説明

レーザ溶接システムの異常検出方法

【課題】異常要素を簡易且つ精度よく検出する。
【解決手段】基準用ワークに溶接部を形成すると共に、その際の溶接状態に関する基準用状態データを取得し、基準用状態データを正規化することで基準用正規化データを求め、基準用正規化データに基づいてMTシステムのSN比を算出し、このSN比をニューラルネットワークに教師データとして適用する(S11〜15)。そして、かかるSN比の適用を複数の基準用被加工物に対して実施することで、ニューラルネットワークモデルを構築する(S16)。続いて、加工用ワークに溶接部を形成すると共に、その際の溶接状態に関する加工用状態データを取得し、加工用状態データを正規化することで加工用正規化データを求め、加工用正規化データに基づいてMTシステムのSN比を算出し、このSN比及び構築したニューラルネットワークモデルに基づいて異常要素を検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ溶接システムにおいて異常を検出するためのレーザ溶接システムの異常検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のレーザ溶接システムの異常検出方法としては、被加工物にレーザビームを照射して溶接部を形成すると共に、その際の溶接状態に関する状態データを取得し、この状態データに基づいて溶接異常の有無を判別するものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2007−253220号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ここで、上記のレーザ溶接システムの異常検出方法においては、前述のように溶接異常の有無を判別できるものの、レーザ溶接を構成する要素(例えば、レーザ発信器、ガスノズルの設置姿勢、ガス成分及びガス流量等)の何れが異常要素であるのかを精度よく検出することは困難である。また、近年のレーザ溶接システムの異常検出方法では、簡易に異常要素を検出できるものが特に望まれている。
【0004】
そこで、本発明は、異常要素を簡易且つ精度よく検出することができるレーザ溶接システムの異常検出方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、本発明に係るレーザ溶接システムの異常検出方法は、レーザビームの照射で被加工物に溶接部を形成するレーザ溶接システムにおいて異常を検出するための異常検出方法であって、異常要素を検出するためのニューラルネットワークモデルを構築する溶接前工程と、溶接前工程で構築されたニューラルネットワークモデルに基づいて異常要素を検出する溶接本工程と、を備え、溶接前工程は、基準用被加工物にレーザビームを照射して溶接部を形成すると共に、その際の溶接状態に関する基準用状態データを取得する第1工程と、取得した基準用状態データを正規化することで基準用正規化データを求める第2工程と、求めた基準用正規化データに基づいてMTシステムのSN比を算出し、このSN比をニューラルネットワークに教師データとして適用する第3工程と、第1〜3工程を複数の基準用被加工物に対して実施することで、ニューラルネットワークモデルを構築する第4工程と、を含み、溶接本工程は、加工用被加工物にレーザビームを照射して溶接部を形成すると共に、その際の溶接状態に関する加工用状態データを取得する第5工程と、取得した加工用状態データを正規化することで加工用正規化データを求める第6工程と、求めた加工用正規化データに基づいてMTシステムのSN比を算出し、このSN比及び溶接前工程で構築されたニューラルネットワークモデルに基づいて異常要素を検出する第7工程と、を含むことを特徴とする。
【0006】
このレーザ溶接システムの異常検出方法では、MTシステム及びニューラルネットワークを互いに好適に協働させて異常要素を検出している。すなわち、一般的にMTシステムのMD(マハラノビスの距離)による異常の検出においては、例えば異常要素として検出されるべき要素の数が多いと、定量的評価が困難になり検出精度が低下してしまう。この点、本発明では、MTシステムを適用する一方で、MTシステムのMDによらずにニューラルネットワークによって異常要素を検出している。よって、異常要素を精度よく検出することができる。他方、ニューラルネットワークによる異常の検出においては、通常、ニューラルネットワークモデルを構築する際、非常に多く(例えば、約100〜1000程度)の教師データ数が必要とされる。この点、本発明では、教師データにMTシステムのSN比を適用している。さらに、このSN比にあっては、正規化されることで特徴化(正常と異常の違いが強調)された正規化データに基づいて算出される。よって、教師データのばらつきの影響を極小化でき、必要な教師データ数を最小化できると共に精度よいニューラルネットワークモデルを構築できる。従って、本発明によれば、異常要素を簡易且つ精度よく検出することが可能となる。
