説明

不溶性薬剤の制御放出のための、シクロデキストリンおよびポリ(アミドアミン)に基づく超分岐ポリマー

ビスアクリルアミドへのα−、β−またはγ−シクロデキストリンおよびアミンのマイケル型重付加により得ることができる超分岐水溶性ポリマー。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬剤の制御放出系に関し、特に、疎水性の高い薬剤、特にタキサン(パクリタキセルまたはドセタキセル)、カンプトテシンおよびその誘導体ならびにエトポシドのような抗腫瘍薬剤と複合して水媒体に溶解させ、それらを注射によっても投与し得るようにすることができる親水性ポリマーの使用を含むものである。現在まで、これらの薬剤は、特定の種類の癌に対して最も効果的であると知られているものであるが、それらの投与にはその不溶性が原因で重大な問題がある。本発明は、同じ溶解制限を示すアシクロビルや関連薬剤のような難溶性抗ウイルス薬剤にも適用される。
【背景技術】
【0002】
文献に記載の多くの努力にかかわらず、タキサン(パクリタキセルまたはドセタキセル)、カンプトテシンおよびその誘導体、エトポシドおよび難水溶性抗ウイルス化合物(例えば、アシクロビル)の投与の問題は、なお、満足できる程度に解決されるべきものである。前述の全ての薬剤が、患者において重度の副作用、例えば、末梢性神経障害、徐脈、粘膜および静脈系への毒性を誘発する。
【0003】
例えば、パクリタキセルは、現在、エタノール50%を含むヒマシ油ポリエトキシル化誘導体Cremophor EL(登録商標)を用いて2mg/mlの濃度で処方される。製剤は注射により投与される。パクリタキセルへの重度の過敏症は、通常、その投与に用いられるCremophor EL(登録商標)に関与している。その結果、過敏症の危険を低下させるために、パクリタキセルの投与の前に、患者は、経口的にデキサメタゾンを用いて、または静脈内にジフェンヒドラミンおよびラニチジンを用いて前処理を受ける。Cremophor(登録商標)の使用を避ければ、患者へのこの前処理の必要および関連する危険性はないだろう。さらに、パクリタキセル治療の費用が著しく低下する。
【0004】
患者へのタキサンの投与を改良するための多くの努力が文献に記載されてきているが、今まで、決定的改良を明確に提供したものは無かった。前記努力のうち、以下のものが挙げられる。
【0005】
パクリタキセルを加えたブロックコポリマーのナノ粒子、例えば、メトキシ−PEG−ポリカプロラクトン(非特許文献1)またはメトキシ−PEG−ポリ乳酸−コ−グリコール酸(PLGA)(非特許文献2)または疎水化ポリ(L−リシンシトラミドイミド)(非特許文献3)の生分解性化合物。
【0006】
ポリグルタミン酸、ポリアスパラギン酸またはポリリシンのような水溶性ポリマーと組み合わされたポリマー(特許文献1)、またはポリエチレングリコール誘導体と組み合わされたプロドラッグ。
【0007】
パクリタキセルとシクロデキストリンとの包接錯体。シクロデキストリンは、α−1−4結合により結合された6−8グリコシド単位を有する環式オリゴ糖であり、その構造中に疎水性空隙を有することを特徴とし、水不溶性薬剤を可溶化することができる。例えば、2−6−ジメチル−β−シクロデキストリンは、パクリタキセルと包接化合物を形成することが知られており、その溶解度は2.3モル/L(約3g/L)である(非特許文献4)。タキサンと修飾シクロデキストリンとの包接錯体の主な欠点は、水性媒体への乏溶性である。実際、水溶性溶媒、例えばアルコール中のパクリタキセル溶液を、シクロデキストリン誘導体の水溶液と混合することによる錯体の形成は、当初は有望であると思われていた。しかしながら、得られる透明溶液は、やがて、不溶性パクリタキセルを再放出し、それが分かれて結晶するときに錯体から取り去られる。パクリタキセル溶液を凍結乾燥し続いて残渣を水中に再溶解することは、この場合でもパクリタキセルが結晶して除去されるので、やはり役に立たない。この問題は、シクロデキストリンダイマーを用いてある程度解決されるのみである。さらに、これらのダイマー中において個々のシクロデキストリンがアミノ架橋により相互に結合されて、分子にある程度の毒性を与える。
