説明

ロータおよび回転電機

【課題】周方向に発熱分布を有するロータを効率的に冷却できる回転電機のロータを提供する。
【解決手段】ロータ12は、回転シャフト18とロータコア40とを備える。ロータコア40は、回転作動時の発熱量が比較的大きい領域に形成される第1孔部50と発熱量が比較的小さい領域に形成される第2孔部52とを有する。ロータコア40の軸方向端部外側に、回転シャフト18の軸部20を介して冷却媒体を受け取る冷媒貯留部44が第1孔部50および第2孔部52の各開口部に隣接して設けられる。冷媒貯留部44と第1孔部50および第2孔部52の各開口部との間に流量調整部材36が配置される。流量調整部材36に第1孔部50の開口部に連通する第1冷媒通路と第2孔部52に連通する第2冷媒通路とを形成し、第1冷媒通路の開口面積を第2冷媒通路より大きく設定してある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロータおよび回転電機に係り、特に、内部に冷媒通路が形成されたロータコアを備えるロータおよび回転電機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電磁鋼板を積層して構成されるロータコア内に冷却媒体が流れる冷媒通路を形成したロータおよびこれを用いた回転電機が知られている。
【0003】
例えば、特開2009−55737号公報(特許文献1)に開示される永久磁石式同期回転電機のロータコアは、第1よび第2電磁鋼板を交互に積層して構成され、第1および第2電磁鋼板は冷媒通路を形成する孔部を有していて、その孔部を互いに周方向にずらして配置することにより全周にわたって連通する冷媒通路を形成し、この冷媒通路に冷却媒体をロータコアの周方向全体に満遍なく供給することで冷却性能を向上させることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−55737号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
実際に回転電機が回転作動する際、ロータには周方向に発熱分布が存在することがある。その場合、上記特許文献1のようにロータの周方向全体に冷却媒体を満遍なく供給して一様に冷却する構造では、上記のような周方向に発熱分布を有するロータを効率的に冷却することができない。
【0006】
本発明の目的は、周方向に発熱分布を有するロータを効率的に冷却できるロータおよび回転電機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るロータは、回転シャフトと、その外周に固定されるロータコアとを備えるロータであって、前記ロータコアは、回転作動時の発熱量が比較的大きい領域において軸方向に延びて形成される第1孔部と前記発熱量が比較的小さい領域において軸方向に延びて形成される第2孔部とを有し、前記ロータコアの軸方向端部外側に、前記回転シャフトの軸部を介して冷却媒体を受け取る冷媒貯留部を前記第1孔部および第2孔部の各開口部に隣接して設け、前記冷媒貯留部と前記第1孔部および第2孔部の各開口部との間に流量調整部材を配置し、前記流量調整部材に前記第1孔部の開口部に連通する第1冷媒通路と前記第2孔部に連通する第2冷媒通路とを形成し、前記第1冷媒通路の開口面積を前記第2冷媒通路の開口面積より大きく設定してある。
【0008】
本発明に係るロータにおいて、前記ロータコアには永久磁石が埋設されており、前記第1孔部は前記永久磁石に接して形成されていてもよい。
【0009】
また、本発明に係るロータにおいて、前記永久磁石は一対で1つの磁極を構成し、前記一対の永久磁石は周方向に離れて配置され、前記第1孔部は前記一対の永久磁石の径方向内側の端部にそれぞれ接して2つ形成され、前記第2孔部は前記2つの第1孔部の間に形成されていてもよい。
【0010】
また、本発明に係るロータにおいて、ロータコアの磁極に永久磁石が含まれる場合、前記第1および第2の孔部は、前記永久磁石からの磁束に対してフラックスバリアを構成してもよい。
【0011】
また、本発明に係るロータにおいて、前記回転シャフトは、その外周面から径方向外側に突出するとともに前記ロータコアとの対向面に凹部が形成されたフランジ部を有しており、前記冷媒貯留部は前記凹部と前記流量調整部材とによって区画される空間により形成されてもよい。
【0012】
また、本発明に係るロータにおいて、前記ロータコアの軸方向端部外側に配置されるエンドプレートをさらに備え、前記エンドプレートには前記ロータコアとの対向面に凹部が形成されており、前記冷媒貯留部は前記凹部と前記流量調整部材とによって区画される空間により形成されてもよい。
