説明

レーザ素子

【課題】カスケード接続された夫々の活性領域に印加される電圧を調整可能なレーザ素子を提供する。
【解決手段】利得媒質103と、該利得媒質をその厚さ方向の上下で挟む第一及び第二のクラッドと、前記利得媒質で発生する電磁波を共振させるための共振器構造とを備えたレーザ素子である。そして、前記利得媒質は、電磁波を発生するための複数の活性領域140,160と該活性領域間に挟まれ接続領域150とを有する。前記第一及び第二のクラッドは、前記電磁波に対する誘電率実部が負である負誘電率媒質を夫々含み構成されている。前記領域と前記第一のクラッドとの間、及び、前記領域と前記第二のクラッドとの間には、前記領域の電位を調整するための電位調整手段12を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ素子に関し、より具体的には、活性領域を複数繰り返した構成を持つ量子カスケードレーザ素子に関する。特に、ミリ波帯からテラヘルツ帯まで(30GHz〜30THz)の周波数領域内の周波数帯における量子カスケードレーザ素子に関する。
【背景技術】
【0002】
新しい種類の半導体レーザとして、量子カスケードレーザと名付けられた伝導帯或いは価電子帯の同一エネルギー帯内におけるキャリアのサブバンド間遷移に基づく半導体レーザが知られている。量子カスケードレーザの発振波長は、光学遷移に関する二つのサブバンドのエネルギー間隔に依存するため、広いスペクトル領域(中赤外域からテラヘルツ帯まで)に渡って発振波長を選択できる可能性がある。はじめに、中赤外域の4.2μmに発振波長が選択された構成によって、この様なレーザが実現可能であることが実証された(特許文献1参照)。
【0003】
最近では、生体センシングなどに有用と考えられているテラヘルツ帯の電磁波資源に対する需要もあり、発振波長が中赤外域より長波長側に選択された長波長レーザの開発が行われる様になっている。例えば、テラヘルツ帯における67μm(4.5THz)のレーザ発振が確認された(非特許文献1参照)。また、発振波長における誘電率実部が負の負誘電率媒質を含む表面プラズモン導波路を伴って、更に長波長よりの約100μm(3THz)のレーザ発振が達成されている(非特許文献2参照)。
【0004】
量子カスケードレーザの構成の概要を、後述の本発明の実施例のバンドプロファイルをも示す図である図4を参照しながら以下に説明する。
【0005】
図4(a)は、設計した電界が量子カスケードレーザに印加されたときの伝導帯構造の一部を示している。活性領域440は、例えば、障壁441、443、445と量子井戸442、444、446とから構成されている。これらの構成により、活性領域440においてサブバンド411、412、413が形成されている。緩和領域450は、障壁451、453、455、457と量子井戸452、454、456、458とから構成され、これらの構成により、複数のサブバンドが束ねられたミニバンド421が形成されている。この様な活性領域440と緩和領域450が交互に複数繰り返されるのが量子カスケードレーザの特徴で、図4(a)の活性領域460は次の繰り返しの活性領域を表す。設計した電界がこの量子カスケードレーザに印加されたとき、電流が流れる様子を説明すると以下の様になる。
【0006】
電子は活性領域440においてサブバンド411からサブバンド412へ光学遷移401し、サブバンド411とサブバンド412とのエネルギー間隔に相当する波長の光が放出される。続けて、活性領域440のサブバンド412における電子は光学フォノン散乱402等によってサブバンド413を経由し、サブバンド411とサブバンド412の間の反転分布を確保して、緩和領域450へ抽出される。緩和領域450のミニバンド421を経由した電子は次の活性領域460へ注入され、再び、活性領域440と同じ光学遷移を行う。緩和領域450は次の繰り返しの活性領域へキャリアを注入するため、“injector”と呼ばれ、ここでは、その領域の何れかの量子井戸に僅かにキャリアドープされている。
【特許文献1】特開平08-279647号公報
【非特許文献1】Nature,Vol. 417, 156(2002)
【非特許文献2】Appl.Phys. Lett., Vol. 83, 2124(2003)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の量子カスケードレーザにおいて、カスケード接続された夫々の活性領域に電圧が均一に分配されない可能性があった。すなわち、例えば、図4(b)の様に夫々の活性領域における電界が均一に分配されず、実際が図4(a)の設計とは異なる可能性があった。これは、伝導帯或いは価電子帯の同一エネルギー帯内の多重量子井戸構造における高電界ドメインの形成として知られた現象である(Phys. Rev. B, Vol. 35, 4172(1987)参照)。
【0008】
ここで、高電界ドメインは多重量子井戸構造におけるサブバンドのエネルギー広がりが狭いとき形成されやすいとされている。故に、高電界ドメインの形成は、以下の理由で、長波長レーザにおいて顕著な課題とも言える。つまり、長波長レーザは、光学遷移に関する狭いエネルギー間隔の二つのサブバンドを必要とする。そこで、反転分布のためにはサブバンドのエネルギー広がりは狭く設計されるべきである。しかし、高電界ドメインの形成を抑制するためにはサブバンドのエネルギー広がりは狭く設計されるべきではない。従って、長波長レーザ構造の設計では、以上の様な高電界ドメインの形成の抑制を課題としたトレードオフの関係が伴っている。
【0009】
