説明

不活性な表面を備えたデバイスおよび同前を作製する方法

本発明は、ポリシラザンの組成物を有する少なくとも1つの濡れ表面を備えた、液体クロマトグラフィーを実施するためのデバイスおよびこのようなデバイスを作製する方法を特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2008年7月18日に出願された米国仮特許出願第61/081,848号に基づく優先権を主張するものである。これらの出願の内容は、参照により本明細書に組み込む。
【0002】
本発明は連邦政府助成によってなされたものではない。
【0003】
本発明は、比較的不活性である1つまたは複数のコーティングを含む表面を備えた装置およびこのような表面を作製する方法に関する。
【背景技術】
【0004】
診断および分析のために用いられる装置内の流体導管、フローセル、ポンプ、バルブ、分離デバイスなどを作製するために用いられる材料は、不活性であることが好ましい。本明細書で用いられる場合、不活性という用語は、分析物を含む流体に接触する材料が、流体に化合物を添加せず、溶液から化合物を吸収も吸着もせず、溶液中の化合物と反応しない、ということを意味する。残念ながら、これらのデバイスを通して流体を運搬したり、収容したり、動かしたりするために用いられる基礎材料には、十分に不活性ではないものがある。この問題は、導管およびデバイスの副部品の規模が小さくなるにつれてより深刻になる。マイクロ流体デバイスのこの小規模のため、製造的見地からは望ましい特徴を有するが、流体輸送には理想的とは言えない材料を基礎基材として使用することを余儀なくされてきた。
【0005】
本明細書で用いられる場合、「マイクロ流体の」という用語は、直径約1−500マイクロメートルのチャネル、導管、毛細管、チューブ、パイプなどを指す。本明細書で用いられる場合、「分析物」という用語は、検出するまたは定量することが望ましい1つまたは複数の化合物を指す。「溶質」という用語は、広い意味で用いられ、材料を表し、この材料の中で物質が溶解される。
【0006】
クロマトグラフィーとは、これによって溶液中の化合物が分離される技術である。化合物は、溶質に接触する材料に対する化合物に固有の親和性によって分離される。液体クロマトグラフィーでは、移動相として液体を用いる。固体担体などの固定相は、分析物を吸着するために用いられる。クロマトグラフィー法では、酸および塩基の希薄水溶液ならびにアセトニトリルおよびメタノールなどの水混和性溶媒を用いることが多い。これらの溶液は、導管、チャネル、チューブ、パイプ、固体担体またはクロマトグラフィーが実施される装置の構成部品が作られている材料に対して有害であることが多い。または、導管、チャネル、チューブ、パイプもしくはクロマトグラフィーが実施される装置の構成部品が作られている材料が、溶質中にもしくは溶質から化合物を浸出させもしくは吸収する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
マイクロ流体チャネル内に拡散バリアを再現性よく、コスト効率よく作り出すコーティング技術が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(発明の要旨)
本発明の実施形態は、ポリシラザンまたはポリシラザン様材料を含む少なくとも1つの濡れ表面を備えた液体クロマトグラフィーデバイスを特徴とする。このような液体クロマトグラフィーデバイスは、ポリシラザンおよびポリシラザン様材料で作られているまたはコーティングされている構成部品、チャネルデバイス、導管、フローセル、バルブ、ポンプ、担体、カラムならびにカラムフィッティングおよびフリットを備える。本明細書で用いられる場合、シラザンという用語は、ケイ素および窒素の水素化物を指す。好ましいポリシラザンまたはポリシラザン様材料は、以下に示された式を有する。
【0009】
−[A]−[B]
式1.
