説明

不均一回転ゆがみの低減

新規な画像処理方法は、回転トランスデューサを用いて獲得された医学画像中の不均一回転ゆがみ(NURD)を低減する。画像は、テクスチャを有する複数の画像ベクトルを含んでいる。好ましい実施の形態にかかる画像処理技術においては、各画像ベクトルについてのテクスチャの平均周波数を計算し、各画像ベクトルについての平均周波数に基づいて、各画像ベクトルのための角度を推算する。この画像処理技術においては、この後、各画像ベクトルを、各画像ベクトルのための推算された角度で再マッピングすることにより、NURDを補正する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的には、医学画像に関するものであり、より詳しくは、医学画像中の不均一回転ゆがみ(NURD)の低減に関するものである。
【背景技術】
【0002】
診断及び治療計画を目的として、超音波画像診断などの画像化技術は、一般に、患者の体内の画像を得るための医療で用いられている。血管内超音波法(IVUS)による画像化処理においては、血管の内部組織をあらわす画像は、その先端又は先端近傍に超音波トランスデューサが取り付けられたカテーテルを血管内に挿入することにより得られる。超音波トランスデューサは、画像化されるべき血管の領域内に配置される。ここで、トランスデューサは、超音波エネルギのパルスを、血管内及び周囲の組織に放射する。超音波エネルギの一部は、血管壁及び周囲の組織で反射されてトランスデューサに戻る。トランスデューサに衝突した反射超音波エネルギ(エコー)は、血管の画像を形成するのに用いられる電気信号を生成する。
【0003】
血管の断面画像又は「スライス(slice)」を得るために、トランスデューサは、血管に対してあらゆる方向に向かなければならない。これは、画像化時にトランスデューサを機械的に回転させることにより実施することができる。図1は、従来のカテーテル20の先端に取り付けられた回転トランスデューサ10の軸方向の図を示している。トランスデューサ10は、駆動ケーブル30を介して駆動モータ(図示せず)に連結され、カテーテル20のシース(sheath)35内で回転する。画像化された血管40は、典型的には、血液領域45と、壁構造(血液−壁インターフェース)50と、周囲の組織とを含んでいる。
【0004】
血管の断面画像は、トランスデューサ10に、複数の超音波パルス、例えば256パルスを、その1回転中に異なる角度で放射させることにより得られる。図1は、トランスデューサ10から放射された1つの典型的な超音波パルス60を示している。トランスデューサによって受け取られた各放射パルス60のエコーパルス65は、血管の画像中に、1つの半径方向の線又は「画像ベクトル(image vector)」を形成するのに用いられる。理想的には、トランスデューサ10は、均一な角速度で回転させられ、これにより画像ベクトルは、血管40内で均一な角度で離間する。画像プロセッサ(図示せず)は、トランスデューサ10が1回転したときに獲得された画像ベクトルを、血管40の断面画像に組み立てる。画像プロセッサは、画像ベクトルが血管40内で均一な角度で離間しているといった仮定に基づいて、画像ベクトルを組み立てる。これは、トランスデューサ10が均一な角速度で回転しているときに起こる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、トランスデューサ10を均一な角速度で回転させ、これを維持することは困難である。これは、トランスデューサ10が、駆動ケーブル30を介して駆動モータ(図示せず)に機械的に連結され、かつ駆動モータがトランスデューサから1〜2メートル離れているからである。駆動ケーブル30は、血管の経路に沿ったあらゆる湾曲に従って、画像化される血管の領域に到達しなければならない。その結果、駆動ケーブル30は、典型的には、血管40内で回転する時に、束縛を受け、及び/又は、ぎくしゃくする。これは、たとえモータが均一な角速度で回転しても、トランスデューサ10を不均一な角速度で回転させる結果となる。この問題は、画像ベクトルを血管40の断面画像に組み立てる際に、画像プロセッサによって仮定される角度が、画像ベクトルが得られた実際の角度とは異なることに起因して生じる。これは、血管の断面画像を方位角方向(azimuthal direction)にゆがませる結果となる。その結果生じるゆがみは、不均一回転ゆがみ(NURD)と呼ばれる。
【0006】
したがって、回転トランスデューサを用いて獲得されるIBUV画像中のNURDを低減する画像処理技術が必要とされている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
図面中の構成要素は、必ずしも正しい尺度で示されたものではなく、問題となっている概念を示すためにむしろ誇張されたものである。全ての図は、概念を伝えることを目的としており、相対的な寸法、形状及びその他の詳細な属性は、完全に又は正確に記載されたものではなく、模式的に記載されたものである。
【0008】
