説明

ロック付開閉装置

【課題】本発明は、引分け式の引戸を確実にロックすることが可能であるとともに、単一のアクチュエータで引戸の開閉及び閉鎖ロックを行うことができる簡素でコンパクトな構成のロック付開閉装置を提供することを目的とする。
【解決手段】ロック付開閉装置は、引分け式の一対の引戸11A・11Bを開閉するためのラックアンドピニオン機構10と、開閉駆動源としてのアクチュエータと、各引戸に固定されたロック部材14A・14Bの移動をそれぞれ拘束することにより引戸11A・11Bを全閉位置でロック可能なロック機構60と、ロック機構60の切換機構33と、前記アクチュエータの駆動力が入力され、ピニオン9と、切換機構33とに対して当該駆動力を出力可能な遊星歯車機構20とを備えている。そして、引戸11A・11Bが全閉位置にあるときは、切換機構33に対して前記駆動力が出力される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハウジングに対して往復移動可能に取付けられた引分け式の引戸を開閉移動可能であるとともに全閉位置においてロックすることが可能なロック付開閉装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ハウジングに対して往復移動可能に取付けられた引戸を開閉移動可能であるとともに全閉位置においてロックすることが可能なロック付開閉装置として、例えば、特許文献1の第2実施形態として記載されている引戸開閉装置が知られている。この特許文献1の構成では、2枚の引戸をラックアンドピニオン機構を介して連結することで引分け式の開閉扉とした上で、この引戸を懸吊するレール移動体と、引戸の開閉駆動のためのリニアモータの可動子とを、緩衝バネを含む緩衝体を介して連結した構成となっている。そして、リニアモータにおいて可動子を駆動して引戸を閉鎖方向に移動するとともに、引戸が全閉位置に至っても、更に上記緩衝体のバネを引き伸ばすように前記可動子を駆動させる。すると、可動子の先端に設けられた押し出し金具がスライドカム装置を戻しバネに抗して押動してスライドさせ、これに伴って下降するカムフォロワがラッチ錠も下降させるので、ラッチ錠はラックアンドピニオン機構のラックに設けた孔部に係止し、こうして全閉位置での引戸のロックが実現される。
【0003】
この構成では、リニアモータの駆動力は、通常は緩衝体の緩衝バネを介して引戸の開閉駆動のために配分される一方、引戸が全閉位置に至ると、リニアモータの駆動力はスライドカム装置へ配分されてラッチ錠によるロックが行われる。即ち、単一のリニアモータ(アクチュエータ)の駆動力が引戸の開閉駆動とロック動作の双方に利用される構成となっており、構成を簡素化できる利点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−142392号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記特許文献1の構成は、ピニオンギアの上方及び下方にラックを配置し、各ラックを左右一対の引戸のそれぞれに連結させることにより、引分け式の引戸を開閉するものであり、一方のラックを拘束することにより、他方の引戸はピニオンギアを介して拘束されることになる。したがって、ピニオンギアあるいはラックが壊れると他方のドアのロックが解除されてしまう虞がある。また、ピニオンギアやラックを強固なものにすることもできるが、設置スペースの大型化やコスト増加等の問題がある。
【0006】
また、上記特許文献1の構成は、リニアモータの駆動力を引戸の開閉駆動とスライドカム装置の押動とに切り換えて配分する機構である緩衝体が、引戸とともにスライド移動するように構成されている。従って、全体構成が複雑化するとともに、緩衝体の可動ストローク分のスペースを確保する必要があり、引戸開閉ロック装置の簡素かつコンパクトな構成を実現することができない。
【0007】
また、引戸の全閉位置においては緩衝体の緩衝バネを引き伸ばすようにしてスライドカム装置を押動する構成であるために、例えば、全閉位置の直前においてドアに風圧等による負荷(引戸の閉鎖に対する抵抗)が加わった場合、引戸が全閉位置に至る前で緩衝バネが伸びてしまうことになる。この結果、可動子の先端の押し出し金具がスライドカム装置を過早の段階で押動してしまい、ラッチ錠とラックの孔部の位置が合っていないのにラッチ錠が下降して、ラッチ錠や孔部を破損させたり、引戸が全閉位置に至る段階の前(開いた状態)で拘束されてしまう恐れがあった。
【0008】
また、引戸の閉鎖ロック時において、リニアモータの故障や停電による電源フェイルなどの何らかの事情によってリニアモータが駆動力を失った場合には、可動子及び押し出し金具は緩衝バネによってスライドカム装置の押動を解除する方向に引っ張られるとともに、スライドカム装置も戻しバネによって戻されるので、カムフォロワとともにラッチ錠が上昇し、ロックが解除されてしまう。これは、故障や電源フェイル時に意図せず閉鎖ロックが解除されてしまうことを意味する。これは鉄道車両の側扉として用いる場合、車両が停車する前にドアが開いてしまうことを意味しており、安全上も好ましくない。
【0009】
なお、引戸に多少の負荷が作用してもラッチ錠が過早に下降するのを防止すべく、前述の緩衝バネを強力なものにした場合は、リニアモータの駆動力が電源フェイル等により失われたときにロック解除の方向に作用する力も強くなるから、意図せぬロック解除の恐れが増大する。即ち、上記した2つの課題は互いに矛盾する関係にあり、両方の課題を同時に満足できるレベルで解決できる構成は未だ提案されていない。
【0010】
本発明は、上記実情に鑑みることにより、引分け式の引戸を確実にロックすることが可能であるとともに、単一のアクチュエータで引戸の開閉及び閉鎖ロックを行うことができる簡素でコンパクトな構成のロック付開閉装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段及び効果】
【0011】
本発明は、ハウジングに対して往復移動可能に取付けられた引分け式の引戸を開閉移動可能であるとともに全閉位置においてロックすることが可能なロック付開閉装置に関する。そして、本発明に係るロック付開閉装置は、上記目的を達成するために以下のようないくつかの特徴を有している。すなわち、本発明のロック付開閉装置は、以下の特徴を単独で、若しくは、適宜組み合わせて備えている。
【0012】
