説明

レーダ装置

【課題】検出した各物標のエコーの種類を正確に識別するレーダ装置を提供する。
【解決手段】挙動データ発生部11は、エコーデータが物標検出閾値以上であるかを判定し、判定結果に基づく挙動判定用データを生成するとともに、挙動判定用データを過去数スキャン分並べた挙動データPnを生成する。連続性検出部9は、エコーデータのスイープの方位方向およびスイープの回転方向である距離方向に対する連続性を検出し、連続性データAnを生成する。エコー種類判定部6は、今回のエコーデータが固定物標のエコーか移動物標のエコーか不要波のエコーかを、挙動データPnおよび連続性データAnを組み合わせて判断する。さらには、海面反射領域設定部14からの海面反射領域データBnを用いることで、海面反射のエコーであるかも判断する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、極座標系のエコーデータを直交座標系の画像データに変換して表示するレーダ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、自船の全方位の物標を検出するレーダ装置では、レーダアンテナを所定周期で回転させながら極座標系のエコーデータを取得する。レーダ装置は、この極座標系のエコーデータを直交座標系の画像データに変換して画像メモリに書き込み、所定タイミングで画像メモリに記憶された各画像データを読み出す。そして、レーダ装置の表示部では、読み出した画像データのデータレベルに応じて色を変化させて表示する。例えば、特許文献1の発明の物標表示装置では、物標の移動速度に応じて表示色を変化させたり、陸地、船、ブイ等の物標の種類に応じて表示色を変化させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭58−53778号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、レーダによって検出される領域の状況や、当該領域内に存在する各物標の状況は時々刻々変化するものであるとともに、検出を行う自船の状況も時々刻々変化する。このため、移動物標エコーと固定物標エコーとを識別するとか、移動物標エコーと海面反射エコーとを識別する等の物標エコーの種類を正確に識別することは難しかった。
【0005】
したがって、この発明の目的は、エコーによって検出される各物標の種類を正確に識別することができるレーダ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明は、アンテナを回転させながら探知信号を送信して、該送信した探知信号の反射波を受信することでエコーデータを検出し、該検出したエコーデータに基づいて画像データを生成するレーダ装置に関するものである。このレーダ装置は、連続性検出部、挙動データ発生部、エコー種類判定部を備える。連続性検出部は、画像データの着目画素に対する今回検出したエコーデータの平面的な連続性を検出する。挙動データ発生部は、検出したエコーデータのレベルが物標検出閾値以上であるかどうかを示す挙動判定用データから、着目画素における過去の所定回数のスキャンに亘るエコーデータの挙動を示す挙動データを生成する。エコー種類判定部は、平面的な連続性と挙動データとに基づいて着目画素のエコーデータのエコー種類を判定する。
【0007】
この構成では、検出対象の種類(固定物標、移動物標、海面反射、レーダ干渉など)に応じて、エコーが異なる平面的特性および時間的特性を有することに着目し、物標検出レベルにあるエコーデータの平面的な連続性、時間的な挙動を検出する。そして、これら平面的な連続性の検出結果および時間的な挙動の検出結果を組み合わせることで、エコーデータの種類を判定する。
【0008】
また、この発明のレーダ装置のエコー種類判定部は、着目画素の挙動データを構成する全挙動判定用データのうち物標検出閾値以上を示す挙動判定用データの個数が予め設定した固定物標検出閾値以上であることを検出すると、着目画素のエコーデータが固定物標のエコーデータであると判定する。
【0009】
この構成では、固定物標のエコーデータが着目画素に対して時間的に変化することなく連続的にエコーデータが得られることを利用しており、当該特性を利用して固定物標のエコーデータを識別することができる。
【0010】
また、この発明のレーダ装置のエコー種類判定部は、挙動データにおける時間軸上での直近の1の挙動判定用データもしくは直近から所定回数分の連続する挙動判定用データのみが、物標検出閾値以上を示す挙動判定用データであり、且つ着目画素のエコーデータの連続性が高いことを検出すると、着目画素のエコーデータが移動物標のエコーデータであると判定する。
