説明

ワーク保持治具及びそれを用いたワークの加工方法

【課題】汎用性が高く、支持部位の形状が異なる様々な種類のワークを容易に保持することが可能であり、これによりコストの低減を図ることができるワーク保持治具及びそれを用いたワークの加工方法を提供する。
【解決手段】被加工部位128と、ロッド嵌合穴126a、126bが形成された支持部位118とを有するワークWを、ワーク保持治具10a、10bで保持する。これらワーク保持治具10a、10bは、第2大径孔30が形成された支持基材16と、前記第2大径孔30に挿入される媒介部材18と、ロッド嵌合穴126a、126bに挿入される係合部材20とを有する。支持基材16が加工用テーブル14に取り付けられると、ワークWの被加工部位128が鉛直上方に臨む。この被加工部位128に対して所定の加工が施される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワーク保持治具及びそれを用いたワークの加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のバンパー等の樹脂成形品を成形するための射出成形装置としては、例えば、特許文献1に記載されたものが知られている。
【0003】
図12に示すように、この種の射出成形装置100は、樹脂成形品102の一端面を成形する固定型104と、前記固定型104に対して接近・離間可能に構成されて前記樹脂成形品102の他端面を成形する可動型106とを備える。射出成形装置100は、さらに、前記樹脂成形品102におけるアンダーカット部108の一端面を成形する金型110と、前記可動型106に形成された溝部112内に配設されるとともに前記アンダーカット部108における他端面を成形するスライドコア(入子金型)114とを備える。
【0004】
前記スライドコア114は、前記樹脂成形品102に接触する湾曲成形面を有する成形部位116と、前記成形部位116に一体的に設けられて前記溝部112内に挿入される支持部位118とを備える。
【0005】
支持部位118のうち前記成形部位116の背面側に位置する面には、前記溝部112の傾斜面に対応する3個の傾斜面120a〜120cが形成され、傾斜面120a、120b同士の間、及び傾斜面120b、120c同士の間には、それぞれ、平坦面122a、平坦面122bが形成されている。
【0006】
これら平坦面122a、122bには、ロッド124a、124bの先端部が嵌合されるロッド嵌合穴126a、126bが形成されている。なお、ロッド124a、124bは、可動型106に形成された挿通孔127a、127bに通され、その先端部が挿通孔127a、127bから突出している。
【0007】
ロッド嵌合穴126a、126bは、可動型106の可動方向(平坦面122a、122bに直交する方向)に対して所定角度で傾斜して延在している。また、ロッド嵌合穴126a、126bは、断面略円形状に形成されている。ロッド嵌合穴126a、126bの前記平坦面122a、122bに対する傾斜角度や形状は、スライドコア114の種類に応じて設定される。
【0008】
以上のように構成されるスライドコア114は、次のようにして製造される。すなわち、先ず、角材に冷却用孔等を形成する。
【0009】
次いで、冷却用孔等が形成された角材を加工用テーブルに固定した状態で、支持部位118及びロッド嵌合穴126a、126b等を加工して図13に示すような半製品を作製する。なお、以下においては、便宜上、この半製品をワークと指称し、その参照符号をWとする。
【0010】
この加工により、上記の傾斜面120c、平坦面122b、傾斜面120b、平坦面122a、傾斜面120aが図13における下方からこの順序でワークWに形成される。なお、図13から諒解されるように、ワークWは、傾斜面120cから傾斜面120aに向かうにつれて、その幅方向寸法が大きくなるような形状に設定される。
【0011】
この時点では、スライドコア114の成形部位116に対応する部位には、未だ加工が施されていない。以下、この部位を被加工部位と指称し、その参照符号を128とする。
【0012】
次いで、被加工部位128に対して湾曲面を形成するような加工を施すことにより、図12に示す成形部位116が形成される。これにより、スライドコア114が得られるに至る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2001−225367号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
