説明

乳腺炎治療

少なくとも20mgのプレドニゾロンを含む、抗菌薬およびプレドニゾロンを含むヒト以外の哺乳動物に乳房内投与するための医薬組成物、ならびに臨床的乳腺炎を治療するためのその使用。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗菌薬およびプレドニゾロンを含むヒト以外の哺乳動物に乳房内投与するための医薬組成物、ならびに臨床的乳腺炎の治療のためのその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
乳腺炎は、乳用の雌牛、羊および山羊の罹病率、乳生産減量および淘汰の原因となるため、農業乳生産の大きな問題の1つである。選択育種、搾乳技術および衛生対策による予防医療にもかかわらず、感染の予防は、多くの場合、不可能であり、感染の大部分の原因は、細菌性病原体である。
【0003】
臨床的乳腺炎は、臨床徴候(触診に基づく腫脹、熱、疼痛)を示す感染乳房での異常乳(フレーク、クロットまたは水様分泌物)の生産によって表すことができる。急性臨床的乳腺炎では、これらの徴候が、全身性徴候(発熱、食欲低下、全身状態低下)と併さることがある。
【0004】
疾病の局所性および全身性徴候を減少させる、または疾病症状を伴う期間を短縮すること、乳生産の減量を最少にすること、乳房の感染区の細菌学的治癒を達成すること、ならびに肉および乳の回収期間を短く保つことが、臨床的乳腺炎の治療法の主目的である。抗生物質治療は、既存の感染を排除する原則法である。残念ながら、すべての感染性微生物を感染乳区から排除する、大多数の細菌種に対する真の細菌学的処置が、必ずしも行われるとは限らない。乳腺炎治療の治癒率は、治療それ自体、感染存在期間の長さ、雌牛の年齢、および関与する微生物のタイプに依存する。
【0005】
例えばプレドニゾロンなどのコルチコステロイドを幾つかの抗生物質製剤に組み込んで、泌乳期の間の乳腺炎を治療している。
【0006】
臨床的乳腺炎の治療において、コルチコステロイドは、腫脹および疼痛の軽減を助け、毒性分泌物の除去を増進し、乳腺内注入液のより良好な拡散を促進する。
【0007】
コルチコステロイドの全身作用は、多数あり、広範にわたる。これらには、代謝作用(例えば、糖新生、蛋白分解、脂質分解)、ホルモン作用(例えば、内因性コルチゾール生産の抑制)、電解質および水分バランスに対する作用(鉱質コルチコイド作用)、様々な細胞(例えば、リンパ球、線維芽細胞、粘膜細胞)の細胞分裂およびDNA合成に対する負の作用、血液学的作用(好中球増加およびリンパ球減少を特徴とする白血球増加)、抗炎症作用ならびに免疫系に対する作用が挙げられる。
【0008】
一般に、これらの作用は、コルチコステロイドのタイプ、この用量、調合および投与経路に依存している。
【0009】
大部分の適応症において特に望ましくないコルチコステロイドの作用は、宿主免疫系に対する抑制作用である。コルチコステロイドは、例えば、有糸分裂促進剤に対するリンパ球の応答を低下させること、内因性メディエイタの合成を減少させること、および循環性リンパ球数を減少させることにより、宿主免疫系の体液性および細胞性応答を多少減少させることが知られている。これらの作用は、用量依存性であると考えられている(例えば、The Merck Veterinary Manual,Eighth Edition,2002,Chapter steroidsを参照のこと)。
【0010】
プレドニゾロンの使用は、乳房内投与後の臨床的乳腺炎の治療において意図した効能を生じさせると考えられているが、特に免疫抑制に関して知られている不利益のため、今までのところ、プレドニゾロンの単位用量あたり10mgの当量という低い容量しか実践では使用されていない。
【0011】
抗菌薬と共に、または抗菌薬を伴わずに10mg/単位用量という低い最大用量を乳房内投与した後の臨床的乳腺炎におけるプレドニゾロンの抗炎症作用は、例えば、Bywaterらが、Proceedings of 15th World Buiatrics congress,(1988,Palma de Mallorca)に、Leesらが、Flem.Vet.J.,Vol 62(suppl. 1),pp43−54,1991に、ならびにLohuisらが、J Dairy Sci,Vol 72,pp241−249,1989に記載している。
