二層カーボンナノチューブを主体とする炭素質材料の製造方法
【課題】二層カーボンナノチューブを主体に構成された炭素質材料、特には膜状に形成された二層カーボンナノチューブに富む炭素質材料の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明によって提供される二層カーボンナノチューブを主体に構成された炭素質材料の製造方法は、減圧可能な容器内に配置された一対の電極間にアーク放電を発生させて該電極の少なくとも一方からカーボンを蒸発させて行う製造方法であって、該アーク放電の発生領域に近接する外側領域であって900Kを下回らない温度領域内において前記一対の電極の少なくとも一方からの蒸発物を回収することを特徴とする。
【解決手段】本発明によって提供される二層カーボンナノチューブを主体に構成された炭素質材料の製造方法は、減圧可能な容器内に配置された一対の電極間にアーク放電を発生させて該電極の少なくとも一方からカーボンを蒸発させて行う製造方法であって、該アーク放電の発生領域に近接する外側領域であって900Kを下回らない温度領域内において前記一対の電極の少なくとも一方からの蒸発物を回収することを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二層カーボンナノチューブを主体に構成される炭素質材料の製造方法に関する。特に、アーク放電法を用いて二層カーボンナノチューブを主体に構成される膜状の炭素質材料を製造する方法及び製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブは、導電性、熱伝導性、機械的強度等の優れた特性を持つことから、多くの分野から注目を集めている新素材である。特に、カーボンナノチューブの集合体である炭素質材料、なかでも膜状に形成された炭素質材料(以下、カーボンナノチューブを主体に構成される膜状の炭素質材料を単に「カーボンナノチューブ膜」と略称する場合がある。)は、電界電子放出型ディスプレイ(FED)のエミッタや電界効果トランジスタ等の電界電子放出材料(電界電子放出素子)として、エレクトロニクス分野での応用が期待されている(特許文献1〜3参照)。
また、カーボンナノチューブ膜の膜面積を大きくし、基材から完全に分離した状態で(即ち自立膜として)製造できれば、ディスプレイの大型化や膜の単独利用等が可能となり、当該膜の適用範囲が拡大されるので好ましい(特許文献4参照)。
ところで、カーボンナノチューブは、その円筒構造が一層である単層カーボンナノチューブと、二層以上のグラファイト層が同心円状に重なった構造である多層カーボンナノチューブとに大きく分類される。このうち、多層構造に属する二層構造のカーボンナノチューブ(以下「二層カーボンナノチューブ」という。)は、単層カーボンナノチューブと同等の低い電圧で優れた電界電子放出(フィールドエミッション)特性を有しており、さらに単層カーボンナノチューブよりも長寿命であり且つ耐久性に優れるため、特にFEDその他のエレクトロニクス分野での利用に優れるカーボンナノチューブ材料である。
【0003】
カーボンナノチューブ膜の製造方法としては、典型的には、スクリーン印刷法やスプレー法等の方法によりカーボンナノチューブを含むペーストや分散液を基材上に付与する方法、若しくは炭素又は炭素原料を含むガスを高温条件下で金属触媒を担持した基材と接触させて該基材上で膜を成長させる化学気相成長法(即ちCVD法)が挙げられる(例えば特許文献4,5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−288561号公報
【特許文献2】特開2003−121892号公報
【特許文献3】特開2002−299265号公報
【特許文献4】特開2007−182342号公報
【特許文献5】特開2007−145634号公報
【特許文献6】特開2003−277032号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、CVD法は基材上にカーボンナノチューブ膜を形成することが前提であり、基材の存在が本来不可欠である。特許文献4では、CVD法によりSi等の基材上にカーボンナノチューブ膜を形成し、当該膜を上記基材から剥離して自立膜を得る方法が開示されている。しかし、この方法では得られる膜面積(例えば20mm×12mm程度)に限界がある。
【0006】
本発明は、上述したような特性の二層カーボンナノチューブを主体に構成される炭素質材料を製造する方法を提供することを一つの目的とする。特に、二層カーボンナノチューブを主体に構成される膜状の炭素質材料、即ちカーボンナノチューブ膜を製造することができ且つ該膜を自立膜として回収することができる製造方法、及び該方法の実施に適した製造装置を提供することを一つの目的とする。さらには、ここで開示される製造方法によって得られるカーボンナノチューブ膜を利用した電子放出材料(電子放出素子)を提供することを他の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を実現するべく本発明によって以下の製造方法が提供される。即ち、ここで開示される一つの製造方法は、減圧可能な容器内に配置された一対の電極間にアーク放電を発生させて該電極の少なくとも一方からカーボンを蒸発させて行う、カーボンナノチューブを主体に構成される炭素質材料の製造方法である。そして、該アーク放電の発生領域に近接する外側領域であって典型的には900K(ケルビン)を下回らない温度領域内において前記一対の電極の少なくとも一方からの蒸発物を回収することを特徴とする、二層カーボンナノチューブを主体に構成された炭素質材料を製造する方法である。
ここで「炭素質材料」とは、炭素を主成分とする材料をいい、炭素以外の元素(例えば後述する金属触媒を構成する金属元素)を包含し得る。
また、ここで「カーボンナノチューブを主体に構成される炭素質材料」とは、炭素質材料に含まれる炭素原子の大半(典型的には原子百分率で全炭素の50at%以上)がカーボンナノチューブとして存在する炭素質材料をいう。
また、ここで「二層カーボンナノチューブを主体に構成された炭素質材料」とは、上記カーボンナノチューブを主体に構成される炭素質材料であって、さらに電子顕微鏡観察等で識別し得る炭素質材料に含まれるカーボンナノチューブの大半(典型的には全カーボンナノチューブ数の50%以上、より好適には炭素質材料に含まれる炭素原子の50at%以上)が二層カーボンナノチューブとして存在する炭素質材料をいう。
【0008】
アーク放電により電極(典型的には陽極)から蒸発したカーボン粒子は、典型的にはアーク放電発生領域(即ちアークプラズマの発生領域)から外側に向けて拡散していく。このとき、カーボンナノチューブ(好ましくは二層カーボンナノチューブ)を含む生成物(蒸発物)は、高温(例えば6000K程度)のアーク放電発生領域(即ちアークプラズマの発生領域)に近接する外側領域である該アークプラズマよりも比較的低温(即ち900Kを下回らない温度領域、典型的には900K〜2500Kの温度領域、例えば1000K〜1800Kの温度領域)の領域内で生じ、当該領域内で上記生成物(蒸発物)は成長し得る。
従って、上記構成においてアーク放電法に基づくカーボンナノチューブの生成を行い、そして上記アーク放電発生領域(アークプラズマ発生領域)に近接する外側領域であって典型的には900Kを下回らない温度領域内(典型的には900K〜2500K、例えば1000K〜1800K)の領域内で炭素質材料を回収することにより、二層カーボンナノチューブを主体(典型的には捕捉・回収されたカーボンナノチューブのうちの50%又はそれ以上が二層カーボンナノチューブ)として構成された炭素質材料(好ましくは膜状炭素質材料即ちカーボンナノチューブ膜)を効率的に製造することができる。例えば、上記一対の電極における上記蒸発物の発生部位からの距離が100mm以下となる領域内において該蒸発物を回収することが好ましい。
【0009】
従って、ここで開示される好ましい一つの製造方法は、減圧可能な容器内に配置された一対の電極間にアーク放電を発生させて該電極の少なくとも一方からカーボンを蒸発させて行うカーボンナノチューブを主体に構成される炭素質材料の製造方法であって、上記一対の電極の少なくとも一方からの蒸発物を該一対の電極における該蒸発物の発生部位からの距離が100mm以下(例えば10mm〜100mm、典型的には10mm〜50mm)となる領域内において回収することを特徴とする。
容器内の上記アーク放電発生領域(アークプラズマ発生領域)に近接する外側領域内において蒸発物を回収することにより、二層カーボンナノチューブを主体に構成された炭素質材料を好適に製造することができる。
【0010】
また、ここで開示される製造方法の好ましい一態様は、上記対向する一対の電極間の隙間よりも距離が長い隙間をあけて対向した状態で、一対の回収板を配置し、上記一対の電極の少なくとも一方からの蒸発物を、該一対の回収板のうちの少なくとも一方の回収板において膜状に堆積させて捕捉することを特徴とする。
かかる態様の製造方法によると、上記アーク放電発生領域(アークプラズマ発生領域)に近接する外側領域(典型的には容器内の温度分布が900K以上、特には900K〜2500Kとなる領域)において上記対向する一対の電極間の隙間よりも距離が長い隙間をあけて対向した状態で配置した一対の回収板を採用することによって、好ましくは二層カーボンナノチューブを主体(典型的には捕捉・回収されたカーボンナノチューブのうちの50%又はそれ以上が二層カーボンナノチューブ)として構成された膜状の炭素質素材(即ちカーボンナノチューブ膜)を効率的に製造する(得る)ことができる。
【0011】
好ましくは、上記一対の回収板を、対向する面同士が平行となるように配置する。
また、好ましくは、上記一対の回収板は、それぞれ、中心に挿通孔が形成された略円板状に形成されており、該挿通孔に上記一対の電極の何れかを挿通させた状態で上記一対の電極にそれぞれ挿脱可能に取り付ける。
また、好ましくは、上記回収板を、直径が概ね80mm〜150mmのサイズとなるように形成する。
また、好ましくは、上記一対の回収板のうち陰極側に配置される回収板を、アーク放電時の上記容器内の温度分布が900K〜2500Kとなる領域に含まれる陰極部分に配置する。
また、好ましくは、上記一対の回収板の間隔を20mm〜100mmに設定する。
これらの工夫を行うことにより、より効率よく膜状炭素質材料(即ちカーボンナノチューブ膜、特に二層カーボンナノチューブに富むカーボンナノチューブ膜)を上記回収板の表面に形成することができる。
【0012】
また、ここで開示される製造方法のさらに好ましい一態様では、上記一対の回収板は導電性であり、上記一対の回収板のうちの一方の回収板は上記対向する一対の電極のうちの一方の電極に電気的に接続された状態で配置されており、且つ、上記一対の回収板のうちの他方の回収板は上記対向する一対の電極のうちの他方の電極に電気的に接続された状態で配置されていることを特徴とする。
本態様の方法では、上記一対の電極を構成する電極(即ち陰極と陽極)の各々に一つずつ電気的に接続された状態の一対の回収板(導電板)を使用する。
かかる構成の製造方法によると、対向する陰極と陽極との間に電圧を印加することにより、上記電極間の隙間以上の隙間をあけて対向配置されている回収板(導電板)間においても、上記電圧と同程度の電位差で電界を生じさせることが可能となる。
他方、アーク放電により電極(典型的には陽極)から蒸発したカーボン粒子は、原子又は正電荷を帯びた陽イオンとして存在し得る。
ここで本態様のように回収板を導電性材料で構成するとともに上記一対の電極と電気的に接続することによって、一対の回収板間に電位差(電界)を生じさせることができる。このことにより、上記カーボン粒子ならびに当該粒子からなるカーボンナノチューブ含有生成物(好ましくは二層カーボンナノチューブを主体に構成された生成物)は全体的に陰極側に配置される回収板に移動していく。この結果、陰極側に配置された回収板における陽極との対向面に上記生成物が効率よく捕捉され、そこで堆積(成膜)する。従って、所定時間のアーク放電を継続実施すれば、上記生成物は上記対向面の一面にわたり堆積されて(付着して)いくので、この生成物を上記対向面において膜状に捕捉することができ、結果、回収板(導電板)の対向面(即ち捕捉面)と同程度の面積で所定厚のカーボンナノチューブからなる膜状堆積物(好ましくは二層カーボンナノチューブを主体に構成されたカーボンナノチューブ膜)として回収することができる。
【0013】
また、アーク放電時に上記回収板間に電界が生じることにより、蒸発したカーボン粒子(更には後述するような触媒金属粒子)、及び該粒子からなるカーボンナノチューブ含有生成物は、その移動(拡散)範囲が上記回収板間に制限され得る。このため、カーボンナノチューブ含有生成物(好ましくは二層カーボンナノチューブを主体に構成されたカーボンナノチューブ膜)は陰極側の回収板の対向面に効率よく高い回収率で回収(捕捉)され得る。更に、上記カーボンナノチューブ膜は、上記回収板の対向面に物理的に付着しているのみであるため、当該膜を上記対向面から容易に剥離することができ、自立膜として得ることができる。
【0014】
ここで開示される製造方法の好ましい一態様では、上記一対の電極を上下方向に対向するように配置する。好ましくは、下側に陽極を配置し且つ上側に陰極を配置する。
そして、上記陰極側に配置された回収板の陽極と対向する下向きの面によって、上記蒸発したカーボンからなるカーボンナノチューブであって上記容器内を陽極から陰極側に上昇するカーボンナノチューブを膜状に堆積させて捕捉することを特徴とする。
ここで「上下に配置」とは、上記容器を水平に(真横から)見たとき、一方の電極(ここでは直流放電時において陽極)が下側に、そして他方の電極(ここでは直流放電時において陰極)が上側にあることをいい、一方の電極における他極との対向面同士が上下方向に配置されていれば足りる。また、下側の電極と上側の電極とが垂直(鉛直)方向に沿って一直線上にあるように(若しくは互いの対向面が所定間隔を隔てた水平面内にあるように)配置された電極は、容器内で上下方向に配置されている電極の好ましい一つの典型例である。
【0015】
かかる電極配置にすることによって、以下の効果が奏される。即ち、アーク放電時には、電極間、及び当該各電極に一つずつ電気的に接続された状態で配置された回収板間には電界が生じるため、下側の陽極から蒸発したカーボン粒子(原子又は陽イオン、ならびに典型的には更に触媒金属粒子の原子又は陽イオン)は、上側の陰極及び/又は該陰極側の回収板に向けて上昇する傾向にある。このとき、当該各粒子にはこの上昇しようとする力と、重力による下降方向の力が共に作用して、各粒子が上記回収板に捕捉されるまでの時間(即ち該粒子の回収板間における滞在時間)を増加させることができる。これによりアーク放電時には陰極から放出された電子が回収板間に存在するカーボン(若しくは更に触媒金属)及び雰囲気ガスの各粒子にも衝突し得る確率が増える。この結果、アークプラズマ発生領域が拡大し、それに伴いアークプラズマ発生領域周辺のカーボンナノチューブ生成に好適な上記温度領域(典型的には900K〜2500Kの温度領域)も拡大し得る。従って、拡大した上記温度領域により長く滞在し得るカーボン粒子及び触媒金属粒子が増加し得るため、カーボンナノチューブの生成(成長)領域と時間が共に増加し得る結果、高効率且つ高収率でカーボンナノチューブ(好ましくは二層カーボンナノチューブ)を生成することができる。
【0016】
ここで開示される製造方法の更に好ましい一態様では、上記一対の電極のうちの少なくとも陽極は、金属触媒を含有する炭素材料(典型的にはグラファイト製)により構成されていることを特徴とする。
このように触媒を含む炭素材料からなる電極を用いることにより、効率よくカーボンナノチューブ含有生成物を生じさせることができる。
【0017】
また、更に好ましくは、上記一対の電極のうちの少なくとも陽極は、上記金属触媒の構成金属元素として、
(1).鉄(Fe)と、
(2).モリブデン(Mo)、クロム(Cr)、タングステン(W)、チタン(Ti)及び白金族金属に属する金属元素のうちから選択される少なくとも1種の金属元素と、
を有することを特徴とする。
この種の金属元素をあわせ含む触媒(これら金属元素を主体に構成される触媒を2種以上あわせて含有するものでもよく、或いは、これら金属元素を成分とする1種類の合金触媒でもよい。)を有する電極を使用することにより、二層カーボンナノチューブを効率よく生成することができる。従って、本態様の製造方法によると、効率よく、二層カーボンナノチューブに富む炭素質材料、好適にはカーボンナノチューブ膜(例えばカーボンナノチューブの50mol%以上が二層カーボンナノチューブであるカーボンナノチューブ膜)を製造することができる。
【0018】
また、本発明は、ここで開示されるいずれかの製造方法により製造されたカーボンナノチューブを主体に構成された炭素質材料であって、該炭素質材料に含まれるカーボンナノチューブ数のうちの50%以上が二層カーボンナノチューブである炭素質材料を提供する。特に、膜状に製造された炭素質材料、即ちカーボンナノチューブ膜を提供する。典型的には、膜を構成するカーボンナノチューブのうちの50mol%以上(好ましくは70mol%以上、特に好ましくは90mol%以上)が二層カーボンナノチューブである。
また、好ましくは、基材から分離した状態(即ち基材フリー)の自立膜として製造されたカーボンナノチューブ膜を提供することができる。
また、本発明は、ここで開示されるいずれかの製造方法により製造された膜状炭素質材料(カーボンナノチューブ膜)を構成要素として有する電子放出材料を提供する。典型的には、膜を構成するカーボンナノチューブ数のうちの50%以上が二層カーボンナノチューブであることを特徴とする電子放出材料(電子放出素子)を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の製造方法を実施するのに好ましい一形態のカーボンナノチューブ製造装置の構成を示す模式図である。
【図1A】図1内の点線Iで囲んだ部分を拡大して示す模式図である。
【図2】本発明の製造方法を実施するのに好ましい他の一形態のカーボンナノチューブ製造装置の構成を示す模式図である。
