説明

三環式ジテルペンおよびその誘導体の混合物を含有するセージ抽出物を含む食品および医薬品組成物ならびにこれらの使用

本発明は、神経伝達の低下に関係する障害を治療するための薬剤として使用するための、式I〜IIIの三環式ジテルペン(誘導体)の混合物を含有するセージ抽出物、好ましくは式I〜IVの三環式ジテルペン(誘導体)の混合物を含有するセージ抽出物、より好ましくは、式I〜Vの三環式ジテルペン(誘導体)の混合物を含有するセージ抽出物、ならびに食品および医薬品組成物、そしてこれらの使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
[発明の簡単な説明]
本発明は、特に、神経伝達の障害、すなわち低下に関係する障害を治療するための薬剤として使用するための三環式ジテルペンおよびその誘導体の混合物を含むセージ抽出物、ならびにこのようなセージ抽出物を含有する食品および医薬品組成物、そしてこれらの使用に関する。
【0002】
[発明の背景]
神経伝達の障害、例えば低神経伝達物質レベルが、うつ病および全般性不安障害(GAD)などの精神疾患、およびストレスに対する感受性の増大に関係することはよく知られている。
【0003】
脳内の神経伝達物質レベルを増大させ、それによってその伝達を高める化合物は、抗うつ特性ならびに様々な他の精神障害に対して有益な効果を示すことができる(神経伝達物質、薬物および脳機能(Neurotransmitters,drugs and brain function)、R.A.ウェブスター(Webster)(編)、ジョン・ウィリー&サンズ(John Wiley & Sons)、ニューヨーク、2001年、187−211頁、289−452頁、477−498頁)。主な神経伝達物質は、セロトニン、ドーパミン、ノルアドレナリン(=ノルエピネフリン)、アセチルコリン、グルタメート、γ−アミノ酪酸(GABA)および神経ペプチドである。気分に関する障害に特に関連性のある神経伝達物質としてはセロトニン、ノルアドレナリンおよびドーパミンが挙げられる。神経伝達の向上または延長は、シナプス前神経終末への再取り込みの阻害によりシナプス間隙内の神経伝達物質の濃度を増大させることによって、あるいはモノアミノオキシダーゼ(MAO)−Aおよび−Bなどの分解性酵素を阻害することにより神経伝達物質の異化反応を防止することによって達成される。
【0004】
[抗うつ薬および気分に関する障害]
イミプラミン、アミトリプチリンおよびクロミプラミンなどの三環式抗うつ薬化合物(TCA)は、セロトニンおよびノルアドレナリンの再取り込みを阻害する。これらは、利用可能な最も有効な抗うつ薬の1つとして広く認められているが、これらはさらにムスカリン性アセチルコリン受容体、ヒスタミン受容体およびセロトニン受容体と相互に作用するので多数の欠点を有する。このような活性から生じる副作用には、体位性低血圧に加えて口渇、霧視、便秘および尿閉が含まれる。最も重要なのは、TCAは過剰摂取されると安全ではなく、頻繁に急性心毒性を示すことである。
【0005】
抗うつ薬のもう1つの種類は、セロトニンの再取り込みによりセロトニン作動性神経伝達を終了させる高親和性塩化ナトリウム依存性の神経伝達物質輸送体であるセロトニン輸送体(SERT)を遮断する、いわゆるSSRI(選択的セロトニン再取り込みの阻害薬)であり、フルオキセチン、パロキセチン、セルトラリン、シタロプラムおよびフルボキサミンが含まれる。これらはTCAのようにうつ病および不安症の治療において有効であると証明されているが、普通は耐性がより高い。これらの薬物療法は通常低用量で開始され、治療レベルに到達するまで増大され得る。一般的な副作用は悪心である。その他の可能性のある副作用は、食欲不振、口渇、発汗、感染、便秘、振戦、あくび、眠気および性機能障害を含む。
【0006】
さらに、MAO−Aおよび−Bを阻害することによって神経伝達物質の異化反応をより広範に防止する化合物も抗うつ効果を示す。MAOは、セロトニン、ノルアドレナリンおよびドーパミンなどのアミン基含有神経伝達物質の酸化を触媒する。
【0007】
さらに、神経伝達のモジュレータは精神および認知機能に多面発現効果を与える。
【0008】
既知の抗うつ薬の負の副作用を示さない精神疾患および/または障害の治療または予防のための化合物が必要とされている。多くの患者は、高用量の薬物に関連する副作用を最小限にし、付加的な臨床的利益をもたらし得る代替療法に関心がある。重症のうつ病は長く続くと共に再発する疾患であり、通常は診断されにくい。さらに、多くの患者は軽度または中程度に重いうつ病を患っている。従って、精神疾患/障害を治療するため、あるいは危険のある人々においてうつ病および気分変調などの精神疾患/障害の進行を予防して、気分を安定化して感情バランスを達成するために使用され得る化合物ならびに医薬品および/または食品組成物の開発への関心が高まっている。
【0009】
患者はうつ病との併存症として、あるいは単独でGADを患うことが多く、GADは、プライマリ・ケアにおいて高度に蔓延している不安状態および慢性疾患である(患者の約10%)(ウィッチェン(Wittchen)ら、2005年、Eur.Neuropsycho.15:357−376頁)。患者は、自分の多数の身体症状をその家庭医に示す。GADは、慢性的な緊張ならびに不安な心配および緊張(>6ヶ月)を特徴とし、これらは日常生活に支障をきたすと共に制御することができず、そして特徴的な高覚醒(hypervigilance)症候群(不穏状態、筋肉の緊張、および睡眠問題を含む)を伴う。治療が行われなければ、GADは慢性的に変動する経過をたどり、年齢と共にますます重症になる傾向がある。GAD患者は亜症候群性(subsyndromal)うつ病を患っており、全ての不安症および抑うつ障害の直接および間接的な全体の健康経済負担が最も高いことの一因となる。GAD発生率が高いにもかかわらず、患者が診断される、薬物を処方される、あるいは精神医学的な紹介を受けることは少なく、患者の認識および監視を助けるための簡単な診断ツールが必要とされる。特定の診断にかかわらず、医師は、有効なGAD症状の治療を必要とする。パロキセチンなどのSSRIは、GADの治療に有効である(ストッチ(Stocchi)ら、2003年、J Clin Psych、63(3):250−258頁)。また系統的レビューおよびプラセボ対照RCT(無作為化臨床試験)によって、いくつかのSSRI(エシタロプラム、パロキセチンおよびセルトラリン)、SNRI(選択的ノルエピネフリン再取り込みの阻害薬)ベンラファキシン、いくつかのベンゾジアゼピン(アルプラゾラムおよびジアゼパム)、TCA イミプラミン、および5−HT1A部分アゴニスト、ブスピロンは全て、急性治療において効果的であることが示される。一般に、治療の効果は中程度であることが多く、治療期間が中断されると症状は再び表れる。そのため、SSRIよりも副作用が少なく長期間にわたって摂取することができる化合物による連続的な長期間の治療または予防は、薬物治療全体にわたって有利であろう。
【0010】
気分障害および職業性のストレスは、睡眠障害、不眠症、睡眠の質の低下、および概日リズム(いわゆるバイオリズム)の全体的な乱れをもたらし得る。このような状態は慢性であることが多く、本質的に持続性である。また、長距離飛行(時差ぼけ)および交替勤務によって誘発される概日リズムの調節異常も、同様の症状および困難を引き起こし得る。そのため、正常な概日リズム(ヒトまたは動物が慣れている)を維持するため、そして/あるいは認知機能および記憶の障害、ならびに精神的および身体的な疲労などの概日リズムの乱れに関連する症状を軽減および予防するために食事補給による治療を行い、それによって、それを必要としている人の全体的な生活の質を改善し、生命エネルギーのためになることが最も望ましいであろう。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】式I〜Vの化合物を示す。
【0012】
[発明の詳細な説明]
[セージ抽出物およびその好ましい成分]
本発明に従って、以下の式I〜IIIの三環式ジテルペン(誘導体)、すなわちカルノソール(式Iの化合物)、カルノシン酸(式IIの化合物)およびカルノシン酸12−メチルエーテル(式IIIの化合物)を含むセージ抽出物は、神経伝達の低下に関係する障害を治療するための薬剤において使用可能であることが分かった。
【化1】

