説明

下部電極基板用樹脂板、並びにそれを用いてなる下部電極板およびタッチパネル

【課題】軽量で割れ難く、かつ、タッチパネルの画面を斜め方向から見る場合の、表示画像の着色を抑制することができる下部電極基板用樹脂板を提供する。
【解決手段】タッチパネルの下部電極基板に使用される樹脂板であって、メチルメタクリレート−スチレン共重合体樹脂層の両面にアクリル系樹脂層が積層されてなる下部電極基板用樹脂板である。前記メチルメタクリレート−スチレン共重合体樹脂層と、その両面に積層される前記アクリル系樹脂層とが、共押出により積層一体化されたものであるのが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下部電極基板用樹脂板に関する。また、下部電極基板用樹脂板を用いてなる下部電極板およびタッチパネルに関する。
【背景技術】
【0002】
抵抗膜方式タッチパネルは、基板の一方の面に透明電極膜が形成されてなる下部電極板と上部電極板とが、互いの透明電極膜が向かい合うように、両電極間にスペーサーを介在させて対向配置されて構成されており、例えば液晶ディスプレイに設置され、液晶ディスプレイへの情報入力装置として使用されている。
液晶ディスプレイにタッチパネルを設置する場合、通常、まず液晶パネル上にタッチパネルを載置し、さらに該タッチパネル上に1/4波長板、偏光板、ディスプレイ保護板がこの順に載置される。
【0003】
特許文献1には、抵抗膜方式タッチパネルを構成する2枚の電極板のうち、液晶パネルに接触する方の電極板である下部電極板の基板(すなわち、下部電極基板)がガラス板であり、上部電極板の基板(すなわち、上部電極基板)がポリエチレンテレフタレート樹脂板であるタッチパネルが記載されている。しかしながら、特許文献1に記載のタッチパネルについては、ガラス板が重く、また割れやすいという問題点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−277769号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、割れ難く、かつ光学特性(例えば、タッチパネルを設置した液晶ディスプレイに表示される画像への着色の抑制)が良好な下部電極基板用樹脂板を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、以下の発明に係るものである。
(1)タッチパネルの下部電極基板に使用される樹脂板であって、メチルメタクリレート−スチレン共重合体樹脂層の両面にアクリル系樹脂層を有することを特徴とする下部電極基板用樹脂板。
(2)波長590nmの単色光を樹脂板面の法線に対して、0°の角度で入射したときのリタデーション値をRe(0)、50°の角度で入射したときのリタデーション値をRe(50)とするとき、Re(0)とRe(50)が、式:|Re(0)−Re(50)|/50≦1.6を満たす前記(1)に記載の樹脂板。
(3)波長590nmの単色光を樹脂板面の法線に対して、50°の角度で入射したときのリタデーション値Re(50)が90nm以下である前記(1)または(2)に記載の樹脂板。
(4)アクリル系樹脂層の厚さが0.1mm以下である前記(1)〜(3)のいずれかに記載の樹脂板。
(5)メチルメタクリレート−スチレン共重合体樹脂層の両面にアクリル系樹脂層を有するフィルム状物をダイから溶融押出し、第1冷却ロールと第2冷却ロールとの間に挟み込み、該第2冷却ロールに巻き掛け、次いで、第3冷却ロールに巻き掛けてなる前記(1)〜(4)のいずれかに記載の樹脂板。
(6)第1冷却ロールが外周部に金属製薄膜を備えた金属弾性ロールであり、第2冷却ロールが金属ロールである前記(5)に記載の樹脂板。
(7)前記(1)〜(6)のいずれかに記載の樹脂板の一方の面に透明電極膜が設けられてなる下部電極板。
(8)下部電極板と上部電極板とを、透明電極膜同士が向かい合うように、電極板間にスペーサーを介在させて対向配置して構成されるタッチパネルであって、該下部電極板が請求項7に記載の電極板であるタッチパネル。
(9)メチルメタクリレート−スチレン共重合体樹脂層の両面にアクリル系樹脂層を有する樹脂板であって、
波長590nmの単色光を樹脂板面の法線に対して、0°の角度で入射したときのリタデーション値をRe(0)、50°の角度で入射したときのリタデーション値をRe(50)とするとき、Re(0)とRe(50)が、式:|Re(0)−Re(50)|/50≦1.6を満たすことを特徴とする表示部材用樹脂板。
【発明の効果】
【0008】