【図3】試験例1で得られたカーボンナノチューブ膜全体の光学写真である。
【図4】試験例1で得られたカーボンナノチューブ膜のSEM写真である。
【図5】試験例1で得られたカーボンナノチューブ膜のSEM写真である。
【図6】試験例1で得られたカーボンナノチューブ膜のSEM写真である。
【図7】試験例1で得られたカーボンナノチューブ膜のSEM写真である。
【図8】試験例1で得られたカーボンナノチューブ膜のTEM写真である。
【図9】試験例1で得られたカーボンナノチューブ膜のTEM写真である。
【図10】試験例1で得られたカーボンナノチューブ膜のラマンスペクトル分析チャートである。
【図11】試験例1で得られたカーボンナノチューブ膜のTGA曲線及びDTA曲線を示すグラフである。
【図12】比較試験例で得られたカーボンナノチューブ膜のSEM写真である。
【図13】比較試験例で得られたカーボンナノチューブ膜のTEM写真である。
【図14】試験例1で得られたカーボンナノチューブ膜を用いて作製した電界電子放出型カソード(FEC)を模式的に示した側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
【0021】
本発明に係るカーボンナノチューブ製造方法は、アーク放電法を用いて二層カーボンナノチューブを主体に構成される炭素質材料、特に、比較的膜面積の大きな膜状炭素質材料(即ちカーボンナノチューブ膜)を製造すること、及び当該膜を回収すること(好ましくは自立膜として回収すること)を主たる目的とするものである。また、本発明の実施によって、高効率且つ高収率で(若しくは多量に)二層カーボンナノチューブに富むカーボンナノチューブ材料(カーボンナノチューブ集合物)を製造することを実現することができる。好ましくは、二層カーボンナノチューブに富む膜面積の大きいカーボンナノチューブ膜を製造することができる。
【0022】
アーク放電法は、カーボンナノチューブの典型的な製造方法の一つであり、欠陥が少なく品質の良いカーボンナノチューブが得られる点で優れた方法である。しかし、従来、当該方法は、例えばCVD法に比べると効率が悪く、収率も低いといわれてきた。このため、例えば特許文献6(特開2003−277032号公報)に開示される方法等の改善策によって、量産化可能な製造方法として改善され、利用されてきている。
【0023】
ここに開示される製造方法では、アーク放電法による二層カーボンナノチューブの量産化がより一層実現され得る。即ち、上記のとおり、ここで開示されるアーク放電法に基づく炭素質材料製造方法は、一対の電極間におけるアーク放電の発生領域に近接する外側領域であって900Kを下回らない温度領域(以下「近接回収領域」と略称する。)において、電極から蒸発するカーボンを含む蒸発物(即ちカーボンナノチューブ主体の炭素質材料)を回収する。このことによって、従来のこの種の製造法で得られるよりも高率に二層カーボンナノチューブを得ることができる。
従来のアーク法に基づくカーボンナノチューブ製造方法では、減圧可能な容器(以下「反応容器」という。)内の900Kを下回る温度領域内、即ちアーク放電部位から離隔した位置(例えば電極設置位置から離隔した反応容器の上部内壁面又は内壁近傍)において蒸発物を回収していたが、この場合には得られた回収物(炭素質材料)中に含まれるカーボンナノチューブは単層カーボンナノチューブが主体となる傾向にある。これに対し、ここで開示される製造方法では、回収位置をアーク放電発生領域に近接する領域(即ち上記近接回領域)に設定したことにより、二層カーボンナノチューブに富む炭素質材料の回収(換言すれば製造)を実現することができた。
【0024】
好ましくは、近接回収領域は、所定の反応容器(チャンバー)内において一対の電極間でのアーク放電時において900K〜2500Kの温度領域、例えば1000K〜1800Kの温度領域として設定することができる。
なお、近接回収領域の設定にあたっての上記900Kを下回らないという温度域の条件は一つの目安であって厳格に温度領域を制限するものではない。例えば、四捨五入により900Kに切り上げられるような温度域(例えば850K〜899Kの温度域)もここでいう900Kに包含され得る。同様に、上記温度域の上限温度2500K(若しくは1800K)についても、四捨五入により2500K(若しくは1800K)に切り下げられる温度域(例えば2540K以下或いは1840K以下)が包含され得る。要するに、アーク放電時においてアーク放電領域の外側領域であって900Kを下回らない何れかの部位において電極からの蒸発物(即ち炭素質材料)を回収すればよく、本発明の実施にあたって反応容器内における温度分布を詳細(厳格)に明らかにする必要はない。
従って、近接回収領域は、電極からの距離を指標にして設定することができる。例えば、反応容器内の一対の電極(即ちアーク放電を行う電極)における上記蒸発物の発生部位からの距離が100mm以下となる領域を近接回収領域として設定することができる。このような電極から比較的近い距離において上記蒸発物を回収することによって、二層カーボンナノチューブに富む炭素質材料を回収(製造)することが容易に行える。好ましくは、電極の上記蒸発物発生部位からの距離が10mm〜100mm(例えば10mm〜50mm)となる領域を近接回収領域として好適に設定することができる。
【0025】
好ましくは、このような近接回収領域として設定した領域内において、回収部材として表面がフラット形状の回収板を少なくとも一つ配置する。これにより、当該回収板のフラット形状の表面に電極からの蒸発物を捕捉回収することができる。このようなフラット形状の表面に回収された蒸発物は、膜状の炭素質材料を容易に形成し得る。従って、このような回収板を採用することによって所望の二層カーボンナノチューブに富む膜状の炭素質材料(即ちカーボンナノチューブ膜)を容易に製造することができる。なお、回収板は、後述する実施形態のように反応容器とは別個の部材として容器内に配置してもよく、或いは反応容器の一部を回収板として機能させる態様(例えば反応容器の内壁面の一部を電極寄りに迫り出させた態様)であってもよい。
典型的には、一対の回収板が、反応容器内に対向配置される一対の電極間の隙間よりも距離が長い隙間をあけた位置(即ち上記近接回収領域内)において対向した状態で一対の回収板が設けられている。かかる一対の回収板の存在により、一方の電極(典型的には陽極)から蒸発した蒸発物を構成するカーボン粒子(及び典型的には更に触媒金属粒子)から二層カーボンナノチューブに富む炭素質材料を生成するのに好適な環境が、上記回収板間の空間領域に実現され得る。
この結果、かかる製造方法を実施することにより、該回収板間の空間領域内でカーボンナノチューブ(特に二層カーボンナノチューブ)が高効率に生成され、当該カーボンナノチューブを含む生成物(蒸発物)は陰極側回収板の陽極との対向面上にほぼ選択的に付着、堆積していく。従って、高効率且つ高収率でカーボンナノチューブを捕捉、回収することができると共に、上記対向面と同程度の面積を有する膜状炭素質材料、即ちカーボンナノチューブ膜として回収することができる。更に、このカーボンナノチューブ膜は、上記対向面から容易に剥離されて自立膜(即ち基材フリーの膜状炭素質材料)として回収され得る。
なお、ここで開示される製造方法を好適に実施するために設計された後述するような製造装置は、二層カーボンナノチューブの製造に適する装置ではあるが、二層以外の多層カーボンナノチューブや単層カーボンナノチューブの製造に適用することを制限するものではない。
【0026】
次に、ここで開示される炭素質材料製造方法を実施するのに好ましい製造装置の好ましい一実施形態について図面を参照して具体的に説明する。図1は、本実施形態に係るカーボンナノチューブ製造装置1の構成を示した模式図である。図1Aは、図1内の点線Iで囲んだ部分を拡大して示す模式図である。
図1に示されるように、当該製造装置1は大まかにいって、反応容器2と、一対の電極11,12と、一対の回収板21,22と、から構成される。
【0027】
反応容器2は、密閉及び減圧が可能な耐圧容器であって、全体として例えばステンレス鋼で略円筒状(例えば、直径25cm〜80cm程度、高さ凡そ30cm〜150cmの略円筒形状)に構成されている。反応容器2の上面部2a(例えば特にその中心部)には、陰極12を電気的に絶縁した状態で支持する陰極12側の支柱32が挿通している。また、該容器2の底面部2b(例えば特にその中心部)には、陽極11を電気的に絶縁した状態で支持する陽極11側の支柱31が固定され、該固定位置から所定距離だけ離れた箇所にガス流通手段としてガス供給管41とガス排出管42とが設けられている。なお、反応容器2の側壁部には、本製造装置作動中における電極11,12間の反応を見るための覗き孔を備えてもよい。以下、更に具体的に説明する。
【0028】
上記反応容器2の内部空間4には一対の電極、即ち陽極11及び陰極12が支柱31,32にそれぞれ支持された状態で上下方向に配置されており、下側が陽極11、上側が陰極12となっている。
これら陽極11及び陰極12は、いずれもスティック状(又は棒状)に形成されており、その中心軸が垂直方向Zに沿ってほぼ一直線上になるようにして、図1Aに示すように所定間隔L1の隙間14をあけて対向配置されている。なお、各電極11,12の形状はスティック状に限られず、互いに対向させ得る面を有する形状(例えば角柱状)であればよい。従って、電極の形状は、例えばいずれか一方又は両方がタブレット状であってもよく、また、形状及び/又は材質の異なる複数の構成部材(例えばスティック状の部材とタブレット状の部材)を組み立てて(接合して)なる組立型電極体であってもよい。例えば、後述の回収板21,22を介して2つの材質及び形状の異なる構成部材が接合してなる組立型電極体であって、全体形状としてスティック状に見える組立型電極体を、本実施形態に係る電極11,12として好ましく使用することができる。
【0029】
陽極11と陰極12との隙間14のサイズ(即ち、陽極11の対向面11aと陰極12の対向面12aとの間の間隔L1)は特に限定されないが、例えばアーク放電によるカーボンナノチューブ発生効率(特に二層カーボンナノチューブ発生効率)が高い0.1mm〜10mm程度、好ましくは0.5mm〜5mm程度、特に、後述の回収板21,22間の距離(間隔L2)を考慮すれば1mm〜3mm程度が好適である。
図1及び図1Aには、スティック状の陽極11と陰極12とをその中心軸を垂直方向Zに沿って一直線上になる(即ち、該中心軸同士のなす角度がほぼ180°となる)ように配置した一例を示しているが、これら電極11,12の配置はこれに限定されない。例えば、陽極11及び陰極12の少なくとも一方(例えば陽極11)を垂直方向Zから外れた角度に配置することにより、陽極11の中心軸と陰極12の中心軸とのなす角度が鈍角となるように電極11,12を配置してもよい。陽極11の中心軸と陰極12の中心軸とのなす角度は90°以上、例えば120°〜180°程度の角度とすることができる。
好ましくは、陽極11と陰極12とをその中心軸をほぼ垂直方向Zに沿って一直線上になるように配置する。
【0030】
本実施形態において、陽極11及び陰極12には、これらの電極11,12の間にアーク放電を発生し得る電圧を印加可能な図示しない直流電源(アーク電源)が接続されている。なお、アーク放電法を実施し得る限り、直流電源の代わりに交流電源を用いることもできる。この場合、一対の電極11,12のいずれもが交互に陽極又は陰極となる。
【0031】
本実施形態に係る陽極11は、例えば直径6mm程度、全長75mm程度のサイズを有し、アーク放電によってカーボンを蒸発可能な材料(好ましくは耐熱性を有する導電材料)から構成されている。そのような材料として種々の炭素材料を用いることができるが、特にグラファイトを好ましく使用できる。カーボンナノチューブの製造を目的とする場合には、例えば、グラファイトにカーボンナノチューブ合成用触媒を含有させた炭素材料を使用することができる。かかる触媒としては、従来から使用される金属触媒を好ましく使用することができ、例えば鉄(Fe)、或いは、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)若しくはニッケル混合物(例えばニッケルとイットリウムの合金:Ni−Y合金)等であり得る。特に鉄(Fe)の使用が二層カーボンナノチューブを形成するのに好ましい。
より好ましいカーボンナノチューブ合成用触媒、特に二層カーボンナノチューブ合成用触媒としては、上記のFeに加えて、モリブデン(Mo)、クロム(Cr)、タングステン(W)、チタン(Ti)及び白金族金属に属する金属元素(例えば白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh))のうちから選択される少なくとも1種の金属元素を有することが特に好ましい。
【0032】
例えば、Fe−M系合金(ここで、MはMo、Cr、W、Ti及び白金族金属に属する金属元素(Pt、Pd、Ru、Rh等)のうちから選択される少なくとも1種の金属元素)を用いてもよい。このような合金触媒は、Mo、Cr、W、Ti又は白金族金属が電極(陽極)からのカーボン粒子の蒸発効率を向上させ得るとともに高い割合で二層カーボンナノチューブを合成し得るため好ましく使用することができる。このような組成の陽極11は、例えばグラファイト粉末に上記合金触媒粉末を配合して圧粉成形することにより得ることができる。
あるいは上記のような合金触媒に代えて、Fe或いはNi(Ni−Y合金等の合金を包含する)及びCoから選択される一種又は二種以上を構成金属元素とする触媒(特に好ましいのはFeを構成元素とする触媒)と、Mo、Cr、W、Ti及び白金族金属に属する金属元素(Pt、Pd、Ru、Rh等)のうちから選択される少なくとも1種の金属元素を構成元素とする触媒と、を混合させて炭素材料に含有させたものでもよい。
特にFeとMoの合金からなる触媒の使用、或いは、Feを構成金属元素とする触媒(Fe触媒)とMoを構成金属元素とする触媒(Mo触媒)とを混合して使用することが、二層カーボンナノチューブの精製効率を向上させ得るために好ましい。
電極を構成する炭素(カーボン)量の大凡0.1mol%〜10mol%に相当する量、好ましくは0.5mol%〜5mol%に相当する量(例えば1mol%〜3mol%)の添加が適当である。
【0033】
陽極11は、反応容器2の底面部2bに固定されて垂直方向Zに立設された支柱31に支持されている。該陽極11の軸方向(長手方向)の一方の端部は、陰極12との対向面11aとなっているが、その他方の端部11bは、上記支柱31の先端(上端)部に固定されている。このため、上記陽極11は軸方向を垂直方向Zに沿わせるように上記支柱31の上に支持されている。
【0034】
陰極12は、例えば直径約8mm、全長約100mm程度のサイズを有し、耐熱性を有する導電材料から構成される。そのような材料として、例えば種々の炭素材料(例えばグラファイト)、又は金属材料(例えば銅)を適宜選択して用いることができる。なお、電源として交流電源を用いる場合には、陽極11と同様に炭素(特にグラファイト)にカーボンナノチューブ合成用触媒を含有させたものが好ましい。
【0035】
陰極12は、反応容器2の上面部2a(上面部2aのうち、例えば特にその中心部)を挿通し、垂直方向Zに沿って該容器2内に挿入されている支柱32に支持されている。該陰極12の軸方向(長手方向)の一方の端部は、陽極11との対向面12aとなっているが、その他方の端部12bは、上記支柱32の先端(下端)部に固定されている。このため、上記陰極12は軸方向を垂直方向Zに沿わせるように上記支柱32の下に支持されている。
なお、本実施形態に係る陽極11側及び陰極12側それぞれの支柱31,32は、雄ねじ構造であり、容器の一部に形成された図示しない雌ねじ孔に装着されている。そして支柱31,32の反応容器外に配置される一端は、モータ等の図示しないアクチュエータに接続されており、このアクチュエータを駆動させることにより、支柱31,32が回転し、それに伴う支柱31,32の垂直方向Zへの移動に伴い該支柱31,32に支持された電極11,12もまた垂直方向Zの両方向に移動可能としている。従って、当該アクチュエータを利用することにより、カーボン粒子の蒸発による陽極11の消耗に伴って、陰極12及び/又は陽極11を垂直方向Zに徐々に移動させることにより、両電極11,12間の隙間14を一定の距離(間隔L1)に保持することができる。なお、かかる垂直方向Zへの電極11,12の移動量(典型的には陰極12側の移動量)を設定するにあたっては、陽極11の消耗量(先端部の減り具合)又は両電極11,12間の隙間14の距離をセンサにより検知する、印加電圧から陽極11の消耗量を予測する、等の手法を適宜採用することにより、該消耗量に見合った(該消耗量を補填する)移動制御が実現される。
【0036】
なお、本実施形態では、図1に示されるように、陰極12側及び陽極11側の両方について支柱(雄ねじ構造)が垂直方向Zに移動可能に設けられているが、例えば、陽極11が反応容器2に固定された支柱に装着され、陰極12側のみ移動可能とする構成(或いは逆に陽極11側のみ移動可能とする構成)でもよい。また、上記アクチュエータを使用する代わりに、電極11,12の垂直移動を手動で行ってもよい。
【0037】
上記陽極11及び陰極12の各々において、該陽極11には回収板21が、該陰極12には回収板22がそれぞれ電気的に接続された状態で配置されている。
回収板21,22は耐熱性を有する材料(好ましくは導電性の耐熱材料)から構成される。回収板21,22の構成材料として利用し得る材料としては、炭素材料、金属又は合金材料が挙げられるが、電極11,12の構成材料と同様の材料(例えばグラファイト)を好ましく採用することができる。また、電極11,12と同じ材料を採用することにより、アーク放電時に電極11(又は電極12)表面と導電体21(又は導電体22)表面とを均等に帯電させ得る。あるいは、金属製やシリコン製の基板を回収板として使用することができる。また、セラミック製(例えば石英製)の基板を回収板として使用することができる。
