説明

レーダー装置カバー及びその製造方法

【課題】ベースコート塗膜層の欠陥に起因するIn光輝膜層の肌荒れ外観不良をなくすことができるとともに、ベースコート塗膜層がなくても、おさえ塗膜層の塗料溶剤に起因するIn光輝膜層の肌荒れ外観不良を防ぐことができるレーダー装置カバーを提供する。
【解決手段】レーダー装置カバー10は、板状の樹脂基材11と、樹脂基材51の上にベースコート塗膜層を介さずに物理蒸着法により成膜された膜厚10〜100nmのInよりなる光輝性及びレーダー波透過性のIn光輝膜層12と、In光輝膜層12の上若しくは上下に物理蒸着法により成膜された金属化合物よりなる所定膜厚(上が10〜200nm、下が3〜100nm)の金属化合物膜層13、13’と、金属化合物膜層13の上に塗布形成されたおさえ塗膜層14と、おさえ塗膜層14の上に射出成形により設けられた樹脂背後材15とから構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーダー波(特にミリ波)を送受するレーダー装置を覆うレーダー波透過性のレーダー装置カバーとその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車が周囲の物に接近したことを運転者に警告するために、距離測定用のレーダー装置を自動車の各部、例えばラジエータグリル、サイドモール、バックパネル等の背後に設けることが検討されている。しかし、これらのラジエータグリル等が金属被膜により光輝性をもたせたものである場合、その金属被膜がレーダー波を遮断し又は大きく減衰させる。そのため、レーダー装置のレーダー波の経路上は、光輝性及びレーダー波透過性のレーダー装置カバーによって覆う必要がある。
【0003】
例えば特許文献1には、樹脂板とクロム装飾条片とからなるフロントグリルの背後にレーダーアンテナを設け、レーダーアンテナの直前部分は、レーダー波を反射又は散乱するクロム装飾条片に代えて、光輝性及びレーダー波透過性のIn(インジウム)の蒸着層を有するカバーとすることが記載されている。また、特許文献2には、レーダー装置のグリルカバー構造において、透明樹脂シートに黒色層と透明ベースコート層とIn蒸着層によるグリル色層とを設けてなるフィルム部材を用いることが記載されている。
【0004】
そして、現行のラジエータグリルに設けられるレーダー装置カバーは、図3に示すように、PC(ポリカーボネート)等よりなる樹脂基材51と、樹脂基材51の上にアクリル系紫外線硬化性塗料を塗布して形成されたベースコート塗膜層52と、ベースコート塗膜層52の上に真空蒸着法により成膜された光輝性及びレーダー波透過性のIn光輝膜層53と、In光輝膜層53の上に2液性熱乾型塗料を塗布して形成されたおさえ塗膜層54と、おさえ塗膜層54の上に射出成形されたAES(アクリロニトリル /エチレン・プロピレン・ジエンゴム/ スチレン共重合体)樹脂等よりなる樹脂背後材55とから構成されている。樹脂基材51の下面がカバー表面(意匠面)であり、樹脂背後材55の背後にレーダー装置2が配設される。
【特許文献1】特開2000−159039号公報
【特許文献2】特開2000−344032号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記レーダー装置カバーにおいて、In光輝膜層53は、剛性に乏しく脆弱である。また、In光輝膜層53は、樹脂基材51に対する直接の密着力が高いとはいえない。そのため、仮にベースコート塗膜層52を省いて、樹脂基材51上に直接In光輝膜層53を成膜したとすると、後工程でおさえ塗膜層54を塗布形成するときにかかる塗料溶剤の負荷や、さらに後工程であるAES樹脂を射出成形するときにかかる熱及び圧力の負荷により(この負荷はおさえ塗膜層54が保護するが、それでも足りないとき)、In光輝膜層53がアタックされて必要十分な面精度を維持することができず、肌荒れし外観不良となる(意匠製品として成り立たない)。
【0006】
そのため、実際にはベースコート塗膜層52を設けて、樹脂基材51とIn光輝膜層53との間の密着力を確保することにより、上記のようなIn光輝膜層53の肌荒れの発生を防いでいる。
【0007】
ところが、その一方、In光輝膜層53は膜厚が数十nmの薄膜層であるため、ベースコート塗膜層52の面品質がそのままIn光輝膜層53の面品質として現れるという問題がある。すなわち、ベースコート塗膜層52にブツ、タレ、ユズ肌等の欠陥52aがあると、In光輝膜層53もその欠陥52aに倣って肌荒れし外観不良となる。このため、ベースコート塗膜層及びIn光輝膜層の面品質管理は特に厳しく、その結果として歩留まりが低くなってしまうため、コスト構成上大きな圧迫要因となっていた。
