説明

レーダ装置、及び方位算出方法

【課題】異なるターゲットに対応する周波数スペクトルが重なった場合でも、各ターゲットの方位を正確に算出可能なレーダ装置に関する技術を提供することを課題とする。
【解決手段】少なくとも二つの受信アンテナを介して受信される反射波を、各受信アンテナの受信信号として受信し、送信信号と受信信号から生成されるビート信号のピーク周波数の位相差を算出し、算出された位相差を記憶領域に記憶し、算出された位相差に基づいてターゲットの方位を算出する。また、算出された方位に関する方位情報を含む、ビート信号のピーク周波数の変化を予測する予測情報に基づいて、複数のターゲットのピーク周波数が重なるか否かを予測し、記憶領域に記憶される位相差に基づいて、ピーク周波数が重なる際の位相差を予測位相差として算出し、ピーク周波数が重なると予測される場合、予測位相差に基づいてターゲットの方位を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ターゲットの検出を行うレーダ装置及び方位算出方法の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
ターゲットを検出するレーダ装置として、モノパルス方式のレーダ装置が知られている(例えば、特許文献1を参照)。特許文献1では、周波数上昇部、周波数下降部、及び周波数一定部からなるレーダ波を送信し、そのレーダ波の反射波を2個のアンテナで受信し、それぞれの受信信号に関して、周波数上昇部、周波数下降部、及び周波数一定部毎に、送信信号と受信信号の周波数の差を示すビート信号が生成される。そして、周波数上昇部ビート信号のピーク周波数と周波数下降部ビート信号のピーク周波数におけるビート信号の位相差に基づいて、両ピーク周波数がペアマッチできない場合、複数の対象物によるピーク周波数が重なったものとみなして、周波数一定部のビート信号のピーク周波数における位相差から、対象物の位相が算出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−340755号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
レーダ装置に対するターゲットの方位を測定する方式の一つとして、位相モノパルス方式が知られている。図1は、位相モノパルス方式の原理図を示す。位相モノパルス方式では、例えば二つのアンテナA1、A2を配置し、各アンテナA1、A2で受信した信号の位相差(Δφ)に基づいて到来電波の方向を求める。位相差は、到来角度θ、アンテナの間隔d、搬送波(反射波)の波長λより、数1で表される。
【0005】
[数1]
Δφ=2π・(d・sinθ/λ)
【0006】
位相差の算出では、まず、三角波で変調した送信波がアンテナから出力され、ターゲットから反射してアンテナで受信した受信波と送信波の一部をミキシングすることでビート信号の周波数が取得される。そして、ビート信号にフーリエ変換処理が行われ、周波数スペクトルデータが得られ、この周波数スペクトルデータから、周波数スペクトルのピーク周波数が検出される。周波数スペクトルデータは、複素平面における複素ベクトルとして表される。検出された周波数スペクトルのピーク周波数は、ターゲットとの距離及び相対速度に応じた周波数である。そして、周波数スペクトルのピーク周波数が特定されると、ピーク周波数におけるビート信号の位相が算出される。ここで、周波数スペクトルデータは、複素平面における複素ベクトルとして表されるので、ビート信号の位相は、例えば、複素ベクトルと複素平面における実軸となす角度から算出することができる。そして、ビート信号の位相の差分を求めることで位相差が算出され、算出された位相差から、ターゲットの方位が算出可能となる。
【0007】
ここで、上述した位相モノパルス方式では、複数のターゲットが存在する場合において、各ターゲットに対応する周波数スペクトルのピーク周波数が重なると各ターゲットの方位を正確に算出することができない場合がある。図2は、ターゲットとレーダ装置との位置関係の一例を示す。より詳細には、図2は、レーダ装置が搭載された車両(自車)の前方から対向車(移動ターゲット)が進行中であり、対向車の側方には、複数の支柱を有す
るガードレール(静止ターゲット)が設置されている状態を示す。
【0008】
ここで、図3Aは、図2に示すシチュエーションにおいて従来のレーダ装置で取得される周波数スペクトルデータの一例であり、図3Bは、図3Aにおける周波数スペクトルデータを複素ベクトルとして表した図を示す。図3Aにおいて、横軸は周波数であり、縦軸は反射レベルである。図3Aにおける実線は、静止ターゲット、すなわちガードレールからの反射レベルを表しており、図3Aにおける4つのピークは、ガードレールの支柱からの反射波に対応する。図3Aにおける点線は、移動ターゲット、すなわち対向車からの反射レベルを表しており、図3Aの例では、移動ターゲットのピーク周波数と静止ターゲットのピーク周波数が重なっており、ピーク値が一致している。このように周波数スペクトルのピーク周波数が重なると、レーダ装置では位相が合成されて分離することができなくなる。換言すると、周波数スペクトルデータには、本来的には、ガードレールの支柱に対応する複素ベクトルと対向車に対応する複素ベクトルが含まれるものの、実際には二つの複素ベクトルの合成ベクトルしか取得することができなくなる。なお、図3Bは、複素平面を示しており、X軸が実軸であり、Y軸が虚軸であり、図3Bでは、実際に取得される合成ベクトルと、実際には取得できない、静止ターゲットからの反射波に対応する複素ベクトルと移動ターゲットからの反射波に対応する複素ベクトルが示されている。
【0009】
このように、各ターゲットに対応する周波数スペクトルのピーク周波数が重なると各ターゲットの方位を正確に算出できない。また、その場合、PCS(Pre-crash Safety System)の誤作動や、ターゲットの不検出を招く虞がある。
【0010】