上記回収板21,22の形状は特に限定されないが、電極11,12を挿通させる挿通孔(即ち、電極11,12の断面形状に対応したサイズの挿通孔)を中心に備えたフラットな形状、具体的には略円板状であるものを好適に採用することができる。かかる形状の上記回収板21,22としては、その直径が80mm〜150mm(より好ましくは80mm〜120mm、更に好ましくは90mm〜100mm)のサイズに形成されているものを用いることができる。また、かかる回収板21,22の互いに対向する面21a,22aのうち、特に陰極12側の対向面22aには、アーク放電時に陽極11から蒸発し得るカーボン粒子(典型的には更に触媒金属粒子)からなるカーボンナノチューブ含有生成物が付着、堆積する。従って、該含有生成物を付着させ易く、且つ堆積後には剥離し易くすることを考慮すれば、上記対向面22aの表面粗さは3.2μm以下であることが好ましい。なお、これら回収板21,22の厚みについては特に限定されないが、扱い易さ等を考慮すれば、例えば3mm〜6mm程度の厚みのものを好ましく用いることができる。
【0038】
回収板21を陽極11に電気的に接続した状態で配置する方法は、特に限定されない。例えば、中心に挿通孔を備えた回収板21であれば、回収板21の面方向と挿通させる陽極11の軸方向とが垂直になるように配置した状態で当該陽極11を上記挿通孔に挿通させことにより、該回収板21を陽極11に配置することができる。これと同様にして他方の回収板22も陰極12に好ましく配置することができる。
かかる方法で一対の回収板21及び22を、陽極11及び陰極12に各々一つずつ挿脱可能に取り付ける。この際、好ましくは、陽極11側の回収板21の面方向(即ち、陰極12側の回収板22と対向し得る面21aの面方向)と陰極12側の回収板22の面方向(即ち、陽極11側の回収板21と対向し得る面22aの面方向)とが互いに平行関係となるように配置する。更に好ましくは、互いに水平方向(図1に示すX方向)に沿うように配置する。
【0039】
或いは、例えば電極11,12が複数の構成部材からなる組立型電極体である場合には、該構成部材同士の間に回収板21,22を挟み込み、この状態で上記構成部材を組み立てる(接合する)ことにより、電極11,12に組み込まれた状態で回収板21,22を取り付けることもできる。例えば、スティック状の金属製構成部材と、電極材料として好適な材料(例えばカーボンナノチューブ合成用触媒を含有するグラファイト)からなるタブレット状構成部材とを用意し、両部材の間にかかる回収板を挟んで該部材同士を接合すれば、該回収板を電気的に接続した状態で配置された組立型電極体を得ることができる。
【0040】
回収板21,22は、上記近接回収領域内に配置される。ここでは、電極11,12間の隙間14(間隔L1)よりも長い距離(間隔L2、即ちL1<L2)の隙間24をあけて対向する(好ましくは平行となるように対向する)ように配置される。
対向する回収板21,22における互いの対向面21a,22aのなす角度は、陰極12側の回収板22の対向面22aが陽極11の対向面11a(即ちカーボン粒子、典型的には更に触媒金属粒子が蒸発し得る面)と対向し得るような角度であって、特に上記対向面22aが電極11,12間の隙間14、又は回収板21,22間の隙間24を移動(拡散)するカーボンナノチューブ含有生成物を効率良く捕捉し得るような角度に設定されていればよい。好ましくは、上記回収板21,22の対向面21a,22a同士のなす角度を±30°以下(好ましくは±10°以下、より好ましくは±5°以下)に設定する。且つ、当該対向面21a,22aの各面方向と水平面とのなす角度が±30°以下(好ましくは±10°以下、より好ましくは±5°以下)となるように設定する。典型的には、上記各対向面21a,22a同士の面方向のなす角度がゼロ(厳密に平行)、又はほぼゼロであり、互いに水平面とのなす角度がゼロ(厳密に水平)、又はほぼゼロであるように回収板21,22を配置する。このとき、電極11,12についても、これらの対向面11a,12aが互いに厳密な平行で且つ厳密な水平であるような配置であることがより好ましい。
かかる状態に配置することにより、回収板21,22間の隙間24は一様に間隔L2で一定(即ち平行)であるので、該回収板21,22は平行平板コンデンサーのような役割を果たし得る。即ち、アーク放電時の回収板21,22間において、水平方向(典型的には図1におけるX方向)に対して平行に等電位面が存在するため、該等電位面に垂直(即ち垂直方向Z)の向きに、その電界力が働く。即ち、回収板21,22の間に働く電界力は、垂直方向Zに沿って陽極11側から陰極12側の向きに一様な大きさで生じる。従って、陰極12側の回収板22の対向面22aは該電界力方向に対して垂直をなすので、陽極11から蒸発したカーボンから生じるカーボンナノチューブはより効率良く陰極12側の回収板22の対向面22aに付着し、堆積し得る。
【0041】
上記回収板21,22間の隙間24の間隔L2は、上記近接回収領域内であって陽極11から蒸発し得るカーボン粒子(及び典型的には触媒金属粒子)からなるカーボンナノチューブ含有生成物を効率良く生成、捕捉し得るような距離であることが好ましい。典型的には、上記カーボン粒子からカーボンナノチューブ含有生成物を生成させ易い温度領域内に回収板21,22間に挟まれる空間(隙間24)が包含されるような距離(間隔L2)を隔てて当該回収板21,22を対向配置すればよい。上記含有生成物の生成に好適な温度領域としては900K〜2500Kが好ましい。このような温度領域(近接回収領域)は、従来公知の温度測定手段(例えば放射温度計)を利用してアーク放電時における反応容器2の内部空間4の温度分布を測定して把握することができる。
かかる温度分布を呈する領域(即ち近接回収領域)内への回収板21,22の配置については、当該回収板21,22の各々が電極11,12の対向面11a,12aの各々から等しい距離で退行させた位置に取り付けられており、電極11,12間の隙間14の間隔L1が1mm〜3mmに設定されている場合には、上記回収板21,22間の隙間24の間隔L2を20mm〜100mm(好ましくは20mm〜80mm、より好ましくは30mm〜60mm)に設定することにより実現され得る。
【0042】
ガス流通手段は、図示しないガス供給源(本実施形態ではガス供給用ボンベ)と、ガス供給管41と、ガス排出管42とを備える。図1に示される本実施形態に係る製造装置1では、ガス供給管41とガス排出管42とは共に反応容器2の底面部2bに付設されている。ガス供給管41とガス排出管42の付設位置は、雰囲気ガスの反応容器2内での流路を考慮すれば、例えば、該両位置が円形状の底面部2bの中心を通る直線(径方向)上にあり、この中心から等距離にあると好ましい。ガス供給管41は、図示しない一つ又は二つ以上の雰囲気ガス供給用ボンベに接続されており、当該ボンベから反応容器2の内部空間4に雰囲気ガスを供給する。また、ガス排出管42は図示しないポンプ(真空ポンプ)に接続されており、当該ポンプにより上記内部空間4のガスを吸引し、反応容器2外に排出する。このような反応容器2内への雰囲気ガス供給量とガス排出量との兼ね合いによって、反応容器2の内部空間4の雰囲気ガス圧力を調整することができる。なお、上記各管41,42の付設位置は図1に示される態様(即ち底面部2b)に限られず、例えば反応容器2の底面に近い側壁部であってもよい。
【0043】
反応容器2の内部空間4に供給される雰囲気ガスとしては、アーク放電に基づいてカーボンナノチューブを製造し得る各種ガス(典型的には水素(H2)ガスを含む混合ガス)を適宜採用することができ、特に制限されない。例えば、H2ガス、ヘリウム(He)ガス、ネオン(Ne)ガス、アルゴン(Ar)ガス、クリプトン(Kr)ガス、キセノン(Xe)ガス等の不活性ガスから選択される一種又は二種以上)との混合ガスを使用することができる。カーボンナノチューブ(特にカーボンナノチューブ)の製造効率向上及びコスト低減等の観点から、還元性ガス(特にH2ガス)と不活性ガス(特にArガス)との混合ガスを雰囲気ガスとして好ましく用いることができる。雰囲気ガスとして採用し得る他の好適例として、H2ガスと窒素(N2)ガスとの混合ガスが挙げられる。例えばH2ガスと不活性ガスとの混合ガス中のH2ガス濃度が20〜80mol%(好ましくは30〜60mol%程度)であるものを好適に使用することができる。
【0044】
次に、このような構成の製造装置1を用いてカーボンナノチューブ膜(特に二層カーボンナノチューブを主体に構成されるカーボンナノチューブ膜)を製造する方法の好ましい一態様を説明する。即ち、まずスティック状(具体的には断面形状が6mm角の正方形、又は直径約6mmの円形等のスティック状)の陽極11と、同じくスティック状(具体的には断面形状が8mm角の正方形、又は直径約8mmの円形等のスティック状)の陰極12を用意する。また、中心に所定サイズ(陽極11及び陰極12の断面形状に対応したサイズ)の挿通孔を有し、直径80mm〜150mmのサイズの円板状のグラファイト製回収板21,22を用意する。当該回収板21の挿通孔に陽極11を挿通し、陽極11に回収板21を取り付ける。このとき、1mm〜3mm程度の距離(間隔L1)の隙間14をあけて電極11,12を対向配置したときに、回収板21,22間の隙間24の距離(間隔L2)が好適な近接回収領域である20mm〜100mmになるように、回収板21を陽極11に対して(又は回収板22を陰極12に対して)、対向面11a(又は対向面12a)となる側の端部から所定距離だけ退行させた位置に予め取り付けておく。
或いはまた、事前に回収板21,22を配置しない状態でアーク放電を実施して反応容器2の内部空間4の温度分布を測定しておき、その測定結果に基づく好適な温度分布を呈する空間領域内(即ち近接回収領域内)に、陰極12側の回収板22(特に対向面22a)が含まれるように、回収板21,22の電極11,12への取付け位置を決めることもできる。
本実施形態において、具体的には図示されるように、反応容器2の内部空間4に配されて垂直方向Zに沿って上面部2aから下方向に伸びる支柱32に対して回収板22を備えた陰極12をセットする。他方、反応容器2の内部空間4に配されて垂直方向Zに沿って底面部2bから上方向に伸びる支柱31に対して回収板21を備えた陽極11をセットする。このとき、両電極11、12の対向面11a,12a間の隙間14の距離(間隔L1)が1mm〜3mmとなるように陽極11及び/又は陰極12の配置位置を調節する。この調節により、同時に、両回収板21,22間の隙間24の距離(間隔L2)が20mm〜100mmとなるように調節され得る。
【0045】
反応容器2に設けられたガス排出管42に接続する油回転ポンプ等の真空ポンプを作動させて反応容器2の内部空間4の気体を排気し、これにより反応容器2内を減圧する。該容器2内の圧力が低下し、例えば13×10−3Pa〜1.3×10−4Pa程度の高い真空度になったらガス供給管41を介して雰囲気ガス供給用ボンベから雰囲気ガスを導入する。例えば、H2ガス及びArガスを20:80〜80:20(典型的には40:60〜60:40)の体積比で混合した混合ガス(雰囲気ガス)を反応容器2内に導入する。そして、上記真空ポンプの作動による排気量と雰囲気ガス供給ボンベからのガス供給量とのバランスにより、例えば反応容器2の内部空間4の雰囲気ガス圧を、概ね1×104Pa〜1×105Pa程度(例えば2.7×104Pa〜6.7×104Pa程度)に調節する。
【0046】
反応容器2の内部空間4の雰囲気ガス組成及び圧力が安定したら、陰極12と、触媒金属(例えばMo−Fe合金)をカーボンに対して0.5mol%〜5mol%に相当する量で含む陽極11との間に電圧(例えば20V〜200V)を印加し、図示しない直流電源から電流(例えば50A〜100A)を供給する。この結果、電極11,12間にアーク放電が発生する。この放電によるアーク熱で陽極11からカーボン粒子(典型的には更に触媒金属粒子)が蒸発する。上記電圧の大きさは、所望のカーボン蒸発速度に応じて適宜選択され、流れる電流を60A〜70A程度にすることが好ましい。また、印加された電圧からアーク放電状態を例えば図1には図示しない制御機構で演算し、アーク放電で蒸発したカーボン粒子による陽極11の消耗に応じて制御信号を例えばモータ等のアクチュエータに出力し、必要に応じて雄ねじ構造の支柱32を雌ねじ孔に対して回転させ、それに伴う陰極12の垂直方向への移動を調節して電極間の隙間を所定範囲内に保持し、好ましいアーク放電状態が維持されるようにする。
【0047】
蒸発したカーボン粒子は、回収板(導電体)21,22間の隙間24(電極11,12間の隙間14を含む)における所定温度分布の領域(ここでは900Kを下回らない領域であって概ね1500〜1800Kとなる領域)内で、アーク熱と触媒作用によりカーボンナノチューブを含有する生成物を形成する。ここで、上記隙間24には、上記隙間14に印加された電圧と同程度の電位差の電界が生じているため、下側の陽極11から蒸発し、原子又は陽イオンとして存在し得るカーボン粒子(典型的には更に触媒金属粒子)、及びこれら粒子からなる上記カーボンナノチューブ含有生成物は、上側の陰極12及び/又は該陰極12側の回収板22に向けて上昇していく。また、このときのカーボンナノチューブ含有生成物の拡散(上昇)方向は、隙間24の領域(即ち、回収板21,22を端面とする円筒状の空間領域)内に制限され得る。この結果、生成される上記カーボンナノチューブ含有生成物の殆どが陰極12側の回収板22の対向面22aに付着し、その一面にわたって一様に堆積していく。従って、上記カーボンナノチューブ含有生成物を高効率で上記対向面22aに付着させると共に、当該対向面22aと同程度の面積で所定厚のカーボンナノチューブからなる膜状堆積物(即ちカーボンナノチューブ膜)として高収率で回収することができる。
【0048】
本発明の製造方法によって得られるカーボンナノチューブ膜の膜厚は、電極材料や電極に含まれる触媒によっても左右され得るが、アーク放電の実施時間によっても調整することができる。例えば数秒〜数分(例えば60秒〜120秒)の実施により、数μm〜1mm程度の膜厚のカーボンナノチューブ膜、典型的にはカーボンナノチューブ膜を構成するカーボンナノチューブ全体に占める二層カーボンナノチューブ数の割合が50%以上(より好ましくは70%以上、さらに好ましくは90%以上)であるカーボンナノチューブ膜を得ることができる。
【0049】
また、本発明の製造方法によって得られるカーボンナノチューブ膜を構成するカーボンナノチューブは好ましくは二層カーボンナノチューブを主体とする。換言すれば、本発明の製造方法は、従来のような硫黄元素(S)を構成元素として含む触媒を使用することなく、二層カーボンナノチューブに富む膜状炭素質材料を製造することができる。特に限定するものではないが、本発明の製造方法によって得られる二層カーボンナノチューブに富むカーボンナノチューブ膜では、複数のカーボンナノチューブが束状構造(バンドル構造)を形成しており、そのバンドル構造の直径は概ね20nm〜100nm(典型的には30nm〜50nm)であり得る。また、本発明の製造方法によると、比較的長いサイズ(例えば1μmを上回る長さ、例えば1〜100μm)のカーボンナノチューブを生成することができる。典型的には直径が0.5nm〜10nm(例えば0.8nm〜5nm)のカーボンナノチューブを得ることができる。
【0050】
また、本発明の製造方法によると、得られたカーボンナノチューブ膜(即ち膜状の炭素質材料)の純度(カーボンナノチューブ含有率)は50質量%以上であり得、特に60質量%以上であり得る。本発明の製造方法を実施して得られたカーボンナノチューブ膜は、二層カーボンナノチューブを主体に構成されるため、典型的には示差熱分析(DTA)におけるピーク値が570℃よりも高温域に生じる。
【0051】
アーク放電終了後、上記陰極12側の回収板22に捕捉された(堆積した)上記カーボンナノチューブ膜は、反応容器2の図示しない取出し口を開放し、そこから当該回収板22を(若しくは陰極12と共に)取り出し、その対向面22aに捕捉された上記カーボンナノチューブ膜を、例えばピンセット等で該膜の端部を掴んで引き剥がすことによって回収板22から分離することができる。このカーボンナノチューブ膜は上記対向面22aに物理的に付着(典型的な付着の一形態としてはファンデルワールス力による付着)しているのみであるため、ピンセット等の簡易な器具により容易に回収板22から分離することができる。このようにして分離されたカーボンナノチューブ膜(好ましくは二層カーボンナノチューブを主体に構成されたカーボンナノチューブ膜)を自立膜として得ることができる。
なお、回収されたカーボンナノチューブ膜を従来公知の精製処理や加工処理に供することもできる。例えば、当該膜をほぐして、精製処理を実施後、得られた精製物を糸状に紡いでフィラメントに加工してもよい。かかる処理を施すことにより大量のカーボンナノチューブが得られる。従って、ここに開示される製造方法及び製造装置は、アーク放電法によりカーボンナノチューブ(好ましくは二層カーボンナノチューブ)を多量に製造し得る方法及び装置となり得る。
【0052】
以上、本発明の製造方法の一実施形態を図1に示す製造装置に基づいて詳細に説明したが、本発明の製造方法を実施し得る装置は、図1に示す形態の装置に限定されない。
例えば、図2に示すカーボンナノチューブ膜製造装置101のように、円筒状反応容器102の内部空間104に一対の電極(即ち陽極111と陰極112)を水平方向(即ち図中のX方向)に対向させたものであってもよい。具体的には、図2に示す実施形態において陽極111及び陰極112は、それぞれ、反応容器102の対向する側面部102c,102dに固定されて水平方向Xに設けられた支柱131,132に支持されている。
なお、電極111,112ならびに支柱131,132の構造や移動機構等は、上述した図1に示す装置1に装備されたものと同様であるので重複した説明は省略する。
【0053】
一方、回収板121,122は、電極111,112とは独立して円筒状反応容器102の内部空間104に配置されている。この実施形態では、一対の回収板121,122は、水平方向に配置された一対の電極111,112を上下から挟むような位置に配置され、それぞれが反応容器102の上面部102a及び底面部102bに固定されて垂直方向Zに設けられた支柱152,151に支持されている。