【0012】
コルチコステロイドは、泌乳期の間の乳腺炎の治療用に商品化されている幾つかの抗菌製品に組み込まれている。例は、抗菌薬アモキシシリン・三水和物、クラブラン酸および10mgのプレドニゾロンを含有するSynolux LC(商標)(Pfizer);抗菌薬ネオマイシン、バシトラシン、テトラサイクリンおよび10mgのプレドニゾロンを含有するMastijet forte(商標)(Intervet);抗菌薬リンコマイシン、ネオマイシンおよび5mgのメチルプレドニゾロンを含有するLincocin forte(商標)(Pharmacia & Upjohn)である。
【0013】
市販品Tetra Delta(商標)(Pharmacia & Upjohn)では、抗菌薬プロカインペニシリン、ノボビオシン、ポリミキシンB、ジヒドロストレプトマイシン、クロロブタノールアンヒドリカムを32.5mgのヒドロコルチゾンと併せている。このヒロドコルチゾン用量は、プレドニゾロンの13mgと等価である。
【0014】
しかし、ヒドロコルチゾンは、プレドニゾロンより顕著な鉱質コルチコイド作用を有する。顕著な鉱質コルチコイド作用を有する化合物は、抗炎症薬としての使用にはあまり適さない。
【0015】
Lohuisら,J Dairy Science,Vol.72,pp241−249,1989は、実験条件下での非細菌性大腸菌エンドトキシン誘発臨床的乳腺炎における局所性および全身性炎症徴候に対する、40mg/単位用量のプレドニゾロンの乳房内注入の改善された効果を記載している。
【0016】
公知の免疫抑制性副作用が、より高い用量のプレドニゾロンを特に細菌誘発乳腺炎の治療用製品に含めることをこれまで妨げてきた。こうした細菌誘発乳腺炎の場合、感染因子が未だ毒性であり、および生体防衛反応の低下により細菌の成長が支援され、その結果、この疾病が促進され得るので、免疫抑制の影響はより重要である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
従って、本発明の目的は、免疫抑制の不利益を伴わない改善された抗炎症作用を示す、臨床的乳腺炎を治療するための乳房内投与用医薬組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、抗菌薬、プレドニゾロンおよび医薬適合性の担体を含む、ヒト以外の哺乳動物に乳房内投与するための医薬組成物であって、単位用量あたり少なくとも20mgのプレドニゾロンを含む組成物を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の組成物は、臨床的乳腺炎の治療において、予想される免疫抑制副作用を伴うことなく、実施例2および3に示すような局所性および全身性炎症症状に対して改善された抗炎症効能をもたらすことが判明している(実施例4および5を参照のこと)。実施例4は、本発明の組成物が、急性臨床的乳腺炎における炎症を起こしている間の宿主および乳房の主防御メカニズムの指標としての、白血球および乳細胞に対して影響を及ぼさないことを示している。実施例5は、現場条件下で、本発明の組成物が、一般に使用されている低用量のプレドニゾロンでの治療と比較して、細菌学的治癒率および臨床的治癒率に対して負の効果を示さないことを示している。
【0020】
化合物プレドニゾロン(11β)−11,17,21−トリヒドロキシプレグナ−1,4−ジエン−3,20−ジオン(Δτ−デヒドロ−ヒドロコルチゾン)は、ヒドロコルチゾンから誘導される合成コルチコステロイドである。プレドニゾロンは、乳房内用調合物において通常用いられるコルチコステロイドである。ここで用いる場合の用語「プレドニゾロン」は、その医薬適合性の塩およびエステルも包含する。
【0021】
本発明によると、本医薬組成物の単位用量は、少なくとも20mgのプレドニゾロンを含む。本発明の典型的な医薬組成物は、上で定義したように単位用量あたり20から40mgのプレドニゾロンを含む。好ましくは、本医薬組成物は、単位用量あたり20から30mgのプレドニゾロンを含み、単位用量あたり20mgのプレドニゾロンがさらにいっそう好ましい。
【0022】
