説明

レーダシステム

【課題】 クロスレンジ分解能を向上し、マルチパス環境下においても測角精度を確保することができ、妨害環境下においても探知/追尾性能を確保することができるレーダシステムを提供する。
【解決手段】 目標4の捜索範囲又は追尾範囲、所望のクロスレンジ分解能、レーダ装置1,2の距離分解能に応じて決定された離隔距離Lだけ互いに離隔してレーダ装置1,2を配置し、レーダ装置1から目標4までの距離Rt1が基準距離を超える場合には、レーダ装置1で測角して生成された方位情報に基づいて目標4の位置を特定し、基準距離以下の場合には、レーダ装置1,2で測定して生成された距離情報に基づいて目標4の位置を特定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のレーダ装置を用いて捜索又は追尾を実施するレーダシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の捜索又は追尾レーダ装置において、クロスレンジ分解能を向上するには、距離方向にはパルス圧縮のチャープ帯域を広げることにより距離分解能を向上することができる(例えば、非特許文献1、p.275-278参照)。一方、角度分解能を向上するためには、ビーム幅を狭くする必要がある。このためには、アンテナ開口を大きくすることになる。
【0003】
また、マルチパス環境下においては、目標の高度または仰角を観測する際に、直接波の他にマルチパス波を受信する。このため、信号レベルが低下したり、測角精度が劣化したりすることがある。そこで、従来のレーダ装置では、送信周波数を変えることによりマルチパス波の影響を軽減する周波数ダイバーシティ等の方法を用いている。
【0004】
また、妨害環境下においては、メインローブやサイドローブから妨害を受信すると、妨害強度に埋もれて目標が観測できないことがあった。そこで、従来のレーダ装置では、サイドローブキャンセラ(SLC;SideLobe Canceller)等の妨害抑圧手段を用いている(例えば、非特許文献1、p.295-296参照)。
【非特許文献1】吉田孝監修、「改訂レーダ技術」、電子情報通信学会、1996年、p.260-262、p.262-264、p.275-278、p.295-296
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、角度分解能を向上するためにアンテナ開口を大きくすると、アンテナ規模が大きくなり、コスト増になっていた。
【0006】
また、マルチパス環境下において、周波数ダイバーシティによってマルチパス波の影響を軽減するためには、送信周波数帯域を大きく変える必要がある。このため、十分な周波数帯域を用いることができない状況では周波数ダイバーシティを用いることができず、マルチパス対策として十分でなかった。
【0007】
また、妨害環境下において、SLC等の妨害抑圧手段を用いても、サイドローブレベルが高いと妨害のSLC前のレベルが大きくなり、妨害を抑圧しきれなかった。
【0008】
このように、従来のレーダ装置では、クロスレンジ分解能の向上、マルチパス環境下の測角精度確保、妨害環境下の探知/追尾性能確保が難しいという問題があった。
【0009】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたもので、クロスレンジ分解能を向上し、マルチパス環境下においても測角精度を確保することができ、妨害環境下においても探知/追尾性能を確保することができるレーダシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、請求項1記載の発明は、目標を観測して受信信号を送信する複数のレーダ装置と、これら複数のレーダ装置から前記受信信号を受信して、前記受信信号に基づいて前記目標の位置を特定する統合装置とを備えたレーダシステムにおいて、前記複数のレーダ装置は、前記目標の捜索範囲又は追尾範囲、所望のクロスレンジ分解能、各レーダ装置の距離分解能に応じて決定された離隔距離だけ互いに離隔して配置され、前記統合装置は、前記複数のレーダ装置の中から基準レーダ装置を選定し、前記基準レーダ装置から前記目標までの距離が基準距離を超える場合には、前記基準レーダ装置で前記目標の方位を測角して生成された方位情報に基づいて前記目標の位置を特定し、前記基準距離以下の場合には、前記各レーダ装置で観測した前記目標が同一であるかどうかを前記受信信号に基づいて判断し、同一であるときには、前記基準レーダ装置で前記目標の距離を測定して生成された距離情報とその他のレーダ装置で前記目標の距離を測定して生成された距離情報とに基づいて前記目標の位置を特定することを特徴とする。
