説明

乳化化粧料

【課題】乳化粒子径が200μm以下の安定した乳化組成物及び調製する技術を提供する
【解決手段】水酸化レシチンと水素添加レシチンを含有し、水酸化レシチンと水素添加レシチンの配合質量比が1:3〜1:5であり、乳化粒子径が200nm以下である乳化組成物。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
近年、保湿効果に優れ、べたつきのないさっぱりした使用感の化粧料が好まれている。乳化化粧料は油性成分を乳化した乳化粒子を含有し、保湿効果や皮膚を柔軟にするエモリエント効果に優れているが、油性感やべたつき感が問題となっている。乳化化粧料の乳化粒子径を小さくすることで油性感やべたつき感が低減し、乳化粒子をナノサイズまで小さくすると半透明の青白い外観を呈することから、さっぱりとした印象を与えることができる。さらには、乳化粒子を微細化することにより、乳化粒子のクリーミングが抑制されるため、増粘剤を使用しなくても高い安定性が得られる。そのため、ナノサイズの乳化組成物について種々の検討がなされている。
親水性のイオン性界面活性剤と特定の油剤を含有する乳化粒子径30〜100nmの乳化組成物(特許文献1:特開昭63−126542号公報)、イオン性界面活性剤と脂肪族アルコール、脂肪酸、脂肪族アミド化合物、脂肪族アミン化合物のいずれかと、液体油性物質を含有する乳化粒子径10〜200nmの乳化組成物(特許文献2:特開2001−157835号公報)、特定のエトキシル化脂肪エステルとソルビタン脂肪酸エステルと非イオン性界面活性剤とセチルホスフェート又はパルミトイルサルコシネートのアルカリ金属塩とを含有する乳化粒子径約100nmの乳化組成物(特許文献3:特表2004−534732号公報)などが知られている。
しかしながら、何れの技術も高圧乳化処理を必要としており、製造効率に問題があった。
水酸化レシチンに関しては、水酸化レシチンと多価アルコールと油相成分を混合して、ゲルを生成し、このゲルを水で希釈することにより、強力な機械力を加えずに均一で安定なエマルジョンを生成する技術が知られている(特許文献4:特開昭62−95131号公報)。しかしながら、得られるエマルジョンの乳化粒子径は300nm程度であり、増粘剤を使わずに安定性を維持することは困難であった。
【技術分野】
【0002】
【特許文献1】特開昭63−126542号公報
【特許文献2】特開2001−157835号公報
【特許文献3】特表2004−534732号公報
【特許文献4】特開昭62−95131号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ホモミキサーや高圧乳化機などによる強力なせん断力を使用せずに、乳化粒子径が200μm以下の安定した乳化組成物及び調製する技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の主な構成は、次のとおりである。
(1)水酸化レシチンと水素添加レシチンを含有し、水酸化レシチンと水素添加レシチンの配合質量比が1:3〜1:5であり、乳化粒子径が200nm以下であることを特徴とする乳化組成物。
(2)水酸化レシチンと水素添加レシチンを含有し、水酸化レシチンと水素添加レシチンの配合質量比が1:3〜1:5であることを特徴とする乳化剤。
(3)さらに、多価アルコール、油剤及び水を含有することを特徴とする(1)記載の乳化組成物又は(2)記載の乳化剤。
(4)半透明化粧料、半透明外用剤、半透明液剤、水性経口剤又は飲料であることを特徴とする(1)記載の乳化組成物。
(5)(a)水酸化レシチン、(b)水素添加レシチン、(c)多価アルコール、(d)油剤(e)水、を含有し、成分(a)と成分(b)の配合質量比が(a):(b)=1:3〜1:5であり、乳化粒子径が200nm以下である乳化組成物の製造方法であって、(a)水酸化レシチン、(b)水素添加レシチン、(c)多価アルコール、(d)油剤を70℃以上100℃以下で加温溶解し、そこへ、70℃以上100℃以下に加温した水を、ホモミキサーや高圧乳化機を使用せずプロペラ等により攪拌混合し、乳化粒子径が200nm以下の微細な乳化物を、水溶性高分子や水溶性粘土鉱物等の増粘剤を添加せずに、低粘度で安定性を維持することが可能であることを特徴とする乳化組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0005】
