説明

ワイヤソーのガイドプーリ磨耗検出装置及び磨耗検出方法

【課題】ワイヤソーにおけるガイドプーリの磨耗を早期に検出する。
【解決手段】ガイドプーリ7の案内溝27を経由してワイヤ2を複数の溝ローラ11間に巻き掛け、ワイヤ2を走行させて溝ローラ11間のワイヤ2にワーク15を押し付けることによってワーク15を切断するワイヤソーにおいて、前記ワイヤ2の所定走行速度及び前記ガイドプーリ7の案内溝27の初期外径d1を設定することで、予め前記所定走行速度におけるガイドプーリ7の所定範囲の回転数を設定する制御部と、ガイドプーリ7の回転数を検出するセンサ32とを備えるガイドプーリの磨耗検出装置19。前記ワイヤソーを駆動してワイヤ2が前記所定走行速度に達した時点でのガイドプーリ7の回転数をセンサ32で検出し、この回転数と予め制御部に設定された所定範囲の回転数とを比較し、ガイドプーリ7の回転数が所定範囲外となったことを前記制御部で判断する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワイヤソーにおけるワイヤを案内するガイドプーリの磨耗を検出するワイヤソーのガイドプーリ磨耗検出装置及び磨耗検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、複数の溝ローラ間にワイヤを巻き回して形成されるワイヤ列にシリコンカーバイドやダイヤモンド等からなる砥粒が混合された加工液を供給し、ワーク(例えばシリコン、シリコンカーバイド、サファイア、セラミック材料等)を多数枚の薄板状に切断するワイヤソーが知られている。
【0003】
また、前記ワイヤの表面にダイヤモンド等の砥粒がレジンや電着により固定された固定砥粒ワイヤを用い、水やグリコール類等を使用した加工液をワイヤ列に供給しながら、前記ワークを多数枚の薄板に切断する固定砥粒方式のワイヤソーも知られている。
【0004】
上記両方式のワイヤソーにおいては、供給リールから供給されるワイヤを複数のガイドプーリに掛け渡して複数の溝ローラ間にワイヤを導き、このワイヤを前記複数の溝ローラ間に巻き回してワイヤ列を形成した後、前記ワイヤを複数のガイドプーリで回収リールに導いて巻き取るようになっている。
【0005】
前記ガイドプーリは、例えばウレタン、ポリエチレン等の各種樹脂やゴム、セラミックス等で形成されており、その外周にはワイヤを案内する案内溝が形成されている。前記ガイドプーリは、ワイヤソーに回動自在に軸支され、前記案内溝にワイヤを掛け渡すことでワイヤを所定の方向に案内するようになっており、ワイヤの走行に伴って回転するようになっている。
【0006】
上記のようにガイドプーリの案内溝にはワイヤが掛け渡され、このワイヤには遊離砥粒方式の場合、砥粒を含む加工液が付着し、そのワイヤが案内溝を走行するために、その際の摩擦により、次第に案内溝が削られて磨耗し、ガイドプーリの案内溝径が小さくなる。 また、固定砥粒方式のワイヤは、表面にダイヤモンド等の砥粒が固定されたものであり、遊離砥粒方式の場合と同様にガイドプーリの案内溝が削られて磨耗する。
【0007】
図7(a)及び(b)は、上記ワイヤソーにおけるガイドプーリの案内溝が磨耗した状態を表したものである。
【0008】
図示のようにガイドプーリ50は、ワイヤソーの固定枠56に固定された固定軸51の先端にベアリング54を介して回動可能に軸支されており、前記ガイドプーリ50は、ワイヤ53の走行に伴って回転するようになっている。図7(a)の二点鎖線は、初期状態(未磨耗)のガイドプーリ50の案内溝55に巻き掛けられたワイヤ53の位置を表しており、ワイヤソーで切断加工を行うに伴い、上記二点鎖線位置からガイドプーリ50の案内溝55は磨耗し、図示実線のように磨耗した案内溝55にワイヤ53が食い込んで引っ掛かり、ワイヤ53に無理な力が働いて断線する問題がある。
【0009】
また、図7(b)のd3は、ガイドプーリ50の案内溝55の初期外径位置であり、d4は、使用限界以上に磨耗した案内溝55の外径位置である。このようにd4位置では、案内溝55が深く掘れてワイヤ53が引っ掛かり易い状態となる。
