説明

レーダトランスポンダ

【課題】パルスレーダ、パルス圧縮レーダ、FM−CWレーダ、及び符号化レーダ等の広汎な種類のレーダ電波を受信したとき、各レーダ方式に対応する識別符号付き応答電波を送信可能とする。
【解決手段】受信レーダ電波からダウンコンバートした入力信号40から、遅延回路60を構成する複数の遅延ユニット50により、所定時間遅延した複数の遅延信号を生成し、合成回路62により、前記複数の遅延信号と、入力信号40とを合成し、アップコンバートするための信号としての識別信号42を生成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、船舶等のレーダPPI上にレーダトランスポンダ(レーダビーコン)の符号を表示させるレーダトランスポンダに関し、特に、パルスレーダはもとより、パルス圧縮レーダやFM−CWレーダ等、レーダ方式・種類を選ばずに応答電波を発射することのできる新規な方式を採用したレーダトランスポンダに関する。
【背景技術】
【0002】
図12に模式的に示すように、従来から、例えば陸地10、12に臨む航路の所定位置に設置されたレーダトランスポンダ2は、船舶4のレーダから発射されたレーダパルス電波6を受信すると、これをトリガとして直ちに船舶4のレーダに使用されている周波数帯(9,340〜9,470[MHz])で応答レーダパルス電波8を返送発射する。
【0003】
船舶4のレーダでこの応答レーダパルス電波8を受信すると、船舶4のレーダPPI(Plan Position Indicator)上に、図13に示すように、陸地映像10i、12iとPPI中心位置の自船13とともに、レーダトランスポンダ2の設置位置(レーダトランスポンダ設置位置)2iとレーダトランスポンダ2を識別する識別信号であるレーダトランスポンダ符号画像14が表示される。このレーダトランスポンダ符号画像14は、モールス符号の「K」=「長線、短点、長線」に対応する(非特許文献1参照)。
【0004】
【非特許文献1】「改訂 電波標識(上巻)」 財団法人 日本航路標識協会 1998年2月15日改訂版発行(第114頁〜第115頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、パルスレーダは、短時間で大電力のパルスを発生することが必要であるため、電子管(マグネトロン)を使用し、パルス発生時のみ高圧をかけてマイクロ波で発振させる構成が採用されている。この発振は間欠的な発振であり、連続発振ではないため、発振が不安定になり易く、異常発振が起こりやすい。その結果、必要なスペクトラム以外のスペクトラムであるスプリアス(不要輻射)が発生する。このようなスプリアスは、妨害電波として他の電子機器に悪影響を与えるおそれがあり、できるだけ小さいレベルであることが好ましい。そして、パルスレーダ等において、スプリアスの規制が強化される方向にある。このため、大電力のパルスレーダを使用し難い環境になってきている。
【0006】
スプリアスを小さくするために、長時間小電力で送信することで電力を稼ぐ方式であって、周波数が連続的に変化するチャープ波を使用したパルス圧縮レーダや連続波(CW)信号の周波数を周期的に変化させた信号を送信するFM−CWレーダ等の各電波に応答するレーダトランスポンダが要望されている。この場合、パルス圧縮レーダやFM−CWレーダでは、小電力であることからマグネトロンを使用することなく半導体により回路を構成することができ、信頼性も向上することが見込まれる。
【0007】
この発明はこのような課題・要望を考慮してなされたものであり、パルスレーダ、パルス圧縮レーダ、FM−CWレーダ、及び符号化レーダ等の広汎なレーダ方式のうち、任意のレーダ方式の電波を受信したときに、各レーダ方式に対応する応答電波を確実に返送発射することを可能とするレーダトランスポンダを提供することを目的とする。
【0008】
すなわち、この発明は、受信されるレーダ電波の種類を問わずに識別符号付き応答電波を送信することを可能とするレーダトランスポンダを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明に係るレーダトランスポンダは、入力電波を受信したときに応答電波を発射するレーダトランスポンダであって、複数の遅延ユニットを有し、前記入力電波をダウンコンバートした信号が供給され、前記ダウンコンバートした信号から前記複数の遅延ユニットにより所定時間遅延した複数の遅延信号を生成する遅延回路と、前記遅延回路から出力される前記複数の遅延信号と、前記ダウンコンバートした信号とを合成し、アップコンバートするための信号としての識別信号を生成する合成回路とを備えることを特徴とする。
