説明

レーダ装置

【課題】 本発明は、通常動作時でも、各アンテナの受信特性変化を判断し、補正処理を行い、工場出荷時の初期調整で補正でき、また、動作中の環境変化による温度変動に、或いは経年劣化に対応して随時補正でき、常に精度向上を図れるレーダ装置を提供する。
【解決手段】 複数の送受信アンテナで、送信波のターゲットTからの反射波を受信し、方位検出、距離測定、速度測定の認識処理を行うレーダ装置で、例えば、アンテナA1からの送信波W11が反射波W12としてアンテナA2で受信され、次に切替えられ、アンテナA2からの送信波W21が反射波W22としてアンテナA1で受信される。送信波W11と反射波W12の経路と送信波W21と反射波W22の経路とは同一空間系を有し、反射波W12の受信信号と反射波22の受信信号とが同じ周波数特性、位相を有することを利用してアンテナの受信特性変化を判断し、該結果で受信信号を補正処理する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーダ装置に関し、特に、送受信が切替えられる複数のアンテナを備えている場合に、通常動作時の的確且つ迅速にアンテナの異常を判断し、各アンテナの受信特性変化を簡単に調整でき、さらに、環境温度による変動を随時補正することができるレーダ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ターゲットの方位、距離、速度を検出するために各種のレーダ装置が利用されている。最近では、例えば、レーダ装置が車両に搭載され、衝突警報、衝突防止、オートクルーズコントロール、自動運転、等で使用されている。道路における先行車両との相対方位、相対距離、相対速度の検出が行われている。
【0003】
方位を検出するレーダ装置の一つとして、位相モノパルス・レーダ装置がある。また、距離及び速度を検出することができるレーダ装置の一つとして、周波数変調・連続波方式(FM−CW)のレーダ装置がある。
【0004】
ここで、位相モノパルス・レーダ装置は、送信アンテナから電波を放射することで得られるターゲットからの反射波を複数の受信アンテナで受信する。複数の受信アンテナは、空間的に位置が異なるので、同一のターゲットからの反射波の位相が受信アンテナ間で異なる。この位相ずれを検出することで、ターゲットの方位を検出することができる。このレーダ装置は、基本的に送信アンテナ及び受信アンテナを機械的に動かす必要がないというメリットがある。
【0005】
レーダ装置からターゲットまでの距離をR0、二つの受信アンテナの間隔をL、ターゲットの方位角度をθとする。受信アンテナと他の受信アンテナとからターゲットまでの夫々の距離R1とR2は、
R1=R0+(L/2)・sinθ
R2=R0−(L/2)・sinθ
である。各受信アンテナによる受信信号の位相差Δφは、その波長をλとしたとき、
Δφ=(L/λ)・sinθ
であり、従って、ターゲットの方位角度θは、
θ=sin-1{(λ/L)・Δφ}
である。この様にして、受信信号の位相差からターゲットの方位が求められる。
【0006】
一方、FM−CWレーダ装置は、連続波を用いてターゲットの距離および速度を検出するものである。FM−CWレーダ装置と位相モノパルス・レーダ装置を組み合わせれば、ターゲットの距離、速度及び方位を求めることができる。
【0007】
FM−CWレーダ装置は、連続波の送信信号にFM変調を施している。例えば、送信波を三角波で周波数変調する。これによって、送信波の波形は、増加と減少とを順次、周期的に繰り返す形状となる。この送信波が送信アンテナから放射され、停止したターゲットで反射して受信アンテナで受信される場合には、送信波と受信波とは、送信から受信までに時間が掛かるため、送信波の三角波と受信波の三角波とは時間的にずれている。ただし、ターゲットとの相対速度が0の場合であるので、振幅に変化はない。ここで、参照波(送信波)で受信波を検波することにより、送信周波数と受信周波数の差の周波数成分を持つビート信号が得られる。
【0008】
伝搬遅延時間τは、送信波が受信されるまでの時間であり、上述の時間的ずれである。ターゲットまでの相対距離をR、光速をcとすると、伝播遅延時間τは、τ=2R/cとなる。さらに、FMの繰り返し周波数、即ち、三角波の周波数をfm、FMの周波数偏移幅(参照波の周波数の変化幅)をΔfとすると、ビート周波数frは、
fr=4R・fm・Δf/c
で表される。従って、生成されたビート信号からビート周波数frを求めることにより、ターゲットとの相対距離Rを検出することができる。
【0009】
そこで、ターゲットとの相対距離、相対速度及び方位を検出することができるFM−CWレーダ装置のシステム構成を、図10に示した。図10は、従来技術による送受信別アンテナの使用によるFM−CWレーダ装置の概略構成の一例を示したものである。
【0010】
図10に示されたレーダ装置は、複数のアンテナA1〜A3を含むアレイアンテナ1、増幅器2及び4、電圧制御発振器(VCO)3、RFミキサ5、バンドパスフィルタ(BPF)6、そして、信号処理手段7を備えている。図10の場合には、複数のアンテナA1〜A3のうち、アンテナA1は、送信専用に、そして、アンテナA2、A3は、受信専用になっており、2受信チャンネルが構成された例が示されている。
【0011】
電圧制御発振器3が発生するミリ波信号は、信号処理手段7に含まれている変調信号生成部からの変調信号によって、FM変調される。変調信号として、一般的には、三角波信号が用いられることが多く、三角波FM変調された送信波W11は、送信アンテナA1から前方のターゲットTに向けて発射される。前方のターゲットTからの反射波W12が、受信アンテナA2で受信される。次いで、切替えスイッチSWによって、受信アンテナA3のチャンネルにスイッチされ、送信アンテナA1から送信波W11が発射される。ターゲットTからの反射波W13が、受信アンテナA3で受信される。
【0012】
RFミキサ5は、相次いで受信された各受信信号と送信信号の一部とをミキシングして、各ビート信号を出力する。これらのビート信号は、ベースバンドパス・フィルタ6を介して信号処理手段7に送られる。信号処理手段7には、AD変換処理機能とFFT処理機能とが備えられ、それらの機能を用いて、そのビート信号が有する周波数情報を抽出することにより、前方のターゲットTとの相対距離及び相対速度を演算する。また、図10のレーダ装置は、ターゲットTとの相対距離及び相対速度を演算する場合を中心にして構成されているが、信号処理手段7は、送信信号と受信信号に基づいて反射波の方位角の検出を実行することもできる。
