説明

レーダ装置、及び障害物検知方法

【課題】他車との電波干渉を起こしている場合においても、干渉信号であることを正確に検出して、電波干渉によって先行車の検出性能劣化を適切に回避できるレーダ装置を提供する。
【解決手段】信号処理部307は、送信信号と受信信号の差信号であるビート信号を用いて、受信アンテナにおいて受信された受信信号の周波数を検出する高速フーリエ変換部307aと、受信信号の受信アンテナに対する受信角度を検出する角度検出部307bと、受信部が受信信号を受信した場合に、角度検出部307bにおいて検出された角度領域の送信信号の周波数と、高速フーリエ変換部307aにおいて検出された受信信号の周波数とを比較する周波数比較部307cと、周波数比較部307cからの出力データを用いて障害物の認識処理を行うターゲット認識部307dとを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ミリ波等の高周波レーダを用いて障害物を検証するレーダ装置に関し、特に、電子的にアンテナビームを走査するアレーアンテナ等の電子走査アンテナを用いたレーダ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、障害物を検知するために前方又は後方にレーダ装置を備える車両が実用化されている。このレーダ装置は、送信したパルス波の反射波を用いて障害物を検知して車間距離や相対速度を取得するため、車両は障害物との衝突を回避したり、また運転者へ警告することができる。
【0003】
この車両に用いられるレーダ装置として、例えば、送信する信号の周波数を三角波に沿って増減させる周波数変調パターンを用いるFM−CWレーダ装置や、複数の周波数を時分割で切り替えるCWレーダ装置が知られている。
【0004】
図6は、車載用レーダ装置の障害物の検出範囲を説明する図である。
図6(a)及び(c)に示す車両602、603、608、及び609では、角度領域602a、603a、608a、及び609aに示すように、検知範囲が重なり電波干渉が生じている領域は存在しないがアンテナのメインローブが狭いため障害物のレーダ検出範囲が狭くなっている。
【0005】
また、図6(b)や(d)の車両605、606、611、及び612に示すように指向性アンテナのビームパターンを変更して、サイドローブの影響を抑えてメインローブの範囲を拡げたレーダ装置がある。
【0006】
ところで、位相器を用いずに、隣り合うアンテナ素子間で各アンテナ素子から送信信号の電力分配点までの経路長に差を設けることによりビーム走査を行い、また検知エリアを判断してスイッチのON、OFFをすることで指向性を制御することで、大型化を招くことなく簡単な構成でビームの指向性を変化可能とするレーダ装置が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0007】
また、電波干渉によって発生したスパイクノイズを低減するフィルタを設けて、発生するスパイク状のノイズ成分を効率的に抑止して障害物検知能力を向上させたFM−CWレーダ装置が開示されている(例えば、特許文献2参照)。このFM−CWレーダ装置においては、ビート信号をデジタル変換してデータ毎の差分を取る等、複雑な処理回路が必要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−17294号公報
【特許文献2】特開2006−242818号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、図6(b)や(d)の角度領域605a、606a、611a、及び612aに示すように、レーダ装置における送信アンテナのレーダ検知範囲を単純に広角化すると、検知範囲が重なる干渉領域が存在することとなり、他車からの電波干渉を招くという問題がある。
【0010】
そして、電波干渉が生じるとレーダ装置の検出精度が劣化し、最悪の場合、先行車等のターゲット自体を認識できないという問題が生じる。特に、車載用レーダ装置の場合、測定された相手の車両までの距離、相対速度は相手の車両との衝突防止に使用されるが、複数のレーダ装置間で電波干渉が生じると当該距離、相対速度が正しく検出できず、衝突防止機能が正確に動作しないという問題がある。
【0011】
