信号のS/N比を向上させることができる。
【0041】
超音波検出信号は、空間的な信号加算処理によって、例えば通常の加算平均処理で除去することの出来ない固定ノイズを低減しS/N比を向上させることができる。その処理の詳細を図5を用いて説明する。
【0042】
いま、図5(a)のように、被検査材3上のき裂Cに対し、パルス性の超音波発生用レーザー光PLを図のように4行×9列で走査する場合を考える。このとき、超音波発生用レーザー光PLの照射位置から距離Sだけ離れた位置には超音波検出用レーザー光ILが照射され、超音波発生用レーザー光PLの走査と共に相対的な位置関係を保持したまま、図示したIL(xm,yn)のように走査される。
【0043】
送信位置PL(xm,yn)、受信位置IL(xm,yn)で送受信した超音波信号をSig(xm,yn)とする。ここで、任意の列xmに着目すると、Sig(xm,y0)から Sig(xm,y4)までの信号は図5(b)のようになる。図中、信号SAWはPL(xm,yn)からIL(xm,yn)まで伝播した表面波信号で、これは距離Sが固定であるため、走査によらず、常に同じ時刻に観察される。信号Fは固定ノイズであり、これは例えば体積波の板厚エコーや被検査材3の形状に依存した表面波の形状エコーである。信号Fも常に同時刻、あるいはつぎに述べる信号Eとは異なる挙動を示す。
【0044】
信号SAWや信号Fに共通なことは、これらはランダムノイズではなく、超音波に由来する信号であるため、時間的な平均化処理では除去できない点である。これらの信号を平均処理すると、図6(a)のような列ごとの平均信号Save(xm)が得られる。ここで、
Sig’(xm,yn)=Sig(xm,yn)−Save(xm) ・・・(12)という差分処理によって、固定ノイズを除去した信号Sig’(xm,yn)を得る(図6(b))。
【0045】
信号Eはき裂Cからの反射エコーで、本検査において検出したい信号である。超音波発生用レーザー光PLおよび超音波検出用レーザー光ILの走査に従い、計測点からき裂Cまでの距離が変わるため、この信号の出現時刻は走査と共に変化する。
【0046】
レーザー光PLあるいはILの照射点から見たき裂Cの相対的な位置は未知であるため、出現する時刻を予め知ることはできないが、y方向の走査ピッチをdyとしたとき、この信号の出現時刻はy方向の1ステップあたり2dy/VS(但し、VSは表面弾性波の音速)だけシフトする。
【0047】
したがって、図7(a)のように、各信号Sig’(xm,yn)のスタート時刻を2・n・dy/VSだけシフトした信号Sig’’(xm,yn)を加算処理すると、固定時刻、あるいは時間2・n・dy/VSにしたがってシフトしない信号SAWやFの残成分は加算と共に減少し、逆にき裂からのエコー信号Eのみは加算によって増加する。最終的には、この方法によって、4行の信号から、図7(b)に示すような、S/N比の高い第m列の信号Av(xm)が検知される。
【0048】
この方法は、各プロセスにおいて、適宜信号振幅の規格化処理を行ってもよい。また、表面波信号SAWや固定ノイズFなどが比較的小さい場合には、差分処理(図6(a)〜(b))、またはシフト加算処理(図7(a)〜(b))のいずれか一方で十分な場合もある。
【0049】
こうして得られた高いS/N比の信号の振幅情報を色情報に変換し、x軸-t軸からなる空間にプロットした結果(超音波Bスキャン)を図8に示す。図8の(a)は上記信号処理をしなかった場合、(b)は信号処理をした場合である。信号SAW、F、F’・・・など種々の固定指示の存在により、図8(a)ではき裂信号Eは必ずしも明らかでないが、図8(b)では固定指示が除去され、き裂信号Eが認識しやすくなっている。
【0050】
本実施の形態のレーザー超音波検査装置は、超音波発生用レーザー光源1のパルス発振が、2次元走査する走査機構38の走査行または走査列ごとに異なる行または各列と同期動作するようにしてもよい。この方法によれば、各行または列ごとには粗い空間サンプリングで計測しても、実質的な空間分解能を向上させることができる。
【0051】
この方法の詳細を、図9,図10を用いて説明する。例えば何らかの理由により、図9に示すように走査の複数回(この例では2回)に1回しか計測が同期できない場合を考える。すなわち、y0行の走査においては0、2、4、6、8、列で各々1回ずつ信号計測が行われる。この場合、得られる空間分解能は、走査時点でのサンプリング間隔2dxである。