【0010】
上記で用いられる場合、Aは
【0011】
【化1】

を表し、
式中、RおよびRは、水素、アルキル、アルケニル、アルキニル、芳香族、アミノアルキル、アミノアルケニル、アミノアルキニル、ピリジニル、ピリドニルをそれぞれ独立に表し、ならびに1から25個の原子を有するこれらのカルボニル、アルコールおよびカルボン酸誘導体をそれぞれ独立に表し、さらにヒドロキシル、アミノ、アミド、カルボキシル、エステル、カルボニル、スルフヒドリル、スルホニル、ホスホリル、ブロモ、ヨード、クロロおよびフルオロ誘導体をそれぞれ独立に表し、シランは窒素に共有結合し、シランの空の原子価は、さらなるAもしくはBに結合し、または末端の水素もしくはヒドロキシ基に結合し、またはアルキル、アルケンもしくはアルキンに結合し、または微量の共反応剤に結合している。
【0012】
上記で用いられる場合、Bは
【0013】
【化2】

を表し、
式中、RおよびRは、水素、アルキル、アルケニル、アルキニル、芳香族、アミノアルキル、アミノアルケニル、アミノアルキニル、ピリジニル、ピリドニルをそれぞれ独立に表し、ならびに1から25個の原子を有するこれらのカルボニル、アルコールおよびカルボン酸誘導体をそれぞれ独立に表し、さらにヒドロキシル、アミノ、アミド、カルボキシル、エステル、カルボニル、スルフヒドリル、スルホニル、ホスホリル、ブロモ、ヨード、クロロおよびフルオロ誘導体をそれぞれ独立に表し、シランは窒素に共有結合し、シランの空の原子価は、さらなるAもしくはBに結合し、または末端の水素もしくはヒドロキシ基に結合し、またはアルキル、アルケン、アルキンに結合し、またはWに結合し、または微量の共反応剤に結合している。上記で用いられる場合、Wは、式−R−Si−Rで表される。Rは、RまたはRに対して定義される通りである。Rは、水素であり、またはC−Cの直鎖、環状もしくは分岐アルキル基である。Rは、Cl、Br、I、C−Cのアルコキシ、ジアルキルアミノまたはトリフルオロメタンスルホネートであり、aおよびbは、a+b=3を条件としてそれぞれ0から3までの整数である。
【0014】
の好ましいアルコキシ基はメトキシであり、Rの好ましいアルキルはメチルである。さらに、XおよびYは、合計して1.0になる小数として、AまたはBの相対的な量を表す。
【0015】
本明細書で用いられる場合、「独立に表す」という用語は、化学基が同一であるまたは異なる場合があることを意味する。さらに、上記の式が、確立したシラザンの化学的性質の定義から逸脱し得る範囲まで、式は支配力をもつ。本明細書は、式1に合致している材料、および硬化してセラミックタイプの材料を形成した後に、重合、熱分解または転位のため、出発材料の式に該当しない場合もあるような材料を、「ポリシラザン」という用語を用いて表す。
【0016】
好ましくは、RおよびRのうち少なくとも1つはアルキルであり、少なくとも1つはアルケニルである。さらに、好ましくは、RおよびRのうち少なくとも1つはアルキルであり、少なくとも1つは水素である。
【0017】
好ましいシラザンは、以下に示されたポリシラザンの式で表される。
【0018】
【化3】

【0019】
本明細書で用いられる場合、「濡れ表面」という用語は、水溶液または有機溶液に暴露されているまたは接触している固体材料の表面を指す。
【0020】
式1に相当する組成物から作られたコーティング、デバイス、構成部品および装置は、酸および塩基の希薄水溶液ならびにアセトニトリルおよびメタノールなどの水混和性溶媒などの標準的なクロマトグラフィーの移動相に対して不活性である、またはこのような不活性のために選択されたR、R、RおよびRの各基を有する。好ましい材料ならびにR、R、RおよびRの各基ならびにこれらで作られたコーティング、デバイス、構成部品および装置は、酸性、塩基性または疎水性分析物に対して低結合/低吸着の非多孔性濡れ表面を備える。好ましい材料ならびにR、R、RおよびRの各基ならびにこれらで作られたコーティング、デバイス、構成部品および装置は、硬化時に亀裂も入らず収縮もしない。好ましい材料ならびにR、R、RおよびRの各基ならびにこれらで作られたコーティング、デバイス、構成部品および装置は、標準的なクロマトグラフィーの溶媒中で収縮も膨潤もしない。シラザン系材料のコーティングに関して、このコーティングは、コーティングされようとするバルク材料の熱膨張係数と同様の熱膨張係数を有する。コーティング、デバイス、構成部品および装置は、標準的なHPLC/UPLCの操作温度および15,000psiの圧力での使用に好適である。
