説明

二段変速機

【課題】小型軽量化を実現することができると共に、高速回転出力時における慣性負荷を小さくすることが可能である二段変速機を提供する。
【解決手段】モータ5の回転出力軸5aに連結される入力軸13と、出力軸14と、入力軸13に固定される太陽歯車21と、太陽歯車21を囲んで配置される環状歯車22と、太陽歯車21及び環状歯車22の双方に噛み合う遊星歯車23と、遊星歯車23を回転自在に支持することで入力軸13に付与されたモータ5からの回転出力を落として出力するキャリア24を具備した遊星歯車機構20を備え、遊星歯車機構20の環状歯車22を固定状態とし、環状歯車22に対して回転するキャリア24及び入力軸13のいずれかを選択して出力軸14に接続するクラッチ機構30を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、電気自動車に搭載されて、モータから入力する回転力を高速及び低速の二段階に切り換えて出力する二段変速機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、上記したような二段変速機としては、例えば、特許文献1に記載されたものがある。
【0003】
この二段変速機は、モータに連結される入力軸と、駆動輪側に連結される出力軸と、入力軸及び出力軸の双方に連結する遊星歯車機構を備えている。
この遊星歯車機構は、入力軸に常時連結される太陽歯車と、この太陽歯車の周囲に配置される環状歯車と、出力軸に常時連結されるキャリアと、このキャリアに回転自在に保持されて太陽歯車及び環状歯車の双方に噛み合う遊星歯車を具備している。
【0004】
また、この二段変速機は、入力軸と遊星歯車機構の環状歯車とを締結解放する変速クラッチと、入力軸と一体で回転する摩擦要素と、変速クラッチによる入力軸と環状歯車との締結状態において摩擦要素の回転方向と同一方向への環状歯車の回転を許容し且つ変速クラッチによる入力軸と環状歯車との解放状態において摩擦要素の回転方向と逆方向への環状歯車の回転を阻止する2方向クラッチを備えている。
【0005】
つまり、この二段変速機において、変速クラッチにより入力軸と環状歯車とを解放すると共に、摩擦要素及び2方向クラッチによって環状歯車の回転を阻止することで、遊星歯車機構を作動させて、入力軸の回転を低速にして出力軸に伝達し、一方、変速クラッチにより入力軸と環状歯車とを締結すると共に、摩擦要素及び2方向クラッチによって環状歯車の回転を許容することで、環状歯車と太陽歯車とを同一の回転数で回転させて、入力軸の回転を高速のまま出力軸に伝達するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005-30430号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、上記した従来の二段変速機において、2方向クラッチに加えて、変速クラッチ及び摩擦要素といった重量の嵩む摩擦クラッチを2組必要としているので、小型軽量化が困難であるという問題を有していた。
また、入力軸の回転をそのまま出力軸に伝達する高速回転出力時には、遊星歯車機構を構成する歯車群全体が、特に、回転が許容された環状歯車が入出力軸と一緒に回転することから、慣性負荷が大きくなってしまうという問題があり、これらの問題を解決することが従来の課題となっていた。
【0008】
本発明は、上記した従来の課題に着目してなされたもので、小型軽量化を実現することができると共に、高速回転出力時における慣性負荷を小さくすることが可能である二段変速機を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の請求項1に係る発明は、駆動源の回転出力軸に連結される入力軸と、出力軸と、前記入力軸に固定される太陽歯車と、この太陽歯車を囲んで配置される環状歯車と、前記太陽歯車及び環状歯車の双方に噛み合う遊星歯車と、この遊星歯車を回転自在に支持することで前記入力軸に付与された前記駆動源からの回転出力を落として出力するキャリアを具備した遊星歯車機構を備えた二段変速機において、前記遊星歯車機構の環状歯車を固定状態とし、この環状歯車に対して回転するキャリア及び前記入力軸のいずれかを選択して前記出力軸に接続するクラッチ機構を設けた構成としたことを特徴としており、この構成の二段変速機を前述の従来の課題を解決するための手段としている。
【0010】