こうした高電界ドメインの形成は、レーザ発振特性を悪化させてしまうことになる。具体的には、夫々の活性領域において電界強度が異なると、もはや設計された様なキャリア注入が行えず、反転分布密度を低下させることがある。従って、電流注入の効率が悪化して、レーザ発振出力や駆動温度を低下させるに至る可能性がある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係るレーザ素子は、利得媒質と、該利得媒質をその厚さ方向の上下で挟む第一及び第二のクラッドと、前記利得媒質で発生する電磁波を共振させるための共振器構造とを備えたレーザ素子であり、以下の特徴を有する。すなわち、前記利得媒質は、量子井戸と障壁を含み構成され、電磁波を発生するための複数の活性領域と、前記活性領域間に介在し、量子井戸と障壁を含み構成される、該活性領域同士を接続するための接続領域とを有する。そして、前記第一及び第二のクラッドは、前記電磁波に対する誘電率実部が負である負誘電率媒質を夫々含み構成されている。本発明においては、前記接続領域と前記第一のクラッドとの間、及び、前記接続領域と前記第二のクラッドとの間には、前記接続領域の電位を調整するための電位調整手段を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、上記の如き電位調整手段を備えるので、接続された夫々の活性領域に印加される電圧を調整することができる。例えば、夫々の活性領域に印加される電圧を、ほぼ均一に分配することができる。従って、量子カスケードレーザを構成した場合には電流注入効率を向上することができ、それによって、レーザ発振特性(レーザ発振出力や駆動温度)の向上が可能となる。
【0012】
また、本発明によれば、高電界ドメインの形成を抑制するための構造である電位調整手段を、多重量子井戸構造とは別の部分に備えることになる。そのため、サブバンドのエネルギー広がりを狭くすることができて、長波長レーザにおける設計のトレードオフを回避することができる。従って、更なる長波長側の量子カスケードレーザの設計が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に、本発明を実施するための最良の形態について図面を参照して説明する。図1は、本発明を適用できるレーザ素子の一実施形態を示すもので、図1(a)はその構成の電磁波の伝播方向に垂直な断面を表している。
【0014】
本実施形態に係るレーザ素子は、利得媒質103と、該利得媒質をその厚さ方向の上下で挟む第一及び第二のクラッドと、前記利得媒質で発生する電磁波を共振させるための共振器構造とを備えたレーザ素子である。そして、前記利得媒質は、電磁波を発生するための複数の活性領域140、160と、前記活性領域間に介在し、該活性領域同士を接続するための接続領域150とを有する。なお、接続領域150は、レーザ素子内で一つである必要はなく、複数であってもよい。ここでいう接続領域とは、図4(a)の説明において説明した緩和領域を含む概念である。すなわち、接続領域は、キャリアを活性領域に注入するという点では前述の緩和領域と共通する。但し、本発明でいう接続領域には、カスケード接続をするに際して、エネルギー緩和過程を経てキャリア注入する場合と、当該緩和過程を経ないでキャリア注入する場合の両方が含まれる。なお、活性領域も接続領域も、量子井戸と障壁を含み構成される。
【0015】
以下に詳述するが、前記第一及び第二のクラッドは、前記電磁波に対する誘電率実部が負である負誘電率媒質を夫々含み構成されることになる。第一及び第二のクラッドによって、利得媒質に対する導波路が構成されることになる。本発明の主たる特徴は、前記カスケード接続領域150と前記第一のクラッドとの間、及び、前記接続領域と前記第二のクラッドとの間には、前記領域の電位を調整するための電位調整手段を備えていることである。このような構成により、前記接続領域の電位を調整することによって、前記接続領域の両側に夫々隣接する前記活性領域に印加される電圧を調整したり、それらを揃えたりすることが可能となる。
【0016】
以下、当該特徴部分を含め詳述する。
本レーザ素子は、電磁波の伝播方向に沿って伸びる利得媒質103を備える。利得媒質103は、光学遷移を利用して電磁波を放出する複数の活性領域140、160を含む。更に、前記利得媒質には、接続領域150を含む。上述のように当該領域は、例えば、前段の活性領域140からのキャリアの高速なエネルギー緩和を起こさせると共に後段の活性領域160にキャリアを注入することになる。こうした利得媒質103において、接続領域150は量子カスケードレーザにおける緩和領域と同様の配置となる。活性領域140、160と領域150は、電流注入されると全体として正味の利得を有する。
【0017】
また、利得媒質103は、その厚さ方向の上下において、負誘電率媒質101、102で挟まれている。外部から電流注入を行うためには利得媒質103と負誘電率媒質101、102との電気的な接触を図る必要があるが、電気的接点111、112はこのためのものである。負誘電率媒質101と電気的接点111が第一のクラッドを構成し、負誘電率媒質102と電気的接点112が第二のクラッドを構成する。
【0018】
ここで、負誘電率媒質とは、発振されるべき電磁波の周波数領域において負の誘電率実部を有する物質である。ミリ波帯及びテラヘルツ帯の周波数領域においては、キャリアドープした半導体、金属、又はこれらの複数の物質(金属とキャリアドープした半導体)によって構成される。負誘電率媒質は、典型的な場合、導電性材料でもあるので、透明導電膜を選択してもよい。
【0019】