【0011】
請求項2記載の発明は、目標を観測して受信信号を送信する複数のレーダ装置と、これら複数のレーダ装置から前記受信信号を受信して、前記受信信号に基づいて前記目標の位置を特定する統合装置とを備えたレーダシステムにおいて、前記複数のレーダ装置は、各レーダ装置で観測される前記目標からの直接波とマルチパス波の位相差が、前記目標の捜索範囲又は追尾範囲内のいずれの距離、高度においても有意差をもつように決定された離隔高度だけ互いに離隔して配置され、前記統合装置は、前記各レーダ装置で観測した前記目標が同一であるかどうかを前記受信信号に基づいて判断し、同一であるときには、前記各レーダ装置の中で最大の受信レベルを持つレーダ装置で前記目標の高度を測定して生成された高度情報に基づいて目標の位置を特定することを特徴とする。
【0012】
請求項3記載の発明は、目標を観測して受信信号を送信する複数のレーダ装置と、これら複数のレーダ装置から前記受信信号を受信して、前記受信信号に基づいて前記目標の位置を特定する統合装置とを備えたレーダシステムにおいて、前記複数のレーダ装置は、各レーダ装置で観測される前記目標からの直接波とマルチパス波の位相差が、前記目標の捜索範囲又は追尾範囲内のいずれの距離、高度においても有意差をもつように決定された離隔高度だけ互いに離隔して配置され、前記統合装置は、前記各レーダ装置で観測した前記目標が同一であるかどうかを前記受信信号に基づいて判断し、同一であるときには、前記各レーダ装置の中でスレショルドを超える受信レベルを持つレーダ装置で前記目標の距離を測定して生成された高度情報の平均値に基づいて目標の位置を特定することを特徴とする。
【0013】
請求項4記載の発明は、目標を観測して受信信号を送信する複数のレーダ装置と、これら複数のレーダ装置から前記受信信号を受信して、前記受信信号に基づいて前記目標の位置を特定する統合装置とを備えたレーダシステムにおいて、前記複数のレーダ装置は、各レーダ装置で観測される目標と妨害との角度が有意差をもつように決定された離隔距離だけ互いに離隔して配置され、前記統合装置は、前記各レーダ装置で観測した前記目標が同一であるかどうかを前記受信信号に基づいて判断し、同一であるときには、前記各レーダ装置の中で最小の受信レベルを持つレーダ装置で前記目標の位置を測定して生成された位置情報に基づいて目標の位置を特定することを特徴とする。
【0014】
請求項5記載の発明は、目標を観測して受信信号を送信する複数のレーダ装置と、これら複数のレーダ装置から前記受信信号を受信して、前記受信信号に基づいて前記目標の位置を特定する統合装置とを備えたレーダシステムにおいて、前記複数のレーダ装置は、各レーダ装置で観測される目標と妨害との角度が有意差をもつように決定された離隔距離だけ互いに離隔して配置され、前記統合装置は、前記各レーダ装置で観測した前記目標が同一であるかどうかを前記受信信号に基づいて判断し、同一であるときには、前記各レーダ装置の中でスレショルド以下の受信レベルを持つレーダ装置で前記目標の位置を測定して生成された位置情報の平均値に基づいて目標の位置を特定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明のレーダシステムによれば、離隔して配置された複数のレーダ装置により観測した距離情報に基づいて目標の位置を特定するので、目標の位置をレーダ装置の角度分解能によらず特定でき、クロスレンジ分解能を向上することができる。
【0016】
また、本発明のレーダシステムによれば、所定の高度以上離隔して配置された複数のレーダ装置の中で、最大の受信レベルをもつレーダ装置の位置高度情報に基づいて目標の位置を特定するので、マルチパス環境下でも測角精度を確保することができる。
【0017】
また、本発明のレーダシステムによれば、所定の高度以上離隔して配置された複数のレーダ装置の中で、受信レベルがスレショルドを超えたレーダ装置の高度情報の平均値に基づいて目標の位置を特定するので、マルチパス環境下でも測角精度を確保することができる。
