説明

上下免震システム

【課題】許容負担荷重を広範囲に亘って任意に設定することができ、質量が大きな建屋に適用可能なものも得ることができる上下免震システムを提供すること。
【解決手段】上下免震システム1を構成するにあたり、建屋ピストン挿入口21aと免震用ピストン挿入口22aとを有する液体貯留槽2と、建屋ピストン挿入口21aから滑動自在に液体貯留槽に挿入されて建屋Bの下方に配置される建屋用ピストン部3と、免震用ピストン挿入口22aから滑動自在に液体貯留槽に挿入される免震用ピストン部4と、液体貯留槽の外部に配置されて免震用ピストン部に連結され、免震用ピストン部が振動したときに該振動を減衰させる振動吸収部5とを設け、液体貯留槽は、建屋用ピストン部および免震用ピストン部の各々が挿入されることによって密閉容器となるように構成し、建屋用ピストン部の断面積と前記免震用ピストン部の断面積とは互いに異なる値とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、上下免震システムに関し、特に建屋の上下方向の振動を免震する上下免震システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
地震時に建屋の振動を抑える免震装置には、積層ゴムやすべり支承等を利用して水平方向の振動を低減させる水平免震装置と、建屋の下部に配置した空気ばね等のばねによって建屋を弾性支持することで上下方向の振動を低減させる上下免震装置とがある。また、水平免震装置と上下免震装置とを並設した三次元免震装置(特許文献1および特許文献2参照)や、伸縮方向と直交する方向に弾性的に変位して免震作用を行う複数の免震手段を被免震体と基礎との間に斜めに立設して水平方向および垂直方向の免震を行う三次元免震装置(特許文献3参照)も知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−82542号公報
【特許文献2】特開2001−41283号公報
【特許文献3】特開平8−177970号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、直下型の大地震では強い縦揺れが起こるため、質量が小さい建屋のみならず質量が大きい建屋についても適用可能な上下免震システムが求められる。建屋の下部に配置したばねによって建屋を弾性支持することで上下方向の振動を低減させる上下免震装置では、ばねの剛性を高めることによって質量の大きな建屋でも該建屋を弾性支持することが可能になるが、ばねの剛性を高めると建屋の固有上下振動周期を地震動の上下振動周期よりも長くすることが困難になって免震性が低下する。このため、現在実用化されている上下免震装置は上下免震可能な許容負担荷重が比較的小さく、質量が大きい建屋には適用することができない。
【0005】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、質量が大きい建屋に適用可能なものも得ることができる上下免震システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決し、目的を達成するために、本発明の上下免震システムは、断面積が互いに異なる少なくとも2つの開口部を有し、内部に液体を貯留する液体貯留槽と、前記2つの開口部の一方から滑動自在に前記液体貯留槽に挿入されて建屋の下方に配置される建屋用ピストン部と、前記2つの開口部の他方から滑動自在に前記液体貯留槽に挿入される免震用ピストン部と、前記液体貯留槽の外部に配置されて前記免震用ピストン部に連結され、前記免震用ピストン部が振動したときに該振動を減衰させる振動吸収部と、を備え、前記液体貯留槽は、前記建屋用ピストン部および前記免震用ピストン部の各々が挿入されることによって密閉容器となり、前記建屋用ピストン部の断面積と前記免震用ピストン部の断面積とは互いに異なる値であることを特徴とする。
【0007】
本発明の他の上下免震システムは、上記の上下免震システムにおいて、前記建屋用ピストン部の断面積は前記免震用ピストン部の断面積よりも小さいことを特徴とする。
【0008】
本発明の更に他の上下免震システムは、上記の上下免震システムにおいて、前記建屋用ピストン部の断面積は前記免震用ピストン部の断面積よりも大きいことを特徴とする。
