説明

レーダ装置

【課題】車載用などのレーダ装置を、低コストで高精度なものとする。
【解決手段】パルス内周波数拡散された送信パルスを、パルス間で周波数をステップさせて送信させ、その送信パルスの目標物からの反射を受信するレーダ装置において、送信周波数をステップさせるステップ間隔を、周波数の上限と下限を固定した3次関数となるような非線形ステップとした。また、2つの相補となる関数の加算による合成により、目標物からの反射波によるパルス信号以外の成分を抑圧可能な2つの相補信号を、同一周波数で連続する送信パルスとして割り当てるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁波や音波を用いた計測装置において、目標までの距離と速度を測る技術に関する。
【背景技術】
【0002】
電磁波を用いた計測技術の応用の一つとしてレーダ(Radar)が挙げられる。
【0003】
近年、レーダ技術の応用の一つに高度道路情報システムITS(Intelligent Transport Systems)において、ミリ波車載レーダをセンサとした衝突予防技術の研究が進められている。ミリ波車載レーダにて危険を早期に感知し自動車を安全に制御することで、衝突の回避や衝突被害の軽減が期待される。
【0004】
特許文献1には、従来のレーダ装置に適用される技術の一例についての記載がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3699450号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
他車の動きを正しく予測するためには、距離,角度,速度を正しく計測する必要があり、ミリ波車載レーダには低コスト(すなわち狭受信機帯域幅,低信号処理レート)でありながら、高距離分解能が求められている。現在、ミリ波車載レーダには比較的低速の信号処理で高距離分解能が得られるFMCW(Frequency Modulated Continuous Wave)方式が多く採用されている。しかし、FMCW方式では多目標時にアップ掃引とダウン掃引の検出周波数のペアリング誤作動が発生し、ミリ波車載レーダが普及した際に問題となることが予想される。一方、パルス圧縮方式は高速の相関処理を必要とし、高距離分解能を実現するには、広帯域受信系と高速のアナログ/デジタル(A/D)変換器および信号処理を必要とする。現在、利用可能なA/D変換器には変換速度の限界があり、またミリ波車載レーダを広く普及させるためには低コスト化も必須である。よって、これら課題を解決する新しいレーダ方式が求められている。
【0007】
本発明はこれらの点に鑑みてなされたものであり、低コストで精度の高いレーダ探知が行えるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の発明は、パルス内周波数拡散された送信パルスを、パルス間で周波数をステップさせて送信させ、その送信パルスの目標物からの反射を受信して目標物を探知する場合に、送信周波数をステップさせるステップ間隔を、周波数ステップの上限と下限を固定した3次関数となるような非線形ステップとしたものである。
【0009】
第2の発明は、パルス内周波数拡散された送信パルスを、周波数をステップさせて送信させ、その送信パルスの目標物からの反射を受信して目標物を探知する場合に、2つの相補となる関数の加算による合成により、目標物からの反射波によるパルス信号以外の成分を抑圧可能な2つの相補信号を、同一周波数で連続する送信パルスとして割り当て、その2つの相補信号による送信パルスを周波数ステップさせるようにしたものである。
【発明の効果】
【0010】
第1の発明によると、送信周波数をステップさせるステップ間隔を、周波数ステップの上限と下限を固定した3次関数となるような非線形ステップとしたことで、受信帯域などを変更することなく、距離分解能を向上させ、かつパルス信号以外の成分を低減することが可能となる。
また第2の発明によると、2つの相補となる関数の加算による合成により、目標物からの反射波によるパルス信号以外の成分を抑圧可能な2つの相補信号を、同一周波数で連続する送信パルスとして割り当てることで、目標分離の向上が可能となる。
従って第1及び第2の発明によると、レーダ装置で目標物探知精度、および複数目標時の分解能が向上する効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】パルスレーダ測距原理を示す説明図である。
【図2】パルスレーダの距離分解能を示す説明図である。
【図3】パルスドップラレーダ信号処理例を示す構成図である。
【図4】パルスドップラレーダ測速原理を示す説明図である。
【図5】パルスドップラレーダ及びパルス圧縮レーダを示す説明図である。
【図6】パルス圧縮レーダで用いられる変調波の種類を示す説明図である。
【図7】パルス圧縮レーダ信号処理例を示す構成図である。
【図8】LFM変調波の例を示す波形図である。
【図9】パルス圧縮処理参照関数の例を示す波形図である。
【図10】パルス圧縮出力波形例を示す波形図である。
【図11】パルス圧縮出力波形例を示す波形図である。
【図12】ウェイト適用後パルス圧縮出力波形例を示す波形図である。
【図13】パルス圧縮レーダとSSWの比較図である。
【図14】SSWの送信周波数シーケンス図である。
【図15】SSWの信号処理例を示す構成図である。
【図16】パルス圧縮結果の例を示す特性図である。
【図17】スペクトラムシフト処理状態を示す説明図である。
【図18】送信占有帯域幅に相当する合成帯域を示す説明図である。
【図19】レンジプロファイルの例を示す説明図である。
【図20】レンジプロファイルの例を示す説明図である。
【図21】NL−SWWの非線形周波数ステップの概念図である。
【図22】NL−SWWの送信周波数シーケンス図である。
【図23】非線形パラメータによる3次関数の決定処理を示す説明図である。
【図24】多周波NL−SWWの送信周波数シーケンス図である。
【図25】送信周波数シーケンスの使用可能な条件の例を示す説明図である。
【図26】多周波NL−SWWの処理例を示す構成図である。
【図27】nに対するm方向サンプリング信号をフーリエ変換後の出力例を示す特性図である。
【図28】非線形周波数ステップ間隔の例を示す特性図である。
【図29】PSLのσ依存性を示す説明図である。
【図30】逆フーリエ変換後の出力例を示す特性図である。
【図31】逆フーリエ変換後の出力例を示す特性図である。
【図32】FMパルス圧縮レーダの送受信シーケンス図である。
【図33】FMパルス圧縮における受信波の例を示す波形図である。
【図34】FMパルス圧縮における参照関数の例を示す波形図である。
【図35】FMパルス圧縮の出力例を示す波形図である。
【図36】相補信号の導出例を示す特性図である。
【図37】相補符号による位相変調波のパルス圧縮処理後の例を示す波形図である。
【図38】相補信号の加算波形の例を示す波形図である。
【図39】LFSの送受信シーケンス図である。
【図40】2周波CWレーダの送受信シーケンス図である。
【図41】多周波ステップICWレーダの送受信シーケンス図である。
【図42】多周波ステップICW方式による処理例の構成図である。
【図43】周波数軸による分離例を示す説明図である。
【図44】時間軸による分離例(ケース1)を示す説明図である。
【図45】時間軸による分離例(ケース2)を示す説明図である。
【図46】相補信号化帯域合成法による送受信シーケンス図である。
【図47】受信波パルスを得るまでの処理例を示す構成図である。
【図48】ハイブリッドCFS法によるパルス圧縮処理後の信号処理例を示す構成図である。
【図49】相補符号+SWWにおいてIFFTをMUSICに置き換える場合の例を示す構成図である。
【図50】図48の構成で速度成分を検出する場合の例を示す構成図である。
【図51】(a)はCode1の信号の検出状態を示し、(b)はCode2の信号の検出状態を示し、(c)はCode1の信号とCode2の信号の検出状態を示した波形図である。
【図52】Code1の信号から検出される速度成分を示した波形図である。
【図53】Code1の信号とCode2の信号とから検出される速度成分を示した波形図である。
【図54】NL−SWWの非線形周波数ステップの概念図である。
【図55】NL−SWWの信号処理構成例を示したブロック図である。
【図56】拘束条件の例を波形で示した説明図である。
【図57】拘束条件の例を示した説明図である。
【図58】NL−SWWの帯域合成処理出力例を示した説明図である。
【図59】NL−SWWにおける距離波形例を示した説明図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下の順序で本発明の実施の形態を説明する。
1.第1の実施の形態の前提となるレーダ探知技術についての説明
2.第1の実施の形態の説明
3.第2の実施の形態の前提となるレーダ探知技術についての説明
4.第2の実施の形態の説明
5.各実施の形態の変形例
【0013】
1.第1の実施の形態の前提となるレーダ探知技術についての説明
まず、第1の実施の形態の前提となるレーダ探知技術について順に説明する。
1.1 パルスレーダ
レーダの測距方式の1つとして、パルスレーダがある。所望の距離分解能に相当する短パルスを送信し、送信タイミングに対する受信パルスの時間遅延を計測することで目標距離を算出する測距方式である。
以下、パルスレーダの信号処理構成および各種原理について説明する。
1.2 パルスレーダの測距原理
電波は空間を伝搬する際に減衰するため、遠距離まで距離を計測するためには高い電力、すなわち尖頭電力の大きなパルスを使用するのが望ましい。そのためパルスレーダでは、大きな尖頭電力を持ったパルスを送信する。図1に示すようにパルスを送信し、その送信タイミングに対する受信パルスの時間遅延τ(往復時間)を計測する。これより電波が空間を電波する速度が光速cであることより、[数1]式に示すように目標距離Rを算出することができる。
【0014】
【数1】

【0015】
また、距離アンビギュイティ(一つ以上前又は一つ以上後、もしくは両方の送信パルスの反射波が入り込むこと)が発生しないためには、一つの送信パルスから次の送信パルスまでに電波が往復するという条件から、パルス繰り返し間隔PRI(Pulse Repetition Interval)が決まり、最大インストルメント距離はこれに依存する。もしくはレーダの要
求する最大インストルメント距離からPRIを決定する。
【0016】
【数2】

【0017】
1.3 パルスレーダの距離分解能
時間遅延τによって測距するパルスレーダの距離分解能δRは、[数3]式に示すように送信パルスのパルス幅Tw(図2参照)に依存する。そのためパルスレーダでは大きな尖頭電力を持つパルス幅の狭いパルスを送信するのが望ましい。
【0018】
【数3】

【0019】
さらに送信したパルスを受信するために受信機にはパルス幅Twの逆数にあたる帯域Bが要求される。このとき、パルスレーダの距離分解能δRは以下のように表すことができ、[数4]式より、パルスレーダで高距離分解能を得るためには、広帯域が要求される。
【0020】
【数4】

【0021】
1.4 パルスドップラレーダの信号処理構成
図3は、パルスドップラレーダ装置の信号処理構成例である。即ち、送信波発生部11で発生させたミリ波の送信波を、パルス化処理部12でパルス化し、送信アンテナ13で送信させる。送信させて目標物で反射した信号を、受信アンテナ14で受信し、位相検波部15で位相検波する。位相検波する構成としては、ミキサ16で送信波を混合し、その混合信号をローパスフィルタ17で低域だけを抽出することで検波する。位相検波部15で検波された信号は、アナログ/デジタル変換器18でデジタル変換し、複数段用意されたフーリエ変換部19a,19b,19c・・・でフーリエ変換し、その変換出力を目標距離・速度算出部20に供給して、目標物までの距離と速度を算出する。
【0022】
位相検波部15での検波とは復調処理のことであり、受信波から搬送波成分を除去し、ベースバンド信号を取り出すことである。その後、アナログ/デジタル変換器18によりナログ信号からデジタル信号へと変換する。信号は距離ビン(パルス幅などの一定の時間幅)毎にサンプリングされる。これにより後述するフーリエ変換などのデジタル信号処理が可能となる。このようにパルスレーダと同種の測距法を用い、かつフーリエ変換により目標相対速度検出を行うレーダをパルスドップラレーダと呼ぶ。
【0023】
1.5 パルスドップラレーダの測速原理
目標が移動している場合、音波と同じく電波もドップラ効果の影響を受ける。このとき、ドップラ周波数fdは以下の通りである。
【0024】
【数5】

【0025】
v:相対速度(レーダから離れる方向に正)
fRF:アンテナから放射される電波の周波数
【0026】
パルスドップラレーダにおいて、同じ時間遅延の信号は同じ目標からの反射波であることから、図3のように同じ時間遅延サプリングデータ(距離ビン)を集め、それぞれフーリエ変換することで、その距離に存在する目標のドップラ周波数fdが得られる。[数6]式に示すように、得られたドップラ周波数fdから目標の相対速度Vを算出することができる。このとき、[数6]式に示すように速度分解能は観測時間Tcに依存する。
【0027】
【数6】

