説明

ロータリコンプレッサ

【課題】本発明は、ロータリコンプレッサのチャタリングの音を低減し、かつ、シリンダボアの内壁を磨耗することのないロータリコンプレッサを提供することを目的とする。
【解決手段】本発明に係るロータリコンプレッサは、各ベーン10の先端部をシリンダボアの内壁60に摺接させて空間を仕切ることで圧縮室を構成するロータリコンプレッサにおいて、各ベーン10は、強化用繊維を配合したエンジニアリングプラスチックで形成されてなり、該強化用繊維を配合したエンジニアリングプラスチックは、前記強化用繊維の配向する方向を曲げ軸として曲げた場合のJIS K 7017:1999で規定した曲げ強さが120MPa以上であり、かつ、前記強化用繊維は、各ベーン10の一方の側面から他方の側面に向かう長手方向に配向されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベーンタイプのロータリコンプレッサに関する。
【背景技術】
【0002】
ベーンタイプのロータリコンプレッサの側断面図を図1に、縦断面図を図2に示す。
図1に示すように、ロータリコンプレッサは、シリンダ52の内部空間(以下、シリンダボアともいう。)に、回転可能に配置されたロータ20と、ロータ20のベーン溝に保持されたベーン10とを有している。シリンダボアは、サイドブロック51とケーシング53のシリンダボアに面している面(以下、ケーシングの内側面ともいう。)によって、仕切られている。図2において、ベーンタイプのロータリコンプレッサでは、ベーン10の先端部がベーン溝22から飛び出してシリンダボアの内壁60に接することによって圧縮室が形成される。このとき、ベーン溝22の底部にロータリコンプレッサの吐出圧を適宜減衰させた中間圧を導入して、ベーンを押し出すことによって、ベーン10をベーン溝22から速やかに飛び出させてシリンダボアの内壁60に接するようにしている。
【0003】
しかし、起動初期など十分に吐出圧が高まっていない条件においては、ベーンの飛び出し動作が遅れ、遠心力や圧力を受けてベーンが急激に飛び出してシリンダボアの内壁に激突し、叩き音(以下、チャタリングともいう。)を発生することがある。
【0004】
従来のベーンタイプのロータリコンプレッサにおいては、ベーンの材料として鉄系、アルミニウム系等の金属材料が通常用いられており、チャタリングの音が非常に大きいという問題があった。
【0005】
チャタリングの音を低減するために、ベーンを樹脂の成形体にして軽量化することが提案されている(例えば、特許文献1又は2を参照。)。樹脂をベーンの素材としたときの留意点は、ベーン溝からベーンが飛び出してシリンダボアの内壁に接しているときにベーンによって仕切られた圧力室の圧力差によってベーンに作用する曲げ応力に耐える曲げ強度を確保することにある。なお、ベーンに作用する曲げ応力は、ベーンの摺動する方向(以下、ベーンの厚さ方向ともいう。)に発生するため、ベーンの曲げ強度は、ベーンの先端部から対向する面に向かう方向(以下、ベーンの短手方向ともいう。)に直交して折り曲げ荷重を加えた場合の破断強度をいう。
【0006】
特許文献1には、ベーンの素材としてポリアミドイミド又はポリイミドを使用したロータリコンプレッサが開示されている。特許文献1に開示されたロータリコンプレッサでは、ベーンの曲げ強度を確保するために強化用繊維としてカーボンファイバがベーンの短手方向に配向されている。すなわちベーンに対する曲げ応力に直交する向きに配向することによって高い曲げ強度を得ている。
【0007】
特許文献2には、ベーンの素材としてフェノール樹脂を使用したロータリコンプレッサが開示されている。特許文献2においても、ベーンの曲げ強度を確保するために強化用繊維がベーンの短手方向に配向されている実施例が開示されている。
【0008】
【特許文献1】特開平9‐25885号公報