利得媒質103(活性領域140、160と接続領域150)は、典型的には、半導体多層膜構造であるため、電気的接点111、112にはキャリアドープした半導体が選ばれる。この様に電気的接点111、112を選ぶと、負誘電率媒質101、102と電気的接点111、112は、幾何光学的な反射面をなすクラッドとして機能する。従って、この様な第一のクラッド(負誘電率媒質101と電気的接点111)と第二のクラッド(負誘電率媒質102と電気的接点112)によって導かれる電磁波は、回折限界を持たない表面プラズモンが導波モードとして許容される。
【0020】
負誘電率媒質101、102上に夫々形成された電極121、122は図示しない外部電界印加手段に接続される。本実施形態では、更に、接続領域150は、その面内方向である横方向に引き出された引き出し層を有し、電極159と接している。電極121と電極159との間と、電極122と電極159との間には、夫々、抵抗体12による電気抵抗12A、12Bが電気的に接続されている。これらは、外部電界印加によって与えられた電圧を、活性領域140、160の夫々にほぼ均一に分圧するための構造となる。すなわち、この構造は、緩和領域150と前記第一のクラッドとの間と、且つ、接続領域150と前記第二のクラッドとの間とに備えられた接続領域150の電位を調整するための電位調整手段である。尚、図1(a)において、11は転写用基板である。
【0021】
図1(b)は、以上のレーザ素子構成を等価的に表した電気回路を示すものである。本レーザ素子構成における、電極121とほぼ等しい電位を有する第一のクラッド(負誘電率媒質101と電気的接点111)における電圧を図1(b)において、V101と表す。また、電極122とほぼ等しい電位を有する第二のクラッド(負誘電率媒質102と電気的接点112)における電圧を図1(b)において、V102と表す。活性領域140、160は負荷となっており、負荷抵抗を図1(b)において夫々R140、R160と表す。抵抗体12における電気抵抗12A、12Bは夫々R12A、R12Bと表す。
【0022】
接続領域150は、僅かにキャリアドープされている。従って、有限なシート抵抗を有しており、図1(b)においてR150と表されている。本実施形態では、この有限なシート抵抗を介することによって、抵抗体12が以下の様に作用する。接続領域150における電位は、一般には、シート抵抗R150のため場所に依る。図1(b)においては、接続領域105の活性領域140、160に挟まれている部分における電圧をV150、接続領域105の電極159付近の部分における電圧をV150’とする。ここで、アナログ回路技術で知られる様に、次の式1が成立する様にすると、接続領域150における電位はV150’=V150となる。
R140×R12B=R160×R12A (式1)
これは一例ではあるが、抵抗体12における電気抵抗12A、12BによってV150を制御できることを示すものである。
【0023】
また、抵抗体12が式1を満たし、且つ、夫々の電気抵抗12A、12Bが負荷抵抗を無視できる位の次の式2の様に低抵抗となると、抵抗体12を主導としてV150の制御を行える様になる。
R12A<R140、R12B<R160 (式2)
【0024】
更に、抵抗体12における電気抵抗12Aと12BをR12A=R12Bとすると、V150はV102とV101のほぼ中間の電圧となる。よって、外部電界印加によって与えられた電圧は、負荷抵抗R140と負荷抵抗R160に、ほぼ均一に分圧される様になる。こうして、抵抗体12は、利得媒質103における高電界ドメインの形成を抑制する構造となる。
【0025】
図1(a)の利得媒質103は、形式的には活性領域を2回繰り返した構成を示すものとなっている。しかし、同様にして、3回の繰り返しでも、4回の繰り返しでも適用することができ、一般的には、活性領域を複数繰り返した構成にも適用できる。ただし、繰り返しの回数が多いときは、活性領域140を夫々接続する複数個の接続領域150の幾つかのみの電位を制御してもよい。すなわち、一般的には、上記電位調整手段は、少なくとも一つの接続領域において、当該接続領域と前記第一のクラッドとの間と且つ当該接続領域と前記第二のクラッドとの間とに設けられる。
【0026】
活性領域140と接続領域150による繰り返しの一単位は、よく知られたBound-to-Continuum型でもよいし、4-well型、或いは3-well型を用いてもよい。また、活性領域140、160として、共鳴トンネルダイオード(Resonant Tunneling Diode)を用いてもよく、このとき、接続領域150としては、適切な厚みのドープされた半導体層を用いてもよい。また、活性領域は、フォトンアシストトンネル現象を利用した共鳴トンネルダイオードであってもよい。何れにしても、電流注入によってミリ波帯やテラヘルツ帯の周波数領域に電磁波利得を発生する。
【0027】
また、抵抗体12は、本実施形態において抽象化して表されているが、例えば、導電性材料で形成される膜抵抗体を用いるとよい。勿論、これに限ることはなく、チップ抵抗も上記電位調整手段の一手段として考えられる。また、外部電界印加はDCとは限らないため、チップインダクタやチップビーズも上記電位調整手段の一手段として考えられる。すなわち、電位調整手段は、少なくとも一つのカスケード接続領域において、当該接続領域と第一のクラッドとの間と、且つ、当該カスケード接続領域と第二のクラッドとの間とに、DC的又はAC的にこれらの間を接続する様に設けられればよい。しかしながら、モノリシック化という観点では、膜抵抗体が好ましいと言える。ただし、これには、比較的低抵抗な抵抗値を実現しやすい様な導電性材料が好ましく、例えば、半金属(例えば、Bi、グラファイト)や透明性導電膜(例えばITO、ZnOやZnSn)が考えられる。また、poly-Siの様な比較的電気伝導度の高い半導体でもよい。このとき、表面プラズモンの伝播方向(図1(a)における紙面と垂直方向)に、膜抵抗体12が沿って連続していてもよいが、分布させずに集中定数素子状に配置してもよい。好ましくは、表面プラズモンの伝播方向に沿って、発振されるべき電磁波の節となる部分を選び、集中定数素子状に配置すると表面プラズモンに対する損失を抑えることができる。
