説明

レーダ装置

【課題】安定した相関追尾が可能なレーダ装置を提供する。
【解決手段】FMCW方式のスイープ信号を送受信する送受信器20と、送受信器からの信号に基づき算出された目標の速度によって該目標を速度範囲毎にグルーピングする速度グルーピング部36と、前記速度グルーピング部によってグルーピングされた速度グループ毎に相関追尾を行う相関追尾部37を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、FMCW(Frequency Modulated Continuous Wave)方式などにより車両の速度を観測するレーダ装置に関し、特に相関追尾を実施する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
道路を走行する車両をレーダ装置で観測する場合の簡易なレーダ方式としてFMCW方式が知られている(例えば、非特許文献1参照)。このFMCW方式のレーダ装置で車両を観測する場合、他車両や背景等といった複雑かつ多数の反射点が存在する環境で、目標車両を検出して相関追尾することになる。このような環境下において、アンテナビーム幅が広く、FMCW方式によるビート周波数軸の分解能が低い場合には、角度軸でも周波数軸でもメインローブの中に複数の反射点が存在し、振幅・位相によるベクトル合成により受信が乱れる。このため、目標を検出できなかったり、目標を検出できたとしても位置精度が低く、相関追尾によっても安定した位置が検知できないという問題がある。
【0003】
図11は、従来のレーダ装置の構成を示す系統図であり、図12は、このレーダ装置の動作を示すフローチャートである。このレーダ装置は、アンテナ10、送受信器20および信号処理器30を備えている。以下、このレーダ装置の動作を、追尾処理を中心に説明する。レーダ装置においては、まず、送受信データが入力される(ステップS101)。すなわち、送受信器20の内部の送信器21でスイープされた信号は、アンテナ送信素子11で電波に変換されて送信される。これに応じて、複数のアンテナ受信素子12で受信された信号は、複数のミキサ22によりそれぞれ周波数変換されて、信号処理器30に送られる。信号処理器30では、送受信器20からの信号がAD変換器31でデジタル信号に変換され、素子信号としてFFT(Fast Fourier Transform:高速フーリエ変換)部32に送られる。
【0004】
FFT部32は、AD変換器31から送られてくる素子信号を高速フーリエ変換して周波数軸上の信号に変換し、DBF(Digital Beam Forming:デジタルビーム形成)部33に送る。DBF部33は、FFT部32から送られてくる周波数軸の信号を用いて、ΣビームとΔビームを形成する。このDBF部33で形成されたΣビームは測距・測速部34に送られ、Δビームは測角部35に送られる。
【0005】
次いで、距離および速度が算出される(ステップS102)。すなわち、測距・測速部34は、DBF部33からのΣビームを用いて距離および速度を算出し、相関追尾部37に送る。次いで、角度が算出される(ステップS103)。すなわち、測角部35は、DBF部33から測距・測速部34を経由して送られてくるΣビームおよびDBF部33から送られてくるΔビームを用いて測角を行い、得られた角度を相関追尾部37に送る。次いで、相関追尾が行われる(ステップS104)。
【0006】
すなわち、相関追尾部37は、相関追尾処理を行って目標の位置および速度を算出し、外部に出力する。その後、サイクルが終了したかどうかが調べられる(ステップS105)。ステップS105において、サイクルが終了していないことが判断されると、次のサイクルを処理対象とするための処理が行われる(ステップS106)。その後、ステップS101に戻り、上述した処理が繰り返される。一方、ステップS105において、サイクルが終了したことが判断されると、このレーダ装置の追尾処理は終了する。
【0007】