【0052】
しかし、図10に示すように、y1行の走査においては1、3、5、7列で各々1回ずつ計測を行い、つぎに2dy/VSのシフト処理を行ってy0行で計測した時系列信号波形群Sig’’(x2k,y0)(k=0・・・4)と、y1行で計測した時系列信号波形群Sig’’(x2k+1,y1)(k=0・・・3)とを合わせる。このようにすると、実質的に空間的にdxの間隔で計測したのと同じ結果が得られる。ここで、y0行とy2行、y1行とy3行で差分および加算平均処理を行ってもよい。
【0053】
以上説明したような本発明の第1の実施の形態のレーザー超音波検査装置に備えられる照射光学系2について図11を参照して説明する。
【0054】
大気以外の透明な流体媒質環境に設置された被検査材の検査を行う場合、前記特許文献2に記載されている通り、図1に示した照射光学系2もしくは照射・集光光学系M6の少なくとも一方の中の光路の一部または全部を前記流体媒質と同じ材料で充填することで、各光学素子の面における反射を抑制する方法が公知となっている。しかし、この方法は反射防止には有効なものの、媒質と光学素子材料の屈折率の差が小さくなることから、光路が長くなり、ひいては照射光学系全体が大きくなって狭隘部で使用できなくなる場合がある。
【0055】
そこで本実施の形態においては、光学素子群および光学素子ホルダーなどで構成される照射光学系2もしくは照射・集光光学系M6の少なくとも一方の中の光路の一部または全部に、周囲の流体媒質と光学素子材料の屈折率の差が大きくなる透明流体をあえて充填することで、各光学素子の面において大きな屈折角を得、照射あるいは照射・集光光学系全体を小型化する。さらに、充填した透明流体の流出を防止するため、照射あるいは照射・集光光学系の充填部をシール処理する。
【0056】
この構成の一例を図11に示す。これは照射光学系2の例であり、光ファイバー17によって超音波発生用レーザー光PLを伝送し、照射光学系2によって被検査材3に照射するものである。ここで、被検査材3は超音波発生用レーザー光PLに対して透過度を有する大気以外の流体媒質W中にあるものとする。
【0057】
光ファイバー17は部材ホルダー26aによってハウジング26bに固定される。光ファイバー17から出たレーザー光はレンズ27aにより平行ビームとなり、レンズ27bによって被検査材3上に集光照射される。ここで、必要に応じて収差補正用のレンズ28a,28bを用いてもよいし、レンズ27a,27bとして収差の小さい非球面のレンズを用いてもよい。また平行ビームへの整形と被検査材3への集光を一枚のレンズで行うことも仕様によっては可能である。
【0058】
この照射光学系2の特徴は、内部の光路に、周囲の流体媒質Wと異なる、流体媒質Wとレンズ27a,27b、28a,28bの屈折率差よりも屈折率差が大きくなる透明流体Gを充填することである。ここで透明流体Gの周辺媒質Wへの流出、あるいは周辺媒質Wの透明流体Gへの流入を防止するため、Oリング29a,29bを備えている。シールはOリングだけでなく、例えば周辺流体媒質Wが水である場合には、シリコンなど耐水性の樹脂モールド30a,30bを用いることもできるし、また接合効果も期待すべき部位には、耐水性接着剤31あるいは溶接構造によるシールも考えられる。
【0059】
なおこの実施例の場合、光ファイバー17の端面、あるいはレンズ27a,27b、28a,28bなどの光学面に反射防止コーティングを施したり、光学的に許される場合には、正反射光の復路が往路と一致せぬよう若干の角度を持って設置したりするなどして、超音波発生用レーザー光PLの反射を防止するのも効果的である。
【0060】
この実施例の照射光学系2において、流体媒質Wが水の場合には透明流体Gとして酸素を含む混合気体を用いるのがよい。流体媒質Wが水の場合、屈折率的には透明流体Gとしては不活性ガスなどを用いることもできるが、特に酸素を含む混合気体を用いれば、以下のようなメリットがある。すなわち、光学素子を保持するハウジング26b等は炭素鋼やステンレス鋼など炭素を含む金属材料で構成することが多いが、そこに比較的高エネルギーのレーザー光が照射された場合、その相互作用によって炭素が発生する。
【0061】
