乗員保護装置
【課題】シートに着座した乗員と車両の側部との間でエアバッグを迅速且つ確実に展開する空間を確保できるようにする。
【解決手段】アームレスト14は、下部構造体21と上部構造体22とから構成されている。制御コンピュータ28は、側部衝突予測器27から取り込んだ受信情報に基づいて、車両の側方の物体までの距離や、車両の側方の物体と車両との間における相対速度を算出すると共に、この算出結果に基づいて側部衝突発生の可能性の有無を判断する。側部衝突の可能性が有る場合、制御コンピュータ28は、電動モータ18を正転させる。これにより、上部構造体22が図1(b)に実線で示す剛性付与位置から鎖線で示す剛性付与解除位置へ移動する。剛性付与解除位置にある上部構造体22は、エアバッグの展開領域(E1,E2)外にある。
【解決手段】アームレスト14は、下部構造体21と上部構造体22とから構成されている。制御コンピュータ28は、側部衝突予測器27から取り込んだ受信情報に基づいて、車両の側方の物体までの距離や、車両の側方の物体と車両との間における相対速度を算出すると共に、この算出結果に基づいて側部衝突発生の可能性の有無を判断する。側部衝突の可能性が有る場合、制御コンピュータ28は、電動モータ18を正転させる。これにより、上部構造体22が図1(b)に実線で示す剛性付与位置から鎖線で示す剛性付与解除位置へ移動する。剛性付与解除位置にある上部構造体22は、エアバッグの展開領域(E1,E2)外にある。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のシートに着座した乗員を車両における側部衝突から保護する乗員保護装置に関する。
【背景技術】
【0002】
シートに着座した乗員とサイドドアとの間でエアバッグを膨張して展開させるエアバッグ装置は、車両の側部衝突から乗員を保護する。しかし、サイドドアにアームレストを固定した車両では、アームレストがエアバッグの展開に与える影響を考慮して形状や位置を設定することとなり、デザイン上の制約を受けている。
【0003】
これを解決する手段として、特許文献1に開示の装置では、アームレストが前後方向へスライド可能に設けられており、シートにはエアバッグ装置が設けられている。エアバッグが膨張すると、膨張するエアバッグがアームレストを前方へ押して移動させる。アームレストが通常の位置から前方へ移動するため、エアバッグは、アームレストの影響を抑制されて膨張し、展開する。
【0004】
特許文献2に開示の装置では、側部衝突を予測する手段によって側部衝突が予測されたときには、ドアトリムの上部に設けられた保護手段が作動される。保護手段は、可動パネルをパンタグラフ機構によって駆動する構成であり、側部衝突が予測されたときには、アームレストよりも上にある可動パネルがサイドドアに設けられたアームレストから遠ざけられる。これにより、乗員の腕部がアームレストに置かれていた場合には、乗員の腕部がサイドドアから遠ざけられる。又、特許文献2では、横加速度センサが採用されており、サイドエアバッグ装置がサイドドアに設けられている。横加速度センサによって側部衝突が検出されたときには、サイドドアに設けられたサイドエアバッグ装置が作動され、乗員の胸部や頭部が保護される。
【0005】
特許文献3に開示の装置では、アームレストが剛性付与位置から下方へ移動可能に設けられており、側部衝突が発生したときにはアームレストが剛性付与位置から下方へ移動される。アームレストは、駆動装置(強制降下装置)によって強制的に下方へ移動される。
【特許文献1】特開平9−315258号公報
【特許文献2】特開2001−206176号公報
【特許文献3】特開2005−231471号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に開示の装置では、エアバッグの膨張力をアームレストを動かす駆動力として利用し、アームレストを前方へ移動させるため、エアバッグの展開の迅速性と、乗員の保護に必要なエアバッグの反力とを確保するためには、より大きな膨張力を必要とすることとなる。
【0007】
特許文献3に開示の装置では、駆動装置(強制降下装置)によってアームレストを強制的に下方へ移動させるため、アームレストを下方へ移動させた後にエアバッグを展開させる場合には、エアバッグの展開の迅速性が損なわれる可能性はない。しかし、側部衝突が発生してからアームレストを移動させるため、エアバッグと同程度の速さで使用位置から下方へアームレストを移動させる必要があり、アームレストの高速移動の実現化が困難であると考えられる。
【0008】
特許文献2に開示の装置では、側部衝突が予測されたときには可動パネルがアームレストから遠ざけられるが、移動された可動パネルがその位置にとどまる構成であり、サイドドアと乗員との間でエアバッグを展開させる空間が確保されない。
【0009】
本発明は、アームレストを有した車両においても、シートに着座した乗員と車両の側部との間でエアバッグを迅速且つ確実に展開する空間を確保することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、車両における側部衝突を予測する側部衝突予測手段と、車両側部と車両のシートに着座した乗員との間でエアバッグを膨張させるエアバッグ装置とを備えた車両における乗員保護装置を対象とし、請求項1の発明は、前記シートに着座した乗員と前記車両側部との間に設けられたアームレストと、前記アームレストの剛性を低下させる剛性低下手段とを備え、前記側部衝突予測手段が側部衝突を予測したときには、前記剛性低下手段が前記アームレストの剛性を低下させることを特徴とする。
【0011】
側部衝突予測手段が側部衝突を予測したときには、アームレストの剛性が低下させられる。従って、シートに着座した乗員と車両の側部との間でエアバッグを迅速且つ確実に展開する空間が確保される。
【0012】
好適な例では、前記アームレストは、下部構造体と上部構造体とを結合して構成されており、前記上部構造体は、前記エアバッグの展開領域内の占有部分を低減するように、且つ前記下部構造体との結合割合を低減するように、その剛性付与位置から離脱可能であり、前記剛性低下手段は、前記上部構造体を含み、前記側部衝突予測手段が側部衝突を予測したときには、前記剛性低下手段は、前記上部構造体を剛性付与位置から離脱させる。
【0013】
上部構造体が剛性付与位置から離脱すると、下部構造体の剛性が低下する。下部構造体との結合割合を低減するように上部構造体をその剛性付与位置から離脱可能に下部構造体に結合した構成は、アームレストの剛性を低下させる上で簡便である。
【0014】
好適な例では、前記アームレストは、内部に剛性付与物を有し、前記剛性低下手段は、前記剛性付与物を含み、前記側部衝突予測手段が側部衝突を予測したときには、前記剛性低下手段は、前記アームレスト内の剛性付与物の剛性付与状態を解除する。
【0015】
アームレスト内の剛性付与物の剛性付与状態が解除されると、アームレストの剛性が低下する。
好適な例では、前記剛性付与物は、アームレスト内からアームレスト外へ排出可能な流体である。
【0016】
流体がアームレスト内からアームレスト外へ排出されると、アームレストの剛性が低下する。
好適な例では、前記剛性付与物は、アームレスト内の剛性付与位置から剛性付与解除位置へ移動可能な固体の骨格材である。
【0017】
骨格材が剛性付与位置から剛性付与解除位置へ移動されると、アームレストの剛性が低下する。
好適な例では、前記剛性低下手段は、その作動後にその作動前の初期状態に復帰可能な可逆装置であり、前記剛性低下手段がその作動後にその作動前の初期状態に復帰したときには、前記アームレストは、剛性付与位置に復帰する。
【0018】
剛性低下手段が作動されたとしても、側部衝突が起きない限り、退かせ手段を初期状態に復帰させて使用することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の乗員保護装置は、シートに着座した乗員と車両の側部との間でエアバッグを迅速且つ確実に展開する空間を確保できるという優れた効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明を具体化した第1の実施形態を図1〜図5に基づいて説明する。
図1(a)は、車両の前側から見た図であり、図1(b)は、車両の上から見た図である。図1(a)に示すように、車両の右側のサイドドア11のフレームを構成するインナーパネル12にはドアトリム13が固定されており、ドアトリム13にはアームレスト14が車両の前後方向へ移動可能に設けられている。サイドドア11のフレームを構成するアウターパネル16とインナーパネル12との間には上下に移動可能に設けられた窓ガラス15が配置されている。
【0021】
図2は、車両の前側から見た図である。図2に示すように、インナーパネル12とドアトリム13との間の空間部には傘歯車17が配設されている。傘歯車17は、支軸171に回転可能に支持されており、支軸171は、インナーパネル12とドアトリム13とに架け渡されて支持されている。支軸171にはピニオンギヤ20が止着されている。
