説明

レーザ溶接方法

【課題】
溶接仕上がりが良好なレーザシーム溶接を実現することができるレーザ溶接方法を提供すること。
【解決手段】レーザ光としての連続発振のCWレーザ光を、ガルバノメータ・スキャナを用いて溶接部位に沿って走査し、その際に、CWレーザ光の出力を一定に制御しつつ、CWレーザ光の走査速度を可変制御すること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ溶接方法に係り、特に、被溶接物を連続的に溶接するのに好適なレーザ溶接方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、レーザ光を用いた溶接方法として、金属製の被溶接物をレーザ光を走査して連続的に溶接するレーザシーム溶接が採用されていた。
【0003】
また、従来から、このようなレーザシーム溶接には、レーザ光としてパルスレーザ光が用いられることがあった。
【0004】
例えば、特許文献1においては、パルスレーザ光を用いることによって、電子部品パッケージの開口部に、この開口部を封止するためのカバーを溶接する技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−12752号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、被溶接物によっては、そのレーザ光の照射位置すなわち溶接部位に応じて被溶接物の材質や厚み等が異なる場合があり、そのような場合には、各溶接部位における溶接を適切に行うために各溶接部位に付与されるレーザ光のエネルギを互いに異ならせることが必要な場合がある。
【0007】
この点、パルスレーザ光を用いたレーザシーム溶接においては、パルスレーザ光の走査速度は一定のまま、パルスレーザ光の繰り返し数(pps)や出力を変更することによって容易に対応することができていた。
【0008】
一方、シーム溶接においては、溶接のタクトタイムを短くすることが望まれており、パルスレーザに代えて連続発振のCWレーザ(Continuous wave laser)を用いることが検討されている。このようなCWレーザを発振するレーザ装置として、近年、ファイバレーザ装置が好適に用いられている。しかしながら、CWレーザ光を用いたレーザシーム溶接においては、レーザ出力の変動によって溶接性に悪影響を及ぼし易く、溶接仕上がりが悪くなり易いといった問題点が指摘されていた。
【0009】
そこで、本発明はこのような点に鑑みなされたものであり、CWレーザを用いて溶接仕上がりが良好なシーム溶接を実現することができるレーザ溶接方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前述した目的を達成するため、本発明に係るレーザ溶接方法は、被溶接物上の連続した溶接部位に、当該溶接部位に沿ってガルバノメータ・スキャナを用いてレーザ光を順次照射することによって、前記被溶接物を連続的に溶接するレーザ溶接方法であって、前記レーザ光は連続発振のCWレーザ光であり、該CWレーザ光の出力を一定に制御しつつ、前記CWレーザ光の走査速度を可変制御することを特徴としている。
【0011】
そして、このような方法によれば、被溶接物をレーザシーム溶接する際に、CWレーザ光の出力を一定に制御して出力の安定性を確保しつつ、CWレーザ光の走査速度を可変制御することができるので、各溶接部位における溶接を適切に行うことができ、ひいては被溶接物の全体的な溶接仕上がりを向上させることができる。
【0012】
また、前記走査速度の可変制御として、溶接開始時の前記溶接部位における前記走査速度を、前記溶接開始時の前記溶接部位に対する溶接進行側の前記溶接部位における前記走査速度よりも低速に制御してもよい。
【0013】
そして、このような方法によれば、溶接開始時の溶接部位における走査速度を低速側に制御することによって、照射開始時における溶接を適切に行うことができる。
