説明

不活性ガス雰囲気で融解処理された試料中の元素分析方法および元素分析装置

【課題】 不活性ガス融解による水素または水素を含む元素分析において、カラムを使用せずに共存ガス成分中から選択的に測定対象を捕集し測定することを可能とし、測定値に対する信頼性の確保し、測定精度の高い元素分析方法および元素分析装置を提供すること。
【解決手段】 サンプルガスに対して所定の二次処理を行うサンプルガス二次処理流路aを設け、サンプルガス処理流路中aに、水素吸蔵合金を収容し加熱手段・冷却手段を有する水素処理部5、およびその下流側に特定のキャリアガスの導入部を配設するとともに、有酸素酸化剤を収容する炭素処理部6、二酸化炭素の除去処理を行う二酸化炭素処理部7、水分の除去処理を行う水分処理部8、のいずれかあるいはこれらのうちのいくつかを配設可能な構成とすることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不活性ガス雰囲気で融解処理された試料中の元素分析方法および元素分析装置に関するもので、特に、水素または水素を含む複数の元素を測定対象とする元素分析方法および元素分析装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉄鋼やアルミニウムなどの金属やセラミックスなどは、素材中に水素、酸素、窒素等の元素が含まれることによって、その特性が大きく異なることから、こうした元素を簡便かつ正確に測定できる元素分析方法および元素分析装置の要請が強い。係る水素または水素を含む複数の元素を測定対象とする元素分析装置においては、通常、不活性ガス融解式分析法が用いられる。具体的には、試料を黒鉛ルツボなどに投入した状態で電極炉や高周波炉などで溶融し、キャリアガスを用いて溶融副産物を種々の検出器(赤外線検出器や熱伝導度セル)内に通し、水素、酸素、窒素等の元素の濃度を決定する。このとき、従来は、水素分析に影響をする一酸化炭素(CO)は、常温の酸化剤や酸化銅を用いて二酸化炭素(CO)に変換後脱CO剤によって除去し、発生する水分(HO)は脱HO剤で除去することによって、水素以外のガス成分を除去させた後、カラムを用いて窒素と水素を分離し測定する方法が採られていた。脱CO剤としては、通常はアスカライト(商品名:シリカゲルなどにNaOHを含浸させた試薬)で二酸化炭素を除去させていた。
【0003】
また、単一サンプルで水素、酸素、及び窒素を測定でき、且つ低濃度のサンプルであっても高精度を提供できる単一流路機器が試みられている。例えば、全て直列に連結された複数の赤外線センサ、一個の触媒コンバータ、一個のスクラバ及び一個の熱伝導度セルを含む単一流路アナライザが提案されている(例えば特許文献1参照)。
【0004】
具体的には、図6に示すように、黒鉛ルツボ62の中でサンプル65を約2000℃で溶融するためにインパルス炉61を用いている。サンプル65の溶融物から得られる粒状物を含まない副産物流は、種々の分子形態での窒素、水素、一酸化炭素、二酸化炭素を含み、出力導管64に供給される。第一の赤外線検出器68は一酸化炭素を検出し、導管67で流量コントローラ66と連結されている。酸素の幾分かは黒鉛ルツボと反応して二酸化炭素を生成し、赤外線検出器68の出力は導管69によって第二の赤外線検出器70に連結され、該検出器70は二酸化炭素を検出し、標本ガス中の二酸化炭素の量に比例した酸素の測定を提供する。比較的高濃度の酸素(即ち、約200ppm超)に関しては、検出器68と70の出力が合計されてサンプルの全酸素量を提供する。サンプル流路は導管72を含み、導管72は従来の触媒74に連結されている。触媒74は約650℃で作動し、水素をガス状の形態のHOに転換し、総ての残留一酸化炭素を二酸化炭素に転換する。触媒74における触媒剤としては、酸化銅、希土類、酸化タングステンが挙げられる。
【0005】
次に、導管76は、ガス状水蒸気及び残留溶融副産物をHO赤外線検出セル80に連結する。HO赤外線検出セル80は、サンプル中に存在する水素から触媒74によって直接転換されるHOを検出するように選択されたフィルタを有する。HO赤外線検出セル80の出力は、導管82によって第二の高感度CO赤外線センサ84に連結されており、センサ84は、比較的低レベルの二酸化炭素(即ち、約200ppm未満)を検出する感度を有し、従って、サンプル中の酸素が検出できることになる。導管86は、赤外線検出器84からの溶融副産物の流れをスクラバ88に連結し、スクラバ88は、キャリアガスヘリウム及び残留COの流れからHOを除去する。導管89は、熱伝導度セル92に連結され、熱伝導度セル92は、サンプル中の窒素の量を表す出力信号を提供する。セルのアウトプットは93で大気中に放出される。
【0006】
【特許文献1】特開2003−185579号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記分析装置では、以下のような課題が生じることがあった。
(1)水素分析に影響をする一酸化炭素を酸化・除去処理した後、カラムを用いて窒素と水素を分離し測定する方法にあっては、分析時間の短縮が困難で、装置構成も複雑であった。
(2)アスカライト(商品名)で二酸化炭素を除去する方法にあっては、試薬が劇物、高価で、また交換が煩雑だった。
(3)窒素分析に影響をする一酸化炭素を、酸化銅を用いて二酸化炭素に変換後二酸化炭素を除去させていたが、高温加熱されている酸化銅の劣化がわからず劣化による異常値が発生、また交換が煩雑であった。
(4)水素を触媒によって酸化し、HOとして検出する方法にあっては、微量水素の測定が難しく、試料流路での吸脱着による誤差や応答遅れ、あるいは校正精度の悪化が大きな課題であった。また、非常に高温の酸化手段を必要とし、HOに転換した後においては流路での吸脱着の影響を防止するために加熱を必要とするという課題があった。
(5)さらに、単一流路に複数の検出器やスクラバ等の処理部を配設する場合において、配設する検出器や処理部の数が多くなると、ガスの拡散や試料流路での吸脱着による誤差や応答遅れが生じ、迅速な測定が難しいという問題があった。
(6)また、水素を熱伝導度検出法で測定する場合は、他成分の干渉影響を最小にするためには、他成分と同時にキャリアガスとの熱伝導度の差を大きくする必要がある。特に融解処理時の不活性ガスとしてヘリウムを用いた場合には、水素とヘリウムの熱伝導度の差が小さいことから、他のキャリアガスの選択(例えばアルゴンガス)およびその使用方法を検討する必要があった。