本組成物に含まれる抗菌薬は、一般に、乳腺炎の原因となる最も重要な微生物を治療するために充分な広域スペクトルの抗菌効力を有する抗菌薬であり得る。こうした抗菌薬は、当該技術分野において一般に知られている。
【0023】
β−ラクタム抗生物質、例えばペニシリンまたはセファロスポリンは、好ましい。好ましい実施態様において、それはセファロスポリンである。セファロスポリンは、セファロスポリンC(糸状菌セファロスポリン・アクレモニウムにより生産される天然抗生物質)由来の半合成抗生物質である。セファロスポリンは、β−ラクタム抗生物質の類に属し、これらの生産順序ならびに基本分子に組み込まれている副鎖の位置およびタイプに従って第一世代産物(例えばセファピリン、セファロチン、セファロリジン、セファゾリン)、第二世代産物(セファマンドール、セフロキシム、セフォキチン)、第三世代産物(例えば、セフォタキシム、セフトリアキソン、セフォペラゾン)または第四世代産物(セフェピム、セフピロム、セフキノム)として分類される。現在、セファロスポリンは、感染の治療に広く用いられている。ここで用いる場合の用語「セファロスポリン」は、その医薬適合性の塩およびエステルを包含する。
【0024】
特定の好ましいセファロスポリン化合物は、セファピリンである。セファピリン(3−[(アセトキシ)メチル]−8−オキソ−7[[4−ピリジニルチオ)アセチル]アミノ]−5−チア−1−アザビシクロ−[4.2.0]オクト−2−エン−2−カルボン酸)は、第一世代のセファロスポリンである。好ましくは、セファピリンの医薬適合性の塩は、ナトリウム塩である。
【0025】
本発明のもう1つの好ましい実施態様では、第四世代セファロスポリンのセフキノム(INN−国際一般名)を用いる。セフキノムは、セフォタキシムに似ている半合成アミノチアゾリルセファロスポリンであるが、C−3位に二環式ピリジニウム基を有する(Isertら,Seibertら,29th Interscience Conference on Antimicrobial Agents and Chemotherapy Houston,Texas,1989)。好ましくは、セフキノムの医薬適合性の塩は、硫酸塩である。
【0026】
本発明の典型的な医薬組成物は、この化合物の力価に依存して単位用量あたり10から500mgの抗菌薬を含む。好ましくは、本医薬組成物は、単位用量あたり200から400mgのセファピリンを含み、300mgがさらに好ましい。
【0027】
また、本医薬組成物は、単位用量あたり50から150mgのセフキノムを含み、50から100mgがさらに好ましい。
【0028】
活性成分(抗菌薬およびプレドニゾロン)のための医薬適合性の担体は、非毒性である、獣医学的に許容できる、活性薬剤と相溶性である、および投与を可能にする一方でこの薬物粒子の放出特性を制御する粘度のものであるように選択される。
【0029】
一般的な実施に従って、乳房内投与用の本発明の医薬組成物は、水性または油性基材で作ることができる、適するビヒクル中の活性成分の懸濁液または溶液を含む。
【0030】
医薬組成物における油性基材に使用することができる油は、一般に天然油、例えば植物油、半合成または合成モノ、ジもしくはトリグリセリドである。使用することができる植物油は、例えば、ゴマ油、オリーブ油、綿実油、ヒマシ油、ラッカセイ油またはヤシ油である。
【0031】
本発明の組成物中の医薬適合性の担体は、好ましくは油性基材を含み、場合により増粘剤、乾燥剤および酸化防止剤などの添加剤を1つ以上含む。適する医薬適合性の賦形剤は、当該技術分野では公知である。乳房内用調合物用の担体のためのこうした製薬用賦形剤は、例えば、「Gennaro,Remington:The Science and Practice of Pharmacy」(20版,2000)に記載されている。前記文献は、本明細書に参考として援用されている。
【0032】
常用増粘剤は、例えば、ステアリン酸アルミニウム、シリカ、またはモノステアリン酸グリセロールなどの脂肪酸エステルである。増粘剤の適量は、2から30重量%の範囲内である。乾燥剤は、例えば、ケイ酸塩、活性白土、シリカゲルおよびモレキュラーシーブである。ケイ酸アルミニウムナトリウムが特に好ましい。使用することができる乾燥剤の適量は、5から15重量%、好ましくは5から10重量%の範囲内である。適する酸化防止剤は、例えば、ブチルヒドロキシトルエンまたはヒドロキシアニソールである。酸化剤は、通常、0.01から10重量%の範囲内で存在する。他の添加剤も油性ビヒクル中に小率で存在することがある。
