説明

レーダ装置

【課題】複数の異なる観測形態について同時に観測することを可能にしたレーダ装置を提供する。
【解決手段】相関処理のための観測モード毎に異なる信号系列情報を生成する制御手段(1)と、各観測モード毎に前記信号系列情報に従ってパルス毎に位相を0またはπに切替えたパルスのチャープ信号による照射波を生成し、観測方向に照射し、対象物からの反射波を受信するアンテナ手段(2,3,4,5,6)と、前記アンテナ手段で受信された信号を各観測モード毎にそれぞれの前記信号系列情報で相関処理を行いそれぞれの信号のみを圧縮する相関処理手段(7)と、各観測モード毎の相関処理の施された信号に画像処理を行ってそれぞれの観測モードの画像を生成する画像処理手段(8)と、を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、レーダ装置、特に複数の観測モードについて、同時に観測することを可能にしたレーダ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
合成開口レーダ(Synthetic Aperture Rader:以後SARと呼ぶ)は、航空機や衛星等のプラットホームに搭載したアンテナから電波を照射し、対象物からの反射波を受信して、画像を取得するアクティブセンサである。SARには従来から用途に応じた様々な観測モード(スポットライト方式、ストリップマップ方式、スキャン方式等)がある(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
また、例えば特許文献1では、2つのアンテナより放射された電波の反射波を、再びこれら2つのアンテナで受信して、画像再生を実施し、3次元画像を形成している。この場合、1つの観測モード(同じパラメータの送信波)で観測を実施し、2つの受信信号の位相差を用いて、干渉処理を実施し、標高データを算出している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−72244号公報(段落0012、図1)
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Walter G.Carrara, Ron S.Goodman, Ronald M.Majewski, “Spotlight Synthetic Aperture Rader,”Artech House,p4,1995
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来のSARにおいて、様々な観測モードがあるが、異なる種類の観測モードを同時に観測することはできなかった。また、従来の方式では、アクティブフェーズドアレイアンテナ等を用いて、異なる種類の観測モードの電波を送信できたとしても、受信波は混合しているため、観測モード別に信号を分離することは難しく、画像化することはできなかった。
【0007】
この発明は、上記のような課題を解消し、観測方式が異なったり同一観測方式であるが各種パラメータ条件が異なる等の複数の異なる観測モードについて、同時に観測することを可能にしたレーダ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明は、複数の異なる観測モードについて同時に観測を行うレーダ装置であって、相関処理のための観測モード毎に異なる信号系列情報を生成する制御手段と、各観測モード毎に前記信号系列情報に従ってパルス毎に位相を0またはπに切替えたパルスのチャープ信号による照射波を生成し、観測方向に照射し、対象物からの反射波を受信するアンテナ手段と、前記アンテナ手段で受信された信号を各観測モード毎にそれぞれの前記信号系列情報で相関処理を行いそれぞれの信号のみを圧縮する相関処理手段と、各観測モード毎の相関処理の施された信号に画像処理を行ってそれぞれの観測モードの画像を生成する画像処理手段と、を備えたことを特徴とするレーダ装置にある。
【発明の効果】
【0009】
この発明では、複数の異なる観測モードについて同時に観測することを可能にしたレーダ装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】この発明の実施の形態1によるレーダ装置を示す構成図である。
【図2】この発明の実施の形態2によるレーダ装置を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
