説明

乳酸を製造する方法

本発明は、乳酸の製造方法において、以下の段階、a)乳酸マグネシウムを含む水性媒体を用意する段階;b)該乳酸マグネシウムを含む水性媒体に1価の塩基を添加して、水溶性の1価の乳酸塩及び固体のマグネシウム塩基を含む水性媒体を形成する段階;c)該マグネシウム塩基を該水溶性の1価の乳酸塩を含む水性媒体から分離する段階;d)該水性媒体中の該1価の乳酸塩の濃度を10〜30重量%の値に調節する段階;e)該1価の乳酸塩を含む該水性媒体を水分解電気透析に付して、1価の塩基を含む第一溶液及び乳酸及び1価の乳酸塩を含む第二溶液を製造する段階、ここで、該電気透析は、40〜98モル%の部分転化率まで実行される;f)乳酸及び1価の乳酸塩を含む第二溶液を、蒸気−液体分離により、乳酸と1価の乳酸塩を含む溶液とに分離する段階;g)該1価の乳酸塩を含む段階f)の溶液を段階d)に再循環させる段階;を含む前記方法を開示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、経済的な態様において、高い純度における乳酸を製造する方法に関する。
【0002】
乳酸は、しばしば、微生物による炭水化物の発酵により製造される。すべての発酵方法に共通の特徴は、微生物により分泌される酸を中和する必要性である。臨界的な値より下のpHへの低下は、その方法において使用される微生物に依存して、該微生物の代謝工程を害し、発酵工程を停止に至らせる。従って、pHを制御するために発酵媒体に塩基を添加することが一般的な実務である。これは、製造された乳酸が、乳酸塩の形で発酵媒体中に存在することをもたらす。
【0003】
発酵により乳酸を製造する長く続く実務にもかかわらず、乳酸の製造におけるチャレンジに一つは、今でもなお、商業的に魅力的である規模で経済的な態様において工程を実行すると同時に、相対的に純粋な形で酸を得ることである。
【0004】
電気透析は、発酵による乳酸の生産において使用され得る精製工程の一つである。水分解電気透析(water−splitting electrodialysis)は、乳酸塩を乳酸と塩基への直接転化を特に許す。このタイプの電気透析においては、バイポーラー膜が一般的に使用されて、水をH及びOHへとそれぞれ分解し、H及びOHは、それぞれ乳酸塩のアニオン及びカチオンと結合して、乳酸と塩基の別々の溶液の製造をもたらす。
【背景技術】
【0005】
国際公開第99/19290号パンフレットは、乳酸及び/又は乳酸塩混合物を加工するための技術を開示する。加工のための好ましい混合物は、発酵培養液、好ましくは4.8以下のpHにおいて行われる発酵工程から得られる。該技術は一般的に、混合物からの、分離された乳酸及び乳酸塩の流れを提供することに関する。
【0006】
国際公開第2005/123647号パンフレットは、発酵により与えられ得る乳酸マグネシウム含有媒体からの乳酸の生産のための方法を記載する。乳酸マグネシウムは、ナトリウム、カルシウム及び/又はアンモニウムの水酸化物と反応されて、水酸化マグネシウム及び対応する1価及び/又は2価の乳酸塩を形成する。該乳酸塩を乳酸へと転化するための手段として、該公報は、バイポーラー電気透析又は強い鉱酸の添加を示唆している。しかし、そのような転化はこの公報において例示された方法に含まれていない。
【0007】
米国特許第5,766,439号は、発酵により乳酸を製造する段階、乳酸を乳酸カルシウムに転化するためにカルシウム塩基を添加する段階、及び該乳酸カルシウム溶液をアンモニウムイオンとの反応に付して、乳酸アンモニウムを製造する段階を含む乳酸の製造方法を記載する。この公報は、乳酸アンモニウムが塩の分解(即ち水の分解)電気透析により処理されて、アンモニアと乳酸とを形成し得ることをさらに開示する。しかし、該公報は、塩−分解電気透析の主な欠点の2つとしての収率損失及びエネルギー消費について言及しており、この公報に例示された方法は、電気透析の使用を含まない。
【0008】
欧州特許第0393818号明細書は、発酵を通して乳酸塩を製造する段階、発酵培養液を脱塩電気透析工程に付して、乳酸塩を、濃縮された乳酸塩溶液として回収して、該塩溶液を水分解電気透析に付して塩基及び乳酸を形成する段階を含む、乳酸の製造及び精製のための方法を開示する。次に、乳酸製造物は酸の形の強く酸性のイオン交換体で処理されて、ナトリウム又は他のカチオンを除去して、続いてフリー塩基の形の弱く塩基性のイオン交換体で処理されて硫酸イオン又は硫酸を除去して高度に精製された乳酸製造物を得る。イオン交換体を使用することの欠点は、イオン交換樹脂を再生する必要性であり、該再生は不要な副生物を生み出す。この公報は、発酵により得られる乳酸塩を塩交換反応に付すことを示唆していない。