【0011】
この構成では、移動物標のエコーデータが着目画素に対して平面的な連続性を有し、時間的には過去に物標がなく最近になって物標が検出される状態となることで物標検出レベルのエコーデータが直近にのみ連続的に存在することを利用しており、当該特性を利用して移動物標のエコーデータを識別することができる。
【0012】
また、この発明のレーダ装置のエコー種類判定部は、挙動データにおける物標検出閾値以上を示す挙動判定用データの個数が固定物標検出閾値未満であり且つ着目画素のエコーデータの平面的な連続性が低いことを検出すると、着目画素のエコーデータが不要波のエコーデータであると判定する。
【0013】
この構成では、不要波のエコーが着目画素に対して平面的な連続性が無く、時間的な連続性も低いことを利用しており、当該特性を利用して不要波のエコーデータを識別することができる。
【0014】
また、この発明のレーダ装置のエコー種類判定部は、挙動データにおける物標検出閾値以上を示す挙動判定用データの個数が固定物標検出閾値未満あり、且つ平面的な連続性がアンテナの回転中心を基準とした距離方向に対しては高く、アンテナの回転方向に対しては低いことを検出すると、着目画素のエコーデータがレーダ干渉波のエコーデータであると判定する。
【0015】
この構成では、レーダ干渉波のエコーが着目画素に対してスイープ距離方向(延びる方向)にのみ連続性が高いが、時間的な連続性は低いことを利用しており、当該特性を利用してレーダ干渉波のエコーデータを識別することができる。
【0016】
また、この発明のレーダ装置は、海面からの反射エコーが存在する海面反射領域を検出する海面反射領域検出部を備える。海面反射領域検出部による海面反射領域の検出は所定の公知の手法により行われる。エコー種類判定部は、着目画素が海面反射領域内にあることを検出するとともに、着目画素のエコーデータが固定物標或いは移動物標のエコーデータでないと判定した場合に、当該着目画素のエコーデータが海面反射のエコーデータであると判定する。
【0017】
この構成では、海面反射のエコーデータを識別することができるとともに、海面反射領域内に存在する固定物標或いは移動物標のエコーデータも識別できる。
【0018】
また、この発明のレーダ装置は、それぞれに異なる色情報を有する複数のカラーパレットと、エコー種類判別の判別結果に分類されるエコー種類毎に異なる色情報を設定する色設定部と、を備える。
【0019】
この構成では、エコーの種類毎に異なる色で表示されるので、表示画面上でエコーの種類を明確に識別することができる。
【0020】
また、この発明のレーダ装置の色設定部は、エコーデータに基づく着目画素の画像データのレベルに応じてさらに濃淡を設定する。
【0021】
この構成では、エコーのレベルに応じて濃淡が付けられるので、より明確にエコーの種類およびエコーの検出レベルを認識することができる。
【発明の効果】
【0022】
この発明によれば、固定物標エコー、移動物標エコー、不要波のエコーのように、各物標に対するエコーの種類を正確に判別することができる。すなわち、エコーにより検出される物標の種類を正確に判別することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】第1の実施形態のレーダ装置の主要構成を示すブロック図である。
【図2】挙動データPnと不安定度と不安定状態検出データQnとの関係を示す図である。
【図3】海面反射領域の拡大概念を示す図である。
【図4】連続性の概念を説明する図である。
【図5】エコー識別データTnの決定フローを示すフローチャートである。
【図6】第1の実施形態の構成および処理を用いた場合の表示画面例を示した図である。
【図7】第2の実施形態のレーダ装置の主要構成を示すブロック図である。
【図8】第2の実施形態の構成および処理を用いた場合の表示画面例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の実施形態のレーダ装置について図を参照して説明する。なお、本実施形態では、レーダ装置を例に説明するが、ソナー等、物標を検出して表示する装置であれば、本実施形態は適用することができる。
【0025】
図1は本実施形態のレーダ装置の主要構成を示すブロック図である。
本実施形態のレーダ装置のレーダアンテナ1は、所定回転周期で水平面を回転しながら、回転周期とは異なる送受信周期で、パルス状電波を放射するとともに、自装置周囲にいる物標からの反射波を極座標系で受信する。レーダアンテナ1は、受信信号を受信部2に出力するとともに、スイープ角度データを描画アドレス発生部5に出力する。
