説明

乳化性組成物

【課題】天然物由来のもので、安全性が高く、乳化作用及び乳化安定性の優れた乳化性組成物の製造及び当該乳化性組成物を使用して得られる飲食品及び化粧品を提供する。
【解決手段】ホウレン草抽出物を含有することを特徴とする乳化性組成物の構成、前記ホウレン草抽出物が、水溶性成分であることを特徴とする乳化性組成物の構成、前記乳化性組成物を含有することを特徴とする飲食品の構成、前記乳化性組成物を含有することを特徴とする化粧品の構成とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホウレン草抽出物を含有する新規な乳化性組成物に関する。さらに前記乳化性組成物を使用して得られる飲食品及び化粧品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ホウレン草は、古来より世界中で広く食されてきた。近年、天然物由来の生理活性物質についての研究が活発に行われており、ホウレン草についても様々な生理活性物質の報告がされている。
【0003】
一方、食品用の機能性素材としてホウレン草が有する作用についての報告は少なく、ホウレン草成分の乳化作用に着目した研究はない。
【0004】
食品や化粧品用の乳化剤としては、例えば、合成添加物である脂肪酸モノグリコールエステル、脂肪酸ショ糖エステル等の脂肪酸誘導体や、天然添加物であるレシチンおよびその酵素処理物、植物性多糖類、各種蛋白質が知られている。
【0005】
特に、分離大豆蛋白質、カゼイン等の蛋白質、大豆多糖類やアラビアガムのような植物性多糖には乳化作用があり、安全性の高い天然物由来の食品用乳化剤として利用されている(例えば、非特許文献1参照)。
【0006】
しかしながら、これら天然物由来の乳化作用は合成添加物の乳化剤に劣っており、依然として飲食品には合成添加物が広く用いられているのが現状である。
【0007】
一方、これら蛋白質と多糖類に代表される天然物由来の乳化性組成物は、安全性が高く、さらに近年の天然嗜好を反映し、消費者に好印象を与えるため、合成系の乳化剤より有利に用いられる。したがって、食品市場では、高い乳化作用を持つ天然物由来の乳化性組成物が望まれている。
【非特許文献1】「食品用乳化剤と乳化技術」、衛生技術会、1979年12月30日、p.50−195
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明は、天然物由来のもので、安全性が高く、乳化作用及び乳化安定性の優れた乳化性組成物及び当該ホウレン草乳化組成物を使用して得られる飲食品及び化粧品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記の目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、ホウレン草からの抽出物が、高い乳化作用を示すことを発見した。本発明はかかる知見をもとに開発されたもので、上記抽出物を食品及び化粧品の乳化剤として有用であるため本発明を完成するに至った。
【0010】
具体的には、ホウレン草抽出物を含有することを特徴とする乳化性組成物の構成、前記ホウレン草抽出物が、水溶性成分であることを特徴とする乳化性組成物の構成、前記乳化性組成物を含有することを特徴とする飲食品の構成、前記乳化性組成物を含有することを特徴とする化粧品の構成とした。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、安全性の高い、乳化作用及び乳化安定性に優れた新規な乳化性組成物を得ることができ、様々な飲食品及び化粧品に乳化安定性を付与することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明でいうホウレン草抽出物を得るための原料のホウレン草(Spinacia
oleracea L.)とは、アカザ科の野菜で、広く食用に供されている植物であり、東洋種や西洋種及びその交雑種等の種類は問わない。
【0013】
また、ホウレン草抽出物の抽出に使用されるホウレン草の形状は、生、その他、乾燥、それらの粉砕物または磨り潰したもの、さらに加熱処理や脱脂処理を施したもの等の種々のホウレン草加工品であってもよい。