【0010】
この発明によれば、遅延回路を構成する複数の遅延ユニットにより、ダウンコンバートした信号から所定時間遅延した複数の遅延信号を生成し、合成回路により前記遅延回路から出力される複数の遅延信号と、前記ダウンコンバートした信号とを合成し、アップコンバートするための信号としての識別信号を生成するようにしている。
【0011】
この識別信号をアップコンバートして電波として発射(送信)することにより、受信されるレーダ電波の種類を問わずに、換言すればレーダ方式を問わずに、入力電波を受信したときに、受信した入力電波のレーダ方式・種類に応じた識別符号付き応答電波を発射(送信)することができる。
【0012】
この場合、入力電波は、レーダ方式の異なる少なくとも2つのレーダから相互に独立に送信され、レーダトランスポンダの受信アンテナを通じて受信された電波であり、応答電波は、受信された電波に基づき各々生成された識別信号が、アップコンバートされ、レーダトランスポンダの送信アンテナを通じて発射(送信)される識別符号付き応答電波であって各レーダ方式に自動的に対応した電波となる。
【0013】
例えば、入力電波は、少なくともパルスレーダ及びパルス圧縮レーダから送信されて受信アンテナを通じて受信された電波とすることができる。
【0014】
なお、入力電波は、パルスレーダ、パルス圧縮レーダ、FM−CWレーダ、及び符号化レーダの中、レーダ方式の異なる任意の2つ以上のレーダから送信され、トランスポンダの受信アンテナを通じて受信された電波とすることができる。
【発明の効果】
【0015】
この発明によれば、受信されるレーダ電波の種類を問わずに、換言すればレーダ方式を問わずに、入力電波を受信したときに識別符号付き応答電波を発射(送信)することができる。
【0016】
例えば、不要輻射であるスプリアスの発生を抑制するために、パルス圧縮レーダ、FM−CWレーダ等、送信波に変調を施したレーダであっても、これらパルス圧縮レーダ及びFM−CWレーダ等が受信可能な識別符号付き応答電波を返送することができ、また、パルスレーダであっても、同一の構成で、該パルスレーダが受信可能な識別符号付き応答電波を返送することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、この発明の実施形態について図面を参照して説明する。なお、以下に参照する図面において、上記図12、図13に示したものと対応するものには同一の符号を付けてその詳細な説明は省略する。また、繁雑さを避けるために、必要に応じて上記図12、図13をも参照して説明する。
【0018】
図1は、この発明の原理的な概念図を示している。例えば、Xバンド(9300[MHz]〜9500[MHz])を使用した船舶レーダの全てが受信できるように、換言すれば、どのようなレーダ方式にも対応できるレーダトランスポンダとして、その動作原理は、反射板20的な作用を有するものが考えられる。このように単純な反射板20であれば、入力されるレーダ波が、パルス波22、パルス圧縮波であるFM・チャープ波24、符号波26等であっても、同じ波形を打ち返すことができる。等価回路28的には、受信アンテナ30で受信されたレーダ波をそのまま送信アンテナ32で送り返す系統になる。
【0019】
図2は、この系統の等価回路28に、複数の遅延ユニット(アナログ遅延素子あるいはデジタル遅延素子)31を含む等価回路34の構成とすることにより、遅延ユニット31の遅延分だけ遠くの距離にある物標として認識される。すなわち、遅延ユニット31を複数組み合わせると入力波形36から符号状の波形38を生成することができることが分かる。
【0020】
図3は、パルス幅Tw、ここでは、Tw=0.5[μs]の1つの入力パルス(入力信号)40に対して、出力信号として、所定の識別信号(識別符号)42、この場合、モールス符号の「K」を生成する遅延合成ブロック44の構成例を示している。この遅延合成ブロック44を備えるレーダトランスポンダを考慮した場合、入力端子46から入力される入力信号40は入力電波をダウンコンバートした信号と考えることができ、出力端子48から出力される識別信号42はアップコンバートするための信号と考えることができる。
【0021】
この遅延合成ブロック44は、入力端子46に、入力信号40のパルス幅Twと同一の遅延時間Ts=0.5[μs]を有する遅延ユニット50が複数個直列に接続されている遅延回路60と、直列に接続される遅延ユニット50の必要な接続箇所から信号が分岐され、同様に入力端子46に対して直列に接続される複数の加算器(単一の複数入力加算器でもよい。)52からなる合成回路62とから構成される。
