レーダ
バックグラウンドノイズの強度によって第1のしきい値(TH1)を定め、ピーク(P1),(P2),(P3)の各裾野部分にピーク位置から所定の近傍周波数領域にしきい値(TH21),(TH22),(TH23)を設定し、各FFTビンでこれらのしきい値のうち値の高い方を最終的なしきい値として採用し、そのしきい値を超えるピークをターゲットピークと見なして検出する。これにより、ビート信号の周波数スペクトルに含まれている物標からの反射波に起因して生じるターゲットピークを確実に検出し、物標の探知精度を高める。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電波を用いて物標の探知を行う装置に関し、特に送信信号と受信信号のビート信号の周波数スペクトルを基に探知を行うレーダに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、車載用レーダとしてミリ波帯の電波を用いるFM−CW方式のレーダが開発されている。すなわち所定周波数を中心として所定周波数範囲でFM変調し、送信信号と受信信号とのビートをとり、そのビート信号の送信信号の周波数が上昇している間のビート周波数と送信信号の周波数が降下している間のビート周波数を同定することによって物標までの距離と物標との相対速度を求める。
【0003】
上記アップビート信号とダウンビート信号の同定を行うために、ビート信号の周波数スペクトルを求め、所定のしきい値を設定して信号成分とノイズ成分とを分離するようにしている。
【0004】
ところが、周波数スペクトルに現れるビート信号のピークは、様々な要因により変化するため、単純に一定のしきい値を定めただけでは信号とノイズの分離が上手くいかない。そのため、例えば探知物標である車両の車種を判別して、車種に応じたしきい値を設定するものが特許文献1に開示されている。
【0005】
また、後方の車両が自車の前方に急激に現れた際に周波数スペクトルの最大パワーが変化するのに応じて、その最大パワーを持つピークを基にしきい値を設定するものとして特許文献2が開示されている。
【0006】
また、物標までの距離に応じてピークが小さくなることに対応して、複数個のピークのパワーを基にしてしきい値を設定するものが特許文献3に開示されている。
【0007】
さらに高調波やスイッチング周波数などによって生じる虚像の周波数でしきい値を上げることによって虚像のピークを除去するものが特許文献4に開示されている。
【特許文献1】特開平6−214015号公報
【特許文献2】特開平7−311260号公報
【特許文献3】特開平4−318700号公報
【特許文献4】特開平11−344560号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に示されているレーダでは、車種の判別ができても実際の信号強度は状況に応じて変化するため、精度よくノイズを除去することができない。
【0009】
また特許文献2,3に示されているレーダでは、それぞれのピークに応じた値・周波数範囲にしきい値を設定しなければ、本来検出できる筈の小さな物標を見失うことになる。
【0010】
さらに特許文献4に示されているレーダでは、予め出現位置の想定できるノイズしか除去できないという問題があった。
【0011】
そこでこの発明の目的は、ビート信号の周波数スペクトルを基に、その周波数スペクトルに含まれている物標からの反射波に起因して生じるスペクトルピークをより確実に検出して物標の探知精度を高めたレーダを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この発明は、周波数変調した送信信号を送信し、該送信信号の物標からの反射信号の周波数と前記送信信号の周波数との差の周波数成分を含むビート信号を生成する手段と、該ビート信号の周波数スペクトルを求める手段と、該周波数スペクトルに現れるピークのピーク周波数を求める手段と、を備え、該ピーク周波数に基づいて物標の探知を行うようにしたレーダにおいて、
バックグラウンドノイズの強度または所定の反射断面積を持つ物標の反射信号強度に基づいて第1のしきい値を定め、周波数スペクトルに現れる第1のしきい値を超える複数のピークについて、それぞれのピークの強度に応じて、それぞれのピークの所定の近傍周波数領域に第2のしきい値を定め、該第2のしきい値を超えるピークを抽出する手段を備えたことを特徴としている。
【0013】
またこの発明は、前記第2のしきい値を、ビート信号に窓関数を掛けることにより生じるピークの周波数軸方向の拡がりに応じて裾野部分の所定帯域で値を高くしたことを特徴としている。
【0014】
またこの発明は、前記第2のしきい値を、送信信号を生成する発振器のC/N特性により生じるピークの周波数軸方向の拡がりに応じて所定帯域で値を高くしたことを特徴としている。
【0015】
またこの発明は、前記第2のしきい値を、ピークの強度に応じて、該ピークの周波数を中心として上下方向に向かって次第に低下するように定めたことを特徴としている。
【0016】
またこの発明は、前記第2のしきい値を、ビート信号に重畳されている変調成分によりピークとともに現れるサイドバンドの強度を上回るように定めたことを特徴としている。
【0017】
またこの発明は、前記ピークを抽出する手段が、第1のしきい値を超える複数のピークのうちピーク値の大きなものから順に第2のしきい値を定めるとともに、各ピークの第2のしきい値をすべて超えるピークを抽出することを特徴としている。
【発明の効果】
【0018】
ビート信号に窓関数を掛けると、周波数スペクトルに現れる信号成分に基づく突出部(以下単に「ピーク」と言う。)は、そのピークの周波数(以下「ピーク周波数」と言う。)を中心として周波数軸方向に拡がる。この発明によれば、バックグラウンドノイズの強度または所定の反射断面積を持つ物標の反射信号強度に基づいて第1のしきい値を定め、周波数スペクトルに現れる第1のしきい値を超える複数のピークについて、それぞれのピークの強度に応じて、それぞれのピーク近傍の周波数で値が高く、ピークから離れた周波数で値が低い第2のしきい値を定めたことにより、ピーク近傍の裾野部分のノイズを第2のしきい値で除去でき、またピークの現れていない周波数領域のノイズは第1のしきい値で除去できる。このようにして、物標からの反射波に起因してビート信号の周波数スペクトルに生じる本来のピーク(以下、「ターゲットピーク」という。)のみを正しく検出できるようになる。
【0019】
前記第2のしきい値として、ビート信号に窓関数を掛けることにより生じるピークの周波数軸方向の拡がりに応じて裾野部分の所定帯域で値を高くすれば、窓関数を掛けたことによる本来のピークの裾野部分にランダムノイズが重畳されることによって現れるピークを誤検出することがない。
【0020】
前記第2のしきい値として、送信信号を生成する発振器のC/N特性により生じるピークの周波数軸方向の拡がりに応じて所定帯域で値を高くすれば、窓関数を掛けたことによる本来のピークの裾野部分にランダムノイズが重畳されることによって現れるピークを誤検出することがない。
【0021】
前記第2のしきい値を、ピークの強度に応じて該ピークの周波数を中心として上下方向に向かって次第に低下するように定めれば、本来のピークに近接する周波数であるほど信号強度が高いという周波数スペクトルの形状に応じて、そこに重畳されるランダムノイズによって生じるピークを検出することなく本来のピークのみを確実に検出できるようになる。
【0022】
前記第2のしきい値として、ビート信号に重畳されている変調成分によりピークとともに現れるサイドバンドの強度を上回るように定めれば、本来のピークのサイドバンドをピークとして誤検出することがない。
【0023】
またこの発明によれば、第1のしきい値を超える複数のピークのうちピーク値の大きなものから順に第2のしきい値を定めるとともに、各ピークの第2のしきい値をすべて超えるピークを抽出することにより、少ない演算量で本来のピークを高速に検出できるようになり、物標探知速度が速まる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】第1の実施形態に係るレーダの構成を示すブロック図である。
【図2】同レーダの物標までの距離と物標の相対速度により変化する送信信号と受信信号の周波数変化の例を示す図である。
