説明

ロキソプロフェンナトリウム含有外用製剤の製造方法

【課題】プロドラッグである事が知られている、非ステロイド性抗炎症剤、ロキソプロフェンまたはその医学的に許容できる塩を、活性体であるトランス−OH体に変換する方法の提供。
【解決手段】皮膚真皮層に存在するケトン還元酵素によって、ロキソプロフェンまたはその医学的に許容できる塩を、トランス−OH体に変換することからなる、トランス−OH体の製造方法。ロキソプロフェンにクロタミトンを配合した製剤を局所投与する事により、十分な活性体を皮膚の炎症部位に確保する事ができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロキソプロフェンまたはその医学的に許容できる塩を有効成分とする消炎鎮痛外用製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ロキソプロフェン(正式名:2−[p−(2−オキソシクロペンチルメチル)フェニル]プロピオン酸)のナトリウム塩、すなわちロキソプロフェンナトリウムはフェニルプロピオン酸系の非ステロイド性消炎鎮痛剤として優れた薬効を有し、商品名「ロキソニン」の名称で現在、内服薬として幅広く使用されている。
【0003】
ところで、ロキソプロフェンナトリウムはプロドラッグであり、経口投与した場合、生体内で代謝され、その代謝物であるトランス(trans) −OH体(正式名:2−[p−(トランス−2−ヒドロキシシクロペンチルメチル)フェニル]プロピオン酸)となり、これが優れた抗炎症作用を発現することが知られている[松田ら,炎症(Japanese Journal of Inflammation)Vol.2 No.3 Summer, 263頁-266頁(1983)]。そして、その代謝にかかる酵素(ケトン還元酵素)は、主に肝臓、腎臓に存在し[田中ら,炎症(Japanese Journal of Inflammation)Vol.3 No.2 Spring, 151頁-155頁(1983)]、また、トランス−OH体は、プロスタグランジン生成酵素シクロオキシゲナーゼに対する阻害活性において、ロキソプロフェンナトリウムの約80倍強い活性を示すことも知られている[松田ら,炎症(Japanese Journal of Inflammation)Vol.2 No.3 Summer, 263頁-266頁(1983)]。即ち、ロキソプロフェンナトリウムが優れた消炎鎮痛作用を発揮するためには、肝臓または腎臓を通過し、活性化される必要があると考えられていた。
【0004】
従って、外用製剤として用いる場合、薬物自体が薬理作用を発揮するインドメタシン、イブプロフェンおよびケトプロフェンのような消炎鎮痛剤とロキソプロフェンナトリウムとは、そもそも、同一に論じられるものではない。
【0005】
しかしながら、従来、消炎鎮痛剤を有効成分とする外用製剤、特に外用製剤の基剤について多くの特許出願がされており、その製剤に含まれる、またはその基剤に加え得る有効成分の例として消炎鎮痛剤を挙げ、更に消炎鎮痛剤の具体例の一つとしてロキソプロフェンナトリウムを挙げているものがいくつかある。ところが、それらの出願のほとんどが、明細書中で消炎鎮痛剤の単なる一例としてロキソプロフェンの名を挙げている程度であり、また、これらの出願において、本願の発明特定事項である有効成分の溶解剤の一例としてクロタミトンに言及しているものもあるが、実際にロキソプロフェンとクロタミトンとを含有する製剤を具体的に開示しているものはひとつもない。
【0006】
これに対し、ロキソプロフェンまたはそのナトリウム塩についていえば、(1)特開平4−99719号、(2)特開平8−165251号および(3)特開昭57−4919号において、具体的に外用製剤が開示されている。
【0007】
(1)は有効成分の皮膚透過速度の増加を目的とする、ある種の脂肪酸エステルおよび多価アルコール類を含有する新規な基剤についての発明であるが、その実施例としてその基剤にロキソプロフェンナトリウムを含有させた外用貼付剤を調製している。
【0008】
(2)は特定の溶解剤[2−(2−メトキシ−1−メチルエチル)−5−メチルシクロヘキサノール]およびその溶解剤を含有する外用製剤を開示しており、実施例としてロキソプロフェンを含有する貼付剤を調製しており、試験例において、その貼付剤の粘着力および皮膚に対する安全性が評価されている。しかしながら、いずれの特許出願とも、ロキソプロフェンナトリウムが外用製剤として投与された場合の薬理的な効果には言及していない。
【0009】
また、本発明者らが、(1)に従って、脂肪酸エステルおよび多価アルコール類を含有するロキソプロフェンナトリウムの外用製剤を調製し、経時的に観察したところ、ロキソプロフェンの結晶が析出した。一般的に、ある特定の化合物の外用製剤を調製する場合、有効成分が結晶化して析出するのを避ける目的で、溶解剤が加えられる。そして、その最適な溶解剤の選択は、製剤設計上重要な要素であり、溶解剤の選択によっては、薬物の溶解が不十分なため、基剤からの有効成分の放出、ひいては患部への移行性が低下し、充分に治療効果を発揮することができない場合がある。即ち、ある特定の有効成分に対して最適である溶解剤が、その他の有効成分に対しても最適であると予想することはできない。
【0010】
一方、特開昭57−4919号(上記(3))は、試験例において、クロトン油にロキソプロフェンを溶解したもの、および、プラスチベース50Wにロキソプロフェンナトリウムを単に加えた軟膏について、外用製剤としての薬理効果を述べている。しかしながら、クロトン油は癌の研究において刺激原(irritant)および発癌補助物質(cocarcinogen)として用いられる毒性のある物質であり[THE MERCK INDEX, twelfth edition, 2665頁] 、そのような物質を医薬に配合することは極めて不適切であり、また、ロキソプロフェンナトリウムとプラスチベース50Wを組み合わせた製剤については、その効果が用量依存的ではない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述のように、ロキソプロフェンはプロドラッグであること、強力な消炎鎮痛作用を発揮するのは代謝活性体であるトランス−OH体であること、およびその活性代謝物への変換にかかる酵素は主に肝臓および腎臓に存在することから、局所投与する場合には、ロキソプロフェンを経皮的に吸収させるよりも、トランス−OH体を吸収させた方が、その適用部位において多量のトランス−OH体を確保することができ、優れた消炎鎮痛作用が得られるであろうと想像した。しかしながら、本発明者らが、トランス−OH体の経皮吸収性について試験をおこなったところ、トランス−OH体は極めて吸収されにくいことがわかった。
