説明

レーザ溶接方法及びレーザ溶接装置

【課題】レーザ光を常時開先に沿わせ得るレーザ溶接方法及びレーザ溶接装置を提供する。
【解決手段】溶接用レーザ光Lwを照射しつつ開先Waに沿って移動する溶接用レーザヘッド3と、これとともに移動して前方に開先Waを跨ぐ先行レーザスポットLSf及び倣いレーザスポットLSrを形成する開先検出用レーザヘッド9と、両スポットLSf,LSrを撮影するカメラ11,12と、両カメラ11,12の各画像を処理する画像処理部13と、倣いカメラ12の画像からの開先位置情報により溶接用レーザヘッド3を開先Waに倣って移動させると共に、先行レーザスポットLSfの開先非検出部N通過時には、開先非検出部Nのスタート位置Ns及びエンド位置Neでの先行カメラ11の画像から得られる開先非検出部Nでの開先情報を保存し、倣いレーザスポットLSrの開先非検出部N通過時には、保存した開先情報により溶接用レーザヘッド3を移動させる制御部4を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光軸が極細のレーザ光を用いたレーザ溶接(レーザアークハイブリッド溶接を含む)により長い距離を接合するのに好適なレーザ溶接方法及びレーザ溶接装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
上記したレーザ光を用いたレーザ溶接では、レーザ光の光軸が極細であることから、大型構造物において長い距離を接合する場合には、レーザ光の狙い位置を0.1mm単位で管理する必要がある。
【0003】
従来、このような溶接に用いるのに適したレーザ溶接装置としては、例えば、特許文献1に記載されたものがある。このレーザ溶接装置は、ロボットアームの先端にレーザヘッド及びセンサを配置して成り、これらのレーザヘッド及びセンサは、いずれもロボットアームのプログラムされた動作に伴って、溶接線に沿って移動する。
【0004】
レーザヘッド及びセンサは、いずれもロボットアームの先端に対して溶接線と直交する方向(左右方向及び上下方向)に移動可能となっており、レーザヘッドからのレーザ光が溶接線から外れたり接近離間したりするのをセンサが検出した際に、制御系からの指令に基づいてレーザ光を溶接線に対してプログラム通りの位置に復帰させるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第6430472号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
大型構造物において長い距離を接合する場合には、溶接中にワーク間の開先に生じる歪みや相互の位置ずれを防ぐために、開先の複数個所を仮付けするのが一般的である。この仮付け部(仮溶接ビード)の長さは、通常20mm前後であるが、上記したレーザ溶接装置では、この仮付け部が開先上に存在すると、開先を見失う可能性を否定することができないという問題があり、この問題を解決することが従来の課題となっていた。
【0007】
本発明は、上記した従来の課題に着目してなされたもので、開先上に仮付け部があったとしても、開先を見失うことなく光軸が極細のレーザ光を常時開先に沿わせることができ、その結果、長い距離を精度良く且つ確実に接合することが可能であるレーザ溶接方法及びレーザ溶接装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の請求項1に係る発明は、溶接用レーザ光を開先に沿って移動させて溶接を行うに際して、前記溶接用レーザ光の進行方向前方側に、該溶接用レーザ光とともに移動する二筋の開先検出用レーザ光を照射して、前記開先を跨ぐ2個のレーザスポットを互いに間隔をおいて前後して形成し、前記2個のレーザスポットのうち、前方のレーザスポットを先行レーザスポットとすると共に、後方のレーザスポットを倣いレーザスポットとして、前記先行レーザスポット及び倣いレーザスポットの各動作をそれぞれ撮影し、前記倣いレーザスポットの画像を処理して得られる開先情報に基づいて前記溶接用レーザ光を開先に沿って移動させ、前記先行レーザスポットが前記開先上に存在する仮付け部やバリなどの開先非検出部を通過する場合には、該開先非検出部に差し掛かった位置の画像及び該開先非検出部から離脱した位置の画像をそれぞれ処理して、該開先非検出部における隠れた開先の情報を取得し、前記倣いレーザスポットが前記先行レーザスポットに追随して前記開先非検出部を通過する場合には、前記先行レーザスポットが該開先非検出部を通過することで得た前記隠れた開先の情報に基づいて前記溶接用レーザ光を移動させる構成としたことを特徴としており、この構成のレーザ溶接方法を前述した従来の課題を解決するための手段としている。
