説明

ロールネック用密封型円すいころ軸受

【課題】軸受外部と軸受内部の圧力差を無くすことにより、軸受内部への水等の浸入を防止することができるロールネック用密封型円すいころ軸受を提供する。
【解決手段】隣接する内輪13、14の内周面13e、14eに跨って配置される中間シール30の弾性シール部材31に、半径方向に貫通する貫通穴34が円周方向に略等間隔で複数形成される。また、貫通穴34の内周面には撥水膜35が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロールネック用密封型円すいころ軸受に関し、より詳細には、鉄鋼設備の圧延機に好適に使用されるロールネック用密封型円すいころ軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、水等の流体がかかるおそれのある環境下において使用される密封型円すいころ軸受においては、隣接する内輪間に軸受空間内を密封するための中間シールが配置されている(例えば、特許文献1及び2参照)。
【0003】
図8に示すように、特許文献1に記載の中間シール100では、隣接する内輪101、102の間を密封するように、両内輪101、102の突合せ面の内周面に跨って形成された環状の装着溝103に弾性シール部材104が取り付けられ、この弾性シール部材104は環状のスプリング105によって装着溝103の外側面に押し付けられる。シール部材104には、一方の内輪101、102に押し付けられるシールリップ106と、シール突起107が形成され、これら106,107が装着溝103の内壁に当接することにより、軸受空間内に流体が浸入するのを防止している。
【0004】
また、図9に示すように、特許文献2に記載の中間シール110では、隣接する内輪111、112の間を密封するように、両内輪111、112に跨って形成された環状の凹部113に弾性体114が形状維持のための心金115と共に取り付けられる。弾性体114には、可撓性を有するリップ116が設けられており、リップ116の先端部が凹部113の側壁に当接することで、隣接する内輪111、112間がシールされる。また、リップ116の根本側には、隔壁117aが形成されたベント穴117が形成される。隔壁117aは薄い弾性体からなり、中心を通って両端まで延びる図示しないスリットが形成されている。そして、ある一定以上の圧力差が発生した場合には、スリットの働きにより空気の吸排出を行う。これにより、使用中の温度変化に起因して、軸受外部と軸受内部に圧力差が発生することにより、メインシールから軸受空間内に水等が浸入することを抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−329243号公報(第1図)
【特許文献2】特開2000−104747号公報(第2図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献2に記載の中間シール110においては、ある一定以上の圧力差が生じた場合にのみスリットを開く機構となっているため、軸受外部と軸受内部の圧力差を無くすことは困難であった。
【0007】
本発明は、前述した課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、軸受外部と軸受内部の圧力差を無くすことにより、軸受内部への水等の浸入を防止することができるロールネック用密封型円すいころ軸受を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の上記目的は、以下の構成によって達成される。
(1)複数の内輪と、複数の外輪と、前記内輪と前記外輪との間に配置される複数の転動体と、隣接する前記内輪間に配置される中間シールと、を備えたロールネック用密封型円すいころ軸受であって、
前記中間シールは、隣接する前記内輪の内周面に跨って密接する弾性シール部材と、前記弾性シール部材を前記内輪の内周面に向けて付勢して、前記弾性シール部材を保持する保持部材と、を有し、
前記弾性シール部材には、半径方向に貫通する貫通穴が円周方向に略等間隔で複数形成されるとともに、前記貫通穴の内周面には、撥水膜が形成されることを特徴とするロールネック用密封型円すいころ軸受。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、隣接する内輪の内周面に跨って配置される中間シールの弾性シール部材に、半径方向に貫通する貫通穴を円周方向に略等間隔で複数形成したので、軸受内部と軸受外部の間に発生する圧力差を無くすことができる。また、貫通穴の内周面には撥水膜が形成されているので、圧力差が生じたときに空気が出入りして圧力差を緩和する際に、水分ははじかれて、空気とともに軸受内部に侵入するのを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の第1実施形態にかかるロールネック用密封型円すいころ軸受の断面図である。
