説明

レーダ装置

【課題】受信信号における偏波チャネル間のコヒーレンスが低下した場合であっても、低い演算負荷で高精度に目標を検出することができるレーダ装置を得る。
【解決手段】異なる偏波特性を有する2つのアンテナ4、5と、パルス信号をアンテナ4、5の一方に複数回連続して出力した後、他方に複数回連続して出力する偏波切り換え器2と、受信信号のドップラースペクトルを算出するドップラー処理手段10と、平均電力レンジ・ドップラーマップを生成する平均電力算出手段11と、平均全電力レンジ・ドップラーマップを生成する平均全電力算出手段12と、各注目セルの電力値を参照セルの平均電力で正規化するCFAR手段13と、電力値が閾値を超えるセルを検出する閾値処理手段14と、検出されたセルについての電力比を算出する電力比算出手段15と、電力比に基づいて、クラッタと目標との判別処理を実行する判別処理手段16とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、クラッタ環境下において移動小目標を検出するレーダ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
レーダを用いて移動小目標を検出するレーダ装置は、例えば、航空機やその他のプラットフォームに搭載され、上空から電波を送受信することによって地表面や海面付近の観測を行い、地表面や海面付近に存在する小目標を検出している。ここで、小目標とは、電波の反射強度が小さい目標のことを意味しており、その物理的な大きさが小さい目標とは限らない。
【0003】
航空機やその他のプラットフォームに搭載されたレーダ装置で地表面や海面付近を観測すると、一般的に地表面や海面から、それぞれグラウンドクラッタおよびシークラッタと呼ばれる強いエコー(以下、グラウンドクラッタおよびシークラッタのような背景からのエコーを単に「クラッタ」と総称する)が受信される。したがって、地表面や海面付近に存在する目標からのエコー(目標信号)を受信信号の中から検出するためには、あらかじめクラッタを抑圧することが必要となる。
【0004】
従来のレーダ装置におけるクラッタ抑圧方法としては、クラッタと目標信号とのドップラー周波数差を利用してクラッタを抑圧するMTI(Moving Target Indicator)と呼ばれる方法が知られている(例えば、非特許文献1参照)。
この方法は、小目標として車両や船舶のように移動するものを想定し、背景と目標との速度差に基づいてクラッタと目標信号とを判別して、クラッタを抑圧するものである。
【0005】
また、静止目標を検出する際に用いられるクラッタ抑圧方法としては、背景と目標との偏波特性の相違に着目してクラッタを抑圧する方法が知られている(例えば、非特許文献2参照)。
この方法は、例えば水平偏波(H偏波)および垂直偏波(V偏波)のように、互いに直交する2つの偏波の組み合わせで電波を送受信し、背景と目標との偏波特性を計測して、受信信号からクラッタの偏波特性に相当する成分を抑圧するものである。
【0006】
さらに、別のクラッタ抑圧方法としては、受信信号のドップラー周波数および偏波特性を解析して、受信信号からクラッタのドップラー周波数および偏波特性に相当する成分を抑圧する方法が知られている(例えば、非特許文献3参照)。
この方法は、偏波−時間信号内でアダプティブフィルタを生成して、クラッタを抑圧するものである。この方法によれば、移動目標を対象とするMTI等の方法と比較して、クラッタと目標信号との偏波特性の相違によってクラッタを抑圧することができる分、クラッタ抑圧性能および目標の検出性能が向上する。
【0007】
しかしながら、非特許文献3に記載のクラッタ抑圧方法では、目標の偏波特性に関する事前情報が必要になるとともに、演算量が非常に多くなるという問題があった。
そこで、非特許文献3に記載のクラッタ抑圧方法に関して、ドップラー処理によるクラッタ抑圧処理の後に、偏波信号処理によるクラッタ抑圧処理を実行することにより、行列演算に供する行列の次数を低減して、演算量を低減する技術が示されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−349477号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】M.I.Skolnik,“Introduction to Radar Systems”,Third Edition,McGraw−Hill,2008