【0009】
本発明の請求項2に係るレーザ溶接方法では、前記開先非検出部の溶接進行方向における長さの最大値を設定し、前記先行レーザスポットが前記開先非検出部を通過するに際して、該開先非検出部の溶接進行方向における長さが前記最大値を超えると認識した場合には、溶接を中止する構成としている。
【0010】
ここで、開先非検出部として想定される仮付け部は、開先の全長にわたって連続して形成される場合と、間隔をおいて点在して形成される場合とがあるが、本発明は、開先上に開先非検出部として仮付け部が点在する場合、或いは、開先上に仮付け部がなく開先非検出部としてバリ(切り粉を含む)のみが存在する場合に適用される。
開先上に点在する仮付け部の長さは、開先を形成するワークの厚さや開先形状そのものに基づいて決定され、通常20mm前後であり、バリによる開先非検出区間は長くても15mmを超えない。
【0011】
本発明に係るレーザ溶接方法において、開先非検出部の溶接進行方向における最大長さは、特に限定されることなく自由に設定することができるが、上記の通常の仮付け部の長さやバリによる開先非検出区間の長さを考慮して、例えば、開先非検出部の溶接進行方向における長さの最大値を約30mmに設定することができる。
【0012】
一方、本発明の請求項3に係る発明は、溶接用レーザ光をワーク間の開先に沿って移動させて溶接を行うレーザ溶接装置であって、前記開先に向けて溶接用レーザ光を照射し且つ前記開先に沿って移動可能な溶接用レーザヘッドと、前記溶接用レーザヘッドとともに移動し、該溶接用レーザヘッドの進行方向前方側に二筋の開先検出用レーザ光を照射して、前記開先を跨ぐ2個のレーザスポットを互いに間隔をおいて前後して形成する開先検出用レーザヘッドと、前記2個のレーザスポットのうちの前方に位置する先行レーザスポット及び後方に位置する倣いレーザスポットの各動作をそれぞれ撮影する2台の画像処理用カメラと、前記2台の画像処理用カメラのうちの前記先行レーザスポットの動作を撮影する先行カメラからの画像及び前記倣いレーザスポットの動作を撮影する倣いカメラからの画像を処理する画像処理部と、前記倣いカメラからの画像を前記画像処理部で処理して得られる開先位置情報に基づいて前記溶接用レーザヘッドを前記開先に沿って移動させる制御部を備え、前記制御部は、前記先行レーザスポットが前記開先上に存在する仮付け部やバリなどの開先非検出部を通過する場合において、前記先行レーザスポットが該開先非検出部に差し掛かった位置及び該開先非検出部から離脱した位置における前記先行カメラからの画像をそれぞれ処理して得られる該開先非検出部における隠れた開先の情報を保存し、前記倣いレーザスポットが前記先行レーザスポットに追随して前記開先非検出部を通過する場合において、前記先行レーザスポットが該開先非検出部を通過することで得た前記隠れた開先の情報に基づいて前記溶接用レーザヘッドを移動させる構成としたことを特徴としており、この構成のレーザ溶接装置を前述した従来の課題を解決するための手段としている。
【0013】
本発明に係るレーザ溶接方法及びレーザ溶接装置において、光軸が極細のレーザ光のみを用いたレーザ溶接に限定されるものではなく、レーザアークハイブリッド溶接にも適用可能である。
【0014】
また、本発明に係るレーザ溶接方法及びレーザ溶接装置において、溶接用レーザ光には、COレーザ光やYAGレーザ光などのレーザ光を用いることができ、一方、先行レーザスポット及び倣いレーザスポットを形成する開先検出用レーザ光には、半導体レーザ光を用いることができる。
【0015】
さらに、本発明に係るレーザ溶接方法及びレーザ溶接装置において、先行レーザスポット及び倣いレーザスポットの各大きさは、開先の形状に基づいて適宜設定されるものであり、特に限定しない。