【0018】
また、本発明のレーダシステムによれば、所定の距離以上離隔して配置された複数のレーダ装置の中で、最小の受信レベルを持つレーダ装置の位置情報に基づいて目標の位置を特定するので、妨害環境下でも探知/追尾性能を確保することができる。
【0019】
また、本発明のレーダシステムによれば、所定の距離以上離隔して配置された複数のレーダ装置の中で、受信レベルがスレショルド以下となるレーダ装置の位置情報の平均値に基づいて目標の位置を特定するので、妨害環境下でも探知/追尾性能を確保することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明のレーダシステムを実施するための最良の形態について、図面を参照して説明する。
【0021】
(第1の実施の形態)
図1は本発明の第1の実施の形態に係るレーダシステムを示す構成図である。簡単のため、2台のレーダ装置が配置されている場合を示す。第1の実施の形態のレーダシステムは、目標を観測して受信信号を送信するレーダ装置1,2と、レーダ装置1,2と通信可能で、レーダ装置1,2からの受信信号に基づいて目標の位置を特定する統合装置3とを備える。レーダ装置1,2は、離隔距離Lだけ離隔して配置される。また、統合装置3は、距離、方位、高度等、あるいはこれらのいずれかによる相関ゲートを備え、レーダ装置1,2が観測した目標が同じ相関ゲート内であれば同一であると判断する。
【0022】
ここで、離隔距離Lの算出方法について説明する。なお、レーダ装置1を基準レーダ装置とする。
【0023】
図1において、レーダ装置1から目標4を観測すると、距離分解能ΔR1により分解される。一方、離隔距離Lだけ離隔したレーダ装置2から目標4を観測すると、距離分解能ΔR2により分解される。この場合、レーダ装置1及びレーダ装置2の両者によるレーダ装置1から観測した分解能は、図1の斜線で示した範囲になり、以下の(数式1)〜(数式4)で定式化される。
【数1】

【0024】
ここで、Rt1はレーダ装置1からみた目標4の距離、Rはレーダ装置1とレーダ装置2の観測値の統合によるレーダ装置1からみたクロスレンジ分解能、ΔRはレーダ装置1の距離分解能、ΔRはレーダ装置2の距離分解能、θはレーダ装置1,2によるベースラインと、レーダ装置2と目標4を結ぶ直線とのなす角である。
【0025】
例えば、Rt1=20km,ΔR=ΔR=30m,L=3kmとすると、(数式1)〜(数式4)より、R=402mとなる。
【0026】
一方、アンテナビーム幅を2度とすると、Rt1=20kmの地点のレーダ装置1のクロスレンジ分解能は、
2×tan1°×20km=698m
であるので、レーダ装置1とレーダ装置2の観測値の統合によりクロスレンジ分解能が改善されていることがわかる。
【0027】
したがって、捜索又は追尾する目標のおおよその距離Rt1を指定し、所望のクロスレンジ分解能、各々のレーダ装置の距離分解能がわかれば、(数式4)により、レーダ装置1,2間の必要な離隔距離Lを決めることができる。
【0028】
次に、離隔距離Lを決めてレーダ装置1,2を配置した後、目標を捜索又は追尾する動作を説明する。図2は第1の実施の形態に係るレーダシステムで目標を捜索又は追尾する動作を示すフローチャートである。
【0029】
まず、ステップS110では、統合装置3は、レーダ装置1,2に捜索または追尾する目標4の距離を測定させる。
【0030】
次に、ステップS120では、統合装置3は、基準レーダ装置を選定し、選定したレーダ装置1で生成された距離情報を受信し、レーダ装置1からみた目標4の距離Rt1が基準距離以下であるかどうかを判断する。基準距離以下である(YES)場合はステップS130に進み、基準距離以下でない(NO)場合はステップS140に進む。
【0031】
ここで、基準レーダ装置を選定する方法としては、以下のような方法が考えられる。(1)目標までの距離が最小となるレーダ装置を選定する(可変)(2)クラッタや妨害などの不要信号レベルが最小となるレーダ装置を選定する(可変)(3)最も見通しのよい場所に設置したレーダ装置を選定する(固定)(4)性能の異なる複数レーダ装置を使用する場合は、最も高い性能のレーダ装置を選定する(固定)。