【0008】
そこで、本発明はこうした問題点を解決し、測定値に対する信頼性の確保し、測定精度の高い元素分析方法および元素分析装置を提供することを目的とする。つまり、不活性ガス融解による水素または水素を含む元素分析において、カラムを使用せずに共存ガス成分中から選択的に測定対象を捕集し測定する元素分析方法および元素分析装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、以下に示す元素分析方法および元素分析装置によって上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに到った。
【0010】
本発明は、不活性ガス雰囲気で融解処理された試料中の水素または水素を含む複数の元素を測定対象とする元素分析方法であって、前記処理によって得られたサンプルガスに対して所定の二次処理を行うサンプルガス二次処理系に、水素吸蔵合金を内蔵し加熱・冷却が可能な水素処理部を配設し、冷却状態の該水素処理部に対して上流からサンプルガスを流通した後、加熱状態の該水素処理部に対して特定のキャリアガスを流通してサンプルガス中の水素を測定することを特徴とする。
【0011】
水素または水素を含む複数の元素を測定対象とする元素分析においては、水素をガス状の形態のHOに転換し赤外線吸光法で測定する場合あるいは熱伝導度検出法で測定する場合のいずれにおいても、上記のような課題を解消する必要があり、水素に対して迅速かつ高い選択性を有する測定を行うことが最も難しい。本発明は、不活性ガスによる融解処理式元素分析におけるバッチ処理測定方法の特質、および水素に対する選択性の高い水素吸蔵合金の特性を活用し、サンプルガス二次処理系に水素吸蔵合金を配設することによって水素に対して迅速かつ高い選択性を有する測定を行うことを可能としたものである。
【0012】
つまり、金属等の試料を不活性ガス(例えばヘリウムガス)雰囲気で融解処理(一次処理)し、得られたサンプルガス中の水素を一時的に冷却状態の水素吸蔵合金に吸蔵させ、その後水素吸蔵合金を加熱状態にして特定のキャリアガス(例えばアルゴンガス)によるパージをしながら測定することによって、迅速かつ高い選択性を有する測定が可能となった。特に、水素以外に酸素や窒素を測定対象とし、水素および窒素を熱伝導度検出法で測定する場合には、不活性ガスとしてヘリウムガス、特定のキャリアガスとしてアルゴンガスを用いることによって高い選択性を確保することができる。
【0013】
本発明は、上記不活性ガス雰囲気で融解処理された試料中の元素分析方法であって、前記測定対象が水素、水素/酸素、水素/窒素、水素/酸素/窒素のいずれかであり、前記サンプルガス二次処理系において(1)水素の除去、(2)一酸化炭素の酸化、(3)二酸化炭素の除去、(4)水分の除去、のいずれかあるいはこれらのうちのいくつかの二次処理をした後に、水素あるいは窒素については熱伝導度検出法または/および酸素については一酸化炭素あるいは二酸化炭素の状態で赤外線吸光法を用いて測定することを特徴とする。
【0014】
既述のように、鉄鋼などの素材中の元素分析においては、水素、酸素、窒素等の測定値が重要な役割を果たす。本発明は、上記のような水素吸蔵合金の選択性を活用して水素の測定の高い精度を確保しながら、簡便な二次処理を行うとともに適切な測定方法を採用することによって、測定系の迅速な応答性を損なうことなく、酸素や窒素の測定の選択性を確保することを可能にするものである。
【0015】
本発明は、上記不活性ガス雰囲気で融解処理された試料中の元素分析方法であって、前記サンプルガス二次処理系に複数の水素処理部を並列に配設し、一方を吸蔵過程としてサンプルガスを流通させ、他方を放出過程として前記キャリアガスを流通させるとともに、そのいずれを熱伝導度検出法を用いた分析計に導入するガスとするかを水素/酸素/窒素のいずれかの測定結果を基に制御することを特徴とする。
【0016】
上記のように、本元素分析方法は、サンプルガス中の水素を一時的に冷却状態の水素吸蔵合金に吸蔵させ、その後水素吸蔵合金を加熱状態にしてキャリアガスによるパージをしながら測定することを基本とする。1つの水素吸蔵合金によってこの処理を行う場合、各工程に所定の時間必要とすることから工程全体の迅速化を図ることは難しい。本発明は、複数の水素処理部を並列に配設し、吸蔵工程と放出工程を同時平行的に行うことを可能とすることによって、工程全体の迅速化を図ることができる。また、こうした工程の切換を水素/酸素/窒素のいずれかの測定結果を基に制御することによって、試料の性状の相違による一次処理での各成分の抽出状態が異なる場合であっても、未測定による誤差の発生を防止することができる。
【0017】
本発明は、不活性ガス雰囲気で融解処理された試料中の水素または水素を含む複数の元素を測定対象とする元素分析装置であって、前記処理によって得られたサンプルガスに対して所定の二次処理を行うサンプルガス二次処理流路を設け、該サンプルガス処理流路中に、水素吸蔵合金を収容し加熱手段・冷却手段を有する水素処理部および特定のキャリアガスの導入部を配設するとともに、有酸素酸化剤を収容する炭素処理部、二酸化炭素の除去処理を行う二酸化炭素処理部、水分の除去処理を行う水分処理部、のいずれかあるいはこれらのうちのいくつかを配設可能な構成とすることを特徴とする。
【0018】
水素吸蔵合金は、低温条件下において水素の高い吸蔵・分別機能を有するとともに、高温条件下において脱離・放出能力も高いという特性を有している。本発明は、こうした機能・特性を活用し、複数の元素が共存するサンプルガスから水素を選択的に捕集し、測定対象として適切な処理を行うとともに、他の共存成分についても無酸素条件下において酸化処理や酸化還元反応あるいは吸着などによる除去処理などの二次処理を行うことによって、測定値に対する信頼性の確保し、測定精度の高い水素または水素を含む元素分析方法および元素分析装置を提供することを可能にした。
【0019】
本発明は、上記不活性ガス雰囲気で融解処理された試料中の元素分析装置であって、前記水素吸蔵合金がAB5系の水素吸蔵合金を基本組成とする水素吸蔵合金であり、これを収容する水素処理部を、前記サンプルガス処理流路中の各処理部についての最上流に配設することを特徴とする。