【0013】
FM−CWレーダ装置における周波数変調には、一般に三角波周波数変調が用いられている。三角波周波数変調は、周波数が直線的に増加する区間と直線的に減少する区間が交互に繰り返される周波数変調であり、変調周波数増加区間(アップ区間)のビート周波数と変調周波数減少区間(ダウン区間)のビート周波数とから、ターゲットの距離及び相対速度が算出される。そこで、ターゲットTの方向については、所望の幅に絞られたアンテナビームを走査することにより得ることができる。
【0014】
その走査方式は、一般に、機械走査方式と電子走査方式に大きく分けることができ、電子走査方式の一つとして、ディジタル・ビーム・フォーミング(DBF )走査方式が挙げられる。DBF走査方式は、受信アンテナとして、複数のアンテナを有するアレーアンテナを用い、アンテナ毎に得られたビート信号に対してデジタル信号処理による位相を施して合成することにより、所望の方位にアンテナビームを形成できるDBF合成技術を利用して、アンテナビームの走査を行っている。
【0015】
このDBF走査方式によれば、機械走査方式のようにアンテナを回転させる必要がないため、アンテナを回転させるための駆動機構が不要となり、振動に強く、しかも小型・軽量化を図ることができるという利点を備えている。このような利点を生かして、車載用のレーダ装置として開発が進められている。
【0016】
また、送信専用のアンテナと複数の受信アンテナとの組み合わせによるアレイアンテナ構成ではなく、送受信兼用の複数のアンテナでアレイアンテナが構成されたDBF走査方式のレーダ装置も提案されている。このレーダ装置では、選択したアンテナから送信波を放射し、他のアンテナで反射波を受信するようにしており、送信波の送信を順次切替えたアンテナから放射して、アンテナ数以上の多チャンネル化が実現される。これによって、DBF走査方式における走査ビームの指向性を向上している。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
ところで、受信アンテナに複数のアンテナを備え、位相情報を利用して方位検出を行うDBF走査方式レーダ装置などの場合では、複数のアンテナ個々の性能差に起因する、アンテナ毎のアンテナゲイン変化と位相ずれが発生する。この対策としては、レーダ装置の製造時に、特性の揃ったアンテナを選択してアレイアンテナを構成し、性能バラツキを無くすことも行われている。しかし、この対策は、製品の品質を向上する上で、コストが嵩むものとなる。
【0018】
そこで、複数のアンテナ個々に性能差があっても、工場出荷時に個々のアンテナチャネルのアンテナゲイン変化と位相ずれを調整して補正することも行われている。アンテナチャネル毎の位相ずれを補正するには、例えば、リファレンス信号発生器を用意し、そこから発生した信号を調整用アンテナから送信し、それを各素子アンテナで受信し、その結果を用いて、位相補正を行うようにしている。
【0019】
また、複数のアンテナを利用するレーダ装置では、アンテナチャネル毎に経年変化による素子アンテナの劣化や環境温度変化等に起因する位相ずれが生じる。この位相ずれを放置したまま方位検出処理を行うと、その合成結果の走査方向プロファイルが崩れ、或いは、サイドローブレベルが上昇するなどの悪影響が生じ、レーダ装置としての性能劣化を引き起こす。そこで、位相による方位検出を行うレーダ装置では、位相ずれの補正を行う必要がある。
【0020】
しかし、上述した補正手段による場合には、リファレンス信号発生器や調整用アンテナをレーダ装置本体とは別に用意する必要があり、これらをレーダ装置に予め組み込んでおくことは、装置サイズを大きくするばかりでなく、コストを上昇させることになる。
【0021】
また、これらを備えていない場合にあっては、この補正手段は、調整用アンテナから送信されたリファレンス信号を受信アンテナで直接受信し、得られた受信信号を利用して位相ずれを検出する原理を利用しているので、例えば、点検整備などの機会にしか位相補正をすることができない。そのため、レーダ装置の通常使用時に位相補正を行うことができないという問題がある。
【0022】
そこで、本発明では、特別に補正のための装置を用意する必要をなくし、通常動作時においても、的確に且つ迅速に、各アンテナの特性変化があること、或いは、発生したことが判断され、その結果により補正処理を実行できるようにし、工場出荷時の初期調整も簡単に実現し、また、動作中の環境変化による温度変動に対しても随時補正でき、常に精度向上を図れるレーダ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0023】
以上の課題を解決し、上記の目的を達成するため、本発明では、送受信が切替えられる複数のアンテナと、送信した電波による対象物体からの反射波を受信し、該受信信号を処理することにより、前記反射波の方位検出、前記対象物体との距離測定又は速度測定に係る認識処理を実行する信号処理手段とを備えたレーダ装置において、前記信号処理手段が、選択したアンテナから送信した電波による反射波を他に選択したアンテナで受信したとき、該受信信号に基づいた第1処理信号を生成し、前記他選択アンテナから送信した電波による反射波を前記選択アンテナで受信したとき、該受信信号に基づいた第2処理信号を生成し、前記第1処理信号と前記第2処理信号の夫々に含まれるアンテナゲイン及び/又は位相を比較することにより前記受信信号の特性変化に係る判断を行うこととした。
【0024】
前記信号処理手段は、前記複数のアンテナのうち、2アンテナずつを選択し、該2アンテナ毎について、前記第1処理信号及び前記第2処理信号を夫々生成し、前記受信信号の特性変化を判断することとし、前記受信信号に特性変化が有ると判断したとき、該変化に応じて演算した補正値に基づいて、前記第1又は第2処理信号を補正することとした。
【0025】
前記信号処理手段は、動作環境の温度が変化したとき、前記受信信号の特性変化に係る判断処理を行い、或いは、前記方位検出、前記距離測定又は速度測定に係る認識処理中において、間欠的に、前記受信信号の特性変化に係る判断処理を行うようにした。
【0026】
前記信号処理手段は、前記電波に係る一FM区間中において、選択したアンテナから送信した電波による反射波を他に選択したアンテナで受信し、該受信信号に基づいた第1処理信号を生成し、他のFM区間中において、前記他選択アンテナから送信した電波による反射波を前記選択アンテナで受信し、該受信信号に基づいた第2処理信号を生成し、前記第1処理信号と前記第2処理信号との比較により、前記受信信号の特性変化を判断することとした。