【0012】
そこで本発明者らは、ロキソプロフェンナトリウムを有効成分とする消炎鎮痛外用製剤について鋭意研究した結果、(i)ロキソプロフェン自体は、活性代謝物であるトランス−OH体よりも優れた皮膚透過性を有し、経皮投与により、皮膚に充分な量のロキソプロフェンが蓄えられること、そして、(ii)ロキソプロフェンが充分量、長時間、皮膚に保持されれば、驚くことに、皮膚においてもケトン還元酵素によりトランス−OH体に変換され、皮膚において有効量のトランス−OH体が確保されることを見出した。そして上述したロキソプロフェンの製剤上の問題については、溶解剤としてクロタミトンを採用すると、ロキソプロフェンが結晶として析出せず、安定性が高く、皮膚刺激性のないロキソプロフェンの外用製剤が得られることを見出した。即ち、ロキソプロフェンの外用製剤に溶解剤としてクロタミトンを配合することにより、ロキソプロフェンが結晶として析出せず、有効成分の分布性が優れた製剤が得られ、その製剤により、ロキソプロフェンの経皮吸収速度、経皮吸収量の大幅な増大およびロキソプロフェンの持続的な供給が可能となり、それにより、適用部位の皮膚において充分な濃度のロキソプロフェンが持続的に蓄えられ、次いで、そのロキソプロフェンが、本発明者らが初めて確認したように、皮膚においてトランス−OH体へと変換されて、適用部位に充分量のトランス−OH体を確保でき、その結果、この製剤を適用することにより、優れた局所的消炎鎮痛作用が得られることを見出し、かつその製剤には皮膚刺激性がないことを見出して、本発明を完成した。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、
(1)皮膚に存在するケトン還元酵素によって、ロキソプロフェンまたはその医学的に許容できる塩を、トランス−OH体に変換することからなる、トランス−OH体の製造方法、および、
(2)ロキソプロフェンまたはその医学的に許容できる塩、ならびにクロタミトンを含有する消炎鎮痛外用製剤に関する。
(2)に記載の消炎鎮痛外用製剤において、好適には、
(3)その外用製剤を適用することにより、皮膚でロキソプロフェンまたはその医学的に許容できる塩が代謝されてトランス−OH体となり、トランス−OH体の濃度が、血漿中よりも、適用部位の皮膚真皮層において高濃度となることを特徴とする外用製剤である。これら(2)または(3)に記載の消炎鎮痛製剤において、より好適には、
(4)クロタミトンの配合量が製剤総重量の0.5重量%ないし5重量%である外用製剤、
(5)クロタミトンの配合量が製剤総重量の1重量%ないし2重量%である外用製剤、
(6)ロキソプロフェンまたはその医学的に許容できる塩の配合量が、製剤総重量の0.1重量%ないし5重量%である外用製剤、
(7)ロキソプロフェンまたはその医学的に許容できる塩の配合量が、製剤総重量の0.15重量%ないし2重量%である外用製剤、または
(8)ロキソプロフェンまたはその医学的に許容できる塩の配合量が、製剤総重量の0.5重量%ないし2重量%である外用製剤、
である。更に、(2)および(3)、(4)および(5)、並びに(6)ないし(8)からなる各群より選択される1の要素を任意に組み合わせた消炎鎮痛外用製剤も好適である。
【0014】
更に、上記の消炎鎮痛外用製剤には、ロキソプロフェンまたはその医学的に許容できる塩、およびクロタミトンの他に、外用製剤において通常用いられる添加剤を加えることができ、そのような消炎鎮痛外用製剤の好適な例は、
ロキソプロフェンまたはその医学的に許容できる塩、およびクロタミトンに加えて、
(9)製剤総重量に対して、0.5重量%ないし80重量%の溶剤および/または皮膚吸収助剤を含有する外用製剤、
(10)製剤総重量に対して、3重量%ないし30重量%の水性高分子化合物を含有する外用製剤、
(11)製剤総重量に対して、5重量%ないし20重量%の水性高分子化合物を含有する外用製剤、
(12)製剤総重量に対して、5重量%ないし95重量%の脂溶性高分子化合物を含有する外用製剤、
(13)製剤総重量に対して、10重量%ないし80重量%の脂溶性高分子化合物を含有する外用製剤、
(14)製剤総重量に対して、5重量%ないし60重量%の保湿剤を含有する外用製剤、または
(15)製剤総重量に対して、10重量%ないし45重量%の保湿剤を含有する外用製剤である。
【0015】
更に、(10)ないし(15)から選択される2以上の要素を具備する製剤も好適である。[ただし、(10)と(11)を同時に選択することはできず、(14)と(15)を同時に選択することはできない。]
更に、本発明の他の目的は、上記(2)ないし(15)から選択される1に記載の消炎鎮痛外用製剤を、貼付剤、軟膏剤、クリーム剤、ローション剤またはエアゾール剤として提供することにある。
【0016】
本発明において、「ロキソプロフェンまたはその医学的に許容できる塩」の定義における「医学的に許容できる塩」とは、ロキソプロフェンはその分子内にカルボキシル基を有するので、そのカルボキシル基に基づく陽イオンとの塩を意味し、そのような塩としては、好適にはナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩、のようなアルカリ金属塩;カルシウム塩、マグネシウム塩、のようなアルカリ土類金属塩;アルミニウム塩、鉄塩、亜鉛塩、銅塩、ニッケル塩、コバルト塩等の金属塩;アンモニウム塩;t−オクチルアミン塩、ジベンジルアミン塩、モルホリン塩、グルコサミン塩、フェニルグリシンアルキルエステル塩、エチレンジアミン塩、N−メチルグルカミン塩、グアニジン塩、ジエチルアミン塩、トリエチルアミン塩、ジシクロヘキシルアミン塩、N,N’−ジベンジルエチレンジアミン塩、クロロプロカイン塩、プロカイン塩、ジエタノールアミン塩、N−ベンジル−フェネチルアミン塩、ピペラジン塩、テトラメチルアンモニウム塩、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン塩のような有機塩等のアミン塩及び、グリシン塩、リジン塩、アルギニン塩、オルニチン塩、グルタミン酸塩、アスパラギン酸塩のようなアミノ酸塩を挙げることができる。更に好適には水溶性の塩であり、最も好適にはナトリウム塩である。
【0017】