【0009】
発酵、特に有機酸を製造するための発酵、により与えられる水性媒体上での水分解電気透析の使用は、フィードからの発酵に由来する生成物(例えば、糖、タンパク質及びアミノ酸)を除去する必要性により制限されてきた。そのような発酵に由来する物質は、例えばイオン透過性膜の汚染及びエネルギー消費の増大により水分解電気透析工程を否定的に妨害する。
【0010】
例えば、国際公開第96/41021号パンフレットは、有機酸の電気透析的精製において使用されるイオン選択膜の汚染を減少させるための方法及び装置に関する。特に、有機酸を含有するフィード物質からの不純物を除去するためのナノろ過及びキレート剤の使用に関する。この公報に従うと、水分解電気透析のための適切なフィードは、約0.03重量%未満の糖濃度、約0.05重量%未満のタンパク質に関係する物質の濃度、及び約0.01重量%未満の多価化合物の濃度を有する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
高純度の乳酸を与え、低いエネルギー消費を有する経済的な態様で行われることができ、実質的な量の非再使用可能な成分(即ち不要な副生物)の製造なしで、かつ実質的な収率損失のない、乳酸の製造法に対する需要がまだある。本発明は、そのような方法、即ち請求項1に記載の方法を提供する。この方法においては、乳酸塩、好ましくは、発酵により与えられる乳酸マグネシウムが、塩交換の手段により処理されて、水分解電気透析に特に適する1価の乳酸塩の水性溶液を与える。次に、乳酸塩の酸への部分的な転化を伴う水分解電気透析を使用すること、乳酸塩から乳酸を蒸気−液体分離により分離すること、そして乳酸塩を電気透析段階に再循環させることにより高純度の乳酸が製造される。
【課題を解決するための手段】
【0012】
従って、本発明は、以下の段階
a)乳酸マグネシウムを含む水性媒体を用意する段階;
b)該乳酸マグネシウムを含む水性媒体に1価の塩基を添加して、水溶性の1価の乳酸塩及び固体のマグネシウム塩基を含む水性媒体を形成する段階;
c)該固体のマグネシウム塩基を該水溶性の1価の乳酸塩を含む水性媒体から分離する段階;
d)該水性媒体中の該1価の乳酸塩の濃度を10〜30重量%の値に調節する段階;
e)該1価の乳酸塩を含む該水性媒体を水分解電気透析に付して、1価の塩基を含む第一溶液及び乳酸及び1価の乳酸塩を含む第二溶液を製造する段階、ここで、該電気透析は、40〜98モル%の部分転化率まで実行される;
f)乳酸及び1価の乳酸塩を含む第二溶液を蒸気−液体分離により、乳酸と1価の乳酸塩を含む溶液とに分離する段階;
g)該1価の乳酸塩を含む段階f)の溶液を段階d)に再循環させる段階;
を含む乳酸の製造方法に関する。
【発明を実施するための形態】
【0013】
水分解電気透析を40〜98モル%の部分転化率まで実行して、続いて残った乳酸塩を電気透析段階に再循環させることは、低いエネルギー消費及び実質的な収率損失のない最適な方法をもたらす。
【0014】
さらに、本明細書に記載された方法は、種々の段階において形成され、分離される全ての化合物は再循環され得るので実質的に不要な副生物を製造しない。段階c)において分離されたマグネシウム塩基は例えば、発酵段階において使用され得、段階e)の1価の塩基を含む溶液は塩交換段階b)において使用され得る。分離段階f)は、更なる不要な副生物を産出しないので、該段階もまた非再使用可能な成分の量を最小化することに貢献する。
【0015】
乳酸マグネシウム塩を含む水性媒体は、好ましくは発酵段階により用意され得る。乳酸マグネシウム塩は、水性媒体が発酵を出るときに、一般的には、すでに水性媒体中に存在する。そのような段階において、炭水化物源は、乳酸生産微生物により乳酸に発酵される。発酵の間、マグネシウム塩基が中和剤として添加される。これは対応する乳酸マグネシウム塩を含む水性媒体の形成をもたらす。
【0016】
