説明

中空シリコーン系微粒子あるいは中空粒子内に核粒子が内包された鈴構造シリコーン系微粒子を含む基材

【課題】粒子径が小さく透明性も維持でき、基材やマトリックスに分散して遮音性や制振性に優れた基材を提供。
【解決手段】外殻部にSiO4/2単位、RSiO3/2単位(Rは、炭素数1乃至4のアルキル基、炭素数6乃至24の芳香族基、ビニル基、γ−(メタ)アクリロキシプロピル基又はSH基をもつ有機基の少なくとも1種を示す)、R2SiO2/2単位、およびR3SiO1/2単位からなる群より選ばれる1単位以上からなり、RSiO3/2単位の割合が50モル%以上(ただしSiO4/2単位、RSiO3/2単位、R2SiO2/2単位、R3SiO1/2単位の合計を100モル%とする)であるシリコーン系化合物からなる層を有し、内部に少なくとも1つの空洞を有する体積平均粒子径が0.5μm未満である中空シリコーン系微粒子および/または中空粒子内に核粒子が内包された鈴構造シリコーン系微粒子を含む基材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中空シリコーン系微粒子および/または、中空粒子内に核粒子が内蔵された鈴構造シリコーン微粒子を含む遮音・制振基材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、音を吸収したり、振動を制御したりする目的に用いる遮音基材や制振基材として、中空バルーンなどの中空粒子や独立空孔中に基体と独立に運動しうる粒子を有する鈴状構造を含む基材が注目されている(特許文献1〜2)。特許文献1では、中空粒子が入射する音のエネルギーを熱エネルギーに変換すること等により減衰させて高い防音効果をもたらすことが開示されている。特許文献2では、入射した運動エネルギーが空孔内の核粒子の運動に変換されて消費されるためきわめて高い効率で音や振動が減衰されることが開示されている。
特許文献1の方法にある中空バルーンは粒子径が大きいことと材質が無機物であることから使用できる基材が限定される問題がある。特許文献2の方法では、基材の加熱成形と空孔形成とを同時に行うことができるので製造工程を簡素化できるが、基材の加熱条件が制約をうける問題がある。
いっぽう、中空構造を有する小粒子径シリカ粒子の製造方法としては、例えば珪酸塩等の無機化合物を含む水溶液を用いて油中水中油滴型(O/W/O型)乳化液を作り、これに無機酸等を混合して無機化合物を水不溶性沈殿物に変える方法(特許文献3)や、シリカ以外の材料からなるコアをシリカで被覆し、シリカシェルを破壊させることなく該コアを除去する方法(特許文献4、特許文献5)などが知られている。しかしながら、これらの方法では、粒子径分布が広く平均粒子径が大きい中空シリカ粒子しか作れないという課題や、反応時間が長く工程が多いため生産性が悪いという課題などがあった。本発明者らは先に、有機高分子粒子および/または有機溶剤からなるコア粒子をシリコーン系化合物で被覆したコアシェル粒子からコア粒子を除去して得られる中空シリコーン系微粒子の製造方法を提案している(特許文献6)が、この粒子が遮音や制振用途に利用できるかどうかは分かっていない。
【特許文献1】特開2002−121490号公報
【特許文献2】特開平9−226035号公報
【特許文献3】特開昭63−85701号公報
【特許文献4】特表2000−500113号公報
【特許文献5】特開2001−233611号公報
【特許文献6】国際公開2007/099814号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
粒子径が小さく透明性も維持でき、幅広く多くの基材やマトリックスに分散して遮音性や制振性に優れた基材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意検討を重ねた結果、中空シリコーン系微粒子および/または、中空粒子内に核粒子が内蔵された鈴構造シリコーン微粒子を含む基材を見出し、本発明を完成させた。
【0005】
すなわち本発明は、下記1)〜5)に関する。