【図2】第1実施形態にかかる中間シールの断面図である。
【図3】第2実施形態にかかる中間シールの断面図である。
【図4】第3実施形態にかかる中間シールの断面図である。
【図5】第4実施形態にかかる中間シールの断面図である。
【図6】第5実施形態にかかる中間シールの断面図である。
【図7】第6実施形態にかかる中間シールの拡大断面図である。
【図8】従来の中間シールを示す断面図である。
【図9】従来の他の中間シールを示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の各実施形態に係るロールネック用密封型円すいころ軸受について図面に基づいて詳細に説明する。
【0012】
(第1実施形態)
図1に示すように、第1実施形態にかかるロールネック用密封型円すいころ軸受(以後、軸受と称す。)10は、一対の外輪11及び複列外輪(外輪)12と、一対の複列内輪(内輪)13、14と、各外輪11、12及び各内輪13、14間に4列に配設され、保持器16によって回動自在に保持された複数の円すいころ15と、を備える。
【0013】
軸方向中央に配置された複列外輪12と、その軸方向両側に配置された外輪11との間には、外輪間座17がそれぞれ配置されて一対の外輪11及び複列外輪12の軸方向の位置決めがなされる。また、外輪11の軸方向外側には、メインシール19が取り付けられた円環状のシールホルダー18が配置され、複列内輪13、14から軸方向外方に延設された小径部13a,14aの外周面との間をメインシール19によってシールしている。また、シールホルダー18の外周面には、Oリング20が装着されて、図示しないチョックとの間を封止する。
【0014】
図2に示すように、互いに突き合うように配置される一対の複列内輪13、14の両端部である、内輪軌道面より側方の肩部13b,14bは、軸方向端面同士が互いに突き合う突合せ面13c,14cを形成する共に、内周面側に環状の切欠き部13d、14dを形成して、それぞれ段付形状に形成されている。そして、これら切欠き部13d、14dによって構成される環状の凹部21には、中間シール30が取付けられている。なお、突合せ面13c,14cには、図示しない貫通穴が形成されている。
【0015】
中間シール30は、凹部21において隣接する複列内輪13、14の内周面13e、14eに跨って密接するゴム等の環状の弾性シール部材31と、弾性シール部材31を複列内輪13、14の内周面13e、14eに向けて付勢して、弾性シール部材31を保持する環状の保持部材32とを有している。
【0016】
弾性シール部材31は略台形の断面形状を有しており、側面にはリップ31aおよび凸部31bが設けられている。また、弾性シール部材31の軸方向中間部には、例えば円形断面の保持穴33が内周面に開口して環状に形成されており、保持穴33には保持部材32が収納されている。保持部材32は、コイルバネを用いてもよく、或いは、ピアノ線等のワイヤー部材を用いてもよい。
【0017】
弾性シール部材31には、半径方向に貫通する貫通穴34が円周方向に略等間隔で複数形成されており、貫通穴34の内周面には、撥水膜35が形成されている。貫通穴34は、保持穴33を挟んで軸方向両側に設けられている。
【0018】
従って、貫通穴34を通って空気の流入・流出が可能となるので、軸受内部と軸受外部との圧力差を無くすことができる。このとき、水は、撥水膜35によってはじかれて通ることができないので、水の浸入を防止することができる。すなわち、一般的に水は細い管に達すると、いわゆる毛細管現象によって管の一部あるいは全体に伝って積極的に管内へ移動しようとする。これは、水と壁面の濡れ性が良い場合に顕著に起こることが知られている。本実施形態では、撥水膜35のように水に対して濡れ性の悪い膜を形成することにより、水の浸入を阻止することができる。なお、貫通穴34が、毛細管現象を生じないような一定以上の内径を有する場合でも、同様の理由により、水が貫通穴34の壁面を伝って進入することはない。また、撥水膜35によって、水は表面張力により球に近い形状となり、貫通穴34の径よりも水滴の径が大きければ、やはり水は通過できない。なお、撥水膜35は、貫通穴34の内壁面に形成されているので、損傷を受け難く、長く効果を維持することができる。このため、貫通穴34の径は、0.01〜1mm程度に設計される。