本発明では、異なるターゲットに対応する周波数スペクトルが重なった場合でも、各ターゲットの方位を正確に算出可能なレーダ装置に関する技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明では、上述した課題を解決するため、ターゲットの位相差を記憶領域に記憶しておき、異なるターゲットからの反射波に対応する周波数スペクトルのピーク周波数が重なることが想定される場合には、記憶領域に記憶した位相差の履歴から周波数スペクトルのピーク周波数が重なる際のターゲットの位相差を予測位相差として算出し、算出された予測位相差を用いてターゲットの方位を算出することとした。
【0012】
より詳細には、本発明は、周波数変調された送信信号を、送信アンテナを介して送信される送信波として送信する送信部と、前記送信波がターゲットで反射された反射波であって、少なくとも二つの受信アンテナを介して受信される反射波を、各受信アンテナの受信信号として受信する受信部と、前記送信信号と前記各受信アンテナの受信信号から生成されるビート信号のピーク周波数の位相差を算出する位相差算出部と、前記位相差算出部で算出された位相差を記憶領域に記憶させる記憶部と、前記位相差算出部で算出された位相差に基づいて前記ターゲットの方位を算出する方位算出部と、前記方位算出部で算出された方位に関する方位情報を含む予測情報であって、前記ビート信号のピーク周波数の変化を予測する予測情報に基づいて、複数のターゲットのピーク周波数が重なるか否かを予測する予測部と、前記記憶領域に記憶される位相差に基づいて、前記ピーク周波数が重なる際の位相差を予測位相差として算出する予測位相差算出部と、を備え、前記方位算出部は、前記予測部が前記ピーク周波数が重なると予測した場合、前記予測位相差算出部で算出された予測位相差に基づいて前記ターゲットの方位を算出する、レーダ装置である。
【0013】
本発明に係るレーダ装置は、方位算出部で算出された位相差そのものを記憶領域に記憶することを特徴の一つとする。位相差に基づいて算出された方位や相対速度ではなく、位相差そのものを記憶することで、記憶した位相差に基づいて位相差の予測値(予測位相差
)を算出することが可能となる。これにより、予測部によって複数のターゲットのピーク周波数が重なると予測された場合、算出された予測位相差に基づくターゲットの方位が算出可能となる。これにより、仮に複数のターゲットのピーク周波数が重なった場合であっても、各ターゲットの方位を正確に算出することができる。その結果、PCS(Pre-crash Safety System)の誤作動や、ターゲットの不検出といったことも回避することができ
る。ピーク周波数が重なるか否かの予測は、予測情報に基づいて行われる。予測情報は、少なくとも方位算出部で算出された方位に関する方位情報を含む。予測情報には、方位情報の他、例えばレーダ装置とターゲットの相対速度に関する相対速度情報や、受信アンテナの間隔に関する情報などが含まれる。上記予測情報を記憶しておくことで複数のターゲットのピーク周波数が重なるか否かを予測することが可能となる。
【0014】
本発明に係るレーダ装置は、例えば車両に搭載することで、他の走行車両などの移動体(移動ターゲット)や、標識、ガードレールといった静止物(静止ターゲット)の方位を算出することができる。本発明におけるターゲットには、上記移動ターゲットや静止ターゲットが含まれる。記憶領域に記憶する位相差には、移動ターゲット、静止ターゲットに関する位相差が含まれる。
【0015】
ここで、本発明に係るレーダ装置において、前記ターゲットには、前記レーダ装置に対して移動する移動ターゲットと、静止している静止ターゲットとが含まれ、前記記憶部は、前記方位算出部で算出された位相差のうち、前記移動ターゲットからの反射波の位相差を前記記憶領域に記憶させ、前記予測位相差算出部は、前記予測部が前記ピーク周波数が重なると予測した場合、前記記憶領域に記憶される前記移動ターゲットからの反射波の位相差に基づいて、前記ピーク周波数が重なる際の位相差を前記予測位相差として算出し、前記方位算出部は、前記予測部が前記ピーク周波数が重なると予測した場合、前記予測位相差算出部で算出された前記移動ターゲットからの反射波の予測位相差に基づいて前記ターゲットの方位を算出するようにしてもよい。
【0016】
なお、予測位相差は、ピーク周波数が重なることを予測した場合に用いられるが、ピーク周波数が重なる態様には、異なるターゲット同士のピーク周波数の反射レベルのピーク値(以下、単にピーク値という)が完全に一致する場合、一方のピーク周波数のピーク値が他方のピーク周波数のピーク値を上回る場合、若しくは、一方のピーク周波数のピーク値が他方のピーク周波数のピーク値を下回る場合が含まれる。例えば、移動ターゲットに関するピーク周波数のピーク値が、静止ターゲットに関するピーク周波数のピーク値よりも大きい場合には、移動ターゲットに関するピーク周波数を抽出することはできる。但し、移動ターゲットに関するピーク周波数の抽出はできるものの、抽出されたピーク周波数から算出された位相差には移動ターゲットの位相差と静止ターゲットの位相差が含まれる。すなわち、抽出されたピーク周波数は、あくまでも移動ターゲットの位相差と静止ターゲットの位相差が合成されたものにすぎない。従って、本発明に係るレーダ装置は、ピーク周波数が完全に一致する場合だけでなく、一方のピーク周波数のピーク値が他方のピーク周波数のピーク値を上回るか若しくは下回る場合にも好適に用いることができる。これによりターゲットの方位をより正確に算出することが可能となる。
【0017】
ここで、本発明に係るレーダ装置は、前記予測部が前記ピーク周波数が重なると予測した場合、前記予測位相差算出部で算出される予測位相差と前記方位算出部で算出された位相差との差分が所定の範囲内であるか否かを判断する判断部を更に備え、前記予測位相差算出部は、記憶領域に記憶される位相差を平均した平均位相差を算出し、該平均位相差に基づいて前記方位算出部で算出された位相差を補正して前記予測位相差として算出し、前記方位算出部は、前記判断部が前記差分が所定の範囲内であると判断した場合、前記平均位相差に基づいて補正されることで算出された予測位相差に基づいて前記ターゲットの方位を算出し、前記判断部が前記差分が所定の範囲内であると判断しなかった場合、前記平