【0013】
また、本発明に係るロータにおいて、前記流量調整部材は、前記ロータコアと前記冷媒貯留部との間に配置される環状プレートで構成され、前記第1および第2冷媒通路は前記流量調整部材の内周部に形成された切り込み部からなり、前記第1冷媒通路の切り込み部の幅が前記第2冷媒通路の幅よりも広く設定されていてもよい。
【0014】
さらに、本発明に係るロータにおいて、ロータコアが板状部材積層体であって、前記環状プレートは前記板状部材の一部によって形成されてもよい。
【0015】
そして、本発明に係る回転電機は、上記いずれかの構成からなるロータと、ロータ外周に配置されるステータとを備えるものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係るロータおよび回転電機によれば、回転作動時に比較的発熱量が大きくなる領域に形成された第1孔部に、開口面積が大きい第1冷媒通路を介して冷媒貯留部からより多くの冷却媒体を供給することができる。したがって、ロータにおける周方向の発熱分布に応じて冷却媒体による冷却性能を設定することができ、ロータを効率よく冷却することができる。その結果、ロータ温度の低減による回転電機の出力特性の維持または向上を図れる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の第1実施形態である回転電機の軸方向断面図である。
【図2】図1中のA−A線断面図である。
【図3】図2中の一点鎖線領域Bの拡大図である。
【図4】本発明の第2実施形態である回転電機の軸方向断面図である。
【図5】本発明の第3実施形態である回転電機の軸方向断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明に係る実施の形態(以下、実施形態という)について添付図面を参照しながら詳細に説明する。この説明において、具体的な形状、材料、数値、方向等は、本発明の理解を容易にするための例示であって、用途、目的、仕様等にあわせて適宜変更することができる。また、下記において複数の実施形態が含まれる場合、各実施形態の構成が任意に組み合わせて用いられることは予め想定されている。
【0019】
(第1実施形態)
図1は第1実施形態の回転電機10の軸方向断面図であり、図2は図1中のA−A線断面図であり、図3は図2中の一点鎖線領域Bの拡大図である。回転電機10は、ロータ12と、ステータ14とを備える。ロータ12およびステータ14は、軸方向の両端が閉じた円筒状のケース16内に収容されている。
【0020】
図1を参照すると、ステータ14は、筒状のステータコア15aと、ステータコア15aに巻装されたステータコイル15bとを含む。ステータコア15aは、円環状に打ち抜き加工された多数の電磁鋼板を積層して構成される。ステータコア15aの外周面は、ケース16の内周面上に固定されている。また、ステータコア15aは、その内周部に複数のティースを有している。ティースは、径方向内方に突設されるとともに、周方向に均等間隔で配置されている。
【0021】
隣り合うティース間には、スロットが形成される。スロットは、ステータコア15aの軸方向全体にわたって延伸する溝として形成される。ステータコイル15bは、ティースの周囲に巻回されて設けられており、スロット内に位置するスロット内部分と、ステータコア15aの軸方向端面から外側に膨出するコイルエンド部分とを有している。
【0022】
ロータ12は、ステータ14の内側にエアギャップを介して配置されている。ロータ12は、回転シャフト18と、ロータコア40とを含んで構成される。回転シャフト18は、中空の略円筒状をなす軸部20と、軸部20の外周から径方向外方へ突出する略円盤のフランジ部22とを備える。回転シャフト18の軸部20の軸方向両端部は、ケース16の端部壁17に固定された軸受部材24によって回転可能に支持されている。回転シャフト18の軸部20内には、冷却媒体通路26が軸方向に延びて形成されている。
【0023】
ケース16内の底部には、冷却媒体としてのオイルが溜まっている。オイルの量は、油面Cの高さがロータコア40の外周面より下に設定され、ロータ12の回転抵抗とならないようにされている。ケース16の端部壁17には、ケース16内の底部に溜まったオイルを吸い出すためのオイル吸引孔部17aが形成されている。
【0024】