【0033】
さらに、本発明は、油と場合により添加剤を混合する段階、および担体に抗菌薬とプレドニゾロンを懸濁させる段階を含む、本発明の医薬組成物の調製方法を提供する。
【0034】
より具体的には、本発明は、前記担体が、ゲルを形成するように適温で前記油と前記添加剤を混合することにより形成される本発明の方法を提供する。この担体を冷却した後、適する混合装置を使用し、室温で抗菌薬およびプレドニゾロンをそれに添加して、均一分散液を得る。次に、この混合物を単位用量用チューブまたは注射器に充填する。
【0035】
泌乳動物の乳頭管を通って乳腺に乳房内投与される1回分の単位用量が、アプリケータ、例えば注射器またはチューブの内容である。本組成物の1回単位用量は、調合医薬組成物1から20グラム、好ましくは2から10グラムを通常は含有するであろう。一般的な単位用量は、調合医薬組成物6から8グラムを含有し得る。
【0036】
選択した調合物を、乳房内投与用の従来型のチューブまたは注射器パックに充填することができる。こうした乳房内用注射器には、乳頭管経由で乳腺に直接押し出すことができるように乳頭に挿入するためのカニューレノズルが備え付けられている。
【0037】
さらに、本発明は、単位用量あたり少なくとも20mgのプレドニゾロンを含むヒト以外の哺乳動物の乳腺炎の治療薬を製造するための、抗菌薬およびプレドニゾロンの使用を提供する。
【0038】
臨床的乳腺炎の治療では、本発明の組成物の乳房内用注射器1本の内容(単位用量)を、この疾病症状が治まるまで(通常、治療期間は1から10日である。)、搾乳後、感染乳区に繰り返し投与する。
【0039】
さらに、本発明は、単位用量あたり少なくとも20mgのプレドニゾロンを含むヒト以外の哺乳動物の細菌誘発臨床的乳腺炎の治療薬を製造するための、プレドニゾロンの使用を提供する。
【0040】
上に記載したような抗菌薬が、細菌誘発臨床的乳腺炎の治療用組成物の中に追加的に存在することもある。
【0041】
本発明の医薬組成物は、例えば牛、ラクダ、水牛、山羊または羊などの臨床的乳腺炎の治療が必要なヒト以外のすべての哺乳類にもっぱら適用することができる。乳腺炎には、あらゆる種が罹患するが、牛、水牛、羊および山羊などのヒトが消費する乳製品に用いられる反芻動物では特に重要である。
【実施例1】
【0042】
組成物の製造
20kgバッチのために、生産容器(壁掻き機、溶解機および内部コロイドミルを具備するFryma VME−20)内で17.9kgのラッカセイ油、4gのBHTおよび1.2kgのモノステアリン酸グリセロールを混合する。0.1%の水を添加し、この混合物を121℃で1時間加熱する。窒素下、121℃で30分間さらに加熱することにより、添加した水を除去する。この混合物を25℃に冷却し、混合しながら803.0gのセファピリンナトリウムおよび50.4gのプレドニゾロンを添加する。この混合物を周囲温度(30℃未満)で30分間コロイド化する。この懸濁液を乳房内用注射器に充填する。
【実施例2】
【0043】
局所性炎症の徴候に対する異なるプレドニゾロン用量の影響
材料および方法
24頭の雌牛を、乳生産および経産回数に従って各々雌牛6頭の4グループに割り当てた。すべての雌牛の2つの同側乳区に20mLの食塩水中の100μgの大腸菌(Escherichia coli)エンドトキシン(E.coli 0111:B4から得た精製リポ多糖類)を注入した。
【0044】
試験製剤は、油性担体中のセファピリンおよびプレドニゾロンを含有するものだった。4つの異なるプレドニゾロン用量レベルを試験した。200mgのセファピリンナトリウムと共に、注射器1本(8g)あたり0mg(グループ1)、10mg(グループ2)、20mg(グループ3)および40mg(グループ4)。
【0045】
雌牛は、臨床的乳腺炎の最初の徴候が顕性になったとき、すなわちエンドトキシン注入の1.5時間後、1つのエンドトキシン注入乳区につき注射器1本の内容で治療した。次の3回分の治療薬は、2日間の連続した午後または午前の搾乳(12時間間隔)の直後に注入した。合計で4回分の治療薬を投与した。