本発明の下部電極基板用樹脂板は、割れ難く、かつタッチパネルを設置した液晶ディスプレイを斜め方向から見る場合における液晶ディスプレイに表示される画像の着色を抑制することができ、光学特性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の一実施形態にかかる下部電極基板用樹脂板の製造方法を示す概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の下部電極基板用樹脂板(以下、「樹脂板」ということがある。)は、メチルメタクリレート−スチレン共重合体樹脂層の両面にアクリル系樹脂層を有する。
【0011】
前記アクリル系樹脂層を構成するアクリル樹脂としては、透明性に優れ、剛性も高いメタクリル樹脂が好適である。該メタクリル樹脂は、メタクリル酸メチル単位を主成分とするもの、具体的には、全単量体を基準として、メタクリル酸メチル単位を通常50重量%以上、好ましくは70重量%以上含むメタクリル酸メチル樹脂であるのが好ましく、メタクリル酸メチル単位100重量%のメタクリル酸メチル単独重合体であってもよいし、メタクリル酸メチルと、該メタクリル酸メチルと共重合し得る他の単量体との共重合体であってもよい。
【0012】
メタクリル酸メチルと共重合し得る前記他の単量体としては、例えばメタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル等のメタクリル酸メチル以外のメタクリル酸エステル類や、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸フェニル、アクリル酸ベンジル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸2−ヒドロキシエチル等のアクリル酸エステル類等が挙げられる。また、スチレンや置換スチレン類として、例えばクロロスチレン、ブロモスチレン等のハロゲン化スチレン類や、ビニルトルエン、α−メチルスチレン等のアルキルスチレン類等も挙げられる。さらに、メタクリル酸、アクリル酸等の不飽和酸類、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、無水マレイン酸、フェニルマレイミド、シクロヘキシルマレイミド等も挙げられる。これらメタクリル酸メチルと共重合し得る他の単量体は、それぞれ単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0013】
アクリル樹脂は、ゴム粒子を含有してもよい。これにより、樹脂板の耐衝撃性を向上させることができる。該ゴム粒子としては、例えばアクリル系多層構造重合体、5〜80重量部のゴム状重合体にアクリル系不飽和単量体等のエチレン性不飽和単量体20〜95重量部をグラフト重合させてなるグラフト共重合体等が挙げられる。
【0014】
前記アクリル系多層構造重合体は、エラストマーの層を20〜60重量%程度内在するものであるのがよく、最外層として硬質層を有するものであるのがよく、さらに最内層として硬質層を有するものでもよい。
【0015】
前記エラストマーの層は、ガラス転移点(Tg)が25℃未満のアクリル系重合体の層であるのがよく、具体的には、低級アルキルアクリレート、低級アルキルメタクリレート、低級アルコキシアルキルアクリレート、シアノエチルアクリレート、アクリルアミド、ヒドロキシ低級アルキルアクリレート、ヒドロキシ低級アルキルメタクリレート、アクリル酸およびメタクリル酸からなる群より選ばれる1種以上の単官能単量体を、アリルメタクリレート等の多官能単量体で架橋させてなる重合体の層であるのがよい。
【0016】
前記低級アルキルアクリレート等における低級アルキル基としては、例えばメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、t−ブチル、ペンチル、ヘキシル基等の炭素数1〜6の直鎖または分岐したアルキル基が挙げられ、前記低級アルコキシアルキルアクリレートにおける低級アルコキシ基としては、例えばメトキシ、エトキシ、プロポキシ、イソプロポキシ、ブトキシ、t−ブトキシ、ペンチルオキシ、ヘキシルオキシ基等の炭素数1〜6の直鎖または分岐したアルコキシ基が挙げられる。また、前記単官能単量体を主成分として共重合体とする場合には、共重合成分として、例えばスチレン、置換スチレン等の他の単官能単量体を共重合させてもよい。
【0017】
前記硬質層は、Tgが25℃以上のアクリル系重合体の層であるのがよく、具体的には、炭素数1〜4のアルキル基を有するアルキルメタクリレートを単独で、または主成分として重合させたものであるのがよい。前記炭素数1〜4のアルキル基としては、例えばメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、t−ブチル等の直鎖または分岐したアルキル基が挙げられる。