本発明は、水酸化レシチンと水素添加レシチンを含有し、水酸化レシチンと水素添加レシチンの配合質量比が1:3〜1:5の構成とすることにより、乳化粒子径が200μm以下の安定した乳化組成物を提供することができる。この乳化組成物は、ホモミキサーや高圧乳化機などによる強力なせん断力を使用せずに、プロペラ等により攪拌混合するだけで調製することができる。本発明の乳化組成物の乳化粒子径は200nm以下なので、水溶性高分子や水溶性粘土鉱物等の増粘剤を添加せずに、低粘度で安定性を維持することが可能である。
乳化粒子径が200nm以下の微細乳化組成物を調製するためには、通常、高圧乳化機等が必要とされるが、処理量が限られることから少量しか生産できず、生産コストが高いという問題がある。本発明によって高圧乳化機等を用いずに、乳化粒子径が200nm以下の乳化組成物を多量かつ安価に提供することができる。
本発明の、水酸化レシチンと水素添加レシチンを含有し、水酸化レシチンと水素添加レシチンの配合質量比が1:3〜1:5である乳化剤を用いることにより、ホモミキサーや高圧乳化機などによる強力なせん断力を使用せずに、プロペラ等により攪拌混合するだけで乳化粒子径が200nm以下の乳化組成物を調製することができる。
本発明の乳化組成物は、べたつきやクリーミングが発生せず、長期安定しているので、半透明化粧料、半透明外用剤、半透明液剤、水性経口剤又は飲料等に活用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明の乳化組成物は、水中油型乳化組成物である。
本発明に用いる水酸化レシチンは卵黄レシチン、大豆レシチン等の天然のレシチンの脂肪酸部分の不飽和結合をヒドロキシル化したものである。製造方法としては、例えば、天然のレシチンを、有機酸の存在下、過酸化水素と反応させる方法が挙げられる。水酸化レシチンとして、市販品のレシノールSH50(日本サーファクタント工業製、水酸化レシチン:グリセリン=1:1)等を用いることができる。
【0007】
本発明に用いる水素添加レシチンとしては、卵黄レシチン、大豆レシチン等の天然のレシチンについて、レシチン中の不飽和炭素鎖を水素添加により飽和結合に変えた水素添加大豆レシチン、水素添加卵黄レシチン等が挙げられる。水素添加レシチンとして、市販品を用いることができる。市販品としては、日本サーファクタント工業製 レシノールS−10M、レシノールS−10E、レシノールS−10、レシノールS−10EX(水添レシチン)、日清オイリオグループ製、ベイシスLS−60HR(水添レシチン)、日本油脂製 COATSOME NC−61、COATSOME NC−21(水添レシチン)、キューピー製 卵黄レシチンPL100P(水添レシチン)等が挙げられる。
【0008】
本発明に用いる水酸化レシチンと水素添加レシチンの配合質量比は水酸化レシチン:水素添加レシチン=1:3〜1:5である。その範囲以外では、乳化粒子径が200nmを超えるので、増粘剤を添加しないと安定性の維持が困難となる。
【0009】
本発明の乳化組成物には多価アルコールを配合することが好ましい。多価アルコールとして、ジプロピレングリコール、グリセリン、1,3−ブチレングリコール、1,2−ペンタンジオール、プロピレングリコール、イソプレングリコール、1,2−ヘキサンジオール、1,2−オクタンジオール、ジグリセリン、ポリエチレングリコール等が挙げられる。
【0010】
本発明に用いる油剤としては、炭化水素油、エステル油、高級アルコール、動植物油、シリコーン油、油性の香料、紫外線吸収剤、薬効剤等が挙げられる。
炭化水素油としては、スクワラン、流動パラフィン、ワセリン、ポリブテンなどが挙げられる。
エステル油としては、トリ−2−エチルヘキサン酸グリセリル、トリイソノナン酸グリセリル、トリ(カプリル/カプリン)酸グリセリル、ジオクタン酸ネオペンチルグリコール、ジカプリン酸プロピレングリコール、テトラミリスチン酸ペンタエリスリトール、2−エチルヘキサン酸セチル、ミリスチン酸イソプロピル、ミリスチン酸イソトリデシル等が挙げられる。
【0011】
高級アルコールとしては、オクチルドデカノール、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール等が挙げられる。
【0012】
動植物油としては、オリーブ油、マカデミアナッツ油、ミンク油等が挙げられる。
シリコーン油としては、ジメチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン、環状ジメチルポリシロキサン等が挙げられる。