【0028】
【数7】

【0029】
1.6 パルス圧縮レーダ
パルスレーダにより遠距離の目標を高距離分解能で観測するためには、図5(a)に示すように、大きな尖頭電力を持った幅の狭いパルスを送信しなければならない。しかし、ハードウェアの制約により高出力が出せない場合には、図5(b)に示すように、尖頭電力を低く保ったままパルス幅の長い送信パルスを変調し送信した後、目標からの反射波を受信する際に自己相関処理を行うことより、大きな尖頭電力を有する幅の狭いパルスを送信した場合と同じ効果を得ることができる。この信号処理をパルス圧縮処理と呼び、図6に示すように送信パルスをFM(Frequency Modulation)変調するもの、あるいはPM(Phase Modulation)変調するものが挙げられる。
【0030】
以下、パルス圧縮レーダの信号処理構成及びLFM変調波のパルス圧縮レーダについて説明する。
図7は、パルス圧縮レーダ装置の信号処理構成例を示した図である。
図3のパルスドップラレーダとの違いは変調処理およびパルス圧縮処理である。パルス圧縮処理後信号はパルス状に圧縮されるため、それ以降はパルスドップラレーダと同様の処理を行う。即ち、アナログ/デジタル変換器18の出力を、パルス圧縮処理部21でパルス圧縮した後、距離ピンごとにフーリエ変換部19a,19b,19c・・・でフーリエ変換する。パルス圧縮処理部21でのパルス圧縮の際には、変調パルス発生部11から、参照関数H(t)を得る。
【0031】
1.7 LFM変調波のパルス圧縮処理
変調波(チャープ波)とは図8のように時間tとともに周波数が線形的に変化する波形のことであり、以下のように表すことができる。
【0032】
【数8】

【0033】
ここで、fは搬送波周波数(中心周波数)、μはs(t)の瞬時周波数の時間に対する変化率である。
【0034】
【数9】

【0035】
s(t)の持続時間をTとすると[数8]式,[数9]式により、s(t)の瞬時周波数の変化量BはμTになる。
パルス圧縮処理は、送信した変調波を受信後、受信信号r(t)に対して畳み込み積分の応答として以下を用いた相関処理を行う。尚、ここでは目標は静止しているものとする。
【0036】
【数10】

【0037】
このとき参照関数h(t)は[数11]式及び図9のように表すことができる。
【0038】
【数11】

【0039】
パルス圧縮処理を行うことによって、図10のようにLFM変調波はパルス状に圧縮される、この出力波形は変調波の持続時間をT、帯域幅をBとすると、振幅において√(TB)倍(電力でTB倍)、パルス幅が約1/TB倍となり、大きな尖頭電力を持った幅の狭いパルスを送信したのと同じ効果が得られる。
【0040】
1.8 時間軸上の畳み込み積分と周波数軸の積の等価性
パルス圧縮処理が時間軸上の畳み込み積分であることから[数10]式より、
【0041】
【数12】

【0042】
【数13】

【0043】
各項をフーリエ変換し、代入すると、
【0044】
【数14】

【0045】
よって、次の[数15]式となる。
【0046】
【数15】

【0047】
[数15]式より時間軸上の畳み込み積分と周波数軸の積の等価であることが判る。したがって、計算量が少ないためパルス圧縮処理時に周波数軸上の掛算として実行される。
【0048】
1.9 パルス圧縮における距離サイドローブ
パルス圧縮レーダはパルス圧縮処理を行うことにより大きな尖頭電力を持った幅の狭いパルスを送信したのと同じ効果が得られ、遠距離目標を高距離分解能で観測することができる。しかし、圧縮後の信号には図11のように高い距離サイドローブが発生する。
【0049】
この距離サイドローブレベルを下げる方法の一つとして、受信信号に対し周波数領域にてウェイトを乗じる方法が挙げられる。ウェイトには様々な種類が存在するが、ここでは代表的なハミング(Hamming)窓およびハミング窓を信号に乗じたものを図12に示す。
図12に示すように、ウェイトを乗じることで距離サイドローブを小さくできるが、受信信号自体に損失が発生するとともにパルス幅が広がるという欠点がある。
【0050】
1.10 SWW法
パルス圧縮レーダにおける高距離分解能の実現には、送信周波数帯域幅と同等の受信機帯域幅を必要とする。すなわち広帯域受信系を必要とするためレーダシステムの高コスト化を招く。これに対し、中程度の帯域をもったパルス圧縮波を周波数ステップさせることにより狭帯域受信機帯域幅にて高距離分解能を実現するのが、SWW(Synthetic Wideband Waveform)法である。
以下、SWW法における周波数ステップおよび信号処理構成について説明する。
【0051】
1.11 SWW法の周波数ステップ
図13に示すようにパルス圧縮レーダにおいて広帯域の信号を送信することは、同時に同等の受信機帯域幅とそれを処理できる広帯域受信系を必要とするためレーダシステムの高コスト化を招く。さらに高距離分解能化において、A/D変換器の性能などのハードウェアの制約を受ける。これに対し、時分割で信号を送信する方法として周波数ステップが挙げられる。SWW法では、A/D変換器の性能などハードウェアの制約に合わせた帯域幅を持つLFM変調波(サブパルス)を図13に示すように周波数ステップさせる。具体的には、一つのPRI(パルス繰り返し間隔)毎に搬送波周波数と受信機内部のローカル信号を切り替えながら送信し、そのPRI間に受信も行うため受信系に要求する受信機帯域幅はサブパルス帯域幅に相当する帯域で済む。したがって周波数ステップさせることにより空間に放射する信号の帯域(送信占有帯域幅)と比べて、狭帯域受信機幅(サブパルスの帯域幅と同等)を実現できる。
【0052】
1.12 SWW法の送信周波数シーケンス
図14に示すのはSWW法の送信周波数シーケンスである。パルス繰り返し時間PRI内でコヒーレント(位相が一定)な連続波(CW波)ローカル信号f(n=0,1,・・・N−1)をPRI毎に切り替え,それらを搬送波とするサブパルス(帯域幅bを持つLFM変調波)を送信し,そのPRI内で受信を行う。
【0053】
1.13 SWW法の計測信号モデル
SWW方式での計測信号(measurement signal)モデルを説明するにあたり、n番目の送信波送信開始時間を0とする、時刻t=t−PRI・n、振幅を1とすると送信波は、
【0054】
【数16】

【0055】
となる。尚、μ=b/TpはLFMスロープ,Φnは任意の位相である。この送信波に対する受信波は時間遅延とドップラシフトの影響を受けて、
【0056】
【数17】

【0057】
となる(このとき速度vは遠ざかる方向を正とした)。τは時間遅延(目標までの往復時間)
【0058】
【数18】

【0059】
であり、Rは目標距離、vは目標との相対速度、cは光速である。この受信波はローカル信号fn(n=0,1,・・・N−1)でミキシングし、LPF(Low Pass Filter)によって周波数の和信号が除去されることで以下の差信号が得られる。
【0060】
【数19】

【0061】
[数19]式において、2v/c≒1より、
【0062】
【数20】

【0063】
となる。次にT+τを時刻原点とする時間をt0とおくと[数20]式より、
【0064】
【数21】

【0065】
となり、さらに時間遅延τにn依存性があるとみて、τとおくと、
【0066】
【数22】

【0067】
【数23】

【0068】
【数24】

【0069】
さらに送信開始周波数をfより、ローカル信号f(n=0,1,・・・N−1)は、
【0070】
【数25】

【0071】
である。
【0072】
【数26】

【0073】
ここで、f>Δfおよび定位相項を無視すると、
【0074】
【数27】

【0075】
となり、計測信号
【0076】
【数28】

【0077】
が得られる。
【0078】
1.14 SWWの信号処理構成
図15は、SWW法での信号処理構成例を示した図である。
SWW法では、[数28]式の計測信号に対してパルス圧縮処理を行う。時間軸上の畳み込み積分と周波数軸上の積が等価であることから、図15で示したようにパルス圧縮処理を周波数軸上の掛算(Multiply)として処理する。
【0079】
即ち、図15に示すように、サブパルス生成部31の出力を、ミキサ32に供給して、発振器33の出力と混合し、サーキュレータ34を介して送受信アンテナ35に供給して送信させる。送受信アンテナ35での受信信号は、ミキサ36で発振器33の出力と混合し、その出力をローパスフィルタ37を通過させた後、アナログ/デジタル変換器38でデジタル変換する。変換された信号は、フーリエ変換部39に供給して変換し、変換信号を混合処理部40に供給する。混合処理部40では、参照信号生成部41からの参照信号を、フーリエ変換部42で変換した信号が供給され、掛け算処理が行われる。混合処理部40の出力は、スペクトラムシフト部43とコンバイン部44と逆フーリエ変換部45とに順に供給する。
【0080】
【数29】

【0081】
【数30】

【0082】
【数31】

【0083】
[数31]式のパルス圧縮処理は周波数軸上において、すべて重なった状態で出力される。そのため各周波数ステップにおけるパルス圧縮結果に対し、スペクトラムシフト(Spectrum shift)処理を行う。このときのシフト幅は、周波数ステップ幅Δfに依存し、図17に示すようにスペクトラムシフトを行う。
【0084】
【数32】

【0085】
スペクトラムシフト処理により送信占有帯域幅と同等の帯域に広がった各周波数ステップにおけるパルス圧縮結果に対して合成帯域処理を行う。これにより、図18に示したような送信占有帯域幅に相当する合成帯域を得ることができる。
【0086】
【数33】

【0087】
得られた合成帯域に対し、IDFT処理を施すことによりレンジプロファイルが得られる。
【0088】
【数34】

【0089】
図20及び図21より、SWW法では送信占有帯域に相当する距離分解能が得られるが、一方で距離サイドローブ,グレーティングローブが高いという課題がある。
【0090】
1.15 NL−SWW(Nonlinear Synthetic Wideband Waveforms)法
SWW法は中程度の帯域を持ったパルス圧縮波を周波数ステップさせることにより狭受信機帯域で高距離分解能を実現する。ただし、合成帯域における高い距離ピークサイドローブ(PSL),グレーティングローブ(GL)が課題である。この課題に対し、図21で示すように周波数ステップを非線形化することにより受信信号にハミングなどのウェイトを乗じるのと異なり受信電力の損失なく距離PSL低減効果が期待されるNL−SWW法が提案されている。
以下、NL-SWWにおける非線形周波数ステップおよび信号処理構成について説明するが、一部SWWと重なる点があるため割愛する。
【0091】
1.16 非線形周波数ステップ
SWWにおける周波数ステップは周波数ステップ幅一定の線形周波数ステップであったことに対し、NL−SWWでは図22に示すように、等間隔ではない周波数ステップ幅で送信する。周波数ステップ幅を不当間隔とすることで、送信占有帯域幅内での周波数密度分布を変化し、合成帯域(逆フーリエ変換)においてサンプリング間隔が不当間隔となる。これにより、グレーティングローブの低減などが期待される周波数ステップである。
【0092】
NL−SWWにおける受信後の信号処理は図15に示すようにSWWと同一である。
【0093】
2.第1の実施の形態の説明
次に、ここまでの説明を前提として、本発明の第1の実施の形態の例を説明する。
【0094】
2.1 第1の実施の形態の構成
中程度の帯域をもったパルス圧縮波を非線形周波数ステップさせることにより狭帯域受信機帯域幅にて高距離分解能を実現するとともに、合成帯域処理(IDFT処理)にて発生する高い距離PSLを受信信号にハミングなどのウェイトを乗じるのと異なり信号の損失なく低減するNL−SWW法が提案されている。しかし、NL−SWW法ではサブパルスにLFM変調波(チャープ波)を使用していること、そして周波数ステップにより複数のPRI(パルス繰り返し間隔)の観測時間が必要となるため、目標との間に相対速度がある場合ドップラ周波数の影響を大きく受け、正確な距離計測ができないという課題がある。
【0095】
本実施の形態においては、その課題に対しパルスドップラフィルタによるドップラ周波数推定・補正処理を組み合わせた構成とする。
以下、この構成の基本となる送信周波数シーケンスを説明し、第1の実施の形態における非線形周波数ステップおよび信号処理構成について説明する。
【0096】
2.2 送信周波数シーケンス
第1の実施の形態では、図23に示すように周波数ステップの始点と終点を固定し、その間の第3点を与える非線形パラメータσによって決定される3次関数を図23に示すサブパルス(LFM変調波の例)の非線形周波数ステップ間隔dFとする送信周波数シーケンスを用いる。
【0097】
非線形周波数ステップ間隔dFにあたる3次関数は、例えば、Nが偶数の場合、以下の連立方程式を解くことを採用できる。
【0098】
【数35】

【0099】
【数36】

【0100】
3次関数の各係数が決定し、これに最大周波数ステップ幅fmax(周波数ステップの始点から終点までの周波数幅)を乗じることによって決定する。これにより、非線形周波数ステップ間隔dFを非線形パラメータσのみで制御することができる。
【0101】
多周波NL−SWW法は基本原理がパルスレーダであるため距離アンビギュイティが発生しないために、一つの送信サブパルスから次の送信サブパルスである、パルス繰り返し時間PRI(Pulse Repetition Interval)に電波が往復するという条件から、
【0102】
【数37】