【0007】
ここで、状態データは、具体的には、レーザ出力、プラズマ、反射光、温度、音、振動、アシストガス圧力及び供給電力のうちの少なくとも1つに関するものである場合がある。
【0008】
また、SN比は、望大特性のSN比であることが好ましい。この場合、充分な精度を確保しつつ一層簡易に異常要素を検出することが可能となる。
【0009】
また、異常要素として検出される要素は複数存在しており、SN比は、複数の要素ごとに分けられたSN比群からなるSN比データとして算出されることが好ましい。これにより、異常要素として検出される要素が複数存在する場合において、その要素ごとにSN比を算出してニューラルネットワークモデルを構築することが不要となる。つまり、1つのニューラルネットワークモデルで複数の異常要素を特定して検出することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、異常要素を簡易且つ精度よく検出することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。本実施形態において、「上」、「下」等の語は、図面に示される状態に基づいており、便宜的なものである。
【0012】
図1は、本発明の一実施形態に係るレーザ溶接システムの構成を示す概略図である。図1に示すように、本実施形態に係るレーザ溶接システム1は、レーザ溶接を構成する要素(レーザ発振器、ガスノズルの設置姿勢、ガス成分、ガス流量等)のうち異常又は異常の兆候が生じている要素を異常要素として検出し特定する。具体的には、レーザ溶接システム1では、MTシステム及びニューラルネットワークを互いに好適に協働させて異常要素を検出する。そこで、まず、MTシステム及びニューラルネットワークのそれぞれについて説明する。
【0013】
[MTシステム]
一般的に、MT(Mahalanobis-Taguchi)システムとは、MDという基本概念を用いて状態の変化を判別する多変量解析手法である。つまり、MTシステムは、複数の測定量(多変数)をMD(1つの変数)で表現して取り扱う。このMTシステムでは、例えば、次の(1)〜(3)の順にそのアルゴリズムが構築される。
【0014】
(1)単位空間の構築
まず、図2に示すように、異常要素の検出に必要なデータを測定(検出)し、正常と異常とのデータに仮定する。そして、測定した測定量に、正常と異常との違いを強調する数値処理である特徴化を行う。このように測定量を特徴化することで、種々の要因で正常データが異常データとされてしまうことが抑制され、異常検出に使用する情報が的確に取り出される。その後、測定量や特徴化した項目(図中のA´,B´等)によって単位空間を形成する。
【0015】
(2)有効性解析
次に、データの有効性を見極める有効性解析を行う。この際の評価は、異常検出のために有用な情報と有害な情報との比であるSN比によって行うことができる。具体的には、図3に示すように、上記(1)で特徴化したデータを直交表に割り付けることで、SN比を項目別に算出する。ここでは、直交表として、L直交表を用いている。直交表中の1,2は水準を示しており、「1」はその項目を用いる(単位空間に含む)ことを意味し、「2」はその項目を用いない(単位空間から除外する)ことを意味する。列番(図中のA,B…)は、異常要素として検出される要素に対応するものである。
【0016】
これにより、図4に示すように、有効性解析の結果として、要素別にSN比が示されたSN比データが得られる。なお、図中の縦軸は、大きいもの程異常検出のための効果があることを意味する。
【0017】
(3)MDの算出
次に、上記(2)で得られたSN比データの中からSN比(要因効果)が大きい項目を選択し、MDを算出する。なお、MDの算出の詳細については、特開2006−160153号公報等を参照されたい。
【0018】
[ニューラルネットワーク]
一般的に、ニューラルネットワークとは、脳神経系の情報処理機構を模倣した数理モデルであり、様々なパターンを教師データとして与え、そのパターン差を異常状態としてアルゴリズムを構築する手法である。