例えば、開先がI開先(狭開先)である場合には、画像処理時における狭開先の検出精度の向上及びスポット同士の干渉を避けるうえで、先行レーザスポット及び倣いレーザスポットの各大きさを長さ5mm程度、幅0.5mm程度とすることができる。
また、例えば、開先がV開先やY開先やU開先である場合には、レーザスポットがこれらの開先を完全に跨ぐ必要があることから、先行レーザスポット及び倣いレーザスポットの各長さは、上記I開先の場合と比べて当然大きく設定される。
【0016】
この際、溶接の進行方向に前後して位置する先行レーザスポット及び倣いレーザスポットのスポット間距離は、上記した開先非検出部の長さの最大値を上回るように設定することは勿論であり、例えば、上記のように開先非検出部の長さの最大値を約30mmに設定した場合には、余裕をもって両レーザスポットのスポット間距離を50mm程度に設定することが望ましい。
【0017】
さらにまた、本発明に係るレーザ溶接方法及びレーザ溶接装置において、倣いレーザスポットと溶接位置との距離は、例えば、レーザスポットの動作撮影時において、レーザアークハイブリッド溶接で生じるアーク光や溶接ヒューム等のノイズに倣いレーザスポット付近の視界が妨げられない程度の距離に設定することが望ましい。
【0018】
本発明に係るレーザ溶接方法及びレーザ溶接装置において、開先非検出部のない部分を溶接している状況では、倣いレーザスポットの画像を処理して得られる開先情報に基づいて溶接用レーザ光を開先に沿って移動させ、一方、開先上に仮付け部やバリなどの開先非検出部が存在する部分を溶接している状況では、この開先非検出部を倣いレーザスポットが通過する時点において、先行レーザスポットがすでに開先非検出部を通過することで得た隠れた開先の情報に基づいて移動するので、開先を見失うことなく光軸が極細のレーザ光を常時開先に沿わせ得ることとなり、したがって、長い距離であってとしても、精度良く且つ確実に接合し得ることとなる。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係るレーザ溶接方法では、上記した構成としているので、開先上に仮付け部やバリなどの開先を検出し得ない部分が存在する場合であったとしても、開先を見失うことなくレーザ光を常時開先に沿わせることができ、その結果、長い距離を精度良く且つ確実に接合することが可能であるという非常に優れた効果がもたらされる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施例に係るレーザ溶接装置を概略的に示す斜視説明図である。
【図2】図1に示したレーザ溶接装置の開先非検出部における開先検出要領説明図である。
【図3】図1におけるレーザ溶接装置の動作を示すフローチャート前半である。
【図4】図1におけるレーザ溶接装置の動作を示すフローチャート後半である。
【図5】図1におけるレーザ溶接装置の開先検出動作を図3におけるフローチャートの各ステップに対応して示す動作説明図(a)〜(c)である。
【図6】図1におけるレーザ溶接装置の開先検出動作を図4におけるフローチャートの各ステップに対応して示す動作説明図(a)〜(c)である。
【図7】図1におけるレーザ溶接装置の開先検出動作を図4におけるフローチャートの各ステップに対応して示す動作説明図(a)〜(c)である。
【図8】本発明の他の実施例に係るレーザ溶接装置を概略的に示す斜視説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を図面に基づいて説明する。
図1〜図7は本発明に係るレーザ溶接装置の一実施例を示している。
【0022】
図1に示すように、このレーザ溶接装置1は、溶接用レーザ発振器2と、この溶接用レーザ発振器2から発せられたレーザ光を照射する溶接用レーザヘッド3と、制御部4を備えている。
【0023】
この場合、このレーザ溶接装置1は、ワークW,Wを並べて置いた基礎Eに沿って水平に配置されたベース梁5と、このベース梁5から基礎E上に張り出すようにして設けられてベース梁5に沿ってスライドする張り出し梁6と、この張り出し梁6に沿ってスライドすると共に張り出し梁6に対して上下方向にスライドする垂直梁7と、この垂直梁7の下端に配置された固定梁8を具備した駆動機構を備えている。
【0024】