もし不活性ガスを用いると、この炭素は粉末状になって光学系内を浮遊し、あるいはレンズ27a,27b、28a,28bなどの光学素子に付着し、光路上のレーザー光の透過率を低下させると共に、場合によってはレンズ27a,27b、28a,28bなどの損傷につながる。しかし酸素を含む混合気体を用いれば、炭素は酸素と反応して炭酸ガスとなり、粉末浮遊あるいは付着等によるこれらのトラブルの発生を未然に防止することができる。
【0062】
つぎに照射・集光光学系M6の実施例を図12を参照して説明する。
屈折率差の大きい透明流体を充填すると光学素子面での反射率が増大するという問題があるが、光学素子面での反射が問題となるのは主に検出側(第2の照射光学系)であり、被検査材3の反射率が低い場合には、検出用光学系で検出される光信号としては素子面からの反射が支配的となって、これらは超音波信号受信において雑音となる。
【0063】
そこで図12に示すように、被検査材3に超音波検出用レーザー光ILを伝送する光ファイバー6aと、被検査材3からの反射成分SLを図示しない検出用光学系に伝送する光ファイバー6bを別々に設けることで、検出用光学系に混入する反射成分SLを低減し、S/N比を向上させる。
【0064】
この場合、被検査材3へ照射される超音波検出用レーザー光ILの往路に戻る反射成分SLを別光路に導くために、偏向ビームスプリッタ(照射光・反射光分岐素子)32および波長板(照射光・反射光分岐制御素子)33を設置してある。また波長板33の面の反射成分が光ファイバー6bに向かう光路へ混入するのを防止するため、波長板33を若干の角度をもって設置するか、あるいは該当面に反射防止コーティングを施してある。
【0065】
なお、同じ効果は超音波検出用レーザー光ILの照射と被検査材3からの反射成分SLの集光に、異なる2つの光学素子を用いる構成でも得られるが、この場合には2つの光学素子と被検査材表面の3者の位置合わせが必要な上、超音波発生用レーザー光のために1つ、超音波検出用レーザー光のために2つの合計3つの光学素子が被検査材表面に対向していなければならないことから、配置的に小型化が困難であり、狭隘部の検査には適当でない場合が多い。
【0066】
本発明の第1の実施の形態のレーザー超音波検査装置(図1)に備えられる照射および照射・集光光学系のさらに他の実施例を図13を用いて説明する。超音波発生用レーザー光PLと超音波検出用レーザー光ILは各々光ファイバー17,6で伝送される。この2本の光ファイバー17,6はある所定の位置関係を持ってハウジング26に固定されており、レーザー光PLとILは同一のレンズ27によって被検査材3の表面に照射される構成である。
【0067】
ここで、被検査材3上の照射位置の関係および結像倍率は、2本の光ファイバー17,6のハウジング26内の位置関係によって決めることができる。超音波検出用レーザー光ILと反射成分SLは共に光ファイバー6によって伝送されるが、別途、集光用のレンズと光ファイバーを設けて、反射成分SLを別経路で伝送する構成としてもよい。
【0068】
この実施例によれば、超音波発生用レーザー光PLを被検査材3に照射するための光学素子と、超音波検出用レーザー光ILの照射あるいは集光用の光学素子の少なくともいずれか一方を共用することで、照射および照射・集光光学系を小型化することができる。
【0069】
以上説明した本発明の第1の実施の形態のレーザー超音波検査装置によれば、広範囲な領域を効率的に検査することができると共に、信号を分布計測することによる計測感度および信頼性の向上が得られる。
【0070】
また、特に水中などの気体以外の環境下や狭隘部にある被検査材に対して検査を行う場合に、高感度な信号検知および効率的なノイズ低減が可能となる。
【0071】
つぎに本発明の第2の実施の形態のレーザー超音波検査装置を説明する。本実施の形態のレーザー超音波検査装置は、図14に示すように、超音波発生用レーザー光源1と、トリガー発振器13と、切替え制御装置20と、切替え装置21と、受信装置RECを備えている。切替え装置21は、第1の偏向制御素子23と、第2の偏向制御素子22-1〜22-nと、第1のビームスプリッタ25-1〜25-nと、第2のビームスプリッタ24-1〜24-nを備えている。
【0072】