上記目的を達成するための本発明に係るロック付開閉装置における第1の特徴は、ハウジングに対して往復移動可能な引分け式の一対の引戸にそれぞれ取付けられた一対のラックと当該一対のラックに噛合するピニオンからなるラックアンドピニオン機構と、前記引戸の開閉駆動源としてのアクチュエータと、前記ハウジングに設けられ、前記一対の引戸における各引戸に固定されたロック部材の移動をそれぞれ拘束することにより前記一対の引戸を全閉位置でロック可能なロック機構と、前記ロック機構のロック状態とロック解除状態とを切り換えるための切換機構と、前記アクチュエータの駆動力が入力される入力部と、前記ピニオンに対して当該駆動力を出力可能な第1出力部と、前記切換機構に対して当該駆動力を出力可能な第2出力部と、を有する遊星歯車機構と、を備え、前記引戸が全閉位置にあるときは、前記第2出力部から前記切換機構に対して前記駆動力が出力されることである。
【0013】
この構成によると、一対の引戸における各引戸にそれぞれ固定されたロック部材の動きがロック機構によりそれぞれ拘束されるため、一対の引戸をそれぞれ独立してロックすることができる。これにより、ラックアンドピニオン機構が故障した場合においても、両方の引戸の動きをロックした状態を保つことが可能である。逆に、ラックアンドピニオン機構が正常に機能している場合においては、一方の引戸のロックが故障等により解除されてしまった場合でも、当該一方の引戸はラックアンドピニオン機構を介して他の引戸と連結しているため、他の引戸のロックさえ有効であれば、当該一方の引戸をロック状態に維持することができる。したがって、より確実に引分け式の引戸のロックが可能となる。
【0014】
また、この構成では、アクチュエータの動力は遊星歯車機構を介して配分され、一方はラックアンドピニオン機構のピニオンを駆動し、他方は切換機構を駆動する。従って、アクチュエータからの動力伝達(配分)のための構成がコンパクトなスペースに収納されるので、構造を簡素化できるとともに、コンパクトなロック付開閉装置を提供できる。
【0015】
また、アクチュエータからの駆動力の配分は、特許文献1のような緩衝バネではなく遊星歯車機構を用いて行うので、引戸を閉鎖位置でロックした状態でアクチュエータが故障等により駆動力を失った場合でも、切換機構等にロック解除方向の力が加わることがなく、意図せぬロック解除が防止される。
【0016】
また、本発明に係るロック付開閉装置における第2の特徴は、前記切換機構は、前記第2出力部の駆動に伴って移動することにより、前記ロック機構のロック状態とロック解除状態とを切り換えることができる切換部材を有し、前記ロック機構は、前記引戸が全閉位置以外にあるときには前記切換部材の移動を阻止し、前記引戸が全閉位置にあるときには前記切換部材の移動を許容するように構成されていることである。
【0017】
この構成によると、引戸が全閉位置以外にあるときは切換部材の移動が阻止されるので、引戸が全閉位置に確実に到達してからロック動作が行われる。即ち、引戸を閉鎖方向に駆動する際に過早のタイミングでロック動作が行われ、ロック機構が破損したり引戸が全閉の手前で拘束されてしまったりすることが防止される。
【0018】
また、本発明に係るロック付開閉装置における第3の特徴は、前記ロック機構は、前記切換部材の移動に伴って直線状態と屈曲状態とに変形可能なリンク機構と、前記引戸が全閉位置以外にあるときは当該リンク機構を屈曲状態に保持するリンク保持機構と、を備え、前記引戸が全閉位置にあるときに、当該リンク機構が直線状態に変形することにより、前記引戸に固定されたロック部材の動きを拘束することである。
【0019】
この構成によると、全閉位置においてリンク機構を直線状態とすることで引戸の移動をロックできるとともに、全閉位置以外においてはリンク保持機構によりリンク機構が屈曲状態に保持されるため、引戸が全閉位置に到達してからロック動作が行われる。このように、ロック機構は、リンク機構を用いて駆動するためコンパクトに形成できるとともに、機械的に駆動するため、安定した駆動が実現可能である。
【0020】
また、本発明に係るロック付開閉装置における第4の特徴は、前記ロック部材は、鉛直方向に延びるように前記引戸に固定されたロックピンからなり、前記リンク保持機構は、前記リンク機構の両端部近傍に回動自在に設置され、全閉位置において前記ロックピンと係合する第1係合部及び全閉位置において直線状態の前記リンク機構の端部と係合する第2係合部を有する一対の係合部材からなり、前記係合部材は、前記引戸が全閉位置以外の位置にあるときは、前記リンク機構の直線状態への移行を阻止することにより前記切換部材の移動を阻止するとともに、前記引戸の閉鎖方向への移動時において前記ロックピンに付勢されて前記リンク機構の端部が前記第2係合部と係合可能な位置まで回動することにより前記切換部材の移動を許容することである。
【0021】
この構成によると、全閉位置においては、係合部材は、ロックピンと係合することになる。そして、リンク機構が直線状態に延びることにより、当該リンク機構の端部と係合して、回動を拘束される。これにより、ロックピンは当該係合部材と係合した状態で移動が拘束される。このように、係合部材により、全閉位置以外においてはリンク機構の直線状態への移行を阻止できるとともに、全閉位置においてロックピンの移動を拘束することができる。そのため、ロック機構を形成するために必要な部品点数を少なくすることができるとともに、よりコンパクトなロック機構とすることができる。
【0022】
また、本発明に係るロック付開閉装置における第5の特徴は、前記切換部材は、前記ロック機構に対して一方向にスライド移動可能であるとともに、底面に湾曲した形状のスリット部を有するロックスライダからなり、前記リンク機構は、当該ロックスライダの底面と平行な面内で作動するとともに、一の連結点に設けられた連結ピンが前記スリット部に挿入されており、前記ロックスライダの移動に伴い、前記連結ピンが当該スリット部に沿って移動することで当該リンク機構が直線状態と屈曲状態とに変形することである。
【0023】
この構成によると、ロックスライダとリンク機構との間に他の部材を介在させることなく、ロックスライダの一方向への移動により、リンク機構を直線状態と屈曲状態とへ変形することが可能となる。したがって、ロック機構の設置スペースを小さくすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の実施形態に係るロック付開閉装置を設置した車両用開閉扉を示す正面図である。
【図2】ロック解除状態のロック付開閉装置を示す要部正面図である。