【0046】
乳房評点:エンドトキシン注入を基準にして−7日から−1日までの午前搾乳後1日1回、およびエンドトキシン注入を基準にして+1日から+6日までの搾乳後1日2回触診することにより、乳区の状態および腫脹を判定した。エンドトキシン注入日、注入後±12.5時間の間、約30分ごとに触診することにより、乳区の腫脹を評価した。採点システムは、評点0から4を規定するものである。値が高いほど、局所性炎症の徴候が増し、重度であることを指す。
【0047】
結果:
平均乳房評点を図1に提示する。
【0048】
用量と効果の明瞭な関係が、プレドニゾロンと乳房評点の合計について観察された。プレドニゾロンの用量が高いほど、結果的に乳房評点の合計が低くなった。40mgのプレドニゾロンで治療した乳房評点の合計は、プラシーボ乳区(プレドニゾロン0mg)および10mgのプレドニゾロンで治療した乳区の乳房評点と比較して、注入8時間後から第5日の夕刻搾乳までは有意に低かった。20mgのプレドニゾロンで治療した乳区は、同じ期間中、プラシーボ乳区より乳房評点の合計が低かった。
【実施例3】
【0049】
セファピリンナトリウム+20mgのプレドニゾロンと共に投与および未治療と比較した、セファピリンナトリウム単独の乳房内投与後の実験的ストレプトコッカス・ウベリス(Streptococcus uberis)乳腺炎罹患雌牛の直腸温度(乳腺炎における炎症の全身性徴候)
材料および方法:
18頭の泌乳雌牛の2つの左乳区にストレプトコッカス・ウベリス(±1000 CFU/乳区)を乳房内接種した。すべての雌牛が乳腺炎の臨床徴候(すなわち、乳区初乳変性および/または乳房腫脹)を示したチャレンジ後2日目に、経産回数および乳生産が類似しているグループを作るように、雌牛を各々雌牛6頭の3グループに割り当てた。
【0050】
1つのグループは、セファピリン単独で治療し(グループ1)、1つのグループは、セファピリンと20mgのプレドニゾロンで治療し(グループ2)、1つのグループは、治療しなかった(グループ3)。チャレンジ後2日目に、グループ1およびグループ2に含まれる雌牛を、2つの左側の接種した乳区に関して治療した。最初の治療は、午前搾乳後に施し、続く3回の注入は、次の3回の連続した搾乳の直後に行った。グループ3の雌牛は、未治療のままだった。しかし、あまりにも重度の乳腺炎臨床徴候が発生したため、未治療対照グループから3頭の雌牛は、チャレンジ後2日半の時点で倫理的理由のため治療しなければならなかった。これら3頭の雌牛は、セファピリンナトリウムおよび20mgのプレドニゾロンで乳房内治療をした。注射器1本の内容を4回の連続した搾乳時に各チャレンジ乳区に投与した。これら3頭の雌牛は、対照グループから排除した。最初の治療前の第9日から最初の治療後の第19日までの直腸温度を測定した。
【0051】
結果:
直腸温度を図2に提示する。
【0052】
セファピリンおよび20mgのプレドニゾロンで治療したグループにおいて最初の治療後の第0日(夕刻)および第1日(午前)の時点で観察された直腸温度は、他のグループにおいて観察された直腸温度より有意に低かった。セファピリン単独で治療した後、平均直腸温度は、ゆっくりと低下した。未治療の雌牛の平均直腸温度は、第2日(夕刻)まで39℃より高かった。後でセファピリン+20mgのプレドニゾロンで治療した3頭の雌牛の平均直腸温度は、最初の治療後の次の搾乳時には常温(39℃未満)に戻った。
【実施例4】
【0053】
実験的大腸菌エンドトキシン誘発乳腺炎に罹患している雌牛の血液および乳から単離した多形核白血球(PMN)の機能に対するプレドニゾロンの乳房内投与の影響
材料および方法
15頭の雌牛を乳生産および経産回数に従って各々雌牛5頭の3グループに割り当てた。20mLの食塩水中の100μgの大腸菌エンドトキシン(大腸菌0111:B4から得た精製リポ多糖類)を注入した。
【0054】
雌牛は、臨床的乳腺炎の最初の徴候が顕性になったとき、すなわちエンドトキシン注入の約2時間後、1つのエンドトキシン注入乳区につき1本の注射器の内容で治療した。1つのグループは、300mgのセファピリンで治療し、1つのグループは、300mgのセファピリンおよび20mgのプレドニゾロンで治療し、1つのグループは、未治療対照であった。試験製剤は、油性担体中のセファピリンおよびプレドニゾロンを含有した。