【0103】
を満足する必要がある。ここで、Rmaxをレーダに要求される最大インストルメント距離と呼ぶ。
一方、要求される速度分解能をσVとすれば、[数6]式から必要な観測時間Tcは、
【0104】
【数38】

【0105】
となる.ここでλは送信信号の波長である。観測時間内Tcの総パルス数をNとすると、
【0106】
【数39】

【0107】
となる。次に、レーダに要求される速度視野をVmaxとすると、
【0108】
【数40】

【0109】
を満足することが必要である。ここでMは要求速度視野を得るために必要な観測時間Tc内のデータサンプル数である。このとき、レーダに要求される最大インストルメント距離,速度分解能,速度視野によってはN0>Mとすることができる。このときTs(≡Tc/M)>PRIでありその比を整数値Nとすると、
【0110】
【数41】

【0111】
とすることができる。この場合には、図24の送信周波数シーケンスを用いることができる。比較的近距離を対象とした車載レーダなどではこれら条件を満足させることができるために、速度分解能を低下させることなく、かつ一つの観測区間Tcのみにて多周波の送信が可能である。
整数値Nとして選択可能な上限は、要求される最大インストルメント距離Rmaxと最大速度視野Vmaxに依存しており、
【0112】
【数42】

【0113】
となる。
例えば、周波数ステップ数N=8とした場合における[数41]式の関係を図25に示す。図25の横軸は最大インストルメント距離Rmax、縦軸は最大速度視野Vmaxである。また、実線,点線,破線はそれぞれ送信周波数が100GHz,10GHz,1GHzを表す。図25において、レーダに要求される最大インストルメント距離,最大速度視野が、それぞれの線より下の範囲であれば、距離と速度ともにアンビギュイティがない。
【0114】
2.3 第1の実施の形態の定式化
第1の実施の形態の定式化を行う。ここでは定式化をもとに各サブパルスの計測信号(measurement signal)モデルを説明する。パルス繰り返し番号m番目,非線形周波数ステップn番目の送信波送信開始時間を0とする時刻tnm=t−PRI・n−PRI・N・m、振幅を1とすると、送信波は、
【0115】
【数43】

【0116】
と書かれる。尚、Tpはサブパルス幅,μ=b/TpはLFMスロープ,Φnmは任意の位相である。この送信波に対する受信波は時間遅延とドップラシフトの影響を受けて、
【0117】
【数44】

【0118】
となる(このとき速度vは遠ざかる方向を正とした)。τは時間遅延(目標までの往復時間)であり、以下のように示される。
【0119】
【数45】

【0120】
Rは目標距離,vは目標との相対速度,cは光速である。この受信波はローカル信号f=f+dF(n=0,1,・・・N−1)でミキシングし、LPFによって周波数の和信号が除去されることで以下の差信号が得られる。
【0121】
【数46】

【0122】
[数46]式において2v/c−1≒1より、以下のようになる。
【0123】
【数47】

【0124】
次にtnm+τを時刻原点とする時間をtとおくと[数47]式より、
【0125】
【数48】

【0126】
となり、さらに時間遅延τにn,m依存性があるとみてτn,mとおくと、
【0127】
【数49】

【0128】
【数50】

【0129】
【数51】

【0130】
さらに送信開始周波数fより、ローカル信号f=f+dF(n=0,1,・・・N−1)は、
【0131】
【数52】

【0132】
であり、以下のようになる。
【0133】
【数53】

【0134】
この式において、f>dFおよび定位相項を無視すると、
【0135】
【数54】

【0136】
【数55】

【0137】
となり、ドップラ周波数fd(=2vf/c)
より各サブパルスの計測信号
【0138】
【数56】

【0139】
が得られる。複数目標が存在するときには、計測信号は[数56]式の線形和として表すことができる。
[数56]式から分かるように、m方向サンプリング信号の周波数から目標相対速度が得られ、n方向サンプリング信号の周波数は目標距離と相対速度の関数となることが分かる。第1の実施の形態は、周波数ステップ番号nを固定しm方向サンプリング信号のフーリエ変換によりレーダに要求される所望の速度分解能と最大速度視野が得られる送信周波数シーケンスを用いることを特徴としている。
【0140】
2.4 第1の実施の形態の信号処理構成
図24に示した送信周波数シーケンスを用いる第1の実施の形態の信号処理構成について、図26に示す。非線形パラメータσによって決定する3次関数を非線形周波数ステップ間隔dFとする、ローカル信号f=f+dF(n=0,1,・・・N−1)をPRI毎に切り替え、それらを搬送波とするサブパルス(帯域幅bを持つLFM変調波)を送信する。
即ち、LFM変調部51の出力に発振器53が出力するローカル信号を混合し、送受信アンテナ54から送信させ、目標物で反射した信号を送受信アンテナ54で受信する。受信信号は、送受信分離部52を介して、サブパルス圧縮部55に供給し、その後、ドップラ周波数推定処理部56、ドップラ周波数補正処理部57、合成帯域処理部58と順に処理することを特徴とする。
以下、各処理について説明する。
【0141】
2.5 サブパルスパルス圧縮
[数56]式で得た各サブパルスの計測信号に対してパルス圧縮を行う。時間軸上の畳み込み積分と周波数軸上の積が等価であることから、パルス圧縮を周波数軸上の掛算(Multiply)として処理し、逆フーリエ変換(IFFT)によって時間軸上に戻す。
【0142】
【数57】

【0143】
【数58】

【0144】
【数59】

【0145】
【数60】

【0146】
2.6 パルスドップラフィルタによるドップラ周波数推定・補正処理
サブパルスパルス圧縮後の信号に対して、各nに対するm方向のサンプリング信号をフーリエ変換することで所望の速度分解能と速度視野を確保した目標相対速度検出を行う。
すなわち、パルスドップラによるドップラ周波数推定処理として、パルス圧縮後の信号である[数60]式の各nに対し下式に示すm方向のフーリエ変換を行う。
【0147】
【数61】

【0148】
ここで、k(=0,1,・・・M−1)は周波数チャンネル番号である。[数60]式を[数61]式に代入した後の振幅値|F(n,k)|は、各周波数ステップnにおいて周波数チャンネル番号
【0149】
【数62】

【0150】
ではコヒーレント積分となりピークが得られる。
このように、[数61]式の出力振幅がピークとなる周波数チャンネル番号kpeakを検出することで、目標ドップラ周波数が得られる。検出した番号kpeakから目標相対速度Vは、
【0151】
【数63】

【0152】
から得られる。
尚、同じ距離ゲート内に複数の目標が存在する場合、[数60]式の線形和で表されるが、位相関係によってはフェージングが発生する。そこでこの問題を緩和するために、例えば各kに対し各周波数ステップnのフーリエ変換出力チャンネルの絶対値の和を取り、
【0153】
【数64】

【0154】
を、検出しきい値処理のための入力値とする。
[数56]式で示したようにn方向サンプリング信号の周波数は目標距離と相対速度の関数であり、得られたドップラ周波数をもとに補正処理を行う。
【0155】
【数65】

【0156】
これにより、n方向サンプリング信号には目標距離情報のみを含むとすると、以下のように示される。
【0157】
【数66】

【0158】
2.7 逆フーリエ変換による帯域合成
[数66]式より、ドップラ周波数を補正した信号に対してN以上のNr点でn方向に逆フーリエ変換を行う。ただし、周波数ステップ幅が一定ではなく、dFで与えられるためアンビギュイティ距離が不確定である。よって最大インストルメント距離Rmaxまですべての範囲に対して逆フーリエ変換を行う。
【0159】
【数67】

【0160】
P(l)の絶対値が最大値をとるlの値をlpeakとすると、lpeakを求めることにより、次式に示すように目標に最も近い距離Rcalを計測することができる。
【0161】
【数68】

【0162】
以上説明した第1の実施の形態の構成では、狭受信機帯域での高距離分解能、合成帯域における低距離PSL、さらにSWW,NL−SWW法において課題であった目標との間に相対速度がある場合でも正確な距離計測が可能である。さらに、検出した各目標相対速度に対して距離を求めるため、FMCW方式で問題となるアップ掃引とダウン掃引の検出周波数のペアリング誤作動も回避可能である。
【0163】
2.8 本実施の形態のシミュレーション例
計算機シミュレーションにより、第1の実施の形態の構成におけるパルスドップラフィルタによるドップラ周波数推定・補正処理およびその補正誤差,非線形合成広帯域波による距離分解能,非線形化による距離ピークサイドローブ(PSL)低減効果についてそれぞれ評価した。
【0164】
シミュレーション条件はミリ波車載レーダ、特に遠距離レーダへの適用を想定した。その要求仕様の1つである最大インストルメント距離200m以上,最大速度視野±200km/h以上を満足する以下のパラメータを採用した。
・送信周波数f:76.5GHz(波長λ=c/f=3.922×10−3
・パルス繰り返し周期PRI:2.0μs(最大インストルメント距離Rmax=300m)
・周波数ステップ数N:8(最大速度視野Vmax=±220.588km/h)
・サブパルス帯域幅b:80MHz(パルス圧縮レーダ方式における同一帯域幅での距離分解能:δR=1.875m)
・サブパルス幅Tp:0.15μs
・送信周波数占有帯域幅B:360MHz
・観測時間内同一周波数の数M:256
・全観測時間Ts:4.096ms
【0165】
一方、目標数を1とした。
・目標距離R:200m
・目標速度V:200km/h(=55.556m/s)
【0166】
2.9 パルスドップラフィルタによるドップラ周波数推定・補正処理
図27に示すのは各サブパルスをパルス圧縮後、各nに対するm方向サンプリング信号をフーリエ変換出力の各周波数チャンネルの振幅であり、出力振幅がピークとなる周波数チャンネル番号を検出することで、目標ドップラ周波数fdが得られる。これより、相対速度を算出すると、検出値55.53(m/sec)、設定値55.556(m/sec)、誤差−0.026(m/sec)が得られた。
【0167】
このように第1の実施の形態の構成における、パルスドップラフィルタによるドップラ周波数推定処理には、速度分解能δV=1.723km/h(=0.48m/s)に基づく検出誤差が最大で±0.24m/s発生する。ただし、全観測時間Tsを増すことで速度分解能が高くなるため、この検出誤差を小さくすることができる。
【0168】
2.10 距離ピークサイドローブ(PSL)のσ依存性
第1の実施の形態の構成における非線形周波数ステップ間隔dFn、それを与える3次関数を決定する非線形パラメータσを−0.01〜−0.07の範囲で変化させた。これは図28に示すように非線形化によりサブパルスを、つまり送信電力を帯域の中央に集めることを狙いとしている。σ=−0.01の時サブパルスが最も中心に集まった状態であり、そこからσを線形周波数ステップ(σ=−1/14)へと近づけるように変化させた。
逆フーリエ変換後(合成広帯域)|P(l)|の距離PSLのσ依存性について評価を行い、距離PSLのσ依存性結果を図29に示した。
【0169】
周波数ステップ数N=8、送信周波数占有帯域幅B=360MHzという条件においてσ=−0.055の時、最もPSLが小さくなる結果が得られた。このときのサブパルスのパルス圧縮結果と第1の実施の形態の構成(σ=−0.055)および周波数ステップN=8、周波数ステップ幅Δf=40MHz、送信周波数占有帯域幅B=360MHz他、第1の実施の形態の構成と同様のレーダパラメータを備えたL−SWWにおける逆フーリエ変換出力を図30に示す。
【0170】
図30に示すように、第1の実施の形態の構成では受信信号にウェイトを乗じるのとは異なり、信号の損失なしに最大で−22dBまで距離PSL低減する効果が得られた。また、この結果はL−SWW(理論値−13.2dB)と比較して−9dBの距離PSL低減効果となる。さらにグレーティングローブ(GL)に対しても−19dB、周波数ステップ間隔が一定でないためL−SWWと厳密な比較はできないが−3dBの低減効果が得られた。
【0171】
2.11 非線形合成広帯域波による距離分解能
レーダにおける距離分解能は送信周波数占有帯域に依存する。パルス圧縮レーダでは、送信周波数占有帯域幅と同一の受信機帯域幅を必要とした。しかし、第1の実施の形態の構成では非線形周波数ステップにより、受信機帯域幅はサブパルス帯域幅(b=80MHz)のみを必要とする。これにより同じ受信機帯域幅でありながら、N個のサブパルスの帯域を合成した非線形合成帯域(=送信周波数占有帯域B=360MHz)を持つ第1の実施の形態の構成は図31に示すように、サブパルスパルス圧縮(帯域幅b=80MHz)と比較して、約4.5倍の距離分解能を実現した。
【0172】
3.第2の実施の形態の前提となるレーダ探知技術についての説明
次に、第2の実施の形態の前提となるレーダ探知技術について順に説明する。一部の説明については、第1の実施の形態での前提技術の説明と重なるが、再度順に説明する。
【0173】
3.1 パルスレーダの探知距離と距離分解能
第2の実施の形態においても、パルスレーダを適用するものである。レーダの性能を表すものの代表として、探知距離と分解能があるが、パルスレーダの最大探知距離は、次の[数69]式から導出され、距離分解能は、次の[数70]式から導出される。ただし、送信出力をPとする。
【0174】
【数69】