【0021】
これらおよび他の利点および特徴は、詳細な記載を読み、以下の図面を参照すれば当業者には明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の特徴を具現化するフリットを有するカラムを示す部分断面図である。
【図2】本発明の特徴を有するフリットを示す図である。
【図3】本発明の特徴を有するマイクロ流体デバイスを示す図である。
【図4】本発明の特徴を有するマイクロ流体デバイスを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
ポリシラザンまたはポリシラザン様材料を含む少なくとも1つの濡れ表面を備えた液体クロマトグラフィーデバイスとしての、本発明の詳細な実施形態。当業者は、流体を収容または運搬する構造体からの材料の浸出が問題となり得る他のデバイスにおいて、本発明の実施形態が有用性および用途を有することを理解する。
【0024】
図1−4は、本発明の特徴を有する液体クロマトグラフィーデバイス類またはこれらの構成部品を図示する。これらの図は、図1に示され、数字11で全体が指示されたカラムを図示し、図2に示され、数字13で全体が指示されたフリットを図示し、ならびに図3および4に示され、数字15および17で全体が指示されたマイクロ流体デバイスを図示する。
【0025】
はじめに図1を参照すると、部分切取図において単純化した形態のカラム11である。カラムは、図示されているように、ハウジング21、媒体23、およびフリット13を備える。ハウジング21は少なくとも1つの壁25で形成された円筒型チューブであり、第1の端部27、第2の端部29を備える。ハウジング21は円以外の、たとえば、長方形、八角形などの断面形状を有していてもよい。しかし、このような形状は一般性に欠ける。壁25は、内表面31および外表面33を有する。
【0026】
壁25の内表面31は媒体23を収容するためのチャンバ35を画定する。媒体23は、粒子、繊維の充填床またはモノリス構造体である。
【0027】
第1の端部27および第2の端部29は、特徴においてほぼ同様である。本明細書は、第1の端部27についてのみ記載するが、そのような詳細が本発明に関係しているためである。カラム11は、単純化のために図面から省略されている他の導管に取り付けるためのフィッティングを通常備えることができる。
【0028】
ハウジング21、フリット13、媒体23またはカラムもしくはクロマトグラフィーシステムの他の一般的な構成部品[図示せず]のうち少なくとも1つは、ポリシラザンもしくはポリシラザン様材料で作られている、またはポリシラザンもしくはポリシラザン様材料のコーティングを有する。たとえば、これらに限定するものではないが、ポンプ構成部品およびバルブは、ポリシラザンもしくはポリシラザン様材料で作られていてもよい、またはポリシラザンもしくはポリシラザン様材料でコーティングされていてもよい。
【0029】
図2は、ポリシラザンまたはポリシラザン様材料で作られたフリット13を図示する。フリット13は、隙間空間43を有する粒子からなる栓41であり、隙間空間43を流体が貫流する。ここで図1および2を参照すると、隙間空間43は、栓41を通過して広がることにより、流体流にフリット13を通過させる一方で、チャンバ35内に収容されている媒体23を実質的に保持する。
【0030】