【0018】
炭素数1〜4のアルキル基を有するアルキルメタクリレートを主成分として共重合体とする場合には、共重合成分としては、他のアルキルメタクリレートやアルキルアクリレート、スチレン、置換スチレン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等の単官能単量体を用いてもよいし、さらにアリルメタクリレート等の多官能単量体を加えて架橋重合体としてもよい。前記アルキルメタクリレート等におけるアルキル基としては、例えば前記した低級アルキル基で例示したのと同じ炭素数1〜6の直鎖または分岐したアルキル基等が挙げられる。
【0019】
上記したアクリル系多層構造重合体は、例えば特公昭55−27576号公報、特開平6−80739号公報、特開昭49−23292号公報等に記載されている。
【0020】
5〜80重量部のゴム状重合体にエチレン性不飽和単量体20〜95重量部をグラフト重合させてなる前記グラフト共重合体において、ゴム状重合体としては、例えばポリブタジエンゴム、アクリロニトリル/ブタジエン共重合体ゴム、スチレン/ブタジエン共重合体ゴム等のジエン系ゴム、ポリブチルアクリレート、ポリプロピルアクリレート、ポリ−2−エチルヘキシルアクリレート等のアクリル系ゴム、エチレン/プロピレン/非共役ジエン系ゴム等が挙げられる。また、このゴム状重合体にグラフト共重合させるのに用いられるエチレン性単量体としては、例えばスチレン、アクリロニトリル、アルキル(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらのグラフト共重合体は、例えば特開昭55−147514号公報、特公昭47−9740号公報等に記載されている。
【0021】
ゴム粒子の使用量は、アクリル樹脂100重量部に対して、通常3〜150重量部、好ましくは4〜50重量部、より好ましくは5〜30重量部である。ゴム粒子の使用量が多い程、樹脂板の耐衝撃性が向上し、押圧されても割れ難くなる傾向にあるが、ゴム粒子の使用量があまり多いと、樹脂板の表面硬度が低下するので好ましくない。
【0022】
なお、両面のアクリル系樹脂層の各々の組成は、互いに同一であってもよいし、異なっていてもよい。また、アクリル系樹脂層には、必要に応じて、例えば光安定剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、難燃剤、帯電防止剤等の添加剤を1種または2種以上添加してもよい。
【0023】
一方、前記メチルメタクリレート−スチレン共重合体樹脂層を構成するメチルメタクリレート−スチレン共重合体樹脂としては、全単量体単位を基準として、通常、メチルメタクリレート単位を1〜30重量%、スチレン単位を70〜99重量%有するものが用いられ、メチルメタクリレート単位を2〜15重量%、スチレン単位を85〜98重量%有するものが好ましく用いられる。メチルメタクリレート単位の割合があまり小さいと、剛性が低下して樹脂板が割れ易くなるおそれがあり、一方、メチルメタクリレート単位の割合があまり大きいと、吸水率が高くなり樹脂板が反り易くなるおそれがある。なお、メチルメタクリレート−スチレン共重合体樹脂は、必要に応じて、メチルメタクリレート単位及びスチレン単位以外の単量体単位を有していてもよく、該単量体単位としては、例えば、ジビニルベンゼン単位やアクリル酸アルキル単位などが挙げられるが、その量は、全単量体単位を基準として、通常10重量%以下である。
【0024】
なお、メチルメタクリレート−スチレン共重合体樹脂層には、必要に応じて、例えば光安定剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、難燃剤、帯電防止剤等の添加剤を1種または2種以上添加してもよい。
【0025】
本発明の樹脂板は、メチルメタクリレート−スチレン共重合体樹脂層の両面にアクリル系樹脂層を有するので、軽量で割れ難く、かつ、該樹脂板を下部電極基板に使用してなるタッチパネルを設置した液晶ディスプレイを斜め方向から見ても、液晶ディスプレイの表示画像が着色して見えることなく、光学特性が良好である。液晶ディスプレイにタッチパネルを設置する場合、通常、まず液晶パネル上にタッチパネルを載置し、さらに該タッチパネル上に1/4波長板、偏光板、ディスプレイ保護板がこの順に載置される。タッチパネルは、液晶パネルを構成する偏光板1と、1/4波長板上に載置される偏光板2との2枚の偏光板の間に存することになる。