【0008】
そこで、本発明の目的は、ベースコート塗膜層の欠陥に起因するIn光輝膜層の肌荒れ外観不良をなくすことができるとともに、ベースコート塗膜層がなくても、おさえ塗膜層の塗料溶剤に起因するIn光輝膜層の肌荒れ外観不良を防ぐことができるレーダー装置カバーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記の課題を解決するために、次の手段を採ったものである。
(1)レーダー装置を覆うレーダー波透過性のレーダー装置カバーにおいて、樹脂基材と、前記樹脂基材の上にベースコート塗膜層を介さずに成膜されたInよりなるIn光輝膜層と、前記In光輝膜層の上若しくは上下に成膜された金属化合物よりなる金属化合物膜層と、前記金属化合物膜層の上に形成されたおさえ塗膜層とを含むことを特徴とするレーダー装置カバー。さらに、おさえ塗膜層の上に設けられた樹脂背後材を含むものであってもよい。樹脂基材の下面がカバー表面(意匠面)であり、樹脂背後材の背後にレーダー装置が配設される。本発明における各要素の態様を例示する。
【0010】
1.樹脂基材
樹脂基材の形態としては、特に限定されないが、板材、シート材、フィルム材等を例示できる。樹脂基材の樹脂としては、特に限定されないが、熱可塑性樹脂が好ましく、PC(ポリカーボネート)、アクリル樹脂、ポリスチレン、PVC(ポリ塩化ビニル)、ポリウレタン等を例示できる。樹脂基材は、可視光に対して透明(着色透明を含む。以下同じ。)であり、レーダー波に対しては全く透過性であることが好ましい。樹脂基材の両面の性状は、平滑であるほど好ましい。
【0011】
2.In光輝膜層
In光輝膜層の成膜法としては、特に限定されないが、各種の物理蒸着法(後述)を例示できる。In光輝膜層は可視光に対しては反射性・光輝性であるが、レーダー波とりわけ例えば波長1〜10mmのミリ波レーダーに対してはこれを減衰せずによく透過させる。In光輝膜層の膜厚としては、特に限定されないが、10〜100nmが好ましく、20〜60nmがさらに好ましい。10nm未満では光輝性が低下する傾向となり、100nmを越えるとレーダー波透過性を損なう傾向となるからである。なお、In光輝膜層の下にも金属化合物を成膜する場合には、樹脂基材の上にベースコート塗膜層を介さずに金属化合物膜層を成膜し、その金属化合物膜層の上にベースコート塗膜層を介さずにIn光輝膜層を成膜する。
【0012】
3.金属化合物膜層
金属化合物は少なくともIn光輝膜層の上に成膜し、好ましくはIn光輝膜層の上下に成膜する。金属化合物としては、特に限定されないが、酸化チタン(TiO、TiO2、Ti35等)等のチタン化合物、酸化ケイ素(SiO、SiO2等)、窒化ケイ素(Si34等)等のケイ素化合物、酸化アルミニウム(Al23)等のアルミニウム化合物、酸化鉄(Fe23)等の鉄化合物、酸化セレン(CeO)等のセレン化合物、酸化ジルコン(ZrO)等のジルコン化合物、硫化亜鉛(ZnS)等の亜鉛化合物を例示できる。但し、成膜安定性の点で、チタン化合物又はケイ素化合物であることが好ましい。
【0013】
In光輝膜層の上に成膜する金属化合物膜層の膜厚は10〜200nmが好ましく、20〜100nmがより好ましい。10nm未満ではおさえ塗膜層の塗料溶剤のアタックからIn光輝膜層を保護するバリア層として作用が低下する傾向となり、200nmを越えると皮膜内ひずみの拡大によるクラック発生等の原因となるからである。このIn光輝膜層の上の金属化合物膜層は可視光に対しては透明でも不透明でもよいが、レーダー波に対してはこれをよく透過させることが好ましい。
【0014】
In光輝膜層の下に成膜する金属化合物膜層の膜厚は3〜200nmが好ましく、5〜100nmがより好ましい。3nm未満ではIn光輝膜層を補強する作用が低下する傾向となり、200nmを越えると皮膜内ひずみの拡大によるクラック発生等の原因となるからである。このIn光輝膜層の下の金属化合物膜層は可視光に対して透明であり、レーダー波に対してはこれをよく透過させることが好ましい。
【0015】
4.おさえ塗膜層