【0020】
上記のように、元素分析装置の機能面からは、水素吸蔵合金の水素選択性の高さが重要である一方、元素分析装置の構成からは、周囲温度条件で作動する手段によってサンプルガスを二次処理することが好ましい。本発明においては、標準分解温度が50℃程度以下の金属結合型水素化物でいわゆるAB5系の水素吸蔵合金を基本組成とした水素吸蔵合金を利用することにより、高い水素選択性を有するとともに、水素処理部を50℃以上の高温に加熱する必要性がなく、ほぼ常温での脱水素反応が可能となった。従って、サンプルガス二次処理流路における高温処理手段を低減し、装置の簡素化および省電力設計が可能となった。なお、ここでいう「AB5系の水素吸蔵合金」とは、具体的には、ランタン−ニッケル系(以下「La−Ni系」と表記する。)などを基本組成とした水素吸蔵合金(LaNi,MmNiなど)をいい、詳細は後述する。
【0021】
本発明は、上記不活性ガス雰囲気で融解処理された試料中の元素分析装置であって、前記炭素処理部が五酸化ヨウ素を基本組成とする試剤、前記二酸化炭素処理部がゼオライト系モレキュラシーブを基本組成とする試剤を内蔵し、炭素処理部の下流に赤外線吸光法を用いた検出部、二酸化炭素処理部の下流に熱伝導度検出法を用いた検出部、を配設することを特徴とする。
【0022】
上記のように、素材中の元素分析においては、水素のみならず酸素、窒素等の測定値が重要な役割を果たす。このとき、水素処理部、炭素処理部、二酸化炭素処理部、水分処理部、において二次処理を行うとともに、炭素処理部で処理されたサンプルガス中の二酸化炭素を赤外線吸光法によって検出することによって試料中の酸素を、二酸化炭素処理部と水分処理部で処理されたサンプルガスを熱伝導度検出法によって検出することによって試料中の窒素を、それぞれ迅速かつ高い選択性を有して測定することができる。本発明は、さらに炭素処理部に五酸化ヨウ素(I)を基本組成とする試剤を用いることによって、従来酸化銅などを用いた場合のような高温条件を回避し、低温条件で使用することが可能となる。具体的には、五酸化ヨウ素を用いた場合、常温で一酸化炭素を二酸化炭素に変換することができる。また、二酸化炭素処理部にゼオライト系モレキュラシーブ(以下「MS」という。)を基本組成とする試剤を用いることによって、従来アスカライト(商品名)などを用いた場合のような劇物で再生できない物質の使用を回避し、容易に再生することができ、かつ併せて水分の除去も可能となる。さらに、通常MSのような吸着能力の高い吸着剤を用いた場合、本来通過すべき成分が一部吸着されることがあるが、本発明における測定対象となる窒素について影響されないことが検証された。このように、二次処理に適した試剤を利用することによって、酸素や窒素の測定の選択性を確保するとともに、サンプルガス二次処理系の保守を容易にすることを可能となる。
【0023】
本発明は、上記不活性ガス雰囲気で融解処理された試料中の元素分析装置であって、前記水素処理部が、水素吸蔵合金を収容するサンプルガス流通部、該サンプルガス流通部を加熱する加熱手段および該サンプルガス流通部を冷却する冷却手段を有し、該冷却手段が、冷却ガス導入口、障壁部、整流体を介してサンプルガス流通部に吹き付けられ冷却ガス出口から排出される冷却ガスの流路を有するとともに、該冷却ガスとして前記不活性ガスあるいはキャリアガスを使用することを特徴とする。
【0024】
水素吸蔵合金を利用することを特徴の1つとする本発明においては、低温条件での水素の吸蔵と高温条件でのパージの切換を迅速に行うことが、元素分析装置の測定時間の短縮に大きく貢献する。また、一般にこうした温度条件の切換においては冷却に要する時間が多くなる。このとき、冷却手段として水冷やファンによる空冷などの方法を挙げることができるが、前者においては冷却水導入設備や加熱手段との共存などの点において煩雑となり、後者については動力源を必要とする。本発明は、元素分析装置のオペレーションに不可欠な不活性ガスあるいはキャリアガスを冷却ガスとして使用するとともに、水素処理部の構成を水素吸蔵合金に対して均等かつ効率的に冷却ガスが働くようにすることによって、動力源を不要とし、かつ迅速な切換を可能とした。
【0025】
本発明は、上記不活性ガス雰囲気で融解処理された試料中の元素分析装置であって、前記サンプルガス二次処理系に複数の水素処理部を並列に配設し、両者の上流が切換弁を介して熱伝導度検出法を用いた分析計に接続され、両者の下流が切換弁を介して前記サンプルガス二次処理流路とキャリアガスの導入路に接続されるとともに、操作制御部によってこれらの切換弁を制御することを特徴とする。
【0026】
上記のように、1つの水素処理部を用いて、サンプルガス中の水素を一時的に冷却状態の水素吸蔵合金に吸蔵させ、その後水素吸蔵合金を加熱状態にしてキャリアガスによるパージをしながら測定する場合、各工程に所定の時間必要とすることから工程全体の迅速化を図ることは難しい。本発明は、複数の水素処理部を並列に配設し、吸蔵工程と放出工程を同時平行的に行うことを可能とするとともに、各工程を操作制御部によって最適のタイミングで切換弁の接続を制御することによって、工程全体の迅速化を図ることができる。
【発明の効果】
【0027】
以上のように、本発明によって、不活性ガス融解による水素または水素を含む元素分析において、カラムを使用せずに共存ガス成分中から選択的に測定対象を捕集し測定することを可能とし、測定値に対する信頼性の確保し、測定精度の高い元素分析方法および元素分析装置を提供することが可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。この発明に係る不活性ガス雰囲気で融解処理された試料中の水素または水素を含む複数の元素を測定対象とする元素分析装置(以下「本装置」という。)は、サンプルガス二次処理流路を有し、サンプルガス処理流路中に、水素吸蔵合金を収容し加熱手段・冷却手段を有する水素処理部、その下流側に特定のキャリアガスの導入部を配設するとともに、有酸素酸化剤を収容する炭素処理部、二酸化炭素の除去処理を行う二酸化炭素処理部、水分の除去処理を行う水分処理部、のいずれかあるいはこれらのうちのいくつかを配設可能な構成からなる。