図2に図示されているように、粒子は、たとえば、これらに限定するものではないが、シリカまたは金属酸化物などの下地基材45を有する。粒子は、ポリシラザンまたはポリシラザン様材料のコーティングを有する。このコーティングは粒子の周囲に形成され、互いに接着する粒子からなる栓を形成する。記載された粒子が、繊維などの他の形態で容易に代用され得ることを、当業者は容易に理解することができる。
【0031】
次に図3を参照すると、クロマトグラフィー器具[図示せず]内で流体を輸送するためのチャネル51を有するマイクロ流体デバイス15が図示されている。チャネル51は、検出部[図示せず]、クロマトグラフィーを実施するための分離部[図示せず]、ポンプ[図示せず]、バルブ[図示せず]、接続部[図示せず]または診断用もしくは分析用機器において用いられる他の任意の構成部品をさらに含んでよい。
【0032】
マイクロ流体デバイス15は、ポリシラザン材料からなる、すなわちポリシラザン材料から作られる。この材料には、完全に不活性ではない材料で作られたマイクロ流体デバイスに伴う問題がない。
【0033】
代替として、次に図4を参照すると、図3のマイクロ流体デバイス15と同様の設計のマイクロ流体デバイス17が図示されている。マイクロ流体デバイス17は、デバイス基材61を有する。しかし、セラミック組成物の中には、あらゆる水素イオン濃度および溶媒に対して安定性があるわけではないものがある。たとえば、Dupont951などの低温同時焼成セラミック(Low Temperature Co−fired Ceramic:LTCC)材料の中には、十分に不活性ではないものがある。Dupont951は、48重量%のAl、31%のSiO、0.03%のTiO、1.99%のB、0.03%のBaO、4.48%のCaO、0.86%のKO、11.3%のPbOの組成物を有する。この材料は機械的強度が優れており、再現性よく製造することが比較的容易である。しかし、この材料は、種々の分析物を吸着し、クロマトグラフィーによる分離に影響を及ぼす可能性がある。液体クロマトグラフィーにおいて広く使用されている酸性の移動相は、LTCC材料からいくつかの重金属を可溶化することが周知である。
【0034】
好ましい基材61は、LTCC材料などのセラミックである。
【0035】
クロマトグラフィー器具[図示せず]内で流体を輸送するためのチャネル63を有するマイクロ流体デバイス17が図示されている。チャネル63は、検出部[図示せず]、クロマトグラフィーを実施するための分離部[図示せず]、ポンプ[図示せず]、バルブ[図示せず]、接続部[図示せず]または診断用もしくは分析用機器において用いられる他の任意の構成部品をさらに含んでよい。
【0036】
マイクロ流体デバイス17は、ポリシラザンまたはポリシラザン様材料からなる層65を備える。好ましくは、層65は硬化したポリシラザン材料である。層65は、チャネル63によってデバイス17を貫流する流体に直接接触する少なくとも1つの濡れ表面71を有する。層65はマイクロ流体デバイス17の基材61を封じ、分析物の吸着または吸収を防止し、チャネル63を貫流する溶液の中に金属が浸出するのを防止する。
【0037】
シラザンとは、ケイ素および窒素の水素化物のことである。したがって、ポリシラザンは、このようなケイ素および窒素の水素化物のポリマーである。好ましいポリシラザンは、以下に示された式1の式を有する。
−[A]−[B]
式1
【0038】
上記で用いられる場合、Aは、
【0039】
【化4】

を表す。
【0040】
式中、RおよびRは、アルキル、アルケニル、アルキニル、芳香族、アミノアルキル、アミノアルケニル、アミノアルキニル、ピリジニル、ピリドニルを独立に表し、ならびに1から25個の原子を有するこれらのカルボニル、アルコールおよびカルボン酸誘導体を独立に表し、さらにヒドロキシル、アミノ、アミド、カルボキシル、エステル、カルボニル、スルフヒドリル、スルホニル、ホスホリル、ブロモ、ヨード、クロロおよびフルオロ誘導体を独立に表し、シランは窒素に共有結合し、シランの空の原子価は、さらなるAもしくはBに結合し、または末端の水素もしくはヒドロキシ基に結合し、またはアルキルに結合し、または微量の共反応剤に結合している。
