説明

レーザ溶接用アルミニウム又はアルミニウム合金部材

【課題】レーザ溶接によりアルミニウム合金等部材同士におけるレーザ溶接のレーザ溶接性を向上させる。
【解決手段】アルミニウム合金等の母材2の溶接面3に、アルミニウムよりレーザ吸収率が高く、アルミニウムより蒸気圧が低く、アルミニウムより沸点が高く、且つその膜厚が0.1μm以上とするレーザ吸収被膜4を形成することで、レーザ溶接により該レーザ吸収被膜4が母材2の沸点以上の高温状態になるとともに、レーザ吸収被膜4は母材2へ熱伝導を十分に行うので、アルミニウム合金等の母材は確実に溶融し、母材の溶接面に高強度の接合部を形成することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、レーザ溶接におけるレーザ吸収率を高めてレーザ溶接性を向上させるアルミニウム又はアルミニウム合金(以下、「アルミニウム合金等」とする。)部材に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、航空機、車両、及び電気電子機器部品等には、軽量であって、且つ加工性に優れているアルミニウム合金等部材が多く用いられている。そして、前記アルミニウム合金等部材の接合には、高精度であって、且つ高速度で加工処理が行えるレーザ溶接が用いられる。そのため、例えば電気電子機器部品の表示部やモーター等の電源に使用されているリチウム電池では、板状のアルミニウム合金等部材をケース本体に加工後、その内部に電池用部材を組み込んだ上で、内部を密閉するためにアルミニウム合金等部材による蓋をレーザ溶接により接合している。
【0003】
ところで、上記密閉型電池では、耐衝撃性を考慮してケース本体にはアルミニウム合金規格のうち比較的強度の高いJIS A3003合金(アルミニウム−マンガン系合金)や、更にこれにマグネシウムを添加して、より強度の高いアルミニウム合金を使用することが提案されている(特許文献1参照)。
【0004】
そして、上記電池のケース本体では軽量化のため薄肉化が図られているが、電池全体としての強度の確保は必要である。そのため、電池を構成するケース本体と蓋との間でも、内部の密閉性を十分に確保できるように高強度の接合部を形成することが要求されるものである。ところが、アルミニウム合金等部材は、レーザ溶接の反射率が高く、レーザ溶接性が低いため高強度の接合部を形成することは容易ではなかった。
そこで、レーザ溶接性の向上を目的としたアルミニウム合金が提案されている(特許文献2及び3参照)。前記レーザ溶接性の向上を目的としたアルミニウム合金はレーザ溶接性が向上して高強度の接合部を形成することができるが、含有する元素やその含有率によっては、例えば上記電池のケース本体や蓋となるアルミニウム合金として必要とされる機械的特性が低下し、最悪失われてしまう恐れがある。
【0005】
そこで、アルミニウム合金等の有する機械的特性を失うことなくレーザ溶接性を向上させ、高強度の接合部を形成することができるように、アルミニウム合金等部材の溶接面にレーザ吸収率の高い亜鉛メッキ層を形成してなるものが提案されている(特許文献4参照)。しかしながら、該アルミニウム合金等部材の溶接面の亜鉛メッキ層に含有される亜鉛はアルミニウムよりも沸点が低いので、レーザ溶接中にアルミニウム合金等部材の接合部においてポロシティ等の欠陥が生じ易く、この欠陥は、密閉性が特に要求される密閉型電池では好ましいものではない。
なお、アルミニウム合金等部材が有する機械的特性を変化させない範囲内で、上述の亜鉛に代表されるレーザ溶接でのレーザ吸収率を高める物質を添加することによってレーザ溶接性を向上させようとすると、アルミニウム合金等中では前記物質は均質化し溶接面に集中させることができないので、レーザ吸収率を高めてレーザ溶接性を向上させることは困難である。
【特許文献1】特開2000−336448号公報
【特許文献2】特開2003−3226号公報
【特許文献3】特開2006−104580号公報