均位相差に基づかない前記予測位相差に基づいて前記ターゲットの方位を算出するようにしてもよい。
【0018】
平均位相差とは、記憶領域に記憶される位相差を平均化した値、換言すると位相差の移動平均である。時系列データとしての位相差を平滑化し、この平滑化した平均位相差に基づいて方位算出部で算出された位相差を補正して予測位相差を算出することで、位相差のばらつきを抑えることができ、その結果、ターゲットの方位をより正確に算出することができる。移動平均には、記憶領域に記憶されるn個の位相差を単純に平均する単純移動平均、例えば直近の位相差に重みをつけて平均する加重移動平均が含まれる。
【0019】
また、本発明は、上述したレーダ装置で実行される処理を実現させる方法であってもよい。具体的には、本発明は、周波数変調された送信信号を、送信アンテナを介して送信される送信波として送信する送信ステップと、前記送信波がターゲットで反射された反射波であって、少なくとも二つの受信アンテナを介して受信される反射波を、各受信アンテナの受信信号として受信する受信ステップと、前記送信信号と前記各受信アンテナの受信信号から生成されるビート信号のピーク周波数の位相差を算出し、該位相差に基づいて前記ターゲットの方位を算出する方位算出ステップと、前記方位算出ステップで算出された位相差を記憶領域に記憶させる記憶ステップと、前記方位算出ステップで算出された方位に関する方位情報を含む予測情報であって、前記ビート信号のピーク周波数の変化を予測する予測情報に基づいて、複数のターゲットのピーク周波数が重なるか否かを予測する予測ステップと、前記記憶領域に記憶される位相差に基づいて、前記ピーク周波数が重なる際の位相差を予測位相差として算出する予測位相差算出ステップと、をレーダ装置のコンピュータが実行し、前記方位算出ステップでは、前記予測ステップにおいて前記ピーク周波数が重なると予測された場合、前記予測位相差算出ステップで算出された予測位相差に基づいて前記ターゲットの方位を算出する。
【0020】
本発明では、例えば既存のレーダ装置であっても、上記方位算出方法に係る所定のステップをレーダ装置のコンピュータに実行させることでターゲットの方位を算出することができる。換言すると、レーダ装置のハードウェアを変更することなく、方位の算出精度を向上させることができる。
【0021】
なお、本発明は、上述したレーダ装置で実行される処理を実現させるプログラムであってもよい。更に、本発明は、そのようなプログラムを記録したコンピュータが読み取り可能な記録媒体であってもよい。この場合、コンピュータ等に、この記録媒体のプログラムを読み込ませて実行することにより、その機能を提供させることができる。なお、コンピュータ等が読み取り可能な記録媒体とは、データやプログラム等の情報を電気的、磁気的、光学的、機械的、又は化学的作用によって蓄積し、コンピュータ等から読み取ることができる記録媒体をいう。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、異なるターゲットに対応する周波数スペクトルが重なった場合でも、各ターゲットの方位を正確に算出可能なレーダ装置に関する技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】位相モノパルス方式の原理図を示す。
【図2】ターゲットとレーダ装置との位置関係の一例を示す。
【図3A】図2に示すシチュエーションにおいて従来のレーダ装置で取得される周波数スペクトルデータの一例を示す。
【図3B】図3Aにおける周波数スペクトルデータを複素ベクトルとして表した図を示す。
【図4】第一実施形態に係るレーダ装置の概略構成を示す。
【図5】メモリ内の記憶領域の一例を示す。
【図6A】図2に示すシチュエーションにおいて第一実施形態に係るレーダ装置で取得された周波数スペクトルデータの一例を示す。
【図6B】図6Aにおける周波数スペクトルデータを複素ベクトルとして表した図を示す。
【図7】第一実施形態に係るレーダ装置で実行される方位検出の処理フローを示す。
【図8】FM−CW方式の原理図を示す。
【図9】第二実施形態に係るレーダ装置で実行される方位検出の処理フローを示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
次に、本発明のレーダ装置の実施形態について図面に基づいて説明する。本実施形態に係るレーダ装置2は、車両1に搭載され、他の車両、標識、ガードレール等、車両の周囲に存在するターゲットを検知することに用いることができる。ターゲットの検知結果は、車両1の記憶装置やECU(Electrical Control Unit)等に対して出力され、例えばP
CS(Pre-crash Safety System)などの車両制御に用いることができる。但し、本実施
形態に係るレーダ装置2は、車載レーダ装置以外の用途に用いられてもよい。
【0025】
<第一実施形態>
第一実施形態に係るレーダ装置2では、ターゲットの方位を検出する測角方式として位相モノパルス方式を用い、ターゲットとの相対速度と距離を検出する測距方式としてFM−CW(Frequency Modulated Continuous Wave)方式を用いる。位相モノパルス方式で
は、例えば二つのアンテナA1、A2を配置し、各アンテナA1、A2で受信した信号の位相差(Δφ)に基づいて到来電波の方向を求める(図1参照)。FM−CW方式は、三角波で変調した送信波を送信し、ターゲットで反射した反射波の周波数は距離による時間遅れと速度差によるドプラシフトの成分を含むことから、反射波と送信波の差分をとることで距離と速度を算出する。
【0026】
[構成]