【非特許文献2】L.M.Novak,M.C.Burl,W.W.Irving,“Optimal polarimetric processing for enhanced target detection”,IEEE Transactions on Aerospace and Electronic Systems,Vol.29,No.1,pp.234−244,Jan.1993
【非特許文献3】D.Pastina他“Adaptive Polarimetric Target Detection with Coherent Radar”,IEEE International Radar Conf.2000,pp.93−97
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、従来技術には、以下のような課題がある。
非特許文献1に記載のクラッタ抑圧方法では、地表面上で静止している車両や海面に浮遊している船舶等のように、目標信号のドップラー周波数がクラッタのドップラー周波数と一致する場合や、たとえ目標が移動していても、クラッタのドップラー周波数が広がって目標信号のドップラー周波数と重なっているような場合には、目標信号も抑圧されるという問題がある。また、目標信号強度が非常に小さい場合には、クラッタを抑圧しても目標信号を十分に検出できない恐れがあるという問題もある。
【0011】
また、非特許文献2に記載のクラッタ抑圧方法では、背景と目標との偏波特性が一致する場合や、偏波特性の相違が小さい場合には、クラッタを抑圧しても目標信号を十分に検出できない恐れがあるという問題がある。
【0012】
また、特許文献2〜4に記載のクラッタ抑圧方法は、何れも背景と目標との偏波特性の相違に基づいてクラッタを抑圧しているが、何れも対象の偏波特性に関して位相情報まで取得することを前提として信号処理アルゴリズムが構築されている。なお、対象の偏波特性を計測するためには、例えば水平偏波および垂直偏波のように、互いに異なる2種類以上の偏波状態の信号を送信する必要がある。
【0013】
したがって、パルスドップラーレーダに偏波特性を計測する機能(ポラリメトリ)を付加するためには、1パルス毎に異なる偏波状態の送信パルスを送信する必要があり、1偏波チャネルあたりのパルス繰り返し周期(PRF:Pulse Repetition Frequency)が低下するという問題があった。
【0014】
ここで、1コヒーレント処理時間(CPI:Coherent Processing Interval)の間は同じ偏波状態の送信パルスを連続して送信し、次のCPIに入るときに偏波状態を変えて送信パルスを送信することにより、1偏波チャネルあたりのPRFを確保することが考えられる。この場合には、PRFが低下しないので、高速移動目標への対処性能が向上する。
【0015】
しかしながら、海面や移動目標等は、CPIの間に状態が変化する(背景や目標の状態が時変である)ので、CPI毎に送信パルスの偏波状態を変化させて送信する場合には、受信信号における偏波チャネル間のコヒーレンスが低下するという問題がある。
【0016】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、受信信号における偏波チャネル間のコヒーレンスが低下した場合であっても、低い演算負荷で高精度に目標を検出することができるレーダ装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
この発明に係るレーダ装置は、互いに異なる偏波特性を有し、発振器で生成されたパルス信号を空間に放射するとともに、観測対象で散乱された散乱波を受信信号として受信する2つのアンテナと、発振器とアンテナとの間に設けられ、パルス信号を、アンテナの一方に複数回連続して出力した後、アンテナの他方に複数回連続して出力する偏波切り換え器と、各レンジセルについて受信信号をFFT処理することにより、レンジセル毎のドップラースペクトルを算出するドップラー処理手段と、各偏波チャネルについて、複数フレーム分のレンジ・ドップラーマップの平均電力を算出して、平均電力レンジ・ドップラーマップを生成する平均電力算出手段と、各分