説明

不飽和アルデヒド及び/又は不飽和カルボン酸製造用触媒の製造方法、並びに不飽和アルデヒド及び/又は不飽和カルボン酸の製造方法

【課題】機械的強度により優れた不飽和アルデヒド及び/又は不飽和カルボン酸製造用触媒を製造する方法を提供すること。
【解決手段】モリブデン、ビスマス及び鉄を含有する複合酸化物からなる不飽和アルデヒド及び/又は不飽和カルボン酸製造用触媒の製造方法であって、触媒原料を含む水溶液又は水性スラリーを乾燥した後、分子状酸素含有ガスの雰囲気下に第一段焼成して焼成体を得、この焼成体を還元性物質の存在下に熱処理して、所定の質量減少率が0.05〜6%である還元体を得、この還元体を分子状酸素含有ガスの雰囲気下に第二段焼成することにより不飽和アルデヒド及び/又は不飽和カルボン酸製造用触媒を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不飽和アルデヒド及び/又は不飽和カルボン酸製造用触媒を製造する方法に関する。また、本発明は、この方法により得られた触媒を用いて、不飽和アルデヒド及び/又は不飽和カルボン酸を製造する方法にも関係している。
【背景技術】
【0002】
プロピレンを分子状酸素により気相接触酸化してアクロレイン及び/又はアクリル酸を製造する際に用いられる触媒としては、また、イソブチレンやターシャリーブチルアルコールを分子状酸素により気相接触酸化してメタクロレイン及び/又はメタクリル酸を製造する際に用いられる触媒としては、モリブデン、ビスマス及び鉄を含有する複合酸化物からなる触媒が有効であり、その触媒は、一般に触媒成分を含む水溶液又は/水性スラリーを乾燥した後、焼成して得られることが知られている。この触媒を前記酸化反応に使用する場合、通常、成型体又は担持体として固定床反応器に充填した状態で使用するが、触媒の機械的強度が低いと充填時に触媒が破砕され、反応時に反応器内で圧力損失が生じてしまうため、かかる触媒には高い機械的強度が求められている。前記触媒の機械的強度を高める方法としては、触媒の調製時に無機質繊維を加える方法が知られている(例えば、特許文献1〜3参照)。
【0003】
【特許文献1】特開平6−381号公報
【特許文献2】特開2002−273229号公報
【特許文献3】特開平9−52053号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記の方法で得られる触媒においても機械的強度の点で必ずしも十分とはいえなかった。
【0005】
そこで、本発明の目的は、モリブデン、ビスマス及び鉄を含有する複合酸化物からなる不飽和アルデヒド及び/又は不飽和カルボン酸製造用触媒であって、機械的強度により優れた不飽和アルデヒド及び/又は不飽和カルボン酸製造用触媒を製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鋭意検討の結果、モリブデン、ビスマス及び鉄を含有する複合酸化物からなる不飽和アルデヒド及び/又は不飽和カルボン酸製造用触媒を製造する際、以下の工程(1)〜(3)を含むことにより、上記目的を達成しうることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、モリブデン、ビスマス及び鉄を含有する複合酸化物からなる不飽和アルデヒド及び/又は不飽和カルボン酸製造用触媒の製造方法であって、以下の工程(1)〜(3)を含むことを特徴とする不飽和アルデヒド及び/又は不飽和カルボン酸製造用触媒の製造方法。
工程(1):触媒原料を含む水溶液又は水性スラリーを乾燥した後、分子状酸素含有ガスの雰囲気下に第一段焼成して焼成体を得る工程
工程(2):工程(1)で得られた焼成体を還元性物質の存在下に熱処理して、下記式(I)で示される質量減少率が0.05〜6%である還元体を得る工程
質量減少率(%)=(Wa−Wb)/Wa×100 (I)
(式中、Waは焼成体の質量を表し、Wbは還元体の質量を表す。)
工程(3):工程(2)で得られた還元体を分子状酸素含有ガスの雰囲気下に第二段焼成する工程
【0008】
