説明

中空導波路、及びレーザ治療器具

【課題】導光するレーザ光の伝送効率を低減させることなく、湾曲動作に対しても損傷することのない耐久性の高い中空導波路及び、中空導波路を用いたレーザ治療器具を提供することを目的とする。
【解決手段】内部中空のガラスファイバ管10の内面に、銀鏡反応によって成膜される銀薄膜30と、誘電体薄膜40とを径外側からこの順で層構成し、治療用レーザ光157aを導光する長尺状の中空導波路1において、ガラスファイバ管10の内面と銀薄膜30との間に、銀鏡反応前に成膜する内保護膜20を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば、レーザ治療を行うために治療用レーザ光を伝送するための中空導波路、及びこの中空導波路を用いたレーザ治療器具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、患者への負担が少なく治療できる治療方法として、内視鏡を用いる治療方法が実施されている。この内視鏡を用いた治療は、内視鏡チューブを口腔等から体内に挿入し、この内視鏡チューブの先端構成部を用いて施術を行うものである。
【0003】
この施術は、チャンネルと呼ばれる鉗子挿入口から適宜の鉗子が挿入され、先端構成部の鉗子出口から出てくる鉗子先端により実施される。鉗子としては、握持鉗子やナイフ等の様々な器具が用いられる。
【0004】
この鉗子挿入口から挿入されて施術に用いられる器具として、治療用のレーザ光を照射するレーザ伝送路を用いるものが提案されている(特許文献1参照)。この特許文献1のレーザ伝送路は、内部が中空の管状導波路(以下において、中空導波路という)に、レーザ光を導通することについて記載されている。
【0005】
また、このような中空導波路として、ガラスファイバ製の中空基材であるガラス製管状部材の内面に銀薄膜層を備え、銀薄膜層の内面に透明のポリイミド樹脂や環状オレフィンポリマーで構成する誘電体薄膜層を備えたものが提案されている(特許文献2,3参照)。このような構成により、特許文献2や特許文献3で提案された中空導波路は、内部の誘電体薄膜層によって、伝送損失を抑制し、効率良くレーザ光を導光することができるとされている。
【0006】
しかし、このようなガラス製管状部材の内面に、銀薄膜層と誘電体薄膜層を備えた中空導波路を、内視鏡チューブの鉗子挿入口に挿入するレーザ伝送路に用いた場合、内視鏡チューブの先端側に設けた湾曲動作部の自由な湾曲動作に伴って中空導波路も湾曲動作するが、この湾曲動作によって中空導波路を構成するガラス製管状部材が損傷するおそれがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表2007−533374号公報
【特許文献2】特開平8−234026号公報
【特許文献3】特開平10−282348号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
この発明は、上述した問題に鑑み、導光するレーザ光の伝送効率を低減させることなく、湾曲動作に対しても損傷することのない耐久性の高い中空導波路及び、中空導波路を用いたレーザ治療器具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明は、内部中空のガラス製管状部材の内面に、銀鏡反応によって成膜される銀薄膜層と、誘電体薄膜層とを径外側からこの順で層構成し、レーザ光を導光する長尺状の中空導波路であって、前記ガラス製管状部材の内面と前記銀薄膜層との間に、前記銀鏡反応前に成膜する保護膜層を設けたことを特徴とする。
【0010】
この発明により、導光するレーザ光の伝送効率を低減させることなく、また湾曲動作に対して損傷することもなく、中空導波路の耐久性を向上することができる。
詳しくは、ガラス製管状部材の内面に銀薄膜層と誘電体薄膜層を備えているため、レーザ光の伝送効率を低減させることなく導光することができる。
【0011】