被加工部位128に対して加工を施す場合には、加工を容易にするべく、被加工部位128を鉛直上方に向けることが一般的である。この場合には、支持部位118が鉛直下方を臨む。
【0015】
ここで、支持部位118に含まれる平坦面122a、122bは、ワークW全体に対して面積が小さい。また、平坦面122a、122b同士の間には、図13に示すように、段差が存在する。従って、該平坦面122a、122bを加工用テーブルに載置することで該ワークWを加工用テーブルに自立させることは困難である。
【0016】
このため、従来から、ワーク保持治具が用いられている。すなわち、加工用テーブルに取り付けられたワーク保持治具でワークを保持し、このワークに対して加工を施すようにしている。
【0017】
しかしながら、スライドコア114の幅方向寸法やロッド嵌合穴126a、126bの直径等は、作製しようとする樹脂成形品102の形状や寸法によって異なる。当然に、スライドコア114を得るためのワークWの幅方向寸法やロッド嵌合穴126a、126bの直径等も、樹脂成形品102の形状や寸法によって相違する。
【0018】
このため、ワーク保持治具としては、スライドコア114の形状・寸法に対応する専用のものを用意する必要がある。換言すれば、スライドコア114の種類に応じた個数のワーク保持治具を揃えなければならない。
【0019】
特に、自動車のバンパーを成形するためのスライドコアを製造する場合には、同一車種のものであっても、前左方、前右方、後左方、後右方の各バンパーごとに形状が相違する。また、車種によってバンパーの形状が異なる。これに対応するために、多数のスライドコアが必要である。このことも、ワーク保持治具を多数用意しなければならない一因となっている。
【0020】
さらに、このようにワーク保持治具を多数用意する必要があるため、射出成形装置100の設備投資を低廉化することが困難である。
【0021】
本発明は、上記した問題を解決するためになされたもので、汎用性に優れ、様々な種類のワークを保持することが容易であり、しかも、設備投資の低廉化を図ることができるワーク保持治具及びそれを用いたワークの加工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
前記の目的を達成するために、本発明は、係合部が形成されたワークを保持するためのワーク保持治具であって、
挿入用凹部が形成された支持基材と、
前記支持基材の前記挿入用凹部に挿入された部位が前記支持基材に連結される媒介部材と、
前記媒介部材に連結されるとともに、前記ワークの前記係合部に係合する係合部材と、
を備えることを特徴とする。
【0023】
この構成においては、係合部材のみがワークに係合する。従って、係合部材のみをワークの形状・寸法に応じたものとし、別形状ないし別寸法のワークを作製する際には、ワークに対応する係合部材に交換すればよい。
【0024】
すなわち、本発明では、係合部材のみを交換することで様々な種類のワークに対応することが可能である。換言すれば、汎用性に優れる。しかも、支持基材及び媒介部材として寸法・形状が相違するものを用意する必要がないので、設備投資の低廉化を図ることもできる。
【0025】
さらに、上記した従来技術に係る専用のワーク保持治具は、概して形状及び重量が大であり、このようなワーク保持治具を扱うことは加工作業者にとって負担であるが、本発明によれば、支持基材の寸法を、ワークの係合部に係合した係合部材を支持し得る程度に設定すればよい。従って、ワーク保持治具の小型化・軽量化を図ることも容易である。
【0026】
なお、媒介部材の全部が挿入用凹部に収容されるようにしてもよい。この場合、ワークの重量を支持基材で受けることができるようになるので、ワークの重量を媒介部材で受ける場合に比してワークを保持することが容易となる。また、媒介部材の小型化・軽量化を図ることもできる。
【0027】
媒介部材は、円柱形状又は円筒形状をなすものであってもよい。この場合、挿入用凹部に挿入された媒介部材が回転することを防止するための媒介部材用回転防止部材を設けるようにすればよい。これにより、ワークが回転することを防止することができる。
【0028】
