説明

乗員保護装置、作動条件変更方法

【課題】交差点に進入する他車両との関係に配慮してジレンマゾーンの車両が交差点に進入又は停止できる乗員保護装置及び作動条件変更方法を提供すること。
【解決手段】検出された障害物101〜104との衝突を抑制し又は衝突による衝撃から乗員を保護する乗員保護装置100において、ジレンマゾーンに進入するか否かを判定するジレンマゾーン進入判定手段31、32、33、41と、ジレンマゾーンを走行する際、減速するか否かを判定する判定手段42と、減速すると判定された場合、後方の障害物に対応した乗員保護手段23の作動判定基準を緩和する第1の判定基準変更手段44と、減速しないと判定された場合、側方の障害物に対応した乗員保護手段の作動判定基準30を緩和する第2の判定基準変更手段46と、を有すること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、障害物と異常接近した際の衝撃から乗員を保護する乗員保護装置に関し、特に、乗員保護装置の作動条件を変更できる乗員保護装置及び作動条件変更法に関する。
【背景技術】
【0002】
車両に衝撃が加わった際に、エアバッグなどを展開して車両内の乗員を保護する乗員保護装置が知られている(例えば、特許文献1参照。)。乗員保護装置では、前方、後方又は側方のそれぞれの障害物に対応した乗員保護を提供することができる。
【0003】
ところで、信号のある交差点に車両が進入する際、信号が黄表示のうちに交差点に進入することも困難で、停止線の手前で停止することも困難な走行状態となる場合がある。このような走行状態は、車速、停止線までの距離及び黄表示の残り時間により決定されるジレンマゾーンとして知られている(例えば、特許文献2参照。)。
【0004】
特許文献2には、車両がジレンマゾーンに進入した場合、運転者に停止線の手前で停止できる限界走行速度V1と、車両が黄信号の終了までに交差点に進入できる限界走行速度V2を提供することで通過支援を行う技術が開示されている。また、特許文献2には、限界走行速度V1、V2に基づいて特定された危険ゾーンに車両が突入すると判定された場合、車両を自動的に制動する技術が開示されている。
【特許文献1】特許第3452013号公報
【特許文献2】特開2006−139707号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献2に記載されているようにジレンマゾーンを回避して走行するための限界走行速度V1、V2を運転者に提供するだけでは、安全に対する配慮が不十分になるおそれがあるという問題がある。すなわち、運転者が限界走行速度V1以下に減速すれば、停止線の手前で停止することができるが、この場合、後続車両と異常接近するおそれがある。また、運転者が限界走行速度V2以上に加速すれば、黄信号が終了するまでに交差点に到達できるが、この場合、先行車両との異常接近、及び、交差する車線の他車両や対向車線から右折する他車両と異常接近するおそれがある。
【0006】
また、引用文献1には、ジレンマゾーンの車両を検出すると現表示を制御する(インフラ協調)ことで異常接近を回避することができる旨の示唆があるが、かかる制御は現表示の周期を変更するものであるため好ましくなく、交差する車線の他車両の進入を禁止できても、後続車両や先行車両との異常接近を防止することはできない。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑み、交差点に進入する他車両との関係に配慮してジレンマゾーンの車両が交差点に進入又は停止できる乗員保護装置及び作動条件変更方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題に鑑み、本発明は、検出された障害物との衝突を抑制し又は衝突による衝撃から乗員を保護する乗員保護装置において、ジレンマゾーンに進入するか否かを判定するジレンマゾーン進入判定手段と、ジレンマゾーンを走行する際、減速するか否かを判定する判定手段と、減速すると判定された場合、後方の障害物に対応した乗員保護手段の作動判定基準を緩和する第1の判定基準変更手段と、減速しないと判定された場合、側方の障害物に対応した乗員保護手段の作動判定基準を緩和する第2の判定基準変更手段と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
交差点に進入する他車両との関係に配慮してジレンマゾーンの車両が交差点に進入又は停止できる乗員保護装置及び作動条件変更方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための最良の形態について図面を参照しながら説明する。
図1は、ジレンマゾーンにおける乗員保護を模式的に示す図の一例である。ジレンマゾーンを走行する車両11の運転者は、減速するか加速する(定速を含む)と考えられる。減速した場合、車両11の後続車両101と異常接近(以下、衝突という)する可能性が高まり、加速した場合は先行車両103と衝突、右側から交差点に進入する進入車両104及び左側から交差点に進入する進入車両102と衝突する可能性がある(以下、後続車両101等を単に障害物という場合がある。)。
【0011】
そこで、本実施形態の乗員保護装置100は、図1(a)に示すように減速する場合、後続車両101との後突に備え、ヘッドレストの繰り出し条件を緩和する(後述する判定閾値Bを大きくする)。これにより、減速により仮に後続車両101が車両11に後突しても、後突時には乗員を保護した状態とすることができる。
