レーダ装置
【課題】不要波環境下であっても、処理規模または回路規模を極力大きくせずに、目標の距離および方位を観測できるレーダ装置を提供する。
【解決手段】円開口が形成されるように一方向に配置し、且つ該一方向に直交する方向に開口分割した位相中心の異なる複数のサブアレイを含む1次元DBF(Digital Beam Forming)アレイアンテナ1と、1次元DBFアレイアンテナの複数のサブアレイから送られてくるモノパルス合成前のサブアレイ信号に対して複素ICA(Independent Component Analysis;独立成分分析)を行うことにより、目標信号と不要波信号とを分離するICA処理部2と、ICA処理部により分離された目標信号に基づき距離を計測する測距部5を備える。
【解決手段】円開口が形成されるように一方向に配置し、且つ該一方向に直交する方向に開口分割した位相中心の異なる複数のサブアレイを含む1次元DBF(Digital Beam Forming)アレイアンテナ1と、1次元DBFアレイアンテナの複数のサブアレイから送られてくるモノパルス合成前のサブアレイ信号に対して複素ICA(Independent Component Analysis;独立成分分析)を行うことにより、目標信号と不要波信号とを分離するICA処理部2と、ICA処理部により分離された目標信号に基づき距離を計測する測距部5を備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メインローブやサイドローブから入力される不要波環境下で目標距離や目標方位を測定するレーダ装置に関し、特に不要波を抑圧する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
図19は、不要波環境における信号の状態を説明するための図である。電波環境においては、図19(a)に示すように、目標の他に、パルス妨害波やクラッタのような連続妨害波といった不要波が混在している。このような不要波環境下において、レーダ装置のアンテナで受信される受信信号は、図19(b)に示すように、目標と不要波が混合された混合信号1〜混合信号3である。したがって、目標信号のみを分離できないので、目標に対する測距や測角を行うことができない。
【0003】
このような広帯域妨害やクラッタ等といった不要波が存在する不要波環境下で、目標信号を検出し、距離および方位を検出するために、サイドローブ妨害が存在する場合は、SLC(Sidelobe Canceller)等の空間軸におけるフィルタが必要であり、また、クラッタが存在する場合は、ドップラフィルタ処理のように、周波数軸上におけるフィルタ処理が必要である。特にアダプテーションにより多数のフィルタ係数(タップド・ディレイ・ライン等)を変化させる場合には、不要波抑圧のための処理規模または回路規模が大きくなるという問題がある。
【0004】
また、広帯域のメインローブジャマーの場合には、空間軸および周波数軸におけるフィルタでも分離できないため目標を検出できず、目標の距離および方位を観測できないという問題がある。
【非特許文献1】根本訳、詳解独立成分分析、東京電機大学出版局、pp.164-217,2005
【非特許文献2】ELLA BINGHAM,AAPO HYVARINEN,"A FAST FIXED-POINT ALGOTITHM FOR INDEPENDENTCOMPONENT ANALYSIS OF COMPLEX VALUED SIGNALS",International Journal of Neural Systems,Vol.10,No.1(Feb.2000)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したように、従来のレーダ装置では、空間軸におけるフィルタ処理や周波数軸上におけるフィルタ処理が必要であり、特にアダプテーションにより多数のフィルタ係数を変化させる場合には、処理規模または回路規模が大きくなるという問題がある。さらに、広帯域のメインローブジャマーの場合には、空間軸および周波数軸におけるフィルタでも分離できないため目標が検出できず、目標の距離および方位を観測できないという問題がある。
【0006】
本発明は、上述した問題を解消するためになされたものであり、その課題は、不要波環境下であっても、処理規模または回路規模を極力大きくせずに、目標の距離および方位を観測できるレーダ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、第1の発明は、円開口が形成されるように一方向に配置し、且つ該一方向に直交する方向に開口分割した位相中心の異なる複数のサブアレイを含む1次元DBF(Digital Beam Forming)アレイアンテナと、1次元DBFアレイアンテナの複数のサブアレイから送られてくるモノパルス合成前のサブアレイ信号に対して複素ICA(Independent Component Analysis;独立成分分析)を行うことにより、目標信号と不要波信号とを分離するICA処理部と、ICA処理部により分離された目標信号に基づき距離を計測する測距部を備えたことを特徴とする。
【0008】
また、第2の発明は、円開口が形成されるように一方向に配置し、且つ該一方向に直交する方向に開口分割した位相中心の異なる複数のサブアレイを含む1次元DBF(Digital Beam Forming)アレイアンテナと、1次元DBFアレイアンテナの複数のサブアレイから送られてくるモノパルス合成された信号をモノパルス合成前のサブアレイ信号に変換するサブアレイ分割処理部と、サブアレイ分割処理部から送られてくるサブアレイ信号に対して複素ICA(Independent Component Analysis;独立成分分析)を行うことにより、目標信号と不要波信号とを分離するICA処理部と、ICA処理部により分離された目標信号に基づき距離を計測する測距部とを備えたことを特徴とする。
【0009】
また、第3の発明は、和信号Σ、AZ面差信号ΔAZおよびEL面差信号ΔELから成るモノパルスビームを出力するアンテナと、アンテナから出力されるモノパルスビームをサブアレイ信号に変換するサブアレイ分割処理部と、サブアレイ分割処理部から送られてくるサブアレイ信号に対して複素ICA(Independent Component Analysis;独立成分分析)を行うことにより、目標信号と不要波信号とを分離するICA処理部と、ICA処理部により分離された目標信号に基づき距離を計測する測距部を備えたことを特徴とする。
【0010】
また、第4の発明は、第1乃第3のいずれか1つの発明において、サブアレイの位相中心の間隔が異なる複数のサブアレイからのサブアレイ信号を用いて、ヌルステアリングにより方位を検出する測角部を備えたことを特徴とする。
【0011】
また、第5の発明は、第1乃至第3のいずれか1つの発明において、ICA処理部は、入力されるサブアレイ信号に対して実数ICAを行うことにより、目標信号と不要波信号とを分離することを特徴とする。
【0012】
また、第6の発明は、第4の発明において、ICA処理部は、入力されるサブアレイ信号に対して実数ICAを行うことにより、目標信号と不要波信号とを分離し、測角部は、分離された実数の目標信号から複素信号を生成し、該生成した複素信号に基づきヌルステアリングにより方位を検出することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、不要波環境下でも、多数のフィルタ係数を用いることなく、簡易な処理規模または回路規模により、目標信号のみを抽出し、目標の距離および方位を観測することができる。また、目標信号が複数の場合でも、各目標の距離および方位がわかるため、高サイドローブのアンテナで、サイドローブ方向から目標が入力する場合でも、メインローブから入力する目標のみを分離できる。
【0014】
具体的には、請求項1記載の発明によれば、1次元DBFアレイアンテナの複数のサブアレイから送られてくるモノパルス合成前のサブアレイ信号に対して複素ICAを行うことにより目標信号と不要波信号との混合信号を分離し、目標信号のみを抽出して、目標までの距離を観測するので、不要波環境下であっても、処理規模または回路規模を極力大きくせずに、目標までの距離を観測できる。
【0015】
また、請求項2記載の発明によれば、1次元DBFアレイアンテナの複数のサブアレイから送られてくるモノパルス合成された信号をモノパルス合成前のサブアレイ信号に変換し、変換後のサブアレイ信号に対して複素ICAを行うことにより目標信号と不要波との混合信号を分離し、目標信号のみを抽出して、目標までの距離を観測するので、不要波環境下であっても、処理規模または回路規模を極力大きくせずに、目標までの距離を観測できる。
【0016】