ところで、上述した従来のレーダ装置において、レーダ反射点は、図13に示すように、移動している車両101の他、ガードレール102、路肩103および停止している車両104等に混在する。一般に、相関追尾においては、図14に示すように、平滑値から予測値を求め、この予測値と、NN(Nearest Neighbor)観測値とから新たな平滑値を求めて次の予測値を算出するという処理が行われる。しかし、これらは観測位置を元に実施されるため、背景の反射も含む多数の反射点の中で、車両目標を誤認して追尾する可能性があり、また、追尾可能目標数を超えるために、安定した相関追尾ができない場合がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】吉田孝監修、‘改訂レーダ技術’、電子情報通信学会、pp.274-275(1996)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来のレーダ装置では、上述したように、他車両や背景等の複雑かつ多数の反射点が存在する環境下において、アンテナビーム幅が広く、FMCW方式によるビート周波数軸の分解能が低い場合には、角度軸でも周波数軸でもメインローブの中に複数の反射点が存在し、振幅・位相によるベクトル合成により受信が乱れるため、目標を検出できなかったり、目標を検出できたとしても位置精度が低く、相関追尾によっても安定した位置を検知できないという問題がある。
【0010】
本発明の課題は、安定した相関追尾を実現できるレーダ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明は、FMCW方式のスイープ信号を送受信する送受信器と、前記送受信器からの信号に基づき算出された目標の速度によって該目標を速度範囲毎にグルーピングする速度グルーピング部と、前記速度グルーピング部によってグルーピングされた速度グループ毎に相関追尾を行う相関追尾部を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、複雑な背景下においても、目標の観測位置精度を高めて、安定した相関追尾を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施例1に係るレーダ装置の構成を示す系統図である。
【図2】本発明の実施例1に係るレーダ装置で行われる相関追尾処理を示すフローチャートである。
【図3】本発明の実施例1に係るレーダ装置で行われる自速度抽出を説明するための図である。
【図4】本発明の実施例1に係るレーダ装置で行われる速度グルーピングを説明するための図である。
【図5】本発明の実施例1に係るレーダ装置で行われるハフ変換を説明するための図である。
【図6】本発明の実施例1に係るレーダ装置で行われるハフ変換を説明するための図である。
【図7】本発明の実施例1に係るレーダ装置で行われるハフ変換を説明するための図である。
【図8】本発明の実施例1に係るレーダ装置で行われるハフ変換を説明するための図である。
【図9】本発明の実施例1に係るレーダ装置で行われるハフ変換を説明するための図である。
【図10】本発明の実施例1に係るレーダ装置で行われる相関追尾を説明するための図である。
【図11】従来のレーダ装置の構成を示す系統図である。
【図12】従来のレーダ装置で行われる相関追尾処理を示すフローチャートである。
【図13】従来のレーダ装置の問題点を説明するための図である。
【図14】従来のレーダ装置の問題点を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。
【実施例1】
【0015】
図1は、本発明の実施例1に係るレーダ装置の構成を示す系統図である。このレーダ装置は、アンテナ10、送受信器20および信号処理器30を備えている。
【0016】
アンテナ10は、アンテナ送信素子11と複数のアンテナ受信素子12とから構成されている。アンテナ送信素子11は、送受信器20から電気信号として送られてくる送信信号を電波に変換して外部に送出する。複数のアンテナ受信素子12は、外部からの電波を受信して電気信号に変換し、受信信号として送受信器20に送る。
【0017】
送受信器20は、送信器21と複数のミキサ22を備えており、複数のミキサ22は、複数のアンテナ受信素子12にそれぞれ対応して設けられている。一般的なアップチャープとダウンチャープ送信信号を用いたFMCW方式の場合は、送信器21でスイープした送信信号を生成し、アンテナ送信素子11および複数のミキサ22に送る。複数のミキサ22は、複数のアンテナ受信素子12からそれぞれ受け取った受信信号を、送信器21からの信号に応じて周波数変換し、信号処理器30に送る。
【0018】