図4は、第一実施形態に係るレーダ装置2の概略構成を示す。第一実施形態に係るレーダ装置2は、車両1の前部に搭載され、アンテナ3、制御部4を備える。なお、図示では省略するが、第一実施形態に係るレーダ装置2は、制御部4によって制御されるハードウェア構成として既存のレーダ装置が有する、送信回路、受信回路、ADコンバータ、DAコンバータ、フーリエ変換回路等を備える。本実施形態では、レーダ装置2を車両1の前部に搭載した場合を例に説明するが、搭載位置は、例えば車両の側部や後部に搭載されていてもよい。
【0027】
アンテナ3は、ミリ波帯の送信波を送信し、また、送信波がターゲットで反射された反射波を受信する。第一実施形態に係るアンテナ3は、等間隔dで配置された3つのポート1、2、3を有する。各ポート1、2、3(以下、各ポートを区別して説明する必要がない場合には、包括して単にポートと称する。)が有する機能は、制御部4により、適宜切り替えることができる。また、第一実施形態では、アンテナ3が3つのポートを有するが、アンテナ3は、受信アンテナとして機能するポートを少なくとも2つ有していればよく、ポート数は特に限定されるものではない。
【0028】
制御部4は、レーダ装置2が備える各構成を制御し、CPU(Central Processing Unit)40、メモリ41等を含むコンピュータとコンピュータ上で実行されるプログラムに
よって実現することができる。メモリ41は、揮発性のRAM(Random Access Memory)と、不揮発性のROM(Read Only Memory)を含む。ROMには、フラッシュメモリ、E
PROM(Erasable Programmable Read-Only Memory)、EEPROM(Electrically Erasable Programmable Read-Only Memory)のような書き換え可能な半導体メモリを含む
。CPU40は、ROMに格納されている、レーダ装置2を制御するための各種プログラムをRAMのワークエリアに展開し、制御部4に入力される各種データに応じて、各種プログラムに従った処理を実行する。制御部4が有する各構成は、CPU40上で実行されるコンピュータプログラムとして構成することができる。また、各構成は、専用のプロセッサとして構成してもよい。制御部4が有する各構成には、送信部42、受信部43、方位算出部44、記憶部45、予測部46、予測位相差算出部47、判断部48、測距部49が含まれる。
【0029】
送信部42は、周波数変調された送信信号を、アンテナ3を介して送信される送信波として送信する。第一実施形態に係るレーダ装置2では、測角方式として位相モノパルス方式を用い、測距方式としてFM−CW方式を用いる。そこで、第一実施形態では、送信部42は、三角波で変調した送信波をアンテナ3から送信する。
【0030】
受信部43は、送信波がターゲットで反射された反射波を、アンテナ3の各ポートの受信信号として受信する。なお、アンテナ3の各ポートは、送信機能と受信機能とを適宜切り替えることができるが、この切替は、送信部42や受信部43が行うことができる。また、切替部を別途設けて切り替えるようにしてもよい。更に、送信又は受信専用のアンテナのポートを設けるようにしてもよい。
【0031】
方位算出部44は、送信信号と各ポートに対応する受信信号から生成されるビート信号のピーク周波数の位相差を上り区間(UP)と下り区間(DOWN)の夫々について算出し、算出した位相差に基づいてターゲットの方位を算出する。方位算出部44は、アンテナ3で受信した受信波と送信波の一部をミキシングすることでビート信号の周波数を取得する。ビート信号は、送信信号と受信信号との差分を求めることで算出される。また、予測部46がピーク周波数が重なると予測した場合には、方位算出部44は、予測位相差算出部47で算出された予測位相差に基づいてターゲットの方位を算出する。
【0032】
記憶部45は、位相差算出部で算出された位相差をメモリ41が有するRAM内の所定の領域に記憶させる。図5は、メモリ内の記憶領域の一例を示す。図5は、上り区間(UP)と下り区間(DOWN)の位相差(Δφ)がターゲット毎に複数記憶されている例を示す。
【0033】
予測部46は、方位算出部44で算出された方位に関する方位情報を含む予測情報、相対速度情報、受信アンテナに関する情報に基づいて、複数のターゲットのピーク周波数が重なるか否かを予測する。相対速度情報は、レーダ装置2とターゲットの相対速度に関する情報であり、測距部49が算出する。受信アンテナに関する情報とは、アンテナ3の各ポートの間隔に関する情報(本実施形態では、間隔d)である。
【0034】
予測位相差算出部47は、メモリ41のRAM内の記憶領域に記憶される位相差に基づいて、ピーク周波数が重なる際の位相差を予測位相差として算出する。具体的には、上り区間又は下り区間何れかの位相差が適宜選択され、選択された位相差に基づいてピーク周波数が重なる際の予測位相差が算出される。例えば、予測位相差算出部47は、メモリ41の記憶領域に記憶される位相差を平均した平均位相差を算出し、この平均位相差に基づいて方位算出部44で算出された位相差を補正して予測位相差として算出する。
【0035】
判断部48は、予測部46がピーク周波数が重なると予測した場合、予測位相差算出部47で算出される予測位相差と方位算出部44で算出された位相差との差分が所定の範囲内であるか否かを判断する。所定の範囲は、アンテナ3のポートの間隔、算出する方位の
精度、反射波の検知範囲等に基づいて設定することができる。
【0036】
測距部49は、FM−CW方式により、ターゲットとの相対速度及び距離を算出する。具体的な算出方法については、後述する。
【0037】
[処理フロー]