また、請求項3記載の発明によれば、和信号Σ、AZ面差信号ΔAZおよびEL面差信号ΔELから成るモノパルスビームをサブアレイ信号に変換し、変換後のサブアレイ信号に対して複素ICAを行うことにより、目標信号と不要波の混合信号を分離し、目標信号のみを抽出して、目標までの距離を観測するので、不要波環境下であっても、処理規模または回路規模を極力大きくせずに、目標までの距離を観測できる。
【0017】
また、請求項4記載の発明によれば、サブアレイの位相中心の間隔が異なる複数のサブアレイからのサブアレイ信号を用いて、ヌルステアリングにより方位を検出するので、不要波環境下であっても、処理規模または回路規模を極力大きくせずに、目標までの距離および目標の方位を観測できる。
【0018】
また、請求項5記載の発明によれば、入力されるサブアレイ信号に対して実数ICAを行うことにより、目標信号と不要波信号とを分離し、目標信号のみを抽出して、目標までの距離を観測するので、複素ICAを行う場合に較べて演算規模を削減できる。
【0019】
また、請求項6記載の発明によれば、入力されるサブアレイ信号に対して実数ICAを行うことにより、目標信号と不要波信号とを分離し、目標信号のみを抽出して、目標までの距離および目標の方位を観測するので、複素ICAを行う場合に較べて演算規模を削減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。
【実施例1】
【0021】
図1は、本発明の実施例1に係るレーダ装置の構成を示すブロック図である。このレーダ装置は、アンテナ1、ICA(Independent Component Analysis;独立成分分析)処理部2、信号抽出部3、信号識別部4および測距部5を備える。
【0022】
アンテナ1は、1次元DBF(Digital Beam Forming)アレイアンテナから成り、図2に示すように、円開口アンテナ10と小型アンテナ11とを備える。この円開口アンテナ10においては、EL方向は1次元DBFであり、AZ方向はアナログ合成が行われる。AZ方向に関しては、モノパルスビームを作成するために、もともと開口2分割されており、EL方向をN(Nは正の整数)分割した単位で区分して合成されるので、N×2分割単位のサブアレイの出力(モノパルス合成前の信号)が得られる。この「N」は、サブアレイの数が、後述する独立成分の数以上になるように決定される。
【0023】
各サブアレイは、円開口が形成されるように配置されているので、各サブアレイの位相中心はそれぞれ異なる。したがって、この円開口アンテナ10は、N×2の自由度を持っている。この円開口アンテナ10を構成するN×2分割単位のサブアレイの出力は、サブアレイ信号L1〜LNおよびR1〜RNとしてICA処理部2に送られる。
【0024】
小型アンテナ11はオプションであり、自由度が不足する場合に、円開口の一部として追加的に配置される。この小型アンテナ11が配置される位置および数は任意である。小型アンテナ11から出力される信号S1〜SP(Pは正の整数)は、ICA処理部2に送られる。
【0025】
ICA処理部2は、アンテナ1からの信号に基づき、ICAにより、目標と不要波とが混在した信号から目標信号を分離する。ICAの詳細については、非特許文献1に記載されているが、ここでは、ICAの原理について、簡単に説明する。
【0026】
今、独立変数をSとすると、観測変数Xは、混合行列Aを用いて次式で表現できる。
【数1】
【0027】
ここで、観測変数を一般化して時空間(時間−空間)軸で表現すると、
【数2】
【0028】
A ;混合行列
x ;観測変数
N ;サブアレイ数(AZ軸/EL軸)
M ;PRI数
s ;独立変数
NM;観測変数の数
P ;独立変数の数
k ;サンプル数(レンジセル数)
T ;転置
である。空間軸のみの場合はM=1とし、時間軸のみの場合は、N=1としてもよい。図3は、ICA処理部2に入力信号として入力される観測変数を示す。観測変数は、2次元サブアレイによる空間でAZ,ELの2次元信号であり、時間軸上では、PRI単位毎にさらにレンジセル毎の信号となる。図4は、観測変数を取得するためのアンテナ1の実際の構成を示す図である。
【0029】
ICAとは、独立成分および混合行列に関する情報を利用せずに、独立成分が統計的に独立であるという仮定のみを用いて、観測行列Xから、混合行列Aを推定する方法である。すなわち、復元データをYとすると、
【数3】
【0030】
となるようなYの各成分が、互いに独立になるように復元行列Wが算出される。この場合、独立成分および混合行列に関する情報を利用しないため、復元データの成分の大きさおよび順序には曖昧性が残ることになる。
【0031】
このICAに先立ち、前処理として、無相関化が行われる。これにより、復元行列の算出が容易になる。
【数4】
【0032】
ここで、
Q ;無相関化のための変換行列
I ;単位行列
E{ };平均
この無相関化したXを用いて、復元行列を算出するアルゴリズムは、例えば複素数FAST ICAでは、次の通りである(詳細は、非特許文献2参照)。
【数5】
【0033】
ここで、
H ;共役転置
* ;複素共役
‖ ‖ ;ノルム
g ;関数
g‘ ;gの導関数
例えば、次式の通り(aは定数)。
【数6】
【0034】
以上により、独立成分の1成分あたりの復元行列Wを算出できたことになる。これを複数の成分に拡張するために、グラムシュミットの直交化法に基づく方法により、次式の演算が行われる。
【数7】
【0035】
ここで、
p ;p番目の独立成分(p=1〜P)
以上説明したICAのアルゴリズムは、一例であり、独立性の評価量として、尖度(4次キュムラント)を用いる方法(非特許文献1参照)等といった他の方法を用いることもできる。
【0036】
このICA処理部2における上述した処理により、例えば図5に示すような、目標、クラッタおよび妨害波が混在する電波環境においても、目標、クラッタおよび妨害波の各々の信号を分離することができる。
【0037】
すなわち、図6(a)に示すような、目標の他にパルス妨害波やクラッタのような連続妨害波といった不要波が混在している不要波環境下において、アンテナ1からは、図6(b)に示すような、目標と不要波とが混合された混合信号1〜混合信号3が得られるが、ICA処理部2は、図6(c)に示すように、目標、パルス妨害および連続妨害とに分離し、それぞれ、目標信号、パルス妨害信号および連続妨害信号として信号抽出部3に送る。
【0038】
信号抽出部3は、独立成分毎に、図7に示すように、所定のスレショルドを超える信号を抽出する。この信号抽出部3で抽出された信号は、信号識別部4に送られる。
【0039】
信号識別部4は、信号抽出部3から送られてきた信号を識別する。すなわち、信号識別部4は、図7(a)に示すように、信号抽出部3から送られてきた信号が、周期的にスレッショルドを超える場合はパルス妨害信号である旨を識別し、図7(b)に示すように、信号抽出部3から送られてきた信号の数個が、所定の幅でスレッショルドを超える場合は目標信号である旨を識別し、図7(c)に示すように、信号抽出部3から送られてきた信号が、連続的にスレッショルドを超える場合は連続妨害信号またはクラッタ信号である旨を識別する。この信号識別部4における識別結果は、測距部5に送られる。
【0040】
測距部5は、信号識別部4から送られてきた識別結果が目標信号であることを示している場合に、目標までの距離を測定する。この測距部5における測定結果が、目標距離として外部に出力される。
【0041】
次に、上記のように構成される本発明の実施例1に係るレーダ装置の動作を、図8に示すフローチャートを参照しながら説明する。
【0042】
まず、サブアレイ入力が行われる(ステップS11)。すなわち、アンテナ1のサブアレイから得られるサブアレイ信号L1〜LNおよびR1〜RNが、ICA処理部2に送られる。次いで、ICA処理が行われる(ステップS12)。すなわち、ICA処理部2は、アンテナ1からの送られてくる信号を、目標信号、パルス妨害信号および連続妨害信号に分離して信号抽出部3に送る。次いで、信号抽出が行われる(ステップS13)。すなわち、信号抽出部3は、独立成分毎に、所定のスレショルドを超える信号を抽出し、信号識別部4に送る。
【0043】
次いで、信号識別が行われる(ステップS14)。すなわち、信号識別部4は、信号抽出部3から送られてきた信号が、パルス妨害信号であるか、目標信号であるか、または、連続妨害信号またはクラッタ信号であるかを識別し、識別結果を、測距部5に送る。次いで、測距が行われる(ステップS15)。すなわち、測距部5は、信号識別部4から送られてきた識別結果が目標信号であることを示している場合に、目標までの距離を測定し、測定結果を、目標距離として外部に出力する。
【実施例2】
【0044】
図9は、本発明の実施例2に係るレーダ装置で用いられるアンテナ1の構成を示す図である。このアンテナ1は、実施例1に係るレーダ装置のアンテナに、サブアレイ分割処理部12が追加されて構成されている。円開口アンテナ10においては、EL方向は1次元DBFであり、AZ方向はアナログ合成が行われる。AZ方向に関しては、図示しない給電回路により、和信号Σおよび差信号Δが得られる。この和信号Σおよび差信号Δから、次式により、開口2分割した信号が得られる。