ケース16の端部壁17のオイル吸引孔部17aには、途中にポンプ30が設けられたオイル配管28の一端部が接続されている。一方、オイル配管28の他端部は、ケース16の外部に露出した回転シャフト18の軸部20の端部において、冷却媒体通路26に接続されている。これにより、ポンプ30を作動させることによって、ケース16の底部に溜まったオイルを吸引して回転シャフト18内の冷却媒体通路26へ供給できるようになっている。
【0025】
なお、オイル配管28には、オイルからの放熱を促進して降温させるためのオイルクーラが設けられてもよい。また、本実施形態では、回転シャフト18の軸部20内の冷却媒体通路26が軸方向に貫通しているものとして示されるが、これに限定されるものではなく、冷却媒体通路26がフランジ部22側の端部において閉じていてもよい。
【0026】
ロータコア40は、打ち抜き加工された円板状の電磁鋼板を軸方向に積層して構成される。略円筒状をなすロータコア40の中心には、回転シャフト18の軸部20が挿通されるシャフト挿通孔42が軸方向に貫通して形成されている。
【0027】
ロータ12は、略円盤状をなすエンドプレート32をさらに備える。エンドプレート32は、ロータコア40の磁気特性に影響を与えないように例えばアルミニウム、銅、ステンレス、樹脂等の非磁性材料で形成されるのが好ましい。
【0028】
ロータ12は、次のようにして組み立てられる。まず、回転シャフト18の軸部20に矢印D方向から後述する流量調整部材36が外装される。続いて、ロータコア40が軸部20に外装されて、ロータコア40の軸方向一端面とフランジ部22との間に流量調整部材36が挟持される。そして、エンドプレート32を回転シャフト18の軸部20に外装して、所定の押圧力でロータコア40の軸方向他端面に押し付ける。この状態で、軸部20上に外装された筒状のかしめ部材38をかしめ固定することにより、ロータコア40が回転シャフト18に対して軸方向位置が決められて固定される。また、ロータコア40は、回転シャフト18の軸部20との間の凹凸嵌合または軸部20上への圧入等の手法によって、回転シャフト18に対する周方向位置も決められる。
【0029】
回転シャフト18のフランジ部22おいてロータコア40に対向する面には、円環状をなす凹部23が軸部20の周囲を取り囲んで形成されている。回転シャフト18のフランジ部22に形成された凹部23は、周方向壁面と径方向壁面とを有する。
【0030】
また、回転シャフト18の軸部20は、上記凹部23に対応する位置にオイル吐出孔27が冷却媒体通路26に連通して形成されている。オイル吐出孔27は、周方向に均等配置で複数(本実施形態では4つ、図2参照)形成されている。
【0031】
流量調整部材36は、ロータコア40およびフランジ部22と略同一の外径を有する円環状プレートにより構成される。流量調整部材36の内周縁は、フランジ部22の凹部23の周方向壁面よりも径方向内方に突出して位置している。流量調整部材36もまた、エンドプレート32と同様に、ロータコア40の磁気特性に影響を与えないように例えばアルミニウム、銅、ステンレス、樹脂等の非磁性材料で形成されるのが好ましい。
【0032】
フランジ部22の凹部23における周方向壁面および径方向壁面と流量調整部材36とによって区画される円環状の空間が冷媒貯留部44とされている。冷媒貯留部44は、径方向内方に開放しているため、回転シャフト18の軸部20に形成されたオイル吐出孔27から吐出されたオイルを受け入れることができる。
【0033】
なお、本実施形態では、冷媒貯留部44を径方向内方に開放する空間により形成したが、これに限定されるものではなく、径方向内方が凹部の内周側壁面によって閉じた冷媒貯留部としてもよい。この場合、フランジ部22のロータ対向面にオイル吐出孔と冷媒貯留部とを連通する溝状のオイル供給路を形成すればよい。
【0034】
図2を参照すると、ロータコア40は、外周部に複数の磁極46を含む永久磁石埋め込み型の回転子である。本実施形態では、8つの磁極46が周方向に均等配置で設けられている。
【0035】
各磁極46には、一対の永久磁石48が配置されている。永久磁石48は、扁平矩形状の端面および断面を有するとともに、ロータコア40の軸方向全体にわたって延びている。永久磁石48は、ロータコア40内に軸方向に延びて形成される磁石挿入孔内に挿入されて固定されている。磁極46に含まれる一対の永久磁石48は、周方向に離れて設けられていて、径方向外方へ向かって互いの間隔が広がるように略V字形に配置されている。
【0036】