【図3】距離および相対速度の検知のための処理手順を示すフローチャートである。
【図4】窓関数の周波数スペクトルとピークの裾野部分の拡がりとの関係を示す図である。
【図5】バックグラウンドノイズとそれにより定めるしきい値との関係、および所定反射断面積を持つ物標の反射信号強度とそれを基に定めるしきい値との関係を示す図である。
【図6】ピーク近傍の裾野部分のノイズの重畳により生じるノイズピークの例を示す図である。
【図7】ピーク近傍の裾野部分に設定するしきい値の例を示す図である。
【図8】バックグラウンドノイズを基に定めたしきい値と、検出されるピークとの関係を示す図である。
【図9】最終的に定めるしきい値ラインの例を示す図である。
【図10】ピーク周波数検出の処理手順を示すフローチャートである。
【図11】第2の実施形態に係るレーダにおける発振器のC/N特性によりピーク近傍の裾野部分に生じるノイズピークの例を示す図である。
【図12】同レーダにおけるしきい値の設定例を示す図である。
【図13】第3の実施形態に係るレーダにおけるしきい値の設定例を示す図である。
【図14】第4の実施形態に係るレーダにおけるビート信号にAM変調成分が存在するときのスペクトルの例を示す図である。
【図15】同ビート信号に含まれるサイドバンドノイズに合わせて設定したしきい値の例を示す図である。
【符号の説明】
【0025】
17−DSP
ADC−ADコンバータ
DAC−DAコンバータ
VCO−電圧制御発振器
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
第1の実施形態に係るレーダの構成を図1〜図10を参照して順に説明する。
図1はレーダの全体の構成を示すブロック図である。送信波変調部16は、DAコンバータ14に対して変調信号のディジタルデータを順次出力する。VCO1は、DAコンバータ14より出力される制御電圧に応じて発振周波数を変化させる。これにより、VCO1の発振周波数を三角波状に連続してFM変調させる。アイソレータ2は、VCO1からの発振信号をカプラ3側へ伝送し、VCO1へ反射信号が入射するのを阻止する。カプラ3は、アイソレータ2を経由した信号をサーキュレータ4側へ伝送するとともに、所定の分配比で送信信号の一部をローカル信号Loとしてミキサ6へ与える。サーキュレータ4は、送信信号をアンテナ5側へ伝送し、また、アンテナ5からの受信信号をミキサ6へ与える。アンテナ5は、VCO1のFM変調された連続波の送信信号を送信し、同方向からの反射信号を受信する。また、そのビームの方向を探知角度範囲に亘って周期的に変化させる。
【0027】
ミキサー6は、カプラ3からのローカル信号Loとサーキュレータ4からの受信信号とをミキシングして中間周波信号IFを出力する。IF増幅回路7は、その中間周波信号を、距離によって定まる周波数に応じて所定の増幅度で増幅する。ADコンバータ8は、その電圧信号をサンプリングデータ列に変換してDSP17へ与える。DSP17は、ADコンバータ8により変換されたディジタルデータを少なくとも1スキャン分(所定の探知角度範囲内での複数本のビーム走査分)だけ一時蓄積し、後述する処理によって、アンテナを中心とする物標の方位、物標までの距離、およびアンテナに対する物標の相対速度を算出する。
【0028】
上記DSP17において、DC除去部9はADコンバータ8により求められたサンプリングデータ列のうち、後段のFFTの処理対象となる所定のサンプリング区間の平均値を求める。この平均値は、FFT(高速フーリエ変換)により求められる直流成分に等しいので、すべてのサンプリング区間のそれぞれのデータからその平均値を減じる演算処理を行うことにより、FFT演算処理の前に直流成分の除去を行う。
【0029】
窓関数処理部15は、DC除去部9により直流成分が除去されたデータについて、所定形状の窓関数を用いてデータの切り出しを行う。この窓関数による切り出しによって、時間波形を有限のサンプリング区間に切り出してFFT演算する際に生じるトランケーションによる誤差を抑える。例えばハニング窓・ハミング窓・ブラックマン=ハリス窓等の窓関数処理を行う。
【0030】
FFT演算部11は、窓関数をかけられた上記サンプリング区間のデータについて周波数成分を分析する。
【0031】
ピーク検出部12は、周波数スペクトルのうち所定のしきい値を超える強度の信号の周波数をピーク周波数として検出する。
【0032】
距離・速度算出部13は、検出されたピーク周波数から物標までの距離と相対速度を算出する。
【0033】
図2は、物標までの距離と相対速度に起因する、送信信号TXSと受信信号RXSの周波数変化のずれの例を示している。送信信号TXSは中心周波数foを周波数中心として、三角波状に周波数変調された信号である。この送信信号TXSの周波数上昇時における送信信号TXSと受信信号RXSとの周波数差がアップビートの周波数fBUであり、送信信号TXSの周波数下降時における送信信号TXSと受信信号RXSとの周波数差がダウンビートの周波数fBDである。この送信信号TXSと受信信号RXSの三角波の時間軸上のずれ(時間差)が、アンテナから物標までの電波の往復時間に相当する。また、送信信号TXSと受信信号RXSの周波数軸上のずれがドップラシフト量であり、これはアンテナに対する物標の相対速度に起因して生じる。この時間差とドップラシフト量によってアップビートfBUとダウンビートfBDの値が変化する。逆に、このアップビートとダウンビートの周波数を検出することによって、レーダから物標までの距離およびレーダに対する物標の相対速度を算出する。
【0034】
図3は、上記DSP17の処理手順を示すフローチャートである。まず、ADコンバータ8からデータを取り込み(S1)、ハニング窓の重み係数を掛け(S2)、FFT演算を行い(S3)、各離散周波数における実部と虚部の自乗和の対数をとることによってパワースペクトル(以下、単に「周波数スペクトル」という。)を算出する(S4)。
【0035】
続いて、その周波数スペクトルに現れている複数のピークを検出し、それらのピークのうちターゲットピークを抽出し、そのピーク周波数を求める(S5)。
【0036】
以上の処理は、送信周波数の上り変調区間と下り変調区間とについて順に行う。また、上り変調区間で抽出した複数の突出部のピーク周波数と、下り変調区間で抽出した複数の突出部のピーク周波数との組み合わせ(ペアリング)を行う(S6)。すなわち、同一物標に起因して生じた突出部のピーク周波数同士をペアリングする。そして、そのピーク周波数から物標の相対距離および相対速度を算出する(S7)。
【0037】
さて、ビート信号をFFT等の離散周波数スペクトルを求める際、切り出した信号のサンプルに対して窓関数を掛けることで信号の不連続性による影響を抑える。
図4は、窓関数を掛ける信号処理と、その結果の周波数スペクトルとの例を示す図である。ここで、(A)は前記DC除去を行ったデータ列を時間波形で示している。このデータ列に対して、(B)に示す所定の窓関数をかけることにより、(C)に示すように、一定データ数(例えば1024個のデータ)のデータ列を求める。この窓関数をかけたデータ列をFFT演算することにより、(D)に示すような離散周波数スペクトルを求める。
【0038】
図4の(D)において、丸印は各離散周波数での信号強度(パワー)である。また、実線は、図4の(B)に示した窓関数の連続スペクトルである。このように窓関数をかけたビート信号の周波数スペクトルは、ビート信号と窓関数の畳み込みとなるため、窓関数のスペクトルに応じてスペクトルが周波数軸方向に膨らみ、スペクトルに裾野部分ができる。
【0039】
図5は、ビート信号の周波数スペクトルからターゲットピークを抽出するためにしきい値を設定する2つの例を示している。図5の(A)はバックグラウンドノイズを基にしきい値を設定する場合であり、バックグラウンドノイズと、それを基にして設定したしきい値との関係を示している。このようにバックグラウンドノイズを基にしきい値を設定する場合、バックグラウンドノイズがしきい値を上回る確率が充分に小さくなるようにしきい値を定める。この確率はバックグラウンドノイズの平均値とその分散により定まる。図5の(A)においてBNはバックグラウンドノイズの瞬時値、BNmはバックグラウンドノイズの平均値、TH1はしきい値をそれぞれ示している。横軸は時刻(経過時間)、縦軸は信号強度である。