【0022】
支軸171の下方におけるインナーパネル12の一部121は、ドアトリム13側に向けて切り起こされており、この切り起こし部121には電動モータ18が支持されている。電動モータ18の出力軸181は、上方に向けられており、出力軸181の先端部には傘歯車19が止着されている。傘歯車19は、傘歯車17に噛合されており、電動モータ18の正逆回転によって傘歯車17が正逆回転される。
【0023】
アームレスト14は、車室内側へ張り出すようにドアトリム13に固定された下部構造体21と、下部構造体21に対して車両の前後方向へ移動可能に結合された平板形状の上部構造体22とから構成されている。下部構造体21は、中空形状である。上部構造体22には直線形状のガイド溝221が車両の前後方向に延びるように形成されており、下部構造体21の上部には直線形状のガイドレール211が車両の前後方向に延びるように形成されている。ガイドレール211は、ガイド溝221内を車両の前後方向へ相対的にスライド可能にガイド溝221内に挿入されている。上部構造体22の下面には外れ止め片222が一体形成されている。外れ止め片222は、上方へ離脱しないようにガイドレール211に係止されている。つまり、下部構造体21と上部構造体22とは、上部構造体22側のガイド溝221及び外れ止め片222と、下部構造体21側のガイドレール211との係合を介して結合されている。
【0024】
ドアトリム13には車両の前後方向に長いガイド孔23が形成されている。ガイド孔23は、ドアトリム13の側方に向けて開口している。上部構造体22には連結部223が一体形成されており、連結部223は、ガイド孔23を通ってドアトリム13とインナーパネル12との間の空間部に突出している。
【0025】
図4(a),(b)は、車両の下から見た図である。図4(a),(b)に示すように、ドアトリム13とインナーパネル12との間の空間部に突出する連結部223の突出端部にはラックギヤ224が一体形成されている。ラックギヤ224の歯列の方向は、車両の前後方向であり、ラックギヤ224は、ピニオンギヤ20に噛合されている。傘歯車17が正逆回動すると、傘歯車17の回転がピニオンギヤ20を介してラックギヤ224へ伝えられ、ラックギヤ224がピニオンギヤ20に噛合しながら車両の前後方向に往復動する。これにより、アームレスト14を構成する上部構造体22が車両の前後方向に往復動する。上部構造体22の往復動範囲は、図1(b)に実線で示す剛性付与位置と、鎖線で示す剛性付与解除位置との間である。
【0026】
図3は、車両の右側から見た図である。図3に示すように、サイドドア11に対応するシート24は、座部241と背もたれ部242とからなる。背もたれ部242にはサイドエアバッグ装置25が内蔵されている。サイドエアバッグ装置25は、ガス発生源としてのインフレータ251と、エアバッグ252と、インフレータ251及びエアバッグ252を収容するケース253とから構成されている。ケース253は、背もたれ部242を構成するフレーム(図示略)に取り付けられている。インフレータ251が作動されると、インフレータ251から高圧ガスがエアバッグ252へ送られる。これにより、エアバッグ252がシート24に着座した乗員Mとサイドドア11との間で膨張展開する。詳述すると、エアバッグ252は、図1(b)に示すアームレスト14と、シート24に着座した乗員Mとの間で膨張展開する。エアバッグ252は、乗員Mの主として胸を車両の側部衝突から保護する。
【0027】
図1(a)に示す鎖線E1内の領域、及び図1(b)に示す鎖線E2内の領域は、膨張展開するエアバッグ252が存在する可能性があると見なされる展開領域である。以下においては、エアバッグ252の展開領域を展開領域(E1,E2)と記す。
【0028】
上部構造体22が図4(a)に示す剛性付与位置にあるときには、上部構造体22の一部がエアバッグ252の展開領域(E1,E2)内にあり、上部構造体22が図4(b)に示す剛性付与解除位置にあるときには、上部構造体22は、エアバッグ252の展開領域(E1,E2)外にある。上部構造体22側のガイド溝221に入り込んでいる下部構造体21側のガイドレール211の入り込み長さL〔図4(a),(b)に示す〕は、上部構造体22が剛性付与位置にあるときの方が上部構造体22が剛性付与解除位置にあるときに比べて、長い。上部構造体22が剛性付与位置にあるときの入り込み長さLをL1、上部構造体22が剛性付与解除位置にあるときの入り込み長さLをL2(<L1)とし、L1/L1(=1)及びL2/L1を上部構造体22と下部構造体21との結合割合と定義する。そうすると、上部構造体22が剛性付与位置から剛性付与解除位置へ離脱したときには、エアバッグ252の展開領域(E1,E2)内の上部構造体22の占有部分が低減すると共に、上部構造体22と下部構造体21との結合割合が低減する。
【0029】
上部構造体22は、硬質性の合成樹脂で形成されており、下部構造体21は、上部構造体22よりも軟質の合成樹脂で形成されている。上部構造体22は、膨張展開するエアバッグ252の膨張圧が上部構造体22に加わっても容易に変形しない構造体となっている。又、下部構造体21は、上部構造体22がないときにエアバッグ252の膨張圧が下部構造体21に加わった場合には容易に変形する構造体となっている。
【0030】
図1(a)に示すように、サイドドア11には横加速度検出器26及び側部衝突予測器27が設けられている。横加速度検出器26は、車両の側方からサイドドア11に加えられる衝撃(車両の側部衝撃)を横加速度(車両の車幅方向の加速度)として検出する。側部衝突予測器27は、超音波あるいは電波を発信し、車両の側方の物体から反射した超音波あるいは電波を受信する。
【0031】
横加速度検出器26によって検出された横加速度情報、及び側部衝突予測器27によって検出された受信情報は、制御コンピュータ28へ送られる。制御コンピュータ28は、横加速度検出器26から得られる横加速度情報に基づいて、サイドエアバッグ装置25の作動(エアバッグ252の膨張展開)を制御する。又、制御コンピュータ28は、側部衝突予測器27から得られる受信情報に基づいて、車両の側方の物体までの距離や、車両の側方の物体と車両との間における相対速度を算出し、この算出結果に基づいて電動モータ18の作動を制御する。
【0032】
図5は、制御コンピュータ28によって遂行される乗員保護制御プログラムを表すフローチャートである。以下、乗員保護制御をフローチャートに基づいて説明する。なお、通常時においては、上部構造体22は、図4(a)に示す剛性付与位置にある。剛性付与位置にある上部構造体22の一部は、展開領域(E1,E2)内にある。
【0033】
制御コンピュータ28は、側部衝突予測器27から得られる受信情報を取り込む(ステップS1)。制御コンピュータ28は、取り込んだ受信情報に基づいて、車両の側方の物体までの距離や、車両の側方の物体と車両との間における相対速度を算出すると共に、この算出結果に基づいて側部衝突発生の可能性の有無を判断する(ステップS2)。側部衝突の可能性が無い場合(ステップS2においてNO)、制御コンピュータ28は、ステップS1へ移行する。側部衝突の可能性が有る場合(ステップS2においてYES)、制御コンピュータ28は、電動モータ18を正転〔図2に示すように出力軸181が矢印Q1の方向に回転する方向〕させる(ステップS3)。これにより、傘歯車19が車両の上から見て右回りに回転すると共に、傘歯車17及びピニオンギヤ20が車両の左側から見て右回りに回転する。これにより、ラックギヤ224が車両の後側から前側に向けて移動し、上部構造体22が図4(a)に示す剛性付与位置から図4(b)に示す剛性付与解除位置へ移動〔車両の後側から前側への移動〕する。剛性付与解除位置にある上部構造体22は、展開領域(E1,E2)外にある。
【0034】
ステップS3の処理後、制御コンピュータ28は、横加速度検出器26から得られる横加速度情報を取り込む(ステップS4)。制御コンピュータ28は、取り込んだ横加速度情報に基づいて、側部衝突発生の有無を判断する(ステップS5)。側部衝突が発生したとの判断が行われた場合(ステップS5においてYES)、制御コンピュータ28は、サイドエアバッグ装置25を作動させる(ステップS6)。これにより、エアバッグ252が前方へ伸長しながら膨張展開する。上部構造体22は、剛性付与位置から剛性付与解除位置へ退かせられており、エアバッグ252は、ドアトリム13に固定された下部構造体21と乗員Mとの間で膨張展開する。
【0035】
側部衝突が発生していないとの判断が行われた場合(ステップS5においてNO)、制御コンピュータ28は、側部衝突が発生していないとの判断が行われてから所定時間経過したか否かを判断する(ステップS7)。所定時間が経過していない場合(ステップS7においてNO)、制御コンピュータ28は、ステップS5へ移行する。所定時間が経過している場合(ステップS7においてYES)、制御コンピュータ28は、電動モータ18を逆転〔矢印Q1とは逆の回転方向〕させる(ステップS8)。これにより、アームレスト14が剛性付与解除位置から剛性付与位置へ復帰する。