ロータコア40内であって各磁極46の径方向内側には、第1孔部50および第2孔部52が軸方向に延びて形成されている。第1孔部50は、一対の永久磁石48の内周側端部に接する位置に設けられており、本実施形態では2つ形成されている。また、第2孔部52は、前記2つの第1孔部50の間にブリッジ部54を挟んで設けられており、本実施形態では第1孔部50よりも径方向内側へ拡張して形成されている。これらの第1および第2孔部50,52は、永久磁石48から生じた磁束(および/またはステータからロータの磁極へ流れ込んだ磁束)の流れ規制して磁路を画定するフラックスバリアを構成するとともに、後述するようにオイル通路としても機能する。
【0037】
上記第1孔部50は、ロータコア40において回転作動時の発熱量が比較的大きくなる領域に設けられている。具体的には、ステータコイル15bに通電されてステータ14内に回転磁界が形成されることによりロータ12が特に高速で回転作動するとき、永久磁石48での損失が大きくなって発熱する。永久磁石48は、発熱により高温になると減磁する可能性がある。減磁により永久磁石の磁力が低下すると、回転電機としての性能を発揮できなくなり、動力性能が低下する。そのため、本実施形態では、後述するようにロータコア40において発熱による影響が大きい永久磁石48に対する冷却性能を大きくするため、永久磁石48に接する位置に第1孔部50を形成してある。
【0038】
これに対し、本実施形態のロータ12における第2孔部52は、特に高速回転作動時に発熱量が大きくなる永久磁石48から離れて配置されている。つまり、第2孔部52は、ロータコア40において回転作動時の発熱量が比較的小さい領域に設けられているといえる。ただし、第2孔部52は、2つの第1孔部50間に位置して一対の永久磁石48間に挟まれた磁路領域に臨んで形成されているため、後述するように第2孔部50に供給されるオイルによって磁極46に含まれる積層鋼板からなる磁路領域を効果的に冷却することができ、これによりコア鉄損を抑制することができる。
【0039】
図3を参照すると、第1および第2孔部50,52は、ロータコア40の軸方向端部外側に形成された冷媒貯留部44に隣接する位置に開口している。そして、流量調整部材36には、2つの第1孔部50にそれぞれ連通する第1冷媒通路56と、第2孔部52に連通する第2冷媒通路58とが形成されている。
【0040】
第1および第2冷媒通路56,58は、環状プレートからなる流量調整部材36の内周縁から径方向外側へ向かって矩形状に入り込んだ切り込み部により形成されている。第1および第2冷媒通路56,58をなす各切り込み部は、径方向に関して同一深さに形成されている。つまり、第1および第2冷媒通路56,58の径方向外側の底部は、ロータコア40の回転中心から同一半径R1上に揃うように位置している(図2参照)。これに対し、それぞれ周方向に略沿う方向の第1冷媒通路56の幅da,dc、第2冷媒通路58の幅dbとすると、da=dc>dbを満たすように設定されている。これにより、第1孔部50に連通する第1冷媒通路56の開口面積が、第2孔部52に連通する第2冷媒通路58の開口面積よりも大きく設定されている。
【0041】
第1冷媒通路56は、切り込み部のうち径方向外側の一部において第1孔部50と連通している。他方、第2冷媒通路58は、その切り込み部全体が第2孔部52と連通する位置および形状に形成されている。回転シャフト18の軸部20のオイル吐出孔27から径方向外側へ吐出されるオイルは冷媒貯留部44に受け取られて貯留されるが、ロータ12の回転作動による遠心力によって冷媒貯留部44内のオイルは、冷媒貯留部44の底部45に相当する凹部23の周方向壁面上に円環状に保持されることとなる。そして、冷媒貯留部44内のオイルの量が増えるにしたがって油面Cが径方向内側へと移動していき(図3中の矢印E方向)、油面Cが第1および第2冷媒通路56,58の切り込み方向奥側端部に達すると各冷媒通路56,58を介してオイルが冷媒貯留部44から第1および第2孔部50,52へと供給される。このとき、上述したように第1冷媒通路56の開口面積が第2冷媒通路58の開口面積よりも大きく設定してあることで、第1孔部50へのオイル供給量が第2孔部52のオイル供給量よりも多くなり、その結果、第1孔部50における冷却性能が第2孔部52における冷却性能よりも大きくなるよう構成されている。
【0042】
なお、本実施形態では、第1および第2冷媒通路56,58を環状プレートからなる流量調整部材36の内周縁に開口する切り込み部により形成したが、これに限定されるものではなく、たとえば環状プレートに形成された矩形状または長円形状等の貫通孔により形成されてもよい。この場合、貫通孔の大きさを異ならせることによって、第1および第2冷媒通路の開口面積を上記のように設定すればよい。