【0029】
<本装置の第1構成例>
図1は、本装置の第1構成例として、試料中の元素として水素/酸素/窒素を測定対象とする場合を例示する(以下「本構成」という。)。本構成においては、融解炉1において不活性ガス雰囲気で融解処理し、得られたサンプルガス中の水素および窒素を熱伝導度検出式分析計(TCD)2で測定し、同じく酸素を、一酸化炭素を直接赤外線吸光式分析計(NDIR)3で検出するもしくは、二酸化炭素に変換した後にNDIR3で検出する。各測定対象に対し、適切な二次処理を行うことによって他の共存成分の影響を排除し、かつ各測定成分に対応した測定法を選択することによって測定値に対する信頼性および高い測定精度を有する元素分析方法を確保する場合に適している。具体的な実施態様として、測定手段をTCD2およびNDIRとしてCO分析計3を用いた場合を、その一例として説明する。
【0030】
本構成は、融解炉1における一次処理系10とサンプルガス二次処理流路における二次処理系20とからなり、図1に例示する構成において、以下の手順に沿って分析される。このときの各分析計の出力の変化と各処理部および処理ガスの動作を図2に例示する。
【0031】
(1)一次処理系10
(1−1)黒鉛ルツボ1a内に金属等の試料Sを投入し、この黒鉛ルツボ1aを融解炉1内部にセットする。
(1−2)不活性ガス(例えばヘリウムガス、以下「He」という。)を融解炉1に導入し、黒鉛ルツボ1a内の試料Sを不活性ガス雰囲気とする。融解炉1は、試料Sに対し短時間で高温化することができることが好ましく、電極炉あるいは高周波炉などが好適である。
(1−3)図2(a)に例示するように、ヘリウム雰囲気において融解炉1を作動させ、試料Sを融解処理する。融解処理開始から所定時間(サンプルガス導入時間)Taの間、融解炉1内にHeを流通させ、得られたサンプルガスを、二次処理系20に導入する。このとき、サンプルガス中には、Heをベースとして、水素ガス、窒素ガス、一酸化炭素および微量の二酸化炭素が含まれる。Heは、図2(b)に例示するように、測定成分を含むサンプルガスを二次処理系20から排出するための時間Tb分をさらに流通させる。このとき、所定流量Laに設定することによって、サンプルガスの総量V( V=La×Ta )を設定することができる。
【0032】
(2)二次処理系20による試料中の酸素成分の測定
(2−1)融解炉1からのサンプルガスを、フィルタ4によって清浄化した後、流路aを介して予め冷却され低温状態にある水素処理部5に導入する。ここで、サンプルガス中の水素は、内蔵された水素吸蔵合金(図示せず)に吸蔵され、水素が除去されたサンプルガスが水素処理部5から供出される。
(2−2)水素処理部5からのサンプルガスを、予め所定の温度に加熱した炭素処理部6に導入する。ここで、サンプルガス中の一酸化炭素は、内蔵された有酸素酸化剤(図示せず)によって酸化され二酸化炭素に変換される。二酸化炭素を含むサンプルガスが炭素処理部6から供出される。
(2−3)炭素処理部6からのサンプルガスを、CO分析計3に導入する。これによって、サンプルガス中の二酸化炭素を測定することができる。このとき、図2(c)に例示するように、サンプルガス導入時間Taの間の測定値を積算することによって、試料中の酸素成分を検出することができる。
【0033】
(3)二次処理系20による試料中の窒素成分の測定
(3−1)上記CO分析計3からのサンプルガスを、二酸化炭素処理部7に導入する。ここで、サンプルガス中の二酸化炭素が除去されたサンプルガスが二酸化炭素処理部7から供出される。
(3−2)二酸化炭素処理部7により発生した水分を含むサンプルガスを、水分処理部8に導入する。ここで、サンプルガス中の水分が除去されたサンプルガスが水分処理部8から供出される。
(3−3)水分処理部8からのサンプルガスを、TCD2に導入する。これによって、サンプルガス中の窒素を測定することができる。このとき、図2(d)に例示するように、サンプルガス導入時間Taの間の測定値を積算することによって、試料中の窒素成分を検出することができる。
【0034】
(4)二次処理系20による試料中の水素成分の測定
(4−1)融解処理開始からTa+Tb経過後、図2(e)に例示するように、水素処理部5の上流に設置された切換弁9aおよび下流に設置された切換弁9bを作動させ、キャリアガス導入路cからキャリアガス(例えばアルゴンガス、以下「Ar」という。)を水素処理部5に導入し、内部の流路をパージする。ここで、Arの導入は、図1に例示するように、水素処理部5の下流から行うことが好ましい。吸蔵過程と放出過程を向流とすることによって、効率的に各過程を機能させることができる。ただし、十分なパージ時間が確保できる場合には同一方向からの処理する構成とすることが可能である。
(4−2)所定時間Tcのパージ完了後、図2(f)に例示するように、水素処理部5を加熱し高温状態にする。
(4−3)所定流量LbのArを水素処理部5に導入する。このとき、水素処理部5の温度が十分に上昇するまでArの導入を一端停止することも可能である。水素吸蔵合金に吸蔵されていた水素が脱着し、水素を含むキャリアガスが、水素処理部5から供出される。
(4−4)水素処理部5からのキャリアガスを、所定時間Td、流路bを介してTCD2に導入する。これによって、キャリアガス中の水素を測定することができる。このとき、図2(d)に例示するように、所定時間(キャリアガス導入時間)Tdの測定値を積算することによって、試料中の水素成分を検出することができる。
【0035】
以上の操作において、融解炉1を含む各処理部は、操作制御部30によって、事前の準備およびその動作を調整・制御されることが好ましい。試料の組成や性状、あるいは特異な分析条件などの入力操作を可能にし、こうした入力を基に、融解炉1における電極炉あるいは高周波炉の作動やHeあるいはArの導入量など、元素分析装置の全体を制御するとともに、CO分析計3およびTCD2からの出力信号に基づく濃度演算などを行うことが好ましい。
【0036】