また、本発明によれば、上記の方法により触媒を製造し、この触媒の存在下に、プロピレン、イソブチレン及びターシャリーブチルアルコールから選ばれる化合物を分子状酸素により気相接触酸化する不飽和アルデヒド及び/又は不飽和カルボン酸の製造方法も提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、機械的強度により優れた不飽和アルデヒド及び/又は不飽和カルボン酸製造用触媒を製造することができる。また、不飽和アルデヒド及び/又は不飽和カルボン酸を製造する際、この触媒を使用すれば、反応器内への充填による触媒の破砕が良好に抑制されるため、反応時の圧力損失を少なくすることができ、安定的にプロピレン、イソブチレン及びターシャリーブチルアルコールから選ばれる化合物を分子状酸素により気相接触酸化して、不飽和アルデヒド及び/又は不飽和カルボン酸を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明が製造の対象とする不飽和アルデヒド及び/又は不飽和カルボン酸製造用触媒は、モリブデン、ビスマス及び鉄を必須とする複合酸化物からなるものである。この複合酸化物には、モリブデン、ビスマス及び鉄以外の元素が含まれていてもよく、例えば、ニッケル及び/又はコバルトや、カリウム、ルビジウム、セシウム及びタリウムから選ばれる元素が含まれるのが望ましい。
【0011】
かかる複合酸化物の好ましい例は、下記一般式(II)で示すことができる。
【0012】
MoaBibFecdefgx (II)
【0013】
(式中、Mo、Bi及びFeはそれぞれモリブデン、ビスマス及び鉄を表し、Aはニッケル及び/又はコバルトを表し、Bはマンガン、亜鉛、カルシウム、マグネシウム、スズ及び鉛から選ばれる元素を表し、Cはリン、ホウ素、ヒ素、テルル、タングステン、アンチモン、ケイ素、アルミニウム、チタン、ジルコニウム及びセリウムから選ばれる元素を表し、Dはカリウム、ルビジウム、セシウム及びタリウムから選ばれる元素を表し、a=12としたとき、0<b≦10、0<c≦10、1≦d≦10、0≦e≦10、0≦f≦10、0<g≦2であり、xは各元素の酸化状態により定まる値である。)
【0014】
中でも、下記の組成(酸素原子を除く)を有するものが好ましく用いられる。
【0015】
Mo12Bi0.1-5Fe0.5-5Co5-10Cs0.01-1
【0016】
Mo12Bi0.1-5Fe0.5-5Co5-10Sb0.1-50.01-1
【0017】
Mo12Bi0.1-5Fe0.5-5Ni5-10Sb0.1-5Si0.1-5Tl0.01-1
【0018】
次に、上記触媒の製造方法について説明する。まず、触媒原料を含む水溶液又は水性スラリーを乾燥した後、分子状酸素含有ガスの雰囲気下に第一段焼成して焼成体を得る〔工程(1)〕。ここでいう触媒原料としては、通常、上記触媒に含まれる各元素の化合物、例えば、酸化物、硝酸塩、硫酸塩、炭酸塩、水酸化物、オキソ酸やそのアンモニウム塩、ハロゲン化物等が、所望の原子比を満たすような割合で用いられる。例えば、モリブデン化合物としては、三酸化モリブデン、モリブデン酸、パラモリブデン酸アンモニウム等が、ビスマス化合物としては、酸化ビスマス、硝酸ビスマス、硫酸ビスマス等が、鉄化合物としては、硝酸鉄(III)、硫酸鉄(III)、塩化鉄(III)等が、それぞれ使用できる。
【0019】
触媒原料を含む水溶液又は水性スラリーは、触媒原料と水とを混合することにより得ることができる。ここで混合する際の温度や水の使用量については、適宜選択することができる。また、触媒を含む水溶液又は水性スラリーの乾燥は、例えば、ニーダー、箱型乾燥機、ドラム型通気乾燥装置、スプレードライヤー、気流乾燥機等を用いて行うことができる。
【0020】
上記乾燥により得られる乾燥物を、分子状酸素含有ガスの雰囲気下に第一段焼成する。このガス中の分子状酸素濃度は、通常1〜30容量%、好ましくは10〜25容量%である。分子状酸素源としては、通常、空気や純酸素が使用され、これが必要に応じて窒素、二酸化炭素、水、ヘリウム、アルゴン等で希釈されて、分子状酸素含有ガスとして使用される。第一段焼成の焼成温度は、通常300〜600℃、好ましくは400〜550℃である。また、第一段焼成の焼成時間は、通常5分〜40時間、好ましくは1時間〜20時間である。
【0021】
続いて、上記第一段焼成により得られる焼成体を還元性物質の存在下に熱処理して(以下、この還元性物質の存在下での熱処理を単に還元処理ということがある。)、下記式(I)で示される質量減少率が0.05〜6%である還元体を得る〔工程(2)〕。