【0013】
任意で、ロスマノール(式IVの化合物)および/または20−デオキソカルノソール(式Vの化合物)も存在し得る。
【化2】

【0014】
特に好ましいのは、(カルノソール、カルノシン酸およびカルノシン酸12−メチルエーテルに加えて)さらにロスマノールを含有するセージ抽出物である。
【0015】
セージ抽出物中のこれらの三環式ジテルペンの量は、セージ抽出物の全重量を基準として、カルノシン酸については0.1〜15重量%(好ましくは、1〜12重量%、より好ましくは9〜11重量%)の範囲、カルノソールについては0.01〜10重量%(好ましくは2〜8重量%、より好ましくは2〜5重量%)の範囲、そしてカルノシン酸12メチルエーテルについては0.1〜7重量%(好ましくは0.2〜6重量%、より好ましくは3〜5重量%)の範囲で変わることができ、それにより、カルノシン酸は主成分であるのが好ましい。
【0016】
ロスマノールが存在する場合、その量は、0.1〜1.0重量%、好ましくは0.1〜0.7重量%、より好ましくは0.1〜0.5重量%の範囲で変わり得る。
【0017】
20−デオキソ−カルノソールが存在する場合、その量は1.0重量%よりも低く、好ましくは0.01〜1.0重量%、より好ましくは0.05〜0.8重量%、最も好ましくは0.07〜0.5重量%の範囲で変わり得る。
【0018】
「セージ抽出物」という用語は、三環式ジテルペン(誘導体)I、IIおよびIIIを含有し、好ましくは三環式ジテルペン(誘導体)I、II、IIIおよびIVを含有し、より好ましくは三環式ジテルペン(誘導体)I、II、III、IVおよびVを含有する任意のセージ抽出物を意味する。適切なセージ種は、サルビア・オフィシナリス(Salvia officinalis)、サルビア・ミルティオリザ(Salvia miltiorrhiza)、サルビア・ラニゲラ(Salvia lanigera)、サルビア・カナリエンシス(Salvia canariensis)、サルビア・フルチコーサ(Salvia fruticosa)、サルビア・メリフェラ(Salvia mellifera)、サルビア・トメントーサ(Salvia tomentosa)、サルビア・デセルタ(Salvia deserta)、サルビア・プレゼワルスキー(Salvia przewalskii)、およびサルビア・スクラレア(Salvia sclarea)である。好ましいのは、サルビア・オフィシナリス(Salvia officinalis)である。
【0019】
本発明の使用に適したセージ抽出物は、例えば、独国RehlingenのFLAVEX Naturextrakte GmbHから市販されている。実施例(あとで参照)では、以下の2つの抽出物を用いた。
(1)セージ抽出物の全重量を基準として、0.06重量%のカルノソール、0.14重量%のカルノシン酸および0.36重量%のカルノシン酸12−メチルエーテルを含有する「Salbei Extrakt、型番063.001」(純粋な物質を基準として用いて、HPLC−UVにより210nmで測定)。
(2)セージ抽出物の全重量を基準として、3.50重量%のカルノソール、10.70重量%のカルノシン酸、4.30重量%のカルノシン酸12−メチルエーテル、0.3重量%の20−デオキソカルノソールおよび0.3重量%のロスマノールを含有する「Salbei Antioxidans Extrakt、型番063.007」(純粋な物質を基準として用いて、HPLC−UVにより210nmで測定)。
【0020】
本発明の目的のために適切なもう1つのセージ抽出物は、セージ抽出物の全重量を基準として、7.44重量%のカルノソール、1.56重量%のカルノシン酸、0.23重量%のカルノシン酸12−メチルエーテル、0.1重量%よりも少ない20−デオキソカルノソールおよび0.41重量%のロスマノールを含有する(純粋な物質を基準として用いて、HPLC−UVにより210nmで測定)。
【0021】
本発明の使用に適したセージ抽出物は、以下の2つの手順のうちの1つに従って製造することができる。
【0022】
[手順1]
乾燥サルビア・オフィシナリス(Salvia officinalis)葉(原材料)を機械的に粉砕して小片にし、次にこれを圧力安定性の抽出容器内に入れる。次に、少量のエタノールの存在下、25〜75℃の範囲の温度(好ましくは約50℃の温度)および高圧力(好ましくは、280バール)において、超臨界COを抽出容器中に通し、これにより、親油性化合物が溶解するのを可能にする。セパレータ内で、15〜45℃の範囲の温度(好ましくは30℃の温度)で圧力を40〜80バールの範囲の圧力に低下させる(好ましくは、60バールに低下させる)ことによって、溶解した化合物(抽出物)を分離する。COは、リサイクルしてプロセスに戻すことができる。
カルノソール(好ましくは、セージ抽出物の全重量を基準として2〜5重量%の量)、
カルノシン酸(好ましくは、セージ抽出物の全重量を基準として7〜15重量%の量)、
カルノシン酸12−メチルエーテル(好ましくは、セージ抽出物の全重量を基準として2〜7重量%の量)、
ロスマノール(好ましくは、セージ抽出物の全重量を基準として0.1〜1重量%の量)および
20−デオキソカルノソール(好ましくは、セージ抽出物の全重量を基準として0.1〜1重量%の量)
を含有する約1kgのセージ抽出物は、14〜20kgの乾燥サルビア・オフィシナリス(Salvia officinalis)葉から得ることができる。
【0023】
[手順2]
700gの乾燥サルビア・オフィシナリス(Salvia officinalis)葉をメタノールによって抽出し、次に蒸発乾燥させる。続いて、ヘキサン:HOを用いた溶媒−溶媒分配の後、メチルtert−ブチルエーテル(MTBE):HOを用いた溶媒−溶媒分配を実施する。MTBE分配物を蒸発乾燥させる。この抽出物40gを得ることができ、これは、豊富な量のアビエタンおよびトリテルペン(好ましくは5〜10重量%の量のカルノソール、好ましくは1〜3重量%の量のカルノシン酸、好ましくは0.05〜0.5重量%の量のカルノシン酸12−メチルエーテル、好ましくは0.1〜1重量%の量のロスマノール、および好ましくは0.1重量%未満の量の20−デオキソカルノソール、全ての量はセージ抽出物の全重量を基準とする)をもたらす。所望される場合には、次いで、MPLCクロマトグラフィを適用させて、オレアノール酸、ベツリン酸、またはウルソール酸を抽出物から除去することができる(収量25g)。
【0024】
当業者には、カルノシン酸、カルノソールおよびカルノシン酸12−メチルエーテルが豊富であり、好ましくはロスマノールおよび/または20−デオキソカルノソールも豊富であるセージ抽出物をもたらす他の抽出方法が分かる。
【0025】
「カルノソール」は、ラセミ混合物および純粋な(4aR,9S,10aS)−カルノソールまたは純粋な(4aS,9R,10aR)−カルノソール、あるいはこれらの任意の混合物またはジアステレオ異性体を意味する。(4aR,9S,10aS)−カルノソールが好ましい。
【0026】
「カルノシン酸」は、ラセミ混合物および純粋な(4aR,10aS)−カルノシン酸または純粋な(4aS,10aR)−カルノシン酸、あるいはこれらの任意の混合物またはジアステレオ異性体を意味する。好ましいのは、(4aR,10aS)−カルノシン酸である。
【0027】
「カルノシン酸12−メチルエーテル」は、ラセミ混合物および純粋な(4aR,10aS)−カルノシン酸12−メチルエーテルまたは純粋な(4aS,10aR)−カルノシン酸12−メチルエーテル、あるいはこれらの任意の混合物またはジアステレオ異性体を意味する。好ましいのは(4aR,10aS)−カルノシン酸12−メチルエーテルである。
【0028】
「ロスマノール」は、ラセミ混合物および純粋な(4aR,9S,10aS)−ロスマノールまたは純粋な(4aS,9R,10aR)−ロスマノール、あるいはこれらの任意の混合物またはジアステレオ異性体を意味する。(4aR,9S,10aS)−ロスマノールが好ましい。
【0029】
「20−デオキソ−カルノソール」は、ラセミ混合物および純粋な(4aR,9S,10aS)−20−デオキソ−カルノソールまたは純粋な(4aS,9R,10aR)−20−デオキソ−カルノソール、あるいはこれらの任意の混合物またはジアステレオ異性体を意味する。(4aR,9S,10aS)−20−デオキソ−カルノソールが好ましい。
【0030】
[セージ抽出物およびその成分の使用]
従って、1つの態様では、本発明は、神経伝達の低下に関係する障害を治療するための薬剤として使用するための、このような三環式ジテルペン(誘導体)I、IIおよびIIIを含有するセージ抽出物、好ましくはこのような三環式ジテルペン(誘導体)I、II、IIIおよびIVの混合物を含有するセージ抽出物、より好ましくはこのような三環式ジテルペン(誘導体)I〜Vの混合物を含有するセージ抽出物に関する。
【0031】
もう1つの態様では、本発明は、神経伝達の低下に関係する障害の治療のための組成物を製造するため、特に、抗うつ薬、気分/活力改善剤、ストレス緩和剤、状態改善剤、不安の低減剤、強迫的行動の低減剤、弛緩薬、睡眠改善剤および/または不眠軽減剤を製造するための、上記のような定義および選択を有する三環式ジテルペン(誘導体)の混合物を含有するセージ抽出物の使用に関する。
【0032】
さらにもう1つの態様では、本発明は、三環式ジテルペン(誘導体)の混合物を含有するセージ抽出物を含む食品組成物と、三環式ジテルペン(誘導体)の混合物を含有するセージ抽出物および従来の医薬品キャリアを含む医薬品組成物とに関する。
【0033】
さらに、本発明は、ヒトを含む動物において神経伝達の低下に関係する障害を治療するための方法に関し、前記方法は、三環式ジテルペン(誘導体)の混合物を含有する有効量のセージ抽出物を、それを必要としているヒトを含む動物に投与することを含む。
【0034】
本発明との関連における動物はヒトを含み、哺乳類、魚および鳥を包含する。好ましい「動物」はヒト、ペットおよびコンパニオン動物、ならびに家畜動物である。ペットおよびコンパニオン動物の例は、イヌ、ネコ、鳥、観賞魚、モルモット、(ジャック)ウサギ、ノウサギおよびフェレットである。家畜動物の例は、水産養殖魚、ブタ、ウマ、反芻動物(ウシ、ヒツジおよびヤギ)および家禽である。