【0008】
シクロデキストリン基がポリマー鎖に沿ってランダム分布しているシクロデキストリン直鎖ポリマー。これらのポリマーは、パクリタキセルまたは類似の薬剤との錯体の形成において、遊離シクロデキストリンと同じ制限を受ける。何故なら、ポリマー中に存在する異なるシクロデキストリン単位は、溶液中のポリマーが比較的拡張した構造を得たときには、ポリマー鎖に沿って分布することにより離れることで、それらの連携が阻害されるからである。
【0009】
カンプトテシンについては、その安定性(ラクトン環のカルボキシレート型への開環)および溶解性の問題を克服するために、複数の手法が検討されてきた。特に、α−シクロデキストリンとの錯体形成により、カンプトテシンの安定性が向上し、それにより、溶解性および細胞毒性プロフィールが改善される(非特許文献5)。
【0010】
アシクロビルは、半減期が短く(約2時間)、その吸収は完全ではない(生物学的利用能が約15〜30%である)。その限定された経口的生物学的利用能故に、アシクロビルは一日当たり5回(4時間毎に200mg)経口的に摂取しなくてはならず、一方、静脈内製剤(5mg/kg)は少なくとも5日間、8時間毎に投与しなくてはならない。さらに、アシクロビルの静脈内一回量は、尿細管内での沈降を防止するために、ゆっくりと1時間かかって投与すべきである。
【0011】
抗ウイルス薬剤の効能を増加させるために、例えばポリ(イソブチルシアノアクリレート)ナノカプセル中への封入(非特許文献6)のような種々の送達手法が提案された。粒状送達系は、抗ウイルス薬剤の徐放を促進することができた。局所投与用のアシクロビル含有PLGAミクロ粒子が開発され(非特許文献7)、アシクロビル付加ナノ粒子は、培養細胞においてI型単純ヘルペスウイルスに対する効能増加を示した(非特許文献8)。79%までのアシクロビルを含む、デキストランまたはキトサン上にグラフトされたアクリルアミドの半相互貫入ポリマーネットワーク微粒子を、エマルジョン−架橋法により調製した(非特許文献9)。
【0012】
アシクロビルの経口的生物学的利用能を向上させるためのプロドラッグも設計された(非特許文献10)。
【0013】
β−シクロデキストリンとのポリ(アミドアミン)(PAA)コポリマーは、11%w/wまでの薬剤を錯化させることにより可溶化することができ、アシクロビル錯体は、培養細胞においてI型単純ヘルペスウイルスに対して、遊離薬剤よりも高い抗ウイルス活性を示す(非特許文献11)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】US 6441025
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】S.Yeon Kim,et al.Biomaterials 22 (2001 1697−1704)
【非特許文献2】Ji−Heung Kim et al.Polymers for advanced technologies,10 649,1999
【非特許文献3】M.Vert et al.Journal of Bioactive and compatible polymers,Vol.15 No.2,99−114(2000)
【非特許文献4】H.Hamahada et al.,Journal of Bioscience and Bioengineering,2006,102,369−371
【非特許文献5】Kang et al.Eur.J.Pharm.Biopharm.2002,15,163−170
【非特許文献6】Hillaireau et al.Int,J,Pharm.2006,324,37−42
【非特許文献7】de Jalon,2001,226,181,184
【非特許文献8】de Jelon et al.Europ.J.Pharm.Biopharm.(2003)56,183−187
【非特許文献9】Rokhade et al.Carbohydrate Polym.(2007)605−607
【非特許文献10】Eur.J.Pharmac.Sci.2004,23,319−325