【0019】
図5に示すように、ここでのニューラルネットワーク50は、階層型のものであり、ユニット51と呼ばれる演算素子を層状に結合した階層構造として表される。このニューラルネットワーク50は、外部からデータを受け取る入力ユニット52が配置された入力層と、外部へデータを出力する出力ユニット53が配置された出力層と、これらの層間の隠れ層(中間層)と、を備えている。また、図中の矢印55は、信号の流れを表している。
【0020】
このニューラルネットワークによれば、上記MTシステムと異なり、結果が「○」「×」や「Yes」「No」のように2値化される。そのため、異常発生の明確な判別を行うことが可能となる。
【0021】
次に、本実施形態のレーザ溶接システム1について説明する。
【0022】
図1に戻り、レーザ溶接システム1は、ワーク(被加工物)10A,10Bの略中央部分に直線状の溶接部Wを形成し、ワーク10A,10Bを重ね溶接する。ワーク10A,10Bとしては、鉄道車両構体に用いられる板状の外板パネル及び骨部材が用いられている。このレーザ溶接システム1は、レーザビームを照射して溶接部Wを形成するレーザ溶接装置2と、レーザ溶接が正常に実行されたか否かを評価する評価装置3とを備えている。
【0023】
レーザ溶接装置2は、送り装置21と、ワーク固定装置22と、レーザ照射装置23と、ガス供給装置24とを備えている。これらの各装置21〜24は、上位の制御装置(不図示)に接続され、この制御装置から出力される動作指示情報に従って、各動作を自動で実行するようになっている。
【0024】
送り装置21は、ワーク10A,10Bへのレーザビームの照射位置を走査する。具体的には、送り装置21は、可動ステージ25に載置されたワーク10A,10Bを、レーザ照射装置23によるレーザビームに対し溶接予定領域Rに沿って相対的に移動させる。
【0025】
ワーク固定装置22は、ワーク10A,10Bを可動ステージ25に固定する。このワーク固定装置22では、長尺の押さえ板26aによって、溶接予定領域Rを挟んだワーク10A,10Bの両端部分を可動ステージ25に押し付ける。これにより、溶接予定領域R近傍のワーク10A,10Bの密着性が向上される。
【0026】
レーザ照射装置23は、ワーク10A,10Bの溶接予定領域Rに向けてレーザビームを照射する。具体的には、レーザ照射装置23は、ワーク10A,10Bの上方のレーザヘッド27における先端から、例えばYAGレーザやCOレーザ等のレーザビームを所定時間出射する。なお、レーザ照射装置23は、内部に出力切替機構(不図示)を備えており、レーザビームを連続的に照射する場合と、レーザビームをパルス状に照射する場合とで切り替え可能とされている。
【0027】
ガス供給装置24は、ワーク10A,10Bの溶接予定領域Rに対してアシストガスを供給する。ここでのガス供給装置24では、供給ノズル28がワーク10A,10Bの厚さ方向に対し約30度傾斜するように配置されている。このガス供給装置24は、所定の供給量でワーク10A,10Bのレーザビーム照射位置(以下、「加工点」という)にアシストガスを供給する。アシストガスとしては、ワーク10A,10Bの酸化防止及びスパッタ防止等を目的として、アルゴンガス等が用いられている。
【0028】
一方、評価装置3は、物理的には、CPU、メモリ、通信インタフェイス、ハードディスクといった格納部、ディスプレイといった表示部等を備えたコンピュータシステムである。この評価装置3には、フィルタ5を介して光強度検出センサ4が接続されている。
【0029】
光強度検出センサ4は、加工点の光強度を検出するためのフォトセンサである。この光強度検出センサ4は、レーザビームの照射位置の近傍に配置されている。フィルタ5は、光学フィルタである。ここでのフィルタ5は、加工点で発生するプラズマ(波長1100nm以下)に関する光強度と、加工点の温度(赤外線領域の波長)に関する光強度と、を選択的に通過させる。これにより、光強度検出センサ4からフィルタ5を介して出力信号が評価装置3に入力され、溶接状態(ここでは、プラズマ及び温度)に関する状態データが評価装置3に入力される。
【0030】
また、評価装置3は、機能的な構成要素として、異常要素検出部31と、格納部32とを有している。異常要素検出部31は、入力された状態データに基づいて異常要素を検出する(詳しくは、後述)。格納部32は、異常要素検出部31から出力される検出結果情報を受け取り格納する。また、この格納部32は、異常要素の検出するためのニューラルネットワークモデルを格納する。