【0035】
本発明との関連では、「治療」は、同時治療および予防も包含する。「予防」は、最初の発生(一次予防)または再発(二次予防)を指すことができる。
【0036】
「神経伝達の低下」という用語は、本出願では当業者によく知られているその意味に従って使用され、神経伝達の調節不全に関連し、神経伝達物質の生合成、加工、貯蔵、放出、再取り込みおよび受容体結合のレベルにおいて生じ得る。ヒトを含む動物では、神経伝達の低下は、例えば各種のうつ病の1つにおいて、行動、感情、気分および思考過程の攪乱として現れ得る。
【0037】
従って、本発明は、ヒトを含む動物において神経伝達の低下に関係する障害を予防するための方法にも関し、前記方法は、上記のような定義および選択を有する三環式ジテルペン(誘導体)の混合物を含有する有効量のセージ抽出物を、それを必要としているヒトを含む動物に投与することを含む。これに関連して、有効量のセージ抽出物は、特に、精神的な健康を維持するため、認知機能のバランスを維持するため、気分変動の危険性を低減するのに役立つため、積極的な気分を維持するのに役立つため、および認知の健全性を支援するため、そして良好な睡眠の質を維持するのに役立つために使用され得る。
【0038】
本発明との関連において、「障害」という用語は疾患も包含する。
【0039】
神経伝達の低下に関係する障害を治療するための薬剤/組成物は、抗うつ薬、気分/活力改善剤、ストレス緩和剤、状態改善剤、不安低減剤および強迫的行動低減剤、弛緩薬、睡眠改善剤および/または不眠軽減剤を包含する。これらは全て、特に中枢神経系において神経伝達を改善、向上および支援し、そのため精神的な機能障害を軽減する。
【0040】
抗うつ薬は、精神的、行動的および感情的/情緒的、神経性、神経変性、摂食およびストレス関連の障害、例えば、単極性うつ病、双極性うつ病、急性うつ病、慢性うつ病、亜慢性うつ病、気分変調、産後うつ病、月経前の不快気分/症候群(PMS)、更年期抑うつ症状、攻撃性、注意欠陥障害、社会不安障害、季節性感情障害およびGADなどの不安症(障害)、線維筋痛症候群、外傷後ストレス障害、パニック障害、ならびに強迫性障害、不穏下肢症候群、神経質、片頭痛/原発性頭痛および一般的な痛み、嘔吐、過食症、神経性食欲不振、大食症、胃腸障害、燃え尽き症候群および被刺激性などを治療するための薬剤/組成物である。
【0041】
抗うつ薬は、神経認知機能障害の一次および二次予防および/または治療(のための組成物の製造)のために使用することもできる。さらに、これらは、心血管疾患、脳卒中、癌、アルツハイマー病、パーキンソン病などの慢性疾患において併存症として発生する神経伝達の妨害に関連する抑うつ症状または他の症状の治療においても有効である。
【0042】
従って、三環式ジテルペン誘導体の混合物を含有するセージ抽出物、およびこれらを含有する食品/医薬品組成物は、ヒトを含む動物の治療のために適切である。
【0043】
本発明のさらなる実施形態では、上記のような定義および選択を有する三環式ジテルペン(誘導体)の混合物を含有するセージ抽出物は、一般的な気分改善剤としての用途、およびこのような用途のための組成物(食品/医薬品組成物、食品、飲料など)を製造するための用途が見出される。「気分改善剤」、「感情的な健康の促進薬」または「活力改善剤」は、それで治療された人の気分が高められること、自尊心が上昇されること、そして/あるいは否定的な思考および/または否定的な緊張が低下されることを意味する。また、感情のバランスがとれること、そして/あるいは総体的、特に精神的な健康および活力が改善または維持されること、ならびに気分変動の危険性が低減される(のに役立つ)こと、そして積極的な気分が維持される(のに役立つ)ことも意味する。
【0044】
上記のような定義および選択を有する三環式ジテルペン(誘導体)の混合物を含有するセージ抽出物は、一般に、ヒトを含む動物のため、好ましくは、ヒト、ペット動物および家畜動物のための不安低減剤および/または強迫的行動低減剤として使用することもできる。
【0045】
「不安低減剤」は、慢性的な緊張ならびに不安な心配および緊張が減少または軽減されることを意味する。不穏状態、筋肉の緊張および睡眠問題を含む高覚醒症候群が低減または緩和される。社会恐怖および他の恐怖が解決される。一般に、社会環境はあまり威嚇的でなく経験される。人は感情的にリラックスし、快適さを経験し、そして他の人々との親交および交際を楽しむ。
【0046】
「弛緩薬」、「睡眠改善剤」または「不眠軽減剤」は、睡眠開始を改善し、そして人が容易に睡眠に入り、一晩中邪魔されない睡眠を維持する助けとなることを意味する。また、時差ぼけまたは交替勤務による概日リズム関連の睡眠の乱れが修正されること、そして不眠に関連する症状、すなわち、認知機能および記憶の障害、精神的および身体的な疲労、夢幻が除去または緩和され、全体的な生活の質および生命エネルギーが改善されることも意味する。
【0047】
さらに、上記のような定義および選択を有する三環式ジテルペン(誘導体)の混合物を含有するセージ抽出物、ならびにこれらを有効量含む組成物は、ストレス関連の症状の治療、予防および軽減のため、働き過ぎ、疲労困憊および/または燃え尽きに関連する症状の治療、予防および軽減のため、ストレスに対する抵抗または耐性の増大のため、そして/あるいは健常者のリラクセーションを有利および容易にするために有用であり、すなわち、このような組成物は「ストレス緩和剤」としての効果を有する。
【0048】
さらに、上記のような定義および選択を有する三環式ジテルペン(誘導体)の混合物を含有するセージ抽出物、およびこれらを有効量含む組成物は、ヒトおよび動物において不安症および強迫的行動を治療、予防および軽減するために有用である。
【0049】
本発明のさらなる実施形態は、病人または健常者における「状態改善剤」としての、すなわち、被刺激性および疲労を低減するため、身体的および精神的な疲労を低減、予防または軽減するため、ならびにより一般的な言葉ではエネルギーを増大させるため、特に脳エネルギーの産生を増大させるための手段としての、上記のような定義および選択を有する三環式ジテルペン(誘導体)の混合物を含有するセージ抽出物の使用と、これらを含有する組成物(食品/医薬品組成物、食品、飲料など)の使用とに関する。さらに、一般的な認知改善のため、特に、注意および集中の維持または改善、記憶および思い出す能力の維持または改善、学習能力、言語処理、問題解決および知的機能の維持または改善のため、短期記憶の改善のため、精神的な警戒を増大させるため、精神的な覚醒状態を高めるため、精神的な疲労を低減するため、認知の健全性を支援するため、認知機能のバランスを維持するため、空腹および満腹を調節するため、そして運動活性の調節のためである。
【0050】
[獣医学的使用]
ペットおよび家畜動物は、本発明によって提供することができる神経伝達の向上または改善を必要としている状態にあり得る。動物はストレスの多い状況に逆らう行動的および/または生理的な反応を示すことがあり、大量生産環境で育てられた動物、または好ましくない状態で輸送されている動物は、食肉または乳の品質または量の低下を呈し、ストレスを受けた家禽は、羽根つつき、産卵の低下および共食いという手段をとり得る。多くの動物は、不利な飼育または輸送状態において、攻撃的になるか、あるいは常同行動、不安行動および強迫的行動を表し得る。
【0051】
従って、本発明のもう1つの態様は、上記のような定義および選択を有する三環式ジテルペン(誘導体)の混合物を含有するセージ抽出物の、食品/医薬品組成物としての獣医学的使用である。
【0052】
本発明の好ましい実施形態では、上記のような定義および選択を有する三環式ジテルペン(誘導体)の混合物を含有するセージ抽出物は、屠殺場への輸送中に家畜動物および大量生産の家畜飼育におけるストレスを予防するため、そして/あるいはこのような状況下での前記家畜動物の食肉の品質の低下を予防するために投与される。家畜動物は、好ましくは、家禽、ウシ、ヒツジ、ヤギおよびブタである。
【0053】
本発明のもう1つの好ましい実施形態では、上記のような定義および選択を有する三環式ジテルペン(誘導体)の混合物を含有するセージ抽出物は、例えば、食肉品質および産卵の低下をもたらす羽根つつきおよび共食いを予防するために家禽に投与される。
【0054】
本発明のもう1つの態様は、水産養殖におけるストレスを予防および/または軽減するための方法であり、上記のような定義および選択を有する三環式ジテルペン(誘導体)の混合物を含有するセージ抽出物を、それを必要としている動物(ここで、動物は魚またはエビである)に投与することを含む。
【0055】
本発明のもう1つの好ましい実施形態では、上記のような定義および選択を有する三環式ジテルペン(誘導体)の混合物を含有するセージ抽出物は、飼い主の別離、変化または喪失などのストレスの多い状態、休暇による別離中、およびいわゆる「アニマルホテル」における飼育中、そしてアニマルシェルターまたは避難所における飼育中に生じるストレス、緊張および攻撃性ならびに強迫行動を低減するためにペットまたはコンパニオン動物に投与される。
【0056】
本発明のさらにもう1つの態様は、毛皮産業で使用される動物、好ましくは、ミンク、キツネおよびノウサギにおいて、ストレスの多い状態に関連する症状を予防/低減するための方法である。
【0057】
[本発明の好ましい用量および組成]
ヒトについては、本発明の目的のための上記のような定義および選択を有するセージ抽出物の適切な1日の投与量は、1日あたり、三環式ジテルペン(誘導体)の混合物が、体重1kgにつき0.001mg〜体重1kgにつき約20mgの範囲内であるような量であり得る。さらに好ましいのは、体重1kgにつき三環式ジテルペン(誘導体)の混合物が約0.01〜約10mgである1日の投与量であり、そして特に好ましいのは、体重1kgにつき三環式ジテルペン(誘導体)の混合物が約0.05〜5.0mgである1日の投与量である。
【0058】
