説明

中枢神経由来の神経障害性疼痛の治療用テトロドトキシンおよびその誘導体

本発明は、中枢神経由来の神経障害性疼痛の治療におけるヒト治療用の医薬製品における、テトロドトキシンまたはサキシトキシン、それらのアナログおよび誘導体類、並びにそれらの生理学上許容し得る塩類のようなナトリウムチャネル阻害薬の使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
(技術分野)
本発明は、中枢神経由来の神経障害性疼痛(central-nervously derived neuropathic pain)の治療におけるヒト治療用の医薬製品における、テトロドトキシンまたはサキシトキシン、それらのアナログおよび誘導体類、並びにそれらの生理学上許容し得る塩類のようなナトリウムチャネル阻害薬の使用に関する。
【0002】
(背景技術)
疼痛症状の治療は、医療において大きな重要性を有する。現在、さらなる疼痛治療が世界的に求められている。患者にとって正しく、患者にとって成功裏且つ満足し得る疼痛治療として理解されるべき疼痛症状の特異的治療或いは同様に特異的な疼痛症状の治療に対する切迫した要求が、鎮痛薬応用の分野においてまたは痛覚に関する基礎研究において最近または多年に亘ってなされている多くの科学研究において報告されている。
疼痛は、International Association for the Study of Pain (IASP)によって、急性または潜在的組織損傷に関連する或いはそのような損傷に説明される“不愉快な感覚的且つ感情的な経験”として定義されている(IASP, Classification of chronic pain, 2nd Edition, IASP Press (2002), 210)。疼痛は常に主観的であるにしても、その原因および症状は分類し得る。
とりわけ、過年において広域な集団における主要健康問題となってきている神経障害性疼痛は、とりわけ神経障害性疼痛の如何なる治療も該疾患が疼痛を最終的に引起す疼痛背後の原因に極めて感受性であること或いは疼痛が発症する機構経路を考慮すると、極めて特異的な治療を必要とする。そのように、大多数の症例において、1つのサブタイプの神経障害性疼痛を治療できる物質は、神経障害性疼痛と称するこの全身症状の極めて多様な性質により、他の特異的なサブタイプを治療することはできない(或いは、少なくとも必ずしも治療できるものではない)。
【0003】
(発明の開示)
従って、本発明が解決する基本的問題は、神経障害性疼痛、この場合、中枢神経由来の神経障害性疼痛の新規な治療方法を見出すことである。
そのように、本発明の主目的は、中枢神経由来の神経障害性疼痛の薬剤の製造におけるナトリウムチャネル阻害薬および/またはその誘導体の1つの使用である。該ナトリウムチャネル阻害薬は、必要に応じて、ラセミ体、純粋立体異性体、とりわけ鏡像異性体またはジアステレオマーの形、或いは、立体異性体の、とりわけ鏡像異性体またはジアステレオマーの、任意の適切な比率の混合物の形;中和形、酸もしくは塩基形、または塩、とりわけ生理学上許容し得る塩の形;或いは、溶媒和、とりわけ水和物の形で使用する。
TTXが驚くべき且つまた極めて高い有効性でもって中枢神経由来の神経障害性疼痛に対し作用性であることを見出した。
本出願において説明する用語“ナトリウムチャネル阻害薬”とは、TTX抵抗性またはTTX感受性のいずれかとして分類されるナトリウムチャネルに特異的に結合し且つ該チャネルを特異的に阻害する化合物として定義する。用語“TTX抵抗性”または“TTX感受性とは、TTX結合の緊密度の差異を称し、TTX抵抗性チャネルは、参考として本明細書に含ませるHunter et al..Current Opinion in CPNS Investigational Drugs 1 (1), 1999 並びにClare et al. DDT, 5 (11), 2000, 506-520に記載されているような結合定数を有し、TTX感受性チャネルは、Hunter et al..Current Opinion in CPNS Investigational Drugs 1 (1), 1999 並びにClare et al. DDT, 5 (11), 2000, 506-520に記載されているような結合定数を有する。従って、好ましいナトリウムチャネル阻害薬は、200□M、未満、好ましくは10.0□M未満のIC50を有するまたは2□MのIC50を有するナトリウムチャネルと結合する。上記の阻害とは、上記ナトリウムチャネルによって活性化されたあらゆる下流効果の抑制または改変を称する。より好ましくは、本発明において説明する用語“ナトリウムチャネル阻害薬”とは、ナトリウムチャネル、とりわけTTX抵抗性またはTTX感受性ナトリウムチャネルのアルファサブユニットに結合する化合物を称する。より好ましくは、本発明において説明する用語“ナトリウムチャネル阻害薬”とは、ナトリウムチャネル、とりわけTTX抵抗性またはTTX感受性ナトリウムチャネルのアルファサブユニットのSS1またはSS2領域のいずれかに結合する化合物を称する。本発明において使用する好ましいナトリウムチャネル阻害薬は、双方とも該ナトリウムチャネルを特異的に阻害するテトロドトキシンまたはサキシトキシンである。