マグネシウム塩基の塩基アニオンは、好ましくは水酸化物、炭酸塩、及び炭酸水素塩の少なくとも1から選択され、より好ましくは水酸化物である。塩基カチオンとしてのマグネシウムの使用は好ましいが、他のアルカリ土類金属カチオン、例えばカルシウムカチオンもまた使用され得る。アルカリ土類金属塩の量は、製造される乳酸の量により決定され、発酵媒体のpH制御により決定され得る。
【0017】
バイオマス(微生物の細胞物質)は、乳酸塩含有媒体のさらなる加工の前に発酵培養液から除去され得る。バイオマスの除去は、例えば濾過、浮遊、沈降、遠心分離、凝集、及びこれらの組み合わせ、を含む慣用の方法により実行され得る。適切な方法を決定することは当業者の範囲内である。さらなる加工の前の他の任意的な処理は、洗浄、濾過、(再)結晶化、濃縮及びこれらの組み合わせを含む。
【0018】
マグネシウム塩基の使用は適切な結晶形の乳酸マグネシウムの形成をもたらして、バイオマスを含む発酵培養液からの結晶性の物質の分離を可能にするので、マグネシウムは好ましいアルカリ土類金属である。乳酸マグネシウムの分離は、固体/液体分離のための任意の公知の加工技術によりされ得る。例えば適切な孔サイズを有するフィルターを使用する濾過によりされ得、乳酸マグネシウムをフィルター上に保持し、次に、フィルターケーキの洗浄による不純物の除去を可能にする。残っている発酵培養液を特定の目的のためにさらに加工する又は(再)利用する希望がなければ、上記のバイオマスの分離は原則として必要ではない。
【0019】
このようにして精製された乳酸マグネシウムは、本明細書に記載されたさらなる加工のために、発酵由来の製造物(例えば、糖、タンパク質、アミノ酸)が例えば、エネルギー消費を増加させること及びイオン透過性の膜を汚染させることにより否定的に妨害され得る水分解電気透析を使用するとき、特に適する。
【0020】
乳酸アルカリ土類金属塩、好ましくは乳酸マグネシウム塩、を含む水性媒体は、塩交換反応(段階b)に付され、該段階において、1価の塩基が該水性媒体に添加され、1価の乳酸塩及び固体アルカリ土類金属塩基を形成する。
【0021】
乳酸発酵におけるマグネシウム塩基の使用及び乳酸マグネシウムと1価の塩基との塩交換反応を記載する国際公開第2005/123647号パンフレットもまた参照されたい。該公報は、参照にすることにより本明細書に取り込まれる。
【0022】
乳酸のアルカリ土類金属塩を含む水性媒体が発酵により用意されるならば、塩基アニオンは、一般的に、発酵の間に中和剤として使用される塩基アニオンに対応するように選択される。
【0023】
添加される1価の塩基は、好ましくは1価のカチオンの水酸化物、炭酸塩、及び/又は炭酸水素塩、より好ましくは水酸化物、であり、該1価のカチオンはナトリウム、カリウム、リチウム、アンモニウム、モノアルキルアンモニウム、ジアルキルアンモニウム、トリアルキルアンモニウム、又はテトラアルキルアンモニウム、好ましくはナトリウム又はカリウム、より好ましくはナトリウムである。ナトリウム及びカリウム塩基の使用は有利に、アンモニウム塩基が使用されるときより、乳酸のアルカリ土類金属塩の1価の乳酸塩へのより高い転化率をもたらす。これは、水分解電気透析のために適する低いアルカリ土類金属イオン含有量を有する生成物を用意することと関連がある。残さのアルカリ土類金属イオンは、それにもかかわらず、当業者に公知の方法、例えばイオン交換樹脂の使用、により除去され得る。
【0024】
1価の塩基の量は、化学量論及びpHの考慮により決定される。高い転化率を得るため、及び乳酸塩からの実質的にすべてのアルカリ土類金属イオンの除去を確実にするためには、過剰の塩基を使用することが好ましい。塩交換反応を、2つの段階、第一段階では、pHは9〜12、好ましくは9.5〜11であり、第二段階ではpHは10.5〜12の間のpHに少し増加される、において行うことが一般的に好ましい。
【0025】
塩交換反応において形成されたアルカリ土類金属の塩基は、典型的には固体の形であるが、1価の乳酸塩は水性媒体に溶解されている。従って、2つの成分は、慣用の固体−液体分離方法、例えば濾過及び/又は沈降、により分離され得る。
【0026】
分離後に得られたアルカリ土類金属の塩基は、発酵段階に再循環され得る。
【0027】
追加の処理、例えばイオン交換処理、活性炭処理、脱塩電気透析、希釈、濃縮及び/又は濾過(例えばナノろ過)が水分解電気透析の前に行われ得る。例えば、1価の乳酸塩を含む水性媒体において高すぎるアルカリ土類金属レベルを防ぐ安全対策として、イオン交換段階が、電気透析の前に行われて、そのアルカリ土類金属含有量を下げてもよい。