【数8】
【0045】
ここで、
Xl ;開口2分割の1面
Xr ;開口2分割の他の面
Σ ;和信号
ΔAZ;AZ面差信号
(7)式より、開口分割信号は、次の演算により算出できる。
【数9】
【0046】
円開口アンテナ10では、EL方向をN分割した単位で区分して合成され、N×2分割単位のサブアレイの出力(モノパルス合成された信号)が得られる。この円開口アンテナ10を構成するN×2分割単位のサブアレイの出力は、サブアレイ信号Σ1〜ΣNおよびΔ1〜ΔNとしてサブアレイ分割処理部12に送られる。
【0047】
サブアレイ分割処理部12は、モノパルス合成されたサブアレイ信号Σ1〜ΣNおよびΔ1〜ΔNを、モノパルス合成前のサブアレイ信号L1〜LNおよびR1〜RNに変換し、ICA処理部2に送る。このサブアレイは、円開口が形成されるように配置されているので、各サブアレイの位相中心はそれぞれ異なる。したがって、この円開口アンテナ10は、N×2の自由度を持っている。さらに、自由度が不足する場合は、円開口の一部として、小型アンテナ11に追加的に配置することができる。
【0048】
次に、上記のように構成される本発明の実施例2に係るレーダ装置の動作を、図10に示すフローチャートを参照しながら説明する。なお、図8に示した実施例1に係るレーダ装置と同じ処理を行うステップには、図8で使用した符号と同一の符号を付して説明は省略する。
【0049】
まず、モノパルス入力が行われる(ステップS21)。すなわち、アンテナ1の円開口アンテナから得られる、モノパルス合成されたサブアレイ信号Σ1〜ΣNおよびΔ1〜ΔNを信号が、サブアレイ分割処理部12に送られる。次いで、サブアレイ変換が行われる(ステップS22)。すなわち、サブアレイ分割処理部12は、モノパルス合成されたサブアレイ信号Σ1〜ΣNおよびΔ1〜ΔNを、モノパルス合成前のサブアレイ信号L1〜LNおよびR1〜RNに変換し、ICA処理部2に送る。以後の処理は、実施例1に係るレーダ装置における処理と同じである。
【実施例3】
【0050】
本発明の実施例3に係るレーダ装置は、2次元のモノパルスビーム(Σ、ΔAZ、ΔEL)の出力を用いて、AZ面およびEL面のサブアレイ出力を得るようにしたものである。
【0051】
図11は、本発明の実施例3に係るレーダ装置で使用されるアンテナ1を示す図である。このアンテナ1においては、モノパルス比較器12は、開口分割した信号から和信号Σ、AZ面差信号ΔAZおよびEL面差信号ΔELを生成する。今、図11に示すように、開口分割した信号を、X11、X12、X21およびX22とすると、モノパルス信号は次式で表すことができる。
【数10】
【0052】
ここで、
Σ ;和信号
ΔAZ;AZ面差信号
ΔEL;EL面差信号
(9)式より、開口分割信号は、次の演算により算出できる。
【数11】
【0053】
図12は、(9)式により求められる開口分割信号としての観測変数を取得するためのアンテナ1の構成を示す図である。サブアレイ分割処理部12は、(9)式に示す処理を実行する。
【0054】
この実施例3に係るレーダ装置の構成および動作は、上記サブアレイ出力を用いる以外は、必要に応じて小型アンテナ11を追加することも含めて、実施例1または実施例2に係るレーダ装置と同様である。
【0055】
なお、実施例3に係るレーダ装置では、モノパルスビーム(Σ、ΔAZ、ΔEL)からサブアレイ出力を算出したが、自由度があればよいので、サブアレイ分割処理部12を除去し、モノパルスビーム(Σ、ΔAZ、ΔEL)を入力信号として使用することもできる。この場合、図12に示す主ビームが、モノパルスビームやモノパルスビームから算出したサブアレイ出力に対応する。
【実施例4】
【0056】
図13は、本発明の実施例4に係るレーダ装置の構成を示すブロック図である。このレーダ装置は、実施例1〜実施例3のいずれかに係るレーダ装置に、測角部6が追加されて構成されている。測角部6は、目標方位を算出する。
【0057】
目標方位を算出する方法としては、サブアレイ信号を用いたヌルステアリング方式を用いることができる。このヌルステアリング方式は、抽出された目標信号Ys以外の成分を0にして、(3)式により算出されたサブアレイ出力Xsに対してヌルステアリングする。図14は、ヌルステアリング方式の原理を説明するための図である。このヌルステアリング方式では、サブアレイを開口2分割し、その位相を次式により、所定の測角範囲でヌルステアリングして、Δ/Σの絶対値で最もレベルの低いヌル方向が測角値(検出方位)とされる。
【数12】
【0058】
ここで、
Xsn ;ICAにより分離した目標信号
θb ;ビームピーク方向
j ;虚数単位
k ;波数(2π/λ)
λ ;波長
dn ;n番目の素子の基準位置からの距離(n=1〜N)
Wσn ;Σビームbsrcσのn番目の素子の複素ウェイト
Wδn ;Δビームbsrcδのn番目の素子の複素ウェイト
Aσn ;Σビームbsrcσの振幅ウェイト
Aδn ;Δビームbsrcδの振幅ウェイト
bsrcσ;探索用のΣビーム
bsrcδ;探索用のΔビーム
この際に、サブアレイ間の距離が長い場合には、ヌルの位置にアンビギュイティが生じ、複数の低レベル点が発生する。このアンビギュイティを抑圧するためには、図15に示すように、複数のサブアレイの組(L個)でヌルステアリングし、L個のうちD個、同じヌル方位であれば、その方位を検出方位とするように構成できる。
【0059】
次に、本発明の実施例4に係るレーダ装置の動作を、図16に示すフローチャートを参照しながら説明する。なお、図8に示した実施例1に係るレーダ装置と同じ処理を行うステップには、図8で使用した符号と同一の符号を付して説明は簡略化する。
【0060】
まず、サブアレイ入力、または、モノパルス入力およびサブアレイ変換が行われる(ステップS31)。このステップS31においては、実施例1に係るレーダ装置のステップS11(図8参照)の処理、または、実施例2または実施例3に係るレーダ装置のステップS21およびステップS22(図10参照)の処理と同様の処理が実行される。
【0061】
次いで、ICA処理(ステップS12)、信号抽出(ステップS13)、信号識別(ステップS14)および測距(ステップS15)が順次行われ、その後、測角処理が行われる。測角処理では、まず、Δビームレベルによる判定が行われる(ステップS32)。次いで、走査範囲に対する処理が終了したかどうかが調べられる(ステップS33)。このステップS33において、走査範囲に対する処理が終了していないことが判断されると、ヌル方向が変更される(ステップS34)。その後、ステップS32に戻り、上述した処理が繰り返される。
【0062】
上記ステップS33において、走査範囲に対する処理が終了したことが判断されると、次いで、全てのサブアレイに対する処理が終了したかどうかが調べられる(ステップS35)。このステップS35において、全てのサブアレイに対する処理が終了していないことが判断されると、次のサブアレイに対する処理を実行するように変更される(ステップS36)。その後、ステップS32に戻り、上述した処理が繰り返される。
【0063】
上記ステップS35において、全てのサブアレイに対する処理が終了したことが判断されると、方位抽出が行われる(ステップS37)。すなわち、測角部6は、Δ/Σの絶対値で最もレベルの低いヌル方向を測角値(検出方位)とする。この測角部6で測角された測角値は、目標方位として外部に出力される。
【実施例5】
【0064】
上述した実施例1〜実施例4に係るレーダ装置においては、ICA処理部2は、複素ICAを用いて信号を分離したが、本発明の実施例5に係るレーダ装置は、演算規模を削減できる実数ICAを用いて信号を分離したものである。
【0065】
実数ICAを用いて信号を分離する場合、測距部5における測距は実数ICAのままで行うことができるが、測角には複素信号が必要である。そこで、この実施例5に係るレーダ装置においては、信号を分離した後にフーリエ変換を行い、その後、正(または負)の周波数のみを抽出する方法等により複素信号を生成する。
【0066】
まず、実数ICAの場合は、(5)式の代わりに、例えば、FAST ICAアルゴリズムの場合は、次式が用いられる(非特許文献1のp.217参照)。他の処理は、実施例1〜実施例3に係る処理と同じである。
【数13】
【0067】
ここで、
T ;転置
‖ ‖ ;ノルム
g ;関数
g‘ ;gの導関数
例えば、次式の通り(aは定数)。
【数14】
【0068】
このICAのアルゴリズムは、一例であり、独立性の評価量として、尖度(4次キュムラント)を用いる方法(非特許文献1参照)等といった他の方法を用いることもできる。この実数ICAの結果に基づき、実施例1〜実施例3に係るレーダ装置と同様の方法で、測距が行われる。