1)外殻部にSiO4/2単位、RSiO3/2単位(式中、Rは、炭素数1乃至4のアルキル基、炭素数6乃至24の芳香族基、ビニル基、γ−(メタ)アクリロキシプロピル基又はSH基をもつ有機基の少なくとも1種を示す)、R2SiO2/2単位(式中、Rは前記に同じ)、およびR3SiO1/2単位(式中、Rは前記に同じ)からなる群より選ばれる1単位以上からなり、RSiO3/2単位の割合が50モル%以上(ただしSiO4/2単位、RSiO3/2単位、R2SiO2/2単位、R3SiO1/2単位の合計を100モル%とする)であるシリコーン系化合物からなる層を有し、内部に少なくとも1つの空洞を有する体積平均粒子径が0.5μm未満である中空シリコーン系微粒子および/または中空粒子内に核粒子が内包された鈴構造シリコーン系微粒子を含む遮音・制振基材。
2)中空シリコーン系微粒子および/または鈴構造シリコーン系微粒子と被膜形成用マトリックスを含む被膜を基材表面に形成することを特徴とする、1)記載の遮音・制振基材。
3)外殻部にSiO4/2単位、RSiO3/2単位(式中、Rは、炭素数1乃至4のアルキル基、炭素数6乃至24の芳香族基、ビニル基、γ−(メタ)アクリロキシプロピル基又はSH基をもつ有機基の少なくとも1種を示す)、R2SiO2/2単位(式中、Rは前記に同じ)、およびR3SiO1/2単位(式中、Rは前記に同じ)からなる群より選ばれる1単位以上からなり、RSiO3/2単位の割合が50モル%以上(ただしSiO4/2単位、RSiO3/2単位、R2SiO2/2単位、R3SiO1/2単位の合計を100モル%とする)であるシリコーン系化合物からなる層を有し、内部に少なくとも1つの空洞を有し、空洞内に核粒子が内包された、体積平均粒子径が0.5μm未満である鈴構造シリコーン系微粒子。
4)下記工程(I)〜工程(III)からなる製法により得られた鈴構造シリコーン系微粒子。
(I)重量平均分子量10000未満かつ体積平均粒子径0.5μm未満の有機高分子粒子(A)を製造する工程
(II)有機高分子粒子(A)の存在下でSiO4/2単位、RSiO3/2単位(式中、Rは、炭素数1乃至4のアルキル基、炭素数6乃至24の芳香族基、ビニル基、γ−(メタ)アクリロキシプロピル基又はSH基をもつ有機基の少なくとも1種を示す)、R2SiO2/2単位(式中、Rは前記に同じ)、およびR3SiO1/2単位(式中、Rは前記に同じ)からなり、RSiO3/2単位の割合が50モル%以上(ただしSiO4/2単位、RSiO3/2単位、R2SiO2/2単位、R3SiO1/2単位の合計を100モル%とする)であるシリコーン系化合物(B)の重合を行い、コアシェル粒子(C)を製造する工程
(III)コアシェル粒子(C)中の有機高分子粒子(A)を除去する工程
5)工程(II)が次の条件の少なくとも1つを満たすことを特徴とする、4)記載の鈴構造シリコーン系微粒子。
酸触媒量が3重量部未満、シリコーン系化合物(B)の連続追加時間が60分以上、反応温度が60℃未満
【発明の効果】
【0006】
本発明の中空シリコーン系微粒子および/または中空粒子内に核粒子が内包された鈴構造シリコーン系微粒子を含む基材は、透明性を維持して遮音性や制振性を発現する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明は、外殻部にSiO4/2単位、RSiO3/2単位(式中、Rは、炭素数1乃至4のアルキル基、炭素数6乃至24の芳香族基、ビニル基、γ−(メタ)アクリロキシプロピル基又はSH基をもつ有機基の少なくとも1種を示す)、R2SiO2/2単位(式中、Rは前記に同じ)、およびR3SiO1/2単位(式中、Rは前記に同じ)からなる群より選ばれる1単位以上からなり、RSiO3/2単位の割合が50モル%以上(ただしSiO4/2単位、RSiO3/2単位、R2SiO2/2単位、R3SiO1/2単位の合計を100モル%とする)であるシリコーン系化合物からなる層を有し、内部に少なくとも1つの空洞を有する体積平均粒子径が0.5μm未満である中空シリコーン系微粒子および/または中空粒子内に核粒子が内包された鈴構造シリコーン系微粒子を含む基材により実現できる。遮音・制振性能がより向上すると言う観点からは、鈴構造シリコーン系微粒子を用いることが好ましい。中空シリコーン系微粒子および/または鈴構造シリコーン系微粒子は、1種類のみを用いてもよく、粒径・空隙率などが異なる複数種類の粒子を組み合わせて用いても良い。