【0019】
撥水膜35を形成するための撥水剤としては、例えば、フッ素系化合物やシリコーン系化合物に代表される表面エネルギーを低下させる効果のあるものを挙げることができる。
【0020】
フッ素系化合物としては、基本的には、側鎖、末端に有機基を導入した変性フッ素化合物、オリゴマー、樹脂等を用いることができ、具体的には、フルオロアルキルやパーフルオロアルキルのエステル変性、アルコール変性、イソシアネート変性、カルボキシル変性などの変性フッ素化合物、パーフルオロアクリレート構造を含有するオリゴマー、親有機性を有する部分にウレタン構造を有するオリゴマー、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体樹脂、ポリクロロトリフルオロエチレン樹脂、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体樹脂、クロロトリフルオロエチレン−エチレン共重合体樹脂、ポリフッ化ビニリデン樹脂、ポリフッ化ビニル樹脂、ポリテトラフルオロエチレン樹脂、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体樹脂などが挙げられる。
【0021】
シリコーン系化合物としては、側鎖、末端に有機基を導入した変性シリコーン化合物、エマルジョン、樹脂等を用いることができ、具体的にはジメチルシリコーンのアミノ変性、エポキシ変性、カルビノール変性、メルカプト変性、カルボキシル変性、メタクリル変性、シラノール変性,フェノール変性などの変性シリコーン化合物、ジメチルシリコーンや上記変性シリコーンを界面活性剤で分散したエマルジョンやシリコーンレジンや自己架橋型のシリコーンゴム、シリコーン樹脂パウダーを分散させたエマルジョン、シリコーン変性ポリマー、シリコーン変性ポリエステル樹脂、シリコーン変性アルキッド樹脂などが挙げられる。また、チタンカップリング剤やシランカップリング剤などのカップリング剤も好適に使用される。
【0022】
有機チタネートとしては、テトラ−i−プロピルチタン(TPT)、テトラ−n−ブチルチタン(TBT)、ブチルチタネートダイマー(DBT)、テトラステアリルチタン、トリエタノールアミンチタン、チタニウムアセチルアセトネート、チタニウムエチルアセトアセテート等のアルコキシチタネートが挙げられる。有機シランとしては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、トリメチルメトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルジメトキシシラン等のアルコキシシランが挙げられる。
【0023】
なお、上記化合物は、適宜合わせて使用したり、ゴム材料に適宜混練することで、撥水性を付与することも可能である。
【0024】
以上説明した、第1実施形態にかかるロールネック用密封型円すいころ軸受10によれば、隣接する内輪13、14の内周面13e,14eに跨って配置される中間シール30の弾性シール部材31に、半径方向に貫通する貫通穴34が円周方向に略等間隔で複数形成されるので、軸受内部と軸受外部の間に発生する圧力差を無くすことができる。また、貫通穴34の内周面には撥水膜35が形成されているので、圧力差が生じたときに空気が出入りして圧力差を緩和する際に、水分ははじかれて、空気とともに軸受内部に侵入するのを防止することができる。
【0025】
なお、撥水膜35は、貫通穴34の内壁のみに設けても良いが、弾性シール部材31の表面全体に設けるようにすると、周辺の水がはじかれて空気が流入する際に水を吸い込む可能性がさらに減少するので、より効果的である。また、左右の貫通穴34、34は、周方向に同じ位置で設けてもよいし、異なる位置、例えば千鳥状に設けてもよい。
【0026】
(第2実施形態)
図3は、本発明の第2実施形態にかかるロールネック用密封型円すいころ軸受に用いられる中間シール30aを示している。この中間シール30aでは、貫通穴34aが径方向に対して傾斜して形成されており、貫通穴34aの外周側開口36は、複列内輪13、14の突合せ面13c、14cと同じ位置に合わせており、空気の通りを良くしている。
【0027】
なお、左右の貫通穴34aは、周方向に同一断面内に設けて同一の外周側開口36とすることができるが、図3に示すように、左右の貫通穴34aを周方向にずらして、左右の貫通穴34aの外周側開口36が、周方向に交互に並ぶように設けることも可能である。
その他の構成及び作用については、第1実施形態のものと同様である。
【0028】
(第3実施形態)
