説明

予混合式ガスエンジンの制御装置および予混合式ガスエンジンの制御方法、ならびに予混合式ガスエンジンシステム

【課題】バイパスラインを有する予混合式ガスエンジンを安定して運転する。
【解決手段】予混合式ガスエンジンシステム100は、燃料ガスと空気とを混合した混合ガスが供給される予混合式ガスエンジンと、制御装置300とを備える。ガスエンジンは、燃焼室111と、燃焼室111への混合ガスの供給量を調整するスロットル弁150と、混合ガスを圧縮してスロットル弁150へ供給する過給機170と、スロットル弁150へ供給される混合ガスの一部を過給機170の吐出経路から過給機170の給気経路へバイパスさせるバイパス弁160とを含む。制御装置300は、ガスエンジンの負荷に応じてスロットル弁150前後の圧力差の目標値を可変に設定して、スロットル弁150の開度が所定範囲内に維持されるようにバイパス弁160の開度を調整する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料ガスと空気とが予め混合されて燃焼室に供給される予混合式ガスエンジンの制御装置および予混合式ガスエンジンの制御方法、ならびに予混合式ガスエンジンシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
化石エネルギーの代替として熱分解ガスや消化ガスなどのバイオガスの有効利用が求められている。バイオガスの利用法の1つとして、バイオガスを燃料としたガスエンジンによる発電システムが注目されている。
【0003】
ガスエンジンにおいて、燃料ガスと燃焼用の空気との比(空燃比)は重要な調整要素である。燃料ガスに対して空気が多すぎれば失火・燃焼変動が発生し、空気が少なすぎれば排気温度上昇・ノッキングといった燃焼異常の現象が発生して、安定して運転を継続できない。このため、予混合式ガスエンジンにおいては、あらかじめ目標とする空燃比を設定し、混合気の量を計測することにより、空燃比を一定に保っている。この場合、空燃比の設定値は、予め決めた代表的な燃料ガスの性状を用いて設定する。
【0004】
たとえば、特開2009−36111号公報(特許文献1)に記載のガスエンジンでは、高カロリーガス(たとえば、LPG(液化天然ガス)、都市ガス)を用いて運転する始動時には、空燃比の目標値は燃料が過不足なく反応するとされる理論空燃比の値に設定される。高カロリーガスから低カロリーガス(バイオガス)に切替えるときには、空燃比の目標値は、理論空燃比の値に設定されるか、もしくは混合気が一気にリーンになってしまい失火する可能性を避けるために理論空燃比の値よりもリッチになるように設定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−36111号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
予混合式ガスエンジンにおいては、燃焼室へ供給される混合ガスの量は、一般的に、スロットル弁の開度を調整することによって行なわれる。また、過給機が吐出する混合ガスの量は、気温などの周囲環境温度によって変化し、特に冬場のような低温の場合には、過給機が吐出する混合ガスの量が多くなるため、スロットル弁はエンジン出力を調整するために、その開度を閉じる。この結果、過給機吐出圧力が高くなり、過給機が吐出する混合ガスの量が急激に減少してしまう、いわゆるサージングが発生する場合がある。
【0007】
このようなサージングを防止するために、スロットル弁への流入側に混合ガスのバイパスラインを設け、バイパス弁の開度を調整することによって混合ガスの一部を逃がし、スロットル弁前後の圧力差(すなわち、スロットル弁へ供給される混合ガスの給気圧力と、スロットル弁から燃焼室へ供給される混合ガスの吐出圧力との差)を制御することで燃焼室へ供給される燃料ガス量を調整する構成が採用される場合がある。
【0008】
上記のようなバイパスラインを有するガスエンジンにおいて、安定した運転状態を確保するためには、スロットル弁およびバイパス弁を適切に制御することが必要となる。
【0009】
本発明は、このような課題を解決するためのなされたものであって、その目的は、バイパスラインを有する予混合式ガスエンジンを安定して運転することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明による予混合式ガスエンジンの制御装置は、燃料ガスと空気とを混合した混合ガスが供給される予混合式ガスエンジンを制御するための制御装置である。ガスエンジンは、混合ガスを燃焼するための燃焼室と、燃焼室への給気経路に設けられ、燃焼室への混合ガスの供給量を調整するためのスロットル弁と、燃焼室からの排気ガスを用いて駆動され、混合ガスを圧縮してスロットル弁へ供給するように構成された過給機と、過給機の吐出経路と過給機への混合ガスの給気経路とを連通させるように配置され、スロットル弁へ供給される混合ガスの一部をバイパスさせるためのバイパス弁とを含む。制御装置は、スロットル弁の給気圧力と吐出圧力との間の圧力差を検出するための圧力検出部と、スロットル弁の開度が予め定められた所定範囲内に維持されるように、ガスエンジンの負荷に応じて圧力差の目標値を可変に設定するとともに、圧力差が設定された目標値となるようにバイパス弁の開度を調整する制御部とを備える。
【0011】
好ましくは、制御部は、ガスエンジンの始動時に用いる圧力差の目標値を、ガスエンジンの運転中に用いる圧力差の目標値よりも高い値に設定する。
【0012】
好ましくは、制御部は、ガスエンジンの始動時に用いる圧力差の目標値を、50〜70kPaの範囲で設定する。
【0013】
好ましくは、制御部は、ガスエンジンの運転中に用いる圧力差の目標値を、ガスエンジンの負荷率が高い場合には、負荷率が低い場合の値以上に設定する。
【0014】
好ましくは、制御部は、ガスエンジンの運転中に用いる圧力差の目標値を、10〜35kPaの範囲で設定する。
【0015】