また本実施の形態のレーザー超音波検査装置は、超音波発生用レーザー光PLを被検査材3a,3bまで伝送する光ファイバー17-1〜17-nと、超音波検出用レーザー光ILおよびその被検査材3a,3b表面における反射光SLを被検査材3a,3bと受信装置RECの間で伝送する光ファイバー6-1〜6-nと、それらの光ファイバーにレーザー光を入射する入射用光学系CL-1〜CL-nおよびM1-1〜M1-nと、照射光学系2-1〜2-nと、照射・集光光学系M6-1〜M6-nを検査部位の数(n個)備えている。
【0073】
この実施の形態の超音波レーザー検査装置は、切替え制御装置20で駆動される切替え装置21によって超音波発生用レーザー光PLと超音波検出用レーザー光ILをn個の光学系に適宜時間的に切替えて入射する。このようにすることで、レーザー超音波検査装置の主要部分である超音波発生用レーザー光源1、超音波検出用レーザー光源、受信用光学系、および信号処理装置などを含む受信装置RECを、n台よりも少ない台数ですませることができる。
【0074】
超音波発生用レーザー光PLと超音波検出用レーザー光ILの伝送路を切替える手段としては、図示のような電子制御式の偏向制御光学素子22、23とビームスプリッタ24、25をn個組み合わせて行う方法のほか、光を反射するミラーを挿入・引抜き、あるいは回転させる機械的方法、音響光学素子(AOM: Acousto-Optical Modulator)などを用いた光の回折を用いる音響光学的な方法、液晶シャッターのON/OFFを用いた電子光学的な方法などを適用することもできる。
【0075】
この第2の実施の形態のレーザー超音波検査装置によれば、大型構造物の複数部位、あるいは広範囲をレーザー超音波検査装置そのものを複数台用いることなく効率的に検査することができる。
【0076】
この第2の実施の形態のレーザー超音波検査装置の変形例として、信号処理装置RECが、被検査材3a,3bの表面を伝播する弾性波に由来する検査信号を処理する第1の信号処理手段と、被検査材3a,3b内部を伝播して裏面に到達する体積波に由来する検査信号を処理する第2の信号処理手段とを備え、第1の信号処理手段の出力信号により被検査材3a,3bの表面を、第2の信号処理手段の出力信号により被検査材3a,3bの内部および裏面を検査する構成としてもよい。
【0077】
例えば溶接部材のような、表裏両面の開口欠陥と内在欠陥が検査対象となるような部材を検査する簡単な方法は、片面ずつアクセスして検査をすることである。しかし、例えば原子炉内構造物のように、狭隘な空間に複雑形状の構造物が設置されているような場合、片面ずつの検査は検査時間がかかる上、両面へのアクセスは必ずしも容易ではなく、そのために部材の分解・解体等をせねばならない場合もある。
【0078】
一方、レーザー超音波法の一般的特徴は、超音波発生用レーザー光の照射により、被検査材の表面を伝播する表面波、被検査材内部から裏面まで伝播する体積波など種々の超音波モードが同時に発生することであるが、それゆえ、計測された各モードの信号の識別が難しいという問題もある。
【0079】
本変形例は多モード同時励起というレーザー超音波法の特長を活かしたもので、超音波発生用レーザー光の照射により同時に発生し表面を伝播するモードと体積中を伝播するモードの両方の超音波を計測し、その伝播を個別に解析することで、被検査材の表面、裏面、内部を同時に検査するものである。ここで、表面伝播モードの解析手法としては、伝播時間解析法や特開2000−180418号公報に記載されている表面伝播波のき裂による反射成分あるいは透過成分を解析する方法などが使用でき、体積伝播モードの解析手法としてはパルスエコー法や回折波検知法などが使用できる。
【0080】
つぎに本発明の第3の実施の形態を説明する。この実施の形態のレーザー超音波検査装置は図15に示すように、超音波発生用レーザー光源1と、切替え装置21と、切替え制御装置20と、トリガー発振器13と、受信装置RECと、入射用光学系CL、M1-1,M1-2と、光ファイバー6-1,6-2,17と、照射光学系2と、照射・集光光学系M6-1,M6-2を備えている。
【0081】
この実施の形態は、被検査材3上の検査すべき複数部位がごく近接している場合で、各方向への超音波の伝播を考慮し、超音波発生用あるいは超音波検出用のレーザー光のいずれか一方のみを切替え動作する構成である(図では超音波検出用のレーザー光のみを切替え動作している)。この第3の実施の形態によれば、複数または広大な領域に対して、装置数を増加することなしに効率的かつ高精度な検査を行うことができる。