【0014】
ホウレン草抽出物の抽出には、主に抽出溶媒として水を用い、加熱(温水で煮る)する方法(水抽出)が用いられる。なお、本発明の水抽出には、水以外の抽出溶媒として、含水メタノール、含水エタノール、含水ブタノール、含水プロパノール等も含まれる。
【0015】
食品利用の観点から、水だけを用いるのが好ましい。抽出条件については、特に限定されるものではないが、ホウレン草に含まれる乳化成分を効率的に抽出できる点で、加熱または加熱還流することが好ましい。また、抽出時のpHについても、特に限定されるものではない。
【0016】
このようにして調整される抽出液はそのまま水溶液の状態で乳化剤として使用してもよいし、更に、濃縮、フリーズドライ、またはドラムドライ法、スプレードライ法等により乾燥し粉末状にしても良い。さらに他の乳化剤と混合し製剤としてもよい。
【0017】
また、本発明のホウレン草抽出物は濾過、膜分離、カラム精製等により、機能成分の精製処理を行うことができるが、ホウレン草に含まれる水溶性成分を分離、精製したものであれば、その製造方法は特に限定されるものではない。
【0018】
本発明のホウレン草抽出物は古来より常食とされてきた植物を原料としており、安全性については問題なく、消費者に好印象を与える乳化剤である。本発明の乳化剤は、天然物由来の安全性の高い乳化性組成物であるため、飲食品、化粧品、医薬品等へ広く用いることができる。
【0019】
本発明でいう飲食品とは、特に限定されるものではないが、例えば、バター、マーガリン、マヨネーズ、ドレッシング等の油脂加工製品、発酵乳、乳酸菌飲料、ヨーグルト、チーズ、アイスクリーム等の乳製品、パン、クッキー、ケーキ、パイ、チョコレート、ゼリー等のパン・菓子類、医療食や病院食等があげられる。
【0020】
本発明でいう化粧品とは、特に限定されるものではないが、浴用剤、制汗剤、歯磨剤、洗口液、化粧水、乳液、毛髪用化粧品、ボディケア製品等が挙げられる。
【0021】
本発明のホウレン草抽出物からなる乳化性組成物の使用量は、通常、製品に対し乾燥粉末品として本発明の乳化性組成物を約0.01〜5重量%添加すればよいが、対象とする食品及び製造方法に応じて適宜選択すればよい。乳化物の製造方法としては、ホウレン草抽出物を均一に添加し、十分な乳化を行える方法であれば特に限定されない。
【実施例1】
【0022】
本発明を以下に実施例、試験例により詳細に説明するが、これらに本発明は制限されるものではない。
【0023】
[実施例1]
ホウレン草(生)100gに水900gを加え、攪拌しながら加熱を開始する。90℃に達温後30分間加熱を継続してから冷却し、遠心分離(4,000rpm、20分)で残渣を除去する。得られた上清を濾紙により濾過後、凍結乾燥させて褐色のホウレン草抽出物(粉末)3gを得た。なお、データは示さないが5分程度の短時間の加熱では、十分なホウレン草抽出物を得ることができない。また、15分以上の煮沸加熱でホウレン草抽出物の抽出効率に変化はなかった。
【0024】
上記調製法により、ホウレン草抽出物を高収率で得られる。以下、これらの乳化性組成物に関する実施例を説明する。
【0025】
[実施例2]
実施例1で得られたホウレン草抽出物、カゼインナトリウム、アラビアガムを用いて、乳化作用の比較試験を行った。具体的な試験方法は以下に示す。
【0026】
実施例1で得られたホウレン草抽出物、カゼインナトリウム、アラビアガムを各1.0g採取し、99.0gの水に攪拌させながら分散させ、90℃で10分間、加熱溶解した後、室温まで冷却した。得られた1.0%重量の水溶液80.0gに大豆油20.0gを添加し、ホモミキサーを用いて乳化(10,000rpm、5分)させた。得られた乳化物をメスシリンダーに移し室温で30分間静置し、乳化力を比較した。
【0027】
乳化物は上部分離層(油分)と乳化状態の中間層(エマルジョン)、下部分離層(水分)の3層に分かれる。乳化力は、上部分離層の高さ(B)、中間層(A)及び下部分離層の高さ(C)の総和に対する中間層の高さ(A)の割合で、次式(1)により算出した。算出した結果を図1に示す。算出数値が大きい程、乳化力が高いことを意味する。

乳化力(%)=(A/(A+B+C))×100・・・式(1)

【0028】