【0027】
前記信号処理手段は、前記電波に係る一FM区間を複数の領域に時分割し、該領域毎において、選択したアンテナから送信した電波による反射波を他に選択されたアンテナで受信し、該受信信号に基づいた第1処理信号を生成し、前記他選択アンテナから送信した電波による反射波を前記選択アンテナで受信し、該受信信号に基づいた第2処理信号を生成し、前記第1処理信号と前記第2処理信号との比較により、前記受信信号の特性変化を判断することとした。
【0028】
前記信号処理手段は、前記対象物体との相対的な前記距離が変化しないとき、前記受信信号の特性変化に係る判断処理を行い、当該装置が搭載された車両が走行停止中であることを検出したとき、前記受信信号の特性変化に係る判断処理を行い、或いは、前記受信信号のレベルが所定値以上又は所定範囲内にあるとき、前記受信信号の特性変化に係る判断処理を行うようにした。
【0029】
前記信号処理手段は、演算した前記補正値を当該アンテナに関連付けて記憶し、該補正値により補正された該アンテナによる受信信号に従って前記認識処理を実行することとした。
【0030】
前記信号処理手段は、前記対象物体を複数検出したとき、最も近い位置にある対象物体からの前記反射波に係る前記第1及び第2処理信号に基づいて、前記受信信号の特性変化を判断することとした。
【0031】
前記信号処理手段は、外部指示に従って、前記受信信号の特性変化に係る判断処理を行うこととし、更には、当該装置の初期調整として、前記受信信号の特性変化に係る判断処理を行い、該特性変化がある場合に、演算した前記補正値を当該アンテナに関連付けて記憶するようにした。
【0032】
前記信号処理手段は、前記受信信号に特性変化があると判断したとき、外部に報知することとし、更に、前記受信信号に特性変化があると判断したとき、該特性変化が所定範囲内にない場合に、ダイアグ情報を外部に出力することとした。
【発明の効果】
【0033】
以上のように、本発明のレーダ装置によれば、特別に補正のための装置を用意する必要がなく、通常動作時においても、的確に且つ迅速に、アレイアンテナの各アンテナに特性変化があること、或いは、発生したことが判断され、その結果により、受信信号に対して補正処理を実行できるので、工場出荷時の初期調整において、簡単に、アンテナの受信性能の差による受信信号の特性のバラツキを補正でき、また、動作中の環境変化による温度変動に対しても、随時補正でき、常に精度向上を図ることができる。
【0034】
また、本発明のレーダ装置によれば、アレイアンテナの各アンテナに、元々、性能差があっても、或いは、アンテナ自体の経年変化による特性劣化、レーダ装置動作中のアンテナ異常が生じても、そのアンテナの特性変化などに対応して補正処理を行うことができるので、常にレーダ装置の認識処理の精度向上を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
次に、本発明によるレーダ装置の実施形態について、図1乃至図9を参照しながら説明する。
【0036】
図1に、本実施形態のレーダ装置のシステム構成に係る概略が示されている。ここで、図1のレーダ装置は、図10に示されたFM−CWレーダ装置のシステム構成を基本にしているので、同じ部分には、同じ符号が付されている。
【0037】
本実施形態のレーダ装置は、複数のアンテナA1〜A3を含むアレイアンテナ1、増幅器2及び4、電圧制御発振器(VCO)3、RFミキサ5、バンドパスフィルタ(BPF)6、そして、信号処理手段7を備えている。図1の場合には、複数のアンテナA1〜A3のいずれもが、送受信兼用となっている。図10に示した従来技術のレーダ装置では、アンテナA1が送信専用であり、アンテナA2、A3が、受信専用であることとことなっている。
【0038】
そのため、切替えスイッチSWの各アンテナへの接続関係が、図10の切替えスイッチSWとは異なっている。アレイアンテナ1に関する送受信の切替えは、切替えスイッチSWのスイッチ動作によって行われ、切替えスイッチSWは、信号処理手段7からの切替え指令で制御される。図1に示したレーダ装置では、アレイアンテナ1は、3個のアンテナA1〜A3で構成された例であるが、この個数に限定されず、多チャンネル化のため、さらに増加させることもできる。
【0039】
電圧制御発振器3が発生するミリ波信号は、信号処理手段7に含まれている変調信号生成部からの三角波変調信号によって、FM変調される。先ず、図1に示された例では、切替えスイッチSWが制御されて、チャンネルch1とch2が選択され、増幅器2の三角波FM変調送信信号が、アンテナA1に供給される。三角波FM変調送信信号による送信波W11は、アンテナA1から前方のターゲットTに向けて発射される。そこで、切替えスイッチSWが制御されて、前方のターゲットTからの反射波W12が、アンテナA2で受信される。
【0040】
RFミキサ5は、送信信号の一部とアンテナA2で受信された受信信号とをミキシングして、各ビート信号を出力する。このビート信号は、バンドパスフィルタ6を介して信号処理手段7に送られる。信号処理手段7は、そのビート信号が有する周波数情報を用い、前方のターゲットTとの相対距離及び相対速度を演算する。
【0041】
また、図1のレーダ装置では、DBF走査を実行するため、切替えスイッチSWが制御されて、複数のアンテナのうち、次の2アンテナが選択される。例えば、チャンネルch1とch3が選択され、アンテナA1から送信され、アンテナA3で受信するように選択されている。アンテナA1から送信波W11が発射される。ターゲットTからの反射波W13が、アンテナA3で受信される。これらの信号を時間的に同時に取得すれば、ビート処理された後に、信号処理手段7でDBF合成することができる。
【0042】
以上に説明した動作は、DBF走査方式のレーダ装置として一般的に行われていることである。ところで、このレーダ装置の電波の送受信の中で、レーダ装置の前方にターゲットTが存在するとき、例えば、アンテナA1のチャンネルch1から送信された送信波W11は、その反射波W12としてアンテナA2のチャンネルch2で受信され、一方、アンテナA2のチャンネルch2から送信された送信波W21は、その反射波W22としてアンテナA1のチャンネルch1で受信される。
【0043】
ここで、送信波W11及び反射波W12の経路と、送信波W21及び反射波W22の経路とは、同一の空間系によるものであり、そのため、反射波W12の受信信号と、反射波22の受信信号とは、これらの信号が時間的に同時に取得されれば、同じ周波数特性、位相特性を有するものとなる。