本発明は、以上の課題に鑑みてなされたものであり、アンテナの検知範囲を広角化した場合においても、受信信号に他のレーダ装置との電波干渉が生じているか否かを正確に判断し、先行車の検出性能劣化や認識レベルの低下等を適切に回避することができるレーダ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
以上の課題を解決するために、本発明に係るレーダ装置は、送信部からの送信信号と受信部において受信した受信信号とに基づいて、信号検出部で演算を行い障害物を検出するレーダ装置であって、前記送信部は、所定の電波特性の異なる値を用いて複数の送信信号を生成する送信信号生成手段と、前記送信信号生成手段において生成される複数の送信信号の合成波を生成する合成波生成手段と、複数のアンテナ素子から成り、前記合成波生成手段で生成された合成波の送信信号の電波特性に基づいてビームの指向性を変化させて送信する送信アンテナ部とを備えることを特徴とする。
【0013】
この構成により、送信部において、生成信号生成手段において電波特性の値の異なる複数の送信信号を生成して、合成波生成手段において送信信号の合成波を生成でき、送信アンテナ部において電波特性の値に対応した方向にビームを指向させることが可能となる。
【0014】
また、本発明に係るレーダ装置において、前記電波特性は、周波数であり、前記送信信号生成手段は、周波数の異なる複数の送信信号を生成し、前記合成波生成手段は、前記送信信号生成手段からの複数の送信信号を合成して合成波を生成し、前記送信アンテナ部は、当該合成波の送信信号の周波数に基づいてビームの指向性を変化させて前記アンテナ素子から送信することを特徴とする。
【0015】
この構成により、生成信号生成手段において周波数の異なる複数の生成信号を生成し、合成波生成手段において複数の生成信号を合成して合成波を生成し、送信アンテナ部から周波数に応じた角度で主ビームを指向して送信できる。
【0016】
また、本発明に係るレーダ装置の前記信号検出部は、送信信号と受信信号の差信号であるビート信号を用いて、前記受信部の受信アンテナにおいて受信された受信信号の周波数を検出する周波数検出手段と、前記受信信号の受信アンテナに対する受信角度を検出する角度検出手段と、前記受信部が受信信号を受信した場合に、前記角度検出手段において検出された角度領域の送信信号の周波数と、前記周波数検出手段において検出された受信信号の周波数とを比較する周波数比較手段と、前記周波数比較手段からの出力データを用いて障害物の認識処理を行う障害物認識手段とを備え、前記周波数比較手段は、前記比較により周波数が一致しない場合には、前記受信信号を干渉信号と判断し、前記障害物認識手段の処理対象となる前記出力データから当該受信信号を除外することを特徴とする。
【0017】
この構成により、周波数比較手段において、送信波の角度に割り当てられた周波数と、周波数検出手段において検出された周波数を比較して、周波数が一致していない場合には受信信号を自車からの送信でない干渉信号と判定して障害物認識手段の処理対象となるデータから除外できるため、電波干渉によって生じる先行車の検出性能劣化や認識レベルの低下等を適切に回避することができる。
【0018】
また、本発明に係るレーダ装置の前記送信部は、さらに、前記送信アンテナ部のアンテナ素子に供給する送信信号の位相を調整する可変位相器を備え、当該可変位相器は、隣接するアンテナ素子に供給される送信信号の位相差を大きくするように調整することを特徴とする。
【0019】
この構成により、可変位相器において隣接するアンテナ素子に供給される送信信号の位相差を大きくでき、効果的に周波数走査方式を用いてビーム方向の走査ができる。
【0020】
また、本発明に係るレーダ装置の送信部及び受信部のアンテナ部は、複数のアンテナ素子がアレー状に並んだアレーアンテナであり、前記レーダ装置は、CWレーダ装置、又はFM−CWレーダ装置であり、この構成により、本発明に係るレーダ装置を、アレーアンテナを用いたCWレーダ装置やFM−CWレーダ装置とできる。
【0021】
なお、本発明に係る障害物検知方法をコンピュータ等でプログラムとして実現したり、当該プログラムをDVD、CD−ROM等の記録媒体や通信ネットワーク等の伝送媒体を介して流通させることができるのは言うまでもない。
【発明の効果】
【0022】