【0028】
この様なレーザ素子の駆動にあたり、利得媒質103への電流注入と、高電界ドメインの形成を抑制するための抵抗体12を流れる電流を考慮し、十分な駆動能力の外部電界制御手段を利用するとよい。
【0029】
本実施形態によれば、上記の如き電位調整手段を備えるので、接続領域を挟んでカスケード接続された夫々の活性領域に電圧をほぼ均一に分配することができ、レーザ発振特性を向上することが可能となる。
【実施例】
【0030】
更に具体的な構成について、以下の実施例において説明する。
(実施例1)
図2は、本発明を適用できるレーザ素子の実施例1の構成の電磁波の伝播方向に垂直な断面を示すものである。本実施例において、利得媒質203は、量子カスケードレーザで用いられる活性領域240、260を2回繰り返した構成を有する。従って、活性領域240、260間に1個のカスケード接続領域250を有する。これらのバンドプロファイルは、図4(a)に示す通りのBound-to-Continuum型の多重量子井戸構成のものとして設計されている。これらの領域については、GaAs基板上に格子整合するGaAsを井戸層とし、格子整合するAlGaAsや非整合のAlGaAsを障壁層とすることができる。
【0031】
より具体的には、エミッタ側からコレクタ側へ順に、次の半導体多層膜構造を繰り返しの一単位として構成することができる(非特許文献1を参照した)。
AlGaAs4.3nm(441)/GaAs18.8nm(442)/AlGaAs0.8nm(443)/GaAs15.8nm(444)/AlGaAs0.6nm(445)/GaAs11.7nm(446)/AlGaAs2.5nm(451)/GaAs10.3nm(452)/AlGaAs2.9nm(453)/GaAs10.2nm(454)/AlGaAs3.0nm(455)/GaAs10.8nm(456)/AlGaAs3.3nm(457)/GaAs9.9nm(458)
【0032】
このうち、初めから途中の厚さ2.5nmのAlGaAs451までが活性領域240、260であって、途中の厚さ2.5nmのAlGaAs451から最後までが接続領域250である。更に、厚さ10.2nmのn-GaAs454はインジェクタ層と呼ばれる層であって、キャリアドープを行い、4×1016cm‐3程度の軽微な電子濃度とする。他の層は意図的にキャリアドープを行わないアンドープとしておく。
【0033】
本実施例において、引き出し層は、カスケード接続領域250における厚さ10.2nmのn-GaAs層454となる。エミッタから注入されるキャリア(ここでは電子を選んでいる)は、以上の半導体多層膜構造に均一に約3.5kV/cmの電界が印加されたとき、電流密度約1kA/cm2の電流となり、サブバンド間遷移に基づいてテラヘルツ帯の周波数領域で利得を発生する。この様な利得媒質203は、電気的接点を兼ねた負誘電率媒質201、202に挟まれる。利得媒質203の電気的接点201、202としては、例えば、GaAs基板に格子整合するn-GaAs(厚さ200nm)の半導体膜で構成する。ここでは電子濃度を5×1018cm‐3とする。利得媒質203と負誘電率媒質201、202はGaAs基板上に半導体エピタキシャル成長法などで形成され、図2はこうしたエピタキシャル層が転写用基板21上に転写された後の構成を表している。GaAs基板はすでに除去されており、負誘電率媒質201、202は、夫々、Ti/Auなどの電極221、222に接する。
【0034】
ただし、以上はGaAs基板上の構成の一例を示したもので、これに限るものではない。InAs基板上のInAs/AlAsSbやInAs/AlSb、InP基板上のInGaAs/InAlAs、InGaAs/AlAsやInGaAs/AlGaAsSb、Si基板上のSi/SiGeといった半導体多層膜構成も考えられる。Si基板上のSi/SiGeを利用する際は、正孔をキャリアとして利用してもよい。
【0035】
以上の表面プラズモン導波路は、例えば、表面プラズモンの伝播方向に長さ1000μm、横方向に幅20μmとする。また、引き出し層454は横方向に50μm引き出す。このとき、活性領域240、260の負荷抵抗は0.1Ωオーダとなる。抵抗体22は、簡単のため上記式2に従えば、この負荷抵抗よりも低抵抗となるものを用意すればよく、ここでは、例えば、Biを図2の様に表面プラズモン導波路を横切る様にリボン状にして用いる。Biは蒸着法で成膜としたとき、測定によると、比抵抗は約3Ω・μmであった。従って、リボン状のBi膜抵抗体22の厚さを1μm、幅(表面プラズモンの伝播方向の長さ)を3μm以上とすると、次の様になる。すなわち、電極221と引き出し層454上の電極259の間の抵抗値、電極222と電極259の間の抵抗値は何れも等しく0.01Ωオーダかそれ以下となり、式2を満たす様になる。ここで、側壁の保護のためのパッシベーション膜23の膜厚は200nm程度である。こうしたBi膜抵抗体22は、上記実施形態で既に示した様に利得媒質203における高電界ドメインの形成を抑制する構造となる。また、パッシベーション膜23は例えばSiO2、電極259は例えばTi/Auで構成することができる。