解能セルについて、平均電力レンジ・ドップラーマップの総和を算出して、平均全電力レンジ・ドップラーマップを生成する平均全電力算出手段と、平均全電力レンジ・ドップラーマップに対して、各注目セルの電力値を、それぞれに対応する参照セルの平均電力で正規化するCFAR手段と、参照セルの平均電力で正規化された電力値を、あらかじめ設定された閾値と比較することにより、閾値を超える電力値を有するセルを検出する閾値処理手段と、閾値処理手段で検出されたセルについて、交差偏波対VV偏波電力比およびHH偏波対VV偏波電力比を算出する電力比算出手段と、交差偏波対VV偏波電力比およびHH偏波対VV偏波電力比に基づいて、クラッタと目標との判別処理を実行する判別処理手段とを備えたものである。
【発明の効果】
【0018】
この発明に係るレーダ装置によれば、互いに異なる偏波特性を有する2つのアンテナは、偏波切り換え器の制御により、CPI毎に偏波状態を変化させて送信パルスを空間に放射する。これにより、1偏波チャネルあたりのPRFが低下しないので、高速移動目標への対処性能を向上させることができる。
また、背景や目標の状態が時変であると、受信信号における偏波チャネル間のコヒーレンスが低下するが、判別処理手段は、偏波チャネル間の電力比のみを用いてクラッタと目標信号とを判別する。
そのため、受信信号における偏波チャネル間のコヒーレンスが低下した場合であっても、低い演算負荷で高精度に目標を検出することができるレーダ装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】この発明の実施の形態1に係るレーダ装置を示すブロック構成図である。
【図2】この発明の実施の形態1に係るレーダ装置における水平偏波アンテナおよび垂直偏波アンテナの各時刻の動作モードを示すタイミングチャートである。
【図3】従来のレーダ装置における水平偏波アンテナおよび垂直偏波アンテナの各時刻の動作モードを示すタイミングチャートである。
【図4】この発明の実施の形態1に係るレーダ装置の動作を示す説明図である。
【図5】この発明の実施の形態2に係るレーダ装置における水平偏波アンテナおよび垂直偏波アンテナの各時刻の動作モードを示すタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、この発明のレーダ装置の好適な実施の形態につき図面を用いて説明するが、各図において同一、または相当する部分については、同一符号を付して説明する。
【0021】
実施の形態1.
図1は、この発明の実施の形態1に係るレーダ装置を示すブロック構成図である。
図1において、このレーダ装置は、発振器1、偏波切り換え器2、送受切り換え器3a、3b、水平偏波アンテナ4、垂直偏波アンテナ5、水平偏波受信機6、垂直偏波受信機7、メモリ8および小目標検出手段9を備えている。
【0022】
発振器1は、偏波切り換え器2と送受切り換え器3a、3bのそれぞれとを介して、水平偏波アンテナ4および垂直偏波アンテナ5と接続されている。また、水平偏波アンテナ4および垂直偏波アンテナ5は、それぞれ送受切り換え器3a、3bを介して、水平偏波受信機6および垂直偏波受信機7と接続されている。水平偏波受信機6および垂直偏波受信機7はメモリ8と接続され、メモリ8は小目標検出手段9と接続されている。
【0023】
小目標検出手段9は、ドップラー処理(FFT:Fast Fourier Transform)手段10、平均電力算出手段11、平均全電力算出手段12、CFAR(Constant False Alarm Rate)手段13、閾値処理手段14、交差偏波対VV偏波電力比・HH偏波対VV偏波電力比算出手段15および判別処理手段16を有している。
【0024】
ここで、小目標検出手段9は、CPUとプログラムを格納した記憶手段とを有するマイクロプロセッサ(図示せず)で構成されており、小目標検出手段9を構成する各ブロックは、記憶手段にソフトウェアとして記憶されている。
また、交差偏波対VV偏波電力比・HH偏波対VV偏波電力比算出手段15を、以下「電力比算出手段15」と略称する。
【0025】
続いて、この発明の実施の形態1に係るレーダ装置の動作について説明する。