【0010】
前記ワイヤ53が案内溝55に引っ掛かると断線する問題があるので、前記ガイドプーリ50の案内溝55は、適時磨耗状態を確認する必要があるが、ワイヤ53が掛け渡された状態で確認する事は困難であるため、使用時間やワイヤ53を新線と交換する際に確認が行われる。また、この確認も視認性が悪い箇所に設けられているガイドプーリ50は、装置から取り外して確認する必要があり、作業の煩雑化やワイヤが掛かった状態では確認できない問題があった。しかし、ガイドプーリの案内溝が磨耗したまま装置を稼動し続けると、装置のプーリ軸にまでワイヤが達し、最悪装置のプーリ軸を切断してしまう問題があった。
【0011】
そこで、このようなワイヤソーのガイドプーリの磨耗を検出するものとして、ガイドローラ(ガイドプーリに相当)の近傍に検出バーを設けると共に検出バーのガイドローラ側にローラを設けておき、ガイドローラの案内溝が正常な時は、前記ローラとワイヤが接触しないようにすることで検出バーが作動しないようにし、ガイドローラが磨耗した際にはワイヤが前記ローラに接触することで検出バーが揺動してガイドローラの磨耗を検出するようにしたワイヤソーのガイドローラの磨耗検出装置が知られている(例えば特許文献1)。
【0012】
また、ガイドローラ(ガイドプーリに相当)の近傍に掛け渡されたワイヤのガイドローラに跨る2箇所を導電性接触子で挟み込み、ガイドローラの磨耗によってこの2箇所のワイヤ間の距離が縮まることでワイヤが前記導電性接触子に接触して回路を形成し、この回路の通電状態を検出することでガイドローラの磨耗を検出するようにしたワイヤソーのガイドローラ磨耗検出装置も知られている(例えば特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開平7−299729号公報
【特許文献2】特開平7−314320号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
ところで、上記特許文献1のワイヤソーのガイドプーリ磨耗検出装置は、ガイドプーリの近傍に設けられた検出バーの先端に設けられたローラに磨耗したガイドプーリによって走行路が内側に寄ったワイヤが接触することで、検出バーが作動し、ガイドプーリの磨耗を検出するようになっており、間接的な手段を用いてガイドプーリの磨耗を検出するものである。
【0015】
このため、前記検出バーに設けられたローラへのワイヤの接触により、ローラが磨耗し、検出精度が低下する問題がある。また、検出バーの反応する距離の設定にばらつきが生じたり、複数設ける場合にはそれぞれ反応する距離を設定しなければならず作業が煩雑化する問題がある。
【0016】
また、遊離砥粒方式の場合は検出バー近辺に加工液中の砥粒が分離して蓄積し、検出バーが砥粒によって動作不良を起こす等、誤動作が生じ易い問題がある。
【0017】
また、特許文献2のワイヤソーのガイドプーリ磨耗検出装置は、ガイドプーリの近傍に掛け渡されたワイヤのガイドプーリに跨る2箇所を導電性接触子で挟み込み、ガイドプーリの磨耗によってこの2箇所のワイヤ間の距離が縮まることでワイヤが前記導電性接触子に接触した通電状態を検出するようになっており、上記特許文献1同様に間接的な手段を用いてガイドプーリの磨耗を検出するものである。
【0018】
従って、特許文献1と同様の問題がある。また、通電された導電性接触子と接触したワイヤとで回路を形成し、電流変化により、ガイドプーリが磨耗したことを検出するものであるが、使用する加工液が水溶性で導電性のものである場合は、誤動作を起こし易く、また、ワイヤ表面にレジンで砥粒が固定された固定砥粒ワイヤを使用する場合では、ワイヤ表面の導電性が悪く、検出できない問題がある。これは、遊離砥粒方式を用いた場合でも加工液の導電性が悪い場合に、導電性接触子間に加工液が介在して誤動作したり、砥粒が蓄積しないようにカバーを設けたりする必要があり、コストが高く付いたり、設置場所が限定される問題がある。