更に、「ロキソプロフェンまたはその医学的に許容できる塩」は、大気中に放置したり、または再結晶をすることにより、水分または再結晶に用いた溶媒を吸収し、水和物または溶媒和物となる場合があり、そのような水和物および溶媒和物も本発明に包含される。
【0018】
また、ある外用製剤が、「その外用製剤を適用することにより、皮膚でロキソプロフェンまたはその医学的に許容できる塩が代謝されてトランス−OH体となり、トランス−OH体の濃度が、血漿中よりも、適用部位の皮膚真皮膚層において高濃度となる」製剤であるかどうかは、例えば、ラット、マウス等の実験動物にその外用製剤を適用し、適用してから一定時間後(例えば、4時間後、8時間後)に、血漿中のトランス−OH体濃度(μg/ml)および適用部分の皮膚真皮層のトランス−OH体濃度(μg/g)を測定することにより確認することができ、具体的には、後述する「試験例3」に記載の方法に準じて実験を行うことにより、容易に確認することができる。
【0019】
本発明において、外用製剤中のロキソプロフェンナトリウムの配合量は、製剤化が可能であるかぎり特に限定はないが、製剤総重量の0.1重量%(更に好適には、0.15重量%、最も好適には、0.5重量%)ないし5重量%(更に好適には、2重量%)の範囲であるのが好ましい。有効成分が少なすぎると薬効作用が不十分であり、また多すぎても利点がないので経済的に不利である。
【0020】
溶解剤として使用するクロタミトンの配合量は、製剤化が可能であるかぎり特に限定はないが、製剤総重量の0.5重量%(更に好適には、1重量%)ないし5重量%(更に好適には、2重量%)の範囲であるのが好ましい。
【0021】
外用製剤のpHは4.0(更に好適には、5.0、最も好適には、5.5)ないし7.5(更に好適には、7.0、最も好適には、6.5)の範囲であるのがが好ましい。
【0022】
本発明の外用製剤には、他に影響を与えなければ、通常の外用製剤に用いられる各種の基剤、例えばクロタミトンと併用可能な他の溶剤、皮膚吸収助剤、粘着剤および/または保型剤として使用し得る水性高分子化合物、粘着剤および/または粘着付与剤として使用し得る脂溶性高分子化合物、保湿剤、界面活性剤、噴射剤、その他医学的に許容できる添加物などが特に限定なく使用される。
【0023】
ロキソプロフェンまたはその医学的に許容できる塩を溶解するための他の溶剤としてはクロタミトンと併用して他に影響を与えないものであれば特に限定はなく、例えば水;アルコール類;医学的に許容できる脂肪酸およびそのエステル;動植物油およびテルペン化合物などの油性成分;などから選ばれる。
【0024】
ここに水を使用する場合、その配合量は製剤総重量に対して、20重量%(更に好適には、40重量%)ないし80重量%(更に好適には、60重量%)の範囲であるのが好ましい。
【0025】
ここにアルコール類としては他に影響を与えなければ通常用いられるものが特に限定なく用いられる。そのようなアルコール類としては例えばメタノール、エタノール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコールなどの脂肪族アルコール類;プロピレングリコール、オクタンジオール、1,3−ブタンジオール、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセリン、D−ソルビトールなどの脂肪族多価アルコール類;ベンジルアルコールなどの芳香脂肪族アルコール類;などをあげることができる。その配合量は製剤総重量に対して、0.5重量%(更に好適には、3重量%)ないし10重量%(更に好適には、5重量%)の範囲であるのが好ましい。但し、後述する保湿剤として使用されるプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセリン、D−ソルビトールの配合量はこのかぎりではない。
【0026】
医学的に許容できる脂肪酸およびそのエステルとしては他に影響を与えなければ通常用いられるものが特に限定なく用いられる。そのような医学的に許容できる脂肪酸およびそのエステルとしては例えばカプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、オレイン酸、リノール酸、ステアリン酸、乳酸ラウリル、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、オレイン酸オレイル、アジピン酸ジイソプロピル、セバシン酸ジイソプロピル、モノカプリル酸グリセリン、モノイソオクタン酸エチレングリコールなどの炭素数3(更に好適には、10)ないし炭素数30(更に好適には、20)の脂肪酸が好ましい。また、そのエステルとしては、炭素数5(更に好適には、12)ないし炭素数50(更に好適には、40)のアルキルエステル、炭素数8(更に好適には、12)ないし炭素数30(更に好適には、24)のアルキレングリコールエステルが好ましい。これらの脂肪酸及びそのエステルは一種または二種以上組み合わせて使用してもよい。好適にはオレイン酸、乳酸ラウリルである。その配合量は製剤総重量に対して、0.5重量%(更に好適には、1重量%)ないし20重量%(更に好適には、15重量%)の範囲であるのが好ましい。
【0027】
動植物油およびテルペン化合物などの油性成分としては他に影響を与えなければ通常用いられるものが特に限定なく用いられる。そのような動植物油およびテルペン化合物などの油性成分としては例えばアーモンド油、オリーブ油、ツバキ油、パーシック油、ハッカ油、ダイズ油、ゴマ油、シンク油、綿実油、トウモロコシ油、サフラワー油、ヤシ油、ユーカリ油、ヒマシ油、硬化ヒマシ油、大豆レシチン、スクワレン、dlまたはl−メントール、l−メントン、リモネン、ピネン、ピペリトン、テルピネン、テルピノレン、テルピノール、カルベオール、dl−カンフル、N−メチル−2−ピロリドン、流動パラフインなどが例示され、好適にはハッカ油、ユーカリ油である。これらの油性成分は一種または二種以上組み合わせて使用しても良い。その配合量は製剤総重量に対して、0.5重量%(更に好適には、1重量%)ないし10重量%(更に好適には、5重量%)の範囲であるのが好ましい。
【0028】
これらの溶剤は多すぎると、水性基剤と混練して得た製剤では油性成分が遊離し、また皮膚刺激性が生ずるの場合があるので、そのような現象をおこさない範囲で配合するのが好ましい。
【0029】