【0036】
ステップS8の処理後、制御コンピュータ28は、ステップS1へ移行する。
横加速度検出器26及び制御コンピュータ28は、車両における側部衝突を検出する側部衝突検出手段を構成する。側部衝突予測器27及び制御コンピュータ28は、車両における側部衝突を予測する側部衝突予測手段を構成する。電動モータ18、傘歯車17,19、ピニオンギヤ20及びラックギヤ224は、上部構造体22を剛性付与位置から剛性付与解除位置へ離脱させる剛性低下手段を構成する。この剛性低下手段は、その作動後にその作動前の初期状態に復帰可能な可逆装置である。
【0037】
第1の実施形態では以下の効果が得られる。
(1)側部衝突発生の可能性があるとの予測が行われたときには、上部構造体22が電動モータ18の作動によって剛性付与位置から剛性付与解除位置へ退かせられる。剛性付与解除位置にある上部構造体22は、エアバッグ252の展開領域(E1,E2)外にあり、側部衝突発生の可能性有りという予測の判断がなされた後には、エアバッグ252の展開領域(E1,E2)内には上部構造体22の占有部分は無い。
【0038】
下部構造体21は、常にエアバッグ252の展開領域(E1,E2)内にあるが、軟質性の合成樹脂製の下部構造体21は、図4(b)に鎖線で示すように、膨張展開するエアバッグ252の膨張圧によって変形する。つまり、アームレスト14の剛性は、上部構造体22を剛性付与位置から剛性付与解除位置へ移すことによって低下される。従って、シート24に着座した乗員Mとサイドドア11(車両の側部)との間でエアバッグ252を迅速且つ確実に展開する空間が確保される。
【0039】
(2)制御コンピュータ28が側部衝突発生の可能性有りとの予測の判断を行なったにも関わらず、側部衝突が発生しなかった場合には、電動モータ18が逆転されて上部構造体22が剛性付与解除位置から剛性付与位置へ復帰される。つまり、側部衝突が起きない限り、側部衝突発生の可能性有りとの予測毎に、電動モータ18によって上部構造体22が剛性付与位置から剛性付与解除位置へ移動させることができる。つまり、電動モータ18、傘歯車17,19、ピニオンギヤ20及びラックギヤ224によって構成される剛性低下手段は、側部衝突が起きない限り、継続して使用できる。
【0040】
次に、図6及び図7(a),(b)の第2の実施形態を説明する。第1の実施形態と同じ構成部には同じ符合が用いてある。図6は、車両の上から見た図であり、図7(a),(b)は、車両の前側から見た図である。
【0041】
図7(a)に示すように、ドアトリム13には腕載せ部34が車室内側へ張り出すように一体形成されている。腕載せ部34は、中空形状である。腕載せ部34の一部は、エアバッグ252〔図3参照〕の展開領域内にある。腕載せ部34の上板部341の下面には溝形成壁342が垂下するように一体形成されている。腕載せ部34の側板343と溝形成壁342との間には溝344が形成されている。
【0042】
図6に示すように、インナーパネル12には一対の切り起こし部122,123がドアトリム13側に向けて切り起こし形成されており、切り起こし部122には電動モータ29が支持されている。電動モータ29の出力軸291は、車両の前後方向に向けられており、出力軸291の先端部にはピニオンギヤ30が止着されている。切り起こし部122,123には支軸31が回動可能に支持されており、支軸31にはセクター歯車32が止着されている。セクター歯車32は、電動モータ29の出力軸291に止着されたピニオンギヤ30に噛合されており、電動モータ29の回転によってセクター歯車32が支軸31を中心にして回動される。
【0043】
図7(a)に示すように、支軸31には平板形状の固体の骨格材33が止着されている。骨格材33の先端部には係止片331が屈曲するように形成されている。通常、骨格材33は、図7(a)に示す剛性付与位置(アームレスト内)にあり、骨格材33が剛性付与位置にあるときには、係止片331の先端は、溝344内に入り込んで腕載せ部34の上板部341の下面に当接している。
【0044】
腕載せ部34及び骨格材33は、アームレスト14Aを構成する。骨格材33は、硬質性の合成樹脂で形成されており、腕載せ部34は、骨格材33よりも軟質の合成樹脂で形成されている。骨格材33の剛性は、膨張展開するエアバッグ252の膨張圧が骨格材33に加わっても容易に変形しない剛性に設定されており、腕載せ部34の剛性は、骨格材33が剛性付与位置にないときにエアバッグ252の膨張圧が下部構造体21に加わった場合には容易に変形する剛性に設定されている。
【0045】
骨格材33が剛性付与位置にあるときに電動モータ29が正転〔図7(a)に示すように出力軸291が矢印Q2の方向に回転する方向〕すると、ピニオンギヤ30が車両の前側から見て左回りに回転する。これにより、セクター歯車32が支軸31を中心にして矢印Q3の方向〔車両の前側から見て右回りの方向〕に正転し、骨格材33が支軸31を中心にして矢印Q3の方向に回転して図7(a)に示す剛性付与位置から図7(b)に示す剛性付与解除位置へ移行する。これにより、骨格材33の係止片331が溝344から離脱する。剛性付与解除位置にある骨格材33は、エアバッグ252の展開領域外にある。
【0046】
骨格材33が剛性付与解除位置にあるときに電動モータ29が逆転〔矢印Q2とは逆の回転方向〕すると、セクター歯車32が支軸31を中心にして逆転〔矢印Q3とは逆の回転方向〕し、骨格材33が図7(b)の剛性付与解除位置から図7(a)の剛性付与位置へ移行する。
【0047】
制御コンピュータ28が側部衝突発生の可能性有りという予測を行なうと、電動モータ29が正転され、骨格材33が剛性付与位置から剛性付与解除位置へ移動される。骨格材33が剛性付与解除位置にあるときにエアバッグ252が膨張展開すると、軟質性の合成樹脂製の腕載せ部34は、図7(b)に鎖線で示すように、エアバッグ252の膨張圧によって変形する。つまり、アームレスト14Aの剛性は、骨格材33を剛性付与位置から剛性付与解除位置へ移すことによって低下される。従って、シート24に着座した乗員Mとサイドドア11(車両の側部)との間でエアバッグ252を迅速且つ確実に展開する空間が確保される。
【0048】
剛性付与物としての骨格材33を剛性付与解除位置から剛性付与位置へ復帰させれば、アームレスト14Aの剛性を初期状態へ復帰させることができる。剛性付与位置と剛性付与解除位置との一方から他方へ移動可能な骨格材33を用いた剛性低下手段は、その作動後にその作動前の初期状態に容易に復帰可能な可逆装置である。
【0049】
次に、図8及び図9(a),(b)の第3の実施形態を説明する。第1の実施形態と同じ構成部には同じ符合が用いてある。図8は、車両の上から見た図であり、図9(a),(b)は、車両の前側から見た図である。
【0050】
図9(a)に示すように、アームレスト14Bは、車室内側へ張り出すようにドアトリム13に止着された下部構造体36と、下部構造体36の上部を被覆する上部構造体35とを備えている。上部構造体35は、下部構造体36の上部に嵌合されている。下部構造体36は、中空形状である。
【0051】
図8に示すように、ドアトリム13には支軸37が回転可能に支持されており、支軸37には上部構造体35及び歯車38が止着されている。インナーパネル12側からドアトリム13側に向けてインナーパネル12に切り起こし形成された切り起こし部124には電動モータ39が装着されており、電動モータ39の出力軸391にはピニオンギヤ40が止着されている。ピニオンギヤ40は、歯車38に噛合されている。電動モータ39の回転は、ピニオンギヤ40、歯車38及び支軸37を介して上部構造体35に伝えられる。これにより、上部構造体35が支軸37を中心にして回転する。
【0052】
制御コンピュータ28が側部衝突発生の可能性有りという予測を行なうと、電動モータ39が正転〔図9(a)に示すように出力軸391が矢印Q4の方向に回転する方向〕される。これにより、ピニオンギヤ40が車両の前側から見て右回りに回転すると共に、歯車38が矢印Q5の方向〔車両の前側から見て左回りの方向〕に回転し、上部構造体35が矢印Q5の方向に回転しながら図9(a)に示す剛性付与位置から図9(b)に示す剛性付与解除位置へ移される。電動モータ39が逆転〔矢印Q4とは逆の回転方向〕されると、剛性付与解除位置にある上部構造体35が剛性付与位置へ復帰する。下部構造体36の一部は、エアバッグ252〔図3参照〕の展開領域内にある。剛性付与位置にある上部構造体35の一部は、エアバッグ252の展開領域内にあり、剛性付与解除位置にある上部構造体35は、エアバッグ252の展開領域外にある。
【0053】
上部構造体35は、硬質性の合成樹脂で形成されており、下部構造体36は、上部構造体35よりも軟質の合成樹脂で形成されている。つまり、上部構造体35の剛性は、膨張展開するエアバッグ252の膨張圧が上部構造体35に加わっても容易に変形しない剛性に設定されており、下部構造体36の剛性は、上部構造体35が剛性付与位置にないときにエアバッグ252の膨張圧が下部構造体36に加わった場合には容易に変形する剛性に設定されている。