【0004】
本出願において使用する用語“アナログ”とは、この場合、その化合物と同様な生化学活性を有する化合物の誘導体である化学化合物を意味するものとして定義する。TTXおよびSTXの“アナログ”は、TTXおよびSTXが結合するのと同じナトリウムチャネルのアルファサブユニットの部位に結合する。
本出願において使用する用語“誘導体”とは、溶解性または生体利用性のようなその物理化学的諸性質のいずれかを変化させるために(製薬用途において)さらなる化学基の置換または付加のような化学的誘導体化を受けている化学化合物を意味するものと定義する。誘導体としては、いわゆるプロドラッグ類、例えば、対象者に投与した後それ自体で活性化合物を与える活性化合物のエステルまたはエーテル誘導体がある。
所定の作用性化合物のプロドラッグの周知の製造方法の例は、当業者にとって既知であり、例えば、Krogsgaard-Larsen et al., Textbook of Drugdesign and Discovery, Taylor & Francis (April 2002)において見出し得る。
本発明に関して、“中和形”とは、非イオン形を称するが、(等電点において)中性に負荷した形(等量の正および負負荷を含有することを意味する)、とりわけ両性イオンも称する。
本発明に従う用語“塩”とは、本発明に従う活性化合物の、この化合物がイオン形を取り(溶液中においてさえも)或いは荷電しており、そして、(該当する場合には)対イオン(カチオンまたはアニオン)と結合している任意の形を意味するものと理解すべきである。また、この意味によれば、活性化合物の他の分子およびイオンとの複合体、とりわけイオン相互作用により複合体化している複合体も理解すべきである。塩類の好ましい例としては、酢酸塩、モノ-トリフルオロ酢酸塩、酢酸エステル塩、クエン酸塩、ギ酸塩、ピクリン酸塩、臭化水素酸塩、モノ臭化水素酸塩、モノ塩酸塩または塩酸塩がある。
本発明の関連において用語“生理学上許容し得る塩”とは、生理学上許容される(とりわけ、ヒトおよび/または哺乳類において使用する場合に)本発明に従う少なくとも1種の化合物の“塩”(上記で定義したような)を意味するものと理解されたい。
本発明に従う用語“溶媒和”とは、本発明に従う活性化合物の、とりわけ水和物およびアルコラート類、例えば、メタノラートのような、この化合物が非共有結合により他の分子(殆どの場合、極性溶媒)と結合している任意の形を意味するものと理解すべきである。
【0005】
本明細書との関連における用語“治療”または“治療する”とは、中枢神経由来の神経障害性疼痛に関連する1以上の症状を予防、改善または排除するための本発明に従う化合物または製剤の投与を意味する。さらにまた、本発明に従う用語“治療する”または“治療”としては、中枢神経由来の神経障害性疼痛、とりわけ中枢神経由来の神経障害性疼痛のある種のサブタイプの症状の治療;これらの症状を生じる因果関係の処置;中枢神経由来の神経障害性疼痛、とりわけ中枢神経由来の神経障害性疼痛のある種のサブタイプの症状の防止または予防がある。
本明細書との関連における用語“改善する”とは、治療患者の状況のあらゆる改善(主観的(患者の感触または患者に対する感触)または客観的(測定パラメーター)のいずれかによる)を意味するものと理解されたい。
“神経障害性疼痛”とは、IASPにより、“神経系における原発病変または機能障害によって発症したまたは生じた疼痛”として定義されている(IASP, Classification of chronic pain, 2nd Edition, IASP Press (2002), 210)。本発明の目的においては、この用語に包含されるもの或いは同義語として処理すべきものとして、IASPにより“中枢または中枢神経系における原発病変、機能障害または一過性摂動によって発症したまたは生じた疼痛”と定義されている“神経原性疼痛”がある。本発明に従う使用を“中枢神経由来”に限定することにより、当該使用は、中枢神経系において生じたまたは発症した疼痛に限定されることは、明白である。