【図3】図2における矢印X方向から見たロック機構を示す概略図である。
【図4】ロック状態のロック付開閉装置を示す要部正面図である。
【図5】図4における矢印X方向から見たロック機構を示す概略図である。
【図6】図4における矢印Y方向から見たロック機構及びロックスライダを示す部分断面概略図である。
【図7】ロック状態のロック機構を水平方向から見た部分断面概略図である。
【図8】通常の閉鎖動作時におけるキャリアの状態を示す概略図である。
【図9】閉鎖動作時において引戸の移動抵抗増加時のキャリアの状態を示す概略図である。
【図10】本実施形態の変形例に係るロック解除状態のロック機構及びロックスライダを示す図である。
【図11】本実施形態の変形例に係るロック状態のロック機構及びロックスライダを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明を実施するための最良の形態について図面を参照しつつ説明する。図1は、ロック付開閉装置を車両用開閉扉に設置した実施形態を示す正面図である。図2は、ロック解除状態のロック付開閉装置の構成を示す要部正面図である。図3は、図2に示すロック機構を下方(図2における矢印Xの方向)から見たロック機構の構成を示す概略図である。また、図4は、ロック状態のロック付開閉装置の構成を示す要部正面図であり、図5は、図4に示すロック機構を下方(図4における矢印Xの方向)から見たロック機構の構成を示す概略図である。図6は、ロックスライダの移動方向(図4における矢印Y方向)から見たロック機構及びロックスライダを示す部分断面概略図である。
【0026】
図1に示す車両用開閉扉1は、鉄道車両等の車両の側壁に形成された開口部を開閉可能な扉として構成されており、引分け式の左右一対の引戸11A・11Bを備えている。この2枚の引戸11A・11Bは、前記の開口部の上方に水平に設置されたガイドレール2に沿って往復移動可能に設けられている。より具体的には、前記引戸11A・11Bのそれぞれの上縁にはハンガー3A・3Bが固定されており、それぞれのハンガー3A・3Bには戸車4が回転自在に軸支されている。この戸車4は、ガイドレール2上を転動可能に構成されている。
【0027】
そして、この車両用開閉扉1は、本発明の一実施形態に係るロック付開閉装置によって開閉され、且つ、閉状態で不意に開かないように自動的にロックできるようになっている。鉄道車両等の車両の側扉は走行中に開放されると危険であり、走行中は不意に開かないように確実にロックしておくことが要求される。
【0028】
以下、詳細に説明する。車両の側壁(ハウジング)の上部(前記開口部の上方の空間)には板状の基体5が固着され、この基体5に固定されたラックサポート6に、2本のラック7A・7Bが支持されている。このラック7A・7Bは、その長手方向を水平(前記ガイドレール2と平行)に向けて配置されるとともに、当該長手方向(水平方向)に摺動可能となるよう、スライド支持部8によって支持されている。
【0029】
2本のラック7A・7Bは上下方向に適宜の間隔を形成しつつ互いに平行に配置され、また、それぞれの歯部が互いに対向するように配置されている。そして、2本のラック7A・7Bの双方の歯部に同時に噛合するようにして、ピニオン9が回動自在に配置されている。このピニオン9は、開閉扉1の開口部上方の左右中央位置であって、且つ、2本のラック7A・7Bに上下を挟まれた位置に配置される。
【0030】
2本のラック7A・7Bのそれぞれの一端には、アーム部材13A・13Bが設置されている。このアーム部材13A・13Bは、それぞれハンガー3A・3Bに対して結合部材15a・15bを介して固定されている。即ち、ラック7A・7Bのそれぞれの一端は、当該アーム部材13A・13Bを介して、対応する引戸11A・11Bに連結されている。このラック7A・7Bとピニオン9により、ラックアンドピニオン機構10が構成されており、ラックアンドピニオン機構10により2枚の引戸11A・11Bは開閉駆動される。なお、ラックアンドピニオン機構10は、左右の引戸11A・11B同士を連結することで、引戸11A・11Bの対称的な開閉を実現する役割も果たしている。
【0031】
図2及び図4に示すように、一対のアーム部材13A・13Bのそれぞれには、鉛直方向上向きに延びるロックピン14A・14B(ロック部材)が固定されている。当該ロックピン14A・14Bが後述するロック機構60により拘束されることにより、一対の引戸11A・11Bの移動がロックされることになる。
【0032】
また、前記基体5には遊星歯車機構20が支持されている(図2、図4参照)。この遊星歯車機構20は、回転自在に軸支されたサンギア21(入力部)と、このサンギア21の外周に複数配置され、サンギア21に噛合しつつ自転及び公転が可能なプラネタリギア24と、当該プラネタリギア24に外側で噛合する内歯を有するインターナルギア22(第1出力部)と、当該プラネタリギア24を回転自在に支持するキャリア23(第2出力部)と、を有している。サンギア21、インターナルギア22、キャリア23の三者は、同一軸線上に配置されるとともに、それぞれが他に対して相対回転自在となるように配置されている。また、前記三者の軸線は、前述のラックアンドピニオン機構10のピニオンの軸線とも一致している。
【0033】
そして、前記サンギア21には、正逆回転可能な図略のダイレクトドライブ方式の電動モータ(アクチュエータ)の出力軸が連結されている。なお、適宜の減速機構を介して連結しても構わない。また、前記インターナルギア22は、図示しないボルト等を介して前述のラックアンドピニオン機構10のピニオン9に連結されている。更に、前記キャリア23は、後述のロック機構60のロック状態とロック解除状態とを切り換えるためのロックスライダ33(切換部材)を牽引するための牽引部材70に連結されている。
【0034】
この牽引部材70及びロックスライダ33は、基体5に対して固定されたラック7A・7Bと平行に延びるガイド軸72に沿って一方向に往復移動可能に設置され、ロック状態の切換機構を構成している。牽引部材70は、キャリア23の回転に伴って、前記一方向において移動可能となるように、キャリア23と結合している。牽引部材70とロックスライダ33との間には、コイルバネ状のトルクリミットスプリング71が配設されている。当該トルクリミットスプリング71は、牽引部材70をロックスライダ33に押し付けるように当該牽引部材70とロックスライダ33とに弾性力を作用させている。即ち、トルクリミットスプリング71は、牽引部材70のロックスライダ33に対する相対移動を抑制するように配置されている。