次に上述した第一実施形態に係るレーダ装置2で実行される処理について説明する。以下に示す処理の順序は、一例にすぎず、処理の順序は実施の形態に応じて適宜入れ替えてもよい。以下の説明では、図2に示すシチュエーションにおいて移動ターゲットの方位を検出する場合を一例として説明する。図2は、レーダ装置2が搭載された車両1の前方から対向車(移動ターゲット)が進行中であり、対向車の側方には、複数の支柱を有するガードレール(静止ターゲット)が設置されている状態を示す。先に説明したように、図2に示すシチュエーションでは、移動ターゲットのピーク周波数と静止ターゲットのピーク周波数が重なると、レーダ装置では位相が合成されて分離することができなくなる(図3A、図3B参照)。
【0038】
図3A、図3Bは、移動ターゲットのピーク周波数と静止ターゲットのピーク周波数が重なり、反射レベルピーク値(以下、単にピーク値という)、が一致している例であるが、ピーク周波数が重なる態様には、異なるターゲット同士のピーク周波数のピーク値が完全に一致する場合の他、一方のピーク周波数のピーク値が他方のピーク周波数のピーク値を上回る場合、若しくは、一方のピーク周波数のピーク値が他方のピーク周波数のピーク値を下回る場合が含まれる。例えば、移動ターゲットのピーク周波数のピーク値が、静止ターゲットのピーク周波数のピーク値よりも大きい場合には、移動ターゲットのピーク周波数を抽出することはできる。但し、抽出されたピーク周波数から算出された位相差には移動ターゲットの位相差と静止ターゲットの位相差が含まれる。すなわち、抽出されたピーク周波数は、あくまでも移動ターゲットの位相差と静止ターゲットの位相差が合成された位相差にすぎない。
【0039】
ここで、図6Aは、図2に示すシチュエーションにおいて第一実施形態に係るレーダ装置で取得された周波数スペクトルデータの一例であり、図6Bは、図6Aにおける周波数スペクトルデータを複素ベクトルとして表した図を示す。図6Aにおいて、横軸は周波数であり、縦軸は反射レベルである。図6Aにおける実線は、静止ターゲットであるガードレールからの反射レベルを表しており、図6Aにおける4つのピークは、ガードレールの支柱からの反射波に対応する。図6Aにおける点線は、移動ターゲットである対向車からの反射レベルを表す。図6Aの例では、移動ターゲットのピーク周波数と静止ターゲットのピーク周波数が重なり、移動ターゲットのピーク値が静止ターゲットのピーク値を若干上回っている。図6A、図6Bに示す例では移動ターゲットのピーク値が静止ターゲットのピーク値を上回っており、移動ターゲットのピーク周波数を抽出することは可能である。但し、抽出されたピーク周波数から算出された位相差に対応する移動ターゲットの複素ベクトルは、移動ターゲットと静止ターゲットとが重なっている以上、あくまでも移動ターゲットの複素ベクトルと静止ターゲットの複素ベクトルの合成ベクトルである。つまり、図6Bで示す合成ベクトルを移動ターゲットの複素ベクトルとすると、算出された方位には誤差が生じることになる。そこで、第一実施形態では、後述する処理を行うことでこの誤差の発生を抑える。なお、図6Bは、複素平面を示しており、X軸が実軸であり、Y軸が虚軸である。図6Bでは、実際に取得される合成ベクトルと、実際には取得できない、静止ターゲットに対応する複素ベクトルと移動ターゲットに対応する複素ベクトルが示されている。また、図6Bでは、前回の複素ベクトルも示されている。
【0040】
以下の説明では、上記のように移動ターゲットのピーク周波数のピーク値が静止ターゲットのピーク周波数のピーク値を上回っている場合を例に説明する。但し、第一実施形態
に係るレーダ装置2によれば、ピーク値が完全に一致する場合や、移動ターゲットのピーク周波数が静止ターゲットのピーク周波数を下回っている場合にも方位を正確に算出することができる。
【0041】
ここで、図7は、第一実施形態に係るレーダ装置で実行される方位検出の処理フローを示す。以下に説明する処理は、制御部4によって実行される。まず、ステップS01では、受信部43は、送信部42によってアンテナ3を介して送信された送信波がターゲットで反射された反射波を、アンテナ3の各ポートの受信信号として受信する。受信信号が受信されるとステップS02へ進む。
【0042】
ステップS02では、方位算出部44は、ビート信号のピーク周波数の位相差を算出し、算出された位相差がメモリ41に記憶される。ステップS02で算出された位相差は、実測に基づく位相差であり後述する予測位相差とは異なるものである。また、移動ターゲットの周波数スペクトルと静止ターゲットの周波数スペクトルが重なった場合における位相差は、移動ターゲットの周波数スペクトルから算出された位相差と静止ターゲットの周波数スペクトルから算出された位相差が合成された位相差である。
【0043】
位相差の算出は、位相モノパルス方式に基づいて行われる。具体的には、方位算出部44は、アンテナ3で受信した受信波と送信波の一部をミキシングすることでビート信号の周波数を取得する。第一実施形態では、取得したビート信号にフーリエ変換処理が行われ、周波数スペクトルデータが得られ、この周波数スペクトルデータから、周波数スペクトルのピーク値が検出される。周波数スペクトルデータは、複素平面における複素ベクトルとして表されるので、ビート信号の位相は、例えば、複素ベクトルと複素平面における実軸となす角度から算出することができる。そして、ビート信号の位相の差分を求めることで位相差が算出され、係る位相差に基づいてターゲットの方位が算出される。なお、ビート信号の位相差の算出は、三角波の上り区間及び下り区間の夫々について行う。算出された位相差は、記憶部45により、メモリ41内の所定の記憶領域に記憶される。なお、図5では、ターゲット毎に位相差が記憶されている、すなわち移動ターゲットと静止ターゲットの双方の位相差が記憶されているが、第一実施形態では移動ターゲットの位相差のみを記憶するようにしてもよい。位相差が記憶されるとステップS03へ進む。
【0044】
ステップS03では、方位算出部44は、算出した移動ターゲットの位相差に基づいてターゲットの方位を算出する。また、測距部49は、ターゲットとの相対速度及び距離を算出する。相対速度及び距離の算出は、FM−CW方式に基づいて行われる。
【0045】