【0014】
さらに、前記走査速度の可変制御として、厚みが相対的に厚い前記溶接部位における前記走査速度を、厚みが相対的に薄い前記溶接部位における前記走査速度よりも低速に制御してもよい。
【0015】
そして、このような方法によれば、厚みが厚い溶接部位における走査速度を低速側に制御することによって、当該溶接部位における溶接を適切に行うことができ、一方、厚みが薄い溶接部位における走査速度を高速側に制御することによって、当該溶接部位における溶接を迅速かつ確実に行うことができるとともに、当該溶接部位への過大な入熱による溶接不良の発生や当該溶接部位の周囲に与える熱的影響を回避することができる。
【0016】
さらにまた、前記走査速度の可変制御として、前記被溶接物の厚み方向に直交する平面方向への拡がりが相対的に大きい前記溶接部位における前記走査速度を、前記拡がりが相対的に小さい前記溶接部位における前記走査速度よりも低速に制御してもよい。
【0017】
そして、このような方法によれば、被溶接物の平面方向への拡がりが大きい溶接部位における走査速度を低速側に制御することによって、当該溶接部位における溶接を適切に行うことができ、一方、前記拡がりが小さい溶接部位における走査速度を高速側に制御することによって、当該溶接部位における溶接を迅速かつ確実に行うことができるとともに、当該溶接部位への過大な入熱による溶接不良の発生や当該溶接部位の周囲に与える熱的影響を回避することができる。
【0018】
また、前記走査速度の可変制御として、前記溶接部位が曲線状に変位する走査区間における前記走査速度を、前記溶接部位が直線状に変位する走査区間における前記走査速度よりも高速に制御してもよい。
【0019】
そして、このような方法によれば、溶接部位が曲線状に変位する走査区間における走査速度を高速側に制御することによって、当該溶接部位における溶接を迅速かつ確実に行うことができるとともに、当該溶接部位への過大な入熱による溶接不良の発生や当該溶接部位の周囲に与える熱的影響を回避することができ、一方、溶接部位が直線状に変位する走査区間における走査速度を低速側に制御することによって、当該溶接部位における溶接を適切に行うことができる。
【0020】
さらに、前記走査速度の可変制御として、第1の溶接部位に対する溶接進行側に配置されるとともに、前記第1の溶接部位との間に間隙部を挟むようにして前記第1の溶接部位の近傍に配置された第2の前記溶接部位における前記走査速度を、前記第2の溶接部位以外の前記溶接部位における前記走査速度よりも高速に制御してもよい。
【0021】
そして、このような方法によれば、第2の溶接部位における走査速度を高速側に制御することによって、第2の溶接部位における溶接を迅速かつ確実に行うことができるとともに、第2の溶接部位への過大な入熱による溶接不良の発生や第2の溶接部位の周囲に与える熱的影響を回避することができ、一方、第2の溶接部位以外の溶接部位における走査速度を低速側に制御することによって、当該溶接部位における溶接を適切に行うことができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、溶接仕上がりが良好なレーザシーム溶接を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明に係るレーザ溶接方法の実施形態において、レーザ溶接方法を実施するための手段の一例としてのファイバレーザ装置を示す概略構成図
【図2】図1のファイバレーザ装置の部分詳細図
【図3】本発明に係るレーザ溶接方法の実施形態において、第1の具体例および第2の具体例の説明に用いる被溶接物の平面図
【図4】図3のA−A断面図
【図5】本発明に係るレーザ溶接方法の実施形態において、第3の具体例の説明に用いる被溶接物の平面図
【図6】本発明に係るレーザ溶接方法の実施形態において、第4の具体例の説明に用いる被溶接物の平面図