【0012】
また、図1(b)に示すように加速する場合、先行車両103との前突に備え、前方PCS(Pre-Clash-Safety System)の判定条件を緩和する(後述する判定閾値Aを大きくする)。これにより、加速により先行車両103に車両11が接近しても、自動的に減速したり前突しても運転席エアバッグの展開を遅れを回避して乗員を保護することができる。
【0013】
また、車両11が交差点に進入する直前には、進入車両104や右折する対向車との側突に備え、側方PCSの右側の判定条件を左側の判定条件よりも緩和する(後述する判定閾値Cを大きくする)。これにより、交差点において右からの進入車両104が走行する領域(以下、交差点前半部という)に車両11が進入した際、仮に進入車両104が車両11に側突しても、サイドエアバッグ(以下、SABという)又はカーテンシールドエアバッグ(以下、CSAという)の展開遅れを回避して乗員を保護することができる。
【0014】
また、車両11が交差点に進入した後、交差点において左からの進入車両102が走行する領域(以下、交差点後半部という)まで到達すると、進入車両102との側突に備え、側方PCSの左側の判定条件を右側の判定条件よりも緩和する(後述する判定閾値Cを大きくする)。これにより、車両11が交差点後半部に進入した際、仮に進入車両102が車両11に側突しても、SAB又はCSAの展開遅れを回避して乗員を保護することができる。
【0015】
なお、図1の(b)は車両11が左側通行に従う場合であるので、車両11が右側通行する場合は交差点前半部と交差点後半部で制御が逆になる。また、前方PCS、後方PCS、側方PCSとは、車両11の前方、後方、側方のそれぞれ障害物との衝突を回避し又は衝突した際には乗員を衝撃から保護する一連の乗員保護システムをいう。
【0016】
〔ジレンマゾーンについて〕
まず、ジレンマゾーンについて説明する。図2は、ジレンマゾーンを説明するための図である。ジレンマゾーンについては特開2006−139707号公報に詳しい。
【0017】
縦軸は車速を、横軸は車両11の位置から交差点の停止線までの距離を示す。曲線L1は車両11が減速したならば停止線で停止することのできる車速と距離の関係(停止条件)を表し、直線L2は車両11が走行中に黄信号になった場合に赤信号になる前に、車両11が交差点の停止線まで到達することのできる車速と距離の関係(進入条件)を表す。
【0018】
L1又はL2の左側の領域Iの条件で走行する車両11は、その車速と距離では停止線の手前で停止することはできないが、黄信号時間内に停止線まで到達することはできることになる。このため、走行中に黄信号になった領域Iの車両11は、交差点をわたってしまおうと加速することが多い。
【0019】
L1又はL2の右側にある領域IIの条件で走行する車両11は、その車速と距離では停止線の手前で停止することはできるが、停止線まで到達した時点ではすでに現表示が赤信号になっていることになる。このため、走行中に黄信号になった領域IIの車両11は、交差点の停止線で停止しようと減速することが多い。
【0020】
そして、直線L2と曲線L2の間にある領域IIIがジレンマゾーンであり、停止線で急減速を避けて(スムーズに)停止することもできず、かつ、赤信号になるまでに交差点に進入することもできない領域である。
【0021】
なお、直線L2と曲線L2の間にある領域IVはオプションゾーンといい、停止線で急減速なく停止することもでき、赤信号になるまでに交差点に進入することもできる領域である。しかしながら、領域IVでは停止又は通過に対する判断の異なる車両が入り混じることにもなるため、個性の異なる運転者が続いていると、前方車が停止した場合に後続車に追突されるおそれがある。
【0022】
本実施形態の乗員保護装置100は、車両11がジレンマゾーンを走行する際、上述した交差点通過支援を提供する。なお、図2の計算上のジレンマゾーンは、車両11の走行時には若干の幅を持たせて判定されるものである。また、オプションゾーンにおいても、運転者による停止又は通過の判断が不定となりやすいので、オプションゾーンにおいても同様の交差点通過支援を提供することが好適となる。
【0023】
〔乗員保護装置100の概略構成図〕
図3は、乗員保護装置100が作動させる保護機器とセンサ類の概略配置図の一例を示す。これら保護機器が特許請求の範囲の乗員保護手段に相当する。乗員保護装置100は、ステアリングホイールの内部から展開する運転席エアバッグ(以下、A/B)14、助手席前方のダッシュボード内部から展開する助手席A/B13、運転席にて展開するSAB16R、助手席にて展開するSAB16L、前席から後席にかけて展開するCSA18R、18Lを有する。また、運転席のヘッドレスト23R及び助手席のヘッドレスト23L(区別しない場合、単にヘッドレスト23という)は可動部が前方に繰り出すアクティブヘッドレストである。
【0024】
乗員保護装置100は先行車両103を検出する前方PCSレーダ22と後続車両101を検出する後方PCSレーダ24とを有する。前方PCSレーダ22は、車両11の例えばフロントグリル内に設置され、後方PCSレーダ24は例えばリアバンパに配置されている。
【0025】
前方PCSレーダ22及び後方PCSレーダ24は、例えばミリ波レーダを照射して障害物から反射される反射波から障害物との相対距離及び相対速度を検出する。先行車両103との接触が不可避であると判定されると、例えば運転席A/B14及び助手席A/B13を展開し、後続車両101との接触が不可避であると判定されると、ヘッドレスト23が前方に繰り出される。