【特許文献4】特公平7−65193号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本願発明は、アルミニウム合金等部材同士のレーザ溶接において、レーザ吸収率を高めることでアルミニウム合金等部材の溶接面を確実に溶融させて、高強度の接合部を形成できるようにする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本願発明は、第1の特徴として、アルミニウム又はアルミニウム合金の母材の溶接面に、アルミニウムよりレーザ吸収率が高く、アルミニウムより蒸気圧が低く、アルミニウムより沸点が高く、且つその膜厚が0.1μm以上とするレーザ吸収被膜を形成するものである。
【0008】
以上のように、アルミニウム合金等の母材の溶接面に、上記レーザ吸収被膜を形成することで、該レーザ吸収被膜はレーザ溶接のレーザビームを吸収して母材のアルミニウム合金等の沸点以上の高温となる。そして、該レーザ吸収被膜は母材と比較してすぐには蒸発しないので、該母材へ熱伝導を十分に行うことができる。その結果、母材の溶接面は確実に溶融して、該レーザ吸収被膜片をその中に固溶させながら高強度の接合部を形成することができる。
更に、レーザ吸収被膜の膜厚を0.1μm以上とすることで、該レーザ吸収被膜がレーザ溶接のレーザビームを吸収して母材のアルミニウム合金等の沸点以上の高温となる。そして、該レーザ吸収被膜はすぐに蒸発することはないので、母材へ熱伝導を行えるだけの時間高温状態を保つものである。その結果、母材の溶接面は確実に溶融し、該レーザ吸収被膜片をその中に固溶させながら高強度の接合部を形成することができる。
なお前記レーザ吸収被膜の膜厚が0.1μm未満であると、該レーザ吸収被膜の膜厚が薄すぎてレーザ溶接の熱で瞬時に蒸発して高温状態を保てず、母材が露出してしまいレーザ吸収率は低下する。その結果、母材の溶接面は十分に溶融せず、高強度の接合部を形成することができない。またレーザ吸収被膜の膜厚は厚いほど高強度の接合部の形成につながるものであるが、20μmを超えると母材の溶接面における該レーザ吸収被膜の形成作業に時間とコストがかかり、最終製品における費用対効果が釣り合わないものとなる。そのため、該レーザ吸収被膜の膜厚は、20μm以下とすることが好ましい。
【0009】
更に、第1の特徴を踏まえて、上記レーザ吸収被膜を、チタン、バナジウム、クロム、鉄、コバルト、ニッケル、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、パラジウム、セリウム、ネオジム、ハフニウム、タンタル、タングステン、イリジウム、白金のうち少なくとも1種以上の金属から形成するものである。
【0010】
以上のように、上記レーザ吸収被膜を少なくとも上記金属のうち一種以上の金属からなるものとすることで、該レーザ吸収被膜がレーザ溶接のレーザビームを吸収することで確実に母材のアルミニウム合金等の沸点以上の高温となって、該レーザ吸収被膜は母材へ熱伝導を十分に行うことができる。その結果、アルミニウム合金等の母材の溶接面は確実に溶融し、該レーザ吸収被膜片をその中に固溶させながら高強度の接合部を形成することができる。
【0011】
また、第1の特徴及び第2の特徴を踏まえて、上記レーザ吸収被膜は、めっき、化成処理、蒸着、スパッタリング、イオンプレーティング、クラッド圧延のうちいずれかの方法により形成してなるものである。
【0012】
以上のように、レーザ吸収被膜を上記いずれかの方法により形成することで、該レーザ吸収被膜を母材の必要な位置において、必要且つ均一な膜厚のレーザ吸収被膜を形成することができる。そのため、上記レーザ吸収被膜がレーザ溶接のレーザビームを吸収することで確実に必要な位置で、且つ均一にアルミニウム合金等の沸点以上の高温となる。そして、該レーザ吸収被膜は母材へ熱伝導を十分に行うことができる。その結果、母材の溶接面は確実に溶融し、該レーザ吸収被膜片をその中に固溶させながら必要な位置に必要なだけの高強度の接合部を形成することができる。
【発明の効果】
【0013】
本願発明は、アルミニウム合金等の母材の溶接面におけるレーザ吸収被膜はレーザ溶接のレーザビームを吸収して高温になるとともに、該レーザ吸収被膜はアルミニウム合金等の母材へ熱伝導を十分に行い、その結果、該アルミニウム合金等の母材の溶接面は確実に溶融し、該レーザ吸収被膜片をその中に固溶させながら高強度の接合部を形成するので、アルミニウム合金等部材におけるレーザ溶接の溶接性や最終製品の品質を向上させることができる優れた効果を有するものである。
【0014】
以下において、本願発明の実施例について説明する。