【0035】
ロックスライダ33は、その上端に、移動方向において所定の間隔を空けてガイド軸72と摺動可能に形成された取付部33a及び取付部33bを備えている。そして、取付部33a及び取付部33bから下方に向かって延びる前面部33cと、当該前面部33cの下端から図2における紙面奥行方向に向かって90度屈曲して形成される底面部33dとを備えている(図3、図5、図6参照)。前記牽引部材70は、取付部33aと取付部33bとの間においてガイド軸72に取付けられ、前記トルクリミットスプリング71は、ロックスライダ33のロック方向(図2、図4において矢印で示す)の先端側に位置する取付部33bと牽引部材70との間のガイド軸72に取付けられている。トルクリミットスプリング71は軸方向に圧縮された状態(弾性変形した状態)で取付けられているので、牽引部材70は取付部33aに向かって付勢力を受け、牽引部材70の端部を取付部33aに当接した状態で保持される。
【0036】
また、図3及び図5に示すように、ロックスライダ33の底面部33dには、湾曲した形状のスリット33e(スリット部)を有している。このスリット33eは、移動方向と平行に延びる第1孔部αと、当該第1孔部αに連続して移動方向と略垂直方向に向かって滑らかに湾曲するように形成された第2孔部βとを備えている。
【0037】
次に、開閉扉1のロック機構60について詳細に説明する。図7は、ロック状態にあるロック機構60を水平方向から見た部分断面模式図である。このロック機構60は、水平面内において作動する機構であって、ロックスライダ33の底面部33dの上方(遊星歯車機構20側)に隣接するように、基体5に対して位置が固定されるように設置されている(図2、図4参照)。
【0038】
図3及び図5に示すように、ロック機構60は、水平面内で直線状態と屈曲状態に変形可能なリンク機構61と水平面内で作動するリンク保持機構65とからなる。リンク機構61は、3つのリンク62a、62b、62cを連結して形成されている。中央のリンク62aは、その長手方向中央部において連結ピン63aにより、基体5に対して回動自在に固定されている。当該中央のリンク62aの一端には、連結ピン63bによりリンク62bの一端が連結している。また、リンク62aの他端には、ガイド用連結ピン63cによりリンク62cの一端が連結している。リンク62b及びリンク62cにおけるリンク62aとの連結点と逆側の端部には、ピン63d及び63eを備えている。
【0039】
図3、図5及び図7に示すように、リンク機構61の端部に位置するピン63d、63eはそれぞれ、基体5においてロックスライダ33の移動方向と平行な直線状に形成されたガイド溝80A、80B(図3、図5においては二点差線で示す)に端部を挿入されて、当該ガイド溝80A、80Bに沿って移動可能に設置されている。即ち、ピン63d、63eの動きはガイド溝80A、80Bによってそれぞれ規制されている。尚、ピン63d及び63eにおけるガイド溝80A、80Bへ挿入される側の端部はローラとして形成されているため(図4参照)、ガイド溝80A、80Bとの摩擦を減らし、端部の移動を円滑にすることが可能となる。また、ピン63d及び63eにおけるロックスライダ33側の端部もローラとして形成されており(図4参照)、後述する係合部材66A・66Bの縁部に沿って移動する際の摩擦を減らし、ロック動作を安定させることが可能となる。
【0040】
また、リンク機構61のガイド用連結ピン63cのロックスライダ33側の端部はローラとして形成されており、前記ロックスライダ33のスリット33eに挿入されている。したがって、ロックスライダ33の位置により、ガイド用連結ピン63cの位置が規制されることになる。これより、ロックスライダ33の移動により、リンク機構61の直線状態と屈曲状態とを切り換えることが可能となる。
【0041】
リンク保持機構65は、当該リンク機構61の両端部近傍において、リンク機構61に対して(連結ピン63aに対して)対称に、水平面内で回動自在に設置された一対の係合部材66A・66Bと、当該一対の係合部材同士を連結する連結バネ69と、を備えて構成されている。当該係合部材66A・66Bはそれぞれ、その周縁部に、凹状に形成された第1係合部67A・67B及び第2係合部68A・68Bを備えており、この係合部材66A・66Bの回動軸81A・81Bは、基体5に対して固定設置されている(図7参照)。尚、当該一対の回動軸81A・81Bには、掛渡し部材82が固定されており、前記リンク機構61の中央のリンク62aを回動自在に固定するための連結ピン63aは、当該掛渡し部材82によって支持される(図2、図4参照)。
【0042】
リンク保持機構65は、外部から力を受けていない状態においては、係合部材66A・66Bが連結バネ69から力を受け、図3に示す状態に保持される。このとき、係合部材66A・66Bは、リンク機構61が直線状態に延びる動きを外縁部(図3において矢印P1で示す部分)によって拘束している。このように、リンク機構61が、係合部材66A・66Bにより屈曲状態に保持されているときは、ロックスライダ33は、スリット33e及びガイド用連結ピン63cを介して、ロック方向(図3において矢印で示す方向)への移動を拘束されることになる。
【0043】
一方、係合部材66A・66Bは、引戸11A・11Bに対してそれぞれ固定されているロックピン14A・14Bが閉鎖方向(図3において矢印で示す方向)に移動することにより、第1係合部67A・67Bの縁部(図3においてP2で示す部分)を付勢され、連結バネ69の付勢力に逆らって第2係合部68A・68Bをリンク機構61に近づける方向(図3において矢印R1で示す方向)に回動できるように形成されている。引戸11A・11Bが全閉位置にある状態においては、図5に示すように、ロックピン14A・14Bと第1係合部67A・67Bとが係合し、第2係合部68A・68Bの位置が、リンク機構61の端部に位置するピン63d・63eと係合することができる位置となる。即ち、係合部材66A・66Bはリンク機構61の変形を拘束しない状態に移行する。このとき、ロックスライダ33がロック方向に移動すれば、スリット33eに沿ってガイド用連結ピン63cが移動することにより、リンク機構61は、屈曲状態から直線状態に移行する。そして、リンク機構61の端部に位置するピン63d・63eが係合部材66A・66Bの第2係合部68A・68Bと係合する。これにより、係合部材66A・66Bの回動が拘束される。したがって、ロックピン14A・14Bの開放方向(図5において矢印で示す)への移動が第1係合部67A・67Bにより拘束されることになる。