【0032】
また、基準距離は、レーダ装置1の角度分解能と、レーダ装置1,2の観測値の統合によるクロスレンジ分解能とが同等になる条件より決める。目標4の距離Rt1が基準距離以下の場合は、レーダ装置1,2の観測値の統合によるクロスレンジ分解能の方がレーダ装置1の角度分解能より高い。
【0033】
ステップS130では、統合装置3は、レーダ装置1,2が観測した目標が同一であるかどうかを判断する。レーダ装置1,2が観測した目標が同じ相関ゲート内であれば同一であると判断する。同一である(YES)場合はステップS150に進み、同一でない(NO)場合はステップS110に戻る。
【0034】
そして、ステップS150では、統合装置3は、レーダ装置2から同じ相関ゲート内の距離情報を受信する。次に、ステップS160では、統合装置3は、レーダ装置1とレーダ装置2からの距離情報に基づいて目標4の位置(距離、方位)を特定する。
【0035】
ステップS120で基準距離以下でない(NO)場合は、レーダ装置1の角度分解能の方がレーダ装置1,2の観測値の統合によるクロスレンジ分解能より高い。このため、ステップS140では、統合装置3は、レーダ装置1に測角させ、これによって生成された方位情報をレーダ装置1から受信し、この方位情報を用いて目標4の位置を特定する。
【0036】
そして、ステップS170では、統合装置3は、捜索又は追尾を終了するかどうかを判断し、終了する(YES)と判断した場合は捜索又は追尾を終了し、終了しない(NO)と判断した場合はステップS110に戻って以降の処理を繰り返す。
【0037】
第1の実施の形態に係るレーダシステムによれば、目標4の捜索範囲又は追尾範囲、所望のクロスレンジ分解能、レーダ装置1,2の距離分解能に応じて決定された離隔距離Lだけ互いに離隔してレーダ装置1,2を配置し、レーダ装置1から目標4までの距離Rt1が基準距離を超える場合には、レーダ装置1により測角した方位情報に基づいて目標4の位置を特定し、基準距離以下の場合には、レーダ装置1,2からの距離情報に基づいて目標4の位置を特定するので、目標4の位置をレーダ装置1の角度分解能によらず特定でき、クロスレンジ分解能を向上することができる。
【0038】
なお、位置精度は、パルス圧縮のチャープ帯域を広げて距離分解能を向上すれば更に向上し、結果としてクロスレンジ分解能を向上したのと等価となる。
【0039】
また、上記ではレーダ装置が2台の場合で説明したが、同様の考え方により3台以上のレーダ装置の場合に拡張できる。レーダ装置3台以上でレーダシステムを構成する場合、基準距離は、基準レーダ装置とその他の各レーダ装置との観測値の統合によるクロスレンジ分解能が基準レーダ装置の角度分解能と同等になる距離のうち最大のものを用いればよい。
【0040】
(第2の実施の形態)
図3は本発明の第2の実施の形態に係るレーダシステムを示す構成図である。第2の実施の形態のレーダシステムは、第1の実施の形態と同様の構成であるが、レーダ装置1,2の配置が異なる。
【0041】
第2の実施の形態のレーダシステムでは、マルチパス環境下においてマルチパス波の影響を軽減するために、それぞれのレーダ装置を設置する高度を決める。マルチパス環境下においては、直接波とマルチパス波については、比較的近距離であり、地球の湾曲を考慮せず地球を平面と考えると、図3より、以下の(数式5)〜(数式7)で定式化できる。
【数2】

【0042】
ここで、R(n)はレーダ装置n(n=1,2)からみた目標4の水平距離、htは目標4の高度、ha(n)はレーダ装置nの高度、Rd(n)は直接波経路の距離、Rm1(n)+Rm2(n)はマルチパス経路の距離、φ(n)はレーダ装置nにおける直接波とマルチパス波の位相差、λは波長である。
【0043】
例えば、周波数10GHz、λ=0.03m,R(1)=R(2)=20km,h=50m,ha(1)=10m,ha(2)=11mとすると、レーダ装置1,2における位相φ(1)とφ(2)の差は、268度となる。これは、直接波とマルチパス波による合成信号が、反射点における位相も含めて逆相になる場合にレベルが小になることより、アンテナ高度の異なる2台のレーダ装置1,2の両方で直接波とマルチパス波とが逆相になることを防ぐためには、位相において十分有意差がある値である。
【0044】