【0175】
【数70】

【0176】
したがって、性能のいいパルスレーダを設計するには、いかに大きいSN比を得るか、また、パルス幅の小さいパルスを得るかが重要なポイントとなる。しかし、パルス幅の縮小により送受信帯域幅Bは次の[数71]式で与えられるように比例の関係で増加することから、単純なパルス幅の縮小によるレーダの高距離分解能化は送受信機の高コスト化につながり、製品として採用する足枷となる。
【0177】
【数71】

【0178】
また、電磁波として送信することができる出力は法令により定められているため、出力電力の増大によるSN比改善も限界が存在する。
【0179】
3.2 パルス圧縮レーダ
パルスレーダにおいて、探知距離を増大するために送信電力Ptを大きくすることと、限られた周波数帯域幅の中で距離分解能を向上させなければならないという2つの課題がある。この問題を解決するために用いるパルス圧縮と呼ばれる技術は、送信波パルス内に周波数変調(FM;Frequency Modulation),もしくは位相符号変調(PM;Phase Modulation)を施したパルス幅の広い送信信号を用い、受信後の自己相関処理において復調を施し電
力の大きな狭いパルス幅に変換を行う技術である。
【0180】
パルス圧縮レーダの送受信シーケンスを、図32に示す。送信パルスaの送出から、所定時間τだけ遅れて受信パルスbが得られ、受信パルスを圧縮することで、大きな電力の短パルスcが得られるものである。
【0181】
3.3 パルス圧縮レーダと自己相関処理
受信波を送信波による自己相関処理によるパルス圧縮を行うことで、検出が容易,最大探知距離が大きい電力の距離分解能が高い短パルスが得ることができる。ここで行う自己相関処理とは次の式に示すG(t)であり、送信波が目標物に反射、振幅が減衰し受信された受信波B(t)と、送信波の時間反転信号H(t)による畳み込み積分による出力である。
【0182】
【数72】

【0183】
ここではFMパルス圧縮の例を示す。受信波をB(t)として、
【0184】
【数73】

【0185】
と定義(μは任意定数)とすると、B(t)、B(t)の時間反転信号H(t)のグラフは、図33〜図35に示す通りである。図33は、FMパルス圧縮における受信波の例を示す波形図であり、図34は、FMパルス圧縮における参照関数の例を示す波形図であり、図35は、FMパルス圧縮の出力例を示す波形図である。
【0186】
畳み込み積分は非常に大きな計算量となる、実際の信号処理では[数70]式において、B,HそれぞれについてFFTを行い、周波数軸上の積をとった後にIFFTをする方法が用いられることが多い。さらに、ここでは送受信変調波を周波数変調(FM)で行ったものを示したが、位相符号変調(PM)したものでも同様である。
【0187】
3.4 相補符号(Complementary Code)を用いたパルス圧縮レーダ
相補符号(CC;Complementary Code)とは符合を位相に割りつけ位相変調パルス圧縮法の一つである。この符号の特徴は、2つの相補となる関数の加算による合成により、目標反射波によるパルス信号以外の成分である距離サイドローブを、完全に抑圧することを可能とする点である。
【0188】
相補符号の生成方法について説明する。
長さKの2つの符号aとbを考え、それぞれの自己相関関数をAとBとする。このとき、これらを加えたものが、次式で示される。
【0189】
【数74】

【0190】
この条件を満たすとき、これらを相補符号と呼ぶ。例えば、a={1,1}、b={1,―1}が相補の関係になることは容易に確かめることができる。
【0191】
さらに、相補符号には次のような長さKの符号から長さ2Kの符号を導出できるという重要な性質がある。aの後ろにbを連結したものをcとし、aの後ろにbの符号を反転して連結したものをdとする。
【0192】
【数75】

【0193】
このとき、これらの符号の自己相関関数は、それぞれ
【0194】
【数76】

【0195】
となるので、これより明らかにCとDは長さ2Kの相補符号を構成する。さらに、この操作を繰り返すことにより、K=2の相補符号から長さK=2の相補符号を導出することが可能となる。また実際に位相変調に用いる際には、1,−1のそれぞれの値に対して0、πの位相を割り当てることとなる。
この結果を用いて、K=16のときの相補符号を導出したものが図36である。
【0196】
この符号を用いて、搬送波fの送信波を位相変調し1目標測定対象に対して送受信する。この受信波をそれぞれ、B1(t),B2(t)とすると次の式になる。ただし、複素記号と混同するので相補符号の配列jをtとした。
【0197】
【数77】

【0198】
【数78】

【0199】
これらの式で得られた相補符号を、先に説明したパルス圧縮処理を同様に行い、図37に2つの信号波形を示す。
【0200】
さらに、この2つのパルス圧縮後の波形をj軸に対する加算を行うと、図38に示す波形を得ることができる。
この図38からも分かるように、相補符号は加算によってパルスピーク以外の横軸jにおいて距離サイドローブが完全に抑圧されていることを確認することができる。
【0201】
3.5 Complementary Phase Code(CPC)による位相変調
Complementary Phase Code(CPC)とは、2つの位相を持つ2相コンプリメンタリ符号(Complementary Code)を拡張したもので、相補の2つ以上の関数を用いることで、サイドローブの発生を完全に相殺することができる関数である。特徴についてはComplementary Codeに準ずるものである。
【0202】
3.6 SWW(Synthetic Wideband Waveform)法
パルスレーダ、またはパルス圧縮レーダにおいて高距離分解能化を図ると[数71]式より送信周波数帯域幅と同等の広い受信機帯域幅を必要とし、レーダシステムの高コスト化につながる。ここで、パルス圧縮波を線形的に周波数軸に対して階段状にステップさせることによって、低い受信機帯域幅にて高距離分解能を実現するSWW法の一つとして、Linear Frequency Stepping(LFS)法がある。図39にLFSの送受信シーケンスを示す。
【0203】
ステップ状に周波数が増加するアップステップ波(ステップFM波)において1つのパルス繰り返し時間(TPRI:Pulse Repetition Interval)毎に搬送波周波数と受信機内部のローカル信号を切り替えながら送信し、そのPRI間に受信も行う。つまり、受信機帯域幅は送信パルスの持つサブパルス帯域幅があれば十分である。
【0204】
受信した信号をローカル信号にてミキシングすることで周波数ステップ数の信号が得られるが、この信号に対して各周波数ステップ間に合成帯域処理(IDFT,MUSIC等)をすることにより、より少ない受信機周波数帯域幅にて距離分解能を得ることができる。さらに、このLFSシーケンスを繰り返すことにより、同一周波数によるパルス列の位相勾配からドップラシフトを導出し、目標相対速度を得ることができる。
【0205】
ここで数式によるモデル化を考える。LFSとして送信したパルス信号が目標反射し、送信してから一定の時間遅延τ後に受信したとすると、受信信号Rx(t)は次の式で定義される。
【0206】
【数79】

【0207】
ただし、簡単のため振幅値は1とし、目標までの距離をR,目標速度をv、変数n(n=0,1,・・・N−1)は周波数ステップ番号とする。ここで、Bを送信周波数帯域幅とすると、Δfの周波数ステップ幅と時間遅延τは、
【0208】
【数80】

【0209】
【数81】

【0210】
と示される。この[数80]式及び[数81]式を[数79]式に代入して、RX(t)は、
【0211】
【数82】

【0212】
と示される。次に送信パルス幅と同じサンプリング間隔のA/D変換機を用いて、PRIごとに複数のサンプリング点に分割した複素I,Q信号として表す。1つの周波数ステップ間隔をTPRIとして、時間遅延を固定したステップ方向のサンプリング(時刻t=nTTPRI信号は、
【0213】
【数83】

【0214】
となる。
【0215】
3.7 離散逆フーリエ変換によるLFS法のSWW処理
[数83]式に対して、周波数ステップn方向に対するSWW処理を行うことで、距離分解能を向上させることができる。nが離散値となることは明確であるので、ここではSWW処理として周波数ステップNの離散逆フーリエ変換;IDFTによるSWW処理を行うと次式のようになる。ただし、IDFTを行うサンプル点は一般化のためNr個とした。
【0216】
【数84】

【0217】
但し、Nr≧N,k=0,1,・・・Nr―1
[数84]式にΣの項にnが存在するため、IDFT(k)の絶対値が最大となるときのk=kpは目標速度v=0であるならば、
【0218】
【数85】

【0219】
として表すことができる。また、IDFT(k)はk=kPをピークとするsinc関数となることが分かる。さらに離散化単位c/{2Nr・(B/N)}を用いることで、推定目標距離Rcalは、
【0220】
【数86】

【0221】
として与えられる。
しかし目標速v≠0のとき、すなわちドップラシフトが存在する中ではΣの項に未知数である目標距離Rと目標速度vが同時に存在することになるため、IDFT(k)の絶対
値が最大となるk=kPを求め、[数85]式よりRcalを導出しても、それは正しい目標距離Rに対応しない。このことを解決するためには、LFS法によるSWW以前に目標速度vをドップラシフトにより計測し、既知としておく必要がある。これは先に述べたとおり、LFSシーケンスを繰り返すことで同一周波数によるパルス列をフーリエ変換することで導出できる。この速度検出については、多周波ステップICWレーダの項目にて記述する。
【0222】
以上を踏まえて、LFSは必要な受信機周波数帯域幅が小さい特長を持つ半面、距離アンビギュイティ(グレーティングローブ)が発生する点、ドップラシフトによる悪影響を克服するために、位相補償を行う必要性があるという点を克服しなければならない。
【0223】
3.8 2周波CWレーダ
2周波CWレーダは、LFS法の送信パルスを連続波とし、さらに周波数ステップ数N=2としたもので、極めて狭い周波数占有帯域で目標の距離・速度検出が可能なレーダ方式である。2周波CW方式では図40に示すように、送信周波数f1と少しだけ周波数が離れた周波数f2のCW波をそれぞれ時間TPRI(総観測時間は2)の間、時分割にて連続波として送信する。
【0224】
受信系では送信周波数fの区間は周波数f,周波数fの区間は周波数fのローカル信号でミキシングする。ミキシング後の出力信号は、送信周波数f,fの差が僅少であるため、それぞれ、
【0225】
【数87】

【0226】
【数88】

【0227】
となる。すなわち同じ目標からの受信信号は送信周波数fとfの両区間で同じドップラ周波数として観測される。このときの目標との相対速度vは、
【0228】
【数89】

【0229】
となる。周波数f,fの各区間でのサンプリングデータをそれぞれフーリエ変換(一般的にFFT(Fast Fourier Transform)が用いられる)し、フーリエ変換出力|F(n,k)|(変数nは周波数f,fを、k(=0,1・・M−1)はフーリエ変換の周波数チャンネル番号を表す)の値がピークとなる周波数(周波数チャンネル番号k)から前記ドップラ周波数(すなわち目標相対速度v)が、また目標距離はその周波数成分の位相差Δψ=ψ2−ψを用いて、
【0230】
【数90】

【0231】
から求められる。このとき、距離アンビギュイティが発生しないためには、
【0232】
【数91】

【0233】
を満足する必要がある。
2周波CW方式では狭い周波数占有帯域で目標距離・相対速度が得られるが、等速([数87]式,[数88]式でfが同じ)の複数目標が存在する場合、ピーク周波数成分の位相差による測距法([数90]式)では誤作動が生じるという原理的な問題がある。なお、2周波CW方式でのフーリエ変換による速度分解能は、
【0234】
【数92】

【0235】
である。
【0236】
3.9 多周波ステップICWレーダ
2周波CW方式を拡張し、課題である等速複数目標の距離計測を可能としたレーダ方式であり、LFS送受信シーケンスを構成する中で、以下の点に特徴をもつ。
(1)図41に示す送信周波数シーケンスを用いる。ここで、各ステップ周波数の送信波は観測時間Tc内でコヒーレントであるとする。一方、各周波数間の位相は任意である。(2)送信をパルス化し、受信は距離ゲート毎に処理する。
(3)FFTによる目標速度検出処理の出力を用いて1次元超分解能法にて目標距離推定を行う。
以下、多周波ステップICWレーダの基本となる送信周波数シーケンスについて説明し、2周波CW方式で問題となる等速複数目標の距離分離法を示す。
【0237】
3.10 多周波ステップICWの送受信シーケンス
多周波ステップICW方式の送受信シーケンスを図41に示す。
パルス化したレーダにおいて距離アンビギュイティが発生しないために、一つの送信パルスから次の送信パルスまで(パルス繰り返し時間TPRI:Pulse Repetition Interval)に電波が往復するという条件から、
【0238】
【数93】