【0069】
次に、測角するために、実数ICAにより、復元した信号Yを、図17に示すヒルベルト変換により、複素数化することを考える。実数を単純にcoswt(sinwt)で表すと、複素数exp(jwt)は、オイラーの公式より、次式で関係づけられる。なお、オイラーの公式については、例えば『松田、ディジタル信号処理入門、日刊工業新聞社、p.119、1984』に説明されている。
【数15】
【0070】
ここで、
ω ;2πf
f ;周波数
t ;時間
これにより、次の方法によって、実数から複素数を算出することができる。まず、Yをフーリエ変換して、正(負)の周波数のみを抽出し、逆フーリエ変換する。これは、実数は正の周波数と負の周波数を持っている信号であるのに対して、複素数は、正か負のいずれか一方の周波数を持っていることによる。複素数化したYを用いて、抽出した目標信号Ys以外の成分をゼロにして、(3)式によりサブアレイ出力Xsを算出し、実施例4に係るレーダ装置と同様の方法で測角する。
【0071】
次に、本発明の実施例5に係るレーダ装置の動作を、図18に示すフローチャートを参照しながら説明する。なお、図16に示した実施例1に係るレーダ装置と同じ処理を行うステップには、図16で使用した符号と同一の符号を付して説明は簡略化する。
【0072】
まず、サブアレイ入力、または、モノパルス入力およびサブアレイ変換が行われる(ステップS31)。次いで、ICA処理(ステップS12)、信号抽出(ステップS13)、信号識別(ステップS14)および測距(ステップS15)が順次行われ、その後、測角処理が行われる。測角処理では、まず、複素数変換が行われる(ステップS41)。次いで、Δビームレベルによる判定が行われる(ステップS32)。次いで、走査範囲に対する処理が終了したかどうかが調べられる(ステップS33)。このステップS33において、走査範囲に対する処理が終了していないことが判断されると、ヌル方向が変更される(ステップS34)。その後、ステップS32に戻り、上述した処理が繰り返される。
【0073】
上記ステップS33において、走査範囲に対する処理が終了したことが判断されると、次いで、全てのサブアレイに対する処理が終了したかどうかが調べられる(ステップS35)。このステップS35において、全てのサブアレイに対する処理が終了していないことが判断されると、次のサブアレイに対する処理を実行するように変更される(ステップS36)。その後、ステップS32に戻り、上述した処理が繰り返される。
【0074】
上記ステップS35において、全てのサブアレイに対する処理が終了したことが判断されると、方位抽出が行われる(ステップS37)。すなわち、測角部6は、Δ/Σの絶対値で最もレベルの低いヌル方向を測角値(検出方位)とする。この測角部6で測角された測角値は、目標方位として外部に出力される。
【0075】
なお、上述した実施例5に係るレーダ装置では、実数ICAを用いて、複素数を生成して処理を実施するのが主旨であり、実数から複素数への変換については、上述した変換以外の方法を用いることができる。また、実数ICAを用いて測距し、複素数変換後、測角するように構成したが、測距も複素数変換により得られた結果を用いて実施するように構成することもできる。
【0076】
また、本発明は、目標信号が不要波と識別できる形状であれば、パルス状でなくてもよい。また、本発明は、レーダ装置に限らず、目標信号として、不要波と区別できる信号が得られる場合は、受信装置の場合にも適用できる。また、妨害方位を測角する場合は、分離した連続妨害やパルス妨害の方位を目標信号と同様の方法で検出できる。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明は、処理規模または回路規模を小さくすることが要求されるレーダ装置または受信装置などに利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】本発明の実施例1に係るレーダ装置の構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の実施例1に係るレーダ装置で使用されるアンテナの構成を示す図である。
【図3】本発明の実施例1に係るレーダ装置に入力信号として入力される観測変数を示す図である。
【図4】本発明の実施例1に係るレーダ装置において観測変数を取得するためのアンテナの構成を示す図である。
【図5】本発明の実施例1に係るレーダ装置が適用される電波環境を説明するための図である。
【図6】本発明の実施例1に係るレーダ装置において行われるICAを説明するための図である。
【図7】本発明の実施例1に係るレーダ装置においてICA処理部で分離された信号の抽出および識別を説明するための図である。
【図8】本発明の実施例1に係るレーダ装置の動作を示すフローチャートである。
【図9】本発明の実施例2に係るレーダ装置で使用されるアンテナの構成を示す図である。
【図10】本発明の実施例2に係るレーダ装置の動作を示すフローチャートである。
【図11】本発明の実施例3に係るレーダ装置で使用されるアンテナの構成を示す図である。
【図12】本発明の実施例3に係るレーダ装置において観測変数を取得するためのアンテナの構成を示す図である。
【図13】本発明の実施例4に係るレーダ装置の構成を示すブロック図である。
【図14】本発明の実施例4に係るレーダ装置で目標方位を算出するために採用されるヌルステアリング方式の原理を説明するための図である。
【図15】本発明の実施例4に係るレーダ装置でアンビギュイティを抑圧して目標方位を算出するヌルステアリングを説明するための図である。
【図16】本発明の実施例4に係るレーダ装置の動作を示すフローチャートである。
【図17】本発明の実施例5に係るレーダ装置において行われるヒルベルト変換を説明するための図である。
【図18】本発明の実施例5に係るレーダ装置の動作を示すフローチャートである。
【図19】不要波環境下における信号の状態を説明するための図である。
【符号の説明】
【0079】
1 アンテナ
2 ICA処理部
3 信号抽出部
4 信号認識部
5 測距部
6 測角部
10 円開口アンテナ
11 小型アンテナ
12、14 サブアレイ分割処理部
13 モノパルス比較器
【技術分野】
【0001】
本発明は、メインローブやサイドローブから入力される不要波環境下で目標距離や目標方位を測定するレーダ装置に関し、特に不要波を抑圧する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
図19は、不要波環境における信号の状態を説明するための図である。電波環境においては、図19(a)に示すように、目標の他に、パルス妨害波やクラッタのような連続妨害波といった不要波が混在している。このような不要波環境下において、レーダ装置のアンテナで受信される受信信号は、図19(b)に示すように、目標と不要波が混合された混合信号1〜混合信号3である。したがって、目標信号のみを分離できないので、目標に対する測距や測角を行うことができない。
【0003】
このような広帯域妨害やクラッタ等といった不要波が存在する不要波環境下で、目標信号を検出し、距離および方位を検出するために、サイドローブ妨害が存在する場合は、SLC(Sidelobe Canceller)等の空間軸におけるフィルタが必要であり、また、クラッタが存在する場合は、ドップラフィルタ処理のように、周波数軸上におけるフィルタ処理が必要である。特にアダプテーションにより多数のフィルタ係数(タップド・ディレイ・ライン等)を変化させる場合には、不要波抑圧のための処理規模または回路規模が大きくなるという問題がある。
【0004】
また、広帯域のメインローブジャマーの場合には、空間軸および周波数軸におけるフィルタでも分離できないため目標を検出できず、目標の距離および方位を観測できないという問題がある。
【非特許文献1】根本訳、詳解独立成分分析、東京電機大学出版局、pp.164-217,2005
【非特許文献2】ELLA BINGHAM,AAPO HYVARINEN,"A FAST FIXED-POINT ALGOTITHM FOR INDEPENDENTCOMPONENT ANALYSIS OF COMPLEX VALUED SIGNALS",International Journal of Neural Systems,Vol.10,No.1(Feb.2000)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したように、従来のレーダ装置では、空間軸におけるフィルタ処理や周波数軸上におけるフィルタ処理が必要であり、特にアダプテーションにより多数のフィルタ係数を変化させる場合には、処理規模または回路規模が大きくなるという問題がある。さらに、広帯域のメインローブジャマーの場合には、空間軸および周波数軸におけるフィルタでも分離できないため目標が検出できず、目標の距離および方位を観測できないという問題がある。