【非特許文献11】Bencini et al.J.Control.Release 2008,126,17−25
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0016】
(発明の詳細な開示)
本発明は、シクロデキストリン単位がエーテル基によりポリ(アミドアミン)の短いセグメントに結合されているものであって、ビスアクリルアミドへのα−、β−またはγ−シクロデキストリンおよびアミンのマイケル型重付加により調製される新規超分岐ポリマーに関する。本発明のポリマーの構造のスキームを図1に示す。
【0017】
これらのポリマーは、完全に水溶性であり、僅かに架橋しているものは、高度の親水性であり、溶液に見える透明水懸濁液を与える。多くの場合、これらのポリマー懸濁液は、ナノ粒子の状態である。
【0018】
好ましくは、ポリ(アミドアミン)セグメントは両性であり、例えば、アミンコモノマーは2−メチルピペラジンであり、ビスアクリルアミドは2,2−ビスアクリルアミド酢酸である。実際、両性ポリ(アミドアミン)、特に、前述したモノマーから得られるISA23と称するポリ(アミドアミン)は、高度に生体適合性であると分かった。何故なら、これらは、生物の防御系により認識されず、健全な実験動物において長時間循環することができ、また腫瘍を有する実験動物においては、所謂EPR効果(血管透過性亢進と蓄積効果(Enhanced Permeation and Retention Effect))により腫瘍塊中で選択的に濃縮されるからである。この効果は、正常毛細血管の壁を通過することはできないが、腫瘍塊中の新生毛細血管のより分離された壁は通過することができる、血液循環中に存在する高分子ポリマーが原因である。これらは、いったん腫瘍中に貫入すると、腫瘍は充分なリンパ排液系を有さないので、殆ど出てこない。さらに、これらのポリ(アミドアミン)は、高度に親水性であるので、水不溶性物質を溶解する性能が高い。最後に、前記ポリ(アミドアミン)は、標的細胞または細胞群、例えば、腫瘍細胞への正確な誘導を確保することができるペプチド単位を導入することにより容易に官能化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の超分岐PAA/シクロデキストリンポリマーの一般構造を示す図である。
【図2】実施例1に報告されたように合成された超分岐PAA/β−シクロデキストリンポリマーの構造を示す図である。
【図3】実施例1に報告されたように合成された超分岐PAA/β−シクロデキストリンポリマーの1H NMRスペクトルである。
【図4】実施例1のポリマーのMALDI−TOFスペクトルである。
【図5】単官能連鎖停止剤としてのN,N’−ジメチルアクリルアミドを用いて合成された超分岐PAA/β-シクロデキストリン(実施例2)の模式的に示したものである。
【図6】連鎖停止剤としてのN,N’−ジメチルアクリルアミドを用いて合成された超分岐PAA/β-シクロデキストリン(実施例2)の1H NMRスペクトルである。
【図7】水性分散液からの実施例3のポリマーのTEM顕微鏡写真である(倍率:69000×)。
【図8】実施例3に報告されたポリマーのDSC波形を示す図である。
【図9】実施例3に報告されたポリマーのパクリタキセル錯体の、その水性分散液の凍結乾燥の前(a)および後(b)における、TEM顕微鏡写真である。
【図10】典型的超分岐PAA-シクロデキストリンポリマーとの錯体からの、パクリタキセル放出速度を示す図である。
【図11】遊離パクリタキセルおよび、超分岐PAA-シクロデキストリンポリマーとのその錯体の、試験管内細胞毒性アッセイのグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
より詳しくは、本発明は、以下のようなポリマーに関する:
水酸基の少なくとも一つがアルコキシ基に転換されているα−シクロデキストリン、β−シクロデキストリンもしくはγ−シクロデキストリンまたはその誘導体から、シクロデキストリン単位(CD、図1参照)が誘導される:
ポリアミドアミンセグメントが以下に示す構造を有する:
【0021】
【化1】