媒介部材用回転防止部材としては、テーパー部を有するテーパーねじを選定することができる。この場合、媒介部材の外壁にテーパー孔を形成するとともに支持基材に貫通孔を形成して、前記貫通孔を通った前記テーパー部を前記テーパー孔に進入させればよい。
【0029】
この進入に伴って、媒介部材が支持基材側に引き寄せられる。その結果、媒介部材の高さ方向の位置決めがなされ、これに伴って、ワークの高さ方向の位置決めがなされる。結局、テーパーねじにより、ワークが回転することを防止し得るとともに、高さ方向の位置決めを行うことができる。
【0030】
さらに、媒介部材に連結された係合部材が回転することを防止するための係合部材用回転防止部材を設けることが好ましい。これにより、ワークが回転することを一層有効に防止することができる。
【0031】
また、本発明は、ワーク保持治具に保持されたワークを加工するワーク加工方法であって、
前記ワークに予め形成された係合部に対し、係合部材を係合する工程と、
前記係合部材を媒介部材に連結する工程と、
前記媒介部材を、支持基材に形成された挿入用凹部に挿入した後に該支持基材に連結する工程と、
前記支持基材を加工用テーブルに位置決め固定する工程と、
前記係合部材が前記媒介部材を介して前記支持基材に連結されることで構成されたワーク保持治具に保持された前記ワークに対して加工を施す工程と、
を有することを特徴とする。
【0032】
なお、媒介部材に対する係合部材の連結、支持基材に対する媒介部材の連結、係合部材のワークへの係合、支持基材の加工用テーブルへの位置決め固定は、順不同である。
【0033】
この加工方法では、ワークに形成された係合部に係合部材を係合するとともに、該係合部材を、媒介部材を介して支持基材に連結するようにしている。この支持基材を加工用テーブルに固定することで、ワークを保持した状態のワーク保持治具を加工用テーブルに位置決め固定することができる。すなわち、ワークを容易に、しかも、短時間で位置決め固定することが可能である。このため、ワークを加工するための下準備を効率よく行うことができる。
【0034】
上記したように、媒介部材の外壁にテーパー孔を形成するとともに支持基材に貫通孔を形成し、前記貫通孔を通ったテーパーねじのテーパー部を前記テーパー孔に進入させることが好ましい。これにより、ワークが回転することを防止し得るとともに、ワークの高さ方向の位置決めを行うことが容易となるからである。
【0035】
さらに、係合部材用回転防止部材によって、媒介部材に連結された係合部材が回転することを防止することが好ましい。これにより、ワークが係合部材ごと回転することを有効に防止し得る。
【発明の効果】
【0036】
本発明によれば、ワークに形成された係合部に係合される係合部材を、媒介部材を介して支持基材に連結するようにしている。従って、様々な寸法・形状の係合部材を用意し、ワークの係合部の寸法・形状に対応するものに交換するのみで、媒介部材及び支持基材を交換する必要はない。このため、汎用性に優れたワーク保持治具となる。また、多数個の媒介部材を用意する必要がないので、ワークを加工するために必要な設備投資の低廉化を図ることもできる。
【0037】
また、ワークを加工する際には、ワーク保持治具を構成する支持基材を加工用テーブルに位置決め固定することにより、係合部材が係合したワークを位置決め固定することができる。すなわち、ワークを容易に、しかも、短時間で位置決め固定することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の実施の形態に係るワーク保持治具を用いてワークを加工用テーブルに保持した状態を示す一部断面説明図である。
【図2】図1に示すワーク保持治具の係合部材を、ワークのロッド嵌合穴に係合した状態を示す断面図である。
【図3】図1及び図2に示すワーク保持治具の分解斜視図である。
【図4】図3のIV−IV線矢視断面図である。
【図5】図3のV−V線矢視断面図である。
【図6】図5のVI−VI線矢視断面図である。
【図7】図3のVII−VII線矢視断面図である。
【図8】本発明に係るワークの加工方法のフローチャートである。
【図9】ワークのロッド嵌合穴に係合部材を挿入して保持する状態を示した説明図である。
【図10】図9のX−X線矢視断面図である。
【図11】媒介部材を係合部材に連結した状態を示す要部拡大縦断面図である。
【図12】スライドコアを備えた射出成形装置の一例を示す一部省略断面図である。