発振器1は、パルス信号を生成して、偏波切り換え器2に出力する。偏波切り換え器2は、発振器1からのパルス信号をまず送受切り換え器3aに出力する。送受切り換え器3aは、偏波切り換え器2からのパルス信号を水平偏波アンテナ4に出力する。水平偏波アンテナ4は、送受切り換え器3aからのパルス信号を空間に放射する。
【0026】
空間に放射されたパルス信号は、観測対象によって散乱される。水平偏波アンテナ4および垂直偏波アンテナ5は、それぞれ観測対象によって散乱された散乱波を受信し、送受切り換え器3a、3bに出力する。送受切り換え器3a、3bは、それぞれ水平偏波アンテナ4および垂直偏波アンテナ5からの散乱波を水平偏波受信機6および垂直偏波受信機7に出力する。
【0027】
水平偏波受信機6および垂直偏波受信機7は、それぞれ水平偏波アンテナ4および垂直偏波アンテナ5で受信した散乱波の受信信号に対して、位相検波処理およびA/D変化処理を実行し、受信信号の振幅および位相を示すデジタル受信信号をメモリ8に出力する。
そして、上述したパルス信号の送受信をN回繰り返す。このN回の送受信に要する時間を1CPI(コヒーレント処理時間)に相当する。
【0028】
次に、発振器1は、再びパルス信号を生成して、偏波切り換え器2に出力する。偏波切り換え器2は、発振器1からのパルス信号を今度は送受切り換え器3bに出力する。送受切り換え器3bは、偏波切り換え器2からのパルス信号を垂直偏波アンテナ5に出力する。垂直偏波アンテナ5は、送受切り換え器3bからのパルス信号を空間に放射する。
【0029】
水平偏波アンテナ4および垂直偏波アンテナ5は、それぞれ観測対象によって散乱された散乱波を受信し、送受切り換え器3a、3bを介して散乱波を水平偏波受信機6および垂直偏波受信機7に出力する。水平偏波受信機6および垂直偏波受信機7は、それぞれ受信した散乱波の受信信号に対して、位相検波処理およびA/D変化処理を実行し、デジタル受信信号をメモリ8に出力する。
【0030】
2CPI(2回のCPI)の観測により、水平偏波アンテナ4および垂直偏波アンテナ5を用いた4通りの送受信偏波の組み合わせを観測することができる。具体的には、水平偏波送信・水平偏波受信(HH)、水平偏波送信・垂直偏波受信(HV)、垂直偏波送信・水平偏波受信(VH)および垂直偏波送信・垂直偏波受信(VV)の4通りを観測することができる。ここで、2回のCPIの組を「フレーム」と称する。
【0031】
図2は、この発明の実施の形態1に係るレーダ装置における水平偏波アンテナ4および垂直偏波アンテナ5の各時刻の動作モードを示すタイミングチャートである。
図2に示されるように、1CPIの間は、水平偏波アンテナ4および垂直偏波アンテナ5の何れか一方のみによってパルス信号が空間に放射される。また、観測対象で散乱された散乱波は、水平偏波アンテナ4および垂直偏波アンテナ5によって同時に受信される。
すなわち、同じ偏波状態の送信パルスを連続して送信するので、1偏波チャネルあたりのPRFが低下することはない。
【0032】
図3は、上述した特許文献1に記載のレーダ装置における水平偏波アンテナおよび垂直偏波アンテナの各時刻の動作モードを示すタイミングチャートである。
図3に示されるように、従来のレーダ装置では、水平偏波アンテナおよび垂直偏波アンテナから交互にパルス信号が空間に放射される。この場合には、例えば水平偏波アンテナ4から送信され、水平偏波アンテナ4で受信されたパルス信号は、1パルスおきにしか観測されない。
したがって、水平偏波送信・水平偏波受信(HH)の偏波チャネルについてみると、1偏波チャネルあたりのPRFは、実際のパルス送受信の周波数の半分に低下している。
【0033】
図1に戻って、メモリ8は、水平偏波受信機6および垂直偏波受信機7から出力されたデジタル受信信号をいったん格納し、格納したデジタル受信信号を小目標検出手段9に出力する。小目標検出手段9は、ドップラー処理や偏波信号処理により小目標を検出する。
【0034】
ここで、小目標検出手段9の各手段の動作を説明する前に、小目標検出手段9に入力される信号について定義する。
まず、パルス毎にレンジプロフィールが観測されるものとし、このときのレンジセル数をMとする。1パルスの信号を送信するたびに、水平偏波アンテナ4および垂直偏波アンテナ5が信号を受信するので、1パルス毎に合計でMレンジセル×2偏波チャネル分の信号が観測される。また、1CPIの間にパルス信号の送受信がN回繰り返されるので、1CPIの間には、Mレンジセル×2偏波チャネル×Nヒット分の信号が観測される。さらに、1フレームは2回のCPIを含むので、4偏波チャネル分の信号が観測される。