好ましくは、スロットル弁の開度についての所定範囲は、スロットル弁の特性において、制御感度が相対的に高くなる範囲に設定される。
【0016】
好ましくは、スロットル弁の開度についての所定範囲は、スロットル弁を全開にした場合の開度の30〜60%に設定される。
【0017】
好ましくは、スロットル弁の開度についての所定範囲は、スロットル弁を全開にした場合の開度の40〜45%に設定される。
【0018】
好ましくは、制御部は、バイパス弁の開度をフィードバック制御により制御し、圧力差の目標値を可変に設定する場合は、圧力差の目標値を固定値とする場合に比べて、フィードバック制御に用いるゲインを小さく設定する。
【0019】
好ましくは、制御部は、PID制御によりフィードバック制御を実行する。制御部は、ゲインとして、比例ゲイン、積分ゲイン、および微分ゲインを用い、比例ゲインを0.01〜0.1の範囲で設定する。
【0020】
好ましくは、制御部は、PID制御によりフィードバック制御を実行する。制御部は、ゲインとして、比例ゲイン、積分ゲイン、および微分ゲインを用い、積分ゲインを0.01〜0.1の範囲で設定する。
【0021】
好ましくは、制御部は、PID制御によりフィードバック制御を実行する。制御部は、ゲインとして、比例ゲイン、積分ゲイン、および微分ゲインを用い、微分ゲインを1〜100の範囲で設定する。
【0022】
好ましくは、制御部は、PID制御によりフィードバック制御を実行する。制御部は、ゲインとして、比例ゲイン、積分ゲイン、および微分ゲインを用い、比例ゲインを0.05に設定し、積分ゲインを0.05に設定し、微分ゲインを98に設定する。
【0023】
本発明による予混合式ガスエンジンの制御方法は、燃料ガスと空気とを混合した混合ガスが供給される予混合式ガスエンジンについての制御方法である。ガスエンジンは、混合ガスを燃焼するための燃焼室と、燃焼室への給気経路に設けられ、燃焼室への混合ガスの供給量を調整するためのスロットル弁と、燃焼室からの排気ガスを用いて駆動され、混合ガスを圧縮してスロットル弁へ供給するように構成された過給機と、過給機の吐出経路と過給機への混合ガスの給気経路とを連通させるように配置され、スロットル弁へ供給される混合ガスの一部をバイパスさせるためのバイパス弁とを含む。制御方法は、スロットル弁の給気圧力と吐出圧力との間の圧力差を検出するステップと、スロットル弁の開度が予め定められた所定範囲内に維持されるように、ガスエンジンの負荷に応じて圧力差の目標値を可変に設定するステップと、圧力差が設定された目標値となるようにバイパス弁の開度を調整するステップとを備える。
【0024】
本発明による予混合式ガスエンジンシステムは、燃料ガスと空気とを混合した混合ガスが供給される予混合式ガスエンジンと、ガスエンジンを制御するための制御装置とを備える。ガスエンジンは、混合ガスを燃焼するための燃焼室と、燃焼室への給気経路に設けられ、燃焼室への混合ガスの供給量を調整するためのスロットル弁と、燃焼室からの排気ガスを用いて駆動され、混合ガスを圧縮してスロットル弁へ供給するように構成された過給機と、過給機の吐出経路と過給機への混合ガスの給気経路とを連通させるように配置され、スロットル弁へ供給される混合ガスの一部をバイパスさせるためのバイパス弁とを含む。制御装置は、スロットル弁の給気圧力と吐出圧力との間の圧力差を検出するための圧力検出部と、スロットル弁の開度が予め定められた所定範囲内に維持されるように、ガスエンジンの負荷に応じて圧力差の目標値を可変に設定するとともに、圧力差が設定された目標値となるようにバイパス弁の開度を調整する制御部とを含む。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、バイパスラインを有する予混合式ガスエンジンを安定して運転することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本実施の形態に従う予混合式ガスエンジンシステムの全体ブロック図である。
【図2】バタフライ弁の流量特性の一例を示す図である。
【図3】本実施の形態に従う予混合式ガスエンジンシステムにおける制御装置の構成の一例を示す機能ブロック図である。
【図4】図3の空燃比制御部の記憶部に記憶される空気過剰率の設定テーブルの一例を示す図である。
【図5】図3の圧力制御部の記憶部に記憶される目標圧力差の設定マップの一例を示す図である。
【図6】図3の圧力制御部の制御信号生成部で実行されるフィードバック制御を説明するための図である。
【図7】本実施の形態において、圧力制御部で実行されるスロットル弁の圧力差制御処理を説明するためのフローチャートである。
【図8】図7のS130における圧力差目標値演算処理の詳細の一例を示すフローチャートである。
【図9】本実施の形態に従う圧力差制御処理における、始動時圧力差設定制御を適用した場合の効果を説明するための図である。
【図10】本実施の形態に従う圧力差制御処理における、負荷に応じた圧力差設定制御を適用した場合の効果を説明するための第1の図である。
【図11】本実施の形態に従う圧力差制御処理における、負荷に応じた圧力差設定制御を適用した場合の効果を説明するための第2の図である。
【図12】本実施の形態に従う圧力差制御処理における、フィードバック制御におけるゲイン変更制御を適用した場合の効果を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、この発明の実施の形態について図面を参照して詳しく説明する。なお、同一または相当する部分には同一の参照符号を付して、その説明を繰返さない。
【0028】
[予混合ガスエンジンシステムの基本構成]
図1は、本実施の形態に従う予混合式ガスエンジンシステム100の全体ブロック図である。予混合式ガスエンジンシステム100は、ガスエンジンを構成する、エンジン本体部110と、エアフィルタ120と、燃料ガス量調整器130と、ミキサ140と、スロットル弁150と、バイパス弁160と、過給機170とを備える。また、予混合式ガスエンジンシステム100は、ガスエンジンを制御するための制御装置を形成する、制御部310と、圧力計340,350とを備える。制御部310は、空燃比制御部320と、圧力制御部330とを含む。