【0026】
受信部2は、レーダアンテナ1からの受信信号を検波して増幅し、AD変換部3に出力する。AD変換部3は、このアナログ形式の受信信号を複数ビットからなるデジタルデータ(エコーデータ)に変換する。
【0027】
スイープメモリ4は、デジタル変換された1スイープ分のエコーデータを実時間で記憶し、次の送信により得られるエコーデータが再び書き込まれるまでに、この1スイープ分のエコーデータXnを、画像メモリ7、連続性検出部9、および挙動データ発生部11へ出力する。
【0028】
描画アドレス発生部5は、スイープ回転の中心を開始番地として、中心から周囲に向かって、所定方向(例えば船首方向)を基準としたアンテナ角度θとスイープメモリ4の読み出し位置rとから、対応する直交座標系で配列された画像メモリ7、挙動データメモリ711、不安定状態保持メモリ713の画素を指定する番地を作成する。この描画アドレス発生部5は、具体的には次式を実現するハードウェアにより構成される。
【0029】
X=Xs+r・sinθ
Y=Ys+r・cosθ
ただし、X,Yは画像メモリ7、挙動データメモリ711、不安定状態保持メモリ713の画素を指定する番地であり、Xs,Ysはスイープ(アンテナ)回転の中心番地であり、rは中心からの距離であり、θはスイープ(アンテナ)の角度である。
【0030】
海面反射領域検出部10は、不安定画素検出部12、不安定状態保持用データ発生部13、海面反射領域決定部14を備える。
【0031】
挙動データ発生部11は、スイープメモリ4から入力される今回のエコーデータXnが、予め設定した検出閾値以上であるかどうかを判定する。検出閾値は、例えば検出したホワイトノイズレベルに所定のオフセットを加算したものが用いられる。挙動データ発生部11は、今回のエコーデータXnが検出閾値以上であれば、「1」からなる挙動判定用データを生成し、今回のエコーデータXnが検出閾値未満であれば、「0」からなる挙動判定用データを生成する。
【0032】
挙動データメモリ711は、後述する画像メモリ7や不安定状態保持メモリ713と同様に、直交座標系アドレスで設定される画素毎に挙動データを記憶する記憶媒体である。挙動データメモリ711、画像メモリ7、不安定状態保持メモリ713はそれぞれに画素アドレスが対応するようにアドレスが設定されている。挙動データメモリ711は、画素毎に、複数ビットが割り当てられており、今回から時系列に複数スキャン分の挙動判定用データを記憶する容量を備える。この際、挙動判定用データは、時系列にLSBからMSBに向かって一段階ずつ上位のビットへシフトさせながら記憶される。
【0033】
挙動データ発生部11は、極座標系から直交座標系への変換処理に同期して、今回の挙動判定用データを生成するとともに、挙動データメモリ711から、今回の挙動判定用データに対応する画素アドレスにおける過去の複数スキャン分の挙動判定用データからなる複数ビットの挙動データPn−1を読み出す。挙動データ発生部11は、読み出した挙動データPn−1の各挙動判定用データを上位側に一段階シフトし、最下位のビットを今回の挙動判定用データとして、今回の挙動データPnを出力する。例えば、画素毎に8ビット構成に設定されている場合は、読み出した挙動データPn−1のbit0からbit6の挙動判定用データをそれぞれbit1からbit7へシフトし、bit7の挙動判定用データを破棄して、bit0に今回の挙動判定用データを割り当てる。これにより、今回を含む過去8スキャン分の挙動判定用データが記憶される。
【0034】
このように挙動データ発生部11から出力された今回の挙動データPnは、挙動データメモリ711の対応画素アドレスに更新記憶されるとともに、不安定画素検出部12およびエコー種類判定部6へ入力される。
【0035】
不安定画素検出部12は、挙動データ発生部11からの挙動データPnを取得して、挙動データPnの隣り合うビット間での状態変化の数を不安定度として算出する。すなわち、隣り合うビット(例えばbit0とbit1や、bit6とbit7)間で、「1」から「0」へ変化したり、「0」から「1」へ変化する回数を検出する。
【0036】
例えば、図2は、挙動データPnと不安定度と不安定状態検出データQnとの関係を示す図である。
図2の上段に示すように、挙動データPnの各挙動判定用データがスキャン毎に「1」、「0」と交互になる場合、8ビット中で7回状態変化が発生するので、不安定度は「7」と算出される。また、図2の下段に示すように、挙動データPnの各挙動判定用データが、「0」から「1」に一度だけ変化する場合は、8ビット中で1回状態変化が発生するので、不安定度は「1」と算出される。