【0026】
また、車両11には、右側方PCSレーダ21Rと左側方PCSレーダ21Lとが配置されており、車両11に右方向や左方向から接近する障害物の相対距離及び相対速度を検出する。右側方PCSレーダ21Rと左側方PCSレーダ21Lは、例えば、リアバンパの左右端部、サイドバンパ内、エンジンルームの左右端部、前照等カバー内又はテールランプ内等に配置される。
【0027】
進入車両104との衝突が不可避であると判定されると、SAB16R、CSA18Rが展開され、進入車両102との衝突が不可避であると判定されると、SAB16L、CSA18Lが展開される。なお、前方PCSレーダ22、後方PCSレーダ24、右側方PCSレーダ21R、及び、左側方PCSレーダ21Lの一部又は全てをカメラセンサにより構成してもよい。
【0028】
運転席A/B14はステアリングホイールの内部に折り畳まれた状態で収納され、作動時にはステアリングホイールの薄肉部を切断し蓋体を開放して運転者とステアリングホイールの間で展開する。助手席A/B13は、ダッシュボードの内部に折り畳まれた状態で収納され、作動時にはダッシュボードの薄肉部を切断し蓋体を開放して助手席乗員とダッシュボードの間で展開する。SAB16Rは、運転席の背もたれ部分に折り畳まれた状態で収納され、作動時には運転席から前方に向けて運転者と車両ドアとの間に展開し、SAB16Lは、助手席の背もたれ部分に折り畳まれた状態で収納され、作動時には助手席から前方に向けて助手席乗員と車両ドアとの間に展開する。CSA18R,18Lは、ルーフサイドに沿うようにフロントピラーからリアピラーに亘って折り畳まれた状態で収納され、作動時にはルーフピラーから下方に向けて、前後席の乗員の頭部近傍と車両ドア及びルーフサイドとの間に展開する。この他、運転者及び助手席乗員の膝を保護するニーエアバッグを備えていてもよいし、後席にサイドエアバッグを備えていてもよい。
【0029】
乗員保護装置100は、フロントフロアセンタートンネルの内部に収容されたエアバッグ制御部15により展開制御される。エアバッグ制御部15には、前突に伴う加速度を検出するサテライトセンサ10R、10L、側突に伴う加速度を検出するフロントGセンサ17R、17L及びリヤGセンサ19R、19Lが接続されている。サテライトセンサ10R、10Lは、例えば車両前方のバンパの内部に左右対称に設けられており、フロントGセンサ17R、17Lは、例えばセンタピラーに設けられており、リヤGセンサ19R、19Lは、例えばリアピラーに設けられている。また、エアバッグ制御部15はフロアセンサ12を備えている。フロアセンサ12は、車両11の前後方向、及び、車幅方向の加速度をそれぞれ検出する。
【0030】
〔ハードウェアブロック図〕
図4は、乗員保護装置100のハードウェアブロック図の一例を示す。なお、図3において図4と同一構成部には同一の符号を付しその説明は省略する。エアバッグ制御部15は、CAN(Controller Area Network)等の車載LANを介して、PCS_ECU34と接続され、また、エアバッグ制御部15には車速センサ31、路車間通信装置32及びナビゲーションシステム33が接続されている。
【0031】
エアバッグ制御部15及びPCS_ECU34は、CPU、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、RAM、ROM、メモリ等を備えており、CPUがROMに格納されたプログラムを実行するか又はASICにより、判定閾値の変更など後述する各機能を実現している。
【0032】
車速センサ31は、各輪に備えられたロータの円周上に定間隔で設置された凸部が通過する際の磁束の変化をパルスとして計測するMRセンサであり、単位時間あたりのパルス数に基づき各輪毎に車輪速を計測する。
【0033】
路車間通信装置32は、路側に配置された路側装置と通信する通信装置である。本実施形態では、信号機が提供する信号情報を受信する。路側の信号機は、いわゆる狭域通信の態様で信号機の前後の所定範囲のみに、信号情報を符号化して所定の変調を施して(例えば、ASK変調、QPSK変調)、搬送波(例えば5.8GHz)に乗せて送信している。VICSのメディアとして電波ビーコンが知られているので、電波ビーコンで信号情報が送信される場合、路車間通信装置32はVICS受信装置と兼用してもよい。路車間通信装置32は、信号機21から送信された搬送波に、帯域フィルタ、中間波の生成、増幅、復調等を施して、信号情報を受信し、エアバッグ制御部15に送出する。信号情報は、少なくとも現表示及び次の信号に切り替わるまでの残表示時間、より好ましくは赤、黄、青の表示が継続する各継続時間を含む。車車間通信や携帯電話網から信号情報を取得してもよい。
【0034】
ナビゲーションシステム33は、車両11の位置情報を検出して、予め記憶しているか又はサーバからダウンロードした道路地図情報を参照して、進行方向の前方に信号機がある場合には、信号機(停止線)までの距離をエアバッグ制御部15に出力する。信号機のある場所は、4分岐の交差点、T字路、直進道路等がある。このうち、T字路で先行車両103との前突を検出する必要性は低く、また、直進道路で左右の側突を検出する必要性は低い。このため、ナビゲーションシステム33は、信号機と共に交差点の態様を検出し、エアバッグ制御部15に出力することが好ましい。
【0035】