【図13】図12に示すスライドコアを得るための半製品(ワーク)の概略全体斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、本発明に係るワークの加工方法について、該加工方法を実施する際に用いるワーク保持治具との関係で好適な実施の形態例を挙げ、添付の図面を参照しながら説明する。なお、本実施の形態においては、図13に示す半製品としてのワークWからスライドコア114(図12参照)を得る場合を例示するものとする。
【0040】
図1は、本実施の形態に係るワーク保持治具(以下、単に「保持治具」とも表記する)10a、10bによってワークWを保持した状態を示す側面図である。この図1から諒解されるように、ワークWは、クランパ12a、12bを介して加工用テーブル14に取り付けられた保持治具10a、10bに保持され、この状態で、図示しない工具によって加工が施される。
【0041】
先ず、保持治具10a、10bにつき説明する。図2及び図3に示すように、保持治具10aは、支持基材16と、該支持基材16内に収容された媒介部材18と、該媒介部材18に連結された係合部材20とを備える。
【0042】
支持基材16は、略円盤状のフランジ部22と、該フランジ部22に比して小径であり且つ略円筒状に形成された支持本体部24とを有する。この中のフランジ部22は、その側周壁の一部が厚み方向に沿って弦状に切り欠かれた形状をなし、このため、下底面から上底面に至る第1平坦面26が形成される。また、フランジ部22には、その下端面から、支持本体部24の下端部まで延在する第1大径孔28が形成されている。
【0043】
後述するように、フランジ部22は、クランパ12a、12bによって加工用テーブル14側に押圧される。これにより、保持治具10a全体が加工用テーブル14に位置決め固定される。
【0044】
フランジ部22に一体的に立設された支持本体部24の内部には、第1大径孔28に連通する小径孔29と、前記小径孔29に連通して上端面で開口する第2大径孔30とが形成されている。後述するように、前記媒介部材18は、第2大径孔30に収容される。すなわち、第2大径孔30は挿入用凹部としての役割を果たす。
【0045】
第2大径孔30に対しては、該第2大径孔30の軸線方向に対して略直交する方向に延在する4個の第1ねじ孔32a〜32dが連通する。各第1ねじ孔32a〜32dは、支持本体部24の軸線方向の略中央よりも若干上方において、支持本体部24の周方向に沿って略等間隔で離間するように形成されている。
【0046】
支持本体部24の外壁には、第1ねじ孔32a〜32cの各々に連通する孔34a〜34cが形成されている。これら孔34a〜34cは、第1ねじ孔32a〜32cに比して大径に設定されている。
【0047】
また、支持本体部24の外壁には、その軸線方向における略中央から上端面近傍に至るまでの一部が切り欠かれた形状の第2平坦面36が形成されている。この第2平坦面36には、前記第1ねじ孔32dが開口する。なお、第2平坦面36は、第1平坦面26と同じ方向に臨んでいる。
【0048】
さらに、第2平坦面36の上端部と、支持本体部24の上端面との間には、第1傾斜面38が介在する。勿論、第1傾斜面38は、支持本体部24の軸線方向に対して所定角度で傾斜している。
【0049】
第2大径孔30に収容される媒介部材18は、図5及び図6に示すように、略円柱形状をなし、その下端面の略中央には、小径孔29に対応する位置に第2ねじ孔40が形成される。第2ねじ孔40は、媒介部材18の内部において中間孔42に連通する。さらに、中間孔42は、媒介部材18の上端面の略中央に開口する挿通孔44に連通する。
【0050】
中間孔42の側壁には、媒介部材18の周方向に沿って等間隔で離間した4個の貫通孔46a〜46dが形成されている。貫通孔46a〜46dの各々は、中間孔42側に位置するとともに等径な直孔48a〜48dと、直孔48a〜48dから媒介部材18の側壁に向かうにつれて徐々に拡径するテーパー孔50a〜50dとからなる。
【0051】
媒介部材18の上端面において、挿通孔44の開口の近傍には、大径凹部52及び小径凹部54が2個ずつ交互に形成されている。なお、大径凹部52及び小径凹部54は、挿通孔44の開口に対して同心円状に、且つ略等間隔で離間するようにして配置されている。
【0052】
媒介部材18の上端部には、その一部が該媒介部材18の軸線方向に対して斜めに切り欠かれた形状の第2傾斜面56が形成されている。この第2傾斜面56の傾斜角度は、支持本体部24に形成された第1傾斜面38の傾斜角度と同一に設定されている。