【0029】
ガスエンジンは、燃料ガスと空気とが予め混合された混合ガスが燃焼室111に吸入される予混合式のガスエンジンである。本実施の形態におけるガスエンジンにおいては、燃料ガスとして熱分解ガスや消化ガスなどのバイオガスを用いることができる。吸入された混合ガスは、燃焼室111内で点火されて燃焼し、発生する熱エネルギによってピストン112を駆動する。ガスエンジンの出力軸(図示せず)は、たとえば発電機(図示せず)に結合され、ガスエンジンの駆動力を用いて発電が行なわれる。
【0030】
ミキサ140は、エアフィルタ120を通して供給される空気と、燃料ガス量調整器130で調整された燃料ガスとを混合して混合ガスを生成する。エアフィルタ120は、ミキサ140に供給する空気に含まれるゴミなどを除去する。燃料ガス量調整器130は、空燃比制御部320からの制御信号GSRによって制御され、外部の燃料タンク(図示せず)等から供給される燃料ガスの流量を調整する。
【0031】
過給機170は、排気タービン駆動式の過給機(いわゆる、ターボチャージャ)である。過給機170は、たとえば、同じ回転軸に結合されたタービン171およびコンプレッサ172を含む。タービン171は、燃焼室111から排出された排気ガスによって回転する。コンプレッサ172は、タービン171が回転することに連動して回転し、ミキサ140で生成された混合ガスを加圧して、スロットル弁150を介して燃焼室111へ供給する。
【0032】
スロットル弁150は、過給機170のコンプレッサ172と燃焼室111との間の、混合ガスの流れる経路に設けられる。スロットル弁150は、エンジン本体部110の出力に応じて開度を調整し、燃焼室111へ供給する混合ガスの流量を調整する。
【0033】
バイパス弁160は、コンプレッサ172からスロットル弁150への混合ガスの吐出経路と、ミキサ140からコンプレッサ172への混合ガスの流入経路とを連通させる経路(バイパスライン)に設けられる。バイパス弁160が開かれると、コンプレッサ172からスロットル弁150へ供給される混合ガスの一部が、バイパス弁160を通って、コンプレッサ172の流入側の経路へバイパスされる。このバイパス弁160の開度を制御することによって、スロットル弁150へ供給される混合ガスの流入圧力を調整することができる。
【0034】
制御部310に含まれる空燃比制御部320および圧力制御部330は、いずれも図1には図示しないがCPU(Central Processing Unit)、記憶装置および入出力バッファを含む。空燃比制御部320および圧力制御部330は、各センサ等からの信号の入力に基づいて各機器への制御信号の出力を行なって、ガスエンジンの各機器を制御する。なお、これらの制御については、ソフトウェアによる処理に限られず、専用のハードウェア(電子回路)で処理することも可能である。
【0035】
空燃比制御部320は、エンジン本体部110の回転速度NREおよび負荷率(定格出力に対する現在のエンジン出力の比率)LDRに応じた空気過剰率を設定する。空燃比制御部320は、燃料ガスの種類に応じて予め設定される理論空気量に上記空気過剰率を乗じることによって空燃比の目標値を設定する。そして、空燃比制御部320は、圧力計350によって検出された圧力から混合ガスの流量を算出し、さらに現在の供給ガス量から空気量を算出することにより、実際の空燃比が設定された空燃比の目標値となるように、燃料ガス量調整器130への制御信号GSRを生成する。この制御信号GSRに基づいて燃料ガス量調整器130が制御されて、燃料ガスの流量が調整される。
【0036】
圧力計340は、スロットル弁150の流入側の経路に設けられ、スロットル弁150へ供給される混合ガスの圧力(すなわち、過給機170の吐出圧)を検出し、その検出値PINを圧力制御部330へ出力する。圧力計350は、スロットル弁150の吐出側の経路に設けられ、スロットル弁150から燃焼室111へ供給される混合ガスの圧力を検出し、その検出値POUTを圧力制御部330へ出力する。
【0037】
圧力制御部330は、圧力計340,350で検出されたスロットル弁150の流入圧力PINおよび吐出圧力POUTを受ける。圧力制御部330は、これら情報に基づいて、制御信号SIGを生成してバイパス弁160の開度を制御する。
【0038】
[ガスエンジンシステムの問題点]
予混合式ガスエンジンシステムにおいては、上述のように、燃焼室へ供給される混合ガスの量は、スロットル弁の開度を調整することによって行なわれる。過給機が吐出する混合ガスの量は、気温などの周囲環境温度によって変化し、夏場のように温度が高くなると過給機が吐出する混合ガスの量が減少する。そうすると、スロットル弁はエンジン出力を調整するために、その開度を開ける。それでも混合ガスが足りないと、エンジン出力が低下する場合がある。逆に、冬場のような低温の場合には、過給機が吐出する混合ガスの量が多くなる。そうすると、スロットル弁はエンジン出力を調整するために、その開度を閉じる。この結果、過給機吐出圧力が高くなり、過給機から供給される混合ガスが急激に減少してしまう、いわゆるサージングが発生する場合がある。
【0039】
このようなサージングを防止するために、図1のように、スロットル弁への流入側に混合ガスのバイパスラインを設ける構成とし、バイパス弁の開度を調整することによって混合ガスの一部を逃がして過給機吐出圧力を低減する手法が採用される場合がある。
【0040】
スロットル弁としては、たとえば、バタフライ弁が用いられる場合がある。このバタフライ弁の開度に対する流量特性は、図2に示されるように、一般的に弁開度が中央付近の領域AR1(30〜60%)であるときに、開度変化量に対する流量変化量が大きく(すなわち、制御感度が高く)、制御性が良くなる特性を有している。逆に、弁開度が小さい場合(0〜30%)あるいは、弁開度が大きい場合(60〜100%)では、相対的に制御感度が低くなる。そのため、負荷変動に対して応答よく混合ガスの流量を調整する場合には、スロットル弁の制御性が高くなる動作範囲(30〜60%)を使用することが望ましい。また、特に、弁開度が40〜45%の動作範囲となるようにすることがより好ましい。