なお、エアバッグ制御部15は、運転席A/B14、助手席A/B13、SAB16R、16L、CSA18R、CSA18L(以下、区別しない場合エアバッグ30という)それぞれの点火回路と接続されている。この点火回路のスイッチをオンにすると直列に接続されたスクイブが発熱し点火剤が着火する。これにより、インフレータが膨張して各エアバッグが展開する。
【0036】
PCS_ECU34は、前方PCSレーダ22が検出する先行車両103、後方PCSレーダ24が検出する後続車両101,右側方PCSレーダ21Rが検出する進入車両104、及び、左側方PCSレーダ21Lが検出する進入車両102、のそれぞれについて衝突の可能性を判定し、衝突が不可避であれば衝突不可避信号(後述するオン判定と同等)をエアバッグ制御部15に出力する。
【0037】
各レーダは検知角度や検知距離が異なるが、いずれもミリ波又はレーザレーダを送信すると共に先行車両等の障害物に反射した反射波を受信し、送信波を送信してから受信波が受信されるまでの時間により障害物との相対距離を、送信波と受信波の周波数との差に基づき相対速度を検出する。例えば、前方PCSレーダ22の検知角度は±10度、後方PCSレーダ24の検知角度は±15度、右側方PCSレーダ21Rと左側方PCSレーダ21Lの検知角度は±20度、である。また、前方PCSレーダ22の検知距離は50〜100〔m〕、後方PCSレーダ24の検知距離は30〔m〕程度、右側方PCSレーダ21Rと左側方PCSレーダ21Lの検知距離は30〔m〕程度、である。乗員保護装置100は、少なくとも検知距離を、より好ましくは検知角度も可変に制御でき、早期の障害物の検出を可能としている。
【0038】
〔判定閾値A〜C〕
PCS_ECU34は、先行車両103、後続車両101、進入車両104及び進入車両102との相対速度と相対距離に基づき、衝突が不可避か否かを判定する。本実施形態ではこの判定にTTC(Time To Collision)を用いるが、相対的な加速度、相対速度又は相対距離そのものを用いてもよい。いずれにしても何らかの判定閾値を基準にして衝突が不可避か否かを判定する。
【0039】
例えば、PCS_ECU34は、
先行車両103とのTTC < 判定閾値A
後続車両101とのTTC < 判定閾値B
進入車両104とのTTC < 判定閾値C
進入車両102とのTTC < 判定閾値C
の場合に各障害物との衝突が不可避であると判定する。なお、判定閾値A〜Cは、全て又は一部が同一でもよいし、それぞれが異なっていてもよい。また、右方向の判定閾値Cと左方向の判定閾値Cを同じ値にしたが、異なっていてもよい。
【0040】
PCS_ECU34は、先行車両103とのTTCが判定閾値A未満、進入車両104とのTTCが判定閾値C未満、又は、進入車両102とのTTCが判定閾値C未満となると、前方・右側方・左側方の識別と接触不可避情報をエアバッグ制御部15に出力し、後続車両101とのTTCが判定閾値B未満となると、接触不可避情報をヘッドレストECU35に出力する。
【0041】
ところで、前方PCSでは、1つの判定閾値AとTTCを比較して乗員保護するのでなく、複数の判定閾値A1〜Anとそれぞれ比較して、段階的な乗員保護を提供することが多い。例えば、判定閾値A1>A2…>Anとすれば、先行車両103とのTTC<判定閾値A1を満たすと警報音を吹鳴し、先行車両103とのTTC<判定閾値A2を満たすと運転者を注意喚起するための軽い制動を加え、先行車両103とのTTC<判定閾値A3を満たすと衝撃に備えシートベルトを巻き上げ、先行車両103とのTTC<判定閾値An(衝突が不可避)を満たすと運転席A/B14及び助手席A/B13を展開する。
【0042】
PCS_ECU34は、これらの判定を順次行っているのであり、判定閾値Aには判定閾値A1〜Anが含まれる。判定閾値B〜Cに対しても同様であって、例えば後方PCSの場合、後続車両101とのTTC<判定閾値B1を満たすとヘッドレスト23を繰り出し、後続車両101とのTTC<判定閾値B2を満たすとシートベルトを巻き上げ、後続車両101とのTTC<判定閾値Bnを満たすと後突用のエアバッグ(不図示)を展開するなどの段階的な乗員保護が可能である。また、例えば、側方PCSの場合、進入車両102又は104とのTTC<判定閾値C1を満たすとシートベルトを巻き上げ、進入車両102又は104とのTTC<判定閾値Cnを満たすSAB16R,16L及びCSA18R、18Lを展開するなどの段階的な乗員保護が可能である。
【0043】
したがって、以下で判定閾値A〜Cを大きくする(又は緩和する)という場合、各判定閾値A〜Cが含みうる判定閾値A1〜An、B1〜Bn、C1〜Cnを大きくする(又は緩和する)ことも含んでいる。この場合、各判定閾値(例えばA1〜An)を大きくする程度は同じであってもよいし、それぞれ可変にしてもよい。
【0044】
〔ヘッドレスト23の繰り出し〕
PCS_ECU34に接続されたヘッドレストECU35は、後続車両101とのTTC及び運転者又は助手席乗員の頭部位置とに基づき、アクティブヘッドレストであるヘッドレスト23の繰り出しと収納を制御する。
【0045】
ヘッドレスト23は、車両前方側の可動部と後方側の固定部とに分割して構成されていて、ヘッドレスト23の内部に、モータ及びモータで伸縮する駆動機構を備える。モータが回転駆動されるとそれが駆動機構の直進運動に変わり、可動部を固定部に対して車両の前後方向へ往復移動させ、運転者又は助手席乗員の頭部とヘッドレスト23との間の相対距離を制御する。
【0046】