また、本発明の請求項2に係る二段変速機において、前記クラッチ機構は、前記環状歯車に対して回転するキャリアに形成されて前記入力軸に嵌装する筒部と、このキャリアの筒部の内側で前記入力軸に回転自在で且つ軸方向に移動可能に嵌装されると共に、端部が前記出力軸に軸方向に移動可能で且つ回転不能に嵌合されたスリーブと、前記スリーブの入力軸に嵌装する部分に保持されたトルク伝達用ボールと、前記キャリアの筒部及び入力軸に互いに軸方向にずらせてそれぞれ形成されて、前記スリーブのトルク伝達用ボールと係合して各々の回転を前記スリーブに伝達する係合部と、前記スリーブに保持されたトルク伝達用ボールが前記キャリアの係合部と係合する位置と前記入力軸の係合部と係合する位置との間で該スリーブを移動させる駆動部を具備している構成としている。
【0011】
本発明の請求項1に係る二段変速機では、クラッチ機構によって入力軸を出力軸に接続すると、入力軸に付与された駆動源からの回転出力が高速のまま出力軸に伝達され、一方、環状歯車に対して回転するキャリアをクラッチ機構によって出力軸に接続すると、駆動源からの回転出力が減速されて出力軸に伝達されることとなる。
【0012】
このように、減速されていない高速回転出力と、減速された低速回転出力とを一つのクラッチ機構によって選択的に切り換えて出力軸に出力するようにしているので、重量の嵩む摩擦クラッチを複数組必要としない分だけ、小型軽量化が図られることとなる。
加えて、遊星歯車機構の環状歯車を固定状態としている、すなわち、遊星歯車機構を構成する歯車群のうちの環状歯車を固定状態としているので、環状歯車が回転しない分だけ、高速回転出力時における慣性負荷を小さく抑え得ることとなる。
【0013】
また、本発明の請求項2に係る二段変速機において、クラッチ機構の駆動部によりスリーブを軸方向に移動させて、このスリーブに保持されたトルク伝達用ボールを入力軸の係合部に係合させると、入力軸に付与された駆動源からの回転出力がそのまま出力軸に伝達される。
一方、クラッチ機構の駆動部によりスリーブを軸方向に移動させて、このスリーブに保持されたトルク伝達用ボールを環状歯車に対して回転するキャリアの係合部に係合させると、減速された駆動源からの回転出力が出力軸に伝達される。
【0014】
つまり、減速されていない高速回転出力及び減速された低速回転出力のいずれかを選択して出力軸に伝達するのに、重量の嵩む摩擦クラッチを使用していないので、その分だけ、より一層の小型軽量化が図られることとなる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の請求項1に係る二段変速機では、上記した構成としているので、小型軽量化を実現することができると共に、高速回転出力時における慣性負荷を小さく抑えることが可能であるという非常に優れた効果がもたらされる。
本発明の請求項2に係る二段変速機では、上記した構成としているので、より一層の小型軽量化を実現することが可能であるという非常に優れた効果がもたらされる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施例による二段変速機を搭載した電気自動車の側面説明図(a)及び平面説明図(b)である。
【図2】図1に示した二段変速機の低速回転出力状態における断面説明図(a)及び遊星歯車機構をモータ側から見た歯車レイアウト説明図(b)である。
【図3】図1における二段変速機の低速回転出力状態及び高速回転出力状態の各半割断面を上下に配置して合わせて示す断面説明図(a),図3(a)のA−A線位置における断面説明図(b)及び図3(a)のB−B線位置における断面説明図(c)である。
【図4】図3(a)のC−C線位置における断面説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係る二段変速機を図面に基づいて説明する。
図1〜図4は、本発明に係る二段変速機の一実施例を示しており、この実施例では、本発明に係る二段変速機を電気自動車に搭載した場合を例に挙げて説明する。
【0018】
図1に示すように、この電気自動車1は、車体2と、この車体2の前後左右の合計4箇所にそれぞれ軸受3を介して支持される車輪4と、車体2の左右にそれぞれ配置された駆動源としてのモータ5,5と、車体2の前部に位置する車輪4(駆動車輪4F)及びモータ5の間に配置された二段変速機10,10を備えている。
【0019】