【0044】
そこで、本実施形態では、送信波と反射波との経路が、同一の空間系を通過する場合には、受信された受信信号のどれもが同一特性を持つことに着目して、アレイアンテナ中の複数のアンテナが有する夫々の特性の差異を検出できるようにし、各アンテナの特性変化を判断し、さらには、受信処理の過程で、特性の差異を補正することとし、信号処理手段7におけるDBF合成による方位検出、或いは、ターゲットとの相対速度又は相対距離の測定などに係る認識処理の精度向上を図る。
【0045】
この様な手法によれば、上述したように、リファレンス信号発生器や調整用アンテナからなる補正手段を、特別に用意する必要がなく、アレイアンテナを構成する複数のアンテナの全てを送受信可能として、信号処理手段7に受信信号特性判断手段8を搭載するだけで、従来のレーダ装置のシステム構成を格別に変更しなくても、各アンテナの特性変化を随時判断できる。
【0046】
図1に示した本実施形態のレーダ装置では、図10に示した従来のレーダ装置の構成と比較して、切替えスイッチSWが、全アンテナに対して送信と受信の両方に切替え可能とし、特性変化の判断処理時には、受信信号特性判断手段8が切替えスイッチSWを制御するようになっている。
【0047】
アレイアンテナの各アンテナに、元々、性能差があっても、その都度補正することができる。そのため、レーダ装置の製品出荷時に初期調整として補正処理することもでき、或いは、アンテナ自体の経年変化による特性劣化、レーダ装置動作中のアンテナ異常、レーダ装置の環境変化の温度変動によるアンテナ特性変化などに対応して補正処理を行うことができる。
【0048】
図2に、本実施形態において、受信信号の特性変化の判断処理を行う場合における電波送信と反射波受信とのタイミング例を示した。このタイミング例では、図1に示された、アンテナA1のチャンネルch1からの送信波W11の送信タイミングと、アンテナA2のチャンネルch2での受信波W12の受信タイミングを表している。
【0049】
このタイミング例の場合には、例えば、工場出荷時の外部指示によって、或いは、レーダ装置動作中における予め設定された定期的な指令によって、受信信号特性判断手段8が、切替えスイッチSWを制御し、送信区間TだけアンテナA1から送信波W11が放射される。その区間Tの後に、切替えスイッチSWが制御されて、ターゲットからの反射波W12が受信区間RだけアンテナA2で受信され、この送信区間Tと受信区間Rとが所定回数繰り返される。なお、送受信を1回だけ行っただけでは、特性変化を判断できる安定した受信信号が得られない場合があるので、所定回数繰り返して複数の受信信号から特性変化を判断する方が、精度が向上する。
【0050】
図2には図示されていないが、次いで、受信信号特性判断手段8は、切替えスイッチSWを制御して、送信区間Tと受信区間Rの繰返しタイミングについて、チャンネルch1とチャンネルch2の送受信を切替え、送信波W21をアンテナA2から送信し、アンテナA1で反射波W22を受信するようにする。この手順に拠れば、送信波W11及び受信波W12の経路と、送信波W21及び受信波W22の経路とが、レーダ装置とターゲットとの間における同一の空間系を有することになる。
【0051】
この同一の空間系を持たせるためには、例えば、三角波FM変調方式によるFM−CWレーダ装置の場合であれば、チャンネルch1とch2とで送信波W11及び反射波W12の送受信の繰返しを、FM変調信号の連続する三角波のうちの一つにおけるアップ区間で行い、送信波W21及び反射波W22の送受信の繰返しを、同じアップ区間で行うことが望ましい。送信波W11及び受信波W12の経路形成と、送信波W21及び受信波W22の経路形成とが時間的に離れない方が、上述の同一空間系を利用する上では好ましい。なお、上述のアップ区間の代りに、FM変調信号の連続する三角波のうちの一つにおけるダウン区間で行ってもよい。
【0052】
次に、受信信号特性判断手段8におけるアンテナの特性変化の判断について、図3に示した受信信号の波形に基づいて、概念的に説明する。図3では、チャネルch1が送信であり、チャンネルch2で受信する場合の受信信号の波形が、図3(a)及び(b)に示され、チャネルch2が送信であり、チャンネルch1で受信する場合の受信信号の波形が、図3(c)及び(d)に示されている。
【0053】
図3(a)と(c)は、受信したままの受信信号の波形を模式的に表し、図3(c)と(d)は、補正処理後の波形を模式的に示している。図3(a)と(c)とに示された波形は、バンドパスフィルタ6で処理された後の波形であり、受信信号特性判断手段8に供給される受信信号の波形である。そして、単一のターゲットが存在する場合を例にしている。
【0054】
受信信号特性判断手段8では、図3(a)に「ch2」で示されるように、アンテナA2で反射波W12を受信した受信信号が入力されると、図3(b)に「ch2」で示されるように、受信信号に係るリファレンス信号とする。次いで、切替えスイッチSWが制御されて、チャンネルch1とチャンネルch2の送受信が切替えられると、受信信号特性判断手段8には、図3(c)に「ch1」で示されるように、アンテナA1で受信された反射波W22に係る受信信号が入力される。
【0055】
ここで、アンテナA1とアンテナA2との間で、受信性能に差がある場合には、図3(c)に太線で示されるように、受信信号「ch1」の波形が、細線で示された受信信号「ch2」の波形とずれたものとなる。受信信号「ch2」と受信信号「ch1」とは、時間的に同時に入力されないが、図3(c)では、比較が容易なように、時間をずらして、両受信信号の波形を重ね合わせて示している。受信信号「ch1」は、受信信号「ch2」に対して、振幅が減少し、位相がずれていることが分かる。
【0056】
このことは、アンテナの受信特性に関して、元々、アンテナ間においてバラツキが存在していたか、或いは、アンテナの経年劣化によって受信性能が低下したか、さらには、環境温度の変動に対する温度特性に影響を受けて受信性能が変化したか、又は、アンテナ個々に故障などの異変が発生したかに起因している。
【0057】
受信信号特性判断手段8は、信号処理手段7において、通常の認識処理で使用している位相検出手段で、この位相ずれを検出することができるので、受信信号「ch1」と受信信号「ch2」とを比較することにより、受信信号に特性変化があると判断する。そして、アンテナA1に関して、アンテナゲインと位相ずれを補正する演算を実行し、アンテナA1に関する補正値として、記憶する。この様な補正処理が、他のアンテナとの組み合わせに対して順次実行される。