【0037】
これにより、不安定画素検出部12では、判定を行う画素に対して今回を含む過去複数スキャン分について、エコーデータが検出閾値を基準としてどのように推移しているかを検出する。例えば、検出閾値以上のエコーデータが連続的に安定して取得されていたり、検出閾値未満のエコーデータが安定して連続的に取得されていたりするか、検出閾値以上のエコーデータと検出閾値未満のエコーデータとが不規則順に取得されているか等を検出する。
【0038】
不安定画素検出部12は、不安定度を算出すると、予め設定した不安定状態検出閾値をと比較して、不安定度が不安定状態検出閾値以上であれば、「1」の不安定状態検出データQnを生成し、不安定度が不安定状態検出閾値未満であれば、「0」の不安定状態検出データQnを生成する。例えば、不安定状態検出閾値を不安定度=「4」に設定した場合、図2の上段に示すような場合であれば、不安定度=「7」であるので、「1」の不安定状態検出データQnを生成し、図2の下段に示すような状態であれば、不安定度=「1」であるので、「0」の不安定状態検出データQnを生成する。不安定画素検出部12は、不安定状態検出データQnを不安定状態保持用データ発生部13へ出力する。
【0039】
これにより、不安定画素検出部12は、検出対象となる画素が不安定状態、すなわち海面反射等により物標検出が不安定となる領域内であることを検出する。これは、海面反射がスキャン毎に同じ位置に出現しないで規則性無く検出されるような状況において、不安定な状況すなわち海面反射が検出される画素では、挙動データの各ビットすなわち挙動判定用データは、「1」、「0」が不規則に並ぶ確率が高くなり、不安定度が大きくなることを利用している。一方で、海面反射に比べ、物標が検出される画素やなにも検出されない画素では、挙動データの各ビットすなわち挙動判定用データは、「1」、「0」が規則的に並ぶ確率が高くなり、不安定度が小さくなることを利用している。
【0040】
不安定状態保持用データ発生部13は、不安定状態検出データQnの値と不安定状態保持メモリ713を用いて、判定対象画素が不安定状態であるという情報を複数スキャン間保持する。不安定状態保持メモリ713は、画像メモリ7の各画素と1対1に対応した画素位置ごとに複数bitの容量を持つメモリである。
【0041】
例えば、不安定状態の判定対象画素に対して、不安定状態検出結果をMスキャン分保持したい場合、不安定状態保持用データ発生部13は、不安定状態検出データQnが「1」であれば、前回の不安定状態保持用データHn−1の値にかかわらず、今回の不安定状態保持用データHnを「M」(Mは整数)に設定する。一方、不安定状態検出データQnが「0」であれば、不安定状態保持用データ発生部13は、前回の不安定状態保持用データHn−1の値から1減算した値を、今回の不安定状態保持用データHnに設定する。不安定状態保持用データ発生部13は、設定した今回の不安定状態保持用データHnを海面反射領域設定部14に出力する。
【0042】
このような処理を行うことにより、不安定状態が検出された画素については、その後に安定状態が継続的に検出されても、今回の不安定状態検出のタイミングを含む以降の所定回(上記例ではM回)のスキャン分、不安定状態保持用データHnは「0」にはならない。これにより、不安定状態が検出された画素については、不安定状態を所定スキャン回数(M回)分保持することができる。これは、海面反射領域の境界を明確に区切ることができないことに対応した処理である。具体的には、海面反射は、海況、風向、アンテナ高さ、STC等の調整により変化し、さらに、自船からの距離が離れるにしたがって弱くなる。このため、海面反射の境界は明確に区切ることができず、不安定状態から一時的に安定状態になったとしても、判定対象画素のエコーデータは海面反射である確率は高い。したがって、このような処理を行うことで、後述する処理で海面反射を強調してしまうことを防止することができる。
【0043】
なお、海面反射領域の検出や設定は、上述の方法に限るものではなく、他の既知の方法を用いて検出・設定を行ったり、オペレータによるマニュアル入力で設定してもよい。
【0044】
海面反射領域設定部14は、入力された不安定状態保持用データHnに対して、Hn=0であるか、Hn≠0であるかを判定し、不安定状態保持用データHn≠0であれば、当該不安定状態保持用データHnに対応する画素を海面反射領域設定基準画素として検出する。海面反射領域設定部14は、海面反射領域基準画素を検出すると、当該海面反射領域基準画素を基準にして、距離R方向および方位Θ方向へ海面反射領域を拡大するように、直交座標系で海面反射拡大領域を決定する。