【0019】
また、特許文献1や特許文献2の装置では、ガイドプーリが磨耗限界に達した状態でしか判断できないので、ガイドプーリがどの程度まで磨耗しているかといった途中段階での磨耗状態を判断できない問題がある。
【0020】
そこで、本発明の目的は、誤動作が少なく、設置や調整が容易で、しかも使用途中でも磨耗状態を検出できるワイヤソーのガイドプーリの磨耗検出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0021】
そこで請求項1の発明は、ガイドプーリの案内溝を経由してワイヤを複数の溝ローラ間に巻き掛け、前記ワイヤを走行させて前記溝ローラ間のワイヤにワークを押し付けることによって前記ワークを切断するようにしたワイヤソーにおいて、前記ワイヤの所定走行速度及び前記ガイドプーリの案内溝の初期外径を設定することで、予め前記所定走行速度におけるガイドプーリの所定範囲の回転数を設定する制御部と、前記ガイドプーリの回転数を検出する回転数検出手段とを備え、ワイヤソーを駆動してワイヤが前記所定走行速度に達した時点でのガイドプーリの回転数を前記検出手段で検出し、この回転数と予め制御部に設定された所定範囲の回転数とを比較し、ガイドプーリの回転数が所定範囲外となったことを前記制御部で判断することでガイドプーリの磨耗を検出するようにした構成を採用したワイヤソーのガイドプーリの磨耗検出装置である。
【0022】
また、請求項2の発明は、請求項1の発明において、回転数検出手段が、前記ガイドプーリと一体に回動するように設けた被検出部材と、前記被検出部材を検出することでガイドプーリの回転数を検出するセンサとで構成されたワイヤソーのガイドプーリの磨耗検出装置である。
【0023】
また、請求項3の発明は、請求項1の発明において、回転数検出手段が、ガイドプーリの回転を検出するように設けたエンコーダである構成を採用したワイヤソーのガイドプーリの磨耗検出装置である。
【0024】
また、請求項4の発明は、ガイドプーリの案内溝を経由してワイヤを複数の溝ローラ間に巻き掛け、前記ワイヤを走行させて前記溝ローラ間のワイヤにワークを押し付けることによって前記ワークを切断するようにしたワイヤソーにおいて、前記ワイヤの所定走行速度及び前記ガイドプーリの案内溝の初期外径を設定し、前記設定されたワイヤの所定走行速度及び前記ガイドプーリの案内溝の初期外径とから前記ガイドプーリの所定範囲の回転数を予め設定し、続いてワイヤソーを駆動してワイヤが前記所定走行速度に達した時点でのガイドプーリの回転数を検出し、この回転数と予め設定されたガイドプーリの所定範囲の回転数とを比較して前記ガイドプーリの回転数が所定範囲外の回転数となったことを判断することでガイドプーリの磨耗を検出するようにした構成を採用したワイヤソーのガイドプーリの磨耗検出方法である。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、ワイヤソーのガイドプーリの磨耗状態をガイドプーリを取り外すことなく確認できるので、多数のガイドプーリを取り外して確認する手間が無くなり、ワイヤソーを効率良く稼動させることができる。
【0026】
本発明によれば、ワイヤソーのガイドプーリの磨耗状態をいち早く検出できるので、交換が速やかに行え、ワイヤがガイドプーリに引っ掛かって断線することが無い。
【0027】
本発明によれば、ワイヤソーのガイドプーリの磨耗状態を非接触に検出できるので、検出部材の磨耗がなく、交換する必要がないのでコストが低減できる。また、本発明によれば非接触で検出できるので、接触式のセンサに比べ調整が容易で、調整によるばらつきも無いので検出精度も高めることができる。また、調整が容易であるので複数のガイドプーリにセンサを設ける場合であっても、設置に時間を要することが無い。
【0028】