本発明に係るレーダ装置においては、他車のレーダ装置と電波干渉を起こしている場合においても、干渉信号であることを各角度領域に割り当てられた周波数を比較して適切に検出できるため、電波干渉によって生じる先行車の検出性能劣化や認識レベルの低下等を適切に回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】実施の形態に係るレーダ装置の送信部の機能ブロック図
【図2】実施の形態に係るレーダ装置の送信部の動作手順を示すフローチャート
【図3】実施の形態に係るレーダ装置の受信部及び信号処理部の機能ブロック図
【図4】実施の形態に係るレーダ装置の信号処理部の動作手順を示すフローチャート
【図5】実施の形態に係るレーダ装置を搭載した車両間の電波干渉時の説明図
【図6】車載用レーダ装置の障害物の検出範囲を説明する図
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明に係るレーダ装置の実施の形態について図面を参照しながら説明を行う。
(実施の形態)
図1は、本実施の形態に係るレーダ装置の送信部100の機能ブロック図を示す。
【0025】
本実施の形態に係るレーダ装置は、例えば、車載に搭載されるミリ波レーダ等であり、波長が1〜10mm、周波数が非常に高い30〜300GHzのミリ波を用いて、障害物までの距離を測定する距離測定機能や、障害物に対する速度を測定する速度測定機能を備える。また、レーダ装置の使用目的は、警報、表示、危険回避等を援助する制御であるプリクラッシュセーフティ(PCS:Pre-Crash Safety)や自動走行制御(ACC:Adaptive Cruise Control)などが挙げられる。なお、レーダ装置に使用される電波は上記のミリ波に限定されるものではなく、例えば24GHzや26GHz帯の電波を使用することもある。
【0026】
また、本実施の形態に係るレーダ装置は、レーダの検知エリアを拡げるために、複数の異なる周波数を用いてビームの走査を電子的に行う周波数走査方式を用いる。なお、この周波数走査方式については後述する。
【0027】
そして、本図に示すように、送信部100は、複数の送信信号生成部101〜103、合成波生成部104、1からKに対応する複数の可変位相器105、1からKに対応する複数の振幅調整器106、及び1からKに対応する複数のアンテナ素子107を備える。
【0028】
送信信号生成部101〜103は、予め割り当てられた周波数(例えば、75.5GHz、76GHz、76.5GHz等)で障害物検知に用いる送信波の信号である送信信号を生成する。
【0029】
合成波生成部104は、送信信号生成部101から103において生成された互いに異なる周波数の送信信号の各点での変位を合成した合成波(複雑な波)を生成する。
【0030】
可変位相器105は、所定の位相が変化された高周波信号をアンテナ素子107側に供給する。なお、位相走査方式を用いて任意の角度θに主ビームを走査する場合には、アンテナ間距離dのアンテナ素子番号(k)が増えるにつれてKdsinθだけ可変位相器105を用いて位相を遅らせれば良い。なお、図1では、下記において可変位相器105の位相を変化させることによりアンテナの指向性を変化させる方法をも説明するため、可変位相器105を示しているが、本実施の形態においては周波数走査方式を用いてビームの指向性を変化させるために、可変位相器105を用いてビーム方向の走査を行わない。
【0031】
なお、後述する式(2)に示すように、可変位相器105において隣接するアンテナ素子107に供給される送信信号の位相差δkを大きくすることにより、効果的に周波数走査方式を用いてビーム方向の走査ができる。
【0032】
振幅調整器106は、可変位相器105から供給された送信信号の振幅を増幅してアンテナ素子107側に供給する。なお、本図においては送信部100における送信信号を増幅するための給電回路等の処理部は省略している。
【0033】
アンテナ素子107は、複数(本図ではK個)設けられて直線状リニアアレーアンテナを構成しており、各アンテナ素子107としては、平面状のダイポールアンテナや、スロットアンテナとなる。このアンテナ素子から送信信号の周波数に応じた角度θの方向に主ビームが指向されて送信される。
【0034】