表示画像の着色は、偏光板1を通過して液晶パネルから出射された直線偏光が、偏光板1と偏光板2との間で位相差が変化し、次いで偏光板2を通過することで生じる。従って、偏光板1と偏光板2との間に存するタッチパネルの電極基板のリタデーション値が小さく、該電極基板を通過する直線偏光の位相差の変化が小さければ、表示画像の着色を抑制することができる。表示画像の着色は、タッチパネルを斜め方向から見る場合に顕著であるが、これは、タッチパネルから斜め方向への光の出射の方が、正面方向への光の出射に比べて、光が電極基板内を通過する際の通過距離が長く、電極基板のリタデーションの影響をより強く受けるためであると推察される。本発明の樹脂板は、該樹脂板を構成するメチルメタクリレート−スチレン共重合体樹脂およびアクリル系樹脂は、いずれも固有複屈折の小さい樹脂であることから、光が該樹脂板を通過する前後のリタデーションの変化は小さく、液晶ディスプレイの表示画像の着色が抑制されると推察される。
【0026】
また、樹脂板は、光学特性が良好であるのに加えて、耐吸水性にも優れ、高湿度環境下で反り難い。タッチパネルの使用環境は高湿度下になることがあるが、本発明の樹脂板は、そのような環境下で反り難く、タッチパネルの下部電極基板として好適に使用することができる。
【0027】
樹脂板は、メチルメタクリレート−スチレン共重合体樹脂層と、その両面に積層されるアクリル系樹脂層とを共押出成形で積層一体化することにより、好適に製造される。この共押出成形は、2基または3基の一軸または二軸の押出機を用いて、アクリル系樹脂層の材料と、メチルメタクリレート−スチレン共重合体樹脂層の材料とをそれぞれ溶融混練した後、フィードブロックダイやマルチマニホールドダイ等を介して積層することにより行うことができる。積層一体化された溶融樹脂は、例えばロールユニット等を用いて冷却固化すればよい。共押出成形により製造した樹脂板は、粘着剤や接着剤を用いた貼合により製造した樹脂板に比べて、二次成形し易い点で好ましい。
【0028】
以下、樹脂板を共押出成形で製造する一実施形態について、図1を参照して詳細に説明する。同図に示すように、まず、アクリル系樹脂層の材料とメチルメタクリレート−スチレン共重合体樹脂層の材料とを、それぞれ別個の押出機1,2で加熱して溶融混練し、それぞれフィードブロック3に供給して溶融積層一体化した後、ダイ4から押出する。
【0029】
次いで、ダイ4から押出したシート状ないしフィルム状の溶融樹脂を、略水平方向に対向配置した第1冷却ロール5と第2冷却ロール6の間に挟み込まれ、第3冷却ロール7により、緩やかに冷却し、樹脂板8を得ることができる
溶融樹脂の厚みや、第1,第2冷却ロール5,6の間隔、周速度等を調整すると、得られる樹脂板8の厚みを調整することができる。
【0030】
第1,第2冷却ロール5,6は、少なくとも一方がモータ等の回転駆動手段に接続されており、両ロールが所定の周速度で回転するように構成されている。両ロールのうち、第2冷却ロール6は、両ロール間で挟持された後のシート状ないしフィルム状の樹脂板が巻き掛けられる、巻き掛けロールである。
【0031】
第1,第2冷却ロール5,6としては、例えば剛性を有する金属ロール、弾性を有する金属弾性ロール等が挙げられる。前記金属ロールとしては、例えばドリルドロール、スパイラルロール等が挙げられる。前記金属弾性ロールとしては、例えば軸ロールと、この軸ロールの外周面を覆うように配置され溶融樹脂に接触する円筒形の金属製薄膜とを備え、これら軸ロールと金属製薄膜との間に水や油等の温度制御された流体が封入されたものや、ゴムロールの表面に金属ベルトを巻いたもの等が挙げられる。
【0032】
第1,第2冷却ロール5,6は、金属ロールおよび金属弾性ロールから選ばれる1種で構成してもよいし、金属ロールと金属弾性ロールとを組み合わせて構成してもよい。
【0033】
金属ロールと金属弾性ロールとを組み合わせることで、リタデーション値の低減された樹脂板を得ることができる。すなわち、溶融樹脂を金属ロールと金属弾性ロールとの間に挟持すると、金属弾性ロールが溶融樹脂を介して金属ロールの外周面に沿って凹状に弾性変形し、金属弾性ロールと金属ロールとが溶融樹脂を介して所定の接触長さで接触する。これにより、金属ロールと金属弾性ロールとが、溶融樹脂に対して面接触で圧着するようになり、これらロール間に挟持される溶融樹脂は面状に均一加圧されながら製膜される。その結果、製膜時の歪みが低減され、リタデーション値の低減された樹脂板が得られる。
【0034】
また、金属ロールと金属弾性ロールとを組み合わせる場合には、金属弾性ロールを第1冷却ロール5、金属ロールを第2冷却ロール6とするのが好ましい。これにより、得られる樹脂板の波長590nmでの入射光のリタデーション値(例えば、Re(0)やRe(50))をより低減することができる。