また、前記ガラス製管状部材の内面と前記銀薄膜層との間に、前記銀鏡反応前に成膜する保護膜層を設けたことにより、湾曲動作に対する耐久性を向上することができる。
【0012】
さらに詳述すると、例えば、中空導波路の湾曲動作によって、ガラス製管状部材には曲げ負荷が作用し、この曲げ負荷によってガラス製管状部材が損傷する。この損傷は、出願人による誠意検討により、ガラス製管状部材の内面に銀薄膜層を成膜するための銀鏡反応において、一般的に用いられる硝酸銀水溶液の酸や水によってガラス製管状部材の内表面に生じる微細な傷等の微小欠陥による耐久性低下に起因することが判明した。
【0013】
そこで、出願人は、銀鏡反応によるガラス製管状部材の内表面における微小欠陥の発生を防止するため、前記ガラス製管状部材の内面と前記銀薄膜層との間に、前記銀鏡反応前に成膜する保護膜層を設けた。これにより、ガラス製管状部材の内面に銀薄膜層を成膜するための銀鏡反応において、一般的に用いられる硝酸銀水溶液の酸や水が直接ガラス製管状部材の内表面に作用することを防止できる。よって、銀鏡反応における硝酸銀水溶液の酸や水によってガラス製管状部材の内表面において微小欠陥が発生することを防止できる。したがって、湾曲動作に対する耐久性を向上することできる。
【0014】
この発明の態様として、前記誘電体薄膜層を、有機性材料で構成するとともに、前記保護膜層を、無機性材料で構成することができる。
この構成により、導光するレーザ光の伝送効率の低減を抑制し、湾曲動作に対しても耐久性のより高い中空導波路を構成することができる。
【0015】
詳しくは、前記保護膜層を無機性材料で構成するとともに、前記誘電体薄膜層を有機性材料で構成することにより、銀薄膜層の内面に有機性材料で構成する誘電体薄膜層を成膜する際に、銀薄膜層とガラス製管状部材の内面との間に成膜した無機性材料で構成する保護膜層が、有機性材料の溶剤で溶融することを防止できる。よって、有機性材料によるガラス製管状部材の内表面における微小欠陥の発生を防止できる。したがって、誘電体薄膜により導光するレーザ光の伝送効率の低減を抑制し、湾曲動作に対する耐久性もより向上することができる。
【0016】
また、この発明の態様として、前記誘電体薄膜層を、第1有機性材料で構成するとともに、前記保護膜層を、前記第1有機性材料の溶剤に対して不溶解性の第2有機性材料で構成することができる。
【0017】
上述の第1有機性材料の溶剤に対して不溶解性の第2有機性材料は、同じ種の有機性材料であっても、例えば、シクロヘキサンとシクロオレフィンポリマー樹脂で構成する環状オレフィンポリマーと、テトラヒドラフロン及び環状オレフィン系樹脂で構成する環状オレフィンポリマーのように構成成分の異なる有機性材料、あるいは溶剤の異なる有機性材料とすることができる。
【0018】
この構成により、導光するレーザ光の伝送効率の低減を抑制し、湾曲動作に対しても耐久性のより高い中空導波路を構成することができる。
詳しくは、前記保護膜層を第2有機性材料で構成するとともに、前記誘電体薄膜層を第1有機性材料で構成することにより、銀薄膜層の内面に第1有機性材料で構成する誘電体薄膜層を成膜する際に、銀薄膜層とガラス製管状部材の内面との間に成膜した第2有機性材料で構成する保護膜層が、第1有機性材料の溶剤で溶融することを防止できる。よって、第1有機性材料によるガラス製管状部材の内表面における微小欠陥の発生を防止できる。したがって、誘電体薄膜により導光するレーザ光の伝送効率の低減を抑制し、湾曲動作に対する耐久性もより向上することができる
また、この発明の態様として、前記保護膜層を、第1保護膜層とするとともに、前記ガラス製管状部材の外面に、有機性材料による外周被膜を備え、該外周被膜の外側に、第2保護膜層を備えることができる。
【0019】
上記第2保護膜層は、第1保護膜層と同じ又は異なる無機性材料で構成する保護膜層、あるいは外周被膜を構成する有機性材料の溶剤に対して不溶解性の有機性材料で構成する保護膜層とすることができる。
【0020】