【0028】
しかし、本明細書に記載の方法は、そのような追加の処理を、特に乳酸塩が発酵により用意されるとき及びマグネシウム塩基が発酵段階に添加されて、乳酸マグネシウム発酵培養液を用意するときは特に、有利には必須としない。特に、上記のように、乳酸マグネシウムを適切な結晶形で与える、発酵の間の中和のためのマグネシウム塩基の使用は、通常は、発酵由来の物質(例えば糖、タンパク質、及びアミノ酸)を水分解電気透析における使用のためのフィードから除去することが一般的には要求されるさらなる精製段階の必要性を排除することが見出されている。これは、そのような電気透析方法に一般的に関連する複雑さ、エネルギー必要性及び費用を有利に下げる。
【0029】
次に、1価の乳酸塩を含む水性媒体は、水分解電気透析に付される。
【0030】
電気透析に付された水性媒体(フィード溶液)中の1価の乳酸塩の初期濃度は、10〜30重量%である。好ましくは、1価の乳酸塩の濃度は20〜25重量%である。塩濃度に依存して、塩交換反応後、即ち分離段階c)後に得られた、1価の乳酸塩を含む水性媒体は、電気透析へのフィードとして直接、使用され得、あるいは、もし必要ならば、水分解電気透析の前に塩濃度を調節するために希釈又は濃縮されてもよい。濃度は、例えば気化又は慣用の電気透析により実行され得る。
【0031】
水性媒体中の1価の乳酸塩の濃度は、当業者に公知の方法、例えば伝導度測定及び誘導結合プラズマ質分光学分析を使用することにより決定され得る。
【0032】
水分解電気透析は、40〜98モル%の部分転化率まで、実行される。好ましくは、水分解電気透析は、40〜95モル%、より好ましくは50〜95モル%、さらにより好ましくは60〜95モル%、さらにより好ましくは70〜90モル%、さらにより好ましくは80〜90モル%、最も好ましくは約85モル%、の部分転化率まで、実行される。
1価の塩基を含む第一溶液並びに乳酸及び1価の乳酸塩を含む第二溶液が本方法において製造される。
【0033】
40〜98モル%の部分転化率は、フィード溶液に存在する1価の乳酸塩の40〜98モル%が乳酸に転化されることを意味する。これは、溶液中に存在する乳酸及び乳酸塩の合計モル量に基づいて計算して、40〜98モル%の量の乳酸を含む、電気透析により製造された第二溶液をもたらす。
【0034】
転化の程度は、当業者に公知の方法を使用して第二溶液の伝導度を測定することにより追跡され得る。フィード溶液の転化レベル及び初期の塩濃度に加えて、第二溶液の伝導度は電気透析段階の温度に依存する。電気透析が行われるところの温度が高いほど、エネルギー消費は低い。従って、作業温度は、イオン選択的透過性膜の性能及び寿命を妥協することなく、エネルギー消費を最適化するように選択される。一般的に、水分解電気透析が25℃〜40℃の温度において行われる。しかし、50℃より高い温度、例えば60℃〜80℃の温度、において電気透析を行うことが、低いエネルギー消費及び熱回収の可能性を許すために好ましい。
【0035】
本明細書に記載された水分解電気透析は、慣用の装置及び慣用の方法を使用して行われ得る。好ましくは、水分解電気透析は、カチオン交換膜及びバイポーラー膜を備えられた電気透析装置において行われる。典型的な水分解電気透析セルは、2つのコンパートメント単位を備える。1価の乳酸塩を含む水性媒体は塩/酸コンパートメント(即ちフィードコンパートメント)に導入される。1価のカチオンは該塩/酸コンパートメントからベースコンパートメントにカチオン交換膜を通して輸送されて、1価の塩基を含む第一溶液を製造する。同時にHイオンは、該塩/酸コンパートメントに輸送されて乳酸及び1価の乳酸塩を含む第二溶液を製造する。
【0036】
水分解電気透析をナトリウム及びカリウムの1価の乳酸塩に適用することが好ましい。乳酸アンモニウムを使用するとき、水酸化アンモニウムの発生から生じる毒性のアンモニアの放出を制御するように注意がはらわれなければならない。水分解電気透析により製造される第二溶液は、乳酸と1価の乳酸塩を含む溶液に分離される。分離は蒸気―液体分離、液体−液体分離及び/又は固体−液体分離により達成され得る。
【0037】