本発明に従う用語“中枢神経由来の神経障害性疼痛”とは、中枢神経系における原発病変、機能障害または一過性摂動によって発症したまたは生じた神経障害性疼痛を意味するものとして理解すべきであり、一方、“中枢神経系”は、本明細書においては、脳および脊髄を含むものとして定義する。その例は、Abbadie C1 Trends Immunol. 2005 Oct;26(19):529-34において見出し得る。末梢-および中枢-由来の神経障害性疼痛間の症状/徴候に関する相互作用/差異は、Jensen et al., Pain102 (2003)1-8およびKlein et al., Pain115 (2005) 227-233において詳細に説明されている。
【0006】
(発明を実施するための最良の形態)
本発明に従う極めて好ましい使用においては、ナトリウムチャンネル阻害薬は、必要に応じてラセミ体、純粋立体異性体、とりわけ鏡像異性体またはジアステレオマーの形、或いは、立体異性体の、とりわけ鏡像異性体またはジアステレオマーの、任意の適切な比率の混合物の形;中和形、酸もしくは塩基形、または塩、とりわけ生理学上許容し得る塩の形;或いは、溶媒和、とりわけ水和物の形の、テトロドトキシンまたはその任意の誘導体またはアナログ類および/またはサキシトキシンまたはその任意の誘導体またはアナログ類から選択する。
もう1つの本発明に従う極めて好ましい使用においては、ナトリウムチャネル阻害薬は、必要に応じてラセミ体、純粋立体異性体、とりわけ鏡像異性体またはジアステレオマーの形、或いは、立体異性体の、とりわけ鏡像異性体またはジアステレオマーの、任意の適切な比率の混合物の形;中和形、酸もしくは塩基形、または塩、とりわけ生理学上許容し得る塩の形;或いは、溶媒和、とりわけ水和物の形の、テトロドトキシンから選択する。
テトロドトキシン(また、本出願の関連においては、TTXと略記する)は、ティ・キュ・デュオ・キン(Ti Qu Duo Xin)としても知られており、フグ(フグ目)において見出されるアルカロイドである。化学名は、分子式 C11H17N3O8および分子量 319.27を有するオクタヒドロ-12-(ヒドロキシメチル)-2-イミノ-5,9,7,10a-ジメタノ-10aH-[1,3]ジオキソシノ[6,5-d]ピリミジン-4,7,10,11,12-ペントールである。テトロドトキシンは、強力な非タンパク質神経毒であり、神経生物学および生理学の研究において不可欠の用材である。テトロドトキシン(TTX)は、主として、フグの睾丸、卵巣、卵、肝臓、脾臓、眼球および血液中、並びにハゼ、イモリ、カエルおよびヒョウモンダコ(blue ringed octopus)のような多様な動物種中で、さらには、海藻中においてさえも見出される海産有機毒である。TTX産生の幾つかの過程が知られている。
【0007】
通常、TTXは、海洋生物体から抽出するものの(例えば、GotoおよびTakahashiのJP 270719号)、それ以外に、多くの他の方法、即ち、合成方法も、米国特許第6,552,191号、米国特許第6,478,966、米国特許第6,562,968号または第2002/0086997号(これらの米国特許は、参考として本明細書に含ませる)に記載されている(そして、本発明に関連するテトロドトキシンの調製に使用されている)。テトロドトキシンは、例えばWO 02/22129号において鎮痛薬として全身的に作用するものとして説明されている周知の化合物である。TTXの多くの説明のうちの1つとしては、例えば、Tu, Anthony (Ed.) Handbook of Natural Toxins, Vol. 3: Marine Toxins and Venoms, 1 988, 185-210並びにKao (1966), Pharmacol. Rev. 18:997-1049等を参照することが推奨される。
古い刊行物は、米国特許第1,058,643号にTaharaによって説明されている方法に基づき、日本において、TTX抽出物の1%溶液を含有する遺尿症のような用途のための製品が市販されていたことを記載している(Iwakawa and Kimura, Archiv fuer Experimentelle Pathologie und Pharmakologie (1922), 93, 305-31)。また、1930年代においては、依存症治療におけるTTXの能力を試験する試みも存在していた(Hsiang, Nai Shi; Manshu lgaku Zasshi (1939), 30, 639-47 (German abstr. 179)。
テトロドトキシンは、例えばCN 1145225号において鎮痛薬としてさらにまた薬物依存症の治療において作用するものと説明されている周知の化合物である。WO 02/22129号は、TTXを、神経障害性疼痛に対する作用のような鎮痛薬として全身的に作用するものと説明している。TTXにより治療すべき疼痛の例としての神経障害性疼痛のこの一般的説明は、神経障害性疼痛の如何なる特異性サブタイプにも、とりわけ、中枢神経由来の神経障害性疼痛に対処していない。
【0008】