この構成により、湾曲動作に対する耐久性をさらに向上することができる。
【0021】
詳しくは、前記ガラス製管状部材の外面に、有機性材料による外周被膜を備え、該外周被膜の外側に、第2保護膜層を備えることにより、ガラス製管状部材の外面に対して外力が作用し、ガラス製管状部材の外表面における微小欠陥が生じることを防止できる。したがって、湾曲動作に対する耐久性をより向上することができる。
【0022】
また、この発明は、上述の中空導波路を、先端側に、湾曲動作可能な湾曲動作部を設けた内視鏡チューブに挿通したレーザ治療器具であることを特徴とする。
この発明により、施術者は良好な作業環境でレーザ治療を、安全性且つ信頼性高く行うことができる。
【0023】
詳しくは、伝送損失が少なく且つ耐久性が高い伝送路と、患部に対して直接視認でき且つ低侵襲でアクセスできる内視鏡とによって、良好な作業環境が得られる。そして、自由に湾曲動作できる湾曲動作部における湾曲動作に対する耐久性を向上した中空導波路を用いているため、中空導波路が損傷してレーザ光が漏出することなく、このレーザ光の誤照射による外装チューブや内視鏡チューブ、あるいは内視鏡の光学系の損傷の発生を防止できる。したがって、安全性及び信頼性の高いレーザ治療器具を構成することができる。
【発明の効果】
【0024】
この発明により、導光するレーザ光の伝送効率を低減させることなく、湾曲動作に対しても損傷することのない耐久性の高い中空導波路及び、中空導波路を用いたレーザ治療器具を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】中空導波路の説明図。
【図2】中空導波路の製造方法についての説明図。
【図3】内視鏡装置とレーザ治療装置によるレーザ治療システムの概略構成図。
【図4】内視鏡装置とレーザ治療装置の構成を示すブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0026】
この発明の本実施形態を以下図面とともに説明する。
図1は中空導波路1の説明図を示し、図2は中空導波路1の製造方法についての説明図を示している。詳しくは、図1は、長さ方向の一部を切り出すとともに、断面の一部を切り欠いた状態の中空導波路1の斜視図を示している。また、図2(a)は、中空導波路1を構成するガラスファイバ管10の内面に内保護膜20を成膜する工程における断面説明図を示し、図2(b)は、内保護膜20の内面側に銀薄膜30を成膜する工程における断面説明図を示し、図2(c)は、銀薄膜30の内面側に誘電体薄膜40を成膜する工程における断面説明図を示している。
【0027】
図3は、中空導波路1を挿着した内視鏡装置110とレーザ治療装置150とで構成するレーザ治療システム100の概略構成を示す構成図であり、図4は、内視鏡装置110とレーザ治療装置150の構成を示すブロック図である。
【0028】
中空導波路1は、後述する内視鏡装置110の内視鏡チューブ121に設けられた鉗子挿入路119に挿通されるレーザ伝送路170を、外装チューブ171とともに構成する長尺状の管状部品である。
【0029】
詳述すると、長さ方向の一部を切り出した中空導波路1の斜視図である図1に示すように、中空導波路1は、基材となるガラスファイバ管10と、ガラスファイバ管10の内面において径外方向から径内方向に向かって順に配置された内保護膜20、銀薄膜30及び誘電体薄膜40と、ガラスファイバ管10の外面を被覆する外面被覆層50とで構成している。そして、中空内部に導通空間1aを構成している。なお、本実施形態においては、直径φ0.7mmに形成している。
【0030】
ガラスファイバ管10は、およそ30〜75μmの厚み且つ中空のガラスファイバ製のガラスキャピラリで構成している。
ガラスファイバ管10の内面に構成する内保護膜20は、滑沢性、ガラスに対する接着性、及び耐水性の高い室温湿気硬化型特殊無機塗料によって構成されたシロキサン硬化薄膜(無機薄膜)である。なお、本実施形態においては、内保護膜20は、およそ0.2〜1.6μmの厚みで成膜している。