【0006】
本発明は、上述した問題を解消するためになされたものであり、その課題は、不要波環境下であっても、処理規模または回路規模を極力大きくせずに、目標の距離および方位を観測できるレーダ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、第1の発明は、円開口が形成されるように一方向に配置し、且つ該一方向に直交する方向に開口分割した位相中心の異なる複数のサブアレイを含む1次元DBF(Digital Beam Forming)アレイアンテナと、1次元DBFアレイアンテナの複数のサブアレイから送られてくるモノパルス合成前のサブアレイ信号に対して複素ICA(Independent Component Analysis;独立成分分析)を行うことにより、目標信号と不要波信号とを分離するICA処理部と、ICA処理部により分離された目標信号に基づき距離を計測する測距部を備えたことを特徴とする。
【0008】
また、第2の発明は、円開口が形成されるように一方向に配置し、且つ該一方向に直交する方向に開口分割した位相中心の異なる複数のサブアレイを含む1次元DBF(Digital Beam Forming)アレイアンテナと、1次元DBFアレイアンテナの複数のサブアレイから送られてくるモノパルス合成された信号をモノパルス合成前のサブアレイ信号に変換するサブアレイ分割処理部と、サブアレイ分割処理部から送られてくるサブアレイ信号に対して複素ICA(Independent Component Analysis;独立成分分析)を行うことにより、目標信号と不要波信号とを分離するICA処理部と、ICA処理部により分離された目標信号に基づき距離を計測する測距部とを備えたことを特徴とする。
【0009】
また、第3の発明は、和信号Σ、AZ面差信号ΔAZおよびEL面差信号ΔELから成るモノパルスビームを出力するアンテナと、アンテナから出力されるモノパルスビームをサブアレイ信号に変換するサブアレイ分割処理部と、サブアレイ分割処理部から送られてくるサブアレイ信号に対して複素ICA(Independent Component Analysis;独立成分分析)を行うことにより、目標信号と不要波信号とを分離するICA処理部と、ICA処理部により分離された目標信号に基づき距離を計測する測距部を備えたことを特徴とする。
【0010】
また、第4の発明は、第1乃第3のいずれか1つの発明において、サブアレイの位相中心の間隔が異なる複数のサブアレイからのサブアレイ信号を用いて、ヌルステアリングにより方位を検出する測角部を備えたことを特徴とする。
【0011】
また、第5の発明は、第1乃至第3のいずれか1つの発明において、ICA処理部は、入力されるサブアレイ信号に対して実数ICAを行うことにより、目標信号と不要波信号とを分離することを特徴とする。
【0012】
また、第6の発明は、第4の発明において、ICA処理部は、入力されるサブアレイ信号に対して実数ICAを行うことにより、目標信号と不要波信号とを分離し、測角部は、分離された実数の目標信号から複素信号を生成し、該生成した複素信号に基づきヌルステアリングにより方位を検出することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、不要波環境下でも、多数のフィルタ係数を用いることなく、簡易な処理規模または回路規模により、目標信号のみを抽出し、目標の距離および方位を観測することができる。また、目標信号が複数の場合でも、各目標の距離および方位がわかるため、高サイドローブのアンテナで、サイドローブ方向から目標が入力する場合でも、メインローブから入力する目標のみを分離できる。
【0014】
具体的には、請求項1記載の発明によれば、1次元DBFアレイアンテナの複数のサブアレイから送られてくるモノパルス合成前のサブアレイ信号に対して複素ICAを行うことにより目標信号と不要波信号との混合信号を分離し、目標信号のみを抽出して、目標までの距離を観測するので、不要波環境下であっても、処理規模または回路規模を極力大きくせずに、目標までの距離を観測できる。
【0015】
また、請求項2記載の発明によれば、1次元DBFアレイアンテナの複数のサブアレイから送られてくるモノパルス合成された信号をモノパルス合成前のサブアレイ信号に変換し、変換後のサブアレイ信号に対して複素ICAを行うことにより目標信号と不要波との混合信号を分離し、目標信号のみを抽出して、目標までの距離を観測するので、不要波環境下であっても、処理規模または回路規模を極力大きくせずに、目標までの距離を観測できる。
【0016】
また、請求項3記載の発明によれば、和信号Σ、AZ面差信号ΔAZおよびEL面差信号ΔELから成るモノパルスビームをサブアレイ信号に変換し、変換後のサブアレイ信号に対して複素ICAを行うことにより、目標信号と不要波の混合信号を分離し、目標信号のみを抽出して、目標までの距離を観測するので、不要波環境下であっても、処理規模または回路規模を極力大きくせずに、目標までの距離を観測できる。
【0017】
また、請求項4記載の発明によれば、サブアレイの位相中心の間隔が異なる複数のサブアレイからのサブアレイ信号を用いて、ヌルステアリングにより方位を検出するので、不要波環境下であっても、処理規模または回路規模を極力大きくせずに、目標までの距離および目標の方位を観測できる。
【0018】
また、請求項5記載の発明によれば、入力されるサブアレイ信号に対して実数ICAを行うことにより、目標信号と不要波信号とを分離し、目標信号のみを抽出して、目標までの距離を観測するので、複素ICAを行う場合に較べて演算規模を削減できる。
【0019】
また、請求項6記載の発明によれば、入力されるサブアレイ信号に対して実数ICAを行うことにより、目標信号と不要波信号とを分離し、目標信号のみを抽出して、目標までの距離および目標の方位を観測するので、複素ICAを行う場合に較べて演算規模を削減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。
【実施例1】
【0021】
図1は、本発明の実施例1に係るレーダ装置の構成を示すブロック図である。このレーダ装置は、アンテナ1、ICA(Independent Component Analysis;独立成分分析)処理部2、信号抽出部3、信号識別部4および測距部5を備える。
【0022】
アンテナ1は、1次元DBF(Digital Beam Forming)アレイアンテナから成り、図2に示すように、円開口アンテナ10と小型アンテナ11とを備える。この円開口アンテナ10においては、EL方向は1次元DBFであり、AZ方向はアナログ合成が行われる。AZ方向に関しては、モノパルスビームを作成するために、もともと開口2分割されており、EL方向をN(Nは正の整数)分割した単位で区分して合成されるので、N×2分割単位のサブアレイの出力(モノパルス合成前の信号)が得られる。この「N」は、サブアレイの数が、後述する独立成分の数以上になるように決定される。
【0023】
各サブアレイは、円開口が形成されるように配置されているので、各サブアレイの位相中心はそれぞれ異なる。したがって、この円開口アンテナ10は、N×2の自由度を持っている。この円開口アンテナ10を構成するN×2分割単位のサブアレイの出力は、サブアレイ信号L1〜LNおよびR1〜RNとしてICA処理部2に送られる。
【0024】
小型アンテナ11はオプションであり、自由度が不足する場合に、円開口の一部として追加的に配置される。この小型アンテナ11が配置される位置および数は任意である。小型アンテナ11から出力される信号S1〜SP(Pは正の整数)は、ICA処理部2に送られる。
【0025】
ICA処理部2は、アンテナ1からの信号に基づき、ICAにより、目標と不要波とが混在した信号から目標信号を分離する。ICAの詳細については、非特許文献1に記載されているが、ここでは、ICAの原理について、簡単に説明する。
【0026】
今、独立変数をSとすると、観測変数Xは、混合行列Aを用いて次式で表現できる。
【数1】
【0027】
ここで、観測変数を一般化して時空間(時間−空間)軸で表現すると、
【数2】
【0028】
A ;混合行列
x ;観測変数
N ;サブアレイ数(AZ軸/EL軸)
M ;PRI数
s ;独立変数
NM;観測変数の数
P ;独立変数の数
k ;サンプル数(レンジセル数)
T ;転置
である。空間軸のみの場合はM=1とし、時間軸のみの場合は、N=1としてもよい。図3は、ICA処理部2に入力信号として入力される観測変数を示す。観測変数は、2次元サブアレイによる空間でAZ,ELの2次元信号であり、時間軸上では、PRI単位毎にさらにレンジセル毎の信号となる。図4は、観測変数を取得するためのアンテナ1の実際の構成を示す図である。