用いる塗料としては、特に限定されないが、ウレタン系、アクリル系、ポリエステル系、ラッカー系、メラミン系等を例示できる。層厚は、特に限定されないが、5〜50μmが好ましく、10〜30μmがより好ましい。5μm未満ではおさえ塗膜層の上に設ける樹脂背後材(これに限定されない)の熱及び圧力の負荷からIn光輝膜層を保護する作用が低下する傾向となり、50μmを越えると保護効果の高まりも横這いとなる。おさえ塗膜層は可視光に対しては透明でも不透明でもよいが、レーダー波に対しては全く透過性であることが好ましい。
【0016】
5.樹脂背後材
樹脂背後材の設け方としては、特に限定されないが、射出成形、接着剤による接着等を例示できる。射出成形の場合にはその熱及び圧力の負荷を、上記おさえ塗膜層が受け止めてIn光輝膜層を保護する。樹脂背後材の樹脂としては、特に限定されないが、熱可塑性樹脂が好ましく、PC、ABS、AES、PP(ポリプロピレン)、ポリウレタン等を例示できる。樹脂背後材は可視光に対しては透明でも不透明でもよいが、レーダー波に対しては全く透過性であることが好ましい。また、樹脂背後材は樹脂基材の側部に回り込んで接合してもよい。
【0017】
6.レーダー装置カバー
レーダー装置カバーの適用部位は、特に限定されないが、自動車の外装塗装製品への適用が好ましく、特にラジエータグリル、グリルカバー、サイドモール、バックパネル、バンパー、エンブレム等に適する。
【0018】
(2)レーダー装置を覆うレーダー波透過性のレーダー装置カバーの製造方法において、樹脂基材の表面にベースコート塗膜層を施すことなくInよりなるIn光輝膜層を物理蒸着法により成膜する工程と、前記光輝膜層の上若しくは上下に金属化合物よりなる金属化合物膜層を物理蒸着法により成膜する工程と、前記金属化合物膜層の上におさえ塗膜層を塗布形成する工程とを含むことを特徴とするレーダー装置カバーの製造方法。さらに、前記おさえ塗膜層の上に樹脂背後材を射出成形する工程を含んでもよい。
【0019】
ここで、物理蒸着法としては、特に限定されないが、真空蒸着法、分子線蒸着、イオンプレーティング、イオンビーム蒸着、スパッタリング等を例示できる。
【0020】
そして、前記In光輝膜層の物理蒸着法による成膜と、前記金属化合物膜層の物理蒸着法による成膜とを、同一のチャンバ内で連続的に行うことが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明のレーダー装置カバー及びその製造方法によれば、ベースコート塗膜層の欠陥に起因するIn光輝膜層の肌荒れ外観不良をなくすことができるとともに、ベースコート塗膜層がなくても、おさえ塗膜層の塗料溶剤及び樹脂背後材射出成形時における、熱、圧力による負荷に起因するIn光輝膜層の肌荒れ外観不良を防ぐことができ、もって面品質を確保しながら歩留まりを向上させて低コスト化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
図1及び図2に示すレーダー装置カバー10は、板状の樹脂基材11と、樹脂基材11の上にベースコート塗膜層を介さずに物理蒸着法により成膜された膜厚10〜100nmのInよりなる光輝性及びレーダー波透過性のIn光輝膜層12と、In光輝膜層12の上若しくは上下に物理蒸着法により成膜された金属化合物としての膜厚10〜100nmの金属化合物よりなる金属化合物膜層13、13’と、金属化合物膜層13の上に塗布形成されたおさえ塗膜層14と、おさえ塗膜層14の上に射出成形により設けられた樹脂背後材15とから構成されている。
【実施例】
【0023】
以下、図1及び図2に示すように、自動車のラジエータグリル1の一部にその一部に代えて設けられるレーダー装置カバー10に具体化した実施例について説明する。ラジエータグリル1は、樹脂製であるが、金属被膜により光輝性をもたせたものであるため、その金属被膜がレーダー波を遮断し又は大きく減衰させる。そこで、ラジエータグリル1の一部に穴が形成され、その穴に光輝性及びレーダー波透過性のレーダー装置カバー10が取り付けられる。レーダー装置カバー10の背後にはレーダー装置2が配設され、言い換えれば、レーダー装置2のレーダー波の経路上はレーダー装置カバー10によって覆われる。
【0024】
レーダー装置カバー10は、PCよりなる板厚5mmの板状の樹脂基材11と、樹脂基材11の上にベースコート塗膜層を介さずに成膜された膜厚約40nm(後述する実施例8のみ約46nm)(なお、本例では20〜60nmが最適である)のInよりなる光輝性及びレーダー波透過性のIn光輝膜層12と、In光輝膜層12の上(図1(b))好ましくは上下(図1(c))に成膜された金属化合物としての例えばチタン化合物又はケイ素化合物よりなる所定膜厚(表1で後述)の金属化合物膜層13、13’と、金属化合物膜層13の上に形成されたアクリル系2液性熱乾型塗料よりなる膜厚約30μmのおさえ塗膜層14と、おさえ塗膜層14の上に設けられたAES樹脂よりなる厚さ4mmの樹脂背後材15とから構成されている。樹脂基材11の下面がカバー表面(意匠面)であり、樹脂背後材15の背後にレーダー装置2が配設される。