【0054】
上部構造体35が剛性付与解除位置にあるときにエアバッグ252が膨張展開すると、軟質性の合成樹脂製の下部構造体36は、エアバッグ252の膨張圧によって変形する。つまり、アームレスト14Bの剛性は、上部構造体35を剛性付与位置から剛性付与解除位置へ移すことによって低下される。従って、シート24に着座した乗員Mとサイドドア11(車両の側部)との間でエアバッグ252を迅速且つ確実に展開する空間が確保される。
【0055】
次に、図10(a),(b)の第4の実施形態を説明する。第1の実施形態と同じ構成部には同じ符合が用いてある。図10(a),(b)は、車両の前側から見た図である。
図10(a)に示すように、ドアトリム13には腕載せ部41が車室内側へ張り出すように一体形成されている。腕載せ部41は、中空形状である。腕載せ部41の一部は、エアバッグ252〔図3参照〕の展開領域内にある。腕載せ部41内には第1タンク42が収納されており、第1タンク42の下方には第2タンク43が設けられている。第1タンク42と第2タンク43とは、電磁開閉弁44を介して接続されている。電磁開閉弁44は、制御コンピュータ28の励消磁制御を受ける。通常、電磁開閉弁44は消磁状態にあって閉じられており、第1タンク42内には流体W(例えば、水、油等の液体)が充填されている。腕載せ部41、第1タンク42及び流体Wは、アームレスト14Cを構成する。
【0056】
第1タンク42及び第2タンク43は、軟質の合成樹脂で形成されている。第1タンク42及び第2タンク43の剛性は、第1タンク42内に流体Wが充填されていないときにエアバッグ252の膨張圧がタンク42,43に加わった場合には容易に変形する剛性に設定されている。通常、アームレスト14Cは、内部に剛性付与物としての流体Wを有しており、第1タンク42内に充填された流体Wは、アームレスト14Cに剛性を付与する。第1タンク42、第2タンク43、電磁開閉弁44及び流体Wは、剛性低下手段を構成する。
【0057】
制御コンピュータ28が側部衝突発生の可能性有りという予測を行なうと、電磁開閉弁44が励磁され、電磁開閉弁44が開かれる。これにより、第1タンク42内の流体Wの全部が第2タンク43内へ流れる。第1タンク42内の流体Wの全部が第2タンク43内へ移動した後にエアバッグ252が膨張展開すると、腕載せ部41及び第1タンク42が図10(b)に鎖線で示すようにエアバッグ252の膨張圧によって変形する。つまり、アームレスト14Cの剛性は、第1タンク42内の流体Wを第2タンク43内へ移すことによって低下される。従って、シート24に着座した乗員Mとサイドドア11(車両の側部)との間でエアバッグ252を迅速且つ確実に展開する空間が確保される。
【0058】
アームレスト14Cの剛性を低下させるには、流体Wを第1タンク42から排出すればよく、流体Wの排出は、容易である。このような流体Wを用いた剛性低下手段は、アームレスト14Cに剛性を与えると共に、アームレスト14Cの剛性を低下させる上で、好適である。
【0059】
次に、図11(a),(b)の第5の実施形態を説明する。第4の実施形態と同じ構成部には同じ符合が用いてある。図11(a),(b)は、車両の前側から見た図である。
第2タンク43内にはピストン45が収容されており、ピストン45にはネジ軸46が固定されている。第2タンク43の下方には電動モータ47が設置されている。電動モータ47の出力軸は、ネジ筒471になっており、ネジ筒471にはネジ軸46が螺合されている。ネジ筒471が回転すると、ネジ軸46及びピストン45が上下動する。
【0060】
制御コンピュータ28が側部衝突発生の可能性有りという予測を行なうと、電動モータ47が正転〔図11(a)に示すようにネジ軸46が矢印Q6の方向に回転する方向〕される。これにより、ネジ筒471が車両の上から見て左回りに回転すると共に、ピストン45が図11(a)に示す押し上げ位置から図11(b)に示す最下動位置へ移動する。これにより、第1タンク42内の流体Wの全部が第2タンク43内へ流れる。第1タンク42内の流体Wの全部が第2タンク43内へ移動した後にエアバッグ252が膨張展開すると、腕載せ部41及び第1タンク42が図11(b)に鎖線で示すようにエアバッグ252の膨張圧によって変形する。つまり、アームレスト14Cの剛性は、第1タンク42内の流体Wを第2タンク43内へ移すことによって低下される。第5の実施形態では、第4の実施形態と同様の効果が得られる。
【0061】
第1タンク42、第2タンク43、ピストン45、ネジ軸46、電動モータ47及び流体Wは、剛性低下手段を構成する。ピストン45が最下動位置にあるときに電動モータ47が逆転〔矢印Q6とは逆の回転方向〕されると、ピストン45が図11(b)に示す最下動位置から図11(a)に示す押し上げ位置へ移動する。これにより、第2タンク43内の流体Wが第1タンク42内へ移される。第5の実施形態における剛性低下手段は、その作動後にその作動前の初期状態に復帰可能な可逆装置である。
【0062】
本発明では以下のような実施形態も可能である。
(1)第1の実施形態において、回転式の電動モータの代わりに、リニアアクチュエータ(例えばリニアモータ、流体圧シリンダ等)を用いて上部構造体22を剛性付与位置と剛性付与解除位置との一方から他方へ切り換え配置できるようにしてもよい。
【0063】
(2)第4,5の実施形態において、流体Wとして気体あるいは電磁流体を用いてもよい。
(3)エアバッグは、アームレストの移動領域を考慮した上で、乗員の胸の保護のみならず、乗員の肩、腹、腰あるいは頭部の中から保護する部位を任意に選択して胸と共に側部衝突から保護するものであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】第1の実施形態を示し、(a)は正断面図。(b)は、平断面図。
【図2】部分拡大正断面図。
【図3】サイドエアバッグ装置を示す側面図。
【図4】(a)は、図2のA−A線断面図。(b)は、上部構造体22を剛性付与解除位置へ移動した状態を示す底断面図。
【図5】乗員保護制御プログラムを表すフローチャート。
【図6】第2実施形態を示す平断面図。
【図7】(a)は、骨格材33が剛性付与位置にある状態を示す部分正断面図。(b)は、骨格材33が剛性付与解除位置にある状態を示す部分正断面図。
【図8】第3実施形態を示す平断面図。
【図9】(a),(b)は部分正断面図。
【図10】第4の実施形態を示し、(a),(b)は部分正断面図。
【図11】第5の実施形態を示し、(a),(b)は部分正断面図。
【符号の説明】
【0065】
11…車両側部としてのサイドドア。14,14A,14B,14C…アームレスト。18,29,39,47…剛性低下手段を構成する電動モータ。21,36…下部構造体。22,35…上部構造体。24…シート。25…サイドエアバッグ装置。251…ガス発生源としてのインフレータ。252…エアバッグ。27…制御コンピュータ28と共に側部衝突予測手段を構成する側部衝突予測器。33…剛性付与物としての骨格材。W…剛性付与物としての流体。E1,E2…展開領域。M…乗員。
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のシートに着座した乗員を車両における側部衝突から保護する乗員保護装置に関する。
【背景技術】
【0002】
シートに着座した乗員とサイドドアとの間でエアバッグを膨張して展開させるエアバッグ装置は、車両の側部衝突から乗員を保護する。しかし、サイドドアにアームレストを固定した車両では、アームレストがエアバッグの展開に与える影響を考慮して形状や位置を設定することとなり、デザイン上の制約を受けている。
【0003】
これを解決する手段として、特許文献1に開示の装置では、アームレストが前後方向へスライド可能に設けられており、シートにはエアバッグ装置が設けられている。エアバッグが膨張すると、膨張するエアバッグがアームレストを前方へ押して移動させる。アームレストが通常の位置から前方へ移動するため、エアバッグは、アームレストの影響を抑制されて膨張し、展開する。
【0004】
特許文献2に開示の装置では、側部衝突を予測する手段によって側部衝突が予測されたときには、ドアトリムの上部に設けられた保護手段が作動される。保護手段は、可動パネルをパンタグラフ機構によって駆動する構成であり、側部衝突が予測されたときには、アームレストよりも上にある可動パネルがサイドドアに設けられたアームレストから遠ざけられる。これにより、乗員の腕部がアームレストに置かれていた場合には、乗員の腕部がサイドドアから遠ざけられる。又、特許文献2では、横加速度センサが採用されており、サイドエアバッグ装置がサイドドアに設けられている。横加速度センサによって側部衝突が検出されたときには、サイドドアに設けられたサイドエアバッグ装置が作動され、乗員の胸部や頭部が保護される。
【0005】
特許文献3に開示の装置では、アームレストが剛性付与位置から下方へ移動可能に設けられており、側部衝突が発生したときにはアームレストが剛性付与位置から下方へ移動される。アームレストは、駆動装置(強制降下装置)によって強制的に下方へ移動される。