この二段変速機10は、図2にも示すように、車体2に固定されるケース11と、このケース11の平板部11aと対向して車体2に固定される平板状を成すカバー12と、このカバー12に固定したモータ5の回転出力軸5aに連結される入力軸13と、駆動車輪4Fに対して傘歯車6,7を介して接続される出力軸14と、ケース11及びカバー12間に配置される遊星歯車機構20を具備している。
【0020】
この遊星歯車機構20は、入力軸13に固定される太陽歯車21と、この太陽歯車21を囲んで配置される環状歯車22と、太陽歯車21及び環状歯車22の双方に噛み合う複数個の遊星歯車23と、キャリア24を具備している。環状歯車22は、ケース11及びカバー12の双方に固定されている。キャリア24は、ピン25を介して遊星歯車23を回転自在に支持しており、入力軸13に付与されたモータ5からの回転出力を落として出力する。
【0021】
また、この二段変速機10は、ケース11及びカバー12の双方に固定される環状歯車22に対して回転するキャリア24と、回転出力軸5aに連結される入力軸13とのうちのいずれかを選択して出力軸14に接続するクラッチ機構30を備えている。
【0022】
このクラッチ機構30は、キャリア24に形成されて入力軸13に嵌装する筒部31と、この筒部31の内側において入力軸13に嵌装されたスリーブ32を具備しており、キャリア24の筒部31とケース11の円筒部11bとの間には、キャリア24を円滑に回転させるための軸受8が配置されている。
【0023】
スリーブ32は、キャリア24の筒部31及び入力軸13の双方に接するボール33を複数個保持しており、このスリーブ32は、筒部31及び入力軸13の双方に対して円滑に回転しそして軸方向に移動可能となっている。このスリーブ32の筒部31から突出する端部及び出力軸14には、互いに嵌め込んだ状態で係合する軸方向のスプライン32a,14aがそれぞれ形成されており、スリーブ32は出力軸14に対して軸方向に移動可能で且つ回転不能に連結されている。
【0024】
また、このクラッチ機構30は、スリーブ32の入力軸13に嵌装する部分に保持されたトルク伝達用ボール34と、キャリア24の筒部31及び入力軸13にそれぞれ軸方向にずらせて形成された係合部31a,13aを具備している。トルク伝達用ボール34及び係合部31a,13aは、図3にも示すように、周方向に90度の間隔をおいて配置されて、これらの係合部31a,13aは、いずれもスリーブ32のトルク伝達用ボール34と係合してキャリア24及び入力軸13の回転をスリーブ32に伝達する、すなわち、キャリア24及び入力軸13の回転を出力軸14に伝達する。
【0025】
さらに、このクラッチ機構30は、スリーブ32に保持されたトルク伝達用ボール34がキャリア24の筒部31の係合部31aと係合する位置と、入力軸13の係合部13aと係合する位置との間で、このスリーブ32を移動させる駆動部40を具備している。
【0026】
この駆動部40は、ケース11の円筒部11bに固定される直動アクチュエータ41と、この直動アクチュエータ41の押し引きロッド41aの先端に配置された連結ピン42と、図4に示すように、車体2側にブラケット43を介して固定された支持ピン44と、中間部が支持ピン44に回動自在に支持されたアーム45を具備している。連結ピン42及び支持ピン44は、いずれも出力軸14と直交する方向に沿って設けられ、支持ピン44及びアーム45は、いずれも押し引きロッド41aの両側に配置されている。
【0027】
この場合、一対のアーム45,45の各一端部には、長孔45a,45aがそれぞれ形成されており、各他端部間には、駆動バー46が掛け渡されている。一対のアーム45,45の各長孔45a,45aに押し引きロッド41aの連結ピン42を挿通させると共に、駆動バー46をスリーブ32の端部に形成された環状溝32bに係合させることで、直動アクチュエータ41の押し引きロッド41aの往復直動動作を一対のアーム45,45を介してスリーブ32に伝達するようになっている。
【0028】
上記した二段変速機10を搭載した電気自動車1を走行させるに際して、図3(a)の下半分及び図3(c)に示すように、クラッチ機構30の駆動部40における直動アクチュエータ41を動作させることで、アーム45の回動動作を介してスリーブ32を軸方向に移動させて、このスリーブ32に保持されたトルク伝達用ボール34を入力軸13の係合部13aに係合させると、図3(a)の細線矢印に示すように、入力軸13に付与されたモータ5からの回転出力がそのまま出力軸14に伝達されることとなる。つまり、高速回転出力による電気自動車1の走行が可能となる。