【0035】
第1冷却ロール5と第2冷却ロール6の間に挟み込まれた溶融樹脂は、第2冷却ロール6に巻き掛けられ、次いで、引取りロールにより引取られて巻き取られる。このとき、第2冷却ロール6以降に第3冷却ロール7を設けてもよい。これにより、溶融樹脂が緩やかに冷却されるので、得られる樹脂板のリタデーション値を低減することができる。第3冷却ロールとしては、特に限定されるものではなく、従来から押出成形で使用されている通常の金属ロールを採用することができる。具体例としては、ドリルドロールやスパイラルロール等が挙げられる。第3冷却ロール7の表面状態は、鏡面であるのが好ましい。
【0036】
第3冷却ロール7を設ける場合、第2冷却ロール6に巻き掛けられた溶融樹脂を、第2冷却ロール6と第3冷却ロール7との間に通して第3冷却ロール7に巻き掛けるようにする。第2冷却ロール6と第3冷却ロール7との間は、所定の間隙を設けて解放状態としても、両ロールに挟み込んでも構わない。なお、第3冷却ロール7以降に第4冷却ロール,第5冷却ロール,・・・と複数本の冷却ロールを設け、第3冷却ロール7に巻き掛けたフィルムを順次、次の冷却ロールに巻き掛けるようにしてもよい。
【0037】
樹脂板は、通常、シート状ないしフィルム状であり、その厚みは、通常0.1〜3mmであり、0.1〜2mmであるのが好ましく、0.1〜1.5mmであるのがより好ましく、0.1〜1mmであるのがさらに好ましい。樹脂板は、アクリル系樹脂層とメチルメタクリレート−スチレン共重合体樹脂層からなることで、割れ難く、厚みを小さくすることができる。この樹脂板において、メチルメタクリレート−スチレン共重合体樹脂層の両面に積層されるアクリル系樹脂層の各々の厚みは、0.1mm以下であるのが好ましく、0.005〜0.1mmであるのがより好ましく、0.01〜0.1mmであるのがさらに好ましく、0.02〜0.1mmであるのが特に好ましい。アクリル系樹脂層の厚みがあまり大きいと、高温高湿環境下において、樹脂板が反りやすくなるおそれがあり、一方、アクリル系樹脂層の厚みがあまり小さいと、樹脂板の表面硬度が低下するおそれがある。
なお、両面のアクリル系樹脂層の各々の厚みは、互いに同一であってもよいし、異なっていてもよい。メチルメタクリレート−スチレン共重合体樹脂層の厚みは、樹脂板全体の厚みとアクリル系樹脂層の厚みから適宜調整すればよいが、樹脂板全体の厚みの70〜99%であるのが好ましい。
【0038】
樹脂板は、Re(50)が90nm以下であることが好ましく、85nm以下であることがより好ましく、80nm以下であることがさらに好ましい。Re(50)が90nm以下であることで、該樹脂板を下部電極基板に使用してなるタッチパネルを設置した液晶ディスプレイを斜め方向から見る場合における液晶ディスプレイの表示画像の着色をより抑制することができる。なお、Re(50)は、波長590nmの単色光を樹脂板面の法線に対して、50°の角度で入射したときのリタデーション値である。
【0039】
樹脂板は、Re(0)が60nm以下であることが好ましく、57nm以下であることがより好ましく、55nm以下であることがさらに好ましい。Re(0)があまり大きいと、該樹脂板を下部電極基板に使用してなるタッチパネルを設置した液晶ディスプレイを正面方向から見る場合に、液晶ディスプレイの表示画像が着色して見えるおそれがある。Re(0)が60nm以下であることで、該タッチパネルを正面方向から見る場合の、表示画像の着色を抑制することができる。なお、Re(0)は、波長590nmの単色光を樹脂板面の法線に対して、0°の角度で入射したときのリタデーション値である。
【0040】
樹脂板は、タッチパネルの画面を斜め方向から見る場合の、液晶ディスプレイの表示画像の着色を抑制する観点から、Re(0)とRe(50)が、式:|Re(0)−Re(50)|/50≦1.6を満たすことが好ましい。
この式で規定される|Re(0)−Re(50)|/50の値は、1.4以下であることがより好ましく、1.2以下であることがさらに好ましい。Re(0)とRe(50)が、上記式の関係を満足することで、該樹脂板を下部電極基板に使用してなるタッチパネルを設置した液晶ディスプレイを斜め方向から見る場合における液晶ディスプレイの表示画像の着色をより抑制することができる。|Re(0)−Re(50)|/50は、波長590nmの単色光を樹脂板面の法線に対して、0°の角度で入射したときのリタデーション値と、50°の角度で入射したときのリタデーション値の変化率を表し、該変化率が1.6を超えると、タッチパネルを正面方向から見る場合の表示画像の着色と、斜め方向から見る場合の表示画像の着色との色の違いが大きくなり、表示画像の着色がより強調されて視認されるおそれがある。