【0022】
このように構成することにより、入力端子46に入力信号40が供給されると、各遅延ユニット50の出力にはそれぞれ所定時間遅延した複数の遅延信号が生成され、この遅延信号に対して入力信号40が最も左側の最初の加算器52で加算され、さらに入力信号40に遅延信号が加算された信号にさらに遅延信号が順次加算されることで、出力端子48に長線3[μs]、ブランク1[μs]、短点1[μs]、ブランク1[μs]、及び長線3[μs]からなるモールス符号「K」に対応する識別信号42が生成される。
【0023】
なお、識別信号42中にブランク期間を生成するためには、例えば図3の遅延ユニット50a、50b、50cのように、中点に加算器52を接続しないように構成すればよい。もちろん、遅延ユニット50a〜50cは、遅延時間3×Ts=1.5[μs]の1つの遅延ユニットにまとめることができる。
【0024】
図3に示した遅延合成ブロック44は、アナログ回路あるいはデジタル回路のいずれの回路でも実現することが可能であるが、例えば遅延ユニット50としてアナログ遅延素子であるバルクアコースティック素子を用いることができる。バルクアコースティック素子は、電気信号を音響波に変換して遅延させ、さらにそれを電気信号に変換しなおす方式の遅延素子である。
【0025】
また、デジタル回路としては、FPGA(Field Programmable Gate Array)やDSP(Digital Signal Processor)を使用して遅延合成ブロック44を構成することができる。
【0026】
アナログ回路では高周波を扱うことが可能であり、直接レーダ周波数そのものを処理することが可能で、帯域も広くレーダ周波数帯全てをカバーすることができる。しかしながら、遅延素子が高価であり、識別信号42としての符号生成のためにこの遅延素子を多数使用することが必要となり、さらに挿入損失が約数10dBと大きく、多数の遅延素子を組み合わせて遅延合成ブロック44を構成することは技術的にも高度である。
【0027】
一方、デジタル回路では、レーダ周波数帯での処理は、現在では不可能であるため、レーダ信号を中間周波数帯に変換しなければならない不都合はあるが、全体としての回路規模は小さく、符号変更等もハードウエアを変更することなくFPGAプログラムの書き換えのみで容易に行うことができる。
【0028】
図4は、図3に示した原理的な遅延合成ブロック44を2系統含む、FPGAで構成した遅延合成ブロック44Aを使用したレーダトランスポンダ70の回路構成を示している。
【0029】
レーダトランスポンダ70は、基本的には、RF信号を取り扱うマイクロ波部64と、IF信号を取り扱う遅延合成ブロック66とから構成される。
【0030】
マイクロ波部64において、入力電波が受信アンテナ30で受信されたレーダ波であるRF信号は、帯域通過フィルタ(BPF)72を通じて低雑音増幅器(LNA)74で増幅された後、電力分配器(Power Divider)76により分配され、混合器(Mixer)78、80の一方の入力端子に供給される。
【0031】
ここで、混合器78、80の他方の入力端子には、局部発振器(Local Oscillator)82からの局部発振周波数の信号が電力分配器84で分配され、さらに、ハイブリッド回路86で、同相信号と90゜信号に変換された信号が供給される。
【0032】
混合器78、80により周波数変換(低周波数への変換)がなされ、中間周波数にダウンコンバートされた信号であるI軸に関する信号(I軸信号という。)及びQ軸に関する信号(Q軸信号といい、I軸に関する信号に対して位相が90゜異なる信号)が得られる。I軸信号及びQ軸信号は、それぞれ低域通過フィルタ(LPF)88、90を通じてA/D変換器92、94に供給され、A/D変換器92、94によりデジタル信号に変換される。ここで、低域通過フィルタ88、90は、A/D変換を行った際のエリアジングの発生を防止するフィルタである。
【0033】
90゜位相の異なるデジタル信号が入力信号40I、40Qとして遅延合成ブロック44Aに入力され、遅延合成ブロック44Aでは、図3で参照した遅延処理及び演算処理(合成処理)が行われ、90゜位相の異なる、所望の信号である所定の識別信号42I、42Qが得られる。
【0034】
識別信号42I、42Qは、D/A変換器96、98及び低域通過フィルタ100、102を通じて、アナログ信号である中間周波数のI軸信号及びQ軸信号に変換されて、混合器104、106の一方の入力端子に供給される。
