説明

乳化装置

【課題】沈殿を生じる液体にも対応した、流路内のプライミング、洗浄性に優れる多並列処理型の乳化装置を提供する。
【解決手段】下方にエマルジョンの溶質となる分散相が流れる部品を、その上にエマルジョンの溶媒となる連続相が流れる部品が積層され、さらにその上に生成したエマルジョンが流れる部品が積層され、乳化用マイクロ流体デバイスを構成する。積層によって複数の微細な十字形の液滴生成部が構成され、液滴生成部には下方から上方に分散相が流れ、そこに連続相が左右から合流して、分散相の周囲を連続相が覆うシースフローを形成する。シースフロー内では連続相と分散相の流速差により分散相が分断、液滴化されたエマルジョンが生成され、液滴生成流路の上方へと流れる。微小な流路を全て上方に向けて開けた構造とすることで、液中の微粒子が沈殿しにくく、空気が抜け易くできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の液体供給口からそれぞれ供給される種類の異なる液体を微小流路に導き、微小流路においてそれらの液体の乳化を行ない、ある液体が他の液体中に液滴として分散した乳液、すなわちエマルジョンを得る乳化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、液−液の乳化を行なう方法としては、バッチ式の生産方法が知られている。これは大型の容器に原料と界面活性剤を投入して、ホモジナイザーなどの回転・攪拌機構を用いて一度に大量のエマルジョンを生成する方法である。なお、エマルジョンとは、水と油のようにお互いに混じり合わない二つの液体に、界面活性剤(乳化剤)を添加して攪拌等の機械的操作を加え、油滴を水中(あるいは水滴を油中)に均一に分散した液/液系の乳濁液である。しかし、このバッチ式生産は大型容器内で乳化を行なうため、容器内温度を均一に保ち難く粘度に差が生じる、回転・攪拌機時に加えられるせん断力が液体全体に均一に加わらない、などの問題が生じることがあった。これらの問題の影響から、生成されるエマルジョンの粒径が均一でなく分布を持ってしまうため、攪拌後に所望の粒径の物のみを選り分ける分級操作が必要な場合があった。また、粒径分布がある程度の値に安定化するまでには数分から数十分の回転・攪拌が必要とされており、効率的な生産方法が望まれていた。
【0003】
上記問題を解決する方法として、数μmから数百μm程度の微小な流路内で乳化を行なうマイクロ流体装置が近年注目されている。微小流路内で乳化を行なうマイクロ流体装置は、流路内温度を均一に保って液体の粘度を一定に制御し、加えて流路内液体に加わるせん断力を均一にすることで液体を直径の等しい液滴に分断し、均一なエマルジョンを得ることが可能となる。
【0004】
具体的には特許文献1(特開2007−216206号)には、2種類の液体を合流させた後に、微細な凸構造を複数備えた流路を通過させることで2液体の界面に擾乱を誘起し液体を分断、エマルジョンを得る方法が開示されている。あるいは、下記特許文献2(特開2004−359822号公報)には、円形の基板に2種類の液体が直交する形の流路を形成し、一方の液体が他方の液体を側面から押し流すようにせん断してエマルジョンを得る方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−216206号公報
【特許文献2】特開2004−359822号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1、2に記載された技術は、それぞれマイクロ流体の特性を生かしエマルジョンの生成において従来のバッチ方式より優れた点を有している。しかし、これらの方式を実際の生産用途に拡大適用した場合には、複数の微小な流路へ均一に液体を供給する均一送液性と、それら流路の汚れ等を除去する洗浄性に問題が生じると考えられる。その理由を以下に述べる。
【0007】
通常マイクロ流体装置では数μmから数百μm程度の微小な流路内に液体を送液するため、1流路あたりの処理量は極僅かとなる。そのため実際の生産用途に使用できるレベルの処理量を備えるには複数の流路を並列に設けるナンバリングアップという構造が必要となる。特許文献1,2は共に液体の流れが層流であることが機能発揮のために重要であることから、この点では通常のマイクロ流体装置と等しい。ナンバリングアップ構造では、如何にして各流路に均等に液体を送液するかが重要であり、そのためには特に送液開始時に微小流路内の空気(気泡)を除去するプライミング処理が必要である。
【0008】
なぜならば、流路内に空気が残留した場合、微小流路を用いるマイクロ流体装置では、一般的な数mm以上のマクロ流路に比べて、流路断面積に対する流路断面周長の比率が高いために界面張力の影響が大となり、壁面に付着した気泡の除去が困難だからである。その結果、一部の流路に液体が送液されないなどの問題が生じ、装置が正しく機能しなくなる。特に複数の流路を並列に備えるナンバリングアップ構造では、空気の混入していない流路抵抗の低い流路へ液体が回り込むため除去はより困難となる。
【0009】
然るに、特許文献1では微小流路内に複数の凸部が存在するため、凸部と凸部の間に溜まった気泡の除去は困難である。また、特許文献2の方式では装置外から供給された液体は直接分岐流路に送液される構造となっており、流路内の空気の逃げ道が無い。このような構造ではプライミング処理時に分岐部分や、流路の隅部、角部に空気が残留しやすいという問題が生じる。
【0010】
また、実際のエマルジョン生成においては、液中に比重の重い微粒子を含み、長時間の連続運転や時間の経過に伴って沈殿が生じるインクなどの製品を扱うことがある。このような場合は、微小流路の閉塞防止や、流路内の汚れ、沈殿による生成物の品質低下を防止するために、定期的な洗浄処理も必要とされる。この時、装置の稼働時間を低下させないために短時間で洗浄を実施できるインライン洗浄が好ましい。しかし、前述したプライミングが困難な流路形状では、洗浄時に流路内を洗浄液で置換することも困難であり、特に特許文献1のような凸部を備えた流路では凸部根元の隅部が洗浄し難いという問題も生じる。
【0011】
本発明は、上記従来技術の欠点に鑑み、流路内に沈殿が生じやすい液体にも対応した、流路内のプライミング、洗浄性に優れる多並列処理型の乳化装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、上記課題を解決するために、2種類の液体を送液し、微小流路内で第1の液体である分散相の周囲を第2の液体である連続相が覆うシースフローを形成し、分散相と連続相の速度差によって分散相を分断、液滴化してエマルジョンを得る乳化用マイクロ流体デバイスを搭載した乳化装置において、