【0031】
更に詳しくは、内保護膜20は、二酸化ケイ素(SiO)で構成する液状の主剤と、液状の硬化剤とを混合し、常温硬化後は高硬度で、耐熱性、耐候性、耐薬品性、耐摩耗性、耐汚染性に優れた薄膜である。また、メチルエチルケトン、エタノール、エーテル、ベンジン及び無鉛ガソリン等の有機溶剤に対する耐溶剤性を有している。
【0032】
銀薄膜30は、硝酸銀水溶液にアンモニアを加えた銀液30a(図2(b)参照)を用いて銀鏡反応させて成膜した銀製の薄膜である。なお、本実施形態においては、銀薄膜30は、およそ50〜100μmの厚みで成膜している。
【0033】
誘電体薄膜40は、レーザ光を効率よく反射伝送する適宜の有機性材料であり、シクロヘキサンとシクロオレフィンポリマー樹脂で構成する透明の環状オレフィンポリマーで成膜している。
外面被覆層50は、ガラスファイバ管10の外面を、上述の環状オレフィンポリマーで被覆している。
【0034】
このように構成する中空導波路1の製作方法について、図2とともに説明する。
まず、中空導波路1を製作するにあたって、母材となるガラスファイバ管10の内面に内保護膜20を成膜するために、液状の主剤と、液状の硬化剤と、薄め液とを所定の配合で混合し、所定時間撹拌して無機溶液20aを作成する。なお、本実施形態においては濃度47.6wt%の無機溶液20aを作成する。
【0035】
そして、図2(a)に示すように、ガラスファイバ管10の端部に接続したマイクロチューブ60を介し、図示省略するマイクロチューブポンプを用いてガラスファイバ管10内部に、作成した無機溶液20aを送液速度4cm/minで送液し、送液完了後、ガラスファイバ管10内部に、流量100ml/minの空気11を12時間流して、無機溶液20aを乾燥させて、ガラスファイバ管10の内面に内保護膜20を成膜する。
【0036】
また、内保護膜20の成膜後に、ガラスファイバ管10内部に、上述の銀液30aを送液し、銀鏡反応によって、内保護膜20の内面に銀薄膜30を成膜する(図2(b)参照)。さらに、銀薄膜30の成膜後に、ガラスファイバ管10内部に、環状オレフィンポリマー溶液40aを送液し、銀薄膜30の内面に誘電体薄膜40を成膜する(図2(c)参照)。
【0037】
さらには、適宜の被覆方法により、上述の有機性材料である環状オレフィンポリマーでガラスファイバ管10の外面を被覆して外面被覆層50を成膜し(図1参照)、中空導波路1を完成させる。
【0038】
なお、このように構成するとともに、上述の製作方法で製作した中空導波路1は、曲げ半径30mm及び曲げ角度360度の曲げ試験に対しても破損することがなかった。これに対して、ガラスファイバ管10の内面と銀薄膜30との間に内保護膜20を備えていない保護膜無し中空導波路は、曲げ半径30mm及び曲げ角度360度の曲げ試験で破損し、ガラスファイバ管10の内面と銀薄膜30との間に内保護膜20を備えたことによって、中空導波路1の耐久性が向上したことが確認できた。
【0039】
次に、上述の構成、及び上述の製作方法で製作した中空導波路1をレーザ伝送路170として用いた術者操作ユニット112を備えたレーザ治療システム100について、図3及び図4とともに説明する。
【0040】
内視鏡装置110は、図3に示すように装置本体101aに対して接続ケーブル111により術者操作ユニット112が接続されている。
術者操作ユニット112は、主に操作部113と内視鏡チューブ121とで構成している。
【0041】
操作部113は、接眼部115、上下アングルノブ116、左右アングルノブ117、送水、吸引、ズーム、あるいは、アシストガスの送気などの操作入力を受け付ける操作ボタン118、および鉗子挿入口120等を設けている。
【0042】