乳酸は、好ましくは蒸気−液体分離により1価の乳酸塩から分離される。蒸気−液体分離は、蒸留又は気化により行われ得る。蒸留は、塩から酸の実質的に完全な分離を与えるから、好ましい。乳酸及び1価の乳酸塩を含む溶液は、蒸留の前に濃縮され得る。蒸留は、好ましくは減圧蒸留ユニットにおいて行われる。乳酸及び乳酸塩の混合物が本明細書に記載されるような部分転化率まで行われる水分解電気透析により得られ、かつマグネシウム塩基が発酵における中和のために使用される状況においては、乳酸塩から乳酸を分離するのに減圧蒸留が特に適切であることが見出される。
【0038】
濃縮及び減圧蒸留のための適切な方法及び/又は装置は、国際公開第01/38283号パンフレットに記載されており、該公報は参照により本願明細書に取り込まれる。蒸留段階は、2以上の蒸留段階を含み、第一蒸留段階は好ましくは80〜150℃、好ましくは100〜140℃、の温度及び50〜250mbar、好ましくは60〜150mbarの圧力において行われ、第二蒸留段階は、好ましくは80〜200℃、好ましくは100〜200℃、の温度及び0.01〜50mbar、好ましくは0.1〜20mbarの圧力において行われる。
【0039】
第一蒸留段階は、1以上のフィルムエバポレーターと蒸留カラムとの組み合わせを含み得、乳酸/乳酸ナトリウムの生成物の流れをなるべく高く濃縮するという目的を果たす。
【0040】
第二蒸留段階もまた1以上のフィルムエバポレーターと1以上の蒸留ユニットとの組み合わせを含む。第二蒸留段階においては、第一蒸留段階の生成物における乳酸の大部分が好ましくは真空下で蒸留され、乳酸の大部分を含むトップフラクションと乳酸ナトリウムを含む蒸留残さ(ボトムフラクション)を形成する。第二蒸留段階は、内部コンデンサーを有する、1以上のショートパス蒸留(SPD)装置において行われ得る。しかし、濃縮された乳酸への不純物のしぶきによる汚染を低下させるために、即ち蒸留された乳酸生成物におけるナトリウムの含有量を最小化するために、上記の国際公開第01/38283号パンフレット(第10頁、第17行〜第11ページ第7行)の図5A及び5Bに記載された減圧蒸留ユニットの使用が好ましい。この特定のセットアップは如何なる飛沫が起きるのも防止するからである。好ましくは、第二蒸留段階は、エバポレーターの底において、充填物及び好ましくは、還流下で操作されることができるように冷却装置を含む減圧蒸留ユニットと直接接続されている又は特別にU字形にされた接続を介して接続されているフィルムエバポレーター(好ましくは、落下フィルム、ワイプされるフィルム又は薄膜エバポレーター)を含む。フィルムエバポレーターにおいて、乳酸は蒸気相に至らせられ、その後、底における接続を通って減圧蒸留に入り、該減圧蒸留において次に乳酸が蒸留される。
【0041】
第一蒸留段階(第一の底のフラクション)からの製造物は、第二蒸留段階を受ける前に、コンディショニング段階(所謂プレフラッシュ)に付されることがさらに好ましい。このコンディショニング段階における圧力は好ましくは第二蒸留において使用される圧力と同じである。この好ましい実施態様は、残量量の水及び溶解されたガスが、該製造物が第二蒸留段階に付される前にのぞかれるという利点を有する。プレフラッシュの使用は、第二蒸留段階においてより純粋な乳酸製造物を得ること及びより安定な操作を達成することが可能であるように、乳酸/乳酸ナトリウムが増加されることを許す。
【0042】
液体−液体分離は、ロードされた溶媒からの乳酸の回収のために、抽出、逆抽出又は他の技術を含み得る。液体−液体分離は、ろ過、例えばウルトラろ過、マイクロろ過、ナノろ過、逆浸透又はデカンテーションをもまた含み得る。
【0043】
固体−液体分離は、結晶化段階を含み得る。例えば乳酸は、分別結晶化により、懸濁物結晶化及び/又は洗浄カラム結晶化により静的結晶ユニットにおいて結晶化され得る。次に、結晶は、溶液結晶の液状相からろ過又は遠心分離により分離され得る。
結晶化は、濃縮段階、例えば水の気化段階、冷却段階及び/又はシーディング段階、及び1以上の洗浄段階を含み得る。固体―液体分離、特に結晶化は、高純度の製造物を保証するために、回収の収率は一般的に低いという欠点を有する。例えば米国特許第2004/0116740号明細書は、第一の結晶化後の乳酸の回収収率は約46%であり、精製因子は15〜20であり、これは結晶化の前及び後の製造物における不純物の量の比である。100〜160の精製因子を達成するためには、第二の結晶化段階が必要とされ、そうすると全体の収率は22%である。
【0044】