【0058】
図3(d)に示されるように、受信信号「ch1」が、この補正値に従って補正されることにより、受信信号「ch1」と「ch2」とが同じ波形となる。図3(d)でも、図3(c)の場合と同様に、受信信号「ch2」と受信信号「ch1」とは、時間的に同時に入力されないので、比較が容易なように、時間をずらして、両受信信号の波形を重ね合わせて示している。そのため、受信信号「ch1」が補正されることによって、受信信号「ch1」の波形が、受信信号「ch2」の波形と一致した波形で表される。
【0059】
受信信号「ch1」が補正値によって補正されたとき、実際の受信信号「ch2」と受信信号「ch1」との関係が、図3(e)に示される。図3(d)の場合には、アンテナゲインが補正された様子は、分かるが、位相に関する補正の状況は、分かり難い。図3(e)では、破線で示されるタイミングで、送受信が切替えられたとすると、受信信号「ch2」と受信信号「ch1」とは、時間的に同時に入力されないため、受信信号「ch2」と補正された受信信号「ch1」とが、同じ波形で、しかも、切替えタイミングで連続したものとなり、位相補正により、切替えタイミングにおける乱れが発生しない。
【0060】
以上のことは、アンテナ間において、性能差が元々存在していても、或いは、動作中に性能差が発生していても、以後の処理にあたっては、この記憶された補正値に従って、アンテナA1で受信された受信信号が補正されることになるので、認識処理上では、アンテナ間の性能差が解消されている。他のアンテナに関しても、同様に補正され、性能差がなくなり、揃った特性が得られる。
【0061】
次に、これまでに説明してきたように、アンテナ間における受信信号に係る特性変化を判断することにより、アンテナの性能差を解消する仕方に従い、信号処理手段7に含まれている受信信号特性判断手段8における実際の補正処理の手順について、図4に示されたフローチャートを参照して説明する。
【0062】
図4に示された補正処理の手順は、図3に示された2アンテナによる送受信の場合を例にしている。先ず、最初に、図3(a)に示された受信信号「ch2」が、バンドパスフィルタ6から信号処理手段7に入力されたとき、受信信号特性判断手段8は、受信信号「ch2」に対して、AD変換処理を行わせ(ステップS1)、次いで、FFT処理を行わせる(ステップS2)。これらの処理内容は、通常の認識処理において行われていることと同様である。
【0063】
受信信号特性判断手段8が、切替えスイッチSWを制御して、送信がチャンネルch1からチャンネルch2に切替えられると、図3(c)に示された受信信号「ch1」が、バンドパスフィルタ6から信号処理手段7に入力される。このとき、受信信号特性判断手段8は、受信信号「ch1」に対して、AD変換処理を行わせ(ステップS3)、次いで、FFT処理を行わせる(ステップS4)。
【0064】
ステップS2において、受信信号「ch2」に関するターゲット距離に対応する周波数成分が抽出され、ステップS4において、受信信号「ch1」に関するターゲット距離に対応する周波数成分が抽出されたので、受信信号特性判断手段8は、各周波数成分の振幅と位相を比較する(ステップS5)。
【0065】
そこで、ステップS5において、受信信号「ch1」に関する周波数成分と受信信号「ch2」に関する周波数成分とを比較した結果、振幅及び/又は位相が異なっている場合には、それらのずれ量を演算して求め、このずれ量をチャンネルch1に対する補正値とする(ステップS6)。
【0066】
次いで、前回の補正処理において求められ、記憶されていた補正値と、今回求められた補正値とが同じであるかどうかが判断される(ステップS7)。ここで、前回補正値と今回補正値とが同値である場合には(ステップS7のY)、製造過程で、元々、アンテナ性能に差があった可能性があり、或いは、それ程、アンテナの性能劣化が進んでいない可能性があることを示すものであり、当該補正値を維持するようにする(ステップS8)。
【0067】
また、前回補正値と今回補正値とが異なる場合には(ステップS7のN)、今回補正値が、想定した範囲外の大きさであるかどうかが判断される(ステップS9)。ここで、今回補正値が、想定した範囲外の大きさでない場合には(ステップS9のN)、アンテナの性能劣化が進んでいる可能性があり、或いは、動作環境の温度変動の影響でアンテナ性能に変化が発生した可能性があることを示すものであり、今回補正値を前回補正値に置き換えて更新する(ステップS10)。なお、この更新時に、当該アンテナについて、性能変化があったことを外部に報知するようにしてもよい。
【0068】
一方、今回補正値が、想定した範囲外の大きさであるかどうかが判断されたとき、想定した範囲外の大きさである場合には(ステップS9のY)、当該アンテナが異常受信状態になっていることを示し、信号処理手段7における認識処理に、重大な影響を与える危険性があることを示すものであり、この場合には、ダイアグ情報を出力し、外部にアンテナ異常を報知する(ステップS11)。
【0069】
以上のように、受信信号特性判断手段8は、切替えスイッチSWを制御して、送信チャンネルch1及び受信チャンネルch2と、送信チャンネルch2及び受信チャンネルch1とを組み合わせ、受信信号「ch1」と受信信号「ch2」とに関する周波数成分に基づいて、アンテナA1自体に受信性能の変化が発生していても、通常の認識処理に影響しないように、当該アンテナに対して求めた補正値で補正する。
【0070】
この様な補正処理の手順を、アレイアンテナ1を構成する複数のアンテナから2チャンネルの組みを順次選択し、夫々の組みに対して上述の補正処理を行うようにすると、全アンテナの性能差を判断でき、各アンテナに対応した補正値を求めることができ、これらの補正値で補正することにより、通常の認識処理における各チャンネルに係る特性の差を無くすことができる。
【0071】
次に、図5を参照して、受信信号の特性変化の判断処理を行う場合における電波送信と反射波受信との他のタイミング例を説明する。電波送信と反射波受信の繰り返しにおいて同一の空間系を持たせるために、上述したように、図2に示された電波送信と反射波受信とのタイミング例では、三角波FM変調方式によるFM−CWレーダ装置の場合、例えば、チャンネルch1とch2とについて、チャンネルch1からの送信波W11の送信及びチャンネルch2での反射波W12の受信の繰返しが、三角波FM変調信号における一アップ区間で行われ、チャンネルch2からの送信波W21の送信及びチャンネルch1での反射波W22の受信の繰返しが、同じアップ区間で行われるようにした。
