説明

中枢神経興奮作用増強剤

【課題】
少量で覚醒作用、運動活性が得られる中枢神経興奮作用増強剤あるいは中枢神経興奮剤を提供する。さらに、上記中枢神経興奮作用増強剤あるいは中枢神経興奮剤を含有した医薬品および飲食品を提供することを目的とする。
【解決手段】
嗜好飲料成分中の芳香物質を含有する中枢神経興奮作用増強剤であり、好ましくは、嗜好飲料成分中の芳香物質を、10〜90重量%含有する中枢神経興奮作用増強剤。あるいは、(a)嗜好飲料成分中の芳香物質と(b)中枢神経興奮作用を有する物質とを含有する中枢神経興奮剤であり、好ましくは、(a):(b)の含有量が、1:1〜100の割合である中枢神経興奮剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中枢神経興奮作用増強剤に関する。特に、本発明は、茶に代表される嗜好飲料成分中の芳香物質と、カフェインを含有してなる中枢神経興奮作用を増強させた医薬品および飲食品に関する。
【背景技術】
【0002】
茶、ココアやコーラなどの嗜好飲料にはカフェインに代表されるキサンチン誘導体が含まれている。キサンチン誘導体は、平滑筋弛緩、強心、利尿、血管拡張、骨格筋緊張、分泌や代謝の促進などさまざまな生理活性を持つことが知られている。これらの生理作用は、ホスホジエステラーゼ活性の抑制、細胞内カルシウム流入の阻止、ニコチン性アセチルコリン受容体の機能変化、カテコールアミンの遊離促進、ベンゾジアゼピン受容体の遮断により引き起こされると考えられている。さらに中枢神経系に対しては、摂取すると脳内のアデノシン受容体を阻害することにより、覚醒作用を引き起こすことから、中枢神経興奮作用を有することが明らかにされている。
【0003】
一方、茶などに含まれる芳香物質は、嗜好飲料の味わいに寄与していることが知られている。テルピネン‐4‐オールはジュニパー、マジョラムやティートリーなどのハーブティーに含まれる芳香物質である。青葉アルコールは緑茶の、ジャスモン酸メチルはウーロン茶や紅茶の芳香物質である。これらの芳香物質はアフリカツメガエル卵母細胞に遺伝子を注入して発現させたγ‐aminobutylic acid(GABA)受容体応答を昂進させることが見出されている(非特許文献1)。受容体応答の昂進は、ストレスの軽減に結びつき、抗不安効果をもたらす。本発明者らは、ウイスキーの芳香物質には、吸入すると脳に達して脳内GABA機能を高める物質があり、この作用を通じて、ウィスキーの香りはストレス緩和作用すなわち「安らぎ」効果をもたらすことを明らかにしている(非特許文献2、3)。さらにいくつかの芳香物質はマウスに注入すると抗不安作用を示すことが動物行動実験で示され(非特許文献4)、嗅覚系を通した作用だけでなく芳香物質が中枢系にも作用することが見出されている。
【0004】
カフェインとの共存作用については、栗原らが、エタノール、ケタミン、などはカフェインの効果を賦活することを報告している(非特許文献5)。特許文献1には、カフェインと、緑茶の芳香物質であるテアニンを共存させると興奮が抑制されることが報告されており、特許文献2には、カカオポリフェノール類の一種であるエピカテキンと、カフェインを組み合わせると、各物質が単独で有する抗ストレス効果に比べ高くなることが明らかにされている。
【非特許文献1】Aoshima,H.et al.J.Biochem.,130,703‐709(2001)
【非特許文献2】青島均、第24回日本神経科学会要旨集 p.392,PE3‐080(2001)
【非特許文献3】Hossain,S.J.et al.J.Agric.Food Chem.50,6828‐6834(2002)
【非特許文献4】梅津豊司、AROMA RESEARCH、3,376‐382(2002)
【非特許文献5】Kuribara,H,et al.Arukoru Kenkyuto Yakubutsu Ison.27,528‐539(1992)