ここで、図8は、FM−CW方式の原理図を示す。三角波の上り区間の周波数をfu、下り区間の周波数をfdとし、距離周波数fr、速度周波数fvとの関係を示すと数2のようになる。
【0046】
[数2]
fu=fr―fv
fd=fr+fv (近づく方向の速度+とする)
【0047】
ここで、送信波の変調周波数をFM、f0を中心周波数とする変調幅をΔf、光速をc
、距離をR、相対速度をVとすると数3で表される。その結果、ターゲットとの距離と相対速度が、検出されたfu、fdより求めることができる。
【0048】
[数3]
fr=((4×Δf×FM)/c)×R
fv=(2×f0/c)×V
【0049】
ターゲットの方位及びターゲットとの相対速度等が算出されるとステップS04へ進む。
【0050】
ステップS04では、予測部46は、静止ターゲットと移動ターゲットのピーク周波数が重なるか否かを予測する。具体的には、予測部46は、方位算出部44で算出された方位に関する方位情報を含む予測情報、測距部49で算出された相対速度に関する相対速度情報、受信アンテナのポート間隔に関する情報に基づいて、静止ターゲットと移動ターゲットのピーク周波数が重なるか否かを予測する。換言すると、ターゲットの方位、ターゲットとの相対速度、ターゲットとの距離の変位から周波数スペクトルの変化が予測され、移動ターゲットと静止ターゲット毎に算出される周波数スペクトルの変化を互いに照合することでピーク周波数が重なるか否かが判断できる。ピーク周波数が重なると判断されなかった場合、ステップS05へ進み、ステップS03で算出された方位が採用される。すなわち、実測による位相差に基づいて算出された方位が採用される。採用された方位は、例えばECUに対して出力され、PCSなどの車両制御に用いられる。一方、ピーク周波数が重なると判断された場合、ステップS06へ進む。
【0051】
ステップS06では、予測位相差算出部47は、例えば図5に示すメモリ41内の記憶領域にアクセスし、記憶される移動ターゲットの位相差に基づいて、ピーク周波数が重なる際の移動ターゲットの位相差を予測位相差として算出する。例えば、予測位相差算出部47は、移動ターゲットの位相差の履歴をマップ化し、移動ターゲットの位相差の履歴からピーク周波数が重なる際の予測位相差を算出する。移動ターゲットの予測位相差が算出されるとステップS07へ進む。
【0052】
ステップS07では、判断部48は、予測位相差算出部47で算出された移動ターゲットの予測位相差と方位算出部44で算出された位相差(実測による位相差)との差分が所定の範囲内であるか否かを判断する。所定の範囲は、アンテナ3のポートの間隔d、算出する方位の精度、反射波の検知範囲等に基づいて設定することができる。移動ターゲットの予測位相差と位相差との差分が所定の範囲内である場合、ステップS08へ進む。一方、移動ターゲットの予測位相差と位相差との差分が所定の範囲内でない場合、ステップS10へ進む。
【0053】
ステップS08では、予測位相差算出部47は、ステップS06で算出された移動ターゲットの予測位相差を補正する。例えば、予測位相差算出部47は、メモリ41の記憶領域に記憶される移動ターゲットの位相差を平均した平均位相差を算出し、この平均位相差に基づいて方位算出部44で算出された移動ターゲットの位相差を補正して移動ターゲットの予測位相差として算出する。平均位相差は、記憶領域に記憶される位相差を平均化した値、換言すると位相差の移動平均として求めることができる。時系列データとしての位相差を平滑化し、この平滑化した平均位相差に基づいて方位算出部で算出された位相差を補正して予測位相差を算出することで、位相差のばらつきを抑えることができ、その結果、ターゲットの方位をより正確に算出することができる。なお、移動平均の算出は、記憶領域に記憶されるn個の移動ターゲットの位相差を単純に平均して単純移動平均として求めることができる。また、移動平均の算出は、例えば直近の移動ターゲットの位相差に重みをつけて平均し、加重移動平均として算出してもよい。なお、重み付けは、レーダ装置と移動ターゲットとの相対速度に応じて変更することができ、例えば、データのばらつきが少ない所定の相対速度を予め定めておき、係る所定の速度の範囲内での位相差に重みをつけるようにすることができる。予測位相差が補正されるとステップS09へ進む。
【0054】
ステップS09では、方位算出部44は、ステップS08において補正された移動ターゲットの予測位相差に基づいて、ターゲットの方位を再度算出する。また、ステップS1
0では、方位算出部44は、ステップS06で算出された移動ターゲットの予測位相差に基づいて、ターゲットの方位を算出する。
【0055】
[作用効果]
以上説明した第一実施形態に係るレーダ装置2によれば、異なるターゲットに対応する周波数スペクトルが重なった場合でも、各ターゲットの方位、特に移動ターゲットの方位を正確に算出することができる。第一実施形態では、移動ターゲットのピーク周波数が静止ターゲットのピーク周波数のピーク値を上回っており、移動ターゲットのピーク周波数を取得することはできるものの、この場合に取得される移動ターゲットのピーク周波数は、静止ターゲットのピーク周波数を含んでおり、算出された方位には誤差が生じることになる。第一実施形態に係るレーダ装置2では、位相差に基づいて算出された方位や相対速度ではなく、位相差そのものをメモリ41に記憶することで、記憶した位相差に基づいて位相差の予測値(予測位相差)を算出することができ、これにより、予測部46によって複数のターゲットのピーク周波数が重なると予測された場合、予測位相差算出部47で算出された予測位相差に基づくターゲットの方位が算出可能となる。従って、仮に複数のターゲットのピーク周波数が重なった場合であっても、各ターゲットの方位を正確に算出することができる。その結果、PCS(Pre-crash Safety System)の誤作動や、ターゲッ