【0029】
ICAとは、独立成分および混合行列に関する情報を利用せずに、独立成分が統計的に独立であるという仮定のみを用いて、観測行列Xから、混合行列Aを推定する方法である。すなわち、復元データをYとすると、
【数3】
【0030】
となるようなYの各成分が、互いに独立になるように復元行列Wが算出される。この場合、独立成分および混合行列に関する情報を利用しないため、復元データの成分の大きさおよび順序には曖昧性が残ることになる。
【0031】
このICAに先立ち、前処理として、無相関化が行われる。これにより、復元行列の算出が容易になる。
【数4】
【0032】
ここで、
Q ;無相関化のための変換行列
I ;単位行列
E{ };平均
この無相関化したXを用いて、復元行列を算出するアルゴリズムは、例えば複素数FAST ICAでは、次の通りである(詳細は、非特許文献2参照)。
【数5】
【0033】
ここで、
H ;共役転置
* ;複素共役
‖ ‖ ;ノルム
g ;関数
g‘ ;gの導関数
例えば、次式の通り(aは定数)。
【数6】
【0034】
以上により、独立成分の1成分あたりの復元行列Wを算出できたことになる。これを複数の成分に拡張するために、グラムシュミットの直交化法に基づく方法により、次式の演算が行われる。
【数7】
【0035】
ここで、
p ;p番目の独立成分(p=1〜P)
以上説明したICAのアルゴリズムは、一例であり、独立性の評価量として、尖度(4次キュムラント)を用いる方法(非特許文献1参照)等といった他の方法を用いることもできる。
【0036】
このICA処理部2における上述した処理により、例えば図5に示すような、目標、クラッタおよび妨害波が混在する電波環境においても、目標、クラッタおよび妨害波の各々の信号を分離することができる。
【0037】
すなわち、図6(a)に示すような、目標の他にパルス妨害波やクラッタのような連続妨害波といった不要波が混在している不要波環境下において、アンテナ1からは、図6(b)に示すような、目標と不要波とが混合された混合信号1〜混合信号3が得られるが、ICA処理部2は、図6(c)に示すように、目標、パルス妨害および連続妨害とに分離し、それぞれ、目標信号、パルス妨害信号および連続妨害信号として信号抽出部3に送る。
【0038】
信号抽出部3は、独立成分毎に、図7に示すように、所定のスレショルドを超える信号を抽出する。この信号抽出部3で抽出された信号は、信号識別部4に送られる。
【0039】
信号識別部4は、信号抽出部3から送られてきた信号を識別する。すなわち、信号識別部4は、図7(a)に示すように、信号抽出部3から送られてきた信号が、周期的にスレッショルドを超える場合はパルス妨害信号である旨を識別し、図7(b)に示すように、信号抽出部3から送られてきた信号の数個が、所定の幅でスレッショルドを超える場合は目標信号である旨を識別し、図7(c)に示すように、信号抽出部3から送られてきた信号が、連続的にスレッショルドを超える場合は連続妨害信号またはクラッタ信号である旨を識別する。この信号識別部4における識別結果は、測距部5に送られる。
【0040】
測距部5は、信号識別部4から送られてきた識別結果が目標信号であることを示している場合に、目標までの距離を測定する。この測距部5における測定結果が、目標距離として外部に出力される。
【0041】
次に、上記のように構成される本発明の実施例1に係るレーダ装置の動作を、図8に示すフローチャートを参照しながら説明する。
【0042】
まず、サブアレイ入力が行われる(ステップS11)。すなわち、アンテナ1のサブアレイから得られるサブアレイ信号L1〜LNおよびR1〜RNが、ICA処理部2に送られる。次いで、ICA処理が行われる(ステップS12)。すなわち、ICA処理部2は、アンテナ1からの送られてくる信号を、目標信号、パルス妨害信号および連続妨害信号に分離して信号抽出部3に送る。次いで、信号抽出が行われる(ステップS13)。すなわち、信号抽出部3は、独立成分毎に、所定のスレショルドを超える信号を抽出し、信号識別部4に送る。
【0043】
次いで、信号識別が行われる(ステップS14)。すなわち、信号識別部4は、信号抽出部3から送られてきた信号が、パルス妨害信号であるか、目標信号であるか、または、連続妨害信号またはクラッタ信号であるかを識別し、識別結果を、測距部5に送る。次いで、測距が行われる(ステップS15)。すなわち、測距部5は、信号識別部4から送られてきた識別結果が目標信号であることを示している場合に、目標までの距離を測定し、測定結果を、目標距離として外部に出力する。
【実施例2】
【0044】
図9は、本発明の実施例2に係るレーダ装置で用いられるアンテナ1の構成を示す図である。このアンテナ1は、実施例1に係るレーダ装置のアンテナに、サブアレイ分割処理部12が追加されて構成されている。円開口アンテナ10においては、EL方向は1次元DBFであり、AZ方向はアナログ合成が行われる。AZ方向に関しては、図示しない給電回路により、和信号Σおよび差信号Δが得られる。この和信号Σおよび差信号Δから、次式により、開口2分割した信号が得られる。
【数8】
【0045】
ここで、
Xl ;開口2分割の1面
Xr ;開口2分割の他の面
Σ ;和信号
ΔAZ;AZ面差信号
(7)式より、開口分割信号は、次の演算により算出できる。
【数9】
【0046】
円開口アンテナ10では、EL方向をN分割した単位で区分して合成され、N×2分割単位のサブアレイの出力(モノパルス合成された信号)が得られる。この円開口アンテナ10を構成するN×2分割単位のサブアレイの出力は、サブアレイ信号Σ1〜ΣNおよびΔ1〜ΔNとしてサブアレイ分割処理部12に送られる。
【0047】
サブアレイ分割処理部12は、モノパルス合成されたサブアレイ信号Σ1〜ΣNおよびΔ1〜ΔNを、モノパルス合成前のサブアレイ信号L1〜LNおよびR1〜RNに変換し、ICA処理部2に送る。このサブアレイは、円開口が形成されるように配置されているので、各サブアレイの位相中心はそれぞれ異なる。したがって、この円開口アンテナ10は、N×2の自由度を持っている。さらに、自由度が不足する場合は、円開口の一部として、小型アンテナ11に追加的に配置することができる。
【0048】
次に、上記のように構成される本発明の実施例2に係るレーダ装置の動作を、図10に示すフローチャートを参照しながら説明する。なお、図8に示した実施例1に係るレーダ装置と同じ処理を行うステップには、図8で使用した符号と同一の符号を付して説明は省略する。
【0049】
まず、モノパルス入力が行われる(ステップS21)。すなわち、アンテナ1の円開口アンテナから得られる、モノパルス合成されたサブアレイ信号Σ1〜ΣNおよびΔ1〜ΔNを信号が、サブアレイ分割処理部12に送られる。次いで、サブアレイ変換が行われる(ステップS22)。すなわち、サブアレイ分割処理部12は、モノパルス合成されたサブアレイ信号Σ1〜ΣNおよびΔ1〜ΔNを、モノパルス合成前のサブアレイ信号L1〜LNおよびR1〜RNに変換し、ICA処理部2に送る。以後の処理は、実施例1に係るレーダ装置における処理と同じである。
【実施例3】
【0050】
本発明の実施例3に係るレーダ装置は、2次元のモノパルスビーム(Σ、ΔAZ、ΔEL)の出力を用いて、AZ面およびEL面のサブアレイ出力を得るようにしたものである。
【0051】
図11は、本発明の実施例3に係るレーダ装置で使用されるアンテナ1を示す図である。このアンテナ1においては、モノパルス比較器12は、開口分割した信号から和信号Σ、AZ面差信号ΔAZおよびEL面差信号ΔELを生成する。今、図11に示すように、開口分割した信号を、X11、X12、X21およびX22とすると、モノパルス信号は次式で表すことができる。
【数10】
【0052】
ここで、
Σ ;和信号
ΔAZ;AZ面差信号
ΔEL;EL面差信号
(9)式より、開口分割信号は、次の演算により算出できる。
【数11】
【0053】
図12は、(9)式により求められる開口分割信号としての観測変数を取得するためのアンテナ1の構成を示す図である。サブアレイ分割処理部12は、(9)式に示す処理を実行する。
【0054】
この実施例3に係るレーダ装置の構成および動作は、上記サブアレイ出力を用いる以外は、必要に応じて小型アンテナ11を追加することも含めて、実施例1または実施例2に係るレーダ装置と同様である。
【0055】
なお、実施例3に係るレーダ装置では、モノパルスビーム(Σ、ΔAZ、ΔEL)からサブアレイ出力を算出したが、自由度があればよいので、サブアレイ分割処理部12を除去し、モノパルスビーム(Σ、ΔAZ、ΔEL)を入力信号として使用することもできる。この場合、図12に示す主ビームが、モノパルスビームやモノパルスビームから算出したサブアレイ出力に対応する。
【実施例4】
【0056】