【特許文献1】特開平9‐40568号公報
【特許文献2】特開2002‐80363号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述するように、茶に代表される嗜好飲料成分中の芳香物質には単独で与えると抗不安作用、すなわち「安らぎ」効果をもたらすことが明らかにされているが、カフェインと同時に与えると、カフェインの覚醒作用をさらに強めることはいまだ知られていなかった。本発明は、少量で覚醒作用、運動活性が得られる中枢神経興奮作用増強剤あるいは中枢神経興奮剤を提供する。さらに、上記中枢神経興奮作用増強剤あるいは中枢神経興奮剤を含有した医薬品および飲食品を提供することを目的とする。カフェインに代表される中枢神経興奮作用を有する物質に、嗜好飲料成分中の芳香物質を一定以上添加することにより、少量で覚醒作用、運動活性を有する医薬品または飲食品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、嗜好飲料成分中の芳香物質の、中枢系への作用を、分子レベルと動物行動レベルの両方の実験方法を用いて研究しているが、今回、茶に代表される嗜好飲料成分中の芳香物質を、カフェインと同時に与えると、カフェインの覚醒作用をさらに強めることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、前記課題を解決するための手段は下記のとおりである。
(1)本発明は、嗜好飲料成分中の芳香物質を含有することを特徴とする中枢神経興奮作用増強剤を要旨とする。
(2)嗜好飲料成分中の芳香物質が、中枢神経興奮作用増強剤中に、10〜90重量%含有されていることを特徴とする上記(1)に記載の中枢神経興奮作用増強剤である。
(3)嗜好飲料成分中の芳香物質が、緑茶、中国茶、紅茶、ハーブティーのうちから選ばれる少なくとも一種に含有されている物質である上記(1)または(2)記載の中枢神経興奮作用増強剤である。
(4)嗜好飲料成分中の芳香物質として、テルピネン‐4‐オール、(E)‐2‐ヘキセン‐1‐オール(青葉アルコール)、ジャスモン酸メチルなどが挙げられる上記((1)〜(3)のいずれか記載の中枢神経興奮作用増強剤である。
(5)中枢神経興奮作用は、カフェインの覚醒作用であることを特徴とする上記(1)〜(4)のいずれか記載の中枢神経興奮作用増強剤である。
【0008】
(6)さらに、本発明は、(a)嗜好飲料成分中の芳香物質と(b)中枢神経興奮作用を有する物質とを含有することを特徴とする中枢神興奮剤を要旨とする。
(7)嗜好飲料成分中の芳香物質と、中枢神経興奮作用を有する物質とは、1:1〜100の割合で存在することを特徴とする上記(6)記載の中枢神経興奮剤である。
(8)嗜好飲料成分中の芳香物質が、緑茶、中国茶、紅茶、ハーブティーのうちから選ばれる少なくとも一種に含有されている物質である上記(6)または(7)記載の中枢神経興奮剤である。
(9)嗜好飲料成分中の芳香物質として、テルピネン‐4‐オール、青葉アルコール、ジャスモン酸メチルなどが挙げられる上記(6)〜(8)のいずれか記載の中枢神経興奮剤である。
(10)中枢神経興奮作用を有する物質として、カフェインなどが挙げられる上記(6)〜(9)のいずれか記載の中枢神経興奮剤である。
(11)中枢神経興奮作用が、カフェインの覚醒作用であることを特徴とする上記(6)〜(10)のいずれか記載の中枢神経興奮剤である。
【0009】