また、上記の各所定時間Ta〜Tdは、測定に必要なサンプルガスの総量Vなどから予め設定することができるが、CO分析計3やTCD2の出力濃度や各処理部の温度からHeやArの導入の起点・終点を設定することも可能である。上記(1)〜(4)の操作例の場合、例えば、図2(a)のように、最初に測定成分の測定を行うCO分析計3の測定値がゼロ近傍あるいは測定値の変化率がゼロとなった時点を、サンプルガス導入時間Taとし、TCD2の測定値がゼロ近傍あるいは測定値の変化率がゼロとなった時点を、キャリアガス導入時間Tbとすることによって、試料の性状の相違による一次処理での各成分の抽出状態が異なる場合であっても、未測定による誤差の発生を防止することができる。
【0037】
ここで、水素処理部5は、二次処理系20において最上流あるいは本装置におけるフィルタ4の直下流であることが好ましい。水素吸蔵合金が有する、他の共存成分による被毒の影響が殆どなく、選択的に水素を吸蔵できるという特性を有効に活かすことができる。水素吸蔵合金に関する詳細は後述する。
【0038】
また、水素処理部5は、水素吸蔵合金を内蔵し加熱・冷却が可能な構造を有するものであれば、特に制限はないが、例えば図3に示すような構造が好ましい。具体的には、水素吸蔵合金51を収容するサンプルガス流通部52、サンプルガス流通部52を加熱する加熱手段53を有するとともに、冷却ガス導入口54、障壁部55、整流体56を介してサンプルガス流通部52に吹き付けられ冷却ガス出口57から排出される冷却ガスの流路を有する冷却手段を有する。障壁部55によって導入ガス流を分散し、整流体56によって導入ガス流を均等に分散し、ガス流サンプルガス流通部52に対して均等かつ効率的に冷却ガスが働くようにすることによって、効率的かつ迅速な冷却が可能となる。また、冷却ガスとして、本装置のオペレーションガスであるHeあるいはArを使用することが好ましい。動力源を不要とし、かつ迅速な冷却が可能となる。
【0039】
炭素処理部6は、サンプルガスが酸素を有していない不活性ガスをベースとしていることから、無酸素条件下で一酸化炭素を二酸化炭素に変換できる酸化反応性を有する物質を基本組成とする試剤を利用する必要がある。従前の高温条件下での作動を必要とする酸化銅などよりも、低温条件下での作動が可能な五酸化ヨウ素を基本組成とする試剤を用いることが好ましい。五酸化ヨウ素を用いた場合、常温で一酸化炭素を二酸化炭素に変換することができる。また、炭素処理部6を水素処理部5の下流に配設することによって、水素の酸化に伴う水分の発生を回避することができる。
【0040】
二酸化炭素処理部7は、二酸化炭素の除去ができ、窒素に対して反応や吸着等によるロスの発生がなければ、特に試剤の制限はない。しかしながら、従前のアスカライト(商品名)などを用いた場合には、劇物であり再生できないこととともに、空気中には通常数100ppmの二酸化炭素が存在していることから、未使用時における保管や使用時の操作において空気との接触を極力避けることが必要となる。本装置においては、MS(ゼオライト系モレキュラシーブ)を基本組成とする試剤を用いることが好ましい。アスカライト(商品名)などを用いた場合の課題を回避し、容易に再生することができ、かつ併せて水分の除去も可能となる点においても優れている。また、本装置の測定対象である窒素についても、後述する実験データのように殆どロスもなく影響されないことが検証された。
【0041】
水分処理部8は、窒素の測定に際して誤差となる水分を除去するもので、窒素に対して反応や吸着等によるロスの発生がなければ、特に試剤の制限はない。例えば、過塩素酸マグネシウムや塩化カルシウムなどを基本組成とする試剤を挙げることができる。特に、二酸化炭素処理部7に用いた試剤が二酸化炭素を吸着した際に発生する水分について、除去を図るためである。本装置では、さらに上記のように、MSを基本組成とする試剤を用いることによって、二酸化炭素とともに水分を除去することが可能となり、別途の水分処理部8の設置を省略することができる。
【0042】
<本装置の第2構成例>
図4(A)は、本装置の第2構成例として、試料中の元素として水素/酸素/窒素を測定対象とし、バッチ測定の繰り返しが可能な構成を例示する。第2構成例は、第1構成例の構成要素を用いつつ、2つの水素処理部5a,5bを配設し、両者の上流が切換弁9a,9aを介してTCD2に接続され、両者の下流が切換弁9b,9bを介して流路a’(サンプルガス二次処理流路に相当)とキャリアガスの導入路に接続される。一方を吸蔵過程としたときに他方を放出過程とすることによって並列的に機能させることによって、各過程を含む工程全体の迅速化を図ることが可能となった。
【0043】
第2構成例は、第1構成例同様、融解炉1における一次処理系10とサンプルガス二次処理流路における二次処理系20とからなり、図4(A)に例示する構成において、以下の手順に沿って分析される。具体的な実施態様として、上記同様、測定手段をTCD2およびNDIRとしてCO分析計3を用い、二酸化炭素処理部7にMSを内蔵し、水分処理部を省略した場合を、その一例として説明する。このときの各分析計の出力の変化と各処理部および処理ガスの動作を図5に例示する。
【0044】
(1)一次処理系10
(1−1)〜(1−3)につき、第1構成例と同様であり、説明は省略する。ただし、第1構成例における図2(a)および(b)は、図5(a)および(b)に相当する。
【0045】
(2)二次処理系20による試料中の酸素成分の測定
(2−1)図4(B)に例示するように、融解炉1からのサンプルガスを、フィルタ4によって清浄化した後、切換弁9aおよび流路a1を介して予め冷却され低温状態にある水素処理部5aに導入する。ここで、サンプルガス中の水素は、内蔵された水素吸蔵合金(図示せず)に吸蔵され、水素が除去されたサンプルガスが水素処理部5aから供出される。
(2−2)水素処理部5aからのサンプルガスを、切換弁9bおよび流路a3を介して予め所定の温度に加熱した炭素処理部6に導入する。ここで、サンプルガス中の一酸化炭素は、内蔵された有酸素酸化剤(図示せず)によって酸化され二酸化炭素に変換される。二酸化炭素を含むサンプルガスが炭素処理部6から供出される。
(2−3)炭素処理部6からのサンプルガスを、CO分析計3に導入する。これによって、サンプルガス中の二酸化炭素を測定することができる。このとき、図5(c)に例示するように、サンプルガス導入時間Taの間の測定値を積算することによって、試料中の酸素成分を検出することができる。
【0046】
(3)二次処理系20による試料中の窒素成分の測定