上記式を満たすには、例えば、アクリル系樹脂層の両面にポリカーボネート系樹脂層を有するフィルム状物をダイから溶融押出し、第1冷却ロールと第2冷却ロールとの間に挟み込み、該第2冷却ロールに巻き掛けて該樹脂板を製造すればよく、|Re(0)−Re(50)|/50の値を小さくする観点から、第1冷却ロールを金属弾性ロール、第2冷却ロールを金属ロールとすることがより好ましい。なお、第2冷却ロール以降に第3冷却ロールを設けてもよいし、さらに、第3冷却ロール以降に第4冷却ロール,第5冷却ロール・・・と複数本のロールを設けてもよい。
【0041】
メチルメタクリレート−スチレン共重合体樹脂層の両面にアクリル系樹脂層を有する樹脂板であって、Re(0)と、Re(50)が、式:|Re(0)−Re(50)|/50≦1.6を満たす樹脂板は、波長590nmの単色光を樹脂板面の法線に対して、0°の角度で入射したときのリタデーション値と、50°の角度で入射したときのリタデーション値との変化率が所定の範囲内であることから、樹脂板を正面方向から見る場合と斜め方向から見る場合とで着色の色の違いが小さく、各種表示部材用途に使用することができ、例えば、液晶ディスプレイの表面保護板や、タッチパネルの表面保護板等として使用することができる。
【0042】
樹脂板の少なくとも一方の面は、凹凸形状を有するマット面であってもよい。樹脂板の一方の面がマット面である場合、該マット面は、液晶パネル側の面であること、すなわち透明電極膜が形成されない面であることが好ましい。
【0043】
かくして得られる本発明の樹脂板は、下部電極基板として使用されることが好ましい。樹脂板を下部電極基板として使用する場合、まず樹脂板を必要な大きさに切断し、次いで、該樹脂板の一方の面に透明電極膜を設けることで、下部電極板が作製される。
【0044】
透明電極膜は、金属酸化物より構成される。金属酸化物としては、例えば、ATO(アンチモン・スズ酸化物)やITO(インジウム・スズ酸化物)等が挙げられ、特に、ITOが透明性に優れており好ましい。透明電極膜の厚さは、5〜50μmであることが好ましい。
透明電極膜を作製する方法としては、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、イオン化蒸着法、またはCVD法等が挙げられる。
【0045】
樹脂板と透明電極膜の密着性を向上させる観点から、樹脂板は、透明電極膜が形成される面に、樹脂層を設けてもよい。かかる樹脂としては、透明性に優れたものであればよい。樹脂層の厚さは、1nm〜5μmであることが好ましい。1nm未満であると十分な密着性向上効果を得られないおそれがあり、5μmを超えると該樹脂板を下部電極基板に使用してなるタッチパネルを設置した液晶ディスプレイを斜め方向から見る場合、液晶ディスプレイの表示画像が着色して見えるおそれがある。
【0046】
抵抗膜方式タッチパネルは、上部電極板と下部電極板が、スペーサーを介して、両電極板の透明電極膜同士が向かい合うように対向配置して構成される。
液晶ディスプレイ上にタッチパネルを設置する場合、下部電極板を液晶パネルに接触させて設置する。
【0047】
上部電極板は、上部電極基板の一方の面に透明電極膜を設けることで作製される。
抵抗膜方式タッチパネルは、押圧された上部電極板が下部電極板と接触することで通電され、押圧された位置が検出されることから、上部電極基板は、可とう性を有することが好ましい。可とう性の観点から、上部電極基板の厚さは、10〜400μmであることが好ましい。
上部電極基板としては、透明性に優れる樹脂フィルムが使用され、通常、ポリエチレンテレフタレートが使用される。なお、本発明の樹脂板は、上部電極基板に使用してもよく、上部電極基板と下部電極基板の両基板を樹脂板としてもよい。この場合、両樹脂板の厚さは、互いに同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0048】
樹脂板は、抵抗膜方式タッチパネルの下部電極基板としての使用に制限されるものではなく、他の検出方式のタッチパネルの電極基板、例えば、静電容量方式タッチパネルの電極基板としても使用することができる。静電容量方式タッチパネルは、電極基板の一方の面に透明電極膜を備える電極板の透明電極膜上に保護膜を形成して構成される。液晶ディスプレイに静電容量方式タッチパネルを設置する場合、電極基板面を液晶パネルに接触させて設置する。