【0072】
しかしながら、図2に示された電波送信と反射波受信とのタイミング例では、チャンネルch1とチャンネルch2との間の送受信の切替えによる送信波W11及び受信波W12の経路形成のタイミングと、送信波W21及び受信波W22の経路形成のタイミングとが、時間的にずれたものとなっている。そこで、図5に示されたタイミング例では、夫々の経路形成が時分割的に繰返して行われるようにして、チャンネルch1とチャンネルch2との間の送受信の切替えによる送受信波の各経路の形成タイミングをできるだけ近づけ、それらの経路が、夫々同一の空間系を有するようにした。
【0073】
図5に示されているように、受信信号の特性変化の判断処理を行う場合に、2チャンネル間の電波送信と反射波受信の経路形成は、三角波FM変調信号における一アップ区間内の全域で行われる。図5では、その経路形成のタイミングを分かり易く説明するために、破線で示される一アップ区間中の一部について拡大されて、チャンネルch1とチャンネルch2とに係る送受信の繰り返しの様子が、示されている。
【0074】
図5に示された受信信号の特性変化の判断処理を行う場合における電波送信と反射波受信とのタイミング例では、図1に示されたアンテナA1のチャンネルch1とアンテナA2のチャンネルch2とに関する送受信タイミングが、代表例として表されている。アンテナA1のチャンネルch2からの送信波W21の送信区間がT1として、アンテナA2のチャンネルch2での受信波W22の受信区間がR1として、アンテナA1のチャンネルch1からの送信波W11の送信区間がT2として、そして、アンテナA2のチャンネルch2での受信波W12の受信区間がR2として示されている。
【0075】
先ず、受信信号特性判断手段8は、送信区間T1において、チャンネルch2のアンテナA2から送信波W21を放射させ、続く受信区間R1において、ターゲットTからの反射波W22をチャンネルch1のアンテナA1で受信し、引き続いて、送信区間T2において、アンテナA1から送信波W11を放射させ、さらに、続く受信区間R2において、アンテナA2で反射波W12を受信するように、切替えスイッチSWを制御する。
【0076】
この様に、送信区間T1、受信区間R1、送信区間T2及び受信区間R2によって1サイクルの送受信タイミングが形成され、チャンネルch1が受信する場合の経路とチャンネルch2が受信する場合の経路とが、2回の送受信について同一空間系を有したものとなる。このサイクルが、三角波FM変調信号の一アップ区間における一部区間内で、複数回繰り返される。
【0077】
図5に示された送受信タイミング方式の例では、送信区間T1と受信区間R1に係る送受信と、送信区間T2と受信区間R2に係る送受信とが、相次いで短時間に切替えられるので、ターゲットとレーダ装置との間における空間は、殆ど変化することなく、各受信信号が同一空間系の特性を有することになる。そのため、各受信信号の処理の系は同じとなり、各受信信号は、同じ周波数特性、位相特性を持っていることになる。
【0078】
次に、図6に示された受信信号の波形に基づいて、図5に示された送受信タイミング方式による受信信号の変化について、概念的に説明する。図6(a)には、チャネルch2が送信であり、チャンネルch1で受信する場合の受信信号の波形が、太線による「ch1」として示され、そして、チャネルch1が送信であり、チャンネルch2で受信する場合の受信信号の波形が、細線による「ch2」として示されている。これらの波形は、図1に示されたレーダ装置のバンドパスフィルタ6の出力信号を、代表例として示している。
【0079】
ここで、アンテナA1とアンテナA2の受信性能が同じであれば、アンテナA1による受信信号「ch1」と、アンテナA2による受信信号「ch2」とは、同一波形になり、図6(b)に示されるように、夫々の波形「ch1」と「ch2」は、夫々の包絡線上で重なることになる。しかし、アンテナA1とアンテナA2との間に受信性能に差があると、図6(a)に示されるように、アンテナA1による受信信号「ch1」と、アンテナA2による受信信号「ch2」とは、振幅及び位相がずれた波形になる。
【0080】
図6(a)では、受信信号「ch1」と「ch2」の波形を概略的に示したものであるので、その波形の詳細を説明するため、図6(c)に、図6(a)に示された受信信号「ch1」と「ch2」の波形の一部について、拡大した波形を示した。受信信号「ch1」と「ch2」の波形は、図5に示されたように、送受信が、送信区間T1、受信区間R1、送信区間T2及び受信区間R2を1サイクルとして、繰り返されるので、各受信信号の波形は、送信区間に相当する幅だけ間隔を置いたパルス状の信号列となる。
【0081】
受信信号「ch1」と「ch2」の波形について、時系列的にみると、図6(c)に示されるように、チャンネルch2から送信区間T1に電波が送信されると、チャンネルch1において、受信区間R1で、受信信号「ch1」のパルス状波形が現れ、次に、送信区間T2では、チャンネルch1から電波が送信されると、続く受信区間R2において、チャンネルch2において、受信信号「ch2」のパルス状波形が現れる。以降においては、受信信号「ch1」のパルス状波形と受信信号「ch2」のパルス状波形とが、繰り返し現れる信号列となる。
【0082】
この様な信号列を有する受信信号「ch1」と「ch2」に対して、図4に示されたと同様の補正処理が実行されることにより、アンテナA1とアンテナA2とに受信性能の差が存在しても、信号処理上においては、受信信号「ch1」と「ch2」の振幅及び位相が補正されて、夫々の受信信号が同一特性となる。図6(b)に示されるように、受信信号「ch1」と「ch2」とは、同一波形に重なった状態となる。図6(d)では、図6(b)に示された受信信号の波形が、その一部を拡大して示されている。ここで、受信信号のパルス状波形の現れ方は、図6(c)に示した状態と同様である。
【0083】
この様に、図5に示された送受信タイミングの仕方によると、受信信号の受信間隔は、送信区間の間、空くだけであるので、ターゲットとレーダ装置との間における空間は、殆ど変化することなく、各受信信号が同一空間系の特性を有することになる。そのため、各受信信号の処理の系は同じとなり、各受信信号は、同じ周波数特性、位相特性を持っている。そして、ほぼ同時間における処理結果となるため、位相の同一性に係る信頼性が高くなり、車両の走行中などにおいても、精度良く、補正処理を実行でき、アンテナ特性の異常を的確に判断することができる。