内視鏡チューブ121は、基部から先端へ向かって可撓管部122、湾曲管部123、および先端構成部130がこの順に設けられている。また、内視鏡チューブ121の内部には、鉗子挿入口120から先端構成部130の鉗子出口136まで連通する鉗子挿入路119を設けている。この鉗子挿入路119は、鉗子やレーザ伝送路170といった治療用デバイスを挿入する治療用デバイス挿入路として機能する。
【0043】
なお、図3では可撓管部122の途中から湾曲管部123の先端にかけて拡径しているように図示しているが、これは先端構成部130の構成を分かり易く描画するためであって、実際には、食道、胃、腸といった生体内に挿通させることに適した、一定の径を保った形状となっている。
【0044】
可撓管部122は、適度に湾曲する円筒形状を有しており、鉗子挿入口120から挿入された適宜の鉗子などの治療用デバイスを先端構成部130まで挿通できる。この実施例では、治療用デバイスとしてレーザ治療装置150のレーザ伝送路170が挿通されている。
【0045】
湾曲管部123は、上下アングルノブ116の操作によって上下方向に湾曲操作され、左右アングルノブ117によって左右方向に湾曲操作される。
詳述すると、湾曲管部123は、内視鏡チューブ121内に挿通されているワイヤ(図示省略)によって上下アングルノブ116および左右アングルノブ117に接続されている。このため、上下アングルノブ116や左右アングルノブ117の回転操作がワイヤによって湾曲管部123に伝達され、湾曲管部123が上下左右に湾曲する。これにより、任意の方向へ任意の角度に湾曲管部123を湾曲させることができ、先端構成部130を施術対象部位に向かって適切な方向へ向けることができる。
【0046】
先端構成部130には、撮像のための照明となる光を照射するライトガイド131,135、染色液等の液体を放出する送水口である副送水口132、ライトガイド131,135等の照明による生体の反射光を集光し、撮像画像を取得するレンズ133、レンズ133を洗浄するための洗浄液等をレンズ133へ向かって放出するノズル134、及びレーザ治療装置150のレーザ伝送路170等の治療用デバイスの出口である鉗子出口136を設けている。
【0047】
このレーザ伝送路170は、外装チューブ171、先端噴射口172、および上述の中空導波路1で構成し、内視鏡チューブ121の全長でもある鉗子挿入路よりも長く形成している。
【0048】
外装チューブ171は、可撓性のある樹脂チューブであり、内視鏡チューブ121の鉗子挿入路119より一回り小さな径で形成している。
先端噴射口172は、正面視中央に、軸方向つまり先端噴射口172の長さ方向に貫通する中央照射孔173を有する略円筒体である。
【0049】
図4に示すように、レーザ治療装置150は、操作部・表示部151、中央制御部154など各部に動作電力を供給する電源部152、信号処理部153、中央制御部154、検出部155、ガイド光発光部156、及びレーザ発振部157を備えている。
【0050】
操作部・表示部151は、レーザの出力設定や動作モードの変更などの操作入力を受け付けて入力信号を中央制御部154に伝達し、中央制御部154からレーザの出力条件や装置の動作状況などの表示信号を受け取って適宜の情報の表示を行う。
【0051】
信号処理部153は、検出部155で検出した信号を処理して中央制御部154に伝達する。この実施例では、信号処理部153と検出部155とでOCT(Optical Coherence Tomography)装置を構成している。
【0052】
中央制御部154は、各部に対して各種制御動作を実行する。この中央制御部154は、レーザ出力制御部154aと記憶部154bを有している。
レーザ出力制御部154aは、操作部・表示部151で設定された出力や動作モードに応じてレーザ発振部157による治療用レーザ光157aの出力値を制御する。
記憶部154bは、出力の設定や動作モードの設定内容などの制御データなどの他に適宜のデータを記憶している。
【0053】
検出部155は、反射ガイド光155a(信号光)と参照光を受光して干渉光から発生するビート信号の光強度を検出する。