【0239】
を満足する必要がある。ここでRmaxをレーダに要求される最大インストルメント距離と呼ぶ。一方、要求される速度分解能をδVとすれば、[数92]式から必要な観測時間Tは、
【0240】
【数94】

【0241】
となる。ここで、λは送信信号の波長であり、2周波CW方式と同様にλ≡λ=c/f(n=0,1,・・・,N−1)が成り立つものとする。観測時間T内の総パルス数をNとすると、
【0242】
【数95】

【0243】
となる。次に、レーダに要求される速度視野を±Vmaxとすると、
【0244】
【数96】

【0245】
を満足することが必要である。ここでMは要求速度視野を得るために必要な観測時間T内のデータサンプル数である。このとき、レーダに要求される最大インストルメント距離,速度分解能,速度視野によってはN0>Mとすることができる。このときT(≡T/M)>TPRIでありその比を正数値Nとすると、
【0246】
【数97】

【0247】
とすることができる。この場合には、図41の送信周波数シーケンスを採用することができる。比較的近距離を対象とした車載レーダなどではこれら条件を満足させることができるために、速度分解能を低下させることなく、かつ一つの観測区間Tのみにて多周波CW波の送信が可能である。正数値Nとして選択可能な上限は、要求される最大インストルメント距離Rmaxと最大速度視野Vmaxに依存しており、
【0248】
【数98】

【0249】
となる。
【0250】
3.11 多周波ステップICW方式における等速複数目標の距離分離法
図41に示した送信周波数シーケンスを用いた多周波ステップICW方式による等速複数目標の距離分離法について説明する。図42に構成ブロック図を示す。
ステップ周波数を出力する発振器61の出力をアップコンバータ62に供給し、高周波スイッチ63とサーキュレータ64を介して、送受信アンテナ65から送信させる。送受信アンテナ65での受信信号は、サーキュレータ64を介して、ダウンコンバータ66に供給して周波数変換し、その周波数変換された信号を、フーリエ変換部67と周波数スムージング部68を介して検出部69に供給する。
図42において発振器61は、観測時間T内でコヒーレント(観測時間内で位相が一定)なCW波f(n=0,1,・・・,N−1)を発生する機能を有し、それらを図41に示すタイミングでTPRI毎に逐次切替え出力する。高周波スイッチ63では、発振器61からの送信波をパルス化(パルス幅T)する。パルス化された送信波はサーキュレータ64を経由して送受信アンテナ65から空間に放射される。
【0251】
多周波ステップICW方式での計測信号モデルを説明する。簡単のためパルス化していない状況における送受信信号について考え、同様に簡単のために振幅値を1とすると送信波は、
【0252】
【数99】

【0253】
と示される。φはステップ周波数毎の任意の位相である。目標にあたり反射した送信波は、目標までの往復時間に相当する時間遅延τの後、受信波として送受信アンテナに入射する。このとき、受信波は、
【0254】
【数100】

【0255】
となる。ここでも簡単のため振幅を1としている。ここでλn(≡c/f)とすると、fdn(=2v/λ)はドップラ周波数,cは光速,Rは時刻t=0での目標距離である。
この受信波は、サーキュレータを経由して、ダウンコンバータにて、発振器61からの送信信号とミキシングされ、目標が含まれる距離ゲート番号(すなわち時間遅延τ)での観測信号として、
【0256】
【数101】

【0257】
が得られる。ここで2周波CW方式と同様に、送信周波数に対し各周波数ステップでの周波数の差Δfは十分小さく、各周波数ステップでのドップラ周波数は等しいとしている。
【0258】
【数102】

【0259】
次に、送信をパルス化したときの計測信号モデルを考える。パルス繰り返し番号をm(=0,・・・,M−1)とすると、時間遅延τに相当する距離ゲートの実時間tm,nは、
【0260】
【数103】

【0261】
であり、[数100]式からその距離ゲートに目標が含まれるときの計測信号モデルは、
【0262】
【数104】

【0263】
と書かれる。同一距離ゲート内に複数目標が存在するときには、計測信号は[数104]式の線形和として書き表すことができる。
【0264】
[数104]式から分かるように、m方向サンプリング信号の周波数から目標相対速度が得られ、n方向サンプリング信号の周波数は目標距離と相対速度の関数となることが分かる。[数104]式で示される計測信号に対し、2次元周波数分析手法として2次元MUSIC,2次元ESPRIT/2次元ユニタリESPRIT,Caponなどの超分解能法を適用することができる。
しかし前記したように多周波ステップICW方式は、周波数ステップ番号nを固定したm方向サンプリング信号のフーリエ変換によりレーダに要求される所望の速度分解能と最大速度視野が得られる送信周波数シーケンスを用いることを特徴としている。これにより,フーリエ変換の分解能を超える距離分離を行なうために、2次元超分解能法を適用する方法に比べ計算量を小さくすることを可能としている。以下、信号処理構成を説明する。
【0265】
1)目標相対速度検出処理(Target velocity detection)
まず各nに対するm方向のサンプリング信号をフーリエ変換することで、所望の速度分解能と速度視野を確保した目標相対速度検出を行う。
すなわち、目標速度検出処理では各距離ゲート毎に計測信号([数104]式)を各nに対して下式に示すm方向のフーリエ変換処理を行う。
【0266】
【数105】

【0267】
ここで、k(=0,1,・・・,M−1)は周波数チャンネル番号である。[数104]式を[数105]式に代入した後の振幅値|F(n,k)|は,各周波数ステップnにおいて周波数チャンネル番号、
【0268】
【数106】

【0269】
ではコヒーレント積分となりピークが得られる。
このように、[数105]式の出力振幅がピークとなる周波数チャンネル番号kpeakを検出することで、目標ドップラ周波数が得られる。検出した番号kpeakから目標相対速度Vは、
【0270】
【数107】

【0271】
から得られる。また、kpeakとなる周波数チャンネル出力は、
【0272】
【数108】

【0273】
となる。
なお、同じ距離ゲート内に複数の目標が存在する場合、[数104]式の線形和で表されるが、位相関係によってはフェージングが発生する。そこでこの問題を緩和するために、例えば各kに対し各周波数ステップnのフーリエ変換出力チャンネルの絶対値の和を取り、
【0274】
【数109】

【0275】
を検出しきい値処理のための入力値とする。
図42に構成を示した多周波ステップICW方式では、追尾フィルタなどからの情報により、同じ距離ゲート内にフーリエ変換([数105]式)による速度分解能以下の速度差の複数目標が存在しないと判断される場合には、通常の2周波CW方式に基づき連続する二つの周波数ステップ(nとn+1)における検出周波数チャンネルkpeakの位相差から目標距離を求められる。すなわち、F(n,kpeak)を各周波数ステップの時間差に依存した検出周波数チャンネルの位相差を補正した。
【0276】
【数110】

【0277】
の位相ψ(n,kpeak)を求め、その位相差あるいは位相差の平均
【0278】
【数111】

【0279】
から目標距離を求めることができる。
【0280】
2)目標距離検出処理;周波数平均(Frequency smoothing)
多周波ステップICWでは超分解能法を用いた目標距離検出処理を適用する。すなわちある距離ゲートで、[数109]式のしきい値処理にて周波数チャンネルkpeakがしきい値を超え目標検出が発生した場合、この距離ゲート幅と検出相対速度([数107]式)を中心とした速度分解能内に、事前情報(追尾フィルタ情報,他センサ情報など)から複数目標が存在する可能性が少しでも存在するときには、以下に示す目標相対速度検出処理でのフーリエ変換出力を用いた目標距離検出処理を適用する。
【0281】
まず、多重波環境で超分解能法を用いる前処理として、相関行列のランクを回復させるために周波数平均を行うことが必要である。目標間の速度差は任意連続量であるため、周波数平均の入力は、フーリエ変換出力でのピーク周波数番号kpeakチャンネルに限定せず本例では周波数番号kpeakとその前後±1チャンネルの合計3チャンネルのデータベクトルを用いることとする。これらデータベクトルを列ベクトルとする行列Fに対し、列方向(n方向)のNs行からなるサブ行列として、
【0282】
【数112】

【0283】
を定義する。但し、q=0,・・・,N−Nsである。ここで、submatrix[X;n=a,b,k=c,d]は、行列Xのa行からb行,c列からd列までの部分行列を表す。周波数平均とは、このサブ行列Fqの部分相関行列の平均処理にて下記の相関行列Rを求める処理である。
【0284】
【数113】

【0285】
ここで、Hは行列の複素転置、<*>はqに関する平均操作を示す。
【0286】
3)目標距離検出処理;超分解能距離推定(Super resolution range detection)
超分解能法の一例としてMUSIC(MUltiple SIgnal Classification)法を採用した時の距離推定法を説明する。周波数ステップ幅Δfを等間隔に限定した場合、より計算量の小さいESPRITを採用することも可能である。
MUSIC法では、周波数平均後の相関行列R([数113]式)の固有展開を行い雑音の固有値に対応する固有ベクトルeα(α=1,・・・Ns−L)からなる雑音空間
E=[e,・・・eNs−L]を求める。ここで、Lは信号数であり、例えば雑音の固有値より大きな固有値の数から得られる。
次に、MUSIC法にて目標距離を探索するためのステアリングベクトルa(R)として[数108]式から、
【0287】
【数114】

【0288】
を用いる。ここで、kpeakは目標速度検出処理により得られた周波数チャンネル番号であり[数114]式では既知量として取り扱うことができる。よって、ステアリングベクトルa(R)に含まれる未知数は推定対象である距離Rのみである。MUSIC法ではこのステアリングベクトルa(R)と前記雑音空間Eを用いて、
【0289】
【数115】