本発明によれば、接触式センサのようにセンサ部分への砥粒の蓄積による誤作動を低減でき、さらに、センサを加工液がかからない加工部の裏側に設置するようにすれば、誤作動を格段に低減でき、精度の良い検出が行なえると共にセンサの寿命も高めることができる。また、非接触で回転数からガイドプーリの磨耗状態を検出できるので、センサに加工液がかからないように設置することが可能となり、砥粒蓄積防止のためのカバーを必要とせず、センサの設置場所の自由度も高くなる。
【0029】
また、本発明によれば、導電状態を検出するものではないので、使用する加工液が水溶性で導電性のものであっても誤作動が起こらず、また、ワイヤ表面の導電性が悪くても精度良く検出できる。
【0030】
さらに、本発明によれば、磨耗限界に至るまでの途中段階でのガイドプーリの磨耗状態も回転数から判断できる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】は、本発明のガイドプーリの磨耗検出装置を適用したワイヤソーの全体概略図である。
【図2】(a)は、本発明のガイドプーリの磨耗検出装置の正面図であり、(b)は、(a)の一部切欠き側面図である。
【図3】は、本発明のガイドプーリの磨耗検出装置に係る制御機構を表すブロック図である。
【図4】(a)は、本発明のガイドプーリの磨耗検出装置の動作を表す正面図であり、(b)は、(a)の側面図である。
【図5】(a)は、本発明のガイドプーリの磨耗検出装置の第2の実施形態を表す一部切欠き側面図であり、(b)は、(a)のA−A方向矢視図である。
【図6】は、本発明のガイドプーリの磨耗検出装置の第3の実施形態を表す一部切欠き側面図である。
【図7】(a)及び(b)は、ワイヤソーのガイドプーリの案内溝が磨耗した状態を表す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明の第1の実施形態について図1乃至図4に基づいて以下に説明する。
【0033】
図1は、本発明のガイドプーリの磨耗検出装置を適用したワイヤソーの全体概略図である。ワイヤソー1は、適宜駆動源で回動自在で1本のワイヤ2を繰出す供給リール3と、中央に設けられ、複数の溝が形成され、その少なくとも1本が駆動されることで回動自在の1対の溝ローラ11、11と、適宜駆動源で回動自在で前記ワイヤ2を巻き取る回収リール4と、前記溝ローラ11、11間の上部に設けられたワーク15を保持し、溝ローラ11、11間のワイヤ列に押し付ける加工部40を備えている。
【0034】
前記供給リール3から繰出される1本のワイヤ2は、複数のガイドプーリ7を経由して、多数の溝が形成された1対の溝ローラ11、11にワイヤ2が巻き回された後、再び複数のガイドプーリ7を経てワイヤ2が回収リール4に巻き取られるようになっている。
【0035】
前記ワイヤ2は、遊離砥粒方式のワイヤソーでは、ピアノ線が用いられ、固定砥粒方式のワイヤソーでは、ダイヤモンド等の砥粒がピアノ線の表面に固定されたものが用いられる。このワイヤ2は供給リール3から1本繰出され、供給リール3の幅方向に移動自在な供給トラバーサ5によってトラバースされながら、複数のガイドプーリ7に案内されて、テンションプーリ8に導かれる。
【0036】
前記テンションプーリ8は、テンションアーム9の一端に軸支されており、このテンションアーム9の他端側は、モータ11と接続された軸10に軸止され、このモータ11を駆動することでテンションアーム9が軸10を基点にテンションプーリ8と共に揺動するようになっている。このテンションアーム9の揺動により、ワイヤ2に適正な張力が付与されるようになっている。
【0037】
前記ワイヤ2は、前記テンションプーリ8を経由した後、1対の溝ローラ11、11間に多数回巻き回されてワイヤ列を形成し、供給側と同様に回収側のテンションプーリ8を経由して、ワイヤ2に適正な張力を付与するようになっており、この後、ワイヤ2は回収トラバーサ6でトラバースされながら回収リール4に巻き取られるようになっている。
【0038】
また、ワイヤ2は、供給リール3及び回収リール4の正逆回転並びに溝ローラ11の正逆回転により、一方向走行又は往復走行するようになっている。
【0039】