さらにまた、本発明は(1)〜(5)に記載の中枢神経興奮作用増強剤または(6)〜(11)に記載の中枢神経興奮剤を含むことを特徴とする医薬品および飲食品を要旨とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の中枢神経興奮作用増強剤および中枢神経興奮剤を用いることにより、従来の中枢神経興奮剤の摂取し過ぎによる依存症や中毒症状などの副作用を抑え、より安全かつ効果的に、眠気払拭、精神疲労払拭、思考速度増進などの中枢神経興奮作用を得ることが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の中枢神経興奮作用は、実験動物に中枢神経興奮作用を有する物質を投与し、その運動活性を測定することにより評価することができる。実験動物として、マウスを使用する場合、マウスの運動活性はアンビュロメーターにより測定できる。この方法により測定される運動活性は、特に移所運動活性と呼ばれる。(非特許文献4)
【0012】
移所運動活性の測定は、群馬大学で開発されたアンビュロメーター(小原医科産業社製)を用いて以下のように行う。すなわち、中枢神経興奮作用を有する物質を、マウスに皮下投与し、そのマウスをバケツ型容器の中に一匹ずつ入れ、その平面上の移動量を移所運動活性として自動的に測定し、一定時間の移所運動活性を振動かご法の原理に基づいて記録処理する装置を用いて測定する。コントロールとして、中枢神経興奮作用を有する物質を投与しなかったマウスを用いる。マウス20匹を用いたカフェインによる移所運動活性は、図1に、マウスの体重1kgあたり30mgのカフェインを、図2に、10mgのカフェインを皮下投与した場合を示す。図1、2より、カフェインが、マウスの移所運動活性を数時間にわたって増加させていることが明らかである。
【0013】
中枢神経興奮作用増強剤の増強効果を測定する場合は、上記アンビュロメーター(小原医科産業社製)を用いて、マウスの移所運動活性を測定することにより評価することができる。すなわち、あらかじめ芳香物質を腹腔内投与しておいたマウスに、中枢神経興奮作用を有する物質を皮下投与し、そのマウスをバケツ型容器の中に一匹ずつ入れ、その平面上の移動を自動的に測定し、一定時間の移所運動活性を記録処理する。コントロールとして、中枢神経興奮作用を有する物質のみ皮下投与したマウスを用いる。図3に、カフェインのみの活動をコントロール(100%)としたときの芳香物質(図の物質のカッコ内注入量をmg/kg単位で示した)による増強効果を示す。図3より、芳香物質は中枢神経興奮作用を増強させていることが明らかである。比較検討のため、GABA機能を高めることが知られているジアゼパムとムシモールを投与したが、カフェインの増強効果は見られなかった。
【0014】
本発明の嗜好飲料としては、特に限定されないが、例えば抹茶、玉露、煎茶、窯煎り茶、番茶、ほうじ茶などの緑茶、ウーロン茶、鉄観音茶、プーアル茶、ホワシャン茶、ロンジン茶、パオチュン茶、ジャスミン茶などの中国茶、ダージリン、アッサム、ニルギリ、ウヴァ、ディンブラ、ジャワなどの紅茶が挙げられる。更には、ジュニパー、マジョラムやティートリー、オレンジフラワー、レモングラス、ラベンダー、ローズマリー、ペパーミント、ボダイジュ、パジリコ、キンセンカなどのハーブティーや麦茶も嗜好飲料として挙げられる。
【0015】
嗜好飲料成分中の芳香物質としては、具体的に以下のものが挙げられる。アリストレン、オシメン、カンフェン、リモネン、サビネン、ミルセン、テルピネン、ピネン、シメンなどのモノテルペン炭化水素類、アロマデンドレン、クルクメン、アシヒュルレン、カジネン、カマズレン、β―カリオフィレン、ゲルマクレンD、コパエン、セドレン、ビサボレン、ファネッセンなどのセスキテルペン炭化水素類、シトロネロール、ネロール、ゲラニオール、イソプレゴール、イソメントール、メントール、リナロール、テルピネオール、ピペリトール、フェンコール、ベルベノールなどのモノテルペンアルコール類、セドロール、カジノール、サンタロール、グロブロール、パチュロール、レドール、ネロリドール、スパスレノール、ファネソールなどのセスキテルペンアルコール類、スクラレオール、フィトール、イソフィトールなどのジテルペンアルコール類、オクタノール、オクテノール、ヘキサノールなどの脂肪族アルコール類、フェニルエチルアルコール、ベンジルアルコールなどの芳香族アルコール類、オイゲノール、カルバクロール、チモール、パラクレゾールなどのフェノール類、トランスーアネトール、チャビコールメチルエーテル、サフロールなどのフェノールエーテル類、アセトアルデヒド、オクタナール、シトラール、シトロネラール、ゲラニアール、シトラール、シトロネラール、デカナール、ノナナール、ピペロナール、ヘキサナール、ヘプタナールなどのアルデヒド類、アセトフェノン、カルボン、カンファー、クリサンティノン、ジャスモン、ノートカトン、フェンコン、プレゴン、メントンなどのケトン類、アンスラニル酸ジメチル、アンゼリカ酸イソアミル、アンゼリカ酸プロピル、アンゼリカ酸イソブチル、安息香酸メチル、安息香酸ベンジル、イソ酪酸シトロネリル、酪酸シトロネリル、酢酸オイゲノール、酢酸ゲラニル、酢酸シトロネリル、酢酸シンナミル、酢酸テルピニル、酢酸ネリル、酢酸フィトリル、酢酸ヘキシル、酢酸ベンジル、酢酸ボルニル、酢酸ミルテニル、酢酸メンチル、酢酸リナリル、ジャスモン酸メチルなどのエステル類、カリオフィレンオキサイド、シネオール、ビサボロールオキサイドなどの酸化物(オキサイド)類、クマリン、ジャスミンラクトンなどのラクトン類、インドールなどの含窒素化合物である。
【0016】
中枢神経興奮作用を増強する芳香物質としては、特にモノテルペンアルコール類、脂肪族アルコール類、エステル類が好ましい。
【0017】
上記の活性を有する物質であれば特に制限されないが、例えば以下の化合物を例示することができる。モノテルペンアルコールのテルピネン‐4‐オールや脂肪族アルコールの(E)‐2‐ヘキセン‐1‐オール(青葉アルコール)、エステル体のジャスモン酸メチルが、特に活性の強い芳香物質である。
【0018】
テルピネン‐4‐オールは、次の化学式で示される化合物であり、ハーブティーに用いられているジュニパーやマジョラムに含まれる芳香物質である。
【0019】
【化1】

【0020】
青葉アルコール(((E)‐2‐ヘキセン‐1‐オール)は、次の化学式で示される化合物で、緑茶に含まれる芳香物質である。
【0021】
【化2】

【0022】
メチルジャスモン酸は、次の化学式で示される化合物で、ウーロン茶や緑茶に含まれる芳香物質である。
【0023】
【化3】

【0024】
本発明の中枢神経興奮作用増強剤は、嗜好飲料成分中の芳香物質を単独であるいは2種類以上を含有していても良く、特に芳香物質の含有量も限定されないが、通常は中枢神経興奮作用増強剤に対し1〜100重量%、好ましくは10〜90重量%の芳香物質を含むものである。
【0025】
本発明の中枢神経興奮剤は、嗜好飲料成分中の、単独であるいは2種類以上の芳香物質と、中枢神経興奮作用を有する物質とを含有していれば良く、特に芳香物質の含有量も中枢神経興奮作用を有する物質の含有量も限定されないが、通常は中枢神経興奮剤に対し、合わせて1〜100重量%、好ましくは10〜99重量%含むものである。
【0026】
また、芳香物質と中枢神経興奮作用を有する物質との含有割合は、特に限定されず適宜選択することができる。例えば、中枢神経興奮作用を有する物質がカフェインである場合、本発明に係る中枢神経興奮剤には、カフェインと芳香物質とは、1:0.1〜1000割合で含有されていることが好ましく、1:1〜100の割合で含有されていることがより好ましい。
【0027】
嗜好飲料成分中の芳香物質がテルピネン‐4‐オールである場合は、カフェインとテルピネン‐4‐オールとは、1:0.1〜1000の割合で、含有されていることが好ましく、1:1〜100の割合で含有されていることがより好ましい。また、嗜好飲料成分中の芳香物質が青葉アルコールである場合は、カフェインと青葉アルコールとは1:0.1〜500の割合で、含有されていることが好ましく、1:1〜100の割合で含有されていることがより好ましい。嗜好飲料成分中の芳香物質がジャスモン酸メチルである場合は、カフェインとジャスモン酸メチルとは1:0.1〜1000の割合で、含有されていることが好ましく、1:1〜100の割合で含有されていることがより好ましい。