以下、回転トランスデューサ(rotating transducer)を用いて獲得されるIVUS画像中のNURDを低減する新規な画像処理方法を説明する。血管のIVUS画像においては、血管内の血液及び血管を取り囲んでいる組織は、IVUS画像中に斑点(speckle)として現れるテクスチャ(texture)を有している。血液は、典型的には細かい画像テクスチャを有し、周囲の組織は粗い画像テクスチャを有している。均一な角速度で回転しているトランスデューサで得られたIVUS画像については、血液及び周囲の組織の画像テクスチャは、画像全体にわたってかなり整合性がある(consistent)であろう。しかしながら、トランスデューサが不均一な角速度で回転する場合、血液及び周囲の組織の画像テクスチャは不均一となる。トランスデューサの角速度が上昇する画像領域では、画像テクスチャは、方位角方向に圧縮された状態となる。トランスデューサの角速度が低下する画像領域では、画像テクスチャは、方位角方向に拡張された状態、例えばこすられて不鮮明となった(smeared)状態となる。
【0009】
それゆえ、画像中におけるテクスチャの圧縮/拡張の度合いは、画像化時における、トランスデューサの相対的な角速度についての情報を生成する。この理論を用いて、この新規な画像処理方法は、以下でさらに説明するように、画像中のNURDを補正する。
【0010】
次に、図2を参照しつつ、NURDを低減するための新規な画像処理方法の1つの実施の形態を説明する。ステップ210では、画像プロセッサは、複数の画像ベクトル、例えば256の画像ベクトルを含む入力画像を受け取る。これらの画像ベクトルは、該画像ベクトルが均一に離間された角度で得られたという仮定に基づいて、画像中の角度位置にマッピングされる(mapped)。各画像ベクトルは、さらに複数の画素を含んでいる。各画素の値は、受け取られたエコーパルスの振幅(amplitude)に対応する。このエコーパルスは、反射されて、トランスデューサに対してある角度及び半径方向の距離で、該トランスデューサに戻ってきたものである。画素の値は、グレースケール及び/又はカラースケールにより段階づけられる(scaled)ことができる。
【0011】
ステップ220では、各画素のまわりのテクスチャのスペクトル指標(spectral measure)が方位角方向に計算される。これは、画素に集中された、重みづけられたウィンドウ(weighted window)内の画素の集合に1次元フーリエ変換を実行することにより実現することができる。このフーリエ変換は、当業者にはよく知られている標準的な信号処理技術を用いて実行することができる。各画素に対するフーリエ変換は、画素に対する局所的なテクスチャ情報を含む周波数スペクトルを生成する。
【0012】
フーリエ変換で用いられるウィンドウの重み(weight)は、次の式を用いて計算することができる。
【数1】


ここで、wはウィンドウの幅であり、xはウィンドウの中心からの重みの減少率(drop off rate)を決定し、nは1からwまでインクリメントされる。例えば、幅wは16画素とされ、xは4とされてもよい。
【0013】
ステップ230では、各画素についてのフーリエ変換の平均周波数(mean frequency)が計算される。各画素についての平均周波数は、テクスチャの圧縮を示すより高い値を伴った画素、及び、テクスチャのぼかしを示すより低い値を伴った画素に対するテクスチャ尺度(textural measure)を与える。
【0014】
ステップ240では、各画素ベクトルに対して、該画素ベクトル中の画素についての平均周波数の平均値(average value)が計算される。各画素ベクトルについての平均周波数の値は、該画素ベクトルにおける、トランスデューサに対する相対角速度に関連する。高い平均周波数値は、該画素ベクトルにおける、トランスデューサに対する相対的に高い角速度を示す。低い平均周波数値は、該画素ベクトルにおける、トランスデューサに対する相対的に低い角速度を示す。一定の角速度で回転するトランスデューサに対しては、画像ベクトルに対する平均周波数値は、ほとんど一定であるといえる。
【0015】
ステップ250では、すべての画像ベクトルについての平均周波数の値の積分(integral)が、トランスデューサの1回転の角度である2πラジアンの値まで標準化された(normalized)積分により計算される。ステップ260では、各画像ベクトルのための実際の角度の推算値が、該画像ベクトルにおける標準化された積分のランニング値(running value)を用いて計算される。各画像ベクトルのためのこの推算された角度は、画像ベクトルは均一に離間された角度で得られていないという事実を考慮している。ステップ270では、各画像ベクトルが、推算された各角度で再マッピングされ、NURDが補正された画像を生成される。換言すれば、NURDは、各画像ベクトルに対する推算された角度を得て(derive)、均一に離間していると不正確に仮定された角度に代えて、推算された角度を用いることにより、低減され又は除去される。
【0016】
ステップ220でウィンドウの重みを計算するのに用いられた幅w及びxの値は、通常の実験により最適化することができる。例えば、既知の断面形状を有する、ゴムなどでつくられたファントム(phantom)を、回転しているトランスデューサを用いて画像化することができる。この後、NURDのアルゴリズムは、NURDが補正された画像がNURDの最小量を示すまで、w及びxの値を調整しつつ、ファントムの画像に適用されることができる。