【0022】
(式中:
1およびR3は、同一または異なって、HまたはC1-4アルキル基であり、
2はC1-4アルキレン基である、
または
1、R2およびR3は、単一環式構造の一部であり、順にR1およびR3と同じ性質の側鎖置換基を有し、
4およびR6は、同一または異なって、HまたはC1-6アルキル基である、または、前記残基の一つが順にR1およびR3と同じ性質の側鎖置換基を有している、
または
4、R5およびR6は、単一環式構造の一部であり、順にR1、R2およびR3と同じ性質の側鎖置換基を有する、
または
1、R2、R3、R4、R5およびR6は先に定義したようなアルキルまたはアルキレン基であり、順に、第1級、第2級または第3級アミノ基、カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基およびアルコールヒドロキシ基のようなさらなる置換基を有し、
nは、1〜50、好ましくは2〜10の範囲である。)。
【0023】
前記ポリマーの単純化した構造を図1に示す。これらポリマーにおいて、シクロデキストリン単位は、例えば図2に示すように、一または二以上のヒドロキシル基を介して、エーテル結合によって、ポリ(アミドアミン)セグメントに結合される。
【0024】
前述のように、本発明のポリマーは、第1級または2級アミンとアルカリ活性化シクロデキストリンとの混合物を、ビスアクリルアミドにマイケル型重付加することにより得られる。重合は、10〜60℃、好ましくは20〜35℃の範囲の温度で、1時間〜8日間、好ましくは8時間〜3日間、最も好ましくは1〜2日間の範囲の時間行われる。用いられる溶媒は、好ましくはプロトン性のもの、最も好ましくは水である。
【0025】
本発明のポリマーを用いて、水不溶性活性分子を可溶化し含むことができる。好ましくは、本発明のポリマーにより、難水溶性薬剤、特に、タキサン、カンプトテシンおよび誘導体、アシクロビルおよび関連薬剤の水性注射可能薬製剤を調製することができる。前記製剤は、本発明のポリマー20mg/ml〜160mg/mlを含み、好ましくは、ドセタキセルまたはパクリタキセルの場合は活性分子を1mg/ml〜8mg/ml含み、カンプトテシンまたは類似誘導体の場合は1mg/ml〜10mg/ml含み、アシクロビルおよび関連薬剤の場合は1mg/ml〜20mg/ml含む。さらに、前記製剤は、従来から使用されていると共に注射可能製剤の調製のための規制要求を満たす他の共溶媒または賦形剤を含むことができる。
【0026】
本発明のポリマーおよびその製剤は、凍結乾燥することができる。得られる固体生成物は、活性分子の存在下および不存在下に単純に手で撹拌して水中に容易に再懸濁させることができる。
【0027】
超分岐の非架橋(または、制御された架橋度の)構造は、出発混合物の化学量論量、温度および反応時間を適度に変化させて得られる。
【0028】
用いられる調製手順は、以下の理論的根拠に基づく。
【0029】
含まれる重合反応は、段階的重付加である。別々に2つの相補的官能基「a」および「b」(「a」は慣例によりマイナー官能基)を有するモノマーを含む重合において、プロセスを支配する2つのパラメーターは、以下のように定義される初期化学量論比「r」:
【0030】
【数1】