また、前記加工部40には、モータ16で適宜な機構により昇降自在な昇降テーブル12が設けられ、この昇降テーブル12の下面には貼付台13が適宜な機構で脱着可能に2列設けられている。
【0040】
また、前記両貼付台13にはカーボン等のダミー部材14が接着されたシリコンやサファイア等のワーク15が貼り付けられており、前記昇降テーブル13を加工させることで、1対の溝ローラ11、11間に形成されたワイヤ列に前記ワーク15が押し付けられるようになっている。
【0041】
また、前記ワイヤ列上の2列のワーク15を挟んで両側には加工液ノズル17が設けられ、遊離砥粒方式のワイヤソーでは、シリコンカーバイド等の砥粒を含んだ加工液18が、固定砥粒方式のワイヤソーでは、界面活性剤等を含んだ水溶性の加工液18等が供給されるようになっている。
【0042】
上記のように加工液18を供給しながらワイヤ2を一方向走行又は往復走行させて、前記ワイヤ列にワーク15を押し付けることでワーク15が多数枚のウエハに切断されるようになっている。
【0043】
前記ワイヤソー1において、供給側のテンションプーリ8の供給側に位置するガイドプーリ7と回収側のテンションプーリ8の回収側に位置するガイドプーリ7には、ガイドプーリ7の回転数を検出するセンサ32が設けられた磨耗検出装置19が設けられている。
【0044】
次に本発明の回転数検出手段に相当するガイドプーリの磨耗検出装置19について図2(a)及び(b)に基づいて説明する。図2(a)は、前記磨耗検出装置19の正面図であり、図2(b)は、図2(a)の一部を切り欠いた側面図である。
【0045】
前記磨耗検出装置19は、V字状の案内溝27が形成されたガイドプーリ7と、このガイドプーリ7と一体に回転するように設けた被検出部材33と、この被検出部材33の回転を検出することでガイドプーリ7の回転数を検出する光学センサや近接センサ等からなるセンサ32とで構成されている。
【0046】
前記ガイドプーリ7は、ウレタンゴムやポリエチレン等のゴムや樹脂からなり、外周にV字状の案内溝27が形成されると共にドーナツ状に形成されたガイドプーリ本体28と、そのガイドプーリ本体28の内周の円形穴に嵌入されたフランジ26と、前記ガイドプーリ本体28をフランジ26に固定するプーリ押え29とから構成されている。
【0047】
前記フランジ26は、固定軸23にベアリング24を介して軸支され、この固定軸23は、ワイヤソー1の機枠に立設された固定枠20に軸止されることで、前記ガイドプーリ7は、回動自在になっている。
【0048】
また、前記ガイドプーリ7のベアリング24は、前面側にキャップ30が設けられ、背面側は、ラビリンス31により、加工液18の進入を防止している。そして、前記キャップ30の前面には、センサ32によって検出される被検出部材33が半円状に設けられている。また、キャップ30の外周で前記被検出部材33の設けられた位置と対称にバランスウエイト34が設けられ、前記ガイドプーリ7の回転を安定させるようになっている。
【0049】
前記センサ32は、固定枠20から前方に突出し前記ガイドプーリ7の前面に沿って延設されたセンサブラケット22に前記被検出部材33と対向するように固定されており、前記被検出部材33がガイドプーリ7と一体に回転する回転数を検出するようになっている。
【0050】
上記の回転数の検出は、ガイドプーリ7の回転に伴って回転する被検出部材33をセンサ32で検出し、センサ32が一定時間内にON状態となる回数を検出して行われる。この時、センサ32でのON状態とOFF状態がガイドプーリ7の1回転内で均等に発生するように被検出部材33の検出範囲をガイドプーリ7の半回転分に設定することによってセンサ32での被検出部材33の検出を効率良く行うことができる。
【0051】
なお、上記のように被検出部材33の検出範囲をガイドプーリ7の半回転分に設定すると、ガイドプーリ7の全体のバランスが崩れるので、ガイドプーリ7の回転を安定化させるためにフランジ26の被検出部材33と対称となる位置にバランスウエイト34が設けられている。