【図7】本発明に係るレーザ溶接方法の実施形態において、第5の具体例の説明に用いる被溶接物の概略平面図
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明に係るレーザ溶接方法の実施形態について、図1乃至図7を参照して説明する。
【0025】
図1は、本実施形態におけるレーザ溶接方法を実施する手段の一例としてのファイバレーザ装置1を示している。
【0026】
図1に示すように、ファイバレーザ装置1は、ファイバレーザ発振器2を有している。このファイバレーザ発振器2は、図示はしないが、レーザダイオード、発振用の光ファイバおよびこの光ファイバの両端側に配置された反射/透過光学系等によって構成されている。また、発振用の光ファイバは、そのコア内に希土類元素のイオンがドープされている。この光ファイバは、いわゆるダブルクラッドファイバであってもよい。さらに、反射/透過光学系は、ハーフミラー等からなる光学ミラー系、コアの両端に埋設された回折格子(FBG:Fiber Bragg Grating)、または光ファイバの端面に誘電体多層膜を形成する構成であってもよい。さらにまた、ファイバレーザ発振器2は、必要に応じて、レンズやビームスプリッタ等の光学系を備えてもよい。
【0027】
ここで、ファイバレーザ発振器2においては、発振用の光ファイバがレーザ媒質として機能するようになっている。すなわち、レーザダイオードから励起光が出射されると、この励起光は、入射側の反射/透過光学系を透過して発振用の光ファイバのコア内に導入された上で、このコア内を伝送される過程でコアにドープされた希土類元素イオンを光励起する。その後は、励起光が出射側および入射側の反射/透過光学系によって順次反射されてコア内を往復することによって光増幅が行われ、増幅光の一部が、ファイバレーザ光として出射側の反射/透過光学系を透過してファイバレーザ発振器2の外部に出射される。
【0028】
本実施形態において、ファイバレーザ発振器2は、ファイバレーザ光としてCWレーザ光を出射するようになっている。
【0029】
また、図1に示すように、ファイバレーザ発振器2に対するCWレーザ光の出射側の位置には、不図示の集光レンズを備えた入射ユニット3が配置されており、この入射ユニット3には、ファイバレーザ発振器2から出射されたCWレーザ光が入射するようになっている。そして、入射ユニット3は、入射したCWレーザ光を集光して出射するようになっている。なお、入射ユニット3は、必要に応じて設ければよい。
【0030】
さらに、図1に示すように、入射ユニット3の出射端には、伝送用の光ファイバ5がその入射端を介して連結されており、この光ファイバ5の入射端には、入射ユニット3から出射されたCWレーザ光が入射するようになっている。そして、光ファイバ5に入射したCWレーザ光は、光ファイバ5の出射端に向かってコア内を伝送されるようになっている。
【0031】
そして、図1に示すように、光ファイバ5の出射端には、ガルバノメータ・スキャナ6が連結されている。
【0032】
ここで、ガルバノメータ・スキャナ6の具体的な構成例を図2に示す。
【0033】
図2に示すように、ガルバノメータ・スキャナ6は、互いに直交する回転軸7X,7Yにそれぞれ取り付けられたX軸スキャン・ミラー8XおよびY軸スキャン・ミラー8Yと、両ミラー8X,8Yをそれぞれ回動(首振り)させるX軸ガルバノメータ10XおよびY軸ガルバノメータ10Yとを有している。なお、図2において、X軸スキャン・ミラー8XとY軸スキャン・ミラー8Yとの位置関係は、Y軸スキャン・ミラー8Yが、X軸スキャン・ミラー8Xに対してCWレーザ光の進行側となっている。
【0034】