したがって、捜索又は追尾する目標4の高度htと目標4の水平距離R(n)のおおよその値を指定すれば、(数式7)により、レーダ装置1,2の必要な高度ha(1),ha(2)を決めることができる。例えば、目標4の水平距離R(n)と高度htの範囲を指定して、レーダ装置1,2の(数式7)の位相φ(1)とφ(2)が、範囲内のいずれの距離、高度においても有意差があるように、レーダ装置1,2の高度ha(1),ha(2)を決めればよい。
【0045】
次に、高度ha(1),ha(2)を決めてレーダ装置1,2を配置した後、目標を捜索又は追尾する動作を説明する。図4は第2の実施の形態に係るレーダシステムで目標を捜索又は追尾する動作を示すフローチャートである。
【0046】
まず、ステップS210では、統合装置3は、レーダ装置1,2に捜索または追尾する目標4を観測させ、レーダ装置1,2が観測した目標が同じ相関ゲート内であるかどうかにより目標が同一であるかどうかを判断する。同一である(YES)場合はステップS220に進み、同一でない(NO)場合はステップS210に戻る。
【0047】
次に、ステップS220では、統合装置3は、レーダ装置1,2の同じ相関ゲート内の受信レベルを測定する。
【0048】
次に、ステップS230では、統合装置3は、レーダ装置1,2の受信信号から最大受信レベルを抽出する。そして、ステップS240では、統合装置3は、最大受信レベルのレーダ装置を選定し、選定したレーダ装置に測角を行わせ、このレーダ装置で生成された高度情報(測角値)を受信し、この高度情報を用いて目標4の位置を特定する。測角方式としては、位相モノパルス(例えば、非特許文献1、p.262-264参照)でもスクイント測角(例えば、非特許文献1、p.260-262参照)でもよい。
【0049】
ここで、最大受信レベルのレーダ装置を選定する方法を説明する。図5は第2の実施の形態におけるレーダ装置の受信レベルを示す図である。図5において、目標4までの水平距離がr〜r,r〜rではレーダ装置1、r〜r,r〜rではレーダ装置2を選定する。それ以外の距離ではレーダ装置1,2のどちらでもよい。
【0050】
そして、ステップS250では、統合装置3は、捜索又は追尾を終了するかどうかを判断し、終了する(YES)と判断した場合は捜索又は追尾を終了し、終了しない(NO)と判断した場合はステップS210に戻って以降の処理を繰り返す。
【0051】
第2の実施の形態に係るレーダシステムによれば、レーダ装置1,2で観測される目標4からの直接波とマルチパス波の位相差が、目標4の捜索範囲又は追尾範囲内のいずれの距離、高度においても有意差をもつように決定された離隔高度だけ互いに離隔してレーダ装置1,2を配置し、レーダ装置1,2のうち最大の受信レベルを持つレーダ装置の高度情報に基づいて目標4の位置を特定するので、レーダ装置1とレーダ装置2とでは直接波とマルチパス波の位相関係が異なることにより、マルチパス環境下でも測角精度を確保することができる。
【0052】
なお、上記ではレーダ装置が2台の場合で説明したが、同様の考え方により3台以上のレーダ装置の場合に拡張できる。
【0053】
(第3の実施の形態)
第3の実施の形態に係るレーダシステムは第2の実施の形態と同様の構成であり、レーダ装置1,2の配置も同様であるが、高度ha(1),ha(2)を決めてレーダ装置1,2を配置した後、目標を捜索又は追尾する動作が異なる。
【0054】
図6は第3の実施の形態に係るレーダシステムで目標を捜索又は追尾する動作を示すフローチャートである。
【0055】
ステップS310,S320では、第2の実施の形態で説明した図4のS210,S220と同様の動作を行う。
【0056】
次に、ステップS330では、統合装置3は、レーダ装置1,2のうち受信レベルがスレショルドを超えるレーダ装置に測角を行わせる。
【0057】
そして、ステップS340では、統合装置3は、測角を行ったレーダ装置で生成された高度情報(測角値)を受信し、この高度情報の平均値を算出し、これを用いて目標4の位置を特定する。測角方式としては、位相モノパルスでもスクイント測角でもよい。
【0058】