図13は、本発明の実施例4に係るレーダ装置の構成を示すブロック図である。このレーダ装置は、実施例1〜実施例3のいずれかに係るレーダ装置に、測角部6が追加されて構成されている。測角部6は、目標方位を算出する。
【0057】
目標方位を算出する方法としては、サブアレイ信号を用いたヌルステアリング方式を用いることができる。このヌルステアリング方式は、抽出された目標信号Ys以外の成分を0にして、(3)式により算出されたサブアレイ出力Xsに対してヌルステアリングする。図14は、ヌルステアリング方式の原理を説明するための図である。このヌルステアリング方式では、サブアレイを開口2分割し、その位相を次式により、所定の測角範囲でヌルステアリングして、Δ/Σの絶対値で最もレベルの低いヌル方向が測角値(検出方位)とされる。
【数12】
【0058】
ここで、
Xsn ;ICAにより分離した目標信号
θb ;ビームピーク方向
j ;虚数単位
k ;波数(2π/λ)
λ ;波長
dn ;n番目の素子の基準位置からの距離(n=1〜N)
Wσn ;Σビームbsrcσのn番目の素子の複素ウェイト
Wδn ;Δビームbsrcδのn番目の素子の複素ウェイト
Aσn ;Σビームbsrcσの振幅ウェイト
Aδn ;Δビームbsrcδの振幅ウェイト
bsrcσ;探索用のΣビーム
bsrcδ;探索用のΔビーム
この際に、サブアレイ間の距離が長い場合には、ヌルの位置にアンビギュイティが生じ、複数の低レベル点が発生する。このアンビギュイティを抑圧するためには、図15に示すように、複数のサブアレイの組(L個)でヌルステアリングし、L個のうちD個、同じヌル方位であれば、その方位を検出方位とするように構成できる。
【0059】
次に、本発明の実施例4に係るレーダ装置の動作を、図16に示すフローチャートを参照しながら説明する。なお、図8に示した実施例1に係るレーダ装置と同じ処理を行うステップには、図8で使用した符号と同一の符号を付して説明は簡略化する。
【0060】
まず、サブアレイ入力、または、モノパルス入力およびサブアレイ変換が行われる(ステップS31)。このステップS31においては、実施例1に係るレーダ装置のステップS11(図8参照)の処理、または、実施例2または実施例3に係るレーダ装置のステップS21およびステップS22(図10参照)の処理と同様の処理が実行される。
【0061】
次いで、ICA処理(ステップS12)、信号抽出(ステップS13)、信号識別(ステップS14)および測距(ステップS15)が順次行われ、その後、測角処理が行われる。測角処理では、まず、Δビームレベルによる判定が行われる(ステップS32)。次いで、走査範囲に対する処理が終了したかどうかが調べられる(ステップS33)。このステップS33において、走査範囲に対する処理が終了していないことが判断されると、ヌル方向が変更される(ステップS34)。その後、ステップS32に戻り、上述した処理が繰り返される。
【0062】
上記ステップS33において、走査範囲に対する処理が終了したことが判断されると、次いで、全てのサブアレイに対する処理が終了したかどうかが調べられる(ステップS35)。このステップS35において、全てのサブアレイに対する処理が終了していないことが判断されると、次のサブアレイに対する処理を実行するように変更される(ステップS36)。その後、ステップS32に戻り、上述した処理が繰り返される。
【0063】
上記ステップS35において、全てのサブアレイに対する処理が終了したことが判断されると、方位抽出が行われる(ステップS37)。すなわち、測角部6は、Δ/Σの絶対値で最もレベルの低いヌル方向を測角値(検出方位)とする。この測角部6で測角された測角値は、目標方位として外部に出力される。
【実施例5】
【0064】
上述した実施例1〜実施例4に係るレーダ装置においては、ICA処理部2は、複素ICAを用いて信号を分離したが、本発明の実施例5に係るレーダ装置は、演算規模を削減できる実数ICAを用いて信号を分離したものである。
【0065】
実数ICAを用いて信号を分離する場合、測距部5における測距は実数ICAのままで行うことができるが、測角には複素信号が必要である。そこで、この実施例5に係るレーダ装置においては、信号を分離した後にフーリエ変換を行い、その後、正(または負)の周波数のみを抽出する方法等により複素信号を生成する。
【0066】
まず、実数ICAの場合は、(5)式の代わりに、例えば、FAST ICAアルゴリズムの場合は、次式が用いられる(非特許文献1のp.217参照)。他の処理は、実施例1〜実施例3に係る処理と同じである。
【数13】
【0067】
ここで、
T ;転置
‖ ‖ ;ノルム
g ;関数
g‘ ;gの導関数
例えば、次式の通り(aは定数)。
【数14】
【0068】
このICAのアルゴリズムは、一例であり、独立性の評価量として、尖度(4次キュムラント)を用いる方法(非特許文献1参照)等といった他の方法を用いることもできる。この実数ICAの結果に基づき、実施例1〜実施例3に係るレーダ装置と同様の方法で、測距が行われる。
【0069】
次に、測角するために、実数ICAにより、復元した信号Yを、図17に示すヒルベルト変換により、複素数化することを考える。実数を単純にcoswt(sinwt)で表すと、複素数exp(jwt)は、オイラーの公式より、次式で関係づけられる。なお、オイラーの公式については、例えば『松田、ディジタル信号処理入門、日刊工業新聞社、p.119、1984』に説明されている。
【数15】
【0070】
ここで、
ω ;2πf
f ;周波数
t ;時間
これにより、次の方法によって、実数から複素数を算出することができる。まず、Yをフーリエ変換して、正(負)の周波数のみを抽出し、逆フーリエ変換する。これは、実数は正の周波数と負の周波数を持っている信号であるのに対して、複素数は、正か負のいずれか一方の周波数を持っていることによる。複素数化したYを用いて、抽出した目標信号Ys以外の成分をゼロにして、(3)式によりサブアレイ出力Xsを算出し、実施例4に係るレーダ装置と同様の方法で測角する。
【0071】
次に、本発明の実施例5に係るレーダ装置の動作を、図18に示すフローチャートを参照しながら説明する。なお、図16に示した実施例1に係るレーダ装置と同じ処理を行うステップには、図16で使用した符号と同一の符号を付して説明は簡略化する。
【0072】
まず、サブアレイ入力、または、モノパルス入力およびサブアレイ変換が行われる(ステップS31)。次いで、ICA処理(ステップS12)、信号抽出(ステップS13)、信号識別(ステップS14)および測距(ステップS15)が順次行われ、その後、測角処理が行われる。測角処理では、まず、複素数変換が行われる(ステップS41)。次いで、Δビームレベルによる判定が行われる(ステップS32)。次いで、走査範囲に対する処理が終了したかどうかが調べられる(ステップS33)。このステップS33において、走査範囲に対する処理が終了していないことが判断されると、ヌル方向が変更される(ステップS34)。その後、ステップS32に戻り、上述した処理が繰り返される。
【0073】
上記ステップS33において、走査範囲に対する処理が終了したことが判断されると、次いで、全てのサブアレイに対する処理が終了したかどうかが調べられる(ステップS35)。このステップS35において、全てのサブアレイに対する処理が終了していないことが判断されると、次のサブアレイに対する処理を実行するように変更される(ステップS36)。その後、ステップS32に戻り、上述した処理が繰り返される。
【0074】
上記ステップS35において、全てのサブアレイに対する処理が終了したことが判断されると、方位抽出が行われる(ステップS37)。すなわち、測角部6は、Δ/Σの絶対値で最もレベルの低いヌル方向を測角値(検出方位)とする。この測角部6で測角された測角値は、目標方位として外部に出力される。
【0075】
なお、上述した実施例5に係るレーダ装置では、実数ICAを用いて、複素数を生成して処理を実施するのが主旨であり、実数から複素数への変換については、上述した変換以外の方法を用いることができる。また、実数ICAを用いて測距し、複素数変換後、測角するように構成したが、測距も複素数変換により得られた結果を用いて実施するように構成することもできる。
【0076】
また、本発明は、目標信号が不要波と識別できる形状であれば、パルス状でなくてもよい。また、本発明は、レーダ装置に限らず、目標信号として、不要波と区別できる信号が得られる場合は、受信装置の場合にも適用できる。また、妨害方位を測角する場合は、分離した連続妨害やパルス妨害の方位を目標信号と同様の方法で検出できる。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明は、処理規模または回路規模を小さくすることが要求されるレーダ装置または受信装置などに利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】本発明の実施例1に係るレーダ装置の構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の実施例1に係るレーダ装置で使用されるアンテナの構成を示す図である。