【0031】
なお、MTシステムとニューラルネットワークとは、例えば次の理由から、協動させるのが困難な手法といえる。すなわち、それぞれの手法が誕生した時期が異なっている。具体的には、ニューラルネットワークは1980年代〜1990年代をピークに研究される一方、MTシステムは2000年代をピークに研究されている。また、ニューラルネットワークは、非常に多くのデータから計算を行うことから、2000年代以前の汎用コンピュータによる計算では非常に難儀である。よって、従来、ニューラルネットワークは、計算コスト、計算速度から推定される異常検出速度の遅さ、等の点で現実上困難な手法とされている。
【0032】
次に、上述した構成のレーザ溶接システム1において異常要素を検出する処理について、図6〜図8のフローチャートを参照しつつ説明する。なお、以下の説明では、複数の要素を対象に異常要素を検出しており、具体的には、第1要素としてガス流量、第2要素としてガス成分、及び第3要素としてガスノズル角度を対象としている。
【0033】
このレーザ溶接システム1では、基準用のワーク10A,10B(以下、「基準用ワーク10A,10B」と称す)にレーザ溶接を実施し、異常要素の検出のためのニューラルネットワークモデルを予め構築する(溶接前工程:S1)。そして、加工用のワーク(以下、「加工用ワーク10A,10B」という)にレーザ溶接を実施してこれらを互いに溶接すると共に、構築されたニューラルネットワークモデルに基づく異常要素の検出を行ってレーザ溶接を評価(検査)する(溶接本工程:S2)。
【0034】
[溶接前工程]
まず、溶接前工程について説明する。基準用ワーク10A,10Bを可動ステージ25に載置し、上方から加圧治具26を下降させて基準用ワーク10A,10Bを可動ステージ25に固定する。続いて、レーザヘッド27からレーザビームを照射すると共に、可動ステージ25を速度約10m/sで移動させて基準用ワーク10A,10Bを矢印A方向(図1参照)に走査する。これに併せて、ガス供給装置24によってアシストガスを流量15L/minで供給する。これにより、基準用ワーク10A,10Bの溶接予定領域Rに沿って、溶接部Wを形成する(S11)。
【0035】
ここで、溶接部Wを形成する際、光強度検出センサ4によって加工点の光強度をフィルタ5を介して検出する。これにより、プラズマ及び温度のそれぞれについて、波形パターンの出力信号を状態データ(以下、「基準用状態データ」という)として取得する(S12)。
【0036】
続いて、取得した基準用状態データを特徴化するため、該基準用状態データを正規化して基準用正規化データを求める(S13)。具体的には、基準用状態データを正規化し、この正規化した基準用状態データが正規化値と交差する数(以下、「変化量」という)を求めると共に、正規化した基準用状態データが正規化値を超えた数(以下、「存在量」という)を求める。なお、正規化値は、要素ごとに予め設定されており、ここでの正規化値は、要素ごとに5つ設定されている。
【0037】
続いて、求めた基準用正規化データに基づいて有効性解析を実施し、MTシステムのSN比を算出する(S14)。具体的には、基準用正規化データを直交表に割り付けることで、MTシステムのSN比を、要素ごとに分けられたSN比群からなる基準用SN比データとして算出する。SN比は、異常要素を検出できればよいという観点から好ましいとして、望大特性のSN比とされている。直交表としては、状態データのデータ数に応じて適宜なものが用いられ、例えばL直交表、L直交表、L12直交表及びL16直交表等が挙げられる。
【0038】
続いて、算出した基準用SN比データをニューラルネットワークへ教師データとして適用する(S15)。そして、上記のS11〜S15を複数の基準用ワーク10A,10Bに対して繰り返し実施する。ここでは、第1〜3要素のそれぞれについて、異常要素であるときの基準用SN比データを教師データとして3〜4回繰り返し適用する。これにより、SN比データの各SN比のパターンの違いにより第1〜3要素から異常要素を検出し特定できるニューラルネットワークモデルが構築される(S16)。
【0039】
図9は、基準用SN比データの一例を示す線図である。図中の基準用SN比データD1は、第2要素が異常要素のときのものを示している。この基準用SN比データD1は、第1〜第3要素ごとに分けられた複数のSN比を含んで構成されている。また、基準用SN比データD1では、プラズマ及び温度のそれぞれについて、基準用状態データのSN比と、複数の変化量のSN比と、複数の存在量のSN比とが算出されている。なお、SN比データでは、状態データのSN比を算出しない場合もある(以下、同じ)。