【0022】
質量減少率(%)=(Wa−Wb)/Wa×100 (I)
【0023】
(式中、Waは焼成体の質量を表し、Wbは還元体の質量を表す。)
【0024】
還元性物質としては、例えば、水素、アンモニア、一酸化炭素、炭化水素、アルコール、アルデヒド、アミン等が挙げられ、必要に応じてそれらの2種以上を用いることができる。ここで、炭化水素、アルコール、アルデヒド及びアミンは、それぞれ、その炭素数が1〜6程度であるのがよく、かかる炭化水素の例としては、メタン、エタン、プロパン、n−ブタン、イソブタンの如き飽和脂肪族炭化水素、エチレン、プロピレン、α−ブチレン、β−ブチレン、イソブチレンの如き不飽和脂肪族炭化水素、ベンゼン等が挙げられ、アルコールの例としては、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、イソブチルアルコール、セカンダリーブチルアルコール、ターシャリーブチルアルコールの如き飽和脂肪族アルコール、アリルアルコール、クロチルアルコール、メタリルアルコールの如き不飽和脂肪族アルコール、フェノール等が挙げられる。また、アルデヒドの例としては、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、n−ブチルアルデヒド、イソブチルアルデヒドの如き飽和脂肪族アルデヒド、アクロレイン、クロトンアルデヒド、メタクロレインの如き不飽和脂肪族アルデヒド等が挙げられ、アミンの例としては、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミンの如き飽和脂肪族アミン、アリルアミン、ジアリルアミンの如き不飽和脂肪族アミン、アニリン等が挙げられる。
【0025】
還元処理は、通常、上記還元性物質を含むガスの雰囲気下に触媒を熱処理することにより行われる。このガス中の還元性物質の濃度は、通常0.1〜50容量%、好ましくは3〜30容量%であり、このような濃度になるように、還元性物質を窒素、二酸化炭素、水、ヘリウム、アルゴン等で希釈すればよい。なお、分子状酸素は、還元処理の効果を損なわない範囲で存在させてもよいが、通常は存在させないのがよい。
【0026】
還元処理の温度は、通常200〜600℃、好ましくは300〜500℃である。また、還元処理の時間は、通常5分〜20時間、好ましくは30分〜10時間である。還元処理は、焼成体を管型や箱型等の容器に入れ、ここに還元性物質を含むガスを流通させながら行うのが好ましく、その際、容器から排出されたガスは必要により循環再使用してもよい。
【0027】
かくして上記式(I)で示される質量減少率が0.05〜6%である還元体を得ることができる。還元処理により質量が減少するのは、焼成体が格子酸素を失って還元体になるためと考えられる。よって還元処理前後での質量減少率は還元進行度を知る上での指標となりうる。還元の進行が少なすぎると十分な効果が現れず、還元が進み過ぎた場合には、後述する分子状酸素含有ガス雰囲気下での第二段焼成時に発熱が急激に起こり温度の制御が困難になる場合がある。従って還元処理前後での質量減少率は、0.1〜5%であるのが好ましい。
【0028】
尚、還元処理の際、用いる還元性物質の種類や熱処理条件等によっては、還元性物質自身や還元性物質由来の分解生成物等が還元処理後の還元体に残存することがある。このような場合は、別途、還元体中の該残存物質量を測定し、これを該残存物込みの還元体質量から差し引いて、還元処理後の質量を算出すればよい。該残存物は、典型的には炭素であるので、例えば、全炭素(TC:total carbon)測定等により、その質量を求めればよい。
【0029】
こうして得られる還元体を、分子状酸素含有ガスの雰囲気下に第二段焼成する〔工程(3)〕。このガス中の分子状酸素濃度は、通常1〜30容量%、好ましくは10〜25容量%である。分子状酸素源としては、通常、空気や純酸素が使用され、これが必要に応じて窒素、二酸化炭素、水、ヘリウム、アルゴン等で希釈されて、分子状酸素含有ガスとして使用される。第二段焼成の焼成温度は、通常200〜600℃、好ましくは350〜550℃である。また、第二段焼成の焼成時間は、通常5分〜20時間、好ましくは30分〜10時間である。