ここで、X軸ガルバノメータ10Xは、例えば、X軸スキャン・ミラー8Xに結合された可動鉄片(回転子)と、この可動鉄片に接続された制御バネと、固定子に取り付けられた駆動コイルとを有しており、X方向スキャニング制御信号に応じた駆動電流が電気ケーブル14Xを介して当該駆動コイルに供給されるようになっている。そして、当該駆動電流の供給によって、当該可動鉄片が、当該制御バネに抗するようにしてX方向スキャニング制御信号の指定する角度でX軸スキャン・ミラー8Xと一体的に振れるようになっている。
【0035】
また、Y軸ガルバノメータ10Yも同様の構成を有しており、Y方向スキャニング制御信号に応じた駆動電流が電気ケーブル14Yを介してY軸ガルバノメータ10Y内の駆動コイルに供給され、Y軸ガルバノメータ10Y内の可動鉄片(回転子)が、Y方向スキャニング制御信号の指定する角度でY軸スキャン・ミラー8Yと一体的に振れるようになっている。
【0036】
さらに、図2に示すように、ファイバレーザ装置1は、光ファイバ5の出射端とX軸スキャン・ミラー8Xとの間の光路上に配置されたコリメーションレンズ11と、Y軸スキャン・ミラー8Yに対するCWレーザ光の進行側の位置に配置されたfθレンズ12とを有している。
【0037】
このようなガルバノメータ・スキャナ6においては、光ファイバ5から出射されたCWレーザ光が、コリメーションレンズ11によってコリメートされた上でX軸スキャン・ミラー8Xに入射する。次いで、X軸スキャン・ミラー8Xに入射したCWレーザ光は、X軸スキャン・ミラー8Xによって全反射されてY軸スキャン・ミラー8Yに入射する。次いで、Y軸スキャン・ミラー8Yに入射したCWレーザ光は、Y軸スキャン・ミラー8Yによって全反射されてfθレンズ12に入射する。次いで、fθレンズ12に入射したCWレーザ光は、fθレンズ12によって集光された上で被溶接物上の溶接を行うべき溶接部位(図1および図2におけるP)に照射される。
【0038】
このとき、溶接部位の位置のX方向成分についてはX軸スキャン・ミラー8Xの振れ角によって決定され、Y方向成分についてはY軸スキャン・ミラー8Yの振れ角によって決定される。また、溶接部位の変位(移動)速度すなわちCWレーザ光の走査速度は、X方向の成分についてはX軸スキャン・ミラー8Xの回転速度によって決定され、Y方向の成分についてはY軸スキャン・ミラー8Yの回転速度によって決定される。このようにして、ガルバノメータ・スキャナ6によるCWレーザ光の走査が行われることになる。
【0039】
図1に戻って、ファイバレーザ装置1は、コントローラ(制御部)17を有しており、このコントローラ17には、ファイバレーザ発振器2およびガルバノメータ・スキャナ6がそれぞれ接続されている。コントローラ17は、ファイバレーザ発振器2のレーザダイオードに不図示の電源部を介して励起電流を印加することによって、レーザダイオードを駆動制御するようになっている。ただし、コントローラ17は、ファイバレーザ発振器2によってCWレーザ光が出射されるように励起電流の電流値および波形を制御するようになっている。また、コントローラ17は、ガルバノメータ・スキャナ6に対して、電気ケーブル14X,14Yを介してX方向スキャニング制御信号およびY方向スキャニング制御信号を入力することによって、ガルバノメータ・スキャナ6を駆動制御するようになっている。 なお、コントローラ17は、ファイバレーザ発振器2の制御部とガルバノメータ・スキャナ6の制御部とが個別に設けられたものであってもよいし、または、これらが一体に形成されたものであってもよい。
【0040】
そして、本実施形態においては、例えば、このようなファイバレーザ装置1を用いることによって、被溶接物上の連続した溶接部位(溶接部位群)に、これらの溶接部位に沿ってレーザ光を順次照射することによって、被溶接物を連続的に溶接(レーザシーム溶接)する。なお、本実施形態におけるレーザ溶接方法は、複数の被溶接物同士を溶接する場合に適用してもよいし、または、単一の被溶接物を例えば折り曲げる等した上で、当該単一の被溶接物の異なる部位同士を溶接する場合に適用してもよい。
【0041】
また、このレーザシーム溶接の際には、レーザ光としてのCWレーザ光を、ガルバノメータ・スキャナ6を用いて溶接部位に沿って走査する。