ここで、アレーアンテナのビーム走査方式として一般的に用いられる周波数走査方式に関して説明する。この周波数走査方式は、送信信号の周波数を変化させることにより各アンテナ素子からのビームの指向を変化させて走査させる方式である。
【0035】
図1のK個のアンテナ素子で構成されている直線状リニアアレーアンテナを用いて説明すると、アレーファクタは、下記の式(1)で示される。
【0036】
【数1】

ここで、Akは各々の振幅、fは周波数、dkはアンテナ基準点からの距離、cは光速、θはビームの角度、δkは位相器の位相である。
そして、このアレーアンテナのメインローブをある角度θに向けるための条件は、下記の式(2)で示される。
【0037】
【数2】

【0038】
この式(2)に示すように、アンテナのメインローブが向いている角度θは位相器の位相δk、周波数f、アンテナの基準点からの距離dkの3つに依存している。そして、周波数走査方式では、式(2)からアンテナ素子間の位相δkを大きくとることで周波数fの違いによりメインローブの角度θを大きく変える電子走査方式となる。なお、ミリ波レーダ等に用いられる位相走査方式では、この中の位相δkを変えることでメインローブの角度θを変える。
【0039】
そして、本発明においてはこのようなアレーアンテナによる特徴を踏まえ、複数の送信信号生成部101から103を用いて送信信号に異なる周波数を振り当てて生成することで、その周波数に割り当てられた角度に各ビームが送信される。
【0040】
なお、本実施の形態においては、3つの送信信号生成部101から103で構成されるものとして説明を行ったが、生成される周波数の異なる送信信号は3つに限定されるものではなく、より複数に分割することにより、電波干渉の検出精度をより向上させることができる。
【0041】
また、図1では1つの送信信号生成部から1つの周波数特性での送信信号が生成される場合について説明を行ったが、1つの送信信号生成部が複数の互いに異なる周波数の送信信号を生成して合成波生成部に出力しても良い。また、送信信号生成部及び合成波生成部を1つの処理部とすることも考え得る。
【0042】
また、アレーアンテナにおいては、給電源からアンテナ素子までの線路長(L)が異なる。そして、この線路長(L)が異なることにより周波数が変化し、周波数の変化に伴い位相分布が変わりアンテナの指向性が変わるという性質を有している。従って、線路長(L)を変更することでも同様に周波数走査によるビーム走査が可能となる。というのも、線路長(L)とアンテナ間隔dのL/dを大きくすれば周波数に対する走査感度を大きくできるためである。なお、走査感度を大きくするためには例えばスネーク線路を使用して長い給電線路長(L)とする必要がある。
【0043】
図2は、本実施の形態に係るレーダ装置の送信部100の動作手順を示すフローチャートである。
【0044】
最初に、送信信号生成部101〜103において3つの周波数の異なる送信信号が生成される(ステップS201)。次に、合成波生成部104において3つの送信信号の合成波が生成され(ステップS202)、増幅処理等を経て、アンテナ部のアンテナ素子107から送信信号の周波数に応じた角度の方向に主ビームが指向されて送信される(ステップS203)。
【0045】
図3は、本実施の形態に係るレーダ装置の受信部300及び信号処理部307の機能ブロック図を示す。
本図においては、受信部300は、受信アンテナ素子301、低雑音増幅回路302(LNA:Low Noise Amplifier)、ミキサ303、局部発振器(OSC:Oscillator)304、及びA/D変換器306を備える。
【0046】
また、信号処理部307は、高速フーリエ変換部(FFT:Fast Fourier Transform)307a、角度検出部307b、周波数比較部307c、及びターゲット認識部307dを備える。
【0047】
最初に、受信部300に関して説明を行う。この受信部300は、外来の干渉信号から所望の信号を分離し、デジタル的な自動信号処理に必要な強度へ受信信号を増幅する。
受信用のアンテナ素子301は、送信部100より送信されて障害物により反射された受信波を受信する。なお、送受信切替により、送信部100のアンテナ素子107と兼用したアンテナ素子301とできる。
低雑音増幅回路302は、受信信号を増幅してミキサ303前の総合雑音指数を低くする処理を行う。