【特許文献1】特開平9−315258号公報
【特許文献2】特開2001−206176号公報
【特許文献3】特開2005−231471号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に開示の装置では、エアバッグの膨張力をアームレストを動かす駆動力として利用し、アームレストを前方へ移動させるため、エアバッグの展開の迅速性と、乗員の保護に必要なエアバッグの反力とを確保するためには、より大きな膨張力を必要とすることとなる。
【0007】
特許文献3に開示の装置では、駆動装置(強制降下装置)によってアームレストを強制的に下方へ移動させるため、アームレストを下方へ移動させた後にエアバッグを展開させる場合には、エアバッグの展開の迅速性が損なわれる可能性はない。しかし、側部衝突が発生してからアームレストを移動させるため、エアバッグと同程度の速さで使用位置から下方へアームレストを移動させる必要があり、アームレストの高速移動の実現化が困難であると考えられる。
【0008】
特許文献2に開示の装置では、側部衝突が予測されたときには可動パネルがアームレストから遠ざけられるが、移動された可動パネルがその位置にとどまる構成であり、サイドドアと乗員との間でエアバッグを展開させる空間が確保されない。
【0009】
本発明は、アームレストを有した車両においても、シートに着座した乗員と車両の側部との間でエアバッグを迅速且つ確実に展開する空間を確保することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、車両における側部衝突を予測する側部衝突予測手段と、車両側部と車両のシートに着座した乗員との間でエアバッグを膨張させるエアバッグ装置とを備えた車両における乗員保護装置を対象とし、請求項1の発明は、前記シートに着座した乗員と前記車両側部との間に設けられたアームレストと、前記アームレストの剛性を低下させる剛性低下手段とを備え、前記側部衝突予測手段が側部衝突を予測したときには、前記剛性低下手段が前記アームレストの剛性を低下させることを特徴とする。
【0011】
側部衝突予測手段が側部衝突を予測したときには、アームレストの剛性が低下させられる。従って、シートに着座した乗員と車両の側部との間でエアバッグを迅速且つ確実に展開する空間が確保される。
【0012】
好適な例では、前記アームレストは、下部構造体と上部構造体とを結合して構成されており、前記上部構造体は、前記エアバッグの展開領域内の占有部分を低減するように、且つ前記下部構造体との結合割合を低減するように、その剛性付与位置から離脱可能であり、前記剛性低下手段は、前記上部構造体を含み、前記側部衝突予測手段が側部衝突を予測したときには、前記剛性低下手段は、前記上部構造体を剛性付与位置から離脱させる。
【0013】
上部構造体が剛性付与位置から離脱すると、下部構造体の剛性が低下する。下部構造体との結合割合を低減するように上部構造体をその剛性付与位置から離脱可能に下部構造体に結合した構成は、アームレストの剛性を低下させる上で簡便である。
【0014】
好適な例では、前記アームレストは、内部に剛性付与物を有し、前記剛性低下手段は、前記剛性付与物を含み、前記側部衝突予測手段が側部衝突を予測したときには、前記剛性低下手段は、前記アームレスト内の剛性付与物の剛性付与状態を解除する。
【0015】
アームレスト内の剛性付与物の剛性付与状態が解除されると、アームレストの剛性が低下する。
好適な例では、前記剛性付与物は、アームレスト内からアームレスト外へ排出可能な流体である。
【0016】
流体がアームレスト内からアームレスト外へ排出されると、アームレストの剛性が低下する。
好適な例では、前記剛性付与物は、アームレスト内の剛性付与位置から剛性付与解除位置へ移動可能な固体の骨格材である。
【0017】
骨格材が剛性付与位置から剛性付与解除位置へ移動されると、アームレストの剛性が低下する。
好適な例では、前記剛性低下手段は、その作動後にその作動前の初期状態に復帰可能な可逆装置であり、前記剛性低下手段がその作動後にその作動前の初期状態に復帰したときには、前記アームレストは、剛性付与位置に復帰する。
【0018】
剛性低下手段が作動されたとしても、側部衝突が起きない限り、退かせ手段を初期状態に復帰させて使用することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の乗員保護装置は、シートに着座した乗員と車両の側部との間でエアバッグを迅速且つ確実に展開する空間を確保できるという優れた効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明を具体化した第1の実施形態を図1〜図5に基づいて説明する。
図1(a)は、車両の前側から見た図であり、図1(b)は、車両の上から見た図である。図1(a)に示すように、車両の右側のサイドドア11のフレームを構成するインナーパネル12にはドアトリム13が固定されており、ドアトリム13にはアームレスト14が車両の前後方向へ移動可能に設けられている。サイドドア11のフレームを構成するアウターパネル16とインナーパネル12との間には上下に移動可能に設けられた窓ガラス15が配置されている。
【0021】
図2は、車両の前側から見た図である。図2に示すように、インナーパネル12とドアトリム13との間の空間部には傘歯車17が配設されている。傘歯車17は、支軸171に回転可能に支持されており、支軸171は、インナーパネル12とドアトリム13とに架け渡されて支持されている。支軸171にはピニオンギヤ20が止着されている。
【0022】
支軸171の下方におけるインナーパネル12の一部121は、ドアトリム13側に向けて切り起こされており、この切り起こし部121には電動モータ18が支持されている。電動モータ18の出力軸181は、上方に向けられており、出力軸181の先端部には傘歯車19が止着されている。傘歯車19は、傘歯車17に噛合されており、電動モータ18の正逆回転によって傘歯車17が正逆回転される。
【0023】
アームレスト14は、車室内側へ張り出すようにドアトリム13に固定された下部構造体21と、下部構造体21に対して車両の前後方向へ移動可能に結合された平板形状の上部構造体22とから構成されている。下部構造体21は、中空形状である。上部構造体22には直線形状のガイド溝221が車両の前後方向に延びるように形成されており、下部構造体21の上部には直線形状のガイドレール211が車両の前後方向に延びるように形成されている。ガイドレール211は、ガイド溝221内を車両の前後方向へ相対的にスライド可能にガイド溝221内に挿入されている。上部構造体22の下面には外れ止め片222が一体形成されている。外れ止め片222は、上方へ離脱しないようにガイドレール211に係止されている。つまり、下部構造体21と上部構造体22とは、上部構造体22側のガイド溝221及び外れ止め片222と、下部構造体21側のガイドレール211との係合を介して結合されている。
【0024】
ドアトリム13には車両の前後方向に長いガイド孔23が形成されている。ガイド孔23は、ドアトリム13の側方に向けて開口している。上部構造体22には連結部223が一体形成されており、連結部223は、ガイド孔23を通ってドアトリム13とインナーパネル12との間の空間部に突出している。
【0025】
図4(a),(b)は、車両の下から見た図である。図4(a),(b)に示すように、ドアトリム13とインナーパネル12との間の空間部に突出する連結部223の突出端部にはラックギヤ224が一体形成されている。ラックギヤ224の歯列の方向は、車両の前後方向であり、ラックギヤ224は、ピニオンギヤ20に噛合されている。傘歯車17が正逆回動すると、傘歯車17の回転がピニオンギヤ20を介してラックギヤ224へ伝えられ、ラックギヤ224がピニオンギヤ20に噛合しながら車両の前後方向に往復動する。これにより、アームレスト14を構成する上部構造体22が車両の前後方向に往復動する。上部構造体22の往復動範囲は、図1(b)に実線で示す剛性付与位置と、鎖線で示す剛性付与解除位置との間である。
【0026】
図3は、車両の右側から見た図である。図3に示すように、サイドドア11に対応するシート24は、座部241と背もたれ部242とからなる。背もたれ部242にはサイドエアバッグ装置25が内蔵されている。サイドエアバッグ装置25は、ガス発生源としてのインフレータ251と、エアバッグ252と、インフレータ251及びエアバッグ252を収容するケース253とから構成されている。ケース253は、背もたれ部242を構成するフレーム(図示略)に取り付けられている。インフレータ251が作動されると、インフレータ251から高圧ガスがエアバッグ252へ送られる。これにより、エアバッグ252がシート24に着座した乗員Mとサイドドア11との間で膨張展開する。詳述すると、エアバッグ252は、図1(b)に示すアームレスト14と、シート24に着座した乗員Mとの間で膨張展開する。エアバッグ252は、乗員Mの主として胸を車両の側部衝突から保護する。