上記乳化用マイクロ流体デバイスは、分散相を流す複数の分散相処理流路と、連続相を流す複数の連続相処理流路と、上記両処理流路と交差する部分で分散相と連続相を液体を合流させて乳化液滴の生成を行なう複数の液滴生成部と、上記各分散相処理流路に分岐して送液する分散相主流路と、上記各連続相処理流路に分岐して送液する連続相主流路と、上記複数の液滴生成部で生成,送出される液滴を合流させて外部へ送出するエマルジョン主流路を有し、
さらに上記各主流路に各液体または洗浄液を送液するためのポンプと、
上記各主流路の排出口に設けられた主流路開閉バルブと、
上記エマルジョン主流路から送出された液体を生成物側と廃液側に切り換える生成物/廃液切換バルブと、
エマルジョンの状態を監視するモニタリング装置と、
装置内圧力を監視する圧力センサと、
上記モニタリング装置と圧力センサの信号に基いて上記各部を制御する制御部を備えたことを特徴とする。
【0013】
また本発明は、上記の乳化装置において、上記液滴生成部は、上記分散相処理流路が分散相を下方から上方に流すように配置され、上記連続相処理流路がこの分散相に横方向から合流するように配置され、合流後の液滴を上方に流して上記エマルジョン主流路に送液する液滴生成流路を備えたことを特徴とする。
【0014】
また本発明は、上記の乳化装置において、上記乳化用マイクロ流体デバイスは、上向きの複数の分散相処理流路を有する分散相分配部と、横向きの複数の連続相処理流路とこの流路に連なる上向きの液滴生成流路を有し上記分散相分配部の上に積層される連続相分配部と、上記エマルジョン主流路を有し上記連続相分配部の上に積層される液体排出部を備え、上記各部を積層することにより、上記分散相分配部と連続相分配部の積層部分に前記液滴生成部が形成され、この液滴生成部に上記分散相処理流路、連続相処理流路および液滴生成流路が連通することを特徴とする。
【0015】
また本発明は、上記の乳化装置において、上記液滴生成部の、合流前の分散相処理流路の寸法に対して、合流後の液滴生成流路の寸法が同等かより大きく、且つ合流後の液滴生成流路の入口に漏斗状の面取り構造を持つことを特徴とする。
【0016】
また本発明は、上記の乳化装置において、上記連続相主流路は、上記連続相処理流路から上記分散相処理流路に両側から液体を送液可能なように、分散相処理流路を両側から挟むように蛇行形に配置され、且つ蛇行形の両端の直線部分が中央の直線部分に比べて幅広であることを特徴とする。
【0017】
また本発明は、上記の乳化装置において、各流路内のエアーを除去するプライミング処理と、沈殿物などの汚れを除去する洗浄処理を実施する際に、まず、上記主流路開閉バルブを開くと共に上記生成物/廃液切換バルブを廃棄側に切り換えた状態で、上記ポンプにより所定液を上記各主流路に供給し、次いで上記主流路開閉バルブを閉じて上記ポンプにより所定液を上記処理流路及び液滴生成部に供給し、次いで上記出口流路切換バルブを開いてエマルジョン主流路に上記ポンプにより所定液を送液するように、上記制御部により上記ポンプおよび各バルブを制御することを特徴とする。
【0018】
また本発明は、上記の乳化装置において、前記液滴生成部はさらに、前記分散相処理流路に交差する連続相処理流路に加え、前記液滴生成流路に交差する第2以降の連続相処理流路を備え、上記分散相処理流路と連続相処理流路の合流部で形成されたシースフローの外周を、上記第2以降の連続相処理流路からの連続相で覆った多層シースフローを形成して、多層エマルジョンを生成することを特徴とする。
【0019】
本乳化装置は、下方にエマルジョンの溶質となる分散相が流れる分散相主流路を設けた部品を備え、その上にエマルジョンの溶媒となる連続相が流れる連続相主流路を設けた部品が積層され、さらにその上に生成したエマルジョンが流れるエマルジョン主流路を設けた部品が積層された乳化用マイクロ流体デバイスを使用する。これら主流路からは複数の微細な流路が分岐しており、積層することによって積層断面に平行に複数の微細な十字形の液滴生成流路を構成する。
【0020】
各主流路は液滴生成流路部に比べて十分大きな断面積を持ち、微細な液滴生成流路以外に分岐が無く、液滴生成流路を経由しないデバイス外への別の出口を持つ構造となっている。流路抵抗が同程度の分岐が無く、送液された液体が空気や残液を押し流して流路内を確実に満たすため、プライミング、洗浄性に優れる。加えて複数の液滴生成流路に均一に液体を供給するバッファーとしての役割を果たす。
【0021】
液滴生成流路には、下方から上方に分散相が流れ、そこに連続相が左右から合流して、分散相の周囲を連続相が覆うシースフローを形成する。シースフロー内では連続相と分散相の流速差により分散相が分断、液滴化されたエマルジョンが生成され、液滴生成流路の上方へと流れる。主流路より均一に送液される連続相と分散相によって各液滴生成流路では安定したシースフローが形成され、均一な直径を持ったエマルジョン液滴を生成することが可能となる。加えて微細な流路を全て上方に向けて開けた構造とすることで、液中の微粒子が沈殿する液体を用いた場合であっても沈殿が起こり難く、微細流路が閉塞し難く安定したエマルジョンの生成を行なうことを可能とした。
【0022】
上記に加えて、デバイス出口側に設けたバルブを制御して断面積が大きい主流路内のプライミング、洗浄を行なった後に、断面積が小さい液滴生成流路のプライミング、洗浄を行ない、最後にエマルジョン主流路のプライミング、洗浄を行う3段階の操作を実施することで、乳化用マイクロ流体デバイス内の全流路のプライミング、インライン洗浄を確実に行なうことを可能とした。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、微細流路内に沈殿が生じる液体を用いても沈殿による微細流路内の詰まりを抑え、また、流路内のプライミング、洗浄が容易に実施でき、任意の粒径を持った均一エマルジョンの多量生成を長時間安定して行なうことができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の実施例1の構成図である。
【図2】同じく乳化用マイクロ流体デバイスの分解図である。
【図3】分散相分配部の上面図である。
【図4】連続相分配部の上面図である。
【図5】液体排出部の上面図である。
【図6】図2のA−A断面から見た乳化用マイクロ流体デバイスの断面図である。
【図7】図6の液滴生成部の拡大断面図である。
【図8】多層エマルジョンの生成を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図に示す実施形態について説明する。なお、図中ではエマルジョン内の液滴となる分散相の流れを二点鎖線矢印、エマルジョンの溶媒となる連続相の流れを実線矢印、生成したエマルジョンの流れを破線矢印、エアー、洗浄液、廃液などその他の流れを点線矢印で表す。