油性の香料としては、ベンジルアルコール、アネトール、カンファー、シトロネラール、ゲラニオール、リモネン、l−メントール等が挙げられる。
油性の紫外線吸収剤としては、パラメトキシケイ皮酸オクチル等が挙げられる。
油性の薬効剤としては、ビタミンA油、dl−α−トコフェロール、コメ胚芽油、ユーカリ油等が挙げられる。
【0013】
本発明の乳化組成物は、水溶性高分子や水溶性粘土鉱物等の増粘剤を添加しなくても、低粘度で安定性を維持することが可能である。
本発明の乳化組成物には、保湿剤、増粘剤、界面活性剤、機能成分等を本発明の効果を損なわない範囲で配合することができる。
【0014】
本発明の乳化組成物の乳化粒子径は200nm以下である。乳化粒子径を200nm以下にすることによって、増粘剤を使わずに安定性を維持することが可能となる。尚、この乳化粒子径は動的光散乱測定装置を用いて25℃の光散乱強度からキュムラント解析により求めたものである。
【0015】
本発明の乳化組成物は安定性に優れ、粘性を低くできることから、任意の濃度で希釈して半透明化粧料、半透明外用剤、半透明液剤、水性経口剤、飲料等として使用することができる。
【0016】
本発明の乳化組成物の調製方法として、例えば、水酸化レシチン、水素添加レシチン、多価アルコール、油剤を85〜90℃で加温溶解し、そこへ、85〜90℃に加温した水相を混合し、冷却する方法が挙げられる。混合は、プロペラ、パドル等による攪拌や振盪だけでよく、ホモミキサーや高圧乳化機を使用せずに微細な乳化物を調製することができる。水酸化レシチン、水素添加レシチン、多価アルコール、油剤を加温溶解する温度は、水素添加レシチンを溶解するために70℃以上100℃以下が好ましい。水素添加レシチンの溶解を妨げないように、水相も70℃以上100℃以下に加温することが好ましい。
【0017】
本発明の乳化組成物は容易に微細な乳化粒子を生成するので、水酸化レシチン、水素添加レシチン、多価アルコール、油剤の混合物と、水相を用意しておき、使用時にそれらを加温混合して乳化組成物を生成することもできる。
【0018】
本発明の乳化剤としては、水酸化レシチンと水素添加レシチンを水酸化レシチンと水素添加レシチンの配合質量比が1:3〜1:5となるようにそのまま混合して製造してもよいし、前記混合物を多価アルコールに加熱分散させて乳化剤とすることもできる。
【0019】
実施例1〜3、比較例1〜6を表1に示す。実施例、比較例の乳化組成物は、表1の成分1〜5を85〜90℃に加熱混合し、T.K.ロボミックス(PRIMIX製)クローバー羽根を用いて2000rpmで攪拌混合しながら、85〜90℃に加温した精製水を徐々に加えて5分間混合後、30℃に冷却して調製した。
【0020】
【表1】

【0021】
<乳化粒子径>
動的光散乱測定装置(大塚電子株式会社製、ELS-8000)を用いて25℃の光散乱強度を測定しキュムラント解析により乳化粒子径を求めた。キュムラント解析プログラムは大塚電子株式会社製、ELS-8000に備えられたものを用いた。但し、比較例1、2、5、6については、乳化粒子径が大きく動的光散乱測定装置の測定範囲を超えるため、レーザー回折式粒度分布測定装置(MARVERN製、MASTERSIZER2000)により測定した。
【0022】
<安定性>
実施例1〜3、比較例1〜6の乳化組成物を2倍に水で希釈し、25℃の恒温槽に4ヶ月間保管して安定性を以下の基準により評価した。結果を表1に示す。
○:安定
△:わずかにクリーミング(下部の透明層比率2%未満、上部にクリーム濃厚層なし)
×:クリーミング(下部の透明層比率2%以上、上部にクリーム濃厚層あり)
【0023】
<べたつき>
専門パネラーによる官能試験により、以下の基準により「べたつき」を評価した。結果を表1に示す。
○:実施例1と比べて、べたつきが同等もしくは少ない。
△:実施例1と比べて、少しべたつく。
×:実施例1と比べて、べたつく。
【0024】
<考察>
乳化粒子径が200nm以下である実施例1〜3の乳化組成物は25℃で4ヶ月間保管しても変化を生じず、安定性が高いことが確認できた。一方、乳化粒子径が1μm以下であるが、200nmを超える比較例3、4の乳化組成物については、乳化粒子径が約300nmの比較例3は1週間後にわずかにクリーミングが生じ、4ヵ月後には明らかにクリーミングが生じ、乳化粒子径が約500nmの比較例4は、1日後にわずかにクリーミングが生じ、2日後には明らかなクリーミングが生じた。乳化粒子径が1μmを超える比較例1、2、5、6の乳化組成物は1日後に明らかなクリーミングを生じた。50℃保管による安定性は1週間後まで確認した。50℃保管の安定性と、25℃保管の安定性は同じ挙動を示した。実施例1〜3の乳化組成物は50℃で1週間保管しても安定であった。