【図3】本発明の実施例1に係るレーダ装置に入力信号として入力される観測変数を示す図である。
【図4】本発明の実施例1に係るレーダ装置において観測変数を取得するためのアンテナの構成を示す図である。
【図5】本発明の実施例1に係るレーダ装置が適用される電波環境を説明するための図である。
【図6】本発明の実施例1に係るレーダ装置において行われるICAを説明するための図である。
【図7】本発明の実施例1に係るレーダ装置においてICA処理部で分離された信号の抽出および識別を説明するための図である。
【図8】本発明の実施例1に係るレーダ装置の動作を示すフローチャートである。
【図9】本発明の実施例2に係るレーダ装置で使用されるアンテナの構成を示す図である。
【図10】本発明の実施例2に係るレーダ装置の動作を示すフローチャートである。
【図11】本発明の実施例3に係るレーダ装置で使用されるアンテナの構成を示す図である。
【図12】本発明の実施例3に係るレーダ装置において観測変数を取得するためのアンテナの構成を示す図である。
【図13】本発明の実施例4に係るレーダ装置の構成を示すブロック図である。
【図14】本発明の実施例4に係るレーダ装置で目標方位を算出するために採用されるヌルステアリング方式の原理を説明するための図である。
【図15】本発明の実施例4に係るレーダ装置でアンビギュイティを抑圧して目標方位を算出するヌルステアリングを説明するための図である。
【図16】本発明の実施例4に係るレーダ装置の動作を示すフローチャートである。
【図17】本発明の実施例5に係るレーダ装置において行われるヒルベルト変換を説明するための図である。
【図18】本発明の実施例5に係るレーダ装置の動作を示すフローチャートである。
【図19】不要波環境下における信号の状態を説明するための図である。
【符号の説明】
【0079】
1 アンテナ
2 ICA処理部
3 信号抽出部
4 信号認識部
5 測距部
6 測角部
10 円開口アンテナ
11 小型アンテナ
12、14 サブアレイ分割処理部
13 モノパルス比較器
【特許請求の範囲】
【請求項1】
円開口が形成されるように一方向に配置し、且つ該一方向に直交する方向に開口分割した位相中心の異なる複数のサブアレイを含む1次元DBF(Digital Beam Forming)アレイアンテナと、
前記1次元DBFアレイアンテナの複数のサブアレイから送られてくるモノパルス合成前のサブアレイ信号に対して複素ICA(Independent Component Analysis;独立成分分析)を行うことにより、目標信号と不要波信号とを分離するICA処理部と、
前記ICA処理部により分離された目標信号に基づき距離を計測する測距部と、
を備えたことを特徴とするレーダ装置。
【請求項2】
円開口が形成されるように一方向に配置し、且つ該一方向に直交する方向に開口分割した位相中心の異なる複数のサブアレイを含む1次元DBF(Digital Beam Forming)アレイアンテナと、
前記1次元DBFアレイアンテナの複数のサブアレイから送られてくるモノパルス合成された信号をモノパルス合成前のサブアレイ信号に変換するサブアレイ分割処理部と、
前記サブアレイ分割処理部から送られてくるサブアレイ信号に対して複素ICA(Independent Component Analysis;独立成分分析)を行うことにより、目標信号と不要波信号とを分離するICA処理部と、
前記ICA処理部により分離された目標信号に基づき距離を計測する測距部と、
を備えたことを特徴とするレーダ装置。
【請求項3】
和信号Σ、AZ面差信号ΔAZおよびEL面差信号ΔELから成るモノパルスビームを出力するアンテナと、
前記アンテナから出力されるモノパルスビームをサブアレイ信号に変換するサブアレイ分割処理部と、
前記サブアレイ分割処理部から送られてくるサブアレイ信号に対して複素ICA(Independent Component Analysis;独立成分分析)を行うことにより、目標信号と不要波信号とを分離するICA処理部と、
前記ICA処理部により分離された目標信号に基づき距離を計測する測距部と、
を備えたことを特徴とするレーダ装置。
【請求項4】
サブアレイの位相中心の間隔が異なる複数のサブアレイからのサブアレイ信号を用いて、ヌルステアリングにより方位を検出する測角部を備えたことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載のレーダ装置。
【請求項5】
前記ICA処理部は、入力されるサブアレイ信号に対して実数ICAを行うことにより、目標信号と不要波信号とを分離することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載のレーダ装置。
【請求項6】
前記ICA処理部は、入力されるサブアレイ信号に対して実数ICAを行うことにより、目標信号と不要波信号とを分離し、
前記測角部は、分離された実数の目標信号から複素信号を生成し、該生成した複素信号に基づきヌルステアリングにより方位を検出することを特徴とする請求項4記載のレーダ装置。
【請求項1】
円開口が形成されるように一方向に配置し、且つ該一方向に直交する方向に開口分割した位相中心の異なる複数のサブアレイを含む1次元DBF(Digital Beam Forming)アレイアンテナと、
前記1次元DBFアレイアンテナの複数のサブアレイから送られてくるモノパルス合成前のサブアレイ信号に対して複素ICA(Independent Component Analysis;独立成分分析)を行うことにより、目標信号と不要波信号とを分離するICA処理部と、
前記ICA処理部により分離された目標信号に基づき距離を計測する測距部と、
を備えたことを特徴とするレーダ装置。
【請求項2】
円開口が形成されるように一方向に配置し、且つ該一方向に直交する方向に開口分割した位相中心の異なる複数のサブアレイを含む1次元DBF(Digital Beam Forming)アレイアンテナと、
前記1次元DBFアレイアンテナの複数のサブアレイから送られてくるモノパルス合成された信号をモノパルス合成前のサブアレイ信号に変換するサブアレイ分割処理部と、
前記サブアレイ分割処理部から送られてくるサブアレイ信号に対して複素ICA(Independent Component Analysis;独立成分分析)を行うことにより、目標信号と不要波信号とを分離するICA処理部と、
前記ICA処理部により分離された目標信号に基づき距離を計測する測距部と、
を備えたことを特徴とするレーダ装置。
【請求項3】
和信号Σ、AZ面差信号ΔAZおよびEL面差信号ΔELから成るモノパルスビームを出力するアンテナと、
前記アンテナから出力されるモノパルスビームをサブアレイ信号に変換するサブアレイ分割処理部と、
前記サブアレイ分割処理部から送られてくるサブアレイ信号に対して複素ICA(Independent Component Analysis;独立成分分析)を行うことにより、目標信号と不要波信号とを分離するICA処理部と、
前記ICA処理部により分離された目標信号に基づき距離を計測する測距部と、
を備えたことを特徴とするレーダ装置。
【請求項4】
サブアレイの位相中心の間隔が異なる複数のサブアレイからのサブアレイ信号を用いて、ヌルステアリングにより方位を検出する測角部を備えたことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載のレーダ装置。
【請求項5】
前記ICA処理部は、入力されるサブアレイ信号に対して実数ICAを行うことにより、目標信号と不要波信号とを分離することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載のレーダ装置。
【請求項6】
前記ICA処理部は、入力されるサブアレイ信号に対して実数ICAを行うことにより、目標信号と不要波信号とを分離し、
前記測角部は、分離された実数の目標信号から複素信号を生成し、該生成した複素信号に基づきヌルステアリングにより方位を検出することを特徴とする請求項4記載のレーダ装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【公開番号】特開2009−20015(P2009−20015A)
【公開日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−183415(P2007−183415)
【出願日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
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