本発明の中枢神経興奮作用増強剤または中枢神経興奮剤を含む医薬品や飲食品は、中枢神経興奮作用増強剤または中枢神経興奮剤をそのまま使用する形態としてもよい。しかし、一般的には、1または2以上の添加物を含む医薬品や飲食品の形態とすることが望ましい。
【0028】
本発明に係る中枢神経興奮作用増強剤または中枢神経興奮剤を医薬品として用いる場合、前記医薬品組成物は、例えば、カプセル剤、錠剤、散剤もしくは顆粒剤などの経口固形製剤の形態をとっていてもよいし、経口液体製剤の形態をとっていてもよいし、注射剤や点滴剤、坐剤、噴霧剤もしくは外用剤などの非経口製剤の形態をとっていてもよい。このような製剤は、それ自体製剤学の分野で周知または慣用の方法に従って製造することが可能である。
【0029】
具体的に、経口投与に適する液体製剤の製造には、例えば、ショ糖、ソルビット、果糖などの糖類;ポリエチレングリコール、プロピレングリコールなどのグリコール類;ごま油、オリーブ油、大豆油などの油類;p‐ヒドロキシ安息香酸エステル類などの防腐剤などの製剤用添加物を用いることができる。溶媒または分散媒としては、例えば、水もしくはアルコール、またはそれらの混合物など、公知の経口投与可能な媒体が用いられる。また、カプセル剤、錠剤、散剤または顆粒剤などの経口固形製剤の製造には、例えば、乳糖、ブドウ糖、ショ糖、マンニットなどの賦形剤;澱粉、アルギン酸ナトリウムなどの崩壊剤;ステアリン酸マグネシウム、タルクなどの滑沢剤;ポリビニールアルコール、ヒドロキシプロピルセルロース、ゼラチンなどの結合剤;脂肪酸エステルなどの界面活性剤;グリセリンなどの可塑剤を用いることができる。
【0030】
非経口投与に適する製剤のうち注射剤や点滴剤などの血管内投与用製剤は、好ましくは体液となど張の水性媒体を用いて調製することができる。例えば、注射剤は、塩溶液、ブドウ糖溶液または塩溶液とブドウ糖溶液の混合物から選ばれる水性媒体を用い、常法に従って適当な助剤とともに溶液、懸濁液または分散液として調製することができる。噴霧剤は、口腔および気道粘膜を刺激せず、かつ本発明の医薬品の有効成分を微細な粒子として分散させて吸収を促進することのできる担体を用いて調製することができる。このような担体として、例えば、乳糖またはグリセリンなどを用いることができる。その他、エアロゾルやドライパウダーなどの形態の製剤に調製することもできる。
上述のような非経口用製剤の製造には、例えば、希釈剤、香料、防腐剤、賦形剤、崩壊剤、滑沢剤、結合剤、界面活性剤、可塑剤などから選択される1または2以上の製剤用添加物を用いることができる。
【0031】
医薬品製剤中における本発明の中枢神経興奮作用増強剤または中枢神経興奮剤の含量は、製剤により種々異なるが、嗜好飲料成分中の芳香物質の含量が、通常0.001〜99重量%、好ましくは0.01〜50重量%となるようにする。例えば、経口剤の場合には、通常0.01〜99重量%、好ましくは0.1〜50重量%の芳香物質を含むようにする。注射剤の場合には、通常0.001〜30重量%、好ましくは0.01〜10重量%の芳香物質を含むようにする。
【0032】
本発明の医薬品の投与経路、投与量および投与頻度は、特に限定されず、中枢神経興奮作用を有する物質の種類、治療すべき病態の種類、患者の年齢および体重、症状および疾患の重篤度などの種々の条件に応じて適宜選択することが可能である。なかでも、投与経路としては経口投与が好ましい。また、例えば、本発明に係る医薬品の投与量は、経口投与の場合、嗜好飲料成分中の芳香物質の投与量が成人一日あたり約0.01mg〜10g程度となるように選択することが好ましい。また、本発明に係る医薬品を非経口投与する場合は、嗜好飲料成分中の芳香物質が約0.001mg〜1g程度となるように選択することが好ましい。しかし、投与量はこの特定の例に限定されることはない。