【0053】
以上のように構成される媒介部材18の高さ方向寸法は、支持本体部24の第2大径孔30の高さ方向寸法に比して小さく設定されている。従って、媒介部材18が第2大径孔30に挿入された状態で、図2から諒解されるように、媒介部材18の上端面が支持本体部24の上端面よりも下方に位置する。すなわち、媒介部材18の全体が第2大径孔30に収容される。
【0054】
なお、この際には、小径孔29と第2ねじ孔40の位置が合致するとともに、第1ねじ孔32a〜32dとテーパー孔50a〜50dの位置が合致する。換言すれば、小径孔29と第2ねじ孔40が連なるとともに、第1ねじ孔32a〜32dとテーパー孔50a〜50dが連なる。さらに、第1傾斜面38と第2傾斜面56とが連なって1個の大傾斜面となる(図2参照)。
【0055】
係合部材20は、円柱体の下端部が傾斜するように切り欠かれた形状をなす。すなわち、係合部材20の下端面は、その軸線方向に対して傾斜している。図2から諒解されるように、下端面の傾斜角度は、スライドコア114における平坦面122a、122bに対するロッド嵌合穴126a、126bの傾斜角度に対応している。従って、該係合部材20を前記ロッド嵌合穴126a、126bに挿入した状態では、係合部材20の下端面と平坦面122a、122bとが互いに平行となる。
【0056】
図7に示すように、係合部材20の下端面の略中央には、第3ねじ孔58が形成される。また、第3ねじ孔58の近傍には、互いに略180°離間した2個の凹部60が形成されている。この場合、各凹部60の深さ方向寸法及び形状は、大径凹部52に対応している。
【0057】
係合部材20の側壁には、保持孔62が形成されている。保持孔62は、係合部材20の軸線方向に対して傾斜するとともに、後述する保持ピン(保持部材)64が挿通可能となっている(図10参照)。
【0058】
以上のように構成された支持基材16、媒介部材18、係合部材20が以下のようにして連結されることにより、保持治具10aが構成される。
【0059】
すなわち、支持本体部24の第2大径孔30に媒介部材18を挿入すると、上記したように、小径孔29と第2ねじ孔40が連なるとともに、第1ねじ孔32a〜32dとテーパー孔50a〜50dが連なる。そして、第2ねじ孔40に、小径孔29に通された長ねじ部材66が螺合されるとともに、テーパー孔50a〜50dに、第1ねじ孔32a〜32dに螺合されたテーパーねじ部材(媒介部材用回転防止部材)68a〜68dのテーパー部70a〜70dが進入する。これにより、支持基材16と媒介部材18が互いに連結される。
【0060】
また、媒介部材18の上端面を係合部材20の下端面に当接させ、この状態で、係合部材20の第3ねじ孔58に短ねじ部材55を螺合する。これにより、媒介部材18と係合部材20とが互いに連結される。
【0061】
さらに、媒介部材18の上端面に形成された2個の大径凹部52と、係合部材20の下端面に形成された2個の凹部60には、ピン(係合部材用回転防止部材)72がそれぞれ係合される。すなわち、係合部材20は、ピン72を介して媒介部材18に連結されるとともに位置決め固定がなされる。結局、ピン72によって係合部材20の回り止めがなされる。
【0062】
残余の保持治具10bは、保持治具10aと同様に構成されている。従って、同一の構成要素には同一の参照符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0063】
以上のように構成される保持治具10a、10bの支持基材16及び媒介部材18は、例えば、鉄鋼材料等で構成された金属パイプに対して所定の加工を施すことによって得ることができる。また、残余の係合部材20は、例えば、丸棒体の一底面に対し、傾斜面が形成されるように切欠加工を施すことで得られる。このように、保持治具10a、10bは、簡素な加工を施すことによって作製することが可能である。
【0064】
このように構成される保持治具10a、10bは、上記したようにクランパ12a、12bを介して加工用テーブル14に取り付けられる(図1参照)。この場合、加工用テーブル14上には台座74が固定され、保持治具10aは、この台座74上に固定されている。一方、保持治具10bは、加工用テーブル14上に直接取り付けられている。
【0065】