【0031】
(式中、Na0およびNb0は、初期に存在する官能基aおよびbの数である)および、以下のように定義される変換度「p」:
【0032】
【数2】

【0033】
(式中、Naは、観察時に存在する官能基aの数である)
であることが良く知られている。
【0034】
定義として、rおよびpの両方が明らかに1以下である。
【0035】
2以上の官能基を有するモノマーを含む段階的重合(マルチまたは多官能性段階的重合)により、「臨界進歩度」と呼ばれる特定の値「pC」より高いp値で不溶性架橋生成物が得られる。p>pCの場合、系はその可動性を失い、この理由のために、pCは「ゲルポイント」とも呼ばれる。
【0036】
多官能性モノマーに関する官能基が一つのタイプのみの場合、臨界進歩度pCは、Flory−Stockmayer式(例えば、G.Odian“Principles of Polymerization”3rd Ed,John Wiley&Sons,USA,1991を参照):
【0037】
【数3】

【0038】
により表わされる。
【0039】
ρは、系内に初期に存在する同じタイプの官能基の合計量に対する、官能基数が2を超えるモノマーの官能基の比:
【0040】
【数4】

【0041】
であり、rは前述のように定義される。
【0042】
式(3)において、pCとrが相関していることが明らかである。特に、rCと記載される臨界化学量論比が存在し、そこで系はゲル化することなく、超分岐しているがなお可溶性であるポリマーを産出する。
【0043】
p(および、従ってpCも)は1を超えられないので、pC=1と仮定して式(3)から理論的rC値を得、rについて解く。次に、以下の式:
【0044】
【数5】

【0045】
を用い、ρ=1の場合、すなわち、系において、多官能モノマーがそのような官能基を有する唯一のものである場合、式(4)は下記式に換算される。
【0046】
【数6】

【0047】
式5は、潜在的マルチ官能性モノマーの活性官能基数を決めるための便利なツールを提供する、すなわち、この場合、マルチ官能性モノマーすなわちシクロデキストリンの水素の数は、付加反応の影響を受け易い。これは、過剰な二重結合を有する化学量論的に不均衡な反応体混合物についてrCを実験的に決めることにより達成することができる。操作としては、進行的に過剰の二重結合を有する一連の不均衡反応混合物を、最大変換度に達するのに充分な時間、重合させることができる。ゲル化を阻害する最少過剰二重結合により、直ちにrCが得られ、次にfが得られる。採用された反応条件下において、β−シクロデキストリンのfが決められ、5.5〜6の範囲であった。
【0048】
さらに、式(3)と式(5)の両方を利用して、可溶性超分岐ポリマーまたは架橋度が制御された架橋ポリマーを得ることができる。実際、r<rCで全ての変換度において、超分岐されているが架橋されていない生成物が得られる。逆に、r>rCにおいては、変換度p<pCにおいて超分岐されているが架橋されていない生成物が得られ、変換度p>pCにおいて架橋生成物が得られる。
【0049】
いずれの場合にも、r(rCまたはp(pCの場合、すなわち、両方の値が臨界値から僅かにのみ相違している場合に、僅かに架橋された生成物が得られる。
【0050】
単官能性化合物が存在している場合は、式(3)が有効でないことが一般的に認められており;これらの系のために、以下の代替式が考案された:
【0051】
【数7】

【0052】
(式中、fW.AおよびfW.Bは、モノマー官能基の重量平均(単官能を含む)であり、以下のように定義される:
【0053】
【数8】

【0054】
(式中、fA.jおよびfB.jは、それぞれA型およびB型の各モノマーの官能基を表し、ここで、NA.jおよびNB.jは、系における対応するモル数である(例えば、G.Odian“Principles of Polymerization”3rd Ed,John Wiley&Sons,USA,1991を参照)))。
【0055】
この場合にも、系がゲル化せず、超分岐しているがなお可溶性であるポリマーを生成する、臨界比rCを決めることができる。これは、pC=1とし、rについて解くことにより決定される。得られる式は以下のものである:
【0056】
【数9】