この発明では例えば、自己相関性の高い信号系列(M系列等)を用いて、複数の異なる観測モード毎に異なる送信波を生成し、開口分割したアンテナから照射する。また、これによる対象物等からの反射波をアンテナで受信し、各観測モード毎にそれぞれの上記信号系列で相関処理を実施することによって、受信信号を分離する。そして分離した受信信号を使って、SAR画像処理を実施することで、異なる種類の観測モードの画像を取得する。
【0012】
以下この発明を各実施の形態に従って説明する。なお、以下の実施の形態では説明を容易にするために、SAR装置における異なる2つの観測モードの場合について説明するが、3つ以上の異なる観測モードでも、所要の構成を観測モード数分増やすことで同様に実施可能である。なお観測モードの異なるものとは、観測方式および同一観測方式での帯域幅や偏波等の観測パラメータ条件、のうちの少なくとも1つが異なるものをいう。さらにSAR装置に限定されるものではなく、通常のレーダ装置にも適用可能である。
【0013】
実施の形態1.
図1はこの発明の実施の形態1によるレーダ装置を示す構成図である。図1において、制御部1は、2つの異なる各観測モード毎に設けられる励振部2および相関処理部7にそれぞれ相関処理のための信号系列情報を出力する。制御部1と各観測モード毎のアンテナ部4の間には照射波を生成するためのそれぞれ励振部2、送信部3が接続されている。一方、照射波の対象物での反射波を処理するために、各アンテナ部4と各相関処理部7の間に受信部5およびデータ処理部6がそれぞれ接続され、各相関処理部7の出力側には画像処理部8がそれぞれ接続されている。
【0014】
なお、制御部1が制御手段を構成し、各観測モードの励振部2、送信部3、アンテナ部4、受信部5、およびデータ処理部6がアンテナ手段を構成し、各観測モードの相関処理部7が相関処理手段、画像処理部8が画像処理手段をそれぞれ構成する。
【0015】
次に動作について説明する。制御部1は、相関処理のための各観測モード毎に異なる信号系列情報を生成し、各励振部2および各相関処理部7に情報を送信する。各励振部2は、原振を有して基準信号を発生させ、基準信号をもとにパルスのチャープ信号を生成する。また、制御部1から送られてきた信号系列情報に従って、パルス毎にチャープ信号の位相を0またはπに切替える。各送信部3は、それぞれの励振部2からのチャープ信号をD/A変換してアナログ信号に変換すると共に所定の信号レベルまで増幅する。
【0016】
各アンテナ部4は、それぞれの送信部3からのチャープ信号を出力レベルまで増幅して、照射波として観測方向に照射する。また、照射波の対象物からの反射波を受信し、所定の信号レベルまで増幅する。ここで各アンテナ部4は、レーダ装置がSAR装置の場合、複数の異なる観測モードで共有するフェーズドアレイアンテナ(図示省略)を有し、フェーズドアレイアンテナのアンテナ開口を分割して、各観測モード毎に割り当てられたアンテナ開口部分からそれぞれ照射波の照射と反射波の受信を行う。また各アンテナ部4がそれぞれにフェーズドアレイアンテナ(図示省略)を有していてもよい。さらに、通常のレーダ装置の場合には、各アンテナ部4がそれぞれにアンテナを有し、それぞれに照射波の照射と反射波の受信を行わせる。
【0017】
各受信部5は、それぞれのアンテナ部4からの受信信号を周波数変換して、ビデオ周波数帯の信号を生成する。また、ローパスフィルタ(図示省略)を有し、受信信号の帯域制限を行う。各データ処理部6は、それぞれの受信部5からの受信信号をA/D変換して、ディジタルデータを作成する。また、所定のデータフォーマットに変換する。
【0018】
各相関処理部7は、それぞれのデータ処理部6からの出力信号に、制御部1からの該当する観測モードの信号系列情報をもとに、送信したチャープ信号と同じ系列を用いて、相関処理を行う。そして各画像処理部8は、それぞれの相関処理部7からの相関処理を行った信号に、例えばSAR装置であれば、SAR画像処理を行って、SAR画像をそれぞれに生成する。
【0019】
なお、各送信部3、受信部5、データ処理部6、画像処理部8には、各種の設備が設けられているが、ここではこの発明の要旨とする部分のみを説明した。
【0020】
制御部1では、相関処理のための信号系列情報を生成する。信号系列は、自己相関性の高い信号系列(M系列等)を用いる。M系列は、次の(1)式の漸化式で表される。
【0021】
【数1】