【0082】
つぎに本発明の第4の実施の形態を説明する。この実施の形態のレーザー超音波検査装置は図16に示すように、超音波発生用レーザー光源1-1,1-2と、切替え装置21と、切替え制御装置20と、トリガー発振器13と、受信装置RECと、入射用光学系CL-1,CL-2、M1-1,M1-2と、光ファイバー6-1,6-2,17-1,17-2と、照射光学系2-1,2-2と、照射・集光光学系M6-1,M6-2を備えている。
【0083】
この第4の実施の形態は、超音波発生用あるいは超音波検出用のレーザー光のどちらか片方はn台準備し、他方を切替え動作する構成としたものである。図16では、超音波発生用のレーザー光源をn台(図の場合2台)備え、受信装置RECを1台で検査を行う。この場合には、1台目の超音波発生用レーザー光源1-1および2台目の超音波発生用レーザー光源1-2の動作と、切替え装置21の動作は同期がとられている。
【0084】
つぎに本発明の第5の実施の形態を説明する。この実施の形態のレーザー超音波検査装置は図17に示すように、超音波発生用レーザー光源1と、受信装置RECと、トリガー発振器13と、照射光学系2と、対物レンズM2,M3と、入射用光学系M1と、コリメーターM4と、光ファイバー6,7を備えている。
【0085】
受信装置RECは、超音波検出用レーザー光源4と、受信用光学系OPと、光検出器9と、信号処理装置10と、電源装置11,12を備えている。受信用光学系OPは、位相共役素子5と、ミラー8と、レンズM5を備えている。信号処理装置10は、アナログ・デジタル変換部34と、ゲート部35と、信号処理部36aと、表示・記録部36bとを備えている。
【0086】
この第5の実施の形態では、アナログ・デジタル変換部34で取り込まれた信号を信号処理部36aおよび表示・記録部36bに伝送する際に、送受信レーザー光PL,ILの照射位置間の距離Sと、被検査材3の厚さDと、検査に使用される超音波伝播時間から計算される、表面伝播弾性波による検査範囲に対応する時刻範囲と、同様に体積伝播弾性波による検査範囲に対応する時刻範囲とをゲート部35において分離する。したがって、この第5の実施の形態によれば、第1の実施の形態の変形例と同様に被検査材3の表面、内部および裏面の欠陥を同時に検査することができる。
【0087】
なお、第1の実施の形態において図11、12、13に示した照射あるいは照射・集光光学系は第2〜第5の実施の形態のレーザー超音波検査装置にも備えることができる。
【符号の説明】
【0088】
1,1-1,1-2…超音波発生用レーザー光源、2,2-1,2-n…照射光学系、3,3a,3b…被検査材、4…超音波検出用レーザー光源、5…位相共役素子、6,6a,6b,6-1,6-2,6-n,7…光ファイバー、8…ミラー、9…光検出器、10…信号処理装置、11,12…電源装置、13…トリガー発振器、14,16…レンズ系、15…微小レンズアレイ、17,17-1,17-n…光ファイバー、18…ビームスプリッタ、19…ミラー、20…切替え制御装置、21…切替え装置、22,22-1,22-n…第2の偏向制御素子、23,23-1,23-n…第1の偏向制御素子、24,24-1,24-n…第2のビームスプリッタ、25-1,25-n…第1のビームスプリッタ、26,26b…ハウジング、26a…部材ホルダー、26c…レンズ押え、27,27a,27b…レンズ、28a,28b…収差補正レンズ、29a,29b…Oリング、30a,30b…樹脂モールド、31…接着剤、32…偏向ビームスプリッタ、33…波長板、34…アナログ・デジタル変換部、35…ゲート部、36a…信号処理部、36b…表示・記録部、37…走査テーブル、38…走査機構、39…走査制御器、40…位置センサ、41…信号処理・表示・記録装置、C…き裂または欠陥、CL,CL-1,CL-2,CL-n…入射用光学系、G…透明流体、IL…超音波検出用レーザー光、M1,M1-1,M1-2,M1-n…入射用光学系、M2,M3…対物レンズ、M4…コリメーター、M5…レンズ、M6,M6-1,M6-2,M6-n…照射・集光光学系、OP…受信用光学系、REC…受信装置(信号変換手段)、PL,PL-1,PL-2…超音波発生用レーザー光、Sig…超音波信号、SL…反射光、US…超音波、W…周辺流体媒質。