【0008】
本発明の製造方法において使用する有機高分子粒子(A)は、重量平均分子量10000未満かつ体積平均粒子径0.5μm未満であることを特徴とする。組成については限定されるものではなく、例えば、ポリアクリル酸ブチル、ポリブタジエン、アクリル酸ブチル−ブタジエン共重合体等に代表される軟質重合体でもよく、アクリル酸ブチル−スチレン共重合体、アクリル酸ブチル−アクリロニトリル共重合体、アクリル酸ブチル−スチレン−アクリロニトリル共重合体、スチレン−アクリロニトリル共重合体等の硬質重合体でも問題なく使用できる。後の工程での除去性という点から、これらのうち軟質重合体が好ましい。
【0009】
さらにはアクリル酸ブチルを50重量%以上用いた重合体が好ましく、中でもポリアクリル酸ブチルはもとより、アクリル酸ブチル−ブタジエン共重合体アクリル酸ブチル−スチレン共重合体、アクリル酸ブチル−アクリロニトリル共重合体、アクリル酸ブチル−スチレン−アクリロニトリル共重合体が好ましい。ポリアクリル酸ブチルを80重量%以上用いた重合体が更には好ましく、中でも先に例示したこれら重合体がより好ましい。これら重合体の中でもポリアクリル酸ブチルが最も好ましい。
【0010】
本発明の有機高分子粒子(A)の製造法は、特に限定されず、乳化重合法、マイクロサスペンジョン重合法、ミニエマルション重合法、水系分散重合法など公知の方法が使用できる。なかでも、粒子径の制御が容易であり、工業生産にも適する点から、乳化重合法により製造することが特に好ましい。
【0011】
前記有機高分子粒子(A)の重合にはラジカル重合開始剤が用いられうる。ラジカル重合開始剤の具体例としては、例えば、クメンハイドロパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、パラメンタンハイドロパーオキサイドなどの有機過酸化物、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウムなどの無機過酸化物、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス−2,4−ジメチルバレロニトリルなどのアゾ化合物などが挙げられる。上記重合を、例えば、硫酸第一鉄−ホルムアルデヒドスルフォキシル酸ソーダ−エチレンジアミンテトラアセティックアシッド・2Na塩、硫酸第一鉄−グルコース−ピロリン酸ナトリウム、硫酸第一鉄−ピロリン酸ナトリウム−リン酸ナトリウムなどのレドックス系で行うと、低い重合温度でも効率的に重合を完了することができる。
【0012】
本発明の有機高分子粒子(A)は、後の段階で行なわれる有機高分子の除去を有機溶媒により行う場合を考慮すると非架橋高分子であることが好ましく、有機高分子粒子(A)の分子量は低い方が好ましい。具体的には、重量平均分子量が10000未満であることが好ましく、さらには7000未満であることがより好ましい。有機高分子粒子(A)の重量平均分子量を低くするためには、例えば、連鎖移動剤の使用、高い重合温度に設定、多量の開始剤を使用するなど種々の手段を適宜組み合わせて選択することができる。連鎖移動剤としてはt−ドデシルメルカプタンが好ましい。連鎖移動剤の使用量としては、単量体100重量部あたり1〜30重量部が好ましい。
【0013】
有機高分子粒子(A)の重量平均分子量の下限値は特に制限されるものではないが、合成の難易度の点から、概ね500程度である。なお、重量平均分子量は、例えば、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)による分析(ポリスチレン換算)によって測定できる。
【0014】
中空シリコーン系粒子が均一な空隙率を有するという点からは、有機高分子粒子(A)の粒子径分布は狭い方が好ましい。粒子径分布を狭くするためにシード重合法を利用することもできる。シード重合法とは、シード(種)粒子を仕込んだ後、成長成分の単量体を追加して重合を行い、シード粒子を大きく成長させる重合法である。なお、ラテックス状態の有機高分子粒子(A)やコアシェル粒子(C)の体積平均粒子径は、光散乱法または電子顕微鏡観察から求められうる。体積平均粒子径および粒子径分布は、例えば、リード&ノースラップインスツルメント(LEED&NORTHRUP INSTRUMENTS)社製のMICROTRAC UPAを用いることにより測定することができる。