【0025】
各層の性状は次のとおりである。
樹脂基材11は可視光に対して透明であり、レーダー波に対しては透過性であり、その両面は極めて平滑なものである。
金属化合物膜層13’(In光輝膜層12の下)は可視光に対し透明であり、レーダー波に対しては透過性である。
In光輝膜層12は可視光に対しては反射性・光輝性であるが、レーダー波とりわけ例えば波長1〜10mmのミリ波レーダーに対してはこれをほとんど減衰させずに十分に透過させる。
金属化合物膜層13(In光輝膜層12の上)は可視光に対しては透明でも不透明でもよいが、本例では透明であり、レーダー波に対しては透過性である。
おさえ塗膜層14は可視光に対しては透明でも不透明でもよいが、本例では不透明(黒色)であり、レーダー波に対しては透過性である。
樹脂背後材15は可視光に対しては透明でも不透明でもよいが、本例では不透明であり、レーダー波に対しては透過性である。また、樹脂背後材15は樹脂基材11の側部に回り込んで接合している。
【0026】
このレーダー装置カバー10は、次の工程を経て製造されたものである。
【0027】
(1)In光輝膜層12の成膜工程:金属化合物膜層13’を成膜しない場合(1a)と、成膜する場合(1b)とに分説する。
(1a)ベースコート塗膜層を施していない樹脂基材11を真空チャンバ(図示略)内にセットし、ターゲットのInをEB(電子ビーム)加熱する真空蒸着法により、樹脂基材11の表面にIn光輝膜層12を成膜する。
(1b)ベースコート塗膜層を施していない樹脂基材11を真空チャンバ(図示略)内にセットし、ターゲットのチタン化合物又はケイ素化合物をEB加熱する真空蒸着法により、樹脂基材11の上に金属化合物膜層13’を成膜した後、同真空チャンバ内で連続的にターゲットのInをEB加熱する真空蒸着法により、金属化合物膜層13’の表面にIn光輝膜層12を成膜する。
【0028】
(2)同真空チャンバ内で連続的に、ターゲットのチタン化合物又はケイ素化合物をEB加熱する真空蒸着法により、In光輝膜層12の上に金属化合物膜層13を成膜する工程
【0029】
3.同真空チャンバから上記成膜後の樹脂基材11を取り出し、金属化合物膜層13の上にアクリル系2液性熱乾型塗料をスプレー塗布しておさえ塗膜層14を形成する工程: この2液性熱乾型塗料は塗料溶剤としてエステル・ケトン系溶剤を含むので、スプレー塗布後は、乾燥室に80℃×1時間保持して同溶剤を揮発させ、乾燥した。
【0030】
4.上記塗布形成後の樹脂基材11をインサートとして金型(図示略)にセットし、おさえ塗膜層14の上にAES樹脂を射出して樹脂背後材15を成形する工程: 射出時のAES樹脂の温度は190℃であり、圧力は18600N/m2である。
【0031】
そして、上記のとおり樹脂基材11の上にIn光輝膜層12、金属化合物膜層13、おさえ塗膜層14及び樹脂背後材15を設け、金属化合物膜層13の種類及び膜厚だけを次の表1に示すように変更した実施例1〜6と、さらにIn光輝膜層12の下に金属化合物膜層13’を追加的に成膜した実施例7,8のレーダー装置カバーを、それぞれ複数個製造した。また、比較のため、実施例1に対し金属化合物膜層13を成膜しなかった比較例1と、金属化合物膜層13を成膜してもその膜厚が5nmしかない比較例2のレーダー装置カバーも、それぞれ複数個製造した。そして、各例の外観不良の有無による面品質と製品としての歩留まりを確認した。
【0032】
【表1】

【0033】
表1のとおり、比較例1,2では、おさえ塗膜層14の塗布形成時に、その塗料溶剤によりIn光輝膜層12がアタックされて肌荒れし、また、樹脂背後材15の成形時においても、熱、圧力の影響によりクラックが発生し、外観不良となった。この外観不良は製造した複数個のほぼ全部において発生し、製品としての歩留まりは評価外であった。これは、金属化合物膜層による保護が無い又は弱いためであると考えられる。
【0034】