【0040】
図9に示すように、この基準用SN比データD1では、次の傾向があることがわかる。すなわち、異常要素である第2要素の項目にてSN比が正となる傾向があるのがわかる。その中でも、温度の項目のSN比が特に大きくなる傾向がある。また、異常要素ではない第1要素における温度の一項目においても、SN比が特に大きくなる傾向があるのがわかる。
【0041】
図10は、基準用SN比データの他の一例を示す線図である。図中の基準用SN比データD2は、第3要素が異常要素のときのものを示している。この基準用SN比データD2は、上記の基準用SN比データD1と同様な構成とされている。つまり、第1〜第3要素ごとに分けられた複数のSN比を含んで構成され、プラズマ及び温度のそれぞれについて、基準用状態データのSN比と、複数の変化量のSN比と、複数の存在量のSN比とが算出されている。
【0042】
図10に示すように、この基準用SN比データD2では、次の傾向があることがわかる。すなわち、異常要素である第3要素の項目においては、SN比に特徴的な傾向が特に見られない。一方、異常要素ではない第1及び2要素におけるプラズマの一項目にてSN比が大きくなる傾向があるのがわかる。
【0043】
[溶接本工程]
次に、溶接本工程について説明する。まず、上記のS11と同様に、加工用ワーク10A,10Bを可動ステージ25に載置し、上方から加圧治具26を下降させて加工用ワーク10A,10Bを可動ステージ25に固定する。続いて、レーザヘッド27からレーザビームを照射すると共に、可動ステージ25を速度約10m/sで移動させて加工用ワーク10A,10Bを矢印A方向(図1参照)に走査する。これに併せて、ガス供給装置24によってアシストガスを流量15L/minで供給する。これにより、加工用ワーク10A,10Bの溶接予定領域Rに沿って、溶接部Wを形成する(S21)。
【0044】
ここで、溶接部Wを形成する際、光強度検出センサ4により加工点の光強度をフィルタ5を介して検出する。これにより、プラズマ及び温度のそれぞれについて、波形パターンの出力信号を状態データ(以下、「加工用状態データ」という)として取得する(S22)。
【0045】
続いて、上記のS13と同様に、取得した加工用状態データを特徴化するため、該加工用状態データを正規化して加工用正規化データを求める(S23)。具体的には、加工用状態データを正規化し、正規化した加工用状態データの変化量及び存在量を求める。
【0046】
続いて、上記のS14と同様に、加工用正規化データに基づいて有効性解析を実施し、MTシステムのSN比を算出する(S24)。具体的には、加工用正規化データを直交表に割り付けることで、MTシステムのSN比を、要素ごとに分けられたSN比群からなる加工用SN比データとして算出する。
【0047】
続いて、算出した加工用SN比データと、上記のS16で構築したニューラルネットワークモデルとに基づいて、溶接異常が生じている要素を異常要素として検出する(S25)。つまり、加工用SN比データをニューラルネットワークモデルへ未知データとして適用することで、加工用SN比データに含まれる各SN比のパターンの違いから異常要素が判別され特定されることとなる。
【0048】
そして、異常要素が検出された場合、その検出結果を格納部32に格納すると共に、レーザ溶接システム1を全停止する(S26→S27)。その後、異常要素のメンテナンスを行う。一方、異常要素が検出されない場合、レーザ溶接が完了するまで上記のS21〜S27の処理を繰り返し続行する(S28→S21)。
【0049】
ここで、一般的にMTシステムのMDによる異常の検出においては、例えば異常要素として検出されるべき要素の数が多いと、定量的評価が困難になり検出精度が低下してしまう。この点、本実施形態では、上述したように、MTシステムを適用する一方で、MTシステムのMDによらずに(上記の「(3)MDの算出」を実施せずに)、ニューラルネットワークによって異常要素を検出している。よって、例えば複数の異常要素を検出する場合であっても、異常要素を精度よく検出することができる。
【0050】