【0084】
以上では、受信信号特性判断手段8による受信信号の特性変化に係る判断の仕方と、特性変化した場合の補正処理の手順とについて、説明した。次に、この受信信号の特性変化に係る判断処理をどの様なときに実施するかについて説明する。
【0085】
受信信号の特性変化の判断処理は、レーダ装置の外部から受信信号特性判断手段8に処理指令を送って、任意のときに実施されるようにしてもよい。例えば、工場出荷時の製品検査の段階で、検査係が指令し、出荷される製品の品質を均一化する場合に採用することができる。また、自動車メーカが、点検時に、処理指令を行って、レーダ装置の認識処理の精度を補正し、又は向上することもできる。
【0086】
一方、図7に示されるように、レーダ装置が車両に搭載されている場合のように、車両の走行中の装置動作中において、レーダ装置における通常の認識処理の間に、間欠的に、且つ自動的に判断処理の指令が送出され、その都度、補正処理が行われるように、設定することもできる。
【0087】
図7には、通常認識処理の所定回数毎に1回の補正処理が実行される様子が、タイムチャートで示されている。そこで、受信信号特性判断手段8におけるこの補正処理の実行手順が、図8のフローチャートに示されている。
【0088】
受信信号特性判断手段8には、処理回数を計数するカウンタが備えられている。レーダ装置の動作開始時においては、そのカウンタの初期値は、0(n=0)になっている(ステップS20)。そして、カウンタは、処理毎に1カウント(n=n+1)する(ステップS21)。図8に示した例では、32回毎に1回の補正処理を実行するように設定されており、処理数が32を超えるかどうかが判断される(ステップS22)。
【0089】
ここで、処理数の計数値nが、32に満たない場合には(ステップS22のY)、信号処理手段7は、通常の認識処理を続行している(ステップS23)。ところが、処理数の計数値nが、32になった場合には(ステップS22のN)、カウンタをリセットし、初期値0に設定する(ステップS24)。
【0090】
そこで、車両が停止中であるかどうかが判断される(ステップS25)。車両が停止中であることを、車両の速度計などから車速を検出し、車速が0でなく、走行しているときには(ステップS25のN)、ステップS23に進み、通常の認識処理を続行する。
【0091】
しかし、車両が停止中であり、車速が0であるときには(ステップS25のY)、図4に示されたフローチャートによる処理手順に従って、補正値を計算し、当該補正値を維持するか、又は、補正値を更新するかの補正処理が実行される(ステップS26)。さらに、計算された補正値が、想定範囲外の場合には、ダイアグ情報を出力する。
【0092】
図8に示した処理手順では、車両が停止している場合にのみ、補正処理が実行されるが、車両が停止中であると、車両の前方にあるターゲットとの距離が固定化されるため、受信信号の入力が安定し、補正処理の精度向上を期待できる。勿論、車両が停止中のみに補正処理を実行する条件とせずに、単純に、所定回数毎に、定期的に補正処理を実行させることでも、本発明の目的を達成することができる。
【0093】
また、図8に示した処理手順では、車両が停止中であるとき、つまり、受信信号の入力が安定しているときに、特性変化の判断処理が実行されるようにされているので、車両が停止中である場合に限られず、例えば、走行中であっても、車両の前方にあるターゲットとの相対距離が安定している、もしくは、受信レベルが高い場合にのみ実行してもよい。
【0094】
この場合には、信号処理手段7において通常の認識処理が行われている中で、計測された相対距離が、一定で、変化していないことを検出し、受信信号の特性変化の判断処理を実行するようにしてもよい。また、車両の前方に複数のターゲットが存在することが認識された場合には、ターゲットとの相対距離が最短のものに係る受信信号を選択して、補正処理を実行すると、補正の精度を向上させることができる。
【0095】
以上では、受信信号の特性変化の判断処理は、時間的条件に従って実行されるものであったが、図9に示されるように、レーダ装置のアレイアンテナに係る温度の変化時に、受信信号の特性変化の判断処理を実行するようにしてもよい。図9に示されたレーダ装置のシステム構成は、図1のレーダ装置のシステム構成と同様であるので、同じ部分には、同じ符号が付されており、ここでは、そのシステム構成自体及びその動作についての説明を省略する。
【0096】
図9に示されたレーダ装置が、図1のものと異なる部分は、アレイアンテナ1に直接、又は、近傍に、センサ9が備えられていることである。このセンサ9は、アレイアンテナ1の環境における温度を検出する温度センサである。アレイアンテナ1を構成する複数のアンテナは、温度変化に影響されて、その性能、受信特性も変化し、アンテナ毎に、その変化度合いもばらついている。
【0097】
そのため、受信信号特性判断手段8は、センサ9からの温度情報に基づいて、例えば、検出された温度が所定範囲を超えている場合に、受信信号の特性変化の判断処理を実行する。この様に、温度情報を検出することにより、レーダ装置の環境変化に追随して、補正処理が正確に行われる。この環境変化に追随した補正処理と、上述した間欠的な補正処理と組み合わせることにより、更に精度のよい補正を行える。
【0098】
以上の他に、信号処理手段7における通常の認識処理において、受信信号の入力レベルを監視するようにし、例えば、当該認識処理中の流れからは発生し得ないような、アンテナの入力レベルに急激な変動が生じた場合に、受信信号の特性変化の判断処理を実行するようにしてもよい。この場合には、アンテナの一つに、突然に異常が発生したことを自動的に検知することができ、レーダ装置の認識が誤っていることを確実に報知することができる。
【図面の簡単な説明】
【0099】
【図1】本発明の実施形態によるレーダ装置のシステム構成を説明する図である。
【図2】本実施形態のレーダ装置において、受信信号の特性変化の判断処理を行う場合における電波送信と反射波受信とのタイミング例を説明する図である。
【図3】本実施形態において、2チャンネル間で受信信号に特性変化がある場合、特性変化に対する補正の様子を説明する図である。
【図4】本実施形態のレーダ装置における受信信号の特性変化の判断処理に係る手順を説明するフローチャートである。
【図5】本実施形態のレーダ装置において、受信信号の特性変化の判断処理を行う場合における電波送信と反射波受信との他のタイミング例を説明する図である。
【図6】図5に示された他のタイミング例における2チャンネルの受信信号の波形を説明する図である。