ガイド光発光部156は、治療用の治療用レーザ光157aが照射される位置を示すためのガイド光となる波長が800nm〜1μm付近の低コヒーレンス性の近赤外光を発光する。
【0054】
レーザ発振部157は、施術に用いる治療用レーザ光157aとして、10.6μmの波長の炭酸ガスレーザを発振する。
上述したガイド光発光部156が照射するガイド光156a、及びレーザ発振部157が発振する治療用レーザ光157a、および検出部155が検出する反射ガイド光155aは、全て1つの中空導波路1によって伝送される。したがって、これらは全て同軸で伝送され、施術対象に対して作用を及ぼす部位および検知する部位が施術対象部位として一致する。
【0055】
内視鏡装置110は、図4に示すように、操作部141、中央制御部143など各部に動作電力を供給する電源部142、各部に対して各種制御動作を実行する中央制御部143、ライトガイド131,135(図3参照)からの照明を実行する照明部144、レンズ133(図3参照)から伝送される画像を撮像し、施術に必要な撮像画像を得る撮像部145、副送水口132やノズル134からの液体の噴射を実行する水噴射部146、および中央制御部143から伝達される信号に基づいて画像を表示する画像表示部147を設けている。
【0056】
操作部141は、操作部113(図3参照)による操作入力を中央制御部143に伝達する。すなわち、上下アングルノブ116や左右アングルノブ117の操作による湾曲管部123の湾曲動作、操作ボタン118による押下操作などを伝達する。
【0057】
このように構成したレーザ治療システム100を用いた粘膜下層切開剥離術(ESD)での使用方法について説明する。
上述したように、レーザ治療システム100を用いた粘膜下層切開剥離術(ESD)では、鉗子挿入路119にレーザ伝送路170を挿通させた術者操作ユニット112を体内に挿入し、画像表示部147で表示する撮像部145で撮像した先端構成部130の前方画像に基づいて、術者操作ユニット112の先端構成部130が施術対象部位に到達するまで挿通する。なお、施術対象部位は、食道や胃などの管腔であり、人間を含む生体の適宜の部位である。
【0058】
そして、画像表示部147の画像を確認しながら、中空導波路1の導通空間1aを導通するガイド光156a、治療用レーザ光157aを先端噴射口172の中央照射孔173から照射させて、治療用レーザ光157aで施術対象部位を治療する。
【0059】
そして、治療完了後、術者操作ユニット112を体内から挿出して、粘膜下層切開剥離術(ESD)は完了する。なお、粘膜切除術(EMR)であっても同様の使用方法で行うことができる。
【0060】
このような使用方法で用いられるレーザ治療システム100を、上述の構成及び製作方法で製作した中空導波路1を用いたことにより、治療用レーザ光157aの伝送効率を低減させることなく、治療用レーザ光157aをレーザ伝送路170を構成する中空導波路1の先端まで導通させ、治療に応じた制御によって発振させた治療用レーザ光157aによって、施術対象部位を確実に治療することができる。
【0061】
詳しくは、中空導波路1を、内部中空のガラスファイバ管10の内面に、銀鏡反応によって成膜される銀薄膜30と、誘電体薄膜40とを径外側からこの順で層構成するとともに、ガラスファイバ管10の内面と銀薄膜30との間に、銀鏡反応前に成膜する内保護膜20を設けたことにより、導光する治療用レーザ光157aの伝送効率を低減させることなく導光することができる。
【0062】
また、ガラスファイバ管10の内面と銀薄膜30との間に、銀鏡反応前に成膜する内保護膜20を設けたことにより、湾曲動作に対する耐久性を向上することができる。
【0063】