【0035】
すなわち、1フレームの間には、Mレンジセル×2偏波チャネル×Nヒット分の信号が観測される。この観測をKフレーム繰り返すことにより、Mレンジセル×2偏波チャネル×Nヒット×Kフレーム分の信号が観測される。小目標検出手段9には、このMレンジセル×2偏波チャネル×Nヒット×Kフレーム分の信号が入力される。
【0036】
以下、小目標検出手段9の各手段の動作について詳細に説明する。
ドップラー処理(FFT)手段10は、各レンジセルについて1CPI(Nヒット)分の信号をFFT処理することにより、レンジセル毎にドップラースペクトルを得る。ドップラー処理の結果、M×Nのレンジ・ドップラーマップが4K(4偏波チャネル、Kフレーム分)枚生成され、ドップラー処理(FFT)手段10は、このレンジ・ドップラーマップを平均電力算出手段11に出力する。
【0037】
平均電力算出手段11は、各偏波チャネルについて、Kフレーム分のレンジ・ドップラーマップの平均電力を算出する。すなわち、平均電力算出手段11は、M×Nの平均電力レンジ・ドップラーマップを4(4偏波チャネル分)枚生成し、平均全電力算出手段12および電力比算出手段15に出力する。
【0038】
平均全電力算出手段12は、各分解能セルについて、4偏波チャネル分の平均電力レンジ・ドップラーマップの総和を算出して、全電力のレンジ・ドップラーマップを生成し、CFAR手段13に出力する。なお、ここでは、4偏波チャネルの電力の総和を「全電力」と称する。また、平均全電力算出手段12からの出力は、M×Nの平均全電力レンジ・ドップラーマップ1枚となる。
【0039】
CFAR手段13は、平均全電力算出手段12からの平均全電力レンジ・ドップラーマップに対してCFAR処理を適用する。なお、CFAR処理は、例えば「レーダ技術(電子情報通信学会)」等に記載されている公知の技術である。また、図1において、CFAR処理とは、注目セルの電力値を参照セルの平均電力で正規化する処理を指している。
【0040】
CFAR処理における注目セル、ガードセル、参照セルの設定方法を図4に示す。
図4において、ガードセルおよび参照セルの数は、システムに応じた最適な値が設定される。また、図4では、Cell Average Linear CFAR処理を基礎としているが、CFAR処理のタイプはこのものに限定されず、例えばLog CFAR処理等を適用してもよい。
CFAR処理の結果、M×Nの平均全電力レンジ・ドップラーマップの各サンプル(各注目セル)の電力値を、それぞれに対応する参照セルの平均電力で正規化した電力値が得られ、CFAR手段13は、この正規化された電力値を閾値処理手段14に出力する。
【0041】
閾値処理手段14は、参照セルの平均電力で正規化された電力値を、あらかじめ設定された閾値と比較し、閾値を超える電力値を有するセルを検出する。比較処理の結果、M×Nのレンジ・ドップラーマップの各セルについての検出の有無を示す2値マップが生成され、閾値処理手段14は、この2値マップを電力比算出手段15に出力する。
【0042】
なお、ここでは、小目標の検出を可能にするために、閾値は低めに設定されている。閾値を低めに設定すると、目標の検出確率は向上するものの、同時にクラッタを誤って検出する誤検出確率も上昇する。そこで、以下に示す対象の偏波特性を用いた処理により、クラッタと目標信号とを判別する。
【0043】
電力比算出手段15は、閾値処理手段14で検出されたセルについて、交差偏波対VV偏波電力比およびHH偏波対VV偏波電力比を算出し、判別処理手段16に出力する。具体的には、電力比算出手段15は、平均電力算出手段11で生成された4枚の平均電力レンジ・ドップラーマップと、閾値処理手段14で生成された2値マップとを用いて、VV偏波電力で他の偏波チャネルの電力を正規化する。
【0044】
判別処理手段16は、交差偏波対VV偏波電力比およびHH偏波対VV偏波電力比に基づいて、クラッタと目標信号との判別処理を実行する。判別用の閾値は、実験や計算機シミュレーションにより、事前に決定しておくものとする。なお、判別用の閾値は、想定される背景と目標との偏波特性に応じて選択できるように、複数用意されていてもよい。
【0045】