なお、回収板121,122ならびに支柱151,152の構造や移動機構等は、上述した図1に示す装置1に装備されたものと同様であるので重複した説明は省略する。
かかる構成のカーボンナノチューブ膜製造装置101によっても 電極111,112間の隙間(L1)よりも回収板121,122の隙間(L2)の距離を長くするように調節して当該回収板121,122を所望の近接回収領域内に配置することによって、上述した図1に示す装置1と同様に本発明の製造方法を好適に実施することができる。なお、ガス供給管141とガス排出管142については、図1に示す装置と同様であるので重複した説明は省略する。
【0054】
以下、本発明を実施例(試験例)に基づいて説明するが、本発明をかかる実施例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0055】
<試験例1:近接回収領域内でのカーボンナノチューブ膜の製造>
上記製造方法に基づき、図1に示す構成のカーボンナノチューブ膜製造装置1を用いてカーボンナノチューブ膜を製造した。以下に、採用した条件を示す。
陰極12としてグラファイトからなる円筒状電極(直径:10mm)を用いた。また、陽極11として、MoとFeの原子比が3:10の組成となるように調製された金属触媒(Mo触媒とFe触媒とを混合して使用してもよく或いはMo−Fe合金触媒を使用してもよい。)をFeがカーボン全体の1at%に相当する量且つMoがカーボン全体の0.3at%に相当する量となるように含有する触媒入りグラファイト棒(6.5mm×6.5mmの断片矩形状の角柱状電極)を用いた。
これら電極11,12の配置は、各極の中心軸方向が垂直方向(図中のZ方向)に沿って一直線上にあるような配置(垂直配置)とし、グラファイト製回収板21,22の対向面21a,22aは、ほぼ厳密な平行で水平面内にあるような配置とした(図1参照)。ここで、電極11,12間の隙間L1は約2mmに設定し、近接回収領域内に配置した回収板間の隙間L2は約30mmに設定した。
【0056】
反応容器2内の雰囲気ガスとしては、H2ガスとArガスとを40:60の体積比で混合した混合ガスを使用した。反応容器2内のガス圧は、概ね2.7×104Pa(約200Torr)に調整した。そして、電極11,12間に30Vの電圧を印加しつつ60〜80Aの直流電流を流し、90秒間のアーク放電を実施した。
アーク放電実施後、反応容器2の取出口(図1には示していない。)を開放し、そこから陰極12側の回収板22を陰極12と共に取り出した。当該回収板22の対向面22aに付着したカーボンナノチューブ膜をピンセットで端部を掴んで剥がした。
【0057】
以上の実験条件にてカーボンナノチューブを含む膜状堆積物(カーボンナノチューブ膜)を得た。得られたカーボンナノチューブ膜の全体像を撮影した光学写真を図3に示す。図3に示されるように、本試験例の実施により、回収板22の対向面22aにはほぼ一様にカーボンナノチューブ含有生成物が堆積しており、全体にほぼ均等な膜厚のカーボンナノチューブ膜であって、当該対向面22aに対応する面積を有するカーボンナノチューブ膜を得ることができた。
【0058】
<試験例2:得られたカーボンナノチューブ膜の性状観察>
上記試験例1で得られたカーボンナノチューブ膜の観察を走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope、株式会社トプコン製、型式ABT−150F)によって行った。それらの写真を図4〜7に示す。図4は、試験例1で得られたカーボンナノチューブ膜におけるやや周縁部に近い部分のSEM写真(倍率20,000倍)であり、図5は、当該部分を拡大したSEM写真(倍率50,000倍)である。図6は、試験例1で得られたカーボンナノチューブ膜における中央部付近のSEM写真(倍率20,000倍)であり、図7は、当該部分を拡大したSEM写真(倍率50,000倍)である。
【0059】
これらSEM写真に示されるように、上記膜の周縁部に近い部分では、中心部から周縁部への方向に沿うような配向性を有するカーボンナノチューブが多く観察された。この配向性は、導電板21,22間で例えばアーク熱により生じる雰囲気ガスの上昇気流が、陰極12側の導電板22に衝突後に、対向面22aの周縁に向けて流れていくことによるものと考えられる。
他方、図6〜7に示されるように、上記膜の中心部付近では、カーボンナノチューブが多層構造をなしてクモの巣状に堆積(積層)しているのが認められた。
なお、金属触媒由来の微小金属粒子(典型的には直径20nmまたはそれ以下の微小粒子)が膜の表面や内部の一部に散乱していることが認められたが、種々の酸を使用した酸化処理、例えば0.5〜2M程度の濃度の塩酸によりカーボンナノチューブ膜を処理する(好ましくは、予め200〜500℃程度の高温で加熱処理した試料を使用する。)ことによって、不純物たる金属微粒子及び/又はカーボン微粒子を容易に除去することができる。
【0060】
さらに微視的にカーボンナノチューブ膜を観察するため、高分解能透過型電子顕微鏡(HR−TEM:High Resolution Transmission Electron Microscope)による観察を行った。具体的には、上記得られたカーボンナノチューブ膜を300℃に加熱して塩酸処理を行った後、市販の高分解能透過型電子顕微鏡(日本電子株式会社製品、型式JEM−3100FEF)による観察を行った。それらの写真を図8〜9に示す。各TEM画像のスケールバーは5nmである。
これらTEM像から明らかなように、得られたカーボンナノチューブ膜は、多数のカーボンナノチューブが緻密に集まって(固まって)成る束状構造(バンドル構造)により形成されており、該束状構造を構成するカーボンナノチューブの大部分(ここではTEM像観察に基づいてカーボンナノチューブ全数のうちの90%以上)は二層カーボンナノチューブ(DWNT:Double Wall Nanotube)であることが確認された。DWNTでない残りのカーボンナノチューブはほぼ単層カーボンナノチューブ(SWNT:Single Wall Nanotube)であった。また、TEM観察に基づく二層カーボンナノチューブの外径は1.9nm〜4.7nm(メジアン径:2.9nm)であり、内径は1.2nm〜3.8nm(メジアン径:2.2nm)であった。また、TEM観察に基づく隣り合う二つのグラファイト層間の距離は、一定ではないが概ね0.37nm〜0.47nmの範囲内であった。
以上から明らかなように、本発明の製造方法によると、従来のように触媒として硫黄元素(S)を含まない金属触媒で二層カーボンナノチューブに富むカーボンナノチューブ集合物(カーボンナノチューブ膜)を製造することができる。
【0061】
次に、試験例1で得られたカーボンナノチューブ膜のラマンスペクトルを観察した。ラマンスペクトルの観察には、Jobin Yvon株式会社製のラマン分光測定装置(型番「RAMANOR T64000」)をArレーザ(波長514.5nm)及びHe−Neレーザ(波長633nm)とともに使用した。結果(チャート)を図10に示す。いずれの測定条件においてもカーボンナノチューブ特有のGバンド、Dバンド、RBM(ラジアルブリージングモード)が観測された。
具体的には、図10のa側に示されるように、低波数領域(RBM)の観察の結果、514.5nmレーザにより139〜219cm−1の範囲にピークがみられ、且つ、633nmレーザにより117〜285cm−1の範囲にピークがみられた。従って、得られたカーボンナノチューブ膜を構成するカーボンナノチューブの直径は1.1nm〜1.8nm(514.5nmレーザ)、0.9nm〜2.2nm(633nmレーザ)と算出された。
また、図10のb側に示されるように、1590cm−1付近にシャープなピーク(Gバンド)が観察された。また、1350cm−1付近のピーク(Dバンド)はわずかに観測されるのみであった。G/D比は25に達していた。以上の結果から、得られた膜中のカーボンナノチューブは非常に高い結晶性を呈し且つ欠陥の少ないものであることがわかった。
【0062】
次に、上記試験例1で得られたカーボンナノチューブ膜の熱重量測定(TGA)と示差熱分析(DTA)を行った。このTGA/DTA測定には、島津製作所社製の測定装置(型番「DTG−60M」)を使用した。この測定結果(チャート)を図11のグラフに示す。図11に示されるTGA曲線から明らかなように、供試したカーボンナノチューブ膜の純度(カーボンナノチューブ含有率)は概ね58質量%以上であり、本発明の製造方法の有用性が確かめられた。即ち、図11に示されるTGA曲線からみて500℃から700℃までの供試物の重量変化率(減少率)は約50%であった。このことは供試物の良好な均質性を示している。
また、DTA曲線において575℃付近に顕著なピークがみられる。このピークは、二層カーボンナノチューブに顕著なものであり、供試物中の二層カーボンナノチューブの含有率の高さ(換言すれば純度の高さ)を示している。
【0063】
<比較試験例:近接回収領域外で製造したカーボンナノチューブ膜>
比較対照として、上記一対の回収板21,22を反応容器2内に配置しないこと以外は、同様の装置構成ならびに実験条件によって同様のアーク放電を実施した。
アーク放電実施後、反応容器2の取出口(図示せず)を開放し、近接回収領域外である(即ちアーク放電時に900Kよりも低い温度領域である)容器2の上面部2aの内壁面に付着していたカーボンナノチューブを含む炭素質材料をピンセットで剥がして取り出した。
こうして得られた比較対照の炭素質材料の構成を電子顕微鏡(SEMとTEM)で観察した。その結果、図12のSEM写真にみられるように、本比較試験例で得られた炭素質材料は、カーボンナノチューブが多層構造をなしてクモの巣状に堆積(積層)した構造であった。また、図13のTEM写真から明らかなように、この炭素質材料は、多数のカーボンナノチューブが緻密に集まって(固まって)成る束状構造(バンドル構造)により形成されていた。しかしながら、かかるTEM写真に示されるように、当該束状構造(バンドル構造)は、実質的に単層カーボンナノチューブにより構成されており、二層カーボンナノチューブの集積は認められない。このことは、具体的なデータは示していないが、得られた炭素質材料について行ったTGA/DTA測定においても裏付けられている。即ち本比較試験例で得られた炭素質材料については、DTA曲線において二層カーボンナノチューブに顕著な575℃付近のピークが認められなかった。
以上の比較試験例の結果から、二層カーボンナノチューブに富む炭素質材料(典型的には二層カーボンナノチューブに富むカーボンナノチューブ膜)は、アーク放電により電極(陽極)から蒸発した蒸発物を上記近接回収領域内において捕捉・回収することにより好適に得られることが確認された。
【0064】
<試験例3:得られたカーボンナノチューブ膜の電界電子放出特性の評価>
上記試験例1で得られたカーボンナノチューブ膜の有用性を評価するため、電界電子放出特性を調べた。
即ち、試験例1で得られたカーボンナノチューブ膜を、空気中で300℃、400℃又は500℃まで加熱して所定時間(ここでは1時間)加熱処理した。あるいは、さらに当該加熱処理後に塩酸(ここでは濃度が1Mの塩酸を使用した。)に試料を24時間浸漬する塩酸処理を行った。かかる加熱処理のみのもの、及びその後に塩酸処理を行ったものの何れについても、エタノールで洗浄し、続いて脱イオン水で洗浄し、次いで100℃で2時間の乾燥処理を行った。
図14に模式的に示すように、上記得られた乾燥状態のカーボンナノチューブ膜210を石英製の基板220の表面に貼り付けることにより、本試験例に係る電界電子放出材料としての電界電子放出型カソード(FEC)200を作製した。
【0065】
次に、作製した電界電子放出型カソード200を密閉容器(チャンバー)内に配置し、容器内部を減圧して真空雰囲気(約1.3×10−4Pa)とした。図14に模式的に示すように、カソード200のカーボンナノチューブ膜210の上方に棒状の対極(アノード)250を配置した。
両極間の隙間を500μmに設定して電界電子放出試験を行った。具体的には、ターンオン電界(Eto:V/μm)及び閾値電界(Eth:V/μm)を、それぞれ、電流密度を1μA/cm2及び1mA/cm2として求め、さらに電界増強因子(β:Field Enhancement Factor)をF−N式(ファウラー−ノルドハイム式:Fowler-Nordheim equation)から求めた。具体的には、本試験によって作成したI−V曲線からFowler−Nordheimプロットを行い低電界域(スタート時)と高電界域とで異なる傾きの直線が得られるところ、当該低電界域における直線の傾きから導き出される電界増強因子β2と当該高電界域における直線の傾きから導き出される電界増強因子β1とを別々な値として表1に掲載してある。換言すれば、安定した電界放出を継続しているときの電界増強因子β1と、引き出し電圧が低いときの電界増強因子β2とをそれぞれ別個に求めて掲載した。なお、これら二つの電界増強因子間においてβ2<β1であること自体は一般的な現象であり、特別なことではない。なお、電界増強因子βはカーボンナノチューブの太さ、直径、バンドル形状に依存する。以上の結果を表1に示す。
【0066】
【表1】
【0067】
表1に示す結果から明らかなように、試験例1で得られたカーボンナノチューブ膜は、カーボンナノチューブのうちの90%以上が二層カーボンナノチューブであることから極めて優れた電子放出特性が得られた。即ち、比較的低いEto及びEthを実現し、高いβを示した。このことは、本発明によって提供される二層カーボンナノチューブに富む構成のカーボンナノチューブ膜(即ち膜状カーボンナノチューブ集合物)は、電界電子放出型カソードのような電子放出材料(例えば、電界電子放出型ディスプレイ(FED)のエミッタや電界効果トランジスタ、等の電界電子放出素子即ち電子デバイス材料)を構築する材料として好ましいものであることを示している。
【0068】
以上、本発明を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、本発明は、更に別の態様でも実施でき、その主旨を逸脱しない範囲で種々変更を加えうるものである。例えば、上述の試験例1では、図1に示すような一対の回収板(導電板)21,22を使用しているが、この形態に限られず、例えば陰極12側の回収板22のみ設置した態様(導電性がなくてもよい)でもよい。
【符号の説明】
【0069】
1,101 製造装置
2,102 反応容器
4,104 内部空間
11,111 電極(陽極)
12,112 電極(陰極)
21,121 回収板
22,122 回収板
200 電界電子放出型カソード(FEC)
210 カーボンナノチューブ膜
220 基板
250 対極
【技術分野】
【0001】
本発明は、二層カーボンナノチューブを主体に構成される炭素質材料の製造方法に関する。特に、アーク放電法を用いて二層カーボンナノチューブを主体に構成される膜状の炭素質材料を製造する方法及び製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブは、導電性、熱伝導性、機械的強度等の優れた特性を持つことから、多くの分野から注目を集めている新素材である。特に、カーボンナノチューブの集合体である炭素質材料、なかでも膜状に形成された炭素質材料(以下、カーボンナノチューブを主体に構成される膜状の炭素質材料を単に「カーボンナノチューブ膜」と略称する場合がある。)は、電界電子放出型ディスプレイ(FED)のエミッタや電界効果トランジスタ等の電界電子放出材料(電界電子放出素子)として、エレクトロニクス分野での応用が期待されている(特許文献1〜3参照)。
また、カーボンナノチューブ膜の膜面積を大きくし、基材から完全に分離した状態で(即ち自立膜として)製造できれば、ディスプレイの大型化や膜の単独利用等が可能となり、当該膜の適用範囲が拡大されるので好ましい(特許文献4参照)。
ところで、カーボンナノチューブは、その円筒構造が一層である単層カーボンナノチューブと、二層以上のグラファイト層が同心円状に重なった構造である多層カーボンナノチューブとに大きく分類される。このうち、多層構造に属する二層構造のカーボンナノチューブ(以下「二層カーボンナノチューブ」という。)は、単層カーボンナノチューブと同等の低い電圧で優れた電界電子放出(フィールドエミッション)特性を有しており、さらに単層カーボンナノチューブよりも長寿命であり且つ耐久性に優れるため、特にFEDその他のエレクトロニクス分野での利用に優れるカーボンナノチューブ材料である。
【0003】
カーボンナノチューブ膜の製造方法としては、典型的には、スクリーン印刷法やスプレー法等の方法によりカーボンナノチューブを含むペーストや分散液を基材上に付与する方法、若しくは炭素又は炭素原料を含むガスを高温条件下で金属触媒を担持した基材と接触させて該基材上で膜を成長させる化学気相成長法(即ちCVD法)が挙げられる(例えば特許文献4,5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−288561号公報
【特許文献2】特開2003−121892号公報
【特許文献3】特開2002−299265号公報
【特許文献4】特開2007−182342号公報
【特許文献5】特開2007−145634号公報
【特許文献6】特開2003−277032号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、CVD法は基材上にカーボンナノチューブ膜を形成することが前提であり、基材の存在が本来不可欠である。特許文献4では、CVD法によりSi等の基材上にカーボンナノチューブ膜を形成し、当該膜を上記基材から剥離して自立膜を得る方法が開示されている。しかし、この方法では得られる膜面積(例えば20mm×12mm程度)に限界がある。
【0006】