【0040】
図5の(B)は、所定の反射断面積を持つ物標の反射信号強度を基にしきい値を設定する場合であり、所定の反射断面積を持つ物標の反射信号強度と、それを基にして設定したしきい値について示している。ここで、横軸は物標までの距離[m]、縦軸はピーク値を0dBとする受信信号強度(対数メモリ)である。Sは10dBsm(レーダー反射断面積10m2 の物体からの反射信号強度を0としたときの受信信号強度)の信号強度の理論値であり、TH0はこの理論値より受信信号強度の時間的変動(シンチレーション)を考慮したレベルだけ下げたしきい値である。このように、遠方からの反射信号であるほど受信信号強度が低下するので、それに合わせてしきい値も変化させる。
【0041】
しかし、受信信号強度の高いターゲットピークの周囲では、そのピークの裾野部分がバックグラウンドノイズを基に定められた上記しきい値TH1または所定の反射断面積を持つターゲットの反射信号強度を基に設定された上記しきい値TH0を超えることがあり、これと、バックグラウンドノイズが混ざり合わさることにより、この部分にノイズに起因するピーク(以下「ノイズピーク」という。)が、信号に起因するピークとして誤って検出されることがある。
【0042】
そこで、まず、窓関数によるピークの拡がりと、バックグラウンドノイズの分散より想定されるノイズ強度の変動する上下幅を求める。この上下幅が、ピーク(突出部)検出の条件として定めた所定の強度変化の変化量を超えるような場合に、ノイズによる突出部がピークとして検出される場合が生じる。すなわち、窓関数を掛け合わせたことにより生じるターゲットピーク以外の各々のレンジビン(FFTの周波数分解能による各周波数レンジビン)において、或るレンジビンの強度が上記上下幅の上限値であり、且つその両側の隣接レンジビンの強度が上記上下幅の下限値であった場合、上記或るレンジビンは微小ながらもピークとして誤検出されてしまう。
【0043】
したがって、このような誤検出が生じ得る周波数レンジでは、窓関数によるピークの裾野部分の膨らみとノイズの強度との和の上限値を超えない強度のピークは、物標からの反射信号とは見なさないように処理する。
【0044】
このために、バックグラウンドノイズを基に定めたしきい値TH1とは別に、ノイズと窓関数スペクトルの和の上限値を上回る値にしきい値TH2を設定し、このいずれをも上回ったものを物標からの反射信号として検出する。
【0045】
周波数スペクトルの裾野の拡がり方は窓関数の種類によって異なる。また、周波数スペクトルのターゲットピーク位置がFFTレンジビンの位置に一致する場合とずれている場合(例えば、FFTの周波数分解能が1kHzのとき、1kHzの整数倍とならない周波数にビート周波数が存在するとき)とで、スペクトルの裾野の拡がり方に差があることに注意が必要である。これらのことを考慮して、ターゲットピーク位置とスペクトルの拡がりの関係により、最も裾野が拡がっている場合を基準として考える。
【0046】
図6は窓関数によるスペクトルの裾野の様子、特にこれにノイズが加わることによって生じるノイズピークの出現の様子について示している。
【0047】
図6の(A)は窓関数によるピーク近傍の裾野部分の拡がりの形状を示している。また(B)はこの窓関数によるピーク近傍の裾野部分の拡がりとノイズとの合成により現れたスペクトルを示している。これらの図においてバツ印を付したスペクトルSP0は周波数スペクトルのターゲットピーク位置がFFTレンジビンの位置に一致している場合、SP1はそれが半レンジ分ずれている場合について示している。Pはターゲットピーク、NPはノイズピークである。これらのノイズピークNPが上記バックグラウンドノイズを基に定めたしきい値TH1を超えている場合、これらのノイズピークNPがターゲットピークとして誤検出されてしまう。
【0048】
そこで、ピークの裾野部分について上記しきい値(第1のしきい値)TH1とは別のしきい値を定める。
図7は窓関数のスペクトルの拡がりとノイズの混入によるピーク近傍の裾野部分のノイズ強度の変動幅の例を示している。(A)においてCは理論値、Uはノイズ混入による上限レベル、Dはノイズ混入による下限レベルである。そこで図7の(B)に示すようにノイズ混入を考慮した上限レベルより上回る値である第2のしきい値TH2を設定する。
【0049】
しかし、ビート信号の周波数スペクトルに現れるピークのうち、どれがターゲットピークであるのかノイズピークであるのかはまだ判明していないので、どのピークについてその裾野部分に上記しきい値TH2を設定するかを定める必要がある。そこで、次のようにして行う。
【0050】
図8は複数のピークを含む周波数スペクトルの例を示している。ここで波形SPは周波数スペクトル、直線TH1はスペクトルのバックグラウンドノイズの平均値と分散を基にして設定したしきい値である。このバックグラウンドノイズは、物標からの反射信号を受けない状態でビート信号に含まれるバックグラウンドノイズであり、例えば設計段階または製造段階で、その平均値と分散を求め、ランダムノイズであるバックグラウンドノイズがしきい値を上回る確率が所定の充分小さな確率となるように予めしきい値TH1を定めておく。
【0051】
図8の(B)において丸印を付した位置はしきい値TH1を超える範囲で周波数変化に対する信号強度の変化が山型を成すピーク位置を示している。仮にしきい値TH1を超える範囲でピーク位置を全て真のピークとすれば、この丸印で示したピークもターゲットピークとして検出されることになる。そこで、しきい値TH1を超える複数のピークを検出し、これらのピークのうちピーク値の高いものから順に前記しきい値TH2を設定する。
【0052】
図9はその例を示している。ここでしきい値TH1は前述のバックグラウンドノイズを基にしたしきい値であり、しきい値TH22はピークP2のピーク値を基に定めたしきい値(しきい値ライン)、TH21はピークP1のピーク値を基に定めたしきい値である。同様にTH23はピークP3のピーク値を基に定めたしきい値である。これらの複数のしきい値のうち値の大きくなる側を採用して図9において実線で示すようなしきい値ラインを決定する。したがってこのしきい値ラインを超えるピークをターゲットピークとして検出する。
【0053】
図10は図3のステップS5に相当するピーク周波数検出の処理手順を示している。
まず、バックグラウンドノイズの平均値と分散からしきい値TH1を求め、既に検出した複数のピークのうちしきい値TH1を超えるピークを抽出する(S11→S12)。続いて、それらのピークのうちピーク値が最大であるピークを検出し、そのピーク値を基にしきい値(図9の例ではTH22)を設定する(S13)。その後、そのしきい値(TH22)を超えるピークの有無を判定し、あれば、上記ピーク値最大のピークの次にピーク値が大きなピークを検出し、そのピーク値を基にしきい値(図9の例ではTH21)を設定する。
【0054】
以降、同様の処理を繰り返し、順次定めた複数のしきい値を超えるすべてのピークについてしきい値の設定を行う(S14→S15→S13→・・・)。このようにして定めた複数のしきい値を超えるピーク(図9に示した例ではP1,P2,P3)をターゲットピークと見なす(S16)。
【0055】
上述の処理は、各ピークのピーク値を基にしてそれぞれの裾野部分に設定したしきい値TH2と、バックグラウンドノイズの平均値と分散から求めたしきい値TH1のうち、それぞれのレンジビンで値の高い方をしきい値として採用し、このしきい値より低いピークをノイズピークとして処理することと等しい。但し、上述のように、ピーク値の高い順に、その裾野部分にしきい値を設定する方が、効率的にノイズピークをふるい落とせる。
【0056】
なお、検出したピークのピーク値を基に設定したしきい値TH2と、バックグラウンドノイズの平均値と分散から求めたしきい値TH1だけでなく、図5の(B)に示したようにさらに所定の反射断面積のターゲットからの反射強度を基に設定したしきい値TH0のうち、それぞれのレンジビンで値の高い方をしきい値として採用する処理を行ってもよい。
【0057】
次に第2の実施形態に係るレーダについて図11・図12を基に説明する。