図1から明らかなように、本発明であるホウレン草抽出物による乳化力は、数値62.4で、他の天然物由来の乳化剤よりも優れていることが明らかとなった。
【0029】
[実施例3]コーヒ−ホワイトナー
図2に示す配合組成(実施例3)のコーヒーホワイトナーを常法に従って製造した。すなわち、乳タンパク、砂糖、コーンシロップ、カラギーナン、リン酸塩、実施例1のホウレン草抽出物を水に溶解し水系部を調製した。
【0030】
続いて、前記水系部とパーム硬化油を加熱後に混合し、ホモミキサーにて予備乳化を行った後、高圧ホモジナイザー(500kg/cm)にて乳化し、コーヒーホワイトナーを得た。その結果、実施例3のコーヒーホワイトナーは乳化状態がよく、長期間分離することなく保存が可能であった。
【0031】
一方、ホウレン草抽出物を添加せず、同様に調整した比較例1においては、一定期間乳化安定であったが、実施例3より極めて早期に油分の分離が観察された。なお、実施例3から乳タンパクを除いた実施例3.1であっても、比較例1と比べより長期間、乳化安定性が確認できた。ただし、乳タンパクとホウレン草抽出物を併用した実施例3には及ばなかった。
【0032】
[実施例4]ドレッシング
図3に示す配合組成(実施例4)のドレッシングを常法に従って製造した。すなわち、食塩、砂糖、L−グルタミン酸ナトリウム、ホウレン草抽出物を水に溶解した。続いて、ホモミキサーにてホワイトペッパー、キサンタンガムを分散した後、食酢、米油を順次加えて乳化しドレッシングを得た。得られた実施例4のドレッシングは安定した乳化状態を保ち、品質の優れたものであった。
【0033】
一方、ホウレン草抽出物を添加せず、同様に調整した比較例2においては、通常のドレッシング組成であるが、実施例4に比べ、分離速度が速かった。なお、実施例4からキサンタンガムを除いた実施例4.1であっても、比較例2と比べより長時間、乳化安定性が確認できた。ただし、キサンタンガムとホウレン草抽出物を併用した実施例4には及ばなかった。
【0034】
[実施例5]マーガリン
図4に示す配合組成(実施例5)のマーガリンを常法に従って製造した。すなわち、乳タンパク、食塩、ホウレン草抽出物を水に溶解し水系部を調製した。続いて、加温溶解させたパーム硬化油に水系部を50〜60℃で添加しながらホモミキサーを用いて乳化させる。これを12〜20℃の温度まで急冷しながら練り合わせてマーガリンを得た。その結果、実施例5のマーガリンは、乳化状態が良く、風味も良好であった。
【0035】
一方、ホウレン草抽出物を添加せず、同様に調整した比較例3においては、一定期間乳化安定であったが、実施例5より極めて早期に水分の分離が観察された。なお、実施例5から乳タンパクを除いた実施例5.1であっても、比較例3と比べより長期間、乳化安定性が確認できた。ただし、乳タンパクとホウレン草抽出物を併用した実施例5には及ばなかった。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】ホウレン草抽出物の乳化試験結果である。
【図2】ホーヒーホワイトナーの配合組成である。
【図3】ドレッシングの配合組成である。
【図4】マーガリンの配合組成である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホウレン草抽出物を含有することを特徴とする乳化性組成物。
【請求項2】
請求項1に記載のホウレン草抽出物が、水溶性成分であることを特徴とする乳化性組成物。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の乳化性組成物を含有することを特徴とする飲食品。
【請求項4】
請求項1又は請求項2に記載の乳化性組成物を含有することを特徴とする化粧品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−189270(P2009−189270A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−31844(P2008−31844)
【出願日】平成20年2月13日(2008.2.13)
【出願人】(000165284)月島食品工業株式会社 (22)
【Fターム(参考)】