【0033】
本発明に係る中枢神経興奮作用増強剤または中枢神経興奮剤を、飲食品として用いる場合、例えば、栄養食品、機能性食品、特定保健用食品、育児用粉乳またはドリンク剤などの飲食品として使用してもよい。前記飲食品として用いる場合には、顆粒、錠菓、ガム、キャンディ、ゼリーまたは飲料などの形で提供できる。
【0034】
飲食品中における中枢神経興奮作用増強剤または中枢神経興奮剤の含量は、飲食品により種々異なるが、嗜好飲料成分中の芳香物質の含量が、通常0.1〜95重量%、好ましくは1〜90重量%となるようにする。例えば、栄養食品の場合には、通常1〜95重量%、好ましくは10〜90重量%の芳香物質を含むようにする。機能性食品の場合には、通常10〜95重量%、好ましくは30〜90重量%の芳香物質を含むようにする。
【0035】
本発明に係る医薬品または飲食品は、ヒトのみならずヒト以外の哺乳動物(例えば、ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジもしくはヤギなどの家畜、ニワトリなどの家禽、ハマチなどの養殖魚、イヌやネコなどのペット動物、その他マウス、ラット、ウサギ、ウマ、サルなど)に対しても適用できる。すなわち、本発明に係る医薬品または飲食品は、動物薬として用いることもできるし、飼料などに混合することもできる。その場合、一日あたり体重に対し、約0.01mg/kg〜10g/kg程度投与することが好ましいが、これらに限定されない。
【0036】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例1】
【0037】
テルピネン‐4‐オールをオリーブ油に溶解して、体重1kg当たり100、200あるいは400mgをマウスに腹腔内投与した。対象動物にはオリーブ油のみを投与した。10分後、これらのマウスに体重1kg当たり10mgのカフェインを皮下投与し、90分間移所運動活性を測定した。その結果、図4に示すように、テルピネン‐4‐オールは用量依存的にカフェインの移所運動活性増加作用を増強した(N=18)。
【実施例2】
【0038】
青葉アルコールをオリーブ油に溶解して、体重1kg当たり50,100あるいは200mgをマウスに腹腔内投与した。対照動物にはオリーブ油のみを投与した。10分後、これらのマウスに体重1kg当たり10mgのカフェインを皮下投与し、90分間移所運動活性を測定した。その結果、図5に示すように、青葉アルコールは体重1kg当たり50mg以上で、カフェインの移所運動活性増加作用を増強した(N=18)。
【実施例3】
【0039】
ジャスモン酸メチルをオリーブ油に溶解して、体重1kg当たり100,200,400あるいは800mgをマウスに腹腔内投与した。対照動物にはオリーブ油のみを投与した。10分後これらのマウスに体重1kg当たり10mgのカフェインを皮下投与し、90分間移所運動活性を測定した。その結果、図6に示すように、ジャスモン酸メチルは用量依存的にカフェインの移所運動活性増加作用を増強した(N=10〜20)。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明に係る芳香物質は、中枢神経興奮作用増強剤として、医薬品や飲食品に用いることができる。中枢神経興奮作用を有するカフェインに代表されるキサンチン誘導体は昔からほとんどの国々において広く親しまれて摂取されてきており、その生理作用も明らかにされている。また、本発明に係る芳香物質もすでに長年摂取されてきた成分であり、安全性に優れ、香りによる嗅覚系を通した効果も考えられる。さらに、本発明の中枢神経興奮作用増強剤は、時、所を選ばず服用又は摂取しやすいという利点を有し、特にドリンク剤あるいはガム、キャンディ、ゼリー状の食品は、精神的肉体的活動を活発にするために、日常的に用いることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】カフェイン30mg/kgをマウスに投与したときの移所運動活性を示すグラフである。