FM−CW方式のレーダにおいて、送信信号およびローカル信号を生成する発振器のC/N特性が悪化すると、それに応じてビート信号の周波数スペクトルに現れるピーク近傍の裾野が拡がることになる。すなわち、発振信号に含まれるノイズ成分が大きくなるほど、ピークの裾野部分が周波数軸方向に拡がる。この影響で、ピーク値の大きなピークの近傍にノイズに起因する強度の小さなピークが多数現れ、これをターゲットピークとして誤認識するおそれがある。
【0058】
そこで、第1の実施形態の場合と同様に、C/N特性によるピーク近傍の裾野部分のレベルとランダムノイズとを合成したレベルの最大値を上回るレベル(ノイズがそのしきい値を所定の確率で上回らないレベル)にしきい値を設定する。
【0059】
図11は、発振器のC/N特性によるピーク近傍の裾野部分のスペクトルの拡がりとバックグラウンドノイズの合成により発生した周波数スペクトルの様子を示している。
【0060】
もし図11に示したバックグラウンドノイズを基にして定めたしきい値TH1だけでピークを検出すると、図中破線Aで囲んだ部分に含まれる複数の丸印で示すピークがターゲットピークとして誤検出されていまう。
【0061】
そこで図12に示すように、ピークPのピーク値と発振器のC/N特性とに基づいてしきい値TH3を定め、バックグラウンドノイズを基に定めたしきい値TH1との値の高い方を全体のしきい値として用いる。このようにして、発振信号に重畳されているノイズの影響でピーク近傍の裾野部分にランダムノイズが重畳されることによって生じるピークがターゲットピークとして誤検出されるのを防止することができる。
【0062】
なお、このようなしきい値の設定は第1の実施形態の場合と同様に、まずバックグラウンドノイズを基に定めたしきい値TH1を超える複数のピークを検出し、それらの複数のピークのうちピーク値の高いものから順に行い、しきい値を超えるピークが無くなるまで、その処理を繰り返せばよい。
【0063】
次に第3の実施形態に係るレーダについて図13を基に説明する。
図1に示したIF増幅回路7はビート信号であるIF信号の物標までの距離に応じて定まる周波数によって増幅度を変化させる特性を備えている。このIF増幅回路7は、遠方からの反射信号であるほど、すなわち周波数が高いほど、その受信信号の増幅度を高める。そのため、バックグラウンドノイズも高周波になるほど増大する傾向を示す。
【0064】
図13はその場合の周波数スペクトルの例を示している。この例では、レンジビン31にピークPが生じていて、それより低域側では裾野部分が比較的急激に減衰しているが、高域側ではノイズレベルの高いノイズが現れている。そこでピークPのピーク値を基にして定めるしきい値は、上記距離減衰補正の特性を考慮して、しきい値ラインTH2Lで示すように低域側で比較的急峻に減衰させ、しきい値ラインTH2Hで示すように高域側ではその減衰を緩やかにする。但し、図13の例では高域側のしきい値ラインTH2Hを略一定(傾き≒0)としている
なお、このようなしきい値の設定についても第1の実施形態の場合と同様に、まずバックグラウンドノイズを基に定めたしきい値TH1を超える複数のピークを検出し、それらの複数のピークのうちピーク値の高いものから順に行い、しきい値を超えるピークが無くなるまで、その処理を繰り返せばよい。
【0065】
次に第4の実施形態に係るレーダについて図14・図15を基に説明する。
FM−CW方式のレーダにおいて、レーダ装置内のスイッチング電源や、信号処理回路・ビームスキャン機構のクロック発振器などの信号が受信段に混入する場合がある。このことにより、ビート信号は物標からの反射波と送信信号との本来のビート信号成分以外にFMまたはAMの変調成分が含まれる状態になり、ビート信号にそのサイドバンド成分がスプリアスとして現れる。本来のターゲットピークのピーク値が高い場合、上記FMまたはAMの変調成分が本来のビート信号のレベルに比較すると小さなレベルに抑えられていても、上記サイドバンドのピークがしきい値を超えて、それをターゲットピークとして誤検出するおそれがある。
【0066】
図14の(A),(B)はいずれもビート信号にAM変調成分が存在する場合であり、(A)はS/N比が比較的小さく、ターゲットピークのピーク値が比較的小さい場合、(B)はS/N比が比較的大きく、ターゲットピークのピーク値が比較的大きい場合である。
【0067】
このようにターゲットピークP1,P2のピーク値が比較的低く、バックグラウンドノイズの強度が高い場合には、バックグラウンドノイズを基にして定めたしきい値TH1が高く、サイドバンド成分が小さいので、サイドバンドによるピークはしきい値TH1を超えないが、(B)に示すように、ターゲットピークP1,P2のピーク値が高く、バックグラウンドノイズの強度が低くてしきい値TH1が低い場合には、ターゲットピーク近傍のAで示す部分にしきい値TH1を超える丸印で示すサイドバンドによるピークが誤検出されてしまう。
【0068】
しかし、装置内でノイズとして発生する信号源のスペクトルは略一定であるので、その信号源に起因してターゲットピークの近傍に生じるサイドバンドの出現箇所と強度は予測することができる。そこで、図15に示すようにこれらのサイドバンドのピークが上回らないようなしきい値を、検出したピークの近傍に設定する。
図15において(A)は、ピーク近傍のサイドバンドの生じる周波数範囲のしきい値を高めた例である。すなわち、検出したピークP1のピーク値に応じて予測したサイドバンドの強度より上回る強度をしきい値TH41として設定する。同様に、ピークP2のピーク値に応じて予測したサイドバンドの強度より上回る強度をしきい値TH42として設定する。
また図15の(B)は、予測したサイドバンドノイズの位置のみしきい値を高めるようにした例である。
【0069】
なお、このようなしきい値の設定は第1の実施形態の場合と同様に、まずバックグラウンドノイズを基に定めたしきい値TH1を超える複数のピークを検出し、それらの複数のピークのうちピーク値の高いものから順に行い、しきい値を超えるピークが無くなるまで、その処理を繰り返せばよい。
このようにして、変調成分により発生するサイドバンドによるノイズピークをターゲットピークとして誤検出するのを防止することができる。
【技術分野】
【0001】
この発明は、電波を用いて物標の探知を行う装置に関し、特に送信信号と受信信号のビート信号の周波数スペクトルを基に探知を行うレーダに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、車載用レーダとしてミリ波帯の電波を用いるFM−CW方式のレーダが開発されている。すなわち所定周波数を中心として所定周波数範囲でFM変調し、送信信号と受信信号とのビートをとり、そのビート信号の送信信号の周波数が上昇している間のビート周波数と送信信号の周波数が降下している間のビート周波数を同定することによって物標までの距離と物標との相対速度を求める。
【0003】
上記アップビート信号とダウンビート信号の同定を行うために、ビート信号の周波数スペクトルを求め、所定のしきい値を設定して信号成分とノイズ成分とを分離するようにしている。
【0004】
ところが、周波数スペクトルに現れるビート信号のピークは、様々な要因により変化するため、単純に一定のしきい値を定めただけでは信号とノイズの分離が上手くいかない。そのため、例えば探知物標である車両の車種を判別して、車種に応じたしきい値を設定するものが特許文献1に開示されている。
【0005】
また、後方の車両が自車の前方に急激に現れた際に周波数スペクトルの最大パワーが変化するのに応じて、その最大パワーを持つピークを基にしきい値を設定するものとして特許文献2が開示されている。
【0006】
また、物標までの距離に応じてピークが小さくなることに対応して、複数個のピークのパワーを基にしてしきい値を設定するものが特許文献3に開示されている。
【0007】
さらに高調波やスイッチング周波数などによって生じる虚像の周波数でしきい値を上げることによって虚像のピークを除去するものが特許文献4に開示されている。
【特許文献1】特開平6−214015号公報
【特許文献2】特開平7−311260号公報
【特許文献3】特開平4−318700号公報
【特許文献4】特開平11−344560号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に示されているレーダでは、車種の判別ができても実際の信号強度は状況に応じて変化するため、精度よくノイズを除去することができない。
【0009】