【0042】
さらに、このとき、CWレーザ光の出力を一定に制御しつつ、CWレーザ光の走査速度を、溶接部位の変位や溶接条件の違いに応じて可変制御する。具体的には、溶接部位群のパターンの違い、溶接部位の厚みの違いまたは溶接部位近傍における被溶接物の平面積の違い等による熱伝導性の差や、溶接開始時の被溶接物の溶融性等によって走査速度を変化させる。なお、熱伝導性は、溶接部位における熱の逃げ易さと同義である。また、前述のように、CWレーザ光の出力は一定に制御されるが、この制御は、コントローラ17による励起電流の電流値および波形の制御によって実現することができる。さらに、CWレーザ光の走査速度の可変制御は、X方向スキャニング制御信号およびY方向スキャニング制御信号が指示する振れ角および回転速度を溶接部位に応じて適宜変更することによって実現することができる。
【0043】
なお、本実施形態に係るレーザ溶接方法は、例えばアルミニウムを材料とした容器の封止溶接に好適に用いることができる。この場合の可変制御による走査速度の変動幅は、例えば100〜300mm/sの範囲内とすることができる。
【0044】
また、CWレーザ光の出力(すなわち、ファイバレーザ装置1の出力)は、例えば1〜4kWとすることができ、好ましくはファイバレーザ装置1の最大出力に制御することが望ましい。
【0045】
次に、このようなCWレーザ光の走査速度の可変制御の具体例について説明する。
【0046】
(第1の具体例)
第1の具体例においては、CWレーザ光の走査速度の可変制御として、溶接開始時の溶接部位における走査速度を、溶接開始時の溶接部位に対する溶接進行側の溶接部位における走査速度よりも低速に制御する。
【0047】
ここで、例えば、図3および図4に示すように、複数の被溶接物の一例として、開口部20が形成された箱状の第1の被溶接物21における開口部20に、板状の第2の被溶接物22をその周端部を介して内接させた状態で、両被溶接物21,22をCWレーザを用いてレーザシーム溶接する場合を考える。
【0048】
なお、図3においては、第1の被溶接物21の開口部20上および第2の被溶接物22の周端部上に、連続した(周状の)一群の溶接部位がとられることになる。なお、第1の被溶接物21は、アルミニウム製の電池外装缶であってもよく、また、第2の被溶接物22は、アルミニウム製の電池蓋板であってもよい。
【0049】
図3に示すように、本具体例においては、符号Pで示される溶接開始時の溶接部位から溶接を開始し、溶接部位が連続する図3に矢印で示す溶接進行方向にCWレーザ光を走査することによってシーム溶接を行う。
【0050】
図3および図4の両被溶接物21,22同士のレーザシーム溶接に本具体例を適用する場合には、まず、図3に示すように、溶接開始時の溶接部位Pにおいては、CWレーザ光の走査速度を、低速側の所定速度に制御する。ここで、溶接開始時の溶接部位Pでは、被溶接物21,22にCWレーザ光が吸収され難いため、すぐには溶融しない。そのため、走査速度を低速にしてCWレーザ光を吸収し易くする。
【0051】
その後、被溶接物21 ,22にCWレーザ光が吸収されると、被溶接物21,22が溶融し始める。溶融が始まればCWレーザ光が吸収され易くなるので、例えば、図3に符号Pで示す溶接開始時の溶接部位Pに対する溶接進行側の溶接部位Pにおいては、CWレーザ光の走査速度を、溶接部位Pにおける走査速度よりも高速の所定速度に制御する。
【0052】
なお、溶接進行側の溶接部位Pは、溶接の進行にともなって当然に変位するが、溶接部位Pの変位にともなって、各溶接部位Pに対応する走査速度を連続的または段階的に増加してもよい。また、走査速度の高低の切り替えは、可能な限りゆるやかに行うことが望ましい。
【0053】
本具体例によれば、被溶接物21,22が溶融し始めるまではCWレーザ光の走査速度を低速に制御することができるので、溶接開始時における溶接を適切に行うことができる。