分離後に得られる1価の乳酸塩を含む溶液は、典型的には、乳酸及び乳酸塩の合計重量に基づいて少なくとも5重量%の乳酸塩、好ましくは少なくとも30重量%の乳酸塩を含み、水分解電気透析に再循環される。この再循環段階は、水分解電気透析の間の乳酸塩の乳酸への部分転化率の結果として、実質的には収率の損失がない。
【0045】
分離段階f)後に得られた乳酸製造物は、固体の形、液体の形又は溶液であってもよく、一般的に少なくとも95重量%の乳酸、好ましくは少なくとも97重量%の乳酸、より好ましくは少なくとも99重量%の乳酸、さらにより好ましくは少なくとも99.5重量%の乳酸、最も好ましくは少なくとも99.9重量%の乳酸を含む。本発明に従う方法により得られた乳酸は、従って、高純度であり、例えば合成工程、食品用途、及び化粧料用途における直接の使用に適する。
【0046】
得られた乳酸は、ラクチド及び/又はポリ乳酸の製造に特に適切であり、乳酸の重合の間に、不純物、例えば乳酸塩、の存在が乳酸部分の所望されないラセミ化をもたらし、低い品質のラクチド及びポリ乳酸製造品をもたらし得る。例えば、米国特許第5,258,488号は、乳酸における20ppmもの低い量における硫化ナトリウムの存在は、ポリ乳酸製造物の光学的純度に否定的に影響を及ぼすことを示す(実施例1)。
【0047】
当業者に公知の、任意の慣用的な方法が、乳酸を含む出発原料が本明細書に記載の方法により作られるのであれば、ラクチド及び/又はポリ乳酸の該製造のために使用され得る。
【0048】
本明細書に記載された方法は、有利に低いエネルギー消費を伴い、不要な副生物が発生しない、又は実質的に発生しないことを保証する。
【0049】
本発明は、さらに以下の実施例により説明され、それに又はそれにより制限されない。
【実施例】
【0050】
実施例1
乳酸ナトリウム溶液の部分電気透析
電気セル電気透析モジュール(スウェーデン)に、フマテックFBMバイポーラー膜及びネオセプタCMBカチオン交換膜が装着された。2つの電極コンパートメント及び1つのフィードコンパートメントを有するセットアップが使用された。バイポーラー膜及びカチオン交換膜の膜面積は0.01mであった。第一コンパートメントはアノード及びバイポーラー膜のカチオン交換側からなり、第二フィードコンパートメントは、バイポーラー膜のアニオン交換側及びカチオン交換膜からなり、第三コンパートメントは、カチオン交換膜及びカソードからなる。2重量%の硫酸水溶液がアノードコンパートメントを通って循環されて、高い伝導性を保証する。20重量%の乳酸ナトリウム溶液が、フィードとして中央コンパートメントを通って循環された。8重量%の水酸化ナトリウム溶液がカソードコンパートメントを通って循環されて、カソード側において高い伝導度を保証し、製造された水酸化ナトリウムを集めた。3つの溶液が250ml/分における蠕動運動ポンプで、500mlのガラスバッファーから電気透析モジュール上へ循環された。ガラスバッファー容器は二重壁になっており、3つのコンパートメントにわたる温度は温浴を使用して4〜60℃の間に保たれた。硫酸、水酸化ナトリウムは試薬グレードのものであり、Puracの乳酸ナトリウムは、高純度の食品グレード品質のものであった。
【0051】
電気透析の実験は、一定の7.5Aの直流で行われた。実験において、モジュールのフィードコンパートメントにおける乳酸ナトリウム溶液は、カチオン交換膜を通して除去されたナトリウムを通してバッチ式で酸性化されて、カソードコンパートメントにおいて水酸化ナトリウムを形成し、バイポーラー膜により生成されたプロトンは、元の乳酸イオンと一緒に乳酸を形成した。
【0052】
実験は約230分間続き、全ての乳酸塩が転化された。実験の始めに、乳酸ナトリウム溶液は高い伝導度を有しており、電圧は9.5〜10.5Vにおいて相対的に一定であった。180分後、80%の乳酸ナトリウムは乳酸に転化され、残っているナトリウムの含有量は0.84重量%であり、電圧は12Vまで上がった。溶液のpHは初期の6.0から3.1に低下した。210分後に、転化率は94%まで上昇し、残っているナトリウム含有量は0.25重量%に低下し、電圧は16Vに上昇し、pHは2.56に低下した。225分後に、転化率は98%まで上昇し、残っているナトリウム含有量は0.06重量%まで減少し、電圧は22.4Vに上昇し、pHは2.56に低下した。これらの時間間隔における、素早い電圧の上昇はフィード溶液の次第に低下する伝導度の結果である。この電圧の上昇は、残っている乳酸ナトリウムを転化するためのエネルギー消費の素早い上昇をもたらす。これらの結果は、経済的な方法は、電気透析を、98%以下の部分転化率まで行うことによりのみ得られることを示す。