本発明は、上述したような特性の二層カーボンナノチューブを主体に構成される炭素質材料を製造する方法を提供することを一つの目的とする。特に、二層カーボンナノチューブを主体に構成される膜状の炭素質材料、即ちカーボンナノチューブ膜を製造することができ且つ該膜を自立膜として回収することができる製造方法、及び該方法の実施に適した製造装置を提供することを一つの目的とする。さらには、ここで開示される製造方法によって得られるカーボンナノチューブ膜を利用した電子放出材料(電子放出素子)を提供することを他の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を実現するべく本発明によって以下の製造方法が提供される。即ち、ここで開示される一つの製造方法は、減圧可能な容器内に配置された一対の電極間にアーク放電を発生させて該電極の少なくとも一方からカーボンを蒸発させて行う、カーボンナノチューブを主体に構成される炭素質材料の製造方法である。そして、該アーク放電の発生領域に近接する外側領域であって典型的には900K(ケルビン)を下回らない温度領域内において前記一対の電極の少なくとも一方からの蒸発物を回収することを特徴とする、二層カーボンナノチューブを主体に構成された炭素質材料を製造する方法である。
ここで「炭素質材料」とは、炭素を主成分とする材料をいい、炭素以外の元素(例えば後述する金属触媒を構成する金属元素)を包含し得る。
また、ここで「カーボンナノチューブを主体に構成される炭素質材料」とは、炭素質材料に含まれる炭素原子の大半(典型的には原子百分率で全炭素の50at%以上)がカーボンナノチューブとして存在する炭素質材料をいう。
また、ここで「二層カーボンナノチューブを主体に構成された炭素質材料」とは、上記カーボンナノチューブを主体に構成される炭素質材料であって、さらに電子顕微鏡観察等で識別し得る炭素質材料に含まれるカーボンナノチューブの大半(典型的には全カーボンナノチューブ数の50%以上、より好適には炭素質材料に含まれる炭素原子の50at%以上)が二層カーボンナノチューブとして存在する炭素質材料をいう。
【0008】
アーク放電により電極(典型的には陽極)から蒸発したカーボン粒子は、典型的にはアーク放電発生領域(即ちアークプラズマの発生領域)から外側に向けて拡散していく。このとき、カーボンナノチューブ(好ましくは二層カーボンナノチューブ)を含む生成物(蒸発物)は、高温(例えば6000K程度)のアーク放電発生領域(即ちアークプラズマの発生領域)に近接する外側領域である該アークプラズマよりも比較的低温(即ち900Kを下回らない温度領域、典型的には900K〜2500Kの温度領域、例えば1000K〜1800Kの温度領域)の領域内で生じ、当該領域内で上記生成物(蒸発物)は成長し得る。
従って、上記構成においてアーク放電法に基づくカーボンナノチューブの生成を行い、そして上記アーク放電発生領域(アークプラズマ発生領域)に近接する外側領域であって典型的には900Kを下回らない温度領域内(典型的には900K〜2500K、例えば1000K〜1800K)の領域内で炭素質材料を回収することにより、二層カーボンナノチューブを主体(典型的には捕捉・回収されたカーボンナノチューブのうちの50%又はそれ以上が二層カーボンナノチューブ)として構成された炭素質材料(好ましくは膜状炭素質材料即ちカーボンナノチューブ膜)を効率的に製造することができる。例えば、上記一対の電極における上記蒸発物の発生部位からの距離が100mm以下となる領域内において該蒸発物を回収することが好ましい。
【0009】
従って、ここで開示される好ましい一つの製造方法は、減圧可能な容器内に配置された一対の電極間にアーク放電を発生させて該電極の少なくとも一方からカーボンを蒸発させて行うカーボンナノチューブを主体に構成される炭素質材料の製造方法であって、上記一対の電極の少なくとも一方からの蒸発物を該一対の電極における該蒸発物の発生部位からの距離が100mm以下(例えば10mm〜100mm、典型的には10mm〜50mm)となる領域内において回収することを特徴とする。
容器内の上記アーク放電発生領域(アークプラズマ発生領域)に近接する外側領域内において蒸発物を回収することにより、二層カーボンナノチューブを主体に構成された炭素質材料を好適に製造することができる。
【0010】
また、ここで開示される製造方法の好ましい一態様は、上記対向する一対の電極間の隙間よりも距離が長い隙間をあけて対向した状態で、一対の回収板を配置し、上記一対の電極の少なくとも一方からの蒸発物を、該一対の回収板のうちの少なくとも一方の回収板において膜状に堆積させて捕捉することを特徴とする。
かかる態様の製造方法によると、上記アーク放電発生領域(アークプラズマ発生領域)に近接する外側領域(典型的には容器内の温度分布が900K以上、特には900K〜2500Kとなる領域)において上記対向する一対の電極間の隙間よりも距離が長い隙間をあけて対向した状態で配置した一対の回収板を採用することによって、好ましくは二層カーボンナノチューブを主体(典型的には捕捉・回収されたカーボンナノチューブのうちの50%又はそれ以上が二層カーボンナノチューブ)として構成された膜状の炭素質素材(即ちカーボンナノチューブ膜)を効率的に製造する(得る)ことができる。
【0011】
好ましくは、上記一対の回収板を、対向する面同士が平行となるように配置する。
また、好ましくは、上記一対の回収板は、それぞれ、中心に挿通孔が形成された略円板状に形成されており、該挿通孔に上記一対の電極の何れかを挿通させた状態で上記一対の電極にそれぞれ挿脱可能に取り付ける。
また、好ましくは、上記回収板を、直径が概ね80mm〜150mmのサイズとなるように形成する。
また、好ましくは、上記一対の回収板のうち陰極側に配置される回収板を、アーク放電時の上記容器内の温度分布が900K〜2500Kとなる領域に含まれる陰極部分に配置する。
また、好ましくは、上記一対の回収板の間隔を20mm〜100mmに設定する。
これらの工夫を行うことにより、より効率よく膜状炭素質材料(即ちカーボンナノチューブ膜、特に二層カーボンナノチューブに富むカーボンナノチューブ膜)を上記回収板の表面に形成することができる。
【0012】
また、ここで開示される製造方法のさらに好ましい一態様では、上記一対の回収板は導電性であり、上記一対の回収板のうちの一方の回収板は上記対向する一対の電極のうちの一方の電極に電気的に接続された状態で配置されており、且つ、上記一対の回収板のうちの他方の回収板は上記対向する一対の電極のうちの他方の電極に電気的に接続された状態で配置されていることを特徴とする。
本態様の方法では、上記一対の電極を構成する電極(即ち陰極と陽極)の各々に一つずつ電気的に接続された状態の一対の回収板(導電板)を使用する。
かかる構成の製造方法によると、対向する陰極と陽極との間に電圧を印加することにより、上記電極間の隙間以上の隙間をあけて対向配置されている回収板(導電板)間においても、上記電圧と同程度の電位差で電界を生じさせることが可能となる。
他方、アーク放電により電極(典型的には陽極)から蒸発したカーボン粒子は、原子又は正電荷を帯びた陽イオンとして存在し得る。
ここで本態様のように回収板を導電性材料で構成するとともに上記一対の電極と電気的に接続することによって、一対の回収板間に電位差(電界)を生じさせることができる。このことにより、上記カーボン粒子ならびに当該粒子からなるカーボンナノチューブ含有生成物(好ましくは二層カーボンナノチューブを主体に構成された生成物)は全体的に陰極側に配置される回収板に移動していく。この結果、陰極側に配置された回収板における陽極との対向面に上記生成物が効率よく捕捉され、そこで堆積(成膜)する。従って、所定時間のアーク放電を継続実施すれば、上記生成物は上記対向面の一面にわたり堆積されて(付着して)いくので、この生成物を上記対向面において膜状に捕捉することができ、結果、回収板(導電板)の対向面(即ち捕捉面)と同程度の面積で所定厚のカーボンナノチューブからなる膜状堆積物(好ましくは二層カーボンナノチューブを主体に構成されたカーボンナノチューブ膜)として回収することができる。
【0013】
また、アーク放電時に上記回収板間に電界が生じることにより、蒸発したカーボン粒子(更には後述するような触媒金属粒子)、及び該粒子からなるカーボンナノチューブ含有生成物は、その移動(拡散)範囲が上記回収板間に制限され得る。このため、カーボンナノチューブ含有生成物(好ましくは二層カーボンナノチューブを主体に構成されたカーボンナノチューブ膜)は陰極側の回収板の対向面に効率よく高い回収率で回収(捕捉)され得る。更に、上記カーボンナノチューブ膜は、上記回収板の対向面に物理的に付着しているのみであるため、当該膜を上記対向面から容易に剥離することができ、自立膜として得ることができる。
【0014】
ここで開示される製造方法の好ましい一態様では、上記一対の電極を上下方向に対向するように配置する。好ましくは、下側に陽極を配置し且つ上側に陰極を配置する。
そして、上記陰極側に配置された回収板の陽極と対向する下向きの面によって、上記蒸発したカーボンからなるカーボンナノチューブであって上記容器内を陽極から陰極側に上昇するカーボンナノチューブを膜状に堆積させて捕捉することを特徴とする。
ここで「上下に配置」とは、上記容器を水平に(真横から)見たとき、一方の電極(ここでは直流放電時において陽極)が下側に、そして他方の電極(ここでは直流放電時において陰極)が上側にあることをいい、一方の電極における他極との対向面同士が上下方向に配置されていれば足りる。また、下側の電極と上側の電極とが垂直(鉛直)方向に沿って一直線上にあるように(若しくは互いの対向面が所定間隔を隔てた水平面内にあるように)配置された電極は、容器内で上下方向に配置されている電極の好ましい一つの典型例である。
【0015】
かかる電極配置にすることによって、以下の効果が奏される。即ち、アーク放電時には、電極間、及び当該各電極に一つずつ電気的に接続された状態で配置された回収板間には電界が生じるため、下側の陽極から蒸発したカーボン粒子(原子又は陽イオン、ならびに典型的には更に触媒金属粒子の原子又は陽イオン)は、上側の陰極及び/又は該陰極側の回収板に向けて上昇する傾向にある。このとき、当該各粒子にはこの上昇しようとする力と、重力による下降方向の力が共に作用して、各粒子が上記回収板に捕捉されるまでの時間(即ち該粒子の回収板間における滞在時間)を増加させることができる。これによりアーク放電時には陰極から放出された電子が回収板間に存在するカーボン(若しくは更に触媒金属)及び雰囲気ガスの各粒子にも衝突し得る確率が増える。この結果、アークプラズマ発生領域が拡大し、それに伴いアークプラズマ発生領域周辺のカーボンナノチューブ生成に好適な上記温度領域(典型的には900K〜2500Kの温度領域)も拡大し得る。従って、拡大した上記温度領域により長く滞在し得るカーボン粒子及び触媒金属粒子が増加し得るため、カーボンナノチューブの生成(成長)領域と時間が共に増加し得る結果、高効率且つ高収率でカーボンナノチューブ(好ましくは二層カーボンナノチューブ)を生成することができる。
【0016】
ここで開示される製造方法の更に好ましい一態様では、上記一対の電極のうちの少なくとも陽極は、金属触媒を含有する炭素材料(典型的にはグラファイト製)により構成されていることを特徴とする。
このように触媒を含む炭素材料からなる電極を用いることにより、効率よくカーボンナノチューブ含有生成物を生じさせることができる。
【0017】
また、更に好ましくは、上記一対の電極のうちの少なくとも陽極は、上記金属触媒の構成金属元素として、
(1).鉄(Fe)と、
(2).モリブデン(Mo)、クロム(Cr)、タングステン(W)、チタン(Ti)及び白金族金属に属する金属元素のうちから選択される少なくとも1種の金属元素と、
を有することを特徴とする。
この種の金属元素をあわせ含む触媒(これら金属元素を主体に構成される触媒を2種以上あわせて含有するものでもよく、或いは、これら金属元素を成分とする1種類の合金触媒でもよい。)を有する電極を使用することにより、二層カーボンナノチューブを効率よく生成することができる。従って、本態様の製造方法によると、効率よく、二層カーボンナノチューブに富む炭素質材料、好適にはカーボンナノチューブ膜(例えばカーボンナノチューブの50mol%以上が二層カーボンナノチューブであるカーボンナノチューブ膜)を製造することができる。
【0018】
また、本発明は、ここで開示されるいずれかの製造方法により製造されたカーボンナノチューブを主体に構成された炭素質材料であって、該炭素質材料に含まれるカーボンナノチューブ数のうちの50%以上が二層カーボンナノチューブである炭素質材料を提供する。特に、膜状に製造された炭素質材料、即ちカーボンナノチューブ膜を提供する。典型的には、膜を構成するカーボンナノチューブのうちの50mol%以上(好ましくは70mol%以上、特に好ましくは90mol%以上)が二層カーボンナノチューブである。
また、好ましくは、基材から分離した状態(即ち基材フリー)の自立膜として製造されたカーボンナノチューブ膜を提供することができる。
また、本発明は、ここで開示されるいずれかの製造方法により製造された膜状炭素質材料(カーボンナノチューブ膜)を構成要素として有する電子放出材料を提供する。典型的には、膜を構成するカーボンナノチューブ数のうちの50%以上が二層カーボンナノチューブであることを特徴とする電子放出材料(電子放出素子)を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の製造方法を実施するのに好ましい一形態のカーボンナノチューブ製造装置の構成を示す模式図である。
【図1A】図1内の点線Iで囲んだ部分を拡大して示す模式図である。
【図2】本発明の製造方法を実施するのに好ましい他の一形態のカーボンナノチューブ製造装置の構成を示す模式図である。
【図3】試験例1で得られたカーボンナノチューブ膜全体の光学写真である。
【図4】試験例1で得られたカーボンナノチューブ膜のSEM写真である。
【図5】試験例1で得られたカーボンナノチューブ膜のSEM写真である。
【図6】試験例1で得られたカーボンナノチューブ膜のSEM写真である。
【図7】試験例1で得られたカーボンナノチューブ膜のSEM写真である。
【図8】試験例1で得られたカーボンナノチューブ膜のTEM写真である。
【図9】試験例1で得られたカーボンナノチューブ膜のTEM写真である。
【図10】試験例1で得られたカーボンナノチューブ膜のラマンスペクトル分析チャートである。
【図11】試験例1で得られたカーボンナノチューブ膜のTGA曲線及びDTA曲線を示すグラフである。
【図12】比較試験例で得られたカーボンナノチューブ膜のSEM写真である。
【図13】比較試験例で得られたカーボンナノチューブ膜のTEM写真である。
【図14】試験例1で得られたカーボンナノチューブ膜を用いて作製した電界電子放出型カソード(FEC)を模式的に示した側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
【0021】
本発明に係るカーボンナノチューブ製造方法は、アーク放電法を用いて二層カーボンナノチューブを主体に構成される炭素質材料、特に、比較的膜面積の大きな膜状炭素質材料(即ちカーボンナノチューブ膜)を製造すること、及び当該膜を回収すること(好ましくは自立膜として回収すること)を主たる目的とするものである。また、本発明の実施によって、高効率且つ高収率で(若しくは多量に)二層カーボンナノチューブに富むカーボンナノチューブ材料(カーボンナノチューブ集合物)を製造することを実現することができる。好ましくは、二層カーボンナノチューブに富む膜面積の大きいカーボンナノチューブ膜を製造することができる。
【0022】
アーク放電法は、カーボンナノチューブの典型的な製造方法の一つであり、欠陥が少なく品質の良いカーボンナノチューブが得られる点で優れた方法である。しかし、従来、当該方法は、例えばCVD法に比べると効率が悪く、収率も低いといわれてきた。このため、例えば特許文献6(特開2003−277032号公報)に開示される方法等の改善策によって、量産化可能な製造方法として改善され、利用されてきている。
【0023】
ここに開示される製造方法では、アーク放電法による二層カーボンナノチューブの量産化がより一層実現され得る。即ち、上記のとおり、ここで開示されるアーク放電法に基づく炭素質材料製造方法は、一対の電極間におけるアーク放電の発生領域に近接する外側領域であって900Kを下回らない温度領域(以下「近接回収領域」と略称する。)において、電極から蒸発するカーボンを含む蒸発物(即ちカーボンナノチューブ主体の炭素質材料)を回収する。このことによって、従来のこの種の製造法で得られるよりも高率に二層カーボンナノチューブを得ることができる。
従来のアーク法に基づくカーボンナノチューブ製造方法では、減圧可能な容器(以下「反応容器」という。)内の900Kを下回る温度領域内、即ちアーク放電部位から離隔した位置(例えば電極設置位置から離隔した反応容器の上部内壁面又は内壁近傍)において蒸発物を回収していたが、この場合には得られた回収物(炭素質材料)中に含まれるカーボンナノチューブは単層カーボンナノチューブが主体となる傾向にある。これに対し、ここで開示される製造方法では、回収位置をアーク放電発生領域に近接する領域(即ち上記近接回領域)に設定したことにより、二層カーボンナノチューブに富む炭素質材料の回収(換言すれば製造)を実現することができた。
【0024】
好ましくは、近接回収領域は、所定の反応容器(チャンバー)内において一対の電極間でのアーク放電時において900K〜2500Kの温度領域、例えば1000K〜1800Kの温度領域として設定することができる。
なお、近接回収領域の設定にあたっての上記900Kを下回らないという温度域の条件は一つの目安であって厳格に温度領域を制限するものではない。例えば、四捨五入により900Kに切り上げられるような温度域(例えば850K〜899Kの温度域)もここでいう900Kに包含され得る。同様に、上記温度域の上限温度2500K(若しくは1800K)についても、四捨五入により2500K(若しくは1800K)に切り下げられる温度域(例えば2540K以下或いは1840K以下)が包含され得る。要するに、アーク放電時においてアーク放電領域の外側領域であって900Kを下回らない何れかの部位において電極からの蒸発物(即ち炭素質材料)を回収すればよく、本発明の実施にあたって反応容器内における温度分布を詳細(厳格)に明らかにする必要はない。