【0055】
次の3回分の治療薬は、2日間の連続した午後または午前搾乳(12時間間隔)直後に注入した。
【0056】
エンドトキシン注入前24時間の時点ならびにエンドトキシン注入後1.5、8、48および72時間の時点で頚動脈から血液サンプルを採集した。
【0057】
エンドトキシン注入乳区からの乳区乳を、注入の24時間前、注入の1.5時間後(すなわち、最初の治療の0.5時間前)、ならびにエンドトキシン注入の8時間、48時間および72時間後に採集した。
【0058】
結果:
血液PMNに対する影響:エンドトキシン注入後8時間の時点で、血液中の全白血球数は、セファピリン単独で治療した雌牛におけるよりセファピリンおよびプレドニゾロンで治療した雌牛(グループ3)におけるほうが低いが、血液中の全白血球数は未治療の雌牛と変わらなかった(表1および図3)。循環性白血球の減少は、LPSにより誘発された白血球減少の結果であり、免疫防御プロセスに関わる正常な現象である。プレドニゾロンの影響が負の場合、この白血球減少は、抑制され、結果として循環性白血球数がより大きく減少することになる。
【0059】
【表1】

【0060】
グループ3とグループ1および2の間で、血液PMNの成熟度、サイズ、粒状度、食菌作用および酸化バーストに関する差は、観察されなかった。
【0061】
これらの成熟プロセスの間にPMNのサイズは低下するが、粒状度は増す。酸化バーストは、PMN活性の指標である。プレドニゾロンがPMNに対して負の影響を有する場合、PMNのサイズは増大し、粒状度は低下し、および/または酸化バーストは減少するだろう。しかし、20mgのプレドニゾロンの乳房内注入後にそれは観察されなかった。
【0062】
エンドトキシン注入後24時間の時点で、血液PMNの走化性は、グループ1または2におけるよりグループ3におけるほうが高かった(表2および図4)。セファピリンおよび20mgのプレドニゾロンの乳房内注入後、血液PMNの走化性が増したので、20mgのプレドニゾロンは、乳房に移動するPMNの能力を増大させるようである。
【0063】
【表2】

【0064】
乳PMNに対する影響:図5に示すように、グループ1、2および3の間で、乳から単離したPMNの化学発光に関する差は、観察されなかった。化学発光は、PMN活性に由来する反応性酸素化合物により生じた光フォトンの測定に基づく、PMN活性の指標である。化学発光は、酸化バーストと強い関係がある。防御メカニズムに対して負の影響の場合には、化学発光のより大きな低下が観察されることであろう。
【0065】
結論
より高い用量のプレドニゾロン(20mg)は、血液および乳PMNの形態学および機能に影響を及ぼさなかった。
【実施例5】
【0066】
現場条件下での10mgのプレドニゾロンを含有する組成物と比較した20mgのプレドニゾロンと抗菌化合物を含有する組成物の効能
材料および方法:
単一の乳区が臨床的乳腺炎に罹患している泌乳雌牛(571)を、300mgのセファピリンナトリウムおよび20mgのプレドニゾロンを含む組成物A(n=260)で12時間間隔で4回、または200mgのアモキシシリン、50mgのクラブラン酸および10mgのプレドニゾロンを含む組成物B(n=254)で12時間間隔で3回、乳房内治療した。これらの投与スケジュールは、これらの製品の推奨用量に対応している。治療の効能は、第14日および第21日における細菌学的治癒率(第0日に特定された病原体の削除)ならびに第14日および第21日における臨床的治癒率(感染乳区が正常な乳を生産し、臨床的乳腺炎の徴候がもはやない)により判定した。
【0067】
結果:
細菌学的治癒:雌牛は、第14日および第21日の両方の時点で、感染乳区からの乳サンプルが、第0日(治療前の実験に入った時点)に存在した病原体(複数を含む)を含有しなかった場合、細菌学的に治癒されたとみなした。臨床的乳腺炎については、雌牛が第一の治療後サンプリングの時点(第14日)で未だ臨床的に治癒されていなかった治療は、失敗とみなした。これらの雌牛は、第二サンプリング(第21日)から除外しなければならなかった。従って、これらの雌牛は、細菌学的に治癒されなかったとみなした(牛用の乳房内用製品についての効能試験を実施するためのガイドラインEMEA/CVMP/344/99に従う定義)。