本発明に従う用語“その(テトロドトキシンの)誘導体およびアナログ類”は、分子式 C11H17N3O8を有するアミノパーヒドロキナゾリン化合物を意味するとして定義する(米国特許第6,030,974号の定義を使用して;該米国特許は、参考として本明細書に含ませる)。本発明に従う“テトロドトキシンの誘導体およびアナログ類”のもう1つの定義は、米国特許第5,846,975号(参考として本明細書に含ませる)の、第3欄40行〜第6欄40行に特定されている物質のようなアミノ水素化キナゾリンおよび誘導体類としての定義を称する。本発明に従う具体的に定義された“テトロドトキシンの誘導体およびアナログ類”としては、限定するものではないが、アンヒドロ-テトロドトキシン、テトロドアミノトキシン、メトキシテトロドトキシン、エトキシテトロドトキシン、デオキシテトロドトキシンおよびテトロドン酸、6エピ-テトロドトキシン、11-デオキシテトロドトキシン;並びに、ヘミラクタルタイプのTTXアナログ類(例えば、4-エピ-TTX、6-エピ-TTX、11-デオキシ-TTX,、4-エピ-11-デオキシ-TTX、TTX-8-O-ヘミスクシネート、キリキトキシン(chiriquitoxin)、11-ノル-TTX-6(S)-オール、11-ノル-TTX-6(R)-オール、11-ノル-TTX-6,6-ジオール、11-オキソ-TTXおよびTTX-11-カルボン酸)、ラクトンタイプのTTXアナログ類(例えば、6-エピ-TTX(ラクトン)、11-デオキシ-TTX(ラクトン)、11-ノル-TTX-6(S)-オール(ラクトン)、11-ノル-TTX-6(R)-オール(ラクトン)、11-ノル-TTX-6,6-ジオール(ラクトン)、5-デオキシ-TTX、5,11-ジデオキシ-TTX、4-エピ-5,11-ジデオキシ-TTX, 1-ヒドロキシ-5,11-ジデオキシ-TTX、5,6,11-トリデオキシ-TTXおよび4-エピ-5,6,11-トリデオキシ-TTX)、および4,9-アンヒドロタイプのTTXアナログ類(例えば、4,9-アンヒドロ-TTX、4,9-アンヒドロ-6-エピ-TTX、4,9-アンヒドロ-11-デオキシ-TTX、4,9-アンヒドロ-TTX-8-O-ヘミスクシネート、4,9-アンヒドロ-TTX-11-O-ヘミスクシネート)がある。TTXの典型的なアナログ類は、マウス中でのバイオアッセイによれば、マウス中でTTXの僅かに1/8〜1/40の毒性しか有さない。これらのアナログ類は、結合作用を発生させ、有害に相互作用しないことが観察されている。TTXアナログ類の例としては、種々の生物体から分離した新規なTTXアナログ類、並びに部分的にまたは全体的に化学合成したTTXアナログ類がある(例えば、Yotsu, M. et al. Agric. Biol. Chem., 53(3):893-895 (1989)を参照されたい)。そのようなアナログ類は、TTXが結合するのと同じナトリウムチャンネルのアルファサブユニット上の部位に結合する。
米国特許第6,030,974号によれば、“サキシトキシン”または“STX”とは、分子式 CloHl7N704 (分子量 299.30)を有する、安定なアザケタル連鎖中に一緒に縮合した2個のグアニジン単位からなるテトラヒドロプリン成分を含む化合物;並びに、限定するものではないがヒドロキシサキシトキシンおよびネオサキシトキシンのようなその誘導体類を称する。Bower et al., Nonprotein Neurotoxins, Clin. Toxicol. 18 (7): 813-863 (1981)。
【0009】
本発明に従う使用は、本明細書において説明する全ての疼痛タイプに関し中枢神経由来の神経障害性疼痛に限定されることを理解すべきである。
本発明に従う使用の極めて好ましい実施態様においては、中枢神経由来の神経障害性疼痛は、中枢神経障害性疼痛または中枢神経原性疼痛である。
IASPによれば、“中枢神経障害性疼痛”は、“中枢神経系における原発病変または機能障害によって発症したまたは生じた疼痛”として定義され、“中枢神経原性疼痛”は、“中枢神経系における原発病変、機能障害または一過性摂動によって発症したまたは生じた疼痛”と定義されている(IASP, Classification of chronic pain, 2nd Edition, IASP Press (2002), 213)。
本発明に従う使用のもう1つの好ましい実施態様においては、中枢神経由来の神経障害性疼痛は、異痛(allodynia)である。
IASPによれば、“異痛”は、“疼痛を通常は誘発しない刺激による疼痛”として定義されている(IASP, Classification of chronic pain, 2nd Edition, IASP Press (2002), 210)。
本発明に従う使用のもう1つの好ましい実施態様においては、中枢神経由来の神経障害性疼痛は、灼熱痛(causalgia)である。