【0045】
例えば、図3は海面反射領域の拡大概念を示す図であり、(A)は一つの海面反射領域基準画素に対する拡大概念を示し、(B)はそれぞれの海面反射領域基準画素による海面反射拡大領域の重ね合わせ概念を示す。
【0046】
図3を用いてさらに詳細に説明すると、海面反射領域設定部14は、図3(A)に示すように、海面反射領域基準画素401を検出すると、距離R方向および方位Θ方向へ海面反射領域を拡大させるように、直交座標系の複数の画素を選択して海面反射拡大領域410を決定する。この際、海面反射領域設定部14は、海面反射拡大領域410において、海面反射領域基準画素401がスイープの中心に距離方向で最も近く、スイープ回転方向に対して最も起点側となるようにして所定画素分(図3では、距離方向、スイープ回転方向ともに三画素分)を海面反射領域として拡大し、海面反射拡大領域410を設定する。
【0047】
このような海面反射拡大領域の設定は、不安定状態保持用データHn≠0を受け付ける毎に行われる。そして、海面反射領域設定部14は、図3(B)に示すように、海面反射領域基準画素401に基づく海面反射拡大領域410、海面反射領域基準画素402に基づく海面反射拡大領域420、海面反射領域基準画素403に基づく海面反射拡大領域430、海面反射領域基準画素404に基づく海面反射拡大領域440を組み合わせ、合成海面反射領域400を設定する。
【0048】
海面反射領域設定部14は、合成海面反射領域400に該当する画素であるかどうかを示す海面反射領域データBnを生成し、エコー種類判定部6へ出力する。具体的には、海面反射領域設定部14は、合成海面反射領域400内の画素であれば、海面反射領域データBn=1を生成し、合成海面反射領域400外であれば、海面反射領域データBn=0を生成して、エコー種類判定部6へ出力する。
【0049】
このような処理とすることで、実際に不安定状態として検出された画素のみでなく、当該画素を基準にして、当該画素近傍の不安定状態で有る可能性の高い画素をも拡大して海面反射領域に設定することができる。これは、不安定状態の画素の近傍は、当然のことながら不安定状態である可能性が高いからであり、これにより、海面反射抑圧領域の平面的な拡大設定を行うことができる。
【0050】
連続性検出部9は、スイープメモリ4から入力されるエコーデータXnを所定方位分記憶するバッファメモリを備え、判定対象となるエコーデータXnの連続性を検出する。
【0051】
図4は連続性の概念を説明する図であり、(A)は連続性判定の説明図、(B)は物標、干渉、ホワイトノイズ毎の連続性の判定例を説明する図である。
【0052】
連続性検出部9は、バッファメモリから、連続性の判定対象となるエコーデータを含む連続性判定基準領域110内に存在するエコーデータを抽出する。ここで、連続性判定基準領域110は、例えば、判定対象となるエコーデータ100に対して、距離R方向に隣り合うエコーデータ101N,101Fと、方位Θ方向に隣り合うエコーデータ102C,103Cと、図4(A)において距離R方向と方位Θ方向とが約45°で交差して伸びる4方向に隣り合うエコーデータ102N,102F,103N,103Fとを囲む領域である。
【0053】
連続性検出部9は、これらエコーデータ100,101N,101F,102N,102C,102F,103N,103C,103Fのデータレベルを検出する。連続性検出部9は、予め設定した検出閾値以上のレベルを有するエコーデータ数が、同様に予めセットされた判定閾値以上であれば、連続性が有ると判断し、エコー種類判定部6へ連続性データAn=1を出力する。連続性検出部9は、予め設定した検出閾値以上のレベルを有するエコーデータ数が、同様に予めセットされた判定閾値未満であれば、連続性が無いと判断し、エコー種類判定部6へ連続性データAn=0を出力する。
【0054】
例えば、図4(B)に示すように、物標901は、検出閾値以上のレベルを有するエコーデータが集まっているので、連続性判定基準領域110に存在する検出閾値以上のレベルを有するエコーデータが多く存在する。また、干渉902は、同一の方位方向にのみ所定閾値以上のレベルを有するエコーデータが存在するため、連続性判定基準領域110に存在する検出閾値以上のレベルを有するエコーデータ数が少なくなる。また、ホワイトノイズ903も、単発で発生することが多いので、連続性判定基準領域110に存在する検出閾値以上のレベルを有するエコーデータは少なくなる。