(3−1)図4(B)に例示するように、上記CO分析計3からのサンプルガスを、MSが内蔵された二酸化炭素処理部7に導入する。ここで、サンプルガス中の二酸化炭素および水分が除去されたサンプルガスが二酸化炭素処理部7から供出される。
(3−2)二酸化炭素処理部7からのサンプルガスを、切換弁9cを介してTCD2に導入する。これによって、サンプルガス中の窒素を測定することができる。このとき、図5(d)に例示するように、サンプルガス導入時間Taの間の測定値を積算することによって、試料中の窒素成分を検出することができる。
(3−3)またこのとき、測定対象となる二酸化炭素や窒素が炭素処理部6を通過した場合には、Heを水素処理部5aに流す必要はなく、サンプルガス中の窒素がTCD2を完全に通過するように押し出しを行えば十分である。従って、図4(C)に例示するように、切換弁9aおよび切換弁9bを作動させて水素処理部5bにHeを導入し、切換弁9bおよびCO分析計3を介して、Heを継続してTCD2に導入する。また、本操作によって、水素処理部5bのHeによるパージが可能となり、次のサンプル中の水素吸蔵操作の準備を行うことができる。
【0047】
(4)二次処理系20による試料中の水素成分の測定
(4−1)融解処理開始からTa経過後(Ta+Tb)経過前に、図5(e)に例示するように、切換弁9aおよび切換弁9bを作動させ、図4(C)に例示するように、キャリアガス導入路cからArを水素処理部5aに導入し、内部の流路をパージする。パージに用いられたArは、切換弁9dを介して排出する。
(4−2)所定時間Tcのパージ完了後、図5(f)に例示するように、水素処理部5aを加熱し高温状態にしてキャリアガス中に水素を放出させるとともに、図4(D)に例示するように、切換弁9cおよび9dを作動させ、TCD2に導入する。このとき、水素処理部5aの温度が十分に上昇するまでArの導入を一端停止することも可能である。水素吸蔵合金に吸蔵されていた水素が脱着し、水素を含むキャリアガスが、水素処理部5aから供出される。
(4−3)水素処理部5aからのキャリアガスを、所定時間Td、流路bを介してTCD2に導入する。これによって、キャリアガス中の水素を測定することができる。このとき、図5(d)に例示するように、所定時間(キャリアガス導入時間)Tdの測定値を積算することによって、試料中の水素成分を検出することができる。
(4−4)またこのとき、図4(D)に例示するように、流路a2−流路a3は、切換弁9cを作動させることによって流路b−切換弁9d−TCD2と隔離することができることから、次の測定サイクルの操作およびを開始することができる。
【0048】
(5)次の測定サイクルにおける一次処理系10の操作
(5−1)〜(5−3)につき、上記(1−1)〜(1−3)と同様であり、説明は省略する。
【0049】
(6)次の測定サイクルにおける二次処理系20による試料中の酸素成分の測定
(6−1)図4(D)に例示するように、二次処理系20による試料中の水素成分の測定と並行して、次の測定サイクルにおける二次処理系20による試料中の酸素成分の測定を行うことができる。
(6−2)つまり、二次処理系20による試料中の窒素成分の測定後、所定時間Teに融解炉1からのサンプルガスを、フィルタ4によって清浄化した後、切換弁9aおよび流路a2を介して予め冷却され低温状態にある水素処理部5bに導入する。ここで、サンプルガス中の水素は、内蔵された水素吸蔵合金(図示せず)に吸蔵され、水素が除去されたサンプルガスが水素処理部5bから供出される。
(6−3)以下の操作は、(2−2)〜(2−3)と同様であり、説明は省略する。
【0050】
(7)次の測定サイクルにおける二次処理系20による試料中の窒素成分の測定
図4(E)に例示するように、上記(3)における流路a1とa2、水素処理部5aと5bを入れ替え、切換弁9a,9aおよび切換弁9b,9bの作動を逆にすることによって、(3)と同様、水素処理部5bを利用した試料中の窒素成分の測定機能を果たすとともに、水素処理部5aのArによるパージ操作機能を確保することができる。
【0051】
以下、上記(4)〜(7)を繰り返すことによって、吸蔵工程と放出工程を同時平行的に行うことを可能とするとともに、各工程を操作制御部によって最適のタイミングで切換弁の接続を制御することによって、工程全体の迅速化を図ることができる。また、各工程の切換えごとに、水素処理部5aおよび5bのHeあるいはArによるパージが可能となり、次の工程の操作の準備を行うことができることから、各工程内の処理を確実に行うことができる。
【0052】
また、融解炉1を含む各処理部は、第1構成例と同様、操作制御部30によって、事前の準備およびその動作を調整・制御されることが好ましい。さらに、各所定時間Ta〜Teは、第1構成例と同様、測定に必要なサンプルガスの総量Vなどから予め設定することができるが、CO分析計3やTCD2の出力濃度や各処理部の温度からHeやArの導入の起点・終点を設定することも可能である。
【0053】
上記は、複数の水素処理部5a,5bを配設した構成例について挙げたが、これに加えて、同様に複数の処理部を並列的に配設し、一方を機能させながら、他方を再生可能とする構成を選択することも可能である。例えば、炭素処理部6として酸化銅を基本成分とする試剤を使用した場合、二酸化炭素処理部7または水分処理部8としてMSを使用した場合を挙げることができる。前者については、高温条件下において、空気など有酸素ガスを再生ガスとして使用することによって再生することが可能であり、後者については、同じく高温条件下で、上記同様オペレーションガスによって再生することができる。
【0054】
<水素吸蔵合金の使用について>
水素処理部5に内蔵される水素吸蔵合金とは、水素に出会うと発熱しながら水素を吸収し、逆に熱を加えると水素を放出する可逆特性を有する合金をいい、具体的には、チタン−鉄系、La−Ni系、マグネシウム−ニッケル系などの合金を挙げることができる。水素吸蔵合金の種類によって、金属結合型水素化物、共有結合型水素化物あるいはイオン結合型水素化物などの金属水素化物を形成し、高圧ガス容器に封入した場合に比較して、約6〜7倍の密度の水素収容能力を有している。
【0055】
水素吸蔵合金の代表的な組成について表1に示す。
【表1】

【0056】