IASPによれば、“灼熱痛”は、多くの場合血管運動および汗腺運動機能障害ならびに後期栄養変化を併発する外傷性神経病変後の持続性の焼けるような痛み、異痛および感覚過敏の症状“として定義されている(IASP, Classification of chronic pain, 2nd Edition, IASP Press (2002), 210)。
【0010】
本発明に従う使用のもう1つの好ましい実施態様においては、中枢神経由来の神経障害性疼痛は、痛覚過敏(hyperalgesia)である。
IASPによれば、“痛覚過敏”は、通常は有痛性である刺激に対する応答増大“として定義されている(IASP, Classification of chronic pain, 2nd Edition, IASP Press (2002), 211)。
本発明に従う使用のもう1つの好ましい実施態様においては、中枢神経由来の神経障害性疼痛は、知覚過敏(hyperesthesia)である。
IASPによれば、“知覚過敏”は、“感覚を除く、刺激に対する感受性の増大”として定義されている(IASP, Classification of chronic pain, 2nd Edition, IASP Press (2002), 211)。
本発明に従う使用のもう1つの好ましい実施態様においては、中枢神経由来の神経障害性疼痛は、痛感過敏(hyperpathia)である。
IASPによれば、“痛感過敏”は、“刺激、とりわけ繰返しの刺激に対する異常に有痛性の反応および閾値の増大に特徴を有する有痛性症状”として定義されている(IASP, Classification of chronic pain, 2nd Edition, IASP Press (2002), 212)。
IASPは、“異痛”、“痛覚過敏”および“痛感過敏”間で以下の差異を示している(IASP, Classification of chronic pain, 2nd Edition, IASP Press (2002), 212):


【0011】
本発明に従う使用のもう1つの好ましい実施態様においては、中枢神経由来の神経障害性疼痛は、神経痛である。
IASPによれば、“神経痛”は、“単一または複数の神経の分布領域の疼痛”として定義されている(IASP, Classification of chronic pain, 2nd Edition, IASP Press (2002), 212)。
本発明に従う使用のもう1つの好ましい実施態様においては、中枢神経由来の神経障害性疼痛は、神経炎である。
IASPによれば、“神経炎”は、“単一または複数の神経の炎症”として定義されている(IASP, Classification of chronic pain, 2nd Edition, IASP Press (2002), 212)。
本発明に従う使用のもう1つの好ましい実施態様においては、中枢神経由来の神経障害性疼痛は、ニューロパシーである。
IASPによれば、“神経炎”は、“神経における機能障害または病変:単一神経においては、単ニューロパシー;数本の神経においては、多発性単神経炎、糜爛性および両側性の場合は、多発性ニューロパシー”として定義されている(IASP, Classification of chronic pain, 2nd Edition, IASP Press (2002), 212)。
【0012】
ヒトの治療においては、投与量は、通常、ナトリウムチャネル阻害薬、とりわけテトロドトキシン、その誘導体またはアナログの10〜4000μg/日であり、とりわけ、例えば、投与するテトロドトキシンの量は、投与経路にもよるが、通常、10〜4000μg/日であり、或いは、1日当りおそらく2回の治療を考慮すると、投与毎に5〜2000μg、場合によっては、好ましくは投与毎に250〜1000μg、場合によっては、好ましくは投与毎に25〜50μgである。
本発明に関しては、定義した量は、いずれも、何らの組合せに対してではない個々に各化合物を参照し、≧97%の純度を有する各化合物を参照する。一方で、このことは、本発明の意味合いでの活性化合物に対して説明し、定義しまたは参照した>3%以内で含まれているあらゆる不純物を除外する。例えば、このことは、99%の純度と0.8%無水テトロドトキシンのテトロドトキシン 0.5mgを含有する製剤は、本発明に従い、活性成分としてのテトロドトキシンを正しく含有するものとして分類し、定義されることを意味するであろう。
本発明に従う使用の極めて好ましい実施態様においては、ナトリウムチャネル阻害薬、とりわけ、テトロドトキシン、その誘導体および/またはそのアナログ類の1種は、10μg/日〜4mg/日の量で使用する。