【0053】
180〜210分の時間間隔において、電流及びファラデーの法則に基づく理論的物質のフローで計算された電流の効率及び乳酸塩、乳酸及びナトリウムの分析データーに基づく実際の物質のフローは0.68であった。210〜225の時間間隔において、電流の効率は0.64まで落ち、98%より高い転化率において電流の効率は0.36以下まで落ちた。これは、より高い転化率においてはエネルギーの入力自身が増加することを意味するが、次第に少ない電気エネルギーが転化のために消費されることをも意味する。
【0054】
実施例2
乳酸及び乳酸ナトリウムの溶液からの乳酸の蒸留
乳酸及び乳酸ナトリウムの溶液が、60重量%の食品グレードの乳酸ナトリウム溶液、98.4グラムを49重量%の食品グレードの乳酸溶液、4310グラムに添加することにより製造された。この溶液は、部分転化での電気透析の後に得られ、かつ水の気化により濃縮された乳酸と乳酸ナトリウムとの混合物の代わりである。ガラスの実験室用ショートパス蒸留(SPD)ユニットが使用されて、この溶液をさらに濃縮し、次にそれから乳酸を蒸留した。
【0055】
使用された実験室用SPDユニットは、UIC製のガラスKDL4タイプユニットであった。SPDユニットは、基本的に二重壁のカラムであり、油浴で100℃超までの温度に加熱されることができる。液体(即ち、乳酸塩/乳酸フィード溶液)は、蠕動ポンプでそれをポンプ輸送することによりSPDユニットの頂部にフィードされ得る。SPDユニットは、頂部からポンプ輸送された液体から、SPDユニットカラムの内壁上で液体フィルムが製造され得るように 頂部の撹拌機及びワイパーを装備されている。SPDユニットの頂部は、−60℃におけるコールドフィンガーにより二重壁を通して間接的に冷却されるガラスカラム、オイルで操作される真空ポンプ、並びに真空計及び圧力バルブを有する圧力制御ユニットを含む真空系にもまた接続されている。真空及び高温を適用することにより、乳酸のような、相対的に高い沸騰化合物がフィードから気化されることができる。次に、気化された乳酸はSPDユニットにおいて濃縮されることができ、該ユニットは55℃における水により冷却された内部コンデンサーを装備されている。乳酸は、SPDユニットの内部コンデンサーの直接下に置かれたガラス球に集められることができる。気化されないフィードの部分は、二重壁のSPDカラムの底における側壁上の出口を使用して集められることができる、SPDユニットの内部コンデンサー上でトラップされない蒸気は、コールドフィンガーで操作される真空部分におけるガラスカラムにおいてトラップされる。
【0056】
まず、フィード溶液は脱水のためにSPDユニットの上に導かれた。オイルの温度は120℃であり、真空圧力は100mbarであり、フィード速度は10ml/分であった。SPDユニット内の内部コンデンサーは水道水で作動された。乳酸と乳酸ナトリウムとの336gの脱水された混合物のフラクションが集められ、ただちにSPDユニットの上に再び通された。今オイル温度は130℃であり、真空圧力は6mbarであり、フィードフロー速度は15ml/分であり、SPDユニット内部コンデンサーの内部温度は55℃に冷却された。この第二のSPD段階において、フィードの少なくとも半分が蒸留されて純粋な乳酸として回収された。乳酸の総回収率は(元のフィードに存在する乳酸の総重量に基づいて)、65%であった。この第二段階におけるSPDユニットへのフィードは5500〜6000ppmのナトリウムを含んでいたが、乳酸の製造物は112ppmのナトリウムしか含んでいなかった。即ち約49〜54の精製因子であった。即ち、ショートパス蒸留(SPD)ユニットを使用して、乳酸及び乳酸ナトリウムの元の混合物から乳酸の大部分が、純粋な形で回収されることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳酸の製造方法において、以下の段階、
a)乳酸マグネシウムを含む水性媒体を用意する段階;
b)該乳酸マグネシウムを含む水性媒体に1価の塩基を添加して、水溶性の1価の乳酸塩及び固体のマグネシウム塩基を含む水性媒体を形成する段階;
c)該マグネシウム塩基を該水溶性の1価の乳酸塩を含む水性媒体から分離する段階;