ヘッドレスト23には、静電容量センサが内設されている。静電容量センサは可撓性を有する薄板状の形状をなし、ヘッドレスト23の表皮内側に沿って例えば矩形状に配設されている。静電容量センサは、静電容量が運転者又は助手席乗員の頭部までの相対距離に応じて変化することを利用して、相対距離を非接触状態で検知する。ヘッドレストECU35は、相対距離と静電容量の関係を定めた検出マップを参照して相対距離を検出する。
【0047】
接触不可避情報を受信するとヘッドレストECU35は、静電容量センサにより乗員の頭部との相対距離を測定しながらモータを駆動して可動部を頭部との相対距離を減少させる方向に移動させ、頭部の直前で停止させる。ヘッドレスト23と頭部との相対距離が短縮されるので、後方衝突時における運転者又は助手席乗員の頸部にかかる負担を和らげることができる。なお、助手席乗員が乗車していない場合、運転者又は助手席乗員の頭部がすでにヘッドレスト23に接触している場合は、可動部を移動しない。
【0048】
〔エアバッグ展開判定〕
エアバッグ制御部15は、エアバッグ30のそれぞれについて後述する判定条件を有しており、判定条件を満たす場合にエアバッグ30を展開すると判定する。本実施形態の乗員保護装置100は、主に、障害物と実際に接触する前に、PCSを利用して衝突不可避であることを予測しエアバッグを展開する。そして、その判定閾値A〜Cを大きくする点に特徴を有する。したがって、サテライトセンサ10Rが出力する出力信号1、サテライトセンサ10Lが出力する出力信号2、フロントGセンサ17Rが出力する出力信号3、フロントGセンサ17Lが出力する出力信号4、リアGセンサ19Rが出力する出力信号5、リアGセンサ19Rが出力する出力信号6、フロアセンサ12が出力する出力信号7を用いることなくエアバッグを展開することも可能である。しかしながら、PCSによりエアバッグ30を展開しない(例えば、想定していない方向から障害物が接近した場合)場合でも、エアバッグ30を展開できるようにこれら出力信号を信号処理して、その結果に基づきエアバッグ30を展開する。
【0049】
出力信号1〜7の信号処理について簡単に説明する。エアバッグ制御部15は、出力信号1〜7にそれぞれ検出した衝突の態様に応じた演算を施し、演算結果f1〜f7を衝撃検知用閾値O、P、Q、R、S、T、Uと比較する。すなわち、演算結果f1は衝撃検知用閾値Oと比較され、演算結果f2は衝撃検知用閾値Pと比較され、演算結果f3は衝撃検知用閾値Qと比較され、演算結果f4は衝撃検知用閾値Rと比較され、演算結果f5は衝撃検知用閾値Sと比較され、演算結果f6は衝撃検知用閾値Tと比較され、演算結果f7は衝撃検知用閾値Uと比較される。このうち、衝撃検知用閾値OとP、衝撃検知用閾値QとR、衝撃検知用閾値SとTは同じ値としてよい。
【0050】
出力信号f1〜f7の演算には種々の方法、例えば、出力信号1〜7から所定時間の積分値を求めたり、1つの出力信号に対し異なる時間帯の2つの積分値を求めたり、出力信号1〜7の特定の周波数成分の強度を抽出したり、所定時間内の最大値を抽出するなどがある。また、異なる態様の衝突が好適に検出できるよう、出力信号f1,f2(前方PCS)、出力信号f3,f4(側方PCS)、出力信号f5,f6(後方PCS)又は出力信号f7、それぞれの演算方法は異なる場合が多い。
【0051】
図5は、エアバッグの判定基準を模式的に説明する図の一例である。なお、図5では各判定条件を満たすことを「オン」と称す。
【0052】
図5(a)は運転席A/B14及び助手席A/B13の展開の判定条件の一例である。図示するように、OR回路53の作用により、前方PCSレーダ判定がオンになると、運転席A/B14及び助手席A/B13を展開することができる。仮に、前方PCSレーダ判定がオンにならずに(先行車両103を検出することなく)前突が生じても、いずれかのサテライトセンサ判定がオンになり、かつ、フロアセンサ判定がオンになることで、運転席A/B14及び助手席A/B13を展開することができる。サテライトセンサ判定とフロアセンサ判定をAND回路52で接続することで、悪路走行やドアの開閉による誤展開を防止している。
【0053】
図5(b)は、SAB16R及びCSA18Rの展開の判定条件の一例である。SAB16L及びCSA18Lについては左右が逆になるだけなので省略した。図示するように、OR回路55の作用により、右側方PCSレーダ判定がオンになると、SAB16R及びCSA18Rを展開することができる。仮に、右側方PCSレーダ判定がオンにならずに(進入車両104を検出することなく)側突が生じても、フロントGセンサ判定がオンになり、かつ、フロアセンサ判定がオンになることで、SAB16R及びCSA18Rを展開することができる。なお、図5(b)ではフロントGセンサ判定の場合を示したが、リアGセンサ判定の場合は展開されるエアバッグがCSA18Rになるだけで同様に展開判定される。
【0054】
図5(c)は、ヘッドレスト23の繰り出しの判定条件の一例である。上述したように、後方PCSレーダ判定がオンになると、他の条件に関係なくヘッドレスト23を繰り出すことができる。
【0055】
図5に示した判定条件において、乗員保護装置100は、判定閾値A〜Cを大きくする
ことで、エアバッグ30の展開条件を緩和し、また、ヘッドレスト23の繰り出し条件を緩和する。
【0056】
〔乗員保護装置100の機能ブロック図〕
図6は、乗員保護装置100の機能ブロック図の一例を示す。ジレンマゾーン進入判定部41は、車両11がジレンマゾーンに進入するか否かをジレンマゾーンに進入する前に予測する。ジレンマゾーンについて説明したように、停止線に停止できるか否かは車両11の車速と停止線までの距離により判定でき、赤信号になるまでに交差点に到達できるか否かは、赤信号に変わるまでの時間と、車速及び停止線までの距離により判定できる。