【0044】
次に、引戸11A・11Bの開閉及びロック動作について、図2〜図4を参照して説明する。図2には、引戸11A・11Bが閉鎖方向に移動しているときの様子が示されており、ロック機構60のロック状態が解除されている状態が示されている。この状態では、ロックピン14A・14Bは、ロック機構60から離れた位置にあり、ロック機構60は、図3に示す状態に保持されている。
【0045】
このロック解除状態においては、リンク機構61は屈曲状態であり、係合部材66A・66Bによりリンク機構61の直線状に延びる動きを拘束されている。これにより、リンク機構61のガイド用連結ピン63c及びスリット33eを介してロックスライダ33のロック方向への動きは拘束される。
【0046】
これにより、図2、図3のロック解除状態において遊星歯車機構20のサンギア21が前記電動モータによって駆動されるとき、インターナルギア22を介してピニオン9に伝達されるか、プラネタリギア24の公転に伴って回転するキャリア23を介してトルクリミットスプリング71を弾性変形させるように駆動力が伝達されることになる。
【0047】
ここで、トルクリミットスプリング71は、引戸11A・11Bが正常に閉鎖動作を行っているときの移動抵抗と釣り合うようにプラネタリギア24の公転に伴うキャリア23の回転を抑制する所定の弾性力をキャリア23に対して作用させるように、キャリア23に連結した牽引部材70を付勢している。そのため、正常の閉鎖動作時において遊星歯車機構20のサンギア21が電動モータによって駆動されるとき、プラネタリギア24は公転せず自転のみ行うので、サンギア21の駆動力はすべてインターナルギア22を介してピニオン9に伝達され、引戸11A・11Bが開閉駆動されることになる。
【0048】
また、引戸11A・11Bを閉鎖方向に移動したとしても、ロックピン14A・14Bと係合するロック機構60の係合部材66A・66Bは連結バネ69により弾性力を受け、図3に示す状態に保持されているため、引戸11A・11Bが全閉位置に達するまでは、ロック位置(図5に示す位置)まで回動することはない。これにより、引戸11A・11Bが全閉位置に達する前に過剰に早くロック機構60が作動することを防止できる。よって、ロックピン14A・14Bがロック位置に移行した係合部材66A・66Bに衝突してロック機構60が故障することはない。
【0049】
尚、引戸11A・11Bの閉鎖動作時において、乗降客が挟まれた場合など、引戸11A・11Bの移動抵抗が著しく大きくなった場合については、後述するように、トルクリミットスプリング71による付勢力に逆らってキャリア23が回転し、当該キャリア23の回転を検知して電動モータの回転を一時的に停止させるなど、所定の安全動作が行われることになる。
【0050】
次に、引き戸11A・11Bを閉鎖する方向にサンギア21が駆動された結果、引戸11A・11Bが全閉位置に近づき、引戸11A・11Bに対して固定されたロックピン14A・14Bが、係合部材66A・66Bに当接したとする(図3参照)。そして、この状態からサンギア21を駆動して引戸11A・11Bを更に閉鎖方向に移動させると、ロックピン14A・14Bは、係合部材66A・66Bを付勢して当該係合部材66A・66Bを図3における矢印R1方向に回動させつつ、第1係合部67A・67Bの凹部に入り込んでいく。
【0051】
引戸11A・11Bが全閉位置まで達したとき、係合部材66A・66Bは、第1係合部67A・67Bにロックピン14A・14Bを係合させるとともに、第2係合部68A・68Bをリンク機構61の端部に位置するピン63d・63eに対向させたロック位置への移行が完了する。これにより、リンク機構61の直線状態への移行が許容される。したがって、引戸11A・11Bが全閉位置まで移動すると、上述のように、直線状態への移行が許容されたリンク機構61と、ガイド用連結ピン63c及びスリット33eを介して連結されているロックスライダ33は、ロック方向に移動できるようになる。この結果、トルクリミットスプリング71及び牽引部材70を介してロックスライダ33と連結されているキャリア23の回転が許容される。
【0052】
一方、引戸11A・11Bが全閉位置に達した後は、閉鎖方向への移動ができなくなるので、この引戸11A・11Bにラックアンドピニオン機構10を介して連結されるインターナルギア22の回転も阻止される。したがって、回転を継続するサンギア21の駆動力は今度はキャリア23へ伝達されることとなり、キャリア23が図2において反時計回りに回転するとともに、トルクリミットスプリング71及び牽引部材70を介してロックスライダ33がロック方向に移動することになる。そして、ロックスライダ33のロック方向への移動にともなって、リンク機構が屈曲状態(図3の状態)から直線状態(図5の状態)に移行することになる。この直線状態では、係合部材66A・66Bの回動は、リンク機構61のピン63d・63eにより拘束されているため、係合部材66A・66Bの第1係合部67A・67Bに係合したロックピン14A・14Bの移動は阻止される。したがって、引戸11A・11Bの移動は当該ロックピン14A・14Bを介してロックされる。尚、ガイド軸72には、ロックスライダ33の取付部33aをロック方向に付勢するようにロックスプリング73が設置されており、ロック位置にあるロックスライダ33がロック解除位置に戻ることを抑制し、より確実にロック状態を維持することが可能となる。
【0053】
以上のようにして、図2及び図3から図4及び図5への変形に示すように、引戸11A・11Bの全閉位置への移動後にロック機構60が自動的にロック状態に切り換えられて、引戸11A・11Bは閉鎖された状態のままロックされる。したがって、遊星歯車機構20のサンギア21を単一のアクチュエータで駆動するだけで、引戸11A・11Bの閉鎖に連動したロックが実現され、駆動構成を簡素とすることができる。
【0054】
また、この図4及び図5のロック状態では、係合部材66A・66Bの回転をリンク機構61によって規制するロック、及び、このリンク機構61の直線状態から屈曲状態への変形をロックスライダ33によって規制するロックとにより2重にロックを掛けることが可能になっている。これにより、例えば、車両の停電や故障などにより電動モータが電源フェイルに陥り、その出力軸(前記サンギア21)の回転がフリーになった場合でも、引戸11A・11Bの開放は上記の二重ロックにより極めて確実に防止される。これは、車両が停電等になっても、引戸11A・11Bが風圧等により不意に開放されてしまう事態を防止できることを意味する。