【0041】
上記で用いられる場合、Bは、
【0042】
【化5】

を表す。
【0043】
式中、RおよびRは、水素、アルキル、アルケニル、アルキニル、芳香族、アミノアルキル、アミノアルケニル、アミノアルキニル、ピリジニル、ピリドニルを独立に表し、ならびに1から25個の原子を有するこれらのカルボニル、アルコールおよびカルボン酸誘導体を独立に表し、さらにヒドロキシル、アミノ、アミド、カルボキシル、エステル、カルボニル、スルフヒドリル、スルホニル、ホスホリル、ブロモ、ヨード、クロロおよびフルオロ誘導体を独立に表し、シランは窒素に共有結合し、シランの空の原子価は、さらなるAもしくはBに結合し、または末端の水素もしくはヒドロキシ基に結合し、またはアルキル、アルケンもしくはアルキンに結合し、または微量の共反応剤に結合している。上記で用いられる場合、Wは、式−R−Si−Rで表される。Rは、RまたはRに対して定義される通りである。Rは、水素であり、またはC−Cの直鎖、環状もしくは分岐アルキル基である。Rは、Cl、Br、I、C−Cのアルコキシ、ジアルキルアミノまたはトリフルオロメタンスルホネートであり、aおよびbは、a+b=3を条件としてそれぞれ0から3までの整数である。Rの好ましいアルコキシ基はメトキシであり、Rの好ましいアルキルはメチルである。さらに、XおよびYは、合計して1.0になる小数として、AまたはBの相対的な量を表す。
【0044】
好ましいシラザンは、以下に示されたポリシラザンの式で表される。
【0045】
【化6】

【0046】
いずれもKion Corporationに交付された米国特許第6,329,487号および同第6,652,978号は、式1に相当するポリシラザンを開示している。これらの材料は、Kion Ceraset(登録商標)Polysilazane20およびG Shield(商標)の商標で販売されている。Ceraset(登録商標)Polysilazane20は、180−200℃に加熱することによって硬化する、またはフリーラジカル開始剤を添加することによってより低温で硬化する低粘度液体ポリマーとして記載されている。G Shield(商標)は、比較的低温で水分によって硬化可能な液体ポリシラザンポリマーの溶液として記載されている。
【0047】
一般的に式1に合致する材料から作られたコーティング、デバイス、構成部品および装置は、実質的に不活性になるように選択されたR、R、RおよびR基を有する。たとえば、一般的に式2に合致する材料、たとえばこのような材料で形成された硬化セラミックは、酸および塩基の希薄水溶液ならびにアセトニトリルおよびメタノールなどの水混和性溶媒などの標準的なクロマトグラフィーの移動相に対して不活性である。一般的に式1に合致する材料から作られたコーティング、デバイス、構成部品および装置は、酸性、塩基性または疎水性分析物に対して低結合/低吸着の非多孔性濡れ表面を呈するように選択されたR、R、RおよびR基を有する。一般的に式1に合致する材料から作られたコーティング、デバイス、構成部品および装置は、硬化時の亀裂または収縮に対して耐性を示すように選択されたR、R、RおよびR基を有する。たとえば、これに限定するものではないが、式2で形成された材料は、標準的なクロマトグラフィーの溶媒中で収縮も膨潤もしない。シラザン系材料のコーティングに関して、このコーティングは、コーティングされようとするバルク材料の熱膨張係数と同様の熱膨張係数を好ましくは有する。コーティング、デバイス、構成部品および装置は、標準的なHPLC/UPLCの操作温度および15,000psiの圧力での使用に好適である。
【0048】
ポリシラザンは異なる3段階を経て熱重合される。400℃までの温度では硬化が起こり、この硬化は主に結合の転位による架橋結合である。この段階中に密度の変化はほとんど起こらない。400−800℃の間では無機化が起こり、この無機化において、主にSi−C結合およびN−C結合の切断によって炭化水素ガスおよび水素ガスが発生する。最終段階、すなわち結晶化は、800℃を超えた温度で起こる。この段階において、主な変化は、水素ガスの発生によるH/Si比における低下である。後半の2つの段階は、高密度化を伴う。
