説明

ローラハースキルンによるワークの焼成方法

【課題】従来よりも少ないエネルギでワークを均一に焼成することができるローラハースキルンによるワークの焼成方法を提供する。
【解決手段】ワーク7を載せたセッター6を炉幅方向に所定の間隔を明けてローラ1上に複数列に並べて搬送しながら、ローラ1の下面に配置したヒータ3によってワーク7を下面から加熱する。また、ワーク7の上面と炉室天井面との距離hを30〜150mmに接近させて天井面からの輻射加熱によってワークを上面から加熱する。これによって従来よりも20〜30%程度の省エネルギ効果を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ローラハースキルンを用いて電子部品等のワークを焼成する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子機器用の基板、パネル、小型電子部品、粉末材料などを特定の雰囲気中で焼成するために、従来からローラハースキルンが広く用いられている。ローラハースキルンは例えば特許文献1に示すように、炉室の内部に多数のローラを一定ピッチで水平に配置した炉であり、各ローラをその端部に設けた駆動手段によって同一方向に回転させることにより、ワークを搬送しながら焼成を行うものである。
【0003】
多くの場合、焼成されるワークは耐熱性のあるセッターの上に載せられてローラ上を搬送され、ローラの上下に配置された棒状のヒータによって上下両面から加熱されている。セッターとしては平板状あるいは浅箱状のものが一般的に用いられている。
【0004】
ところが、棒状のヒータをワークに接近させた位置に配置するとワークに加熱温度むらが生じ易くなるため、従来は上下のヒータとローラとの間にそれぞれ300mm以上の間隔を形成しているのが普通である。このため必然的に炉室の断面積が大きくなり、炉室の内部雰囲気量も多くなるため、炉内を高温に加熱するために多くのエネルギを必要とするという問題があった。
【0005】
またセッターの幅が炉幅に比較して狭い場合には、生産性を高めるためにワークを載せたセッターをローラ上に炉幅方向に複数列に並べて焼成を行うことが普通であるが、従来のローラハースキルンの場合には各ローラの太さが長さ方向にばらついているため、ローラ上を搬送されるセッターが蛇行し易い傾向にある。このため、複数列のセッターを炉幅方向に互いに接触させた状態で搬送し、隣接するセッターにより互いに方向のずれを規制し、蛇行を減少させるのが普通であった。
【0006】
しかしこのように複数列のセッターを炉幅方向に互いに接触させた状態でローラ上を搬送すると、炉室内部におけるローラの上下間の雰囲気の循環がセッターにより阻害される。このため、セッター上の位置によっては炉内の循環流と接触しにくい部分が生じて加熱効率が低下し、ワークを所定温度にまで昇温するために多くのエネルギが必要となるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平10−259996号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って本発明の目的は上記した従来の問題点を解決し、従来よりも少ないエネルギでワークを均一に焼成することができるローラハースキルンによるワークの焼成方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するためになされた本発明は、ローラハースキルンによるワークの焼成方法であって、ワークを載せたセッターを炉幅方向に所定の間隔を明けてローラ上に複数列に並べて搬送しながら、ローラの下面に配置したヒータによってワークを下面から加熱するとともに、ワークの上面と炉室天井面との距離を接近させて天井面からの輻射加熱によってワークを上面から加熱することを特徴とするものである。
【0010】
なお、セッター相互間の間隔を50〜100mmとすることが好ましく、セッターと炉室側壁との間隔も50〜100mmとすることが好ましい。
【0011】
また、ワークの上面と炉室天井面との距離を30〜150mmとすることが好ましく、外径寸法ばらつきを0.5mm以内に、反りを長さの1/1000以下に以内に管理されたローラを用いることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明のローラハースキルンによるワークの焼成方法によれば、ワークを載せたセッターを炉幅方向に所定の間隔を明けてローラ上に複数列に並べて搬送するので、生産性がよいうえ、炉内雰囲気がセッター間を通じてローラの上下を対流して循環することができるので、セッターを炉幅方向に互いに接触させた状態で搬送していた従来よりも、ワークに対する加熱効率が向上する。このため従来よりも少ないエネルギでワークを設定温度まで加熱することができる。なお、このような搬送方法を採用しても大きな蛇行が発生しないようにするには、外径寸法ばらつきを0.5mm以内に、反りを長さの1/1000以下に管理されたローラを用いることが好ましい。