【0055】
なお、上記のロック状態からロック解除状態への切換、及び引戸11A・11Bの開放は、単に前記の電動モータによってサンギア21を閉鎖時と反対方向へ駆動するだけで良い。ロック状態(図4及び図5)においては、引戸11A・11Bは係合部材66A・66Bによってロックされているためにインターナルギア22の回転が阻止される。一方、ロックスライダ33のロック解除方向への移動は、ロックスプリング73の付勢力によってのみ抑制されている。即ち、当該ロックスプリング73の付勢力に反する駆動力がロックスライダ33に伝達されれば、ロックスライダ33をロック解除方向に移動させることが可能な状態である。したがって、ロック状態からサンギア21を閉鎖時と反対方向に駆動すると、サンギア21の駆動力がすべてキャリア23に伝達され、牽引部材70を介してロックスライダ33がロック解除方向に向かってロックスプリング73の付勢力に対抗するように移動する。このロックスライダ33のロック解除方向への移動に伴い、リンク機構のガイド用連結ピン63cがスリット33eの縁に沿って第1孔部αから第2孔部βに移動することにより、リンク機構61が直線状態から屈曲状態に移行する。これにより、係合部材66A・66Bの第2係合部68A・68Bと、リンク機構61の端部に位置するピン63d・63eとの係合が外れると、一対の係合部材66A・66Bを連結する連結バネ69の引張りの弾性力により、係合部材66A・66Bは、第1係合部67A・67Bを外側に(リンク機構61と逆側に)向けるように図5においてR2方向に回動させる力を受ける。したがって、第2係合部68A・68Bに対して係合状態にあるロックピン14A・14Bの開放方向への移動が許容され、引戸11A・11Bのロックが解除される。
【0056】
一方、ロックスライダ33のロック解除方向への移動は、図2に示す位置で、ロックスプリング73の変形限界によって拘束されることになる。尚、ロックスライダ33のロック解除方向への移動は、ロックスプリング73の変形限界により拘束される場合に限らず、キャリア23と基体5とが所定位置で当接することにより拘束されてもよいし、また、リンク機構61のガイド用連結ピン63cが挿入されるガイド溝80A・80Bの長さを適宜設定して、当該ガイド用連結ピン63cの移動がガイド溝80A・80Bにより拘束されることにより、リンク機構61の変形を拘束し、これにより、ロックスライダ33の移動が拘束されてもよい。
【0057】
ロックスライダ33のロック解除方向への移動が拘束された結果、遊星歯車機構20におけるサンギア21の駆動力は今度はインターナルギア22側に伝達されるので、引戸11A・11Bはラックアンドピニオン機構10を介して開放方向へ駆動される。このとき、係合部材66A・66Bは連結バネ69によりロック解除位置に回転させる力(図5におけるR2方向の力)を受けているため、引戸11A・11Bに対して固定されているロックピン14A・14Bの動きを拘束することはない。
【0058】
尚、ロックスライダ33と、車両内部又は外部からアクセス可能な位置に設けられた図示しないレバーとを、図示しないワイヤなどの連結部材で接続させた構成にすることにより、緊急時において、このレバーを人が操作して、ロックスライダを解除状態となる方向に移動させ、ロックを解除した上で、手動で引戸11A・11Bを開くことも可能である。また、更に簡易な構成とするために、ロックスライダ33に直接レバーを固定した構成とすることも可能である。
【0059】
次に、引戸11A・11Bの閉鎖動作時(引戸が全開位置から全閉位置に向かって移動している時)において、乗降客が引戸11A・11Bに挟まれた場合や一方の引戸が乗降客に衝突した場合など、引戸11A及び引戸11Bの少なくともいずれか一方の移動抵抗が著しく大きくなった場合について図8及び図9を用いて説明する。図8は、通常の閉鎖動作時におけるキャリア23の状態を示す概略図である。図9は、閉鎖動作時において引戸の移動抵抗が増加したときのキャリア23の状態を示す概略図である。
【0060】
正常に引戸11A・11Bの閉鎖動作が行われているとき、即ち、引戸11A・11Bがいずれも、外部から移動を妨げられることなく通常の移動抵抗で動作している場合は、上述したように、サンギア21の駆動力はインターナルギア22側に伝達され、ラックアンドピニオン機構10を介して引戸11A・11Bが閉鎖方向に駆動される。これは、上述したように、引戸11A・11Bが全閉位置以外にある場合は、ロックスライダ33の移動が拘束されており、このロックスライダ33の移動が拘束された状態で、トルクリミットスプリング71により、正常に引戸11A・11Bが閉鎖動作しているときにキャリア23が回転することを抑制できる所定の弾性力で当該キャリア23に連結した牽引部材70が付勢されているからである。本実施形態においては、図8に示す状態において、引戸11A・11Bの移動抵抗と釣り合うようにキャリア23の回転を抑制する弾性力が牽引部材70を介してキャリア23に作用している。つまり、閉鎖動作時において、引戸11A・11Bに通常の移動抵抗以上の力が作用した場合は、ロックスライダ33の位置は固定されたまま、トルクリミットスプリング71を弾性変形させながらキャリア23が回転できるように(図9に示す状態に移行できるように)構成されている。
【0061】
また、キャリア23の外周縁部に永久磁石83が固定されており、キャリア23の回転に伴って永久磁石83が移動することにより、基体5側に取付けられた検知スイッチ84が切り換わるように構成されている。具体的には、引戸11A・11Bが通常の移動抵抗で動作しているときのキャリア23の位置において当該検知スイッチ84はOFF状態であり、引戸11A・11Bの移動抵抗の増加に伴ってキャリア23が所定量回転することにより、当該検知スイッチ84はON状態となる(図9参照)。そして、当該検知スイッチ84がON状態に切り換わると、電気モータに対して駆動を停止させる信号が送信され、電気モータの駆動が停止する。
【0062】
これにより、引戸11A・11Bの閉鎖動作時において、乗降客を挟みこんだ場合や、引分け式の引戸の一方の引戸が乗降客に衝突した場合など、引戸の閉鎖方向への移動抵抗が増加した場合に、電気モータの駆動を停止させ、引戸11A・11Bに挟まれた乗降客等に与える衝撃力を緩和することが可能となる。尚、検知スイッチ84がON状態になったとき(戸挟み・衝突を検知したとき)に、電気モータの駆動を停止する場合に限らず、電気モータの駆動出力を低下させるように制御してもよい。