【特許文献2】特開2005‐180359号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1に開示されたロータリコンプレッサでは、ベーンの短手方向に強化用繊維が配向されているため、ロータリコンプレッサの運転に伴って、シリンダボアの内壁と摺動するベーンの先端部が磨耗すると、強化用繊維がベーンの先端部の樹脂表面から針状に露出することになる。この結果、シリンダを異常に磨耗させてしまう問題があった。また、ベーンの短手方向に強化用繊維を配向させるために、ベーン成形用の射出成形用金型のゲートをベーンの先端部に対向する面を成形する部分に設け、エアベントをベーンの先端部を成形する部分に設ける必要があり、ベーンの先端部には、エアベントに起因して形成されたバリが形成される。このバリによって、ベーンの先端部とシリンダボアの内壁に隙間が生じ、圧縮ガスのリークを生じるおそれがある。そこで、成形後にベーンの先端部を研磨して、バリや凹凸を除去して平滑にする必要があった。ベーンの先端部を研磨すると、射出成形時に樹脂が金型に接触して最初に固化して形成されるスキン層と呼ばれる樹脂表面層が研磨によって除去され、コア層が露出し、ロータリコンプレッサの運転によって、短時間に、強化用繊維がベーンの先端部の樹脂表面から針状に露出してしまう問題がある。
【0010】
さらに、樹脂製のベーンは、アルミ合金製のシリンダに比べて、線膨張係数が大きいため、ロータリコンプレッサ運転時に高温になると、ベーンの長手方向が膨張してケーシングの内側面に圧着してケーシングの内側面を磨耗させたり、ロータの回転をロックさせたりするおそれがある。しかし、ベーンの短手方向に強化用繊維が配向することによっては、ベーンの長手方向の線膨張係数を低減することは困難であり、ベーンのケーシングの内側面への圧着を防止するためにベーンの側面とケーシングの内側面とのクリアランスを大きくする必要がある。この結果、圧縮ガスのリークが大きい問題がある。
【0011】
また、特許文献2に開示されたロータリコンプレッサ用ベーンにおいても、強化用繊維をベーンの短手方向に配向させて金型内で熱硬化することによって成形するため、特許文献1の場合と同様に、ロータリコンプレッサの運転に伴って強化用繊維が樹脂から針状に露出し、ロータリコンプレッサ運転中にベーンの先端部がシリンダボアの内壁と摺動すると、シリンダを異常に磨耗させてしまう問題がある。また、ベーンの長手方向の線膨張係数も低減できないため、ベーンの側面とケーシングの内側面とのクリアランスも大きくする必要があり、圧縮ガスのリークが大きい問題がある。
【0012】
そこで、本発明の目的は、ロータリコンプレッサのチャタリングの音を低減し、かつ、強化用繊維の露出に伴うシリンダボアの内壁の磨耗がなく、かつ、ベーンの側面とケーシングの内側面とのクリアランスが小さく、圧縮ガスのリークが少ないロータリコンプレッサを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、樹脂製ベーンにおいて、強化用繊維を配向させたエンジニアリングプラスチックの強化用繊維の配向する方向を曲げ軸として曲げた場合の曲げ強さを一定の値以上にすると、ロータリコンプレッサ運転時のベーンに対する曲げ応力に耐える曲げ強度を有しながら、強化用繊維をベーンの長手方向に配向させることができることを見出した。この結果、強化用繊維がベーンの先端部から針状に露出することがなく、ベーンの摺動によるシリンダボアの内壁の磨耗がないロータリコンプレッサが得られ、さらに、強化用繊維の配合によってベーンの長手方向の線膨張係数をシリンダの膨張係数に合わせることができ、ベーンの側面とケーシングの内側面とのクリアランスを小さくした、圧縮ガスのリークが少ないロータリコンプレッサが得られることを見出し、本発明を完成させた。すなわち、本発明に係るロータリコンプレッサは、楕円状のシリンダボアを有するシリンダと、該シリンダボア内に回転可能に配置したロータと、該ロータの外周面に設けられた複数のベーン溝のそれぞれに進退移動自在に保持されたベーンとを有し、前記各ベーンの先端部を前記シリンダボアの内壁に摺接させて空間を仕切ることで圧縮室を構成するロータリコンプレッサにおいて、前記ベーンは、強化用繊維を配合したエンジニアリングプラスチックで形成されてなり、該強化用繊維を配合したエンジニアリングプラスチックは、前記強化用繊維の配向する方向を曲げ軸として曲げた場合のJIS K 7017:1999で規定した曲げ強さが120MPa以上であり、かつ、前記強化用繊維は、前記ベーンの一方の側面から他方の側面に向かう長手方向に配向されていることを特徴とする。