【0057】
前述の事項を、以下の実施例によりさらに説明する。
【実施例】
【0058】
(実施例1)
磁気撹拌器および窒素入口を備える2口丸底フラスコにおいて、2,2−ビス(アクリルアミド)酢酸BAC(8mmol,1.6147g;98.18%)および水酸化リチウム一水和物(8mmol,0.3990g;99.00%)を、窒素流下に蒸留水(4.5ml)に溶解した。結晶前に精製された2−メチルピペラジンMePを加えた(4mmol,0.4282g;93.56%)。完全な溶解後に、β−シクロデキストリン(1mmol,1.1464g;0.99%,水13.7%w/wを含む)および水酸化リチウム一水和物(4.5mmol,0.1907g;99.00%)を加えた。反応混合物のpHは12.5であった。反応を、窒素雰囲気下に暗所にて28℃で24時間続けた。次に、溶液を蒸留水(20ml)で希釈し、37%HClでpH3に酸性化し、公称分画分子量3000の膜を通して限外濾過し、最後に凍結乾燥した。収率は72%であった。
【0059】
生成物の1H NMR分析は、β−シクロデキストリン含量39.5%(w/w)を示した(図3)。LS−SECオンライン分析は、数平均分子量7000および重量平均分子量17000を示した。MALDI TOF分析を、図4に示す。これは、BAC/MePセグメントにより結合されたβ−シクロデキストリン単位を有するマクロ分子の分布に一致している。
【0060】
(実施例2)
磁気撹拌器および窒素入口を備える2口丸底フラスコにおいて、2,2−ビス(アクリルアミド)酢酸BAC(8mmol,1.6147g;98.18%)および水酸化リチウム一水和物(8mmol,0.3990g;99.00%)を、窒素流下に蒸留水(3ml)に溶解した。結晶前に精製された2−メチルピペラジンMePを加えた(4mmol,0.4282g;93.56%)。完全な溶解後に、β−シクロデキストリン(1mmol,1.1464g;0.99%,水13.7%w/wを含む)、水酸化リチウム一水和物(4.5mmol,0.1907g;99.00%)、および最後に、N,N−ジメチルアクリルアミド(6.891mmol,0.697g;99.13%)を加えた。反応混合物のpHは12.5であった。反応混合物を、窒素流下に暗所にて30℃で1週間反応させた。次に、生成物を単離し、前述の場合のように精製した。収率は63.8%であった。このポリマーの構造を図5に報告する。
【0061】
生成物の1H NMR分析を図6に報告する。これは、β−シクロデキストリン含量39.36%(w/w)の証拠を与えている。LS−SECオンライン分析は、数平均分子量8700および重量平均分子量36300を示した。
【0062】
(実施例3)
4.5mlの代わりに3.0mlの水を用いて、実施例1に報告のように反応を行った。これらの条件において、僅かに架橋しているが高度に親水性の生成物を得た。これは、水中において、溶液に見える微細で透明な分散液を提供する。これらをTEM顕微鏡観察により分析し、その結果を図7に示すが、ナノ寸法粒子を明らかに示している。
【0063】
(実施例4)
β−シクロデキストリンをα−シクロデキストリン(0.973g)に置き換えて、実施例1に報告のように反応を行った。得られるポリマーは、シクロデキストリン含量が33重量%であった(1H NMRデータ)。LS−SECオンライン分析は、数平均分子量14000および重量平均分子量38000を示した。収率は59%であった。
【0064】
(実施例5)
β−シクロデキストリンをγ−シクロデキストリン(1.297g)に置き換えて、実施例1に報告のように反応を行った。得られるポリマーは、シクロデキストリン含量が40重量%であった(1H NMRデータ)。LS−SECオンライン分析は、数平均分子量17000および重量平均分子量42000を示した。収率は67%であった。
【0065】
(実施例6)
2−メチルピペラジンをN,N’−ジメチルエチレンジアミン(0.353g,4mmol)に置き換えて、実施例1に報告のように反応を行った。得られるポリマーは、シクロデキストリン含量が44重量%であった(1H NMRデータ)。LS−SECオンライン分析は、数平均分子量16000および重量平均分子量48000を示した。収率は66%であった。
【0066】
(実施例7)
この実施例は、β−シクロデキストリンの官能基の数(fexp)の実験的決定、および架橋されているまたは完全に可溶性の一連の超分岐ポリマーの調製を報告する
β−シクロデキストリン分子は、7つの第1級水酸基を含み、従って、理論的に、7つの活性化二重結合を有するようにマイケル型付加を受けることができる。換言すれば、β−シクロデキストリンは、7価モノマーであると見なすことができる。しかしながら、採用された条件下において、実際の官能基数は、反応が進行すると増加する立体障害が主な原因で、より少ない。従って、反応を制御するために、実際の官能基数fを、一連の反応を行うことにより実験的に決めた。実験において、反応種間のモル比(r)は、異なるβ−シクロデキストリン官能基数が4.5〜6.0であると仮定して計算された臨界モル比(rC)に等しく、反応を完了近くまで進め、生じる場合はゲル化の発生を観察した。全ての反応は28℃の温度で行った。結果を表1に示す。
【0067】
表1の結果は、採用された条件下においてβ−シクロデキストリンの実際の官能基数fが5.5〜6であることを、明らかに示している。
【0068】
【表1】