上記溶接用レーザヘッド3は、このレーザヘッド駆動機構の固定梁8に装着されており、レーザヘッド駆動機構は、制御部4からの指令により動作して、基礎E上のワークW,Wに対する溶接用レーザヘッド3の高さを適宜位置に調節すると共に、この溶接用レーザヘッド3から照射されるレーザ光LwをワークW,W間の開先Waに沿って移動させるようになっている。
【0025】
また、このレーザ溶接装置1は、溶接用レーザヘッド3とともにレーザヘッド駆動機構の固定梁8に装着された開先検出用レーザヘッド9を備えている。この開先検出用レーザヘッド9は、開先検出用レーザ発振器10から発せられたレーザ光を基礎E側に向けて二筋のレーザ光Lf,Lrに分けて照射して、ワークW,W上に2個の矩形状のレーザスポットLSf,LSrを形成するようになっており、これらの矩形状のレーザスポットLSf,LSrは、いずれもワークW,W間の開先Waを跨いで形成されるようになっている。2個の矩形状のレーザスポットLSf,LSrは、溶接の進行方向に後述する間隔をおいて前後して形成され、進行方向前側のレーザスポットLSfを先行レーザスポットLSfとし、進行方向後側のレーザスポットLSrを倣いレーザスポットLSrとしている。
【0026】
さらに、このレーザ溶接装置1は、溶接用レーザヘッド3及び開先検出用レーザヘッド10とともにレーザヘッド駆動機構の固定梁8に装着された2台の画像処理用のカメラ11,12と、これらのカメラ11,12で撮影した画像を処理して制御部4に伝達する画像処理部13を備えている。2台の画像処理用のカメラ11,12のうちの一方のカメラ11は、上記先行レーザスポットLSfないしその近傍を撮影する先行カメラ11としてあり、2台の画像処理用のカメラ11,12のうちの他方のカメラ12は、上記倣いレーザスポットLSrないしその近傍を撮影する倣いカメラ12としてある。
【0027】
つまり、このレーザ溶接装置1は、溶接中において、ワークW,W間の開先Waを跨ぐ倣いレーザスポットLSrを倣いカメラ12で撮影して、この倣いカメラ12からの画像を画像処理部13で処理して制御部4に伝達し、画像処理部13から得た開先位置情報に基づく制御部4からの指令により、溶接用レーザヘッド3をワークW,W間の開先Waに倣って移動させるようになっている。
【0028】
また、このレーザ溶接装置1は、溶接中において、仮付けされたりバリが嵌まり込んだりして開先Waが見えなくなった部位、すなわち、開先非検出部Nを先行レーザスポットLSfが乗り越えた場合には、図2に示すように、これを撮影した先行カメラ11の画像を画像処理部13により処理して開先非検出部Nのスタート位置Ns及びエンド位置Neを求めるようになっており、先行レーザスポットLSfが開先非検出部Nを通過している間は、倣いカメラ12で得られる開先位置情報に基づいて、レーザ光Lwを照射しつつ溶接用レーザヘッド3を移動させて本溶接ビードBを形成するようになっている。
【0029】
そして、この開先非検出部Nのスタート位置Nsまでは、倣いカメラ12で得られる開先位置情報に基づく制御部4からの指令により、溶接用レーザヘッド3を開先Waに倣って移動させ、一方、開先非検出部Nのスタート位置Nsからエンド位置Neまでは、先行カメラ11で得た開先非検出部Nの開先位置情報に基づく制御部4からの指令により、溶接用レーザヘッド3を移動させるようになっている。
【0030】
ここで、開先非検出部Nの最大長さは特に限定しないが、開先非検出部Nとしての仮付け部の長さが通常20mm前後であり、バリによる開先非検出区間は長くても15mmを超えないことを考慮して、この実施例では、開先非検出部Nの長さの最大値を約30mmに設定している。先行レーザスポットLSfがこの開先非検出部Nを乗り越えた場合には、すなわち、開先Waが見えない区間が設定範囲の最大値30mmを超えない場合には、上述したように先行カメラ11からの画像に基づいて開先非検出部Nでの開先位置を算出し、一方、先行レーザスポットLSfが開先非検出部Nを乗り越えられずに、開先Waが見えない区間が設定範囲の最大値30mmを超えた場合には、レーザヘッド駆動機構又は制御部4でエラーが生じている可能性があるとして、溶接を中止するようにしている。
【0031】