【0014】
本発明に係るロータリコンプレッサでは、前記エンジニアリングプラスチックは、ポリアミドであることが好ましい。ポリアミドは、曲げ強度が高く、かつ、成形性及びシリンダボア内壁との滑り性がよく、比較的廉価である。
【0015】
本発明に係るロータリコンプレッサでは、前記ベーンの強化用繊維の配合率が20〜50質量%であることが好ましい。ベーンの曲げ強度を確保し、長手方向の線膨張係数をシリンダの材料(アルミ合金製)とほぼ同じにすることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明のロータリコンプレッサは、ベーンの素材を、強化用繊維を長手方向に配向させたエンジニアリングプラスチックにするとともに、ロータリコンプレッサのチャタリングの音を低減でき、かつ、ベーンの摺動によるシリンダボアの内壁の磨耗がなく、ベーンの側面とケーシングの内側面とのクリアランスが小さく、圧縮ガスのリークを少なくできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。また、本発明は、以下に示す実施形態に限定して解釈されるものでない。
【0018】
本実施形態に係るロータリコンプレッサでは、図1及び図2において従来の金属製ベーンに替えて本実施形態に係る樹脂製ベーンを取り付けたロータリコンプレッサである。図2に示すように、本実施形態に係るベーン10は、ロータの溝22のそれぞれに進退移動自在に保持され、シリンダボアの内壁60に摺接して圧縮室55,57を形成する。各ベーン10は、強化用繊維を配合したエンジニアリングプラスチックで形成されてなり、強化用繊維はベーンの長手方向に配向されている。
【0019】
本実施形態に係るロータリコンプレッサのベーンの斜視概要図を図3に示す。図3において、X、Y、Zは、ベーン10のそれぞれ長手方向、短手方向、厚さ方向を示す。
【0020】
本実施形態に係るロータリコンプレッサのベーンの断面図を図4及び図5に示す。図4は、図3のB断面図を、図5は、図3のC断面図である。
【0021】
強化用繊維を配合したエンジニアリングプラスチックは、強化用繊維の配向する方向を曲げ軸として曲げた場合のJIS K 7017:1999で規定した曲げ強さが120MPa以上である。強化用繊維の配向する方向を曲げ軸として曲げた場合は、強化用繊維を引き裂く方向に曲げることになり、強化用繊維による強度向上の効果が最も少ないため、曲げ強さが最も弱い方向になる。曲げ強さが120MPa未満であると、ロータリコンプレッサの運転時にベーンが受ける曲げ応力によって、ベーンが破断を生じるおそれがある。
【0022】
本実施形態では、強化用繊維は、図5に示すように、ベーン10の長手方向に配向しているため、ベーン10の先端部16とシリンダボアの内壁60との摺動面に対して平行に配向している。したがって、ロータリコンプレッサ運転中にベーン10の先端部16がシリンダボアの内壁60を摺動しても強化用繊維が針状に露出することがない利点を有する。また、ベーン10の受ける曲げ応力は、強化用繊維を引き裂く方向に発生するため、強化用繊維を配合したエンジニアリングプラスチックが強化用繊維の配向する方向を曲げ軸として曲げた場合の曲げ強さが120MPa未満であるとロータリコンプレッサの運転時にベーンが受ける曲げ応力によって、ベーンの破断を生じるおそれがある。
【0023】