【0041】
混合ガスの流量は、エンジン出力によって概ね決まる。また、同じ混合ガス量であれば、スロットル弁前後の圧力差によって、スロットル弁の開度は概ね決まる。図1に示したようなバイパスラインを有するガスエンジンにおける混合ガスの流量制御においては、スロットル弁前後の圧力差を、バイパス弁開度を調整することによって所定の圧力差(固定値)になるように制御し、負荷変動に応じてスロットル弁の開度を調整する手法が採用される場合がある。
【0042】
しかしながら、このような場合においては、圧力差の設定を低負荷状態に適合させたときには高負荷時にスロットル開度が開きすぎ、また高負荷状態に適合させたときには低負荷時にスロットル開度が閉じすぎるといった状態となり、エンジンの負荷状態の全域にわたって、スロットル弁の制御性が高くなる動作範囲を使用することができなくなる。そうすると、エンジンの安定した運転状態を保つことができない場合が生じ得る。
【0043】
また、ガスエンジンの始動の際にもバイパス弁が開いてしまうため、エンジンの始動に必要な混合ガス量が十分に確保できず、エンジンの回転上昇や負荷上昇ができなくなったりする場合もあり得る。
【0044】
そのため、本実施の形態においては、負荷状態に応じてスロットル弁前後の圧力差を可変に設定し、それによって、エンジンの負荷状態の全域にわたって、スロットル弁を制御性が高くなる動作範囲で使用する混合ガスの流量制御を行なう。
【0045】
[制御構成の説明]
図3は、本実施の形態に従う予混合式ガスエンジンシステム100における制御装置300の構成の一例を示す機能ブロック図であり、特に、空燃比制御部320および圧力制御部330の詳細な構成が示される。図3に示される各機能ブロックは、ハードウェア的あるいはソフトウェア的な処理によって実現される。
【0046】
図1および図3を参照して、空燃比制御部320は、空気過剰率設定部321と、記憶部322と、制御信号生成部323とを含む。
【0047】
空気過剰率設定部321は、図示しないエンジン制御部から、エンジン本体部110の回転速度NREおよび負荷率LDRを受ける。空気過剰率設定部321は、これらの情報に基づいて、記憶部322に予め記憶された図4のような設定テーブル、あるいは設定マップを用いて、空気過剰率AIRを設定する。そして、空気過剰率設定部321は、設定された空気過剰率AIRを制御信号生成部323へ出力する。
【0048】
制御信号生成部323は、空気過剰率設定部からの空気過剰率AIRと、圧力計350によって検出された圧力POUTとを受ける。制御信号生成部323は、圧力POUTから、燃焼室111へ供給される混合ガスの流量FLWを算出する。また、制御信号生成部323は、燃料ガスの種類によって予め定められた理論空気量と空気過剰率AIRとから目標となる空燃比を決定する。そして、制御信号生成部323は、算出した流量FLWと現在の供給ガス量から求めた空気量に応じて、算出した空燃比が得られるように、燃料ガス量調整器130から供給される燃料ガスの流量を調整するための制御信号GSRを生成する。
【0049】
圧力制御部330は、目標圧力差設定部331と、記憶部332と、圧力差演算部333と、開度設定部334と、制御信号生成部335とを含む。
【0050】
目標圧力差設定部331は、エンジン制御部(図示せず)からの負荷率LDRを受ける。目標圧力差設定部331は、この負荷率LDRに基づいて、記憶部332に予め記憶された設定テーブルあるいは設定マップを用いて目標圧力差ΔPRを設定し、その設定値を開度設定部334へ出力する。
【0051】
図5は、記憶部332に記憶される目標圧力差ΔPRの設定マップの一例を示す図である。図5の設定マップにおいては、負荷率LDRがL0(=0%)からL5(=100%)までの6点に対応する、圧力差目標値ΔPR P0からP5が設定されている。そして、たとえば、取得した負荷率LDRが、L1とL2との間のLxである場合には、目標値はP1とP2とを直線補完した直線上の点に対応した値(図5中のPx)として算出される。なお、図5の設定マップは一例であり、圧力差目標値ΔPRはエンジン本体部110の特性に応じて任意に設定可能である。また、図5のようなマップに代えて、所定の演算式や、図4に示したような設定テーブルを用いて設定するようにしてもよい。
【0052】
再び図3を参照して、圧力差演算部333は、圧力計340,350でそれぞれ検出された圧力PIN,POUTから、スロットル弁150前後の実際の圧力差ΔPAを演算する。圧力差演算部333は、演算により求めた圧力差ΔPAを開度設定部334へ出力する。
【0053】
開度設定部334は、目標圧力差設定部331からの圧力差目標値ΔPRと、圧力差演算部333からの圧力差の実績値ΔPAを受ける。開度設定部334は、圧力差目標値ΔPRと実際の圧力差ΔPAに基づいて、PID制御(比例積分微分制御)を用いたフィードバック制御を行ない、バイパス弁160の開度目標値OPRを設定し、その設定値を制御信号生成部335へ出力する。
【0054】
制御信号生成部335は、開度設定部334からの開度目標値OPRに基づいて、バイパス弁160を駆動するための制御信号SIGを生成する。
【0055】
図6は、制御信号生成部335で実行されるフィードバック制御を説明するための図である。図3および図6を参照して、制御信号生成部335は、減算部200と、係数部210,220,230と、積分部240と、微分部250と、加算部260とを含む。
【0056】