【0015】
また、本発明では、有機高分子粒子(A)の粒子径は、最終的に得られる中空シリコーン系微粒子の粒子径よりも小さくする必要がある。
【0016】
一般的に乳化重合の際に使用する乳化剤の使用量が多いほど得られる重合体の平均粒子径を小さくすることができる。
【0017】
本発明に用いる有機高分子粒子(A)には、後の工程での有機高分子粒子(A)の除去を容易にするため、本発明の効果を損なわない範囲で、トルエン、ベンゼン、キシレン、n−ヘキサン等の水に溶けない有機溶剤を含有させても良い。有機溶剤の使用量は、有機高分子粒子(A)100重量%中0〜99重量%が好ましく、0〜50重量%がより好ましい。有機溶剤の使用量が多すぎると粒径分布の制御が困難になることがある。
【0018】
本発明のコアシェル粒子(C)において被覆部となるシリコーン系化合物(B)は、SiO4/2単位、RSiO3/2単位、R2SiO2/2単位および、R3SiO1/2単位からなる群より選ばれる1単位又は2単位以上からなり、SiO4/2単位、RSiO3/2単位、R2SiO2/2単位および、R3SiO1/2単位の合計100モル%中のRSiO3/2単位の割合が50モル%以上であるものである。
【0019】
式中のRは、炭素数1乃至4のアルキル基、炭素数6乃至24の芳香族基、ビニル基、γ−(メタ)アクリロキシプロピル基又はSH基をもつ有機基から少なくとも1種が選択される。好ましい具体例としてはメチル基、エチル基、フェニル基、ビニル基、γ−メタクリロキシプロピル基、γ−アクリロキシプロピル基、γ−メルカプトプロピル基などが挙げられる。複数のRは各々同じであっても異なっていても良い。例えば、Rに少量のビニル基、γ−(メタ)アクリロキシプロピル基又はSH基をもつ有機基と、多量のアルキル基または芳香族基を選択してもよい。
【0020】
前記SiO4/2単位の原料としては、例えば、四塩化ケイ素、テトラアルコキシシラン、水ガラスおよび金属ケイ酸塩からなる群より選択される1種または2種以上が挙げられる。テトラアルコキシシランの具体例としては、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、およびそれらの縮合物などが挙げられる。
【0021】
RSiO3/2単位の原料としては、例えば、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリプロポキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、エチルトリプロポキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、フェニルトリプロポキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン等などが挙げられる。
【0022】
2SiO2/2単位の原料としては、例えば、ジメチルジメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、メチルフェニルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、メチルフェニルジエトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、エチルフェニルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、エチルフェニルジエトキシシランなど、ヘキサメチルシクロトリシロキサン(D3)、オクタメチルシクロテトラシロキサン(D4)、デカメチルシクロペンタシロキサン(D5)、ドデカメチルシクロヘキサシロキサン(D6)、トリメチルトリフェニルシクロトリシロキサンなどの環状化合物のほかに、直鎖状あるいは分岐状のオルガノシロキサンや、γ−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン等があげられる。