【0054】
(第2の具体例)
次に、第2の具体例においては、CWレーザ光の走査速度の可変制御として、厚みが相対的に厚い溶接部位における走査速度を、厚みが相対的に薄い溶接部位における走査速度よりも低速に制御する。
【0055】
ここで、図3および図4に示した第1の被溶接物21と第2の被溶接物22とのレーザシーム溶接に、第1の具体例に代わって本具体例を適用する場合を考える。
【0056】
ただし、本具体例においては、溶接開始時の溶接部位Pにおける第2の被溶接物22の厚みが、溶接進行側の溶接部位Pにおける第2の被溶接物22の厚みよりも厚いものとする。
【0057】
このような前提で、本具体例においては、溶接開始時の溶接部位Pにおいては、CWレーザ光の走査速度を、当該溶接部位Pにおける第2の被溶接物22の厚みに応じた低速側の所定速度に制御する。
【0058】
これに対して、溶接進行側の溶接部位Pにおいては、CWレーザ光の走査速度を、溶接開始時の溶接部位Pにおける走査速度よりも高速の溶接部位Pにおける第2の被溶接物22の厚みに応じた所定速度に制御する。
【0059】
なお、第2の被溶接物22の厚みが3段階以上に亘る場合にも、各段階の厚みに対応する各溶接部位におけるCWレーザ光の走査速度を、各厚みに応じた所定速度に制御すればよい。また、本具体例においても、走査速度の高低の切り替えは、可能な限りゆるやかに行うことが望ましい。
【0060】
本具体例によれば、厚みが厚い溶接部位にCWレーザ光を照射する際には、この溶接部位が熱伝導によって熱が逃げ易い溶融し難い位置であるため、この溶接部位に対応する走査速度を熱が逃げ易いこと(熱伝導性)に適合するように低速側に制御することにより、当該溶接部位に十分な溶融エネルギを付与することができる。これにより、当該溶接部位における溶接を適切に行うことができる。
【0061】
一方、厚みが薄い溶接部位にCWレーザ光を照射する際には、この溶接部位が熱伝導によって熱が逃げ難い溶融し易い位置であるため、この溶接部位に対応する走査速度を熱が逃げ難いこと(熱伝導性)に適合するように高速側に制御することにより、溶接を迅速かつ確実に行うことができるとともに、当該溶接部位への過大な入熱による溶接不良の発生や当該溶接部位の周囲(例えば、電池内部)に与える熱的影響を回避することができる。
【0062】
(第3の具体例)
次に、第3の具体例においては、CWレーザ光の走査速度の可変制御として、被溶接物の厚み方向に直交する平面方向への拡がりが相対的に大きい溶接部位における走査速度を、前記拡がりが相対的に小さい溶接部位における走査速度よりも低速に制御する。
【0063】
ここで、図5に示すように、開口部20における短い直線部分上にとられた溶接部位Pと開口部20における長い直線部分上にとられた溶接部位Pとでは、溶接部位P,Pの近傍(周辺)の被溶接物21,22の平面積が異なる。具体的には、溶接部位Pにおける平面積の方が、溶接部位Pにおける平面積よりも大きい。したがって、溶接部位Pにおける被溶接物21,22の平面方向への拡がりの方が、溶接部位Pにおける当該平面方向への拡がりよりも大きいことになる。
【0064】
このような前提で、本具体例においては、溶接部位PにおけるCWレーザ光の走査速度を、溶接部位Pにおける被溶接物21,22の平面方向への拡がりに応じた低速側の所定速度に制御する。
【0065】
これに対して、溶接部位PにおけるCWレーザ光の走査速度を、溶接部位Pにおける走査速度よりも高速の溶接部位Pにおける被溶接物21,22の平面方向への拡がりに応じた所定速度に制御する。
【0066】
本具体例によれば、被溶接物の平面方向への拡がりが大きい溶接部位においては、この溶接部位が熱伝導によって熱が逃げ易い溶融し難い位置であるため、この溶接部位に対応する走査速度を熱が逃げ易いことに適合するように低速側に制御することにより、当該溶接部位に十分な溶融エネルギを付与することができる。この結果、当該溶接部位における溶接を適切に行うことができる。