本発明の極めて好ましい実施態様においては、使用するテトロドトキシン、その誘導体またはそのアナログは、生物学源から、好ましくは魚類、とりわけフグから分離する。
本発明の極めて好ましい実施態様においては、使用するテトロドトキシン、その誘導体またはそのアナログは、合成する。
【0013】
本発明に従う製剤即ち製薬組成物は、いずれも、活性成分(例えば、TTX(テトロドトキシン)、その誘導体および/またはそのアナログ類のようなナトリウムチャネル阻害薬);並びに、任意成分としての少なくとも1種の補助物質および/または添加剤および/または任意成分としての他の活性成分を含有する。
補助物質および/または添加剤は、具体的には、保存剤、乳化剤および/または非経口用途用の担体から選択する。これら補助物質および/または添加剤および使用すべき量の選択は、製薬組成物を如何にして投与するかによる。例としては、この場合、とりわけ、静脈内、皮下または筋肉内のような非経口投与製剤があるが、これらの製剤は、他の投与経路においても使用し得る。最も好ましい経路は、一般に、好ましくは局所作用を意味しない全身経路である。尚、局所経路も可能である。
テトロドトキシン、その誘導体およびそのアナログの投与経路としては、筋肉内注射、静脈内注射、皮下注射、舌下、口腔内、経皮パッチ、経口服用、埋込み可能な浸透圧ポンプ、コラーゲンインプラント、エアゾールまたは座薬がある。
また、本発明には、とりわけ、必要に応じてラセミ体、純粋立体異性体、とりわけ鏡像異性体またはジアステレオマーの形、或いは、立体異性体、とりわけ鏡像異性体またはジアステレオマーの、任意の適切な比率の混合物の形;中和形、酸もしくは塩基形、または塩、とりわけ生理学上許容し得る塩の形;或いは、溶媒和、とりわけ水和物の形の、テトロドトキシンまたはサキシトキシンおよび/またはそのアナログまたは誘導体類の1種のようなナトリウムチャネル阻害薬を使用しての、中枢神経由来の神経障害性疼痛を患っているヒトを含む患者または哺乳類の治療方法も包含される。また、上記治療方法が、必要に応じてラセミ体、純粋立体異性体、とりわけ鏡像異性体またはジアステレオマーの形、或いは、立体異性体、とりわけ鏡像異性体またはジアステレオマーの、任意の適切な比率の混合物の形;中和形、酸もしくは塩基形、または塩、とりわけ生理学上許容し得る塩の形;或いは、溶媒和、とりわけ水和物の形の、テトロドトキシンに限定される場合も好ましい。また、上記治療方法が天然形または塩、とりわけ生理学上許容し得る塩としてのテトロドトキシンに限定され、一方で、好ましくは、テトロドトキシン、その誘導体および/またはそのアナログ類の1種が、10μg/日〜4μg/日の量で使用され、生物学源、好ましくは魚類、とりわけフグから分離されるかまたは合成されている場合も好ましい。
【0014】
薬理試験を説明する以下のセクションにおける実施例および図面は単なる例示であり、本発明を如何なる形でもこれらの用途に限定するものとみなすことはできない。
(実施例)
実施例1
TTXの注射可能(im/iv(筋肉内/静脈内))溶液の調合例
テトロドトキシン(TTX) (粉末物質) 15mg
0.5%希酢酸 1mg
酢酸-酢酸緩衝溶液 (pH = 3〜5) 50ml
注射用水(適量添加) 1000ml
注射用のTTX投与量は、2ml中30μgである。
【0015】
実施例2
神経障害性疼痛:眼窩下神経上で一方向術したラット
ペントバルビタール誘発麻酔後、ラットの頭を定位枠内に固定し、中央線頭皮切開を行い、頭蓋骨および鼻骨を露出させた。その後、右眼窩下神経の眼窩下部分を露出させた。上顎骨、前頭骨、涙骨および頬骨によって形成された眼窩の端部を自由に切裂き、眼窩内容物をゆるやかに屈折させて眼窩下神経に対するアクセスを与えた。次いで、眼窩下神経を、眼窩下孔に対し丁度尾側の眼窩腔内の最も吻側領域で自由に切裂いた。2本のクローミック腸線(5-0)連結線を神経の周りにゆるく結紮した(約2mm間隔で) (Vos B. P., Strassman A.M. and Maciewitz RJ. (1994) Behavioural evidence of trigeminal neuropathic pain following chronic constriction injury to rat's infraorbital nerve. J. Neurosci. 14: 2708-2723;および、Kayser V., Aubel B., Hamon M. and Bourgoin S. (2002) The antimigraine 5-HT1B/1D receptor agonists, sumatriptan, zolmitriptan and dihydroergotamine, attenuate pain-related behaviour in a rat model of trigeminal neuropathic pain. Br. J. Pharmacol. 137: 1287-1297)。注意して、神経上膜循環の如何なる干渉も回避した。擬似手術ラットにおいて、右眼窩下神経は露出させたが、結紮しなかった。