減算部200は、目標圧力差設定部331で設定された圧力差目標値ΔPRから、圧力差演算部333で検出された圧力差ΔPAを減じて、それらの偏差を算出する。係数部210は、算出された偏差に比例ゲイン(1/Kp)を乗じる。係数部220は、算出された偏差に積分ゲイン(1/Ki)を乗じる。そして、係数部220の出力は、積分部240によって積分される。係数部230は、算出された偏差に微分ゲイン(Kd)を乗じる。係数部230の出力は、微分部250によって微分される。加算部260は、係数部210、積分部240、および微分部250からの出力を加算することによって、バイパス弁160を駆動するための制御信号SIGを生成する。
【0057】
以上の操作によって、設定された開度目標値OPRに応じた制御信号SIGが設定される。
【0058】
図7は、本実施の形態において、圧力制御部330で実行されるスロットル弁150の圧力差制御処理を説明するためのフローチャートである。図7および以降に説明する図8に示すフローチャートは、圧力制御部330に予め格納されたプログラムがメインルーチンから呼び出されて、所定周期で実行されることによって処理が実現される。あるいは、一部のステップについては、専用のハードウェア(電子回路)を構築して処理を実現することも可能である。
【0059】
図1および図7を参照して、圧力制御部330は、ステップ(以下、ステップをSと略す。)100にて、フィードバックゲインKp,Ki,Kdを設定する。このときのフィードバックゲインKp,Ki,Kdは、負荷率にかかわらず圧力差を固定値に設定する場合に比べて低く設定することが好ましい。これは、本実施の形態の圧力差制御においては、スロットル弁150を制御感度の高い動作範囲で使用するため、これらのフィードバックゲインKp,Ki,Kdを高めに設定した場合には高応答になりすぎて、かえってハンチング等が生じて不安定となることを抑制するためである。
【0060】
フィードバックゲインKp,Ki,Kdの設定値としては、たとえば、圧力差を固定値に設定する場合がKp=1,Ki=1,Kd=100であるとしたときには、本制御においては、Kp=0.01〜0.1,Ki=0,01〜0.1,Kd=1〜100の範囲で設定することが好ましい。さらに好ましくは、Kp=0.05,Ki=0.05,Kd=98と設定するようにしてもよい。
【0061】
その後、圧力制御部330は、S110にて、エンジン本体部110が起動中であるか否かを判定する。なお、エンジン起動中には、エンジン本体部110の起動開始(始動)の場合および運転継続中の場合が含まれる。
【0062】
エンジン本体部110が起動中でない場合(S110にてNO)は、当該圧力差制御は必要ないので、圧力制御部330は以降の処理をスキップして処理を終了する。
【0063】
エンジン本体部110が起動中の場合(S110にてYES)は、S120に処理が進められ、圧力制御部330は、現在のエンジン本体部110の負荷率LDRを取得する。そして、圧力制御部330は、S130にて、取得した負荷率LDRを用いて、負荷率LDRに応じた圧力差目標ΔPRを演算する。S130の詳細な制御は、図8にて後述する。
【0064】
その後、圧力制御部330は、S140にて、圧力計340,350でそれぞれ検出された圧力検出値PIN,POUTから現在の実圧力差ΔPAを演算する。そして、圧力制御部330は、S150にて、圧力差目標値ΔPRおよび実圧力差ΔPAを用いてバイパス弁160の開度指令値を演算するとともに、図6で示したようなフィードバック制御を行なって、バイパス弁160の開度を制御する。
【0065】
そして、圧力制御部330は、処理をS160に進めて、エンジン本体部110が停止されたか否かを判定する。
【0066】
エンジン本体部110が停止されておらず、運転が継続される場合(S160にてNO)は、処理がS120に戻されて、圧力制御部330は、負荷率LDRに応じたバイパス弁160の開度制御を継続する。
【0067】
エンジン本体部110が停止された場合(S160にてYES)は、圧力制御部330は、当該処理を終了する。
【0068】
次に、図8を用いて、図7のステップS130における圧力差目標値ΔPRの演算処理の詳細を説明する。なお、図8においては、図5で示した設定マップを用いる場合を例として説明する。
【0069】
図8を参照して、圧力制御部330は、S200にて、図7のS120で取得した負荷率LDRがL5以上(LDR≧L5)であるか否かを判定する。
【0070】
負荷率LDRがL5以上の場合(S200にてYES)は、処理がS205に進められて、圧力制御部330は、圧力差目標値ΔPRをP5に設定する。そして、圧力制御部330は、処理を図7のS140へ進める。
【0071】
負荷率LDRがL5未満の場合(S200にてNO)は、処理がS210に進められ、圧力制御部330は、負荷率LDRがL4以上L5未満(L4≦LDR<L5)であるか否かを判定する。
【0072】
負荷率LDRがL4以上L5未満である場合(S210にてYES)は、処理がS215に進められ、圧力制御部330は、図5の点A4と点A5とを直線補完した直線上における、取得した負荷率LDRに対応する圧力差目標値ΔPRを、以下の式(1)によって演算し、その後、処理をS140に進める。
【0073】
ΔPR={(P5−P4)/(L5−L4)}・(LDR−L4)+P4 … (1)
負荷率LDRがL4未満である場合(S210にてNO)は、処理がS220に進められ、圧力制御部330は、負荷率LDRがL3以上L4未満(L3≦LDR<L4)であるか否かを判定する。
【0074】
負荷率LDRがL3以上L4未満である場合(S220にてYES)は、処理がS225に進められ、圧力制御部330は、圧力差目標値ΔPRを、以下の式(2)によって演算し、その後、処理をS140に進める。
【0075】
ΔPR={(P4−P3)/(L4−L3)}・(LDR−L3)+P3 … (2)
負荷率LDRがL3未満である場合(S220にてNO)は、処理がS230に進められ、圧力制御部330は、負荷率LDRがL2以上L3未満(L2≦LDR<L3)であるか否かを判定する。
【0076】