【0067】
一方、被溶接物の平面方向への拡がりが小さい溶接部位にCWレーザ光を照射する際には、この溶接部位が熱伝導によって熱が逃げ難い溶融し易い位置であるため、この溶接部位に対応する走査速度を熱が逃げ難いことに適合するように高速側に制御することにより、溶接を迅速かつ確実に行うことができるとともに、当該溶接部位への過大な入熱による溶接不良の発生や当該溶接部位の周囲に与える熱的影響を回避することができる。
【0068】
(第4の具体例)
次に、第4の具体例においては、CWレーザ光の走査速度の可変制御として、溶接部位が曲線状に変位する走査区間における走査速度を、溶接部位が直線状に変位する走査区間における走査速度よりも高速に制御する。
【0069】
ここで、図6に示すように、開口部20および第2の被溶接物22の角部に該当する溶接部位Pにおいては、溶接部位の平面形状が円弧状になっているため、この溶接部位Pは、溶接部位が曲線状に変位する走査区間に属する。一方、図示のとおり、角部に該当しない溶接部位Pは、溶接部位が直線状に変位する走査区間に属する。
【0070】
このような前提で、本具体例においては、角部に該当しない溶接部位Pにおいては、CWレーザ光の走査速度を、低速側の所定速度に制御する。
【0071】
これに対して、角部に該当する溶接部位Pにおいては、CWレーザ光の走査速度を、角部に該当しない溶接部位Pにおける走査速度よりも高速の所定速度に制御する。
【0072】
本具体例によれば、溶接部位が曲線状に変位する走査区間においては、走査速度を高速側に制御する。このような走査区間に属する溶接部位は、熱が逃げ難く直前の溶接部位の溶接による熱の影響を受け易い部位である。そのため、この溶接部位における走査速度を高速側に制御することにより、溶接を迅速かつ確実に行うことができるとともに、当該溶接部位への過大な入熱による溶接不良の発生や当該溶接部位の周囲に与える熱的影響を回避することができる。
【0073】
一方、溶接部位が直線状に変位する走査区間においては、走査速度を低速側に制御する。このような走査区間に属する溶接部位は、熱が逃げ易く直前の溶接部位の溶接による熱の影響を受け難い部位であるため、この溶接部位に対応する走査速度を低速側に制御して溶接を適切に行うことができる。
【0074】
(第5の具体例)
次に、第5の具体例においては、CWレーザ光の走査速度の可変制御として、第1の溶接部位に対する溶接進行側に配置されるとともに、第1の溶接部位との間に間隙部(例えば、図7における符号G)を挟むようにして第1の溶接部位の近傍に配置された第2の溶接部位における走査速度を、第2の溶接部位以外の溶接部位における走査速度よりも高速に制御する。ただし、第1の溶接部位は、任意の溶接部位である。
【0075】
ここで、図3および図4に示したものとは異なるが、本具体例は、例えば、図7に示すように、第2の被溶接物22の外周端部の一部22aが第1の被溶接物21の開口部20側に突出されており、この突出部22aに対応する開口部20上の部位が凹入されている場合に適用することができる。
【0076】
すなわち、図7においては、突出部22aの溶接進行方向における上流端および下流端に該当する溶接部位が、それぞれ第1の溶接部位P1stおよび第2の溶接部位P2ndとなっている。図7においては、第2の溶接部位P2nd以外の溶接部位においては、CWレーザ光の走査速度を低速側の所定速度に制御し、第2の溶接部位P2ndにおいては、CWレーザ光の走査速度を高速側の所定速度に制御すればよい。
【0077】
本具体例によれば、第2の溶接部位P2ndにCWレーザ光を照射する際には、この溶接部位P2ndが第1の溶接部位P1stへのCWレーザ光の照射による熱の影響を受け易い高温の溶融し易い位置であるため、この第2の溶接部位P2ndに対応する走査速度を高温に適合するように高速側に制御することにより、溶接を迅速かつ確実に行うことができるとともに、第2の溶接部位P2ndへの過大な入熱による溶接不良の発生や第2の溶接部位の周囲に与える熱的影響を回避することができる。