ここで、加工用テーブル14には、図1の紙面に直交する方向に沿って延在する断面略逆T字状の溝76、78が形成されている。前記クランパ12a、12bの下端部は、これら溝76、78に挿入され、止めねじ80a、80bによって鉛直上方への抜け止めがなされている。クランパ12a、12bは、溝76、78の延在方向に沿って移動させることが可能である。
【0066】
クランパ12a、12bの本体82a、82bにはねじ部84a、84bがそれぞれ刻設され、これらねじ部84a、84bに押圧ナット86a、86bが螺合されている。押圧ナット86a、86bをねじ部84a、84bに沿って鉛直下方に移動する方向に螺回すれば、保持治具10aのフランジ部22が台座74と押圧ナット86aで挟持される一方、保持治具10bのフランジ部22が加工用テーブル14と押圧ナット86bで挟持される。これにより、保持治具10a、10bが加工用テーブル14に対して位置決め固定される。勿論、この状態では、クランパ12a、12bが溝76、78の延在方向に沿って移動することはない。
【0067】
本実施の形態に係る保持治具10a、10bは、基本的には以上のように構成されるものであり、次に、その作用効果につき、ワークWの加工方法との関係で説明する。
【0068】
図8は、ワークWの加工方法の概略フローである。この図8に従って該加工方法を説明すると、はじめに、ステップS1において、図13に示すワークWを製造する。その後、ステップS2において、図9及び図10に示すように、該ワークWのロッド嵌合穴126a、126bに保持治具10a、10bの各係合部材20を挿入する(ステップS2)。すなわち、ロッド嵌合穴126a、126bは係合部として機能する。このとき、係合部材20の下端面は、平坦面122aから僅かに下方に突出する(図10参照)。
【0069】
さらに、保持ピン64を保持孔62に挿通することにより、該係合部材20を支持部位118に保持する。なお、保持ピン64は、ロッド124a、124b(図12参照)の端部をスライドコア114に保持する際に用いられる保持ピンが流用される。
【0070】
次に、図11に示すように、2個のピン72を係合部材20の凹部60と媒介部材18の大径凹部52に係合するとともに、媒介部材18の上端面を係合部材20の下端面に当接させ、この状態で、係合部材20の第3ねじ孔58に短ねじ部材55を螺合する(ステップS3)。これにより、媒介部材18が係合部材20に連結される。
【0071】
その後、ステップS4において、支持本体部24の第2大径孔30に媒介部材18を挿入し(図2参照)、該媒介部材18の第2ねじ孔40に長ねじ部材66を螺合し仮止めする。さらに、テーパーねじ部材68a〜68dの各々を第1ねじ孔32a〜32dに螺合する。この螺合に伴って、テーパーねじ部材68a〜68dのテーパー部70a〜70dがテーパー孔50a〜50dにそれぞれ進入する。
【0072】
この進入に伴い、媒介部材18の回り止めがなされる。加えて、媒介部材18が支持本体部24側に引き寄せられ、第2大径孔30内の所定の箇所に位置決め固定される。その結果、媒介部材18の高さ方向の位置決め固定がなされ、同時に、ワークWの高さ方向の位置決め固定がなされる。
【0073】
以上により、媒介部材18が支持基材16に連結されるとともに、保持治具10a、10bが、ワークWが結合した状態で構成される。
【0074】
上記したように、媒介部材18の高さ方向寸法が第2大径孔30の深さ方向寸法に比して若干小さいので、媒介部材18の全体が第2大径孔30に収容される。このため、2個の支持本体部24の上端面が平坦面122a、122bに当接する。これによりワークWの荷重を2個の支持基材16で受けることができるので、媒介部材18を小型化することができる。よって、保持治具10a、10bの製造コストの削減を図ることができる。
【0075】
なお、このとき、フランジ部22に第1平坦面26が形成されるとともに支持本体部24に第2平坦面36及び第1傾斜面38が形成され、且つ媒介部材18に第2傾斜面56が形成されていることから、支持基材16と支持部位118とが干渉することを回避することができる。
【0076】
次に、保持治具10a、10bを加工用テーブル14に位置決め固定する(ステップS5)。すなわち、上記したようにして、台座74に固定された保持治具10aのフランジ部22を、クランパ12aの押圧ナット86aと台座74とで挟持するとともに、加工用テーブル14に載置された保持治具10bのフランジ部22を、クランパ12bの押圧ナット86bと加工用テーブル14とで挟持する。