【0030】
本発明における触媒は、通常、所望の形状に成型され用いられる。この成型は打錠成型や押出成型等によってリング状、ペレット、球状等にするのがよい。また、触媒成分をシリカ、アルミナ、炭化珪素、窒化珪素などの担体に担持したものでもよい。この成型の際、触媒の機械的強度を向上させるために、例えば特許文献3に記載される如く、対象とする酸化反応に対し実質的に不活性な無機ファイバー等を添加してもよい。
【0031】
本発明は、上述した第二段焼成を行うことにより、触媒の機械的強度を高めることができるというものである。したがって、触媒の成型は、第二段焼成よりも前の段階で行われるのが好ましく、具体的には、触媒原料を含む水溶液又は水性スラリーを乾燥して得られる乾燥体に対して行われるか、上記第一段焼成により得られる焼成体に対して行われるか、上記還元処理により得られる還元体に対して行われるのが好ましい。
【0032】
かくして、機械的強度により優れたモリブデン、ビスマス及び鉄を含有する複合酸化物からなる不飽和アルデヒド及び/又は不飽和カルボン酸製造用触媒を製造することができる。そして、この触媒を使用すれば、反応器内への充填による触媒の破砕が良好に抑制されるため、反応時の圧力損失を少なくすることができ、安定的にプロピレンを分子状酸素により気相接触酸化して、アクロレイン及びアクリル酸を安定的に製造することができ、安定的にイソブチレンやターシャリーブチルアルコールを分子状酸素により気相接触酸化して、メタクロレイン及びメタクリル酸を安定的に製造することができる。
【0033】
この気相接触酸化反応は、通常、固定床多管式反応器に上記触媒を充填し、ここにプロピレン、イソブチレン及びターシャリーブチルアルコールから選ばれる原料化合物と分子状酸素とを含む原料ガスを供給することにより行われる。分子状酸素源としては、通常、空気が用いられ、原料ガス中には、原料化合物及び分子状酸素以外の成分として、窒素、二酸化炭素、一酸化炭素、水蒸気等が含まれうる。
【0034】
反応温度は通常250〜400℃であり、反応圧力は減圧でも可能であるが、通常100〜500kPaである。原料化合物に対する分子状酸素の量は通常1〜3モル倍である。また、原料ガスの空間速度SVは、STP(standard temperature and pressure)基準で、通常500〜5000/hである。
【実施例】
【0035】
以下、本発明の実施例を示すが、本発明はこれらによって限定されるものではない。例中、ガスの流量を表すml/minは、特記ない限りSTP基準である。
【0036】
(触媒の落下強度試験)
水平方向に対してほぼ垂直に設置された内径30mm、長さ5mの金属製チューブの底部に目開き4.76mmのステンレス製の網をその面がほぼ水平になるよう固定し、該金属製チューブの上部よりXgの触媒を投入して落下させた。落下後の触媒を回収し、これを目開き4.76mmの篩に乗せ、該篩を振動させた後、篩上に残った触媒の質量をYgとした。ここで、触媒の落下強度(%)は次の如く定義した。
【0037】
落下強度(%)=Y/X×100(%)
【0038】
また、実施例中、転化率(%)及び収率(%)は次の如く定義した。
【0039】
転化率(%)=[(供給イソブチレンのモル数)−(未反応イソブチレンのモル数)]÷(供給イソブチレンのモル数)×100
【0040】
収率(%)=(メタクロレイン及びメタクリル酸のモル数)÷(供給イソブチレンのモル数)×100
【0041】
実施例1
(a)焼成体の調製〔工程(1)〕
モリブデン酸アンモニウム[(NH4)6Mo724・4H2O]13241gを温水15000gに溶解し、これをA液とした。一方、硝酸鉄(III)[Fe(NO3)3・9H2O]6060g、硝酸コバルト[Co(NO3)2・6H2O]13096g及び硝酸セシウム[CsNO3]585gを温水6000gに溶解し、次いで硝酸ビスマス[Bi(NO3)3・5H2O]2910gを溶解し、これをB液とした。A液を攪拌し、この中にB液を添加してスラリーを得、次いでこのスラリーを気流乾燥機により乾燥して乾燥物を得た。この乾燥物100質量部に対して9質量部のシリカアルミナファイバー(サンゴバン・ティーエム製、RFC400−SL)と2.5質量部の三酸化アンチモン(Sb)とを該乾燥物に添加した後、外径6.3mm、内径2.5mm、長さ6mmのリング状に成型し、次いで、空気気流下に545℃で6時間焼成して焼成体を得た。この焼成体は、モリブデン12原子に対しビスマス0.96原子、鉄2.4原子、コバルト7.2原子、セシウム0.48原子、アンチモン0.48原子を含んでいる。