【0068】
臨床的治癒:雌牛は、第一の治療後サンプリング、第14日の時点で、正常な乳を生産し、治癒した感染乳区において臨床的乳腺炎の徴候を一切示さなかった場合、臨床的に治癒されたとみなした(ガイドラインEMEA/CVMP/344/99に従う定義)。
【0069】
効能についてのパラメータは、結果の変動要素「細菌学的治癒」(治癒/未治癒)および「臨床的治癒」(治癒/未治癒)である。これらの結果を、表3および図6に、治癒した雌牛の数および割合として表す。
【0070】
【表3】

【0071】
結論
より高い用量のプレドニゾロン(20mg)は、細菌学的治癒率に負の影響を及ぼさなかった。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】エンドトキシン乳腺炎に罹患している雌牛の平均乳房評点に対する異なる用量でのプレドニゾロンの影響を示す。
【図2】ストレプトコッカス・ウベリス(Streptococcus uberis)乳腺炎に罹患している雌牛の直腸温度に対する乳房内治療の影響を示す。
【図3】セファピリン(300mg)およびプレドニゾロン(20mg)での治療前、治療中および治療後の、エンドトキシン誘発乳腺炎に罹患している雌牛からの血液中の白血球の数を示す。
【図4】セファピリン(300mg)およびプレドニゾロン(20mg)での治療前、治療中および治療後の、エンドトキシン誘発乳腺炎に罹患している雌牛からのPMN走化性を示す。
【図5】LPSを注入した乳区における化学発光:対照グループとセファピリン(300mg)またはセファピリン(300mg)およびプレドニゾロン(20mg)で治療したグループの間の比較を示す。
【図6】組成物B(アモキシシリン+クラブラン酸+10mgのプレドニゾロン)および組成物A(セファピリン+20mgのプレドニゾロン)でのI.M.M.治療後の細菌学的および臨床的治癒率を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単位用量あたり少なくとも20mgのプレドニゾロンを含むことを特徴とする、抗菌薬、プレドニゾロンおよび医薬適合性の担体を含む、ヒト以外の哺乳動物に乳房内投与するための医薬組成物。
【請求項2】
20から40mg/単位用量の量でプレドニゾロンを含むことを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
20から30mg/単位用量の量でプレドニゾロンを含むことを特徴とする、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
前記抗菌薬が、セファロスポリンであることを特徴とする、請求項1から3のいずれかに記載の組成物。
【請求項5】
前記セファロスポリンが、セファピリンであることを特徴とする、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
前記セファロスポリンが、セフキノムであることを特徴とする、請求項4に記載の組成物。
【請求項7】
10から500mg/単位用量の量で抗菌薬を含むことを特徴とする、請求項1から6のいずれかに記載の組成物。
【請求項8】
油と場合により添加剤を混合する段階、および担体に抗菌薬とプレドニゾロンを懸濁させる段階を含む、請求項1から7のいずれかに記載の医薬組成物の調製方法。
【請求項9】
単位用量あたり少なくとも20mgのプレドニゾロンを含むヒト以外の哺乳動物の乳腺炎の治療薬を製造するための抗菌薬およびプレドニゾロンの使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2006−514642(P2006−514642A)
【公表日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−559809(P2004−559809)
【出願日】平成15年12月10日(2003.12.10)
【国際出願番号】PCT/EP2003/014051
【国際公開番号】WO2004/054538
【国際公開日】平成16年7月1日(2004.7.1)
【出願人】(394010986)アクゾ・ノベル・エヌ・ベー (31)
【Fターム(参考)】