ここで、受信レベルがスレショルドを超えるレーダ装置を選定する方法を説明する。図7は第3の実施の形態におけるレーダ装置の受信レベルを示す図である。図7において、目標4までの水平距離がr〜r,r11〜r12ではレーダ装置1、r〜r10,r13〜r14ではレーダ装置2の高度情報を用いる。それ以外の距離ではレーダ装置1とレーダ装置2の高度情報の平均値を用いる。
【0059】
そして、ステップS350では、統合装置3は、捜索又は追尾を終了するかどうかを判断し、終了する(YES)と判断した場合は捜索又は追尾を終了し、終了しない(NO)と判断した場合はステップS310に戻って以降の処理を繰り返す。
【0060】
第3の実施の形態に係るレーダシステムは、第2の実施の形態と同様にレーダ装置1,2を配置し、受信レベルがスレショルドを超えるレーダ装置の高度情報の平均値に基づいて目標4の位置を特定する。これにより、第2の実施の形態と同様の効果を得ることができる。
【0061】
なお、上記ではレーダ装置が2台の場合で説明したが、同様の考え方により3台以上のレーダ装置の場合に拡張できる。
【0062】
(第4の実施の形態)
図8は本発明の第4の実施の形態に係るレーダシステムを示す構成図である。第4の実施の形態のレーダシステムは、第1の実施の形態と同様の構成であるが、レーダ装置1,2の配置の決め方が異なる。
【0063】
第4の実施の形態のレーダシステムでは、妨害環境下において妨害の影響を軽減するために、それぞれのレーダ装置の配置を決める。妨害環境下においては、目標と妨害の距離及び角度については、図8より、以下の(数式8)〜(数式13)で定式化できる。
【数3】

【0064】
ここで、Lはレーダ装置1とレーダ装置2の離隔距離、Rt1はレーダ装置1からみた目標4の距離、Rはレーダ装置1とレーダ装置2のベースラインからの妨害5の距離、ΘJ1はレーダ装置1からみた目標4と妨害5の角度、ΘJ2はレーダ装置2からみた目標4と妨害5の角度である。
【0065】
例えば、R=20km、R=50km、ΘJ1=1度、L=1kmとすると、レーダ装置2から観測した妨害角度ΘJ2は、目標4に対して2.1度となり、レーダ装置1から観測した場合の目標に対する妨害角度ΘJ1=1度と比べて、サイドローブ方向を変える点に関して、十分有意差がある。
【0066】
したがって、捜索又は追尾する目標4の範囲、妨害5の距離及び方向がわかれば、(数式12)により、レーダ装置間の必要な離隔距離Lを決めることができる。
【0067】
次に、離隔距離Lを決めてレーダ装置1,2を配置した後、目標を捜索又は追尾する動作を説明する。図9は第4の実施の形態に係るレーダシステムで目標を捜索又は追尾する動作を示すフローチャートである。
【0068】
ステップS410,S420では、第2の実施の形態で説明した図4のS210,S220と同様の動作を行う。
【0069】
次に、ステップS430では、統合装置3は、レーダ装置1,2の受信信号から最小受信レベルを抽出する。妨害信号を受信すると、受信レベルが大きくなるため、最小の受信レベルの信号を用いて測距及び測角を実施する。
【0070】
そして、ステップS440では、統合装置3は、最小受信レベルのレーダ装置を選定し、選定したレーダ装置に測距及び測角を行わせ、選定したレーダ装置で生成された位置情報(測距値、測角値)を受信し、この位置情報を用いて目標4の位置を特定する。
【0071】
ここで、受信レベル最小のレーダ装置を選定する方法を説明する。図10は第4の実施の形態におけるレーダ装置の受信レベルを示す図である。図10において、目標4までの水平距離がr15まではレーダ装置1、r15以上ではレーダ装置2を選定する。
【0072】
そして、ステップS450では、統合装置3は、捜索又は追尾を終了するかどうかを判断し、終了する(YES)と判断した場合は捜索又は追尾を終了し、終了しない(NO)と判断した場合はステップS410に戻って以降の処理を繰り返す。
【0073】
第4の実施の形態に係るレーダシステムによれば、レーダ装置1,2で観測される目標4と妨害5との角度が有意差をもつように決定された離隔距離だけ互いに離隔してレーダ装置1,2を配置し、レーダ装置1,2うち最小の受信レベルを持つレーダ装置の位置情報に基づいて目標の位置を特定するので、目標方向と妨害方向の角度関係が異なることにより、妨害環境下でも探知/追尾性能を確保することができる。
【0074】
なお、上記ではレーダ装置が2台の場合で説明したが、同様の考え方により3台以上のレーダ装置の場合に拡張できる。