【0077】
このように、支持基材16のフランジ部22を利用することにより、保持治具10a、10bを容易に加工用テーブル14に固定することが可能となる。よって、保持治具10a、10bの汎用性を向上させることができる。
【0078】
媒介部材18の全体が第2大径孔30に収容されているので、支持基材16によってワークWの荷重を受けることになる。このため、媒介部材18及び係合部材20は、小形状及び軽量のものであってもよい。このことが、保持治具10a、10bの小型化及び軽量化に寄与する。
【0079】
このような小型で軽量な保持治具10a、10bは、加工用テーブル14への取り付け作業が容易である。また、本実施の形態では、大型で大重量の保持治具を加工用テーブル14に取り付ける必要がないため、加工作業者の負担が低減されるという利点もある。
【0080】
その後、ワークWの被加工部位128に対して加工を施すことにより成形部位116を形成し、スライドコア114を製造する(ステップS6)。
【0081】
このとき、保持治具10a、10bに対し、係合部材20を回転させるようなモーメントが作用することがある。しかしながら、上記したように係合部材20が保持ピン64によって支持部位118に保持されているので、該係合部材20とワークWとが相対的に回転することが防止される。
【0082】
また、媒介部材18の各大径凹部52と係合部材20の各凹部60にピン72を挿入していることで、係合部材20と媒介部材18とが相対的に回転することが防止される。さらに、テーパーねじ部材68a〜68dのテーパー部70a〜70dの各々をテーパー孔50a〜50dに挿入しているので、媒介部材18と支持基材16とが相対的に回転することも防止される。
【0083】
結局、以上のようにして保持治具10a、10b及びワークWが回転することが防止される。しかも、テーパーねじ部材68a〜68dの作用下に媒介部材18が支持基材16側に引き寄せられ、これによりワークWの高さ方向の位置決め固定がなされているので、ワークWの姿勢が安定する。従って、ワークWが位置ズレを起こすことを有効に防止することができる。このため、ワークWを精度良く加工することができるので、寸法精度に優れたスライドコア114を得ることができる。
【0084】
例えば、ロッド嵌合穴126a、126bの寸法や傾斜角度が相違する別の種類のワークを保持するためには、係合部材20を、該ロッド嵌合穴126a、126bの寸法・傾斜角度に対応する寸法・傾斜角度の係合部材に交換すればよい。この係合部材を、上記と同様にして媒介部材18に連結し、且つ該媒介部材18を支持基材16に連結すれば、新たな保持治具が構成されるに至る。
【0085】
このように、本実施の形態によれば、ワークWの種類に関わらず、同一の支持基材16及び媒介部材18を用いることができる。すなわち、ワークWの寸法・形状に対応する各種の係合部材のみを用意すればよく、別種類の支持基材16及び媒介部材18を用意する必要はない。このため、設備投資の低廉化を図ることができる。
【0086】
また、設備投資が低廉化するので、スライドコア114を低コストで製造することができる。このため、自動車のバンパーをはじめとする樹脂成形品の製造コストも低廉化する。
【0087】
なお、例えば、ロッド嵌合穴126a、126bとして直径が小さいものが形成され、このために凹部60の直径が小さい係合部材を用いる場合、前記凹部60と、媒介部材18の小径凹部54とに、ピン72に比して小径なピンを挿入するようにすればよい。勿論、この場合も、係合部材20と媒介部材18との相対的な回転を防止することが可能である。
【0088】
本発明は、上記した実施の形態に限定されるのものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の構成を採り得ることは勿論である。
【0089】
例えば、この実施の形態では、係合部材20をワークWに係合した後、該係合部材20を媒介部材18に連結し、さらに、この媒介部材18を支持基材16に連結して保持治具10a、10bを構成して、保持治具10a、10bを加工用テーブル14に取り付けるようにしているが、係合部材20のワークWへの係合、媒介部材18に対する係合部材20の連結、支持基材16に対する媒介部材18の連結、支持基材16の加工用テーブル14への位置決め固定は、順不同で行うことができる。