【0013】
また本発明のローラハースキルンによるワークの焼成方法によれば、ローラの下面に配置したヒータによってワークを下面から輻射加熱するとともに、ワークの上面と炉室天井面との距離hを30〜150mm程度に接近させて天井面からの輻射加熱によってワークを上面から加熱する。このため上部ヒータが不要となって消費エネルギが減少し、また炉室の断面積も従来よりも小さくなるので炉内の雰囲気ガス量も減少し、雰囲気ガスを高温に加熱するためのエネルギも減少する。しかも天井面は連続面であるから、ワークは面状ヒータによって加熱された場合と同様に均一加熱され、省エネルギと焼成品質の向上を両立させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施形態を示す断面図である。
【図2】本発明の実施形態を示す平面図である。
【図3】従来技術を説明する平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に本発明の実施形態を示す。
ローラハースキルンは、炉内に多数のローラを一定ピッチで配置し、各ローラを炉外に設けた駆動手段によって同一方向に回転させることによって、その上に載せたワークを搬送する形式のトンネル炉である。炉内は予熱帯、乾燥帯や焼成帯、冷却帯などに区分され、加熱手段によって炉室内に所定の温度勾配が形成されている。ワークは多数のローラによって炉長方向に移送されながら焼成される。
【0016】
図1は、ローラハースキルンの断面構造を示す図であり、1は炉室2の内部に水平に配置された搬送用のローラである。炉室2は強度のある耐火煉瓦からなる天井4と側壁5と炉床8とによって構成されている。またその外周には、セラミックファイバー等からなる断熱材9が配置されて放熱を抑制している。ローラ1は高温強度に優れたSi−SiC製とすることが好ましい。Si−SiCは多孔質のSiCに金属Siを含浸させて緻密化したセラミックである。
【0017】
前記したように、ローラハースキルンのローラ1には太さのばらつきがあり、従来は長さが3m程度のローラ1には最大径と最小径との間に1mm程度の差があるのが普通であった。これはローラを製作する工程において、垂直に吊るして焼成するためである。しかし本発明では焼成方法の改善などにより、外径寸法ばらつきを0.5mm以内に、反りを長さの1/1000以下に管理されたローラを用いている。
【0018】
ワーク7はセッター6に載せられてローラ1上を搬送される。ワーク7は電子機器用の基板、パネル、小型電子部品、粉末材料などの平板状、粒状あるいは粉体状のものである。この実施形態ではワーク7は平板状の基板であり、平板状のセッター6上にセットされている。しかしワーク7が粉末である場合には、浅箱上のセッターが用いられる。
【0019】
図1および図2に示すように、本発明ではワーク7を載せたセッター6を炉幅方向に所定の間隔を明けてローラ1上に複数列に並べて搬送する。セッター6,6間の間隔を50〜100mmとし、セッター6と炉室2の側壁5との間隔も50〜100mmとすることが好ましい。このようにセッター6,6間に間隔を明けても、外径寸法ばらつきを0.5mm以内に、反りを長さの1/1000以下に管理されたローラ1を用いることによって蛇行を抑制することができる。
【0020】
図2は本発明におけるローラ1上のセッター6の配置を示す平面図であり、図3は従来のセッター6の配置を示す平面図である。本発明では図2に示されるようにセッター6,6間に十分な間隙があるため、この間隙から炉内の雰囲気ガスが対流によって循環することができる。これに対して図3のようにセッター6,6を炉幅方向に密着させて配置すると、実質的に2枚分のサイズのセッターを用いた場合と同様になり、対流が妨げられる。このため、本発明によればワーク7に対する対流による熱伝達効果が向上し、従来よりも必要エネルギを20〜30%程度も削減することが可能となる。
【0021】