【0069】
(実施例8)
この実施例は、超分岐PAA−シクロデキストリンポリマーの可溶化性能を報告する
非常に貧水溶性の薬剤のモデルとしてパクリタキセルを用いて、ポリマーの可溶化性能を決めた。23mg/mlの濃度の各タイプのポリマー水溶液3mlを含むスクリューキャップしたバイアルに、パクリタキセル4mgを加えた。混合物を、撹拌下に24時間インキュベーションした。全てのポリマーは、パクリタキセルを可溶化して乳白色のナノ懸濁液を形成することができた。全てのサンプルを遠心分離し、上澄み液を、C18カラムを用いて逆相HPLCにより分析し、227nmで検出した。移動相は、0.17M酢酸アンモニウムpH5.0:メタノール:アセトニトリルの混合物(50:10:40v/v)であった。ポリマーは、パクリタキセルの水溶性を著しく向上させた。上澄液中のパクリタキセルの濃度は、ポリマーの構造により1.25mg/ml〜3.8mg/mlの範囲であった。
【0070】
(実施例9)
この実施例は、可溶性で僅かに架橋した超分岐PAA−シクロデキストリンポリマーのパクリタキセル負荷性能を報告する
パクリタキセル負荷性能は、凍結乾燥サンプルを用いて決めた。パクリタキセルポリマー凍結乾燥固形物約5mgを秤量し、メタノールに溶解させた。移動相で希釈後、薬剤の量をC18カラムを用いて逆相HPLCにより決め、227nmで検出した。移動相は、0.17M酢酸アンモニウムpH5.0:メタノール:アセトニトリルの混合物(50:10:40v/v)であった。負荷パクリタキセルの百分率を表2に報告する。
【0071】
【表2】