【0036】
本実施例のレーザ素子構成は次の作製方法で作製することができる。まず、GaAs基板上に、分子ビームエピタキシー(MBE)法などによって、AlGaAsによるエッチストップ層、n-GaAs層202、GaAs/AlGaAsによる多重量子井戸203、n-InGaAs層201をエピタキシャル成長する。その表面に電極としてTi/Au221を蒸着してから、GaAs基板の研磨を行い120μm程度の厚みにする。次に、1000μm角のチップにへき開して、上記電極221とTi/Au薄膜などを蒸着した転写用基板21上のAu薄膜との間で、圧着によるボンディングを行う。AuSnなどの半田を用いた加熱融着でもよい。アンモニア水と過酸化水素水によりウエットエッチングを行うと、エッチストップ層までGaAs基板だけが選択的に除去される。更にエッチストップ層を除去すると、メサ状のエピタキシャル層が転写用基板21上に転写される形となる。
【0037】
その後、まず上記の様な幅50μmのメサ形状を、下地が露出するまでホトリソグラフィとドライエッチングにて形成する。続いて、同様の工程で、幅20μmのメサ状にエッチングを行い、引き出し層454を露出させる。このとき、精度の良いエッチングのため、in-sutuでエッチング深さを測定できる様にDegilemなどを用いる。ここでは、ウエットエッチングによる選択エッチングを用いてもよい。
【0038】
以上の工程により、共振器構造として1000μmの共振長をもち、その両端がへき開面であるストライプ状の導波路ができる。次に、プラズマCVD法などによりSiO223を成膜した後、側壁を除くメサ状のエピタキシャル層を露出させる。このとき、パターニングによる幅50μm以下のストライプ状に窓開けしてエッチングを行えば、側壁を残すことができる。更に、n-GaAs層202の表面にリフトオフ法によりTi/Au電極222を、接続領域250における引き出し層454の表面にTi/Au電極259を形成する。最後に、リフトオフ法によりBi膜抵抗体22を成膜して上記構成が完成される。こうした量子カスケードレーザに所定の電界が印加されたときに電流が流れる様子は、図4(a)を参照して上述した通りである。
【0039】
また、同様の変形例としては、活性領域の繰り返しが3回以上の複数回の場合に拡張できる。変形例の断面構成を示す図3は、同様にした活性領域340の繰り返しの回数が6回の例である。図3(b)は、図3(a)における利得媒質303の拡大図であって、5個の接続領域350を有している。この変形例では、先に述べた作製工程を少なくするために、全てではなくて2個の接続領域350が引き出されて抵抗体32と接する。これでも、勿論、抵抗体32が付加されていない場合と比べれば、利得媒質303における高電界ドメインの形成を抑制できる構造となる。
【0040】
ここで、接続領域350上の電極359(上側のもの)とクラッド(負誘電率媒質302)上の電極322との間の抵抗体32の抵抗値と、この電極359とクラッド(負誘電率媒質301)上の電極との間の抵抗体32の抵抗値との比は次の様に設定される。すなわち、この緩和領域350と負誘電率媒質302の間には2つの活性領域340があるのに対して、この接続領域350と負誘電率媒質301の間には4つの活性領域340があるので、上記比はほぼ1:2である。同様な理由で、下記の2つの抵抗体32の抵抗値の比も以下のように設定される。接続領域350上の電極359(下側のもの)とクラッド(負誘電率媒質302)上の電極322との間の抵抗体32の抵抗値と、この電極359とクラッド(負誘電率媒質301)上の電極との間の抵抗体32の抵抗値との比は、ほぼ2:1に設定される。こうして、外部電界印加によって与えられた電圧は、接続領域350を挟んで隣り合う2つずつの活性領域340に、ほぼ均一に分圧される様になり、利得媒質303における高電界ドメインの形成を抑制する構造となる。図3において、31は転写用基板、33は側壁の保護のためのパッシベーション膜、321は電極である。
【0041】
上記抵抗値の比について言えば、当該緩和領域と第一のクラッドとの間にm個の活性領域があり、当該接続領域と第二のクラッドの間にn個の活性領域がある場合、次の様にするとよい。すなわち、前者の間に設けられる抵抗体の抵抗値と後者の間に設けられる抵抗体の抵抗値との比をほぼm:nに設定するとよい。
【0042】
また、本実施例における膜抵抗体の変形例としては、Biの様な半金属以外に、比抵抗が比較的これに近い透明性導電膜も考えられる。本実施例において、この様なITOやZnOなどを同様の形状の膜として用いてもよい。
【0043】
本実施例によれば、緩和領域を挟んでカスケード接続された夫々の活性領域に電圧をほぼ均一に分配することができ、量子カスケードレーザの電流注入効率を向上できる。こうして、レーザ発振特性を向上することが可能となる。
【0044】
(実施例2)
図5は、本発明を適用できるレーザ素子の実施例2の構成の電磁波の伝播方向に垂直な断面を示す。本実施例において、利得媒質503は、障壁層を三枚用いた共鳴トンネルダイオードで用いられる活性領域540、560の繰り返しが2回である。従って、活性領域540、560間に1個の緩和領域550を有する。これらのバンドプロファイルは、図6に示す通りの多重量子井戸構成のものとして設計されている。これらの領域については、InP基板上に格子整合するInGaAsを井戸層とし、格子整合するInAlAsや非整合のAlAsを障壁層とすることができる。
【0045】
より具体的には、エミッタ側からコレクタ側へ順に、次の半導体多層膜構造を繰り返しの一単位として構成することができる。