【0035】
ここで、混合器104、106の他方の入力端子には、局部発振器82からの局部発振周波数の信号が電力分配器84で分配され、さらに、ハイブリッド回路108で、同相信号と90゜信号に変換された信号が供給される。
【0036】
このため、混合器104、106の出力側では周波数変換(高周波数への変換)されてアップコンバートされ、かつ同相信号とされた高周波のRF信号が得られ、分配端子からRF信号が入力されることで電力合成器として動作する電力分配器110により、その共通端子に合成後のRF信号が出力される。
【0037】
この識別符号付きのRF信号は、電力増幅器(Power Amplifier)112によって所要の出力電力まで増幅され、帯域通過フィルタ114及び送信アンテナ32を通じ、識別符号付き応答電波として送信される。
【0038】
なお、図4に示したデジタル方式のレーダトランスポンダ70では、レーダ帯域全てをカバーすることができないため、局部発振器82の周波数を従来の低速掃引型レーダビーコンのようにゆっくり掃引させることで、帯域を全てカバーし性能を満足させることができる。ただし、このように掃引をさせた場合でも、局部発振器82が周波数を掃引しているのみであり、不要な周波数を送信し続けているわけではないので、従来の低速掃引型レーダビーコンのように目的とするレーダに合致しない不要な電波を発生することがない。
【0039】
新マイクロ波標識としての図4に示した遅延合成方式を採用したレーダトランスポンダ70は、どのようなレーダ方式・種類の波形に対しても応答でき、かつレーダビーコン局を表す識別符号を挿入できる。そこで、次に、図4に示したレーダトランスポンダ70に種々のレーダ波形を入力した場合の応答波形についてシミュレーションにより説明する。
【0040】
図5は、シミュレーションに用いた遅延合成ブロック44Bの基本的な構成を示している。なお、実際上、遅延合成ブロック44Aは、この遅延合成ブロック44BをI軸信号とQ軸信号を処理するための2系統有する構成とされる。
【0041】
図5に示す遅延合成ブロック44Bは、入力電波をダウンコンバートした信号が入力端子46より入力信号Siとして供給され、アップコンバートするための信号としての識別信号Soを出力端子48から出力する。
【0042】
遅延合成ブロック44Bは、基本的には、図5中に示した所定の遅延時間(Delay Time)0.5[μs]、1.0[μs]、…8.5[μs]をそれぞれ有する複数の遅延ユニット151〜163からなる遅延回路60Bと、入力信号Si及び遅延ユニット151〜163により所定時間遅延した複数の遅延信号が供給される複数の加算器171〜183からなる合成回路62Bとから構成される。
【0043】
したがって、この遅延合成ブロック44Bでは、13個の遅延ユニット151〜163により、入力信号Siからそれぞれ所定時間遅延した13個の遅延信号が生成され、合成回路62Bでは、入力信号Siと、13個の遅延信号とを合成して識別信号Soを生成する。
【0044】
図6は、入力信号Siの波形が、既存の船舶レーダとして使用されているパルスレーダの単純パルス波形であり、この単純パルス波形の入力信号Siに対して、遅延合成ブロック44Bで生成される識別信号So=Sopを示している。
【0045】
このシミュレーションでは、パルスレーダの送信パルスのパルス幅TwはTw=0.5[μs]であり、各遅延ユニット151〜163の遅延時間Tsは、単位遅延時間0.5[μs]の倍数(1、2、3、4、5、8、9、12、13、14、15、16、17の各倍数)で構成されている。図6から分かるように、識別信号Sopの応答符号は、長線3[μs]、短点1[μs]のモールス符号「K」である。
【0046】
この場合、最初の長線3[μs]部分の信号S1は、遅延ユニット151〜155と加算器171〜176で生成され、最初の1[μs]分の空白部分の信号S2は、3[μs]と3.5[μs]の遅延ユニットが存在していないことにより生成され、最初の短点1[μs]部分の信号S3は、遅延ユニット156、157と加算器177、178により生成され、次の1[μs]分の空白部分の信号S3は、5[μs]と5.5[μs]の遅延ユニットが存在していないことにより生成され、最後の長線3[μs]部分の信号S5は、遅延ユニット158〜163と加算器179〜183で生成される。
【0047】
なお、加算器171〜183は、14入力の1つの加算器(合成回路62B)と等価である。