【0290】
を評価関数として、着目する距離ゲート内でピークが得られる距離Rを目標距離推定値とする。等速の目標が複数個存在する場合には、[数115]式の評価関数に複数のピークが観測される。それらピークが得られる距離Rを距離推定値Rとする。
以上説明した多周波ステップICW方式では、一回の観測時間Tのみの計測時間で等速多目標環境における目標距離・速度計測が可能であり、検出した各目標相対速度に対して距離を求めているために、検出周波数のペアリング誤作動も回避可能である。
【0291】
4.第2の実施の形態の説明
4.1 相補符号化帯域合成法の概要
本実施の形態は、既存技術として述べたLFS法におけるパルスを、先に説明にて示したCPC符号にて位相符号変調にてパルス圧縮する手法である。本実施の形態では、これを相補符号化帯域合成法と述べる。
【0292】
CPCの特徴として、サイドローブの完全な相殺が可能なことから、パルスの距離ゲーティングよって測定目標外の反射波の信号レベルが流入することを抑止することが可能である。これはSWWにおける処理としてIFFTにて行うものがHybrid−CFSとして提示されている。さらにはSWWにて用いる超分解能法のひとつであるMUSICを用いた、相補多周波ステップのSWWにて距離分解能能力をさらに高めることを期待することができる。
ここで説明する本実施の形態の相補符号化帯域合成法は次の2つである。
・相補符号化帯域合法 その1 ハイブリッドCFS(CPC+LFS+IFFT)
その2 相補多周波ステップCW(CPC+LFS+MUSIC)
【0293】
本実施の形態では、CPCとLFS法による組み合わせのため、異なる2つの相補符号の配置を考えると、以下の2つに対してのパルス配置方法を想定している。
(1)周波数軸方向に対する異符号の配置
(2)時間軸方向に対する異符号の配置
【0294】
さらに、それぞれについて異なる搬送波周波数、異なる受信時間についてのパルスを得ることになるので、位相補正の必要性が存在することも考慮しなければならない。
【0295】
4.2 相補符号化帯域合成法の送受信シーケンス
相補符号化帯域合成法として送受信シーケンスを考えると大きく分けて、先の(1)、(2)が考えられるが、異符号からなるパルスの配置方法は無線通信における符号変調マッピングに代表されるように、様々な手法が適用可能である。その中で本実施の形態では、相補符号化帯域合成法とするにあたり、時間軸シフトの影響に対する位相補償、ドップラシフトの影響に対する位相補償、そして目標位置が0〜約200mに存在するという車載レーダとして応用を考慮し、以下に挙げる4つの送受信シーケンスとした例を説明する。
【0296】
(1)周波数軸に対して異なる符号を割りつける手法
(1)の1 周波数軸による分離 ケース1
図43に示した送受信シーケンスは、LFSとしてNステップ存在する周波数軸f方向に対して、交互に相補となる符号の異なるCPC変調波を送受信する方法である。f2nとf2n+1(ただしn=0,1,・・・N/2−1)をペアとして加算を行うことでCPCのパルス圧縮時のサイドローブの相殺を可能とする。
ex)fとfをペアとして加算、fとfをペアとして加算(以下同様)
したがって、多周波ステップICWと比較し、相補の符号の加算後において周波数軸方向のパルス数Nは1/2となる。
【0297】
(1)の2 周波数軸による分離 ケース2
Nステップ存在する周波数軸f方向に対して交互に相補となる異なるCPC変調波を送受信するのは(1)の1 ケース1と同様である。ただし、fとfn+1(ただしn=0,1,・・・N−1)をペアとして加算を行うことでCPCのパルス圧縮時のサイドローブの相殺を可能とする。
ex)fとfをペアとして加算、fとfをペアとして加算(以下同様)
したがって、多周波ステップICWと比較し、相補の符号の加算後において周波数軸方向のパルス数NはN−1/Nとなる。
(2)時間軸に対して異なる符号を割りつける手法
(2)の1 時間軸による分離 ケース1
【0298】
図44に示したように、時間軸tに対して、一定の時間遅延後に連続して相補となる異なるCPC変調波を送受信する方法である。
受信後、同一周波数にて隣り合った異なる相補符号をパルス圧縮後、位相補償を行い加算する。観測時間が多周波ステップICWと同一であるなら、相補の符号の加算後において時間軸におけるパルス数Mは多周波ステップICWと比較し1/2になる。
【0299】
(2)−2時間軸による分離 ケース2
図45に示したように、時間軸tに対して、同一符号においてN個の周波数ステップを掃引し、符号変調波を送受信する。その後、相補となる異なるCPC変調波を同様に周波数ステップさせ送受信する方法である。受信後、同一周波数にて隣り合った異なる相補符号をパルス圧縮後、位相補償を行い加算する。観測時間が多周波ステップICW同一であるなら、相補の符号の加算後において時間軸におけるパルス数Mは多周波ステップICWと比較し1/2になる。
【0300】
4.3 第2の実施の形態で適用した相補符号化帯域合成法の送受信シーケンス
相補となる2つの符号を用いる以上、周波数ステップ方向パルス数N、観測時間方向のパルスMに対して、何らかの性能低下を許容せざるを得ない。
ここで、これらの周波数ステップ数N、観測時間方向のパルスMに対する影響を纏めると次のようになる。
【0301】
・周波数ステップ方向パルス数Nの減少
IDFTによる距離推定値は[数86]式に依存することから、距離分解能が低下する。さらに多周波ステップICWにてMUSICを用いる上で、同速度多目標分離可能数はN−Nに依存する([数112]式参照)ため、多目標分離性能、すなわちレーダの距離分解能が著しく低下する。
【0302】
・観測時間方向パルス数Mの減少
速度分解能の低下に直結する([数94]式参照)。更に速度検出を相補となる異符号加算後に行った際にはTの増加により、最大速度探知性能も低下する。ただし、加算前に異符号間の絶対値を用いることで、これらを同一波形とすることができるために、同一周波数ステップでの異符号パルスを同符号パルスとみなしてFFT((2)の1のケース1については不等間隔サンプリングによる速度検出)を行えば最大速度探知性能を犠牲にすることはない。
【0303】
ここで、車載レーダとして用いることを考慮し、また、車載レーダとして一般的な76.5GHz帯を用いるとするならば、数msec〜十数msecの観測時間にて1km/h以上の速度分解能を得ることができる。このことを踏まえると、車載レーダとして運用する上ではこの観測時間の増加に対するペナルティは影響が小さいと考えることができる。さらに、車載レーダとして運用する上で、周波数ステップ方向パルス数Nの減少による同速度多目標分離性能低下は著しい性能低下となる。したがって、相補符号化帯域合成法として送受信シーケンスの設計として、(2)の手法を用い、観測時間方向パルス数Mの減少を観測時間の延長によって速度分解能の低下を防ぐ方法が、車載レーダとして最も適切である。
【0304】
次に、(2)の1と(2)の2の相違点について説明する。この2つにおいて最も違う点は、加算する信号同士の時間遅延の差である。相補となる2つの信号の加算を行う前にそれぞれに対して位相補償を行うが、CPCのサイドローブの打ち消しは完全な位相補償が行われたときであることを考慮すると、位相補償に対する誤差が少ないものが適切である。さらに、実際の車載レーダとして運用する上でのマルチパス波やクラッタ等を考慮すれば、時間遅延が少ないものが信号検出も容易であり、補正誤差も小さくなる。このため、時間軸に対する遅延が少ない2の(1)の手法がCPCを用いる上でより適切な送受信シーケンスである。
【0305】
4.4 相補符号化帯域合成法による目標速度・目標距離導出
ここで、改めて2の(1)の図44による手法の送受信シーケンスの詳細を図46に示す。
【0306】
本実施の形態の相補符号化帯域合成法では、相補符号を用いて位相変調を行った相補符号パルスを等間隔LFSとして搬送波を周波数のステップで送信し、測定目標反射パルスを受信する。受信波を各周波数ステップでベースバンドに周波数変換し複素IQ検波を行う。その後に、A/D変換を行い、1PRI内サンプリング信号を得る。このサンプリング信号を用いて、相補符号のパルス圧縮処理(自己相関処理)を行う。その結果として、信号を得る。この信号を用いた相補多周波ステップICWの信号処理系統図を図47に示す。信号は図46に示すように、4つの変数(ss,α,n,m)で記述される。
図47について説明すると、受信アンテナ71で得た受信信号は、LFS検波部72で検波される。このLFS検波部72は、発振器72aと、ミキサ72bと、バンドパスフィルタ72cとを備える。バンドパスフィルタ72cの出力は、複素IQ検波部73に供給する。複素IQ検波部73は、発振器73aと、ミキサ73bと、位相シフタ73cと、ミキサ73dと、ローパスフィルタ73eと、73fローパスフィルタとを備えて、2つの受信信号成分が得られ、相関処理部74に供給する。相関処理部74では、アナログ/デジタル変換器74a及び74cでデジタル変換し、マッチドフィルタ74b及び74dで相関が検出されて、その検出信号が、受信波パルス処理部75に供給される。受信波パルス処理部75でパルス圧縮される。
4つの変数は以下の通りである。
【0307】
M:時間軸上の「各符号の」パルス数。ただし、相補符号を用いるのであれば2種のパルスが存在するので、1つの周波数に対する全パルス数は2M個となる。
N:周波数ステップ数。
α:相補符号を識別する値。相補となる符号の種類は2種なので、0または1をとる。
SS:1TPRI内サンプリング数。
【0308】
変数N,Mについては相補符号化しない、多周波ステップICWと同様であり、今回新たに導入を行ったものはαとSSである。特に1TPRI内のサンプリングによる変数は、CPCによる位相符号化と相補となる符号間の加算による完全なサイドローブ相殺を目指すためには、パルス圧縮におけるサイドローブに対しても位相補償を行わなければならないのは必須であるがゆえ、設定を行った。もし、標準の多周波ステップICWや、位相変調を行う際にP4符号のような1つの符号に対してのみのパルス圧縮波を用いるのであれば、パルス波の利得に対してある一定の閾値をとり、パルスピークにのみ位相補償を行うようにすれば十分である。
次に、多周波ステップICW方式での計測信号モデルを説明するが、基本構成は多周波ステップICWに準じる。
【0309】
4.5 相補符号化帯域合成法の受信波パルスの導出
相補符号化帯域合成法における受信波パルス導出までを数式により解析する。
まず、送信波を考える。簡単のために振幅を1として送信搬送波全体を考えれば、多周波ステップICWにおける[数90]式と同様に、
【0310】
【数116】

【0311】
と書ける。φは変数nにおいて等しい任意の位相である。
目標にあたり反射した送信波は、目標までの往復時間に相当する時間遅延τの後、受信波として送受信アンテナに入射する。このときの受信波も同様に[数100]式から、
【0312】
【数117】

【0313】
と示される。ここでも簡単のため振幅を1とした。ここでλ(≡c/f)とすると、fd,n(2V/λ)はドップラ周波数,cは光速,Rは時刻t=0での目標距離である。
この受信波は、ダウンコンバージョンされ、さらに発振器からの送信波f(n=0,1,・・・N−1とミキシングされ、目標が含まれる距離ゲート番号(すなわち時間遅延τ)での観測信号として、
【0314】
【数118】

【0315】
という信号を得る。Rは目標距離とする。この信号をA/D変換を行った後に送信信号との自己相関処理によるパルス圧縮を行うことで、距離ゲーティング毎のパルス信号が得られる。
【0316】
ところで、A/D変換によってこの信号の時間軸はサンプリング周期毎の離散値となるのは言うまでもないが、ここで改めて、先に述べたM,N,α,SSという4つパラメータを用いて、距離ゲーティングによる受信信号の時間tを表現すると、次の式で示される。
【0317】
【数119】

【0318】
ただしn=0,1,・・・N−1 m=0,1,・・・M−1 α=0,1 ss=0,1,・・・SS−1
【0319】
chipは、A/D変換機のサンプリング間隔の時間を表す。したがって、[数118]式に[数119]式を代入し、さらに、位相変調した送信パルスをPMcode(t)とするならば、[数118]式は、
【0320】
【数120】

【0321】
として表すことができる。ただし、送信周波数に対し各周波数ステップでの周波数fn(=f0+n・Δf)(n=0,1,・・・N−1)の差Δfは十分小さく、各周波数ステップでのドップラ周波数は等しいとしているため、
【0322】
【数121】

【0323】
として、各周波数ステップにおけるドップラ周波数をfという1つの値にしている。
さらに、目標が複数Γ個存在するのであれば、それぞれの目標で異なるR(距離成分)・f(速度成分)を持つ[数120]式のγ(γ=0,1,・・・Γ−1)に対する線形
和として観測されるので、最終的な観測波形モデルの式は、
【0324】
【数122】

【0325】
にて与えられることになる。
【0326】
4.6 Hybrid−CFS法にておける目標速度推定と目標距離推定
次に[数122]式で得られたパルスの処理を、SWWにてIFFT(実際には離散点なのでIDFT)を用いるHybrid−CFS法にて処理し、目標速度と目標推定距離を導出する手順をブロック図で示す。
【0327】
以下、図48を参照して、本実施の形態の送受信シーケンスにおけるHybrid−CFS法による信号処理を説明する。この信号処理系は、フーリエ変換部81と、位相補償部82と、加算処理部83と、逆フーリエ変換部84とを備える。
【0328】
(i)FFT処理
フーリエ変換部81でのFFT処理を説明する。
多周波ステップICWと同様に目標相対速度検出処理としてm方向へFFTを行い、速度検出をする。本例の相補符号化帯域合成法では、各周波数ステップ,符号ごと、つまり、ある変数n,αごとにss−m平面を考え,m方向へFFTを行いパルスドップラ処理を行う。多周波ステップICWとの違いは、パルスピークのみでなくパルス圧縮によって発生するサイドローブに対しても速度検出を行い、位相補正をする点であり、すべてのサンプリング点ssに対してFFTを行うことになる。異符号間の非等間隔サンプリングによる速度検出も可能であるが、計算負荷やパルス圧縮出力の丸め等の問題からFFTを行うのが好ましい。等式で表すと[数96]式と同様に、
【0329】
【数123】

【0330】
となる。ここで、k(=0,1,・・・M−1)は周波数チャンネル番号である。やはりここでも同じ距離ゲート内に複数の目標が存在する場合、[数120]式の線形和で表されるが、位相関係によってはフェージングが発生するので、各周波数ステップnのフーリエ変換出力チャンネルの絶対値の和を取ることを考える。さらに、異なる相補符号αにおいて振幅値は同一であることから、
【0331】
【数124】

【0332】
を検出しきい値処理のための入力値とした。
さらに、[数100]式より、異なる相補となる符号を交互に送信していることに注意して、振幅値|F(K,n,α,ss)|は各周波数ステップnにおいて周波数チャンネル番号
【0333】
【数125】

【0334】
ではコヒーレント積分となりピークが得られる。また、[数122]式の出力振幅がピークとなる周波数チャンネル番号kpeakを検出することで、目標ドップラ周波数が得られる。検出した番号kpeakから検出目標相対速度detectVは、
【0335】
【数126】

【0336】
から得られる。
【0337】
(ii)位相補償
次に、位相補償部82で、相補となる符号を足し合わせてサイドローブのキャンセルを行うことになる。この時、ドップラシフトによる位相変化を先に求めた目標速度detectV(ss)を用いて補正することになる。ここで、簡単のために検出速度からドップラシフト補正項への変換を行うと次の式となる。
【0338】
【数127】

【0339】
この式を用いて位相補正を行う。[数120]式のドップラシフトの項が存在する位相項を補正することになるので次の式で表される。
【0340】
【数128】