AlAs1.3nm(641)/InGaAs7.6nm(642)/InAlAs2.6nm(643)/InGaAs5.6nm(644)/AlAs1.3nm(651)/InGaAs5.4nm(652)/InAlAs0.6nm(653)/InGaAs5.4nm(654)/InAlAs0.6nm(653)/InGaAs5.4nm(654)/InAlAs0.6nm(653)/InGaAs5.4nm(654)/InAlAs0.6nm(653)/InGaAs5.4nm(656)
【0046】
このうち、初めから途中の厚さ1.3nmのAlAs651までが活性領域540、560であって、途中の厚さ1.3nmのAlAs651から最後までが接続領域550である。更に、厚さ5.4nmのn-InGaAs654はカスケード接続のためにミニバンド621を用いたインジェクタ層であって、比較的高濃度なキャリアドープを行い、2×1018cm‐3程度の電子濃度とする。他の層は意図的にキャリアドープを行わないアンドープとしておく。
【0047】
本実施例において、引き出し層は、接続領域550における厚さ5.4nmのn-InGaAs層654の何れかを選択する。エミッタから注入されるキャリア(ここでは電子を選んでいる)は、以上の半導体多層膜構造に均一に約40kV/cmの電界が印加されたとき、電流密度約90kA/cm2の電流となる。そして、フォトンアシストトンネルに基づいてテラヘルツ帯の周波数領域で利得を発生する(フォトンアシストトンネルと利得の関係についてはJpn. J. Appl. Phys., Vol. 40, 5251(2001)を参照した)。
【0048】
利得媒質503の電気的接点511、512としては、例えば、InP基板に格子整合するn-InGaAs(厚さ50nm)の半導体膜で構成する。ここではキャリアとして電子を選び、Siをドーパントとして用いて電子濃度を2×1018cm‐3とする。更に、負誘電率媒質501、502に挟まれるが、これらも、やはりInP基板に格子整合するn-InGaAs(厚さ100nm)の半導体膜で構成する。ここでは電子濃度を1×1019cm‐3とする。利得媒質503と負誘電率媒質501、502、電気的接点511、512はInP基板上に半導体エピタキシャル成長法などで形成され、図5はこうしたエピタキシャル層が転写用基板51上に転写された後の構成を表している。InP基板はすでに除去されており、負誘電率媒質501、502は、夫々、Ti/Pd/Auなどの電極521、522に接する。
【0049】
ただし、以上はInP基板上の構成の一例を示したもので、これに限るものではない。実施例1と同様に、InAs基板上のInAs/AlAsSbやInAs/AlSb、GaAs基板上のGaAs/AlGaAsやInP基板上のInGaAs/AlGaAsSb、Si基板上のSi/SiGeといった半導体多層膜構成も考えられる。
【0050】
こうしたカスケード接続された共鳴トンネルダイオード(利得媒質503)に所定の電界が印加されたとき、電流が流れる様子を図6を参照して説明すると以下のようになる。電子は活性領域640においてサブバンド611からサブバンド612へフォトンアシストトンネル遷移601し、サブバンド611とサブバンド612とのエネルギー間隔に相当する波長の光が放出される。続けて、活性領域640のサブバンド612における電子は接続領域650へ抽出される。接続領域650を経由した電子は次の活性領域660へ注入され、再び、活性領域640と同じフォトンアシストトンネル遷移を行う。接続領域650におけるミニバンド621内で電子は、準フェルミ分布に従い、サブバンド611とサブバンド612との間に反転分布が確保される。
【0051】
以上の表面プラズモン導波路は、例えば、表面プラズモンの伝播方向に長さ300μm、横方向に幅5μmとする。また、引き出し層654は横方向に20μm引き出す。このとき、活性領域540、560の負荷抵抗は1Ωオーダとなる。抵抗体52は、実施例1と同様に、これよりも低抵抗となるものを用意すればよく、ここでも、例えば、Biを図5の様に表面プラズモン導波路を横切るようにリボン状にして用いる。従って、Bi膜抵抗体52の厚さを0.3μm、幅(表面プラズモンの伝播方向の長さ)を3μm以上とすると、次の様になる。すなわち、電極511と電極559の間の抵抗値、電極522と電極559の間の抵抗値は何れも等しく0. 1Ωオーダかそれ以下となり、式2を満たす様になる。ここで、実施例1と同様に、側壁の保護のためのパッシベーション膜53の膜厚は200nm程度である。こうしたBi膜抵抗体52は、上記実施形態で既に示したように利得媒質503における高電界ドメインの形成を抑制する構造となる。また、パッシベーション膜53はSiO2、電極559はTi/Pd/Auで構成することができる。
【0052】
本実施例のレーザ素子構成は次の作製方法で作製することができる。まず、InP基板上に、MBEなどによって、n-InGaAs層502、512、InGaAs/AlAs又はInGaAs/InAlAsによる多重量子井戸503、n-InGaAs層511、501をエピタキシャル成長する。その表面に電極としてTi/Pd/Au521を蒸着してから、InP基板の研磨を行い120μm程度の厚みにする。次に、300μm角のチップにへき開して、上記電極521とTi/Au薄膜などを蒸着した転写用基板51上のAu薄膜との間で、圧着によるボンディングを行う。AuSnなどの半田を用いた加熱融着でもよい。その後、塩酸によりウエットエッチングを行うと、InP基板だけが選択的に除去されるため、メサ状のエピタキシャル層が転写用基板51上に転写される形となる。