眼窩下神経上に一方向結紮を有するこれらのラットにおいて、同側鼻毛領域内の機械的刺激に対する感受性を、von Freyフィラメント(Semmes-Weinsteinモノフィラメント;Stoelting社、米国イリノイ州ウッドデール)から送られ、防御挙動応答(頭の素早い引っ込み行動、攻撃、逃避行動)を誘発するのに必要な圧力閾値を測定することによって評価した。刺激フィラメント(0.217、0.445、0.745、0.976、2.35、4.19、6.00、7.37または12.5gの較正圧力に相当する)毎に、3回の連続適用(1秒間隔)を行い、応答の安定性を確証した。坐骨神経-および眼窩下神経-結紮の双方のラットにおいて、閾値を、術前最初の2日間、その後、14日後、機械的および熱的刺激に対する過応答が十分に発生した時点で測定した(Vos等、1994年)。
術後、(g)での応答閾値は、嫌悪応答として測定した結紮当りの応答に対して同側と対側面を比較した場合に著しく低下している。テトロドトキシンを3および6μg/kgの投与量でs.c.(皮下)投与し、それによって同側面結果を痛覚閾値の強力な誘発においてもたらした(図1)。生理食塩水は、痛覚閾値の改変を生じていなかった。
Vosに従う眼窩下神経モデルは、神経障害性疼痛の極めて強力なモデルであり、中枢神経由来の神経障害性疼痛に対し若干の予測性を有するようある。とりわけ、どの化合物がこのモデルにおいて活性であるか、活性でないかは概して予測不可能のままである。
【0016】
実施例3
脳内のc-fos分布に対するTTXの影響
免疫組織化学法により、神経活性のマーカーとしての前初期遺伝子c-Fosの発現に対するTTX(2.5μg/kg、s.c.)の効果を測定した。TTXは、視床および視床下部の傍室核上並びに側方隔膜内でのc-Fosの発現を増大させていた(図2)。
TTXを、2.5μg/kgの投与量で10 a.m.にてs.c.投与した。ラットをTTXの90分後ウレタンで麻酔し、直ちに、300mLの生理食塩水、次いで300mLの4%パラホルムアルデヒドを経心臓的に潅流させた。潅流後、脳を摘出し、4%パラホルムアルデヒド中で後固定させた。脳および脳幹領域の全てを代表する冠状切片(40μm)を、Vibratome (Leica 1000 M)上で得た。自由浮遊性切片を、0.3%のH2O2を含有する60%メタノール中で30分間浴処理して内生ペルオキシダーゼ活性を遮断した。切片を、0.1Mリン酸緩衝生理食塩水 pH 7.4 (PBS)中で3×5および1×10分、次いで、0.1%のTriton X-100を含有するPBS (PBS-Triton)中で1×10分洗浄した。切片を、5%の正常ヤギ血清を含有するPBS-Triton (PBS-Triton-NS)中で1×30分予備インキュベートした。抗-c-Fosウサギ抗血清(Calbiochem社、米国)を1:5000の最終希釈で添加し、4℃で1夜インキュベートした。翌日、切片をPBSで洗浄し(3×5および1×10分)、PBS中で1:200希釈したヤギ抗-ウサギ二次抗血清(Vector社、米国)と一緒に2時間インキュベートした。切片をPBS中で洗浄し(3×5および1×10分)、アビジン-ビオチン-ペルオキシダーゼ複合体(ABCキット;Vector社、米国)と一緒にインキュベートした。0.05M Tris-HCl (pH 7.4)で洗浄した後、切片を3,3'-ジアミノベンジジン(Vector社、米国)で現像し、その後、DPX (Aldrich社、米国)で標本化し、カバースリップした。計数を、Leika DMLS顕微鏡を使用することにより、20×エア対物レンズにより行なった。各動物において、c-Fos染色細胞数は、2〜3枚の切片からの平均値であった。細胞係数は、2名の個々人により無作為に行なった。
【0017】
c-Fos発現に対するTTXの効果は、脳全体に亘って検証した。TTX処理ラット内でのc-Fos免疫染色性は、殆どの検証領域において、対照動物において判明した免疫染色性と異なっていなかった。下記の表1は、PVN (F(1,9) = 122,302、p<0.001)、PVT (F(1,9) = 14,100、p<0.01)および側方隔膜(F(1,9) = 36,413、p<0.001)におけるTTXの効果を要約している。図2に示すように、TTXは、PVN中でc-Fos免疫標識性を劇的に向上させていた。同様な結果は、PVT中および側方隔膜中でも観察された。

表1:種々の脳領域におけるc-Fos発現に対するTTX (2.5μg/kg)の効果


各値は、異なる動物からの5〜6のデータからの平均±S.E.M.に相当する。