【0027】
図1(a)に示す鎖線E1内の領域、及び図1(b)に示す鎖線E2内の領域は、膨張展開するエアバッグ252が存在する可能性があると見なされる展開領域である。以下においては、エアバッグ252の展開領域を展開領域(E1,E2)と記す。
【0028】
上部構造体22が図4(a)に示す剛性付与位置にあるときには、上部構造体22の一部がエアバッグ252の展開領域(E1,E2)内にあり、上部構造体22が図4(b)に示す剛性付与解除位置にあるときには、上部構造体22は、エアバッグ252の展開領域(E1,E2)外にある。上部構造体22側のガイド溝221に入り込んでいる下部構造体21側のガイドレール211の入り込み長さL〔図4(a),(b)に示す〕は、上部構造体22が剛性付与位置にあるときの方が上部構造体22が剛性付与解除位置にあるときに比べて、長い。上部構造体22が剛性付与位置にあるときの入り込み長さLをL1、上部構造体22が剛性付与解除位置にあるときの入り込み長さLをL2(<L1)とし、L1/L1(=1)及びL2/L1を上部構造体22と下部構造体21との結合割合と定義する。そうすると、上部構造体22が剛性付与位置から剛性付与解除位置へ離脱したときには、エアバッグ252の展開領域(E1,E2)内の上部構造体22の占有部分が低減すると共に、上部構造体22と下部構造体21との結合割合が低減する。
【0029】
上部構造体22は、硬質性の合成樹脂で形成されており、下部構造体21は、上部構造体22よりも軟質の合成樹脂で形成されている。上部構造体22は、膨張展開するエアバッグ252の膨張圧が上部構造体22に加わっても容易に変形しない構造体となっている。又、下部構造体21は、上部構造体22がないときにエアバッグ252の膨張圧が下部構造体21に加わった場合には容易に変形する構造体となっている。
【0030】
図1(a)に示すように、サイドドア11には横加速度検出器26及び側部衝突予測器27が設けられている。横加速度検出器26は、車両の側方からサイドドア11に加えられる衝撃(車両の側部衝撃)を横加速度(車両の車幅方向の加速度)として検出する。側部衝突予測器27は、超音波あるいは電波を発信し、車両の側方の物体から反射した超音波あるいは電波を受信する。
【0031】
横加速度検出器26によって検出された横加速度情報、及び側部衝突予測器27によって検出された受信情報は、制御コンピュータ28へ送られる。制御コンピュータ28は、横加速度検出器26から得られる横加速度情報に基づいて、サイドエアバッグ装置25の作動(エアバッグ252の膨張展開)を制御する。又、制御コンピュータ28は、側部衝突予測器27から得られる受信情報に基づいて、車両の側方の物体までの距離や、車両の側方の物体と車両との間における相対速度を算出し、この算出結果に基づいて電動モータ18の作動を制御する。
【0032】
図5は、制御コンピュータ28によって遂行される乗員保護制御プログラムを表すフローチャートである。以下、乗員保護制御をフローチャートに基づいて説明する。なお、通常時においては、上部構造体22は、図4(a)に示す剛性付与位置にある。剛性付与位置にある上部構造体22の一部は、展開領域(E1,E2)内にある。
【0033】
制御コンピュータ28は、側部衝突予測器27から得られる受信情報を取り込む(ステップS1)。制御コンピュータ28は、取り込んだ受信情報に基づいて、車両の側方の物体までの距離や、車両の側方の物体と車両との間における相対速度を算出すると共に、この算出結果に基づいて側部衝突発生の可能性の有無を判断する(ステップS2)。側部衝突の可能性が無い場合(ステップS2においてNO)、制御コンピュータ28は、ステップS1へ移行する。側部衝突の可能性が有る場合(ステップS2においてYES)、制御コンピュータ28は、電動モータ18を正転〔図2に示すように出力軸181が矢印Q1の方向に回転する方向〕させる(ステップS3)。これにより、傘歯車19が車両の上から見て右回りに回転すると共に、傘歯車17及びピニオンギヤ20が車両の左側から見て右回りに回転する。これにより、ラックギヤ224が車両の後側から前側に向けて移動し、上部構造体22が図4(a)に示す剛性付与位置から図4(b)に示す剛性付与解除位置へ移動〔車両の後側から前側への移動〕する。剛性付与解除位置にある上部構造体22は、展開領域(E1,E2)外にある。
【0034】
ステップS3の処理後、制御コンピュータ28は、横加速度検出器26から得られる横加速度情報を取り込む(ステップS4)。制御コンピュータ28は、取り込んだ横加速度情報に基づいて、側部衝突発生の有無を判断する(ステップS5)。側部衝突が発生したとの判断が行われた場合(ステップS5においてYES)、制御コンピュータ28は、サイドエアバッグ装置25を作動させる(ステップS6)。これにより、エアバッグ252が前方へ伸長しながら膨張展開する。上部構造体22は、剛性付与位置から剛性付与解除位置へ退かせられており、エアバッグ252は、ドアトリム13に固定された下部構造体21と乗員Mとの間で膨張展開する。
【0035】
側部衝突が発生していないとの判断が行われた場合(ステップS5においてNO)、制御コンピュータ28は、側部衝突が発生していないとの判断が行われてから所定時間経過したか否かを判断する(ステップS7)。所定時間が経過していない場合(ステップS7においてNO)、制御コンピュータ28は、ステップS5へ移行する。所定時間が経過している場合(ステップS7においてYES)、制御コンピュータ28は、電動モータ18を逆転〔矢印Q1とは逆の回転方向〕させる(ステップS8)。これにより、アームレスト14が剛性付与解除位置から剛性付与位置へ復帰する。
【0036】
ステップS8の処理後、制御コンピュータ28は、ステップS1へ移行する。
横加速度検出器26及び制御コンピュータ28は、車両における側部衝突を検出する側部衝突検出手段を構成する。側部衝突予測器27及び制御コンピュータ28は、車両における側部衝突を予測する側部衝突予測手段を構成する。電動モータ18、傘歯車17,19、ピニオンギヤ20及びラックギヤ224は、上部構造体22を剛性付与位置から剛性付与解除位置へ離脱させる剛性低下手段を構成する。この剛性低下手段は、その作動後にその作動前の初期状態に復帰可能な可逆装置である。
【0037】
第1の実施形態では以下の効果が得られる。
(1)側部衝突発生の可能性があるとの予測が行われたときには、上部構造体22が電動モータ18の作動によって剛性付与位置から剛性付与解除位置へ退かせられる。剛性付与解除位置にある上部構造体22は、エアバッグ252の展開領域(E1,E2)外にあり、側部衝突発生の可能性有りという予測の判断がなされた後には、エアバッグ252の展開領域(E1,E2)内には上部構造体22の占有部分は無い。
【0038】
下部構造体21は、常にエアバッグ252の展開領域(E1,E2)内にあるが、軟質性の合成樹脂製の下部構造体21は、図4(b)に鎖線で示すように、膨張展開するエアバッグ252の膨張圧によって変形する。つまり、アームレスト14の剛性は、上部構造体22を剛性付与位置から剛性付与解除位置へ移すことによって低下される。従って、シート24に着座した乗員Mとサイドドア11(車両の側部)との間でエアバッグ252を迅速且つ確実に展開する空間が確保される。
【0039】
(2)制御コンピュータ28が側部衝突発生の可能性有りとの予測の判断を行なったにも関わらず、側部衝突が発生しなかった場合には、電動モータ18が逆転されて上部構造体22が剛性付与解除位置から剛性付与位置へ復帰される。つまり、側部衝突が起きない限り、側部衝突発生の可能性有りとの予測毎に、電動モータ18によって上部構造体22が剛性付与位置から剛性付与解除位置へ移動させることができる。つまり、電動モータ18、傘歯車17,19、ピニオンギヤ20及びラックギヤ224によって構成される剛性低下手段は、側部衝突が起きない限り、継続して使用できる。
【0040】
次に、図6及び図7(a),(b)の第2の実施形態を説明する。第1の実施形態と同じ構成部には同じ符合が用いてある。図6は、車両の上から見た図であり、図7(a),(b)は、車両の前側から見た図である。
【0041】
図7(a)に示すように、ドアトリム13には腕載せ部34が車室内側へ張り出すように一体形成されている。腕載せ部34は、中空形状である。腕載せ部34の一部は、エアバッグ252〔図3参照〕の展開領域内にある。腕載せ部34の上板部341の下面には溝形成壁342が垂下するように一体形成されている。腕載せ部34の側板343と溝形成壁342との間には溝344が形成されている。
【0042】
図6に示すように、インナーパネル12には一対の切り起こし部122,123がドアトリム13側に向けて切り起こし形成されており、切り起こし部122には電動モータ29が支持されている。電動モータ29の出力軸291は、車両の前後方向に向けられており、出力軸291の先端部にはピニオンギヤ30が止着されている。切り起こし部122,123には支軸31が回動可能に支持されており、支軸31にはセクター歯車32が止着されている。セクター歯車32は、電動モータ29の出力軸291に止着されたピニオンギヤ30に噛合されており、電動モータ29の回転によってセクター歯車32が支軸31を中心にして回動される。