さらに詳述すると、ガラスファイバ管10の内面と銀薄膜30との間に、銀鏡反応前に成膜する内保護膜20を設けることにより、ガラスファイバ管10の内面に銀薄膜30を成膜するための銀鏡反応において、銀液30aが直接ガラスファイバ管10の内面に作用することを防止する。したがって、銀液30aによるガラスファイバ管10の内表面における微小欠陥の発生を防止し、例えば、上下アングルノブ116や左右アングルノブ117の操作による湾曲管部123の湾曲動作に伴う中空導波路1の湾曲動作によって、ガラスファイバ管10には曲げ負荷が作用しても破損することのない程度まで、湾曲動作に対する耐久性を向上することができる。
【0064】
また、誘電体薄膜40を、シクロヘキサンとシクロオレフィンポリマー樹脂で構成する環状オレフィンポリマーで構成するとともに、内保護膜20を、室温湿気硬化型特殊無機塗料で構成することにより、導光する治療用レーザ光157aの伝送効率の低減を抑制し、湾曲動作に対しても耐久性の高い中空導波路1を構成することができる。
【0065】
詳しくは、内保護膜20を室温湿気硬化型特殊無機塗料で構成するとともに、誘電体薄膜40をシクロヘキサンとシクロオレフィンポリマー樹脂で構成する環状オレフィンポリマーで構成することにより、銀薄膜30の内面に環状オレフィンポリマーで構成する誘電体薄膜40を成膜する際に、銀薄膜30とガラスファイバ管10の内面との間に成膜した室温湿気硬化型特殊無機塗料で構成した内保護膜20が、環状オレフィンポリマーの溶剤で溶融することを防止できる。
【0066】
さらに詳述すると、図2に示すように、誘電体薄膜40は、内保護膜20及び銀薄膜30が内面に成膜されたガラスファイバ管10の端部に接続されたマイクロチューブ60からマイクロチューブポンプによって環状オレフィンポリマーを送液して成膜するが、その際に、ガラスファイバ管10の端部から内保護膜20が露出するものの、内保護膜20は無機性材料で構成しているため、誘電体薄膜40に含まれる有機性溶剤によって内保護膜20が溶融することはない。
【0067】
したがって、誘電体薄膜40を成膜する際における環状オレフィンポリマー溶剤による、ガラスファイバ管10の内表面における微小欠陥の発生を防止できる。したがって、誘電体薄膜40により導光する治療用レーザ光157aの伝送効率の低減を抑制し、湾曲動作に対する耐久性も向上することができる。
【0068】
また、術者操作ユニット112を構成するとともに、先端側に、湾曲動作可能な湾曲管部123を設けた内視鏡チューブ121に、上述の中空導波路1をレーザ伝送路170として挿通したことにより、施術者は良好な作業環境でレーザ治療を、安全性且つ信頼性高く行うことができる。
【0069】
詳しくは、伝送損失が少なく且つ耐久性が高い伝送路と、患部に対して直接視認でき且つ低侵襲でアクセスできる内視鏡とによって、良好な作業環境が得られる。そして、自由に湾曲動作できる湾曲管部123における湾曲動作に対する耐久性を向上した中空導波路1を用いているため、中空導波路1が損傷して治療用レーザ光157aが漏出することなく、この治療用レーザ光157aの誤照射による外装チューブや内視鏡チューブ121、あるいは内視鏡の光学系の損傷の発生を防止できる。したがって、安全性及び信頼性の高い術者操作ユニット112を構成することができる。
【0070】
なお、ガラスファイバ管10の外面に備えた、シクロヘキサンとシクロオレフィンポリマー樹脂で構成する環状オレフィンポリマーによる外面被覆層50のさらに外側に、図1において点線で示すように、外保護膜51を備えてもよい。外保護膜51を備えることにより、湾曲動作に対する耐久性をより向上することができる。
【0071】
詳しくは、ガラスファイバ管10の外面に、シクロヘキサンとシクロオレフィンポリマー樹脂で構成する環状オレフィンポリマーによる外面被覆層50を備え、外面被覆層50のさらにその外側に、接着性、耐水性の高い室温湿気硬化型特殊無機塗料によって構成する外保護膜51を備えることにより、ガラスファイバ管10の外面に対して外力が作用し、ガラスファイバ管10の外表面における微小欠陥が生じることを防止できる。したがって、湾曲動作に対する耐久性をさらに向上することができる。
【0072】
この発明の構成と、上述の実施形態との対応において、