【図2】カフェイン10mg/kgをマウスに投与したときの移所運動活性を示すグラフである。
【図3】カフェインのみ投与したマウスをコントロールとし、芳香物質およびGABA機能亢進活性を有するジアゼパム、ムシモールをマウスに投与したときの移所運動活性を示すグラフである。
【図4】テルピネン‐4‐オールとカフェイン10mg/kgを併用投与したときの移所運動活性を示すグラフである。
【図5】青葉アルコールとカフェイン10mg/kgを併用投与したときの移所運動活性を示すグラフである。
【図6】ジャスモン酸メチルとカフェイン10mg/kgを併用投与したときの移所運動活性を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
嗜好飲料成分中の芳香物質を含有することを特徴とする中枢神経興奮作用増強剤。
【請求項2】
嗜好飲料成分中の芳香物質を、10〜90重量%含有することを特徴とする請求項1記載の中枢神経興奮作用増強剤。
【請求項3】
嗜好飲料成分中の芳香物質が、緑茶、中国茶、紅茶、ハーブティーのうちから選ばれる少なくとも一種に含有されている物質である請求項1または2記載の中枢神経興奮作用増強剤。
【請求項4】
嗜好飲料成分中の芳香物質が、テルピネン‐4‐オール、青葉アルコールまたはジャスモン酸メチルである請求項1〜3のいずれか記載の中枢神経興奮作用増強剤。
【請求項5】
中枢神経興奮作用が、カフェインの覚醒作用であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか記載の中枢神経興奮作用増強剤。
【請求項6】
(a)嗜好飲料成分中の芳香物質と(b)中枢神経興奮作用を有する物質とを含有することを特徴とする中枢神経興奮剤。
【請求項7】
嗜好飲料成分中の芳香物質と、中枢神経興奮作用を有する物質とが、1:1〜100の割合で存在することを特徴とする請求項6記載の中枢神経興奮剤。
【請求項8】
嗜好飲料成分中の芳香物質が、緑茶、中国茶、紅茶、ハーブティーのうちから選ばれる少なくとも一種に含有されている物質である請求項6または7記載の中枢神経興奮剤。
【請求項9】
嗜好飲料成分中の芳香物質が、テルピネン‐4‐オール、青葉アルコールまたはジャスモン酸メチルである請求項6〜8のいずれか記載の中枢神経興奮剤。
【請求項10】
中枢神経興奮作用を有する物質が、カフェインであることを特徴とする請求項6〜9のいずれか記載の中枢神経興奮剤。
【請求項11】
中枢神経興奮作用が、カフェインの覚醒作用であることを特徴とする請求項6〜10のいずれか記載の中枢神経興奮剤。
【請求項12】
請求項1〜5のいずれか記載の中枢神経興奮作用増強剤または請求項6〜11のいずれか記載の中枢神経興奮剤を含むことを特徴とする医薬品。
【請求項13】
請求項1〜5のいずれか記載の中枢神経興奮作用増強剤または請求項6〜11のいずれか記載の中枢神経興奮剤を含むことを特徴とする飲食品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−335674(P2006−335674A)
【公開日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−161223(P2005−161223)
【出願日】平成17年6月1日(2005.6.1)
【出願人】(304020177)国立大学法人山口大学 (579)
【出願人】(501273886)独立行政法人国立環境研究所 (30)
【出願人】(500398094)
【Fターム(参考)】