「食品組成物」という用語は任意のタイプの(強化)食品/飼料および飲料を含み、臨床的な栄養および栄養補助食品も含まれる。本発明に従う食品組成物は、さらに、保護親水コロイド、バインダー、フィルム形成剤、カプセル化剤/材料、壁/殻材料、マトリックス化合物、コーティング、乳化剤、界面活性剤、可溶化剤(油、脂肪、ワックス、レシチンなど)、吸着剤、キャリア、充填剤、共化合物(co−compound)、分散剤、湿潤剤、加工助剤(溶媒)、流動化剤、風味マスキング剤、増量剤、ゼリー化剤(jellyfying agent)、ゲル形成剤、酸化防止剤および抗菌剤を含有し得る。
【0059】
薬学的に許容可能なキャリアおよび上記のような定義および選択を有する三環式ジテルペン(誘導体)の混合物を含有するセージ抽出物に加えて、本発明に従う医薬品組成物は、さらに、従来の医薬品添加剤およびアジュバント、賦形剤または希釈剤、香味剤、防腐剤、安定剤、乳化剤、緩衝液、潤滑剤、着色剤、湿潤剤、充填剤などを含有し得る。キャリア材料は、経口/非経口/注射による投与に適した有機または無機の不活性キャリア材料であり得る。
【0060】
本発明に従う食品および医薬品組成物は、人体を含む動物の体へ投与するために適した任意の生薬形態(galenic form)、特に経口投与のための従来通りの任意の形態、例えば、食品または飼料(のための添加剤/サプリメント)、食品または飼料プレミックス、強化食品または飼料、錠剤、丸薬、顆粒剤、糖衣錠、カプセル、ならびに粉末および錠剤などの発泡製剤などの固体形態、あるいは、例えば、飲料、ペーストおよび油性懸濁液のような溶液、エマルジョンまたは懸濁液などの液体形態でよい。ペーストは、ハードまたはソフトシェルカプセルに充填され得る。他の適用形態の例は、経皮、非経口または注射による投与のための形態である。食品および医薬品組成物は、制御(遅延)放出製剤の形態でもよい。
【0061】
強化食品の例は、シリアルバー、ならびにケーキおよびクッキーなどのベーカリー品である。
【0062】
飲料は、ノンアルコールおよびアルコール飲料、ならびに飲料水および流動食に添加される液体調製物を包含する。ノンアルコール飲料は、例えば、ソフトドリンク、スポーツドリンク、果実ジュース、レモネード、ニアウォーター飲料(すなわち、低カロリー含量のウォーターベースの飲料)、お茶および牛乳ベースの飲料である。流動食は、例えば、スープおよび乳製品(例えば、ムースリ飲料)である。
【0063】
ヒトのための固体剤形調製物では、三環式ジテルペン(誘導体)の混合物は、剤形あたり、約0.1mg〜約1000mgの範囲、好ましくは約1mg〜約500mgの範囲の量で適切に存在する。上記のような定義および選択を有するこのような三環式ジテルペン(誘導体)の混合物を含有するセージ抽出物の量は、それに応じて計算することができる。
【0064】
食品組成物、特にヒトのための食品および飲料では、三環式ジテルペン(誘導体)の混合物は、食品または飲料の全重量を基準として、約0.0001(1mg/kg)〜約5重量%(50g/kg)、好ましくは約0.001(10mg/kg)〜約1重量%(10g/kg)、より好ましくは約0.01(100mg/kg)〜約0.5重量%(5g/kg)の範囲の量で適切に存在する。このような三環式ジテルペン(誘導体)の混合物を含有するセージ抽出物の量は、それに応じて計算することができる。
【0065】
本発明の好ましい実施形態における食品および飲料では、三環式ジテルペン(誘導体)の混合物の量は、1回分あたり10〜30mg、すなわち食品または飲料1kgにつき120mgの範囲内である。このような三環式ジテルペン(誘導体)の混合物を含有するセージ抽出物の量は、それに応じて計算することができる。
【0066】
ヒトを除く動物については、本発明の目的のための三環式ジテルペン(誘導体)の混合物の適切な1日の投与量は、1日あたり、体重1kgにつき0.001mg〜体重1kgにつき約1000mgの範囲内であり得る。さらに好ましいのは、体重1kgにつき約0.1mg〜約500mgの範囲の1日の投与量であり、そして特に好ましいのは、体重1kgにつき約1mg〜100mgの範囲の1日の投与量である。このような三環式ジテルペン(誘導体)の混合物を含有するセージ抽出物の量は、それに応じて計算することができる。
【0067】
本発明は、以下の実施例によってさらに説明される。
【0068】
[実施例]
以下に記載される実験において、3つの異なるセージ抽出物を用いた。
【0069】
セージ抽出物Aは、FLAVEX Naturextrakte GmbH(独国Rehlingen)から入手した(「Salbei Extrakt、型番063.001」)。これは、セージ抽出物の全重量を基準として、0.06重量%のカルノソール、0.14重量%のカルノシン酸および0.36重量%のカルノシン酸12−メチルエーテルを含有し、純粋な物質を基準として用いてHPLC−UV(高性能液体クロマトグラフィ−紫外線)により210nmで測定した。
【0070】
セージ抽出物Bは、FLAVEX Naturextrakte GmbH(Rehlingen、独国)から入手した(「Salbei Antioxidans Extrakt、型番063.007」)。これは、セージ抽出物の全重量を基準として、3.50重量%のカルノソール、10.70重量%のカルノシン酸、4.30重量%のカルノシン酸12−メチルエーテル、0.3重量%の20−デオキソカルノソールおよび0.3重量%のロスマノールを含有し、純粋な物質を基準として用いてHPLC−UVにより210nmで測定した。抽出物は、以下のように製造した。乾燥サルビア・オフィシナリス(Salvia officinalis)葉(原材料)を機械的に粉砕して小片にし、次にこれを圧力安定性の抽出容器内に入れる。次に、50℃の温度、280バールの高圧において、少量のエタノールの存在下で超臨界COを抽出容器中に通し、これにより親油性化合物が溶解される。セパレータ内で、30℃の温度で圧力を60バールに低下させることによって、溶解した化合物(抽出物)を分離した。COは、リサイクルしてプロセスに戻した。14〜20kgの乾燥サルビア・オフィシナリス(Salvia officinalis)葉から約1kgのセージ抽出物Bを得ることができる。
【0071】
セージ抽出物Cは、セージ抽出物の全重量を基準として、7.44重量%のカルノソール、1.56重量%のカルノシン酸、0.23重量%のカルノシン酸12−メチルエーテル、0.1重量%未満の20−デオキソカルノソールおよび0.41重量%のロスマノールを含有し、純粋な物質を基準として用いてHPLC−UVにより210nmで測定した。セージ抽出物Cは、以下の手順に従って製造した。700gの乾燥バイオマテリアル(サルビア・オフィシナリス(Salvia officinalis)葉)をメタノールで抽出し、次に蒸発乾燥させた。続いて、ヘキサン:HOの使用による溶媒−溶媒分配の後、メチルtert−ブチルエーテル(MTBE):HOの使用による溶媒−溶媒分配を実施した。MTBE分配物を蒸発乾燥させた。この抽出物40gが得られ、これは、豊富な量のアビエタンおよびトリテルペンをもたらした。
【0072】
モノアミン神経伝達物質のセロトニン、ドーパミンおよびノルアドレナリンの作用は、細胞膜輸送タンパク質によるシナプス結合からのその急速な取り込みおよび排除を通して調節される。中枢のモノアミン作動性ニューロンにおけるモノアミン輸送体は放出された神経伝達物質の90%までの回収に関与し、コカイン、アンフェタミンなどの多数の向精神薬および抗うつ薬の高親和性の標的である。これらの薬剤は、輸送体を遮断し、その結果神経細胞の取り込みを防止することによって、中枢および抹消神経系の両方において細胞外神経伝達物質濃度のレベルを上昇させ、その行動性および自律神経性の効果の一因となる。従って、1つまたは複数のセージ抽出物によるセロトニン、ドーパミンおよびノルアドレナリンの取り込みの阻害は、以下の3つの実施例によって説明される。
【0073】
[実施例1]
[三環式ジテルペン(誘導体)を含有するセージ抽出物によるセロトニン取り込みの阻害]
ヒトセロトニン再取り込み輸送体(hSERT)を安定して発現するヒト胎児腎臓(HEK−293)細胞は、米国ヴァンダービルト大学のR.ブレイクリー(Blakely)から入手した。10%の透析ウシ胎児血清(Invitrogen)、ペニシリン、ストレプトマイシン、L−グルタミンおよび抗生物質G418を含有するダルベッコ変法イーグル培地(Bioconcept)において細胞を日常的に成長させ、トリプシン処理により継代させた。アッセイの当日に、温かいリン酸緩衝食塩水(PBS)で穏やかに洗浄することによって、80%コンフルエントなフラスコからの細胞を収集した。次に、細胞を遠心分離によって1回洗浄し、160μlの緩衝液中10,000個の細胞濃度で、35μMのパージリン、2.2mMのCaCl、1mMのアスコルビン酸および5mMのN−2−ヒドロキシエチルピペラジン−N’−2−エタンスルホン酸(HEPES緩衝液)を補充したクレブス・リンゲル重炭酸塩緩衝液(Sigma)中に再懸濁させ、1つのウェルにつき10,000個の細胞で、丸底のポリプロピレンの96ウェルマイクロタイタープレート(Corning)に分注した。20nMの濃度の放射標識[H]−セロトニン(GE Healthcare)を添加し、穏やかに振とうさせながら37℃で40分間インキュベーションすることによって、セロトニンの細胞への取り込みを決定した。この時間の最後に、Tomtec Mach III M 細胞ハーベスターを用いて、Unifilter 96GF/Bプレート(Perkin Elmer)によるろ過によって、取り込まれなかった標識を除去した。Microscint−40/Topcount(Perkin Elmer)を用いて、液体シンチレーション計数によって、プレート上に保持された、取り込まれたセロトニンを定量した。
【0074】
H]セロトニンの添加前の10分間および添加中に0.00316〜100μg/mlの間の濃度範囲でアッセイに包含させることによって、セージ抽出物A、BおよびCのセロトニン取り込みに対する効果を決定した。SSRI、フルオキセチン(0.03nM〜1μM)を基準化合物として用いた。輸送体によるセロトニン取り込みは、セージ抽出物A、BおよびCによって濃度依存的に阻害された。セージ抽出物A、BおよびCによるセロトニン取り込みの阻害について計算したIC50値は表1に示される。
【0075】
【表1】