また、実施例1〜3の「べたつき」は何れも同等であり、べたつきが少なく使用感に優れるものであったが、乳化粒子径が200nmを超える比較例3,4は実施例と比べてややべたつき、乳化粒子径が1μmを超える比較例1,2,5,6は実施例と比べてべたつきが顕著であった。
【0025】
処方例1 半透明化粧水
重量%
(1) 実施例2の乳化組成物 3.000%
(2) グリセリン 8.000%
(3) 1,3−ブチレングリコール 6.000%
(4) ペンチレングリコール 1.000%
(5) ベタイン 3.000%
(6) カルボマー 0.020%
(7) キサンタンガム 0.030%
(8) 水酸化カリウム 0.005%
(9) 精製水 残余
(製法)(9)に(2)〜(7)を添加し80〜85℃で加熱溶解後、(8)を添加して中和する。これを30℃に冷却後(1)を添加し攪拌混合する。
【0026】
処方例2 乳液
重量%
(1) 実施例1の乳化組成物 25.00%
(2) カルボマー 0.10%
(3) キサンタンガム 0.05%
(4) 1,3−ブチレングリコール 5.00%
(5) 水酸化カリウム 0.04%
(6) 精製水 残余
(製法)(6)に(2)〜(4)を添加し80〜85℃で加熱溶解後、(5)を添加して中和する。これを30℃に冷却後(1)を添加し攪拌混合する。
【0027】
処方例3 乳液
重量%
(1) 水酸化レシチン 0.30%
(2) 水素添加大豆リン脂質 1.20%
(3) スクワラン 5.00%
(4) ジメチコン 2.00%
(5) ホホバ種子油 3.00%
(6) ジプロピレングリコール 10.00%
(7) グリセリン 3.00%
(8) 精製水 20.00%
(9) カルボマー 0.20%
(10)カルボキシメチルデキストランNa 0.10%
(11)水酸化カリウム 0.05%
(12)精製水 残余
(製法)(1)〜(7)を混合後、80〜85℃で加熱溶解し、プロペラ攪拌下で80〜85℃に加熱した(8)を添加する(A)。(12)に(9)(10)を添加し、80〜85℃で加熱溶解後、(11)を添加し混合する(B)。(A)と(B)を混合し30℃に冷却する。
【0028】
処方例4 乳化剤
重量%
(1) 水酸化レシチン 5%
(2) 水素添加大豆リン脂質 20%
(3) グリセリン 75%
(製法)(1)〜(3)を混合後、85〜90℃で加熱溶解し、冷却する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水酸化レシチンと水素添加レシチンを含有し、水酸化レシチンと水素添加レシチンの配合質量比が1:3〜1:5であり、乳化粒子径が200nm以下であることを特徴とする乳化組成物。
【請求項2】
水酸化レシチンと水素添加レシチンを含有し、水酸化レシチンと水素添加レシチンの配合質量比が1:3〜1:5であることを特徴とする乳化剤。
【請求項3】
半透明化粧料、半透明外用剤、半透明液剤、水性経口剤又は飲料であることを特徴とする請求項1記載の乳化組成物。
【請求項4】
(a)水酸化レシチン、(b)水素添加レシチン、(c)多価アルコール、(d)油剤
(e)水、を含有し、成分(a)と成分(b)の配合質量比が(a):(b)=1:3〜1:5であり、乳化粒子径が200nm以下である乳化組成物の製造方法であって、
(a)水酸化レシチン、(b)水素添加レシチン、(c)多価アルコール、(d)油剤
を70℃以上100℃以下で加温溶解し、
そこへ、70℃以上100℃以下に加温した水を、ホモミキサーや高圧乳化機を使用せずプロペラ等により攪拌混合し、乳化粒子径が200nm以下の微細な乳化物を、水溶性高分子や水溶性粘土鉱物等の増粘剤を添加せずに、低粘度で安定性を維持することが可能であることを特徴とする乳化組成物の製造方法。




【公開番号】特開2010−6739(P2010−6739A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−167171(P2008−167171)
【出願日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【出願人】(593106918)株式会社ファンケル (310)
【Fターム(参考)】