皮膚吸収助剤としては他に影響を与えなければ通常用いられるものが特に限定なく用いられる。そのような皮膚吸収助剤としては例えばエタノール、プロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,2,6−ヘキサントリオールなどのアルコールおよび多価アルコール類;乳酸、オレイン酸、リノール酸、ミリスチン酸などの脂肪酸およびそのエステル;ハッカ油、l−メントール、dl−カンフル、N−メチル−2−ピロリドンなどの動植物油およびテルペン化合物などが好適である。これらの皮膚吸収助剤は溶剤または後述する保湿剤としても使用できるものである。
【0030】
粘着剤および/または保型剤として使用し得る水性高分子化合物としては他に影響を与えなければ通常用いられるものが特に限定なく用いられる。そのような水性高分子化合物としては、例えばポリアクリル酸;ポリアクリル酸ナトリウム;アクリル酸エステル共重合体およびそのエマルジョン;メチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウムなどのセルロース誘導体;アラビアゴム;ゼラチン;カゼイン;ポリビ
ニルアルコール;ポリビニルピロリドン;メチルビニルエーテル/無水マレイン酸共重合体およびそのエマルジョン;寒天などの天然多糖類;などがあげられる。それらは一種または二種以上を組み合わせて使用しても良く、その配合量は製剤総重量に対して、3重量%(更に好適には、5重量%)ないし30重量%(更に好適には、20重量%)の範囲であるのが好ましい。
【0031】
なお、ポリアクリル酸またはポリアクリル酸ナトリウムなどの水性高分子化合物を使用する場合は、架橋反応し得るアルミニウム化合物として活性アルミナ、合成ケイ酸アルミニウム、水酸化アルミニウムなどを使用することができる。
【0032】
また、保湿剤としてアクリル酸デンプン;グリセリン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、D−ソルビトールなどの多価アルコール;を使用するのが好適であり、それらは一種または二種以上を組み合わせて使用しても良く、その配合量は製剤総重量に対して、5重量%(更に好適には、10重量%)ないし60重量%(更に好適には、45重量%)の範囲であるのが好ましい。
【0033】
粘着剤および/または粘着付与剤として使用し得る脂溶性高分子化合物としては他に影響を与えなければ通常用いられるものが特に限定なく用いられる。そのような脂溶性高分子化合物としては天然ゴム、イソプレンゴム、ポリイソブチレンゴム、スチレンブタジエンゴム、スチレンイソプレンスチレンブロック共重合体、スチレンブタジエンスチレンブロック共重合体、(メタ)アクリル酸エステル共重合体、シリコン樹脂、ロジン、ポリブテン、ラノリン、ワセリン、プラスチベース、ミツロウ、固形パラフインなどがあげられる。それらは一種または二種以上を組み合わせて使用しても良い。その配合量は製剤総重量に対して、5重量%(更に好適には、10重量%)ないし95重量%(更に好適には、80重量%)の範囲であるのが好ましい。
【0034】
更に、所望によりソルビタンモノオレエート、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエートなどの界面活性剤;酒石酸、クエン酸などのpH調整剤;ベントナイト、カオリン、タルク、チタン白などの他の医学的に許容される添加剤;等を所要量使用することができる。その配合量は製剤総重量に対して、0.1重量%(更に好適には、0.5重量%)ないし15重量%(更に好適には、10重量%)の範囲であるのが好ましい。
【0035】
本発明の消炎鎮痛外用製剤において、
好適には
(1) 製剤総重量に対して、ロキソプロフェンナトリウム 0.1重量%ないし5重量%、クロタミトン 0.5重量%ないし5重量%、溶剤および/または皮膚吸収助剤 0.5重量%ないし80重量%、水性高分子化合物 3重量%ないし30重量%および/または脂溶性高分子化合物 5重量%ないし95重量%、保湿剤 5重量%ないし60重量%、を少なくとも含有する消炎鎮痛外用製剤である。
更に好適には
(2) 製剤総重量に対して、ロキソプロフェンナトリウム 0.15重量%ないし2重量%、クロタミトン 1重量%ないし2重量%、溶剤および/または皮膚吸収助剤 0.5重量%ないし80重量%、水性高分子化合物 5重量%ないし20重量%および/または脂溶性高分子化合物 10重量%ないし80重量%、保湿剤 10重量%ないし45重量%、を少なくとも含有する消炎鎮痛外用製剤である。
更に好適には
(3) 製剤総重量に対して、ロキソプロフェンナトリウム 0.5重量%ないし2重量%、クロタミトン 1重量%ないし2重量%、溶剤および/または皮膚吸収助剤 0.5重量%ないし80重量%、水性高分子化合物 5重量%ないし20重量%および/または脂溶性高分子化合物 10重量%ないし80重量%、保湿剤 10重量%ないし45重量%、を少なくとも含有する消炎鎮痛外用製剤である。
【発明の効果】
【0036】
ロキソプロフェンまたはその医学的に許容できる塩の外用製剤に溶解剤としてクロタミトンを配合することにより、ロキソプロフェンが結晶として析出せず、有効成分の分布性が優れた製剤が得られ、その製剤により、ロキソプロフェンの経皮吸収速度、経皮吸収量の大幅な増大およびロキソプロフェンの持続的な供給が可能となり、それにより、適用部位の皮膚において充分な濃度のロキソプロフェンが持続的に蓄えられ、次いで、そのロキソプロフェンが皮膚においてトランス−OH体へと変換されて、適用部位に充分量のトランス−OH体を確保でき、その結果、この製剤を適用することにより、優れた鎮痛作用を局所的に得ることができる。本発明の消炎鎮痛外用製剤は、皮膚刺激性が少なく、例えば、変形性関節症、慢性関節リウマチ、腰痛症、肩関節周囲炎、腱鞘炎、腱周囲炎、上腕骨上顆炎(テニス肘等)、筋肉痛、外傷後の腫脹・疼痛などの予防および治療に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
本発明の消炎鎮痛外用製剤は、一般的に、以下の調製法によって製造することができる。
【0038】
ロキソプロフェンを有効成分とする外用製剤を調製する場合には、ロキソプロフェンをクロタミトンに溶解し、必要に応じて、上記のような「通常の外用製剤に用いられる各種の基剤」を加えることにより本発明の外用製剤を得ることができる。
【0039】