負荷率LDRがL2以上L3未満である場合(S230にてYES)は、処理がS235に進められ、圧力制御部330は、圧力差目標値ΔPRを、以下の式(3)によって演算し、その後、処理をS140に進める。
【0077】
ΔPR={(P3−P2)/(L3−L2)}・(LDR−L2)+P2 … (3)
負荷率LDRがL2未満である場合(S230にてNO)は、処理がS240に進められ、圧力制御部330は、負荷率LDRがL1以上L2未満(L1≦LDR<L2)であるか否かを判定する。
【0078】
負荷率LDRがL1以上L2未満である場合(S240にてYES)は、処理がS245に進められ、圧力制御部330は、圧力差目標値ΔPRを、以下の式(4)によって演算し、その後、処理をS140に進める。
【0079】
ΔPR={(P2−P1)/(L2−L1)}・(LDR−L1)+P1 … (4)
負荷率LDRがL1未満である場合(S240にてNO)は、処理がS250に進められ、圧力制御部330は、圧力差目標値ΔPRを、以下の式(5)によって演算し、その後、処理をS140に進める。
【0080】
ΔPR={(P1−P0)/(L1−L0)}・(LDR−L0)+P0 … (5)
ここで、負荷率LDRが0%の場合はエンジン本体部110の始動時を示しており、このときの圧力目標値ΔPRは、負荷率LDRがゼロより大きいエンジン本体部110の運転中に比べて大きく設定される。これは、上述の問題点において説明したように、エンジン始動時にバイパス弁160が開いてしまうことによって、燃焼室111へ供給される混合ガス量が少なくなり、それによってエンジンが適切に始動ができなくなることを防止するためである。すなわち、圧力目標値ΔPRを大きくすることでバイパス弁160を閉止状態とする。
【0081】
圧力差目標値ΔPRは、たとえば、エンジン運転中(P1〜P5)は約10〜35kPaの範囲で適宜設定され、一方エンジン始動時(P0)は約50〜70kPaの範囲で設定される。より好ましくは、エンジン始動時の圧力差目標値ΔPRは、約60kPaに設定される。
【0082】
なお、図8に示されたステップS130の処理については、採用される設定マップや設定式、設定テーブルに応じて適宜変更される。
【0083】
以上のような処理に従って制御を行なうことによって、混合ガスのバイパスラインを有する過給機付きの予混合式ガスエンジンシステムにおいて、スロットル弁の給気圧力と吐出圧力との圧力差の目標値をガスエンジンの負荷に応じて可変に設定し、圧力差が目標値となるようにバイパス弁の開度を調整することができる。これによって、ガスエンジン始動時の混合ガス量を確保できるとともに、ガスエンジン運転中は、制御感度の高い範囲でスロットル弁の開度が維持されるので、始動時および負荷変動が生じた場合でも応答よく、かつ安定した運転をすることが可能となる。
【0084】
[本実施の形態を適用した場合の実行例]
以下、図9から図12を用いて、本実施の形態を適用した場合の効果について説明する。これらの図は、本実施の形態の制御を適用した場合と、制御の一部を適用しない比較例の場合とを比較したシミュレーションの結果を示したものである。
【0085】
なお、図9から図12においては、横軸には時間が示され、縦軸には、圧力差の目標値ΔPRと実績値ΔPA(上段)、スロットル弁およびバイパス弁の弁開度(中段)、および、エンジン回転数と発電電力(下段)が示される。また、図中において、実線は本実施の形態の制御を適用した場合であり、破線は比較例の場合を示す。
【0086】
(始動時の圧力差目標値設定の効果)
図9は、エンジン始動時の圧力差目標値ΔPRを、本実施の形態の制御のように他の運転中よりも高く設定した場合、および他の運転中と同程度とした比較例の場合のシミュレーション結果を示す図である。
【0087】
図9を参照して、時刻0においてエンジンが始動されるが、このとき比較例では圧力差目標値ΔPRが上段のグラフにおける破線W11のように、実線W10と比べて低く設定されている。
【0088】
そして、エンジンが始動されると、バイパス弁開度について、本実施の形態の制御を適用した場合(中段の実線W16)に比べて比較例(中段の破線W17)のほうが、早く動き出している。これによって、混合ガスがバイパスされてスロットル弁への混合ガスの流入量が減少するために、スロットル弁前後の圧力差ΔPAの上昇が遅れる(上段の破線W13)。
【0089】
これに応答して、燃焼室へ供給する混合ガス量を増加させるためにスロットル弁開度量が増加されるが、スロットル弁開度が開度上限ULにまで達してしまい(中段の破線W15)、結果として、始動直後のガスエンジンの出力が低い状態で停滞してしまう(下段の破線W20)。
【0090】
これに対して、本実施の形態の制御を適用した場合には、始動時の圧力差目標値ΔPRが高く、エンジン始動直後のバイパス弁の開度が緩やかに増加するので(中段の実線W16)、圧力差ΔPAが迅速に立ち上がる(上段の実線W12)。そして、スロットル弁開度が上限に達することなく制御感度が相対的に高い範囲で動作する(中段の実線W14)。これによって、始動直後におけるエンジン出力の停滞が抑制される。
【0091】
(負荷に応じた圧力差目標値設定の効果−1)
図10は、本実施の形態の制御のように負荷に応じて圧力差目標値ΔPRを変化させた場合、および圧力差目標値ΔPRを低負荷時に適合させたときの値に固定した比較例の場合のシミュレーション結果を示す図である。なお、差異を明確にするために、比較例における始動時の圧力差目標値ΔPRは、本実施の形態と同様に設定している。
【0092】
図10を参照して、エンジン始動後、エンジン出力が低い低負荷時においては、圧力差目標値ΔPRが適切に設定されているために、本実施の形態の制御と同様の挙動を示している。しかしながら、圧力差目標値ΔPRが低負荷時に適合されているため、負荷が増加するに連れて、圧力目標値ΔPRが最適な値よりも低くなってしまう(上段の破線W31)。これに応答して、スロットル弁への給入圧力を低下させるために、最適な状態に比べてバイパス弁開度が大きくなる(中段の破線W37)。
【0093】