【0049】
本発明のデバイスを作製する方法は、以下の実施例において例示される。
【実施例1】
【0050】
チャネルコーティング
本実施例は、図4に図示された、チャネル63を有するマイクロ流体デバイス17の作製について記載する。このデバイスは、LTCC基材61を有する。チャネル63は、ポリシラザンの層65でコーティングされ、濡れ表面71を作り出す。
【0051】
チャネル63は、真空または圧力のいずれかによる、液圧での液体シラザンで、その後空気または適正な不混和性液体でチャネルを充填して、コーティングする。より薄い膜が所望される場合、溶液は最初に適正な溶媒で希釈することができる。有機過酸化物などの過酸化物の添加は、硬化温度を低下させるために用いることができる。溶媒は、最初に加熱する温度を硬化温度より低くすることによって蒸発させることができる。硬化は、温度をさらに約200℃までの温度に上昇させることによって実現することができる。不活性雰囲気が好ましい場合もある。場合によって、コーティングに、より強い機械的強度が必要とされることがある。これは、粒子または繊維などの充填材料の添加によって実現することができる。充填材料は、プレセラミックと重合することができる反応性基を表面上に含んでいてもよい。充填剤は、さらに、ポリシラザンの熱膨張係数がLTCC材料と大幅に異なる場合、接着性を高めるために利用することができる。
【0052】
層65を有するチャネル63は、導管として利用することができる、またはクロマトグラフィーの吸着剤が充填され、捕捉カラムまたは分析カラムのどちらかとして用いられる部分として利用することができる。または、代替として、層65は、検出において用いられるマイクロ流体部、バルブまたは流体制御、接続部および他の構成部品上に配置することができる。
【実施例2】
【0053】
クロマトグラフィーのフリットの製作
本実施例は、カラムまたはデバイス内に保持された粒子を結合することによるフリットの製作について記載する。マイクロ流体デバイスのチャネルは多孔質のフリットに接触させ、その後、充填媒体のスラリーを用いて液圧でクロマトグラフィー粒子を充填する。次に、そのチップをフリットから分離し、少量のポリシラザンモノマー溶液をケイ酸ナトリウム溶液またはPDMS溶液の状態で充填床に加え、その後硬化する。
【0054】
溶媒中に溶解したポリシラザンを使用し、硬化すると、フリットの製作プロセスを形成することの再現性が高まる。沸点が適正に低い溶媒を用い、その後溶媒が蒸発すると、シラザンが充填床の隙間チャネル内で重合するのを防止する。これによって、マイクロ流体チャネルの遮断を防止し、床の透過性を高めることおよび製作の再現性を高めることができる。
【実施例3】
【0055】
マイクロ流体デバイスの製作
チップなどのマイクロ流体デバイスは、デバイスの鋳型を作り、シラザンのモノマー溶液を鋳型に充填し、シラザンモノマーを硬化してポリシラザン基材を形成することによって作製される。有機過酸化物などの過酸化物は、硬化温度を低下させるために用いることができる。溶媒は、最初に加熱する温度を硬化温度より低くすることによって蒸発させることができる。硬化は、温度をさらに約200℃までの温度に上昇させることによって実現することができる。場合によっては、コーティングに、より強い機械的強度が必要とされることがある。これは、粒子または繊維などの充填材料の添加によって実現することができる。充填材料は、プレセラミックと重合することができる反応性基を表面上に含んでいてもよい。
【0056】