d)該水性媒体中の該1価の乳酸塩の濃度を10〜30重量%の値に調節する段階;
e)該1価の乳酸塩を含む該水性媒体を水分解電気透析に付して、1価の塩基を含む第一溶液及び乳酸及び1価の乳酸塩を含む第二溶液を製造する段階、ここで、該電気透析は、40〜98モル%の部分転化率まで実行される;
f)乳酸及び1価の乳酸塩を含む該第二溶液を、蒸気−液体分離により、乳酸と1価の乳酸塩を含む溶液とに分離する段階;
g)該1価の乳酸塩を含む段階f)の溶液を段階d)に再循環させる段階;
を含む前記方法。
【請求項2】
該蒸気−液体分離が、減圧蒸留ユニットにおいて好ましく行われる蒸留を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
該電気透析が、40〜95モル%、好ましくは50〜95モル%、より好ましくは60〜95モル%、さらにより好ましくは70〜90モル%、さらにより好ましくは80〜90モル%、の部分転化率まで実行される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
該電気透析が、約85%の部分転化率まで実行される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
d)の該水性媒体中の1価の乳酸塩の濃度が、20〜25重量%の値に調節される、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
段階e)の水分解電気透析により製造される1価の塩基を含む第一溶液が、段階b)に再循環される、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
該水分解電気透析が、カチオン交換膜及びバイポーラー膜を備えられた電気透析装置において行われる、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
該乳酸マグネシウムを含む水性媒体が発酵により用意され、該発酵において炭水化物源が微生物によって発酵されて乳酸を形成し、発酵の間に中和剤としてマグネシウム塩基が添加されて、乳酸マグネシウムを与える、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
マグネシウム塩基が水酸化マグネシウムである、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
乳酸マグネシウムを含む水性媒体が、段階b)の前に分離段階に付されて、微生物の細胞物質を除去する、請求項8又は9に記載の方法。
【請求項11】
段階b)における1価の塩基が、ナトリウム、カリウム、リチウム、アンモニウム、モノアルキルアンモニウム、ジアルキルアンモニウム、トリアルキルアンモニウム、又はテトラアルキルアンモニウムカチオン、好ましくはナトリウム又はカリウムカチオン、より好ましくはナトリウムカチオンであるカチオンを含む、請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
分離段階f)後に得られた乳酸が、少なくとも95重量%の乳酸、好ましくは少なくとも97重量%の乳酸、より好ましくは少なくとも99重量%の乳酸、さらにより好ましくは少なくとも99.5重量%の乳酸、最も好ましくは少なくとも99.9重量%の乳酸を含む、請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
ラクチド及び/又はポリ乳酸の製造方法において、請求項1〜12のいずれか1項に記載の方法を使用して乳酸を製造すること及び該乳酸を反応させて、ラクチド及び/又はポリ乳酸を製造することを含む、前記方法。

【公表番号】特表2013−518865(P2013−518865A)
【公表日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−551648(P2012−551648)
【出願日】平成23年2月8日(2011.2.8)
【国際出願番号】PCT/EP2011/051791
【国際公開番号】WO2011/095631
【国際公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【出願人】(504421730)ピュラック バイオケム ビー. ブイ. (6)
【Fターム(参考)】