【0076】
[実施例2]
[セージ抽出物Bによるドーパミン取り込みの阻害]
ヒトドーパミン輸送体(hDAT)を発現するチャイニーズハムスター卵巣(CHO)−K1細胞をアッセイの前にプレーティングした。細胞(2×10/ml)を、120mMのNaCl、5.4mMのKCl、1.2mMのCaCl、1.2mMのMgSO、5mMのD−グルコースおよび1mMのアスコルビン酸をさらに含有する変性Tris−HEPES緩衝液(5mMのTris−HCl、7.5mMのHEPES、pH7.1)中でセージ抽出物Bおよび/または媒体と共に、25℃で20分間インキュベートした後、50nMの[H]−ドーパミンを10分間添加した。10μMのノミフェンシン(ドーパミン再取り込みの阻害薬)の存在下で特異的なシグナルを決定した。次に、細胞を1%のSDS溶解緩衝液で可溶化した。媒体対照に対して50パーセント以上(≧50%)の[H]−ドーパミン取り込みの低下は、著しい阻害活性を示した。セージ抽出物Bを10の濃度(0.00316〜100μg/ml)でスクリーニングし、これらの同じ濃度を別個の細胞群に同時に適用し、取り込みの著しい阻害が観察された場合にだけ、化合物に誘発される可能性のある細胞毒性について評価した。ノミフェンシン(0.001〜0.1μM)を基準化合物として使用した。
【0077】
【表2】