上述したように、CPI毎に送信パルスの偏波状態を変化させて送信する場合には、偏波チャネル間のコヒーレンスが低下しているので、位相の情報が判別に寄与することをほとんど期待することができない。そこで、判別処理手段16において、偏波チャネル間の電力比のみを用いてクラッタと目標信号とを判別する点に特徴がある。これにより、特許文献1のものと比較しても、演算量を大幅に低減することができる。
【0046】
以上のように、実施の形態1によれば、ポラリメトリ機能を有するパルスドップラーレーダにおいて、互いに異なる偏波特性を有する2つのアンテナは、偏波切り換え器の制御により、CPI毎に偏波状態を変化させて送信パルスを空間に放射する。これにより、1偏波チャネルあたりのPRFが低下しないので、高速移動目標への対処性能を向上させることができる。
また、背景や目標の状態が時変であると、受信信号における偏波チャネル間のコヒーレンスが低下するが、判別処理手段は、偏波チャネル間の位相差の情報を用いることなく、偏波チャネル間の電力比のみを用いてクラッタと目標信号とを判別する。
そのため、受信信号における偏波チャネル間のコヒーレンスが低下した場合であっても、低い演算負荷で高精度に目標を検出することができるレーダ装置を得ることができる。
【0047】
なお、上記実施の形態1では、水平偏波と垂直偏波との組み合わせを例に挙げて説明したが、これに限定されず、任意の2偏波(第1偏波および第2偏波)を組み合わせてもよい。2偏波の組み合わせとしては、例えば左旋円偏波と右旋円偏波との組み合わせ等を挙げることができる。また、実装上、水平偏波アンテナおよび垂直偏波アンテナを用いて、両アンテナ間の給電位相差を90度進める、または90度遅らせる等の方法により、左旋円偏波および右旋円偏波を送信してもよい。
【0048】
実施の形態2.
上記実施の形態1では、2回のCPI(1フレーム)の観測により、水平偏波アンテナ4および垂直偏波アンテナ5を用いた4通りの送受信偏波の組み合わせ(偏波チャネル)を観測することができると説明した。しかしながら、これに限定されず、さらに別の偏波チャネルを観測してクラッタと目標信号とを判別してもよい。
以下、6チャネル分の偏波チャネルを観測して、クラッタと目標信号とを判別する処理について説明する。なお、この発明の実施の形態2に係るレーダ装置を示すブロック構成図は、図1に示したものとほぼ同様なので、図示を省略する。
【0049】
図5は、この発明の実施の形態1に係るレーダ装置における水平偏波アンテナ4および垂直偏波アンテナ5の各時刻の動作モードを示すタイミングチャートである。
図5において、1フレームは、3回のCPIの組から構成されている。また、1つめおよび2つめのCPIでは、実施の形態1と同様に、それぞれ水平偏波アンテナ4および垂直偏波アンテナ5の何れか一方のみによってパルス信号が空間に放射される。
【0050】
ここで、3つめのCPIでは、水平偏波アンテナ4および垂直偏波アンテナ5の両方から同時にパルス信号が空間に放射されている。このとき、偏波切り換え器2は、発振器1からのパルス信号を送受切り換え器3a、3bの両方に出力している。なお、ここでは、水平偏波アンテナ4および垂直偏波アンテナ5から放射されるパルス信号の位相を90度ずらすことにより、等価的に円偏波を送信しているものとする。
【0051】
これにより、観測される偏波チャネルは、実施の形態1で示した4つ(水平偏波送信・水平偏波受信(HH)、水平偏波送信・垂直偏波受信(HV)、垂直偏波送信・水平偏波受信(VH)および垂直偏波送信・垂直偏波受信(VV))に、円偏波送信・水平偏波受信(CH)と円偏波送信・垂直偏波受信(CV)とを加えた6チャネルとなる。
【0052】
さらに、上記実施の形態1において、判別処理手段16は、交差偏波対VV偏波電力比およびHH偏波対VV偏波電力比に基づいて、クラッタと目標信号との判別処理を実行したが、この発明の実施の形態2に係るレーダ装置では、これに加えて、CH偏波対VV偏波電力比およびCV偏波対VV偏波電力比を用いることができる。
そこで、この発明の実施の形態2に係るレーダ装置では、図1に示した電力比算出手段(交差偏波対VV偏波電力比・HH偏波対VV偏波電力比算出手段)15に代えて、交差偏波対VV偏波電力比・HH偏波対VV偏波電力比・CH偏波対VV偏波電力比・CV偏波対VV偏波電力比算出手段(図示せず)を有している。