【0063】
また、引戸11A・11Bが全閉位置にある場合においては、上述したような電気モータの駆動を停止させる信号は送信されないように、もしくは、送信されても電気モータの駆動が停止しないように構成されているため、上述したロックスライダ33のロック方向への移動動作時に電気モータの駆動が停止することはない。
【0064】
尚、例えば、引戸がロック状態となったことを検知するロック状態検知センサを設け、前記検知スイッチ84により検知信号が発信された後、所定時間内に当該ロック状態検知センサの検知信号が発信されない場合は、引戸の戸挟み・衝突等が発生したと判断し、電気モータの駆動を停止する構成にすることも可能である。また、例えば、引戸の減速度を検知する減速度センサを併用して、閉鎖動作時において引戸の移動速度が大きい場合は、前述した検知スイッチ84によりキャリアの回転を検知することにより戸挟み・衝突等を判断し、引戸が閉鎖位置近傍に至って引戸の移動速度が遅くなったときは減速度センサにより戸挟み・衝突等の検知をする構成とすることも可能である。
【0065】
以上に示すように、本実施形態のロック付開閉装置は、車両のハウジング(壁面)に対して往復移動可能な引分け式の一対の引戸11A・11Bにそれぞれ取付けられた一対のラック7A・7Bと当該一対のラック7A・7Bに噛合するピニオン9からなるラックアンドピニオン機構10と、前記引戸11A・11Bの開閉駆動源としての電気モータと、車両のハウジングに固定された基体5に設けられ、前記一対の引戸11A・11Bにおける各引戸に固定されたロックピン14A・14Bの移動をそれぞれ拘束することにより前記一対の引戸11A・11Bを全閉位置でロック可能なロック機構60と、前記ロック機構60のロック状態とロック解除状態とを切り換えるためのロックスライダ33と、前記電気モータの駆動力が入力されるサンギア21と、前記ピニオン9に対して当該駆動力を出力可能なインターナルギア22と、前記ロックスライダ33に対して当該駆動力を出力可能なキャリア23と、を有する遊星歯車機構20と、を備えている。そして、前記引戸11A・11Bが全閉位置にあるときは、前記キャリア23から前記ロックスライダ33に対して前記駆動力が出力される構成となっている。
【0066】
この構成によると、一対の引戸11A・11Bにおける各引戸にそれぞれ固定されたロックピン14A・14Bの動きがそれぞれロック機構60により拘束されるため、一対の引戸11A・11Bをそれぞれ独立してロックすることができる。これにより、ラックアンドピニオン機構10が故障した場合においても、両方の引戸11A・11Bの動きをロックした状態を保つことが可能である。逆に、ラックアンドピニオン機構10が正常に機能している場合においては、一方の引戸11A(11B)のロックが故障等により解除されてしまった場合でも、当該一方の引戸11A(11B)はラックアンドピニオン機構10を介して他の引戸11B(11A)と連結しているため、他の引戸11B(11A)のロックさえ有効であれば、当該一方の引戸11A(11B)をロック状態に維持することができる。したがって、より確実に引分け式の引戸11A・11Bのロックが可能となる。
【0067】
また、この構成では、電気モータの動力は遊星歯車機構20を介して配分され、一方はラックアンドピニオン機構10のピニオン9を駆動し、他方はロックスライダ33を駆動する。従って、電気モータからの動力伝達(配分)のための構成がコンパクトなスペースに収納されるので、構造を簡素化できるとともに、コンパクトなロック付開閉装置を提供できる。
【0068】
また、電気モータからの駆動力の配分は、特許文献1のような緩衝バネではなく遊星歯車機構20を用いて行うので、引戸11A・11Bを閉鎖位置でロックした状態で電気モータが故障等により駆動力を失った場合でも、ロックスライダ33等にロック解除方向の力が加わることがなく、意図せぬロック解除が防止される。
【0069】
また、本実施形態のロック付開閉装置は、前記キャリア23の駆動に伴って移動することにより、前記ロック機構60のロック状態とロック解除状態とを切り換えることができるロックスライダ33を有している。そして、前記ロック機構60は、前記引戸11A・11Bが全閉位置以外にあるときには前記ロックスライダ33の移動を阻止し、前記引戸11A・11Bが全閉位置にあるときには前記ロックスライダ33の移動を許容するように構成されている。
【0070】
この構成によると、引戸11A・11Bが全閉位置以外にあるときはロックスライダ33の移動が阻止されるので、引戸11A・11Bが全閉位置に確実に到達してからロック動作が行われる。即ち、引戸11A・11Bを閉鎖方向に駆動する際に過早のタイミングでロック動作が行われ、ロック機構60が破損したり引戸11A・11Bが全閉の手前で拘束されてしまったりすることが防止される。
【0071】
また、本実施形態のロック付開閉装置において、前記ロック機構60は、前記ロックスライダ33の移動に伴って直線状態と屈曲状態とに変形可能なリンク機構61と、前記引戸が全閉位置以外にあるときは当該リンク機構61を屈曲状態に保持するリンク保持機構65と、を備えている。そして、ロック機構60は、前記引戸11A・11Bが全閉位置にあるときに、当該リンク機構61が直線状態に変形することにより、前記引戸11A・11Bにそれぞれ固定されたロックピン14A・14Bの動きを拘束する。
【0072】
この構成によると、全閉位置においてリンク機構61を直線状態とすることで引戸11A・11Bの移動をロックできるとともに、全閉位置以外においてはリンク保持機構65によりリンク機構61が屈曲状態に保持されるため、引戸11A・11Bが全閉位置に到達してからロック動作が行われる。このように、ロック機構60は、リンク機構61を用いて駆動するためコンパクトに形成できるとともに、機械的に駆動するため、安定した駆動が実現可能である。
【0073】