【0043】
図1を参照すると、エンドプレート32には、複数のオイル排出孔33が形成されている。オイル排出孔33は、ロータコア40の軸方向他端部における第2孔部52の開口部に対向してそれぞれ形成されている。なお、ロータコア40の軸方向他端部とエンドプレート32のオイル排出孔33の間に空間が形成されているため、第1孔部50を通ってロータコア40から流れ出たオイルも上記空間を介してオイル排出孔33からロータ外へ排出されることができる。
【0044】
次に、上記構成からなる回転電機10における冷却動作について説明する。
【0045】
ロータ12が回転作動する回転電機10おいてポンプ30を作動させると、ケース16の底部に溜まったオイルがオイル吸引孔部17aからオイル配管28の一端部により吸引されて、オイル配管28の他端部から回転シャフト18の端部から冷却媒体通路26に供給される。
【0046】
冷却媒体通路26に供給されたオイルは、回転シャフト18の軸部20内の冷却媒体通路26を軸方向一方側に流れて、オイル吐出孔27に連通する部分に至る。そして、オイルは、回転するロータ12による遠心力によってオイル吐出孔27から径方向外側へ向けて吐出される。
【0047】
オイル吐出孔27から吐出されたオイルは、冷媒貯留部44によって受け取られて貯留される。冷媒貯留部44に貯留されたオイルは、回転するロータ12による遠心力によって冷媒貯留部44の底部に押し付けられた状態で、円環状に保持される。
【0048】
冷媒貯留部44内に貯留されたオイルの量が増えてきて、その油面Cが径方向内側(矢印E方向)へと移動してくる。そして、オイルの油面Cが第1および第2冷媒通路56,58の切り込み方向奥側端部に達すると、オイルが第1および第2冷媒通路56,58を介してロータコア40内の第1および第2孔部50,52に供給される。このとき、第1冷媒通路56の開口面積が第2冷媒通路58の開口面積よりも大きく形成されていることから、第1孔部50へのオイル供給量が第2孔部52へのオイル供給量よりも多くなるよう調整される。
【0049】
冷媒貯留部44から第1および第2冷媒通路56,58を介してロータコア40内の第1および第2孔部50,52へ供給されたオイルは、回転するロータ12による遠心力によって外周側壁面に押し付けられながら軸方向他方側に流れる。このとき、第1孔部50内には永久磁石48の内周側端部が露出しているため、第1孔部50内を比較的多く流れるオイルによって永久磁石48が直接的かつ効果的に冷却される。他方、第2孔部52内に比較的少なく流れるオイルは、ロータコア40の磁極46に含まれる磁路領域の内周側部分に沿って流れることで、一対の永久磁石48の間に位置する磁路領域を効果的に冷却することができる。
【0050】
ロータコア40の第1および第2孔部50,52内を流れてロータコア40の軸方向端部に達したオイルは、エンドプレート32のオイル排出孔33からロータ外へ排出される。ロータ外へ排出されたオイルは、重力作用によってケース16内の底部に溜まる。そして、オイルは、ポンプ30による吸引によってオイル吸引孔部17aからオイル配管28を介して回転シャフト18に循環供給されることとなる。
【0051】
上述したように本実施形態のロータ12およびこれを備えた回転電機10によれば、ロータコア40において回転作動時に比較的発熱量が大きくなる領域に形成された第1孔部50に、開口面積が大きい第1冷媒通路56を介して冷媒貯留部44からより多くの冷却媒体を供給することができる。したがって、ロータ12における周方向の発熱分布に応じてオイルによる冷却性能を設定することができ、ロータ12を効率よく冷却することができる。その結果、ロータ温度の低減による回転電機10の出力特性の維持または向上を図れる。
【0052】
より詳細には、本実施形態のロータ12は、永久磁石埋め込み型の回転子であり、第1孔部50は磁極46を構成する一対の永久磁石48に接して形成されている。そのため、永久磁石48は、第1孔部50に沿って流れるオイルによって直接的にかつ効果的に冷却されることができ、発熱による永久磁石48の減磁によって出力性能が低下するのを有効に防止することができる。
【0053】
また、本実施形態のロータ12では、第2孔部52が磁極46内の一対の永久磁石48間の磁路領域の内周側部分に形成されているため、第2孔部52内を流れるオイルによって上記磁路領域を効果的に冷却することができる。これにより、ロータコア40の磁極46におけるコア損失を低減することができ、これによっても回転電機10の出力性能の向上に寄与することができる。