【0022】
ここで、nは0から始まる整数、Xはnの時の漸化式の結果である。また、p、qは、次の(2)式が既約多項式(因数分解ができない式)となるように選択する。
【0023】
【数2】

【0024】
制御部1は、観測モード毎に、異なる信号系列情報(1ビットの数列)を作成して、励振部2や相関処理部7に送信する。
【0025】
励振部2では、原振を有して基準信号を発生させ、基準信号をもとにチャープ信号を生成する。チャープ信号は次の(3)式で表せる。
【0026】
【数3】

【0027】
ここで、Eは振幅、fは中心周波数、τは時間変数、αはチャープ定数である。
制御部1から送られてきた信号系列情報に従って、パルス毎にチャープ信号の位相を0またはπに切替える。これは次の(4)式で表わされる。
【0028】
【数4】

【0029】
ここで、βは0かπである。例えば、信号系列情報が0の時にβ=0、1の時にβ=πとして、(4)式を用いて、チャープ信号を生成する。
【0030】
アンテナ部4は、観測モードで異なるビーム制御が必要であるため、上述のようにレーダ装置がSAR装置の場合、アクティブフェーズドアレイアンテナ等を採用して、アンテナ開口を分割してビームの送受を行う。
【0031】
アンテナ部4での受信信号は、次の(5)式で表される。
【0032】
【数5】

【0033】
ここで、E’は振幅、kは波数、Rはスラントレンジ距離、cは光速である。
【0034】
相関処理部7は、信号系列情報をもとに、送信したチャープ信号と同じ信号系列で、受信信号の位相に0またはπを足して補正する。補正後の受信信号は、次の(6)式で表される。
【0035】
【数6】

【0036】
ここで、γは0かπである。送信したチャープ信号と同じ信号系列情報に基づいて、γの値を決定する。
【0037】
受信信号を用いて、パルス圧縮を行って、複素画像情報を取得する。パルス圧縮は、受信信号と参照信号の相関処理である。相関処理は、次の(7)式で表される。
【0038】
【数7】

【0039】
ここで、Eはレンジ参照信号、τ’は画像面でのレンジ時間変数である。
(6)式で、βとγが同じであればEの振幅は正となり、βとγが異なればEの振幅は、負となる。
【0040】
次に、パルス圧縮後の信号を用いて、アジマス圧縮を行う。アジマス圧縮も受信信号と参照信号の相関処理である。相関処理は、以下の(8)式で表される。
【0041】
【数8】