【0017】
本明細書の前記の記載においては、本発明は、特定の実施の形態について説明されている。しかしながら、本発明のより広い精神及び範囲から離脱することなく、種々の修正例及び変形例がなされうるということは明らかであろう。例えば、読者は、ここで説明されたプロセスフローチャートに示されている処理動作の特定の順序づけ及び組み合わせは、単なる例示であり、本発明は、異なるもしくは追加の処理動作、又は、処理動作の異なる組み合わせもしくは順序づけを用いて実施されることができるといことを理解するであろう。その他の例としては、当業者によく知られた特徴が、この実施例に追加されることができる。当業者によく知られたその他の処理ステップも、要望があれば、同様に組み入れることができる。さらに、要望があれば、特徴を追加又は削除することができるということも明らかである。したがって、本発明は、添付の特許請求の範囲及びその等価物に依拠すること以外に、何ら制限されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】血管内の従来のカテーテルの回転トランスデューサを示す図である。
【図2】回転トランスデューサを用いて得られたIVUS画像におけるNURDを低減するための新規な画像処理方法の実施例を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0019】
10 回転トランスデューサ、20 カテーテル、30 駆動ケーブル、35 シース、40 血管、45 血液領域、50 壁構造、60 超音波パルス、65 エコーパルス。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の画像ベクトルを含んでいる画像の中の不均一回転ゆがみ(NURD)を低減する方法であって、各画像ベクトルがテクスチャを有し、かつ、各画像ベクトルが上記画像中に、ある角度でマッピングされていて、該方法が、
各画像ベクトルについてのテクスチャの平均周波数を計算するステップと、
各画像ベクトルについての平均周波数に基づいて、各画像ベクトルのための角度を推算するステップと、
各画像ベクトルを、各画像ベクトルのための推算された角度で再マッピングするステップとを含んでいる方法。
【請求項2】
各画像ベクトルが複数の画素を含み、各画素が、ある画像深さで反射されたエコーパルスの振幅をあらわしている、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
各画像ベクトルについての平均周波数を計算するステップが、さらに、
各画像ベクトル中の各画素についてのテクスチャの平均周波数を計算するステップと、
各画像ベクトル中の画素についての平均周波数の平均を計算するステップとを含んでいる、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
各画素についての平均周波数を計算するステップが、さらに、
各画素のまわりのフーリエ変換を実行するステップと、
各画素についてのフーリエ変換の平均を計算するステップとを含んでいる、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
各画像ベクトルのための角度を推算するステップが、さらに、
すべての画像ベクトルについての平均周波数の積分を計算するステップと、
上記積分を、予め設定された値に対して標準化するステップと、
各画像ベクトルにおいて、標準化された積分の値に基づいて、各画像ベクトルのための角度を推算するステップとを含んでいる、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
予め設定された値が2πラジアンである、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
各画像ベクトルのための角度を推算するステップが、さらに、
すべての画像ベクトルについての平均周波数の積分を計算するステップと、
上記積分を、予め設定された値に対して標準化するステップと、
各画像ベクトルにおいて、標準化された積分の値に基づいて、各画像ベクトルのための角度を推算するステップとを含んでいる、請求項3に記載の方法。
【請求項8】
予め設定された値が2πラジアンである、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
プロセッサによって使用可能な媒体を含んでいるコンピュータプログラム製品であって、上記媒体が、プロセッサによって実行されたときに該プロセッサに、画像中の不均一回転ゆがみ(NURD)を低減する方法を実行させる一連の命令を含んでいて、該コンピュータプログラム製品が、
各々がテクスチャを有するとともに画像中にある角度でマッピングされた複数の画像ベクトルを含んでいる入力画像を受け取るための命令と、
上記入力画像中の各画像ベクトルについてのテクスチャの平均周波数を計算するための命令と、
各画像ベクトルについての平均周波数に基づいて、各画像ベクトルのための角度を推算するための命令と、