一方、ロキソプロフェンの医学的に許容できる塩を有効成分とする外用製剤を調製する場合には、ロキソプロフェンの医学的に許容できる塩を適当な溶剤(例えば、水、メタノール、エタノール等)に溶解し、この溶液とクロタミトンとを混合し、必要に応じて、上記のような「通常の外用製剤に用いられる各種の基剤」を加えることにより本発明の外用製剤を得ることができる。尚、「通常の外用製剤に用いられる各種の基剤」は、上記有効成分の溶液とクロタミトンとを混合する前に、その溶液またはクロタミトンに加えられてもよい。
【0040】
特に、ロキソプロフェンナトリウムを有効成分とする外用製剤を調製する場合、より具体的には、以下のように製造することができる。
【0041】
先ず、ロキソプロフェンナトリウム 0.1重量%ないし5重量%を、溶剤(例えば水) 20重量%ないし60重量%に溶解し、予め調製しておいたポリアクリル酸ナトリウム 5重量%ないし20重量%、グリセリン 20重量%ないし35重量%、アルコール類 1重量%ないし5重量%、および適量のpH調整剤溶液の混合液に加え攪拌して、ロキソプロフェンナトリウム含有混合液を調製する。一方、クロタミトン 0.5重量%ないし5重量%、溶剤および/または皮膚吸収助剤 0.5重量%ないし10重量%、および適量の医学的に許容できる添加物を混和して、クロタミトン含有混合液を調製する。次いで、攪拌中にてロキソプロフェンナトリウム含有混合液にクロタミトン含有混合液を添加し、さらに適量の架橋剤水懸濁液(例えば水酸化アルミニウムゲルなど)を加え十分に混練し、目的の外用製剤を製造する。
【0042】
また、上記外用製剤に脂溶性高分子化合物 10重量%ないし30重量%を添加し、水分含量の少ない製剤を製造することもできる。
【0043】
脂溶性高分子を中心とした外用製剤を調製する場合は、溶剤法では粘着剤としてイソブレンやポリイソブチレンなど、ホットメルト粘着剤であればスチレンイソブチレンブロック共重合体などを使用し、更に粘着付与剤に加えて溶剤及び皮膚吸収助剤としてクロタミトン及び上記記載の油性成分を使用して油性タイプの製剤を製造することができる。
【0044】
本発明では、このようにして調製されたロキソプロフェンナトリウムを含有する外用製剤を適当な支持体、例えば不織布、ネルなどに展延し、次いで支持体と相対する製剤の露出面にポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル等の剥離用フイルムを貼着して貼付剤として供することができる。
【0045】
また、上記のように製造された、本発明の外用製剤は、支持体に展延することなく、
そのまま患部に塗布する軟膏剤、クリーム剤として供することもでき、 水性の溶剤(例えば、水、エタノール等)で希釈し、必要に応じて懸濁化剤(例えば、アラビアゴム、アルギン酸ナトリウム、カルメロースナトリウム、ホドロキシプロピルセルロース等)または乳化剤(例えば、ソルビタンモノオレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレート等)を加えて全質を均等にすることにより、ローション剤として供することもでき、あるいは必要に応じて、溶剤で希釈して粘度を低下させ、更に懸濁化剤または乳化剤を加え、噴射剤(例えば、ジメチルエーテル、液化天然ガス等)と共に適当な容器に充填することにより、エアゾール剤として供することもできる。
【0046】
本発明の消炎鎮痛外用製剤の投与量は、症状、年齢、および、その製剤中の有効成分量等によって異なるが、例えば、成人に対して1日あたり、ロキソプロフェン0.005g(好適には、0.01g、更に好適には0.05g)ないし100g(好適には、50g、更に好適には、10g)に相当する外用製剤を患部に適用することが望ましい。また、本発明の外用製剤は、持続性があるので、1日一回の適用により、十分な消炎鎮痛作用を期待することができるが、必要に応じて、上記1日量の外用製剤を、数回に分けて患部に適用することもできる。
【0047】
本発明の消炎鎮痛外用製剤は例えば、変形性関節症、慢性関節リウマチ、腰痛症、肩関節周囲炎、腱鞘炎、腱周囲炎、上腕骨上顆炎(テニス肘等)、筋肉痛、外傷後の腫脹・疼痛などの予防、治療に有用である。
【実施例】
【0048】
以下、本発明を実施例、比較例、試験例により具体的に説明する。なお、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
[実施例1] 2%ロキソプロフェンナトリウム含有外用製剤
ロキソプロフェンナトリウム・二水和物 2.268g(ロキソプロフェンナトリウム 2gに相当する)を水 8mlに加え溶解した。次に、水 45.5mlに酒石酸 0.6gを溶解し、次いでポリアクリル酸ナトリウム11.5gおよびグリセリン 27gを加え混合し、先のロキソプロフェンナトリウム水溶液を添加し、十分に混練してロキソプロフェンナトリウム含有混合液(混合液A)を調製した。次に、クロタミトン 2g、ハッカ油 1gおよびカオリン 2.5gを混合してクロタミトン含有混合液(混合液B)を調製した。混合液Aに攪拌しながら混合液Bを加え、更に水酸化アルミニウムゲル 0.05gを含む水分散液 1mlを加え混合した。得られた混合液の重量を測定し、100gになるように水を添加、調整した後、十分に混練した。得られた 2%ロキソプロフェンナトリウム含有外用製剤を 10g/10×14cmになるように不織布に展延し、ポリエチレンフイルムを貼り合わせ、所望の大きさに裁断して供試剤とした。
[実施例2] 1.2%ロキソプロフェンナトリウム含有外用製剤
ロキソプロフェンナトリウム・二水和物 1.361g(ロキソプロフェンナトリウム 1.2gに相当する)を水 4mlに加え溶解した。
【0049】
以下、実施例1と同様に処理して 1.2%ロキソプロフェンナトリウム含有外用製剤の供試剤を得た。
[実施例3] 1%ロキソプロフェンナトリウム含有外用製剤
ロキソプロフェンナトリウム・二水和物 1.134g(ロキソプロフェンナトリウム 1gに相当する)を水 4mlに加え溶解した。
【0050】
以下、実施例1と同様に処理して 1%ロキソプロフェンナトリウム含有外用製剤の供試剤を得た。
[実施例4] 0.6%ロキソプロフェンナトリウム含有外用製剤
ロキソプロフェンナトリウム・二水和物 0.68g(ロキソプロフェンナトリウム 0.6gに相当する)を水 4mlに加え溶解した。
【0051】
以下、実施例1と同様に処理して 0.6%ロキソプロフェンナトリウム含有外用製剤の供試剤を得た。
[実施例5] 0.5%ロキソプロフェンナトリウム含有外用製剤