【0048】
ミキサ303は、送信信号の発生源として設けられた局部発信器304からの送信信号と、受信部300のアンテナで受信した低雑音増幅回路302から入力される受信信号の差分信号であるビート信号305を合成し出力する。
【0049】
A/D変換器306は、受信信号の振幅及び位相情報をデジタル信号として出力する処理部であり、入力されたアナログ形式のビート信号を量子化処理や符号化処理を行いデジタル形式のビート信号に変換して信号処理部307側に出力する。
【0050】
次に、信号処理部307に関して説明する。
高速フーリエ変換部307aは、A/D変換器306でデジタル信号に変換されたビート信号についてフーリエ変換を行い、受信信号の周波数スペクトルを算出し、また障害物までの距離や相対速度を演算する。
【0051】
角度検出部307bは、本実施の形態においては、例えば位相モノパルス方式を用いて、受信信号の方向θを各アンテナで受信した信号の位相差で求める。ここで、位相差は、到来角度、アンテナ素子間隔、搬送波の波長λより下記の式(3)で求めることができる。従って、式(3)を用いて受信信号の方向θを算出できる。
【0052】
【数3】

【0053】
周波数比較部307cは、高速フーリエ変換部307aにおいて演算された受信信号の周波数と、角度検出部307bにおいて検出された受信信号の受信方向に割り当てられた周波数とを比較して、一致する場合にのみターゲット認識部307dへ演算結果を出力する。
【0054】
なお、周波数比較部307cにおける周波数に比較においてはドップラーシフトによる周波数のずれ等を考慮する必要があるが、ドップラーシフトによる周波数のシフト量はCWレーダ装置等で高周波のミリ波を用いる場合には相対的に小さくなるために、微小な周波数のずれ量は電波干渉によるものでないと判断する。
ターゲット認識部307dは、障害物までの距離データ等を用いてターゲット認識処理を行い、データ出力部308に対して認識結果を出力する。
【0055】
図4は、本実施の形態に係るレーダ装置の信号処理部307の動作手順を示すフローチャートである。
【0056】
最初に、A/D変換部306からデジタル信号入力があるか否かを判定する(ステップS401)。
次に、デジタル変換された信号が信号処理部307に入力された場合には(ステップS401でYES)、高速フーリエ変換部307aにおいて受信信号の周波数の検出を行う(ステップS402)。また、角度検出部307bにおいて受信信号の受信角度を検出する(ステップS403)。
【0057】
そして、周波数比較部307cにおいて送信した信号の角度領域に対応する周波数と受信した信号の角度領域に対応する周波数を比べるループ処理を行う。すなわち、周波数比較部307cは、角度領域毎に送信した信号の周波数と、受信した信号の周波数とを比較し(ステップS404)、周波数が一致していない場合には(ステップS405でNO)、干渉信号と判断して処理対象から除外する処理を行う(ステップS406)。一方、周波数が一致している場合には(ステップS405でYES)、演算結果をターゲット認識部307dへの出力処理を行う(ステップS407)。ここでは、全角度領域での比較のループ処理を行う。
【0058】
図5は、本実施の形態に係るレーダ装置を搭載した車両間の電波干渉時の説明図である。
【0059】
図5(a)は、2車線以上ある道路を複数の車両501〜503が併走している場合であり、他車が送信した信号が先行車等に反射し、その信号を自車が受信する場合を説明する図である。すなわち、車両502のレーダ装置からは、例えば3つの角度領域502c、502b、502cに対応して異なる周波数の送信信号が送信される。
【0060】
そして、車両502のレーダ装置が送信したレーダの角度領域502bに割り当てられた周波数の信号は車両501において反射して受信信号として受信する。一方、車両503のレーダ装置が送信したレーダの角度領域503aに割り当てられた送信信号は車両501において反射して車両502が受信する。すなわち、車両502のレーダ装置は、自車が送信して車両501に反射した角度領域502bに割り当てられた送信信号と、車両503が送信し車両501に反射した角度領域503aに割り当てられた送信信号を受信信号として受信することとなる。
【0061】