【0341】
さらに、α=1をα=0の符号と加算するためには、時間軸に対する位相補正を行う必要がある。この位相補正項は、
【0342】
【数129】

【0343】
として表される。
【0344】
(iii)ADD処理
(ii)の位相補償にて導出した位相補正項の[数127]式及び[数128]を用いて補正を行った後に異なる相補符号間で加算を行う。式で表すと[数123]式,[数127]式,[数128]式より、
【0345】
【数130】

【0346】
となる。ただし、関数F(m,n,α,ss)について、kとmの配列は等価であるので置き換えている。
【0347】
そして、この[数130]式にて、パルス間隔が2TPRI、さらに位相補正から目標速度v=0となるLFS法、または多周波ステップICWと等価の式を得られたことになる。ただし、本来パルスピークはビット数KのCPCパルス相関処理後の最終ビットに現れることから、パルスピークは、目標距離に対応した時間遅延τから更にCPCとして符号化したビット長Kにサンプリング時間Tchipを乗算した時間だけさらに遅延した点に現れる。したがって、パルスピーク点における信号を式で示すと位相項のf=0として、
【0348】
【数131】

【0349】
となる。
【0350】
(iv)−1 IFFT処理
Hybrid−CFS法において、目標推定距離導出にはLFSのSWWに逆フーリエ変換(以下IFFTと称する)を用いる。実際には、サンプリング毎の離散値となるため、離散逆フーリエ変換(以下IDFTと称する)をすることになる。(iii)にて、サイドローブ0のパルスが[数130]式によって得られているが、ここでLFS法による[数82]式において、位相補償を行ったと考えて位相項における目標速度項を0とすれば、
【0351】
【数132】

【0352】
となり、mとサンプリング時間に依存しないnのみの関数となり、さらにB/N=Δfであるから、[数131]式との対応がとれていることが分かる。したがって、実際には[数131]式に対してパルスピークとなるサンプリング点ssをdetectSSとして検出し、detectSSに関する周波数ステップ方向のN行1列の配列として切り出す。式[数131]式にて与えられるパルスをIDFT処理すれば、[数83]式より
【0353】
【数133】

【0354】
ただし、Nr=N,k=0,1,・・・Nr−1
この式は目標速度v=0と位相補償を行った式であるので、ピーク点は[数84]式より
【0355】
【数134】

【0356】
として表すことを満たす。したがって推定目標距離Rcalは[数85]式より
【0357】
【数135】

【0358】
として与えられる。もし複数目標があるのであれば、ピーク点を高いものから順次検出し、同様の操作を行うことで、その点の持つ位相から目標推定距離を導出することができる。
【0359】
4.7 相補多周波ステップICWにおける目標速度推定と目標距離推定
次に、相補多周波ステップICWにおける目標速度と目標距離を導出する手順をブロック図49で示す。
図49は、図48と比較をすると、Hybrid−CFS法におけるIFFT処理((iv)−1)を、MUSIC処理部85で、MUSIC(MUltiple SIgnal Classification)処理による超分解能法へ置き換えたものが相補多周波ステップICWである。したがって、(i)(ii)(iii)は同様の処理を行うことになるので省略し、ここでは最終段の(iv)−2におけるMUSIC法によるSWW処理について説明を行う。
(iv)−2 MUSIC処理
相補多周波ステップICWは、 (iii)にて[数131]式より多周波ステップICWと等価の式が得られたことになるので、この後に処理する超分解能法のひとつであるMUSIC処理によるSWW処理は、式(3.14)にて与えられるパルス間隔が2TPRIである多周波ステップICWと等しい処理をすればよい。
この結果として速度レンジごとの目標距離推定
【0360】
【数136】

【0361】
の結果を得ることができる。なお、同速度にて複数目標がLFSのIDFTによる距離分解能c/2Nr・(B/N)よりも近接する目標であっても、MUSIC処理は目標分離が可能となっている。
【0362】
本実施の形態によると、近接複数目標が存在する中でのパルスの距離サイドローブの完全なキャンセルが可能である相補関数は、他の距離成分への影響がないことから、2つの目標のそれぞれに対する信号分離に非常に有用な関数が得られる。特にこれはSWW処理にて目標数推定ができないIFFTを用いるHybrid−CFSにおいて複数目標の信号分離に着目すると顕著である。一方、MUSIC処理におけるSWW処理結果は、非常に微弱な距離サイドローブ成分に対しても複数目標を検知することができることから、FFT処理におけるピーク点からの勾配に対する微小パルスに対しても目標検出を行っていることが、detectSSの持つ距離成分の確認から分かる。これは複数目標に対する信号分離の閾値を設定することが重要であることが分かる。
高距離分解能を持つ一方で、狭い受信機帯域幅であることから低コストであることを両立することにより、ミリ波車載レーダへの適用を想定した、相補符号化帯域合成法における送受信シーケンスである。その結果、SWW処理においてHybrid−CFSにて用いられるIFFT、そして多周波ステップICWにて用いられるMUSICを適用可能である。さらに、車載レーダのとして適用時に考えられるパラメータ設定において、狭い受信機帯域幅で距離サイドローブの干渉が少なく、精度の高い目標分離が可能である。
【0363】
5.各実施の形態の変形例
次に、各実施の形態に適用される変形例について説明する。
【0364】
5.1送信周波数のランダム化
第1の実施の形態で図25などに示した送信シーケンスと、第2の実施の形態で図46などに示した送信シーケンスは、いずれも送信周波数を順に上昇させ、ある送信周波数になると、元の周波数に低下させる処理を繰り返すようにしたが、この送信周波数の増減は必ずしも順に行う必要はない。
【0365】
即ち、一定時間の間に、各ステップの送信周波数となる期間が平均的に存在すれば、送信周波数を見かけ上ランダムに変化させてもよい。例えば、期間Txの間で送信周波数f0,f1,f2,f3,f4と5種類の送信周波数に変化させて送信させる5つのステップが存在するとする。このとき、その期間Txの間で、その5つの送信周波数f0,f1,f2,f3,f4を順に送信周波数を増やす処理の他に、送信周波数を1ステップずつ順に減らしたり、或いは全く別の順序で、見かけ上ランダムに変化するようにして、5つの送信周波数を変化させてもよい。但し一定の期間Tx内に5つの送信周波数が同じ回数存在するように設定する必要がある。なお、図46に示した第2の実施の形態で相補符号を2回のタイミングで連続して送信させる場合には、その連続した2回の送信タイミングでは送信周波数は同じ周波数とする必要がある。
【0366】
また、このように送信周波数を見かけ上ランダムに変化させる場合に、複数台のレーダ装置で、その見かけ上ランダムに変化させるパターンを異なるパターンとしてもよい。このランダムに周波数を変化させるパターンを、複数パターン用意して、その複数のパターンのいずれかを複数台のレーダ装置の各々に設定することで、他のレーダ装置と干渉する可能性を低減させることができる。
即ち、例えば実施の形態で説明した構成のレーダ装置を搭載した自動車が近隣に多数存在する状況で、それぞれのレーダ装置の送信周波数変化パターンが同じであるとすると、万一、近隣の複数のレーダ装置から、同じ送信周波数で送信されたとすると、送信パターンの変化が同じであるため、同じ送信周波数である状態が継続してしまう。
これに対して、見かけ上ランダムに変化させるパターンを異なるパターンとしたことで、近隣の複数のレーダ装置で送信周波数が重なることがあっても、重なるのが一時的であり、相互干渉することによる不具合を最小限に抑えることができる。
【0367】
5.2送信周波数をステップ的に変化させる際の速度検出例
図48に示した構成例では、Code1とCode2の2つの相補符号を使って、送信させた信号を受信して距離成分を検出する構成を示した。ここで、速度成分を検出する構成としては、単純に考えた場合、図51(a)に示したように、Code1の同じ周波数位置の受信信号を集めた信号から速度検出する場合と、図51(b)に示したように、Code2の同じ周波数位置の受信信号を集めた信号から速度検出する場合とが考えられる。図51の横軸は時間、縦軸は受信レベルである。
【0368】
この図51(a),(b)に示したそれぞれのコードの信号だけから速度成分を検出した場合、十分な検出精度が得られない場合が考えられる。
次の数137式は、全てのサンプル位置から速度検出を行った場合の例であるが、図48の構成の場合には、原理的にこのような速度検出は不可能である。
【0369】
【数137】

【0370】
次の数138式は、Code1から速度検出を行うための式であり、数139式は、Code2から速度検出を行うための式である。
【0371】
【数138】

【0372】
【数139】

【0373】
ここで、速度成分の検出を、同じ周波数位置のCode1の受信信号とCode2の受信信号から検出することで、検出精度を向上させることが可能となる。
図51(c)は、この同じ周波数位置のCode1の受信信号とCode2の受信信号から検出した状態を示した図であり、次の数140式は、Code1,Code2から速度検出を行うための式である。
【0374】
【数140】

【0375】
数141式は、数137式から数140式の条件を示す。
【0376】
【数141】

【0377】
このように、速度検出を行った場合の速度検出状態を示したのが図52及び図53である。図52及び図53において横軸は速度成分である。図52は、同じ周波数位置のCode1の受信信号だけから速度検出を行った場合の例である。同じ周波数位置のCode2の受信信号だけから速度検出を行った場合にも、この図52と同様になる。図53は、同じ周波数位置のCode1の受信信号とCode2の受信信号とから速度検出を行った場合の例である。
この2つを比較すると判るように、図52に示した、同じ周波数位置のCode1の受信信号だけから速度検出を行った場合には、同じレベルのピークが多数現われて、真のピークが判別できず、速度検出が後検出する可能性がある。
これに対して、図53に示した、同じ周波数位置のCode1の受信信号とCode2の受信信号とから速度検出を行った場合には、最もレベルが高いピーク位置(図中のf0)が1箇所に定まり、そのピーク位置から正確な速度を検出することが可能になる。即ち、1送信周期(fTs周期)の間で、最も大きな出力となる整数値を真値とする。
【0378】
図50は、図48に示した構成で速度検出を行うブロックを追加した例である。この図50に示したように、フーリエ変換部81でFFT処理された信号を、速度検出部86に供給して、数140式で示される計算式から、同じ周波数位置のCode1の受信信号とCode2の受信信号とを使って、速度検出処理を行い、速度成分を得る構成とする。
このようにして速度成分を検出することで、速度検出精度を向上させることができる。
【0379】
図22に示したように、多周波NL−SWW法を適用した第1の実施の形態では、[数35]式及び[数36]式を適用することで、非線形周波数ステップ間隔dFを、非線形パラメータσのみで制御することができると述べた。
これに対して、出力の距離波形のある距離のところを拘束し、3次関数のパラメータを決めて、良好な波形が得られるようにしてもよい。出力の距離波形のある距離のところを拘束とは、ある距離のところの振幅レベルεを定めることである。
【0380】
以下、この出力の距離波形のある距離で拘束する例について説明する。
ここで、多周波NL−SWW法での送信周波数シーケンスについて、図54に示す。この図54の送信周波数シーケンスは、図22に示した送信周波数シーケンスと基本的に同じである。図54(a)は、サブパルスの周波数増加が周期m=0,m=1,・・・,m=M−1ごとに繰り返されることを示し、図54(b)は、1つの周期での非線形周波数ステップを示したものである。図54(b)に示したBは、周波数ステップによる全帯域幅である。
【0381】
図55は、多周波NL−SWW法での受信構成を示し、受信アンテナ101で受信した信号は、ミキサ102で、ローカル信号生成部103からのローカル周波数f0,f1,・・・,fN−1の信号が乗算される。さらにLFM変調波発生部104からの変調波についても乗算される。ミキサ102の出力は、サブパルス圧縮部105でサブパルス圧縮処理し、その出力を、ドップラ周波数推定処理部106に供給して、m方向フーリエ変換処理を行う。そのドップラ周波数推定処理部106の出力で速度検出部108が速度を検出し、ドップラ周波数補正処理部107で補正処理する。さらに、ドップラ周波数補正処理部107の出力を、帯域合成処理部109で帯域合成処理(IDFT)する。この帯域合成処理は、n方向逆フーリエ変換処理が行われる。この帯域合成処理部109の出力として、距離波形を得る。
【0382】
この図55に示した構成で処理されることで、ドップラ周波数推定処理で速度が得られると共に、ドップラ周波数補正処理後に距離誤差を補償可能としている。最終出力である距離波形は、帯域合成処理部109で帯域合成処理された出力に、サブパルスのパルス圧縮出力を乗じることにより得られる。
【0383】
この多周波NL−SWW法に適用される拘束法について説明すると、この拘束法は、多周波NL−SWWにおいて帯域合成出力のある特定の距離の相対振幅値を拘束し、それを満足する距離波形が得られるように非線形最小二乗法により非線形関数パラメータを決定するものである。ここでは、その非線形関数は周波数ステップの中心を対象とした奇関数である以下の3次の多項式とする。
【0384】
【数142】