【0023】
3SiO1/2単位の原料としては、例えば、トリメチルメトキシシラン、トリフェニルメトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、ジメチルフェニルエトキシシラン、メチルジフェニルエトキシシラン、トリフェニルエトキシシラン、トリエチルメトキシシラン、トリエチルエトキシシラン等があげられる。
これらは1種または2種以上を組み合わせて適宜使用できる。
【0024】
本発明では、中空シリコーン系微粒子に柔軟性を持たせたい場合等にR2SiO2/2単位を少量混入することができる。コアシェル粒子(C)におけるシリコーン系化合物(B)中のR2SiO2/2単位の割合は50モル%以下である。20モル%以下であることが好ましく、10モル%以下であることがより好ましい。R2SiO2/2単位の割合が50モル%を越えると最終の中空シリコーン系微粒子が柔軟になり過ぎて形状保持性に問題が起こる場合がある。なお、シリコーン系化合物(B)中のR2SiO2/2単位の割合の下限値は0モル%である。
【0025】
本発明の製造方法におけるシリコーン系化合物(B)中のRSiO3/2単位の割合は、50モル%以上であり、すなわち50〜100モル%である。コアシェル粒子の粒子径分布の安定性の観点から、75〜100モル%であることが好ましく、85〜100モル%であることがさらに好ましい。
【0026】
SiO4/2単位の割合は0〜50モル%であり、中空シリコーン微粒子の形状保持性の観点から、0〜10モル%であることが好ましい。SiO4/2単位の割合が50モル%を越えると中空シリコーン系微粒子を被膜付き基材に使用した場合に被膜形成用マトリックスとの相溶性が低下して被膜中で微粒子が凝集し、被膜付き基材の透明性が大きく低下することがある。
【0027】
3SiO1/2単位の割合は0〜50モル%である。中空シリコーン微粒子の形状保持性の観点から、0〜10モル%であることが好ましい。
【0028】
本発明では、有機高分子粒子(A)とシリコーン系化合物(B)の使用量や使用割合を最適化することにより、中空シリコーン系微粒子の粒径、粒径分布、シェル層の厚み、空洞の大きさ、空隙率などを制御することができる。有機高分子粒子(A)と、シリコーン系化合物(B)との重量比率は必ずしも制限されるものではないが、2/98〜95/5であることが好ましく、さらには4/96〜55/45がより好ましい。当該比率が2/98より小さいと最終の中空シリコーン系微粒子の空隙率が低くなり過ぎる場合がある。また、逆に比率が95/5より大きいと中空シリコーン系微粒子の強度が不足して加工中に壊れる場合がある。
【0029】
本発明のコアシェル粒子(C)および最終的に得られる中空シリコーン系微粒子の体積平均粒子径は0.5μm未満である。透明性や薄膜形成性などを重視する光学用途や電子材料用途などでは体積平均粒子径を0.1μm未満にすることが好ましい。体積平均粒子径の下限は通常は0.001μm以上である。
【0030】
中空シリコーン系微粒子の空隙率分布を測定するには、少なくとも30個以上の粒子をTEM観察して粒子の外径と内径を測り、空隙率(粒子の体積中に占める内部空洞部分の体積の割合)の平均値を算出する。
【0031】
本発明では、例えば、有機高分子粒子(A)と、酸触媒を含む5〜120℃の水に対し、乳化剤、SiO4/2単位の原料、RSiO3/2単位の原料、およびR2SiO2/2単位の原料と水の混合物をラインミキサーやホモジナイザーで乳化した乳化液を一括あるいは連続的に追加することにより、シリコーン系化合物(B)で被覆されたコアシェル粒子(C)を得ることができる。乳化液の追加は一括でも連続でも構わない。時間的には長くなるがラテックス状粒子の安定性や粒子径分布を重視するなら連続追加を採用することが好ましい。乳化液の追加前に酸触媒を添加して、直ちに加水分解と縮合反応が進む条件で連続追加を行うと、コアシェル粒子は時間とともに大きく成長し、通常のシード重合のように、狭い粒子径分布を示すものを得ることができる。1時間の比較的短い時間の連続追加を行うと、比較的良い生産性と狭い粒子径分布を両立することもできる。