【0048】
図6から、入力信号Siのパルス幅Twと単位遅延ユニットの遅延時間が一致している場合には、理想的な応答符号である識別信号Sopが得られることが分かる。識別信号Sopが、図4に示した送信側の遅延合成ブロック66及びマイクロ波部64を通じて識別符号付き応答電波として送信される。
【0049】
次に、図5に示す遅延合成ブロック44Bに、入力信号Siとしてパルス圧縮レーダからのリニアFMチャープパルス波が入力される場合について説明する。
【0050】
図7は、パルス圧縮レーダから送信パルスに対応してダウンコンバートされた信号であるI軸の入力信号SiiとQ軸の入力信号Siqを示している。パルス幅は、15[μs]であり、周波数掃引幅は、2[MHz]のチャープ波である。なお、パルス幅15[μs]は、パルス圧縮レーダ側での圧縮処理により1/30の0.5[μs]に圧縮されるものとしている。このI軸の入力信号SiiとQ軸の入力信号Siqのデジタル信号が、遅延合成ブロック44Bに入力される。
【0051】
図8は、遅延合成ブロック44Bの出力信号であるI軸の識別信号SoiとQ軸の識別信号Soqの出力波形を示している。
【0052】
図9は、この識別信号Soi、Soqがアップコンバートされ、識別符号付き応答電波としてレーダトランスポンダ70から送信され、パルス圧縮レーダにより受信され、該パルス圧縮レーダで圧縮処理された後の波形の識別信号Socを示している。識別信号Socからモールス符号「K」の形状が発生できていることが分かる。なお、識別信号Socのサイドローブレベルは、パルス圧縮レーダ側でのサイドロープ抑圧処理により小さくすることができる。
【0053】
図10は、図5に示す遅延合成ブロック44Bに、入力信号SiとしてFM−CWレーダの送信波が入力された場合のレーダトランスポンダ70からの識別信号Sofに対する応答波であるビート信号Sbを示している。
【0054】
図11は、このビート信号SbをFM−CWレーダ側で高速フーリエ変換(FFT)処理した場合の波形を示している。図11の横軸は、FM−CWレーダにおいて距離を意味するビート周波数fbにとっており、パルスレーダにおける時間軸と等価である。図11から分かるように、遅延合成ブロック44Bを適用したレーダトランスポンダ70は、FM−CWレーダに対しても符号である識別信号Sofを生成できていることが分かる。なお、この識別信号Sofにサイドローブが現れていないのは、FM−CWレーダ側でのFFT処理において、ブラックマンウインドウ処理を施してレンジサイドローブ抑圧を行っているからである。
【0055】
このように上述の実施形態によれば、入力電波を受信したときに受信電波のレーダ方式・種類に応じた応答電波を自動的に発射可能なレーダトランスポンダ70であって、入力電波をダウンコンバートした信号であるI軸信号40IとQ軸信号40Qが供給され、これらI軸信号40IとQ軸信号40Qから所定の識別信号42I、42Qを生成するための複数の遅延ユニット50(又は、151〜163)を有し、複数の遅延ユニット50(又は、151〜163)によりI軸信号40IとQ軸信号40Qから所定時間遅延した複数の遅延信号を生成する遅延回路60(又は、60B)と、遅延回路60(又は、60B)から出力される複数の遅延信号と、I軸信号40IとQ軸信号40Qとを合成し、アップコンバートするための信号としての識別信号42I、42Qを生成する合成回路62(又は、62B)とを備える。
【0056】
この実施形態によれば、遅延回路60(又は、60B)を構成する複数の遅延ユニット50(又は、151〜163)により、ダウンコンバートした信号であるI軸信号40IとQ軸信号40Qから所定時間遅延した複数の遅延信号を生成し、合成回路62(又は、62B)により遅延回路60(又は、60B)から出力される複数の遅延信号と、前記ダウンコンバートした信号であるI軸信号40IとQ軸信号40Qとを合成し、アップコンバートするための信号としての識別信号42I、42Qを生成するようにしている。
【0057】
この識別信号42I、42Qの位相を同相として合成した後、アップコンバートして送信アンテナ32から電波として送信することにより、受信されるレーダ電波の種類を問わずに、受信電波のレーダ方式・種類に対応した識別符号付き応答電波を自動的に生成して送信することができる。
【0058】
この場合、入力電波は、レーダ方式の異なる少なくとも2つのレーダ、例えばパルスレーダ及びパルス圧縮レーダ(又はパルス圧縮レーダ及びFM−CWレーダ)から相互に独立に送信され、受信アンテナ30により受信された電波であり、応答電波は、生成された識別信号に基づく識別符号付き応答電波であって各レーダ方式に自動的に対応した電波となる。