また特許文献2,3に示されているレーダでは、それぞれのピークに応じた値・周波数範囲にしきい値を設定しなければ、本来検出できる筈の小さな物標を見失うことになる。
【0010】
さらに特許文献4に示されているレーダでは、予め出現位置の想定できるノイズしか除去できないという問題があった。
【0011】
そこでこの発明の目的は、ビート信号の周波数スペクトルを基に、その周波数スペクトルに含まれている物標からの反射波に起因して生じるスペクトルピークをより確実に検出して物標の探知精度を高めたレーダを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この発明は、周波数変調した送信信号を送信し、該送信信号の物標からの反射信号の周波数と前記送信信号の周波数との差の周波数成分を含むビート信号を生成する手段と、該ビート信号の周波数スペクトルを求める手段と、該周波数スペクトルに現れるピークのピーク周波数を求める手段と、を備え、該ピーク周波数に基づいて物標の探知を行うようにしたレーダにおいて、
バックグラウンドノイズの強度または所定の反射断面積を持つ物標の反射信号強度に基づいて第1のしきい値を定め、周波数スペクトルに現れる第1のしきい値を超える複数のピークについて、それぞれのピークの強度に応じて、それぞれのピークの所定の近傍周波数領域に第2のしきい値を定め、該第2のしきい値を超えるピークを抽出する手段を備えたことを特徴としている。
【0013】
またこの発明は、前記第2のしきい値を、ビート信号に窓関数を掛けることにより生じるピークの周波数軸方向の拡がりに応じて裾野部分の所定帯域で値を高くしたことを特徴としている。
【0014】
またこの発明は、前記第2のしきい値を、送信信号を生成する発振器のC/N特性により生じるピークの周波数軸方向の拡がりに応じて所定帯域で値を高くしたことを特徴としている。
【0015】
またこの発明は、前記第2のしきい値を、ピークの強度に応じて、該ピークの周波数を中心として上下方向に向かって次第に低下するように定めたことを特徴としている。
【0016】
またこの発明は、前記第2のしきい値を、ビート信号に重畳されている変調成分によりピークとともに現れるサイドバンドの強度を上回るように定めたことを特徴としている。
【0017】
またこの発明は、前記ピークを抽出する手段が、第1のしきい値を超える複数のピークのうちピーク値の大きなものから順に第2のしきい値を定めるとともに、各ピークの第2のしきい値をすべて超えるピークを抽出することを特徴としている。
【発明の効果】
【0018】
ビート信号に窓関数を掛けると、周波数スペクトルに現れる信号成分に基づく突出部(以下単に「ピーク」と言う。)は、そのピークの周波数(以下「ピーク周波数」と言う。)を中心として周波数軸方向に拡がる。この発明によれば、バックグラウンドノイズの強度または所定の反射断面積を持つ物標の反射信号強度に基づいて第1のしきい値を定め、周波数スペクトルに現れる第1のしきい値を超える複数のピークについて、それぞれのピークの強度に応じて、それぞれのピーク近傍の周波数で値が高く、ピークから離れた周波数で値が低い第2のしきい値を定めたことにより、ピーク近傍の裾野部分のノイズを第2のしきい値で除去でき、またピークの現れていない周波数領域のノイズは第1のしきい値で除去できる。このようにして、物標からの反射波に起因してビート信号の周波数スペクトルに生じる本来のピーク(以下、「ターゲットピーク」という。)のみを正しく検出できるようになる。
【0019】
前記第2のしきい値として、ビート信号に窓関数を掛けることにより生じるピークの周波数軸方向の拡がりに応じて裾野部分の所定帯域で値を高くすれば、窓関数を掛けたことによる本来のピークの裾野部分にランダムノイズが重畳されることによって現れるピークを誤検出することがない。
【0020】
前記第2のしきい値として、送信信号を生成する発振器のC/N特性により生じるピークの周波数軸方向の拡がりに応じて所定帯域で値を高くすれば、窓関数を掛けたことによる本来のピークの裾野部分にランダムノイズが重畳されることによって現れるピークを誤検出することがない。
【0021】
前記第2のしきい値を、ピークの強度に応じて該ピークの周波数を中心として上下方向に向かって次第に低下するように定めれば、本来のピークに近接する周波数であるほど信号強度が高いという周波数スペクトルの形状に応じて、そこに重畳されるランダムノイズによって生じるピークを検出することなく本来のピークのみを確実に検出できるようになる。
【0022】
前記第2のしきい値として、ビート信号に重畳されている変調成分によりピークとともに現れるサイドバンドの強度を上回るように定めれば、本来のピークのサイドバンドをピークとして誤検出することがない。
【0023】
またこの発明によれば、第1のしきい値を超える複数のピークのうちピーク値の大きなものから順に第2のしきい値を定めるとともに、各ピークの第2のしきい値をすべて超えるピークを抽出することにより、少ない演算量で本来のピークを高速に検出できるようになり、物標探知速度が速まる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】第1の実施形態に係るレーダの構成を示すブロック図である。
【図2】同レーダの物標までの距離と物標の相対速度により変化する送信信号と受信信号の周波数変化の例を示す図である。
【図3】距離および相対速度の検知のための処理手順を示すフローチャートである。
【図4】窓関数の周波数スペクトルとピークの裾野部分の拡がりとの関係を示す図である。
【図5】バックグラウンドノイズとそれにより定めるしきい値との関係、および所定反射断面積を持つ物標の反射信号強度とそれを基に定めるしきい値との関係を示す図である。
【図6】ピーク近傍の裾野部分のノイズの重畳により生じるノイズピークの例を示す図である。
【図7】ピーク近傍の裾野部分に設定するしきい値の例を示す図である。
【図8】バックグラウンドノイズを基に定めたしきい値と、検出されるピークとの関係を示す図である。
【図9】最終的に定めるしきい値ラインの例を示す図である。
【図10】ピーク周波数検出の処理手順を示すフローチャートである。
【図11】第2の実施形態に係るレーダにおける発振器のC/N特性によりピーク近傍の裾野部分に生じるノイズピークの例を示す図である。
【図12】同レーダにおけるしきい値の設定例を示す図である。
【図13】第3の実施形態に係るレーダにおけるしきい値の設定例を示す図である。
【図14】第4の実施形態に係るレーダにおけるビート信号にAM変調成分が存在するときのスペクトルの例を示す図である。
【図15】同ビート信号に含まれるサイドバンドノイズに合わせて設定したしきい値の例を示す図である。
【符号の説明】
【0025】
17−DSP
ADC−ADコンバータ
DAC−DAコンバータ
VCO−電圧制御発振器
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
第1の実施形態に係るレーダの構成を図1〜図10を参照して順に説明する。
図1はレーダの全体の構成を示すブロック図である。送信波変調部16は、DAコンバータ14に対して変調信号のディジタルデータを順次出力する。VCO1は、DAコンバータ14より出力される制御電圧に応じて発振周波数を変化させる。これにより、VCO1の発振周波数を三角波状に連続してFM変調させる。アイソレータ2は、VCO1からの発振信号をカプラ3側へ伝送し、VCO1へ反射信号が入射するのを阻止する。カプラ3は、アイソレータ2を経由した信号をサーキュレータ4側へ伝送するとともに、所定の分配比で送信信号の一部をローカル信号Loとしてミキサ6へ与える。サーキュレータ4は、送信信号をアンテナ5側へ伝送し、また、アンテナ5からの受信信号をミキサ6へ与える。アンテナ5は、VCO1のFM変調された連続波の送信信号を送信し、同方向からの反射信号を受信する。また、そのビームの方向を探知角度範囲に亘って周期的に変化させる。
【0027】
ミキサー6は、カプラ3からのローカル信号Loとサーキュレータ4からの受信信号とをミキシングして中間周波信号IFを出力する。IF増幅回路7は、その中間周波信号を、距離によって定まる周波数に応じて所定の増幅度で増幅する。ADコンバータ8は、その電圧信号をサンプリングデータ列に変換してDSP17へ与える。DSP17は、ADコンバータ8により変換されたディジタルデータを少なくとも1スキャン分(所定の探知角度範囲内での複数本のビーム走査分)だけ一時蓄積し、後述する処理によって、アンテナを中心とする物標の方位、物標までの距離、およびアンテナに対する物標の相対速度を算出する。