従って、近接回収領域は、電極からの距離を指標にして設定することができる。例えば、反応容器内の一対の電極(即ちアーク放電を行う電極)における上記蒸発物の発生部位からの距離が100mm以下となる領域を近接回収領域として設定することができる。このような電極から比較的近い距離において上記蒸発物を回収することによって、二層カーボンナノチューブに富む炭素質材料を回収(製造)することが容易に行える。好ましくは、電極の上記蒸発物発生部位からの距離が10mm〜100mm(例えば10mm〜50mm)となる領域を近接回収領域として好適に設定することができる。
【0025】
好ましくは、このような近接回収領域として設定した領域内において、回収部材として表面がフラット形状の回収板を少なくとも一つ配置する。これにより、当該回収板のフラット形状の表面に電極からの蒸発物を捕捉回収することができる。このようなフラット形状の表面に回収された蒸発物は、膜状の炭素質材料を容易に形成し得る。従って、このような回収板を採用することによって所望の二層カーボンナノチューブに富む膜状の炭素質材料(即ちカーボンナノチューブ膜)を容易に製造することができる。なお、回収板は、後述する実施形態のように反応容器とは別個の部材として容器内に配置してもよく、或いは反応容器の一部を回収板として機能させる態様(例えば反応容器の内壁面の一部を電極寄りに迫り出させた態様)であってもよい。
典型的には、一対の回収板が、反応容器内に対向配置される一対の電極間の隙間よりも距離が長い隙間をあけた位置(即ち上記近接回収領域内)において対向した状態で一対の回収板が設けられている。かかる一対の回収板の存在により、一方の電極(典型的には陽極)から蒸発した蒸発物を構成するカーボン粒子(及び典型的には更に触媒金属粒子)から二層カーボンナノチューブに富む炭素質材料を生成するのに好適な環境が、上記回収板間の空間領域に実現され得る。
この結果、かかる製造方法を実施することにより、該回収板間の空間領域内でカーボンナノチューブ(特に二層カーボンナノチューブ)が高効率に生成され、当該カーボンナノチューブを含む生成物(蒸発物)は陰極側回収板の陽極との対向面上にほぼ選択的に付着、堆積していく。従って、高効率且つ高収率でカーボンナノチューブを捕捉、回収することができると共に、上記対向面と同程度の面積を有する膜状炭素質材料、即ちカーボンナノチューブ膜として回収することができる。更に、このカーボンナノチューブ膜は、上記対向面から容易に剥離されて自立膜(即ち基材フリーの膜状炭素質材料)として回収され得る。
なお、ここで開示される製造方法を好適に実施するために設計された後述するような製造装置は、二層カーボンナノチューブの製造に適する装置ではあるが、二層以外の多層カーボンナノチューブや単層カーボンナノチューブの製造に適用することを制限するものではない。
【0026】
次に、ここで開示される炭素質材料製造方法を実施するのに好ましい製造装置の好ましい一実施形態について図面を参照して具体的に説明する。図1は、本実施形態に係るカーボンナノチューブ製造装置1の構成を示した模式図である。図1Aは、図1内の点線Iで囲んだ部分を拡大して示す模式図である。
図1に示されるように、当該製造装置1は大まかにいって、反応容器2と、一対の電極11,12と、一対の回収板21,22と、から構成される。
【0027】
反応容器2は、密閉及び減圧が可能な耐圧容器であって、全体として例えばステンレス鋼で略円筒状(例えば、直径25cm〜80cm程度、高さ凡そ30cm〜150cmの略円筒形状)に構成されている。反応容器2の上面部2a(例えば特にその中心部)には、陰極12を電気的に絶縁した状態で支持する陰極12側の支柱32が挿通している。また、該容器2の底面部2b(例えば特にその中心部)には、陽極11を電気的に絶縁した状態で支持する陽極11側の支柱31が固定され、該固定位置から所定距離だけ離れた箇所にガス流通手段としてガス供給管41とガス排出管42とが設けられている。なお、反応容器2の側壁部には、本製造装置作動中における電極11,12間の反応を見るための覗き孔を備えてもよい。以下、更に具体的に説明する。
【0028】
上記反応容器2の内部空間4には一対の電極、即ち陽極11及び陰極12が支柱31,32にそれぞれ支持された状態で上下方向に配置されており、下側が陽極11、上側が陰極12となっている。
これら陽極11及び陰極12は、いずれもスティック状(又は棒状)に形成されており、その中心軸が垂直方向Zに沿ってほぼ一直線上になるようにして、図1Aに示すように所定間隔L1の隙間14をあけて対向配置されている。なお、各電極11,12の形状はスティック状に限られず、互いに対向させ得る面を有する形状(例えば角柱状)であればよい。従って、電極の形状は、例えばいずれか一方又は両方がタブレット状であってもよく、また、形状及び/又は材質の異なる複数の構成部材(例えばスティック状の部材とタブレット状の部材)を組み立てて(接合して)なる組立型電極体であってもよい。例えば、後述の回収板21,22を介して2つの材質及び形状の異なる構成部材が接合してなる組立型電極体であって、全体形状としてスティック状に見える組立型電極体を、本実施形態に係る電極11,12として好ましく使用することができる。
【0029】
陽極11と陰極12との隙間14のサイズ(即ち、陽極11の対向面11aと陰極12の対向面12aとの間の間隔L1)は特に限定されないが、例えばアーク放電によるカーボンナノチューブ発生効率(特に二層カーボンナノチューブ発生効率)が高い0.1mm〜10mm程度、好ましくは0.5mm〜5mm程度、特に、後述の回収板21,22間の距離(間隔L2)を考慮すれば1mm〜3mm程度が好適である。
図1及び図1Aには、スティック状の陽極11と陰極12とをその中心軸を垂直方向Zに沿って一直線上になる(即ち、該中心軸同士のなす角度がほぼ180°となる)ように配置した一例を示しているが、これら電極11,12の配置はこれに限定されない。例えば、陽極11及び陰極12の少なくとも一方(例えば陽極11)を垂直方向Zから外れた角度に配置することにより、陽極11の中心軸と陰極12の中心軸とのなす角度が鈍角となるように電極11,12を配置してもよい。陽極11の中心軸と陰極12の中心軸とのなす角度は90°以上、例えば120°〜180°程度の角度とすることができる。
好ましくは、陽極11と陰極12とをその中心軸をほぼ垂直方向Zに沿って一直線上になるように配置する。
【0030】
本実施形態において、陽極11及び陰極12には、これらの電極11,12の間にアーク放電を発生し得る電圧を印加可能な図示しない直流電源(アーク電源)が接続されている。なお、アーク放電法を実施し得る限り、直流電源の代わりに交流電源を用いることもできる。この場合、一対の電極11,12のいずれもが交互に陽極又は陰極となる。
【0031】
本実施形態に係る陽極11は、例えば直径6mm程度、全長75mm程度のサイズを有し、アーク放電によってカーボンを蒸発可能な材料(好ましくは耐熱性を有する導電材料)から構成されている。そのような材料として種々の炭素材料を用いることができるが、特にグラファイトを好ましく使用できる。カーボンナノチューブの製造を目的とする場合には、例えば、グラファイトにカーボンナノチューブ合成用触媒を含有させた炭素材料を使用することができる。かかる触媒としては、従来から使用される金属触媒を好ましく使用することができ、例えば鉄(Fe)、或いは、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)若しくはニッケル混合物(例えばニッケルとイットリウムの合金:Ni−Y合金)等であり得る。特に鉄(Fe)の使用が二層カーボンナノチューブを形成するのに好ましい。
より好ましいカーボンナノチューブ合成用触媒、特に二層カーボンナノチューブ合成用触媒としては、上記のFeに加えて、モリブデン(Mo)、クロム(Cr)、タングステン(W)、チタン(Ti)及び白金族金属に属する金属元素(例えば白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh))のうちから選択される少なくとも1種の金属元素を有することが特に好ましい。
【0032】
例えば、Fe−M系合金(ここで、MはMo、Cr、W、Ti及び白金族金属に属する金属元素(Pt、Pd、Ru、Rh等)のうちから選択される少なくとも1種の金属元素)を用いてもよい。このような合金触媒は、Mo、Cr、W、Ti又は白金族金属が電極(陽極)からのカーボン粒子の蒸発効率を向上させ得るとともに高い割合で二層カーボンナノチューブを合成し得るため好ましく使用することができる。このような組成の陽極11は、例えばグラファイト粉末に上記合金触媒粉末を配合して圧粉成形することにより得ることができる。
あるいは上記のような合金触媒に代えて、Fe或いはNi(Ni−Y合金等の合金を包含する)及びCoから選択される一種又は二種以上を構成金属元素とする触媒(特に好ましいのはFeを構成元素とする触媒)と、Mo、Cr、W、Ti及び白金族金属に属する金属元素(Pt、Pd、Ru、Rh等)のうちから選択される少なくとも1種の金属元素を構成元素とする触媒と、を混合させて炭素材料に含有させたものでもよい。
特にFeとMoの合金からなる触媒の使用、或いは、Feを構成金属元素とする触媒(Fe触媒)とMoを構成金属元素とする触媒(Mo触媒)とを混合して使用することが、二層カーボンナノチューブの精製効率を向上させ得るために好ましい。
電極を構成する炭素(カーボン)量の大凡0.1mol%〜10mol%に相当する量、好ましくは0.5mol%〜5mol%に相当する量(例えば1mol%〜3mol%)の添加が適当である。
【0033】
陽極11は、反応容器2の底面部2bに固定されて垂直方向Zに立設された支柱31に支持されている。該陽極11の軸方向(長手方向)の一方の端部は、陰極12との対向面11aとなっているが、その他方の端部11bは、上記支柱31の先端(上端)部に固定されている。このため、上記陽極11は軸方向を垂直方向Zに沿わせるように上記支柱31の上に支持されている。
【0034】
陰極12は、例えば直径約8mm、全長約100mm程度のサイズを有し、耐熱性を有する導電材料から構成される。そのような材料として、例えば種々の炭素材料(例えばグラファイト)、又は金属材料(例えば銅)を適宜選択して用いることができる。なお、電源として交流電源を用いる場合には、陽極11と同様に炭素(特にグラファイト)にカーボンナノチューブ合成用触媒を含有させたものが好ましい。
【0035】
陰極12は、反応容器2の上面部2a(上面部2aのうち、例えば特にその中心部)を挿通し、垂直方向Zに沿って該容器2内に挿入されている支柱32に支持されている。該陰極12の軸方向(長手方向)の一方の端部は、陽極11との対向面12aとなっているが、その他方の端部12bは、上記支柱32の先端(下端)部に固定されている。このため、上記陰極12は軸方向を垂直方向Zに沿わせるように上記支柱32の下に支持されている。
なお、本実施形態に係る陽極11側及び陰極12側それぞれの支柱31,32は、雄ねじ構造であり、容器の一部に形成された図示しない雌ねじ孔に装着されている。そして支柱31,32の反応容器外に配置される一端は、モータ等の図示しないアクチュエータに接続されており、このアクチュエータを駆動させることにより、支柱31,32が回転し、それに伴う支柱31,32の垂直方向Zへの移動に伴い該支柱31,32に支持された電極11,12もまた垂直方向Zの両方向に移動可能としている。従って、当該アクチュエータを利用することにより、カーボン粒子の蒸発による陽極11の消耗に伴って、陰極12及び/又は陽極11を垂直方向Zに徐々に移動させることにより、両電極11,12間の隙間14を一定の距離(間隔L1)に保持することができる。なお、かかる垂直方向Zへの電極11,12の移動量(典型的には陰極12側の移動量)を設定するにあたっては、陽極11の消耗量(先端部の減り具合)又は両電極11,12間の隙間14の距離をセンサにより検知する、印加電圧から陽極11の消耗量を予測する、等の手法を適宜採用することにより、該消耗量に見合った(該消耗量を補填する)移動制御が実現される。
【0036】
なお、本実施形態では、図1に示されるように、陰極12側及び陽極11側の両方について支柱(雄ねじ構造)が垂直方向Zに移動可能に設けられているが、例えば、陽極11が反応容器2に固定された支柱に装着され、陰極12側のみ移動可能とする構成(或いは逆に陽極11側のみ移動可能とする構成)でもよい。また、上記アクチュエータを使用する代わりに、電極11,12の垂直移動を手動で行ってもよい。
【0037】
上記陽極11及び陰極12の各々において、該陽極11には回収板21が、該陰極12には回収板22がそれぞれ電気的に接続された状態で配置されている。
回収板21,22は耐熱性を有する材料(好ましくは導電性の耐熱材料)から構成される。回収板21,22の構成材料として利用し得る材料としては、炭素材料、金属又は合金材料が挙げられるが、電極11,12の構成材料と同様の材料(例えばグラファイト)を好ましく採用することができる。また、電極11,12と同じ材料を採用することにより、アーク放電時に電極11(又は電極12)表面と導電体21(又は導電体22)表面とを均等に帯電させ得る。あるいは、金属製やシリコン製の基板を回収板として使用することができる。また、セラミック製(例えば石英製)の基板を回収板として使用することができる。
上記回収板21,22の形状は特に限定されないが、電極11,12を挿通させる挿通孔(即ち、電極11,12の断面形状に対応したサイズの挿通孔)を中心に備えたフラットな形状、具体的には略円板状であるものを好適に採用することができる。かかる形状の上記回収板21,22としては、その直径が80mm〜150mm(より好ましくは80mm〜120mm、更に好ましくは90mm〜100mm)のサイズに形成されているものを用いることができる。また、かかる回収板21,22の互いに対向する面21a,22aのうち、特に陰極12側の対向面22aには、アーク放電時に陽極11から蒸発し得るカーボン粒子(典型的には更に触媒金属粒子)からなるカーボンナノチューブ含有生成物が付着、堆積する。従って、該含有生成物を付着させ易く、且つ堆積後には剥離し易くすることを考慮すれば、上記対向面22aの表面粗さは3.2μm以下であることが好ましい。なお、これら回収板21,22の厚みについては特に限定されないが、扱い易さ等を考慮すれば、例えば3mm〜6mm程度の厚みのものを好ましく用いることができる。
【0038】
回収板21を陽極11に電気的に接続した状態で配置する方法は、特に限定されない。例えば、中心に挿通孔を備えた回収板21であれば、回収板21の面方向と挿通させる陽極11の軸方向とが垂直になるように配置した状態で当該陽極11を上記挿通孔に挿通させことにより、該回収板21を陽極11に配置することができる。これと同様にして他方の回収板22も陰極12に好ましく配置することができる。
かかる方法で一対の回収板21及び22を、陽極11及び陰極12に各々一つずつ挿脱可能に取り付ける。この際、好ましくは、陽極11側の回収板21の面方向(即ち、陰極12側の回収板22と対向し得る面21aの面方向)と陰極12側の回収板22の面方向(即ち、陽極11側の回収板21と対向し得る面22aの面方向)とが互いに平行関係となるように配置する。更に好ましくは、互いに水平方向(図1に示すX方向)に沿うように配置する。
【0039】
或いは、例えば電極11,12が複数の構成部材からなる組立型電極体である場合には、該構成部材同士の間に回収板21,22を挟み込み、この状態で上記構成部材を組み立てる(接合する)ことにより、電極11,12に組み込まれた状態で回収板21,22を取り付けることもできる。例えば、スティック状の金属製構成部材と、電極材料として好適な材料(例えばカーボンナノチューブ合成用触媒を含有するグラファイト)からなるタブレット状構成部材とを用意し、両部材の間にかかる回収板を挟んで該部材同士を接合すれば、該回収板を電気的に接続した状態で配置された組立型電極体を得ることができる。
【0040】
回収板21,22は、上記近接回収領域内に配置される。ここでは、電極11,12間の隙間14(間隔L1)よりも長い距離(間隔L2、即ちL1<L2)の隙間24をあけて対向する(好ましくは平行となるように対向する)ように配置される。
対向する回収板21,22における互いの対向面21a,22aのなす角度は、陰極12側の回収板22の対向面22aが陽極11の対向面11a(即ちカーボン粒子、典型的には更に触媒金属粒子が蒸発し得る面)と対向し得るような角度であって、特に上記対向面22aが電極11,12間の隙間14、又は回収板21,22間の隙間24を移動(拡散)するカーボンナノチューブ含有生成物を効率良く捕捉し得るような角度に設定されていればよい。好ましくは、上記回収板21,22の対向面21a,22a同士のなす角度を±30°以下(好ましくは±10°以下、より好ましくは±5°以下)に設定する。且つ、当該対向面21a,22aの各面方向と水平面とのなす角度が±30°以下(好ましくは±10°以下、より好ましくは±5°以下)となるように設定する。典型的には、上記各対向面21a,22a同士の面方向のなす角度がゼロ(厳密に平行)、又はほぼゼロであり、互いに水平面とのなす角度がゼロ(厳密に水平)、又はほぼゼロであるように回収板21,22を配置する。このとき、電極11,12についても、これらの対向面11a,12aが互いに厳密な平行で且つ厳密な水平であるような配置であることがより好ましい。
かかる状態に配置することにより、回収板21,22間の隙間24は一様に間隔L2で一定(即ち平行)であるので、該回収板21,22は平行平板コンデンサーのような役割を果たし得る。即ち、アーク放電時の回収板21,22間において、水平方向(典型的には図1におけるX方向)に対して平行に等電位面が存在するため、該等電位面に垂直(即ち垂直方向Z)の向きに、その電界力が働く。即ち、回収板21,22の間に働く電界力は、垂直方向Zに沿って陽極11側から陰極12側の向きに一様な大きさで生じる。従って、陰極12側の回収板22の対向面22aは該電界力方向に対して垂直をなすので、陽極11から蒸発したカーボンから生じるカーボンナノチューブはより効率良く陰極12側の回収板22の対向面22aに付着し、堆積し得る。