【0054】
また、本実施形態のロータ12では、ロータコア40内の冷媒通路となる第1および第2孔部50,52が磁極46におけるフラックスバリアを構成することから、第1および第2孔部50,52を磁極46のフラックスバリアとは別に形成する場合に比べて、ロータコア40の耐遠心力強度の低下を抑制できる。
【0055】
また、本実施形態のロータ12では、ロータコア40の軸方向端部外側に設けた冷媒貯留部44を回転シャフト18のフランジ部22の凹部23によって形成することから、冷媒貯留部を形成するための特別の部材を別途設ける必要がなく、構成が簡易なものとすることができる利点もある。
【0056】
なお、本実施形態では、第1孔部50に永久磁石48を露出させてオイルにより直接的に冷却するよう構成したが、これに限定されず、第1孔部が永久磁石に対して近接して設け、狭い鋼板積層領域を介して冷却するよう構成してもよい。
【0057】
(第2実施形態)
次に、図4を参照して、第2実施形態のロータ12および回転電機10について説明する。
【0058】
第2実施形態の回転電機10のロータ12では、第1実施形態におけるフランジ部22に代えて、エンドプレート60が設けられている。エンドプレート60のロータ対向面に凹部23が形成されている。また、エンドプレート60は、回転シャフト18の当り部21に当接して軸部20に対する軸方向位置が決められている。このエンドプレート60もまた、ロータコア40の磁気特性に影響を与えないように例えばアルミニウム、銅、ステンレス、樹脂等の非磁性材料で形成されるのが好ましい。他の構成は、上記第1実施形態と同様であるため同一または対応する構成要素に同一または対応する符号を付して、重複説明を援用により省略する。
【0059】
第2実施形態のロータ12および回転電機10によれば、上記第1実施形態とほぼ同様の作用効果を奏することができる。また、本実施形態では、エンドプレート60によって冷媒貯留部44を形成することから、回転シャフト18を小径化することができ、これにより回転シャフト18の製造コストを大幅に低減できるという特有の効果を奏することができる。
【0060】
(第3実施形態)
次に、図5を参照して、第3実施形態のロータ12および回転電機10について説明する。
【0061】
第3実施形態のロータ12および回転電機10は、上記第1実施形態とほぼ同様の構成を備える。異なるところは、第1実施形態における流量調整部材36に代えて、ロータコア40の軸方向端部に積層された円板状の1枚または複数枚(本実施形態では2枚)の電磁鋼板によってオイル流量調整機能を果たすようにした点である。他の構成は、上記第1実施形態と同様であるため同一または対応する構成要素に同一または対応する符号を付して、重複説明を援用により省略する。
【0062】
第3実施形態のロータ12および回転電機10によれば、上記第1実施形態とほぼ同様の作用効果を奏することができる。また、本実施形態では、ロータコア40を構成する板状部材である電磁鋼板よってオイル流量調整部を形成することで、オイル流量調整部をロータコア40の積層時に一体に組み込むことができ、ロータ12の組付けが容易になるとともに、流量調整部材が別部材として存在しなくなることで部品数の削減よりコスト低減を図れるという特有の効果を奏することができる。
【0063】
なお、上記において第1ないし第3実施形態について説明したが、本発明に係るロータおよび回転電機は、上記の構成に限定されるものではなく、種々の変更または改良が可能である。
【0064】
上記各実施形態のロータ12は、1つの磁極46に一対の永久磁石48を含むものとして説明したが、各磁極に含まれる永久磁石の数は1つ又は3つ以上であってもよい。
【0065】
また、上記各実施形態ではロータ12が永久磁石埋め込み型の回転子を例に説明したが、これに限定されるものではなく、永久磁石を含まない、いわゆる磁石レスロータに適用されてもよい。この場合、ロータの外周部においてステータからの磁束が多く通ることとなる部分およびその近傍が発熱量の比較的大きい領域に相当するから、その領域に近接して第1孔部を設けるとともに、上記領域から比較的離れた低発熱領域に第2孔部を形成してもよい。またこの場合、第1および第2孔部は、フラックスバリアを構成してもよいし、フラックスバリアとは別に形成されてもよい。
【符号の説明】
【0066】