【0072】
(実施例10)
この実施例は、超分岐PAA−シクロデキストリンポリマーの熱安定性の決定について報告する
示差走査熱量分析(DSC)分析を用いて、一連のポリマーの熱安定性を決めた。ポリマー約3mgをアルミニウムサンプルパン中に秤量し、次に、DSC7熱量計(Perkin Elmer)を用いて窒素置換下に25〜300℃の範囲で10℃/分の速度で加熱した。典型的波形を図8に報告する。全てのポリマーは、少なくとも200℃まで安定であった。これにより、オートクレーブ内において殺菌することができた。
【0073】
(実施例11)
この実施例は、超分岐PAA−シクロデキストリンポリマー/パクリタキセル錯体の、その水性ナノ懸濁液の凍結乾燥に対する安定性について報告する
異なるポリマーのパクリタキセルナノ懸濁液を凍結乾燥して乾燥粉末を得、これを、振盪することにより凝集現象無しに水に容易に再懸濁することができた。
【0074】
サンプルの形態的局面を検証するために、凍結乾燥の前後において薬剤のナノ懸濁液の透過電子顕微鏡検査を行った。凍結乾燥の前後におけるパクリタキセルを含む僅かに架橋したポリマーの顕微鏡写真を図9に報告する。これは、系がその構造を維持し、薬剤が結晶しなかったことを示している。
【0075】
(実施例12)
この実施例は、超分岐PAA−シクロデキストリンポリマーとの錯体からの、パクリタキセルのインビトロ放出速度の決定について報告する
透析膜袋(分画分子量3000Da)および、沈降媒体としての1%SDS溶液を用いて、ポリマー系からのパクリタキセルのインビトロ放出を行った。袋全体を、SDS溶液50ml中に入れた。定められた時間において、溶液0.5mLを引き出し、パクリタキセル濃度をHPLC法により分析した。
【0076】
典型的放出曲線を、図10に報告する。
【0077】
(実施例13)
この実施例は、超分岐PAA−シクロデキストリンポリマーとのパクリタキセル錯体のインビトロ細胞毒性アッセイの決定について報告する
5%CO2を含む加湿雰囲気中、37℃で、10%熱不活性化ウシ胎児血清と抗生物質を加えたRPMI 1640媒体中の単層中でヒト乳癌細胞(MCF−7)を成長させた。指数的に成長している細胞を、24穴プレートに播種し、種々の濃度のパクリタキセル(遊離または、僅かに架橋したポリマー中に含まれる)で24時間および48時間処理した。パクリタキセルの濃度は、溶液およびナノスポンジについて0.5〜3.0μg/mlの範囲で変化した。
【0078】
細胞生存能力を、トリパンブルー色素排除試験により調べた。細胞毒性は、対照細胞(未処理細胞)に対する百分率として表わした。
【0079】
パクリタキセルの細胞毒性研究は、図11に報告されたグラフにより示されるように、錯体が、単純なパクリタキセルよりも、より有効であることを示した。
【0080】
(実施例14)
この実施例は、超分岐PAA−シクロデキストリンポリマーのカンプトテシン負荷性能の決定について報告する。結果を表3に示す。
【0081】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビスアクリルアミドへのα−、β−またはγ−シクロデキストリンおよびアミンのマイケル型重付加により得ることができる、超分岐水溶性ポリマー。
【請求項2】
α−シクロデキストリン、β−シクロデキストリンもしくはγ−シクロデキストリンまたはその誘導体の水酸基の少なくとも一つが、メトキシ基に転換されている、請求項1に記載のポリマー。
【請求項3】
ポリアミド−アミノセグメントが以下の式を有するものである、請求項1または2に記載のポリマー:
【化1】

(式中:
1およびR3は、同一または異なって、HまたはC1-4アルキル基であり、
2はC1-4アルキレン基である、
または
1、R2およびR3は、単一環式構造の一部であり、順にR1およびR3と同じ性質の側鎖置換基を有し、
4およびR6は、同一または異なって、HまたはC1-6アルキル基である、または、同じ残基の一つが順にR1およびR3と同じ性質の側鎖置換基を有している、
または
4、R5およびR6は、単一環式構造の一部であり、順にR1、R2およびR3と同じ性質の側鎖置換基を有する、
または
1、R2、R3、R4、R5およびR6は先に定義したようなアルキルまたはアルキレン基であり、順に、第1級、第2級または第3級アミノ基、カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基およびヒドロキシアルコール基から選択されるさらなる置換基を有し、
nは、1〜50、好ましくは2〜10の範囲である。)。
【請求項4】
水不溶性薬剤用の可溶化剤として請求項1〜3のいずれかに記載のポリマーを含む薬製剤。
【請求項5】
薬剤が、タキサン(パクリタキセルまたはドセタキセル)、カンプトテシンおよびその誘導体、エトポシドおよびアシクロビルから選択される、請求項4に記載の薬製剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公表番号】特表2010−530906(P2010−530906A)
【公表日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−511530(P2010−511530)
【出願日】平成20年6月10日(2008.6.10)
【国際出願番号】PCT/EP2008/004624
【国際公開番号】WO2008/151775
【国際公開日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【出願人】(509340115)ルレデーラ フンダシオン パラ エル デサローヨ テクノロジコ イ ソシアル (1)
【氏名又は名称原語表記】L’UREDERRA, FUNDACION PARA EL DESARROLLO TECNOLOGICO Y SOCIAL
【Fターム(参考)】