【0026】
(実施例1)
図1に、本発明乳化装置1の実施例1の構成を示す。本実施例では一例として連続相に水と界面活性剤の混合物を、分散相に食用油を用い、水中に油滴が分散したO/W(oil in water)型エマルジョンを生成する乳化について扱う。
【0027】
乳化装置1では、エマルジョンの溶媒となる連続相が連続相タンク91に納められ、溶質となる分散相が分散相タンク92に納められる。また、連続相流路と分散相流路を洗浄するための洗浄液が2つの洗浄液タンク93に納められている。連続相と分散相で洗浄液の種類が同じならば、洗浄液タンク93は1つでも良い。
【0028】
タンクに納められた各液体は、連続相ポンプ71、分散相ポンプ72により圧力センサ61を経由して乳化用マイクロ流体デバイス2へと送液される。圧力センサ61は乳化用マイクロ流体デバイス2内の微小流路への異物混入や、沈殿物による流路閉塞による圧力異常を検知した場合に、ポンプを非常停止させる。ポンプの形態については特に定めないが、低脈流かつ、二次側の圧力変動に対して送液量変化が小さいシリンジ(プランジャー)ポンプのようなものが望ましい。16は上記圧力センサ61と上記モニタリング装置62からの検出信号S3〜S5を受けて、制御信号S1、S2を出力して上記各ポンプと各バルブを制御する制御部である。
【0029】
乳化用マイクロ流体デバイス2内では、後述するように連続相と分散相が合流してエマルジョンが生成される。生成されたエマルジョンは乳化用マイクロ流体デバイス2から吐出され、液滴直径や粒度分布をモニタリングするモニタリング装置62を経由して生成物タンク94へと納められる。モニタリング装置62は、エマルジョンの粒子径を観察する粒度分布検知装置などを用いるが、エマルジョンの状態に影響を与えない非接触型の測定方式が望ましく、透過光量の強弱を利用する光透過法や、レーザー回折方式の測定器を使用する。
【0030】
以上のように、図1に示される乳化装置1は、乳化用マイクロ流体デバイス2へ液体を送液するだけで連続的にエマルジョンを生成することが可能であり、バッチ式生産のような液体の分注機構、攪拌機構を別個に設ける必要は無く、装置の小型化・単純化が可能となる。乳化装置1は、この他に後述するプライミングや洗浄処理用の機構として、廃液タンク95、流路切り換え用のバルブ、洗浄効果を高める超音波発生機63、装置配管内の残液をパージするためのエアー源64などを備えている。
【0031】
図2に乳化用マイクロ流体デバイス2の構成を示す。乳化用マイクロ流体デバイス2は、液体導入部10、分散相分配部20、連続相分配部30、液体排出部40の4つの積層体の部品からなり、これらを順に積層することで、エマルジョンを生成するための微小流路を形成する。各部品は流路外に液体が漏れ出さないように密着させる必要がある。各部品の材質には特に制限が無いため、例えば樹脂材料で各部品を作成した場合は、接着剤を用いて密着させても良いし、金属材料で作成した場合は、接触面を研磨して上下から加圧しメタルタッチで密着させても良い。分解性などを考慮すると、図示しないパッキン溝とボルト穴を各部品に設け、部品間にゴム製のパッキンを挟みこんで全部品を貫くボルトによって全体を締結する方法が好ましい。
【0032】
上記のように4つの部品を積層する構造の効果としては、次のものが挙げられる。すなわち、材料の特性(粘度など)や、所望する液滴の直径や量に応じて、分散相処理流路22や液滴生成流路32の適した径は異なるため、径の異なる複数種類の分散相分配部20や連続相分配部30を準備することで、必要に応じて組み合わせを変えて使用することができる。利用例としては、流量制御によって液滴の直径を制御する際にその直径の制御範囲を超えたい場合に、分散相処理流路22や液滴生成流路32の径が異なるものを使用することで、対処することもできる。また、外部との接続部品である液体導入部10と液体排出部40が別部品なので、接続する外部機器に合わせた接続方法(ネジの大きさなど)を持つ部品に容易に交換可能で、様々な送液系に接続できる。
【0033】
上記積層構造を分解可能とした効果としては、次のものが挙げられる。すなわち、微細なノズルである分散相処理流路22や液滴生成流路32が閉塞或いは破損した場合、該当する部品を新品と交換してすばやく復旧できる。また、装置メンテナンス時などに、分解して各部品ごと洗浄液に浸して超音波洗浄すると、インライン洗浄よりも確実に汚れや沈殿物を除去できる。
【0034】
以下に各部品の詳細を示す。
液体導入部10には、連続相ポート11と分散相ポート12が設けてある。連続相ポート11は連続相ポンプ71と、分散相ポート12は分散相ポンプ72とそれぞれ図示しない配管と継手によって接続され、ポンプによって送液される原料や洗浄液を、連続相供給口13と分散相供給口14から一層上の分散相分配部20へと吐出する。
【0035】
図3に分散相分配部20の上面図を示す。分散相分配部20は液体導入部10と接する面(下面)に蛇行状の分散相主流路21を備えている。分散相主流路21は分散相供給口14の直上から発し、蛇行しながら全ての微小な分散相処理流路22を経由して、連続相分配部30とつながる開孔である分散相吐出口23へと至る。分散相吐出口23は分散相主流路21と同等の径寸法を有する。
【0036】
分散相処理流路22は、分散相主流路21から分散相分配部20の上面まで貫通する微細な開孔(ノズル状開口)で、図では10個×4列で40個の場合を示している。分散相処理流路22の個数については、所望のエマルジョン生成量が増加すれば必要なノズル数も増加するので、乳化用マイクロ流体デバイス10全体のサイズを考慮しながら、適宜列の数と1列内のノズル数を調整する。分散相処理流路22の直径に関しては所望するエマルジョンの液滴直径に合わせて適宜調整し、所望の液滴直径と同等か、大きくとも所望の液滴直径の2倍以下程度とすることが望ましい。分散相主流路21は複数の分散相処理流路22へ均等に液体を供給するバッファーの役割を担うため、分散相処理流路22と比べて圧力損失の小さい十分に大きな流路であることが必要となる。
【0037】
後述するように本実施例の乳化用マイクロ流体デバイス2は、連続相と分散相の流量比によって液滴直径を制御するため、均一なエマルジョンを得るには各分散相処理流路22から吐出する流量を均一に揃えることが必要となる。そのために分散相処理流路22の個数、流路抵抗などに応じてノズル間の流量誤差を数%以下に抑えるように、分散相主流路21のサイズを決定する。主流路の大きさはノズル間の流量誤差を数%以下に抑えるために、主流路抵抗:ノズル部(処理流路)抵抗を1:10000〜100000程度にする必要がある。このため、分散相処理流路の個数にもよるが、一例として分散相処理流路22の直径を50μmとした場合では、主流路21直径は一辺1mm以上の矩形とすることが望ましい。