【0028】
上記DSP17において、DC除去部9はADコンバータ8により求められたサンプリングデータ列のうち、後段のFFTの処理対象となる所定のサンプリング区間の平均値を求める。この平均値は、FFT(高速フーリエ変換)により求められる直流成分に等しいので、すべてのサンプリング区間のそれぞれのデータからその平均値を減じる演算処理を行うことにより、FFT演算処理の前に直流成分の除去を行う。
【0029】
窓関数処理部15は、DC除去部9により直流成分が除去されたデータについて、所定形状の窓関数を用いてデータの切り出しを行う。この窓関数による切り出しによって、時間波形を有限のサンプリング区間に切り出してFFT演算する際に生じるトランケーションによる誤差を抑える。例えばハニング窓・ハミング窓・ブラックマン=ハリス窓等の窓関数処理を行う。
【0030】
FFT演算部11は、窓関数をかけられた上記サンプリング区間のデータについて周波数成分を分析する。
【0031】
ピーク検出部12は、周波数スペクトルのうち所定のしきい値を超える強度の信号の周波数をピーク周波数として検出する。
【0032】
距離・速度算出部13は、検出されたピーク周波数から物標までの距離と相対速度を算出する。
【0033】
図2は、物標までの距離と相対速度に起因する、送信信号TXSと受信信号RXSの周波数変化のずれの例を示している。送信信号TXSは中心周波数foを周波数中心として、三角波状に周波数変調された信号である。この送信信号TXSの周波数上昇時における送信信号TXSと受信信号RXSとの周波数差がアップビートの周波数fBUであり、送信信号TXSの周波数下降時における送信信号TXSと受信信号RXSとの周波数差がダウンビートの周波数fBDである。この送信信号TXSと受信信号RXSの三角波の時間軸上のずれ(時間差)が、アンテナから物標までの電波の往復時間に相当する。また、送信信号TXSと受信信号RXSの周波数軸上のずれがドップラシフト量であり、これはアンテナに対する物標の相対速度に起因して生じる。この時間差とドップラシフト量によってアップビートfBUとダウンビートfBDの値が変化する。逆に、このアップビートとダウンビートの周波数を検出することによって、レーダから物標までの距離およびレーダに対する物標の相対速度を算出する。
【0034】
図3は、上記DSP17の処理手順を示すフローチャートである。まず、ADコンバータ8からデータを取り込み(S1)、ハニング窓の重み係数を掛け(S2)、FFT演算を行い(S3)、各離散周波数における実部と虚部の自乗和の対数をとることによってパワースペクトル(以下、単に「周波数スペクトル」という。)を算出する(S4)。
【0035】
続いて、その周波数スペクトルに現れている複数のピークを検出し、それらのピークのうちターゲットピークを抽出し、そのピーク周波数を求める(S5)。
【0036】
以上の処理は、送信周波数の上り変調区間と下り変調区間とについて順に行う。また、上り変調区間で抽出した複数の突出部のピーク周波数と、下り変調区間で抽出した複数の突出部のピーク周波数との組み合わせ(ペアリング)を行う(S6)。すなわち、同一物標に起因して生じた突出部のピーク周波数同士をペアリングする。そして、そのピーク周波数から物標の相対距離および相対速度を算出する(S7)。
【0037】
さて、ビート信号をFFT等の離散周波数スペクトルを求める際、切り出した信号のサンプルに対して窓関数を掛けることで信号の不連続性による影響を抑える。
図4は、窓関数を掛ける信号処理と、その結果の周波数スペクトルとの例を示す図である。ここで、(A)は前記DC除去を行ったデータ列を時間波形で示している。このデータ列に対して、(B)に示す所定の窓関数をかけることにより、(C)に示すように、一定データ数(例えば1024個のデータ)のデータ列を求める。この窓関数をかけたデータ列をFFT演算することにより、(D)に示すような離散周波数スペクトルを求める。
【0038】
図4の(D)において、丸印は各離散周波数での信号強度(パワー)である。また、実線は、図4の(B)に示した窓関数の連続スペクトルである。このように窓関数をかけたビート信号の周波数スペクトルは、ビート信号と窓関数の畳み込みとなるため、窓関数のスペクトルに応じてスペクトルが周波数軸方向に膨らみ、スペクトルに裾野部分ができる。
【0039】
図5は、ビート信号の周波数スペクトルからターゲットピークを抽出するためにしきい値を設定する2つの例を示している。図5の(A)はバックグラウンドノイズを基にしきい値を設定する場合であり、バックグラウンドノイズと、それを基にして設定したしきい値との関係を示している。このようにバックグラウンドノイズを基にしきい値を設定する場合、バックグラウンドノイズがしきい値を上回る確率が充分に小さくなるようにしきい値を定める。この確率はバックグラウンドノイズの平均値とその分散により定まる。図5の(A)においてBNはバックグラウンドノイズの瞬時値、BNmはバックグラウンドノイズの平均値、TH1はしきい値をそれぞれ示している。横軸は時刻(経過時間)、縦軸は信号強度である。
【0040】
図5の(B)は、所定の反射断面積を持つ物標の反射信号強度を基にしきい値を設定する場合であり、所定の反射断面積を持つ物標の反射信号強度と、それを基にして設定したしきい値について示している。ここで、横軸は物標までの距離[m]、縦軸はピーク値を0dBとする受信信号強度(対数メモリ)である。Sは10dBsm(レーダー反射断面積10m2 の物体からの反射信号強度を0としたときの受信信号強度)の信号強度の理論値であり、TH0はこの理論値より受信信号強度の時間的変動(シンチレーション)を考慮したレベルだけ下げたしきい値である。このように、遠方からの反射信号であるほど受信信号強度が低下するので、それに合わせてしきい値も変化させる。
【0041】
しかし、受信信号強度の高いターゲットピークの周囲では、そのピークの裾野部分がバックグラウンドノイズを基に定められた上記しきい値TH1または所定の反射断面積を持つターゲットの反射信号強度を基に設定された上記しきい値TH0を超えることがあり、これと、バックグラウンドノイズが混ざり合わさることにより、この部分にノイズに起因するピーク(以下「ノイズピーク」という。)が、信号に起因するピークとして誤って検出されることがある。
【0042】
そこで、まず、窓関数によるピークの拡がりと、バックグラウンドノイズの分散より想定されるノイズ強度の変動する上下幅を求める。この上下幅が、ピーク(突出部)検出の条件として定めた所定の強度変化の変化量を超えるような場合に、ノイズによる突出部がピークとして検出される場合が生じる。すなわち、窓関数を掛け合わせたことにより生じるターゲットピーク以外の各々のレンジビン(FFTの周波数分解能による各周波数レンジビン)において、或るレンジビンの強度が上記上下幅の上限値であり、且つその両側の隣接レンジビンの強度が上記上下幅の下限値であった場合、上記或るレンジビンは微小ながらもピークとして誤検出されてしまう。
【0043】
したがって、このような誤検出が生じ得る周波数レンジでは、窓関数によるピークの裾野部分の膨らみとノイズの強度との和の上限値を超えない強度のピークは、物標からの反射信号とは見なさないように処理する。
【0044】
このために、バックグラウンドノイズを基に定めたしきい値TH1とは別に、ノイズと窓関数スペクトルの和の上限値を上回る値にしきい値TH2を設定し、このいずれをも上回ったものを物標からの反射信号として検出する。
【0045】
周波数スペクトルの裾野の拡がり方は窓関数の種類によって異なる。また、周波数スペクトルのターゲットピーク位置がFFTレンジビンの位置に一致する場合とずれている場合(例えば、FFTの周波数分解能が1kHzのとき、1kHzの整数倍とならない周波数にビート周波数が存在するとき)とで、スペクトルの裾野の拡がり方に差があることに注意が必要である。これらのことを考慮して、ターゲットピーク位置とスペクトルの拡がりの関係により、最も裾野が拡がっている場合を基準として考える。
【0046】