【0057】
図7は、車両11がジレンマゾーンに入っているか否かの判定を説明する図である。まず、黄信号に変わった時の車両11の位置を基準に考える。この時の車両11の位置は、ナビシステムゲーションシステム33が取得した位置情報から明らかであり、これとナビシステムゲーションシステム33が取得した信号機(停止線)の位置から、距離L0が算出される。
【0058】
なお、ジレンマゾーン進入判定部41は、信号情報から、黄信号開始時刻となるまでの残り時間T0をカウントする。残り時間Tは継続的に信号機から送信されればそれを用い、送信されなければ赤、青、黄、各表示の継続時間から算出する。
【0059】
車速がVの状態で交差点を通過するまで変化しないと仮定すると、残り時間Tの間に車両11が走行できる距離は、次式で表すことができる。この距離L2が図2の直線L2に相当し、以下、走行可能距離L2と称す。
・走行可能距離L2 = V×T
また、制動距離が車速Vの2乗に比例することを考慮すると、制動距離は次式で表すことができる。この制動距離が図2の曲線L1に相当し、以下、停止必要距離L1と称す。但し、αは車両11の減速度係数である。
・停止必要距離L1= V/(2α)
以上の関係から、ジレンマゾーン進入判定部41は、車両11の停止線までの距離L0が、走行可能距離L2よりも長く、かつ、停止必要距離L1よりも短い場合、車両11はジレンマゾーンを走行すると判定する。
・ジレンマゾーン: L2<L0<L1
青信号の残時間が分かれば、ジレンマゾーンに進入する前に、黄信号になった時にジレンマゾーンを走行することになるか否かを予測することができる。このため、ジレンマゾーン進入判定部41は、信号情報から青信号の残時間(黄信号に切り替わるまでの時間)を取得し、その時の車速Vから黄信号になった時の車両11の位置を予測しておく。そして、信号情報から取得される黄信号の残り時間(黄信号の継続時間)T及び車速Vから、車両11がジレンマゾーンに進入するか否かを予測することできる。
【0060】
図6に戻り、加減速度算出部42は、ジレンマゾーンに進入した際に運転者が減速又は加速のいずれの運転操作を選択したかを判定する。加減速度算出部42は、ストップランプスイッチのオン/オフ、マスタシリンダ圧の変化、ブレーキペダルストローク等から、減速したか否かを判定する。また、アクセルペダルストローク、スロットルポジション等から、加速したか否かを判定する。
【0061】
また、加減速度算出部42は、車両11が減速した場合は減速度Gを算出し、加速した場合は加速度Gを算出する。減速度G及び加速度Gは、例えば、車速センサ31が検出した車速Vを時間的に微分することで算出してもよいし、Gセンサの検出信号から直接検出してもよい。なお、減速度G及び加速度Gはいずれも正値である。
【0062】
〔減速した場合〕
減速度判定部43は、減速度Gの大きさと予め定めた判定値g1、g2(>g1)とを比較して、判定結果を出力する。減速度Gが判定値g1以下の場合、減速度は小さいと判定でき、減速度Gが判定値g1よりも大きくかつg2以下の場合、減速度は中程度と判定でき、減速度Gが判定値g4より大きい場合、減速度がかなり大きいと判定できる。したがって、減速度Gの大きさに応じて後続車両101との衝突の可能性を推定し、ヘッドレスト23を繰り出す必要性の程度を判定できる。
【0063】
繰り出し条件緩和部44は、減速度判定部43による判定結果に基づき、ヘッドレスト23の繰り出し条件を緩和するようPCS_ECU34に要求する。繰り出し条件は、例えば2段階に分けて緩和することが考えられる。1つは、後続車両101とのTTCと比較するための「判定閾値B」を大きくすることであり、もう1つは、後続車両101とのTTCに関わらず、ヘッドレスト23を繰り出すことである。これにより、後続車両101とのTTCが大きくてもヘッドレスト23を繰り出すことができるようになる。
【0064】
「判定閾値B」を大きくするとは、判定閾値Bの例えばk(例えば1.1〜3)倍程度の判定閾値Bthを用いて後続車両101とのTTCと比較することをいう。大きくした後の判定閾値Bthは予め記憶している固定値を用いてもよいし、減速度Gの大きさに比例して大きくしてもよい(以下、判定閾値Ath、Cthについて同じ)。
【0065】
また、繰り出し条件緩和部44は、後方PCSレーダ24の検知角度及び検知距離の少なくも一方を拡大してもよい。例えば、検知角度を拡大するとより広範囲の後続車両101を検出することができる。
【0066】
〔加速した場合〕
加速度判定部45は、加速度Gの大きさと予め定めた判定値g3とを比較して、判定結果を出力する。加速度Gが判定値g3より大きい場合、加速度が十分に大きく運転者が交差点をそのまま通過すると判定できる。
【0067】
そして、展開条件緩和部46は、加速度判定部45による判定結果に基づき、エアバッグ30の展開条件を緩和するようPCS_ECU34に要求する。加速度Gが判定値g3より大きい場合、展開条件緩和部46は、まず、先行車両103とのTTCと比較される「判定閾値A」を大きくする。これにより、先行車両103とのTTCが大きくても運転席A/B14及び助手席A/B13を展開することができるようになる。PCS_ECU34は、判定閾値Aのk(例えば1.1〜3)倍程度の判定閾値Athを用いて先行車両103とのTTCと比較する。
【0068】