【0042】
ここで、E’はアジマス参照信号、tはアジマス時間変数、t’は画像面でのアジマス時間変数である。
【0043】
(6)式で、βとγが同じであれば、信号が積みあがり、Eの振幅は大きくなるが、βとγが異なる場合は、信号が積み上がらず、Eの振幅は小さくなる。
【0044】
上記の相関処理によって、異なった観測モードについて、それぞれの信号のみ圧縮され、画像化することが可能となる。
【0045】
実施の形態2.
図2はこの発明の実施の形態2によるレーダ装置を示す構成図である。上記実施の形態と同一もしくは相当部分は同一符号で示し説明は省略する。実施の形態1では、励振部2と送信部3で、信号系列情報を反映したチャープ信号を生成していた。実施の形態2では、アナログ信号処理部と共にディジタル信号処理部も含み、フェーズドアレイアンテナのアンテナ素子ごとの信号をA/D変換してディジタル的に信号処理を行なう、いわゆるディジタルビームフォーミング方式のディジタルアンテナ部40を採用することにより、ディジタルアンテナ部40内で信号系列情報を反映したチャープ信号を生成する。また、送信信号のD/A変換及び受信信号のA/D変換についても、ディジタルアンテナ部40内で可能となる。すなわちディジタルアンテナ部40に上記実施の形態の励振部2、送信部3、受信部5、およびデータ処理部6のA/D変換機能も含めるようにした。
【0046】
従って各観測モードにおいて、ディジタルアンテナ部40およびデータ処理部60がアンテナ手段を構成する。観測モード毎の各ディジタルアンテナ部40は、それぞれ上記実施の形態に対応する機能を有する励振ユニット、送信ユニット、アンテナユニット、受信ユニット、およびA/D変換ユニット(共に図示省略)を有する。励振ユニットは、原振を有して基準信号を発生させ、基準信号をもとにパルスのチャープ信号を生成する。また、制御部1から送られてきた信号系列情報に従って、パルス毎にチャープ信号の位相を0またはπに切替える。送信ユニットは、それぞれの励振ユニットからのチャープ信号をD/A変換してアナログ信号に変換すると共に所定の信号レベルまで増幅する。
【0047】
アンテナユニットは、それぞれの送信ユニットからのチャープ信号を出力レベルまで増幅して、照射波として観測方向に照射する。また、照射波の対象物からの反射波を受信し、所定の信号レベルまで増幅する。受信ユニットは、アンテナユニットからの受信信号を周波数変換して、ビデオ周波数帯の信号を生成する。また、ローパスフィルタを有し、受信信号の帯域制限を行う。そしてA/D変換ユニットは、受信ユニットからの受信信号をA/D変換して、データ処理部60に送る。
【0048】
データ処理部60はA/D変換されたディジタルデータを所定のデータフォーマットに変換する。相関処理部7、画像処理部8については上記実施の形態と同じである。
【0049】
実施の形態2では、実施の形態1での励振部、送信部、受信部およびデータ処理部のA/D変換機能をディジタルビームフォーミング方式のディジタルアンテナ部に統合したことでSAR装置あるいはレーダ装置全体を小型化することを可能にする。
【符号の説明】
【0050】
1 制御部、2 励振部、3 送信部、4 アンテナ部、5 受信部、6,60 データ処理部、7 相関処理部、8 画像処理部、40 ディジタルアンテナ部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の異なる観測モードについて同時に観測を行うレーダ装置であって、
相関処理のための観測モード毎に異なる信号系列情報を生成する制御手段と、
各観測モード毎に前記信号系列情報に従ってパルス毎に位相を0またはπに切替えたパルスのチャープ信号による照射波を生成し、観測方向に照射し、対象物からの反射波を受信するアンテナ手段と、
前記アンテナ手段で受信された信号を各観測モード毎にそれぞれの前記信号系列情報で相関処理を行いそれぞれの信号のみを圧縮する相関処理手段と、
各観測モード毎の相関処理の施された信号に画像処理を行ってそれぞれの観測モードの画像を生成する画像処理手段と、
を備えたことを特徴とするレーダ装置。
【請求項2】
前記アンテナ手段が、各観測モード毎に、
基準信号をもとにパルスのチャープ信号を生成し、前記信号系列情報に従ってパルス毎に前記チャープ信号の位相を0またはπに切替える励振部、
前記励振部からのチャープ信号をD/A変換してアナログ信号に変換すると共に所定の信号レベルまで増幅する送信部、
前記送信部からの信号を照射波として観測方向に照射すると共に、対象物からの反射波を受信するアンテナ部、
前記アンテナ部からの受信信号を周波数変換しビデオ周波数帯の信号にする受信部、
前記受信部からの信号をA/D変換してディジタルデータを作成し、さらに所定のデータフォーマットに変換するデータ処理部、
を含み、
前記相関処理手段が、各観測モード毎に、それぞれの前記信号系列情報をもとに、前記データ処理部の出力信号に、送信したチャープ信号と同じ系列を用いて相関処理を行う相関処理部を含み、
前記画像処理手段が、各観測モード毎に、それぞれの前記相関処理部の出力信号に画像処理を行って画像を生成する画像処理部を含む、
ことを特徴とする請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項3】
前記アンテナ手段が、各観測モード毎に、ディジタルビームフォーミング方式により照射波を生成するディジタルアンテナ部、およびデータ処理部を含み、
前記ディジタルアンテナ部が、基準信号をもとにパルスのチャープ信号を生成し、前記信号系列情報に従ってパルス毎に前記チャープ信号の位相を0またはπに切替え、位相の切替えを行ったチャープ信号を所定の信号レベルまで増幅して照射波として観測方向に照射すると共に、対象物からの反射波を受信し、さらに受信した信号を周波数変換しビデオ周波数帯の信号にし、
前記データ処理部が、ビデオ周波数帯の信号を所定のデータフォーマットに変換し、
前記画像処理手段が、各観測モード毎に、それぞれの前記信号系列情報をもとに、前記データ処理部の出力信号に、送信したチャープ信号と同じ系列を用いて相関処理を行う相関処理部を含み、
前記画像処理手段が、各観測モード毎に、それぞれの前記相関処理部の出力信号に画像処理を行って画像を生成する画像処理部を含む、
ことを特徴とする請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項4】
前記複数の異なる観測モードが、観測方式および同一観測方式での観測パラメータ条件、の少なくとも1つが異なることを特徴とする請求項1から3までのいずれか1項に記載のレーダ装置。
【請求項5】
前記レーダ装置が合成開口レーダ装置であり、前記アンテナ手段又はアンテナ部が前記複数の異なる観測モードで共有するフェーズドアレイアンテナを有し、前記フェーズドアレイアンテナのアンテナ開口を分割して各観測モード毎に割り当てられたアンテナ開口部分からそれぞれ前記照射波を照射することを特徴とする請求項1から4までのいずれか1項に記載のレーダ装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2010−197169(P2010−197169A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−41251(P2009−41251)
【出願日】平成21年2月24日(2009.2.24)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】