【0038】
本実施例では分散相主流路21を蛇行形としているが、ノズル部分に比べて流路抵抗がはるかに低く、流路抵抗がノズル部分と同程度の分岐を持たない一連なり形状で、且つ凹凸の無い滑らかな構造であれば直線状や渦巻き状など他の形態であっても良い。分散相主流路21と離れて開孔している連続相通過口24は、連続相供給口13の直上に位置し、連続相供給口13から吐出された液体が連続相分配部30へ送液される際の流路となる。
【0039】
図4に連続相分配部30の上面図を示す。連続相分配部30は、分散相分配部20と接する面(下面)に蛇行状の連続相主流路31を備えている。連続相主流路31は連続相通過口24の直上から発し、全ての液滴生成流路(ノズル)32(後述)を左右から挟むように蛇行して、液体排出部40へと続く開孔である連続相吐出口33へと至る(図2参照)。連続相吐出口33は連続相主流路31と同等の径寸法を有する。液滴生成流路32を左右から挟む2本の連続相主流路31をつなぐ流路として、微小な連続相処理流路34が設けてある。連続相処理流路34は、バッファーである連続相主流路31と比べて溝深さなどサイズが小さく、連続相主流路31を満たした液体が図中実線で示すように左右の2方向から均一に液滴生成流路32へと至るよう形成されている。
【0040】
液滴生成流路32は一層下の分散相処理流路22の直上に位置し、連続相処理流路34から連続相分配部30上面まで貫通する微細な開孔で、分散相処理流路22と同じ数が形成されている。液滴生成流路32では後述するように左右から流れ込む連続相と相対する分散相処理流路22から吐出される分散相が合流してシースフロー50(後述)を形成するが、この時、吐出側の分散相処理流路22より受け側の液滴生成流路32の直径が小さいと、内径が狭まってシースフロー50形成時の安定性が低下する。このため液滴生成流路32の直径は分散相処理流路22直径と同等かより大きくすることが望ましい。
【0041】
また連続相と分散相の合流を円滑に行ない、シースフロー50形成の安定度を高めるために、流路入口部分に図7に示すような面取り部35を持つとより好ましい。連続相主流路31は複数の液滴生成流路32へ均等に液体を供給するバッファーの役割を担うため、液滴生成流路32と連続相処理流路34を合わせた流路に比べて、圧力損失の小さい十分に大きな断面の流路であることが必要となる。分散相分配部20の説明で述べた理由により、均一なエマルジョンを得るには各液滴生成流路32に送液される連続相流量も均一に揃えることが必要となる。そのために液滴生成流路32の個数、液滴生成流路32と連続相処理流路34を合わせた流路抵抗などに応じて、各流路に流れ込む連続相の流量誤差を数%以下に抑えるように分散相主流路21と同様の考え方で連続相主流路31のサイズを決定する。
【0042】
なお、連続相主流路31の両端部36は図に示すように中央の流路に比べて幅広の形状となっている。これは両端部36が図から解るように1列分の液滴生成流路32にしか接していないため、2列分の液滴生成流路32に接している中央部分に比べて、液滴生成流路32と連続相処理流路34を合わせた圧力抵抗が半分になる。よって、連続相通過口24から一定の送液量で液体が送液された場合、両端部36の形状が中央部の連続相主流路と同一であれば、両端部36に接する液滴生成流路32への送液量が2倍となり均一な送液が行なえないという問題が生じる。この問題を回避するため、両端部36の形状を幅広として圧力を半減させ、全ての液滴生成流路32へ均一な送液が可能となる構造とした。
【0043】
この逆の方法として、両端部36に接する連続相処理流路34の入口を狭めることで抵抗を高め、液滴生成流路32への送液量が均一となるよう調整しても良い。分散相主流路21と同様に処理流路部分に比べて流路抵抗がはるかに低く、流路抵抗が同程度の分岐を持たず一連なり形状で、且つ凹凸を持たない滑らかな構造であれば、連続相主流路31は直線状や渦巻き状など他の形態であっても良い。連続相主流路31と離れて開孔している分散相通過口37は、分散相吐出口23の直上に位置し、分散相吐出口23から吐出された液体が液体排出部40へ送液される際の流路となる。
【0044】
図5に液体排出部40の上面図を示す。液体排出部40は、連続相分配部30と接する面(下面)に蛇行状のエマルジョン主流路41を備えている。エマルジョン主流路41は両端がエマルジョン吐出口42とエマルジョン流路洗浄口43に接続され、且つ全ての液滴生成流路32を覆う蛇行形となっている。各液滴生成流路32から吐出してくる生成エマルジョンをエマルジョン主流路41で合流させ、エマルジョン吐出口42に導いて乳化用マイクロ流体デバイス2の外へ排出する。エマルジョン主流路41は、デバイス全体の圧力損失を抑えるために流路抵抗が小さいことが望ましく、本実施例では分散相主流路21と同一寸法とした。
【0045】
この他に、液体吐吐出部40はプライミングと洗浄を実施する場合の構造として以下を備えている。エマルジョン主流路洗浄口43は、連続相ポンプ71から送液された液体でエマルジョン主流路41を満たすための導入口として用いるために設けてある。連続相排出ポート44は連続相吐出口33の直上に位置し、連続相吐出口33から吐出された液体を連続相排出口45へ導き、乳化用マイクロ流体デバイス2の外へ排出する。分散相排出ポート46は分散相通過口37の直上に位置し、分散相通過口37を通過した液体を分散相排出口47へ導き、乳化用マイクロ流体デバイス2の外へ排出する。
【0046】
図6は図2のA−A断面から見た乳化用マイクロ流体デバイス2の組立て時の拡大断面図、図7は図6に点線で丸囲いした25で示す液滴生成部の拡大断面図である。液滴生成部25は、分散相を上方に送液するように、分散相分配部20に縦向き(上向き)に配置された分散相処理流路22と、この分散相処理流路22に左右の横方向から連続相を合流するように、連続相分配部に配置された連続相処理流路34と、合流後の液滴を上方に流してエマルジョン主流路41に送液するように、液体排出部40に縦向き(上向き)に配置された液滴生成流路32から構成される。なお図において、二重丸印は紙面奥側から手前側への液体の流れを示し、丸囲い×印は紙面の手前側から奥側への液体の流れを示す。以下、前出の図とこれらの図を用いて、本実施例によるプライミング処理、エマルジョン生成処理、流路洗浄処理の詳細について説明する。
【0047】