そして、本発明に係るレーダ装置においては、信号処理部307の周波数比較部307cにおいて、受信信号の角度領域に割り当てられた周波数と実際に受信した受信信号の周波数を比較して、その結果、周波数が一致していない場合には、干渉信号としてターゲット認識処理から除外される。すなわち、図5(a)においては、車両503の角度領域503aから車両501に反射して受信した信号の周波数は502bに割り当てられた周波数と異なるために干渉信号としてターゲット認識処理から除外される。
【0062】
このように、本図の車両502に搭載されるレーダ装置は、前方からの受信信号と斜め方向からの受信信号とは異なる周波数を割り当てていることから、自車から送信し障害物に反射した信号なのか、他車が送信して障害物に反射した信号なのかを適切に区別することができ、障害物の誤認識を適切に防止できる。
【0063】
また、図5(b)は対向車線における複数の車両504〜506に搭載されるレーダ装置の電波干渉の説明図である。車両505のレーダ装置は、角度領域505c、505b、及び505aで送信信号を送信する。
【0064】
そして、車両505のレーダ装置が送信した角度領域505bに割り当てられた送信信号は車両504に反射して受信できる。一方、車両505のレーダ装置が送信したレーダの角度領域505cの送信信号と、車両506のレーダ装置が送信したレーダの角度領域506cの送信信号とは電波干渉が起こる。この場合、車両505のレーダ装置では同一周波数帯となるために周波数比較においてはデータを排除することはできない。しかし、車両505のレーダ装置は角度領域505bからの受信信号を使用して車両504の検出を行っているため車両504に対しては適切なブレーキ制御等を実現できる。
【0065】
以上の説明のように、本発明に係るレーダ装置の送信部100では、周波数の異なる送信信号を複数生成して、これらの送信波の合成波を生成する。また、アレーアンテナ等で近接するアンテナ間との位相を大きくする等をして、送信信号の周波数ごとにビームの指向性が異なるアンテナを用いて送信信号を送信する。さらに、信号処理部307の周波数比較部307cにおいて受信電波の角度領域に対応する周波数を比較して、周波数が一致していない場合には干渉信号としてテーゲット認識の処理データから除外する。このため、レーダ装置のアンテナの検出領域を広角化しても、電波干渉によって先行車の検出性能劣化、認識できない等の問題を適切に回避することができる。
【0066】
なお、本実施の形態の説明において、電波特性として周波数特性を用いてビームの指向性を変える方法で説明を行ったが、周波数以外に偏波や拡散符号等の空間または時間に関する電波特性を用いて同様の干渉波検出を行うことも考えられる。
【0067】
また、対向車からの干渉信号である広帯域のスパイクノイズを受けるような場合でも、CWレーダ装置やパルスレーダ装置においては高速フーリエ変換を行う過程において、スパイクノイズは周波数領域において低レベルになるためスパイクノイズにより本願発明に係るレーダ装置のターゲット検出性能を劣化させることはない。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明に係るレーダ装置は、移動体である車載用のレーダ装置として、例えば、ビーム幅が狭帯域のCWレーダ装置、FM−CWレーダ装置やパルスレーダ装置に適用できる。
【符号の説明】
【0069】
100 送信部
101,102,103 送信信号生成部
104 合成波生成部
105 可変位相器
106 振幅調整器
107,301 アンテナ素子
300 受信部
302 低雑音増幅回路
303 ミキサ
304 局部発振器
305 ビート信号
306 A/D変換器
307 信号処理部
307a 高速フーリエ変換部
307b 角度検出部
307c 周波数比較部
307d ターゲット認識部
308 データ出力部
501,502,503,504,505,506 車両

【特許請求の範囲】
【請求項1】
送信部からの送信信号と受信部において受信した受信信号とに基づいて、信号検出部で演算を行い障害物を検出するレーダ装置であって、
前記送信部は、
所定の電波特性の異なる値を用いて複数の送信信号を生成する送信信号生成手段と、
前記送信信号生成手段において生成される複数の送信信号の合成波を生成する合成波生成手段と、