【0029】
一方、図3(a)の上半分及び図3(b)に示すように、クラッチ機構30の駆動部40における直動アクチュエータ41を動作させることで、アーム45の回動動作を介してスリーブ32を軸方向に移動させて、このスリーブ32に保持されたトルク伝達用ボール34を環状歯車22に対して回転するキャリア24の係合部31aに係合させると、図3(a)の太線矢印に示すように、減速されたモータ5からの回転出力が出力軸14に伝達されることとなる。つまり、低速回転出力による電気自動車1の走行が可能となる。
【0030】
このように、上記した二段変速機10では、減速されていない高速回転出力と、減速された低速回転出力とを一つのクラッチ機構30によって選択的に切り換えて出力軸14に出力するようにしているので、重量の嵩む摩擦クラッチを複数組必要としない分だけ、小型軽量化が図られることとなる。
【0031】
また、遊星歯車機構20の環状歯車22をケース11及びカバー12の間に固定している、すなわち、遊星歯車機構20を構成する歯車群のうちの環状歯車22を固定状態としているので、環状歯車22が回転しない分だけ、高速回転出力時における慣性負荷を小さく抑え得ることとなる。
【0032】
さらに、上記した二段変速機10において、減速されていない高速回転出力及び減速された低速回転出力のいずれかを選択して出力軸14に伝達するのに、重量の嵩む摩擦クラッチを使用していないので、その分だけ、より一層の小型軽量化が図られることとなる。
【0033】
上記した実施例では、本発明に係る二段変速機を電気自動車に搭載した場合を例に挙げて説明したが、これに限定されるものではなく、例えば、本発明に係る二段変速機を工作機械の変速機として採用してもよい。
【符号の説明】
【0034】
5 モータ(駆動源)
5a 回転出力軸
10 二段変速機
13 入力軸
13a 係合部
14 出力軸
20 遊星歯車機構
21 太陽歯車
22 環状歯車
23 遊星歯車
24 キャリア
30 クラッチ機構
31 キャリアの筒部
31a 係合部
32 スリーブ
34 トルク伝達用ボール
40 駆動部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源の回転出力軸に連結される入力軸と、
出力軸と、
前記入力軸に固定される太陽歯車と、この太陽歯車を囲んで配置される環状歯車と、前記太陽歯車及び環状歯車の双方に噛み合う遊星歯車と、この遊星歯車を回転自在に支持することで前記入力軸に付与された前記駆動源からの回転出力を落として出力するキャリアを具備した遊星歯車機構を備えた二段変速機において、
前記遊星歯車機構の環状歯車を固定状態とし、
この環状歯車に対して回転するキャリア及び前記入力軸のいずれかを選択して前記出力軸に接続するクラッチ機構を設けた
ことを特徴とする二段変速機。
【請求項2】
前記クラッチ機構は、前記環状歯車に対して回転するキャリアに形成されて前記入力軸に嵌装する筒部と、このキャリアの筒部の内側で前記入力軸に回転自在で且つ軸方向に移動可能に嵌装されると共に、端部が前記出力軸に軸方向に移動可能で且つ回転不能に嵌合されたスリーブと、前記スリーブの入力軸に嵌装する部分に保持されたトルク伝達用ボールと、前記キャリアの筒部及び入力軸に互いに軸方向にずらせてそれぞれ形成されて、前記スリーブのトルク伝達用ボールと係合して各々の回転を前記スリーブに伝達する係合部と、前記スリーブに保持されたトルク伝達用ボールが前記キャリアの係合部と係合する位置と前記入力軸の係合部と係合する位置との間で該スリーブを移動させる駆動部を具備している請求項1に記載の二段変速機。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2011−220484(P2011−220484A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−92207(P2010−92207)
【出願日】平成22年4月13日(2010.4.13)
【出願人】(500302552)株式会社IHIエアロスペース (298)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】