【0055】
したがって、連続性の判定閾値を、連続性判定基準領域110内に存在する検出閾値以上のレベルを有するエコーデータ数が連続性判定基準領域110内のエコーデータ数の過半数よりも多くなるように、例えば50%にすることで、物標と、干渉およびホワイトノイズとを判別することができる。
【0056】
エコー種類判定部6は、算出された今回のエコーデータXnのエコー種類を、今回の挙動データPn、連続性データAn、および海面反射領域データBnに基づいて判定し、エコー識別データTnを決定する。
図5は、エコー識別データTnの決定フローを示すフローチャートである。
【0057】
エコー種類判定部6は、今回の挙動データPnに基づいて存在度Cnを算出する(S101)。存在度Cnは、挙動データPnを構成する所定スキャン分の挙動判定用データ中に「1」からなる挙動判定用データがいくつ存在するかにより決定される。例えば、Pn={11111111}であれば、存在度Cn=「8」であり、Pn={0101010101}であれば存在度Cn=「4」である。このように存在度Cnは、同一画素に検出閾値以上のエコーデータが多く存在するほど大きくなる。
【0058】
エコー種類判定部6は、この性質を利用し、存在度に対する固定物標判別閾値を設定し、当該固定物標判別閾値以上の存在度Cnであれば、固定物標エコーであると判別し、固定物標エコーを示すエコー識別データTnを設定する(S102)。例えば、固定物標判別閾値を「6」とすれば、存在度Cn≧6となる判別対象画素のエコーデータを固定物標エコーとし、当該エコーデータに対してエコー識別データTn=「3」を設定する。
【0059】
次に、エコー種類判定部6は、挙動データPn、連続性データAn、および海面反射領域データBnに基づいて移動物標エコーを判別する(S103)。具体的には、次に示す(A)、(B)の条件を同時に満たした場合に、エコー種類判定部6は、判別対象画素のエコーデータを移動物標エコーであると判別し、当該エコーデータに対して移動物標エコーを示すエコー識別データTn=「2」を設定する。
(A)連続性データAnが所定の物標検出閾値以上(例えば「3」以上)であること。
(B)挙動データPnのLSB側の所定ビットが連続的に「1」であること、すなわち、挙動データPnが「0」のみからなる状態から、新たにLSM側から「1」が更新されたり(Pn={00000001})、当該「1」が連続的に更新される(Pn={00000011})状態であること。
【0060】
これは、移動物標であれば、平面的に所定の連続性を有し、且つ移動により物標が該当画素に達した時点から挙動判定用データが「0」から「1」へ変化することに基づいている。なお、海面反射領域内では、海面反射の状態によって、移動物標と同じような連続性データAnと挙動データPnになる可能性がある。そのため、海面反射が移動物標からのエコーと誤って判断されることを避けるため、上述の(A)、(B)の条件に加え、(C)の条件を付け加えてもよい。
(C)海面反射データBn=「0」すなわち海面反射領域外であること。
【0061】
次に、エコー種類判定部6は、海面反射領域データBnに基づいて、海面反射エコーであるかどうかの判別を行う(S104)。エコー種類判定部6は、Bn=「1」の場合に、海面反射エコーであると判別し、当該エコーデータに対して海面反射エコーを示すエコー識別データTn=「1」を設定する。
【0062】
次に、エコー種類判定部6は、上述のステップS102〜S104で判別されなかったエコーデータを、レーダ干渉等を示すその他のエコーであると判別し、当該エコーデータに対してその他のエコーを示すエコー識別データTn=「0」を設定する。なお、レーダ干渉波のエコーに関しては、連続性データAnをスイープ距離方向連続性データAnrとスイープ方位方向連続性データAnθとに分解して算出し、スイープ距離方向連続性データAnrのみが高いことを検出することで、判別することも可能である。
このように、上述の構成および方法を用いることで、物標の種類毎にエコーデータを判別することができる。
【0063】
エコー種類判定部6は、今回のエコーデータXnが画像メモリ7へ与えられるタイミングに合わせて、エコー識別データTnを画像メモリ7へ出力する。画像メモリ7は、アンテナ一回転分すなわちスイープ一回転分のエコーデータXnとこれに対応するエコー識別データTnとを記憶する分の容量を備えるメモリである。
【0064】