チップは射出成型して硬化状態にすることができる。この状態において、プレセラミックのチップは機械で仕上げること、レーザー切断することなどができる。任意の電気的接続をプレセラミック状態のチップに加えることができる。2つに分離した半分ずつのチップが製作されてもよい。両半分はその後揃えて並べられる必要があり、圧力下で加熱され、両半分が融合して一体となる。液体シラザンの溶液が、結合強度を高めるために利用されてもよい。マイクロ流体チャネルの保全は、溶媒、熱または他の手段によって後で除去され得る犠牲材料の添加によって維持されなければならない場合がある。材料をセラミック状態に(1200℃超に加熱)することは、結合強度をさらに高めるために有用であることがある。充填剤は、チップの製作において、機械的強度をさらに強めるために用いられてもよい。または、機械的強度のさらなる強化のためにセラミックが硬化シェル内に入れられてもよい。
【0057】
以上のように、本発明の好ましい実施形態が、このような実施形態は変形および変更を免れないという理解の上で記載されてきた。したがって、本発明は、厳密な細部に限定されるべきではなく、以下の特許請求の範囲の主題およびこれらの同等物を含むべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリシラザンまたはポリシラザン様材料の組成物を有する少なくとも1つの濡れ表面を備えた、液体クロマトグラフィーを実施するためのデバイス。
【請求項2】
前記濡れ表面が、構成部品、チャネルデバイス、導管、フローセル、バルブ、ポンプ、担体、カラム、マイクロ流体デバイスならびにカラムフィッティングおよびフリットから選択された群の少なくとも1つの部分である、請求項1に記載のデバイス。
【請求項3】
前記濡れ表面が前記組成物の層である、請求項1に記載のデバイス。
【請求項4】
前記デバイスが前記組成物で作られている、請求項1に記載のデバイス。
【請求項5】
前記ポリシラザンまたはポリシラザン様材料が以下に示された式
−[A]−[B]
式1;
を有し、上記で用いられる場合、Aが、
【化1】

[式中、RおよびRは、水素、アルキル、アルケニル、アルキニル、芳香族、アミノアルキル、アミノアルケニル、アミノアルキニル、ピリジニル、ピリドニルをそれぞれ独立に表し、ならびに1から25個の原子を有するこれらのカルボニル、アルコールおよびカルボン酸誘導体をそれぞれ独立に表し、さらにヒドロキシル、アミノ、アミド、カルボキシル、エステル、カルボニル、スルフヒドリル、スルホニル、ホスホリル、ブロモ、ヨード、クロロおよびフルオロ誘導体をそれぞれ独立に表し、シランは窒素に共有結合し、シランの空の原子価は、さらなるAもしくはBに結合し、または末端の水素もしくはヒドロキシ基に結合し、またはアルキル、アルケンもしくはアルキンに結合し、または微量の共反応剤に結合している。]
を表し、上記で用いられる場合、Bが、
【化2】

[式中、RおよびRは、水素、アルキル、アルケニル、アルキニル、芳香族、アミノアルキル、アミノアルケニル、アミノアルキニル、ピリジニル、ピリドニルをそれぞれ独立に表し、ならびに1から25個の原子を有するこれらのカルボニル、アルコールおよびカルボン酸誘導体をそれぞれ独立に表し、さらにヒドロキシル、アミノ、アミド、カルボキシル、エステル、カルボニル、スルフヒドリル、スルホニル、ホスホリル、ブロモ、ヨード、クロロおよびフルオロ誘導体をそれぞれ独立に表し、シランは窒素に共有結合し、シランの空の原子価は、さらなるAもしくはBに結合し、または末端の水素もしくはヒドロキシ基に結合し、またはアルキル、アルケンもしくはアルキンに結合し、Wに結合し、または微量の共反応剤に結合し、Wは、式−R−Si−Rで表され、Rは、RまたはRに対して定義される通りであり、Rは、水素であり、またはC−Cの直鎖、環状もしくは分岐アルキル基であり、Rは、Cl、Br、I、C−Cのアルコキシ、ジアルキルアミノまたはトリフルオロメタンスルホネートであり、aおよびbは、a+b=3を条件としてそれぞれ0から3までの整数であり、Rは、アルキルまたは水素であり、XおよびYは、合計して1.0になる小数として、AまたはBの相対的な量を表す。]
を表す、請求項1に記載のデバイス。
【請求項6】