【0078】
[実施例3]
[セージ抽出物Bによるノルアドレナリン取り込みの阻害]
ヒトノルアドレナリン輸送体(hNAT)を安定して発現するメイディン・ダービー・イヌ腎臓(MDCK)細胞をアッセイの1日前にプレーティングした。細胞(2×10/ml)を、120mMのNaCl、5.4mMのKCl、1.2mMのCaCl、1.2mMのMgSO、5mMのD−グルコースおよび1mMのアスコルビン酸をさらに含有する変性Tris−HEPES緩衝液(5mMのTris−HCl、7.5mMのHEPES、pH7.1)中でセージ抽出物Bおよび/または媒体と共に25℃で20分間プレインキュベートし、次に、25nMの[H]−ノルアドレナリンを添加して10分間インキュベーションした。次に、各ウェル内の細胞を2回洗浄し、1%のSDS溶解緩衝液で可溶化し、ライセートを分析して、[H]−ノルアドレナリン取り込みを決定した。10μMデシプラミン(ノルアドレナリン再取り込みを阻害する三環式抗うつ薬)の存在下で特異的なシグナルを決定した。媒体対照に対して50パーセント以上(≧50%)の[H]−ノルアドレナリン取り込みの低下は、著しい阻害活性を示した。セージ抽出物Bを10の濃度(0.00316〜100μg/ml)でスクリーニングし、これらの同じ濃度を別個の細胞群に同時に適用し、取り込みの著しい阻害が観察された場合にだけ、化合物に誘発される可能性のある細胞毒性について評価した。デシプラミン(0.5〜50nM)を基準化合物として使用した。
【0079】
【表3】