【0052】
図3のように本発明のガイドプーリの磨耗検出装置を適用したワイヤソー1には、ワイヤソー1全体を制御するワイヤソー制御部35が設けられ、ワイヤソー1の各部の動作を制御するようになっており、また、上記センサ32で検出したパルス信号等を演算して回転数を算出するようになっている。
【0053】
また、前記ワイヤソー制御部35には、タッチパネル等の入力部36が接続され、例えばワイヤ2の走行速度、ガイドプーリ7の初期外径、ワイヤ2の加減速時間、昇降テーブル12の加工速度、ワイヤ2の送り量等、各種の設定情報をワイヤソー1に入力するようになっている。
【0054】
さらに、各種のワイヤソー1の稼働状況や警告等を表示する表示部37もワイヤソー制御部35に接続されている。なお、表示部37は、入力部36のタッチパネル等の表示画面を共有するようにしても良い。
【0055】
次に本発明のガイドプーリの磨耗検出装置19でのガイドプーリ7の案内溝27の磨耗検出方法について図3及び図4に基づいて説明する。
【0056】
ワイヤソー1は、ワーク15を切断加工する前に切断条件(ワイヤ2の走行速度、ガイドプーリ7の初期外径、昇降テーブル12の加工速度等)が入力部36を通じて入力され、ワイヤソー制御部35に情報が送られるようになっている。この内、前記磨耗検出装置19では、ワイヤ2の走行速度情報及び磨耗検出装置19に使用されるガイドプーリ7の初期外径を使用して、ワイヤ2が所定走行速度で走行する際の未磨耗状態のガイドプーリ7の初期回転数をワイヤソー制御部35で予め算出して設定しておく。なお、ガイドプーリ7の初期外径は通常、決定されているので、固定の数値としておいても良い。また、ワイヤソー1の起動毎にティーチングを行ってガイドプーリ7の外径を設定するようにしても良い。
【0057】
図4(a)は前記磨耗検出装置19が設けられたガイドプーリ7の正面図であり、使用に伴ってガイドプーリ7が磨耗した状態を表す。初期のガイドプーリ7の案内溝27の外径位置は、図示二点鎖線位置であり、この案内溝27の初期外径をd1位置とする。また、案内溝27が使用限度まで磨耗した状態が図示破線位置であり、この外径をd2とする。また、図4(b)は、図4(a)の側面図であり、案内溝27がd1からd2まで磨耗した状態を表している。
【0058】
ここで、この初期外径d1を125mmとし、この初期外径を入力部36から入力すると共にワイヤ2の走行速度を1000m/minとして入力する。これにより、ワイヤソー制御部35では、予め未磨耗状態のガイドプーリ7の正常回転数を算出して、設定する(上記例では1000000/125π=2546rpmとなる)。なお、ここで設定する回転数は、前記正常回転数に対して任意の範囲で閾値を設けて設定することが好ましい。この閾値はガイドプーリ7の案内溝27が使用限界に至る前の回転数を上限に設定すれば良い。また、下限値も設定しておけば、ワイヤ2の断線やガイドプーリ7からの脱線をガイドプーリ7の回転数の低下から検出できる。
【0059】
次に、この状態で切断加工を開始しても良いが、既に切断加工を行った状態のワイヤソー1では、既にガイドプーリ7の案内溝27が磨耗していることもあるので、切断加工を行わないワイヤ2だけの空運転走行を行ってワイヤ2の走行速度を1000m/minの一定走行速度を所定時間行う(この所定時間はセンサ32が安定して検出できる任意の時間を設定すれば良い)。
【0060】
この時、ガイドプーリ7の案内溝27が磨耗して案内溝27の外径d2が121mmであったとすると、センサ32で検出した回転数は、2630rpm(1000000/121π=2630rpm)となる。
【0061】
これを予め算出された回転数と比較し、許容回転数以上の回転数となれば、ガイドプーリ7の磨耗が使用限界に達したとして、表示部37に表示したり、適宜に設けた警報装置から警報を発したりしてガイドプーリ7の交換を促す。なお、使用限界に達した場合にワイヤソー1を停止させるようにしても良いが、切断加工中にワイヤソー1を停止させるとワーク15の切断精度が低下するので、切断開始前にガイドプーリ7の交換を促すようにすることが好ましい。