図6は窓関数によるスペクトルの裾野の様子、特にこれにノイズが加わることによって生じるノイズピークの出現の様子について示している。
【0047】
図6の(A)は窓関数によるピーク近傍の裾野部分の拡がりの形状を示している。また(B)はこの窓関数によるピーク近傍の裾野部分の拡がりとノイズとの合成により現れたスペクトルを示している。これらの図においてバツ印を付したスペクトルSP0は周波数スペクトルのターゲットピーク位置がFFTレンジビンの位置に一致している場合、SP1はそれが半レンジ分ずれている場合について示している。Pはターゲットピーク、NPはノイズピークである。これらのノイズピークNPが上記バックグラウンドノイズを基に定めたしきい値TH1を超えている場合、これらのノイズピークNPがターゲットピークとして誤検出されてしまう。
【0048】
そこで、ピークの裾野部分について上記しきい値(第1のしきい値)TH1とは別のしきい値を定める。
図7は窓関数のスペクトルの拡がりとノイズの混入によるピーク近傍の裾野部分のノイズ強度の変動幅の例を示している。(A)においてCは理論値、Uはノイズ混入による上限レベル、Dはノイズ混入による下限レベルである。そこで図7の(B)に示すようにノイズ混入を考慮した上限レベルより上回る値である第2のしきい値TH2を設定する。
【0049】
しかし、ビート信号の周波数スペクトルに現れるピークのうち、どれがターゲットピークであるのかノイズピークであるのかはまだ判明していないので、どのピークについてその裾野部分に上記しきい値TH2を設定するかを定める必要がある。そこで、次のようにして行う。
【0050】
図8は複数のピークを含む周波数スペクトルの例を示している。ここで波形SPは周波数スペクトル、直線TH1はスペクトルのバックグラウンドノイズの平均値と分散を基にして設定したしきい値である。このバックグラウンドノイズは、物標からの反射信号を受けない状態でビート信号に含まれるバックグラウンドノイズであり、例えば設計段階または製造段階で、その平均値と分散を求め、ランダムノイズであるバックグラウンドノイズがしきい値を上回る確率が所定の充分小さな確率となるように予めしきい値TH1を定めておく。
【0051】
図8の(B)において丸印を付した位置はしきい値TH1を超える範囲で周波数変化に対する信号強度の変化が山型を成すピーク位置を示している。仮にしきい値TH1を超える範囲でピーク位置を全て真のピークとすれば、この丸印で示したピークもターゲットピークとして検出されることになる。そこで、しきい値TH1を超える複数のピークを検出し、これらのピークのうちピーク値の高いものから順に前記しきい値TH2を設定する。
【0052】
図9はその例を示している。ここでしきい値TH1は前述のバックグラウンドノイズを基にしたしきい値であり、しきい値TH22はピークP2のピーク値を基に定めたしきい値(しきい値ライン)、TH21はピークP1のピーク値を基に定めたしきい値である。同様にTH23はピークP3のピーク値を基に定めたしきい値である。これらの複数のしきい値のうち値の大きくなる側を採用して図9において実線で示すようなしきい値ラインを決定する。したがってこのしきい値ラインを超えるピークをターゲットピークとして検出する。
【0053】
図10は図3のステップS5に相当するピーク周波数検出の処理手順を示している。
まず、バックグラウンドノイズの平均値と分散からしきい値TH1を求め、既に検出した複数のピークのうちしきい値TH1を超えるピークを抽出する(S11→S12)。続いて、それらのピークのうちピーク値が最大であるピークを検出し、そのピーク値を基にしきい値(図9の例ではTH22)を設定する(S13)。その後、そのしきい値(TH22)を超えるピークの有無を判定し、あれば、上記ピーク値最大のピークの次にピーク値が大きなピークを検出し、そのピーク値を基にしきい値(図9の例ではTH21)を設定する。
【0054】
以降、同様の処理を繰り返し、順次定めた複数のしきい値を超えるすべてのピークについてしきい値の設定を行う(S14→S15→S13→・・・)。このようにして定めた複数のしきい値を超えるピーク(図9に示した例ではP1,P2,P3)をターゲットピークと見なす(S16)。
【0055】
上述の処理は、各ピークのピーク値を基にしてそれぞれの裾野部分に設定したしきい値TH2と、バックグラウンドノイズの平均値と分散から求めたしきい値TH1のうち、それぞれのレンジビンで値の高い方をしきい値として採用し、このしきい値より低いピークをノイズピークとして処理することと等しい。但し、上述のように、ピーク値の高い順に、その裾野部分にしきい値を設定する方が、効率的にノイズピークをふるい落とせる。
【0056】
なお、検出したピークのピーク値を基に設定したしきい値TH2と、バックグラウンドノイズの平均値と分散から求めたしきい値TH1だけでなく、図5の(B)に示したようにさらに所定の反射断面積のターゲットからの反射強度を基に設定したしきい値TH0のうち、それぞれのレンジビンで値の高い方をしきい値として採用する処理を行ってもよい。
【0057】
次に第2の実施形態に係るレーダについて図11・図12を基に説明する。
FM−CW方式のレーダにおいて、送信信号およびローカル信号を生成する発振器のC/N特性が悪化すると、それに応じてビート信号の周波数スペクトルに現れるピーク近傍の裾野が拡がることになる。すなわち、発振信号に含まれるノイズ成分が大きくなるほど、ピークの裾野部分が周波数軸方向に拡がる。この影響で、ピーク値の大きなピークの近傍にノイズに起因する強度の小さなピークが多数現れ、これをターゲットピークとして誤認識するおそれがある。
【0058】
そこで、第1の実施形態の場合と同様に、C/N特性によるピーク近傍の裾野部分のレベルとランダムノイズとを合成したレベルの最大値を上回るレベル(ノイズがそのしきい値を所定の確率で上回らないレベル)にしきい値を設定する。
【0059】
図11は、発振器のC/N特性によるピーク近傍の裾野部分のスペクトルの拡がりとバックグラウンドノイズの合成により発生した周波数スペクトルの様子を示している。
【0060】
もし図11に示したバックグラウンドノイズを基にして定めたしきい値TH1だけでピークを検出すると、図中破線Aで囲んだ部分に含まれる複数の丸印で示すピークがターゲットピークとして誤検出されていまう。
【0061】
そこで図12に示すように、ピークPのピーク値と発振器のC/N特性とに基づいてしきい値TH3を定め、バックグラウンドノイズを基に定めたしきい値TH1との値の高い方を全体のしきい値として用いる。このようにして、発振信号に重畳されているノイズの影響でピーク近傍の裾野部分にランダムノイズが重畳されることによって生じるピークがターゲットピークとして誤検出されるのを防止することができる。
【0062】
なお、このようなしきい値の設定は第1の実施形態の場合と同様に、まずバックグラウンドノイズを基に定めたしきい値TH1を超える複数のピークを検出し、それらの複数のピークのうちピーク値の高いものから順に行い、しきい値を超えるピークが無くなるまで、その処理を繰り返せばよい。
【0063】
次に第3の実施形態に係るレーダについて図13を基に説明する。
図1に示したIF増幅回路7はビート信号であるIF信号の物標までの距離に応じて定まる周波数によって増幅度を変化させる特性を備えている。このIF増幅回路7は、遠方からの反射信号であるほど、すなわち周波数が高いほど、その受信信号の増幅度を高める。そのため、バックグラウンドノイズも高周波になるほど増大する傾向を示す。
【0064】
図13はその場合の周波数スペクトルの例を示している。この例では、レンジビン31にピークPが生じていて、それより低域側では裾野部分が比較的急激に減衰しているが、高域側ではノイズレベルの高いノイズが現れている。そこでピークPのピーク値を基にして定めるしきい値は、上記距離減衰補正の特性を考慮して、しきい値ラインTH2Lで示すように低域側で比較的急峻に減衰させ、しきい値ラインTH2Hで示すように高域側ではその減衰を緩やかにする。但し、図13の例では高域側のしきい値ラインTH2Hを略一定(傾き≒0)としている
なお、このようなしきい値の設定についても第1の実施形態の場合と同様に、まずバックグラウンドノイズを基に定めたしきい値TH1を超える複数のピークを検出し、それらの複数のピークのうちピーク値の高いものから順に行い、しきい値を超えるピークが無くなるまで、その処理を繰り返せばよい。