【0009】
本発明の更に他の上下免震システムは、上記の上下免震システムにおいて、前記振動吸収部は、前記免震用ピストン部が振動したときに該振動を打ち消す向きの弾性力を前記免震用ピストン部に加える弾性変形部と、前記弾性変形部に並設され、該弾性変形部が単振動したときに該単振動を減衰させる減衰部と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の上下免震システムでは、建屋用ピストン部の断面積に対する免震用ピストン部の断面積の比、および振動吸収部の剛性を適宜選定することによって、建屋の固有上下振動周期を地震動の上下振動周期よりも長くすることができる。また、使用時における液体貯留槽内の液体の圧力が許容負担荷重となる。したがって、本発明の上下免震システムでは、建屋用ピストン部の断面積に対する免震用ピストン部の断面積の比、振動吸収部の剛性、および液体貯留槽の耐圧性を適宜選定することによって、上下免震可能な許容負担荷重を選定することができ、質量が小さな建屋に適用可能なものはもとより、質量が大きな建屋に適用可能なシステムも得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、本発明の上下免震システムの一例を概略的に示す部分断面図である。
【図2】図2は、図1に示した上下免震システムの免震動作時の状態を概略的に示す部分断面図である。
【図3】図3は、調和地動の地動周期に対する建屋の固有上下振動周期の比と絶対加速度応答倍率との関係を示すグラフである。
【図4】図4は、建屋用ピストン部の断面積を免震用ピストン部の断面積よりも大きくした上下免震システムの一例を概略的に示す部分断面図である。
【図5】図5は、建屋用ピストン部にトップフランジ部が設けられた上下免震システムの一例を概略的に示す部分断面図である。
【図6】図6は、免震用シリンダ部がその中心軸を水平にして液体貯留槽に設けられた上下免震システムの一例を概略的に示す部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の上下免震システムの実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、本発明の上下免震システムは、下記の形態のものに限定されるものではない。
【0013】
(実施の形態1)
図1は、本発明の上下免震システムの一例を概略的に示す部分断面図である。同図に示す上下免震システム1は、建屋Bの上下方向の振動を免震するシステムであり、液体貯留槽2、建屋用ピストン部3、免震用ピストン部4、および振動吸収部5を備えている。以下、上下免震システム1の各構成要素を詳述した後、上下免震システム1の免震動作について詳述する。
【0014】
液体貯留槽2は、断面積が互いに異なる少なくとも2つの開口部、具体的には建屋用ピストン挿入口21aと免震用ピストン挿入口22aとを有し、内部に水等の液体Lを貯留する。建屋用ピストン挿入口21aは、鉛直な中心軸C1を有する建屋用シリンダ部21の上端に、また免震用ピストン挿入口22aは、鉛直な中心軸C2を有する免震用シリンダ部22の上端にそれぞれ位置している。建屋用シリンダ部21と免震用シリンダ部22とは、連結流路部23によって互いに連通している。液体Lは、上下免震システム1の使用に先だって液体貯留槽2に貯留される。
【0015】
建屋用ピストン部3は、例えば円形の水平断面形状を有し、建屋用ピストン挿入口21aから滑動自在に液体貯留槽2に挿入されて、具体的には建屋用シリンダ部21から液体貯留槽2に挿入されて、建屋の下方に配置される。また、免震用ピストン部4は、例えば円形の水平断面形状を有し、免震用ピストン挿入口22aから滑動自在に液体貯留槽2に挿入される。具体的には、免震用シリンダ部22から液体貯留槽2に挿入される。免震用ピストン部4は、免震用シリンダ部22に挿入されるピストン本体41と、ピストン本体41の上端部に形成されたトップフランジ部42とを有している。
【0016】
上下免震システム1では、建屋用ピストン部3の断面積と免震用ピストン部4の断面積とが互いに異なる値に選定されており、建屋用ピストン部3の断面積よりも免震用ピストン部4の断面積の方が大きい。したがって、建屋用シリンダ部21よりも免震用シリンダ部22の有効断面積の方が大きい。液体貯留槽2は、建屋用ピストン部3および免震用ピストン部4の各々が挿入されることによって密閉容器となる。