この発明のガラス製管状部材は、ガラスファイバ管10に対応し、
以下同様に、
銀薄膜層は、銀薄膜30に対応し、
レーザ光は、治療用レーザ光157aに対応し、
誘電体薄膜層は、誘電体薄膜40に対応し、
保護膜層及び第1保護膜層は、内保護膜20に対応し、
外周被膜は、外面被覆層50に対応し、
第2保護膜層は、外保護膜51に対応し、
湾曲動作部は、湾曲管部123に対応し、
レーザ治療器具は、術者操作ユニット112に対応し、
有機性材料及び第1有機性材料は、シクロヘキサンとシクロオレフィンポリマー樹脂で構成する環状オレフィンポリマーに対応し、
無機性材料は、室温湿気硬化型特殊無機塗料に対応し、
第2有機性材料は、テトラヒドラフロン及び環状オレフィン系樹脂で構成する環状オレフィンポリマーに対応するが、
この発明は、上述の実施形態の構成のみに限定されるものではなく、多くの実施の形態を得ることができる。
【0073】
例えば、誘電体薄膜40を、シクロヘキサンとシクロオレフィンポリマー樹脂で構成する環状オレフィンポリマーで構成するとともに、シクロヘキサンとシクロオレフィンポリマー樹脂で構成する環状オレフィンポリマーの溶剤に対して不溶解性のテトラヒドラフロン及び環状オレフィン系樹脂で構成する環状オレフィンポリマーで内保護膜20を構成してもよい。また例えば、誘電体薄膜40をポリイミド樹脂で構成し、内保護膜20を無機性材料で構成したり、誘電体薄膜40と内保護膜20とを、不溶解性を考慮した2種の素材のポリイミド樹脂で構成したりしてもよい。
これらの場合であっても、上述の中空導波路1と同様の効果を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0074】
この発明は、レーザ光を用いて生体を治療するような様々な装置に用いることができる。特に、内視鏡のように限られた空間内で、曲げに対する耐久性を備えながら、高い伝送効率でレーザ光を伝送して治療・施術するような装置に利用できる。
【符号の説明】
【0075】
1…中空導波路
10…ガラスファイバ管
20…内保護膜
30…銀薄膜
40…誘電体薄膜
50…外面被覆層
51…外保護膜
112…術者操作ユニット
121…内視鏡チューブ
123…湾曲管部
157a…治療用レーザ光

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部中空のガラス製管状部材の内面に、銀鏡反応によって成膜される銀薄膜層と、誘電体薄膜層とを径外側からこの順で層構成し、レーザ光を導光する長尺状の中空導波路であって、
前記ガラス製管状部材の内面と前記銀薄膜層との間に、前記銀鏡反応前に成膜する保護膜層を設けた
中空導波路。
【請求項2】
前記誘電体薄膜層を、有機性材料で構成するとともに、
前記保護膜層を、無機性材料で構成した
請求項1に記載の中空導波路。
【請求項3】
前記誘電体薄膜層を、第1有機性材料で構成するとともに、
前記保護膜層を、前記第1有機性材料の溶剤に対して不溶解性の第2有機性材料で構成した
請求項1に記載の中空導波路。
【請求項4】
前記保護膜層を、第1保護膜層とするとともに、
前記ガラス製管状部材の外面に、有機性材料による外周被膜を備え、
該外周被膜の外側に、第2保護膜層を備えた
請求項1乃至3のいずれかに記載の中空導波路。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載の中空導波路を、先端側に、湾曲動作可能な湾曲動作部を設けた内視鏡チューブに挿通した
レーザ治療器具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−128018(P2012−128018A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−277099(P2010−277099)
【出願日】平成22年12月13日(2010.12.13)
【出願人】(000138185)株式会社モリタ製作所 (173)
【Fターム(参考)】