【0075】
(第5の実施の形態)
第5の実施の形態に係るレーダシステムは第4の実施の形態と同様の構成であり、レーダ装置1,2の配置も同様であるが、離隔距離Lを決めてレーダ装置1,2を配置した後、目標を捜索又は追尾する動作が異なる。
【0076】
図11は第5の実施の形態に係るレーダシステムで目標を捜索又は追尾する動作を示すフローチャートである。
【0077】
ステップS510,S520では、第2の実施の形態で説明した図4のS210,S220と同様の動作を行う。
【0078】
次に、ステップS530では、統合装置3は、レーダ装置1,2のうち受信レベルがスレショルド以下のレーダ装置に測距及び測角を行わせる。
【0079】
そして、ステップS540では、統合装置3は、測距及び測角を行ったレーダ装置で生成された位置情報(測距値、測角値)を受信し、この位置情報の平均値を算出し、これを用いて目標4の位置を特定する。
【0080】
ここで、受信レベルがスレショルド以下のレーダ装置を選定する方法を説明する。図12は第5の実施の形態におけるレーダ装置の受信レベルを示す図である。図12において、目標4までの水平距離がr16〜r17ではレーダ装置1の位置情報を用い、r17以上では距離ではレーダ装置1とレーダ装置2の位置情報の平均値を用いる。
【0081】
そして、ステップS550では、統合装置3は、捜索又は追尾を終了するかどうかを判断し、終了する(YES)と判断した場合は捜索又は追尾を終了し、終了しない(NO)と判断した場合はステップS510に戻って以降の処理を繰り返す。
【0082】
第5の実施の形態に係るレーダシステムは、第4の実施の形態と同様にレーダ装置1,2を配置し、受信レベルがスレショルド以下のレーダ装置の位置情報の平均値に基づいて目標4の位置を特定する。これにより、第4の実施の形態と同様の効果を得ることができる。
【0083】
なお、上記ではレーダ装置が2台の場合で説明したが、同様の考え方により3台以上のレーダ装置の場合に拡張できる。
【0084】
また、第1乃至第5の実施の形態において、クロスレンジ分解能の向上、マルチパス環境下の測角精度及び妨害環境下の観測精度の向上のために、各々の場合について、複数レーダ装置の離隔距離や離隔高度について説明したが、一部又はすべての条件を満足するように配置を選定すれば、複合した効果を得ることができる。
【0085】
また、レーダ装置としては、地上レーダのみでなく、搭載レーダにより、ネットワークを構成してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係るレーダシステムを示す構成図である。
【図2】第1の実施の形態に係るレーダシステムで目標を捜索又は追尾する動作を示すフローチャートである。
【図3】本発明の第2の実施の形態に係るレーダシステムを示す構成図である。
【図4】第2の実施の形態に係るレーダシステムで目標を捜索又は追尾する動作を示すフローチャートである。
【図5】第2の実施の形態におけるレーダ装置の受信レベルを示す図である。
【図6】第3の実施の形態に係るレーダシステムで目標を捜索又は追尾する動作を示すフローチャートである。
【図7】第3の実施の形態におけるレーダ装置の受信レベルを示す図である。
【図8】本発明の第4の実施の形態に係るレーダシステムを示す構成図である。
【図9】第4の実施の形態に係るレーダシステムで目標を捜索又は追尾する動作を示すフローチャートである。
【図10】第4の実施の形態におけるレーダ装置の受信レベルを示す図である。
【図11】第5の実施の形態に係るレーダシステムで目標を捜索又は追尾する動作を示すフローチャートである。
【図12】第5の実施の形態におけるレーダ装置の受信レベルを示す図である。
【符号の説明】
【0087】
1,2 レーダ装置
3 統合装置
4 目標
5 妨害

【特許請求の範囲】
【請求項1】
目標を観測して受信信号を送信する複数のレーダ装置と、
これら複数のレーダ装置から前記受信信号を受信して、前記受信信号に基づいて前記目標の位置を特定する統合装置とを備えたレーダシステムにおいて、
前記複数のレーダ装置は、
前記目標の捜索範囲又は追尾範囲、所望のクロスレンジ分解能、各レーダ装置の距離分解能に応じて決定された離隔距離だけ互いに離隔して配置され、