【0062】
本実施形態においては、供給側のテンションプーリ8の供給側と回収側テンションプーリ8の回収側の2箇所に磨耗検出装置19を設けたが、これは、テンション変動により磨耗し易いガイドプーリ7の部分に設けたものであり、各テンションプーリ8や任意のガイドプーリ7だけ設けることも可能である。また、ワイヤソー1にガイドプーリ7が装着された状態では確認し難い所に磨耗検出装置19を設けても良い。
【0063】
また、ワイヤ2の走行速度を予め決定した走行速度に定めておき、ワイヤソー1で切断加工を始める前の空運転時に上記予め決定した走行速度でワイヤソー1を起動するようにした磨耗検出モードを設けたり、回転数から案内溝27の磨耗状態を算出して表示部37に表示するようにしても良い。
【0064】
なお、切断時間、所定時間経過毎のガイドプーリ7の回転数を累積して記憶し、経時的なガイドプーリ7の磨耗状態を把握するようにすれば、次に行う切断中にガイドプーリ7が使用限度以上に磨耗することを事前に予測でき、次の切断を行う前にガイドプーリ7の交換を促すようにすることが可能になる。これは、同条件で繰返し切断する量産時に特に有効に適用できる。
【0065】
前記切断時間は、同じ大きさの同じ材質のワーク15を同じ条件で切断する場合は、砥粒の磨耗等の影響を除外すればほぼ同等の時間で切断でき、例えば各回の切断開始前に回転数を測定し、切断時間毎の回転数データを蓄積していけば、切断時間毎のガイドプーリ7の磨耗量を測定できるので、この磨耗量から、あとどの程度の時間でガイドプーリ7の磨耗が使用限界に達するのかが認識できる。このことにより、次回の切断を行う途中でガイドプーリ7の磨耗が使用限界に達する場合に警報を発するようにすれば、ワイヤ2の断線等のトラブルを未然に防止できる。
【0066】
また、ガイドプーリ7の回転数を磨耗検出装置19で検出することで、ワイヤ2が断線した場合でも、回転数が基準より低くなったことを検出して、ワイヤ2の断線を検出できる。また、案内溝27から、ワイヤ2が脱線して外れた場合でも断線と同様にガイドプーリ7の回転数が基準より低くなるので検出できる。
【0067】
次に、ガイドプーリの磨耗検出装置の第2の実施形態について図5(a)及び(b)に基づいて説明する。
【0068】
本実施形態においては、センサ32として第1の実施形態と同様に光学センサや近接センサが用いられ、ガイドプーリ7を第1の実施形態のように固定軸23を軸にして回転させるのではなく、回転軸38と一体に回転させるようにし、この回転軸38をワイヤソー1の機枠21に軸支すると共に機枠21の後方に貫通させ、この回転軸38の後端に被検出部材33とバランスウエイト34を設けたものである。また、前記被検出部材33と対向するように前記センサ32が設けられ、このセンサ32は、機枠21の後方に設けたセンサブラケット22に固定されている。
【0069】
回転数の検出は、第1の実施形態と同様にガイドプーリ7と一体に回転する被検出部材33をセンサ32で検出することによって行う。なお、本実施形態においては、遊離砥粒方式のように加工液18でセンサ32部分が汚れて検出が阻害される場合に有効であり、センサ32が加工液18のかからないワイヤソー1の裏側部分に設けられているのでセンサ32の誤作動を防止できる。
【0070】
次に本発明の第3の実施形態について図6に基づいて説明する。
【0071】
本実施形態においては、第2実施形態におけるセンサ32としてエンコーダを用いたものであり、この場合は、回転軸38の回転を角速度の変化から直接認識するようにしたものである。
【0072】
このように被検出部材33を用いることなく直接回転数を認識できるので精度の良い回転数検出を行うことができる。また、加工液18による汚染により誤作動することもない。
【0073】
以上が、本発明の実施形態であるが、これに限定されず、ガイドプーリ7の回転数を検出できるセンサを各種使用できる。
【0074】