画像メモリ7には、エコー種類判定部6で生成された今回のエコーデータXnと当該エコーデータXnに関連付けされたエコー識別データTnとが描画アドレス発生部5で指定された画素アドレスで書き込まれる。そして、画像メモリ7は、図示しない表示制御部により表示器8がラスター走査されると、このラスター動作に同期して、エコーデータXnおよびエコー識別データTnが読み出される。読み出されたエコーデータXnおよびエコー識別データTnは、表示色選択部78に与えられる。
【0065】
表示色選択部78は、RGBに基づいて、それぞれ異なる色に設定された複数のカラーパレットを備えている。これらカラーパレットはエコー識別データ毎に設定されている。例えば、エコー識別データTn=「3」であれば緑色、エコー識別データTn=「2」であれば赤色、エコー識別データTn=「1」であれば青色、エコー識別データTn=「0」であれば黄色のように設定される。
【0066】
表示色選択部78は、受け付けたエコー識別データTnに応じたカラーパレットを選択して、当該カラーパレットの表示色情報を、エコーデータXnともに、表示器8へ与える。
【0067】
表示制御部は、読み出したエコーデータXnおよび表示色情報を用いて、さらにエコーデータXnのレベルに応じて色度(濃淡)を変化させることで画像データを形成し、当該画像データに基づいて、表示器8を表示制御する。
【0068】
このような構成および処理を行うことで、エコーの種類を正確に判定することができる。さらに、この識別されたエコーの種類に基づいて図6に示すようなカラーの表示画面を得ることができる。
【0069】
図6は、本実施形態の構成および処理を用いた場合の表示画面例を示した図である。なお、図6において、海面反射領域内では、固定物標エコー502B’以外の丸印のエコーは海面反射エコーを示している。
【0070】
図6に示すように、本実施形態の構成を用いることで、海面反射領域外では、固定物標エコー502A’,504’が緑色で表示され、移動物標エコー503’が赤色で表示され、その他のエコー505A’が黄色で表示される。また、海面反射領域内では、固定物標エコー502B’が緑色で表示され、海面反射エコー501’およびその他のエコー(干渉)505A’が青色で表示される。
【0071】
このように、本実施形態の構成を用いることで、エコーの種類毎に異なる色で表示されるので、表示器上の各エコーの表示を見ただけで、容易にエコーの種類を識別することができる。
【0072】
次に、第2の実施形態に係るレーダ装置について図を参照して説明する。
本実施形態のレーダ装置は、第1の実施形態のレーダ装置に対してスキャン相関処理機能を備えたものであり、以下では、第1の実施形態とは異なる箇所のみを説明する。
図7は本実施形態のレーダ装置の主要構成を示すブロック図である。
【0073】
本実施形態では、第1の実施形態に示したエコー種類判定部6の機能を有するともにスキャン相関処理を行うWデータ発生部60を備える。これに伴い、スイープメモリ4から出力されるエコーデータXnは、Wデータ発生部60へ入力される。また、画像メモリ7は、アンテナ一回転分すなわちスイープ一回転分のスキャン相関処理結果データとこれに対応するエコー識別データTnとを記憶する分の容量を備えるメモリとなる。
【0074】
Wデータ発生部60は、スイープメモリ4から入力される今回のエコーデータXnと、画像メモリ7から読み出される1回転前のスキャン相関処理結果データYn−1と、連続性検出部9からの連続性データAnと、挙動データ発生部11からの挙動データPnと、海面反射領域設定部14からの海面反射領域データBnに基づいて、今回のスキャン相関処理結果データYnを算出する。
【0075】
Wデータ発生部60は、下記の式(1)の演算を実行するハードウエアからなる。
【0076】
Yn=α・Xn+βYn−1 −(1)
ここで、α、βの値をエコーデータの種類に応じて適宜設定することにより変化の多い海面反射エコーのレベルを抑圧して、当該海面反射の領域内に存在するブイ等の固定物標エコーのレベルを高くすることができる。そして、このレベルに応じて上述の色情報における色度(濃淡)を変化させることで、図8に示すように、固定物標エコーと海面反射エコーとをより識別しやすくしたり、移動物標エコーの移動状態を識別しやすくする表示を行うことができる。図8は第2の実施形態の構成および処理を用いた場合の表示画面例を示した図である。
【0077】
このように、本実施形態の構成および処理を用いることで、色のみでなく濃淡を用いて、エコーの種類毎の表示を行うことができ、より視認性の良い表示画面を実現できる。
【符号の説明】
【0078】