【0053】
その後、まず上記のような幅20μmのメサ形状を、下地が露出するまでホトリソグラフィとドライエッチングにて形成する。続いて、同様の工程で、幅5μmのメサ状にエッチングを行い、引き出し層654を露出させる。このとき、精度の良いエッチングのため、in-sutuでエッチング深さを測定できる様にDegilemなどを用いる。ここでは、ウエットエッチングによる選択エッチングを用いてもよい。
【0054】
以上の工程により、300μmの共振長をもち、その両端がへき開面であるストライプ状の導波路ができる。次に、プラズマCVD法などによりSiO253を成膜した後、側壁を除くメサ状のエピタキシャル層を露出させる。このとき、パターニングによる幅20μm以下のストライプ状に窓開けしてエッチングを行えば、側壁を残すことができる。更に、n-InGaAs層502の表面にリフトオフ法によりTi/Pd/Au電極522を、カスケード接続領域550における引き出し層654の表面にTi/Pd/Au電極559を形成する。最後に、リフトオフ法によりBi膜抵抗体52を蒸着して上記構成が完成される。
【0055】
また、同様の変形例としては、実施例1と同様に、活性領域の繰り返しが3回以上の複数回の場合に拡張できる。また、活性領域としては、障壁層を三枚用いた構成の共鳴トンネルダイオードのほかにも、障壁層を二枚用いた構成の共鳴トンネルダイオードも考えられる。何れも、伝導帯或いは価電子帯の同一エネルギー帯内の多重量子井戸構造をキャリアが通過するため、抵抗体52が高電界ドメインの形成を抑制する。
【0056】
本実施例によっても、接続領域を挟んでカスケード接続された夫々の活性領域に電圧をほぼ均一に分配することができ、量子カスケードレーザの電流注入効率を向上できる。こうして、レーザ発振特性を向上することが可能となる。
【0057】
(実施例3)
図7は、本発明を適用できるレーザ素子の実施例3の構成の電磁波の伝播方向に垂直な断面を示すもので、実施例1の変形例を表すものである。本実施例は、実施例1における利得媒質203を一般的に表現してn回(図示例では3回)繰り返して利得媒質703が構成された変形例である(図7(b))。量子カスケードレーザでは繰り返し数を上げるとハイパワーとなるため、その点において本実施例は好ましい例である。その他の点は、実施例1と同様である。
【0058】
本実施例では、実施例1とほぼ同様の構成を有するが、多くの繰り返しに対応しつつ抵抗体72を適用するため、側壁を図7(a)の様に順テーパ形状にする。それと共に、抵抗体72は、直接、接続領域750と接する構造となる。このため、抵抗体72としては、例えば、poly-Siなどを用いるとよい。本実施例において、poly-Si膜抵抗体72はプラズマCVD法によって成膜すればよい。やはり、実施例1と同様に、表面プラズモン導波路を横切る様にリボン状とすると、利得媒質703における高電界ドメインの形成を抑制することができる。ここでは、外部電界印加によって与えられた電圧が各活性領域740にほぼ均一に分圧される様に、活性領域740を挟んで隣り合う2つずつのカスケード接続領域750間に設けられた抵抗体72の抵抗値はほぼ等しく設定される。
【0059】
本実施例においては、順テーパ形状が特徴的である。この形状を作製するには、順メサストライプ方向に導波路を設定し、硫酸と過酸化水素の混合水溶液などでウエットエッチングを行えばよい。また、テーパ形状にレジストを形成してドライエッチングで作製してもよい。その他、側壁の保護のためのパッシベーション膜73、抵抗体72、電極721、722の形成等についは周知の方法で行うことができる。尚、図7において、71は転写用基板、701と702は負誘電率媒質、711と712は電気的接点である。
【0060】
(実施例4)
図8は、本発明を適用できるレーザ素子の実施例4の構成の電磁波の伝播方向に垂直な断面を示すもので、実施例3の変形例を表すものである。本実施例も、実施例1における利得媒質203を一般的に表現してn回繰り返して利得媒質803が構成された場合の変形例である(図8(b))。本実施例では、更に、表面プラズモンの横モードを整形して導波路損失を低減する。その点において本実施例は好ましい例である。その他の点は、実施例3と同様である。
【0061】
本実施例でも、実施例1とほぼ同様の構成を有するが、表面プラズモンモードの横モードの整形を行いつつ抵抗体82を適用するため、側壁を図8(a)の様にくびれ形状にする。それと共に、抵抗体82は直接、カスケード接続領域850と接する構造となる。このため、抵抗体82としては、例えば、poly-Siなどを用いるとよい。本実施例においても、poly-Si膜抵抗体82はプラズマCVD法によって成膜すればよい。実施例1と同様に、表面プラズモン導波路を横切る様にリボン状とすると、利得媒質803における高電界ドメインの形成を抑制することができる。
【0062】
本実施例においては、くびれ形状が特徴的である。この形状を作製するには、ボンディングの前に負誘電率媒質801側のメサを予め作製しておいて、このメサ頂部でのボンディングを行えばよい。その他は実施例1と同様に作製できる。尚、抵抗体82の成膜にはCVD法を用いるために、メサのくびれ部分の側壁にも成膜することができる。図8において、81は転写用基板、83はパッシベーション膜、802は負誘電率媒質、811と812は電気的接点、821と822は電極、840は活性領域である。
【0063】