本実施形態に係るベーン10は、長手方向に強化用繊維が配向されているため、図4に示すように、長手方向に直交する断面(B断面)では、強化用繊維の断面が点状に分布している。本実施形態では、ベーン10は、先端部16のスキン層12が研磨によって除去されてコア層14が露出しているが、スキン層12によって覆われていてもよい。コア層14は、強化用繊維が所定量配合され、その配向が安定している部分である。一方、スキン層12は、射出成形において最初に固化する層であって、強化用繊維が殆ど含まれていない表層12bと、強化用繊維が含まれているがその配向が不安定となっている移行層12aとを有し、その合計の厚さは1〜100μmの範囲である。ベーン10の先端部16は摺動面であるため、平滑性が要求される。通常用いられる射出成形方法でベーン10を成形し、寸法精度が規格に満たない場合には、先端部16の表面を平滑にするためにコア層14が露出するまで研磨することによって、シリンダボアの内壁と隙間なく摺動するようにして、圧縮ガスのリークを生じないようにすることができる。コア層14が露出していると、配向している強化用繊維の一部が、先端部16に露出するが、ベーン10の先端部16とシリンダボアの内壁60との摺動面に対して平行に配向しており、針状に露出することがないので、シリンダボアの内壁60を磨耗させることがない。また、ベーン10の先端部16を除いた部分は、本実施形態では、スキン層12を有しているが、コア層14が露出していてもよい。すなわち、ベーン10の厚さ方向(Z方向)の表面もベーン溝22と所定のクリアランスをもって滑動するように必要に応じて研磨してもよく、ベーン10の両側面(図5において、11a及び11b)も、ケーシング50,53の内側面と所定のクリアランスをもって滑動するように、必要に応じて研磨してもよい。
【0024】
本実施形態に係るベーンでは、母材のエンジニアリングプラスチックとして、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリアセタール、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンオキサイド、ポリフェニレンサルファイド、ポリフェニレンエーテル、ポリテトラフルオロエチレン等を用いることができるが、好ましくは、射出成形によって成形できるポリアミド、ポリフェニレンサルファイドが用いられる。曲げ強度が高く、かつ、ロータリコンプレッサ運転時の高温に耐えることができるとともに、シリンダボアの内壁との滑り性がよい。さらに、ポリアミドは、成形性に優れ、かつ、比較的廉価である。
【0025】
本実施形態に係るベーンでは、強化用繊維として、高弾性率若しくは高強度を有するガラス繊維、カーボン繊維等を用いることができる。
【0026】
本実施形態に係るベーンでは、強化用繊維の配合率が20〜50質量%が好ましい。強化用繊維が20質量%より少ないと、ベーンに対する曲げ強度の補強効果が不足するとともに、ベーンの長手方向の線膨張係数を抑制する効果が不足する。ベーンのエンジニアリングプラスチックはアルミ合金製のシリンダに比べて線膨張係数が大きいため、ロータリコンプレッサ運転時に高温になると、ベーンの長手方向が膨張してケーシングの内側面に圧着して、ケーシングの内側面を磨耗させたり、ロータの回転をロックしたりしてしまうおそれがある。そこで、図1に示すように、ベーン長さLをシリンダ幅Mより僅かに短くして、ベーン10とケーシング50,53の内側面との間にクリアランスを設けて、ベーン10とシリンダ52の線膨張係数の差異を吸収できるようにしている。しかし、クリアランスが大きいと、圧縮ガスの漏れが大きい問題がある。本実施形態では、強化用繊維が長手方向に配向されているため、強化用繊維の配合率を増やすことによって長手方向の線膨張係数を小さくすることが容易である。本実施形態に係るベーンでは、強化用繊維の配合率を調整することによってベーンの長手方向の線膨張係数をシリンダのアルミ合金の線膨張係数である2×10−5/Kとほぼ同じにすることができる。したがって、ベーンとケーシングの内側面の間のクリアランスを小さくでき、圧縮ガスの漏れが少なく、かつ、ケーシングの内側面を磨耗させるおそれもない。一方、強化用繊維の配合率が50質量%より多くなると、ベーンの成形が困難になるとともに、高価な強化用繊維の使用量が多くなり経済性に劣る。