【0041】
上記回収板21,22間の隙間24の間隔L2は、上記近接回収領域内であって陽極11から蒸発し得るカーボン粒子(及び典型的には触媒金属粒子)からなるカーボンナノチューブ含有生成物を効率良く生成、捕捉し得るような距離であることが好ましい。典型的には、上記カーボン粒子からカーボンナノチューブ含有生成物を生成させ易い温度領域内に回収板21,22間に挟まれる空間(隙間24)が包含されるような距離(間隔L2)を隔てて当該回収板21,22を対向配置すればよい。上記含有生成物の生成に好適な温度領域としては900K〜2500Kが好ましい。このような温度領域(近接回収領域)は、従来公知の温度測定手段(例えば放射温度計)を利用してアーク放電時における反応容器2の内部空間4の温度分布を測定して把握することができる。
かかる温度分布を呈する領域(即ち近接回収領域)内への回収板21,22の配置については、当該回収板21,22の各々が電極11,12の対向面11a,12aの各々から等しい距離で退行させた位置に取り付けられており、電極11,12間の隙間14の間隔L1が1mm〜3mmに設定されている場合には、上記回収板21,22間の隙間24の間隔L2を20mm〜100mm(好ましくは20mm〜80mm、より好ましくは30mm〜60mm)に設定することにより実現され得る。
【0042】
ガス流通手段は、図示しないガス供給源(本実施形態ではガス供給用ボンベ)と、ガス供給管41と、ガス排出管42とを備える。図1に示される本実施形態に係る製造装置1では、ガス供給管41とガス排出管42とは共に反応容器2の底面部2bに付設されている。ガス供給管41とガス排出管42の付設位置は、雰囲気ガスの反応容器2内での流路を考慮すれば、例えば、該両位置が円形状の底面部2bの中心を通る直線(径方向)上にあり、この中心から等距離にあると好ましい。ガス供給管41は、図示しない一つ又は二つ以上の雰囲気ガス供給用ボンベに接続されており、当該ボンベから反応容器2の内部空間4に雰囲気ガスを供給する。また、ガス排出管42は図示しないポンプ(真空ポンプ)に接続されており、当該ポンプにより上記内部空間4のガスを吸引し、反応容器2外に排出する。このような反応容器2内への雰囲気ガス供給量とガス排出量との兼ね合いによって、反応容器2の内部空間4の雰囲気ガス圧力を調整することができる。なお、上記各管41,42の付設位置は図1に示される態様(即ち底面部2b)に限られず、例えば反応容器2の底面に近い側壁部であってもよい。
【0043】
反応容器2の内部空間4に供給される雰囲気ガスとしては、アーク放電に基づいてカーボンナノチューブを製造し得る各種ガス(典型的には水素(H2)ガスを含む混合ガス)を適宜採用することができ、特に制限されない。例えば、H2ガス、ヘリウム(He)ガス、ネオン(Ne)ガス、アルゴン(Ar)ガス、クリプトン(Kr)ガス、キセノン(Xe)ガス等の不活性ガスから選択される一種又は二種以上)との混合ガスを使用することができる。カーボンナノチューブ(特にカーボンナノチューブ)の製造効率向上及びコスト低減等の観点から、還元性ガス(特にH2ガス)と不活性ガス(特にArガス)との混合ガスを雰囲気ガスとして好ましく用いることができる。雰囲気ガスとして採用し得る他の好適例として、H2ガスと窒素(N2)ガスとの混合ガスが挙げられる。例えばH2ガスと不活性ガスとの混合ガス中のH2ガス濃度が20〜80mol%(好ましくは30〜60mol%程度)であるものを好適に使用することができる。
【0044】
次に、このような構成の製造装置1を用いてカーボンナノチューブ膜(特に二層カーボンナノチューブを主体に構成されるカーボンナノチューブ膜)を製造する方法の好ましい一態様を説明する。即ち、まずスティック状(具体的には断面形状が6mm角の正方形、又は直径約6mmの円形等のスティック状)の陽極11と、同じくスティック状(具体的には断面形状が8mm角の正方形、又は直径約8mmの円形等のスティック状)の陰極12を用意する。また、中心に所定サイズ(陽極11及び陰極12の断面形状に対応したサイズ)の挿通孔を有し、直径80mm〜150mmのサイズの円板状のグラファイト製回収板21,22を用意する。当該回収板21の挿通孔に陽極11を挿通し、陽極11に回収板21を取り付ける。このとき、1mm〜3mm程度の距離(間隔L1)の隙間14をあけて電極11,12を対向配置したときに、回収板21,22間の隙間24の距離(間隔L2)が好適な近接回収領域である20mm〜100mmになるように、回収板21を陽極11に対して(又は回収板22を陰極12に対して)、対向面11a(又は対向面12a)となる側の端部から所定距離だけ退行させた位置に予め取り付けておく。
或いはまた、事前に回収板21,22を配置しない状態でアーク放電を実施して反応容器2の内部空間4の温度分布を測定しておき、その測定結果に基づく好適な温度分布を呈する空間領域内(即ち近接回収領域内)に、陰極12側の回収板22(特に対向面22a)が含まれるように、回収板21,22の電極11,12への取付け位置を決めることもできる。
本実施形態において、具体的には図示されるように、反応容器2の内部空間4に配されて垂直方向Zに沿って上面部2aから下方向に伸びる支柱32に対して回収板22を備えた陰極12をセットする。他方、反応容器2の内部空間4に配されて垂直方向Zに沿って底面部2bから上方向に伸びる支柱31に対して回収板21を備えた陽極11をセットする。このとき、両電極11、12の対向面11a,12a間の隙間14の距離(間隔L1)が1mm〜3mmとなるように陽極11及び/又は陰極12の配置位置を調節する。この調節により、同時に、両回収板21,22間の隙間24の距離(間隔L2)が20mm〜100mmとなるように調節され得る。
【0045】
反応容器2に設けられたガス排出管42に接続する油回転ポンプ等の真空ポンプを作動させて反応容器2の内部空間4の気体を排気し、これにより反応容器2内を減圧する。該容器2内の圧力が低下し、例えば13×10−3Pa〜1.3×10−4Pa程度の高い真空度になったらガス供給管41を介して雰囲気ガス供給用ボンベから雰囲気ガスを導入する。例えば、H2ガス及びArガスを20:80〜80:20(典型的には40:60〜60:40)の体積比で混合した混合ガス(雰囲気ガス)を反応容器2内に導入する。そして、上記真空ポンプの作動による排気量と雰囲気ガス供給ボンベからのガス供給量とのバランスにより、例えば反応容器2の内部空間4の雰囲気ガス圧を、概ね1×104Pa〜1×105Pa程度(例えば2.7×104Pa〜6.7×104Pa程度)に調節する。
【0046】
反応容器2の内部空間4の雰囲気ガス組成及び圧力が安定したら、陰極12と、触媒金属(例えばMo−Fe合金)をカーボンに対して0.5mol%〜5mol%に相当する量で含む陽極11との間に電圧(例えば20V〜200V)を印加し、図示しない直流電源から電流(例えば50A〜100A)を供給する。この結果、電極11,12間にアーク放電が発生する。この放電によるアーク熱で陽極11からカーボン粒子(典型的には更に触媒金属粒子)が蒸発する。上記電圧の大きさは、所望のカーボン蒸発速度に応じて適宜選択され、流れる電流を60A〜70A程度にすることが好ましい。また、印加された電圧からアーク放電状態を例えば図1には図示しない制御機構で演算し、アーク放電で蒸発したカーボン粒子による陽極11の消耗に応じて制御信号を例えばモータ等のアクチュエータに出力し、必要に応じて雄ねじ構造の支柱32を雌ねじ孔に対して回転させ、それに伴う陰極12の垂直方向への移動を調節して電極間の隙間を所定範囲内に保持し、好ましいアーク放電状態が維持されるようにする。
【0047】
蒸発したカーボン粒子は、回収板(導電体)21,22間の隙間24(電極11,12間の隙間14を含む)における所定温度分布の領域(ここでは900Kを下回らない領域であって概ね1500〜1800Kとなる領域)内で、アーク熱と触媒作用によりカーボンナノチューブを含有する生成物を形成する。ここで、上記隙間24には、上記隙間14に印加された電圧と同程度の電位差の電界が生じているため、下側の陽極11から蒸発し、原子又は陽イオンとして存在し得るカーボン粒子(典型的には更に触媒金属粒子)、及びこれら粒子からなる上記カーボンナノチューブ含有生成物は、上側の陰極12及び/又は該陰極12側の回収板22に向けて上昇していく。また、このときのカーボンナノチューブ含有生成物の拡散(上昇)方向は、隙間24の領域(即ち、回収板21,22を端面とする円筒状の空間領域)内に制限され得る。この結果、生成される上記カーボンナノチューブ含有生成物の殆どが陰極12側の回収板22の対向面22aに付着し、その一面にわたって一様に堆積していく。従って、上記カーボンナノチューブ含有生成物を高効率で上記対向面22aに付着させると共に、当該対向面22aと同程度の面積で所定厚のカーボンナノチューブからなる膜状堆積物(即ちカーボンナノチューブ膜)として高収率で回収することができる。
【0048】
本発明の製造方法によって得られるカーボンナノチューブ膜の膜厚は、電極材料や電極に含まれる触媒によっても左右され得るが、アーク放電の実施時間によっても調整することができる。例えば数秒〜数分(例えば60秒〜120秒)の実施により、数μm〜1mm程度の膜厚のカーボンナノチューブ膜、典型的にはカーボンナノチューブ膜を構成するカーボンナノチューブ全体に占める二層カーボンナノチューブ数の割合が50%以上(より好ましくは70%以上、さらに好ましくは90%以上)であるカーボンナノチューブ膜を得ることができる。
【0049】
また、本発明の製造方法によって得られるカーボンナノチューブ膜を構成するカーボンナノチューブは好ましくは二層カーボンナノチューブを主体とする。換言すれば、本発明の製造方法は、従来のような硫黄元素(S)を構成元素として含む触媒を使用することなく、二層カーボンナノチューブに富む膜状炭素質材料を製造することができる。特に限定するものではないが、本発明の製造方法によって得られる二層カーボンナノチューブに富むカーボンナノチューブ膜では、複数のカーボンナノチューブが束状構造(バンドル構造)を形成しており、そのバンドル構造の直径は概ね20nm〜100nm(典型的には30nm〜50nm)であり得る。また、本発明の製造方法によると、比較的長いサイズ(例えば1μmを上回る長さ、例えば1〜100μm)のカーボンナノチューブを生成することができる。典型的には直径が0.5nm〜10nm(例えば0.8nm〜5nm)のカーボンナノチューブを得ることができる。
【0050】
また、本発明の製造方法によると、得られたカーボンナノチューブ膜(即ち膜状の炭素質材料)の純度(カーボンナノチューブ含有率)は50質量%以上であり得、特に60質量%以上であり得る。本発明の製造方法を実施して得られたカーボンナノチューブ膜は、二層カーボンナノチューブを主体に構成されるため、典型的には示差熱分析(DTA)におけるピーク値が570℃よりも高温域に生じる。
【0051】
アーク放電終了後、上記陰極12側の回収板22に捕捉された(堆積した)上記カーボンナノチューブ膜は、反応容器2の図示しない取出し口を開放し、そこから当該回収板22を(若しくは陰極12と共に)取り出し、その対向面22aに捕捉された上記カーボンナノチューブ膜を、例えばピンセット等で該膜の端部を掴んで引き剥がすことによって回収板22から分離することができる。このカーボンナノチューブ膜は上記対向面22aに物理的に付着(典型的な付着の一形態としてはファンデルワールス力による付着)しているのみであるため、ピンセット等の簡易な器具により容易に回収板22から分離することができる。このようにして分離されたカーボンナノチューブ膜(好ましくは二層カーボンナノチューブを主体に構成されたカーボンナノチューブ膜)を自立膜として得ることができる。
なお、回収されたカーボンナノチューブ膜を従来公知の精製処理や加工処理に供することもできる。例えば、当該膜をほぐして、精製処理を実施後、得られた精製物を糸状に紡いでフィラメントに加工してもよい。かかる処理を施すことにより大量のカーボンナノチューブが得られる。従って、ここに開示される製造方法及び製造装置は、アーク放電法によりカーボンナノチューブ(好ましくは二層カーボンナノチューブ)を多量に製造し得る方法及び装置となり得る。
【0052】
以上、本発明の製造方法の一実施形態を図1に示す製造装置に基づいて詳細に説明したが、本発明の製造方法を実施し得る装置は、図1に示す形態の装置に限定されない。
例えば、図2に示すカーボンナノチューブ膜製造装置101のように、円筒状反応容器102の内部空間104に一対の電極(即ち陽極111と陰極112)を水平方向(即ち図中のX方向)に対向させたものであってもよい。具体的には、図2に示す実施形態において陽極111及び陰極112は、それぞれ、反応容器102の対向する側面部102c,102dに固定されて水平方向Xに設けられた支柱131,132に支持されている。
なお、電極111,112ならびに支柱131,132の構造や移動機構等は、上述した図1に示す装置1に装備されたものと同様であるので重複した説明は省略する。
【0053】
一方、回収板121,122は、電極111,112とは独立して円筒状反応容器102の内部空間104に配置されている。この実施形態では、一対の回収板121,122は、水平方向に配置された一対の電極111,112を上下から挟むような位置に配置され、それぞれが反応容器102の上面部102a及び底面部102bに固定されて垂直方向Zに設けられた支柱152,151に支持されている。
なお、回収板121,122ならびに支柱151,152の構造や移動機構等は、上述した図1に示す装置1に装備されたものと同様であるので重複した説明は省略する。
かかる構成のカーボンナノチューブ膜製造装置101によっても 電極111,112間の隙間(L1)よりも回収板121,122の隙間(L2)の距離を長くするように調節して当該回収板121,122を所望の近接回収領域内に配置することによって、上述した図1に示す装置1と同様に本発明の製造方法を好適に実施することができる。なお、ガス供給管141とガス排出管142については、図1に示す装置と同様であるので重複した説明は省略する。
【0054】
以下、本発明を実施例(試験例)に基づいて説明するが、本発明をかかる実施例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0055】
<試験例1:近接回収領域内でのカーボンナノチューブ膜の製造>
上記製造方法に基づき、図1に示す構成のカーボンナノチューブ膜製造装置1を用いてカーボンナノチューブ膜を製造した。以下に、採用した条件を示す。
陰極12としてグラファイトからなる円筒状電極(直径:10mm)を用いた。また、陽極11として、MoとFeの原子比が3:10の組成となるように調製された金属触媒(Mo触媒とFe触媒とを混合して使用してもよく或いはMo−Fe合金触媒を使用してもよい。)をFeがカーボン全体の1at%に相当する量且つMoがカーボン全体の0.3at%に相当する量となるように含有する触媒入りグラファイト棒(6.5mm×6.5mmの断片矩形状の角柱状電極)を用いた。
これら電極11,12の配置は、各極の中心軸方向が垂直方向(図中のZ方向)に沿って一直線上にあるような配置(垂直配置)とし、グラファイト製回収板21,22の対向面21a,22aは、ほぼ厳密な平行で水平面内にあるような配置とした(図1参照)。ここで、電極11,12間の隙間L1は約2mmに設定し、近接回収領域内に配置した回収板間の隙間L2は約30mmに設定した。
【0056】
反応容器2内の雰囲気ガスとしては、H2ガスとArガスとを40:60の体積比で混合した混合ガスを使用した。反応容器2内のガス圧は、概ね2.7×104Pa(約200Torr)に調整した。そして、電極11,12間に30Vの電圧を印加しつつ60〜80Aの直流電流を流し、90秒間のアーク放電を実施した。
アーク放電実施後、反応容器2の取出口(図1には示していない。)を開放し、そこから陰極12側の回収板22を陰極12と共に取り出した。当該回収板22の対向面22aに付着したカーボンナノチューブ膜をピンセットで端部を掴んで剥がした。
【0057】
以上の実験条件にてカーボンナノチューブを含む膜状堆積物(カーボンナノチューブ膜)を得た。得られたカーボンナノチューブ膜の全体像を撮影した光学写真を図3に示す。図3に示されるように、本試験例の実施により、回収板22の対向面22aにはほぼ一様にカーボンナノチューブ含有生成物が堆積しており、全体にほぼ均等な膜厚のカーボンナノチューブ膜であって、当該対向面22aに対応する面積を有するカーボンナノチューブ膜を得ることができた。
【0058】
<試験例2:得られたカーボンナノチューブ膜の性状観察>
上記試験例1で得られたカーボンナノチューブ膜の観察を走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope、株式会社トプコン製、型式ABT−150F)によって行った。それらの写真を図4〜7に示す。図4は、試験例1で得られたカーボンナノチューブ膜におけるやや周縁部に近い部分のSEM写真(倍率20,000倍)であり、図5は、当該部分を拡大したSEM写真(倍率50,000倍)である。図6は、試験例1で得られたカーボンナノチューブ膜における中央部付近のSEM写真(倍率20,000倍)であり、図7は、当該部分を拡大したSEM写真(倍率50,000倍)である。
【0059】
これらSEM写真に示されるように、上記膜の周縁部に近い部分では、中心部から周縁部への方向に沿うような配向性を有するカーボンナノチューブが多く観察された。この配向性は、導電板21,22間で例えばアーク熱により生じる雰囲気ガスの上昇気流が、陰極12側の導電板22に衝突後に、対向面22aの周縁に向けて流れていくことによるものと考えられる。
他方、図6〜7に示されるように、上記膜の中心部付近では、カーボンナノチューブが多層構造をなしてクモの巣状に堆積(積層)しているのが認められた。