なお、溶接の進行方向に前後して位置する先行レーザスポットLSf及び倣いレーザスポットLSrのスポット間距離aは、開先非検出部Nの長さの最大値を上回るように設定することは言うまでもなく、上記のように開先非検出部Nの長さの最大値を約30mmに設定した場合には、余裕をもって先行レーザスポットLSf及び倣いレーザスポットLSrのスポット間距離aを50mm程度に設定することが望ましい。
【0032】
また、倣いレーザスポットLSrと溶接用レーザヘッド3からレーザ光Lwが照射される溶接位置P(本溶接ビードBの先端位置)との距離bは、倣いレーザスポットLSrを撮影する倣いカメラ12の視野が溶接中に生じる溶接ヒュームに妨げられない程度の距離に設定する。
【0033】
そこで、上記したレーザ溶接装置1による溶接動作を説明する。
まず、図3に示すように、ステップS1において、開先倣いプログラムがオンするのに続いて、ステップS2において、溶接プログラムがオンする。
【0034】
このように、溶接プログラムがオンすると、溶接用レーザ発振器2のレーザ出力や、溶接モードや、シールドガスの流量や、溶接速度などの溶接条件が、あらかじめ設定された値に制御され、溶接開始可能な状態となる。
【0035】
次いで、ステップS3において、図5(a)に示すように、開先検出用レーザヘッド9からレーザ光Lfが照射されることでワークW,W上に形成される先行レーザスポットLSfが、溶接開始位置SPを通過した時点から先行カメラ11による開先画像の撮影が開始され、先行カメラ11による開先Waの検出がなされる。この際、溶接開始位置SPは、開先Wa上の仮付けされたりバリが嵌まり込んだりしていない部位、すなわち、開先Waを検出可能な部位に設定される。
【0036】
また、ステップS4において、図5(b)に示すように、開先検出用レーザヘッド9からレーザ光Lrが照射されることでワークW,W上に形成される倣いレーザスポットLSrが、溶接開始位置SPを通過したした時点から倣いカメラ12による開先画像の撮影が開始され、倣いカメラ12による開先Waの検出がなされる。
【0037】
次に、ステップS5において、倣いカメラ12による撮影画像から検出した溶接開始位置SPの開先位置情報を画像処理部13及び制御部4に送信するのに続いて、ステップS6において、制御部4の指令により溶接用レーザヘッド3が溶接開始位置SPまで移動し、ステップS7において、同じく制御部4の指令により、図5(c)に示すように、溶接が開始される。
【0038】
このように、溶接を開始すると、図4に示すように、ステップS8において、先行カメラ11及び倣いカメラ12の双方により、開先Waの検出が継続して行われ、ステップS9において、倣いカメラ12側から開先位置情報が画像処理部13及び制御部4に送信され、ステップS10において、溶接用レーザヘッド3は制御部4の指令により開先位置情報に倣ってレーザ光Lwを照射しつつ移動する。
【0039】
そして、ステップS11において、図6(a)に示すように、先行レーザスポットLSfが開先非検出部Nのスタート位置Nsに到達して、先行カメラ11による開先Waの検出ができなくなると、ステップS12において、先行レーザスポットLSfを追う先行カメラ11による開先非検出部Nの長さの測定が開始される。
【0040】
続いて、ステップS13において、図6(b)に示すように、上記先行レーザスポットLSfが開先非検出部Nのエンド位置Neに到達して、先行カメラ11による開先Waの検出が復活することで、開先非検出部Nの長さの測定が完了し、この開先非検出部Nの長さがあらかじめ設定した範囲内(OK)であれば、ステップS14において、先行カメラ11で取得した開先非検出部Nのスタート位置Ns及びエンド位置Neの開先位置情報に基づいて、制御部4により開先非検出部N全体の開先位置が算出され、ステップS15において、この算出した開先非検出部N全体の開先位置情報が保存される。
【0041】
上記先行レーザスポットLSfが開先非検出部Nを通過している間(上記先行カメラ11が開先Waを見失っている間)において、溶接用レーザヘッド3は、倣いカメラ12で得られる開先位置情報に基づいて、レーザ光Lwを照射しつつ移動する。
【0042】