信号処理器30は、AD変換器31、FFT部32、DBF部33、測距・測速部34、測角部35、速度グルーピング部36および相関追尾部37を備えている。
【0019】
AD変換器31は、送受信器20から送られてくるアナログ信号をデジタル信号に変換し、素子信号としてFFT部32に送る。FFT部32は、AD変換器31から送られてくる素子信号を高速フーリエ変換により周波数軸上の信号に変換し、DBF部33に送る。
【0020】
DBF部33は、FFT部32から送られてくる周波数軸上の信号を用いて、ΣビームとΔビームを形成する。このDBF部33で形成されたΣビームは測距・測速部34に送られ、Δビームは測角部35に送られる。
【0021】
測距・測速部34は、DBF部33から送られてくるΣビームに基づき測距および測速を行う。この測距・測速部34における測距および測速により得られた距離および速度は、速度グルーピング部36に送られる。また、測距・測速部34は、DBF部33から送られてきたΣビームを測角部35に送る。
【0022】
測角部35は、測距・測速部34から送られてくるΣビームおよびDBF部33から送られてくるΔビームに基づき測角を行う。測角部35における測角により得られた角度は、速度グルーピング部36に送られる。
【0023】
速度グルーピング部36は、測距・測速部34から送られてくる距離および速度と、測角部35から送られてくる角度とに基づき、観測速度によって目標を分類し、グルーピングする。この速度グルーピング部36におけるグルーピングの結果は、相関追尾部37に送られる。
【0024】
相関追尾部37は、速度グルーピング部36から送られてくる処理結果に基づき相関追尾処理を実行する。相関追尾部37における処理により得られた位置および速度は、外部に送られる。
【0025】
次に、上記のように構成される本発明の実施例1に係るレーダ装置の動作を追尾処理を中心に、図2に示すフローチャートを参照しながら説明する。
【0026】
追尾処理では、まず、FMCW方式で送受信が行われ、送受信データが入力される(ステップS11)。すなわち、送受信器20の内部の送信器21でスイープされた信号は、アンテナ送信素子11で電波に変換されて送信される。これに応じて、複数のアンテナ受信素子12で受信された信号は、複数のミキサ22によりそれぞれ周波数変換されて、信号処理器30に送られる。信号処理器30では、送受信器20からの信号がAD変換器31でデジタル信号に変換され、素子信号としてFFT部32に送られる。
【0027】
FFT部32は、AD変換器31から送られてくる素子信号を高速フーリエ変換して周波数軸上の信号に変換し、DBF部33に送る。DBF部33は、FFT部32から送られてくる周波数軸の信号を用いて、ΣビームとΔビームを形成する。DBF部33で形成されたΣビームは測距・測速部34に送られ、Δビームは測角部35に送られる。
【0028】
次いで、距離および速度が算出される(ステップS12)。すなわち、測距・測速部34は、DBF部33からのΣビームに基づき測距および測速を行い、測距および測速により得られた距離および速度を、速度グルーピング部36に送る。
【0029】
次いで、角度が算出される(ステップS13)。すなわち、測角部35は、DBF部33から測距・測速部34を経由して送られてくるΣビームおよびDBF部33から送られてくるΔビームを用いて測角を行い、得られた角度を速度グルーピング部36に送る。
【0030】
次いで、速度が分類される(ステップS14)。すなわち、速度グルーピング部36は、測距・測速部34から送られてくる距離および速度と、測角部35から送られてくる角度とに基づき、観測速度によって目標を分類してグルーピングし、グルーピングの結果を相関追尾部37に送る。
【0031】
次いで、自速度抽出が行われる(ステップS15)。すなわち、速度グルーピング部36は、ステップS14で分類されたグループのうち、反射点が最も多いグループを自速度グループとする。
【0032】
次いで、極座標からXY座標への変換が行われる(ステップS16)。すなわち、速度グルーピング部36は、極座標(R、θ)として取得された観測速度データを、XYの直交座標に変換する。
【0033】
次いで、観測速度データのサイクル間累積が行われる(ステップS17)。すなわち、速度グルーピング部36は、観測速度データのサイクル間で、忘却係数を乗算して積分する。