このような効果を得るためには、セッター6,6の間隔を50mm以上としておくことが好ましい。これよりも間隔が狭くなると対流が制限されるためである。しかし100mm以上としても効果に大差はなくなり、逆に炉内に無駄なスペースが生じて生産性の低下を招くため、50〜100mmとすることが好ましい。また同様の理由により、セッター6と炉室2の側壁5との間隔も50〜100mmとしておくことが好ましい。図3に示す従来の配置ではセッター6と炉室2の側壁5との間隔が大きくなり、炉室2の左右部分に対流が集中して中央部分のワーク7への熱伝達効果が低下する。
【0022】
また本発明ではヒータ3をローラ1の下面のみに配置している。ヒータ3は従来と同様の棒状ヒータである。ヒータ3からの輻射はセッター6の下面に対して行われ、ワーク7を直接加熱するものではない。このためにヒータ3とローラ1との間の距離を300mm程度としておけば、加熱温度のばらつきは生じない。
【0023】
一方、本発明ではローラ1の上面にはヒータを設置せず、ワーク7の上面と炉室2の天井面との距離hを接近させ、天井面からの輻射加熱によってワーク7を上面から加熱するようにした。この距離hは好ましくは30〜150mm程度である。すなわち、ヒータ3によって炉室2の全体が加熱されると、天井4からの輻射も増加し、天井4が連続した面状ヒータと同様の輻射機能を発揮する。このため、ワーク7の上面と炉室2の天井面との距離hを接近させても加熱むらが生ずることがない。また炉室2の断面積を従来よりも小さくできるため、炉内の雰囲気ガス量も減少し、炉内を加熱するためのエネルギを減少させることができる。
【0024】
なお、ワーク7の上面と炉室2の天井面との距離hを30mmよりも接近させると炉室上部のガス循環が阻害されるおそれがあり、逆に150mmよりも離すと炉室2の断面積の増加を招き、上記した効果が発揮されにくくなるので、30〜150mm程度が好ましい。
【0025】
また上記した炉室2の天井面からの輻射加熱を十分に行わせるためには、天井4を構成する材質が黒体に近いものであることが好ましく、天井4も例えばSi-SiCとすれば黒体に近い輻射効果を得ることができる。
【0026】
以上に説明したように、本発明によればワーク7を載せたセッター6を炉幅方向に所定の間隔を明けてローラ1上に複数列に並べて搬送するので、対流による加熱効果が高まり、セッター6を炉幅方向に互いに接触させた状態で搬送していた従来よりも、エネルギを削減することができる。さらに本発明では上部ヒータが不要となって消費エネルギが減少し、また炉室の断面積も従来よりも小さくなるので炉内の雰囲気ガス量も減少し、雰囲気ガスを高温に加熱するためのエネルギも減少する。これらの理由により、本発明によれば従来のローラハースキルンによる焼成よりも、20〜30%程度のエネルギを削減でき、しかも従来と同等以上の焼成品質を達成することが可能となる。
【符号の説明】
【0027】
1 ローラ
2 炉室
3 ヒータ
4 天井
5 側壁
6 セッター
7 ワーク
8 炉床
9 断熱材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ローラハースキルンによるワークの焼成方法であって、ワークを載せたセッターを炉幅方向に所定の間隔を明けてローラ上に複数列に並べて搬送しながら、ローラの下面に配置したヒータによってワークを下面から加熱するとともに、ワークの上面と炉室天井面との距離を接近させて天井面からの輻射加熱によってワークを上面から加熱することを特徴とするローラハースキルンによるワークの焼成方法。
【請求項2】
セッター相互間の間隔を50〜100mmとすることを特徴とする請求項1記載のローラハースキルンによるワークの焼成方法。
【請求項3】
セッターと炉室側壁との間隔を50〜100mmとすることを特徴とする請求項2記載のローラハースキルンによるワークの焼成方法。
【請求項4】
ワークの上面と炉室天井面との距離を30〜150mmとすることを特徴とする請求項1記載のローラハースキルンによるワークの焼成方法。
【請求項5】
太さのばらつきを0.5mm以内に管理されたローラを用いることを特徴とする請求項1記載のローラハースキルンによるワークの焼成方法。
【請求項6】
反りを長さの1/1000以下に管理されたローラを用いることを特徴とする請求項1記載のローラハースキルンによるワークの焼成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−236779(P2010−236779A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−84697(P2009−84697)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【出願人】(591076109)エヌジーケイ・キルンテック株式会社 (11)
【Fターム(参考)】