トの不検出といったことも回避することができる。また、第一実施形態に係るレーダ装置2では、予測位相差算出部47が、平均位相差を算出して移動ターゲットの位相差を補正する機能も有することから、ターゲットの方位検出の精度をより高めることができる。また、第一実施形態に係るレーダ装置2は、制御部4又は制御部4の一部の構成を既存のレーダ装置2に組み込むことで上述した処理に基づく方位の算出が可能である。換言すると、第一実施形態にレーダ装置では、レーダ装置のハードウェアを変更することなく、方位の算出精度を向上させることができる。
【0056】
[変形例]
上述した第一実施形態では、予測位相差算出部47が平均位相差を算出して位相差を補正する機能も有する態様について説明した。但し、予測位相差算出部47は、このような補正する機能を有しない態様としてもよい。具体的には、レーダ装置2は、ステップS07からステップS09を含まない態様とすることができる。このようにすることで、制御部4の処理負担を軽減することが可能となる。
【0057】
<第二実施形態>
第二実施形態に係るレーダ装置2は、静止ターゲットの位相差を予測しておき、移動ターゲットのピーク周波数と静止ターゲットのピーク周波数が重なる場合には、予め予測した静止ターゲットの予測位相差を合成された位相差から差し引くことで移動ターゲットの位相差を算出する機能を更に備える。
【0058】
[構成]
第二実施形態に係るレーダ装置も構成そのものは、第一実施形態に係るレーダ装置と基本的には同じである。但し、制御部4が有する構成の一部が、以下に説明する機能を更に有する。
【0059】
予測位相差算出部47は、予測位相差として、移動ターゲットの予測位相差に加えて、静止ターゲットの予測位相差を算出する。また、判断部48は、予測位相差算出部47で算出された移動ターゲットの予測位相差と方位算出部44で算出された位相差との差分が所定の範囲内であるか否かの判断に加えて、予測位相差算出部47で算出された静止ターゲットの予測位相差と方位算出部44で算出された位相差との差分が所定の範囲内であるか否かの判断を行う。なお、後者の判断における所定の範囲も、前者の判断における所定の範囲と同じく、アンテナ3のポートの間隔、算出する方位の精度、反射波の検知範囲等
に基づいて設定することができる。方位算出部44は、予測位相差算出部47で算出された静止ターゲットの予測位相差と方位算出部44で算出された位相差との差分が所定の範囲内である場合、方位算出部44で先に算出した位相差(実測による位相差)に基づいて移動ターゲットの方位を算出する。また、予測位相差算出部47で算出された静止ターゲットの予測位相差と方位算出部44で算出された位相差との差分が所定の範囲内でない場合、予測位相差算出部47は、方位算出部44で先に算出され位相差(実測による位相差)と静止ターゲットの予測位相差との差分から移動ターゲットの予測位相差を算出する。そして、方位算出部44は、予測位相差算出部47で算出された差分に基づく移動ターゲットの予測位相差に基づいて移動ターゲットの方位を算出する。
【0060】
[処理フロー]
図9は、第二実施形態に係るレーダ装置で実行される方位検出の処理フローを示す。図9に示す処理の順序は、一例にすぎず、処理の順序は実施の形態に応じて適宜入れ替えてもよい。また、図9に示す処理は、第一実施形態における処理に組み込むことが可能である。以下の説明では、ステップS07において予測位相差と位相差の差分が所定範囲内であると判断されなかった場合に行う処理として説明する。
【0061】
まず、ステップS21では、予測位相差算出部47は、予測位相差として、移動ターゲットの予測位相差に加えて、静止ターゲットの予測位相差を算出する。例えば図5に示すメモリ41内の記憶領域にアクセスし、記憶される静止ターゲットの位相差に基づいて、ピーク周波数が重なる際の静止ターゲットの位相差を静止ターゲットの予測位相差として算出する。例えば、予測位相差算出部47は、静止ターゲットの位相差の履歴をマップ化し、静止ターゲットの位相差の履歴からピーク周波数が重なる際の静止ターゲットの予測位相差を算出する。静止ターゲットの予測位相差が算出されるとステップS22へ進む。
【0062】
ステップS22では、判断部48は、予測位相差算出部47で算出された静止ターゲットの予測位相差と方位算出部44で算出された位相差(実測による位相差)との差分が所定の範囲内であるか否かを判断する。静止ターゲットの予測位相差と実測による位相差との差分が所定の範囲内である場合、ステップS10へ進む。ステップS10では、方位算出部44は、ステップS06で算出された移動ターゲットの予測位相差に基づいて、ターゲットの方位を算出する。一方、静止ターゲットの予測位相差と実測による位相差との差分が所定の範囲内でない場合、ステップS23へ進む。
【0063】
ステップS23では、予測位相差算出部47は、方位算出部44で先に算出された実測による位相差と静止ターゲットの予測位相差との差分から移動ターゲットの予測位相差を算出する。先に説明したように、周波数スペクトルデータは、複素平面における複素ベクトルとして表されるので、ビート信号の位相は、複素ベクトルと複素平面における実軸となす角度から算出することができる。そして、実測による位相差と静止ターゲットの予測位相差は、夫々が複素ベクトルとして表されるので、実測による位相差の複素ベクトルから静止ターゲットの予測位相差の複素ベクトルを減算することで、移動ターゲットの予測位相差を算出することができる(図6B参照)。差分に基づく移動ターゲットの予測位相差が算出されるとステップS24へ進む。
【0064】
ステップS24では、方位算出部44は、差分に基づく移動ターゲットの予測位相差に基づいて移動ターゲットの方位を算出する。
【0065】
[作用効果]
以上説明した第二実施形態に係るレーダ装置によれば、静止ターゲットの位相差を予測しておき、移動ターゲットのピーク周波数と静止ターゲットのピーク周波数が重なる場合において、予め予測した静止ターゲットの予測位相差を実測による位相差、すなわち合成