図4は、本発明の第3実施形態にかかるロールネック用密封型円すいころ軸受に用いられる中間シール30bを示している。この中間シール30bでは、貫通穴34bが保持穴33に連結して設けられている。貫通穴34bは、中間シール30bの幅方向中央において、保持穴33から外周側に延び、外周側開口36も中間シール30bの幅方向中央に位置している。これにより、第2実施形態と同様に、外周側開口36の位置を隣接する複列内輪13、14の突合せ面13c、14cと同じ位置に合わせることができるため、空気の通りを一層良くすることができる。さらに、途中まで保持穴33を利用することになるので、貫通穴34bを短くすることができる。
【0029】
なお、保持部材32としてコイルバネを用いる場合には、空気が通過できる空間が予め設けられているが、ワイヤー材等を用いる場合には、保持穴33の断面径が、ワイヤー材の断面径よりも若干大き目とするのが望ましい。これにより、空気の出入りがスムーズになり、負圧性能が向上する。
その他の構成及び作用については、第1及び第2実施形態のものと同様である。
【0030】
(第4実施形態)
【0031】
図5は、本発明の第4実施形態にかかるロールネック用密封型円すいころ軸受に用いられる中間シール30cを示している。この中間シール30cは、前述した第3実施形態の中間シール30bにおいて、保持部材として平板状の部材32cを用いたものである。従って、保持部材32cを収容する保持穴33cは矩形状に形成されている。これにより、保持部材32cの剛性が増し、中間シール30cとしての剛性も向上させることができる。
その他の構成及び作用については、第3実施形態のものと同様である。
【0032】
(第5実施形態)
図6は、本発明の第5実施形態にかかるロールネック用密封型円すいころ軸受に用いられる中間シール30dを示している。この中間シール30dは、第1実施形態の中間シール30において、左右の貫通穴34d,34dの断面形状を、径方向の内周側から外周側に向かって内径が大きくなる円すいまたは角錐のスリット状に形成したものである。
これにより、貫通穴34dの内周側開口37を小さくしたので、内周側付近に存在する水の浸入を防止することができる。
その他の構成及び作用については、第1実施形態のものと同様である。
【0033】
(第6実施形態)
図7は、本発明の第5実施形態にかかるロールネック用密封型円すいころ軸受に用いられる中間シール30eを示している。この中間シール30eは、第1実施形態の中間シール30において、左右の貫通穴34e,34eの断面形状を、径方向の内周側から外周側に向かって内径が小さくなる円すいまたは角錐のスリット状に形成したものである。
これにより、水が貫通穴34eの途中まで浸入した場合でも、撥水膜35の効果により水分が表面張力で球状になるため、貫通穴34eを通り抜けることができず、水の浸入を防止することができる。
【0034】
なお、本発明は、前述した各実施形態に限定されるものでなく、適宜、変形、改良等が可能である。
【符号の説明】
【0035】
10 ロールネック用密封型円すいころ軸受
11 外輪
12 複列外輪(外輪)
13,14 複列内輪(内輪)
13c、14c 突合せ面
13e、14e 内周面
15 ころ(転動体)
30、30a、30b、30c、30d、30e 中間シール
31 弾性シール部材
32、32c 保持部材
33、33c 保持穴
34、34a、34b、34d、34e 貫通穴
35 撥水膜
36 外周側開口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の内輪と、複数の外輪と、前記内輪と前記外輪との間に配置される複数の転動体と、隣接する前記内輪間に配置される中間シールと、を備えたロールネック用密封型円すいころ軸受であって、
前記中間シールは、隣接する前記内輪の内周面に跨って密接する弾性シール部材と、前記弾性シール部材を前記内輪の内周面に向けて付勢して、前記弾性シール部材を保持する保持部材と、を有し、
前記弾性シール部材には、半径方向に貫通する貫通穴が円周方向に略等間隔で複数形成されるとともに、前記貫通穴の内周面には、撥水膜が形成されることを特徴とするロールネック用密封型円すいころ軸受。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−164101(P2010−164101A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−5695(P2009−5695)
【出願日】平成21年1月14日(2009.1.14)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】