ロキソプロフェンナトリウム・二水和物 0.567g(ロキソプロフェンナトリウム 0.5gに相当する)を水 4ml加え溶解した。
【0052】
以下、実施例1と同様に処理して 0.5%ロキソプロフェンナトリウム含有外用製剤の供試剤を得た。
[実施例6] 0.3%ロキソプロフェンナトリウム含有外用製剤
ロキソプロフェンナトリウム・二水和物 0.34g(ロキソプロフェンナトリウム 0.3gに相当する)を水 4mlに加え溶解した。
【0053】
以下、実施例1と同様に処理して 0.3%ロキソプロフェンナトリウム含有外用製剤の供試剤を得た。
[実施例7] 0.25%ロキソプロフェンナトリウム含有外用製剤
ロキソプロフェンナトリウム・二水和物 0.284g(ロキソプロフェンナトリウム 0.25gに相当する)を水 4mlに加え溶解した。
【0054】
以下、実施例1と同様に処理して 0.25%ロキソプロフェンナトリウム含有外用製剤の供試剤を得た。
[実施例8] 0.15%ロキソプロフェンナトリウム含有外用製剤
ロキソプロフェンナトリウム・二水和物 0.17g(ロキソプロフェンナトリウム 0.15gに相当する)を水 4mlに溶解した。
【0055】
以下、実施例1と同様に処理して 0.15%ロキソプロフェンナトリウム含有外用製剤の供試剤を得た。
[実施例9] 1%ロキソプロフェンナトリウム含有外用製剤
実施例2において、クロタミトン 2gの代わりに 1gを用いて同様に処理して、1%ロキソプロフェンナトリウム含有外用製剤の供試剤を得た。
[実施例10] 1%ロキソプロフェンナトリウム含有ローション剤
ロキソプロフェンナトリウム・二水和物 1.134g(ロキソプロフェンナトリウム 1gに相当する)を水 66.8mlに加え溶解した。次に、カルボキシメチルセルロースナトリウム 0.2gにグリセリン 10g及びプロピレングリコール 20gを加え混合し、更にクロタミトン 1g及びハッカ油 0.25gを添加し十分に混合した。本混合液に先のロキソプロフェンナトリウム溶液を添加し、次いで撹拌しながら界面活性剤Tween80 0.5g及びSpan20 0.25gを加え混合し、1%ロキソプロフェンナトリウムを含むローション剤を調製した。
[実施例11] 1%ロキソプロフェン含有外用製剤
水 45.5mlに酒石酸 0.6gを溶解し、次いでポリアクリル酸ナトリウム 11.5gおよびグリセリン 27gを加え混合し、グリセリン含有混合液を調製した。次に、ロキソプロフェン 1gをクロタミトン 2gおよびハッカ油 1gを含む混液に溶解し、更にカオリン 2.5gを加え十分に混練してロキソプロフェン含有混合液を調製した。グリセリン含有混合液に、攪拌しながら、ロキソプロフェン含有混合液を加え、更に水酸化アルミニウムゲル 0.05gを含む水分散液 1mlを加え混合した。得られた混合液の重量を測定し、100gになるように水を添加して調整した後、十分に混練し、1%ロキソプロフェンを含有する外用製剤を得た。
[参考例1] 1%トランス−OH体含有外用製剤
水 45.5mlに酒石酸 0.6gを溶解し、次いでポリアクリル酸ナトリウム 11.5gおよびグリセリン 27gを加え混合し、グリセリン含有混合液を調製した。次に、活性代謝物のトランス−OH体 1gをクロタミトン 2gおよびハッカ油 1gを含む混液に溶解し、更にカオリン 2.5gを加え十分に混練してトランス−OH体含有混合液を調製した。グリセリン含有混合液に攪拌しながら、トランス−OH体含有混合液を加え、更に水酸化アルミニウムゲル 0.05gを含む水分散液 1mlを加え混合した。得られた混合液の重量を測定し、100gになるように水を添加して調整した後、十分に混練した。得られた 1%トランス−OH体含有外用製剤を 10g/10×14cmになるように不織布に展延し、ポリエチレンフイルムを貼り合わせ、所望の大きさに裁断して供試剤とした。
[比較例1]
実施例3において、クロタミトンを用いない以外は同様に処理して、1%ロキソプロフェンナトリウム含有外用製剤の供試剤を得た。
[比較例2]
実施例3において、クロタミトン 2gの代わりにオレイン酸 2gを用いて同様に処理して、1%ロキソプロフェンナトリウム含有外用製剤の供試剤を得た。
[比較例3]
実施例3において、クロタミトン 2gの代わりにミリスチン酸イソプロピル2gを用いて同様に処理して、1%ロキソプロフェンナトリウム含有外用製剤の供試剤を得た。
[試験例1] ロキソプロフェンナトリウム含有外用製剤の経時的結晶析出の 有無
実施例1、実施例9、比較例1乃至3で得られた外用貼付剤について、製造後直ちに製剤中のロキソプロフェンナトリウムの結晶の析出の有無を肉眼及び顕微鏡にて観察した後、アルミニウム袋中に室温で保存し経時的に前記同様に結晶析出の有無を観察した。
【0056】
結果を表1に示す。
(表1) ロキソプロフェンナトリウム含有外用貼付剤の経時的結晶析出の有無
────────────┬──────────────────────
製剤 │ 製造日より結晶析出に至るまでの日数
────────────┼──────────────────────
実施例1の製剤 │ 2年以上析出無し
実施例9の製剤 │ 2年以上析出無し
比較例1の製剤 │ 12日
比較例2の製剤 │ 4ヶ月
比較例3の製剤 │ 4日
────────────┴──────────────────────
表1から明らかなように、溶解剤としてクロタミトンを用いた実施例1および実施例9の製剤には、長期間にわたってロキソプロフェンの析出は認められなかった。即ち、クロタミトンを配合することにより、ロキソプロフェンナトリウムの外用製剤の安定性は、著しく改善された。
[試験例2] ロキソプロフェンナトリウム含有外用製剤のin vitro での皮膚透過試験
実施例3、比較例1及び参考例1で得られた外用貼付剤について、ラット皮膚を用いたin vitroでの皮膚透過試験を行い、未変化体のロキソプロフェン及び活性代謝物のトランス―OH体の濃度を測定し、適用後の皮膚透過性を検討した。
【0057】
各外用貼付剤については、直径1cmの製剤を試験に供した。
【0058】
即ち、Wistar系Imamichi雄ラット(7週齢)にペントバルビタールナトリウムを 1mg/kgの用量で腹腔内投与を行い麻酔した。麻酔後、腹部をバリカン及びシェイバーを用いて剪毛し、皮膚を直径 2.2cmの円状に摘出した。摘出した皮膚の真皮組織下に存在している脂肪層を取り除き、予め37℃に保温した縦型の透過試験用拡散セルに固定した。透過セルの角質層には製剤を貼付し、真皮層側にはレシーバー液としてタイロード液を 4.5ml加えた。24時間の貼付試験中、適時レシーバー液を 0.5mlずつ採取し、薬物濃度の測定のためHPLCに供した。なお、レシーバー液の採取時に37℃に保温した薬物を含まないタイロード液を 0.5ml加えレシーバー液の容積を一定に保った。皮膚透過後の薬物累積量は時間とともに直線的に増加した。