【0090】
また、ワークWに陥没形成されたロッド嵌合穴126a、126bを係合部としているが、突出形成された凸部が存在する場合、この凸部を係合部とするようにしてもよい。この場合、係合部材に、前記凸部が係合する係合用凹部を形成するようにすればよい。
【0091】
さらに、ワークWは、スライドコア114を得るための半製品に限定されるものではなく、如何なるものであってもよい。
【符号の説明】
【0092】
10a、10b…ワーク保持治具 12a、12b…クランパ
14…加工用テーブル 16…支持基材
18…媒介部材 20…係合部材
28、30…大径孔 46a〜46d…貫通孔
50a〜50d…テーパー孔 52…大径凹部
54…小径凹部 60…凹部
62…保持孔 64…保持ピン
68a〜68d…テーパーねじ部材 70a〜70d…テーパー部
72…ピン 76、78…溝
86a、86b…押圧ナット 100…射出成形装置
114…スライドコア 116…成形部位
126a、126b…ロッド嵌合穴 128…被加工部位
W…ワーク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
係合部が形成されたワークを保持するためのワーク保持治具であって、
挿入用凹部が形成された支持基材と、
前記支持基材の前記挿入用凹部に挿入された部位が前記支持基材に連結される媒介部材と、
前記媒介部材に連結されるとともに、前記ワークの前記係合部に係合する係合部材と、
を備えることを特徴とするワーク保持治具。
【請求項2】
請求項1記載のワーク保持治具において、前記媒介部材の全部が前記挿入用凹部に収容されることを特徴とするワーク保持治具。
【請求項3】
請求項1又は2記載のワーク保持治具において、前記媒介部材が円柱形状又は円筒形状をなす部位を有するものであり、且つ前記挿入用凹部に挿入された前記媒介部材が回転することを防止するための媒介部材用回転防止部材をさらに備えることを特徴とするワーク保持治具。
【請求項4】
請求項3記載のワーク保持治具において、前記媒介部材の外壁にテーパー孔が形成されるとともに前記支持基材に貫通孔が形成され、前記媒介部材用回転防止部材は、前記貫通孔を通って前記テーパー孔に進入するテーパー部を有するテーパーねじであることを特徴とするワーク保持治具。
【請求項5】
請求項3又は4記載のワーク保持治具において、前記媒介部材に連結された前記係合部材が回転することを防止するための係合部材用回転防止部材をさらに備えることを特徴とするワーク保持治具。
【請求項6】
ワーク保持治具に保持されたワークを加工するワーク加工方法であって、
前記ワークに予め形成された係合部に対し、係合部材を係合する工程と、
前記係合部材を媒介部材に連結する工程と、
前記媒介部材を、支持基材に形成された挿入用凹部に挿入した後に該支持基材に連結する工程と、
前記支持基材を加工用テーブルに位置決め固定する工程と、
前記係合部材が前記媒介部材を介して前記支持基材に連結されることで構成されたワーク保持治具に保持された前記ワークに対して加工を施す工程と、
を有することを特徴とするワークの加工方法。
【請求項7】
請求項6記載の加工方法において、前記媒介部材を円柱形状又は円筒形状をなす部位を有するものとし、且つ前記挿入用凹部に挿入された前記媒介部材が回転することを、媒介部材用回転防止部材によって防止することを特徴とするワークの加工方法。
【請求項8】
請求項7記載の加工方法において、前記媒介部材の外壁にテーパー孔を形成するとともに前記支持基材に貫通孔を形成し、前記貫通孔を通ったテーパーねじのテーパー部を前記テーパー孔に進入させることで前記媒介部材が回転することを防止することを特徴とするワークの加工方法。
【請求項9】
請求項7又は8記載の加工方法において、前記媒介部材に連結された前記係合部材が回転することを、係合部材用回転防止部材によって防止することを特徴とするワークの加工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−254502(P2012−254502A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−129665(P2011−129665)
【出願日】平成23年6月10日(2011.6.10)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】