【0027】
本実施形態では、強化用繊維を厚さ方向に配向させていないため、ベーンの厚さ方向の線膨張係数がロータに比べて大きくなる場合がある。しかし図8に示すようにベーン10の厚さの膨張を吸収できるように、ロータ20のベーン溝22の幅bに対して、ベーンの厚さ(図4におけるa)を小さくして、ベーン溝22とベーン10の厚さ方向のクリアランスを大きくすることによって、ベーンが高温時に膨張してベーン溝22に嵌着されることを防止できる。厚さ方向のクリアランスが大きい場合であっても。ロータリコンプレッサの運転時には、ベーン10は、ベーン溝22に対して接点24,26の2点で接することによって、圧縮ガスをシールすることが可能である。
【0028】
本実施形態に係るロータリコンプレッサ用ベーンの製造方法では、強化用繊維を配合したエンジニアリングプラスチックのペレットを用いて、ベーンの一方の側面から他方の側面に向かう長手方向に樹脂を流してベーン成形品を射出成形する工程と、前記ベーン成形品をアニーリングする工程と、を有する。ベーンの長手方向に樹脂が流れるように射出成形するため、強化用繊維はベーンの長手方向に配向し、また、アニーリングを行うことによって吸水性を抑え、寸法安定性を高めることができる。さらに、ベーン成形品の先端部の寸法精度が規格に満たない場合には、前記アニーリングする工程の後に、ベーン成形品の先端部を研磨して、コア層を露出させる工程を設けることができる。ベーン成形品の先端部を研磨することによって、成形後の収縮(ヒケ)、金型の表面汚れ、金型の合わせ目等に起因するベーン成形品の先端部の凹凸を除去して平滑にし、シリンダボアとの摺動に支障がないようにすることができる。なお、必要に応じて、ベーンの厚さ方向の表面もベーン溝と所定のクリアランスをもって滑動するように研磨し、ベーンの両側面の研磨も行う。
【実施例】
【0029】
次に実施例を示して、本発明を更に詳細に説明する。
【0030】
(実施例1)
強化用繊維配合ポリアミド(商品名スタニール、ポリマーPA46‐Gf30、DSM社製、グレードTW271F6、曲げ強さ180MPa、融点295℃、グラスファイバ 30質量%配合)のペレットを用いて、強化用繊維がベーンの長手方向に配向するようにベーンを射出成形によって作製した。ベーンの作製に供した強化用繊維配合ポリアミドの繊維の配向方向を曲げ軸として曲げた場合のJIS K 7017:1999に規定する曲げ強さは180MPa、ISO 11357‐3:1999に規定する融点は295℃、ISO 11359‐2:1999に規定する方法によって求めた長手方向の線膨張係数は2×10−5/Kであった。ベーンは成形後150℃、12時間のアニーリングを行った後、ベーンの先端部を研磨し、コア層を露出させた。その後、ベーンをロータリコンプレッサのロータに取り付けて、運転時の騒音の状態、及び回転数7000回転/分で200時間連続運転した後のベーンの先端部とシリンダボアの磨耗の状態を評価した。
【0031】
(比較例1)
フェノール樹脂(商品面ベルパールS890、鐘紡社製、粒径7〜13μm)、グラスファイバ(商品名SS05C‐404S、富士ファイバーグラス社製、繊維径9〜12μm、長さ140μm)、二硫化モリブデン粉末(商品名M‐5パウダー、ニチモリ社製、粒径2〜15μm)をそれぞれ55部、40部、5部の配合割合(質量比)で混合し、強化用繊維であるグラスファイバがベーンの短手方向に配向しているベーンを熱硬化成形(成形条件:金型温度180℃、成形荷重100MPa、成形時間5分)によって作製し、その後室温から5時間かけて230℃まで昇温し、その温度を約5時間保持し、その後室温で徐冷却させてから、実施例1と同様の評価を行った。得られたベーンはスキン層を有していなかった。尚、強化用繊維配合フェノール樹脂の強化用繊維の配向方向を曲げ軸として曲げた場合のJIS K 7017:1999に規定する曲げ強さは120MPaであった。