また、上記各実施形態においては、多数の溝が形成された溝ローラ11を用い、形成されたワイヤ列にワーク15を押し付けることにより、ワーク15を多数枚のウエハ状に切断するマルチワイヤソーを基に説明したが、溝ローラ11に1本のワイヤ2を巻き掛けたシングルワイヤソーにも同様に適用できる。
【符号の説明】
【0075】
1 ワイヤソー
2 ワイヤ
3 供給リール
4 回収リール
5 供給トラバーサ
6 回収トラバーサ
7 ガイドプーリ
8 テンションプーリ
9 テンションアーム
10 軸
11 溝ローラ
12 昇降テーブル
13 貼付台
14 ダミー部材
15 ワーク
16 昇降モータ
17 加工液ノズル
18 加工液
19 磨耗検出装置
20 固定枠
21 機枠
22 センサブラケット
23 固定軸
24 ベアリング
25 ベアリング
26 フランジ
27 案内溝
28 ガイドプーリ本体
29 プーリ押え
30 キャップ
31 ラビリンス
32 センサ
33 被検出部材
34 バランスウエイト
35 ワイヤソー制御部
36 入力部
37 表示部
38 軸
39 モータ
40 加工部
41 エンコーダ
50 ガイドプーリ
51 固定軸
52 フランジ
53 ワイヤ
54 ベアリング
55 案内溝
56 固定枠

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガイドプーリの案内溝を経由してワイヤを複数の溝ローラ間に巻き掛け、前記ワイヤを走行させて前記溝ローラ間のワイヤにワークを押し付けることによって前記ワークを切断するようにしたワイヤソーにおいて、
前記ワイヤの所定走行速度及び前記ガイドプーリの案内溝の初期外径を設定することで、予め前記所定走行速度におけるガイドプーリの所定範囲の回転数を設定する制御部と、
前記ガイドプーリの回転数を検出する回転数検出手段とを備え、
ワイヤソーを駆動してワイヤが前記所定走行速度に達した時点でのガイドプーリの回転数を前記検出手段で検出し、この回転数と予め制御部に設定された所定範囲の回転数とを比較し、ガイドプーリの回転数が所定範囲外となったことを前記制御部で判断することでガイドプーリの磨耗を検出するようにしたことを特徴とするワイヤソーのガイドプーリの磨耗検出装置。
【請求項2】
前記回転数検出手段が、前記ガイドプーリと一体に回動するように設けた被検出部材と、
前記被検出部材を検出することでガイドプーリの回転数を検出するセンサとから構成されることを特徴とする請求項1記載のワイヤソーのガイドプーリの磨耗検出装置。
【請求項3】
前記回転数検出手段が、前記ガイドプーリの回転を検出するように設けたエンコーダであることを特徴とする請求項1記載のワイヤソーのガイドプーリの磨耗検出装置。
【請求項4】
ガイドプーリの案内溝を経由してワイヤを複数の溝ローラ間に巻き掛け、前記ワイヤを走行させて前記溝ローラ間のワイヤにワークを押し付けることによって前記ワークを切断するようにしたワイヤソーにおいて、
前記ワイヤの所定走行速度及び前記ガイドプーリの案内溝の初期外径を設定し、前記設定されたワイヤの所定走行速度及び前記ガイドプーリの案内溝の初期外径とから前記ガイドプーリの所定範囲の回転数を予め設定し、続いてワイヤソーを駆動してワイヤが前記所定走行速度に達した時点でのガイドプーリの回転数を検出し、この回転数と予め設定されたガイドプーリの所定範囲の回転数とを比較して前記ガイドプーリの回転数が所定範囲外の回転数となったことを判断することでガイドプーリの磨耗を検出するようにしたことを特徴とするワイヤソーのガイドプーリの磨耗検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−218468(P2011−218468A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−88120(P2010−88120)
【出願日】平成22年4月6日(2010.4.6)
【出願人】(000132954)株式会社タカトリ (65)
【Fターム(参考)】