【0053】
以上のように、実施の形態2によれば、互いに異なる偏波特性を有する2つのアンテナは、偏波切り換え器の制御により、3回のCPIにおいて、互いに異なる偏波状態で送信パルスを空間に放射する。これにより、6チャネル分の偏波チャネルが観測される。
また、判別処理手段は、6チャネル分の偏波チャネルの電力比に基づいて、クラッタと目標信号とを判別する。
そのため、受信信号における偏波チャネル間のコヒーレンスが低下した場合において、より高精度に目標を検出することができる。
【0054】
なお、上記実施の形態2では、3つめのCPIにおいて、水平偏波アンテナ4および垂直偏波アンテナ5から放射されるパルス信号の位相を90度ずらすことにより、等価的に円偏波を送信すると説明した。しかしながら、これに限定されず、水平偏波アンテナ4および垂直偏波アンテナ5の位相をそろえて、45度直線偏波を送信してもよい。また、水平偏波アンテナ4および垂直偏波アンテナ5から放射されるパルス信号の振幅比や位相を任意に設定して、任意の偏波状態を送信してもよい。
【符号の説明】
【0055】
1 発振器、2 偏波切り換え器、3a、3b 送受切り換え器、4 水平偏波アンテナ、5 垂直偏波アンテナ、6 水平偏波受信機、7 垂直偏波受信機、8 メモリ、9 小目標検出手段、10 ドップラー処理手段、11 平均電力算出手段、12 平均全電力算出手段、13 CFAR手段、14 閾値処理手段、15 電力比算出手段、16 判別処理手段。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに異なる偏波特性を有し、発振器で生成されたパルス信号を空間に放射するとともに、観測対象で散乱された散乱波を受信信号として受信する2つのアンテナと、
前記発振器と前記アンテナとの間に設けられ、前記パルス信号を、前記アンテナの一方に複数回連続して出力した後、前記アンテナの他方に複数回連続して出力する偏波切り換え器と、
各レンジセルについて前記受信信号をFFT処理することにより、レンジセル毎のドップラースペクトルを算出するドップラー処理手段と、
各偏波チャネルについて、複数フレーム分の前記レンジ・ドップラーマップの平均電力を算出して、平均電力レンジ・ドップラーマップを生成する平均電力算出手段と、
各分解能セルについて、前記平均電力レンジ・ドップラーマップの総和を算出して、平均全電力レンジ・ドップラーマップを生成する平均全電力算出手段と、
前記平均全電力レンジ・ドップラーマップに対して、各注目セルの電力値を、それぞれに対応する参照セルの平均電力で正規化するCFAR手段と、
前記参照セルの平均電力で正規化された電力値を、あらかじめ設定された閾値と比較することにより、前記閾値を超える電力値を有するセルを検出する閾値処理手段と、
前記閾値処理手段で検出されたセルについて、交差偏波対VV偏波電力比およびHH偏波対VV偏波電力比を算出する電力比算出手段と、
前記交差偏波対VV偏波電力比および前記HH偏波対VV偏波電力比に基づいて、クラッタと目標との判別処理を実行する判別処理手段と、
を備えたことを特徴とするレーダ装置。
【請求項2】
前記偏波切り換え器は、前記パルス信号を、前記アンテナの一方に複数回連続して出力し、前記アンテナの他方に複数回連続して出力した後、前記アンテナの両方に同時に複数回連続して出力し、
前記判別処理手段は、6チャネル分の偏波チャネルの電力比に基づいて、前記判別処理を実行する
ことを特徴とする請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項3】
前記偏波切り換え器は、前記パルス信号を、前記アンテナの両方に同時に複数回連続して出力する際に、前記パルス信号の振幅比や位相を任意に設定して、任意の偏波状態を送信する
ことを特徴とする請求項2に記載のレーダ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−122839(P2011−122839A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−278428(P2009−278428)
【出願日】平成21年12月8日(2009.12.8)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】