【0032】
(結果)
実施例1のベーンを使用したロータリコンプレッサの連続運転試験では、回転数7000回転/分で200時間運転後の騒音の発生は激減し、また、ベーンの先端部及びシリンダボアの内壁の磨耗はみられなかった。
【0033】
比較例1のベーンは、熱硬化性樹脂であるため融点はなく耐熱性が高く、曲げ強度も120MPaであり、ロータリコンプレッサ運転時の使用環境に十分耐えるレベルであった。しかし、ベーンをロータリコンプレッサに取り付けて、回転数7000回転/分で200時間連続運転した後のシリンダボアの内壁が激しく磨耗していた。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明に係るロータリコンプレッサは、各種ロータリコンプレッサに使用することができる。特に騒音の発生が少ないため、車両用の空調機のロータリコンプレッサとして好適である。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】ベーンタイプのロータリコンプレッサの側断面図である。
【図2】ベーンタイプのロータリコンプレッサのA−A´線縦断面図である。
【図3】本実施形態に係るロータリコンプレッサのベーンの斜視概要図である。
【図4】本実施形態に係るロータリコンプレッサのベーンのB断面図である。
【図5】本実施形態に係るロータリコンプレッサのベーンのC断面図である。
【図6】ロータリコンプレッサのロータのベーン溝の幅とベーンの厚さの関係を示す模式図である。
【符号の説明】
【0036】
10 ベーン
11a,11b ベーンの側面
12 スキン層
12a 移行層
12b 表層
14 コア層
16 先端部
17 先端部に対向する面
20 ロータ
22 ベーン溝
24,26 接点
50,53 ケーシング
51 サイドブロック
52 シリンダ
55,57 圧縮室
60 シリンダボアの内壁
M シリンダ幅
L ベーン長さ
X ベーンの長手方向
Y ベーンの短手方向
Z ベーンの厚さ方向


【特許請求の範囲】
【請求項1】
楕円状のシリンダボアを有するシリンダと、該シリンダボア内に回転可能に配置したロータと、該ロータの外周面に設けられた複数のベーン溝のそれぞれに進退移動自在に保持されたベーンとを有し、前記各ベーンの先端部を前記シリンダボアの内壁に摺接させて空間を仕切ることで圧縮室を構成するロータリコンプレッサにおいて、
前記ベーンは、強化用繊維を配合したエンジニアリングプラスチックで形成されてなり、該強化用繊維を配合したエンジニアリングプラスチックは、前記強化用繊維の配向する方向を曲げ軸として曲げた場合のJIS K 7017:1999で規定した曲げ強さが120MPa以上であり、かつ、前記強化用繊維は、前記ベーンの一方の側面から他方の側面に向かう長手方向に配向されていることを特徴とするロータリコンプレッサ。
【請求項2】
前記エンジニアリングプラスチックは、ポリアミドであることを特徴とする請求項1に記載のロータリコンプレッサ。
【請求項3】
前記ベーンの強化用繊維の配合率が20〜50質量%であることを特徴とする請求項1又は2に記載のロータリコンプレッサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−275531(P2009−275531A)
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−125251(P2008−125251)
【出願日】平成20年5月12日(2008.5.12)
【出願人】(500309126)株式会社ヴァレオサーマルシステムズ (282)
【Fターム(参考)】