【0017】
振動吸収部5は、液体貯留槽2の外部に配置されて免震用ピストン部4に連結され、免震用ピストン部4が振動したときに、この振動を減衰させる。上下免震システム1では、弾性変形部6と、上側連結部7aと、下側連結部7bと、減衰部8と、減衰用上側連結部9aと、減衰用下側連結部9bとを用いて振動吸収部5が構成されている。
【0018】
弾性変形部6は、地震動等によって免震用ピストン部4が免震用シリンダ部22の中心軸C2と平行な方向に振動したときに、この振動を打ち消す向きの弾性力を免震用ピストン部4に加える。この弾性変形部6は、例えば一つのコイルばねまたは並列接続された複数のコイルばねからなり、その上端は上側連結部材7aによって免震用ピストン部4のトップフランジ部42に、また下端は下側連結部材6bによって基礎構造部Sにそれぞれ連結される。
【0019】
減衰部8は、例えば空気ダンパにより構成され、弾性変形部6に並設される。この減衰部8は、一端が閉塞されたシリンダ部81と、シリンダ部81に挿入されたピストン部82とを有する空気ばねである。ピストン部82は減衰用上側連結部材9aによって上側連結部材7aに連結されており、シリンダ部81は減衰用下側連結部材9bによって下側連結部材7bに連結されている。この減衰部8は、弾性変形部6が伸張したときには減衰用上側連結部材9aを介して下向きの弾性力を上側連結部材7aに加え、弾性変形部6が収縮したときには減衰用上側連結部材9aを介して上向きの弾性力を上側連結部材7aに加えて、弾性変形部6が単振動したときに、この単振動を減衰させる。結果として、建屋Bの上下方向の振動を減衰させる。
【0020】
上述の各構成要素を備えた上下免震システム1は、基礎構造部S上に配置され、建屋Bはその下部を建屋用ピストン部3の上部に連結させて建屋用ピストン部3の上方に建築または移築される。例えば、基礎構造部Sを作った後に免震制御システム1を構築して液体貯留槽2内に水等の液体Lを貯留し、必要に応じて液体貯留槽2上に盛土した後に建屋Bが建築または移築される。建屋Bは、建屋用ピストン部3を介して液体L上に浮いた状態で上下免震システム1によって支持される。
【0021】
通常時、すなわち上下方向に振動する外力が建屋Bに加えられていないときには、建屋用ピストン部3から液体Lに加えられる圧力と免震用ピストン部4から液体Lに加えられる圧力とが互いに釣り合った状態となるので、建屋Bは、静止状態を保つ。弾性変形部6および減衰部8は、建屋Bの質量に応じた初期変形を生じる。一方、上下方向に振動する外力、例えば地震の縦揺れが建屋Bに加えられると、上下免震システム1が免震動作を開始する。
【0022】
図2は、図1に示した上下免震システムの免震動作時の状態を概略的に示す部分断面図である。図2に示す各構成要素については図1を参照して既に説明しているので、ここではその説明を省略する。図2中の参照符号「y」は地震の縦揺れ時における下向きの地動加速度を表し、白抜きの矢印は地動加速度yの向きを示し、参照符号「x」は建屋Bに地動加速度yが加えられたときの建屋Bの下向きの変位量を表し、参照符号「α」は建屋用ピストン部3の断面積に対する免震用ピストン部4の断面積の比を表す。なお、図2には、静止時における建屋Bおよびトップフランジ部42の各々を想像線で描いてある。
【0023】
地震の縦揺れ時には、上下免震システム1および建屋Bが減衰振動する。建屋用ピストン部3が上下動し、これに伴って液体Lが液体貯留槽2内を移動して免震用ピストン部4も上下動するが、免震用ピストン部4が上方に変位すると振動吸収部5から下向きの弾性力が免震用ピストン部4に加えられ、免震用ピストン部4が下方に変位すると振動吸収部5から上向きの弾性力が免震用ピストン部4に加えられるので、建屋Bの上下方向の振動が上下免震システム1によって吸収される。すなわち、建屋Bが上下免震される。
【0024】