この電極基板としては、通常、ガラス板が使用されるが、ガラス板が重く、また割れやすいという問題点がある。ガラス板に変えて本発明の樹脂板を使用することで、軽量で割れ難く、かつ光学特性の良好な電極基板が得られる。
【0049】
タッチパネルの用途としては、携帯型ゲーム機の表示窓、携帯型カーナビゲーションシステムや携帯型情報端末のディスプレイ、銀行のATMのディスプレイ、産業機械の操作パネル等が挙げられる。本発明の樹脂板を下部電極板として使用してなるタッチパネルは、下部電極基板が本発明の樹脂板であることから軽量であり、また、割れ難いことから、樹脂板の厚みを小さくすることによるタッチパネルの薄型化も可能であり、携帯型用途としての使用が好ましい。
【実施例】
【0050】
以下、本発明の実施例を示すが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0051】
以下の実施例および比較例で使用した押出装置の構成は、次の通りである。
・押出機1:スクリュー径65mm、一軸、ベント付きの押出機(東芝機械(株)製)を用いた。
・押出機2:スクリュー径45mm、一軸、ベント付きの押出機(日立造船(株)製)を用いた。
・フィードブロック3:2種3層分配型のフィードブロック(日立造船(株)製)を用いた。
・ダイ4:リップ幅1400mm、リップ間隔1mmのTダイ(日立造船(株)製)を用いた。
・第1,第2,第3冷却ロール5,6,7:横型、面長1400mm、径300mmφの冷却ロールを用いた。
【0052】
第1,第2,第3冷却ロール5,6,7について、より具体的に説明すると、第1冷却ロール5には金属弾性ロールを用いた。該金属弾性ロールには、軸ロールの外周面を覆うように金属製薄膜が配置され、軸ロールと金属製薄膜との間に流体が封入されているものを採用した。
【0053】
軸ロール、金属製薄膜および流体は、次の通りである。
軸ロール:ステンレス鋼製
金属製薄膜:厚さ2mmのステンレス鋼製の鏡面金属スリーブ
流体:油であり、この油を温度制御することによって、金属弾性ロールを温度制御可能にした。より具体的には、温度調節機のON−OFF制御により前記油を加熱、冷却して温度制御可能にし、軸ロールと金属製薄膜との間に循環させた。
【0054】
第2,第3冷却ロール6,7には、高剛性の金属ロールを用いた。該金属ロールは、表面状態が鏡面であるステンレス鋼製のスパイラルロールである。
【0055】
実施例および比較例で使用した樹脂は、以下の3種類である。
・樹脂1:熱変形温度(Th)100℃の住友化学(株)製のメタクリル樹脂「スミペックスEX」を用いた。
・樹脂2:熱変形温度(Th)90℃の日本アクリエース(株)製のメチルメタクリレート−スチレン共重合体樹脂「アクリエースMS」を用いた。このメチルメタクリレート−スチレン共重合体樹脂は、単量体単位としてメタクリル酸メチルを60重量%、およびスチレンを40重量%の割合で含む。
・樹脂3:熱変形温度(Th)140℃の住友ダウ(株)製のポリカーボネート樹脂「カリバー301−10」を用いた。
【0056】
[実施例1〜4および比較例1]
<樹脂板の作製>
まず、押出機1,2、フィードブロック3、ダイ4、第1,第2,第3冷却ロール5,6,7を図1に示すように配置した。次いで、樹脂層Aとして表1に示す種類の樹脂を押出機1にて溶融混練し、樹脂層Bとして表1に示す種類の樹脂を押出機2にて溶融混練し、それぞれフィードブロックに供給し、押出機1からフィードブロックに供給される樹脂層Aの両面に、押出機2からフィードブロックに供給される樹脂層Bが積層されたフィルム状の溶融樹脂をダイ4から押出した。
【0057】
次いで、ダイ4から押出したフィルム状の溶融樹脂を、対向配置した第1冷却ロール5と第2冷却ロール6との間に挟み込み、次いで第3冷却ロール7に巻き掛けて、成形・冷却し、樹脂層Aの両面に樹脂層Bが積層された表1に示す厚みを有する3層構成の樹脂板を得た。得られた各樹脂板において樹脂層Aの両面の積層された樹脂層Bの各々の組成および厚みは、互いに同一である。
【0058】
なお、表1中の押出機1における「厚み」は樹脂層Aの厚みを示しており、押出機2における「厚み」は樹脂層Bの各々の厚みを示しており、「総厚み」は得られた樹脂板の全体の厚みを示している。
【0059】
<評価>
得られた各樹脂板について、リタデーション値および斜め方向から見たときの着色を評価した。各評価方法を以下に示すと共に、その結果を表1に併せて示す。
【0060】
〔リタデーション値(Re(0)、Re(50))〕