前記ポリシラザンまたはポリシラザン様材料が以下に示された式
【化3】

を有する、請求項1に記載のデバイス。
【請求項7】
ポリシラザンもしくはポリシラザン様材料の組成物の濡れ表面を備えたデバイスまたは層を作製するステップを含む、少なくとも1つの濡れ表面を備えた、液体クロマトグラフィーを実施するためのデバイスを作製する方法。
【請求項8】
前記濡れ表面が、構成部品、チャネルデバイス、導管、フローセル、バルブ、ポンプ、担体、マイクロ流体デバイス、カラム、カラムフィッティングおよびフリットから選択された群の少なくとも1つの部分である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記ポリシラザンまたはポリシラザン様材料が、以下に示された式
−[A]−[B]
式1;
を有し、上記で用いられる場合、Aが、
【化4】

[式中、RおよびRは、水素、アルキル、アルケニル、アルキニル、芳香族、アミノアルキル、アミノアルケニル、アミノアルキニル、ピリジニル、ピリドニルをそれぞれ独立に表し、ならびに1から25個の原子を有するこれらのカルボニル、アルコールおよびカルボン酸誘導体をそれぞれ独立に表し、さらにヒドロキシル、アミノ、アミド、カルボキシル、エステル、カルボニル、スルフヒドリル、スルホニル、ホスホリル、ブロモ、ヨード、クロロおよびフルオロ誘導体をそれぞれ独立に表し、シランは窒素に共有結合し、シランの空の原子価は、さらなるAもしくはBに結合し、または末端の水素もしくはヒドロキシ基に結合し、またはアルキル、アルケンもしくはアルキンに結合し、または微量の共反応剤に結合している。]
を表し、上記で用いられる場合、Bが、
【化5】

[式中、RおよびRは、水素、アルキル、アルケニル、アルキニル、芳香族、アミノアルキル、アミノアルケニル、アミノアルキニル、ピリジニル、ピリドニルをそれぞれ独立に表し、ならびに1から25個の原子を有するこれらのカルボニル、アルコールおよびカルボン酸誘導体をそれぞれ独立に表し、さらにヒドロキシル、アミノ、アミド、カルボキシル、エステル、カルボニル、スルフヒドリル、スルホニル、ホスホリル、ブロモ、ヨード、クロロおよびフルオロ誘導体をそれぞれ独立に表し、シランは窒素に共有結合し、シランの空の原子価は、さらなるAもしくはBに結合し、または末端の水素もしくはヒドロキシ基に結合し、またはアルキル、アルケンもしくはアルキンに結合し、またはWに結合し、または微量の共反応剤に結合し、Wは、式−R−Si−Rで表され、Rは、RまたはRに対して定義される通りであり、Rは、水素であり、またはC−Cの直鎖、環状もしくは分岐アルキル基であり、Rは、Cl、Br、I、C−Cのアルコキシ、ジアルキルアミノまたはトリフルオロメタンスルホネートであり、aおよびbは、a+b=3を条件としてそれぞれ0から3までの整数であり、Rは、アルキルまたは水素であり、XおよびYは、合計して1.0になる小数として、AまたはBの相対的な量を表す。]
を表す、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記ポリシラザンが以下に示された式
【化6】

を有する、請求項7に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2011−528787(P2011−528787A)
【公表日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−518911(P2011−518911)
【出願日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際出願番号】PCT/US2009/050845
【国際公開番号】WO2010/009311
【国際公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【出願人】(509131764)ウオーターズ・テクノロジーズ・コーポレイシヨン (46)
【Fターム(参考)】