【0042】
(b)還元処理〔工程(2)〕
実施例1(a)で得られた焼成体75mlをガラス管に充填した後、水素/窒素=5/95(容積比)の混合ガスを300ml/minの流量で供給し、345℃にて8時間還元処理を行った。次いで水素の供給を停止し、窒素気流下に室温まで冷却して還元体を得た。還元処理よる質量減少率は1.04%であった。
【0043】
(c)第二段焼成〔工程(3)〕
実施例1(b)で得られた還元体を、空気気流下、350℃で3時間焼成し、触媒Aを得た。
【0044】
(d)触媒Aの落下強度試験
実施例1(c)で得られた触媒A30gを用いて、上記落下強度試験を行ったところ、触媒Aの落下強度は91.8%であった。この結果を表1に示す。
【0045】
(e)イソブチレンの酸化反応
内径18mmのガラス製反応管の原料ガス入口側に、実施例(c)で得られた触媒A14.3mlを30gのシリコンカーバイド(信濃電気精錬(株)製、シナノランダム GC F16)で希釈して充填した。ここに、イソブチレン/酸素/窒素/スチーム=1.0/2.0/10.0/2.7(モル比)の混合ガスを157.5ml/minの流量で供給し、反応温度360℃にて酸化反応を行った。イソブチレンの転化率は98.9%であり、メタクロレイン及びメタクリル酸の収率は79.6%であった。
【0046】
実施例2
(a)触媒の調製〔工程(1)〜(3)〕
実施例1(c)における焼成温度を350℃から370℃に変更した以外は、実施例1(a)〜(c)と同様の操作を行い、触媒Bを得た。
【0047】
(b)触媒Bの落下強度試験
実施例2(a)で得られた触媒B30gを用いて、上記落下強度試験を行ったところ、触媒Bの落下強度は91.9%であった。この結果を表1に示す。
【0048】
実施例3
(a)焼成体の調製〔工程(1)〕
実施例1(a)におけるシリカアルミナファイバーの量を9質量部から12質量部に変更した以外は、実施例1(a)と同様の操作を行い、焼成体を得た。
【0049】
(b)還元処理〔工程(2)〕
実施例1(a)で得られた焼成体のかわりに実施例3(a)で得られた焼成体を用いた以外は、実施例1(b)と同様の操作で還元処理を行い、還元体を得た。還元処理よる触媒の質量減少率は1.06%であった。
【0050】
(c)第二段焼成〔工程(3)〕
実施例1(b)で得られた還元体のかわりに実施例3(b)で得られた還元体を用い、焼成温度を350℃から330℃に、焼成時間を3時間から5時間にそれぞれ変更した以外は、実施例1(c)と同様の操作で第二段焼成を行い、触媒Cを得た。
【0051】
(d)触媒Cの落下強度試験
実施例3(c)で得られた触媒C30gを用いて、上記落下強度試験を行ったところ、触媒Cの落下強度は92.0%であった。この結果を表1に示す。
【0052】
実施例4
(a)触媒の調製〔工程(1)〜(3)〕
実施例3(c)における焼成温度を330℃から420℃に変更した以外は、実施例3(a)〜(c)と同様の操作を行い、触媒Dを得た。
【0053】
(b)触媒Dの落下強度試験
実施例4(a)で得られた触媒D30gを用いて、上記落下強度試験を行ったところ、触媒Dの落下強度は93.3%であった。この結果を表1に示す。
【0054】
比較例1
(a)触媒の調製〔工程(1)のみ〕
実施例1(a)と同様の操作を行い、焼成体を得た。この焼成体を触媒Eとした。
【0055】
(b)触媒Eの落下強度試験
比較例1(a)で得られた触媒E30gを用いて、上記落下強度試験を行ったところ、触媒Eの落下強度は86.1%であった。この結果を表1に示す。
【0056】
(c)イソブチレンの酸化反応
触媒Aのかわりに比較例1(a)で得られた触媒Eを用いた以外は、実施例1(e)と同様の操作で酸化反応を行った。イソブチレンの転化率は95.1%であり、メタクロレイン及びメタクリル酸の収率は79.4%であった。
【0057】
比較例2
(a)触媒の調製〔工程(1)〜(2)のみ〕
実施例1(a)〜(b)と同様の操作を行い、還元体を得た。この還元体を触媒Fとした。