王子計測機器(株)製の自動複屈折計「KOBRA−WR」を用いて、波長590nmの単色光を樹脂板面の法線に対して、0°の角度で入射したときのリタデーション値(Re(0))、および50°の角度で入射したときのリタデーション値(Re(50))を測定した。さらに、Re(0)およびRe(50)の値から、(|Re(0)−Re(50)|/50)を求めた。
【0061】
〔斜め方向から見たときの着色〕
得られた樹脂板が、タッチパネルの下部電極基板として使用され、さらに該タッチパネルが液晶ディスプレイ上に設置される場合を想定して、以下の評価を行った。
まず、上記で得た樹脂板の一方の面と、第1偏光板の一方の面とを重ね合わせた。次いで、樹脂板の他方の面に、第1偏光板と偏光軸が直交するように第2偏光板を重ね合わせた。第1,第2偏光板には、いずれも住友化学(株)製の「スミカランSG」を用いた。
【0062】
そして、第2偏光板面を三波長型蛍光灯(三菱電機オスラム(株)製の「ルピカエース」)の光で照らしながら、該第2偏光板面の上斜め45度方向から第2偏光板を介して樹脂板の他方の面を見たときに、該面が着色して見えるか否かを目視で観察した。なお、判定基準は以下のものを用いた。
○:着色して見えない。
×:着色して見える。
【0063】
[比較例2]
表1に示す種類の樹脂を押出機1にて溶融混練し、フィードブロック3およびダイ4の順に供給した。そして、ダイ4から押出した溶融樹脂を、対向配置した第1冷却ロール5と第2冷却ロール6との間に挟み込み、次いで第3冷却ロール7に巻き掛けて、成形・冷却し、表1に示す厚みを有する単層板を得た。
【0064】
得られた単層板について、前記実施例1と同様にしてリタデーション値および斜め方向から見たときの着色を評価した。その結果を表1に示す。
【0065】
【表1】

【符号の説明】
【0066】
1,2 押出機
3 フィードブロック
4 ダイ
5 第1冷却ロール
6 第2冷却ロール
7 第3冷却ロール
8 樹脂板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タッチパネルの下部電極基板に使用される樹脂板であって、メチルメタクリレート−スチレン共重合体樹脂層の両面にアクリル系樹脂層を有することを特徴とする下部電極基板用樹脂板。
【請求項2】
波長590nmの単色光を樹脂板面の法線に対して、0°の角度で入射したときのリタデーション値をRe(0)、50°の角度で入射したときのリタデーション値をRe(50)とするとき、Re(0)とRe(50)が、式:|Re(0)−Re(50)|/50≦1.6を満たす請求項1に記載の樹脂板。
【請求項3】
波長590nmの単色光を樹脂板面の法線に対して、50°の角度で入射したときのリタデーション値Re(50)が90nm以下である請求項1または2に記載の樹脂板。
【請求項4】
アクリル系樹脂層の厚さが0.1mm以下である請求項1〜3のいずれかに記載の樹脂板。
【請求項5】
メチルメタクリレート−スチレン共重合体樹脂層の両面にアクリル系樹脂層を有するフィルム状物をダイから溶融押出し、第1冷却ロールと第2冷却ロールとの間に挟み込み、該第2冷却ロールに巻き掛け、次いで、第3冷却ロールに巻き掛けてなる請求項1〜4のいずれかに記載の樹脂板。
【請求項6】
第1冷却ロールが外周部に金属製薄膜を備えた金属弾性ロールであり、第2冷却ロールが金属ロールである請求項5に記載の樹脂板。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の樹脂板の一方の面に透明電極膜が設けられてなる下部電極板。
【請求項8】
下部電極板と上部電極板とを、透明電極膜同士が向かい合うように、電極板間にスペーサーを介在させて対向配置して構成されるタッチパネルであって、該下部電極板が請求項7に記載の電極板であるタッチパネル。
【請求項9】
メチルメタクリレート−スチレン共重合体樹脂層の両面にアクリル系樹脂層を有する樹脂板であって、
波長590nmの単色光を樹脂板面の法線に対して、0°の角度で入射したときのリタデーション値をRe(0)、50°の角度で入射したときのリタデーション値をRe(50)とするとき、Re(0)とRe(50)が、式:|Re(0)−Re(50)|/50≦1.6を満たすことを特徴とする表示部材用樹脂板。

【図1】
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【公開番号】特開2012−177980(P2012−177980A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−39473(P2011−39473)
【出願日】平成23年2月25日(2011.2.25)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】