前記統合装置は、
前記複数のレーダ装置の中から基準レーダ装置を選定し、前記基準レーダ装置から前記目標までの距離が基準距離を超える場合には、前記基準レーダ装置で前記目標の方位を測角して生成された方位情報に基づいて前記目標の位置を特定し、前記基準距離以下の場合には、前記各レーダ装置で観測した前記目標が同一であるかどうかを前記受信信号に基づいて判断し、同一であるときには、前記基準レーダ装置で前記目標の距離を測定して生成された距離情報とその他のレーダ装置で前記目標の距離を測定して生成された距離情報とに基づいて前記目標の位置を特定することを特徴とするレーダシステム。
【請求項2】
目標を観測して受信信号を送信する複数のレーダ装置と、
これら複数のレーダ装置から前記受信信号を受信して、前記受信信号に基づいて前記目標の位置を特定する統合装置とを備えたレーダシステムにおいて、
前記複数のレーダ装置は、
各レーダ装置で観測される前記目標からの直接波とマルチパス波の位相差が、前記目標の捜索範囲又は追尾範囲内のいずれの距離、高度においても有意差をもつように決定された離隔高度だけ互いに離隔して配置され、
前記統合装置は、
前記各レーダ装置で観測した前記目標が同一であるかどうかを前記受信信号に基づいて判断し、同一であるときには、前記各レーダ装置の中で最大の受信レベルを持つレーダ装置で前記目標の高度を測定して生成された高度情報に基づいて目標の位置を特定することを特徴とするレーダシステム。
【請求項3】
目標を観測して受信信号を送信する複数のレーダ装置と、
これら複数のレーダ装置から前記受信信号を受信して、前記受信信号に基づいて前記目標の位置を特定する統合装置とを備えたレーダシステムにおいて、
前記複数のレーダ装置は、
各レーダ装置で観測される前記目標からの直接波とマルチパス波の位相差が、前記目標の捜索範囲又は追尾範囲内のいずれの距離、高度においても有意差をもつように決定された離隔高度だけ互いに離隔して配置され、
前記統合装置は、
前記各レーダ装置で観測した前記目標が同一であるかどうかを前記受信信号に基づいて判断し、同一であるときには、前記各レーダ装置の中でスレショルドを超える受信レベルを持つレーダ装置で前記目標の距離を測定して生成された高度情報の平均値に基づいて目標の位置を特定することを特徴とするレーダシステム。
【請求項4】
目標を観測して受信信号を送信する複数のレーダ装置と、
これら複数のレーダ装置から前記受信信号を受信して、前記受信信号に基づいて前記目標の位置を特定する統合装置とを備えたレーダシステムにおいて、
前記複数のレーダ装置は、
各レーダ装置で観測される目標と妨害との角度が有意差をもつように決定された離隔距離だけ互いに離隔して配置され、
前記統合装置は、
前記各レーダ装置で観測した前記目標が同一であるかどうかを前記受信信号に基づいて判断し、同一であるときには、前記各レーダ装置の中で最小の受信レベルを持つレーダ装置で前記目標の位置を測定して生成された位置情報に基づいて目標の位置を特定することを特徴とするレーダシステム。
【請求項5】
目標を観測して受信信号を送信する複数のレーダ装置と、
これら複数のレーダ装置から前記受信信号を受信して、前記受信信号に基づいて前記目標の位置を特定する統合装置とを備えたレーダシステムにおいて、
前記複数のレーダ装置は、
各レーダ装置で観測される目標と妨害との角度が有意差をもつように決定された離隔距離だけ互いに離隔して配置され、
前記統合装置は、
前記各レーダ装置で観測した前記目標が同一であるかどうかを前記受信信号に基づいて判断し、同一であるときには、前記各レーダ装置の中でスレショルド以下の受信レベルを持つレーダ装置で前記目標の位置を測定して生成された位置情報の平均値に基づいて目標の位置を特定することを特徴とするレーダシステム。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2007−24823(P2007−24823A)
【公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−211273(P2005−211273)
【出願日】平成17年7月21日(2005.7.21)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】