【0059】
HPLC測定方法を以下に示す。
【0060】
即ち、採取した試料に内部標準エタノール溶液[10mg/ml p−ハイドロキシ安息香酸エチルエステル(和光純薬工業(株)社製)]を等量加え混和した後、12,000rpmで5分間遠心し、上清をHPLCのサンプルとした。
【0061】
HPLCの測定条件
カラム : CAPCELLPACK C18(4.6x150mm、
(株)資生堂製)
移動層 : 1%リン酸/アセトニトリル=5/2
カラム温度: 40 ℃
流速 : 1ml/分
検出波長 : 222nm
保持時間 : ロキソプロフェン 12.7 分
トランス−OH体 10.7 分
シス−OH体 11.9 分
p−安息香酸エチルエステル 7.6 分
結果を表2に示す。
(表2) ロキソプロフェンナトリウム含有外用製剤のin vitroでの皮 膚透過試験
───────────────────────────────────
製剤 皮膚透過速度(nmol/cm2 /hr)
ロキソプロフェン トランス−OH体
───────────────────────────────────
実施例3の製剤 2.50 1.25
比較例1の製剤 1.25 0.35
参考例1の製剤 − 0.50
───────────────────────────────────
実施例3および比較例1の製剤についての試験結果から、驚くべきことに、ロキソプロフェンナトリウムは、肝臓または腎臓を経由しなくても、皮膚でその代謝活性体たるトランス−OH体に変換されることが明らかとなった。また、実施例3の製剤と比較例1の製剤とを比較すると、クロタミトンを配合することにより、ロキソプロフェンの透過速度が2倍になっており、更に、レシーバー液中のトランス−OH体(これは、真皮層下に存在するトランス−OH体に相当すると考えられる)の増加速度は約4倍になり、その結果、製剤貼付から一定時間後には、極めて多量のトランス−OH体量がレシーバー液中に存在した。
【0062】
また、参考例1の製剤についての結果から、活性代謝物のトランス−OH体は、皮膚透過性が低く、トランス−OH体そのものを投与しても、レシーバー液中のトランス−OH体の増加速度は小さかった。この結果と、実施例3の製剤についての結果を比較すると、意外にも、プロドラッグのロキソプロフェンナトリウムを投与した方がレシーバー液中のトランス−OH体の増加速度が大きく、それにより、より多量のトランス−OH体がレシーバー液中に存在した。
[試験例3]ロキソプロフェンナトリウム含有外用製剤の皮膚適用後の代謝物の 組織内濃度
実施例3記載の方法に従って作製した14Cで標識したロキソプロフェンナトリウム1%含有外用貼付剤をラット背部皮膚に4時間、8時間、24時間適用したときの皮膚真皮組識及び血漿中の活性代謝物濃度を測定した。
【0063】
Wistar系Imamichi雄ラット(7〜8週齡、1群3匹)の背部体毛をバリカン及びシェイバーで除毛し、2x1.75cmにカットした製剤を貼付した。製剤を各時間ごとに適用したラットより血漿(0.5〜2ml)を採取した後、死亡させた。製剤適用部位中央部の皮膚をセロファンテープを用いて充分ストリッピングにより角質層を除き、真皮部分の脂肪、毛細血管を取り除いた後、ポンチ(φ 1.0cm)で真皮部分を打ち抜き摘出し細切した。次いで、細切した皮膚切片に5倍量のメタノールを添加してホモジナイズし、1800xg、4℃、10分の遠心分離に付した後、その上清を抽出液として得た。上記血漿についても、同様の操作を行い抽出液を得た。各抽出液について、室温にて減圧乾固後、少量のメタノールに再溶解し活性代謝物濃度測定のために薄層クロマトグラフイー(TLC)に供した。
【0064】
TLC法による測定は以下の方法で行った。
【0065】
前記メタノールに溶解した試料をTLCプレート(シリカゲル60F254、Art No.5714、メルク社製)に未変化体であるロキソプロフェン及び代謝物標品を重ねて線状塗布し、展開溶媒としてベンゼン:アセトン:酢酸(80:15:5)を用いて15cm、3回展開した。展開後のTLCプレートを乾燥し、次いで保護膜(4μm、ダイアホイル(株)社製)で覆い、イメージングプレート(TYPE−BA、富士フイルム(株)社製)と密着させ、鉛製シールドボックス内で24時間露出させた。露出後、バイオ・イメージアナライザー(FUJIX BA100、富士フイルム(株)社製)によりイメージングプレート上の放射像を読み取り、オートラジオグラムを作製した。代謝物標品の展開位置は254nmの紫外線ランプにより確認した。次いで、オートラジオグラム上のロキソプロフェン(未変化体)またはトランス−OH体(活性代謝物)の放射性バンド領域及びバックグランド部分に分画し、それぞれの発光強度からロキソプロフェン(未変化体)及びトランス−OH体(活性代謝物)の割合を算出した。
【0066】
ロキソプロフェン(未変化体)及びトランス−OH体(活性代謝物)の濃度は以下の方法で算出した。
【0067】
即ち、TLC操作前に予め試料の放射濃度から算出した総濃度より、TLC上で先に算出した割合に従って求めた。
【0068】
結果を表3に示す。
(表3) 組織中のロキソプロフェン代謝物濃度(μg/gまたはμg/ml)
─────┬─────┬───────────────────────
組織 │ 時間 │ ロキソプロフェン トランス−OH体
─────┼─────┼───────────────────────
真皮層 │ 4時間 │ 61.04 4.17
(μg/g) │ 8時間 │ 60.16 4.00
│24時間 │ 60.48 3.73
─────┼─────┼───────────────────────
血漿 │ 4時間 │ 0.20 0.11
(μg/ml) │ 8時間 │ 0.28 0.17
│24時間 │ 0.13 0.12
─────┴─────┴───────────────────────
表3から明らかなように、真皮層における、活性代謝物であるトランス−OH体の濃度は血漿中のそれに比べて40倍程高く、また真皮層の未変化体であるロキソプロフェンの濃度は血漿中のそれに比べて300倍程高かった。このことからロキソプロフェンナトリウムが直接局所に移行することを示唆した。