【0034】
次いで、自速度グループであるかどうかが調べられる(ステップS18)。ステップS18において、そのグループが自速度グループでないことが判断されると、ステップS19〜S23の処理はスキップされて、ステップS24に進む。一方、ステップS18において、そのグループが自速度グループであることが判断されると、次いで、自速度グループのハフ変換による直線抽出が行われる(ステップS19)。すなわち、速度グルーピング部36は、ハフ変換により直線を抽出する。
【0035】
なお、ハフ変換については、例えば、『田村、‘コンピュータ画像処理’、Ohmsha、pp.204-206(2004)』に説明されている。
【0036】
次いで、サイクル間直線累積が行われる(ステップS20)。すなわち、速度グルーピング部36は、ステップS19で抽出した直線を、サイクル間で忘却係数を乗じて累積する。
【0037】
次いで、直線上の目標が削除される(ステップS21)。すなわち、速度グルーピング部36は、ステップS20で累積された結果が、所定のスレショルドを超えた場合に直線で有ると判定し、その直線付近の反射点を削除する。
【0038】
次いで、直線抽出が終了したかどうかが調べられる(ステップS22)。ステップS22において、直線抽出が終了していないことが判断されると、次いで、次の直線を処理対象とするための処理が行われる(ステップS23)。その後、ステップS19に戻って、上述した処理が繰り返される。
【0039】
一方、ステップS22において、直線抽出が終了したことが判断されると、次いで振幅極値が抽出される(ステップS24)。すなわち、速度グルーピング部36は、速度グループ毎に各グループ内で極値(極大値のこと)を算出する。
【0040】
次いで、重心演算が行われる(ステップS25)。すなわち、速度グルーピング部36は、ステップS24で算出した極値を中心に所定のゲート内の重心を算出し、相関追尾部37に送る。
【0041】
次いで、極値が終了したかどうかが調べられる(ステップS26)。ステップS26において、極値が終了していないことが判断されると、次いで、次の極値を処理対象とするための処理が行われる。その後、ステップS24に戻り、上述した処理が繰り返される。
【0042】
上記ステップS26において、極値が終了したことが判断されると、次いで、相関追尾が行われる(ステップS28)。すなわち、相関追尾部37は、速度グループ毎に算出された重心位置を用いて、予測位置に最も近い点を用いるNN(Nearest Neighbor)相関とα−β方式による追尾を行い、位置および速度ベクトルの平滑値および予測値を外部に出力する。なお、α−β方式については、『吉田孝監修、‘改訂レーダ技術’、電子情報通信学会、pp.264-267(1996)』に説明されている。
【0043】
次いで、全ての速度グループについて処理が終了したかどうかが調べられる(ステップS29)。ステップS29において、全ての速度グループについて処理が終了していないことが判断されると、処理対象を次の速度グループに変更するための処理が行われる(ステップS30)。その後、ステップS17に戻り、上述した処理が繰り返される。
【0044】
一方、ステップS29において、全ての速度グループについて処理が終了したことが判断されると、次いで、サイクルが終了したかどうかが調べられる(ステップS31)。ステップS31において、サイクルが終了していないことが判断されると、次のサイクルを処理対象とするための処理が行われる(ステップS32)。その後、ステップS11に戻り、上述した処理が繰り返される。一方、ステップS31において、サイクルが終了したことが判断されると、追尾処理は終了する。
【0045】
次に、本発明の理解を深めるために、上述した手順のうち、主要な手順の細部の処理について説明する。極座標を直交座標に変換する処理(ステップS16)では、図6に示すような極座標(R、θ)が、次式により、XY座標に変換される。
【数1】

【0046】
ここで、
R ;距離
θ ;アジマス測角値
X、Yの2次元で表現すると、観測(位置)ベクトルyと、平滑または予測のベクトルx(位置、速度)は、次式で表現できる。
【数2】

【0047】
ここで、
添字の1,2 ;それぞれX,Y成分を表す。
【0048】
x ;位置
v ;速度