このときの減衰振動は、地震の縦揺れ時における下向きの地動加速度をy[m/s2]、建屋Bの質量をM[kg]、液体Lの密度をρ[kg/m3]、建屋用ピストン部3の断面積をA[m2]、弾性変形部6の剛性(ばね定数)をk[kN/m2]、減衰部8の減衰係数をc[kN・s/m]、建屋Bの下向きの変位量x[m]の時間二階微分値(加速度)をa[m/s2]、建屋Bの下向きの変位量xの時間一階微分値(速度)をv[m/s]、重力加速度をg[m/s2]とすれば、下式(1)によって表される。また、建屋Bが式(1)の減衰振動を行っているときの建屋Bの固有上下振動周期Tは、下式(2)によって表される。
Ma+[ρgA{1+(1/α)}+(k/α2)]x+(c/α2)v=−My …(1)
T=2π[M/[ρgA{1+(1/α)}+(k/α2)]]1/2 …(2)
【0025】
図2に示したように、建屋Bの下向きの変位量xに対するトップフランジ部42の変位量は「−x/α」となり、このときの弾性変形部6の変位量も「−x/α」となる。したがって、免震用ピストン部4の断面積を建屋用ピストン部3の断面積よりも大きくして比αを1よりも大きくすると、建屋Bの下向きの変位量xに対する弾性変形部6の変位量「−x/α」が小さくなる。このことから、比αを1よりも大きくすれば、弾性変形部の剛性kを大きくすることが可能であることが判る。剛性kが大きな弾性変形部6を用いれば、縦揺れ時の建屋Bに生じる絶対加速度を小さくすることができる。
【0026】
また、式(2)より、比αを1よりも大きくすると、弾性変形部6の剛性kが大きくても建屋Bの固有上下振動周期Tが長周期化されることが判る。このことから、比α、および弾性変形部6の剛性kを適宜選択することによって、建屋Bの固有上下振動周期Tを任意に選定であることが判る。固有上下振動周期Tを地震動の上下振動周期よりも長くすることによって、建屋Bの上下免震が実現される。そして、上下免震システム1では、液体貯留槽2の負担加重が液体Lの圧力と等しくなることから、液体貯留槽2の耐圧性を適宜選択することによって許容負担荷重を任意に選定することができる。したがって、たとえ建屋Bの質量が大きくても、液体貯留槽2の耐圧性を高めることで建屋Bを上下免震する上下免震システム1を得ることができる。
【0027】
例えば、上下免震システム1の諸元を表1に示すように選定すれば、許容負担荷重が従来の上下免震装置の許容負担荷重を大きく上回る4053kN/m2となり、質量が1.0×107kgの建屋Bの固有上下振動周期Tを2.0sと長周期化することができる。
表1
液体の密度ρ ;1.0×103kg/m3
建屋用ピストンの断面積A; 24.2m2
液体の圧力 ; 4053kN/m2
弾性変形部の剛性k ;987×106kN/m
比α ; 100
建屋の質量M ;1.0×107kg
建屋の固有上下振動周期T; 2.0s
*:変形弾性部は、直径32mm、長さ4.7mのPC鋼棒(SBPR1080/1230)
を28226本集めて作製されたばねを想定。
【0028】
建屋Bの固有上下振動周期Tが2.0[s]と長周期化されれば、図3に示すように、地動周期Tyが1.0[s]の調和地動によって建屋Bが上下方向に振動したときの絶対加速度応答倍率が約0.33となるので、上下免震システム1によって応答加速度を1/3程度にまで低減させることができ、大きな上下免震効果が得られる。なお、図3では、減衰部8の減衰計数cを0.02として絶対加速度応答倍率を求めている。
【0029】
(実施の形態2)
実施の形態1の上下免震システム1では、建屋用ピストン部3の断面積を免震用ピストン部4の断面積よりも小さくして比αを1よりも大きな値に選定しているが、比αを1よりも小さな値に選定しても、建屋Bを上下免震することができる上下免震システムを得ることが可能である。
【0030】
図4は、建屋用ピストン部の断面積を免震用ピストン部の断面積よりも大きくした上下免震システムの一例を概略的に示す部分断面図である。同図に示す上下免震システム1Aは、建屋用ピストン部3の断面積を免震用ピストン部4の断面積よりも大きくして、建屋用ピストン部3の断面積に対する免震用ピストン部4の断面積の比αを1よりも小さな値に選定している点、および単振動時の周期が非常に長いばねを用いて弾性変形部6を構成している点をそれぞれ除き、図1に示した上下免震システム1と同様の構成を有している。図4においては、図1に示した構成要素と機能が共通する構成要素に、図1で用いた参照符号と同じ参照符号を付してある。
【0031】