【0043】
図7(a)に示すように、支軸31には平板形状の固体の骨格材33が止着されている。骨格材33の先端部には係止片331が屈曲するように形成されている。通常、骨格材33は、図7(a)に示す剛性付与位置(アームレスト内)にあり、骨格材33が剛性付与位置にあるときには、係止片331の先端は、溝344内に入り込んで腕載せ部34の上板部341の下面に当接している。
【0044】
腕載せ部34及び骨格材33は、アームレスト14Aを構成する。骨格材33は、硬質性の合成樹脂で形成されており、腕載せ部34は、骨格材33よりも軟質の合成樹脂で形成されている。骨格材33の剛性は、膨張展開するエアバッグ252の膨張圧が骨格材33に加わっても容易に変形しない剛性に設定されており、腕載せ部34の剛性は、骨格材33が剛性付与位置にないときにエアバッグ252の膨張圧が下部構造体21に加わった場合には容易に変形する剛性に設定されている。
【0045】
骨格材33が剛性付与位置にあるときに電動モータ29が正転〔図7(a)に示すように出力軸291が矢印Q2の方向に回転する方向〕すると、ピニオンギヤ30が車両の前側から見て左回りに回転する。これにより、セクター歯車32が支軸31を中心にして矢印Q3の方向〔車両の前側から見て右回りの方向〕に正転し、骨格材33が支軸31を中心にして矢印Q3の方向に回転して図7(a)に示す剛性付与位置から図7(b)に示す剛性付与解除位置へ移行する。これにより、骨格材33の係止片331が溝344から離脱する。剛性付与解除位置にある骨格材33は、エアバッグ252の展開領域外にある。
【0046】
骨格材33が剛性付与解除位置にあるときに電動モータ29が逆転〔矢印Q2とは逆の回転方向〕すると、セクター歯車32が支軸31を中心にして逆転〔矢印Q3とは逆の回転方向〕し、骨格材33が図7(b)の剛性付与解除位置から図7(a)の剛性付与位置へ移行する。
【0047】
制御コンピュータ28が側部衝突発生の可能性有りという予測を行なうと、電動モータ29が正転され、骨格材33が剛性付与位置から剛性付与解除位置へ移動される。骨格材33が剛性付与解除位置にあるときにエアバッグ252が膨張展開すると、軟質性の合成樹脂製の腕載せ部34は、図7(b)に鎖線で示すように、エアバッグ252の膨張圧によって変形する。つまり、アームレスト14Aの剛性は、骨格材33を剛性付与位置から剛性付与解除位置へ移すことによって低下される。従って、シート24に着座した乗員Mとサイドドア11(車両の側部)との間でエアバッグ252を迅速且つ確実に展開する空間が確保される。
【0048】
剛性付与物としての骨格材33を剛性付与解除位置から剛性付与位置へ復帰させれば、アームレスト14Aの剛性を初期状態へ復帰させることができる。剛性付与位置と剛性付与解除位置との一方から他方へ移動可能な骨格材33を用いた剛性低下手段は、その作動後にその作動前の初期状態に容易に復帰可能な可逆装置である。
【0049】
次に、図8及び図9(a),(b)の第3の実施形態を説明する。第1の実施形態と同じ構成部には同じ符合が用いてある。図8は、車両の上から見た図であり、図9(a),(b)は、車両の前側から見た図である。
【0050】
図9(a)に示すように、アームレスト14Bは、車室内側へ張り出すようにドアトリム13に止着された下部構造体36と、下部構造体36の上部を被覆する上部構造体35とを備えている。上部構造体35は、下部構造体36の上部に嵌合されている。下部構造体36は、中空形状である。
【0051】
図8に示すように、ドアトリム13には支軸37が回転可能に支持されており、支軸37には上部構造体35及び歯車38が止着されている。インナーパネル12側からドアトリム13側に向けてインナーパネル12に切り起こし形成された切り起こし部124には電動モータ39が装着されており、電動モータ39の出力軸391にはピニオンギヤ40が止着されている。ピニオンギヤ40は、歯車38に噛合されている。電動モータ39の回転は、ピニオンギヤ40、歯車38及び支軸37を介して上部構造体35に伝えられる。これにより、上部構造体35が支軸37を中心にして回転する。
【0052】
制御コンピュータ28が側部衝突発生の可能性有りという予測を行なうと、電動モータ39が正転〔図9(a)に示すように出力軸391が矢印Q4の方向に回転する方向〕される。これにより、ピニオンギヤ40が車両の前側から見て右回りに回転すると共に、歯車38が矢印Q5の方向〔車両の前側から見て左回りの方向〕に回転し、上部構造体35が矢印Q5の方向に回転しながら図9(a)に示す剛性付与位置から図9(b)に示す剛性付与解除位置へ移される。電動モータ39が逆転〔矢印Q4とは逆の回転方向〕されると、剛性付与解除位置にある上部構造体35が剛性付与位置へ復帰する。下部構造体36の一部は、エアバッグ252〔図3参照〕の展開領域内にある。剛性付与位置にある上部構造体35の一部は、エアバッグ252の展開領域内にあり、剛性付与解除位置にある上部構造体35は、エアバッグ252の展開領域外にある。
【0053】
上部構造体35は、硬質性の合成樹脂で形成されており、下部構造体36は、上部構造体35よりも軟質の合成樹脂で形成されている。つまり、上部構造体35の剛性は、膨張展開するエアバッグ252の膨張圧が上部構造体35に加わっても容易に変形しない剛性に設定されており、下部構造体36の剛性は、上部構造体35が剛性付与位置にないときにエアバッグ252の膨張圧が下部構造体36に加わった場合には容易に変形する剛性に設定されている。
【0054】
上部構造体35が剛性付与解除位置にあるときにエアバッグ252が膨張展開すると、軟質性の合成樹脂製の下部構造体36は、エアバッグ252の膨張圧によって変形する。つまり、アームレスト14Bの剛性は、上部構造体35を剛性付与位置から剛性付与解除位置へ移すことによって低下される。従って、シート24に着座した乗員Mとサイドドア11(車両の側部)との間でエアバッグ252を迅速且つ確実に展開する空間が確保される。
【0055】
次に、図10(a),(b)の第4の実施形態を説明する。第1の実施形態と同じ構成部には同じ符合が用いてある。図10(a),(b)は、車両の前側から見た図である。
図10(a)に示すように、ドアトリム13には腕載せ部41が車室内側へ張り出すように一体形成されている。腕載せ部41は、中空形状である。腕載せ部41の一部は、エアバッグ252〔図3参照〕の展開領域内にある。腕載せ部41内には第1タンク42が収納されており、第1タンク42の下方には第2タンク43が設けられている。第1タンク42と第2タンク43とは、電磁開閉弁44を介して接続されている。電磁開閉弁44は、制御コンピュータ28の励消磁制御を受ける。通常、電磁開閉弁44は消磁状態にあって閉じられており、第1タンク42内には流体W(例えば、水、油等の液体)が充填されている。腕載せ部41、第1タンク42及び流体Wは、アームレスト14Cを構成する。
【0056】
第1タンク42及び第2タンク43は、軟質の合成樹脂で形成されている。第1タンク42及び第2タンク43の剛性は、第1タンク42内に流体Wが充填されていないときにエアバッグ252の膨張圧がタンク42,43に加わった場合には容易に変形する剛性に設定されている。通常、アームレスト14Cは、内部に剛性付与物としての流体Wを有しており、第1タンク42内に充填された流体Wは、アームレスト14Cに剛性を付与する。第1タンク42、第2タンク43、電磁開閉弁44及び流体Wは、剛性低下手段を構成する。
【0057】
制御コンピュータ28が側部衝突発生の可能性有りという予測を行なうと、電磁開閉弁44が励磁され、電磁開閉弁44が開かれる。これにより、第1タンク42内の流体Wの全部が第2タンク43内へ流れる。第1タンク42内の流体Wの全部が第2タンク43内へ移動した後にエアバッグ252が膨張展開すると、腕載せ部41及び第1タンク42が図10(b)に鎖線で示すようにエアバッグ252の膨張圧によって変形する。つまり、アームレスト14Cの剛性は、第1タンク42内の流体Wを第2タンク43内へ移すことによって低下される。従って、シート24に着座した乗員Mとサイドドア11(車両の側部)との間でエアバッグ252を迅速且つ確実に展開する空間が確保される。
【0058】
アームレスト14Cの剛性を低下させるには、流体Wを第1タンク42から排出すればよく、流体Wの排出は、容易である。このような流体Wを用いた剛性低下手段は、アームレスト14Cに剛性を与えると共に、アームレスト14Cの剛性を低下させる上で、好適である。
【0059】
次に、図11(a),(b)の第5の実施形態を説明する。第4の実施形態と同じ構成部には同じ符合が用いてある。図11(a),(b)は、車両の前側から見た図である。
第2タンク43内にはピストン45が収容されており、ピストン45にはネジ軸46が固定されている。第2タンク43の下方には電動モータ47が設置されている。電動モータ47の出力軸は、ネジ筒471になっており、ネジ筒471にはネジ軸46が螺合されている。ネジ筒471が回転すると、ネジ軸46及びピストン45が上下動する。