また、本実施形態のロック付開閉装置は、鉛直方向に延びるように前記引戸11A・11Bに固定されたロックピン14A・14Bを有している。そして、前記リンク保持機構65は、前記リンク機構61の両端部近傍に回動自在に設置され、全閉位置において前記ロックピン14A・14Bと係合する第1係合部67A・67B及び全閉位置において直線状態の前記リンク機構61の端部と係合する第2係合部68A・68Bを有する一対の係合部材66A・66Bを用いて構成されている。前記係合部材66A・66Bは、前記引戸11A・11Bが全閉位置以外の位置にあるときは、前記リンク機構61の直線状態への移行を阻止することにより前記ロックスライダ33の移動を阻止するとともに、前記引戸11A・11Bの閉鎖方向への移動時において前記ロックピン14A・14Bに付勢されて前記リンク機構61の端部が前記第2係合部68A・68Bと係合可能な位置まで回動することにより前記ロックスライダ33の移動を許容する。
【0074】
この構成によると、全閉位置においては、係合部材66A・66Bは、ロックピン14A・14Bと係合することになる。そして、リンク機構61が直線状態に延びることにより、当該リンク機構61の端部と係合して、回動を拘束される。これにより、ロックピン14A・14Bは当該係合部材66A・66Bと係合した状態で移動が拘束される。このように、係合部材66A・66Bにより、全閉位置以外においてはリンク機構61の直線状態への移行を阻止できるとともに、全閉位置においてロックピン14A・14Bの移動を拘束することができる。そのため、ロック機構60を形成するために必要な部品点数を少なくすることができるとともに、よりコンパクトなロック機構60とすることができる。
【0075】
また、本実施形態のロック付開閉装置は、前記ロック機構60に対して一方向にスライド移動可能であるとともに、底面に湾曲した形状のスリット33eを有するロックスライダ33からなり、前記リンク機構61は、当該ロックスライダ33の底面と平行な面内で作動するとともに、一の連結点に設けられたガイド用連結ピン63cが前記スリット33eに挿入されており、前記ロックスライダ33の移動に伴い、前記ガイド用連結ピン63cが当該スリット33eに沿って移動することで当該リンク機構61が直線状態と屈曲状態とに変形することである。
【0076】
この構成によると、ロックスライダ33とリンク機構61との間に他の部材を介在させることなく、ロックスライダ33の一方向への移動により、リンク機構61を直線状態と屈曲状態とへ変形することが可能となる。したがって、ロック機構60の設置スペースを小さくすることが可能となる。
【0077】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施の形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいて様々に変更して実施することができるものである。例えば、以下のように変更して実施できる。
【0078】
(1)上記実施形態では、サンギア21を電動モータの出力軸に連結し、インターナルギア22をピニオン9に連結し、キャリア23を牽引部材に連結したが、これに限定されず、例えばサンギア21をピニオン9に連結し、インターナルギア22を電動モータに連結する等、様々なバリエーションが考えられる。
【0079】
(2)上記実施形態では、ロックスライダとリンク機構との間の連結は、ロックスライダの底面部に形成されたスリット部と、リンク機構の連結ピンと、により構成されているが、これに限定されず、例えば、図10にロック解除状態を、図11にロック状態を示すように、ロックスライダ33の底面部にローラ付の連結ピン33f固定し、リンク機構61の中央のリンクを、ロックスライダ33の移動により当該ローラ付の連結ピン33fに付勢されて回転可能な形状のリンク62a’として構成することも可能である。これにより、ロックスライダ33の移動により、本実施形態で説明したのと同様に、リンク機構61を屈曲状態と直線状態とに変形させることが可能となる。
【0080】
(3)上記実施形態では、キャリアとロックスライダとの間に牽引部材及びトルクリミットスプリングを介在させて連結しているが、キャリアに直接ロックスライダを連結して構成することも可能である。
【符号の説明】
【0081】
1 車両用開閉扉
5 基体(ハウジング)
7A、7B ラック
9 ピニオン
10 ラックアンドピニオン機構
11A、11B 引戸
14A、14B ロックピン(ロック部材)
20 遊星歯車機構
21 サンギア(入力部)
22 インターナルギア(第1出力部)
23 キャリア(第2出力部)
24 プラネタリギア
33 ロックスライダ(切換部材)
33e スリット(スリット部)
60 ロック機構
61 リンク機構
65 リンク保持機構
66A、66B 係合部材
80A、80B ガイド溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジングに対して往復移動可能な引分け式の一対の引戸にそれぞれ取付けられた一対のラックと当該一対のラックに噛合するピニオンからなるラックアンドピニオン機構と、
前記引戸の開閉駆動源としてのアクチュエータと、
前記ハウジングに設けられ、前記一対の引戸における各引戸に固定されたロック部材の移動をそれぞれ拘束することにより前記一対の引戸を全閉位置でロック可能なロック機構と、
前記ロック機構のロック状態とロック解除状態とを切り換えるための切換機構と、
前記アクチュエータの駆動力が入力されるサンギアと、前記ピニオンに対して当該駆動力を出力可能なインターナルギアと、前記切換機構に対して当該駆動力を出力可能なキャリアと、を有する遊星歯車機構と、を備え、
前記引戸が全閉位置にあるときは、前記キャリアから前記切換機構に対して前記駆動力が出力されること特徴とするロック付開閉装置。
【請求項2】
前記切換機構は、前記キャリアの駆動に伴って移動することにより、前記ロック機構のロック状態とロック解除状態とを切り換えることができる切換部材を有し、
前記ロック機構は、前記引戸が全閉位置以外にあるときには前記切換部材の移動を阻止し、前記引戸が全閉位置にあるときには前記切換部材の移動を許容するように構成されていることを特徴とする請求項1に記載のロック付開閉装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−117365(P2012−117365A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−15069(P2012−15069)
【出願日】平成24年1月27日(2012.1.27)
【分割の表示】特願2006−304914(P2006−304914)の分割
【原出願日】平成18年11月10日(2006.11.10)
【出願人】(503405689)ナブテスコ株式会社 (737)
【Fターム(参考)】