【0032】
上記のシリコーン系化合物の縮合反応条件によっては、シリコーン系化合物が有機高分子粒子(A)の表面だけではなく一部内部に生成する。内部で生成したシリコーン系化合物が最終的に核粒子となる。この内部での生成は、シリコーン系化合物の有機高分子粒子への浸透・膨潤/縮合反応の速度に関係していると推定される。したがって核粒子を生成させるには、浸透・膨潤が十分に進んだ後に縮合反応を進めることが好ましい。具体的には、次の条件(i)〜(iii)の少なくとも1つを満たすことが好ましい。(i)有機高分子粒子(A)とシリコーン系化合物(B)の合計量100重量部あたりの酸触媒量が3重量部未満、(ii)シリコーン系化合物(B)の連続追加時間が60分以上、(iii)反応温度が60℃未満。酸触媒を3重量部未満にすると縮合反応が遅くなり、シリコーン系化合物が高分子粒子内部で生成し易くなる傾向がある。反応温度を低くしても縮合反応が遅くなり、シリコーン系化合物が高分子粒子内部で生成し易くなる傾向がある。シリコーン系化合物の追加時間を長くすると、シリコーン系化合物が十分に浸透・膨潤するため有機高分子粒子表面で被覆層を形成できにくくなると推定している。本発明においては、このようにシリコーン系化合物の重合条件を最適化することにより、中空シリコーン系微粒子および/または鈴構造シリコーン系微粒子の構造を制御することができる。
【0033】
本発明に使用できる乳化剤としては、アニオン系乳化剤やノニオン系乳化剤が好適に使用されうる。アニオン系乳化剤の具体例としては、例えば、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ラウリルスルホン酸ナトリウム、オレイン酸カリウムなどが挙げられるが、特にドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムが好適に用いられる。ノニオン系乳化剤の具体例としては、例えば、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルやポリオキシエチレンラウリルエーテルなどが挙げられる。
【0034】
本発明に用いることのできる酸触媒は、例えば、脂肪族スルホン酸、脂肪族置換ベンゼンスルホン酸、脂肪族置換ナフタレンスルホン酸などのスルホン酸類、および硫酸、塩酸、硝酸などの鉱酸類が挙げられる。これらの中では、オルガノシロキサンの乳化安定性に優れる観点から、脂肪族置換ベンゼンスルホン酸が好ましく、n−ドデシルベンゼンスルホン酸が特に好ましい。
【0035】
本発明において、コアシェル粒子(C)中から有機高分子粒子(A)を除去する方法としては、例えば、有機溶剤を用いる方法、燃焼による方法などがあげられる。コアシェル粒子(C)中の有機高分子粒子(A)を除去するのに使用される有機溶剤としては、コアになる有機高分子粒子(A)を溶解し、シェルになるシリコーン系化合物(B)を溶解しないものが好ましい。具体例としては、トルエン、ベンゼン、キシレン、n−ヘキサン、アセトン等が挙げられる。
【0036】
また、本発明では、コアを除去したのちさらにシリコーン系微粒子を有機溶剤で洗浄することもできる。洗浄に用いることのできる有機溶剤の具体例としては、メタノール、n−ヘキサン等が挙げられる。
【0037】
本発明の中空シリコーン系微粒子および/または鈴構造シリコーン系微粒子は、遮音・制振の効果を得るための成分であるが、他の用途として、一般的なシリコーン微粒子が用いられている用途に使用できる他、中空構造に由来する特性(例えば低屈折率、低誘電率、低比重など)を有する材料として使用したり、内部に顔料、染料、香料、医薬品、磁性ナノ粒子などを内包して高機能性材料として使用したり、粒径が小さいことを利用してナノ粒子、透明材料などとして使用したり、粒径と空隙率が均一であることを利用して充填剤、担体などとして使用することもできる。
【実施例】
【0038】
本発明を実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれらのみに限定されない。なお、以下の実施例および比較例における測定および試験はつぎのように行った。