エマルジョンを生成する前段階として、流路内の空気を取り除き、流路を液体で満たすプライミング処理を行なう。微細な流路を使用し、且つ処理量を増すために流路を並列に多数備えたマイクロ流体装置は、流路内に空気が残留していると性能を発揮できない。なぜならば、流路が微細であるために微量の残留空気であっても流路を閉塞しやすく、閉塞した部分には液体が送液出来ず、連続相と分散相の比率が崩れるなどの悪影響を及ぼすためである。加えて微細流路では壁面長/流路体積の比率の関係から壁面の保持力が強く、一度流路に詰まった空気を取り除く事が難しい。特に、ある流路から同じような流路抵抗の流路が分岐しているような構造では、一方の流路が空気で閉塞されると、閉塞されていない抵抗の小さい流路に液体が流れ込みやすいため、空気除去の困難性はより顕著となる。以上のように、マイクロ流体装置においてはプライミングを確実に行なうことが必要であり、本実施例では以下のように対応している。
【0048】
プライミング処理時には、まず生成物/廃液切換バルブ82を廃液タンク95の方向に切り換え、2個の主流路開閉バルブ83を開く。この状態で、連続相ポンプ71、分散相ポンプ72を圧力センサ61の出力を見ながら装置の圧力限界を超えない範囲で高速に動作させて、連続相と分散相の液体を乳化用マイクロ流体デバイス2へ送液する。この時、連続相は連続相ポート11から連続相通過口24などを経由して連続相分配部30に至り、連続相主流路31内の空気を押し出しながら主流路を満たす。主流路を満たした後は、連続相吐出口33を通過して液体排出部40の連続相排出口45経由で乳化用マイクロ流体デバイス2外へと移動し、開いている主流路開閉バルブ83を経由して廃液タンク95に至る。
【0049】
分散相は分散相ポート12から分散相供給口14などを経由して分散相分配部20に至り、分散相主流路21内の空気を押し出しながら主流路を満たす。主流路を満たした後は、分散相吐出口23を通過して液体排出部40の分散相排出口47経由で乳化用マイクロ流体デバイス2外へと移動し、開いている主流路開閉バルブ83を経由して廃液タンク95に至る。
【0050】
以上のようにプライミングの第一段階は連続相、分散相それぞれの主流路31、21を液体で満たす。この時、分散相処理流路22や液滴生成流路32部分は前述したように主流路に比べて流路抵抗がはるかに大きいため、液体は主流路のみを流れる。加えて、主流路は流路抵抗が同程度の分岐部や凹凸を持たない滑らかな一連なりの蛇行形であるので、主流路内の空気は残留すること無く排出され、確実にプライミングを行なうことができる。
【0051】
プライミングの第二段階は分散相処理流路22などの微細流路部の空気を除去する。上記主流路部分のプライミングが終了後、2個の主流路開閉バルブ83を閉じて、連続相ポンプ71、分散相ポンプ72から連続相と分散相の液体を乳化用マイクロ流体デバイス2へ送液する。この時、流路部の流路抵抗は主流路部の抵抗に比べて高いため、装置の圧力限界を超過しないように圧力センサ61の出力を見ながら適宜送液量を調整する。各主流路が液体で満たされ、さらに主流路開閉バルブ83が閉じた状態であるため、送液された連続相、分散相は微細な流路部へと流れる。
【0052】
具体的には連続相は図6に示すように連続相処理流路34に左右2方向から進入し、合流後に液滴生成流路32を上方に移動通過してエマルジョン主流路41に至る。分散相は分散相処理流路22を満たしながら上方へ移動し、液滴生成流路32で連続相と合流して上昇移動し、エマルジョン主流路41へと至る。エマルジョン主流路41に至った液体は、エマルジョン吐出口42から乳化用マイクロ流体デバイス2外へと吐出され、生成物/廃液切換バルブ82を経由して廃液タンク95に廃棄される。
【0053】
この段階では、連続相、分散相共に液体が流路の下方から上方へ抜ける構造であるため空気が抜け易く、加えて主流路がバッファーの役割を果たす事で複数の流路部に均一な送液を行なえるため、流路部のプライミングを確実に行なうことができる。
【0054】
プライミングの最終段階は、エマルジョン主流路41の空気を除去する。前述した第一、第二段階のプライミングで、液体排出部40以外の空気は除去されるが、エマルジョン主流路41内には多少の空気が残留していることがある。この空気が液滴生成流路へ逆流して流路を閉塞する可能性を除くために、最後にこの部分のプライミングを行なう。第二段階のプライミングが終了した後に、出口流路切換バルブ84をエマルジョン流路洗浄口43の方向に切り換えて、連続相ポンプ71を動作させ圧力センサ61の出力を見ながら装置の圧力限界内で連続相を送液する。
【0055】
送液された連続相は、エマルジョン流路洗浄口43から乳化用マイクロ流体デバイス2内に進入して、エマルジョン流路41内の空気と液体を押し流す。その後に、エマルジョン吐出口42から乳化用マイクロ流体デバイス2外へと吐出され、生成物/廃液切換バルブ82を経由して廃液タンク95に廃棄される。この時、液滴生成流路32はエマルジョン主流路41に比べて流路抵抗がはるかに大きいため、送液された連続相は主流路のみを流れ、流路へ逆流しない。加えて、主流路41は流路抵抗が同程度の分岐部や凹凸を持たない滑らかな蛇行形であるので、主流路内の空気は残留すること無く排出され、確実にプライミングを行なうことができる。
【0056】
以上のような工程を行なうことで、乳化用マイクロ流体デバイス2内の空気は除去され、プライミングが完了する。
【0057】
次に、エマルジョン生成処理について説明する。
前述のプライミング終了後、出口流路切換バルブ84を連続相ポート11の方向に切り換え、任意の液滴直径が得られるように送液量を調整した連続相と分散相を乳化用マイクロ流体デバイス2へ送液する。送液量は分散相処理流路22、液滴生成流路32の大きさと個数、液体の粘性などによって変化するが、通常の場合、連続相の液量が分散相の液量より多く、比率にして3〜10倍程度の液量を取る。なお、送液開始後ポンプの送液量が安定し、プライミング時に送液したエマルジョン主流路41内の液体を置換するまでは液滴径の不揃いなエマルジョンが乳化用マイクロ流体デバイス2外へ吐出される。このため、生成開始直後は生成物/廃液切換バルブ82は廃液タンク95の方向に切り換えて生成液を廃棄し、置換が終了した後に生成物/廃液切換バルブ82を生成物タンク94方向に切り換えてエマルジョンの貯蓄を開始する。この時、ポンプを停止するとエマルジョンの液滴直径が不安定となるため、ポンプは動作させたまま生成物/廃液切換バルブ82の切換を行なう。このためダイヤフラムバルブなどの切り換え応答性の良いバルブを備えることが望ましい。
【0058】