【0058】
(b)触媒Fの落下強度試験
比較例2(a)で得られた触媒F30gを用いて、上記落下強度試験を行ったところ、触媒Fの落下強度は83.8%であった。この結果を表1に示す。
【0059】
比較例3
(a)触媒の調製〔工程(1)のみ〕
実施例3(a)と同様の操作を行い、焼成体を得た。この焼成体を触媒Gとした。
【0060】
(b)触媒Gの落下強度試験
比較例3(a)で得られた触媒G30gを用いて、上記落下強度試験を行ったところ、触媒Gの落下強度は86.4%であった。この結果を表1に示す。
【0061】
比較例4
(a)触媒の調製〔工程(1)〜(2)のみ〕
実施例3(a)〜(b)と同様の操作を行い、還元体を得た。この還元体を触媒Hとした。
【0062】
(b)触媒Hの落下強度試験
比較例3(a)で得られた触媒H30gを用いて、上記落下強度試験を行ったところ、触媒Hの落下強度は84.6%であった。この結果を表1に示す。
【0063】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
モリブデン、ビスマス及び鉄を含有する複合酸化物からなる不飽和アルデヒド及び/又は不飽和カルボン酸製造用触媒の製造方法であって、以下の工程(1)〜(3)を含むことを特徴とする不飽和アルデヒド及び/又は不飽和カルボン酸製造用触媒の製造方法。
工程(1):触媒原料を含む水溶液又は水性スラリーを乾燥した後、分子状酸素含有ガスの雰囲気下に第一段焼成して焼成体を得る工程
工程(2):工程(1)で得られた焼成体を還元性物質の存在下に熱処理して、下記式(I)で示される質量減少率が0.05〜6%である還元体を得る工程
質量減少率(%)=(Wa−Wb)/Wa×100 (I)
(式中、Waは焼成体の質量を表し、Wbは還元体の質量を表す。)
工程(3):工程(2)で得られた還元体を分子状酸素含有ガスの雰囲気下に第二段焼成する工程
【請求項2】
前記複合酸化物が、下記一般式(II)
MoaBibFecdefgx (II)
(式中、Mo、Bi及びFeはそれぞれモリブデン、ビスマス及び鉄を表し、Aはニッケル及び/又はコバルトを表し、Bはマンガン、亜鉛、カルシウム、マグネシウム、スズ及び鉛から選ばれる元素を表し、Cはリン、ホウ素、ヒ素、テルル、タングステン、アンチモン、ケイ素、アルミニウム、チタン、ジルコニウム及びセリウムから選ばれる元素を表し、Dはカリウム、ルビジウム、セシウム及びタリウムから選ばれる元素を表し、a=12としたとき、0<b≦10、0<c≦10、1≦d≦10、0≦e≦10、0≦f≦10、0<g≦2であり、xは各元素の酸化状態により定まる値である。)
で示されるものである請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記熱処理が、200〜600℃で行われる請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
第一段焼成が、300〜600℃で行われる請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
第二段焼成が、200〜600℃で行われる請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
還元性物質が水素、アンモニア、一酸化炭素、炭素数1〜6の炭化水素、炭素数1〜6のアルコール、炭素数1〜6のアルデヒド及び炭素数1〜6のアミンから選ばれる化合物である請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の方法により触媒を製造し、この触媒の存在下に、プロピレン、イソブチレン及びターシャリーブチルアルコールから選ばれる化合物を分子状酸素により気相接触酸化する不飽和アルデヒド及び/又は不飽和カルボン酸の製造方法。

【公開番号】特開2009−274034(P2009−274034A)
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−129200(P2008−129200)
【出願日】平成20年5月16日(2008.5.16)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】