された位相差から差し引くことで移動ターゲットの位相差を算出することができる。これにより、方位の精度をより高めることができる。なお、第二実施形態では、移動ターゲットの予測位相差に基づく移動ターゲットの方位と、静止ターゲットの予測位相差に基づく移動ターゲットの方位が検出される。従って、両方位を比較制御する比較制御部を別途設け、両方位の差分が所定の範囲内でない場合には、再度方位を検出し直す処理を行い、両方位の差分が所定の範囲内である場合には、両方位の平均値を採用するようにしてもよい。
【0066】
以上、本発明の好適な実施形態を説明したが、本発明に係るレーダ装置はこれらに限らず、可能な限りこれらの組合せを含むことができる。なお、実施形態の説明では、ターゲットの方位を検出する測角方式として位相モノパルス方式を用い、ターゲットとの相対速度と距離を検出する測距方式としてFM−CW方式を用いる場合を例に説明した。但し、本発明に係るレーダ装置に関する技術は、位相差に基づいて方位等を算出する技術であれば他の側角方式や測距方式にも適用可能である。
【符号の説明】
【0067】
1・・・車両
2・・・レーダ装置
3・・・アンテナ
4・・・制御部
40・・・CPU
41・・・メモリ
42・・・送信部
43・・・受信部
44・・・位相差算出部
45・・・記憶部
46・・・予測部
47・・・予測位相差算出部
48・・・判断部
49・・・測距部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
周波数変調された送信信号を、送信アンテナを介して送信される送信波として送信する送信部と、
前記送信波がターゲットで反射された反射波であって、少なくとも二つの受信アンテナを介して受信される反射波を、各受信アンテナの受信信号として受信する受信部と、
前記送信信号と前記各受信アンテナの受信信号から生成されるビート信号のピーク周波数の位相差を算出し、算出された位相差に基づいて前記ターゲットの方位を算出する方位算出部と、
前記方位算出部で算出された位相差を記憶領域に記憶させる記憶部と、
前記方位算出部で算出された方位に関する方位情報を含む予測情報であって、前記ビート信号のピーク周波数の変化を予測する予測情報に基づいて、複数のターゲットのピーク周波数が重なるか否かを予測する予測部と、
前記記憶領域に記憶される位相差に基づいて、前記ピーク周波数が重なる際の位相差を予測位相差として算出する予測位相差算出部と、を備え、
前記方位算出部は、前記予測部が前記ピーク周波数が重なると予測した場合、前記予測位相差算出部で算出された予測位相差に基づいて前記ターゲットの方位を算出する、レーダ装置。
【請求項2】
前記ターゲットには、前記レーダ装置に対して移動する移動ターゲットと、静止している静止ターゲットとが含まれ、
前記記憶部は、前記方位算出部で算出された位相差のうち、前記移動ターゲットからの反射波の位相差を前記記憶領域に記憶させ、
前記予測位相差算出部は、前記予測部が前記ピーク周波数が重なると予測した場合、前記記憶領域に記憶される前記移動ターゲットからの反射波の位相差に基づいて、前記ピーク周波数が重なる際の位相差を前記予測位相差として算出し、
前記方位算出部は、前記予測部が前記ピーク周波数が重なると予測した場合、前記予測位相差算出部で算出された前記移動ターゲットからの反射波の予測位相差に基づいて前記ターゲットの方位を算出する、請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項3】
前記予測部が前記ピーク周波数が重なると予測した場合、前記予測位相差算出部で算出される予測位相差と前記方位算出部で算出された位相差との差分が所定の範囲内であるか否かを判断する判断部を更に備え、
前記予測位相差算出部は、前記記憶領域に記憶される位相差を平均した平均位相差を算出し、該平均位相差に基づいて前記方位算出部で算出された位相差を補正して前記予測位相差として算出し、
前記方位算出部は、前記判断部が前記差分が所定の範囲内であると判断した場合、前記平均位相差に基づいて補正されることで算出された予測位相差に基づいて前記ターゲットの方位を算出し、前記判断部が前記差分が所定の範囲内であると判断しなかった場合、前記平均位相差に基づかない前記予測位相差に基づいて前記ターゲットの方位を算出する、請求項1又は2に記載のレーダ装置。
【請求項4】
周波数変調された送信信号を、送信アンテナを介して送信される送信波として送信する送信ステップと、
前記送信波がターゲットで反射された反射波であって、少なくとも二つの受信アンテナを介して受信される反射波を、各受信アンテナの受信信号として受信する受信ステップと、
前記送信信号と前記各受信アンテナの受信信号から生成されるビート信号のピーク周波数の位相差を算出し、該位相差に基づいて前記ターゲットの方位を算出する方位算出ステップと、
前記方位算出ステップで算出された位相差を記憶領域に記憶させる記憶ステップと、
前記方位算出ステップで算出された方位に関する方位情報を含む予測情報であって、前記ビート信号のピーク周波数の変化を予測する予測情報に基づいて、複数のターゲットのピーク周波数が重なるか否かを予測する予測ステップと、
前記記憶領域に記憶される位相差に基づいて、前記ピーク周波数が重なる際の位相差を予測位相差として算出する予測位相差算出ステップと、をレーダ装置のコンピュータが実行し、
前記方位算出ステップでは、前記予測ステップにおいて前記ピーク周波数が重なると予測された場合、前記予測位相差算出ステップで算出された予測位相差に基づいて前記ターゲットの方位を算出する、方位算出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−180030(P2011−180030A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−45776(P2010−45776)
【出願日】平成22年3月2日(2010.3.2)
【出願人】(000237592)富士通テン株式会社 (3,383)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】