【0039】
[体積平均粒子径と粒子径]
有機高分子粒子、またはコアシェル粒子をラテックスの状態で測定した。測定装置として、リード&ノースラップインスツルメント(LEED&NORTHRUP INSTRUMENTS)社製のMICROTRAC UPAを用いて、光散乱法により体積平均粒子径(μm)を測定した。
【0040】
[有機高分子の重量平均分子量]
有機高分子の重量平均分子量は、GPC測定データよりポリスチレン標準試料で作成した検量線を用いて換算して求めた。
【0041】
[コア粒子中のシリコーン系化合物・核粒子の有無]
ラテックス状態のコアシェル粒子のラテックスをエポキシ樹脂に溶解・硬化後、ルテニウムで染色しTEM観察することにより行った。コア粒子中のシリコーン系化合物の有無を判定した。例として実施例1のTEM観察結果を図1に、実施例2のTEM観察結果を図2に示した。
【0042】
[防音性の評価]
一面だけを開放した一片15cmの木製立方体の箱に電動ベルを入れて、開放した面に基材をのせた。基材より30cm離れたところにリオン社製積分形普通騒音計NL−02を設置して音の大きさを測定した。
【0043】
[Hazeの測定]
ヘイズメーター(日本電色工業株式会社製 NDH−300A)を用いてHazeの測定を行なった。
(実施例1〜2)
撹拌機、還流冷却器、窒素吹込口、単量体追加口、温度計を備えた5口フラスコに、水400重量部(種々の希釈水も含む水の総量)およびドデシルベンゼンスルホン酸ソーダ(SDBS)1重量部(固形分)をとって混合した後、50℃に昇温し、液温が50℃に達した後、窒素置換を行った。その後、ブチルアクリレート10重量部、t−ドデシルメルカプタン3重量部、パラメンタンハイドロパーオキサイド0.01重量部の混合液を加えた。30分後、硫酸第一鉄(FeSO4・7H2O)0.002重量部、エチレンジアミンテトラアセティックアシッド・2Na塩0.005重量部、ホルムアルデヒドスルフォキシル酸ソーダ0.2重量部を加えてさらに1時間重合させた。その後ブチルアクリレート90重量部、t−ドデシルメルカプタン27重量部、パラメンタンハイドロパーオキサイド0.1重量部の混合液を3時間かけて連続追加した。2時間の後重合を行い、有機高分子ラテックス(P−1)を得た。このラテックスの体積平均粒子径は0.13μm、重量平均分子量は5000であった。
【0044】
撹拌機、還流冷却器、窒素吹込口、単量体追加口、温度計を備えた5口フラスコに、水500重量部(種々の希釈水も含む水の総量)、ドデシルベンゼンスルホン酸(DBSA)表1に示す量、有機高分子(P−1)表1示す量を仕込んだ。この時のpHは1.8であった。表1に示す温度に昇温し、窒素置換を行った。その後、メチルトリメトキシシラン(MTMS)表1示す量、MTMSと同量の水、MTMSの0.5重量%相当のドデシルベンゼンスルホン酸Na(SDBS)の混合物をホモジナイザーにより7000rpmで5分間撹拌して得た乳化液を表1に示した追加時間で追加した。このコアシェル粒子の体積平均粒子径とコア粒子中のシリコーン系化合物・核粒子の有無確認結果を表1に示した。
【0045】
つづいて、ラテックス状のコアシェル粒子100重量部に対し、アセトンをまず50重量部加えて5分間撹拌し、その後残りの有機溶剤150重量部を加えて25分間撹拌した。3時間静置すると凝固粒子層と透明な上澄層に分離した。濾紙を用いて凝固粒子層を単離し、それをメタノール70重量%、n−ヘキサン30重量%の混合溶剤300重量部に分散させた。この分散液を3時間静置すると凝固粒子層と透明な上澄層に分離する。濾紙を用いて凝固粒子層を単離した。
単離された中空シリコーン粒子をイソプロピルアルコール(IPA)に分散させ、粒子濃度が4重量%の分散液を得た。この分散液と被膜形成用マトリックスである4重量%のアクリル樹脂溶液を混合し、塗膜液中の粒子量が表1の値になるように調整した。
この塗膜液をPETフィルムにバーコーター法で塗布し、その後110℃で20分間乾燥し、被膜の厚さが0.1〜0.2μmの被膜付基材を得た。
【0046】