複数のアンテナ素子から成り、前記合成波生成手段で生成された合成波の送信信号の電波特性に基づいてビームの指向性を変化させて送信する送信アンテナ部とを備える
レーダ装置。
【請求項2】
前記電波特性は、周波数であり、
前記送信信号生成手段は、周波数の異なる複数の送信信号を生成し、
前記合成波生成手段は、前記送信信号生成手段からの複数の送信信号を合成して合成波を生成し、
前記送信アンテナ部は、当該合成波の送信信号の周波数に基づいてビームの指向性を変化させて前記アンテナ素子から送信する
請求項1記載のレーダ装置。
【請求項3】
前記信号検出部は、
送信信号と受信信号の差信号であるビート信号を用いて、前記受信部の受信アンテナにおいて受信された受信信号の周波数を検出する周波数検出手段と、
前記受信信号の受信アンテナに対する受信角度を検出する角度検出手段と、
前記受信部が受信信号を受信した場合に、前記角度検出手段において検出された角度領域の送信信号の周波数と、前記周波数検出手段において検出された受信信号の周波数とを比較する周波数比較手段と、
前記周波数比較手段からの出力データを用いて障害物の認識処理を行う障害物認識手段とを備え、
前記周波数比較手段は、前記比較により周波数が一致しない場合には、前記受信信号を干渉信号と判断し、前記障害物認識手段の処理対象となる前記出力データから当該受信信号を除外する
請求項2記載のレーダ装置。
【請求項4】
前記送信部は、さらに、
前記送信アンテナ部のアンテナ素子に供給する送信信号の位相を調整する可変位相器を備え、当該可変位相器は、隣接するアンテナ素子に供給される送信信号の位相差を大きくするように調整する
請求項2記載のレーダ装置。
【請求項5】
前記レーダ装置の送信部及び受信部のアンテナ部は、複数のアンテナ素子がアレー状に並んだアレーアンテナであり、
前記レーダ装置は、CW(Continuous Wave)レーダ装置、又はFM−CW(Frequency Modulation-Continuous Wave)レーダ装置である
請求項1から4のいずれか1項に記載のレーダ装置。
【請求項6】
送信部からの送信信号と受信部において受信した受信信号とに基づいて、信号検出部で演算を行い障害物を検出するレーダ装置に用いる障害物検知方法であって、
電波特性の異なる値を用いて複数の送信信号を生成する送信信号生成ステップと、
前記送信信号生成ステップにおいて生成される複数の送信信号の合成波を生成する合成波生成ステップとを含む
障害物検知方法。
【請求項7】
前記電波特性は、周波数であり、
前記送信信号生成ステップにおいては、周波数の異なる複数の送信信号を生成し、
前記合成波生成ステップにおいては、前記送信信号生成ステップからの複数の送信信号を合成して合成波を生成し、
前記送信部のアンテナ部は、当該合成波の送信信号の周波数に基づいてビームの指向性を変化させて前記アンテナ素子から送信する
請求項6記載の障害物検知方法。
【請求項8】
前記障害物検知方法は、さらに、
送信信号と受信信号の差信号であるビート信号を用いて、前記受信部の受信アンテナにおいて受信された受信信号の周波数を検出する周波数検出ステップと、
前記受信信号の受信アンテナに対する受信角度を検出する角度検出ステップと、
前記受信部が受信信号を受信した場合に、前記角度検出ステップにおいて検出された角度領域の送信信号の周波数と、前記周波数検出ステップにおいて検出された受信信号の周波数とを比較する周波数比較ステップと、
前記周波数比較ステップにおける出力データを用いて障害物の認識処理を行う障害物認識ステップとを含み、
前記周波数比較ステップにおいては、前記比較により周波数が一致しない場合には、前記受信信号を干渉信号と判断し、前記障害物認識手段の処理対象となる前記出力データから当該受信信号を除外する
請求項7記載の障害物検知方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−175289(P2010−175289A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−15563(P2009−15563)
【出願日】平成21年1月27日(2009.1.27)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】