この後、ステップS16において、図7(a)に示すように、開先非検出部Nのスタート位置Nsまでの矢印区間D1も、倣いカメラ12で得られる開先位置情報に基づく制御部4からの指令により、溶接用レーザヘッド3は、開先Waに倣ってレーザ光Lwを照射しつつ移動して本溶接ビードBを形成し、続いて、ステップS17において、図7(b)に示すように、開先非検出部Nのスタート位置Nsからエンド位置Neまでの矢印区間D2は、先行カメラ11で得た開先非検出部Nの開先位置情報に基づく制御部4からの指令に従って、溶接用レーザヘッド3が、開先非検出部N上に本溶接ビードBを重ねて形成しつつ移動する。
【0043】
そして、ステップS18において、あらかじめ設定された溶接長さに達したか否かの判定がなされ、図7(c)に示すように、本溶接ビードBの先端が設定された溶接長さである溶接終了点EPに達している場合(Yes)には、ステップS19に進んで溶接プログラムがオフとなり、これに続いて、ステップS20において、開先倣いプログラムがオフとなる。この際、溶接終了点EPも溶接開始位置SPと同様に、開先Wa上の仮付けされたりバリが嵌まり込んだりしていない部位、すなわち、開先Waを検出可能な部位に設定される。
【0044】
上記ステップS18において、本溶接ビードBの先端が溶接終了点EPに達していない場合(No)には、本溶接ビードBの先端が溶接終了点EPに到達するまで、ステップS8〜ステップS18までの工程が繰り返し行われる。
【0045】
一方、上記ステップS13において、開先非検出部Nの長さがあらかじめ設定した範囲の最大値を超えた場合(NG)には、ステップS21において、開先検出エラーと判定して、図6(c)に示すように、開先非検出部Nが開先検出不能部Ngとして処理され、ステップS19及びステップS20に順次進んで溶接プログラム及び開先倣いプログラムが相次いでオフとなる。
【0046】
したがって、上記した本実施例に係るレーザ溶接装置1では、開先非検出部Nのない部分の溶接中において、倣いレーザスポットLSrの画像を処理して得られる開先情報に基づいて溶接用レーザ光Lwを開先Waに沿って移動させ、一方、開先Wa上に仮付け部やバリなどの開先非検出部Nが存在する部分の溶接中において、この開先非検出部Nを倣いレーザスポットLSrが通過する際には、先行レーザスポットLSfがすでに開先非検出部Nを通過することで得た隠れた開先の情報に基づいて移動することになるので、開先Waを見失うことなく溶接用レーザ光Lwを常時開先Waに沿わせ得ることとなる。
【0047】
また、上記した本実施例に係るレーザ溶接装置1において、先行レーザスポットLSfが開先非検出部Nを乗り越えられずに、開先Waが見えない区間が設定範囲の最大値を超えた場合に、レーザヘッド駆動機構又は制御部4でエラーが生じている可能性があるとして、溶接を中止するようにしているので、溶接の不具合が生じるのを回避し得ることとなる。
【0048】
なお、上記したレーザ溶接装置1では、実際に溶接を行うのに先立って、上記溶接プログラムにおけるステップS7を実行せずに、すなわち、溶接用レーザヘッド3からレーザ光Lwを照射させずに工程を進める運用が可能である。
このようなレーザ溶接装置1の運用法では、ステップS13,ステップS21,ステップS19に至る過程を経ることで、溶接を行わずに、あらかじめ設定した最大値を超える長さの開先非検出部Nを開先検出不能部Ngとして判定し得るので、溶接前の不具合検出に役立つこととなる。
【0049】
上記した実施例では、光軸が極細のレーザ光のみを用いたレーザ溶接を例に挙げて説明したが、これに限定されるものではなく、例えば、図8に示すレーザアークハイブリッド溶接にも適用可能である。
【0050】
図8に示すように、このレーザアークハイブリッド溶接装置21は、アーク溶接機電源22と、固定梁8に適宜角度で装着されてアーク溶接機電源22から電源を供給されて作動する溶接トーチ23を備えており、他の構成は先の実施例に係るレーザ溶接装置1と同じである。
【0051】
このレーザアークハイブリッド溶接装置21でも、開先Wa上に開先非検出部Nが存在する部分の溶接中において、この開先非検出部Nを倣いレーザスポットLSrが通過する際には、先行レーザスポットLSfがすでに開先非検出部Nを通過することで得た隠れた開先の情報に基づいて移動することになるので、開先Waを見失うことなく溶接トーチ23及び溶接用レーザ光Lwをいずれも常時開先Waに沿わせ得ることとなる。
【0052】