なお、金属触媒由来の微小金属粒子(典型的には直径20nmまたはそれ以下の微小粒子)が膜の表面や内部の一部に散乱していることが認められたが、種々の酸を使用した酸化処理、例えば0.5〜2M程度の濃度の塩酸によりカーボンナノチューブ膜を処理する(好ましくは、予め200〜500℃程度の高温で加熱処理した試料を使用する。)ことによって、不純物たる金属微粒子及び/又はカーボン微粒子を容易に除去することができる。
【0060】
さらに微視的にカーボンナノチューブ膜を観察するため、高分解能透過型電子顕微鏡(HR−TEM:High Resolution Transmission Electron Microscope)による観察を行った。具体的には、上記得られたカーボンナノチューブ膜を300℃に加熱して塩酸処理を行った後、市販の高分解能透過型電子顕微鏡(日本電子株式会社製品、型式JEM−3100FEF)による観察を行った。それらの写真を図8〜9に示す。各TEM画像のスケールバーは5nmである。
これらTEM像から明らかなように、得られたカーボンナノチューブ膜は、多数のカーボンナノチューブが緻密に集まって(固まって)成る束状構造(バンドル構造)により形成されており、該束状構造を構成するカーボンナノチューブの大部分(ここではTEM像観察に基づいてカーボンナノチューブ全数のうちの90%以上)は二層カーボンナノチューブ(DWNT:Double Wall Nanotube)であることが確認された。DWNTでない残りのカーボンナノチューブはほぼ単層カーボンナノチューブ(SWNT:Single Wall Nanotube)であった。また、TEM観察に基づく二層カーボンナノチューブの外径は1.9nm〜4.7nm(メジアン径:2.9nm)であり、内径は1.2nm〜3.8nm(メジアン径:2.2nm)であった。また、TEM観察に基づく隣り合う二つのグラファイト層間の距離は、一定ではないが概ね0.37nm〜0.47nmの範囲内であった。
以上から明らかなように、本発明の製造方法によると、従来のように触媒として硫黄元素(S)を含まない金属触媒で二層カーボンナノチューブに富むカーボンナノチューブ集合物(カーボンナノチューブ膜)を製造することができる。
【0061】
次に、試験例1で得られたカーボンナノチューブ膜のラマンスペクトルを観察した。ラマンスペクトルの観察には、Jobin Yvon株式会社製のラマン分光測定装置(型番「RAMANOR T64000」)をArレーザ(波長514.5nm)及びHe−Neレーザ(波長633nm)とともに使用した。結果(チャート)を図10に示す。いずれの測定条件においてもカーボンナノチューブ特有のGバンド、Dバンド、RBM(ラジアルブリージングモード)が観測された。
具体的には、図10のa側に示されるように、低波数領域(RBM)の観察の結果、514.5nmレーザにより139〜219cm−1の範囲にピークがみられ、且つ、633nmレーザにより117〜285cm−1の範囲にピークがみられた。従って、得られたカーボンナノチューブ膜を構成するカーボンナノチューブの直径は1.1nm〜1.8nm(514.5nmレーザ)、0.9nm〜2.2nm(633nmレーザ)と算出された。
また、図10のb側に示されるように、1590cm−1付近にシャープなピーク(Gバンド)が観察された。また、1350cm−1付近のピーク(Dバンド)はわずかに観測されるのみであった。G/D比は25に達していた。以上の結果から、得られた膜中のカーボンナノチューブは非常に高い結晶性を呈し且つ欠陥の少ないものであることがわかった。
【0062】
次に、上記試験例1で得られたカーボンナノチューブ膜の熱重量測定(TGA)と示差熱分析(DTA)を行った。このTGA/DTA測定には、島津製作所社製の測定装置(型番「DTG−60M」)を使用した。この測定結果(チャート)を図11のグラフに示す。図11に示されるTGA曲線から明らかなように、供試したカーボンナノチューブ膜の純度(カーボンナノチューブ含有率)は概ね58質量%以上であり、本発明の製造方法の有用性が確かめられた。即ち、図11に示されるTGA曲線からみて500℃から700℃までの供試物の重量変化率(減少率)は約50%であった。このことは供試物の良好な均質性を示している。
また、DTA曲線において575℃付近に顕著なピークがみられる。このピークは、二層カーボンナノチューブに顕著なものであり、供試物中の二層カーボンナノチューブの含有率の高さ(換言すれば純度の高さ)を示している。
【0063】
<比較試験例:近接回収領域外で製造したカーボンナノチューブ膜>
比較対照として、上記一対の回収板21,22を反応容器2内に配置しないこと以外は、同様の装置構成ならびに実験条件によって同様のアーク放電を実施した。
アーク放電実施後、反応容器2の取出口(図示せず)を開放し、近接回収領域外である(即ちアーク放電時に900Kよりも低い温度領域である)容器2の上面部2aの内壁面に付着していたカーボンナノチューブを含む炭素質材料をピンセットで剥がして取り出した。
こうして得られた比較対照の炭素質材料の構成を電子顕微鏡(SEMとTEM)で観察した。その結果、図12のSEM写真にみられるように、本比較試験例で得られた炭素質材料は、カーボンナノチューブが多層構造をなしてクモの巣状に堆積(積層)した構造であった。また、図13のTEM写真から明らかなように、この炭素質材料は、多数のカーボンナノチューブが緻密に集まって(固まって)成る束状構造(バンドル構造)により形成されていた。しかしながら、かかるTEM写真に示されるように、当該束状構造(バンドル構造)は、実質的に単層カーボンナノチューブにより構成されており、二層カーボンナノチューブの集積は認められない。このことは、具体的なデータは示していないが、得られた炭素質材料について行ったTGA/DTA測定においても裏付けられている。即ち本比較試験例で得られた炭素質材料については、DTA曲線において二層カーボンナノチューブに顕著な575℃付近のピークが認められなかった。
以上の比較試験例の結果から、二層カーボンナノチューブに富む炭素質材料(典型的には二層カーボンナノチューブに富むカーボンナノチューブ膜)は、アーク放電により電極(陽極)から蒸発した蒸発物を上記近接回収領域内において捕捉・回収することにより好適に得られることが確認された。
【0064】
<試験例3:得られたカーボンナノチューブ膜の電界電子放出特性の評価>
上記試験例1で得られたカーボンナノチューブ膜の有用性を評価するため、電界電子放出特性を調べた。
即ち、試験例1で得られたカーボンナノチューブ膜を、空気中で300℃、400℃又は500℃まで加熱して所定時間(ここでは1時間)加熱処理した。あるいは、さらに当該加熱処理後に塩酸(ここでは濃度が1Mの塩酸を使用した。)に試料を24時間浸漬する塩酸処理を行った。かかる加熱処理のみのもの、及びその後に塩酸処理を行ったものの何れについても、エタノールで洗浄し、続いて脱イオン水で洗浄し、次いで100℃で2時間の乾燥処理を行った。
図14に模式的に示すように、上記得られた乾燥状態のカーボンナノチューブ膜210を石英製の基板220の表面に貼り付けることにより、本試験例に係る電界電子放出材料としての電界電子放出型カソード(FEC)200を作製した。
【0065】
次に、作製した電界電子放出型カソード200を密閉容器(チャンバー)内に配置し、容器内部を減圧して真空雰囲気(約1.3×10−4Pa)とした。図14に模式的に示すように、カソード200のカーボンナノチューブ膜210の上方に棒状の対極(アノード)250を配置した。
両極間の隙間を500μmに設定して電界電子放出試験を行った。具体的には、ターンオン電界(Eto:V/μm)及び閾値電界(Eth:V/μm)を、それぞれ、電流密度を1μA/cm2及び1mA/cm2として求め、さらに電界増強因子(β:Field Enhancement Factor)をF−N式(ファウラー−ノルドハイム式:Fowler-Nordheim equation)から求めた。具体的には、本試験によって作成したI−V曲線からFowler−Nordheimプロットを行い低電界域(スタート時)と高電界域とで異なる傾きの直線が得られるところ、当該低電界域における直線の傾きから導き出される電界増強因子β2と当該高電界域における直線の傾きから導き出される電界増強因子β1とを別々な値として表1に掲載してある。換言すれば、安定した電界放出を継続しているときの電界増強因子β1と、引き出し電圧が低いときの電界増強因子β2とをそれぞれ別個に求めて掲載した。なお、これら二つの電界増強因子間においてβ2<β1であること自体は一般的な現象であり、特別なことではない。なお、電界増強因子βはカーボンナノチューブの太さ、直径、バンドル形状に依存する。以上の結果を表1に示す。
【0066】
【表1】
【0067】
表1に示す結果から明らかなように、試験例1で得られたカーボンナノチューブ膜は、カーボンナノチューブのうちの90%以上が二層カーボンナノチューブであることから極めて優れた電子放出特性が得られた。即ち、比較的低いEto及びEthを実現し、高いβを示した。このことは、本発明によって提供される二層カーボンナノチューブに富む構成のカーボンナノチューブ膜(即ち膜状カーボンナノチューブ集合物)は、電界電子放出型カソードのような電子放出材料(例えば、電界電子放出型ディスプレイ(FED)のエミッタや電界効果トランジスタ、等の電界電子放出素子即ち電子デバイス材料)を構築する材料として好ましいものであることを示している。
【0068】
以上、本発明を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、本発明は、更に別の態様でも実施でき、その主旨を逸脱しない範囲で種々変更を加えうるものである。例えば、上述の試験例1では、図1に示すような一対の回収板(導電板)21,22を使用しているが、この形態に限られず、例えば陰極12側の回収板22のみ設置した態様(導電性がなくてもよい)でもよい。
【符号の説明】
【0069】
1,101 製造装置
2,102 反応容器
4,104 内部空間
11,111 電極(陽極)
12,112 電極(陰極)
21,121 回収板
22,122 回収板
200 電界電子放出型カソード(FEC)
210 カーボンナノチューブ膜
220 基板
250 対極
【特許請求の範囲】
【請求項1】
減圧可能な容器内に配置された一対の電極間にアーク放電を発生させて該電極の少なくとも一方からカーボンを蒸発させて行う、カーボンナノチューブを主体に構成される炭素質材料の製造方法であって、
前記アーク放電の発生領域に近接する外側領域であって900Kを下回らない温度領域内において前記一対の電極の少なくとも一方からの蒸発物を回収することを特徴とする、二層カーボンナノチューブを主体に構成された炭素質材料を製造する方法。
【請求項2】
前記一対の電極における前記蒸発物の発生部位からの距離が100mm以下となる領域内において該蒸発物を回収することを特徴とする、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記対向する一対の電極間の隙間よりも距離が長い隙間をあけて対向した状態で、一対の回収板を配置し、
前記一対の電極の少なくとも一方からの蒸発物を、前記一対の回収板のうちの少なくとも一方の回収板において膜状に堆積させて捕捉することを特徴とする、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記一対の回収板は導電性であり、該一対の回収板のうちの一方の回収板は前記対向する一対の電極のうちの一方の電極に電気的に接続された状態で配置されており、且つ、前記一対の回収板のうちの他方の回収板は前記対向する一対の電極のうちの他方の電極に電気的に接続された状態で配置されていることを特徴とする、請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
前記一対の電極を上下方向に対向するように、下側に陽極を配置し且つ上側に陰極を配置し、
前記陰極側に配置された回収板の陽極と対向する下向きの面によって、前記蒸発したカーボンからなるカーボンナノチューブであって前記容器内を陽極から陰極側に上昇するカーボンナノチューブを膜状に堆積させて捕捉することを特徴とする、請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
前記一対の電極のうちの少なくとも陽極は、金属触媒を含有する炭素材料により構成されていることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の製造方法。
【請求項7】
前記一対の電極のうちの少なくとも陽極は、前記金属触媒の構成金属元素として、
鉄(Fe)と、
モリブデン(Mo)、クロム(Cr)、タングステン(W)、チタン(Ti)及び白金族金属に属する金属元素のうちから選択される少なくとも1種の金属元素と、
を有することを特徴とする、請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の製造方法によって製造されたカーボンナノチューブを主体に構成された炭素質材料であって、
該炭素質材料に含まれるカーボンナノチューブ数のうちの50%以上が二層カーボンナノチューブであることを特徴とする、炭素質材料。
【請求項9】
膜状に製造された、請求項8に記載の炭素質材料。
【請求項10】
請求項9に記載の膜状炭素質材料を有することを特徴とする、電界電子放出材料。
【請求項1】
減圧可能な容器内に配置された一対の電極間にアーク放電を発生させて該電極の少なくとも一方からカーボンを蒸発させて行う、カーボンナノチューブを主体に構成される炭素質材料の製造方法であって、
前記アーク放電の発生領域に近接する外側領域であって900Kを下回らない温度領域内において前記一対の電極の少なくとも一方からの蒸発物を回収することを特徴とする、二層カーボンナノチューブを主体に構成された炭素質材料を製造する方法。
【請求項2】
前記一対の電極における前記蒸発物の発生部位からの距離が100mm以下となる領域内において該蒸発物を回収することを特徴とする、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記対向する一対の電極間の隙間よりも距離が長い隙間をあけて対向した状態で、一対の回収板を配置し、
前記一対の電極の少なくとも一方からの蒸発物を、前記一対の回収板のうちの少なくとも一方の回収板において膜状に堆積させて捕捉することを特徴とする、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記一対の回収板は導電性であり、該一対の回収板のうちの一方の回収板は前記対向する一対の電極のうちの一方の電極に電気的に接続された状態で配置されており、且つ、前記一対の回収板のうちの他方の回収板は前記対向する一対の電極のうちの他方の電極に電気的に接続された状態で配置されていることを特徴とする、請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
前記一対の電極を上下方向に対向するように、下側に陽極を配置し且つ上側に陰極を配置し、
前記陰極側に配置された回収板の陽極と対向する下向きの面によって、前記蒸発したカーボンからなるカーボンナノチューブであって前記容器内を陽極から陰極側に上昇するカーボンナノチューブを膜状に堆積させて捕捉することを特徴とする、請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
前記一対の電極のうちの少なくとも陽極は、金属触媒を含有する炭素材料により構成されていることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の製造方法。
【請求項7】
前記一対の電極のうちの少なくとも陽極は、前記金属触媒の構成金属元素として、
鉄(Fe)と、
モリブデン(Mo)、クロム(Cr)、タングステン(W)、チタン(Ti)及び白金族金属に属する金属元素のうちから選択される少なくとも1種の金属元素と、
を有することを特徴とする、請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の製造方法によって製造されたカーボンナノチューブを主体に構成された炭素質材料であって、
該炭素質材料に含まれるカーボンナノチューブ数のうちの50%以上が二層カーボンナノチューブであることを特徴とする、炭素質材料。
【請求項9】
膜状に製造された、請求項8に記載の炭素質材料。
【請求項10】
請求項9に記載の膜状炭素質材料を有することを特徴とする、電界電子放出材料。
【図1】
【図1A】
【図2】
【図10】
【図11】
【図14】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図12】
【図13】
【図1A】
【図2】
【図10】
【図11】
【図14】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2011−73886(P2011−73886A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−208181(P2009−208181)
【出願日】平成21年9月9日(2009.9.9)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度採択課題、文部科学省、知的クラスター創成事業「東海広域ナノテクものづくりクラスター構想」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(599002043)学校法人 名城大学 (142)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年9月9日(2009.9.9)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度採択課題、文部科学省、知的クラスター創成事業「東海広域ナノテクものづくりクラスター構想」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(599002043)学校法人 名城大学 (142)
【Fターム(参考)】
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