乳化用マイクロ流体デバイス2へ送液された連続相と分散相は、前述したプライミング処理と同様に各主流路21、31をバッファーとして、図6,図7に示すように連続相は全ての連続相処理流路34に左右から横方向に、分散相は全ての分散相処理流路22に下方から上方に均一に送液されて合流し、液滴生成流路32でエマルジョンを形成する。図7に示すように、連続相処理流路34は分散相処理流路22に対して直交する形になっており、流路が交差する部分で合流した連続相と分散相は液滴生成流路32へ移動する過程で、分散相である油を内側の中心流れ51、連続相である水を外側の被覆流れ52としたシースフロー50を形成する。
【0059】
液滴生成流路32はマイクロオーダーの微小な流路であるため、ここを流れるシースフロー50はレイノルズ数が数百以下の安定した層流となるため、連続相が分散層を包んだ2層構造を保つことができる。このシースフロー50は液滴生成流路32を流れるうちに、連続相と分散相の流速差によって生じる液−液界面のゆらぎが増大することで分散相が分断され、一定の液滴径を持ったO/Wエマルジョン53となる。生成されたO/Wエマルジョン53はエマルジョン主流路41に至る(図6)。O/Wエマルジョン53は、ここで他の液滴生成流路32で生成されたエマルジョンと合流し、エマルジョン吐出口42から乳化用マイクロ流体デバイス2外へと吐出され、生成物/廃液切換バルブ82を経由して生成物タンク94に納められる。
【0060】
生成されるエマルジョンの粒径は、分散相処理流路22、液滴生成流路32の直径、連続相と分散相の流速比や粘度など複数のパラメータの影響を受ける。例えば分散相の粘度が従来より高くなった場合、分断に要するエネルギーが高くなるため、液滴径を保つには連続相をより多く送液する必要が出てくる。一方、この時分散相処理流路22を小径化することで連続相の流量を保ったまま、液滴径を保つ方法もある。上記のようにエマルジョン粒径の決定には相互に関連する複数のパラメータが関わってくる。このような状況で粒径を制御する最も簡単な方法は、分散相と連続相の流量を制御してシースフロー内の流速を変化させることである。例えば、分散相の流量を固定して連続相の流量を変化させた場合、連続相流量を増やすと生成される粒径は小さくなり、逆に連続相流量を減らすと粒径は大きくなる。本実施例では連続相ポンプ71と分散相ポンプ72に低脈流且つ、二次側の圧力変動に対して送液量変化が変化しないシリンジポンプを搭載し、高精度の流量制御を行なうことで精密な粒径調整を可能とした。
【0061】
また、シースフロー50を形成するためには液滴生成流路32と分散相処理流路22が同軸上にあることが望ましい。本実施例は前述したように液滴生成流路32を分散相処理流路22と同等かより大きくし、液滴生成流路32の入口に面取り部35を設けるなどの構造を持つので、万一加工上の問題で分散相処理流路22と液滴生成流路32の軸がずれた場合でも、ある程度ならばシースフロー50を形成することが可能となり、ロバスト性が高い。さらに、各流路の断面形状については後述する洗浄工程での洗浄性向上を考慮して、隅部の無い形状が好ましいため、円形、あるいは矩形でも角部に丸み(R)を持つことが望ましい。
【0062】
加えて、本実施例では微小な流路である分散相処理流路22と液滴生成流路32を上向きに開孔した構造とした。この結果、沈殿を伴う微粒子を含んだ液体を用いた場合でも、沈殿物は主流路21、31の底面に沈殿してしまうので、微小流路部には沈殿物が少なく沈殿した高濃度微粒子を含む液体が流れ難くい。従って、微小流路部が沈殿物で詰まることが少ない。また、後述する洗浄を定期的に実施することで、沈殿を伴う材料の乳化も継続的に実施することができる。
【0063】
次に、洗浄について説明する。
長時間のエマルジョン生成処理を行った場合、流路壁面に沈殿した微粒子や液中の微細なゴミが徐々に付着、蓄積して壁面が汚れる可能性がある。このような場合、汚れが付着した部分では流路断面積が変化するため、これに伴い流速が変動してエマルジョン液滴直径の均一性を損なう。汚れがさらに進行した場合には、流路を閉塞する可能性もあり、この場合はエマルジョンの生成自体が不可能となる。また、微小な固形粒子を含み沈殿が生じる液体を使用した場合には、粒子の沈殿を伴うため汚れの影響はより顕著となる。
【0064】
この問題への対策としては、流路内の汚れ、沈殿がエマルジョンの生成に悪影響を与えるようになる前に流路を洗浄することが考えられる。最も簡単な方法は、乳化用マイクロ流体デバイス2を分解可能な構造としておき、分解して超音波洗浄などで堆積物を除去する方法である。この方法は確実に汚れを除去することができるが、デバイスの分解、洗浄、再組立てには時間がかかり装置の稼働時間が短くなり好ましくない。そこで本実施例ではデバイスを分解すること無く、インライン洗浄で全流路を洗浄することを可能とした。
【0065】
洗浄は任意の一定時間エマルジョン生成処理を行なった場合や、図1に示すエマルジョンの状態を監視しているモニタリング装置62によって、液滴径の変動など液滴品質が低下した情報を得た場合に開始される。洗浄開始時には、まず連続相ポンプ71、分散相ポンプ72を停止し、材料の送液を中断する。次に、洗浄切換バルブ81を洗浄液タンク93の方向に切り換え、加えて生成物/廃液切換バルブ82は廃液タンク95の方向に切り換え、2個の主流路開閉バルブ83を開く。
【0066】
この状態で連続相ポンプ71、分散相ポンプ72を再び稼動させて洗浄液タンク93に納められた洗浄液を乳化用マイクロ流体デバイス2へ送液する。洗浄の確実性を高めるためには、装置が許容する最大圧力で洗浄液を送液することが望ましいので、後述する各洗浄段階では圧力センサ61の出力を見ながら装置の圧力限界を超えない範囲で可能な限り高速で送液することが望ましい。また、連続相が水系で分散相は油系であるため、それぞれに適した洗浄液を送液するために洗浄液タンク93は2個設けてあるが、共通の洗浄液を使用する場合は洗浄液タンク93を1個にまとめても良い。
【0067】
洗浄の第一段階は、連続相主流路31と分散相主流路21の洗浄を行なう。上記のようにバルブを操作した状態で乳化用マイクロ流体デバイス2へ送液された洗浄液は、連続相側は連続相ポート11から連続相通過口24などを経由して連続相分配部30に至り、連続相主流路31内の残液、沈殿物、汚れを押し流しながら主流路を満たす。主流路を満たした洗浄液は連続相吐出口33を通過して連続相排出口45経由で乳化用マイクロ流体デバイス2外へと移動し、開いている主流路開閉バルブ83を経由して廃液タンク95に至る。
【0068】