【0069】
更に、その量は投与時間中恒常状態を推移しており、このことから1日1回の貼付で十分効果を示すことが示唆された。
[試験例4] カラゲニン足浮腫に対する抑制作用
実施例2、実施例4、実施例6及び実施例8のロキソプロフェンナトリウム外用貼付剤について、カラゲニン足浮腫に対する抑制作用を検討した。
【0070】
本試験を行うために、SD系雄ラット(5週齢)を1群8匹使用した。電気バリカンで剪毛したラット左後肢足蹠皮下に0.5%カラゲニン生理食塩水溶液0.1mlを注入し炎症を惹起させた。起炎後直ちに2×1.75cmにカットした製剤を貼付し、1時間後、2時間後、3時間後、4時間後及び5時間後の足蹠容積を測定し、起炎剤注入前の足蹠容積に対する炎症惹起後の足蹠容積の増加率を浮腫率として本外用製剤の炎症抑制作用を観察した。抑制効果は4時間目に最大に達した。
【0071】
なお、比較のために上記のように炎症を惹起させ、そのまま手当てをせず無処置のラットを「対照群」とした。
【0072】
更に、ロキソプロフェンナトリウムを含有しない他は、実施例1と同じ組成の製剤を用いて処置したラットを「基剤群」とした。
【0073】
結果を表4に示す。
【0074】
(表4) ラットカラゲニン浮腫抑制効果(4時間目)
───────────────────────────────────
製剤 浮腫率(%) 抑制率(%)
(平均±標準誤差)
───────────────────────────────────
対照群 65.2±4.7
基剤群 58.6±4.7 10.2
実施例2の製剤 31.2±3.1** 52.1
実施例4の製剤 33.3±3.1** 48.9
実施例6の製剤 36.9±3.0* 43.4
実施例8の製剤 38.3±4.4* 41.2
───────────────────────────────────
基剤群に対する有意差 *:p<0.01、**:p<0.001
表4から明らかなように、0.15%以上のロキソプロフェンナトリウムを含有する製剤においては、対照群、基剤群に対し濃度依存的に有意な抑制効果を認めた。従って、急性炎症に対し明らかに有効である。
[試験例5] アジュバント関節炎に対する抗炎症作用
実施例1、実施例3、実施例5及び実施例7のロキソプロフェンナトリウム含有貼付剤について、アジュバント関節炎に対する抗炎症作用を観察した。
【0075】
本試験を行うために、Lewis系雄ラット(8週齢)を1群10匹使用した。アジュバントとして、Mycobacterium butyricumの加熱死菌を微細化後、6mg/mlになるように流動パラフインで懸濁させ、120℃で滅菌したものを使用した。両後肢足蹠容積を測定後、50〜60℃に加温した前記死菌懸濁液 0.1mlを尾基皮内に注入した。起炎したラットのアジュバント投与後19日目より右後肢足蹠周辺に 2x1.75cmにカットした製剤を連続9日間貼付し、貼付開始日の両後肢足蹠増加容積を100%浮腫率とし、同容積の経日変動を観察した。
【0076】
なお、「対照群」、「基剤群」は前述の[試験例4]で述べたものと同じである。
【0077】
結果を表5に示す。
【0078】
(表5) アジュバント関節炎に対する抗炎症作用
───────────────────────────────────
製剤 浮腫率(%)(平均±標準誤差)
( )内は浮腫抑制率(%)
21日 26日 31日
───────────────────────────────────
対照群 93.1±4.77 86.7±5.57 79.6±3.98
基剤群 81.4±4.70 73.1±3.89 65.4±3.89
(12.6) (15.7) (17.9)
実施例1 74.4±4.00 52.3±2.38* 48.0±3.20*
の製剤 (20.1) (39.6) (39.8)
実施例3 69.1±4.77 51.6±2.38* 46.4±2.36*
の製剤 (25.8) (40.5) (41.7)
実施例5 76.6±3.99 59.0±2.38* 50.2±2.39*
の製剤 (17.7) (32.2) (36.9)
実施例7 75.2±5.43 61.3±3.10 59.3±3.85
の製剤 (19.2) (29.3) (25.6)
───────────────────────────────────
基剤群に対する有意差 *:p <0.01
表5から明かなように、0.5%以上のロキソプロフェンナトリウムを含有する製剤においては、対照群、基剤群に対し有意な抗炎症作用を認めた。従って、慢性炎症に対し明らかに有効である。
【産業上の利用可能性】
【0079】
ロキソプロフェンまたはその医学的に許容できる塩の外用製剤に溶解剤としてクロタミトンを配合することにより、ロキソプロフェンが結晶として析出せず、有効成分の分布性が優れた製剤が得られ、その製剤により、ロキソプロフェンの経皮吸収速度、経皮吸収量の大幅な増大およびロキソプロフェンの持続的な供給が可能となり、それにより、適用部位の皮膚において充分な濃度のロキソプロフェンが持続的に蓄えられ、次いで、そのロキソプロフェンが皮膚においてトランス−OH体へと変換されて、適用部位に充分量のトランス−OH体を確保でき、その結果、この製剤を適用することにより、優れた鎮痛作用を局所的に得ることができる。本発明の消炎鎮痛外用製剤は、皮膚刺激性が少なく、例えば、変形性関節症、慢性関節リウマチ、腰痛症、肩関節周囲炎、腱鞘炎、腱周囲炎、上腕骨上顆炎(テニス肘等)、筋肉痛、外傷後の腫脹・疼痛などの予防および治療に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
皮膚に存在するケトン還元酵素によって、ロキソプロフェンまたはその医学的に許容できる塩を、トランス−OH体に変換することからなる、トランス−OH体の製造方法。

【公開番号】特開2007−291118(P2007−291118A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−141490(P2007−141490)
【出願日】平成19年5月29日(2007.5.29)
【分割の表示】特願平9−226020の分割
【原出願日】平成9年8月22日(1997.8.22)
【出願人】(307010166)第一三共株式会社 (196)
【出願人】(591051885)リードケミカル株式会社 (18)
【Fターム(参考)】