次に、上記ステップS14で行われる速度分類の処理、つまり、観測速度を用いて、各反射点の位置、速度、振幅強度をグルーピングする方法を、図4を参照しながら説明する。グルーピングの手法としては、サイクル毎に、速度範囲を所定数に分割した速度グループ毎に、サイクル間で忘却係数により加算した結果を用いて、振幅強度の極大点の周りのゲート内の点の重心演算を実施する。
【0049】
いま、目標が移動している場合を考える。処理対象とする検出信号は、(A、X、Y、V)(振幅強度、X軸位置、Y軸位置、ラジアル速度)の情報を含んでいる。まず、速度で分類し、さらに図3に示すように、速度グループ毎にヒストグラムh1,h2,h3を算出し、度数が最も多い速度グループGr#2を背景とすると、自速度グループ以外と自速度グループGr#2に分類できる。自速度グループについては、背景等の固定目標(ガードレール等)L1,L2と静止している車両S1,S2とを区別するために、まず、ステップS19に示すように、ハフ変換を利用して、ガードレールL1や路肩L2等の直線状の反射点(●部分)を抽出する。
【0050】
ここで、一般的なハフ変換について説明する。ハフ変換は、画像の中から直線を抽出する方法である。X−Y平面上の直線を極座標で表現すると、図7に示すように、次式となる。
【数3】

【0051】
上記(3)式により、直線とρ、θとは一意に対応する。次に、図8に示すように、直線上の3点A、BおよびCを考える。各点を通り、角度θを順に変化させた場合の曲線をρ−θ軸で表現すると、図9に示すようになる。3本の曲線は、ある点で交わるが、この点P(ρ0、θ0)が、X−Y軸における共通の直線を表している。以上の原理をもとに、ハフ変換の手順をまとめると次の通りである。
【0052】
(1)ρ−θ軸上の数値を格納するマトリクスを確保する。
【0053】
(2)X−Y軸上の観測値を中心に、θをΔθ毎に変化させながら、ρ−θ軸上のρを算出し、対応するマトリクスの行、列に1を加える。この手順(2)を全ての観測値に対して繰り返す。
【0054】
(3)マトリクスの中で、極大点となる(ρq、θq)(q=1〜Q)を抽出する。
【0055】
以上の手順により、(ρq、θq)により、Q本の直線を抽出できる。ところで、ハフ変換は、数点で直線を抽出するため、直線を誤検出する場合がある。この対策のために、図5に示すように、サイクル毎にハフ変換して得た直線をサイクル間で累積し(ステップS20)、これらの中から所定のスレショルドを超えた直線を抽出する。そして、ハフ変換で抽出した直線の周りの点を削除する(ステップS21)ことにより、ガードレールL1等の近くに静止した車両S2等の重心位置を抽出できる。
【0056】
次に、ステップS25で行われる速度グループ毎の重心演算を説明する。この重心演算の細部の手順は次の通りである。
【0057】
(1)速度で分類した各信号の強度を用いて、上から順にM個の目標を抽出する。
【0058】
(2)M個の目標の相対距離(2乗距離)ΔR2を次式により算出し、下限リミットRL2以上の目標をc個抽出する。
【数4】

【0059】
ここで、
ΔR2 ;2乗距離
Xi、Yi ; 目標iの位置(i=1〜N)
上記(1)および(2)を繰り返して、Mc個の目標を抽出する。
【0060】
(3)抽出したMc個の位置を中心に、ゲートサイズGの範囲の信号について、次式により重心演算を実施する。
【数5】

【0061】
ここで、
Xc(m)、Yc(m) ;重心位置(m=1〜Mc)
A(m,n) ;信号強度(m=1〜Mc、n=1〜Ng)
m ;抽出した極値の番号
n ;ゲート内の信号の番号
次に、ステップS28で行われる相関追尾(NN相関、α−β追尾方式)について説明する。簡単のために、1次元(X軸またはY軸のみ)で表現する。
【0062】
観測(位置)ベクトルをy、
【数6】

【0063】
ここで、
yr(k,j) ;観測k回目、観測(位置)ベクトルj個目の残差ベクトル
y(k,j) ;観測k回目のj個目の観測(位置)ベクトル
yr(k) ;観測k回目の2乗誤差が最小となる残差ベクトル
xs(k) ;観測k回目の平滑ベクトル
xp(k) ;観測k回目の予測ベクトル(k−1回目までのデータを使用)
H ;観測マトリクス H=[1 0]
【数7】

【0064】
argmin[f(X)] ; 関数f(X)が最小となるXを出力
T ;転置