そうすると、混合ガス量を増加させるためにスロットル弁開度が大きくなり、開度上限ULに到達する(中段の破線W35)。これによって、必要とされる混合ガス量が確保できなくなり、エンジン出力が低下する(下段の破線W40)。
【0094】
これに対して、本実施の形態の制御を適用した場合には、高負荷時における圧力差目標値ΔPRが低負荷時に比べて高く設定されるので(上段の実線W30)、高負荷時のバイパス弁の開度が大きくなることが抑制される(中段の実線W36)。そして、スロットル弁開度が上限に達することなく制御感度が相対的に高い範囲で動作する(中段の実線W34)。これによって、高負荷時のエンジン出力の停滞が抑制される(下段の実線W39)。
【0095】
(負荷に応じた圧力差目標値設定の効果−2)
図11は、本実施の形態の制御のように負荷に応じて圧力差目標値ΔPRを変化させた場合、および圧力差目標値ΔPRを高負荷時に適合させたときの値に固定した比較例の場合のシミュレーション結果を示す図である。
【0096】
図11を参照して、この場合には、圧力差目標値ΔPRが高負荷時に適合されているので、低負荷時においては最適な目標値に比べて高い目標値に設定される(上段の破線W51)。そのため、高負荷の状態においては最適な制御がなされるが、エンジン始動直後の低負荷時においては、バイパス弁開度が小さく設定され(中段の破線W57)、実際の圧力差ΔPAが大きくなる(上段の破線W53)。そして、燃焼室への混合ガス量を低下させるためにスロットル弁開度が小さく設定される(中段の破線W55)。これによって、スロットル弁の動作範囲が制御感度の低い領域となってしまうため、エンジン出力が不安定になる(下段の破線W60)。
【0097】
これに対して、本実施の形態の制御を適用した場合には、低負荷時における圧力差目標値ΔPRが高負荷時に比べて低く設定されるので(上段の実線W50)、低負荷時のバイパス弁の開度が小さくなることが抑制され(中段の実線W56)、スロットル弁開度低下させられることなく制御感度が相対的に高い範囲で動作する(中段の実線W54)。これによって、高負荷時のエンジン出力の停滞が抑制される(下段の実線W59)。
【0098】
(フィードバックゲイン低減の効果)
図12は、本実施の形態の制御のようにフィードバックゲインを低下させた場合、およびフィードバックゲインを高く設定した比較例の場合のシミュレーション結果を示す図である。
【0099】
図12を参照して、圧力差目標値ΔPRについては、比較例の場合も本実施の形態における制御の場合と同じであるが(上段のW70,W71)、比較例においてはフィードバックゲインが高く設定されているために、バイパス弁開度の変化が早く、過制御となってハンチング状態となる(中段の破線W77)。これによって、実際の圧力差ΔPAも振動的に変化する(上段の破線W73)。そうすると、この圧力差ΔPAの変動に応答してスロットル弁開度が変動し(中段の破線W75)、結果としてエンジン出力についても不安定な状態となる(下段の破線W80)。
【0100】
これに対して、本実施の形態の制御を適用した場合には、フィードバックゲインを小さく設定することによって、バイパス弁開度が過制御状態となることが防止されるので(中断の実線W76)、実際の圧力差およびスロットル弁開度の変動が抑制されて(上段の実線W72,中段の実線W74)、エンジン出力のハンチングが抑制される(下段の実線W80)。
【0101】
以上説明したように、混合ガスのバイパスラインを有する過給機付きの予混合式ガスエンジンシステムに、本実施の形態の制御を適用することによって、当該制御を適用しない場合と比較して、より安定したガスエンジンの運転を可能とすることができる。
【0102】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものでないと考えられるべきである。この発明の範囲は上記した説明ではなくて請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0103】
100 ガスエンジンシステム、110 エンジン本体部、111 燃焼室、112 ピストン、120 エアフィルタ、130 燃料ガス量調整器、140 ミキサ、150 スロットル弁、160 バイパス弁、170 過給機、171 タービン、172 コンプレッサ、200 減算部、210,220,230 係数部、240 積分部、250 微分部、260 加算部、300 制御装置、310 制御部、320 空燃比制御部、321 空気過剰率設定部、322,332 記憶部、323,335 制御信号生成部、330 圧力制御部、331 目標圧力差設定部、333 圧力差演算部、334 開度設定部、340,350 圧力計。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料ガスと空気とを混合した混合ガスが供給される予混合式ガスエンジンを制御するための制御装置であって、
前記ガスエンジンは、
前記混合ガスを燃焼するための燃焼室と、
前記燃焼室への給気経路に設けられ、前記燃焼室への前記混合ガスの供給量を調整するためのスロットル弁と、
前記燃焼室からの排気ガスを用いて駆動され、前記混合ガスを圧縮して前記スロットル弁へ供給するように構成された過給機と、
前記過給機の吐出経路と前記過給機への前記混合ガスの給気経路とを連通させるように配置され、前記スロットル弁へ供給される前記混合ガスの一部をバイパスさせるためのバイパス弁とを含み、
前記制御装置は、
前記スロットル弁の給気圧力と吐出圧力との間の圧力差を検出するための圧力検出部と、