このとき、判定閾値Aだけでなく、又は、判定閾値Aに変えて、サテライトセンサ10Rの演算結果f1と比較される判定閾値O、サテライトセンサ10Lの演算結果f2と比較される判定閾値P、フロアセンサ12の演算結果f7と比較される判定閾値U、の全て又は一部を小さくしてもよい(緩和する)。
【0069】
また、展開条件緩和部46は、加速度Gが判定値g3より大きい場合、車両11の位置に応じて、進入車両104とのTTCと比較される「判定閾値C」、進入車両102とのTTCと比較される「判定閾値C」を、それぞれ個別に大きくするようPCS_ECU34に要求する。図1にて説明したように、交差点前半部では右側から交差点に進入する進入車両104と衝突するおそれがあるので、交差点前半部では進入車両104とのTTCと比較される右側の側方PCSの「判定閾値C」を大きくし、交差点後半部では進入車両102とのTTCと比較される左側の側方PCSの「判定閾値C」を大きくする。なお、交差点後半部では、交差点前半部で変更した右側の側方PCSの「判定閾値C」を元に戻す。
【0070】
左右一方の判定閾値Cを大きくすることで、交差点前半部と交差点後半部のそれぞれで必要十分なだけ判定閾値Cを変更するので、誤展開を防止しかつ側突に備えることができる。PCS_ECU34は、判定閾値Cのk(例えば1.1〜3)倍程度の判定閾値Cthを用いて進入車両104又は進入車両102とのTTCと比較する。
【0071】
このとき、判定閾値Cだけでなく、又は、判定閾値Cに変えて、フロントGセンサ17Rの演算結果f3と比較される判定閾値Q、リアGセンサ19Rの演算結果f5と比較される判定閾値S、又は、フロアセンサ12の演算結果f7と比較される判定閾値U、の全て又は一部を小さくしてもよい(緩和する)。
【0072】
また、展開条件緩和部46は、前方PCSレーダ22、右側方PCSレーダ21R及び左側方PCSレーダ21Lの、検知角度及び検知距離の少なくも一方を拡大してもよい。例えば、検知角度を拡大するとより広範囲の先行車両103、他車両104、102を検出することができる。
【0073】
〔乗員保護装置100の動作手順〕
図8は、乗員保護装置100が動作する手順を示すフローチャート図の一例を示す。図8の手順は、エンジン又はシステム起動後、所定のサイクル時間毎に繰り返し実行される。
【0074】
ジレンマゾーン進入判定部41は、車速センサ31が検出する車速、ナビゲーションシステム33が検出する距離情報、路車間通信装置32が取得する信号情報に基づき、車両11にとってのジレンマゾーンを算出する(S10)。
【0075】
ついで、ジレンマゾーン進入判定部41は、車両11がジレンマゾーンに進入したか否か、又は、進入するおそれがあるか否かを判定する(S20)。ジレンマゾーンに進入する可能性がない場合(S20のNo)、図8の手順は終了し次の交差点に対し同様の手順が実行される。
【0076】
ジレンマゾーンに進入したか又は進入するおそれがあると判定すると(S20のYes)、加減速度算出部42は、運転者が加速したか否かをブレーキペダルの操作やアクセルペダルの操作から検出する(S30)。
【0077】
ついで、加減速度算出部42は減速するか否かに応じて(S40)、減速度G又は加速度Gを算出する(S50、S60)。ジレンマゾーンで運転者が定速で走行することは考えにくいが、ステップS40では減速するか否かを判定し、低速走行の場合は加速すると判定するものとする。
【0078】
運転者が減速した場合(S40のYes)加減速度算出部42は減速度Gを算出するので、減速度判定部43は、減速度Gが判定値g1より大きくかつ判定値g2以下か否かを判定する(S70)。すなわち、減速度Gが中程度か否かを判定する。この判定より、以降の処理は3つに分岐される。
【0079】
減速度Gが判定値g1以下の場合、減速度Gは十分小さいので、乗員保護装置100はそのまま処理を終了する。
【0080】
減速度Gが判定値g1より大きくかつ判定値g2以下の場合(S70のYes)、繰り出し条件緩和部44は、ヘッドレスト23の繰り出し条件を緩和する(S80)。これにより、後続車両101が遠くにいてもヘッドレスト23を繰り出すことができるので、運転者又は助手席乗員の頸椎を保護しやすくすることができる。
【0081】
減速度Gが判定値g3より大きい場合、繰り出し条件緩和部44は、ヘッドレスト23を繰り出すようPCS_ECU34に要求する(S90)。これにより、後続車両101と衝突する前にヘッドレスト23を繰り出すことができるので、運転者又は助手席乗員の頸椎を確実に保護することができる。
【0082】
ステップS40に戻り、運転者が加速した場合(S40のNo)加減速度算出部42は加速度Gを算出するので、加速度判定部45は、加速度Gが判定値g3より大きい否かを判定する(S100)。加速度Gが判定値g3以下の場合(S100のNo)、車速はそれほぼ大きくならず運転者は周囲に配慮した運転が可能であるとして、乗員保護装置100はそのまま処理を終了する。
【0083】
加速度Gが判定値g3より大きい場合(S100のYes)、展開条件緩和部46は車両11の位置情報をナビゲーションシステム33から取得する(S110)。この位置情報は、停止線からどのくらいの距離か、停止線を通過した後は交差点前半部か交差点後半部か否かを判定するために用いられる。
【0084】
展開条件緩和部46は、車両11の位置情報と停止線の位置から、車両11が交差点の進入直前か否かを判定する(S120)。交差点の進入直前の場合(S120のYes)、展開条件緩和部46は、前方PCSの作動条件を緩和し、また、右側の進入車両104とのTTCと比較される、右側の側方PCSの判定閾値CをCthに大きくする(S130)。この結果、左側の側方PCSの判定閾値Cよりも大きくなり、右側のSAB16R、CSA18Rを展開しやすくできる。