【0060】
制御コンピュータ28が側部衝突発生の可能性有りという予測を行なうと、電動モータ47が正転〔図11(a)に示すようにネジ軸46が矢印Q6の方向に回転する方向〕される。これにより、ネジ筒471が車両の上から見て左回りに回転すると共に、ピストン45が図11(a)に示す押し上げ位置から図11(b)に示す最下動位置へ移動する。これにより、第1タンク42内の流体Wの全部が第2タンク43内へ流れる。第1タンク42内の流体Wの全部が第2タンク43内へ移動した後にエアバッグ252が膨張展開すると、腕載せ部41及び第1タンク42が図11(b)に鎖線で示すようにエアバッグ252の膨張圧によって変形する。つまり、アームレスト14Cの剛性は、第1タンク42内の流体Wを第2タンク43内へ移すことによって低下される。第5の実施形態では、第4の実施形態と同様の効果が得られる。
【0061】
第1タンク42、第2タンク43、ピストン45、ネジ軸46、電動モータ47及び流体Wは、剛性低下手段を構成する。ピストン45が最下動位置にあるときに電動モータ47が逆転〔矢印Q6とは逆の回転方向〕されると、ピストン45が図11(b)に示す最下動位置から図11(a)に示す押し上げ位置へ移動する。これにより、第2タンク43内の流体Wが第1タンク42内へ移される。第5の実施形態における剛性低下手段は、その作動後にその作動前の初期状態に復帰可能な可逆装置である。
【0062】
本発明では以下のような実施形態も可能である。
(1)第1の実施形態において、回転式の電動モータの代わりに、リニアアクチュエータ(例えばリニアモータ、流体圧シリンダ等)を用いて上部構造体22を剛性付与位置と剛性付与解除位置との一方から他方へ切り換え配置できるようにしてもよい。
【0063】
(2)第4,5の実施形態において、流体Wとして気体あるいは電磁流体を用いてもよい。
(3)エアバッグは、アームレストの移動領域を考慮した上で、乗員の胸の保護のみならず、乗員の肩、腹、腰あるいは頭部の中から保護する部位を任意に選択して胸と共に側部衝突から保護するものであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】第1の実施形態を示し、(a)は正断面図。(b)は、平断面図。
【図2】部分拡大正断面図。
【図3】サイドエアバッグ装置を示す側面図。
【図4】(a)は、図2のA−A線断面図。(b)は、上部構造体22を剛性付与解除位置へ移動した状態を示す底断面図。
【図5】乗員保護制御プログラムを表すフローチャート。
【図6】第2実施形態を示す平断面図。
【図7】(a)は、骨格材33が剛性付与位置にある状態を示す部分正断面図。(b)は、骨格材33が剛性付与解除位置にある状態を示す部分正断面図。
【図8】第3実施形態を示す平断面図。
【図9】(a),(b)は部分正断面図。
【図10】第4の実施形態を示し、(a),(b)は部分正断面図。
【図11】第5の実施形態を示し、(a),(b)は部分正断面図。
【符号の説明】
【0065】
11…車両側部としてのサイドドア。14,14A,14B,14C…アームレスト。18,29,39,47…剛性低下手段を構成する電動モータ。21,36…下部構造体。22,35…上部構造体。24…シート。25…サイドエアバッグ装置。251…ガス発生源としてのインフレータ。252…エアバッグ。27…制御コンピュータ28と共に側部衝突予測手段を構成する側部衝突予測器。33…剛性付与物としての骨格材。W…剛性付与物としての流体。E1,E2…展開領域。M…乗員。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガス発生源から発生するガスにより膨張して展開されるエアバッグを有するエアバッグ装置と、車両における側部衝突を予測する側部衝突予測手段とが備えられており、前記エアバッグは、車両側部と車両のシートに着座した乗員との間で膨張する車両における乗員保護装置において、
前記シートに着座した乗員と前記車両側部との間に設けられたアームレストと、
前記アームレストの剛性を低下させる剛性低下手段とを備え、
前記側部衝突予測手段が側部衝突を予測したときには、前記剛性低下手段は、前記アームレストの剛性を低下させることを特徴とする車両における乗員保護装置。
【請求項2】
前記アームレストは、下部構造体と上部構造体とを結合して構成されており、前記上部構造体は、前記エアバッグの展開領域内の占有部分を低減するように、且つ前記下部構造体との結合割合を低減するように、その剛性付与位置から離脱可能であり、前記剛性低下手段は、前記上部構造体を含み、前記側部衝突予測手段が側部衝突を予測したときには、前記剛性低下手段は、前記上部構造体を剛性付与位置から離脱させることを特徴とする請求項1に記載の車両における乗員保護装置。
【請求項3】
前記アームレストは、内部に剛性付与物を有し、前記剛性低下手段は、前記剛性付与物を含み、前記側部衝突予測手段が側部衝突を予測したときには、前記剛性低下手段は、前記アームレスト内の剛性付与物による剛性付与状態を解除することを特徴とする請求項1に記載の車両における乗員保護装置。
【請求項4】
前記剛性付与物は、アームレスト内からアームレスト外へ排出可能な流体であることを特徴とする請求項3に記載の車両における乗員保護装置。
【請求項5】
前記剛性付与物は、前記アームレスト内の剛性付与位置から剛性付与解除位置へ移動可能な固体の骨格材であることを特徴とする請求項3に記載の車両における乗員保護装置。
【請求項6】
前記剛性低下手段は、その作動後にその作動前の初期状態に復帰可能な可逆装置であり、前記剛性低下手段がその作動後にその作動前の初期状態に復帰したときには、前記アームレストは、剛性付与位置に復帰することを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の車両における乗員保護装置。
【請求項1】
ガス発生源から発生するガスにより膨張して展開されるエアバッグを有するエアバッグ装置と、車両における側部衝突を予測する側部衝突予測手段とが備えられており、前記エアバッグは、車両側部と車両のシートに着座した乗員との間で膨張する車両における乗員保護装置において、
前記シートに着座した乗員と前記車両側部との間に設けられたアームレストと、
前記アームレストの剛性を低下させる剛性低下手段とを備え、
前記側部衝突予測手段が側部衝突を予測したときには、前記剛性低下手段は、前記アームレストの剛性を低下させることを特徴とする車両における乗員保護装置。
【請求項2】
前記アームレストは、下部構造体と上部構造体とを結合して構成されており、前記上部構造体は、前記エアバッグの展開領域内の占有部分を低減するように、且つ前記下部構造体との結合割合を低減するように、その剛性付与位置から離脱可能であり、前記剛性低下手段は、前記上部構造体を含み、前記側部衝突予測手段が側部衝突を予測したときには、前記剛性低下手段は、前記上部構造体を剛性付与位置から離脱させることを特徴とする請求項1に記載の車両における乗員保護装置。
【請求項3】
前記アームレストは、内部に剛性付与物を有し、前記剛性低下手段は、前記剛性付与物を含み、前記側部衝突予測手段が側部衝突を予測したときには、前記剛性低下手段は、前記アームレスト内の剛性付与物による剛性付与状態を解除することを特徴とする請求項1に記載の車両における乗員保護装置。
【請求項4】
前記剛性付与物は、アームレスト内からアームレスト外へ排出可能な流体であることを特徴とする請求項3に記載の車両における乗員保護装置。
【請求項5】
前記剛性付与物は、前記アームレスト内の剛性付与位置から剛性付与解除位置へ移動可能な固体の骨格材であることを特徴とする請求項3に記載の車両における乗員保護装置。
【請求項6】
前記剛性低下手段は、その作動後にその作動前の初期状態に復帰可能な可逆装置であり、前記剛性低下手段がその作動後にその作動前の初期状態に復帰したときには、前記アームレストは、剛性付与位置に復帰することを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の車両における乗員保護装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2007−253674(P2007−253674A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−78090(P2006−78090)
【出願日】平成18年3月22日(2006.3.22)
【出願人】(000241463)豊田合成株式会社 (3,467)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年3月22日(2006.3.22)
【出願人】(000241463)豊田合成株式会社 (3,467)
【Fターム(参考)】
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