他方、一般的にニューラルネットワークによる異常の検出においては、ニューラルネットワークモデルを構築する際、非常に多く(例えば、約100〜1000程度)の教師データ数が必要とされる。このデータ数は、MTシステムで必要とするデータ数の数十倍である。ニューラルネットワークが多くの教師データ数を必要とするのは、教師データのばらつきが大きいことを示している。この点、本実施形態では、教師データにMTシステムのSN比を適用している。さらに、このSN比にあっては、正規化されることで特徴化された正規化データに基づいて算出されている。よって、教師データのばらつきの影響を極小化でき、必要な教師データ数を最小化(ここでは、3〜4つに)することができると共に、精度よいニューラルネットワークモデルを構築することができる。
【0051】
従って、本実施形態によれば、MTシステム及びニューラルネットワークを互いに好適に協働させ、異常要素を自動的に検出(異常診断)することができる。つまり、MTシステムの欠点とニューラルネットワークの欠点とのそれぞれを補うように、それぞれの長所が互いに強調されて異常要素が自動的に検出される。その結果、異常要素を簡易且つ精度よく検出することが可能となる。さらに、異常要素を精度よく検出できることによってレーザ溶接システム1の主要部位の監視が可能となり、予防保全を実現することができる。その結果、レーザ溶接システム1の不具合による溶接品質の低下を抑制でき、歩留まりを向上することが可能となる。
【0052】
図11は、図1のレーザ溶接システムによる異常要素検出結果を示す図表である。図中の検出結果では、検出精度の確認のため、異常要素は判定値として既知とされている。また、図中の第1〜7段目に示す結果では、SN比データを教師データとしてニューラルネットワークに適用し、ニューラルネットワークモデルを構築している。加えて、SN比データを未知データとしてニューラルネットワークモデルへ適用し、異常要素の検出の確認を行っている。図中の第8段目に示す結果では、SN比データを未知データとしてニューラルネットワークモデルへ適用し、異常要素の検出を行っている。図11に示すように、本実施形態によれば、SN比データを教師データとして3〜4回ニューラルネットワークへ適用することで、正答率100%で異常要素が検出されるのがわかる。よって、異常要素を簡易且つ精度よく検出するという上記効果を確認することができる。
【0053】
また、本実施形態では、上述したように、SN比は、望大特性のSN比とされている。よって、充分な精度を確保しつつ一層簡易に異常要素を検出することが可能となる。なお、SN比は、場合によっては、動特性のSN比等としてもよい。
【0054】
また、本実施形態では、上述したように、異常要素として検出される要素が複数存在しており、SN比は、複数の要素ごとに分けられたSN比群からなるSN比データとして算出されている(図9,10参照)。この場合、要素ごとにSN比を算出し、要素ごとにニューラルネットワークモデルを構築することが不要となる。つまり、1つのモデルで複数の異常要素を特定して検出することができる。
【0055】
なお、上述したように、算出されたSN比は、異常要素ではない要素の項目において特徴的な傾向を示す場合がある(図10参照)。この点、本実施形態では、SN比を要素ごとに算出せずにSN比データとして算出し、このSN比データをニューラルネットワークに適用している。そのため、異常要素ではない要素の項目にてSN比が特徴的な傾向を示す場合であっても、かかる特徴を考慮してニューラルネットワークモデルを構築することができる。よって、一層精度よく異常要素を検出することが可能となる。
【0056】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限られるものではない。
【0057】
例えば、上述した実施形態では、光強度検出センサ4で加工点における光強度をフィルタ5を介して検出することでプラズマ及び温度に関する状態データを取得したが、例えばフィルタを適宜設定して、レーザビーム及びレーザビームの反射光に関する状態データを検出してもよい。取得する状態データは、検出する異常要素(異常部位)、レーザビームの種類及び被加工物の材質等によって適宜選択されるものである。
【0058】
また、加工点の音を検出するための加工音検出センサ、又はワーク10A,10Bの振動の大きさを検出するための振動検出センサをさらに備え、音又は振動に関する状態データを取得してもよい。この場合、センサの出力信号にFTT(Fast Fourier Transform)処理が施される。
【0059】
また、各装置に供給される電力量を検出するための供給電力検出センサ、又はアシストガスの圧力を検出するためのガス圧力検出センサをさらに備え、供給電力又はアシストガス圧力に関する状態データを取得してもよい。この場合、センサの出力信号に移動平均処理が施される。