なお、本発明に係るレーザ溶接方法及びレーザ溶接装置の構成は、上記した実施例の構成に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0053】
1 レーザ溶接装置
2 溶接用レーザ発振器
3 溶接用レーザヘッド
4 制御部
9 開先検出用レーザヘッド
10 開先検出用レーザ発振器
11 先行カメラ
12 倣いカメラ
13 画像処理部
21 レーザアークハイブリッド溶接装置
Lf,Lr 開先検出用レーザ光
LSf 先行レーザスポット
LSr 倣いレーザスポット
Lw 溶接用レーザ光
N 開先非検出部
Ne エンド位置(先行レーザスポットが開先非検出部から離脱する位置)
Ns スタート位置(先行レーザスポットが開先非検出部に差し掛かる位置)
W ワーク
Wa 開先

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接用レーザ光を開先に沿って移動させて溶接を行うに際して、
前記溶接用レーザ光の進行方向前方側に、該溶接用レーザ光とともに移動する二筋の開先検出用レーザ光を照射して、前記開先を跨ぐ2個のレーザスポットを互いに間隔をおいて前後して形成し、
前記2個のレーザスポットのうち、前方のレーザスポットを先行レーザスポットとすると共に、後方のレーザスポットを倣いレーザスポットとして、前記先行レーザスポット及び倣いレーザスポットの各動作をそれぞれ撮影し、
前記倣いレーザスポットの画像を処理して得られる開先情報に基づいて前記溶接用レーザ光を開先に沿って移動させ、
前記先行レーザスポットが前記開先上に存在する開先非検出部を通過する場合には、前記先行レーザスポットが該開先非検出部に差し掛かった位置の画像及び該開先非検出部から離脱した位置の画像をそれぞれ処理して、該開先非検出部における隠れた開先の情報を取得し、
前記倣いレーザスポットが前記先行レーザスポットに追随して前記開先非検出部を通過する場合には、前記先行レーザスポットが該開先非検出部を通過することで得た前記隠れた開先の情報に基づいて前記溶接用レーザ光を移動させる
ことを特徴とするレーザ溶接方法。
【請求項2】
前記開先非検出部の溶接進行方向における長さの最大値を設定し、前記先行レーザスポットが前記開先非検出部を通過するに際して、該開先非検出部の溶接進行方向における長さが前記最大値を超えると認識した場合には、溶接を中止する請求項1に記載のレーザ溶接方法。
【請求項3】
溶接用レーザ光をワーク間の開先に沿って移動させて溶接を行うレーザ溶接装置であって、
前記開先に向けて溶接用レーザ光を照射し且つ前記開先に沿って移動可能な溶接用レーザヘッドと、
前記溶接用レーザヘッドとともに移動し、該溶接用レーザヘッドの進行方向前方側に二筋の開先検出用レーザ光を照射して、前記開先を跨ぐ2個のレーザスポットを互いに間隔をおいて前後して形成する開先検出用レーザヘッドと、
前記2個のレーザスポットのうちの前方に位置する先行レーザスポット及び後方に位置する倣いレーザスポットの各動作をそれぞれ撮影する2台の画像処理用カメラと、
前記2台の画像処理用カメラのうちの前記先行レーザスポットの動作を撮影する先行カメラからの画像及び前記倣いレーザスポットの動作を撮影する倣いカメラからの画像を処理する画像処理部と、
前記倣いカメラからの画像を前記画像処理部で処理して得られる開先位置情報に基づいて前記溶接用レーザヘッドを前記開先に沿って移動させる制御部を備え、
前記制御部は、前記先行レーザスポットが前記開先上に存在する開先非検出部を通過する場合において、前記先行レーザスポットが該開先非検出部に差し掛かった位置及び該開先非検出部から離脱した位置における前記先行カメラからの画像をそれぞれ処理して得られる該開先非検出部における隠れた開先の情報を保存し、前記倣いレーザスポットが前記先行レーザスポットに追随して前記開先非検出部を通過する場合において、前記先行レーザスポットが該開先非検出部を通過することで得た前記隠れた開先の情報に基づいて前記溶接用レーザヘッドを移動させる
ことを特徴とするレーザ溶接装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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