【図7】本実施形態のレーダ装置において、受信信号の特性変化の判断処理を間欠的に行う場合のタイミングを説明する図である。
【図8】図7に示されたタイミングで処理を行う場合の手順を説明するフローチャートである。
【図9】本発明の他の実施形態によるレーダ装置のシステム構成を説明する図である。
【図10】従来技術によるレーダ装置のシステム構成を説明する図である。
【符号の説明】
【0100】
1 アレイアンテナ
2、4 増幅器
3 電圧制御発振器
5 RFミキサ
6 バンドパスフィルタ
7 信号処理手段
8 受信信号特性判断手段
9 センサ
A1〜A3 アンテナ
SW 切替えスイッチ
T ターゲット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
送受信が切替えられる複数のアンテナと、送信した電波による対象物体からの反射波を受信し、該受信信号を処理することにより、前記反射波の方位検出、前記対象物体との距離測定又は速度測定に係る認識処理を実行する信号処理手段とを備えたレーダ装置において、
前記信号処理手段は、選択したアンテナから送信した電波による反射波を他に選択したアンテナで受信したとき、該受信信号に基づいた第1処理信号を生成し、前記他選択アンテナから送信した電波による反射波を前記選択アンテナで受信したとき、該受信信号に基づいた第2処理信号を生成し、前記第1処理信号と前記第2処理信号の夫々に含まれるアンテナゲイン及び/又は位相を比較することにより前記受信信号の特性変化に係る判断を行うことを特徴とするレーダ装置。
【請求項2】
前記信号処理手段は、前記複数のアンテナのうち、2アンテナずつを選択し、該2アンテナ毎について、前記第1処理信号及び前記第2処理信号を夫々生成し、前記受信信号の特性変化を判断することを特徴とする請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項3】
前記信号処理手段は、前記受信信号に特性変化が有ると判断したとき、該変化に応じて演算した補正値に基づいて、前記第1又は第2処理信号を補正することを特徴とする請求項1又は2に記載のレーダ装置。
【請求項4】
前記信号処理手段は、動作環境の温度が変化したとき、前記受信信号の特性変化に係る判断処理を行うことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載のレーダ装置。
【請求項5】
前記信号処理手段は、前記方位検出、前記距離測定又は速度測定に係る認識処理中において、間欠的に、前記受信信号の特性変化に係る判断処理を行うことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載のレーダ装置。
【請求項6】
前記信号処理手段は、前記電波に係る一FM区間中において、選択したアンテナから送信した電波による反射波を他に選択したアンテナで受信し、該受信信号に基づいた第1処理信号を生成し、他のFM区間中において、前記他選択アンテナから送信した電波による反射波を前記選択アンテナで受信し、該受信信号に基づいた第2処理信号を生成し、前記第1処理信号と前記第2処理信号との比較により、前記受信信号の特性変化を判断することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載のレーダ装置。
【請求項7】
前記信号処理手段は、前記電波に係る一FM区間を複数の領域に時分割し、該領域毎において、選択したアンテナから送信した電波による反射波を他に選択されたアンテナで受信し、該受信信号に基づいた第1処理信号を生成し、前記他選択アンテナから送信した電波による反射波を前記選択アンテナで受信し、該受信信号に基づいた第2処理信号を生成し、前記第1処理信号と前記第2処理信号との比較により、前記受信信号の特性変化を判断することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載のレーダ装置。
【請求項8】
前記信号処理手段は、前記対象物体との相対的な前記距離が変化しないとき、前記受信信号の特性変化に係る判断処理を行うことを特徴とする請求項1乃至7のいずれか一項に記載のレーダ装置。
【請求項9】
前記信号処理手段は、当該装置が搭載された車両が走行停止中であることを検出したとき、前記受信信号の特性変化に係る判断処理を行うことを特徴とする請求項8に記載のレーダ装置。
【請求項10】
前記信号処理手段は、前記受信信号のレベルが所定値以上又は所定範囲内にあるとき、前記受信信号の特性変化に係る判断処理を行うことを特徴とする請求項1乃至9のいずれか一項に記載のレーダ装置。
【請求項11】
前記信号処理手段は、演算した前記補正値を当該アンテナに関連付けて記憶し、該補正値により補正された該アンテナによる受信信号に従って前記認識処理を実行することを特徴とする請求項3乃至10いずれか一項に記載のレーダ装置。
【請求項12】
前記信号処理手段は、前記対象物体を複数検出したとき、最も近い位置にある対象物体からの前記反射波に係る前記第1及び第2処理信号に基づいて、前記受信信号の特性変化を判断することを特徴とする請求項7乃至11のいずれか一項に記載のレーダ装置。
【請求項13】
前記信号処理手段は、外部指示に従って、前記受信信号の特性変化に係る判断処理を行うことを特徴とする請求項1乃至12のいずれか一項に記載のレーダ装置。
【請求項14】
前記信号処理手段は、当該装置の初期調整として、前記受信信号の特性変化に係る判断処理を行い、該特性変化がある場合に、演算した前記補正値を当該アンテナに関連付けて記憶することを特徴とする請求項11乃至13のいずれか一項に記載のレーダ装置。
【請求項15】
前記信号処理手段は、前記受信信号に特性変化があると判断したとき、外部に報知することを特徴とする請求項1乃至14のいずれか一項に記載のレーダ装置。
【請求項16】
前記信号処理手段は、前記受信信号に特性変化があると判断したとき、該特性変化が所定範囲内にない場合に、ダイアグ情報を外部に出力することを特徴とする請求項15に記載のレーダ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−3097(P2006−3097A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−176791(P2004−176791)
【出願日】平成16年6月15日(2004.6.15)
【出願人】(000237592)富士通テン株式会社 (3,383)
【Fターム(参考)】