(**) P < 0.01および(***) P < 0.001は、生理食塩水に対する。

上記結果以外に、試験において、TTXは中枢神経系中のある種の神経伝達物質のレベルにも影響を与え得るようであった。
従って、TTXが脳内において活性である明白な証拠が存在し、かくして、眼窩下神経モデルから得られた結果と共に中枢神経由来の神経障害性疼痛に対する活性についての強力な証拠を示している。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は実施例2に関連する。
【図2】図2は実施例3に関連する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中枢神経由来の神経障害性疼痛の薬剤の製造における、必要に応じてラセミ体、純粋立体異性体、とりわけ鏡像異性体またはジアステレオマーの形、或いは、立体異性体の、とりわけ鏡像異性体またはジアステレオマーの、好ましくは任意の適切な比率の混合物の形;中和形、酸もしくは塩基形、または塩、とりわけ生理学上許容し得る塩の形;或いは、溶媒和、とりわけ水和物の形のナトリウムチャネル阻害薬および/またはその誘導体の1種の使用。
【請求項2】
前記中枢神経由来の神経障害性疼痛が、中枢性疼痛である、請求項1記載の使用。
【請求項3】
前記中枢神経由来の神経障害性疼痛が、異痛である、請求項1記載の使用。
【請求項4】
前記中枢神経由来の神経障害性疼痛が、灼熱痛である、請求項1記載の使用。
【請求項5】
前記中枢神経由来の神経障害性疼痛が、痛覚過敏である、請求項1記載の使用。
【請求項6】
前記中枢神経由来の神経障害性疼痛が、知覚過敏である、請求項1記載の使用。
【請求項7】
前記中枢神経由来の神経障害性疼痛が、痛感過敏である、請求項1記載の使用。
【請求項8】
前記中枢神経由来の神経障害性疼痛が、神経痛である、請求項1記載の使用。
【請求項9】
前記中枢神経由来の神経障害性疼痛が、神経炎である、請求項1記載の使用。
【請求項10】
前記中枢神経由来の神経障害性疼痛が、ニューロパシーである、請求項1記載の使用。
【請求項11】
前記ナトリウムチャネル阻害薬が、必要に応じてラセミ体、純粋立体異性体、とりわけ鏡像異性体またはジアステレオマーの形、或いは、立体異性体の、とりわけ鏡像異性体またはジアステレオマーの、任意の適切な比率の混合物の形;中和形、酸もしくは塩基形、または塩、とりわけ生理学上許容し得る塩の形;或いは、溶媒和、とりわけ水和物の形の、テトロドトキシンまたはその任意の誘導体またはアナログ類および/またはサキシトキシンまたはその任意の誘導体またはアナログ類から選ばれる、請求項1〜10のいずれか1項記載の使用。
【請求項12】
前記ナトリウムチャネル阻害薬が、必要に応じてラセミ体、純粋立体異性体、とりわけ鏡像異性体またはジアステレオマーの形、或いは、立体異性体の、とりわけ鏡像異性体またはジアステレオマーの、任意の適切な比率の混合物の形;中和形、酸もしくは塩基形、または塩、とりわけ生理学上許容し得る塩の形;或いは、溶媒和、とりわけ水和物の形の、テトロドトキシンから選ばれる、請求項1〜11のいずれか1項記載の使用。
【請求項13】
前記ナトリウムチャネル阻害薬、とりわけ、テトロドトキシン、その誘導体および/またはそのアナログ類の1種を、10μg/日〜4mg/日の量で使用する、請求項1〜12のいずれか1項記載の使用。
【請求項14】
使用するテトロドトキシン、その誘導体またはそのアナログを、生物学源、好ましくは魚類、とりわけフグから分離する、請求項11〜13のいずれか1項記載の使用。
【請求項15】
使用するテトロドトキシン、その誘導体またはそのアナログを合成する、請求項11〜13のいずれか1項記載の使用。
【請求項16】
前記薬剤を、全身投与、とりわけ非経口または経口投与するように製造する、請求項1〜15のいずれか1項記載の使用。
【請求項17】
前記薬剤を、局所投与するように製造する、請求項1〜15のいずれか1項記載の使用。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2008−513407(P2008−513407A)
【公表日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−531714(P2007−531714)
【出願日】平成17年9月21日(2005.9.21)
【国際出願番号】PCT/EP2005/010213
【国際公開番号】WO2006/032481
【国際公開日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【出願人】(507331494)ウェックス ファーマシューティカルズ インコーポレイテッド (2)
【Fターム(参考)】