【0385】
nは各サブパルスの周波数である。周波数ステップの始点,終点および中間点の条件より、以下の[数143]式、[数144]式、[数145]式、[数146]式に示した条件となる。
【0386】
【数143】

【0387】
【数144】

【0388】
【数145】

【0389】
【数146】

【0390】
このとき、周波数ステップによる全帯域幅をBとする(図54参照)。
また多周波NL−SWW法における帯域合成出力は以下のように表わされる。
【0391】
【数147】

【0392】
このときX(n)は、図55に示したドップラ周波数補正処理部107で処理後の信号であり、Rは帯域合成処理(IDFT)の指向距離である。この帯域合成処理(IDFT)の指向距離Rと目標距離Rが一致した距離Rから距離Δrだけ離れた位置(拘束距離)の相対振幅値をεとして拘束すると、
【0393】
【数148】

【0394】
【数149】

【0395】
となる。
[数142]式を代入すると、拘束条件式は、以下のように示される。
【0396】
【数150】

【0397】
このときXは拘束条件数である。[数150]式より拘束条件による周波数ステップ非線形化手法は目標距離Rが未知であっても成立することは明らかである。ここで拘束条件数を3(x=0,1,2)とすると,未知数(P,P,P,p)の4個に対し、式[数144]式から確定し、[数144]式,[数145]式および拘束条件式[数150]式の3個の計5個となり、これらの式から非線形最小二乗法にて非線形関数の係数(P,P,P,p)を求める。
【0398】
拘束条件を与える距離Δrとその相対振幅値εに対し、本例では以下を考慮し、図56及び図57に示すような距離サイドローブ拘束およびパルス圧縮ヌル拘束を採用する。図57の拘束条件1,2,3の拘束距離Δrが、図56中の拘束条件1,2,3の位置である。
この図57の拘束条件は、次の2つを行ったものである。
【0399】
(1)パルス圧縮出力のメインローブ内で、帯域合成出力の相対振幅値を小さい値に拘束する.
(2)パルス圧縮出力がヌルとなる距離(パルス圧縮ヌル距離と呼ぶ)での帯域合成出力の相対振幅値が高くなるようにする。
【0400】
以上より、パルス圧縮出力と帯域合成出力の積である距離波形において、距離サイドローブを低減することが可能となる。
【0401】
ここで、この拘束条件でシミュレーションした例について説明する。
ミリ波車載レーダを想定し、以下のレーダパラメータを採用した。
・送信周波数f:76.5GHz
・パルス繰返し周期TPRI:2μs(最大インストルメント距離:300m)
・サブパルス帯域幅b:80MHz(距離分解能:1.875m)
・周波数ステップ数N:8(最大速度視野:±220.588km/h)
・基準周波数ステップ幅Δf:70MHz(提案法の距離分解能:0.263m)
・占有帯域幅B:570MHz(=b+B
・全観測時間Ts:4.096ms(速度分解能:1.723km/h)
・目標数:1(目標距離R:200m,目標速度V:200km/h)
・拘束条件(Δr,ε):条件1(0.368m,0.001)
条件2(0.632m,0.001),
条件3(2.025m,0.1)
【0402】
この条件で、図56,図57に示した拘束条件をもとに導出した非線形関数を用いた場合の帯域合成処理出力を図58に、最終出力である距離波形(帯域合成処理出力とサブパルス圧縮の積)を図59にそれぞれ示す。
図59から判るように、実線で示した本例での処理では、サブパルスのパルス圧縮(破線)と比べて約7倍(−3dB)の距離分解能を得るとともに全ての距離範囲において距離サイドローブが−20dB以下に低減することが判った。
【0403】
ここまでの説明では、多周波NL−SWWにおける帯域合成(周波数ステップ方向のIDFT)出力のある特定の距離の相対振幅値を拘束し、それを満足する距離波形が得られるように非線形関数の係数P,P,P,Pである複数の未知数に対し、最小二乗法を用いて推定を行う例を示した。
これに対して、非線形関数の係数(未知数)P,P,P,Pを1パラメータPで表現し、拘束条件式から最小二乗法にて推定を行う例を、次に説明する。
【0404】
・多周波NL−SWWにおける拘束条件による周波数ステップ非線形化手法(1パラメータによる非線形関数の推定)
この例では、多周波NL−SWWにおいて帯域合成出力のある特定の距離の相対振幅値を拘束し、それを満足する距離波形が得られるように非線形最小二乗法により非線形関数パラメータを決定する。ここでは非線形関数は周波数ステップの中心を対象とした奇関数である以下の3次の多項式とする。
【0405】
【数151】

【0406】
周波数ステップの始点,終点および中間点の条件より、以下のようになる。Bは、周波数ステップによる全帯域幅である。
【0407】
【数152】

【0408】
【数153】

【0409】
【数154】

【0410】
【数155】

【0411】
また、非線形関数の係数を1パラメータで表現するために、[数154]式及び[数155]式から、1/2{F(N―1)}―F{(N―1)/2}より、以下のようになる。
【0412】
【数156】

【0413】
【数157】

【0414】
また、1/4{F(N―1)}―F{(N―1)/2}より、以下のようになる。
【0415】
【数158】

【0416】
【数159】

【0417】
従って、[数151]式,[数152]式,[数157]式,[数159]式より、非線形関数は係数Pのみで、次式のように表される。
【0418】
【数160】

【0419】
また、多周波NL−SWWにおける帯域合成出力は、以下のように表わされる。
【0420】
【数161】

【0421】
このときX(n)は図55に示す構成でドップラ補正処理をした後の信号であり、RはIDFTの指向距離である。これより図56,図57に示すようにIDFT(合成帯域処理)の指向距離Rと目標距離Rが一致した距離Rから距離Δrだけ離れた位置(拘束距離)の相対振幅値をεとして拘束すると、
【0422】
【数162】

【0423】
【数163】

【0424】
となり、[数160]式を代入すると拘束条件式は次式で表される。このときXは拘束条件数である。
【0425】
【数164】

【0426】
[数164]式より拘束条件による周波数ステップ非線形化手法は目標距離Rが未知であっても成立することは明らかである。ここで拘束条件数を3(x=0,1,2)とすると,未知数Pに対して拘束条件式([数164]式)の3個から非線形最小二乗法にて未知数Pを求める。[数153]式からP=0が確定し、Pより[数157]式,[数159]式を用いることで非線形関数の係数(P,P,P,P)を求める。
【0427】
なお、ここまで説明したそれぞれの例では、3次関数で拘束した例について説明したが、5次関数などのより高次の関数(奇関数)で拘束するようにしてもよい。
【0428】
また、上述した各実施の形態で説明したレーダ装置の処理構成例は、それぞれ好適な一例を示したものであり、図示した構成に限定されるものではない。
また、第1の実施の形態として説明した処理と、第2の実施の形態で説明した処理とを組み合わせるようにしてもよい。即ち、第1の実施の形態で説明した、送信周波数をステップさせるステップ間隔を、周波数の上限と下限を固定した3次関数となるような非線形ステップとする処理構成を、第2の実施の形態で説明した、2つの相補信号を同一周波数で連続する送信パルスとして割り当てる処理構成と組み合わせるようにしてもよい。このように組み合わせることで、それぞれの効果を併せ持ったより精度の高い探知が行えるレーダ装置が得られる。
【符号の説明】
【0429】
11…送信波発生部、12…パルス化処理部、13…送信アンテナ、14…受信アンテナ、15…位相検波部、16…ミキサ、17…ローパスフィルタ、18…アナログ/デジタル変換器、19a〜19c…フーリエ変換部、20…目標距離・速度算出部、21…パルス圧縮処理部、22…変調パルス発生部、31…サブパルス生成部、32…ミキサ、33…発振器、34…サーキュレータ、35…送受信アンテナ、36…ミキサ、37…ローパスフィルタ、38…アナログ/デジタル変換器、39…フーリエ変換部、40…混合処理部、41…参照信号生成部、42…フーリエ変換部、43…スペクトラムシフト部、44…コンバイン部、45…逆フーリエ変換部、51…LFM変調部、52…サーキュレータ、53…発振器、54…送受信アンテナ、55…サブパルス圧縮部、56…ドップラ周波数推定処理部、57…ドップラ周波数補正処理部、58…合成帯域処理部、61…発振器、62…アップコンバータ、63…高周波スイッチ、64…サーキュレータ、65…送受信アンテナ、66…ダウンコンバータ、67…フーリエ変換部、68…周波数スムージング部、69…検出部、71…受信アンテナ、72…LFS検波部、72a…発振器、72b…ミキサ、72c…バンドパスフィルタ、73…複素IQ検波部、73a…発振器、73b…ミキサ、73c…位相シフタ、73d…ミキサ、73e…ローパスフィルタ、73f…ローパスフィルタ、74…相関処理部、74a…アナログ/デジタル変換器、74b…マッチドフィルタ、74c…アナログ/デジタル変換器、74d…マッチドフィルタ、81…フーリエ変換部、82…位相補償部、83…加算処理部、84…逆フーリエ変換
部、85…MUSIC処理部、101…受信アンテナ、102…ミキサ、103…ローカル信号生成部、104…LFM変調波発生部、105…サブパルス圧縮部、106…ドップラ周波数推定処理部、107…ドップラ周波数補正処理部、108…速度検出部、109…帯域合成処理部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルス内周波数拡散された送信パルスを、パルス間で周波数をステップさせて送信させ、その送信パルスの目標物からの反射を受信するレーダ装置において、
前記送信周波数をステップさせるステップ間隔を、周波数ステップの上限と下限を固定した3次関数となるような非線形ステップとしたことを特徴とするレーダ装置。
【請求項2】
請求項1記載のレーダ装置において、
受信したパルスをパルス圧縮処理した信号に対してパルスドップラ処理を行い、そのパルスドップラ処理された信号を帯域合成処理し、
前記パルスドップラ処理で、目標物との相対速度がある場合に発生する距離誤差を補正することを特徴とするレーダ装置。
【請求項3】
請求項1記載のレーダ装置において、
前記送信パルスの周波数をステップさせる処理は、順に周波数を増加又は減少させるステップではなく、ランダムに周波数を変化させる処理であることを特徴とするレーダ装置。
【請求項4】
パルス内周波数拡散された送信パルスを、周波数をステップさせて送信させ、その送信パルスの目標物からの反射を受信するレーダ装置において、
2つの相補となる関数の加算による合成により、目標物からの反射波によるパルス信号以外の成分を抑圧可能な2つの相補信号を、同一周波数で連続する送信パルスとして割り当て、
その2つの相補信号による送信パルスを周波数ステップさせることを特徴とするレーダ装置。
【請求項5】
請求項4記載のレーダ装置において、
受信したパルスをパルス圧縮処理した信号に対してパルスドップラ処理を行い、そのパルスドップラ処理された信号を帯域合成処理し、
前記パルスドップラ処理で、目標物との相対速度がある場合に発生する距離誤差を補正することを特徴とするレーダ装置。
【請求項6】
請求項5記載のレーダ装置において、
受信した連続した2つの相補信号のパルス圧縮後の検出信号に、位相勾配から速度視野のアンビギュイティを補正する速度視野補正処理を行う速度視野補正部を備えたことを特徴とするレーダ装置。
【請求項7】
請求項4〜6のいずれか1項に記載のレーダ装置において、
前記周波数ステップのステップ間隔を、周波数ステップの上限と下限を固定した3次関数となるような非線形ステップとしたことを特徴とするレーダ装置。
【請求項8】
請求項4〜6のいずれか1項に記載のレーダ装置において、
前記送信パルスの周波数をステップさせる処理は、順に周波数を増加又は減少させるステップではなく、ランダムに周波数を変化させる処理であることを特徴とするレーダ装置。
【請求項9】
請求項4〜6のいずれか1項に記載のレーダ装置において、
同一周波数の前記2つの相補信号の受信信号から速度成分を検出することを特徴とするレーダ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【図36】
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【図37】
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【図38】
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【図39】
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【図40】
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【図41】
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【図42】
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【図43】
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【図44】
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【図45】
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【図46】
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【図47】
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【図48】
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【図49】
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【図50】
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【図51】
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【図52】
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【図53】
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【図54】
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【図55】
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【図56】
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【図57】
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【図58】
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【図59】
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【公開番号】特開2010−230643(P2010−230643A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−200874(P2009−200874)
【出願日】平成21年8月31日(2009.8.31)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成21年2月10日 国立大学法人電気通信大学主催の「電気通信大学 卒業論文発表会」において文書をもって発表
【出願人】(504133110)国立大学法人電気通信大学 (383)
【Fターム(参考)】