【0059】
なお、入力電波は、パルスレーダ、パルス圧縮レーダ、FM−CWレーダ、及び符号化レーダの中、レーダ方式の異なる少なくとも任意の2つのレーダから相互に独立に送信され、受信アンテナ30により受信された電波とすることができる。
【0060】
また、この発明は、上述の実施形態に限らず、この明細書の記載内容に基づき、種々の構成を採り得ることはもちろんである。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】この発明の原理的な概念図である。
【図2】この発明の原理的な等価回路である。
【図3】識別信号としての符号「K」を生成する遅延ブロックの概念図である。
【図4】FPGAで構成した遅延合成ブロックを使用したレーダトランスポンダの回路図である。
【図5】応答シミュレーションに用いた遅延合成ブロックの基本的な構成図である。
【図6】パルスレーダ波に対して遅延合成ブロックで生成される識別信号の波形図である。
【図7】パルス圧縮レーダ波のダウンコンバート信号の波形図である。
【図8】パルス圧縮レーダ波に対して遅延合成ブロックで生成される識別信号の波形図である。
【図9】図8に示す識別信号がアップコンバートされ、識別符号付き応答電波としてレーダトランスポンダから送信され、パルス圧縮レーダにより受信され、該パルス圧縮レーダで圧縮処理された後の波形図である。
【図10】FM−CWレーダ波に対して遅延合成ブロックで生成される識別信号であるビート信号の波形図である。
【図11】図10のビート信号をFM−CWレーダ側で高速フーリエ変換(FFT)処理した場合の波形図である。
【図12】レーダトランスポンダ(レーダビーコン)の動作説明図である。
【図13】図12例に関連するレーダ表示装置上の表示画像の説明図である。
【符号の説明】
【0062】
20…反射板 22…パルス波
24…FM・チャープ波 26…符号波
28、34…等価回路 30…受信アンテナ
31、50、50a〜50c、151〜163…遅延ユニット
32…送信アンテナ 36…入力波形
38…符号状の波形
40、40I、40Q、Si、Sii、Siq…入力信号(入力パルス)
42、42I、42Q、So、Sop、Soi、Soq、Soc、Sof…識別信号(識別符号)
44、44A、44B、66…遅延合成ブロック
46…入力端子 48…出力端子
52、171〜183…加算器 60、60B…遅延回路
62、62B…合成回路 64…マイクロ波部
70…レーダトランスポンダ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力電波を受信したときに応答電波を発射するレーダトランスポンダであって、
複数の遅延ユニットを有し、前記入力電波をダウンコンバートした信号が供給され、前記ダウンコンバートした信号から前記複数の遅延ユニットにより所定時間遅延した複数の遅延信号を生成する遅延回路と、
前記遅延回路から出力される前記複数の遅延信号と、前記ダウンコンバートした信号とを合成し、アップコンバートするための信号としての識別信号を生成する合成回路と
を備えることを特徴とするレーダトランスポンダ。
【請求項2】
請求項1記載のレーダトランスポンダにおいて、
前記入力電波は、レーダ方式の異なる少なくとも2つのレーダから相互に独立に送信され、該レーダトランスポンダの受信アンテナを通じて受信された電波であり、前記応答電波は、受信された電波に基づき各々生成された前記識別信号が、アップコンバートされ、該レーダトランスポンダの送信アンテナを通じて送信される識別符号付き応答電波である
ことを特徴とするレーダトランスポンダ。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2006−84389(P2006−84389A)
【公開日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−271276(P2004−271276)
【出願日】平成16年9月17日(2004.9.17)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成16年3月29日 財団法人日本航路標識協会発行の「平成15年度 新マイクロ波標識の開発に関する調査研究 中間報告書」に発表
【出願人】(591071126)財団法人日本航路標識協会 (1)
【Fターム(参考)】