【0080】
従って、セージ抽出物Bは、上記のようなインビボアッセイにおけるそのセロトニン、ドーパミンおよびノルアドレナリンの阻害によって、三重の再取り込み阻害効果を有することが実証された。
【0081】
[実施例4]
[三環式ジテルペン(誘導体)を含有するセージ抽出物によるモノアミンオキシダーゼの阻害]
モノアミンオキシダーゼA(MAO−A)およびB(MAO−B)酵素のための基質として、それぞれ有機アミンのp−チラミンまたはベンジルアミンを用いた。この反応により生じるHを、西洋わさびペルオキシダーゼ(HRP)により触媒されるバニリン酸との反応によって定量した。
【0082】
反応は、ポリスチレンマイクロタイタープレートにおいて37℃で実行した。0.2Mのリン酸カリウム緩衝液pH7.6中で、MAO酵素(最終濃度2U/ml)を、必要に応じてp−チラミン(Sigma、最終濃度0.5mM)またはベンジルアミン(Sigma、最終濃度0.5mM)のいずれか、ならびに発色溶液(バニリン酸(Fluka)、4−アミノアンチピリン(Fluka)および西洋わさびペルオキシダーゼ(Sigma)を含有し、最終濃度はそれぞれ0.25mM、0.125mMおよび1U/mlである)と混合した。40分間のインキュベーションの後、プレートをマイクロタイタープレート吸光度リーダー、例えば、Spectramax M5(Molecular Devices Corporation)において495nmで分析した。
【0083】
基質によるインキュベーション前の10分間およびインキュベーション中に0.03〜100μg/mlの間の濃度範囲でアッセイに包含させることによって、セージ抽出物A、BおよびCのモノアミンオキシダーゼ酵素に対する効果を決定した。反応のHRPで触媒される部分に対する抽出物の効果を決定するために、MAO酵素をH(Molecular Probes、最終濃度50μM)によって置換した。MAO−AおよびMAO−Bを含有する反応はいずれも、セージ抽出物BおよびCによって濃度依存的に阻害されたが、対照反応は影響を受けなかった。セージ抽出物A、BおよびCによるモノアミンオキシダーゼ活性の阻害について測定したIC50値は表4に示される。
【0084】
【表4】

【0085】
[実施例5]
[マウスのビー玉埋設試験(marble burying test)における行動に対するセージ抽出物Bの効果]
不快な味の液体が充填された飲料用注ぎ口(ウィルキー(Wilkie)ら、1979年、J.Exp.Anal.Behav.31:299−306頁)または電気ショック棒(ピネル(Pinel)ら、1978年、J.Comp.Phys.Psych.92:708−712頁)などの侵害性の物体を埋めるラットによって「防御的な埋設」行動を実証した。ビー玉埋設試験は、このような試験の改変として考案した(ポーリング(Poling)ら、1981年、J.Exp.Anal.Behav.35:31−44頁)。連続する10または21日の間、それぞれが25個のビー玉を含有する個々のケージに毎日ラットを暴露した。10日間の各日、または21日間の暴露の24時間後に埋められたビー玉の数をカウントした。著者らにより、ビー玉の埋設は目新しさにより決定されず、侵害性刺激によるものであることが報告された。
【0086】
マウスによるビー玉埋設行動は、鎮静を誘発しない用量で、SSRI(例えば、フルボキサミン、フルオキセチン、シタロプラム)、三環式抗うつ薬(例えば、イミプラミン、デシプラミン)および選択的ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(例えば、レボキセチン)に加えて、マイナー(例えば、ジアゼパム)およびメジャー(例えば、ハロペリドール)の様々な精神安定薬に感受性があると報告されている(ブルッカンプ(Broekkamp)ら、1986年、Eur.J.Pharm.、126:223−229頁)。このモデルは、不安様または強迫性行動のいずれかを反映し得る(デブール(De Boer)ら、2003年、Eur.J.Pharm.463:145−161頁を参照)。
【0087】
ここで適用される方法は、ブルッカンプら(1986年)により記載される方法に従う。マウス(処置群あたりn=15)を、床の上5cmのおがくずと、ケージの中央に集められた25個のビー玉(直径1cm)を有する透明なプラスチックケージ(33×21×18cm)内に個々に入れた。逆さにした第2のケージをフタとして用いた。30分の試験時間の最後に、おがくずで(少なくとも3分の2が)覆われたビー玉の数をカウントした。薬物処置プロトコルを知らない研究者によって試験を実施した。
【0088】
試験の前に、各ケージ内に10匹の未処置のマウスを15分間放置することによって、全ての試験ケージおよびビー玉を「浸透」させた。
【0089】
従って、ビー玉埋設試験においてセージ抽出物B(30、100、300mg/kg、経口、試験の24、5および1時間前)を調べ、マウスにおけるその潜在的な抗不安効果を評価した。クロバザム、フルオキセチンおよびベンラファキシンを基準化合物として用いた。
【0090】
【表5】