各画像ベクトルを、各画像ベクトルのための推算された角度で再マッピングすることにより、出力画像を生成するための命令とを含んでいるコンピュータプログラム製品。
【請求項10】
各画像ベクトルが複数の画素を含み、各画素が、ある画像深さで反射されたエコーパルスの振幅をあらわしている、請求項9に記載のコンピュータプログラム製品。
【請求項11】
各画像ベクトルについての平均周波数を計算するための命令が、さらに、
各画像ベクトル中の各画素についてのテクスチャの平均周波数を計算するための命令と、
各画像ベクトル中の画素についての平均周波数の平均を計算するための命令とを含んでいる、請求項10に記載のコンピュータプログラム製品。
【請求項12】
各画素についての平均周波数を計算する命令が、
各画素のまわりの画像についてのフーリエ変換を実行するための命令と、
各画素についてのフーリエ変換の平均を計算するための命令とを含んでいる、請求項11に記載のコンピュータプログラム製品。
【請求項13】
各画像ベクトルのための角度を推算するための命令が、さらに、
すべての画像ベクトルについての平均周波数の積分を計算するための命令と、
上記積分を、予め設定された値に対して標準化するための命令と、
各画像ベクトルにおいて、標準化された積分の値に基づいて、各画像ベクトルのための角度を推算するための命令とを含んでいる、請求項9に記載のコンピュータプログラム製品。
【請求項14】
予め設定された値が2πラジアンである、請求項13に記載のコンピュータプログラム製品。
【請求項15】
(a)プロセッサと、
(b)医学画像を生成するために用いるプロセッサのためのデータを受け取るインターフェースと、
(c)プロセッサによって使用可能な媒体であって、プロセッサによって実行されたときに該プロセッサに、不均一回転ゆがみ(NURD)が低減された医学画像を生成させる方法を実行させる一連の命令を含んでいる媒体とを含んでいる医学画像システムであって、上記媒体が、
(i)各々がテクスチャを有するとともに画像中に、ある角度でマッピングされた複数の画像ベクトルを含んでいる入力画像を受け取るための命令と、
(ii)上記入力画像中の各画像ベクトルについてのテクスチャの平均周波数を計算するための命令と、
(iii)各画像ベクトルについての平均周波数に基づいて、各画像ベクトルのための角度を推算するための命令と、
(iv)各画像ベクトルを、各画像ベクトルのための推算された角度で再マッピングすることにより、出力画像を生成するための命令とを含んでいる医学画像システム。
【請求項16】
出力画像を表示するためのディスプレイをさらに含んでいる、請求項15に記載の医学画像システム。
【請求項17】
出力画像を印刷するためのプリンタをさらに含んでいる、請求項15に記載の医学画像システム。
【請求項18】
カテーテルと、
上記カテーテルに取り付けられた超音波トランスデューサであって、モータによって回転させられ、超音波を放射するとともに反射した超音波を受け入れ、反射した超音波を上記インターフェースに送る超音波トランスデューサとをさらに含んでいる、請求項15に記載の医学画像システム。
【請求項19】
各画像ベクトルが複数の画素を含み、各画素が、ある画像深さで反射されたエコーパルスの振幅をあらわしている、請求項15に記載の医学画像システム。
【請求項20】
各画像ベクトルについての平均周波数を計算するための命令が、さらに、
各画像ベクトル中の各画素についてのテクスチャの平均周波数を計算するための命令と、
各画像ベクトル中の画素についての平均周波数の平均を計算するための命令とを含んでいる、請求項19に記載の医学画像システム。
【請求項21】
各画素についての平均周波数を計算するための命令が、
各画素のまわりの画像についてのフーリエ変換を実行するための命令と、
各画素についてのフーリエ変換の平均を計算するための命令とを含んでいる、請求項20に記載の医学画像システム。
【請求項22】
各画像ベクトルのための角度を推算するための命令が、さらに、
すべての画像ベクトルについての平均周波数の積分を計算するための命令と、
上記積分を、予め設定された値に対して標準化するための命令と、
各画像ベクトルにおいて、標準化された積分の値に基づいて、各画像ベクトルのための角度を推算するための命令とを含んでいる、請求項15に記載の医学画像システム。
【請求項23】
予め設定された値が2πラジアンである、請求項22に記載の医学画像システム。


【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2006−505293(P2006−505293A)
【公表日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2003−566801(P2003−566801)
【出願日】平成15年1月23日(2003.1.23)
【国際出願番号】PCT/US2003/002182
【国際公開番号】WO2003/067526
【国際公開日】平成15年8月14日(2003.8.14)
【出願人】(500238446)ボストン サイエンティフィック リミテッド (53)
【氏名又は名称原語表記】Boston Scientific Limited
【Fターム(参考)】