【0065】
次に第4の実施形態に係るレーダについて図14・図15を基に説明する。
FM−CW方式のレーダにおいて、レーダ装置内のスイッチング電源や、信号処理回路・ビームスキャン機構のクロック発振器などの信号が受信段に混入する場合がある。このことにより、ビート信号は物標からの反射波と送信信号との本来のビート信号成分以外にFMまたはAMの変調成分が含まれる状態になり、ビート信号にそのサイドバンド成分がスプリアスとして現れる。本来のターゲットピークのピーク値が高い場合、上記FMまたはAMの変調成分が本来のビート信号のレベルに比較すると小さなレベルに抑えられていても、上記サイドバンドのピークがしきい値を超えて、それをターゲットピークとして誤検出するおそれがある。
【0066】
図14の(A),(B)はいずれもビート信号にAM変調成分が存在する場合であり、(A)はS/N比が比較的小さく、ターゲットピークのピーク値が比較的小さい場合、(B)はS/N比が比較的大きく、ターゲットピークのピーク値が比較的大きい場合である。
【0067】
このようにターゲットピークP1,P2のピーク値が比較的低く、バックグラウンドノイズの強度が高い場合には、バックグラウンドノイズを基にして定めたしきい値TH1が高く、サイドバンド成分が小さいので、サイドバンドによるピークはしきい値TH1を超えないが、(B)に示すように、ターゲットピークP1,P2のピーク値が高く、バックグラウンドノイズの強度が低くてしきい値TH1が低い場合には、ターゲットピーク近傍のAで示す部分にしきい値TH1を超える丸印で示すサイドバンドによるピークが誤検出されてしまう。
【0068】
しかし、装置内でノイズとして発生する信号源のスペクトルは略一定であるので、その信号源に起因してターゲットピークの近傍に生じるサイドバンドの出現箇所と強度は予測することができる。そこで、図15に示すようにこれらのサイドバンドのピークが上回らないようなしきい値を、検出したピークの近傍に設定する。
図15において(A)は、ピーク近傍のサイドバンドの生じる周波数範囲のしきい値を高めた例である。すなわち、検出したピークP1のピーク値に応じて予測したサイドバンドの強度より上回る強度をしきい値TH41として設定する。同様に、ピークP2のピーク値に応じて予測したサイドバンドの強度より上回る強度をしきい値TH42として設定する。
また図15の(B)は、予測したサイドバンドノイズの位置のみしきい値を高めるようにした例である。
【0069】
なお、このようなしきい値の設定は第1の実施形態の場合と同様に、まずバックグラウンドノイズを基に定めたしきい値TH1を超える複数のピークを検出し、それらの複数のピークのうちピーク値の高いものから順に行い、しきい値を超えるピークが無くなるまで、その処理を繰り返せばよい。
このようにして、変調成分により発生するサイドバンドによるノイズピークをターゲットピークとして誤検出するのを防止することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
周波数変調した送信信号を送信し、該送信信号の物標からの反射信号の周波数と前記送信信号の周波数との差の周波数成分を含むビート信号を生成する手段と、該ビート信号の周波数スペクトルを求める手段と、該周波数スペクトルに現れるピークのピーク周波数を求める手段と、を備え、該ピーク周波数に基づいて物標の探知を行うようにしたレーダにおいて、
バックグラウンドノイズの強度または所定の反射断面積を持つ物標の反射信号強度に基づいて第1のしきい値を定め、前記周波数スペクトルに現れる第1のしきい値を超える複数のピークについて、それぞれのピークの強度に応じて、それぞれのピークの所定の近傍周波数領域に第2のしきい値を定め、該第2のしきい値を超えるピークを抽出する手段を備えたことを特徴とするレーダ。
【請求項2】
前記第2のしきい値は、前記ビート信号に窓関数を掛けることにより生じる前記ピークの周波数軸方向の拡がりに応じて裾野部分の所定帯域で値を高くしたことを特徴とする請求項1に記載のレーダ。
【請求項3】
前記第2のしきい値は、前記送信信号を生成する発振器のC/N特性により生じる前記ピークの周波数軸方向の拡がりに応じて裾野部分の所定帯域で値を高くしたことを特徴とする請求項1または2に記載のレーダ。
【請求項4】
前記第2のしきい値は、前記ピークの強度に応じて、該ピークの周波数を中心として上下方向に向かって次第に低下するように定めたことを特徴とする請求項1、2または3に記載のレーダ。
【請求項5】
前記第2のしきい値は、前記ビート信号に重畳されている変調成分により前記ピークとともに現れるサイドバンドの強度を上回るように定めたことを特徴とする請求項1〜4のうちいずれかに記載のレーダ。
【請求項6】
前記ピークを抽出する手段は、前記第1のしきい値を超える複数のピークのうちピーク値の大きなものから順に前記第2のしきい値を定めるとともに、各ピークの第2のしきい値をすべて超えるピークを抽出するものである請求項1〜5のうちいずれかに記載のレーダ。
【請求項1】
周波数変調した送信信号を送信し、該送信信号の物標からの反射信号の周波数と前記送信信号の周波数との差の周波数成分を含むビート信号を生成する手段と、該ビート信号の周波数スペクトルを求める手段と、該周波数スペクトルに現れるピークのピーク周波数を求める手段と、を備え、該ピーク周波数に基づいて物標の探知を行うようにしたレーダにおいて、
バックグラウンドノイズの強度または所定の反射断面積を持つ物標の反射信号強度に基づいて第1のしきい値を定め、前記周波数スペクトルに現れる第1のしきい値を超える複数のピークについて、それぞれのピークの強度に応じて、それぞれのピークの所定の近傍周波数領域に第2のしきい値を定め、該第2のしきい値を超えるピークを抽出する手段を備えたことを特徴とするレーダ。
【請求項2】
前記第2のしきい値は、前記ビート信号に窓関数を掛けることにより生じる前記ピークの周波数軸方向の拡がりに応じて裾野部分の所定帯域で値を高くしたことを特徴とする請求項1に記載のレーダ。
【請求項3】
前記第2のしきい値は、前記送信信号を生成する発振器のC/N特性により生じる前記ピークの周波数軸方向の拡がりに応じて裾野部分の所定帯域で値を高くしたことを特徴とする請求項1または2に記載のレーダ。
【請求項4】
前記第2のしきい値は、前記ピークの強度に応じて、該ピークの周波数を中心として上下方向に向かって次第に低下するように定めたことを特徴とする請求項1、2または3に記載のレーダ。
【請求項5】
前記第2のしきい値は、前記ビート信号に重畳されている変調成分により前記ピークとともに現れるサイドバンドの強度を上回るように定めたことを特徴とする請求項1〜4のうちいずれかに記載のレーダ。
【請求項6】
前記ピークを抽出する手段は、前記第1のしきい値を超える複数のピークのうちピーク値の大きなものから順に前記第2のしきい値を定めるとともに、各ピークの第2のしきい値をすべて超えるピークを抽出するものである請求項1〜5のうちいずれかに記載のレーダ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【国際公開番号】WO2005/059588
【国際公開日】平成17年6月30日(2005.6.30)
【発行日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−516274(P2005−516274)
【国際出願番号】PCT/JP2004/015903
【国際出願日】平成16年10月27日(2004.10.27)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】
【国際公開日】平成17年6月30日(2005.6.30)
【発行日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【国際出願番号】PCT/JP2004/015903
【国際出願日】平成16年10月27日(2004.10.27)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】
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