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のレーザー光を発振する第1のレーザー光源と、前記第1のレーザー光を被検査材に照射する照射手段と、第2のレーザー光を発振する第2のレーザー光源と、前記第2のレーザー光を前記被検査材表面に照射し、その反射成分を受光する照射・集光手段と、前記照射・集光手段で集光された前記反射成分から前記第1のレーザー光の照射によって前記被検査材に発生した超音波に関する信号を光学的に検出する受信用光学系と、前記受信用光学系において受信された超音波信号を電気信号に変換する信号変換手段と、前記信号変換手段の出力信号を信号処理し、超音波の伝播と前記被検査材の特性に関する情報を演算し表示し記録する信号処理手段とを備えたレーザー超音波検査装置において、
前記照射手段および前記照射・集光手段の少なくともいずれか一方を前記被検査材の検査すべき部位の数と同数備えると共に、前記第1および前記第2のレーザー光の伝播方向を前記照射手段あるいは前記照射・集光手段の各々に偏向する偏向手段と、前記偏向手段を制御する検査点選択手段と、前記検査点選択手段によって選択され前記信号変換手段において受信された各検査点における計測信号を各々の検査点ごとに分別する信号分別手段とを備えていることを特徴とするレーザー超音波検査装置。
【請求項2】
第1のレーザー光を発振する第1のレーザー光源と、前記第1のレーザー光を被検査材に照射する照射手段と、第2のレーザー光を発振する第2のレーザー光源と、前記第2のレーザー光を前記被検査材表面に照射し、その反射成分を受光する照射・集光手段と、前記照射・集光手段で集光された前記反射成分から前記第1のレーザー光の照射によって前記被検査材に発生した超音波に関する信号を光学的に検出する受信用光学系と、前記受信用光学系において受信された超音波信号を電気信号に変換する信号変換手段と、前記信号変換手段の出力信号を信号処理し、超音波の伝播と前記被検査材の特性に関する情報を演算し表示し記録する信号処理手段とを備えたレーザー超音波検査装置において、
前記第1のレーザー光の前記被検査材表面への照射と、前記第2のレーザー光の前記被検査材表面への照射あるいは前記第2のレーザー光の前記被検査材表面からの反射成分集光のいずれかを、同一の光学系によって行うことを特徴とするレーザー超音波検査装置。
【請求項3】
第1のレーザー光を発振する第1のレーザー光源と、前記第1のレーザー光を被検査材に照射する照射手段と、第2のレーザー光を発振する第2のレーザー光源と、前記第2のレーザー光を前記被検査材表面に照射し、その反射成分を受光する照射・集光手段と、前記照射・集光手段で集光された前記反射成分から前記第1のレーザー光の照射によって前記被検査材に発生した超音波に関する信号を光学的に検出する受信用光学系と、前記受信用光学系において受信された超音波信号を電気信号に変換する信号変換手段と、前記信号変換手段の出力信号を信号処理し、超音波の伝播と前記被検査材の特性に関する情報を演算し表示し記録する信号処理手段とを備えたレーザー超音波検査装置において、
前記信号処理手段は、前記信号変換手段の出力信号のうち前記被検査材の表面を伝播する弾性波に由来する検査信号を処理する第1の信号処理手段と、前記信号変換手段の出力信号のうち前記被検査材の内部を伝播して裏面に到達する体積波に由来する検査信号を処理する第2の信号処理手段とを備え、前記第1の信号処理手段の出力信号により前記被検査材の表面を、前記第2の信号処理手段の出力信号により前記被検査材の内部および裏面を検査することを特徴とするレーザー超音波検査装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2011−64697(P2011−64697A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−260160(P2010−260160)
【出願日】平成22年11月22日(2010.11.22)
【分割の表示】特願2008−30461(P2008−30461)の分割
【原出願日】平成15年7月25日(2003.7.25)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】