なお、この実施例は、本願発明の好ましい一実施態様を説明するためのものであって、これにより本願発明が制限されるものでない。
【実施例】
【0015】
本願発明の実施例を説明する。
まず、本願発明の実施例では、JIS A1050アルミニウム合金の0.8mm板厚材を母材2として使用した。そして該母材2の溶接面3をアセトンで脱脂した後、0.01torrの真空中で該表面に5mAの電気を通電しながら鉄又はチタンを蒸着させてレーザ吸収被膜4を形成し、本願発明の実施例であるアルミニウム合金等部材の試料1とした(図1参照)。その上で、試料1である該アルミニウム合金等部材の試料1同士を、ピーク出力1.7kw、周波数120HzのYAGパルスレーザを用いて突き合わせ接合した。即ち、上記試料1同士の溶接面3に対して前記レーザを照射すると、該溶接面3のレーザ吸収被膜4はレーザビームを吸収して母材2の沸点以上の高温状態となって、母材2へ十分な熱伝導を行うものである。その結果、溶接面3は確実に溶融して、レーザ吸収被膜4のレーザ吸収被膜片4’をその中に固溶させながら高強度の接合部5を形成することができる(図2参照)。
なお、試料1の接合部5の強度の評価は、溶接面3にレーザ吸収被膜4の形成しない前記母材2同士の接合部5の破断強度を1として各々相対強度を評価し、その相対強度が1.5以上である場合を合格(○)、1.5未満である場合を不合格(×)とした。
以上の結果、表1において示すように、鉄及びチタンいずれの場合でも、レーザ吸収被膜4の膜厚が0.1〜10μmでは、レーザ吸収被膜4の膜厚の増加に対して母材2の溶け込みも深くなり、接合部5の破断強度は著しく向上することが確認された。そして、該レーザ吸収被膜4の膜厚が10μmを超えると、レーザ吸収被膜4の膜厚が0.1〜10μmの場合と比べて、レーザ吸収被膜4の膜厚の増加に対する母材2の溶け込みはそれほど深くはならず、接合部5の破断強度は緩やかに向上することが確認された。
【0016】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0017】
本願発明は、アルミニウム合金等部材同士のレーザ溶接を行う際に広く適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本願発明の実施例であるアルミニウム合金等部材の正面からの模式図である。
【図2】本願発明の実施例であるアルミニウム合金等部材同士をレーザ溶接する際の断面における模式図である。
【符号の説明】
【0019】
1 試料
2 アルミニウム合金等の母材
3 溶接面
4 レーザ吸収被膜
4’ レーザ吸収被膜片
5 接合部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム又はアルミニウム合金の母材の溶接面に、アルミニウムよりレーザ吸収率が高く、アルミニウムより蒸気圧が低く、アルミニウムより沸点が高く、且つその膜厚が0.1μm以上とするレーザ吸収被膜を形成することを特徴とするレーザ溶接用アルミニウム又はアルミニウム合金部材。
【請求項2】
上記レーザ吸収被膜を、チタン、バナジウム、クロム、鉄、コバルト、ニッケル、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、パラジウム、セリウム、ネオジム、ハフニウム、タンタル、タングステン、イリジウム、白金のうち少なくとも1種以上の金属から形成することを特徴とする請求項1記載のレーザ溶接用アルミニウム又はアルミニウム合金部材。
【請求項3】
上記レーザ吸収被膜を、めっき、化成処理、蒸着、スパッタリング、イオンプレーティング、クラッド圧延のうちいずれかの方法により形成してなることを特徴とする請求項1又は2記載のレーザ溶接用アルミニウム又はアルミニウム合金部材。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−274333(P2008−274333A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−117405(P2007−117405)
【出願日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【出願人】(000002277)住友軽金属工業株式会社 (552)
【Fターム(参考)】