10 回転電機、12 ロータ、14 ステータ、15a ステータコア、15b ステータコイル、16 ケース、17 端部壁、17a オイル吸引孔部、18 回転シャフト、20 軸部、21 当り部、22 フランジ部、22 フランジ部、23 凹部、24 軸受部材、26 冷却媒体通路、27 オイル吐出孔、28 オイル配管、30 ポンプ、32,60 エンドプレート、33 オイル排出孔、36 流量調整部材、38 かしめ部材、40 ロータコア、42 シャフト挿通孔、44 冷媒貯留部、45 底部、46 磁極、48 永久磁石、50 第1孔部、52 第2孔部、54 ブリッジ部、56 第1冷媒通路、58 第2冷媒通路、C 油面、da,db,dc 幅、R1 半径。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転シャフトと、その外周に固定されるロータコアとを備えるロータであって、
前記ロータコアは、回転作動時の発熱量が比較的大きい領域において軸方向に延びて形成される第1孔部と前記発熱量が比較的小さい領域において軸方向に延びて形成される第2孔部とを有し、前記ロータコアの軸方向端部外側に、前記回転シャフトの軸部を介して冷却媒体を受け取る冷媒貯留部を前記第1孔部および第2孔部の各開口部に隣接して設け、前記冷媒貯留部と前記第1孔部および第2孔部の各開口部との間に流量調整部材を配置し、前記流量調整部材に前記第1孔部の開口部に連通する第1冷媒通路と前記第2孔部に連通する第2冷媒通路とを形成し、前記第1冷媒通路の開口面積を前記第2冷媒通路の開口面積より大きく設定した、ロータ。
【請求項2】
請求項1に記載のロータにおいて、
前記ロータコアには永久磁石が埋設されており、前記第1孔部は前記永久磁石に接して形成されていることを特徴とするロータ。
【請求項3】
請求項2に記載のロータにおいて、
前記永久磁石は一対で1つの磁極を構成し、前記一対の永久磁石は周方向に離れて配置され、前記第1孔部は前記一対の永久磁石の径方向内側の端部にそれぞれ接して2つ形成され、前記第2孔部は前記2つの第1孔部の間に形成されていることを特徴とするロータ。
【請求項4】
請求項2または3に記載のロータにおいて、
前記第1および第2の孔部は、前記永久磁石からの磁束に対してフラックスバリアを構成することを特徴とするロータ。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載のロータにおいて、
前記回転シャフトは、その外周面から径方向外側に突出するとともに前記ロータコアとの対向面に凹部が形成されたフランジ部を有しており、前記冷媒貯留部は前記凹部と前記流量調整部材とによって区画される空間により形成されることを特徴とするロータ。
【請求項6】
請求項1から4のいずれか一項に記載のロータにおいて、
前記ロータコアの軸方向端部外側に配置されるエンドプレートをさらに備え、前記エンドプレートには前記ロータコアとの対向面に凹部が形成されており、前記冷媒貯留部は前記凹部と前記流量調整部材とによって区画される空間により形成されることを特徴とするロータ。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項に記載のロータにおいて、
前記流量調整部材は、前記ロータコアと前記冷媒貯留部との間に配置される環状プレートで構成され、前記第1および第2冷媒通路は前記流量調整部材の内周部に形成された切り込み部からなり、前記第1冷媒通路の切り込み部の幅が前記第2冷媒通路の幅よりも広く設定されていることを特徴とするロータ。
【請求項8】
請求項7に記載のロータにおいて、
前記ロータコアが板状部材積層体であって、前記環状プレートは前記板状部材の一部によって形成されることを特徴とするロータ。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか一項に記載のロータと、ロータ外周に配置されるステータとを備える回転電機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−235546(P2012−235546A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−100381(P2011−100381)
【出願日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【出願人】(000004695)株式会社日本自動車部品総合研究所 (1,981)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】