【0085】
交差点の進入直前でない場合(S120のNo)、又は、ステップS130の処理の後、車両11は交差点後半部を走行することになるので、展開条件緩和部46は、前方PCSの作動条件を緩和し、また、左側の進入車両102とのTTCと比較される、左側の側方PCSの判定閾値CをCthに大きくする(S140)。この結果、右側の側方PCSの判定閾値Cよりも大きくなり、左側のSAB16L、CSA18Lを展開しやすくできる。なお、交差点後半部では、右側の側方PCSの判定閾値CthをCに戻す。
【0086】
乗員保護装置100は信号機のある交差点を通過する毎に以上のような手順を繰り返す。したがって、乗員保護装置100は、車両11が避けて走行することのできないジレンマゾーンにおいて、乗員を衝撃から保護しやすくすることができ安全性をこれまで以上に向上させることができる。また、運転者の車両操作(減速又は加速)に応じて、乗員保護の態様を切り替えるので、運転者の行動に最適な交差点の通過支援を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】ジレンマゾーンにおける乗員保護を模式的に示す図の一例である。
【図2】ジレンマゾーンを説明するための図の一例である。
【図3】乗員保護装置が作動させる保護機器とセンサ類の概略配置図の一例である。
【図4】乗員保護装置のハードウェアブロック図の一例である。
【図5】エアバッグの判定基準を模式的に説明する図の一例である。
【図6】乗員保護装置の機能ブロック図の一例である。
【図7】車両がジレンマゾーンに入っているか否かの判定を説明する図である。
【図8】乗員保護装置が動作する手順を示すフローチャート図の一例である。
【符号の説明】
【0088】
15 エアバッグ制御部
21R 右側方PCSレーダ
21L 左側方PCSレーダ
22 前方PCSレーダ
23、23R、23L ヘッドレスト
24 後方PCSレーダ
30 エアバッグ
34 PCS_ECU
41 ジレンマゾーン進入判定部
42 加減速度算出部
43 減速度判定部
44 繰り出し条件緩和部
46 展開条件緩和部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検出された障害物との衝突を抑制し又は衝突による衝撃から乗員を保護する乗員保護装置において、
ジレンマゾーンに進入するか否かを判定するジレンマゾーン進入判定手段と、
ジレンマゾーンを走行する際、減速するか否かを判定する判定手段と、
減速すると判定された場合、後方の障害物に対応した乗員保護手段の作動判定基準を緩和する第1の判定基準変更手段と、
減速しないと判定された場合、側方の障害物に対応した乗員保護手段の作動判定基準を緩和する第2の判定基準変更手段と、
を有することを特徴とする乗員保護装置。
【請求項2】
第2の判定基準変更手段は、
自車線と交差する車線から他車両が接近してくる交差点内の領域を車両が走行する際、他車両が接近してくる側の乗員保護手段の作動判定基準を、接近してこない側の乗員保護手段の作動判定基準よりも緩和する、
ことを特徴とする請求項1記載の乗員保護装置。
【請求項3】
第2の判定基準変更手段は、
前方の障害物に対応した乗員保護手段の作動判定基準を緩和する、
ことを特徴とする請求項1又は2記載の乗員保護装置。
【請求項4】
ヘッドレストを前方に繰り出す乗員保護手段を有し、
第1の判定基準変更手段は、ヘッドレストを前方へ繰り出すか否かを判定する作動判定基準を緩和する、
ことを特徴とする請求項1記載の乗員保護装置。
【請求項5】
減速すると判定された場合に減速度を検出する減速度検出手段を有し、
減速度が所定値g2より大きい場合、
第1の判定基準変更手段は、作動判定基準により判定することなくヘッドレストを前方へ繰り出す、
ことを特徴とする請求項4記載の乗員保護装置。
【請求項6】
サイドエアバッグ又はカーテンシールドエアバッグを展開する乗員保護手段を有し、
第2の判定基準変更手段は、
サイドエアバッグ又はカーテンシールドエアバッグを展開するか否か判定する作動判定基準を緩和する、
ことを特徴とする請求項1記載の乗員保護装置。
【請求項7】
検出された障害物との衝突を抑制し又は衝突による衝撃から乗員を保護する乗員保護装置の作動条件変更方法において、
ジレンマゾーン進入判定手段が、ジレンマゾーンに進入するか否かを判定するステップと、
判定手段が、ジレンマゾーンを走行する際、減速するか否かを判定するステップと、
第1の判定基準変更手段が、減速すると判定された場合、後方の障害物に対応した乗員保護手段の作動判定基準を緩和するステップと、
第2の判定基準変更手段が、減速しないと判定された場合、側方の障害物に対応した乗員保護手段の作動判定基準を緩和するステップと、
を有することを特徴とする作動条件変更法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2010−18230(P2010−18230A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−182673(P2008−182673)
【出願日】平成20年7月14日(2008.7.14)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.VICS
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】