特に、本発明における検証結果では、いわゆるAB5系の水素吸蔵合金を用いることによって、低温での水素の安定な吸蔵機能を確保することが可能となった。ここで、AB5系の水素吸蔵合金とは、Aとして希土類元素、ニオブ、ジルコニウムあるいはミッシュメタルMm(発火合金:希土類元素同士あるいはそれに他元素を添加した合金やZn−Sn系あるいはU−Fe系合金などをいう)などの元素を1としたときに、Bとして触媒効果を持つ遷移元素(Al、Co、Cr、Fe、Mn、Ni、Ti、V、ZnあるいはZrなど)を5含む合金をベースとしたものであり、表1におけるLaNiやMmNiやCaNiなどを挙げることができる。
【0057】
また、こうした高密度の水素吸蔵特性に加え、水素吸蔵合金には、以下に示すような種々の優れた特性があり、本発明においては、その特性を有効に活かすことによって、優れた機能を実現している。
【0058】
(1)超高純度で安定した水素を放出することが可能
水素吸蔵合金は、水素と選択的に反応して高純度の金属水素化物を形成するとともに、高純度の原料水素を吸蔵することから、超高純度(99.999%以上)で安定した水素の放出が可能となる。従って、本装置のように、サンプルガス中の水素成分を一旦バッチ的に吸蔵した後、Heを用いて水素吸蔵合金から放出された場合、Heを除く水素の純度は非常に高く、これをTCD2によって測定することによって、選択性の高い高精度の測定値を得ることができる。
【0059】
(2)吸蔵状態における気相圧力を低くすることが可能
操作温度における吸蔵時の使用圧力は常圧以下であり、放出時の解離圧が0.2〜0.5MPa程度であることからHeをキャリアとする場合には、略常圧において操作することが可能である。
【0060】
(3)低温での水素供給操作が可能
上記のように、水素を酸化する方法の場合には高温での操作が必要となり、供給電源の容量のアップや高温の形成・維持のための部材の追加などによって小型化に対する障害となる。本発明においては、標準分解温度が50℃程度以下の金属結合型水素化物でAB5系を基本組成とした水素吸蔵合金を利用することが好適である。これによって、水素処理部5を、100℃を超えるような高温に加熱する必要性がなく、ほぼ常温での脱水素反応が可能となった。従って、分析計および配管系を高温型仕様にすることなく、測定装置の簡素化および省電力設計が可能となった。
【0061】
(4)初期活性が容易で、迅速な吸蔵・放出が可能
初期活性とは水素を初めて金属に吸蔵することをいい、水素吸蔵合金は、吸蔵に対する高い活性度を有するとともに、温度を操作要素として吸蔵した水素を迅速に放出することができる。金属水素化物が有する特性を有効に活かしたもので、可逆的に何度も利用することができることから、高い資源の利用性を有し、ランニングコストを抑えることも可能となる。また、水素吸蔵合金における吸蔵および放出過程の間での平衡水素圧力の差(ヒステリシス)が小さい点についても、可逆的に再使用を行う操作上優れた特性といえる。さらに金属を主体とした合金であることから、良好な熱伝導性を有しており加熱あるいは冷却などの操作を容易に行うことができる。
【0062】
(5)耐被毒性
水素吸蔵合金は、酸素、一酸化炭素、水分などの不純物に対する被毒に強く、優れた耐食性を有している。つまり、未使用状態においても水素供給手段に対して特別な処理を行う必要がなく、移動後に速やかな使用条件を確保することが可能である。
【0063】
以上の利点を生かすことによって、本発明の目的である、複数の他成分共存下における水素の選択性の高い分離手段の確保ができるとともに、安全性を確保しながら迅速な操作の切換が可能となる。特に、標準分解温度が50℃程度以下の金属結合型水素化物でAB5系を基本組成とした水素吸蔵合金を利用することによって、水素処理部5を高温に加熱する必要性がなく、ほぼ常温での水素の吸蔵・放出が可能となる。
【0064】
<ゼオライト系モレキュラシーブ(MS)の特性>
試験用試料として鉄鋼の標準試料を用い、実機においてMSの特性試験を行った。具体的には、二酸化炭素処理部7としての機能をアスカライト(商品名)との比較試験で検証し、水分処理部8としての機能を水分処理部8の有無の比較試験によって検証した。
【0065】
〔実験条件〕
(1)アスカライト(商品名)との比較試験
(1−1)使用機器:電極炉を用いた不活性ガス融解式の元素分析装置(堀場製作所製、型式:EMGA−620W、測定対象:窒素・酸素)を使用した。
(1−2)試料:含有する酸素と窒素の組成の異なる3つの鉄鋼標準試料を1.0g使用した。
(1−3)脱ガス処理:黒鉛ルツボを用い、最初に7.0kW/30sec+OFF/5sec+5.5kW/20sec印加し脱ガス処理を行った。
(1−4)ガス処理:二酸化炭素処理部7に試剤としてMSとアスカライト(商品名)を各々セットし、ガス処理を行った。
(1−5)分析:黒鉛ルツボに試料を投入し、不活性ガスとしてヘリウムを400mL/min導入した条件下で、5.5kW/75sec印加した。
(1−6)測定値演算:5回の測定値を平均し、表2に纏めた。
【0066】
(2)水分処理部8の有無の比較試験
(2−1)使用機器:電極炉を用いた不活性ガス融解式の元素分析装置(堀場製作所製、型式:EMGA−620W、測定対象:窒素・酸素)を使用した。
(2−2)試料:含有する酸素と窒素の組成の異なる3つの鉄鋼標準試料を1.0g使用した(SS−2−47、SS−3−19、SS−4−57)。
(2−3)脱ガス処理:黒鉛ルツボを用い、最初に7.0kW/30sec+OFF/5sec+5.5kW/20sec印加し脱ガス処理を行った。
(2−4)ガス処理:試剤としてMSを用いた二酸化炭素処理部7の下流に、試剤として過塩素酸マグネシウムを用いた水分処理部8をセットした場合およびセットしなかった場合について、ガス処理を行った。
(2−5)分析:黒鉛ルツボに試料を投入し、不活性ガスとしてヘリウムを400mL/min導入した条件下で、5.5kW/75sec印加した。
(2−6)測定値演算:5回の測定値を平均し、表2に纏めた。
【0067】
(3)実験結果
(3−1)アスカライト(商品名)との比較試験
アスカライト(商品名)に比べ、MSにCO除去能力がなければNの値に影響するが、実験結果から酸素および窒素の値ともアスカライトとほぼ同じ値となっており、同等の処理剤として使用することが可能である。
【0068】