【0078】
一方、第2の溶接部位P2nd以外の溶接部位にCWレーザ光を照射する際には、当該溶接部位が第2の溶接部位P2ndに比べて比較的低温であるため、当該溶接部位に対応する走査速度を低温に適合するように低速側に制御して溶接を適切に行うことができる。
【0079】
なお、溶接部位が第2の溶接部位に該当するか否かの判断基準となる第1の溶接部位からの離間距離の上限については、コンセプトに応じて好適な値を設定することができる。
【0080】
以上の第1〜第5の具体例において本願発明の実施態様を説明したが、本願発明においては、第1〜第5の具体例を必要に応じて組み合わせて実施することで、種々の条件において適切なシーム溶接を行うことができる。
【0081】
例えば、第4の具体例においては、溶接部位が直線状に変位する走査区間に対して曲線状に変位する走査区間(角部)における走査速度を高速に制御しているが、第2の具体例のように、直線部と曲線部で被溶接物の厚みが異なる場合には、走査速度の条件が変わる場合がある。具体的には、直線部の厚みに対して曲線部の厚みが厚い場合、第4の具体例とは逆に、溶接部位が直線状に変位する走査区間に対して曲線状に変位する走査区間(角部)における走査速度を低速に制御することが考えられる。
【0082】
なお、本発明は、前述した実施の形態に限定されるものではなく、必要に応じて種々変更することができる。
【符号の説明】
【0083】
6 ガルバノメータ・スキャナ
21 第1の被溶接物
22 第2の被溶接物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被溶接物上の連続した溶接部位に、当該溶接部位に沿ってガルバノメータ・スキャナを用いてレーザ光を順次照射することによって、前記被溶接物を連続的に溶接するレーザ溶接方法であって、
前記レーザ光は連続発振のCWレーザ光であり、該CWレーザ光の出力を一定に制御しつつ、前記CWレーザ光の走査速度を可変制御すること
を特徴とするレーザ溶接方法。
【請求項2】
前記走査速度の可変制御として、溶接開始時の前記溶接部位における前記走査速度を、前記溶接開始時の前記溶接部位に対する溶接進行側の前記溶接部位における前記走査速度よりも低速に制御すること
を特徴とする請求項1に記載のレーザ溶接方法。
【請求項3】
前記走査速度の可変制御として、厚みが相対的に厚い前記溶接部位における前記走査速度を、厚みが相対的に薄い前記溶接部位における前記走査速度よりも低速に制御すること
を特徴とする請求項1に記載のレーザ溶接方法。
【請求項4】
前記走査速度の可変制御として、前記被溶接物の厚み方向に直交する平面方向への拡がりが相対的に大きい前記溶接部位における前記走査速度を、前記拡がりが相対的に小さい前記溶接部位における前記走査速度よりも低速に制御すること
を特徴とする請求項1に記載のレーザ溶接方法。
【請求項5】
前記走査速度の可変制御として、前記溶接部位が曲線状に変位する走査区間における前記走査速度を、前記溶接部位が直線状に変位する走査区間における前記走査速度よりも高速に制御すること
を特徴とする請求項1に記載のレーザ溶接方法。
【請求項6】
前記走査速度の可変制御として、第1の溶接部位に対する溶接進行側に配置されるとともに、前記第1の溶接部位との間に間隙部を挟むようにして前記第1の溶接部位の近傍に配置された第2の前記溶接部位における前記走査速度を、前記第2の溶接部位以外の前記溶接部位における前記走査速度よりも高速に制御すること
を特徴とする請求項1に記載のレーザ溶接方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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