分散相側は分散相ポート12から分散相供給口14などを経由して分散相分配部20に至り、分散相主流路21内の残液、沈殿物、汚れを押し流しながら主流路を満たす。主流路を満たした洗浄液は分散相吐出口23を通過して分散相排出口47経由で乳化用マイクロ流体デバイス2外へと移動し、開いている主流路開閉バルブ83を経由して廃液タンク95に至る。この時、分散相処理流路22や液滴生成流路32部分は前述したように主流路に比べて流路抵抗がはるかに大きいため、洗浄液は主流路のみを流れる。加えて、主流路は流路抵抗が同程度の分岐部や凹凸を持たない滑らかな蛇行形であるので、主流路内の沈殿物、汚れは残留すること無く排出され、確実に洗浄を行なうことができる。
【0069】
洗浄の第二段階は、分散相処理流路22、液滴生成流路32などの微細流路部の洗浄を行なう。上記の主流路部洗浄が終了後、2個の主流路開閉バルブ83を閉じて、連続相ポンプ71、分散相ポンプ72から洗浄液を乳化用マイクロ流体デバイス2へ送液する。この時、処理流路部の流路抵抗は主流路部の抵抗に比べて高いため、装置の圧力限界を超過しないように圧力センサ61の出力を見ながら適宜送液量を調整する。各主流路が洗浄液で満たされ、さらに主流路開閉バルブ83が閉じた状態であるため、送液された洗浄液は微細な流路部へと流れる。
【0070】
具体的には図6に示すように、連続相側は連続相処理流路34に左右2方向から進入し、合流後に液滴生成流路32を通過して汚れを除去しながらエマルジョン主流路41に至る。分散相側は分散相処理流路22の汚れを除去しながら上方へ移動し、液滴生成流路32で連続相と合流して、エマルジョン主流路41へと至る。エマルジョン主流路41に至った液体は、エマルジョン吐出口42から乳化用マイクロ流体デバイス2外へと吐出され、生成物/廃液切換バルブ82を経由して廃液タンク95に廃棄される。この段階では、主流路がバッファーの役割を果たす事で複数の流路部に均一な送液を行なえるため、全ての流路部の洗浄を確実に行なうことができる。
【0071】
洗浄の第三段階は、エマルジョン主流路41の洗浄を行なう。前述した第二段階の洗浄が終了した後に、出口流路切換バルブ84をエマルジョン流路洗浄口43の方向に切り換えて連続相ポンプ71のみを動作させ、圧力センサ61の出力を見ながら装置の圧力限界を超えない範囲で洗浄液を送液する。送液された洗浄液はエマルジョン流路洗浄口43から乳化用マイクロ流体デバイス2内に進入して、エマルジョン流路41内の汚れ、沈殿物、残液を押し流しながら、エマルジョン吐出口42から吐出され、生成物/廃液切換バルブ82を経由して廃液タンク95に廃棄される。この時、液滴生成流路32はエマルジョン主流路41に比べて流路抵抗がはるかに大きいため、送液された洗浄液は主流路のみを流れて流路側へは逆流しない。加えて、主流路41は流路抵抗が同程度の分岐部や凹凸を持たない滑らかな蛇行形であるので、主流路内の汚れ、沈殿物、残液は残留すること無く排出され、確実に洗浄を行なうことができる。
【0072】
以上のように、本実施冷の乳化用マイクロ流体デバイス2は、段階的な洗浄を実施することで、デバイスを分解することなく短時間で確実に全流路の洗浄が可能である。なお、洗浄の効果をより高めるために、デバイス内流路の角部及び隅部は直角ではなく丸み(R)を持たせることが望ましい。加えて、廃液が重力によって配管から乳化用マイクロ流体デバイス2内へ逆流することを防止するため、連続相排出口45から主流路開閉バルブ83間、分散相排出口47から主流路開閉バルブ83間、エマルジョン吐出口42から生成物/廃液切換バルブ82間の配管を、乳化用マイクロ流体デバイス2より下方に向けて固定し、なるべく短くすることが望ましい。
【0073】
また、汚れや沈殿の度合いが大きい場合に洗浄の効果を高めるため、乳化用マイクロ流体デバイス2には超音波発生機63が取り付けられている(図1)。洗浄液送液中にこれを動作させて流路内に微細な振動を加え、沈殿物、汚れを浮き上がらせることで洗浄の効果をより高めることが可能である。
【0074】
洗浄後の後処理は下記の2つのどちらかを実施する。
エマルジョン生成処理中の定期的な洗浄の場合は、エマルジョン生成処理を再開するために、配管及び乳化用マイクロ流体デバイス2内の洗浄液を連続相、分散相に置換る液体の置換を第四段階として行なう。上記洗浄の第三段階終了後、洗浄切換バルブ81を連続相タンク91に、分散相タンク92の方向に切り換える。加えて、2個の主流路開閉バルブ83を開き、出口流路切換バルブ84を連続相ポート11の方向に切り換える。この状態で連続相ポンプ71、分散相ポンプ72を稼動させて連続相タンク91、分散相タンク92に納められた連続相、分散相を乳化用マイクロ流体デバイス2へ送液する。この結果、前述した洗浄第一段階と同様に連続相主流路31、分散相主流路21内の洗浄液が連続相と分散相に置き換わる。
【0075】
次に、2個の主流路開閉バルブ83を閉じ、エマルジョン生成処理時の送液量で連続相ポンプ71、分散相ポンプ72から液体を送液する。送液された液体は、前述したように所望の液滴径を持ったエマルジョンを生成しながら、液滴生成流路32などの微小流路部分とエマルジョン主流路41内の洗浄液を置換していく。置換のための送液は、モニタリング装置62の出力結果からエマルジョンが所望の状態になったと判断できるまで継続する。エマルジョンが安定した時点で置換は終了し、送液は継続したまま生成物/廃液切換バルブ82を生成物タンク94方向に切り換えてエマルジョンの貯蓄を開始する。定期的に上記の洗浄から置換までの処理を行なうことで、乳化用マイクロ流体デバイス2内の状態をリフレッシュして、長時間安定したエマルジョンを生成することが可能となる。
【0076】
洗浄後の他の後処理として、上記置換処理に代えてエアーによる配管内の残液除去を行なことができる。洗浄第三段階が終了後、エアー切換バルブ85を操作して、エアー源64を装置配管と接続する。次に、2個の主流路開閉バルブ83を開き、出口流路切換バルブ84を連続相ポート11の方向に切り換える。この状態でエアー源64から装置の圧力限界を超過しない範囲で高圧エアーを乳化用マイクロ流体デバイス2へ送気する。この結果、連続相主流路31、分散相主流路21内の残液が廃液タンク95へとパージされる。次に、2個の主流路開閉バルブ83を閉じ、再び高圧エアーを送気すると、液滴生成流路32などの微小流路部とエマルジョン主流路41内の大部分の残液が廃液タンク95へとパージされる。最後に、出口流路切換バルブ84をエマルジョン流路洗浄口43の方向に切り換えて、高圧エアーを送気することで、エマルジョン主流路41内の残液が完全にパージされる。以上で、乳化用マイクロ流体デバイス2内の流路は洗浄された状態で残液が除去され、装置の立ち下げが終了する。
【0077】