【0091】
試験した最高用量のセージ抽出物B(300mg/kg)は、セロトニンおよびノルアドレナリン再取り込み阻害薬のベンラファキシンと同じように、明らかにそして著しく、ビー玉埋設行動を低下させた。
【0092】
[実施例6]
[マウスの明暗ボックス試験における行動に対するセージ抽出物Bの効果]
抗不安活性を検出する方法は、クローリー(Crawley)(1981年、Pharmacol.Biochem.Behav.、15:695−699頁)によって記載される方法に従う。抗不安薬は、明るい区画で過ごす時間を増大させる。
【0093】
一方の半分が明るく開放されており(25×27×27cm)、他方の半分が暗く閉鎖された(20×27×27cm)2区画ボックスの明るい区画に動物を入れた。3分間の試験の間、それぞれの区画で過ごす時間、および動物が一方の側から他方の側に移る回数を記録した。1つの群につき15匹のマウスを調べた。試験は盲目的に実施した。
【0094】
コーン油に分散されたセージ抽出物Bを3つの用量(30、100、300mg/kg、経口、試験の24、5および1時間前)で評価し、媒体対照群(コーン油)と比較した。試験の1時間前に投与されるクロバザム(32mg/kg、経口、蒸留水中0.2%w/vのヒドロキシプロピルメチルセルロースに分散)を基準物質として用いた。この群のマウスは、実験の盲目性を保持するために、試験の24時間および5時間前に媒体の追加投与を与えた。
【0095】
【表6】

【0096】
試験した最高用量のセージ抽出物B(300mg/kg)は、媒体対照と比較して、明らかにそして著しく、明るい区画で過ごす時間を増大させた。従って、セージ抽出物Bは、300mg/kgにおいて抗不安様活性を実証した。
【0097】
[実施例7]
[ソフトゼラチンカプセルの調製]
以下の成分を含むソフトゼラチンカプセルが調製される。
【0098】
【表7】

【0099】
軽度の慢性気分変調の治療のために1日あたり2個のカプセルを3ヶ月間成人に投与することができる。
【0100】
[実施例8]
[ソフトゼラチンカプセルの調製]
以下の成分を含むソフトゼラチンカプセルが調製される。
【0101】
【表8】

【0102】
月経前症候群および月経前不快気分障害の治療のために、好ましくは月経周期の後半に、1日あたり1個のカプセルを14日間摂取すべきである。
【0103】
[実施例9]
[錠剤の調製]
以下の成分を含む錠剤が調製される。
【0104】
【表9】

【0105】
一般的な健康、活力化およびストレスの軽減のために、1個の錠剤を1日2回、3ヶ月間摂取する。
【0106】
[実施例10]
[インスタントフレーバーソフトドリンクの調製]
【0107】
【表10】

【0108】
全ての成分をブレンドし、500μmのふるいにかける。得られた粉末を適切な容器に入れ、管状ブレンダにおいて少なくとも20分間混合する。飲料を調製するために、得られた混合粉末125gに十分な水を添加し、1リットルの飲料を作る。
【0109】
すぐに飲めるソフトドリンクは、1回分(250ml)あたり約30mgの三環式ジテルペン(誘導体)混合物を含有する。強化剤として、そして一般的な健康のために、1日あたり2回分(240ml)を飲むべきである。
【0110】
[実施例11]
[焼いていない強化シリアルバーの調製]
【0111】
【表11】

【0112】
三環式ジテルペン(誘導体)混合物をスキムミルク粉末と予め混合し、プラネタリーボールミキサに入れる。コーンフレークおよびライスクリスピーを添加し、全てを穏やかに混合する。次に、乾燥およびカットアップルを添加する。第1の調理ポット内で、上記で与えられる量の糖、水および塩を混合する(溶液1)。第2の調理ポット内で、上記で与えられる量のグルコース、転化およびソルビトールシロップを混合する(溶液2)。ベーキング用油脂、パーム核油脂、レシチンおよび乳化剤の混合物は油脂相である。溶液1を110℃に加熱する。溶液2を113℃に加熱し、次に冷水浴中で冷却する。その後、溶液1および2を混ぜ合わせる。油脂相を水浴中75℃で溶解させ、次に、溶液1および2を合わせた混合物に油脂相を添加する。アップルフレーバーおよびクエン酸を液体糖−油脂ミックスに添加する。液体を乾燥成分に添加し、プラネタリーボールミキサで十分に混合する。塊を大理石プレート上に置き、所望の厚さに圧延し、次に、室温まで冷却し、小さく切断する。焼いていないシリアルバーは、1回分(30g)あたり約25mgの三環式ジテルペン(誘導体)混合物を含有する。一般的な健康および活力化のために、1日あたり1〜2個のシリアルバーを食べるべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルノソール、カルノシン酸およびカルノシン酸12−メチルエーテルを含むセージ抽出物を含む食品または医薬品組成物。
【請求項2】
ロスマノールおよび/または20−デオキソカルノソールをさらに含む請求項1に記載の食品または医薬品組成物。
【請求項3】
食品、飼料、乳製品、ヨーグルト、強化食品、シリアルバー、ベーカリー品、ケーキ、クッキー、栄養補助食品、錠剤、丸薬、顆粒剤、糖衣錠、カプセル、発泡製剤、ノンアルコール飲料、ソフトドリンク、スポーツドリンク、果実ジュース、レモネード、ニアウォーター飲料、お茶、牛乳ベースの飲料、流動食、スープ、および液体乳製品(ムースリ飲料)からなる群から選択される請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
抗うつ薬、気分/活力改善剤、ストレス緩和剤、状態改善剤、不安の低減剤、強迫的行動の低減剤、弛緩薬、睡眠改善剤および/または不眠軽減剤である請求項1〜3のいずれか一項に記載の組成物の使用。
【請求項5】
薬剤として使用するための請求項1または2に記載のセージ抽出物。
【請求項6】
神経伝達の低下に関係する障害を治療するための薬剤として使用するための請求項1または2に記載のセージ抽出物。
【請求項7】
抗うつ薬、気分/活力改善剤、ストレス緩和剤、状態改善剤、不安の低減剤、強迫的行動の低減剤、弛緩薬、睡眠改善剤および/または不眠軽減剤として使用するための請求項6に記載のセージ抽出物。
【請求項8】
神経伝達の低下に関係する障害を治療するための組成物を製造するための、請求項1または2に記載のセージ抽出物の使用。
【請求項9】
前記組成物が、抗うつ薬、気分/活力改善剤、ストレス緩和剤、状態改善剤、不安の低減剤、強迫的行動の低減剤、弛緩薬、睡眠改善剤および/または不眠軽減剤である請求項8に記載の使用。
【請求項10】
ヒトを含む動物において神経伝達の低下に関係する障害を治療するための方法であって、請求項1または2に記載のセージ抽出物の有効量を、それを必要としているヒトを含む動物に投与することを含む方法。
【請求項11】
前記動物が、ヒト、ペット動物または家畜動物である請求項10に記載の方法。

【図1】
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【公表番号】特表2010−510270(P2010−510270A)
【公表日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−537546(P2009−537546)
【出願日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際出願番号】PCT/EP2007/010134
【国際公開番号】WO2008/061756
【国際公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【出願人】(503220392)ディーエスエム アイピー アセッツ ビー.ブイ. (873)
【Fターム(参考)】