図10は、相関追尾を説明するための図である。初期値は、yr(1)=0、xp(1,j)=

【0065】
とする。初期値で検出目標が多数ある場合(jが複数)には、S/Nの高い目標から順にM個までを、相関追尾の対象とする。
【0066】
以上説明したように、本発明の実施例1に係るレーダ装置によれば、FMCW方式により距離と同時に速度を観測できるため、速度毎に分類することにより、近接した目標の場合であっても、速度が異なる場合には、安定した追尾を行うことができる。
【0067】
また、グルーピングした目標に対して、極値の周りの重心演算を実施して、観測点を減らして相関追尾を行うことができるため、処理負荷が軽くなり、安定した追尾が可能となる。
【0068】
また、サイクル間の検出信号を積分することにより、信号が検出されなかった場合や、位置精度が悪い場合であっても、サイクル間の信号の重心演算により、重み付け平均化した位置により相関追尾できるため、安定した追尾が可能となる。
【0069】
また、ガードレールや路肩等の直線状の反射点の場合に、ハフ変換で抽出して除外することにより、路肩に停車している目標や低速の目標を抽出して相関追尾を行うことができる。
【0070】
なお、上述した実施例1に係るレーダ装置では、速度グループ毎に重心演算を実施するように構成したが、重心演算を実施せずに、相関追尾を行うように構成することもできる。
【0071】
また、反射点についてサイクル間で忘却係数を用いた積分を実施するように構成したが、積分しない(忘却係数0)ように構成することもできる。また、自速度グループのハフ変換を用いて直線抽出を行うように構成したが、直線抽出を行わない方法を採用することもできる。
【0072】
さらに、直線抽出のために、直線についてサイクル間で忘却係数を用いた積分を実施するように構成したが、積分しない(忘却係数0)ように構成することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明は、車両の速度を高精度に計測するレーダ装置に利用することができる。
【符号の説明】
【0074】
10 アンテナ
11 アンテナ送信素子
12 アンテナ受信素子
20 送受信器
21 送信器
22 ミキサ
30 信号処理器
31 AD変換器
32 FFT部
33 DBF部
34 測距・測測部
35 測角部
36 速度グルーピング部
37 相関追尾部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
FMCW方式のスイープ信号を送受信する送受信器と、
前記送受信器からの信号に基づき算出された目標の速度によって該目標を速度範囲毎にグルーピングする速度グルーピング部と、
前記速度グルーピング部によってグルーピングされた速度グループ毎に相関追尾を行う相関追尾部と、
を備えることを特徴とするレーダ装置。
【請求項2】
前記速度グルーピング部は、速度グループ毎に重心位置を算出する重心演算を行い、
前記相関追尾部は、前記速度グルーピング部により速度グループ毎に算出された重心位置を用いて、グルーピングされた目標に対して相関追尾を行うことを特徴とする請求項1記載のレーダ装置。
【請求項3】
前記速度グルーピング部は、サイクル間で忘却係数を用いて速度を積分し、
前記相関追尾部は、前記速度グルーピング部によって、サイクル間で忘却係数を用いて積分された結果を用いて、グルーピングされた目標に対して相関追尾を行うことを特徴とする請求項1または請求項2記載のレーダ装置。
【請求項4】
前記速度グルーピング部は、前記目標からの反射点が最も多い速度グループを自速度グループとして抽出し、抽出した自速度グループにおいて、ハフ変換により直線を抽出し、抽出した直線に忘却係数を乗じて累積した結果が所定のスレショルドを超えた位置の反射点を除いて重心演算を行うことを特徴とする請求項2または請求項3記載のレーダ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2010−271262(P2010−271262A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−125119(P2009−125119)
【出願日】平成21年5月25日(2009.5.25)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】