【表2】

【0069】
(2−2)水分処理部8の有無の比較試験
二酸化炭素処理部7の後段に水分処理部7が設けられた場合と比較して、測定値に差がないことから、MSが脱水剤の役割も果たしていることを確認することができた。
【0070】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0071】
以上は、不活性ガス融解による水素または水素を含む元素分析において、主として測定対象が水素、水素/酸素、水素/窒素、水素/酸素/窒素のいずれかの場合について述べたが、同様の技術は、試料中の硫黄を測定対象とする場合、あるいは不活性ガス融解式以外の一次処理方法を用いた元素分析方法あるいは元素分析装置についても適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】本発明に係る元素分析装置の第1構成例を示す説明図。
【図2】第1構成例に係る処理部および処理ガスの動作を例示する説明図。
【図3】本発明に係る水素処理部の構成を概略的に例示する説明図。
【図4】本発明に係る元素分析装置の第2構成例を示す説明図。
【図5】第2構成例に係る処理部および処理ガスの動作を例示する説明図。
【図6】従来技術に係る元素分析装置の構成を例示する説明図。
【符号の説明】
【0073】
1 融解炉
1a 黒鉛ルツボ
2 熱伝導度検出式分析計(TCD)
3 赤外線吸光式分析計(NDIR、CO分析計)
4 フィルタ
5,5a,5b 水素処理部
6 炭素処理部
7 二酸化炭素処理部
8 水分処理部
9a,9a,9a,9b,9b,9b,9c,9d 切換弁
10 一次処理系
20 二次処理系
30 操作制御部
a,a1,a2,a3,b,c 流路
S 試料
Ta,Tb,Tc,Td,Te 所定時間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
不活性ガス雰囲気で融解処理された試料中の水素または水素を含む複数の元素を測定対象とする元素分析方法であって、前記処理によって得られたサンプルガスに対して所定の二次処理を行うサンプルガス二次処理系に、水素吸蔵合金を内蔵し加熱・冷却が可能な水素処理部を配設し、冷却状態の該水素処理部に対して上流からサンプルガスを流通した後、加熱状態の該水素処理部に対して特定のキャリアガスを流通してサンプルガス中の水素を測定することを特徴とする不活性ガス雰囲気で融解処理された試料中の元素分析方法。
【請求項2】
前記測定対象が水素、水素/酸素、水素/窒素、水素/酸素/窒素のいずれかであり、前記サンプルガス二次処理系において(1)水素の除去、(2)一酸化炭素の酸化、(3)二酸化炭素の除去、(4)水分の除去、のいずれかあるいはこれらのうちのいくつかの二次処理をした後に、水素あるいは窒素については熱伝導度検出法または/および酸素については一酸化炭素あるいは二酸化炭素の状態で赤外線吸光法を用いて測定することを特徴とする請求項1記載の不活性ガス雰囲気で融解処理された試料中の元素分析方法。
【請求項3】
前記サンプルガス二次処理系に複数の水素処理部を並列に配設し、一方を吸蔵過程としてサンプルガスを流通させ、他方を放出過程として前記キャリアガスを流通させるとともに、そのいずれを熱伝導度検出法を用いた分析計に導入するガスとするかを水素/酸素/窒素のいずれかの測定結果を基に制御することを特徴とする請求項1または2記載の不活性ガス雰囲気で融解処理された試料中の元素分析方法。
【請求項4】
不活性ガス雰囲気で融解処理された試料中の水素または水素を含む複数の元素を測定対象とする元素分析装置であって、前記処理によって得られたサンプルガスに対して所定の二次処理を行うサンプルガス二次処理流路を設け、該サンプルガス二次処理流路中に、水素吸蔵合金を収容し加熱手段・冷却手段を有する水素処理部および特定のキャリアガスの導入部を配設するとともに、有酸素酸化剤を収容する炭素処理部、二酸化炭素の除去処理を行う二酸化炭素処理部、水分の除去処理を行う水分処理部、のいずれかあるいはこれらのうちのいくつかを配設可能な構成とすることを特徴とする不活性ガス雰囲気で融解処理された試料中の元素分析装置。
【請求項5】
前記水素吸蔵合金がAB5系の水素吸蔵合金を基本組成とする水素吸蔵合金であり、これを収容する水素処理部を、前記サンプルガス処理流路中の各処理部についての最上流に配設することを特徴とする請求項4記載の不活性ガス雰囲気で融解処理された試料中の元素分析装置。
【請求項6】
前記炭素処理部が五酸化ヨウ素を基本組成とする試剤、前記二酸化炭素処理部がゼオライト系モレキュラシーブを基本組成とする試剤を内蔵し、炭素処理部の下流に赤外線吸光法を用いた検出部、二酸化炭素処理部の下流に熱伝導度検出法を用いた検出部、を配設することを特徴とする請求項4または5記載の不活性ガス雰囲気で融解処理された試料中の元素分析装置。
【請求項7】
前記水素処理部が、水素吸蔵合金を収容するサンプルガス流通部、該サンプルガス流通部を加熱する加熱手段および該サンプルガス流通部を冷却する冷却手段を有し、該冷却手段が、冷却ガス導入口、障壁部、整流体を介してサンプルガス流通部に吹き付けられ冷却ガス出口から排出される冷却ガスの流路を有するとともに、該冷却ガスとして前記不活性ガスあるいはキャリアガスを使用することを特徴とする請求項4〜6のいずれかに記載の不活性ガス雰囲気で融解処理された試料中の元素分析装置。
【請求項8】
前記サンプルガス二次処理系に複数の水素処理部を並列に配設し、両者の上流が切換弁を介して熱伝導度検出法を用いた分析計に接続され、両者の下流が切換弁を介して前記サンプルガス二次処理流路とキャリアガスの導入路に接続されるとともに、操作制御部によってこれらの切換弁を制御することを特徴とする請求項4〜7のいずれかに記載の不活性ガス雰囲気で融解処理された試料中の元素分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−3050(P2008−3050A)
【公開日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−175476(P2006−175476)
【出願日】平成18年6月26日(2006.6.26)
【出願人】(000155023)株式会社堀場製作所 (638)
【Fターム(参考)】