この被膜付基材の防音性とHazeを測定して結果を表1に示した。
(比較例1)
基材をのせずに音の大きさを測定した。
(比較例2)
PETフィルムをのせずに音の大きさを測定した。
【0047】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】コア部にシリコーン系化合物がないコアシェル粒子のTEM写真である。
【図2】コア部にシリコーン系化合物・核粒子が存在するコアシェル粒子のTEM写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外殻部にSiO4/2単位、RSiO3/2単位(式中、Rは、炭素数1乃至4のアルキル基、炭素数6乃至24の芳香族基、ビニル基、γ−(メタ)アクリロキシプロピル基又はSH基をもつ有機基の少なくとも1種を示す)、R2SiO2/2単位(式中、Rは前記に同じ)、およびR3SiO1/2単位(式中、Rは前記に同じ)からなる群より選ばれる1単位以上からなり、RSiO3/2単位の割合が50モル%以上(ただしSiO4/2単位、RSiO3/2単位、R2SiO2/2単位、R3SiO1/2単位の合計を100モル%とする)であるシリコーン系化合物からなる層を有し、内部に少なくとも1つの空洞を有する体積平均粒子径が0.5μm未満である中空シリコーン系微粒子および/または中空粒子内に核粒子が内包された鈴構造シリコーン系微粒子を含む遮音・制振基材。
【請求項2】
中空シリコーン系微粒子および/または鈴構造シリコーン系微粒子と被膜形成用マトリックスを含む被膜を基材表面に形成することを特徴とする、請求項1記載の遮音・制振基材。
【請求項3】
外殻部にSiO4/2単位、RSiO3/2単位(式中、Rは、炭素数1乃至4のアルキル基、炭素数6乃至24の芳香族基、ビニル基、γ−(メタ)アクリロキシプロピル基又はSH基をもつ有機基の少なくとも1種を示す)、R2SiO2/2単位(式中、Rは前記に同じ)、およびR3SiO1/2単位(式中、Rは前記に同じ)からなる群より選ばれる1単位以上からなり、RSiO3/2単位の割合が50モル%以上(ただしSiO4/2単位、RSiO3/2単位、R2SiO2/2単位、R3SiO1/2単位の合計を100モル%とする)であるシリコーン系化合物からなる層を有し、内部に少なくとも1つの空洞を有し、空洞内に核粒子が内包された、体積平均粒子径が0.5μm未満である鈴構造シリコーン系微粒子。
【請求項4】
下記工程(I)〜工程(III)からなる製法により得られた鈴構造シリコーン系微粒子。
(I)重量平均分子量10000未満かつ体積平均粒子径0.5μm未満の有機高分子粒子(A)を製造する工程
(II)有機高分子粒子(A)の存在下でSiO4/2単位、RSiO3/2単位(式中、Rは、炭素数1乃至4のアルキル基、炭素数6乃至24の芳香族基、ビニル基、γ−(メタ)アクリロキシプロピル基又はSH基をもつ有機基の少なくとも1種を示す)、R2SiO2/2単位(式中、Rは前記に同じ)、およびR3SiO1/2単位(式中、Rは前記に同じ)からなり、RSiO3/2単位の割合が50モル%以上(ただしSiO4/2単位、RSiO3/2単位、R2SiO2/2単位、R3SiO1/2単位の合計を100モル%とする)であるシリコーン系化合物(B)の重合を行い、コアシェル粒子(C)を製造する工程
(III)コアシェル粒子(C)中の有機高分子粒子(A)を除去する工程
【請求項5】
工程(II)が次の条件の少なくとも1つを満たすことを特徴とする、請求項4記載の鈴構造シリコーン系微粒子。
酸触媒量が3重量部未満、シリコーン系化合物(B)の連続追加時間が60分以上、反応温度が60℃未満

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2009−263444(P2009−263444A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−112302(P2008−112302)
【出願日】平成20年4月23日(2008.4.23)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】