以上の実施例において、共振器構造をなす表面プラズモン導波路は、例えば、伝播方向において端面を形成したファブリペロー型とすればよい。ただし、半導体レーザ技術で知られる様に、ストライプを伝播方向に変調したDFB型、或いは伝播方向に反射面を分布させて構成したDBR型も考えられる。また、表面プラズモン導波路の終端に関しても、面状の端面とは限らない。例えば、マイクロ波技術で知られる様に、λ/4インピーダンス変換器を設けて、外部空間との不整合を低減してもよい。これには、終端からλ/4だけ内側まで導波路にテーパを与えるなどの構成も考えられる。同様に光技術で知られる様に、終端からλ/4だけ内側までコーティングを行うARコートなどの構成も考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】(a)は本発明を適用できるレーザ素子の実施形態の構成を示した断面図、(b)は実施形態を等価的に表した電気回路図。
【図2】本発明を適用できるレーザ素子の実施例1の構成を示した一断面図。
【図3】(a)は実施例1の変形例の構成を示した一断面図、(b)はその利得媒質の拡大図。
【図4】(a)は実施例1における伝導帯構造のバンドプロファイルを示す図、(b)は従来のレーザ素子における伝導帯構造のバンドプロファイルの一例を示す図。
【図5】本発明を適用できるレーザ素子の実施例2の構成を示した一断面図。
【図6】実施例2における伝導帯構造のバンドプロファイルを示す図。
【図7】(a)は本発明を適用できるレーザ素子の実施例3の構成を示した一断面図、(b)はその利得媒質の拡大図。
【図8】(a)は本発明を適用できるレーザ素子の実施例4の構成を示した一断面図、(b)はその利得媒質の拡大図。
【符号の説明】
【0065】
12…抵抗体(電位調整手段)
22、32、52…Bi膜抵抗体(電位調整手段)
72、82…poly-Si膜抵抗体(電位調整手段)
101、102、201、202、301、302、501、502、701、702、801、802…負誘電率媒質(クラッド)
103、203、303、503、703、803…利得媒質
111、112、511、512、711、712、811、812…電気的接点(負誘電率媒質、クラッド)
121、122、221、222、321、322、521、522、721、722、821、822…電極
140、160、240、260、340、440、460、540、560、640、660、740、840…活性領域
150、250、350、550、650、750、850…接続領域
441、443、445、451、453、455、457、641、643、651…障壁
442、444、446、452、454、456、458、642、644、652、654、656…量子井戸
450…緩和領域
454、654…インジェクタ層(引き出し層)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
利得媒質と、該利得媒質をその厚さ方向の上下で挟む第一及び第二のクラッドと、前記利得媒質で発生する電磁波を共振させるための共振器構造とを備えたレーザ素子であって、
前記利得媒質は、
量子井戸と障壁を含み構成され、電磁波を発生するための複数の活性領域と、
前記活性領域間に介在し、量子井戸と障壁を含み構成される、該活性領域同士を接続するための接続領域とを有し、
前記第一及び第二のクラッドは、前記電磁波に対する誘電率実部が負である負誘電率媒質を夫々含み構成されており、
前記接続領域と前記第一のクラッドとの間、及び、前記接続領域と前記第二のクラッドとの間には、前記接続領域の電位を調整するための電位調整手段を備えることを特徴とするレーザ素子。
【請求項2】
前記接続領域の電位を調整することによって、前記接続領域の両側に夫々隣接する前記活性領域に印加される電圧を揃えることを特徴とする請求項1に記載のレーザ素子。
【請求項3】
前記電位調整手段は、抵抗体であることを特徴とする請求項1あるいは2に記載のレーザ素子。
【請求項4】
基板上に前記レーザ素子は設けられており、前記接続領域は、前記基板の面内方向に引き出され、前記抵抗体に電気的に接続される引き出し層を含むことを特徴とする請求項3に記載のレーザ素子。
【請求項5】
前記引き出し層は、キャリアドープされ、且つ有限なシート抵抗を有することを特徴とする請求項4に記載のレーザ素子。
【請求項6】
前記抵抗体は、導電性材料で形成される膜抵抗体であることを特徴とする請求項3から5の何れか1項に記載のレーザ素子。
【請求項7】
前記抵抗体は、半金属、透明性導電膜、又は半導体によって構成されていることを特徴とする請求項3から6の何れか1項に記載のレーザ素子。
【請求項8】
前記負誘電率媒質は、金属、キャリアドープした半導体、又は金属とキャリアドープした半導体によって構成されることを特徴とする請求項1から7の何れか1項に記載のレーザ素子。
【請求項9】
前記活性領域は、フォトンアシストトンネル現象を利用した共鳴トンネルダイオードであることを特徴とする請求項1から8の何れか1項に記載のレーザ素子。
【請求項10】
前記電磁波の周波数は、30GHzから30THzまでの周波数領域内の周波数を含む電磁波であることを特徴とする請求項1から9の何れかに記載のレーザ素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−152508(P2009−152508A)
【公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−331275(P2007−331275)
【出願日】平成19年12月25日(2007.12.25)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】