この上下免震システム1Aでは、建屋用ピストン部3の断面積が免震用ピストン部4の断面積よりも大きいので、弾性変形部6に用いるばねの許容負担荷重よりも質量の大きい建屋Bを支持可能である。例えば単振動時の周期が20[s]のばねを用いて弾性変形部6を構成する場合、このばねの剛性kは非常に小さな値であるが、建屋用ピストン部3の断面積に対する免震用ピストン部4の断面積の比αを0.01とすることで建屋Bの固有上下振動周期Tを2.0[s]程度とすることがでる。すなわち、ばねの許容負担荷重の100倍の質量の建屋Bを上下免震することが可能になる。
【0032】
なお、上下免震システム1Aでは、建屋Bの上下免震に要するばねの数を図1の上下免震システム1に比べて低減することが可能になるので、その作製コストを上下免震システム1に比べて低減することも可能になる。すなわち、経済的な免震システムの構築が可能になる。
【0033】
以上、本発明の上下免震システムについて実施の形態を挙げて説明したが、前述のように、本発明の上下免震システムは上記の形態のシステムに限定されるものではない。例えば、本発明の上下免震システムにおける建屋用ピストン部および免震用ピストン部それぞれの断面形状は、円形、四角形等、適宜選定可能であり、建屋用ピストン部の断面形状と免震用ピストン部の断面形状とは互いに同じであってもよいし、異なっていてもよい。また、建屋用ピストン部および免震用ピストン部それぞれの数は、それぞれ一つとすることもできるし二以上の複数とすることもでき、上下免震の対象となる建屋の規模に応じて適宜選定可能である。液体貯留槽に建屋用シリンダ部と免震用シリンダ部とを設け、少なくとも一方のシリンダ部の数を複数とする場合、液体貯留槽は、これらのシリンダ部が1つの連結流路部から分岐した構造となる。
【0034】
また、免震用ピストン部の数は、建屋用ピストン部の数と同数であってもよいし、建屋用ピストン部の数とは異なる数であってもよい。液体貯留槽に設ける開口部のうち、建屋用ピストン部が挿入される開口部の数は建屋用ピストン部の数に応じた数とし、免震用ピストン部が挿入される開口部の数は免震用ピストン部の数に応じた数とする。
【0035】
液体貯留槽に複数の建屋用シリンダ部と複数の免震用シリンダ部とを設ける場合、これら複数の建屋用シリンダ部および免震用シリンダ部それぞれの平面配置は、建屋の平面形状や建屋の敷地の平面形状等に応じて適宜選定可能である。また、液体貯留槽に複数の免震用シリンダ部を設ける場合には、一つの振動吸収部を一つの免震用シリンダ部に連結させることもできるし、一つの振動吸収部を複数の免震用シリンダ部に連結させることもできるし、複数の振動吸収部を一つの免震用シリンダ部に連結させることもできる。地震の縦揺れが収まった後、できるだけ速やかに建屋を静止状態にするという観点からは、一つの弾性変形部に少なくとも一つの減衰部を並設することが好ましい。
【0036】
必要に応じて、建屋用ピストン部にはトップフランジ部を設けることができる。図5は、建屋用ピストン部にトップフランジ部が設けられた上下免震システムの一例を概略的に示す部分断面図である。同図に示す上下免震システム1Bは、建屋用ピストン部3がピストン本体31とトップフランジ部32とを備えているという点を除き、図1に示した上下免震システム1と同様の構成を有している。図5に示す構成要素のうちで図1に示した構成要素と共通するものについては、図1で用いた参照符号と同じ参照符号を付してその説明を省略する。建屋用ピストン部3にトップフランジ部32を設けることによって、建屋Bを安定に支持し易くなる。
【0037】
建屋用ピストン部が挿入される開口部をこの開口部が下方向を向くようにして液体貯留槽に配置し、建屋用ピストン部が建屋および液体貯留槽の各々を下方から支持するように上下免震システムを構成することも可能である。ただし、建屋用ピストン部に掛かる負荷をできるだけ少なくするという観点からは、建屋用ピストン部が挿入される開口部をこの開口部が上方向を向くようにして液体貯留槽に配置することが好ましい。また、液体貯留槽に建屋用シリンダ部を設ける場合には、建屋用シリンダ部に掛かる負荷をできるだけ少なくするという観点から、建屋用シリンダ部をその中心軸が鉛直となるように設けることが好ましい。免震用シリンダ部については、その中心軸を水平や斜めにして液体貯留槽に設けることもできる。
【0038】