以上、乳化装置の実施形態について処理デバイスが1つの場合について説明したが、本発明はこの実施例により何ら限定されるものではない。他の実施例では処理デバイスに導入される液の種類数を最小の2個として説明したが、処理デバイスを大型化して内部に多段構成を設けるなど、導入液数を実施例より多くしても良い。例えば、実施例1でシースフロー50を形成した後に、図8に示すように、第2の連続相54として油を導入し、中心から油、水、油と積層された3層のシースフロー55を形成することで、O/W/O型(oil in water in oil)型の多層エマルジョン56を生成することも可能である。
【0078】
また、複数の処理デバイスを直列に設け、複数の異なる種類の連続相液体を段階的に送液して多層エマルジョンを生成する多段構成など他の形態にも適用できる。
【符号の説明】
【0079】
1…乳化装置、2…乳化用マイクロ流体デバイス、10…液体導入部、11…連続相ポート、12…分散相ポート、13…連続相供給口、14…分散相供給口、20…分散相分配部、21…分散相主流路、22…分散相処理流路、23…分散相吐出口、24…連続相通過口、25…液滴生成部、30…連続相分配部、31…連続相主流路、32…液滴生成流路、33…連続相吐出口、34…連続相処理流路、35…面取り部、36…両端部、37…分散相通過口、40…液体排出部、41…エマルジョン主流路、42…エマルジョン吐出口、43…エマルジョン流路洗浄口、44…連続相排出ポート、45…連続相排出口、46…分散相排出ポート、47…分散相排出口、50…シースフロー、51…中心流れ、52…被覆流れ、53…O/Wエマルジョン、54…第2連続相、55…3層シースフロー、56…多層エマルジョン、61…圧力センサ、62…モニタリング装置、63…超音波発生機、64…エアー源、71…連続相ポンプ、72…分散相ポンプ、81…洗浄切換バルブ、82…生成物/廃液切換バルブ、83…主流路開閉バルブ、84…出口流路切換バルブ、85…エアー切換バルブ、91…連続相タンク、92…分散相タンク、93…洗浄液タンク、94…生成物タンク、95…廃液タンク。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2種類の液体を送液し、微小流路内で第1の液体である分散相の周囲を第2の液体である連続相が覆うシースフローを形成し、分散相と連続相の速度差によって分散相を分断、液滴化してエマルジョンを得る乳化用マイクロ流体デバイスを搭載した乳化装置において、
上記乳化用マイクロ流体デバイスは、分散相を流す複数の分散相処理流路と、連続相を流す複数の連続相処理流路と、上記両処理流路と交差する部分で分散相と連続相を液体を合流させて乳化液滴の生成を行なう複数の液滴生成部と、上記各分散相処理流路に分岐して送液する分散相主流路と、上記各連続相処理流路に分岐して送液する連続相主流路と、上記複数の液滴生成部で生成,送出される液滴を合流させて外部へ送出するエマルジョン主流路を有し、
さらに上記各主流路に各液体または洗浄液を送液するためのポンプと、
上記各主流路の排出口に設けられた主流路開閉バルブと、
上記エマルジョン主流路から送出された液体を生成物側と廃液側に切り換える生成物/廃液切換バルブと、
エマルジョンの状態を監視するモニタリング装置と、
装置内圧力を監視する圧力センサと、
上記モニタリング装置と圧力センサの信号に基いて上記各部を制御する制御部を備えたことを特徴とする乳化装置。
【請求項2】
請求項1記載の乳化装置において、
上記液滴生成部は、上記分散相処理流路が分散相を下方から上方に流すように配置され、上記連続相処理流路がこの分散相に横方向から合流するように配置され、合流後の液滴を上方に流して上記エマルジョン主流路に送液する液滴生成流路を備えたことを特徴とする乳化装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の乳化装置において、
上記乳化用マイクロ流体デバイスは、上向きの複数の分散相処理流路を有する分散相分配部と、横向きの複数の連続相処理流路とこの流路に連なる上向きの液滴生成流路を有し上記分散相分配部の上に積層される連続相分配部と、上記エマルジョン主流路を有し上記連続相分配部の上に積層される液体排出部を備え、
上記各部を積層することにより、上記分散相分配部と連続相分配部の積層部分に前記液滴生成部が形成され、この液滴生成部に上記分散相処理流路、連続相処理流路および液滴生成流路が連通することを特徴とする乳化装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の乳化装置において、
上記液滴生成部の、合流前の分散相処理流路の寸法に対して、合流後の液滴生成流路の寸法が同等かより大きく、且つ合流後の液滴生成流路の入口に漏斗状の面取り構造を持つことを特徴とする乳化装置。
【請求項5】
請求項1に記載の乳化装置において、
上記連続相主流路は、上記連続相処理流路から上記分散相処理流路に両側から液体を送液可能なように、分散相処理流路を両側から挟むように蛇行形に配置され、且つ蛇行形の両端の直線部分が中央の直線部分に比べて幅広であることを特徴とする乳化装置。
【請求項6】
請求項1の乳化装置において、
各流路内のエアーを除去するプライミング処理と、沈殿物などの汚れを除去する洗浄処理を実施する際に、まず、上記主流路開閉バルブを開くと共に上記生成物/廃液切換バルブを廃棄側に切り換えた状態で、上記ポンプにより所定液を上記各主流路に供給し、次いで上記主流路開閉バルブを閉じて上記ポンプにより所定液を上記処理流路及び液滴生成部に供給し、次いで上記出口流路切換バルブを開いてエマルジョン主流路に上記ポンプにより所定液を送液するように、上記制御部により上記ポンプおよび各バルブを制御することを特徴とする乳化装置。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の乳化装置において、
前記液滴生成部はさらに、前記分散相処理流路に交差する連続相処理流路に加え、前記液滴生成流路に交差する第2以降の連続相処理流路を備え、上記分散相処理流路と連続相処理流路の合流部で形成されたシースフローの外周を、上記第2以降の連続相処理流路からの連続相で覆った多層シースフローを形成して、多層エマルジョンを生成することを特徴とする乳化装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−41925(P2011−41925A)
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−192991(P2009−192991)
【出願日】平成21年8月24日(2009.8.24)
【出願人】(000005452)株式会社日立プラントテクノロジー (1,767)
【Fターム(参考)】