前記スロットル弁の開度が予め定められた所定範囲内に維持されるように、前記ガスエンジンの負荷に応じて前記圧力差の目標値を可変に設定するとともに、前記圧力差が設定された目標値となるように前記バイパス弁の開度を調整する制御部とを備える、予混合式ガスエンジンの制御装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記ガスエンジンの始動時に用いる前記圧力差の目標値を、前記ガスエンジンの運転中に用いる前記圧力差の目標値よりも高い値に設定する、請求項1に記載の予混合式ガスエンジンの制御装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記ガスエンジンの始動時に用いる前記圧力差の目標値を、50〜70kPaの範囲で設定する、請求項2に記載の予混合式ガスエンジンの制御装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記ガスエンジンの運転中に用いる前記圧力差の目標値を、前記ガスエンジンの負荷率が高い場合には、前記負荷率が低い場合の値以上に設定する、請求項1または2に記載の予混合式ガスエンジンの制御装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記ガスエンジンの運転中に用いる前記圧力差の目標値を、10〜35kPaの範囲で設定する、請求項4に記載の予混合式ガスエンジンの制御装置。
【請求項6】
前記スロットル弁の開度についての前記所定範囲は、前記スロットル弁の特性において、制御感度が相対的に高くなる範囲に設定される、請求項1に記載の予混合式ガスエンジンの制御装置。
【請求項7】
前記スロットル弁の開度についての前記所定範囲は、前記スロットル弁を全開にした場合の開度の30〜60%に設定される、請求項6に記載の予混合式ガスエンジンの制御装置。
【請求項8】
前記スロットル弁の開度についての前記所定範囲は、前記スロットル弁を全開にした場合の開度の40〜45%に設定される、請求項7に記載の予混合式ガスエンジンの制御装置。
【請求項9】
前記制御部は、前記バイパス弁の開度をフィードバック制御により制御し、前記圧力差の目標値を可変に設定する場合は、前記圧力差の目標値を固定値とする場合に比べて、前記フィードバック制御に用いるゲインを小さく設定する、請求項1に記載の予混合式ガスエンジンの制御装置。
【請求項10】
前記制御部は、PID制御により前記フィードバック制御を実行し、
前記制御部は、前記ゲインとして、比例ゲイン、積分ゲイン、および微分ゲインを用い、前記比例ゲインを0.01〜0.1の範囲で設定する、請求項9に記載の予混合式ガスエンジンの制御装置。
【請求項11】
前記制御部は、PID制御により前記フィードバック制御を実行し、
前記制御部は、前記ゲインとして、比例ゲイン、積分ゲイン、および微分ゲインを用い、前記積分ゲインを0.01〜0.1の範囲で設定する、請求項9または10に記載の予混合式ガスエンジンの制御装置。
【請求項12】
前記制御部は、PID制御により前記フィードバック制御を実行し、
前記制御部は、前記ゲインとして、比例ゲイン、積分ゲイン、および微分ゲインを用い、前記微分ゲインを1〜100の範囲で設定する、請求項9〜11のいずれか1項に記載の予混合式ガスエンジンの制御装置。
【請求項13】
前記制御部は、PID制御により前記フィードバック制御を実行し、
前記制御部は、前記ゲインとして、比例ゲイン、積分ゲイン、および微分ゲインを用い、前記比例ゲインを0.05に設定し、前記積分ゲインを0.05に設定し、前記微分ゲインを98に設定する、請求項9に記載の予混合式ガスエンジンの制御装置。
【請求項14】
燃料ガスと空気とを混合した混合ガスが供給される予混合式ガスエンジンの制御方法であって、
前記ガスエンジンは、
前記混合ガスを燃焼するための燃焼室と、
前記燃焼室への給気経路に設けられ、前記燃焼室への前記混合ガスの供給量を調整するためのスロットル弁と、
前記燃焼室からの排気ガスを用いて駆動され、前記混合ガスを圧縮して前記スロットル弁へ供給するように構成された過給機と、
前記過給機の吐出経路と前記過給機への前記混合ガスの給気経路とを連通させるように配置され、前記スロットル弁へ供給される前記混合ガスの一部をバイパスさせるためのバイパス弁とを含み、
前記制御方法は、
前記スロットル弁の給気圧力と吐出圧力との間の圧力差を検出するステップと、
前記スロットル弁の開度が予め定められた所定範囲内に維持されるように、前記ガスエンジンの負荷に応じて前記圧力差の目標値を可変に設定するステップと、
前記圧力差が設定された目標値となるように前記バイパス弁の開度を調整するステップとを備える、予混合式ガスエンジンの制御方法。
【請求項15】
燃料ガスと空気とを混合した混合ガスが供給される予混合式ガスエンジンと、
前記ガスエンジンを制御するための制御装置とを備え、
前記ガスエンジンは、
前記混合ガスを燃焼するための燃焼室と、
前記燃焼室への給気経路に設けられ、前記燃焼室への前記混合ガスの供給量を調整するためのスロットル弁と、
前記燃焼室からの排気ガスを用いて駆動され、前記混合ガスを圧縮して前記スロットル弁へ供給するように構成された過給機と、
前記過給機の吐出経路と前記過給機への前記混合ガスの給気経路とを連通させるように配置され、前記スロットル弁へ供給される前記混合ガスの一部をバイパスさせるためのバイパス弁とを含み、
前記制御装置は、
前記スロットル弁の給気圧力と吐出圧力との間の圧力差を検出するための圧力検出部と、
前記スロットル弁の開度が予め定められた所定範囲内に維持されるように、前記ガスエンジンの負荷に応じて前記圧力差の目標値を可変に設定するとともに、前記圧力差が設定された目標値となるように前記バイパス弁の開度を調整する制御部とを含む、予混合式ガスエンジンシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2013−87716(P2013−87716A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−230537(P2011−230537)
【出願日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【出願人】(000156938)関西電力株式会社 (1,442)
【出願人】(503116899)新潟原動機株式会社 (61)
【Fターム(参考)】