1−レーダアンテナ、2−受信部、3−AD変換部、4−スイープメモリ、5−描画アドレス発生部、6−エコー種類判定部、7−画像メモリ、8−表示器、9−連続性検出部、10−海面反射領域検出部、11−挙動データ発生部、12−不安定画素検出部、13−不安定状態保持用データ発生部、14−海面反射領域設定部、60−Wデータ発生部、711−挙動データメモリ、713−不安定状態保持メモリ、500−海面反射領域設定区域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンテナを回転させながら探知信号を送信して、該送信した探知信号の反射波を受信することでエコーデータを検出し、該検出したエコーデータに基づいて画像データを生成するレーダ装置であって、
前記画像データの着目画素に対する今回検出したエコーデータの平面的な連続性を検出する連続性検出部と、
検出したエコーデータのレベルが物標検出閾値以上であるかどうかを示す挙動判定用データから、前記着目画素における過去の所定回数のスキャンに亘るエコーデータの挙動を示す挙動データを生成する挙動データ発生部と、
前記平面的な連続性と前記挙動データとに基づいて前記着目画素のエコーデータのエコー種類を判定するエコー種類判定部と、を備えたレーダ装置。
【請求項2】
前記エコー種類判定部は、前記着目画素の挙動データを構成する全挙動判定用データのうち、前記物標検出閾値以上を示す挙動判定用データの個数が予め設定した固定物標検出閾値以上であることを検出すると、前記着目画素のエコーデータが固定物標のエコーデータであると判定する、請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項3】
前記エコー種類判定部は、前記挙動データにおける時間軸上での直近の1の挙動判定用データもしくは直近から所定回数分の連続する挙動判定用データのみが前記物標検出閾値以上を示す挙動判定用データであり且つ前記着目画素のエコーデータの前記平面的な連続性が高いことを検出すると、前記着目画素のエコーデータが移動物標のエコーデータであると判定する、請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項4】
前記エコー種類判定部は、前記挙動データにおける前記物標検出閾値以上を示す挙動判定用データの個数が前記固定物標検出閾値未満であり、且つ前記着目画素のエコーデータの前記平面的な連続性が低いことを検出すると、前記着目画素のエコーデータが不要波のエコーデータであると判定する、請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項5】
前記エコー種類判定部は、前記挙動データにおける前記物標検出閾値以上を示す挙動判定用データの個数が前記固定物標検出閾値未満あり、且つ前記平面的な連続性が前記アンテナの回転中心を基準とした距離方向に対しては高く、前記アンテナの回転方向に対しては低いことを検出すると、前記着目画素のエコーデータがレーダ干渉波のエコーデータであると判定する、請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項6】
所定の手法により、海面からの反射エコーが存在する海面反射領域を検出する海面反射領域検出部を備え、
前記エコー種類判定部は、前記着目画素が前記海面反射領域内にあることを検出するとともに、前記着目画素のエコーデータが固定物標或いは移動物標のエコーデータでないと判定した場合には、当該着目画素のエコーデータが海面反射のエコーデータであると判定する、請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項7】
それぞれに異なる色情報を有する複数のカラーパレットと、
前記エコー種類判別の判別結果に分類されるエコー種類毎に異なる色情報を設定する色設定部と、を備える請求項1〜請求項6のいずれかに記載のレーダ装置。
【請求項8】
前記色設定部は、前記エコーデータに基づく前記着目画素の画像データのレベルに応じてさらに濃淡を設定する請求項7に記載のレーダ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−197263(P2010−197263A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−43444(P2009−43444)
【出願日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【出願人】(000166247)古野電気株式会社 (441)
【Fターム(参考)】