【0060】
また、上記実施形態では、ガス流量、ガス成分及びガスノズル角度を要素としてこれらの要素の異常を検出したが、これらに加え、例えば、レーザ発振器であるレーザヘッド27の異常や、レーザ照射装置23周りの種々の部位における異常等を検出してもよい。また、これらの何れか1つ又は複数を検出してもよい。
【0061】
また、上記実施形態では、変化量及び存在量を正規化データとして求めたが、これらの何れか一方を正規化データとして求めてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明の一実施形態に係るレーザ溶接システムの構成を示す概略図である。
【図2】MTシステムにおける単位空間の構築を説明するための図である。
【図3】MTシステムにおける直交表の一例を示す図である。
【図4】MTシステムにおける有効性解析の結果を示す図である。
【図5】ニューラルネットワークシステムの構造を示す概略図である。
【図6】図1のレーザ溶接システムにおける処理のフローチャートである。
【図7】図6の溶接前工程におけるフローチャートである。
【図8】図6の溶接本工程におけるフローチャートである。
【図9】基準用SN比データの一例を示す線図である。
【図10】基準用SN比データの他の一例を示す線図である。
【図11】図1のレーザ溶接システムによる異常要素検出結果を示す図表である。
【符号の説明】
【0063】
1…レーザ溶接システム、10A,10B…ワーク(被加工物)、50…ニューラルネットワーク、D1,D2…基準用SN比データ、W…溶接部。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザビームの照射で被加工物に溶接部を形成するレーザ溶接システムにおいて異常を検出するための異常検出方法であって、
異常要素を検出するためのニューラルネットワークモデルを構築する溶接前工程と、
前記溶接前工程で構築された前記ニューラルネットワークモデルに基づいて前記異常要素を検出する溶接本工程と、を備え、
前記溶接前工程は、
基準用被加工物に前記レーザビームを照射して前記溶接部を形成すると共に、その際の溶接状態に関する基準用状態データを取得する第1工程と、
取得した前記基準用状態データを正規化することで基準用正規化データを求める第2工程と、
求めた前記基準用正規化データに基づいてMTシステムのSN比を算出し、このSN比をニューラルネットワークに教師データとして適用する第3工程と、
前記第1〜3工程を複数の基準用被加工物に対して実施することで、前記ニューラルネットワークモデルを構築する第4工程と、を含み、
前記溶接本工程は、
加工用被加工物に前記レーザビームを照射して前記溶接部を形成すると共に、その際の溶接状態に関する加工用状態データを取得する第5工程と、
取得した前記加工用状態データを正規化することで加工用正規化データを求める第6工程と、
求めた前記加工用正規化データに基づいてMTシステムのSN比を算出し、このSN比及び前記溶接前工程で構築された前記ニューラルネットワークモデルに基づいて前記異常要素を検出する第7工程と、を含むことを特徴とするレーザ溶接システムの異常検出方法。
【請求項2】
前記状態データは、レーザ出力、プラズマ、反射光、温度、音、振動、アシストガス圧力及び供給電力のうちの少なくとも1つに関するものであることを特徴とする請求項1記載のレーザ溶接システムの異常検出方法。
【請求項3】
前記SN比は、望大特性のSN比であることを特徴とする請求項1又は2記載のレーザ溶接システムの異常検出方法。
【請求項4】
前記異常要素として検出される要素は複数存在しており、
前記SN比は、複数の前記要素ごとに分けられたSN比群からなるSN比データとして算出されることを特徴とする請求項1〜3の何れか一項記載のレーザ溶接システムの異常検出方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−52009(P2010−52009A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−220007(P2008−220007)
【出願日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【出願人】(000003377)東急車輛製造株式会社 (332)
【Fターム(参考)】