図6は、免震用シリンダ部がその中心軸を水平にして液体貯留槽に設けられた上下免震システムの一例を概略的に示す部分断面図である。同図に示す上下免震システム1Cは、免震用シリンダ部22がその中心軸C2を水平にして液体貯留槽2に配置されている点、免震用ピストン部4にトップフランジ部42(図1参照)が設けられていない点、および弾性変形部6および減衰部8の各々が水平配置されて減衰振動時に水平方向に振動するという点をそれぞれ除き、図1に示した上下免震システム1と同様の構成を有している。図6においては、図1に示した構成要素と同一の構成要素、および機能が共通する構成要素の各々に、図1で用いた参照符号と同じ参照符号を付してある。
【0039】
上下免震システム1Cでは、免震用ピストン部4の径を垂直方向に拡大することでその断面積を大きくすることができるので、図1に示した上下免震システム1におけるように免震用ピストン部4の径を水平方向に拡大することでその断面積を大きくするシステムに比べて、建屋Bの敷地が狭くても免震用ピストン部4の断面積が大きいシステムを構築し易い。
【0040】
本発明の上下免震システムは、積層ゴムやすべり支承等を利用して水平方向の振動を低減させる水平免震装置と併設することができる。水平免震装置と併設する場合には、例えば液体貯留槽の下方に水平面新装置が連結される。本発明の上下免震システムを水平免震装置と併設することによって、全方向の地震動を吸収する三次元免震システムを構築することができ、直下型地震が起きても倒壊しない安全性の高い建屋を建築することが可能になる。本発明の上下免震システムについては、上述した以外にも種々の変形、修飾、組み合わせ等が可能である。
【符号の説明】
【0041】
1,1A,1B,1C 上下免震システム
2 液体貯留槽
21 建屋用シリンダ部
21a ピストン挿入口
22 免震用シリンダ部
22a ピストン挿入口
23 連結流路部
3 建屋用ピストン部
31 ピストン本体
32 トップフランジ部
4 免震用ピストン部
41 ピストン本体
42 トップフランジ部
5 振動吸収部
6 弾性変形部
8 減衰部
B 建屋
C1 建屋用シリンダ部の中心軸
C2 免震用シリンダ部の中心軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
断面積が互いに異なる少なくとも2つの開口部を有し、内部に液体を貯留する液体貯留槽と、
前記2つの開口部の一方から滑動自在に前記液体貯留槽に挿入されて建屋の下方に配置される建屋用ピストン部と、
前記2つの開口部の他方から滑動自在に前記液体貯留槽に挿入される免震用ピストン部と、
前記液体貯留槽の外部に配置されて前記免震用ピストン部に連結され、前記免震用ピストン部が振動したときに該振動を減衰させる振動吸収部と、
を備え、
前記液体貯留槽は、前記建屋用ピストン部および前記免震用ピストン部の各々が挿入されることによって密閉容器となり、前記建屋用ピストン部の断面積と前記免震用ピストン部の断面積とは互いに異なる値であることを特徴とする上下免震システム。
【請求項2】
前記建屋用ピストン部の断面積は前記免震用ピストン部の断面積よりも小さいことを特徴とする請求項1に記載の上下免震システム。
【請求項3】
前記建屋用ピストン部の断面積は前記免震用ピストン部の断面積よりも大きいことを特徴とする請求項1に記載の上下免震システム。
【請求項4】
前記振動吸収部は、
前記免震用ピストン部が振動したときに該振動を打ち消す向きの弾性力を前記免震用ピストン部に加える弾性変形部と、
前記弾性変形部に並設され、該弾性変形部が単振動したときに該単振動を減衰させる減衰部と、
を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一つに記載の上下免震システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−99538(P2011−99538A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−256108(P2009−256108)
【出願日】平成21年11月9日(2009.11.9)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【Fターム(参考)】