これに対し、十分な膜厚の金属化合物膜層13を成膜した実施例1〜8では、そのような塗料溶剤のアタックによるIn光輝膜層12の肌荒れが見られず、また、樹脂背後材15の成形時における、熱、圧力の影響によるクラックも発生せず、良好な外観が得られた。これは、金属化合物膜層13が、おさえ塗膜層14の塗料溶剤のアタックからIn光輝膜層12を保護するバリア層として作用したことと、樹脂基材11に対するIn光輝膜層12の密着力を高める作用を、薄いIn光輝膜層12を通して奏したことによるものと考えられる。
【0035】
但し、In光輝膜層12の上だけに金属化合物膜層13を成膜した実施例1〜6では、製造した複数個の一部に、樹脂背後材15の成形時におけるクラックが発生する例が見られたため、製品としての歩留まりは十分に実用の範囲ではあるものの改善の余地があった。これに対し、In光輝膜層12の上下に金属化合物膜層13、13’を成膜した実施例7,8では、製造した全数においてそのようなクラックが見られず、製品としての歩留まりは非常に良好であった。これは、金属化合物膜層13、13’でIn光輝膜層をサンドイッチすることにより、In光輝膜層12が補強されたためと考えられる。
【0036】
なお、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、発明の趣旨から逸脱しない範囲で適宜変更して具体化することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の実施例のレーダー装置カバーを示し、(a)は断面図、(b)は部分拡大断面図である。
【図2】同レーダー装置カバーの自動車ラジエータグリルへの取付状態を示す斜視図である。
【図3】従来例のレーダー装置カバーを示し、(a)は断面図、(b)は部分拡大断面図である。
【符号の説明】
【0038】
1 ラジエータグリル
2 レーダー装置
10 レーダー装置カバー
11 樹脂基材
12 In光輝膜層
13 金属化合物膜層
13’ 金属化合物膜層
14 おさえ塗膜層
15 樹脂背後材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーダー装置を覆うレーダー波透過性のレーダー装置カバーにおいて、樹脂基材と、前記樹脂基材の上にベースコート塗膜層を介さずに成膜されたInよりなるIn光輝膜層と、前記In光輝膜層の上若しくは上下に成膜された金属化合物よりなる金属化合物膜層と、前記金属化合物膜層の上に形成されたおさえ塗膜層とを含むことを特徴とするレーダー装置カバー。
【請求項2】
前記おさえ塗膜層の上に設けられた樹脂背後材を含む請求項1記載のレーダー装置カバー。
【請求項3】
前記In光輝膜層の膜厚が10〜100nmである請求項1又は2記載のレーダー装置カバー。
【請求項4】
前記金属化合物が、チタン化合物又はケイ素化合物である請求項1〜3のいずれか一項に記載のレーダー装置カバー。
【請求項5】
前記In光輝膜層の上に成膜された前記金属化合物膜層の膜厚が10〜200nmである請求項1〜4のいずれか一項に記載のレーダー装置カバー。
【請求項6】
前記In光輝膜層の下に成膜された前記金属化合物膜層の膜厚が3〜200nmである請求項1〜5のいずれか一項に記載のレーダー装置カバー。
【請求項7】
レーダー装置を覆うレーダー波透過性のレーダー装置カバーの製造方法において、樹脂基材の表面にベースコート塗膜を施すことなくInよりなるIn光輝膜層を物理蒸着法により成膜する工程と、前記In光輝膜層の上若しくは上下に金属化合物よりなる金属化合物膜層を物理蒸着法により成膜する工程と、前記金属化合物膜層の上におさえ塗膜層を塗布形成する工程とを含むことを特徴とするレーダー装置カバーの製造方法。
【請求項8】
前記おさえ塗膜層の上に樹脂背後材を射出成形する工程を含む請求項7記載のレーダー装置カバーの製造方法。
【請求項9】
前記In光輝膜層の物理蒸着法による成膜と、前記金属化合物膜層の物理蒸着法による成膜とを、同一のチャンバ内で連続的に行う請求項7又は8記載のレーダー装置カバーの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2007−93241(P2007−93241A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−279373(P2005−279373)
【出願日】平成17年9月27日(2005.9.27)
【出願人】(000241463)豊田合成株式会社 (3,467)
【出願人】(593148631)新光ネームプレート株式会社 (3)
【Fターム(参考)】